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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1342953
異議申立番号 異議2017-700296  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-21 
確定日 2018-06-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5997546号発明「有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤または化粧料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5997546号の特許請求の範囲を、平成29年12月27日付けの手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、6について訂正することを認める。 特許第5997546号の請求項1、3ないし6に係る特許を維持する。 特許第5997546号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5997546号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成24年8月23日に特許出願され、平成28年9月2日にその特許権の設定登録がされ、同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1ないし6に係る特許について、平成29年3月21日に特許異議申立人 杉本 里佳 (以下「申立人1」という。)により、同月28日に特許異議申立人 岩田 博明 (以下「申立人2」という。)により、同日に特許異議申立人 舘野 美成子 (以下「申立人3」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされ、同年7月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間(延長期間を含む)内である同年10月12日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、同年11月20日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出され、本件訂正請求に対して申立人1から平成30年2月26日付けで、申立人2から同日付けで、申立人3から同月15日付けで、それぞれ意見書が提出され、同年3月22日付けで特許権者 株式会社コーセー に対して審尋がなされ、それに対して同年4月4日付けで回答書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断

1 訂正請求書を補正対象とする平成29年12月27日付けの手続補正書による補正の適法性

訂正請求書を補正対象とする平成29年12月27日付けの手続補正書による補正は、同年10月12日付けの訂正請求書の請求項5に係る訂正事項を削除するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものではない。

よって、平成29年12月27日付けの手続補正書による訂正請求書の手続補正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合する。

2 訂正の内容

平成29年12月27日付け手続補正書により補正された本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の具体的内容は、以下のとおりである。

(1)請求項1に係る訂正

(訂正事項1-1)
特許請求の範囲の請求項1に、「(A) 分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分」とあるのを、「(A) 分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分であって、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルからなる群より選択される一以上」に訂正する。

(訂正事項1-2)
特許請求の範囲の請求項1に、「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油」とあるのを、「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン」に訂正する。

なお、請求項1の訂正に伴い、請求項1を引用する請求項3も同様に訂正される。

(2)請求項2に係る訂正

(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)請求項3に係る訂正

(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1または2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。

(4)請求項6に係る訂正

(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項6の記載、「分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を促進するための、成分(A)の皮膚浸透促進上有効量の、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油(B)を含有する、剤。」を、「分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を促進するための剤であって、成分(A)の皮膚浸透促進上有効量の、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油(B)を含有する、剤。」に訂正する。

3 一群の請求項について

訂正前の請求項1ないし請求項3は、上記訂正事項1-1及び1-2に係る請求項1の記載を請求項2及び請求項3がそれぞれ直接又は間接的に引用しているものであるから一群の請求項であり、上記訂正事項1-1ないし訂正事項3は、この一群の請求項について訂正を請求するものと認められる。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)請求項1に係る訂正について

ア 訂正の目的の適否

(ア)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、「(A) 分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分」の種類について、「グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルからなる群より選択される一以上」のものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油」の種類について、「流動パラフィン」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無

(ア)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項2に「成分(A)が、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルからなる群より選択される一以上である、請求項1に記載の皮膚外用剤または化粧料組成物。」と記載されていたことに基づくものであるから、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
したがって、訂正事項1-1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項1-2について
特許明細書等の【0024】に「本発明に用いられる炭化水素油は、温度20℃における表面張力が、29.5mN/m以下であることを特徴とする。」、【0028】に「本発明で用いられる炭化水素油(成分(B))は、表面張力が上で説明した範囲であり、皮膚外用剤または化粧料組成物に添加することが許容できる仕様である限り、特に限定されないが、20℃で液状であることが好ましい。具体的にはイソドデカン、イソヘキサデカン、水添ポリイソブテン、軽質流動イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテン等が挙げられ、これらの一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。」と記載されていることから、使用することができる「温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油」として「流動パラフィン」が含まれていることが読み取れる。
よって、「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油」を「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン」に訂正することは、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1-2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1-1及び1-2は、上記アで示したように特許請求の範囲の請求項1を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)請求項2に係る訂正について

訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)請求項3に係る訂正について

訂正事項3は、請求項3において、引用する請求項から請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

また、請求項3は、請求項1を引用していることから実質的に請求項1に係る訂正と同様に訂正されるが、当該訂正は、上記(1)で検討したとおり訂正の要件を満たすものである。


(4)請求項6に係る訂正について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項4は、訂正前の請求項6に記載された「分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を促進するための」が修飾する語句が、「剤」であることを明らかにしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

イ 新規事項の有無

特許明細書等の【0001】の「本発明は、化粧料等に用いられる有効成分の、皮膚への浸透を促進する技術に関する。」、【0012】の「本発明は、皮膚有効成分(成分(A))の皮膚への浸透を促進することに関する。」、【0008】の「本発明によれば、特定の分配係数を有する皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進することができる。」、【0023】の「本発明においては、皮膚有効成分の皮膚への浸透は、特定の物理化学的性質を有する炭化水素油によって促進される。」、及び【0034】の「また、前記皮膚浸透促進剤及びグリチルレチン酸ステアリルは、上記の各種化粧料に含有できる他、分散液、軟膏、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の外用医薬品等に含有することもできる。」との記載によれば、特許明細書等には、特定の物理化学的性質を有する炭化水素油を、特定の分配係数を有する皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進するための皮膚浸透促進剤として用いることが記載されているものと認められる。
よって、訂正事項4は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項4は、上記アで示したように明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

5 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕、6について訂正を認める。


第3 本件発明

上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件の請求項1ないし6に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明6」という。)は、平成29年12月27日付け手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
(A) 分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分であって、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルからなる群より選択される一以上;および
(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン
を含有する、皮膚外用剤または化粧料組成物であって、成分(A)/成分(B)の質量比が、1/(10?250)である、皮膚外用剤または化粧料組成物。

【請求項2】
(削除)

【請求項3】
成分(A)の分配係数Log P値が10.0?25.0である、請求項1に記載の、皮膚外用剤または化粧料組成物。

【請求項4】
分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を、成分(A)の皮膚浸透促進上有効量の、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油(B)を同時に用いることにより、促進する、方法(医療行為を除く。)。

【請求項5】
皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤または化粧料組成物の製造方法であって:
分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)選択し;
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択し;そして
成分(A)に対して、の皮膚浸透促進上有効量の炭化水素油(B)を含有する工程を含む、製造方法。

【請求項6】
分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を促進するための剤であって、成分(A)の皮膚浸透促進上有効量の、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油(B)を含有する、剤。


第4 取消理由についての判断

1 取消理由の概要

訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して平成29年7月10日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

(1)取消理由1(特許法第36条第4項第1号に係る取消理由)

請求項1ないし3は、皮膚外用剤または化粧料組成物において、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分である成分(A)と、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油である成分(B)との質量比、成分(A)/成分(B)が、1/(10?250)であることを特定しているが、発明の詳細な説明の記載によっては、質量比、成分(A)/成分(B)が、約1/50である場合を除く1/(10?250)である場合に皮膚有効成分の皮膚浸透性を高めることができると認識することはできない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、質量比、成分(A)/成分(B)が、約1/50である場合を除く1/(10?250)である場合においても、当業者が請求項1ないし3に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件の請求項1ないし3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号に係る取消理由)

本件明細書の段落【0005】等の記載によれば、請求項1ないし3に係る発明の解決しようとする課題は、皮膚吸収性がよいとされる分子量500以下、かつLog P値1?3の範囲外の皮膚に浸透しにくい皮膚有効成分の皮膚浸透性を高めた、より効果の高い皮膚外用剤及び化粧料組成物を提供することにあると認められる。
発明の詳細な説明の記載によれば、成分(A)/成分(B)の質量比が約1/50の場合については、上記課題を解決することができるものと理解することができるが、質量比、成分(A)/成分(B)が、約1/50である場合を除く1/(10?250)である場合に皮膚有効成分の皮膚浸透性を高めることができると認識することはできない。
また、質量比、成分(A)/成分(B)を、1/(10?250)の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせない。
よって、本件の請求項1ないし3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(特許法第29条第1項第3号に係る取消理由)

ア 請求項1、2、5及び6について

請求項1、2、5及び6に係る発明は、申立人1の甲第1、2号証、申立人2の甲第1、2、4、6ないし13号証、申立人3の甲第6、7、10、11、17、23、24、26ないし28、30ないし32、35、39ないし41、48、49号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 請求項3について

請求項3に係る発明は、申立人1の甲第1、2号証、申立人2の甲第1、2、4、6ないし13号証、申立人3の甲第6、7、10、11、17、23、24、26ないし28、30ないし32、35、39ないし41号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(特許法第29条第2項に係る取消理由)

ア 請求項1、2、4ないし6について

請求項1、2、4ないし6に係る発明は、申立人1の甲第1、2号証、申立人2の甲第1、2、4、6ないし13号証、申立人3の甲第6、7、10、11、17、23、24、26ないし28、30ないし32、35、39ないし41、48、49号証のいずれかに記載された発明を主たる引用発明とし、申立人3の甲第72、51号証、及び申立人2の甲第19号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 請求項3について

請求項3に係る発明は、申立人1の甲第1、2号証、申立人2の甲第1、2、4、6ないし13号証、申立人3の甲第6、7、10、11、17、23、24、26ないし28、30ないし32、35、39ないし41、48号証のいずれかに記載された発明を主たる引用発明とし、申立人3の甲第72、51号証、及び申立人2の甲第19号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、その特許は同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由で採用した甲号証の記載事項

(1)申立人1提出の甲号証

甲第1号証:特許第4390177号公報(以下「甲S1」という。)
(段落【0044】?【0046】に記載された実施例1及び2のクリームの点。)
甲第2号証:特開2008-1654号公報(以下「甲S2」という。)
(段落【0027】?【0028】に記載された実施例1及び2並びに比較例1のクリームタイプの皮膚外用剤の点。)

(2)申立人2提出の甲号証

甲第1号証:特開2004-26677号公報(以下「甲I1」という。)
(段落【0022】?【0024】に記載された実施例8の皮膚外用剤の点。)
甲第2号証:特開2002-68955号公報(以下「甲I2」という。)
(段落【0025】?【0030】に記載された実施例11の水中油型乳化クリームの点。)
甲第4号証:特開2003-192563号公報(以下「甲I4」という。)
(段落【0041】?【0042】に記載された実施例17及び18の皮膚保護用含浸体の点。)
甲第6号証:国際公開第2011/055771号(以下「甲I6」という。)
(段落[0096]?[0097]に記載された処方例1の日焼け止め油中水型乳化クリームの点。)
甲第7号証:特開2008-143821号公報(以下「甲I7」という。)
(段落【0086】?【0087】に記載された実施例12のW/O型UVクリームの点。)
甲第8号証:特開2004-352641号公報(以下「甲I8」という。)
(段落【0040】?【0041】に記載された実施例5及び6のクリームの点。)
甲第9号証:特開2000-247866号公報(以下「甲I9」という。)
(段落【0066】に記載された実施例66の美白乳液の点。)
甲第10号証:特開2003-261435号公報(以下「甲I10」という。)
(段落【0106】に記載された処方例12のクリームの点。)
甲第11号証:特開2008-94723号公報(以下「甲I11」という。)
(段落【0051】に記載された実施例2の美容液の点。)
甲第12号証:特開2006-219450号公報(以下「甲I12」という。)
(段落【0019】?【0020】に記載された実施例1の皮膚外用剤及び段落【0027】に記載された実施例5の皮膚外用剤の点。)
甲第13号証:特開2006-219442号公報(以下「甲I13」という。)
(段落【0021】?【0022】に記載された実施例1の皮膚外用剤である乳液及び段落【0025】に記載された実施例3の皮膚外用剤である乳液の点。)
甲第15号証:2016年12月12日付けで協和界面科学株式会社技術部が作成した「受託測定報告書」、No.530557-3(以下「甲I15」という。)
甲第19号証:坂田 修,外5名,「グリチルレチン酸ステアリルの皮膚移行性に及ぼす油剤の影響」,日本薬学会第132年会要旨集,2012年3月5日,30E16-pm06(以下「甲I19」という。)

