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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  A01N
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1342959
異議申立番号 異議2017-700254  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-13 
確定日 2018-06-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6068712号発明「除菌剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6068712号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第6068712号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6068712号の請求項1?2に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成28年6月20日(優先権主張 平成27年6月18日)に出願され、平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日にその特許公報が発行され、その後、同年3月10日に大日本除蟲菊株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成29年 3月30日 手続補正書の提出(特許異議申立人)
同年 9月11日付け 取消理由通知
同年11月13日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 同月20日付け 通知書
同年12月19日 意見書(特許異議申立人)
平成30年 1月25日付け 取消理由通知
同年 3月22日 面接(特許権者との)
同年 3月30日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 4月 6日付け 通知書

なお、平成30年4月6日付けの通知書に対し、指定期間内に特許異議申立人からは何らの応答もなかった。

第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成30年3月30日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?2について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。
なお、平成29年11月13日付けの訂正の請求については、その後本件訂正の請求がなされたから、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
請求項1に「温度が200℃以上となる時間が250秒以上である加熱手段を用いてアゾジカルボンアミドを加熱して得られる」とあるのを、「加水発熱システムによる加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られる」と訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)訂正の目的について
本件訂正のうち、「加熱手段」を「加水発熱システムによる加熱手段」と訂正する点は、加熱手段を限定するものである。
また、本件訂正のうち、加熱条件に関して、「温度が200℃以上となる時間が250秒以上である」を「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり」と訂正する点は、温度が200℃以上となる時間をより長い時間とするものであり、「、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上」と訂正する点は、加熱の条件をさらに加えるものであって、いずれも加熱の条件を限定するものである。
さらに、本件訂正のうち、「温度が・・・である加熱手段を用いてアゾジカルボンアミドを加熱」を「加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が・・・で加熱」と訂正する点は、訂正前に、温度の特定がどの部分の温度であるか明瞭でなかったものを、アゾジカルボンアミドが加熱される温度であることを明瞭にするものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
「加熱手段」を「加水発熱システム」と訂正する点、加熱条件に関して、「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上」と訂正する点については、いずれも特許請求の範囲を減縮するものであり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由はない。
また、「温度が・・・である加熱手段を用いてアゾジカルボンアミドを加熱」を「加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が・・・で加熱」と訂正する点は、訂正前に、温度の特定がどの部分の温度であるか明瞭でなかったものを、アゾジカルボンアミドが加熱される温度であることを明瞭にして、本来の意味にしたのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由はない。

(3)新規事項の追加について
願書に添付した明細書及び図面には、以下の記載がある。
「 【0016】
アゾジカルボンアミドを分解させるための加熱手段は、有効成分のアゾジカルボンアミドの分解物を得られるのであれば特に制限されない。例えば、直接的に着火して加熱する方法、ヒーター等の熱源に接触させて加熱する方法、加熱剤等の熱源を用いて加熱する方法等の手段が挙げられる。中でも、取り扱いの容易性、アゾジカルボンアミドの分解物の効率的な揮散性の観点から、加熱剤として加水発熱物質と加水発熱反応用液とを用いて発熱させる加水発熱システムを熱源に用いて加熱することが好ましい。加水発熱システムを用いると、アゾジカルボンアミドの分解物(本発明の除菌剤の有効成分)を効率的に発生させ、揮散させることができるとともに、多くのアゾジカルボンアミドの分解物を適応場所(例えば、屋内等)に拡散させることができる。
【0017】
本効果を良好に発揮するための加熱条件としては、アゾジカルボンアミドを、温度が100℃以上となる時間が700秒以上となるように加熱することが好ましく、・・・
また、温度が200℃以上となる時間が250秒以上であることが好ましく、300秒以上であることがより好ましく、350秒以上であることがさらに好ましい。
・・・
また、温度が350℃以上となる時間が130秒以上であることが好ましく、150秒以上であることがより好ましい。
・・・
【0019】
アゾジカルボンアミドの加熱手段の一例として、以下に、加水発熱システムを用いてアゾジカルボンアミドを加熱する手段について説明する。加水発熱システムとは、加水発熱物質と加水発熱反応用液とを加水発熱反応させるシステムであり、このシステムにおいて熱源となるのは図1に示す自己発熱装置1である。・・・
本発明において、例えば、自己発熱装置1を熱源とする場合、図1に示す仕切部材4の底部Xの温度を測定することによってアゾジカルボンアミドの加熱温度を求めることができる。」

「【符号の説明】
【0073】
1 自己発熱装置
2 外容器
3 不織布シート
4 仕切部材
5 蓋部材
6 熱溶融樹脂フィルム
7 製剤
8 加水発熱物質
9 容器
W 水」

「【図1】



上で摘示したとおり、加熱手段として、加水発熱システムがあること、加熱条件として、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であること、温度が350℃以上となる時間が150秒以上であることは、いずれも願書に添付した明細書に記載されているから、「加熱手段」を「加水発熱システム」と訂正すること、加熱条件に関して、「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上」と訂正することは、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、温度の特定がアゾジカルボンアミドの加熱の条件であることは明細書の【0017】の「加熱条件としては、アゾジカルボンアミドを、温度が・・・となるように加熱する」との記載、具体的には、明細書の【0019】に記載されるように、図1において、アゾジカルボンアミドを用いた製剤に直近する又は接するXの部分で温度を測定するものであること、から明らかあり、「加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が・・・で加熱」することは願書に添付した明細書に記載されているといえるから、「温度が・・・である加熱手段を用いてアゾジカルボンアミドを加熱」を「加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が・・・で加熱」と訂正する点は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

