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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1342814
審判番号 不服2017-9878  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-04 
確定日 2018-07-31 
事件の表示 特願2015-548180「ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤としての化合物の結晶形及びその調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月26日国際公開、WO2014/094664、平成28年2月1日国内公表、特表2016-503041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2013年12月23日(優先権主張外国庁受理2012年12月22日(CN)中国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月31日に手続補正書が提出され、同年11月10日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月16日に意見書が提出され、同年2月23日付けで拒絶査定がされ、同年7月4日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成28年10月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「式(1):

で示される化合物2-クロロ-4-[(3S,3aR)-3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル]ベンゾニトリルの結晶形であって、
Cu-Ka照射を用いて、以下:
結晶形I:9.8°±0.2°、12.9°±0.2°、14.8°±0.2°、15.4°±0.2°、16.9°±0.2°、17.4°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、22.6°±0.2°、26.2°±0.2°;
結晶形II:4.5°±0.2°、9.0°±0.2°、12.2°±0.2°、14.0°±0.2°、14.6°±0.2°、18.0°±0.2°、18.7°±0.2°、19.9°±0.2°、21.2°±0.2°、24.6°±0.2°
に示すような粉末X線回折における特徴的な回折角度2Θのピークを有することを特徴とする、結晶形。」
上記において、結晶形Iと結晶形IIとは、請求項1には明確には択一的に記載されていないが、技術的にみて結晶形Iと結晶形IIとは別異の結晶形であること、発明の詳細な説明を参照すると結晶形Iと結晶形IIとは独立のものとして記載され独立に製造され独立に同定されていること、からみて、請求項1において特許請求されているのは、上記化合物の、上記結晶形I又は上記結晶形IIであると認める。

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成28年11月10日付けの拒絶理由通知における理由であり、概略、この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用文献1は国際公開第2012/022121号(以下「刊行物1」という。)である。この出願の優先日当時の技術常識を示す文献として、引用文献2が挙げられ、それは、平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック」,丸善,平成20年7月25日,p.17-23,37-40,45-51,57-65(以下「刊行物2」という。)である。本願発明は、拒絶理由が通知された請求項1に係る発明である。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:国際公開第2012/022121号
刊行物2:平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック」,丸善,平成20年7月25日,p.17-23,37-40,45-51,57-65
刊行物3:PHARM TECH JAPAN,2002,18(10),p.1629-1644
刊行物4:Pharmaceutical Research,1995,12(7),p.945-954
刊行物5:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
刊行物6:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,「岩波 理化学辞典 第5版」,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504
刊行物7:緒方章,菰田太郎,新延信吉著,「化学実験操作法」,訂正第36版,昭和52年6月20日,南江堂,p.55-59,526-533
刊行物8:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,平成15年1月30日,p.178
刊行物9:特開平6-192228号公報
刊行物10:特開平7-53581号公報
刊行物11;特公昭52-45716号公報
刊行物12:特開昭61-263985号公報
刊行物13:特開平4-235188号公報
刊行物3?13は、刊行物2に加えて、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

2 刊行物に記載された事項

ア 刊行物1
訳文により示す。
(1a)「12、下記群から選ばれる化合物:

又は薬剤として許容されるそれらの塩又は異性体。」(58?60頁、請求の範囲の請求項12)
(1b)「技術分野
本発明は、一般的には薬剤分野に属し、殊にミネラルコルチコイド受容体の拮抗剤として用いられる縮合環化合物、薬剤として許容されるその塩及びその異性体;これら化合物の調製方法;これら化合物を含む薬剤;並びにこれら化合物、薬剤として許容されるそれらの塩及び異性体の、腎疾患、高血圧症のような心血管疾患、内分泌疾患の、治療及び/又は予防用の薬剤の製造における使用に関する。
背景技術
一次腎症及び糖尿病性腎症のような二次腎症を含む腎臓疾患、及び腎機能不全は、蛋白尿症として臨床的に現れ、それは適時に治療しないと腎不全をもたらす。腎疾患には、糖尿病、高血圧症のような通常疾患を含めて多くの誘因があり、それらが腎疾患をもたらす。例えば、I型糖尿病患者の15?25%、II型糖尿病患者の30?40%は、糖尿病性腎症を有し、それは末期ネフロパシー(末期腎症、40%に至る)の一次原因になる。腎臓病の治療に現在までに効果的な薬品はない。
アルドステロンは、副腎皮質で合成されるミネラルコルチコイドで、腎臓、大腸、汗腺の上皮組織、血管、脳、並びに心筋を含む幾つかの組織に分配される。それは、その受容体と組合わされてミネラルコルチコイドを活性化し、ナトリウム保持及びカリウム分泌を促進し、電解質バランス及び動脈壁、血管平滑筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞及び動脈とその媒体上のマトリクスの外膜の構造の変化及び機能に重要な効果を奏する。
アルドステロンの超高レベルは、ミネラルコルチコイド受容体の異常な活性化をもたらす。これは、電解質のアンバランス、及び腎臓の血管の損傷と濾過分離を起こし、腎疾患と高血圧症などをもたらす。
薬は、アルドステロンによって仲介される毒性効果を抑制し、腎疾患を減少させるように、アルドステロンおよびミネラルコルチコイドの組合せをミネラルコルチコイド受容体との競争的な組合せによって妨げる。市場では2つの薬が入手できる:スピロノラクトン(Spinolactone)およびエプレレノン(Eplerenone)で、それらは高血圧症、心疾患、腎症候群などの治療に適すると表示されている。これら2つの薬品はステロイド分類化合物に属し、他のステロイドホルモン受容体に比べて選択性に劣り、高カリウム血症及びその他の主要な副作用の原因とされる傾向がある。さらに、これら2つの薬品は、複雑な構造を有し、したがって合成が困難である。加えて、これら2つの薬品は物理的/化学的性質が劣り、その臨床的使用を制限する。
非ステロイド系化合物(式V参照)は、中国特許出願CN200780043333.0に記載され、臨床試験Iに入り、前臨床薬品効果の良好な性能を発揮し、登録薬品と比べて安全で、蛋白尿症及び腎疾患を減少させる効果を有する。

しかしながら、当該化合物は細胞活性及び準最適物理的化学的性質が劣る。臨床効果と安全な臨床投与を改善するために、活性が良好で、合成が実用的で良好な物理的化学的性質を有する、新規非ステロイド系化合物の開発が必要とされる。
発明の概要
本発明の目的は、良好な活性を有する新規の非ステロイド系化合物、及びその製造方法を提供する。
別の本発明の目的は、容易に合成できる新規のステロイド系化合物とその製造方法を提供する。
別の本発明の目的は、良好な活性を有し容易に合成できる新規のステロイド系化合物とその製造方法を提供する。
また、別の本発明の目的は、腎疾患を治療及び/又は予防する、現在入手可能の薬品を代替するのに有用な新規化合物を提供する。
さらに別の本発明の目的は、疾患の治療及び/又は予防用の上記化合物を提供する。
さらに別の本発明の目的は、腎疾患、高血圧症のような心血管疾患、及び/又は内分泌疾患の治療及び/又は予防用の上記化合物を提供する。
また別の本発明の目的は、腎疾患、高血圧症のような心疾患、及び/又は内分泌疾患の治療及び/又は予防用薬品における上記化合物の使用を提供する。」(1頁2行?2頁16行)
(1c)「また別の態様において、本発明は、以下の式で表される化合物、又は薬剤として許容されるその塩又はその異性体を提供する:

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・」(15頁3?4行及び15?18頁の表)
(1d)「本発明の化合物の有利な効果は、以下に示す体外の薬理学的分析によってさらに例示されるが、それら効果に限られない。
実験例 本発明の化合物の体外薬理学的活性
試料:本発明の化合物による化合物1-11、ラボ調製、それらの化学名および構造式は、前に記載した。式Vの化合物(光学活性)、ラボ調製、その構造式は以前に示した。
ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗作用試験
実験方法:
各試料、すなわち、化合物1-23及び式Vの化合物は、正確に秤量し、各試料にDMSOを加え、試料を溶解した。各混合物は、均一に混合し、1000μMの母液を処方した。その後その母液はDMSOで徐々に200μM、40μM、8μM、1.6μM、0.3μM、0.06μM、0.01μMに希釈した。
二重発光酵素検出:1μL pBind-MR(100ng/μL)、1μL pG5luc(100ng/μL)、2.5μL DMEM並びに0.5μL Fugeneが採取され、均一混合された。混合物は、室温で15分間、培養され、トランスフェクション液を調製した。各容器には100μL3×105cells/mL、HEK293細胞懸濁液が添加された。各細胞サスペンションをトランスフェクション液と均一に混合後、混合物は37℃、5%CO_(2) 下培養庫内で24時間培養された。
各種濃度の試料各1μLを培養器に入れた。30分後、1μLの拮抗剤(10%アルドステロンDMSO溶液)を添加。混合物を培養器内で37℃、5%CO_(2) 下、24時間培養した。
ホタルウミイカ発光酵素信号経路を二重発光酵素報告遺伝子テストシステムによって測定した。
上記分析は、上海ケムパートナー有限公司に委託された。
ミネラルコルチコイド受容体用の測定化合物のIC_(50) 値(すなわち、拮抗剤無添加での活性化と比較して、ミネラルコルチコイド受容体拮抗によって誘起された50%活性がブロックされる、測定試料濃度)がこの分析で測定された。
実験結果と結論:
表1 ミネラルコルチコイド受容体(MR)に対する本発明の化合物の拮抗作用

本発明の化合物1?23は、ミネラルコルチコイド受容体に対する良好な拮抗作用を有し、ポジティブコントロール(式Vの化合物)より良好であった。・・・」(27頁12行?28頁下から3行)
(1e)「実施例1 2-(3-クロロ-4-シアノフェニル)-3-シクロペンチル-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-7-カルボン酸(化合物1)の調製

・・・粗黄色固体0.496gを収率59.0%で得た。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例8 2-クロロ-4-(3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル)ベンゾニトリル(化合物8)の調製

・・・精製品(0.271g)を収率47.8%で生成した。
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例12 2-クロロ-4-[(3S,3aR)-3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル]ベンゾニトリル(化合物12)の調製
化合物8のラセミ混合物のキラル分割で、(3S,3aR)-2-クロロ-4-(-3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル)ベンゾニトリルを調製した。ee値は96.9%であった。光学回転[α]^(d)_(20) は+1220.0°?+1250.0°(c=1,CH_(2)Cl_(2))であった。
超臨界流体クロマトグラフィの特定分割条件(キラルパックAD-H,300×50mm,50%メタノール/超臨界二酸化炭素,130mL/min)。保持時間t_(R)=13.2分。」(29頁6行?30頁5行実施例1、33頁19行?34頁6行実施例8、36頁13?20行実施例12)

イ 刊行物2
(2a)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.したがって,ICH(International Conference on Harmonisation of Thechnical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)のガイドラインなどで結晶多形・溶媒和物の取り扱いに関するディシジョンツリーが提示されている.
医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし^(1,2)),医薬品の品質を保証することが重要である^(3)).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(57頁3行?58頁末行)
(2b)「4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表4.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(59頁2行?60頁末行)
(2c)「

」(59?60頁表4.1)

ウ 刊行物3
(3a)「医薬品開発を迅速かつ効率的に進めるためには,開発する原薬の基本形となる塩形の選定と共に多形選定が重要な鍵を握っている。」(1629頁左欄2?4行)
(3b)「2.結晶化条件
医薬品原薬の多くは,合成工程の精製などの最終工程において結晶状態として製造されることが多い。このことは,結晶は原子,分子が立体的に規則正しく配列するために,一定品質の原薬を安定的に製造することが可能であるとの考えに基づいていると思われる。また,液体に較べ,化学的な安定性に優れ,計量や製剤加工などの取り扱いにおいても,はるかに利便性が高いと考えられる理由かもしれない。このように溶液に較べ,品質的には均質な原薬結晶ではあるが,固体の存在形態を制御し,恒常的に安定製造するためには,結晶化条件についての最適化が必要とされる。結晶は,溶液からの晶析による結晶化によって調製されることが多く,晶析条件に応じて,さまざまな結晶形,形状,大きさ,凝集塊の生成な度の現象が観測されることも多い。
晶析操作で,結晶多形を制御する際に基本となるのは,各結晶の結晶化に使用する溶媒に対する溶解度の情報である^(13))。一般に医薬品の場合には・・・温度による溶解度差を利用した冷却晶析が多く,温度-溶解度曲線を作成することが基本となる。」(1630頁右欄7?末行)
(3c)「(1)結晶化に使用する溶媒
原薬製造の結晶化に使用する溶媒は・・・理想的にはICHの「医薬品の残留溶媒ガイドライン」に記載^(12)) されている安全性の高いクラス3の溶媒を使用することを推奨している。・・・

