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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
管理番号 1342967
異議申立番号 異議2017-701010  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-24 
確定日 2018-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6119939号発明「無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂及び無機粒子分散ペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6119939号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕、〔11?14〕について、訂正することを認める。 特許第6119939号の請求項1?3、5?14に係る特許を維持する。 特許第6119939号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6119939号の請求項1?14に係る特許についての出願(特願2016-569860)は、2016年(平成28年)7月22日(優先権主張 平成27年7月22日 日本国、平成27年7月23日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年4月7日に特許権の設定登録がされ、同年4月26日にその特許公報が発行されたものである。
そして、本件特許の請求項1?14に係る特許に対して、平成29年10月24日に特許異議申立人藤井正剛(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成30年2月5日付けで当審から取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月6日受付で特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ、同年4月12日付けで当審から申立人に対し通知書を送付し期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(8)のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物を含む樹脂であり、」を、「ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物を含む樹脂であり、前記混合物は、さらにカルボジイミドを混合させたものであり、前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であり、」に訂正する。請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、5?10も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、「前記混合物は、さらにカルボン酸及びカルボジイミドのうち1種以上を混合させたものであることを特徴とする」を「前記混合物は、さらにカルボン酸を混合させたものであることを特徴とする」に訂正する。請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5?10も同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5において、「請求項2乃至4のいずれか一項に」を「請求項2又は3に」に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6において、「請求項2乃至5」を「請求項1乃至3及び5」に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1乃至6」を「請求項1乃至3、5及び6」に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8において、「請求項1乃至7」を「請求項1乃至3、5乃至7」に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11において、「無機粒子分散ペーストに対して、前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤との合計量が95質量%以上であり、」を、「無機粒子分散ペーストに対して、前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤との合計量が95質量%以上であり、前記混合物は、さらにカルボジイミドを混合させたものであり、前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であり、」に訂正する。請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12?14も同様に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1、8は、訂正前の請求項1、11における「ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物」について、「さらにカルボジイミドを混合させたものであり、前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部」であることを限定するものであり、請求項1、11に記載の発明の減縮を図るものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付された特許請求の範囲の請求項2を引用する請求項4や願書に添付された明細書の【0025】に当該事項は記載されていることから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2は、請求項2における「前記混合物」にさらに添加する成分を、訂正前は「カルボン酸及びカルボジイミドのうち1種以上」としていたものを、請求項1における「混合物」が、訂正事項1により、「さらにカルボジイミドを混合させたもの」に訂正されることに伴い、請求項2において「カルボン酸」であることを限定するものであり、請求項2に記載の発明の減縮を図るものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項2に記載されていることから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項4、6?7は、訂正事項3に伴い、請求項5、7?8における引用請求項から請求項4を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 訂正事項5は、「前記カルボジイミド」についての発明特定事項を備え、請求項2乃至5のいずれか一項を引用請求項としていた請求項6について、訂正事項3に伴い、引用請求項から請求項4を削除するとともに、訂正事項1に伴い、訂正前の請求項2に記載されていたカルボジイミドが、請求項1に記載されることにより、引用請求項を「請求項1乃至3及び5」にする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

カ そして、訂正事項1?7は、本件訂正前の請求項1と当該請求項を直接的または間接的に引用していた請求項2?10についての訂正であり、訂正事項8は、本件訂正前の請求項11と当該請求項を直接的または間接的に引用していた請求項12?14についての訂正であることから、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

キ また、本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1?8には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。