(4)一群の請求項について
本件訂正は、請求項1を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、請求項1?2は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正の請求は、請求項1?2についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?2について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?2に係る発明は、平成30年3月30日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」?「本件発明2」ともいう。)である。

「 【請求項1】
加水発熱システムによる加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られるアゾジカルボンアミドの分解物であり、かつ、加熱開始から30分以内に発生したアゾジカルボンアミドの分解物を有効成分とする除菌剤。
【請求項2】
さらに香料を含有する請求項1に記載の除菌剤。」

第4 取消理由の概要
当審が取消理由で通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)特許異議申立人が申し立てた取消理由
本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1?2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

そして、甲第1?3号証として、以下のものが挙げられている。
甲第1号証:特開2016-202868号公報(特願2015-165618号(出願日:平成27年8月25日)、公開日:平成28年12月8日)
甲第2号証:特開平11-349405号公報(本件特許の出願の出願当時の技術常識を示す)
甲第3号証:特開2000-86406号公報(本件特許の出願の出願当時の技術常識を示す)


(2)平成29年9月11日付けの取消理由通知における取消理由
[理由1]本件特許の請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記出願1の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1?2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

そして、引用出願、引用刊行物として、以下のものが挙げられている。
出願1:特願2015-165618号(出願日:平成27年8月25日、特開2016-202868号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)、公開日:平成28年12月8日)
刊行物2:特開平11-349405号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証:本件特許の出願の出願当時の技術常識を示す)
刊行物3:特開2000-86406号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証:本件特許の出願の出願当時の技術常識を示す)

(3)平成30年1月25日付けの取消理由通知における取消理由
本件の請求項1及び2に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

そして、「記」として、概要、次の1、2の事項が記載されている。
1 請求項1に記載の「(ただし、直接加熱方式を除く)」は加熱手段を特定するものであるところ、「直接加熱方式」とはどのような範囲の加熱手段を意味するか明確でない。
したがって、請求項1及び2の特許を受けようとする発明は明確でない。
(以下「明確性要件違反理由1」という。)

2 請求項1に記載の「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ、温度が350℃以上となる時間が150秒以上である加熱手段」について、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当該加熱手段を用いてアゾジカルボンアミドを加熱するものであるところ、該温度がどこの温度を特定するものであるのか(加熱手段自体の温度であるのか、加熱される部分でのアゾジカルボンアミドの温度であるのか、それ以外の部分であるのか)明らかでない。
また、請求項1に記載の除菌剤が「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ、温度が350℃以上となる時間が150秒以上である」という温度条件を経て得られたアゾジカルボンアミドの分解物の全てを含むのか、一部を含めばよいのか明確でない。
したがって、請求項1及び2の特許を受けようとする発明は明確でない。
(以下「明確性要件違反理由2」という。)

第5 当審の判断
1 平成29年9月11日付けの取消理由通知における取消理由(特許法第29条の2)について
(1)本件発明1及び2についての優先権主張について
本件発明1は、「加水発熱システムによる加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られるアゾジカルボンアミドの分解物であり、かつ、加熱開始から30分以内に発生したアゾジカルボンアミドの分解物」を有効成分とする除菌剤であるところ、「アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られるアゾジカルボンアミドの分解物」であること、「加熱開始から30分以内に発生した」アゾジカルボンアミドの分解物であることについて、本件特許の出願の優先権主張の基礎とされた特願2015-123256号の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「優先権明細書等」という。)には記載がない。
また、本件特許の願書に添付した明細書には、試験例3(段落【0059】?【0063】)として、自己発熱装置を用いたアゾジカルボンアミドの加熱における温度と時間との関係についての結果が、試験例4(段落【0064】?【0069】)として、テドラーバッグ内で自己加熱装置を用いてアゾジカルボンアミドを加熱し、加熱開始から一定時間おきに採取したアゾジカルボンアミドの分解物の浮遊物と落下物について、浮遊物について採取した時間毎の、また落下物の除菌効果についての結果が記載されているところ、これらの事項についても優先権明細書等には記載がない。そして、これらの事項は、優先日当時当業者に自明な事項であるともいえない。
してみると、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲には、優先権明細書等に記載がない事項を付加するものであって、それらの事項は優先権明細書等の全ての記載を総合することにより導き出せない事項であって、新たな技術的事項を導入する事項が記載されているものといえるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2については、優先権主張の利益を享受することはできない。

(2)引用出願等及びその記載事項
出願1:特願2015-165618号(出願日:平成27年8月25日、特開2016-202868号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)、公開日:平成28年12月8日)
刊行物2:特開平11-349405号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証:本件特許の出願の出願当時の技術常識を示す)
刊行物3:特開2000-86406号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証:本件特許の出願の出願当時の技術常識を示す)

出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲には次の事項が記載されている。
1a)「【請求項1】
実質的に防カビ剤を含有せず、少なくとも有機系発泡剤を含む燻煙剤組成物を加熱反応させ、発生する煙によりカビの発生を抑制させることとした燻煙防カビ方法。
【請求項2】
前記有機系発泡剤の施用空間当たりの使用量が200 mg/m3以上である請求項1に記載の燻煙防カビ方法。
【請求項3】
前記有機系発泡剤がアゾジカルボンアミド、p,p‘-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド及びヒドラゾジカルボンアミドから選ばれた1種以上である請求項1又は2に記載の燻煙防カビ方法。」