」(1631頁右欄下から6行?1632頁左欄表2)
(3d)「(2)溶液の状態と晶析操作線図
結晶化の基本的な原理は・・・温度による溶解度差を利用することである。また,結晶化過程については2段階に分けられ,第1段階は核生成過程であり,溶質分子が集合体を形成する。第2段階は核からの結晶成長であり,溶質分子は次々と規則的に分子が積層し,溶液との平衡状態になり結晶成長が完了する・・・。」(1633頁左欄下から7行?1634頁右欄1行)
(3e)「(3)結晶化の方法について^(17?25))
晶析操作線図で示したように,溶液から薬物を結晶化するには飽和溶液を調製し,ゆっくりと過飽和状態に変化することによって所望する結晶を得ることができる。多くの場合,静置により過飽和溶液は比較的大きな結晶を得ることができる。また,工業晶析では,攪拌したり振動したりすることにより,多数の微結晶が析出するが,種結晶の添加による結晶製造の制御も行われている。結晶化は過飽和溶液からの晶析が基本原理であるが,結晶化の方法は,所望する結晶の用途と目的により多くの試みが行われる。例えば,所望するのが結晶構造解析用の単結晶であれば,静置によって均質で比較的大きな結晶が得られるような方法を選択するが,工業晶析が目的であれば粒度が制御され,一定品質の多結晶体が高収率で得られることを目標とする。晶析は過飽和域で行われるために,溶液を過飽和状態にしなければならない。溶液を過飽和状態にするための方法として次の5つをあげたい。それぞれに特徴があるので,目的に適した方法を選定することが必要である。
○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。) 温度変化を制御する結晶化法 ・・・
○2 溶媒蒸発による結晶化法 ・・・
○3 蒸気拡散による結晶化法 ・・・
○4 反応晶析法 ・・・
○5 加圧による圧力晶析法 ・・・」(1634頁左欄下から4行?1635頁左欄18行)
(3f)「6.開発候補化合物の物性評価
開発候補化合物を決める前の段階で,周辺化合物の物性評価も考慮し,化合物の物性評価を行いながら塩・結晶形についての評価を行う必要がある。
とりわけ,固体の経口投与製剤の場合では,探索の最終段階における開発候補化合物の選定において,塩・結晶形と物性評価が必要と考えられる。物性評価項目としては,橋田らの報告^(4)) にあるように,化学的安定性,経口吸収性,物理的安定性(結晶化度,水和度)などの評価が優先して行われるべきと考えられる。そして,開発候補化合物の物性の評価項目としては下記の内容があげられる。
○1 結晶性の評価
結晶は,化学的な安定性,溶解性,経口吸収性,物理的な安定性(結晶化度,水和度)ならびに原薬・製剤の製造に対して影響を与える重要な基礎物性である。このために,X線回折,熱分析,赤外線吸収スペクトル,自動水分吸着脱着測定などの評価方法を必要に合わせて適宜用いることになる。このことで結晶多形,結晶化度,結晶形間の相転移を評価するとともに,種々の溶媒を用いて,塩形・結晶形の探索を行って開発候補化合物としての適格性を予測しておく。
○2 化学的な安定性の評価
医薬品の安定性は品質を保証する上で重要な物性の1つである。結晶性の評価とともに,固体状態において,熱,湿度,光に対する安定性を評価する。具体的には,通常行われている安定性試験の条件より過酷な試験条件で短期間に,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。また,水溶液あるいは各種溶媒,pHを変えた溶液中にて化学的な安定性を評価することで,化合物の基本的な性質を把握し,開発候補化合物としての適格性を予測しておく。
○3 溶解性の評価 ・・・
○4 物理的な安定性
原薬結晶の物理的安定性,すなわち,結晶化度ならびに水和度は,結晶性の評価とともに重要性は高い。水和物の水和数などの水和度は,水の吸着や再結晶工程において,水分子が結晶構造へ取り込まれる過程でその数が変化する場合が多々ある。数々の溶媒を用いた,塩形・結晶形の探索の中で,結晶形間の相転移を評価するとともに,加温や粉砕によって生じる非晶質化のようなメカノケミカルな安定性を把握することも含めて,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。
○5 吸湿性の評価 ・・・
○6 製剤添加剤との適合性評価 ・・・
○7 塩形を考慮した評価 ・・・」(1642頁左欄1行?1643頁左欄4行)

エ 刊行物4
訳文により示す。
(4a)「結晶多形
結晶多形に関するフローチャート又は決定樹が図1に示されている。当該フローチャート又は決定樹は、結晶多形の形成についての調査や、結晶多形を同定するための分析方法、結晶多形の物理的性質に関する研究及び単一の形態結晶又は混合物を含む医薬物質の完全性を保証確認するために必要なコントロールについての概要を説明している。」(946頁右欄12?18行)
(4b)「


1行目及び2行目は「多形」及び「医薬物質」である。
左欄は「多形は発見されているか?」であり、その下に「異なる再結晶溶媒(異なる極性)-温度、濃度、攪拌、pHを変える」、「多形の試験 ・粉末X線回折 ・DSC(熱分析法) ・顕微鏡分析 ・赤外分光 ・固体NMR」と記載されている。
その次の欄は、左欄の答えが「はい」のときにつき、「異なる物性を有するか?」であり、その下に「異なる ・安定性(物理的及び化学的) ・溶解プロファイル ・・・・ ・熱量測定挙動 ・%RHプロファイル」と記載されている。
その次の欄は、前の欄の答えが「はい」のときにつき、「医薬物質組成物?」である。
その次の欄は,前の欄の答えが「はい」のときにつき、「単一の多形 品質のコントロール(例.X線回折又はDSC)」及び「多形の混合物 定量的なコントロール(例.X線回折) 安定性試験で多形をモニターする」と記載されている。(946頁、「図1.多形のためのフローチャート/決定樹」と題する図面)
(4c)「多形の形成-多形は発見されているか?
多形に関する決定樹の最初のステップは、“多形は可能か?”という質問に回答するために多数の異なる溶媒から物質を結晶化することである。溶媒には、最終の結晶化工程で用いられたものや、製剤化過程や製造過程で用いられたものが含まれるべきであり、また、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン及び適切であればその混合物も含むことができる。新しい結晶形態は、多くの場合、加熱した飽和溶液を冷却することや透明な飽和溶液を部分的に濃縮することで得られる。得られた固体はX線回折や少なくとも1つの他の方法を用いて分析される。これらの分析においては、試料の調整方法(すなわち、乾燥や粉砕)が、固体形態に影響がないことを明らかにすることに注意が必要である。この分析が得られた固体が同一であること(例えば、同じX線回折パターンやIRスペクトルを有すること)を示し、“多形は可能か?”という質問への回答が“否”である場合、さらなる研究は不必要となる。」(946頁右欄19行?947頁左欄1行)

オ 刊行物5
(5a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のRf 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい1).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値ET;ε,δ,ET は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(5b)「



カ 刊行物6
(6a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄017の項)

