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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C30B |
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管理番号 | 1342853 |
審判番号 | 不服2017-13535 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-08-25 |
確定日 | 2018-08-06 |
事件の表示 | 特願2015-173290「シリコン結晶の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月23日出願公開、特開2017- 39634〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成27年8月18日の出願であって、平成28年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月5日付けで意見書、上申書及び手続補正書が提出され、同年4月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月25日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月28日付けで同年8月25日付けの手続補正書は方式上の不備があるとして手続補正指令書(方式)が通知され、これに対して、同年10月26日付けで手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出されたものである。 第2.本願発明について 1.本願発明 本願の請求項に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認める。 「高周波印加ワーキングコイルにより種用単結晶(シード)を溶かしつつ、あらかじめ原料加熱用プレヒーテイング・コイルにより、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドを高周波印加ワーキングコイルによって溶解温度までその底面を溶解させる。然る後、種用単結晶(シード)を高周波印加ワーキングコイルを貫通させて、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドに接触させ、高周波印加ワーキングコイルの供給電力を調整しつつ、種用単結晶(シード)を下方向に引き下げる。この時、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドの軸に対し、種用単結晶(シード)の軸が偏芯微細調節化可能なように配置設定され、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドより溶解されたシリコン原料を、偏心的に供給することにより、製品FZ単結晶の生成を行うことを特徴とする太陽電池用FZ単結晶の製造方法。」 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であり、また仮に引用文献1に記載された発明でないとしても、引用文献1に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 また、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.特開2013-103874号公報 3.引用文献の記載事項 上記引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。 摘記1 「【0001】 本発明は、太陽電池用単結晶シリコンおよびその製造方法に関し、さらに詳しくはシリコン結晶のなかでもFZ法単結晶を、太陽電池用として使用する目的に限定して行う太陽電池用FZ単結晶シリコンおよびその製造方法に関する。」 摘記2 「【課題を解決するための手段】 【0007】 ・・・ (3)従来の半導体向けとは異なり、そのグローイングスピードは2?5mm/minを許容する。又はMax8mm/minまでチャ-ジングプレヒーティング(図-3)を調整する事により可能である (4)FZ単結晶の直径は6inchφ(図-4)が現行工業化技術として太陽電池用に応用される最適の大きさであるが、?12inφの直径の工業的太陽電池用FZ単結晶の製造も可能である。 ・・・」 摘記3 「【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 (1)種付けは、無転位(100)及び<111>種結晶を主力とするが、時として(511)、(211)の選択もあり、且つ成長条件次第では、それぞれがオフ・アングルを随時採用することが可能である。 寸法は≒5×5mm?10×10mm、 又は≒5mmφ?10mmφAs・GrownCZ単結晶。 (2)成長工程: 種付け以降/等径/引き延ばし/押し縮めの工程を持つ。 猶、種付け初期スピードは20mm/sec?30mm/sec、それ以降のスピードは初期スピードより漸減しつつ1mm/sec?8mm/minまで成長状況に応じて変化させる。 (3)偏芯機構を持つFZ機: 種芯軸と多結晶補給軸とが外部操作により微細で必要且つ有効な偏芯可能な機構を持つ事を特徴としている。 (4)2Mヘルツ?5MヘルツのSolid State若しくは真空管発信機を使用し、ハートレー、陽極同調型高周波発信器も適時採用可能である。 又、特殊設計に依るHigh Frequency型Gate/turnoff Thyristorも利用することが出来る。 (5)ワーキングコイルは、銀製One・Turn若しくは多重コイル型を基本とするが銅・銀メッキ型も使用できる。 ・・・ (6)FZ炉内雰囲気はスタート時、10-4乗mmHg、引続きアルゴン-50?+100mmAqで、 11/min?101/minのフローを持続させる。 ワークコイル印加電圧如何に依っては、アルゴンに10?20%の水素又はヘリュームガスを混入させ、グロー放電を阻止することが出来るが、此の水素又はヘリュームガスによる結晶格子間、或いは一部結晶格子置換の現象は、太陽電池光電変換率の目立った低下を来たさない。」 