1b)「【0005】
・・・
我々は、鋭意、防カビ効果を有する燻煙製剤の開発を行なっていたところ、驚くべきことに、燻煙基剤となるこれらの有機系発泡剤そのものを燻煙した際に、その使用場所において防カビ効果が得られることを見出した。更に、前記のADCA以外の一般に広く使用されている発泡基剤であるADCA以外の発泡基剤にも、防カビ効果のあることを見出し、本発明の完成に至ったものである。」

1c)「【0009】
本発明の燻煙防カビ方法に用いられる燻煙剤組成物では少なくとも有機系発泡剤を用いることを必須とする。有機系発泡剤としては、炭酸ガスや窒素ガス等を発生するものであればいずれのものでも使用できる。例えば、ADCA、OBSH、HDCA、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。中でも、反応生成物の安全性が高いADCA、OBSH、HDCAが好ましい。また使用のしやすさの点で発熱分解型であるADCAとOBSHがより好ましく、反応時の匂いがほとんどないADCAが最も好ましい。」

1d)「【0013】
本発明の燻煙防カビ方法に用いられる燻煙剤組成物に配合される有機系発泡剤の他に、適宜、本発明に効果を及ぼさない程度に防カビ成分を配合することも可能である。・・・また、その他に防カビ効力の増強成分、抗菌剤、殺菌剤、ウイルス不活化剤等を配合しても良く、また殺虫剤・共力剤や殺ダニ剤、防虫剤、虫よけ剤、防汚剤、洗浄剤、撥水剤、親水化剤、香料、安定剤、賦形剤等を配合してもよい。」

1e)「【0014】
燻煙剤組成物の剤型や用量は使用目的や使用場所に応じて適宜選定することができ、例えば剤型は顆粒状、粒状、粉末状等が挙げられる。これらは公知の製造方法を用いて調製することができる。
また、燻煙剤組成物を燻煙させる方式としては、一定の熱源を燻煙剤組成物に与えて発泡させて蒸散させる方法(直接加熱方式)と容器内に入れた燻煙剤組成物に周囲から酸化カルシウム等で熱を与えてその熱で加熱させる加熱方式(間接加熱方式)のいずれも用いることが出来る。これらの方式のうち、直接加熱方式は装置なども簡便で、使用に際して手間が掛からないため便利である。
また、燻煙剤組成物の形状として、蚊取線香に代表される線香のように一定時間燻煙する形態とすれば、より使用し易く有用である。線香の形態は、通常の渦巻きのような形態であってもよいが、棒状や板状、円柱状など一定の燃焼をするように断面積を一定にしたものや、アロマ線香のように円錐の形状であってもよく、特に限定されるものではない。」

1f)「【0016】
つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(使用原料)
有機系発泡剤
A-1:ADCA(商品名:ビニホールAC#R-3K.永和化成工業株式会社製)
A-2:OBSH(商品名:ネオセルボンN#1000S.永和化成工業株式会社製)
A-3:HDCA(商品名:セルマイク142.三協化成株式会社製)
発泡助剤
B-1:酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製)
B-2:オレイン酸ソルビタン(商品名:ブラウノンP-80.青木油脂工業株式会社製)
その他成分
C-1:ケーキング防止剤:含水二酸化ケイ素(商品名:カープレックス,GSL.ジャパン株式会社製)
D-1:香料
E-1:タブ粉
E-2:α-デンプン
E-3:カルボキシメチルセルロース
【0018】
(評価方法)
<<カビの発生抑制効果>>
図1に示すような、体積約100 Lのグローブボックス内で試験を行った。滅菌シャーレ(Ф5.5 cm)に5 mLのポテトデキオロース寒天培地を分注して固化させたのち、Cladosporium cladosporioidesのカビ分散液を20 μL塗布し、よくコンラージ棒で延ばしたものをグローブボックス上部に設置した。この時、シャーレのふたは開け、シャーレの底が天井と接するように設置した。また、グローブボックスの床中央部に、ホットプレートを設置した。ホットプレート上にアルミニウム箔を敷き、その上に試験薬剤を載せ、グローブボックスのフタを閉めた。その状態でホットプレートの電源を入れ試験薬剤を加熱した。薬剤の反応後、すぐにホットプレートの電源を切り、20分間静置した。その後グローブボックスのフタを開け、5分間換気し、シャーレを回収し、シャーレのフタを閉めた。シャーレは25℃で7日間静置し、カビの生育を観察した。試験薬剤を加熱しないものを同様に操作して、25℃で7日間培養したカビの発生量をネガティブコントロールとした。
<<薬剤効果の評価基準>>
◎:カビが全く発生しない。
○:カビ発生量がネガティブコントロールの2割未満。
△:カビ発生量がネガティブコントロールの2割以上9割未満。
×:カビ発生量がネガティブコントロールと同等。
【0019】
(実施例1?15)
表1に示す組成に従い、各成分を乳鉢で混合し、実施例2?9の燻煙薬剤とした。実施例1および10?13に関しては記載した有機系発泡剤をそのまま燻煙薬剤とした。それぞれ合計質量分を量り取って試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
結果に示す通り、実施例1?15においてカビ発生量はいずれもネガティブコントロールの2割未満であった。
【0022】
(比較例1)
比較例1に関しては無機系発泡剤である炭酸水素ナトリウム(和光純薬製)をそのまま燻煙薬剤とし、記載した質量分を量り取って使用した。結果を表2に示す。
結果は、比較例1において、カビ発生量はネガティブコントロールと同等だった。
【0023】
【表2】