(3)申立人3提出の甲号証

甲第6号証:特開平2-138107号公報(以下「甲T6」という。)
(第3頁右下欄11行?第4頁左上欄5行に記載された実施例6のクリームの点。)
甲第7号証:特開平6-32728号公報(以下「甲T7」という。)
(段落【0017】?【0020】に記載された実施例3のクリームの点。)
甲第10号証:特開平10-273423号公報(以下「甲T10」という。)
(段落【0051】に記載された実施例9の乳液型頭髪用化粧料の点。)
甲第11号証:特開2001-163759号公報(以下「甲T11」という。)
(段落【0066】に記載された本発明品7及び12並びに比較品6のクリーム並びに段落【0105】に記載された実施例17のクリームの点。)
甲第12号証:特開2004-26677号公報(甲I1に同じ。以下「甲T12」ということがある。)
(段落【0022】?【0024】に記載された実施例8の皮膚外用剤の点。)
甲第17号証:特開2005-314366号公報(以下「甲T17」という。)
(段落【0122】?【0125】に記載された実施例130ないし132のリップケア、段落【0126】?【0127】に記載された実施例133のリンクルケア及び段落【0135】?【0136】に記載された実施例140のハンドケアの点。)
甲第23号証:特開2010-43032号公報(以下「甲T23」という。)
(段落【0077】に記載された製剤例3の化粧品クリームの点。)
甲第24号証:特開昭61-27914号公報(以下「甲T24」という。)
(第4頁右上欄に記載された実施例6の化粧料及び同頁左下欄11行?右下欄5行に記載された実施例8の化粧料の点。)
甲第26号証:特開2004-99564号公報(以下「甲T26」という。)
(段落【0015】?【0017】に記載された実施例1及び2の保湿化粧料の点。)
甲第27号証:特開2004-107262号公報(以下「甲T27」という。)
(段落【0027】に記載された実施例8のクリーム及び段落【0028】に記載された実施例9の美容オイルの点。)
甲第28号証:特開2004-292345号公報(以下「甲T28」という。)
(段落【0066】に記載された実施例4及び7のスキンケアシートの点。)
甲第30号証:特開2005-298370号公報(以下「甲T30」という。)
(段落【0043】?【0047】に記載された実施例1のクリーム及び段落【0058】に記載された実施例8の乳液の点。)
甲第31号証:特開2006-111596号公報(以下「甲T31」という。)
(段落【0019】に記載された製造例1のクリームの点。)
甲第32号証:特開2006-143656号公報(以下「甲T32」という。)
(段落【0031】?【0032】に記載された実施例5ないし7の抗老化美容液の点。)
甲第35号証:特開2006-213660号公報(以下「甲T35」という。)
(段落【0023】に記載された例3の乳液の点。)
甲第36号証:特開2006-219442号公報(甲I13に同じ。以下「甲T36」ということがある。)
(段落【0021】?【0022】に記載された実施例1の皮膚外用剤である乳液及び段落【0025】に記載された実施例3の皮膚外用剤である乳液の点。)
甲第37号証:特開2006-219450号公報(甲I12に同じ。以下「甲T37」ということがある。)
(段落【0019】?【0020】に記載された実施例1の皮膚外用剤及び段落【0027】に記載された実施例5の皮膚外用剤の点。)
甲第39号証:特開2006-306819号公報(以下「甲T39」という。)
(段落【0019】?【0020】に記載された実施例1及び2のシート状化粧料の点。)
甲第40号証:特開2007-1947号公報(以下「甲T40」という。)
(段落【0014】?【0016】に記載された処方例1及び2のクリームの点。)
甲第41号証:特開2007-197325号公報(以下「甲T41」という。)
(段落【0030】?【0034】に記載された実施例2及び3の皮膚化粧料の点。)
甲第43号証:特開2008-1654号公報(甲S2に同じ。以下「甲T43」ということがある。)
(段落【0027】?【0028】に記載された実施例1及び2並びに比較例1のクリームタイプの皮膚外用剤の点。)
甲第48号証:特開2003-342159号公報(以下「甲T48」という。)
(段落【0025】に記載された実施例15のエモリエントクリーム、段落【0026】に記載された実施例16の美容オイル及び段落【0032】に記載された実施例22の美容オイルの点。)
甲第49号証:特開2011-140442号公報(以下「甲T49」という。)
(段落【0050】に記載された応用例3のクリームの点。)
甲第51号証:特開2003-183117号公報(以下「甲T51」という。)
甲第72号証:特開2006-199623号公報(以下「甲T72」という。)

(4)主たる各甲号証に記載された発明

ア 甲S1、甲I1、甲I2、甲I6、甲I7、甲I8、甲I9、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11及び甲T17には、それぞれ、グリチルレチン酸ステアリル及びスクワランを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

イ 甲I4には、グリチルレチン酸ステアリル及び流動イソパラフィンとしてパールリームEXを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する皮膚保護用含浸体の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

ウ 甲T23には、アスタキサンチン及びスクワランを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する化粧品クリームの発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。

エ 甲S2、甲I10、甲I11、甲T24、甲T26、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、甲T32、甲T35、甲T39、甲T40及び甲T41には、それぞれ、コエンザイムQ10及びスクワランを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明(以下「引用発明4」という。)が記載されている。

オ 甲T48及び甲T49には、それぞれ、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びスクワランを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明(以下「引用発明5」という。)が記載されている。

カ 甲I12、甲I13及び甲T32には、それぞれ、グリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10並びにスクワランを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明(以下「引用発明6」という。)が記載されている。

キ 甲T48には、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びコエンザイムQ10並びにスクワランを質量比が1/(10?250)の範囲で含有する美容オイルの発明(以下「引用発明7」という。)が記載されている。

(5)その他の各甲号証の記載事項

ア 甲I15の記載事項
(甲I15ア)「1.概要・・・題目 20℃における油剤の表面張力測定・・・試料 1検体:炭化水素系油剤(表1参照)・・・測定条件 液体温度:20.0±0.2℃,解析方法:ペンダント・ドロップ法(ds/de法)・・・」(第2/2頁1?16行)

(甲I15イ)「

」(第2/2頁「1.概要」の項末尾)

(甲I15ウ)「

」(第2/2頁「3.結果」の項末尾)

イ 甲T72の記載事項
(甲T72ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、皮膚の清浄化及び保湿効果に優れ、且つ、使用感も良好な皮膚清浄化剤が存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の皮膚清浄化剤は、脂肪酸又はその可溶性塩と、油剤と、植物エキスを主成分とする保湿剤と、塩化物イオン、硫酸イオン、ケイ酸イオンを含有する酸性の温泉水とを主成分として含む第1剤と、金属塩と、保湿剤と、塩化物イオン、硫酸イオン、ケイ酸イオンを含有する酸性の温泉水とを主成分として含む第2剤とからなることを最も主要な特徴とする。」

(甲T72イ)「【0009】
すなわち、第1剤、第2剤が皮膚表面で反応し、不溶性の金属石鹸が生成され、金属石鹸による皮膚表面の汚垢が除去される。更に金属石鹸による殺菌作用により皮膚表面が清浄化する。同時に、植物エキスを主成分とする保湿剤により皮膚表面の保湿効果が発揮される。更に油剤の作用で、皮膚のしっとり感等も得られ感触が良好となる。
・・・
【0013】
すなわち、第1剤、第2剤が皮膚表面で反応し、不溶性の金属石鹸が生成され、金属石鹸による皮膚表面の汚垢が除去される。更に金属石鹸による殺菌作用により皮膚表面が清浄化する。同時に、植物エキス、スクワラン、グリセリン等の保湿剤により皮膚表面の保湿効果が発揮され、更に第1剤に含まれるオリーブ油、ジメチコン等の油剤の作用で、皮膚のしっとり感等も得られ感触が良好となる。」

(甲T72ウ)「【0016】
これら第1剤と、第2剤とを用いて生体の皮膚、例えば、顔面の皮膚の清浄化、保湿を行うには、まず、前記第1剤を顔面に塗布し、次いで前記第2剤を第1剤の塗布面上に塗布し、塗擦する。
詳述すると、前記第1剤を顔面に塗布し、次いで前記第2剤を第1剤の塗布面上に塗布し、塗擦し、すなわち、指先でパタパタとパッティングし、ほぼ30秒から50秒経過後、指の腹を使って軽くマッサージの要領で塗擦する。このとき、前記第1剤と第2剤が皮膚表面で混合されることで、柔らかい弱酸性の塊ができ、この塊状の物質を皮膚面上で上下、左右に転がすようにして塗擦することによって、皮膚表面の老化角質が当該塊状の物質に取り込まれ、汚れを除去して行くと同時に、第1剤、第2剤が保持しているマイナスイオン化された各種ミネラル分と各種保湿成分とが皮膚の中でも、特に電気抵抗が少ない部分いわゆる「ツボ」から皮膚内部に浸透して行き、最後に水又はお湯で洗顔して一連の過程が終了する。」

(甲T72エ)「【0021】
前記オリーブ油、BG、ジメチコンは油剤として、スクワラン、ベタイン、ヒアルロン酸Na、ローヤルゼリーエキスは保湿剤として各々機能する。」

(甲T72オ)「【0027】
前記保湿剤のうち、スクワランは、皮膚に対する浸透性を高め、べたつき感を無くし、感触を良好にするため配合する。皮膚への馴染みが良く、柔軟効果を発揮するものである。ベタインは、天然アミノ損(当審注:「アミノ損」は「アミノ酸」の誤記と認める。)の誘導体であり、皮膚の保湿効果があり、艶や潤いを与えるために配合する。肌に柔軟性、潤いを与える効果を発揮する。ヒアルロン酸Naは、強力で効果的な保湿効果があり、みずみずしい肌を保つ保湿成分である。保水力が高く、皮膚の弾力性を保持するために配合する。乾燥から肌を守り、キメの整った肌を維持し更には回復効果を発揮する。更に、ローヤルゼリーエキスは、血流促進、創傷治療促進、皮膚柔軟化、保湿の諸効果を発揮する。」

(甲T72カ)「【0036】
前記温泉水は、図1に示す成分組成及びpH値を有し、その泉質は、前記成分組成を有する酸性液であり、前記成分組成の他、硫黄、アルミニウム、硫酸塩泉の特性を有し、マイナスイオン化されたミネラル分が大量に含まれている。当該温泉水への入浴に伴い、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病、月経障害、神経痛、筋肉痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、打ち身、くじき、慢性消化器病、痔病、冷え性、病後回復、疲労回復、健康増進などの各種効能が期待でき、このことから、当該温泉水を本発明における第1剤として利用することにより、含有マイナスイオンが保湿成分を皮膚内部に浸透させる触媒として作用すると同時に、当該温泉水自体が皮膚表面の清浄化に寄与し、また皮膚内部への浸透による美容促進効果を発揮できる有効成分として機能させることが可能である。」

ウ 甲T51の記載事項
(甲T51ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、経皮吸収促進剤若しくは経皮吸収コントロール剤、及びこれを配合した皮膚外用剤に関する。さらに詳しくは、製剤中の水相もしくは水相領域近傍に存在し、特に皮膚への浸透性が低い水溶性有効成分を、特異的に皮膚内のターゲット部位へ効率的に貯留させ有効濃度を高めることによって、皮膚浸透促進することを特徴とする経皮吸収促進剤若しくは経皮吸収コントロール剤、及びこれを配合した皮膚外用剤に関する。」

(甲T51イ)「【0004】特に、皮膚を薬効成分の作用部位とする化粧料などの皮膚外用剤の場合、薬効成分をダイレクトに皮膚に浸透可能かつ、従来のように皮膚の薬効成分通過量を高めるのではなく、有効薬剤のターゲット部位である皮膚各部位での薬剤濃度を高めるような、経皮外用剤を用いることが好ましい。
【0005】しかしながら、そのような外用製剤においても、未だ十分な皮膚浸透効果が得られない場合が多く、満足できる状態とは言いがたい。すなわち、皮膚の最外層は角質層と呼ばれ、本来体外からの異物の侵入を防御するバリアー層としての生理的機能を有するものであるため、ただ単に従来外用製剤に常用されてきた基剤中に薬効成分を配合しただけでは、十分に皮膚内での薬剤濃度の向上は認められない。
【0006】これを改良するために、界面活性剤や油分等の低分子の経皮吸収促進剤を配合したり、あるいは、剤型としてパック、シートを用いることにより皮膚に対するオクルージョン効果を高めたりする方法が主なものとして挙げられる。」