キ 刊行物7
(7a)「有機溶剤
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノール(bp78.4°,水と混和する)
一般に無機物はエタノールに溶けにくく,有機物は溶けやすいから,エタノールは有機化合体と無機化合体とを分離するときに,よく使われる.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノールは、水と随意の比例で混和する点で,その溶剤としての価値は著しく高い.このエタノールの性質は,特に再結晶の際の溶剤として使うのに便利である.
・・・・・・・・・・・・・・・
プロパノール(bp97°,水と混和する),
イソプロパノール(bp82°,水と混和する)
・・・・・・・・・・・・・・・
ブタノール(bp117°,1:12の割合で水に溶ける)
・・・・・・・・・・・・・・・」(55頁16行?59頁末行)
(7b)「分別結晶(分別晶出)
2種あるいは,それ以上の物質の混合物を,分離精製するには,再結晶^(*)(Recrystallization・・・)なる仕方による.各物質の溶剤への,溶解度(Solubility・・・)は違っているので,その溶剤を適当に使った場合に,一方の物質は析出し,他方の物質は母液中に残る性質を利用するのである.
また2物質の,同一溶剤中から晶出する速度が,著しく異っているときにも,分別結晶の仕方によって,両物質を分離できる.」(526頁16?22行)
(7c)「飽和溶液を冷やして結晶させる仕方
この仕方は再結晶の一般的な仕方であって,普通に“再結晶を行なう”というときには,この仕方か,あるいはつぎに述べる仕方による.
再結晶を行なうには,溶質を加えた溶剤を沸点まで熱して,その中に溶質を溶けるだけ溶かし,熱時にこし分け,ろ液を冷やして結晶を析出させる.
溶剤の選び方 ・・・予試験を各種の溶剤について行ない,冷熱両時の溶解度の差の最大なものを採用する.しかし・・・結晶を母液からこし分けることが困難なものや,結晶の析出速度があまりに速いものは,操作が面倒であるから・・・他のものを選ぶ方がよい.・・・
物質の溶かし方 ・・・一般に溶剤は過量に使わないようにする.物質が固くて大きな塊になっているときには,溶剤を加えて熱しても,すぐにはその温度における飽和溶液にならない.それゆえに,まずできるだけ細かく砕き・・・,最小必要量の溶剤を加える.熱して液が沸き始めても,なおしばらくその状態をつづけて,物質がどうしても全溶しないときに,はじめて溶剤を追加する.二硫化炭素,石油エーテル,エーテル,アセトン,エタノール,ベンゼン,クロロホルムその他の揮発性溶剤を使う場合には,物質を三角フラスコに入れ,還流冷却器をつけて水浴上で加温する.
物質によっては,試験管で行なった上記の“溶剤の選び方”のときとは違って,大量に溶かそうとすると,溶剤を充分に加えてあっても,なかなか,急に溶けないものがある.そして初めに,よく粉末にしておいたものが,液中で団塊になって,いつまでも小さくならないことがある.このような場合には,引火しないように注意しながら,冷却器を一時取はずして,ガラス棒・・・で塊を砕いてから,前同様加温をつづけると速く溶ける.こうして物質が全部溶けて,異物やろ紙の遷移だけが,液中に浮遊しているようになれば,温時にろ過する.・・・
さて透明なろ液を得てから,冷やして結晶を析出させるのであるが,その冷やし方は,大きな結晶を作ろうとするのと,小さな結晶を作ろうとするのとで違ってくる・・・・大きな結晶を作る場合には・・・極ゆるゆると冷やす.また小さな結晶を作る場合には・・・急に冷やす.いずれの場合でも,液がある温度まで下がっても,すぐにその条件で析出し得る結晶が全部析出するものではないから,しばらくそのまま放置して,待たなければならない.このようにして常温で出た結晶をこし分ける.さらにその「ろ液」を冷やすと,なお多量の結晶を得る場合がある.」(527頁26行?529頁17行)
(7d)「溶液を濃縮して結晶させる仕方
物質の溶液を蒸発濃縮して,結晶を析出させることは,物質を精製する点からいえば,“飽和溶液を冷やして結晶させる仕方”(p.527)よりも好ましくはないが,溶液を冷やしただけでは,結晶の出る量が少いから,通常は適当に濃縮して結晶を出す場合が多い.濃縮結晶を行なう場合は,
○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)溶剤を使いすぎたとき 誤って溶剤を多量に使いすぎたときは,無論のことであるが,物質が飽和溶液になる量の溶剤で溶かすことは,操作に時間がかかるから,物質を溶かしやすい程度に溶剤を幾分過量に加え,つぎに適当に濃縮して,結晶を出すことはよく行なっている.
○2 物質を熱して溶かすことができないとき 物質が熱のために,分解しやすくて,熱することができない場合には,まず物質を常温で溶剤に飽和させ,ろ過してから減圧,低温で溶剤の一部を留去する.
○3 冷熱両時の物質の溶解度に大差がないとき ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤の一部分を蒸散させて結晶させるときの結晶容器は,物質の性質や,溶剤の蒸発を常温で行なうか,熱時で行なうかなどによって違ってくる.常温で蒸発させる場合には,口が広くて浅い「さら」を使う.
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤がエーテル,アセトンなどのように引火性,もしくは高価なもののときには,水浴上で蒸発することは避け,溶剤を蒸留回収する.この際には容器として三角フラスコを使い,蒸留中にフラスコ内の液の周囲に,乾燥固着してくる結晶は,ときどきフラスコを振り動かして,液中に落して溶かすか,または固着しているフラスコの外壁に,口で息を吹きかけて溶かす・・・.
第1回の結晶をこし分けた母液をそのまま放置するか,または適度の濃さまで蒸発または蒸留濃縮すると,第2回の結晶を得るが,実際には冷やして析出させる仕方と,濃縮して析出させる仕方とを,あわせて行なう場合が多い.」(531頁17行?532頁下から5行)
(7e)「溶液に他の液体を加えて結晶させる仕方
溶液を冷やすか,溶剤を蒸散または留去して,過飽和の状態に導く仕方以外に,溶液に他の液体を混ぜて,溶質の溶解度を減じ,結晶を析出させる仕方もある.
これに使う溶剤のおもな組合わせは,つぎの通りである.
・・・・・・・・・・・・・・・
この仕方のうち,最も多く使われるものは,水とエタノールとである.この二つは互に随意の比に混じるから,一方に溶けて他方に溶けない性質の物質は,この二つの溶剤を適当に使い分ければ,よく結晶する.」(533頁15?26行)

ク 刊行物8
(8a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布 ・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

ケ 刊行物9
(9a)「【請求項1】結晶状態の下記式

で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。
【請求項2】非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°?+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(9b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドの結晶形、その製造方法及び薬品におけるその利用に関する。
【0002】【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】

【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(9c)「【0007】【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。
【0008】【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」

コ 刊行物10
(10a)「【請求項1】L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を水溶媒下で結晶化させることを特徴とする結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(10b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、化粧品、食品および動物飼料などに有用なL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶(以下、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩と称する。)の製造法に関する。
【0002】【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。 L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶化の例としては、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の水溶液にメタノールを加え、得られた沈澱物を水-メタノールから再結晶する方法[ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、17、381(1969)およびケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、30、1024(1982)]、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を含有する水溶液にアルコール類またはアセトンなどを添加して該結晶を得る方法(特開昭59-51293号)が知られているが、これらの方法は結晶の純度、安定性、結晶化の簡便性などの点で十分とは言えない。」
(10c)「【0023】・・・
実施例1
非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩20gに1リットルの水を加え2W/V%とし、50?60℃に加温溶解した。得られた溶液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、80mlの溶液を得た。得られた溶液のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の濃度[析出したAPMgと水に溶けているAPMgの合計重量(g)/水の体積(ml)]×100(%)は25W/V%であった。その後、室温まで冷却し、結晶を析出させて目的の結晶を得た。得られた結晶についてDSCチャートにより確認した結果、全て結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩であることが判明した。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0028】試験例1
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について密閉容器中、60℃下での残存率を測定し、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較することによりその安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
60℃下の安定性(残存率%)
2週 1カ月 2カ月 3カ月 6カ月
本発明での結晶 99.9 99.1 98.4 97.6 95.3
非晶質 99.0 96.5 93.9 90.5 78.5
【0030】表1から明らかなように、本発明による結晶は優れた安定性を有する。」