【0024】
<<準実地試験におけるカビの発生抑制効果>>
試験は図2に示すような、体積約3.6 m^(3)のユニットバスで試験を行った。滅菌シャーレ(Ф5.5 cm)に5 mLのポテトデキオロース寒天培地を分注して固化させたのち、Cladosporium cladosporioidesのカビ分散液を20 μL塗布し、よくコンラージ棒で延ばしたものをユニットバスの天井中央部に設置した。この時、シャーレのふたは開け、シャーレの底が天井と接するように設置した。
本発明の燻煙剤組成物として、実施例14に記載の通り、ADCA95%、酸化亜鉛3%及びカ-プレックス2%を乳鉢で混合して得られたもの5.0gを取り、ポリエチレンラミネートフィルム中に封入したものを試験薬剤とした。
この試験薬剤をユニットバス床中央部に設置し、着火具にて試験薬剤の燻煙を開始させた。燻煙開始後、すぐにユニットバスの外に出て、扉を閉めきり、60分間この状態を維持した。その後ユニットバスの換気扇を作動させ、20分間換気し、ユニットバス内に設置したシャーレを回収しフタを閉じた。シャーレは25℃で7日間静置し、カビの生育を観察した。燻煙をせずに25℃で7日間培養した場合のカビの発生量をネガティブコントロールとした。
【0025】
(実施例14?16)
実施例14と同様に、表3に示す組成に従い、各成分を混合し、実施例15及び16の燻煙薬剤を作製し、試験を行った。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
結果に示す通り、実施例14?16においてカビは全く発生しなかった。

【0028】
<<準実地試験におけるカビの発生抑制効果>>
試験は図2に示すような、体積約3.6m^(3)のユニットバスで試験を行った。滅菌シャーレ(Ф5.5cm)に5mLのポテトデキオロース寒天培地を分注して固化させたのち、Cladosporium cladosporioidesのカビ分散液を20μL塗布し、よくコンラージ棒で延ばしたものをユニットバスの天井中央部に設置した。この時、シャーレのふたは開け、シャーレの底が天井と接するように設置した。
本発明の線香形状の燻煙剤組成物として、実施例17に記載の通り、ADCA84%、酸化亜鉛12%及びカルボキシメチルセルロース4%を乳鉢で混合して得られたものに対して、水を加えて練り、直径1cm程度の棒状にした。これを150℃下で2時間乾燥し、10 g分切り出したものを試験薬剤とした。
この試験薬剤をライターで着火し、ユニットバス床中央部に設置し、燻煙を開始させた。燻煙開始後、すぐにユニットバスの外に出て、扉を閉めきり、60分間この状態を維持した。その後ユニットバスの換気扇を作動させ、20分間換気し、ユニットバス内に設置したシャーレを回収しフタを閉じた。シャーレは25℃で7日間静置し、カビの生育を観察した。燻煙をせずに25℃で7日間培養した場合のカビの発生量をネガティブコントロールとした。
【0029】
(実施例17?18)
実施例17と同様に、表4に示す組成に従い、各成分を混合し、実施例18の燻煙薬剤を作製し、試験を行った。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
実施例17及び18のいずれも高い効果を示した。特にカルボシキメチルセルロースを含む実施例17はより高い効果であった。」

(2)刊行物2には次の事項が記載されている。
2a)「【請求項1】 上部開放容器内に加水発熱反応型蒸散装置と水収容容器とを収容し、該水収容容器内より排出される水との加水反応熱で前記蒸散装置の蒸散用薬剤を蒸散させる蒸散方法において、該加水発熱物質の吸水開始時から100秒以内に前記蒸散装置の被加熱部の温度が300℃以上となるように、該加水発熱物質に1分以内に加水発熱反応量の水を供給するようにして蒸散用薬剤を蒸散させることを特徴とする蒸散方法。」

2b)「【0011】本発明の蒸散方法において用いる蒸散剤組成物に含有させる薬剤(有効成分)としては、従来より用いられている殺虫剤、殺菌剤、忌避剤の各種薬剤が使用できる。」

2c)「【0019】また本発明においては、前記の蒸散剤中に前記した薬剤とともに、前記薬剤の蒸散を助けるために有機発泡剤が使用される。その有機発泡剤としては、熱分解して、主として窒素ガスを発生する通常の各種有機発泡剤がいずれも使用できるが、好ましくは300℃以下の発泡温度を有するものが良い。代表的な有機発泡剤としては、次のものが挙げられる。アゾジカルボンアミド(AC)、・・・等。」

2d)「【0024】・・・本発明においては、加水発熱物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等水を添加するのみで発熱反応する物質を例示できる。」