(甲T51ウ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、低分子量の界面活性剤または油分からなる経皮吸収促進剤の使用は、角層間脂質を乱す、製剤上での制約がある、一過的性に皮膚透過量は増加するが皮内ターゲット部位での濃度の持続性がないため有効濃度を保つことができない、等の理由で、十分なものとは言いがたい。また、角層間脂質に対して影響が小さい高分子経皮吸収促進剤、特に水に不溶の油性の高分子経皮吸収促進剤は、水相中の薬剤とは相互作用しにくいため、水溶性薬剤の経皮への浸透促進には不適である。さらに、パック、シートは使用時の行動が制限される。」

エ 甲I19の記載事項
(甲I19ア)「【目的】グリチルレチン酸ステアリル(GS)は、・・・抗炎症成分として広く化粧品に汎用されている。しかしながら、GSの皮膚への移行性についてはほとんど報告がなされていない。そこで本研究では、GSを油剤に添加し、溶解または懸濁状態での皮膚移行に関して検討をおこなった。」(1?6行)

(甲I19イ)「【方法】GSを化粧品に用いる脂肪酸、脂肪酸エステル、流動パラフィン等の油剤中に2%w/v添加し、Yucatan micropig摘出皮膚に2mL/1.1cm^(2)(infinite)および10μL/cm^(2)(finite)適用した。一定時間適用後、角層・表皮、真皮に分離し、HPLCを用いて各部位に含まれるGSを定量した。また、実験に用いた油剤は、ペンダント・ドロップ法により表面張力を測定した。」(7?11行)

(甲I19ウ)「【結果・考察】GSは、infiniteではほとんど皮膚への移行が見られなかった。Finiteでは、油剤の種類により、GSの皮膚移行量に有意な差が見られた。GSの皮膚移行は分岐脂肪酸エステル類が高い傾向を示した。しかし、finiteにおいても真皮への移行はほとんど見られなかった。Finiteで得られたGS皮膚移行量のデータを用いて、実験に用いた油剤の粘度、表面張力、GSの溶解度、分子量などの物理化学的パラメーターとGS皮膚移行性との関連について重回帰分析をおこなった結果、GSの皮膚移行には基剤となる油剤の表面張力が関与していることが示唆された。GSの皮膚移行においては、基剤となる油剤の皮膚角層表面の皮溝や微細な凹凸への吸着が関与していることが推測される。」(12?20行)

3 判断

本件特許の請求項2は、上記第2で述べたとおり本件訂正が認められることにより、削除されたため、以下、本件訂正発明1、3ないし6に係る取消理由についての判断を示す。

(1)取消理由1及び2について

ア 本件特許の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。

(本ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚吸収性がよいとされる分子量500以下、かつLog P値1?3の範囲外の皮膚に浸透しにくい成分であっても、皮膚浸透性を高める手段があれば、より効果の高い皮膚外用剤や化粧料組成物が期待できる。」

(本イ)「【0006】
本発明者らは、皮膚浸透性が比較的低い有効成分の代表として、グリチルレチン酸ステアリルを物性の異なる流動パラフィン(分子量245?500)に分散し、皮膚浸透性への影響に関して検討を行った。そして、実験に用いた流動パラフィンの物理化学的性質と皮膚浸透性の関連について解析を行った結果、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚浸透には、流動パラフィンの表面張力の関与が大きいこと見出し、本発明を完成した。」

(本ウ)「【0027】
本発明者らの検討によると、少なくともグリチルレチン酸ステアリルおよびグリチルレチン酸ステアリルと分子量およびLog P値が近似する蛍光色素DiI(1,1’-Dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindo-carbocyanine perchlorate、分子量:834.41、Log P値:23.2)は、同時に用いる炭化水素油の表面張力が皮膚への浸透度に影響したが、分子量が318.37であり、Log P値が3.8である蛍光色素Nile Red(9-(Diethylamino)-5H-benzo[a]phenoxazin-5-one)は、同時に用いる炭化水素油の表面張力は皮膚への浸透度に影響しなかった。したがって、表面張力を指標とした基剤となる油剤の選択は、分配係数が特定の範囲内にある皮膚有効成分に対して特に有効であり、また基剤となる油剤の表面張力の寄与は、有効成分の皮膚移行に際して皮膚角層表面の皮溝や微細な凹凸への吸着にとどまらないことが推測される。」

(本エ)「【0029】
本発明においては、炭化水素油(成分(B))は、皮膚有効成分(成分(A))の皮膚への浸透が促進される量、すなわち成分(A)の皮膚浸透促進上有効量で用いられる。本発明者らの検討によると、グリチルレチン酸ステアリルを2%w/v(≒2質量%)となるように成分(B)に懸濁して用いた場合に、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚浸透性を十分に促進した。したがって、成分(A)/成分(B)の質量比は、1/(10?250)であれば、有効に成分(A)の浸透を促進することができると考えられ、1/(15?250)であることが好ましく、1/(25?250)であることがより好ましい。」

(本オ)「【実施例】
【0035】
以下に、本発明の皮膚浸透促進剤の作用を評価するための試験例を挙げて、本発明をさらに詳細に記述するが、本発明はこれらになんら限定されるものではない。
【0036】
〔皮膚浸透性に及ぼす因子の検討〕
1. 方法
香粧会誌,31(1),1-7(2007)記載の藤井らの方法に従い、Yucatan micropig (YMP)皮膚(日本チャールズリバー)の皮下組織及び皮下脂肪を取り除いた後、この皮膚をフランツ型セルにセットし、グリチルレチン酸ステアリル(GS)を2%w/vの濃度で流動パラフィンに懸濁したものを、 2.5μL/cm^(2)で適用した。
【0037】
24時間経過後、皮膚を、表皮、真皮、および角層の3つに分離し、HPLCにて、各部位に含まれるGSをそれぞれ定量した。この実験については、「OECD In vitro 経皮吸収試験法」、「局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドライン」を参考にして実施した。
【0038】
流動パラフィンの粘度測定は、Viscometer SV-10 (A&D)を用いて32 ℃で実施し、表面張力は、Dropmaster DM-500(協和界面科学社製)を用いてペンダント・ドロップ法(ds/de method、20 ℃)により測定した。
【0039】
DiI(1,1'-Dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindo-carbocyanine perchlorate)およびNile Red(9-(Diethylamino)-5H-benzo[a]phenoxazin-5-one)の皮膚浸透評価は、資料溶液2.5 μL/cm^(2) に0.1%w/vでDiIまたは Nile Redを含ませ、2時間吸収させた後に、CLSM (Olympus, FV-1000)で観察することにより行った。これらの分子量およびLog Pを下表に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
2.結果
(1)流動パラフィン
評価に用いた流動パラフィン(カネダ株式会社製)の物理化学パラメータを下表に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
(2)YMP皮膚へのGSの浸透量
結果を、図1に示した。流動パラフィンの分子量が小さくなるに従ってGSの皮膚移行量が増加した。
【0044】
(3)多重回帰分析
GS皮膚移行量と、実験に用いた流動パラフィンの粘度、表面張力及び分子量との関連について、ソフトウエア(JMP 9.03 (SAS Institute Japan)、解析モード:Stepwise method)を用いて、分子量、粘度、および表面張力それぞれについて回帰分析を行った。その結果、表面張力について、高い相関がみられた。解析結果を下表にまとめた。
【0045】
【表4】

【0046】
GSの皮膚移行には流動パラフィンの表面張力の関与が最も大きいことが示された。
【0047】
(4)を用いたYMP皮膚への浸透深さの評価
DiIについての結果を図2に、およびNile Redについての結果を図3に示した。GSの場合と同様、分子量、Log P値が大きいDiIを用いた場合、流動パラフィンの分子量が大きくなると、DiIの浸透深さは、減少した。しかしながら、分子量、Log P値が小さいNile Redに関しては、流動パラフィンの分子量とNile Redの皮膚への浸透深さとの間に相関はみられなかった。
【0048】
流動パラフィンの表面張力が、グリチルレチン酸ステアリルをはじめとする分子量、Log P値が大きい有効成分の皮膚浸透性において、重要な役割を果たすことが示唆された。」

(本カ)【図1】




(本キ)【図2】




(本ク)「【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】流動パラフィンの種類による角層及び/又は表皮へ浸透したグリチルレチン酸ステアリルの量。異なる物理化学的性質を有する流動パラフィンに、2%w/vとなるようにグリチルレチン酸ステアリルを懸濁し、YMP皮膚へ2.5μL/cm^(2)で適用し、24時間後の浸透量を評価した。
【図2】流動パラフィンの種類による角層及び/又は表皮へ浸透したDiI量。異なる物理化学的性質を有する流動パラフィンに、0.1%w/vとなるようにDiIを溶解してYMP皮膚へ適用し、2時間後に評価した。(a)写真、(b)浸透量。」

(本ケ)「【0049】
〔化粧料組成物の調製例〕
美容オイル
以下の組成の美容オイルを、以下の製造方法に従って調製した。
(成分) (質量%)
1.グリチルレチン酸ステアリル 0.5
2.流動パラフィン(表面張力27.6mN/m) 10.0
3.イソノナン酸イソトリデシル 5.0
4.ジメチルポリシロキサン 5.0
5.天然ビタミンE 0.1
6.ホホバ油 残量
【0050】
(製造方法)
A:成分3に成分1を溶解する
B:成分2、4?6を均一溶解後、Aを加え、美容オイルを得た。」

イ 上記(本ア)の記載によれば、本件訂正発明1の解決しようとする課題は、皮膚吸収性がよいとされる分子量500以下、かつLog P値1?3の範囲外の皮膚に浸透しにくい皮膚有効成分の皮膚浸透性を高めた、より効果の高い皮膚外用剤及び化粧料組成物を提供することにあると認められる。
そして、本件訂正発明1は、皮膚外用剤または化粧料組成物において、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分であって、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルからなる群より選択される一以上である成分(A)と、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンである成分(B)との質量比、成分(A)/成分(B)が、1/(10?250)であることを特定している。

ウ 上記(本オ)、(本カ)及び(本ク)には、グリチルレチン酸ステアリルを2%w/vの濃度で表面張力の異なる複数の流動パラフィンA?Fに懸濁したもの、すなわち、成分(A)/成分(B)の質量比が約1/50である場合について、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚浸透量を測定したことが記載されている。この測定の結果によれば、表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンA?Cの場合は、表面張力が29.5mN/mより大きい流動パラフィンD?Fの場合よりもグリチルレチン酸ステアリルの皮膚浸透量が多いことが示されており、成分(A)/成分(B)の質量比が約1/50の場合については、本件訂正発明1の解決しようとする課題を解決することができるものと理解することができる。

エ 発明の詳細な説明には、質量比、成分(A)/成分(B)が約1/50以外の場合に、実際に皮膚有効成分の皮膚浸透性が高められたことを示す記載はなく、質量比、成分(A)/成分(B)が皮膚有効成分の皮膚浸透性に与える影響について説明する記載もない。

オ しかしながら、上記(本ウ)、(本オ)、(本キ)及び(本ク)には、皮膚有効成分ではないものの、分子量が834.4であり、かつ分配係数Log P値が23.2である蛍光色素DiIを0.1%w/vとなるように流動パラフィンに溶解したもの、すなわち蛍光色素DiI/流動パラフィンの質量比が約1/1000の場合について、表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンA?Cの場合は、表面張力が29.5mN/mより大きい流動パラフィンEの場合よりも蛍光色素DiIの皮膚浸透量が多いことが示されている。
してみると、成分(A)/成分(B)の質量比が約1/50の場合よりも成分(B)の割合が大きい、成分(A)/成分(B)の質量比が1/50?1/250の範囲においても、成分(A)の皮膚浸透性を高める効果が一定程度は奏されるものと認められる。