(2) 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項?第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?10〕、〔11?14〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
1 請求項1?3、5?14に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3、5?14に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3、5?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物を含む樹脂であり、
前記混合物は、さらにカルボジイミドを混合させたものであり、
前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であり、
当該樹脂を固形分換算で6質量部を、平均粒径0.3μmの球状のニッケル粒子100質量部、平均粒径0.05μmのチタン酸バリウム粒子10質量部、ノニオン系界面活性剤0.5質量部、ジヒドロターピネオール68質量部、及びミネラルスピリット17質量部とともに混合し、3本ロールミルを使用して混練してペーストにしたときに、
前記ペーストに角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ、
前記ペーストの、せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下である無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項2】
前記混合物は、さらにカルボン酸を混合させたものであることを特徴とする請求項1に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項3】
前記カルボン酸の混合量が前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.2?10質量部であることを特徴とする請求項2に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記カルボン酸は、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテルであることを特徴とする請求項2又は3に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項6】
前記カルボジイミドは、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド及び1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3及び5のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項7】
前記位相差δが50°より大きいことを特徴とする請求項1乃至3、5及び6のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項8】
請求項1乃至3、5乃至7のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂と、無機粒子と、有機溶剤とを含むことを特徴とする無機粒子分散ペースト。
【請求項9】
前記無機粒子がニッケル粒子であることを特徴とする請求項8に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項10】
無機粒子分散ペーストに対して、前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤との合計量が95質量%以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項11】
ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物を含むバインダー樹脂と、
無機粒子と、
有機溶剤とを含み、
無機粒子分散ペーストに対して、前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤との合計量が95質量%以上であり、
前記混合物は、さらにカルボジイミドを混合させたものであり、
前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であり、
角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ、
せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下である無機粒子分散ペースト。
【請求項12】
前記無機粒子は、BET法により測定した比表面積が5.2m2/g以上であることを特徴とする請求項11に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項13】
前記位相差δが50°より大きいことを特徴とする請求項11又は12に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項14】
前記無機粒子がニッケル粒子であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト。」

第4 特許異議申立理由、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人が申し立てた理由は、特許異議申立書の記載によれば、以下のものであると認められる。
(申立理由1)
本件訂正前の請求項11?14に係る特許は、甲第2号証の記載事項をによると甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するものである。
(申立理由2)
本件訂正前の請求項11?14に係る特許は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(申立理由3)
本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、甲第4号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(申立理由4)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明が解決しようとする課題及びその解決手段を理解できるように記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1項に規定する委任省令要件を満足しない。
(申立理由5)
本件訂正前の請求項1?3、5、7?14に係る特許は、カルボジイミドに関する規定がなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、当該請求項を実施できる程度に十分かつ明確に記載されておらず特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。
(申立理由6)
本件訂正前の請求項1?3、5、7?14に係る特許は、カルボジイミドに関する規定がなく、発明が解決しようとする課題の解決手段が反映されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2004-200450号公報
甲第2号証:申立人によって平成29年10月9日に作成された、甲第1号証の実施例5に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストについての確認試験を行った結果の実験報告書1
甲第3号証:特開2008-112716号公報
甲第4号証:国際公開第2015/107811号
甲第5号証:本件特許の優先権書類1(特願2015-145345号(出願日:平成27年7月22日))
甲第6号証:本件特許の優先権書類2(特願2015-146217号(出願日:平成27年7月23日))
甲第7号証:申立人によって平成29年10月9日に作成された、本件特許明細書と訂正前の請求項1?3、5、7?14の記載について、確認試験を交え、検討した結果の実験報告書2

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?3、5?14に係る特許に対して、平成30年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由1の概要は以下のとおりである。なお、当該取消理由1は、上記申立理由6を概ね採用したものである。

(取消理由1)
本件請求項1?3、5?14に係る発明は、本件特許発明が解決しようとする課題を達成するための手段として、ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体の混合物にカルボジイミドを特定の混合量で混合させることが必須であると認められるものの、当該手段が請求項1?3、5?14に反映されておらず、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1項の規定に違反してされてものである。

第5 甲各号証の記載事項、引用発明
(1)甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(当審注:「・・・」は省略を表す。下線は、強調のために付したもの。)。
ア 「【発明の属する技術分野】
本発明は積層セラミックコンデンサの誘電体層であるグリーンシートに内部電極を形成するための導電性ペーストに関するものである。」(【0001】)