2e)「【0026】
【実施例】以下に実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
a.試験装置
直径が52mm、高さ63mmの円筒形状からなる自己発熱容器内に粒度20メッシュの酸化カルシウム粉末65gを入れ、その上に直径が38mm、高さ40mmの円筒形状を有し、底板が鉄薄板(厚さ0.2mm)を有する薬剤容器を乗せて蒸散装置を構成する。この蒸散装置を直径が80mm、高さ80mmの円筒形状の上部開放容器内に設置する。自己発熱容器の側部最下部の周囲に等間隔で4ケ所に孔を設け、その孔の径を5種類変えて、吸水の全部が反応する時間が20秒、1分、2分、3分、5分とした。なお、本発明は水収納容器を別に設けた蒸散装置における蒸散方法に係るものであるが、この試験装置では装置を簡単にするために、水収納容器を別に設けることはせずに、水収納容器に入れるべき量の水を別に供給するようにした。
【0027】b.試験と測定結果
上部開放容器内の自己発熱容器との間隙に22mlの水を注入する。その水は前記の孔を通って自己発熱容器内に入り、酸化カルシウム粉末と接触して反応し、発熱する。その熱により薬剤容器の被加熱部たる鉄薄板製底板の温度が上昇するので、その底板の温度を底板に取り付けた温度センサーで測定する。なお、被加熱部である薬剤容器の温度としては、場所により温度が異なり、平均も出しがたいので、最も測定しやすく、かつ最も影響がある薬剤容器の底板の温度を採った。吸水開始からの時間(秒)に対するその発熱温度の変化を調べた。そして、その変化を吸水速度を変えてそれぞれ測定した。その吸水速度と発熱温度の変化を第1図に示す。」

2f)「【図1】



(3)刊行物3には次の事項が記載されている。
3a)「【請求項1】 加水発熱物質との加水発熱反応に使用する加水発熱反応用液であって、加水発熱物質への吸水開始時から100秒以内に被加熱部となる箇所の温度が300℃以上になるような液安定化剤を配合したことを特徴とする加水発熱反応用液。」

3b)「【0005】
【発明の実施の形態】・・・本発明においては、加水発熱物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等水を添加するのみで発熱反応する物質を例示できる。この加水発熱物質を熱源とし、上記薬剤及び蒸散助剤、更に必要に応じて適当な添加剤を混合してなる各種形態の混合物(蒸散剤)を間接的に加熱して上記混合物を燃焼させることなく該混合物中の蒸散助剤を熱分解させ薬剤を蒸散させるのであるが、酸化カルシウムが望ましい。」

3c)「【0015】本発明の蒸散方法において用いる蒸散剤組成物に含有させる薬剤(有効成分)としては、従来より用いられている殺虫剤、殺菌剤、忌避剤の各種薬剤が使用できる。」

3d)「【0023】また本発明においては、前記の蒸散剤中に前記した薬剤とともに、前記薬剤の蒸散を助けるために有機発泡剤、ニトロセルロース、糖類などが使用される。そのうち有機発泡剤としては、熱分解して、主として窒素ガスを発生する通常の各種有機発泡剤がいずれも使用できるが、好ましくは300℃以下の発泡温度を有するものが良い。代表的な有機発泡剤としては、次のものが挙げられる。アゾジカルボンアミド(AC)、・・・等。」

3e)「【0031】
【実施例】以下に実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】実施例1
a.試験装置
直径が52mm、高さ63mmの円筒形状からなる自己発熱容器内に粒度20メッシュの酸化カルシウム粉末65gを入れ、その上に直径が38mm、高さ40mmの円筒形状を有し、底板が鉄薄板(厚さ0.2mm)を有する薬剤容器を乗せる。それを直径が80mm、高さ80mmの円筒形状の上部開放容器内に設置する。自己発熱容器の側部最下部の周囲に等間隔で4ケ所に高さ10mm、幅10mmの孔を設けた。
【0033】b.反応用液
前記の加水発熱物質と反応させる反応用液としては次のものを用意した。
試料No.1A 塩化ベンゼトニウム 0.2w/v%水溶液
No.2A 蔗糖 0.2w/v%水溶液
No.3A 塩酸アルキルジアミノエチル
グリシン 0.2w/v%水溶液
No.1B 塩化ベンゼトニウム 1w/v%水溶液
No.2B 蔗糖 1w/v%水溶液
No.3B 塩酸アルキルジアミノエチル
グリシン 1.0w/v%水溶液
No.4 無添加の水(比較用)
【0034】c.試験と測定結果
上部開放容器内の自己発熱容器との間隙に上記試料の反応用液を各々22ml注入する。その反応用液は前記の孔を通って自己発熱容器内に入り、酸化カルシウム粉末と接触して反応し、発熱する。その熱により薬剤容器の鉄薄板製底板の温度が上昇するので、その底板の温度を底板に取り付けた温度センサーで測定する。吸水開始からの時間(秒)に対するその発熱温度の変化を調べた。そして、その変化を吸水速度を変えてそれぞれ測定した。試料No.1A、2A、3A、4についてのその吸水速度と発熱温度の変化を図1に示す。また、試料No.1B、2B、3Bについてのその吸水速度と発熱温度の変化を図2に示す。図1及び図2において、「塩ベ」は塩化ベンゼトニウム水溶液の場合を示し、「グリ」は塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液の場合を示す。
【0035】その結果によれば、安定化剤を0.2%又は1%添加した反応用液を用いた場合、缶底温度の最高発熱温度と注水開始からその温度に達するまでの時間を示すと第1表に示す通りである。この結果によると、試料No.1A、2A、3Aはいずれも最高発熱温度が300℃以上であり、300℃に達するまでの所要時間は短いもので約30秒で、長いものでも約58秒で、100秒以下の条件を満足している。また、試料No.1B、2B、3Bについても、いずれも最高発熱温度が300℃以上であり、300℃に達するまでの所要時間は短いもので約30秒で、長いものでも約70秒で、100秒以下の条件を満足している。これに対して、無添加の試料No.4は、最高発熱温度380℃で、最も高く、所要時間も80秒と、好ましいものであるが、このものは保存するとこれまでのように水が腐敗し、加水発熱物質と反応させた際には、加水発熱反応が徐々にしか進行せず、最高発熱温度も300℃以下となってしまい、加水発熱物質の発熱反応による蒸散薬剤の蒸散も少ししか行われない。この場合、薬剤容器内の有機発泡剤の発泡も不十分であった。
【0036】
【表1】