カ また、上記(本ケ)には、化粧料組成物の調製例として、グリチルレチン酸ステアリルと流動パラフィン(表面張力27.6mN/m)とを質量比1/20で配合した美容オイルが記載されている。
上記美容オイルは、本件訂正発明1の実施例であると認められることから、質量比、成分(A)/成分(B)が1/20の場合にも、成分(A)の皮膚浸透性を高める効果が一定程度は奏されるものと認められる。
流動パラフィンがグリチルレチン酸ステアリル等の皮膚有効成分の皮膚浸透性を高める機能を有するものであることから、皮膚有効成分に対する流動パラフィンの割合が減少すると、皮膚有効成分の皮膚浸透量も減少するものと推測されるが、質量比、成分(A)/成分(B)が1/10の場合であっても、流動パラフィンは皮膚有効成分の10倍量含まれており、皮膚浸透性を高める効果が一定程度は奏されるものと認められる。

キ そして、(本エ)の記載によれば、質量比、成分(A)/成分(B)の範囲1/(10?250)が、臨界的意義を有する範囲を意味するものとは認められないことから、質量比、成分(A)/成分(B)が1/(10?250)の範囲である場合に奏する効果が、当該範囲外の質量比の場合の効果と比較して、格別に優れたものであることを要するものではない。

ク 以上のことから、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、質量比、成分(A)/成分(B)が1/(10?250)の範囲において、成分(A)の皮膚浸透性を高める効果が一定程度は奏されること、すなわち、本件訂正発明1の解決しようとする課題を解決することができるものと理解することができる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
また、本件訂正発明1が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
よって、取消理由1及び2によって本件訂正発明1に係る特許を取り消すことはできない。

ケ 本件訂正発明3は、成分(A)について本件訂正発明1を更に限定したものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、取消理由1及び2によって本件訂正発明3に係る特許を取り消すことはできない。

コ 申立人1ないし3は、それぞれの意見書において、特許権者が乙第1号証として提出した実験成績証明書は、実施可能要件及びサポート要件の判断において考慮されるべきではない旨主張している。
しかしながら、上記のとおり、上記乙第1号証の内容を考慮しなくとも、取消理由1及び2によって本件訂正発明1及び3に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由3について

ア 本件訂正発明1について

(ア)本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、両者は以下の相違点1において相違する。

(相違点1)
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明1においては「スクワラン」である点。

上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は引用発明1と同一ではない。

(イ)本件訂正発明1と引用発明2とを対比すると、両者は以下の相違点2において相違する。

(相違点2)
本件訂正発明1は、「温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン」を含有するのに対し、引用発明2は「流動イソパラフィンとしてパールリームEX」を含有する点。

甲I15の「1.概要・・・題目 20℃における油剤の表面張力測定・・・試料 1検体:炭化水素系油剤(表1参照)・・・測定条件 液体温度:20.0±0.2℃,解析方法:ペンダント・ドロップ法(ds/de法)・・・」(甲I15ア)、「表1 試料特性 ・・・/ 一般名 水添ポリイソブテン / 原料名 パールリームEX / 製造元 日油(株) /・・・」(甲I15イ)、及び「表2 測定結果 単位:mN/m ・・・/ 試料 水添ポリイソブテン /・・・ / 平均値 Avg. 27.3 /・・・」(甲I15ウ)との記載によれば、日油(株)製のパールリームEXは、20℃における表面張力が27.3mN/mであると認められる。
そして、甲I4に記載された日本油脂(株)製:パールリームEXと甲I15に記載された日油(株)製のパールリームEXとは、同一製品であると認められることから、甲I4に記載された流動イソパラフィンである日本油脂(株)製:パールリームEXは、20℃における表面張力が27.3mN/mの流動イソパラフィンであるといえる。
そうすると、甲I15の記載事項を考慮しても、本件訂正発明1と引用発明2とは、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明2においては「流動イソパラフィン」である点において実質的に相違する。
よって、本件訂正発明1は引用発明2と同一ではない。

(ウ)本件訂正発明1と引用発明3とを対比すると、両者は以下の相違点3において相違する。

(相違点3)
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明1においては「スクワラン」である点。

上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は引用発明3と同一ではない。

(エ)本件訂正発明1と引用発明4とを対比すると、両者は以下の相違点4において相違する。

(相違点4)
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明4においては「スクワラン」である点。

上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は引用発明4と同一ではない。

(オ)本件訂正発明1と引用発明5とを対比すると、両者は以下の相違点5において相違する。

(相違点5)
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明5においては「スクワラン」である点。

上記相違点5は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は引用発明5と同一ではない。

(カ)本件訂正発明1と引用発明6とを対比すると、両者は以下の相違点6において相違する。

(相違点6)
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明5においては「スクワラン」である点。

上記相違点6は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は引用発明6と同一ではない。

(キ)本件訂正発明1と引用発明7とを対比すると、両者は以下の相違点7において相違する。

(相違点7)
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、本件訂正発明1においては「流動パラフィン」であるのに対し、引用発明7においては「スクワラン」である点。

上記相違点7は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は引用発明7と同一ではない。

(ク)小括

以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48又は甲T49に記載された発明ではない。
したがって、取消理由3によって本件訂正発明1に係る特許を取り消すことはできない。

イ 本件訂正発明3について

本件訂正発明3は、成分(A)について本件訂正発明1を更に限定したものであるから、本件訂正発明1と同様に、引用発明1ないし4、及び6と同一ではない。

よって、取消理由3によって本件訂正発明3に係る特許を取り消すことはできない。

ウ 本件訂正発明5について

甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48及び甲T49には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていないから、本件訂正発明5は、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48又は甲T49に記載された発明ではない。

よって、取消理由3によって本件訂正発明5に係る特許を取り消すことはできない。

エ 本件訂正発明6について

(ア)甲S1、甲I1、甲I2、甲I6、甲I7、甲I8、甲I9、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11及び甲T17には、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を促進する目的でグリチルレチン酸ステアリルとスクワランとを併用することは記載されていないから、甲S1、甲I1、甲I2、甲I6、甲I7、甲I8、甲I9、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11及び甲T17の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するグリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を促進するための剤としてのスクワランの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲S1、甲I1、甲I2、甲I6、甲I7、甲I8、甲I9、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11又は甲T17に記載された発明ではない。

(イ)甲I4には、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を促進する目的でグリチルレチン酸ステアリルと流動イソパラフィンであるパールリームEXとを併用することは記載されていないから、甲I4の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するグリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を促進するための剤としての流動イソパラフィンであるパールリームEXの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲I4に記載された発明ではない。

(ウ)甲T23には、アスタキサンチンの皮膚への浸透を促進する目的でアスタキサンチンとスクワランとを併用することは記載されていないから、甲T23の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するグリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を促進するための剤としてのスクワランの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲T23に記載された発明ではない。

(エ)甲S2、甲I10、甲I11、甲T24、甲T26、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、甲T32、甲T35、甲T39、甲T40及び甲T41には、コエンザイムQ10の皮膚への浸透を促進する目的でコエンザイムQ10とスクワランとを併用することは記載されていないから、甲S2、甲I10、甲I11、甲T24、甲T26、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、甲T32、甲T35、甲T39、甲T40及び甲T41の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するコエンザイムQ10の皮膚への浸透を促進するための剤としてのスクワランの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲S2、甲I10、甲I11、甲T24、甲T26、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、甲T32、甲T35、甲T39、甲T40又は甲T41に記載された発明ではない。

(オ)甲T48及び甲T49には、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を促進する目的でテトラヘキシルデカン酸アスコルビルとスクワランとを併用することは記載されていないから、甲T48及び甲T49の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するテトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を促進するための剤としてのスクワランの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲T48又は甲T49に記載された発明ではない。

(カ)甲I12、甲I13及び甲T32には、グリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透を促進する目的でグリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10とスクワランとを併用することは記載されていないから、甲I12、甲I13及び甲T32の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するグリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透を促進するための剤としてのスクワランの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲I12、甲I13又は甲T32に記載された発明ではない。

(キ)甲T48には、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透を促進する目的でテトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びコエンザイムQ10とスクワランとを併用することは記載されていないから、甲T48の記載から、本件訂正発明6の発明特定事項に関連するテトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透を促進するための剤としてのスクワランの用途を認識することはできない。
よって、本件訂正発明6は、甲T48に記載された発明ではない。

(ク)小括

以上のとおりであるから、取消理由3によって本件訂正発明6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由4について

ア 本件訂正発明4について

事案に鑑み、最初に本件訂正発明4について検討する。

(ア)甲S1、甲I1、甲I2、甲I6、甲I7、甲I8、甲I9、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11及び甲T17には、それぞれ、グリチルレチン酸ステアリル及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(イ)甲I4には、グリチルレチン酸ステアリル及び流動イソパラフィンとしてパールリームEXを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を流動イソパラフィンとしてのパールリームEXを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(ウ)甲T23には、アスタキサンチン及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、アスタキサンチンの皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(エ)甲S2、甲I10、甲I11、甲T24、甲T26、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、甲T32、甲T35、甲T39、甲T40及び甲T41には、それぞれ、コエンザイムQ10及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、コエンザイムQ10の皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(オ)甲T48及び甲T49には、それぞれ、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(カ)甲I12、甲I13及び甲T32には、それぞれ、グリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10並びにスクワランを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(キ)甲T48には、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びコエンザイムQ10並びにスクワランを同時に用いることは記載されているが、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。

(ク)そこで、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を、これらとスクワラン又は流動イソパラフィンを同時に用いることにより促進することが、想到容易であるかについて検討する。

(ケ)甲T72には、(甲T72オ)に「前記保湿剤のうち、スクワランは、皮膚に対する浸透性を高め・・・るため配合する。」との記載があるが、スクワランが皮膚に対する何の浸透性を高めるのかについては、明記されていない。
そして、甲T72には、皮膚に対する浸透に関して、(甲T72ウ)に「第1剤、第2剤が保持しているマイナスイオン化された各種ミネラル分と各種保湿成分とが皮膚の中でも、特に電気抵抗が少ない部分いわゆる「ツボ」から皮膚内部に浸透して行き」と、(甲T72カ)に「当該温泉水を本発明における第1剤として利用することにより、含有マイナスイオンが保湿成分を皮膚内部に浸透させる触媒として作用する」と、保湿成分が皮膚に浸透することが記載されていることから、(甲T72オ)の「前記保湿剤のうち、スクワランは、皮膚に対する浸透性を高め」とは、保湿剤であるスクワラン自体の皮膚に対する浸透性に関する記載であると理解するのが相当である。
そうすると、甲T72には、スクワランが他の成分の皮膚への浸透を促進する機能を有していることが記載されているとはいえない。

(コ)甲T51には、「皮膚を薬効成分の作用部位とする化粧料などの皮膚外用剤の場合、薬効成分をダイレクトに皮膚に浸透可能かつ、従来のように皮膚の薬効成分通過量を高めるのではなく、有効薬剤のターゲット部位である皮膚各部位での薬剤濃度を高めるような、経皮外用剤を用いることが好ましい。」(甲T51イ【0004】)、「しかしながら、そのような外用製剤においても、未だ十分な皮膚浸透効果が得られない場合が多く、満足できる状態とは言いがたい。」(甲T51イ【0005】)、「これを改良するために、界面活性剤や油分等の低分子の経皮吸収促進剤を配合・・・する方法が主なものとして挙げられる。」(甲T51イ【0006】)、「しかしながら、低分子量の界面活性剤または油分からなる経皮吸収促進剤の使用は、角層間脂質を乱す、製剤上での制約がある、一過的性に皮膚透過量は増加するが皮内ターゲット部位での濃度の持続性がないため有効濃度を保つことができない、等の理由で、十分なものとは言いがたい。」(甲T51ウ【0007】)との記載がある。
これらの記載から、甲T51には、経皮外用剤の皮膚浸透効果を改良するために、油分等の低分子の経皮吸収促進剤を配合することが知られているが、そのような経皮吸収促進剤の使用は、角層間脂質を乱すなどの理由で満足できるものではないことが記載されているといえる。
そうすると、甲T51には、低分子の油分を経皮吸収促進剤として使用することを動機付ける記載があるとはいえない。