イ 「尚、バインダ樹脂としては、ポリビニルブチラール単独でもよいし、これ以外の樹脂たとえばエチルセルロース、ニトロセルロース、アクリルなどと併用することが可能で、有機溶剤との相溶性を改善するためには好ましい手法である。」(【0020】)

ウ 「本発明の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストは、導電性金属粒子として、例えばPt、Pd、Au、Ag、Ni、Cuなどの金属粒子または合金粒子が使用できる。
なかでもニッケル、銅から選ばれる金属または/および合金からなる粒子が好ましく、その平均粒子径が0.05?2.0μmである。」(【0021】)

エ 「実施例1?4: 共材量の効果
(導電性ペーストの製造)
内部電極用導電性ペーストに使用される有機バインダの製造は、有機溶剤(ターピネオールα、β、γ混合体)を70℃まで加熱し、インペラー(羽根車)で攪拌しながら樹脂としてエチルセルロース(EC)とポリビニルブチラール(PVB)とを所定量まで徐々に加えて得た。使用したエチルセルロースはトルエン80%・エタノール20%溶液に5重量%溶解したときの粘度が約40?300cpsの範囲にある1グレードの市販品であり、ポリビニルブチラールはトルエン50%・エタノール50%溶液に10%溶解したときの粘度が20?300cpsの範囲にある1グレードの市販品である。
導電性金属粉末としては乾式法で作製され、走査電子顕微鏡(SEM)写真観察で求めた平均粒径が0.4μmの、市販のNi粉末を用いた。また、共材としては市販のSEM観察で求めた平均粒径が0.1μmのBaTiO_(3)を用いた。Ni粉末と、共材と、上記有機バインダと、有機添加剤としてアミン価/酸価が2.0のものを混合し、スリーロールミルで完全分散させ、実施例1?4の導電性ペーストの試料を得た。得られた試料の組成を表1に示した。なお、粘度は全てブルックフィールド(株)社製B型粘度計HBTスピンドルNo.14を用い10rpm粘度が20?50Pa・sになるよう調整した。
(密着性評価結果および粘度特性評価)
得られた導電性ペースト試料の乾燥膜とその上部誘電体グリーンシートとの密着性評価は、積層チップの圧壊強度、および断面の電極アラインメントを確認することによりおこなった。その方法としては、まず1インチ角に切断された厚さ10μmのBaTiO_(3)系誘電体グリーンシートにペーストを、ウェット厚さ約3μmとなるようスクリーン印刷し、次にそのシートを80℃、3分乾燥した。続いてこのシートを20層積層し、80℃、100kg/cm^(2)で3分間熱圧着し、3mm×5mmに切断してグリーンチップを作製した。
圧壊強度についてはチップの5mm辺が加圧方向と一致する向きに5チップ立ててセットし、上下から常温5kg/cm^(2)で加圧し、この試験チップが電極と誘電体の間で剥離するかどうかを確認した。表1中、判定は全チップOKであれば○、5チップ中4個OKであれば△、それ以外を×とした。
電極アラインメントについてはグリーンチップ断面を切断、研磨し、光学顕微鏡観察により確認した。表1中、判定は全チップとも現状より上回っていれば○、5チップ中4個が現状より上回っていれば△、それ以外を×とした。
なお、ペースト粘度特性評価は10rpm粘度と100rpm粘度の比が1?4の範囲内にあるかどうかをもって合否判定した。結果は表1に示す通りである。
・・・
実施例5?8: 共材の平均粒径の効果
(導電性ペーストの製造)
共材のSEM観察により求められた粒径を変化させ、共材量を10重量%とした以外は実施例1と同様にして実施例5?6の導電性ペーストの試料を得た。試料の組成を表2に示した。なお、粘度は全てブルックフィールド(株)社製B型粘度計HBTスピンドルNo.14を用い10rpm粘度が20?50Pa・sになるよう調整した。
(密着性評価結果および粘度特性評価)
実施例1と同様にして圧壊強度と、電極アラインメントと、ペースト粘度特性とを求め結果を表2に示した。
【表2】