【0037】実施例2
a.試験装置
実施例1と同じ試験装置を用いた。
b.反応用液
前記の加水発熱物質と反応させる反応用液としては次のものを用意した。
試料No.3C 塩酸アルキルジアミノエチル
グリシン(20%水溶液) 0.1w/v%水溶液
(略号:テゴ51)
No.5 グルコン酸クロルヘキシジン
(20%水溶液)(GCH) 0.1w/v%水溶液
No.6 塩化セチルピリジニウム(CPC)0.1w/v%水溶液
No.7 ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)0.1w/v%水溶液
No.8 塩化ベンザルコニウム(BC) 0.1w/v%水溶液
No.9 デヒドロ酢酸ナトリウム
(DANa) 0.1w/v%水溶液
No.10 塩素化イソシアヌール酸 0.1w/v%水溶液
(CISA)
No.11 高度サラシ粉(70%) 0.1w/v%水溶液
【0038】c.試験と測定結果
実施例1と同じ試験を行い、底板の温度を底板に取り付けた温度センサーで測定する。吸水開始からの時間(秒)に対するその発熱温度の変化を調べた。そして、その変化を吸水速度を変えてそれぞれ測定した。試料No.3C(テゴ51)からNo.7(SLS)までのその吸水速度と発熱温度の変化を図3に示す。また、試料No.8(BC)からNo.11(サラシ粉)までのその吸水速度と発熱温度の変化を図3に示す。いずれも、吸水開始から100秒以内に最高発熱温度が300℃以上となっている。
【0039】実施例3
a.試験装置
実施例1と同じ試験装置を用いた。
b.反応用液
前記の加水発熱物質と反応させる反応用液としては次のものを用意した。
試料No.12 エタノール 10 w/v%水溶液
No.13 エタノール 20 w/v%水溶液
No.4 無添加の水
【0040】c.試験と測定結果
実施例1と同じ試験を行い、底板の温度を底板に取り付けた温度センサーで測定する。吸水開始からの時間(秒)に対するその発熱温度の変化を調べた。そして、その変化を吸水速度を変えてそれぞれ測定した。試料No.12からNo.13までのその吸水速度と発熱温度の変化を図5に示す。アルコールの濃度により発熱温度が低いときには、他の安定化剤との併用によっては高い発熱温度を達することができる場合がある。」

3f)「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



(4)引用発明
出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲には、「実質的に防カビ剤を含有せず、少なくとも有機系発泡剤を含む燻煙剤組成物を加熱反応させ、発生する煙によりカビの発生を抑制させることとした燻煙防カビ方法。」が記載され、当該有機系発泡剤として、アゾジカルボンアミドが記載されている(摘示1a、1c、1f)ところ、発生する煙によりカビの発生を抑制させ、有機系発泡剤を燻煙させることでカビ発生抑制効果が得られるのであるから(摘示1a、1b、1f)、アゾジカルボンアミドから発生する煙が防カビの有効成分であるといえ、上記煙は防カビ剤であるといえる。
したがって、出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、
「実質的に防カビ剤を含有せず、少なくともアゾジカルボンアミドを含む燻煙剤組成物を加熱反応して得られるアゾジカルボンアミドの煙を有効成分とする防カビ剤」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(5)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。引用発明の防カビ剤は除菌剤であるといえ、加熱反応に加熱手段を用いることは明らかである。また、引用発明の燻煙剤組成物は加熱反応して用いられるところ、該組成物の加熱によりアゾジカルボンアミドが加熱され、加熱反応により有機系発泡剤であるアゾジカルボンアミドが分解することは明らかであるから(摘示1c)、引用発明の煙はアゾジカルボンアミドの分解物であるといえる。
したがって、両者は
「加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、加熱して得られるアゾジカルボンアミドの分解物を有効成分とする除菌剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
加熱手段について、本件発明1は、「加水発熱システムによる」ことが特定されているのに対し、引用発明は、加熱手段が特定されていない点

<相違点2>
アゾジカルボンアミドの分解物について、本件発明1は、「アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られる」と特定するのに対して、引用発明は、分解物(煙)を得る際のアゾジカルボンアミドの加熱温度、加熱時間について特定されていない点

<相違点3>
除菌剤が有効成分とする分解物について、本件発明1は、「加熱開始から30分以内に発生したアゾジカルボンアミドの分解物」と特定するのに対し、引用発明は、加熱開始からどれくらいの時間に発生したアゾジカルボンアミドであるか特定していない点