(サ)甲I19には、「GS(当審注:グリチルレチン酸ステアリル)を化粧品に用いる脂肪酸、脂肪酸エステル、流動パラフィン等の油剤中に2%w/v添加し、Yucatan micropig摘出皮膚に・・・10μL/cm^(2)(finite)適用し・・・一定時間適用後、角層・表皮、真皮に分離し、HPLCを用いて各部位に含まれるGSを定量した。」(甲I19イ)、「・・・Finiteでは、油剤の種類により、GSの皮膚移行量に有意な差が見られた。GSの皮膚移行は分岐脂肪酸エステル類が高い傾向を示した。」(甲I19ウ)との記載がある。
甲I19の上記記載によれば、甲I19には、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚移行を高める観点において、化粧品に用いる脂肪酸、脂肪酸エステル、流動パラフィン等の油剤の中では、分岐脂肪酸エステル類が優れていることが記載されているといえる。
また、甲I19には、「Finiteで得られたGS皮膚移行量のデータを用いて、実験に用いた油剤の粘度、表面張力、GSの溶解度、分子量などの物理化学的パラメーターとGS皮膚移行性との関連について重回帰分析をおこなった結果、GSの皮膚移行には基剤となる油剤の表面張力が関与していることが示唆された。」(甲I19ウ)との記載もあるが、グリチルレチン酸ステアリルと油剤の表面張力との具体的な関係性については明記されていない。
そうすると、甲I19に接した当業者であれば、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚移行を高めるために、油剤として分岐脂肪酸エステル類を使用することを想起するとしても、脂肪酸や流動パラフィン等の他の油剤の使用を試みることを動機付けられるとは認められない。

(シ)上記(ケ)ないし(サ)によれば、甲T72、甲T51及び甲I19に接した当業者といえども、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を、これらとスクワラン又は流動イソパラフィンを同時に用いることにより促進することを、容易に想到することができたとはいえない。

(ス)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明4は、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48又は甲T49に記載された発明、並びに、甲T72、甲T51及び甲I19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由4によって本件訂正発明4に係る特許を取り消すことはできない。

イ 本件訂正発明1について

上記(2)アで示したように、本件訂正発明1と引用発明1なしい7とは、それぞれ上記相違点1ないし7において相違する。
そこで、上記相違点1ないし7に係る本件訂正発明1の構成が想到容易であるかについて検討するに、甲T72、甲T51及び甲I19には、スクワラン又は流動イソパラフィンに代えて温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンを採用することを示唆する記載はなく、引用発明1ないし7において、スクワラン又は流動イソパラフィンに代えて温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンを採用する動機付けがあるとはいえない。
よって、本件訂正発明1は、引用発明1なしい7のいずれか、並びに、甲T72、甲T51及び甲I19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由4によって本件訂正発明1に係る特許を取り消すことはできない。

ウ 本件訂正発明3について

本件訂正発明3は、成分(A)について本件訂正発明1を更に限定したものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、引用発明1ないし4、6及び7のいずれか、並びに、甲T72、甲T51及び甲I19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由4によって本件訂正発明3に係る特許を取り消すことはできない。

エ 本件訂正発明5について

上記(2)ウで示したように、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48及び甲T49には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていない。また、当該事項を示唆する記載もない。
また、甲T72、甲T51及び甲I19にも、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていないし、当該事項を示唆する記載もない。
よって、本件訂正発明5は、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48又は甲T49に記載された発明、並びに、甲T72、甲T51及び甲I19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由4によって本件訂正発明5に係る特許を取り消すことはできない。

オ 本件訂正発明6について

上記(2)エで示したように、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48及び甲T49には、本件訂正発明6の発明特定事項に関連する、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を促進する目的で、これらとスクワラン又は流動イソパラフィンとを併用することは記載されていない。また、当該事項を示唆する記載もない。
また、甲T72、甲T51及び甲I19にも、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を促進する目的で、これらとスクワラン又は流動イソパラフィンとを併用することは記載されていないし、当該事項を示唆する記載もない。
そうすると、スクワラン又は流動イソパラフィンを、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、又はテトラヘキシルデカン酸アスコルビルの皮膚への浸透を促進するための剤とすることの動機付けがあるとは認められない。
よって、本件訂正発明6は、甲S1、甲S2、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし13、甲T6、甲T7、甲T10、甲T11、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし28、甲T30ないし32、甲T35、甲T39ないし41、甲T48又は甲T49に記載された発明、並びに、甲T72、甲T51及び甲I19に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由4によって本件訂正発明6に係る特許を取り消すことはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

本件特許の請求項2は、上記第2で述べたとおり本件訂正が認められることにより、削除されたため、以下、本件訂正発明1、3ないし6に係る特許異議申立理由についての判断を示す。

1 申立人1の特許異議申立理由について

(1)申立人1は、証拠方法として、上記甲S1及び甲S2に加えて、従たる証拠として以下の甲第3号証ないし甲第7号証を提出し、意見書提出時に、以下の参考資料1を追加提出している。

甲第3号証:特開昭48-67443号公報(以下「甲S3」という。)
甲第4号証:Journal of Physical Chemistry A,2009,Vol.113,No.26,p.7647-7653(以下「甲S4」という。)
甲第5号証:Pubchem OPEN CHEMISTRY DATABASE,Stearyl Glycyrrhetinateの項,<URL:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/10700068>(以下「甲S5」という。)
甲第6号証:Pubchem OPEN CHEMISTRY DATABASE,SQUALANEの項,<URL:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/8089>(以下「甲S6」という。)
甲第7号証:Pubchem OPEN CHEMISTRY DATABASE,Coenzyme Q10の項,<URL:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/5281915>(以下「甲S7」という。)
参考資料1:特表2008-520735号公報(以下「参S1」という。)

(2)特許法第29条第1項第3号に係る特許異議申立理由について

ア 申立人1は、特許異議申立書において、本件特許の請求項4に係る発明は、甲S1及び甲S2に記載された発明である旨主張している。
しかしながら、上記第4の3(3)ア(ア)で述べたように、甲S1には、グリチルレチン酸ステアリル及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。また、上記第4の3(3)ア(エ)で述べたように、甲S2には、コエンザイムQ10及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、コエンザイムQ10の皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。
よって、本件訂正発明4は、甲S1又は甲S2に記載された発明であるとはいえないから、申立人1の上記主張は理由がない。

イ 申立人1は、意見書において、参S1に記載された、アスタキサンチンを含むキサントフィル類の皮膚への浸透性を改良する浸透促進剤の例示の中に、オリーブスクワランが含まれていることを根拠に、本件訂正発明6は、甲S1及び甲S2に記載された発明である旨主張している。
しかしながら、上記意見書と同時に提出された参S1は、本件訂正に付随して必要となった証拠であるとは認められないから、申立人1の上記主張は採用できない。

(3)特許法第29条第2項に係る特許異議申立理由について

ア 申立人1は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲S1又は甲S2に記載された発明、及び甲S3ないし甲S7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

(ア)本件訂正発明1及び3について

本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
これに対し、甲S3ないし甲S7には、甲S1及び甲S2に記載された発明において、「スクワラン」を「流動パラフィン」に変更することを動機付ける記載はない。
よって、申立人1の上記主張は理由がない。

(イ)本件訂正発明4及び6について

甲S3には、「天然の皮脂が皮膚へのなじみがよいのは当然であるが、天然の皮脂のような良好な油を得るには、その油は次のような要件を備えるものでなければならない。・・・(2)表面張力 皮膚の臨界表面張力は26.8dyne/cmであるので、これ以下であれば皮膚面での油の広がりは良好となり得る。」(第1頁右下欄10行?第2頁左上欄1行)と記載されている。
しかしながら、甲S3の上記記載は油の皮膚面での広がりに関するものであり、他の成分の皮膚への浸透に関するものではないから、当該記載から、表面張力が26.8dyne/cm以下である油が、他の成分の皮膚への浸透を促進する効果を奏することを想起し得るとは認められない。
また、甲S4ないし甲S7にも、表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、他の成分の皮膚への浸透を促進する効果を奏することを想起させるような記載はない。
よって、申立人1の上記主張は理由がない。

(ウ)本件訂正発明5について

甲S3ないし甲S7には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていない。
よって、申立人1の上記主張は理由がない。

イ 申立人1は、意見書において、本件訂正発明1ないし6は、甲S1又は甲S2に記載された発明、参S1に記載された事項、及び甲S3ないし甲S5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
しかしながら、上記意見書と同時に提出された参S1は、本件訂正に付随して必要となった証拠であるとは認められないから、申立人1の上記主張は採用できない。

(4)特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に係る特許異議申立理由について

ア 申立人1は、特許異議申立書において、以下の旨主張している。
本件特許の発明の詳細な説明には、成分(B)として流動パラフィンの他、イソドデカン、イソヘキサデカン、水添ポリイソブテン、スクワラン、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテン等が例示されているが、これらの炭化水素油については、皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進することの具体的な裏付けを欠いており、成分(A)の皮膚への浸透が促進されることを合理的に予測できない。

(ア)本件訂正発明1及び3について

本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
よって、申立人1の上記主張は理由がない。

(イ)本件訂正発明4ないし6について

成分(B)の炭化水素油には構造等が異なる複数の炭化水素油が包含されるものの、表面張力が29.5mN/m以下に特定されていることから、成分(B)の炭化水素油は分子量等が特定の範囲のものに限定され、また、炭化水素油は炭素と水素のみから構成されていること、流動パラフィンの構造は特定の構造のものに限定されないことから、他の炭化水素油についても、成分(A)の皮膚への浸透促進に関して流動パラフィンと類似の性質を有するものと推測される。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、流動パラフィン以外の炭化水素油について、皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進することの裏付けを欠いているとまではいえない。
よって、申立人1の上記主張は理由がない。

イ 申立人1は、意見書において、本件特許の発明の詳細な説明には、グリチルレチン酸ステアリル以外の皮膚有効成分と炭化水素油との組合せの場合に、皮膚浸透性が発揮されると認識できることの合理的な根拠となる記載はない旨主張している。

(ア)皮膚有効成分について

特許異議申立書において申立人1も認めているように、本件特許の発明の詳細な説明には、皮膚有効成分ではないものの、分子量が834.4であり、かつ分配係数Log P値が23.2である蛍光色素DiIを0.1%w/vとなるように流動パラフィンに溶解したもの、すなわち蛍光色素DiI/流動パラフィンの質量比が約1/1000の場合について、蛍光色素DiIの皮膚浸透量を調べた結果、表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンA?Cの場合は、表面張力が29.5mN/mより大きい流動パラフィンEの場合よりも蛍光色素DiIの皮膚浸透量が多かったことが記載されている(上記(本ウ)、(本オ)、(本キ)及び(本ク)参照。)。
グリチルレチン酸ステアリルとは構造等が異なるが、分子量及び分配係数Log P値が同程度である蛍光色素DiIについて、表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンの場合に皮膚浸透量が多かったことが記載されていることから、分子量及び分配係数Log P値が同程度である他の皮膚有効成分についても、表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンにより皮膚浸透量が増加することが推測される。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、グリチルレチン酸ステアリル以外の皮膚有効成分の場合に、皮膚浸透性が発揮されると認識できることの合理的な根拠となる記載がないとまではいえない。

(イ)炭化水素油について

炭化水素油の種類については、上記ア(イ)で述べたとおりである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を総合すると、グリチルレチン酸ステアリル以外の皮膚有効成分と炭化水素油との組合せについても、本件特許の発明の詳細な説明には、皮膚浸透性が発揮されると認識できることの合理的な根拠となる記載がないとまではいえない。
よって、申立人1の上記主張は理由がない。

2 申立人2の特許異議申立理由について

(1)申立人2は、証拠方法として、上記甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし甲I13、甲I15及び甲I19に加えて、主たる証拠として以下の甲第3号証及び甲第5号証、従たる証拠として以下の甲第14号証、甲第16号証ないし甲第18号証を提出し、意見書提出時に、以下の甲第20号証ないし甲第25号証を追加提出している。