サ 刊行物11
(11a)「1 親水性溶媒と水からなる含水溶媒中で、アンピシリンまたはその塩類、シリル誘導体に、水酸化ナトリウムまたはナトリウム塩を作用させてアンピシリンナトリウム塩を生成させ、含水溶媒系から晶出させることを特徴とするアンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法。」(4頁、特許請求の範囲)
(11b)「本発明は、アンピシリンナトリウム塩の製造法に関するものである。
半合成ペニシリンの1つであるアンピシリンは、グラム陽性およびグラム陰性菌によつて引き起される種々の感染症に対して有効であるため、広く繁用されている。現在アンピシリンは、一般に遊離型とナトリウム塩が用いられている。このうち遊離型のものには、結晶形の無水物(特公昭41-8349)およびトリハイドレート(米国特許3157640)があり、これらはその無晶形のものに比し,安定であることが知られているが、ナトリウム塩の結晶性と安定性については十分研究されていない。」(1頁1欄27行?2欄2行)
(11c)「本発明方法によればアンピシリンナトリウム塩は、安定な結晶形(I型と称する)として得ることができる。このI型結晶は、たとえばアンピシリンナトリウム塩の水溶液を凍結乾燥して得られる無晶形のものと比較すると、たとえば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率および吸湿平衡は、第4図および第5図に示すごとく、I型結晶が顕著にすぐれている・・・。」(2頁3欄31?40行)
(11d)「

」(7頁、第4図)
(11e)「

」(7頁、第5図)

シ 刊行物12
(12a)「1.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-3-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレ-トであるセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水相物または3水和物。
2.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートであるセフアロスポリン誘導体の無定形物を、水性有機溶媒に溶解し、得られる溶液を有機溶媒に加え、もしくは冷却し、次いで必要に応じて乾燥することを特徴とするセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水和物または3水和物の製造法。」(1頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(12b)「〈背景技術〉
7-位に2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド基を有するセフアロスポリン誘導体が、強力な抗菌活性を有する抗生物質として知られている。
例えば、下記式

で表される(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートは、ベタイン構造を有し、各種のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有するセフアロスポリン誘導体(特開昭59-239292号公報)である。
これらのセフアロスポリン誘導体は、分子中に有するβ-ラクタム環の加水分解が起り易く、通常化学的に不安定である。」(2頁左上欄14行?右上欄下から4行)
(12c)「したがつて、かかるセファロスポリン誘導体を医薬として用いる場合、安定な形態で使用することが非常に重要である。
〈発明の開示〉
本発明の目的は、(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド)-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたはその誘導体の安定化された結晶性化合物を提供することにある。」(2頁右上欄下から3行?左下欄8行)
(12d)「(2) 3水和物,1水和物,0.5水和物,無水物を褐色バイアルに熔封後85℃で保存し、高速液体クロマドグラフィーで分析した。結果を下表に示す。(残存率,%)

試料 \ 経時 10日後 24日後
無定形物 0 0
3水和物 97.0 86.8
1水和物 96.1 85.5
0.5水和物 98.3 86.3
無水物 97.5 86.0
」(8頁右上欄下から4行?左下欄)

ス 刊行物13
(13a)「【請求項1】粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの結晶。
【請求項2】(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの良溶媒溶液に、該良溶媒と混和性の貧溶媒を添加、撹拌し、30℃以下に冷却して、粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルの結晶を得ることを特徴とする該結晶の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(13b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は医薬用の抗菌化合物として有用なペネム化合物の結晶およびその製造方法に関する。
【0002】【従来の技術および課題】特開昭62-263183号には、ある種の2-ピリジル-ペネム化合物が開示されており、そのうち、特に、式:

で表される(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルは、特に、経口投与によりグラム陰性菌のみならずグラム陽性菌にも優れた抗菌活性を有する有用なペネム化合物であり、その実用化が検討されている。しかし、該ペネム化合物は、優れた抗菌活性を示す一方、これまで無晶形でしか得られておらず、この無晶形の固体は安定性が不十分で、通常の条件下で長時間保存すると変色し、製剤化に際し、有効成分の含量低下を来す問題がある。また、無晶形の固体を実質的に純粋なものとするには、煩雑な精製工程を要する問題がある。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決するために、優れた抗菌活性を示す該ペネム化合物を保存安定性の良い形状として得るべく鋭意検討の結果、該ペネム化合物が安定な結晶として得られること、結晶化により容易に精製できること、さらに、結晶の残留溶媒の面から、医薬として有利な水-エタノール系より結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(13c)「【0010】実施例1
前記参考例で得られた(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アサビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの無晶形の粉末19.5gをエタノール98ミリリットルに溶解した。この溶液を31℃に加温し、32℃に加温した水146ミリリットルを加え、活性炭(白サギP、武田薬品工業(株)製)0.98gを加えて10分間撹拌した。ついで、活性炭を濾去し、エタノール20ミリリットルと水29ミリリットルの混液で洗浄した。濾液を25?30℃で1時間撹拌した後、10℃で冷却し、さらに1時間撹拌した。晶出した結晶を濾取し、エタノール20ミリリットルと水39ミリリットルの混液および水120ミリリットルで順次洗浄し、減圧下35℃で約5時間乾燥すると白色の粉末として該エステルの結晶16.6gが得られた。融点:95?96℃
・・・・・・・・・・・・・・・
【0014】実験例
本発明の方法で製造したエステルの結晶形粉末および参考例により製造した無晶形粉末のそれぞれを60℃の温度で密栓容器中暗所に保存し、残存率を調べた。
粉末の種類 保存条件 残存率
無晶形粉末 60℃ 14日間 37.7%
実施例1の結晶形粉末 60℃ 19日間 98.7%
実施例2の結晶形粉末 60℃ 14日間 98.9%


3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、ミネラルコルチコイド受容体の拮抗剤として用いられる非ステロイド系の縮合環化合物に関する特許文献である(摘示(1a)?(1e))。
刊行物1には、上記化合物について、請求項12に具体的な化合物が26個挙げられた中の12番目に、以下の化合物