事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
<相違点2について>
出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面には、アゾジカルボンアミドの加熱温度、加熱時間についての具体的な記載はない。そして、抗菌剤の有効成分として用いるアゾジカルボンアミドの分解物を得るにあたり、アゾジカルボンアミドの加熱温度、加熱時間について、「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱」することが、本件発明1に係る出願についての出願当時の技術常識であるともいえない。なお、この点について、アゾジカルボンアミドの加熱に関する記載のある刊行物2及び3の吸水開始からの時間と発熱温度又は注水からの時間と缶底温度との関係を示す図(摘示2f、3f)を参照してみても、これら刊行物に記載の加熱が、相違点2に係る加熱温度、加熱時間を満たす加熱であるとはいえない。
また、アゾジカルボンアミドの加熱温度、加熱時間の特定がない引用発明のアゾジカルボンアミドの煙(分解物)が、アゾジカルボンアミドの加熱温度、加熱時間が特定された本件発明1のアゾジカルボンアミドの分解物と同一であるという理由もない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。

よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるということはできない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、技術的にさらに限定するものであるから、本件発明1が出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるということはできない以上、出願1の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるということはできない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、平成29年12月19日付けの意見書において、甲第3号証の図3中の試料No.3Cのグラフは、発熱温度が350℃以上である時間が140秒、200℃以上である時間が350秒程度継続していることを示しており、甲第5号証(日本ゴム協会誌、(1994),第67巻、第8号、539?545頁)の表3には、アゾジカルボンアミドを熱分解した時のガス成分と分解残渣の関係が記載されており、加熱温度が高くなるほど分解残渣が減少するとともに発生ガス成分、発生ガス量が増加することが示されていることから、加熱温度が高いほどアゾジカルボンアミドの熱分解が促進されることは公知であることを指摘し、甲第3号証の段落[0013]、甲第4号証(特開2012-236813号公報)の段落[0027]等の記載に基づいてアゾジカルボンアミドの熱分解を促進させる目的で、さらに温度を上昇させる工夫を行うことは当業者であれば通常行う程度のことである旨を主張する(意見書5頁4?14行)。
そこで、検討する。
甲第3号証及び甲第4号証の当該段落の記載は次のとおりである。
甲第3号証の段落[0013]の記載
「もっとも、収納体から反応用液が早く供給されるようにしても、本発明の反応用液は保存中に腐敗しないように液安定化剤を含有させており、そのために反応用液が加水発熱物質と反応するのが遅くなるという影響があり得るが、本発明ではその点を考慮して、その液安定化剤を含有する反応用液は、加水発熱物質への吸水開始から100秒以内に被加熱部となる箇所の温度が300℃以上となるような反応性を有するものでなければならない。そして、加水発熱物質が出しうる全発熱量というのは、自己発熱容器内に収納しておく加水発熱物質の量で先に決まっているわけであるから、加水発熱物質から発熱する発熱量が早く得られる、つまり時間当たりの発熱量が大きいときには加水発熱物質部の温度が高くなることであり、ひいては薬剤容器の例えば底部の温度が高くなることである。加水発熱物質に対する水の供給がゆっくりで、時間当たりの発熱量が小さいときには、周囲へ熱が逃げることもあって、被加熱部となる箇所としての薬剤容器底部の温度が低いということになる。」
甲第4号証の段落[0027]の記載
「燻煙型殺虫剤の加熱は、伝熱部面が好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上に達するように行う。このように燻煙型殺虫剤を加熱する設定温度を制御することによって(B)成分がより揮散しやすくなる。
また、加熱によって燻煙型殺虫剤の温度を、設定温度になるべく短時間で到達させることが好ましい。具体的には、前記の各反応又は電熱線によって加熱し始めてから、好ましくは120秒以内に、より好ましくは60秒以内に、設定温度に到達するように加熱を行う。このように加熱速度を制御することにより、(B)成分の熱分解がより抑制されて殺虫効果が高まる。
さらに、設定温度をなるべく長い時間保持することが好ましい。具体的には、好ましくは90秒間以上、より好ましくは150秒間以上、設定温度を保持するように加熱を行う。このように設定温度を保持することにより、発煙継続時間が長くなり、(B)成分を処理対象の空間全体により拡散できる、又は、(B)成分の空間への揮散量をより増加させることができる。
前記の設定温度、加熱速度及び保持時間は、(B)成分の種類に応じて適宜設定すればよい。水と接触して発熱する物質として酸化カルシウムを用いる場合、酸化カルシウムと水との比率、酸化カルシウムの使用量、酸化カルシウムの商品グレードの選択により制御できる。また、燻煙型殺虫剤を収容する容器の容量又は材質等によっても制御できる。」
そして、これらの記載をみても、それぞれ加水発熱物質や燻煙型殺虫剤の熱分解に関する知見は記載されるものの、除菌剤の有効成分として用いるアゾジカルボンアミドの分解物を得るにあたり、「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱」することが本件発明1に係る出願の出願当時の技術常識であるとはいえず、また、甲第3号証及び甲第4号証の記載に基づいて、さらに温度を上昇させる工夫を行うことは、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない以上、特許法第29条の2の規定を適用し、本件発明1が出願1に係る引用発明と同一であるかを判断する際の根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立人のかかる主張は採用することができない。