甲第3号証:特開2003-96304号公報(以下「甲I3」という。)
甲第5号証:特開2007-277142号公報(以下「甲I5」という。)
甲第14号証:2016年12月12日付けで協和界面科学株式会社技術部が作成した「受託測定報告書」、No.530557-2(以下「甲I14」という。)
甲第16号証:2016年12月12日付けで協和界面科学株式会社技術部が作成した「受託測定報告書」、No.530557-6(以下「甲I16」という。)
甲第17号証:2017年1月17日付けで協和界面科学株式会社技術部が作成した「受託測定報告書」、No.531466(以下「甲I17」という。)
甲第18号証:改訂日2016年3月11日付けで株式会社成和化成製造管理部薬事管理課が作成した商品名SIMULGEL EGの「全成分名称通知書」(以下「甲I18」という。)
甲第20号証:特開2013-147442号公報(以下「甲I20」という。)
甲第21号証:カネダ株式会社,「ハイコールK-230」「製品規格及び代表性状」,[online],[検索日2018.2.26],インターネット<URL:https://whitemineraloil.kaneda.co.jp/wmo_k.html>,<URL:https://whitemineraloil.kaneda.co.jp/images/k_230.pdf>(以下「甲I21」という。)
甲第22号証:特開2003-95984号公報(以下「甲I22」という。)
甲第23号証:特開2003-96304号公報(以下「甲I23」という。ただし、甲I3と同じ。)
甲第24号証:特開平7-223922号公報(以下「甲I24」という。)
甲第25号証:特開平6-239918号公報(以下「甲I25」という。)

(2)特許法第29条第1項第3号に係る特許異議申立理由について

ア 申立人2は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲I3及び甲I5に記載された発明である旨主張している。

(ア)甲I3に基づく新規性について

甲I3の【0033】には、実施例14として、流動パラフィン(CRYSTOL70)を30.0質量%、スクワランを6.0質量%、グリチルレチン酸ステアリルを0.3質量%の割合で含む、皮膚用油性ローション基剤(以下「甲I3発明」という。)が記載されている。
申立人2は、甲I16の記載を根拠に、甲I3発明の流動パラフィン(CRYSTOL70)とスクワランとを合計したものは、本件特許に係る成分(B)に相当する旨主張しているが、甲I16に記載された流動パラフィンとスクワランとの混合物の表面張力は29.8mN/mであり、29.5mN/m以下の条件を満たしていないから、本件訂正発明1、3ないし6は、甲I3に記載された発明ではない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

(イ)甲I5に基づく新規性について

甲I5の【0029】には、実施例4として、SIMULGEL EG(商品名) SEPPIC社製を2.5質量%、スクワランを3.0質量%、グリチルリチン酸ステアリルを0.1質量%の割合で含む、ハンドクリーム(以下「甲I5発明」という。)が記載されている。
そして、申立人2は、甲I18の記載を根拠に、甲I5発明のSIMULGEL EG(商品名) SEPPIC社製は、イソヘキサデカンを20?25%含んでいる旨主張している。

a 本件訂正発明1及び3について

本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
よって、本件訂正発明1及び3は甲I5に記載された発明であるとはいえないから、申立人2の上記主張は理由がない。

b 本件訂正発明4及び6について

甲I5には、グリチルリチン酸ステアリルの皮膚への浸透をSIMULGEL EG(商品名) SEPPIC社製及びスクワランを同時に用いることにより促進すること、並びにSIMULGEL EG(商品名) SEPPIC社製及びスクワランをグリチルリチン酸ステアリルの皮膚への浸透を促進するための剤とすることは記載されていない。
よって、本件訂正発明4及び6は甲I5に記載された発明であるとはいえないから、申立人2の上記主張は理由がない。

c 本件訂正発明5について

甲I5には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていない。
よって、本件訂正発明5は甲I5に記載された発明であるとはいえないから、申立人2の上記主張は理由がない。

イ 申立人2は、特許異議申立書において、本件特許の請求項4に係る発明は、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし甲I13に記載された発明である旨主張している。

しかしながら、上記第4の3(3)ア(ア)で述べたように、甲I1、甲I2、甲I6ないし甲I9には、グリチルレチン酸ステアリル及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。
そして、上記第4の3(3)ア(イ)で述べたように、甲I4には、グリチルレチン酸ステアリル及び流動イソパラフィンとしてパールリームEXを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚への浸透を流動イソパラフィンとしてのパールリームEXを同時に用いることにより促進することは記載されていない。
また、上記第4の3(3)ア(エ)で述べたように、甲I10及び甲I11には、コエンザイムQ10及びスクワランを同時に用いることは記載されているが、コエンザイムQ10の皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。
さらに、上記第4の3(3)ア(カ)で述べたように、甲I12及び甲I13には、グリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10並びにスクワランを同時に用いることは記載されているが、グリチルレチン酸ステアリル及びコエンザイムQ10の皮膚への浸透をスクワランを同時に用いることにより促進することは記載されていない。
よって、本件訂正発明4は、甲I1、甲I2、甲I4、甲I6ないし甲I13に記載された発明であるとはいえないから、申立人2の上記主張は理由がない。

ウ 申立人2は、意見書において、甲I1に基づく新規性に関して、概略以下のとおり主張している。
甲I1の実施例19には、グリチルレチン酸ステアリルを0.5質量%、流動パラフィン(CRYSTOL 70)を20質量%の割合で含むアレルギー性乾皮症緩和剤が記載されている。
甲I21、甲I24及び甲I25の記載によれば、CRYSTOL 70の温度20℃における表面張力は29.5mN/m以下である蓋然性が高いから、本件訂正発明1、3及び5は、甲I1に記載された発明である。

(ア)本件訂正発明1及び3について

甲I1の実施例19に記載されたアレルギー性乾皮症緩和剤は、流動パラフィン(CRYSTOL 70)の他に、炭化水素油であるスクワランを含有している。
本件訂正発明1及び3は、本件訂正により、訂正前の「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油」が「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン」に訂正され、減縮されている。
本件特許の発明の詳細な説明には、炭化水素油に関して、
「【0028】
本発明で用いられる炭化水素油(成分(B))は、表面張力が上で説明した範囲であり、皮膚外用剤または化粧料組成物に添加することが許容できる仕様である限り、特に限定されないが、20℃で液状であることが好ましい。具体的にはイソドデカン、イソヘキサデカン、水添ポリイソブテン、軽質流動イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテン等が挙げられ、これらの一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。組み合わせて使用する場合は、混合物としての表面張力が、上で説明した範囲であればよい。」
と記載されており、皮膚外用剤又は化粧料組成物に含まれる炭化水素油全体の混合物が、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である必要があるものと解されることから、炭化水素油が流動パラフィンに減縮された本件訂正発明1及び3においては、流動パラフィン以外の炭化水素油は含まないものと解するのが相当である。

この点について、平成30年3月22日付けで特許権者に対してなされた審尋に対する同年4月4日付けの回答書における特許権者の回答は、上記見解と一致するものであった。

そうすると、本件訂正発明1及び3が、スクワランを含有する甲I1の実施例19に記載されたアレルギー性乾皮症緩和剤と同一であるとはいえない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

(イ)本件訂正発明5について

第4の3(2)ウで述べたように、甲I1には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

エ また、申立人2は、意見書において、本件訂正発明1は、甲I22及び甲I23に記載された発明である旨主張している。
しかしながら、上記意見書と同時に提出された甲I22は、本件訂正に付随して必要となった証拠であるとは認められないから、申立人2の上記主張は採用できない。
また、上記意見書と同時に提出された甲I23は、甲I3と同じ文献であるが、甲I23の実施例14に記載された皮膚用基剤は、流動パラフィン(CRYSTOL 70)とともにスクワランを含有している。
上記ウ(ア)で述べたように、本件訂正発明1においては、流動パラフィン以外の炭化水素油は含まないものと解されることから、本件訂正発明1はスクワランを含まないものである。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

(3)特許法第29条第2項に係る特許異議申立理由について

申立人2は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲I1ないし甲I13のいずれかに記載された発明、及び本件特許の出願時の周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

ア 本件訂正発明1及び3について

本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンが周知であるとしても、甲I1ないし甲I13に記載された発明において、「スクワラン」等に代えて温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である「流動パラフィン」を採用する動機付けがあるとは認められない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

イ 本件訂正発明4及び6について

分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油を含む皮膚外用剤又は化粧料組成物が本件特許の出願時において周知であるとしても、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進する効果を奏することが、本件特許の出願時の周知慣用技術であることを示す証拠はない。
また、甲I19の記載事項が、グリチルレチン酸ステアリルの皮膚移行を高めるために、分岐脂肪酸エステル類以外の温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン等の油剤の使用を試みることを動機付けるものではないことは、上記第4の3(3)ア(サ)で述べたとおりである。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

ウ 本件訂正発明5について

分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油を含む皮膚外用剤又は化粧料組成物が本件特許の出願時において周知であるとしても、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することが、本件特許の出願時の周知慣用技術であることを示す証拠はない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

(4)特許法第36条第6項第2号に係る特許異議申立理由について

ア 申立人2は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6の記載では、「皮膚有効成分」がいかなる効果をどの程度有するものであるのかが特定されていないから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確である旨主張している。
しかしながら、「皮膚有効成分」という用語は、皮膚外用剤及び化粧料組成物の技術分野において慣用されており、通常認識できる程度の効果を奏すればよいものと解されることから、本件訂正発明1、3ないし6が第三者に不測の不利益を与えるほどに明確でないとはいえない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

イ 申立人2は、特許異議申立書において、概略以下のように主張している。
本件特許の請求項1の記載において、「(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油を含有する」との記載が明確でない。
すなわち、成分(B)に該当する炭化水素油とともに表面張力が29.5mN/mよりも大きい炭化水素油を多量に含む皮膚外用剤又は化粧料組成物が、請求項1に記載の皮膚外用剤又は化粧料組成物に該当するのか否かが明らかでない。
本件特許の明細書【0028】の「組み合わせて使用する場合は、混合物としての表面張力が、上で説明した範囲であればよい」との記載を参酌しても、成分(B)が皮膚外用剤又は化粧料組成物に含まれる全ての炭化水素油であるとは理解できない。
したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確である。

しかしながら、上記【0028】の記載によれば、皮膚外用剤又は化粧料組成物が複数の炭化水素油を含む場合には、炭化水素油全体の混合物が、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを要するものと解されることから、本件訂正発明1、3ないし6が第三者に不測の不利益を与えるほどに明確でないとはいえない。
しかも、請求項1及び3においては、本件訂正により「炭化水素油」が「流動パラフィン」に特定されたことにより、「流動パラフィン」のみで温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることも明確である。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

(5)特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に係る特許異議申立理由について

申立人2は、特許異議申立書において、本件特許の発明の詳細な説明には、グリチルレチン酸ステアリルと流動パラフィンとの組合せ以外の場合、並びに、成分(A)及び成分(B)以外の成分を含む場合に、皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進することができるという効果が得られることを当業者が理解できる記載はない旨主張している。

しかしながら、皮膚有効成分及び炭化水素油の種類及び組合せについては、上記1(4)で述べたとおりである。
また、皮膚外用剤又は化粧料組成物に含まれる成分(A)及び成分(B)以外の成分や、皮膚外用剤又は化粧料組成物に含まれる成分(A)及び成分(B)の量が、成分(B)が奏する成分(A)の皮膚への浸透を促進する効果に影響を与えることがあるとしても、当該効果を全く奏することができなくなるほどの影響を与えるものであるとまではいえない。
よって、申立人2の上記主張は理由がない。

3 申立人3の特許異議申立理由について

(1)申立人3は、証拠方法として、上記甲T6、甲T7、甲T10ないし甲T12、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T30ないし甲T32、甲T35ないし甲T37、甲T39ないし甲T41、甲T43、甲T48、甲T49、甲T51、甲T72に加えて、主たる証拠として以下の甲第1号証ないし甲第5号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第13号証、甲第16号証、甲第19号証ないし甲第22号証、甲第25号証、甲第29号証、甲第33号証、甲第34号証、甲第38号証、甲第42号証、甲第44号証ないし甲第47号証、及び甲第50号証、従たる証拠として以下の甲第14号証、甲第15号証、甲第18号証、甲第52号証ないし甲第71号証、甲第73号証ないし甲第76号証を提出し、意見書提出時に、以下の参考資料1ないし5を追加提出している。