が示されている。刊行物1には、上記の化合物が「化合物12」として言及され、その化合物名が「2-クロロ-4-[(3S,3aR)-3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル]ベンゾニトリル」であることが記載されている(摘示(1c)(1e))。
そして、刊行物1には、上記の化合物12を、順次実施例1、8、12の手順により合成したことが記載されている。具体的には、実施例1及び8の手順により、ラセミ化合物である2-クロロ-4-(3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル)ベンゾニトリル(化合物8)を合成し、これを実施例12の手順により、超臨界流体クロマトグラフィの特定分割条件(キラルパックAD-H,300×50mm,50%メタノール/超臨界二酸化炭素,130mL/min)で、保持時間t_(R)=13.2分で、キラル分割したことが記載されている(摘示(1e))。
また、刊行物1には、上記の化合物12をDMSOに溶解して所定濃度の溶液としたものを用いて、ミネラルコルチコイド受容体に対する拮抗作用試験を行ったところ、従来技術の式Vの化合物

のIC_(50) 値が85.7nMであったのに対し、化合物12はIC_(50) 値が4.06nMと、良好な拮抗作用を示すことが記載されている(摘示(1d))。
したがって、刊行物1には
「2-クロロ-4-[(3S,3aR)-3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル]ベンゾニトリル」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。

4 対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用化合物の化学構造式は、本願発明の式(1)と同じであり、化合物名も、両者同じである(以下、この化合物を「化合物C」という。)。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「化合物C」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明においては、化合物Cについて、「化合物Cの結晶形であって、
Cu-Ka照射を用いて、以下:
結晶形I:9.8°±0.2°、12.9°±0.2°、14.8°±0.2°、15.4°±0.2°、16.9°±0.2°、17.4°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、22.6°±0.2°、26.2°±0.2°;
結晶形II:4.5°±0.2°、9.0°±0.2°、12.2°±0.2°、14.0°±0.2°、14.6°±0.2°、18.0°±0.2°、18.7°±0.2°、19.9°±0.2°、21.2°±0.2°、24.6°±0.2°
に示すような粉末X線回折における特徴的な回折角度2Θのピークを有することを特徴とする、結晶形」であると、特定の結晶形I又は結晶形IIの結晶であることが特定されているのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点

(2)相違点についての検討

ア 結晶多形を得ることの動機付けについて
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その化合物を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物の結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。文献をいくつか示すと、教科書や総説のようなものには、例えば:
刊行物2(平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック」);
刊行物3(PHARM TECH JAPAN,2002,18(10),p.1629-1644);
刊行物4(Pharmaceutical Research,1995,12(7),p.945-954);
刊行物8(日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」);
があり、実際に結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることが、よく知られていた(摘示(2a)?(2c)、(3a)?(3f)、(4a)?(4c)、(8a))。また、特許文献には、例えば:
刊行物9(特開平6-192228号公報)は、結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドに係る文献であるところ、同文献には、非結晶状態のアセトアミドは、固形薬品の製造において重大な欠点を有しており、結晶性のアセトアミドは、非結晶状態のアセトアミドと比較して、物理的安定性に優れている旨が記載されている(摘示(9a)?(9c));
刊行物10(特開平7-53581号公報)は、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に係る文献であるところ、同文献には、非晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は、保存時において吸湿しやすく、実用面で支障が生じやすいため、安定な結晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が望ましい旨が記載されている(摘示(10a)?(10c));
刊行物11(特公昭52-45716号公報)は、アンピシリンナトリウムの製造法に係る文献であるところ、同文献には、アンピシリンナトリウムのI型結晶は、無晶型のものと比較すると、例えば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率及び吸湿平衡が顕著に優れている旨が記載されており(摘示(11a)(11c)?(11e))、アンピシリン遊離型も、結晶形の無水物及びトリハイドレートが無晶形のものに比し安定である旨が記載されている(摘示(11b));
刊行物12(特開昭61-263985号公報)は、セフアロスポリン誘導体に係る文献であるところ、同文献には、セフアロスポリン誘導体は、加水分解が起こり易く化学的に不安定であり、無定形物は85℃10日後に残存率0であるのに対し、結晶性無水物、0.5水和物、1水和物及び3水和物は残存率96.1%以上と安定である旨が記載されている(摘示(12a)?(12d));
刊行物13(特開平4-235188号公報)は、ペネム化合物の結晶、その製造方法及び抗菌剤に係る文献であるところ、同文献には、ペネム化合物の無晶形の固体は安定性が不十分で製剤化に際し有効成分の含量低下を来す問題があり、該化合物の結晶形粉末は保存安定性が良い旨が記載されている(摘示(13a)?(13c))。
そして、化合物Cは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤としての薬理作用を有し、腎疾患、高血圧症のような心血管疾患、内分泌疾患の、治療及び/又は予防用の薬剤の製造に有用な、医薬化合物である。
刊行物1には、化合物Cを、固体又は結晶として取得したことは明示されていないが、ラセミ分割前の化合物8については固体として取得したことが記載されており(摘示(1e)実施例8)、また、本願出願の優先日当時の一般的な技術常識によれば、医薬化合物の多くは結晶状態として製造されること(摘示(3b))からすると、ラセミ分割された一方の鏡像異性体である化合物12(化合物C)についても、当業者は、固体又は結晶として取得できるものと考えるといえる。
したがって、化合物Cについて、結晶化条件を検討して結晶多形を調査したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

イ 特定の工程を採用する点及び粉末X線回折の回折角度2Θのピークにより結晶を特定する点について
当業者は、上記アの動機付けに従い、化合物Cについて、望ましい性質を持つ結晶を得るために、結晶化条件について試行錯誤したり、得られた結晶を粉末X線回折などで分析することが、通常のことであると認められる。
一方、本願明細書が開示した、本願発明の化合物Cの、結晶形Iの結晶(9.8°±0.2°、12.9°±0.2°、14.8°±0.2°、15.4°±0.2°、16.9°±0.2°、17.4°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、22.6°±0.2°、26.2°±0.2°に示すような粉末X線回折における特徴的な回折角度2Θのピークを有するものである。)を得るための方法には、以下に示すように、エタノール溶液からの再結晶が含まれる。
すなわち、本願明細書には、段落【0042】?【0043】に、
「16.式(1)で示される化合物の結晶形I、II、III及び無定形は一定の条件下において相互に転化でき、本発明はさらに結晶形I、結晶形II、結晶形III及び無定形の間の転化関係を提供する。
無定形は無水エタノール中で再結晶して結晶形Iを得る;
・・・・・・・・・・・・・・・
結晶形IIは無水エタノール中で再結晶して結晶形Iを得る;
・・・・・・・・・・・・・・・
結晶形IIIは無水エタノール中で再結晶して結晶形Iを得る。」
と、化合物Cをエタノール中で再結晶して、結晶形Iを得ることが記載されている。さらに、本願明細書の段落【0080】?【0081】の実施例2には、化合物Cの結晶形Iを取得する具体的な製造方法と、得られた結晶の粉末X線回折結果が、以下のように記載されている。
「実施例2
2-クロロ-4-[(3S,3aR)-3-シクロペンチル-7-(4-ヒドロキシピペリジン-1-カルボニル)-3,3a,4,5-テトラヒドロ-2H-ピラゾロ[3,4-f]キノリン-2-イル]ベンゾニトリル結晶形Iの調製(1)
実施例1で調製された式(1)で示される化合物1gを、無水エタノール3mLに加え、80℃に加熱し、溶液が澄明になった後、ゆっくり室温まで温度を下げ、大量の固体が析出され、濾過し、無水エタノールで3回スプレー洗浄し、得られた固体を真空乾燥器に加えて60℃で12h真空乾燥し、結晶形Iを得た。結晶形Iの粉末X線回折(XRD)スペクトルは図1に示され、その主要パラメーターは以下のとおり:


上記実施例2で得られた結晶は、本願発明の結晶形Iの「9.8°±0.2°、12.9°±0.2°、14.8°±0.2°、15.4°±0.2°、16.9°±0.2°、17.4°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、22.6°±0.2°、26.2°±0.2°に示すような粉末X線回折における特徴的な回折角度2Θのピークを有する」との発明特定事項を満足するものであり、上記実施例2に記載された化合物Cの結晶形Iの製造方法は、要するに、化合物Cをエタノールに溶解し、冷却して結晶を析出させるものであって、これは段落【0043】に記載された結晶形Iを製造する方法の態様である。なお、溶液からの結晶化なので、出発物質が無定形か結晶形かは問題にならない。
このような操作は、ごく一般的な、化合物が溶解している溶液の冷却による化合物の結晶化の方法であって(摘示(2b)及び(2c)、(3b)?(3e)、(4c)、(5a)及び(5b)、(6a)、(7a)?(7c)、(8a))、溶媒の選択についても、エタノールのような、ありふれた、化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められる(摘示(2c)、(3c)、(4c)、(5a)及び(5b)、(7a))。
してみると、本願発明の化合物Cの結晶形Iは、引用発明において、当業者が通常行う溶液からの結晶化の操作により得られるものであって、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤により得られるものであると認められる。
また、結晶形の特定のために、粉末X線回折の回折角度2Θのピークの測定値を用いることは、医薬化合物の結晶の技術分野では、常套手段である(摘示(3f)、(4b)及び(4c)、(8a))。

ウ 以上によれば、引用発明において、化合物Cの結晶化条件を検討して結晶多形を調査して、得られた結晶について分析することにより、相違点1に係る「化合物Cの結晶形であって、
Cu-Ka照射を用いて、以下:
結晶形I:9.8°±0.2°、12.9°±0.2°、14.8°±0.2°、15.4°±0.2°、16.9°±0.2°、17.4°±0.2°、19.4°±0.2°、19.8°±0.2°、22.6°±0.2°、26.2°±0.2°
に示すような粉末X線回折における特徴的な回折角度2Θのピークを有することを特徴とする、結晶形」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)発明の効果について

ア 本願明細書の段落【0008】には、
「薬物の研究開発過程において、結晶形の研究は非常に重要であり、化合物は結晶形によって、その安定性、溶解度等の性質が異なる。それによって本発明者は式(1)で示される化合物の結晶形に対して検討を鋭意に行ったところ、式(1)で示される化合物の結晶形を確認及び発明できた。」
と記載されている。また、段落【0092】?【0096】の実験例1において、「本発明の化合物の結晶形Iの安定性」と題して、以下の記載がある。
「実験例1
本発明の化合物の結晶形Iの安定性
試料:
式(1)で示される化合物の結晶形I:実施例2により調製された;
影響因子試験の検討条件:
高温試験:
(i) 式(1)で示される化合物の結晶形Iを乾燥した清潔な時計皿に広げ、60℃の条件下で10日間放置し、それぞれ5日目と10日目にサンプリングし、関連物質及び式(1)で示される化合物の含有量を測定し、0日目の試料と比較した;
(ii) 式(1)で示される化合物の結晶形Iを薬用低密度ポリエチレン袋で内側に包装し、更に外側に薬品包装用のポロエステル/アルミニウム/ポリエチレン重層フィルムで密封包装し、60℃の条件下で10日間放置し、それぞれ5日目と10日目にサンプリングし、関連物質及び式(1)で示される化合物の含有量を測定し、0日目の試料と比較した。
高湿試験:式(1)で示される化合物の結晶形Iを乾燥した清潔な時計皿に広げ、25℃、RH90%±5%の条件下で10日間放置し、それぞれ5日目と10日目にサンプリングし、関連物質及び式(1)で示される化合物の含有量を測定し、0日目の試料と比較した。
光安定性試験:式(1)で示される化合物の結晶形Iを乾燥した清潔な時計皿に広げ、光安定性試験装置に入れ、照度4500Lx±500Lxの条件下で10日間放置し、それぞれ5日目と10日目にサンプリングし、関連物質及び式(1)で示される化合物の含有量を測定し、0日目の試料と比較した。
含有量:中国薬典2010版付録のVD高速液体クロマトグラフィーに従い、外部標準法を用いて測定した。
関連物質:中国薬典2010版付録のVD高速液体クロマトグラフィーに従い、相対面積比較法を用いて測定した。
試験結果:下記表1に示される。

本発明者は式(1)で示される化合物の結晶形Iの安定性について検討を行い、試験結果から明らかなように、式(1)で示される化合物の結晶形Iが高温、高湿及び光の条件下において、関連物質、式(1)で示される化合物の含有量はほとんど変化しなかった、結晶形Iの安定性は無定形より優れた。式(1)で示される化合物の結晶形Iは、比較的高い安定性を有することが示され、薬品の調製、保存及び輸送に便利で、更に薬品の使用における有効性と安全性が保証されることに有利である。」
そうすると、本願発明の効果は、請求項1に記載された化合物Cの結晶形Iの結晶を提供できること、及び、化合物Cの結晶形Iが、60℃における開放系での10日間の放置後、60℃における密閉系での10日間の放置後、25℃、RH90%±5%での10日間の放置後、及び照度4500Lx±500Lxの条件下で10日間放置後の、何れにおいても、化合物Cの含有量と関連物質の含有量がほとんど変化しないような安定性を有し、薬品の調製、保存及び輸送に便利で、更に薬品の使用における有効性と安全性が保証されることに有利である、ということであると認められる。

イ しかし、この効果は、以下に示すように、格別の効果であるとはいえない。

(ア)まず、上記(2)に述べたとおり、化合物Cの結晶形Iは、当業者が容易に得ることができたものであるから、化合物Cの結晶形Iを提供できるという効果は、格別のものであるとすることはできない。