(イ)さらに、特許異議申立人は、上記意見書において、甲第6号証(日本化学会誌、(1972)、No.12、2359?2364頁)の記載を挙げ、加熱手段が直接加熱方式であるか間接加熱方式であるかによって「アゾジカルボンアミドの分解物」に差異が生じるものではないと考えられる旨(意見書6頁8?19行)、乙第1号証には、本件訂正発明1(審決注:平成29年11月13日付けの訂正の請求により訂正された請求項1に係る発明)で規定される特定の温度条件を有する加熱手段によりアゾジカルボンアミドを加熱することによって得られる特定のアゾジカルボンアミド分解物が実際に得られたという分析結果は何ら記載されておらず、また、アゾジカルボンアミドの熱分解反応によって生成する主な分解生成物は、窒素、一酸化炭素、アンモニア、ビウレア、イソシアヌル酸であることは公知であるが、アゾジカルボンアミドの加熱条件を変化させることで分解生成物の種類や組成等が変化するという事実は知られていない旨(意見書9頁9?16行)主張する。
しかしながら、加熱手段のみの違いによって、アゾジカルボンアミドの分解物に差異が生じるかどうかはともかく、加熱温度の違いによって分解物が異なることは、特許異議申立人が提出した甲第5号証の「次に熱分解した時のガス成分と分解残渣^(2))の関係を表3に,加熱温度とガス組成変化の関係を図3に,加熱温度と分解挙動の関係を図4に示す.ADCA(審決注:アゾジカルボンアミド)は加熱温度,すなわち成形温度の高いほど,ガス発生量は増加し,同時にアンモニア量も増加する傾向がある.」との記載(540頁左欄4行?541頁左欄5行、図3、表3、図4)、同じく甲第6号証の「ADCAはほぼ210℃以上ではガス生成物以外に樹脂状残留物を生じたが,緩慢に分解する温度域ではガス成分と白色粉体残留物を生じた。」(2359頁左欄18?20行)、「ADCAの熱特性を調べるために・・・。240℃付近の吸熱は分解生成物の主成分であるビウレアの融点に相当し,310℃付近の吸熱はその蒸発と思われる。360℃付近からの吸熱はもう一つの分解生成物であるイソシアヌル酸の分解気化と推定される。」(2360頁左欄5?14行)、「ADCAは分解温度によって,外見上3種類の残留物を生じた。緩慢分解(181?197℃)による白色得粉体,分解温度付近(215℃)の灰白色固形物,および250?320℃で急激分解させたときの“とき色”の透明樹脂状残留物である。」(2360頁左欄27?30行)との記載からも明らかである。また、加熱温度、加熱時間の違いによって除菌効果が異なることは、本件特許権者が提出した乙1号証の記載


」(表3。なお、表中、検体1及び2は、いずれも有効成分としてアゾジカルボンアミドを98w/w%、結合剤としてα化デンプンを2w/w%有するものである。試験の詳細は省略する。)からみても明らかであり、除菌効果の違いが、有効成分の違いによって生じることも明らかであるから、加熱温度、加熱時間の違いによって、分解物が異なることは乙第1号証に示されているといえる(乙第1号証には、本件発明1に係る分解物(検体1)が示されている。)。
したがって、特許異議申立人のこの主張も採用することができない。

2 平成30年1月25日付けの取消理由通知における取消理由(特許法第36条第6項第2号)について

明確性要件違反理由1について
この理由は、「(ただし、直接加熱方式を除く)」との記載についての理由であるところ、当該記載は、平成29年11月13日付けの訂正の請求による請求項1に存在する記載であり、当該訂正の請求は、平成30年3月30日付けの訂正(本件訂正)の請求により取り下げられたものとみなされ、本件訂正により、請求項1にかかる記載は存在しないから、この理由により、請求項1及び2の特許を受けようとする発明は明確でないということはできない。

明確性要件違反理由2について
この理由は、概要、平成29年11月13日付けの訂正の請求による訂正後の請求項1に記載の「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ、温度が350℃以上となる時間が150秒以上である加熱手段」について、該温度がどこの温度を特定するものであるのか明らかでない、というものであるところ、本件訂正により請求項1の記載は「加水発熱システムによる加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られるアゾジカルボンアミドの分解物であり、かつ、加熱開始から30分以内に発生したアゾジカルボンアミドの分解物を有効成分とする除菌剤。」と訂正されており、当該記載によれば、請求項1で特定される温度がアゾジカルボンアミドが加熱される温度であることは明らかである。
また、この理由は、概要、平成29年11月13日付けの訂正の請求による訂正後の請求項1に記載の除菌剤が「温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ、温度が350℃以上となる時間が150秒以上である」という温度条件を経て得られたアゾジカルボンアミドの分解物の全てを含むのか、一部を含めばよいのか明確でない、というものであるところ、上記した本件訂正による訂正後の請求項1の記載によれば、請求項1に記載の除菌剤は、請求項1に記載の温度条件を経て得られたアゾジカルボンアミドの分解物の全てを含むことは明らかである。
したがって、この理由により、請求項1及び2の特許を受けようとする発明は明確でないということはできない。

第6 むすび
したがって、本件発明1?2に係る特許は、平成29年9月11日付けの取消理由通知書に記載した取消理由、平成30年1月25日付けの取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水発熱システムによる加熱手段を用いて、アゾジカルボンアミドを、温度が200℃以上となる時間が350秒以上であり、かつ温度が350℃以上となる時間が150秒以上で加熱して得られるアゾジカルボンアミドの分解物であり、かつ、加熱開始から30分以内に発生したアゾジカルボンアミドの分解物を有効成分とする除菌剤。
【請求項2】
さらに香料を含有する請求項1に記載の除菌剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-14 
出願番号 特願2016-122083(P2016-122083)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (A01N)
P 1 651・ 851- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊佐地 公美  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
木村 敏康
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6068712号(P6068712)
権利者 アース製薬株式会社
発明の名称 除菌剤  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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