摘記4 「【実施例1】 【0011】 「直径6“φFZソーラー単結晶(P型1)」 ・・・ (2)銅に銀メッキ(0,15mmt厚)された、内径20mmφ外径60mmφのワーキングコイルを通して、2MHzの陽極同調型の容量150KVA真空管発信機を使用してパワーサプライとした。 ・・・ (4)ダッシュ部より徐々に直径を上げ、今回は直径8inφのソーラー用FZを長さ500mmLまで成長させた。 ・・・ 」 摘記5 「 」 摘記6 「 」 摘記7 「 」 4.引用発明 (1)摘記1より、引用文献1には太陽電池用FZ単結晶シリコンの製造方法が記載されていると認められる。 そして、当該製造方法の工程図である摘記5における「モルテン・ゾーン」及び摘記6における「モルテンゾーン」は同義であると解されるところ(以降、摘記6における「モルテンゾーン」も「モルテン・ゾーン」という)、FZ単結晶の製造において単結晶と多結晶の間に溶解ゾーンを形成することは当業者に自明であると認められること、また、「モルテン」は「molten(当審仮訳:「溶解した」)」に相当し得ることから、摘記5及び摘記6における「モルテン・ゾーン」は、溶解ゾーンを意味するものと認める。 してみると、摘記5及び摘記6より、「チャージング多結晶ロッド」と「FZ単結晶」の間に形成される「モルテン・ゾーン」は、「モルテン・ゾーン」、すなわち溶解ゾーンを取り囲むように配置される「ワーキングコイル」により形成されるものと認められるから、上記「ワーキングコイル」は、「チャージング多結晶ロッド」の底面を溶解させるものと認める。 また、摘記4には、「【実施例1】」において、「銅に銀メッキ(0,15mmt厚)された、内径20mmφ外径60mmφのワーキングコイルを通して、2MHzの陽極同調型の容量150KVA真空管発信機を使用してパワーサプライとした。」ことが記載され、当該「2MHzの陽極同調型の容量150KVA真空管発信機」は、摘記3における「2Mヘルツ?5Mヘルツの」「真空管発信機」の実施例であると解されるから、摘記3における「2Mヘルツ?5Mヘルツの」「真空管発信機」は、摘記3における「ワーキングコイル」を通じてパワーサプライとすることに使用されるものであると解される。 また、摘記3には、「ワークコイル印加電圧如何に依っては」と記載され、「ワークコイル」は「ワーキングコイル」と同義であると解されるから、「ワーキングコイル」が電圧が印加されるものであることが記載されている。 よって、摘記3、摘記5及び摘記6における「ワーキングコイル」は「2Mヘルツ?5Mヘルツの」「真空管発信機」により電圧が印加されるものであると認める。 (2)摘記2における「(図-3)」と同義であると解される「【図3】」には、摘記6の通り、「チャージング多結晶ロッド」を取り囲むように「ヒーター(遠赤外)」が配置されることが示されているから、摘記2及び摘記6より、摘記6における「ヒーター(遠赤外)」は「チャージング多結晶ロッド」を「チャ-ジングプレヒーティング」するものと認める。 (3)摘記3には、「(1)種付けは、無転位(100)及び<111>種結晶を主力とするが、時として(511)、(211)の選択もあり、且つ成長条件次第では、それぞれがオフ・アングルを随時採用することが可能である。寸法は≒5×5mm?10×10mm、 又は≒5mmφ?10mmφAs・GrownCZ単結晶。」と記載されており、単結晶の種結晶を用いて種付けを行うことが記載されていると認める。 してみると、摘記5から、「チャージング多結晶ロッド」が「ワーキングコイル」を貫通できないことは明らかであるところ、種付けの際には、種結晶(Seed)を「チャージング多結晶ロッド」に融着させる必要があるから、種付けは、単結晶の種結晶をワーキングコイルを貫通させるとともに、その端部を溶解して、「チャージング多結晶ロッド」の底面に接触させるものと認める。 (4)摘記3には、「(2)成長工程: 種付け以降/等径/引き延ばし/押し縮めの工程を持つ。 猶、種付け初期スピードは20mm/sec?30mm/sec、それ以降のスピードは初期スピードより漸減しつつ1mm/sec?8mm/minまで成長状況に応じて変化させる。」と記載されており、摘記4に「ソーラー用FZを長さ500mmLまで成長させた。」と記載されているように、「成長工程」により成長するのは太陽電池用FZ単結晶シリコンであると認められる。 また、摘記3、摘記5及び摘記6における「ワーキングコイル」は、単結晶と多結晶の間に溶解ゾーンを形成するものであり、「等径/引き延ばし/押し縮めの工程を持つ」「成長工程」において、「ワーキングコイル」に印加される電圧が調整されることは技術的に自明であるといえるから、摘記3における「成長工程」は、当然に「ワーキングコイル」への供給電力を各工程に合わせて調整しつつ行うものであると認める。 さらに、摘記3における「成長工程」は、「等径/引き延ばし/押し縮めの工程を持つ」ものであり、成長したものを「引き延ば」すことが記載されていると認められること、また、引用文献1には、太陽電池用FZ単結晶シリコンの成長に伴って、ワーキングコイルを移動させる旨の記載は認められないことから、摘記3における「成長工程」の際には、「単結晶の種結晶」を下方向に引き下げるものと認める。 さらに、摘記3には、「(3)偏芯機構を持つFZ機:種芯軸と多結晶補給軸とが外部操作により微細で必要且つ有効な偏芯可能な機構を持つ事を特徴としている。」と記載されており、摘記7には、「偏心度:α」及び「スタート時より結晶成長に従い徐々に偏心させる」と記載されている。 摘記3及び摘記7より、摘記3における「種芯軸」は摘記3における「種結晶」の軸、摘記3における「多結晶補給軸」は摘記5及び摘記6における「チャージング多結晶ロッド」の軸であると認められるから、引用文献1には、外部操作により微細で必要且つ有効な偏心可能な機構を持つ種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸の偏芯機構により、スタート時よりFZ単結晶の成長に従い徐々に種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸を偏心させることが記載されていると認める。 (5)上記より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「2Mヘルツ?5Mヘルツの真空管発信機により電圧が印加されるワーキングコイルにより単結晶の種結晶の端部を溶解し、ヒーター(遠赤外)によりチャージング多結晶ロッドをチャ-ジングプレヒーティングし、チャージング多結晶ロッドの底面を前記ワーキングコイルにより溶解し、単結晶の種結晶を前記ワーキングコイルを貫通させてチャージング多結晶ロッドの底面に接触させる種付けを行い、種付け以降、前記ワーキングコイルへの供給電力を調整しつつ、単結晶の種結晶を下方向に引き下げる成長工程により太陽電池用FZ単結晶を成長させる方法であって、外部操作により微細で必要且つ有効な偏心可能な機構を持つ種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸の偏芯機構により、スタート時よりFZ単結晶の成長に従い徐々に種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸を偏心させる、太陽電池用FZ単結晶シリコンの製造方法。」 5.引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「2Mヘルツ?5Mヘルツの真空管発信機により電圧が印加されるワーキングコイル」は本願発明における「高周波印加ワーキングコイル」に相当し、以下同様に、「単結晶の種結晶」は「種用単結晶(シード)」に、「チャージング多結晶ロッド」は「チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッド」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「ヒーター(遠赤外)」は「チャージング多結晶ロッドをチャ-ジングプレヒーティング」するものであるから、あらかじめ原料を加熱するものといえ、本願発明における「あらかじめ原料加熱用プレヒーティング・コイル」に相当する。 さらに、引用発明は「単結晶の種結晶の端部を溶解し、・・・ワーキングコイルを貫通させてチャージング多結晶ロッドの底面に接触させる」ことから、本願発明の「種用単結晶(シード)を溶かしつつ」「然る後、種用単結晶(シード)を高周波印加ワーキングコイルを貫通させて、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドに接触させ」るものといえる。 また、同様に、引用発明は「チャージング多結晶ロッドの底面を前記ワーキングコイルにより溶解し、・・・チャージング多結晶ロッドの底面に接触させる」ことから、本願発明の「チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドを高周波印加ワーキングコイルによって溶解温度までその底面を溶解させる。然る後、・・・チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドに接触させ」るものといえる。 さらに、引用発明における「種結晶の軸」及び「チャージング多結晶ロッドの軸」は、それぞれ本願発明における「種用単結晶(シード)の軸」及び「チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドの軸」に相当し、引用発明における「外部操作により微細で必要且つ有効な偏心可能な機構を持つ種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸の偏芯機構」は、本願発明における「チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドの軸に対し、種用単結晶(シード)の軸が偏芯微細調節化可能なように配置設定され」に相当する。 また、引用発明は、「スタート時よりFZ単結晶の成長に従い徐々に種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸を偏心させる」ことにより、「チャージング多結晶ロッド」より溶解されたシリコン原料を偏心的に供給して太陽電池用FZ単結晶シリコンの生成を行っているといえるから、引用発明における「スタート時よりFZ単結晶の成長に従い徐々に種結晶の軸とチャージング多結晶ロッドの軸を偏心させる」は、本願発明における「チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドより溶解されたシリコン原料を、偏心的に供給することにより、製品FZ単結晶の生成を行う」に相当する。 よって、本願発明と引用発明は、本願発明の記載に沿って整理すると、 「高周波印加ワーキングコイルにより種用単結晶(シード)を溶かしつつ、あらかじめ原料加熱用プレヒーテイング・コイルにより、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドを高周波印加ワーキングコイルによって溶解温度までその底面を溶解させる。然る後、種用単結晶(シード)を高周波印加ワーキングコイルを貫通させて、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドに接触させ、高周波印加ワーキングコイルの供給電力を調整しつつ、種用単結晶(シード)を下方向に引き下げる。この時、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドの軸に対し、種用単結晶(シード)の軸が偏芯微細調節化可能なように配置設定され、チャージ用原料シリコン多結晶原料ロッドより溶解されたシリコン原料を、偏心的に供給することにより、製品FZ単結晶の生成を行う太陽電池用FZ単結晶の製造方法。」 である点で一致し、両者の間に実質的な差異は認められない。 6.小括 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 第3.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないから、他の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-05-25 |
結審通知日 | 2018-06-05 |
審決日 | 2018-06-19 |
出願番号 | 特願2015-173290(P2015-173290) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C30B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 塩谷 領大、谷本 怜美、小川 武 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
馳平 憲一 大橋 賢一 |
発明の名称 | シリコン結晶の製造方法 |