甲第1号証:特開昭62-39509号公報(以下「甲T1」という。)
甲第2号証:特開昭63-284109号公報(以下「甲T2」という。)
甲第3号証:特開昭64-85907号公報(以下「甲T3」という。)
甲第4号証:特開平1-93520号公報(以下「甲T4」という。)
甲第5号証:特開平1-249714号公報(以下「甲T5」という。)
甲第8号証:特開平8-208497号公報(以下「甲T8」という。)
甲第9号証:特開平9-235219号公報(以下「甲T9」という。)
甲第13号証:特開2009-46468号公報(以下「甲T13」という。)
甲第14号証:流動パラフィン モレスコホワイトP-70,TECHNICAL INFORMATION,[online],株式会社MORESCO,インターネット<URL:http://www.moresco.co.jp/products/paraffin#sub-01>(以下「甲T14」という。)
甲第15号証:株式会社MORESCOのウェブサイトの会社情報・沿革のページ,[online],インターネット<URL:http://www.moresco.co.jp/company/history/>(以下「甲T15」という。)
甲第16号証:特開2010-90069号公報(以下「甲T16」という。)
甲第18号証:製品名アイソゾール300の安全データシート(閲覧用),2016/6/1改訂,JXエネルギー株式会社(以下「甲T18」という。)
甲第19号証:特開平10-7541号公報(以下「甲T19」という。)
甲第20号証:特開2002-275085号公報(以下「甲T20」という。)
甲第21号証:特開2002-284630号公報(以下「甲T21」という。)
甲第22号証:特開2002-332224号公報(以下「甲T22」という。)
甲第25号証:特開昭61-289029号公報(以下「甲T25」という。)
甲第29号証:特開2005-53842号公報(以下「甲T29」という。)
甲第33号証:特開2006-160650号公報(以下「甲T33」という。)
甲第34号証:特開2006-176471号公報(以下「甲T34」という。)
甲第38号証:特開2006-225308号公報(以下「甲T38」という。)
甲第42号証:特開2007-204432号公報(以下「甲T42」という。)
甲第44号証:特開2009-7335号公報(以下「甲T44」という。)
甲第45号証:特開2009-143837号公報(以下「甲T45」という。)
甲第46号証:特開2010-13378号公報(以下「甲T46」という。)
甲第47号証:特開2003-267817号公報(以下「甲T47」という。)
甲第50号証:特開2012-77044号公報(以下「甲T50」という。)
甲第52号証:特開2006-315973号公報(以下「甲T52」という。)
甲第53号証:特開2007-50400号公報(以下「甲T53」という。)
甲第54号証:特開2007-197349号公報(以下「甲T54」という。)
甲第55号証:特開2007-204475号公報(以下「甲T55」という。)
甲第56号証:特開2008-179577号公報(以下「甲T56」という。)
甲第57号証:特開2010-180145号公報(以下「甲T57」という。)
甲第58号証:特開2010-189351号公報(以下「甲T58」という。)
甲第59号証:特開2010-189352号公報(以下「甲T59」という。)
甲第60号証:特開2011-190226号公報(以下「甲T60」という。)
甲第61号証:特開2012-6840号公報(以下「甲T61」という。)
甲第62号証:特開2012-153689号公報(以下「甲T62」という。)
甲第63号証:特開2001-302690号公報(以下「甲T63」という。)
甲第64号証:特開2006-241074号公報(以下「甲T64」という。)
甲第65号証:特開2007-126368号公報(以下「甲T65」という。)
甲第66号証:特開2007-246461号公報(以下「甲T66」という。)
甲第67号証:特開2007-254430号公報(以下「甲T67」という。)
甲第68号証:特開2008-127340号公報(以下「甲T68」という。)
甲第69号証:日本化学会編,化学便覧基礎編II,改訂4版,丸善株式会社,平成5年9月30日発行,II-77?80頁(以下「甲T69」という。)
甲第70号証:福井寛著,トコトンやさしい化粧品の本,日刊工業新聞社,2009年10月28日,25頁(以下「甲T70」という。)
甲第71号証:特開2003-95849号公報(以下「甲T71」という。)
甲第73号証:特開2006-290775号公報(以下「甲T73」という。)
甲第74号証:公益社団法人日本薬学会のウェブサイト,薬学用語解説「分配係数」の項,[online],インターネット<URL:http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki. cgi?%E5%88%86%E9%85%8D%E4%BF%82%E6%95%B0>(以下「甲T74」という。)
甲第75号証:特開2011-68598号公報(以下「甲T75」という。)
甲第76号証:特開2008-19187号公報(以下「甲T76」という。)
参考資料1:田名部雄一,外4名,食卵の長期保存に関する研究,168頁,[online],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpsa1964/8/3/8_3_168/_pdf>(以下「参T1」という。)
参考資料2:商公昭46-21917号公報(以下「参T2」という。)
参考資料3:商願昭38-052969号の登録情報,[online],インターネット<URL:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage>(以下「参T3」という。)
参考資料4:株式会社MORESCOのウェブサイトの製品情報・流動パラフィン「流動パラフィン製品一覧」のページ,[online],インターネット<URL:http://www.moresco.co.jp/products/paraffin#sub-01>(以下「参T4」という。)
参考資料5:株式会社MORESCOのウェブサイトの製品情報・流動パラフィン「精製流動パラフィン製品一覧」のページ,[online],インターネット<URL:http://www.moresco.co.jp/products/paraffin#sub-02>(以下「参T5」という。)

(2)特許法第29条第1項第3号に係る特許異議申立理由について

ア 申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲T1ないし甲T5、甲T8、甲T9、甲T13、甲T16、甲T19ないし甲T22、甲T25、甲T29、甲T33、甲T34、甲T38、甲T42、甲T44ないし甲T47、及び甲T50に記載された発明である旨主張している。

(ア)本件訂正発明1及び3について

a 甲T1の実施例2、甲T9の実施例6、及び甲T16の配合処方例8には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、スクワラン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T13の実施例18及び20には、それぞれテトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル、軽質流動イソパラフィン及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T13の製剤実施例3には、グリチルレチン酸ステアリル、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル、オリーブスクワラン及び黄色ワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T13の製剤実施例4には、グリチルレチン酸ステアリル、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル、オリーブスクワラン及び白色ワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T16の配合処方例10には、グリチルレチン酸ステアリル、コエンザイムQ10、スクワラン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T25の実施例3には、ユビキノン-10及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T29の実施例1には、ユビキノン、スクワラン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T34の実施例2には、CoQ及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T42の実施例2、及び甲T46の配合例3には、それぞれコエンザイムQ10、スクワラン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T44の参考例1には、還元型補酵素Q_(10)、ヘプタン及びヘキサンを含む溶液の発明が記載されている。
甲T44の参考例2には、還元型補酵素Q_(10)及びヘプタンを含む溶液の発明が記載されている。
甲T47の処方例4には、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、スクワラン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T50の処方例24には、コエンザイムQ10及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T1、甲T9、甲T13、甲T16、甲T25、甲T29、甲T34、甲T42、甲T44、甲T46、甲T47、又は甲T50に記載された発明であるとはいえない。

b 甲T2ないし甲T5の実施例4、甲T8の実施例5、及び甲T16の配合処方例7には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、流動パラフィン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T13の製剤実施例5には、グリチルレチン酸ステアリル、流動パラフィン及び白色ワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T20の実施例6、甲T21の実施例6、及び甲T22の実施例5には、それぞれアスタキサンチン、流動パラフィン及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T25の実施例4、及び実施例5には、それぞれユビキノン-10、流動パラフィン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T25の実施例7には、ユビキノン-10、流動パラフィン及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T38の実施例1、及び実施例2には、それぞれコエンザイムQ10、流動パラフィン及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T38の実施例3には、コエンザイムQ10、流動パラフィン及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、甲T2ないし甲T5、甲T8、甲T13、甲T16、甲T20ないし甲T22、甲T25、及び甲T38に記載された流動パラフィンの温度20℃における表面張力は不明である。
甲T13に関して、申立人3は、甲T14及び甲T15を根拠に、株式会社松村石油研究所製は株式会社MORESCOの前身であることから、甲T13に記載された流動パラフィンである松村石油研究所製シルコールP-70は、甲T14に記載された株式会社MORESCOのモレスコホワイトP-70と同一製品である旨主張しているが、株式会社松村石油研究所製が株式会社MORESCOの前身であるということは、両製品が同一製品であることの証拠にはならない。さらに、甲T13に記載された松村石油研究所製シルコールP-70の動粘度(40℃)が12.4mm^(2)/sであるのに対して、甲T14に記載された株式会社MORESCOのモレスコホワイトP-70の動粘度(40℃)は12.56mm^(2)/sであることからも、両製品が同一製品であるとは認められない。

また、上記2(2)ウ(ア)で述べたように、本件訂正発明1及び3においては、流動パラフィン以外の炭化水素油は含まないものと解されることから、本件訂正発明1及び3はワセリン及びスクワランを含まないものである。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T2ないし甲T5、甲T8、甲T13、甲T16、甲T20ないし甲T22、甲T25、又は甲T38に記載された発明であるとはいえない。

c 甲T19の実施例12には、アスタキサンチン及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T33の実施例14には、ユビキノン及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T45の実施例2には、コエンザイムQ10及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T47の処方例1には、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T50の処方例30には、テトライソパルミチン酸アスコルビル及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、甲T19、甲T33、甲T45、甲T47、及び甲T50に記載された流動パラフィンの温度20℃における表面張力は不明である。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T19、甲T33、甲T45、甲T47、又は甲T50に記載された発明であるとはいえない。

d 以上のとおりであるから、申立人3の上記主張は理由がない。

(イ)本件訂正発明4及び6について

甲T1ないし甲T5、甲T8、甲T9、甲T13、甲T16、甲T19ないし甲T22、甲T25、甲T29、甲T33、甲T34、甲T38、甲T42、甲T44ないし甲T47、及び甲T50には、グリチルリチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、又はテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等の皮膚有効成分の皮膚への浸透を、流動パラフィン、スクワラン、又はワセリン等の炭化水素油を同時に用いることにより促進すること、及び、流動パラフィン、スクワラン、又はワセリン等の炭化水素油をグリチルリチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、又はテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等の皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進するための剤とすることは記載されていない。
よって、本件訂正発明4及び6は、甲T1ないし甲T5、甲T8、甲T9、甲T13、甲T16、甲T19ないし甲T22、甲T25、甲T29、甲T33、甲T34、甲T38、甲T42、甲T44ないし甲T47、又は甲T50に記載された発明であるとはいえないから、申立人3の上記主張は理由がない。

(ウ)本件訂正発明5について

甲T1ないし甲T5、甲T8、甲T9、甲T13、甲T16、甲T19ないし甲T22、甲T25、甲T29、甲T33、甲T34、甲T38、甲T42、甲T44ないし甲T47、及び甲T50には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていない。
よって、本件訂正発明5は、甲T1ないし甲T5、甲T8、甲T9、甲T13、甲T16、甲T19ないし甲T22、甲T25、甲T29、甲T33、甲T34、甲T38、甲T42、甲T44ないし甲T47、又は甲T50に記載された発明であるとはいえないから、申立人3の上記主張は理由がない。

イ 申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の請求項4に係る発明は、甲T6、甲T7、甲T10ないし甲T12、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T30ないし甲T32、甲T35ないし甲T37、甲T39ないし甲T41、甲T43、甲T48、及び甲T49に記載された発明である旨主張している。
しかしながら、甲T6、甲T7、甲T10ないし甲T12、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T30ないし甲T32、甲T35ないし甲T37、甲T39ないし甲T41、甲T43、甲T48、及び甲T49には、グリチルリチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、又はテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等の皮膚有効成分の皮膚への浸透を、流動パラフィン、スクワラン、又はワセリン等の炭化水素油を同時に用いることにより促進することは記載されていない。
よって、本件訂正発明4は、甲T6、甲T7、甲T10ないし甲T12、甲T17、甲T23、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T30ないし甲T32、甲T35ないし甲T37、甲T39ないし甲T41、甲T43、甲T48、又は甲T49に記載された発明であるとはいえないから、申立人3の上記主張は理由がない。