(イ)次に、安定性についても、上記(2)アのとおり、結晶状態にある化合物が無定形状態にある化合物よりも安定であることは、当業者の技術常識であり、また、複数の結晶形があるときに、結晶形ごとに安定性が異なることも技術常識であるということができる(摘示(2a)、(3b)及び(3f)、(4b)、(8a)、(9a)?(9c)、(10a)?(10c)、(11a)?(11e)、(12a)?(12d)、(13a)?(13c))。
上記アに示した、本願明細書の実験例1の表1には、60℃における開放系での10日間の放置後、60℃における密閉系での10日間の放置後、25℃、RH90%±5%での10日間の放置後、及び照度4500Lx±500Lxの条件下で10日間放置後の、安定性の評価が示されているが、上記の技術常識に照らせば、この程度の安定性が、医薬化合物に通常求められる保存安定性と比較して、当業者の予測を超える格別顕著なものとも認められない。
したがって、本願明細書の記載から、化合物Cの結晶形Iの安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。

(4)請求人の主張について

ア 審判請求人は、審判請求書において、新たに行った比較実験の結果を示して、以下の主張している。
「上述のような審査官殿のご指摘に対しまして、本出願人は、特に本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と称します)で規定された「結晶形I」と「結晶形II」の所定の結晶形態の「式(1)で表される化合物」が、引用文献1に記載された「無定形」の同じ化合物と比較して、安定性の面で格別に優れた効果を有することを強く主張申し上げます。
この点につきましては、本願の出願当初明細書[0092]?[0096]の実験例1(結晶形Iについて)及び[0097]?[0101]の実験例2(結晶形IIについて)で十分にサポートされておりますが、以下に詳述することによって、審査官殿ご指摘の「相違点1」が、当業者に容易になし得ることではない点を主張申し上げます。
同じ「式(1)で表される化合物」につきまして、「結晶形I」、「結晶形II」及び「無定形(非晶質)」である場合の安定性につきまして、比較試験を行いましたので、以下の表をご覧ください。この表における「結晶形I」及び「結晶形II」の「実験条件」におけるデータは、本願の出願当初明細書の表1([0095]段落)及び表2([0100]段落)と完全に一致しております。
【表1】

この表の結果から明らかな通り、無定形(非晶質)の形態(引用文献1に記載された化合物)では高温と高湿度にはそれほど感受性ではありませんが、光照射条件では非常に敏感であって著しく安定性を欠くことが明らかです。
次に、関連物質の量(%)を比較しますと、以下のとおりです:
【表2】

この表の結果から明らかな通り、結晶形I及びIIと比較して、無定形(非晶質)の形態の含有量では、高温多湿条件ではそれほど有意な変化はございませんが、関連物質の量を比較しますと、高温多湿条件で有意な変化を起こすことが明らかです。
更に重要なことに、無定形(非晶質)の形態で含有量は、光照射条件下で約10?15%まで減少し(上記表1)、これは医薬としての使用の必要条件を満たすものではないのに対し、結晶形I及びIIでは、実験条件の全てにおいて非常に安定であることが示されております。
この点のサポートにつきましては、出願当初明細書の[0096]及び[0101]段落を併せて以下のように記載されております:
本発明者は式(1)で示される化合物の結晶形I及びIIの安定性について検討を行い、試験結果から明らかなように、式(1)で示される化合物の結晶形I及びIIが高温、高湿及び光の条件下において、関連物質、式(1)で示される化合物の含有量はほとんど変化しなかった、結晶形I及びIIの安定性は無定形(引用文献1に記載された発明です)より優れた。式(1)で示される化合物の結晶形I及びIIは、比較的高い安定性を有することが示され、薬品の調製、保存及び輸送に便利で、更に薬品の使用における有効性と安全性が保証されることに有利である。
以上より、本願発明に係る結晶形I及びIIを有する式(I)で示される化合物は、引用文献1に記載された同じ化合物の無定形のものに対しまして、格別な安定性という効果を有するものであり、一般に非晶質のものから特定の結晶形を選択するのは、例え当業者であっても過度の試行錯誤を要するものでございます。
本願発明で規定された特定のピークを有する結晶形は、非晶質の化合物が知られている場合であっても、容易に動機付けられるものではなく、上述の表1及び2から明らかな通り、多種多様な結晶形から安定性効果が高いものを選択するのにも過度の試行錯誤を要します。
従いまして、本願発明に規定される特定の結晶形につきましては、引用文献1には記載も示唆もされておりませんので、例えこの文献を引用文献2と組み合わせたとしても、本願発明に規定された格別に優れた安定性効果を有する特定の結晶形につきましては、例え当業者と云えども容易に想到することは出来なかったものと思料いたします。
したがって、本願発明を引用文献1及び2から当業者であれば容易に想到し得るとする論理付けは不可能であり、本願発明は引用文献1及び2に対しまして、進歩性を有するものと思料いたします。」

イ しかしながら、上記(3)イ(イ)でも述べたとおり、結晶状態にある化合物が無定形状態にある化合物よりも安定であることは、当業者の技術常識であり、また、複数の結晶形があるときに、結晶形ごとに安定性が異なることも技術常識であるということができる(摘示(2a)、(3b)及び(3f)、(4b)、(8a)、(9a)?(9c)、(10a)?(10c)、(11a)?(11e)、(12a)?(12d)、(13a)?(13c))
そして、安定性は、当業者が新たな結晶を探索するにあたり、当然に注目する事項であるところ、その安定性には、例えば刊行物3の「開発候補化合物の物性評価」の「○2 化学的な安定性の評価」の項には「固体状態において,熱,湿度,光に対する安定性を評価する」(摘示(3f))と記載されるように、高温条件下、高湿条件下及び光照射条件下での安定性が含まれることも、技術常識である。刊行物10でも、60℃、6カ月までの条件下での試験がされ残存率が評価されている(摘示(10c))。刊行物11でも、40℃、関係湿度52.4℃で4週間までの試験がされ残存率が評価されている(摘示(11c)及び(11d))。刊行物12でも、85℃、24日までの試験がされ残存率が評価されている(摘示(12d))。刊行物13でも、60℃、14日又は19日までの試験がされ残存率が評価されている(摘示(13c))。
また、湿度に対する挙動についても、刊行物3の「開発候補化合物の物性評価」の「○5 吸湿性の評価」の項には「吸湿性は・・・化学的ならびに物理的な安定性に影響する重要な基礎物性である」(摘示(3f))と記載され、刊行物4の図1には「%RHプロファイル」(摘示(4b))が記載されるように、当業者が新たな結晶を探索するに当たり、当然に注目する事項であるといえる。
そうすると、本願発明の化合物Cの結晶形Iが、化合物Cの非晶質のものと比べて、審判請求書に提示された表1及び表2に記載されるような、高温条件下、高湿条件下及び光照射条件下での安定性を示すとしても、当業者の予測を超える格別顕著なものであるとはいえない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-28 
結審通知日 2018-03-05 
審決日 2018-03-16 
出願番号 特願2015-548180(P2015-548180)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一齋藤 光介  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 中田 とし子
冨永 保
発明の名称 ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤としての化合物の結晶形及びその調製方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  

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