ウ 申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、甲T7の実施例9及び12、甲T11の実施例6、甲T12の実施例1ないし6、11、12、18、19、21、23ないし28、及び30、甲T17の実施例98、135、137、145、152、154、及び155、甲T24の実施例2ないし4、甲T26の実施例3ないし5、甲T27の実施例1ないし7、11及び13、甲T28の実施例1ないし3、5、8ないし10、甲T30の実施例4ないし7、9、11及び12、甲T31の製造例2及び4、甲T32の実施例13、甲T36の実施例2、4及び5、甲T37の実施例6及び7、甲T43の実施例4及び5、並びに甲T48の実施例1ないし14、18、20、21、24及び26に記載された発明である旨主張している。

(ア)本件訂正発明1及び3について

a 甲T11の実施例6には、アスタキサンチン、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T12の実施例3ないし5、23及び28には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、及び流動イソパラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T12の実施例6、及び甲T17の実施例137には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T12の実施例27には、グリチルレチン酸ステアリル、流動イソパラフィン、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T17の実施例98及び154には、グリチルレチン酸ステアリル、及びポリイソブテンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T17の実施例145、152及び155には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、及び揮発性炭化水素油(イソパラフィン)を含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T24の実施例2ないし4には、それぞれユビキノン10、スクワラン、及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T26の実施例4及び5、甲T27の実施例7及び11、甲T28の実施例1ないし3、8ないし10、甲T32の実施例13、甲T36の実施例4及び5、並びに甲T37の実施例7には、それぞれコエンザイムQ10、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T36の実施例2、及び甲T37の実施例6には、グリチルレチン酸ステアリル、コエンザイムQ10、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T43の実施例5には、ユビキノン、スクワラン、及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T48の実施例18には、テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビル、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T48の実施例21及び24には、それぞれテトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビル、コエンザイムQ10、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T11、甲T12、甲T17、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T32、甲T36、甲T37、甲T43、又は甲T48に記載された発明であるとはいえない。

b 甲T7の実施例9、並びに甲T12の実施例19、21、24、26及び30には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、流動パラフィン、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T7の実施例12には、グリチルリチン酸ステアリル、流動パラフィン、スクワラン、及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T12の実施例11、12、18及び25には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、流動パラフィン、及び流動イソパラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T27の実施例5及び6、甲T30の実施例6、並びに甲T31の製造例2には、それぞれコエンザイムQ10、流動パラフィン、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T26の実施例3、甲T30の実施例4及び11には、それぞれコエンザイムQ10、流動パラフィン、スクワラン、及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T30の実施例5には、コエンザイムQ10、流動パラフィン、及びワセリンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T43の実施例4には、ユビキノン、流動パラフィン、及びスクワランを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、甲T7、甲T12、甲T26、甲T27、甲T30、甲T31、及び甲T43に記載された流動パラフィンの温度20℃における表面張力は不明である。
また、上記2(2)ウ(ア)で述べたように、本件訂正発明1及び3においては、流動パラフィン以外の炭化水素油は含まないものと解されることから、本件訂正発明1及び3はワセリン、スクワラン及び流動イソパラフィンを含まないものである。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T7、甲T12、甲T26、甲T27、甲T30、甲T31、又は甲T43に記載された発明であるとはいえない。

申立人3は、意見書において、参T1ないし3を根拠に、甲T12の実施例18、19、21、24ないし26に記載された流動パラフィン(CRYSTOL 70)の温度20℃における表面張力は、29.5mN/m以下である蓋然性が高い旨主張しているが、流動パラフィン(CRYSTOL 70)の温度20℃における表面張力の値にかかわらず、甲T12の実施例18、19、21、24ないし26により本件訂正発明1及び3の新規性が否定されないことは、上記したとおりである。

c 甲T12の実施例2、及び甲T17の実施例135には、それぞれグリチルレチン酸ステアリル、及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T27の実施例1、3及び4、甲T28の実施例5、甲T30の実施例7、9及び12、並びに甲T31の製造例4には、それぞれコエンザイムQ10、及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T27の実施例2には、コエンザイムQ10、テトライソパルミチン酸アスコルビル、及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T27の実施例13、並びに甲T48の実施例7、14及び26には、それぞれコエンザイムQ10、テトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビル、及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。
甲T48の実施例1ないし6、8ないし13、及び20には、それぞれテトラ2-ヘキシルデカン酸L-アスコルビル、及び流動パラフィンを含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、甲T12、甲T17、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、及び甲T48に記載された流動パラフィンの温度20℃における表面張力は不明である。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T12、甲T17、甲T27、甲T28、甲T30、甲T31、又は甲T48に記載された発明であるとはいえない。

d 甲T12の実施例1には、グリチルレチン酸ステアリルを0.1質量%、及び流動パラフィン(CRYSTOL 70)を81.95質量%の割合で含む皮膚外用剤又は化粧料組成物に相当する発明が記載されている。

しかしながら、甲T12の実施例1におけるグリチルレチン酸ステアリルと流動パラフィンの質量比は、1/820であり、1/(10?250)の範囲に含まれない。
よって、本件訂正発明1及び3は、甲T12に記載された発明であるとはいえない。

e 以上のとおりであるから、申立人3の上記主張は理由がない。

(イ)本件訂正発明5について

甲T7、甲T11、甲T12、甲T17、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T30ないし甲T32、甲T36、甲T37、甲T43、及び甲T48には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することは記載されていない。
よって、本件訂正発明5は、甲T7の実施例9又は12、甲T11の実施例6、甲T12の実施例1ないし6、11、12、18、19、21、23ないし28、又は30、甲T17の実施例98、135、137、145、152、154、又は155、甲T24の実施例2ないし4、甲T26の実施例3ないし5、甲T27の実施例1ないし7、11又は13、甲T28の実施例1ないし3、5、8ないし10、甲T30の実施例4ないし7、9、11又は12、甲T31の製造例2又は4、甲T32の実施例13、甲T36の実施例2、4又は5、甲T37の実施例6又は7、甲T43の実施例4又は5、若しくは甲T48の実施例1ないし14、18、20、21、24又は26に記載された発明であるとはいえないから、申立人3の上記主張は理由がない。

(ウ)本件訂正発明6について

甲T7、甲T11、甲T12、甲T17、甲T24、甲T26ないし甲T28、甲T30ないし甲T32、甲T36、甲T37、甲T43、及び甲T48には、流動パラフィン、スクワラン、又はワセリン等の炭化水素油を、グリチルリチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、又はテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等の皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進するための剤とすることは記載されていない。
よって、本件訂正発明6は、甲T7の実施例9又は12、甲T11の実施例6、甲T12の実施例1ないし6、11、12、18、19、21、23ないし28、又は30、甲T17の実施例98、135、137、145、152、154、又は155、甲T24の実施例2ないし4、甲T26の実施例3ないし5、甲T27の実施例1ないし7、11又は13、甲T28の実施例1ないし3、5、8ないし10、甲T30の実施例4ないし7、9、11又は12、甲T31の製造例2又は4、甲T32の実施例13、甲T36の実施例2、4又は5、甲T37の実施例6又は7、甲T43の実施例4又は5、若しくは甲T48の実施例1ないし14、18、20、21、24又は26に記載された発明であるとはいえないから、申立人3の上記主張は理由がない。

(3)特許法第29条第2項に係る特許異議申立理由について

申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲T1ないし甲T13、甲T16、甲T17、甲T19ないし甲T50のいずれかに記載された発明、及び甲T51ないし甲T74に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
また、申立人3は、意見書において、参T4及び5に平均分子量が330以下の流動パラフィンが記載されていることを根拠に、皮膚外用剤及び化粧料組成物の技術分野において温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンは一般的なものであり、係る流動パラフィンを採用することは当業者であれば容易に想到し得ることである旨主張している。

ア 本件訂正発明1及び3について

本件訂正により、請求項1及び3の「炭化水素油」は、「流動パラフィン」に訂正された。
本件訂正発明1及び3は、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンが、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進する効果を奏するという知見に基づいてなされたものである。

これに対し、甲T51ないし甲T74には、油剤の皮膚浸透性について言及する文献はあるものの、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィンを用いて皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進することに言及する文献はない。
また、温度20℃における表面張力が29.5mN/mを超える流動パラフィンも、皮膚外用剤及び化粧料組成物の技術分野において一般的なものである。このことは、参T4及び5に平均分子量が330を超える流動パラフィンが複数記載されていることからも裏付けられるといえる。

そうすると、広範な表面張力を有する流動パラフィンの中から、上記効果が奏されることを予測しつつ、甲T1ないし甲T13、甲T16、甲T17、甲T19ないし甲T50のいずれかに記載された発明において、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下の流動パラフィンを採用することは、当業者といえども容易に想到し得るとは認められない。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。

イ 本件訂正発明4及び6について

甲T51ないし甲T74には、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油が、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進する効果を奏することが記載されていない。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。

ウ 本件訂正発明5について

甲T51ないし甲T74には、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤又は化粧料組成物を製造するにあたり、本件訂正発明5の発明特定事項である、分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)を選択すること、及び温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択することが記載されていない。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。

(4)特許法第36条第6項第1号に係る特許異議申立理由について

ア 申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の発明の詳細な説明には、グリチルレチン酸ステアリルと流動パラフィンとの組合せ以外の場合に、皮膚有効成分の皮膚への浸透を促進することができるという効果が得られることを立証する記載はない旨主張している。

しかしながら、皮膚有効成分及び炭化水素油の種類及び組合せについては、上記1(4)で述べたのと同旨である。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。

イ 申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の発明の詳細な説明には、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下の臨界的意義を立証する記載はない旨主張している。

しかしながら、数値範囲は必ずしも臨界的意義を要するものではない。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。

ウ 申立人3は、特許異議申立書において、水を含有する化粧料や皮膚外用剤の場合には、水によって炭化水素油と皮膚との接触が阻害されるため、皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進されなくなると想定されるが、本件特許の発明の詳細な説明には、水を含有する系についての試験は記載されていない旨主張している。

しかしながら、水と炭化水素油とを比較した場合、水の方が皮脂と馴染みにくいものであることが、水の存在が皮膚有効成分の皮膚への浸透を阻害する根拠になるとは認められない。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。

(5)特許法第36条第6項第2号に係る特許異議申立理由について

申立人3は、特許異議申立書において、本件特許の請求項4ないし6に記載された「皮膚浸透促進上有効量」は、皮膚有効成分に対して炭化水素油をどの程度用いればよいかを特定することができないから、明確でない旨主張している。

しかしながら、「皮膚浸透促進上有効量」とは、皮膚への浸透が増加されたことを、通常認識できる程度の量であればよいものと解されることから、本件訂正発明4ないし6が明確でないとはいえない。
よって、申立人3の上記主張は理由がない。


第6 請求項2に対する特許異議の申立てについて

本件特許の請求項2は、上記第2で述べたとおり本件訂正が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項2についての申立人1ないし3がした特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。

よって、本件特許の請求項2についての申立人1ないし3の特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。


第7 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人1ないし3の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1、3ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項2に対して申立人1ないし3がした特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分であって、グリチルレチン酸ステアリル、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルからなる群より選択される一以上;および
(B) 温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である流動パラフィン
を含有する、皮膚外用剤または化粧料組成物であって、成分(A)/成分(B)の質量比が、1/(10?250)である、皮膚外用剤または化粧料組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
成分(A)の分配係数Log P値が10.0?25.0である、請求項1に記載の、皮膚外用剤または化粧料組成物。
【請求項4】
分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を、成分(A)の皮膚浸透促進上有効量の、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油(B)を同時に用いることにより、促進する、方法(医療行為を除く。)。
【請求項5】
皮膚有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤または化粧料組成物の製造方法であって:
分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0であることを指標に皮膚有効成分(A)選択し;
温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下であることを指標に炭化水素油(B)を選択し;そして
成分(A)に対して、の皮膚浸透促進上有効量の炭化水素油(B)を含有する工程を含む、製造方法。
【請求項6】
分子量が500?1500であり、かつ分配係数Log P値が5.0?30.0である皮膚有効成分(A)の皮膚への浸透を促進するための剤であって、成分(A)の皮膚浸透促進上有効量の、温度20℃における表面張力が29.5mN/m以下である炭化水素油(B)を含有する、剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-28 
出願番号 特願2012-184313(P2012-184313)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 851- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
渡戸 正義
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5997546号(P5997546)
権利者 株式会社コーセー
発明の名称 有効成分の皮膚への浸透が促進された皮膚外用剤または化粧料組成物  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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