」(【0026】?【0034】)

(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1-1)のエの記載事項において、実施例5の導電性ペーストに注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1発明>
「トルエン80%・エタノール20%溶液に5重量%溶解したときの粘度が約40?300cpsの範囲にある1グレードの市販品であるエチルセルロース50重量%とトルエン50%・エタノール50%溶液に10%溶解したときの粘度が20?300cpsの範囲にある1グレードの市販品であるポリビニルブチラール50重量%からなる樹脂2重量%と、平均粒径が0.4μmの市販のNi粉末50.0重量%と、市販の平均粒径が0.01μmのBaTiO_(3)10重量%と、アミン価/酸価が2.0の有機添加剤1.0重量%である内部電極用導電性ペースト。」

(2)甲第2号証について
(2-1)甲第2号証の記載事項
ア 「3.報告の内容
3-1 本件特許の従来技術である甲第1号証(特開2004-200450号公報)に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストの性状について、以下のとおり確認試験を行ったので、その結果を報告する。

3-2 目的
甲第1号証の実施例5に記載の導電性ペーストが、本件特許の請求項11が規定する無機粒子分散ペーストの要件を全て充足することの確認。

3-3 確認試験の方法と結果
I.甲第1号証の実施例5の導電性ペーストの作製
甲第1号証の実施例5の導電性ペーストを作製した。すなわち、甲第1号証の実施例1において、共材の走査電子顕微鏡(SEM)観察により求められた粒径を0.01μmに変化させ、共材量を10重量%とした以外は実施例1と同様にすることで、実施例5の導電性ペーストを得た。

(1)まず、内部電極用導電性ペーストに使用される有機バインダを、段落0026の記載に従って製造した。
具体的には、有機溶剤(ターピネオールα、β、γ混合体)94.8gを70℃まで加熱し、インペラー(羽根車)で撹拌しながら樹脂としてエチルセルロース(EC)2.6gとポリビニルブチラール(PVB)2.6gとを、徐々に加えることで、有機バインダを得た。
・有機溶剤としては、日本テルペン化学(株)製、ターピネオールCを使用した。このターピネオールCは、α-、β-、γ-ターピネオールの異性体混合物である。(参考URL;http://www.nipponterpene.co.jp/products/yakuhin/yakuhin07.html)
・ECとしては、ダウケミカル社製のSTD45およびSTD100を使用した。STD45は、本件実施例で使用したB3のエチルセルロースである。これらのECは、トルエン80%・エタノール20%溶液に5重量%で溶解したときの粘度がいずれも約40?300cpsの範囲にある1グレードの市販品である。(参考URL;http://www.nisshinkasei.co.jp/denzai/ethocel.pdf)
なお、後述する導電性ペーストAは有機添加剤の作用によって相対的に低粘度となったために相対的に高粘度のSTD100を用い、導電性ペーストB,Cは有機添加剤の作用によって相対的に高粘度となったために相対的に低粘度のSTD45を用い、全体の粘度を印刷に適するように調整した。
・PVBとしては、本件実施例で使用したA1のポリビニルブチラールである積水化学工業(株)製、エスレックBM-Sを使用した。このPVBは、トルエン50%・エタノール50%溶液に10%溶解したときの粘度が20?300cpsの範囲にある1グレード市販品である。(参考URL;http://www.sekisui.co.jp/cs/product/type/slecbk/doc/index.html)

(2)次に、段落0027の記載に従って、Ni粉末と、共材と、上記有機バインダと、有機添加剤としてアミン価/酸価が2.0のものを混合し、スリーロールミルで完全分散させ、導電性ペーストを得た。
・Ni粉末としては、乾式法で作製され、走査電子顕微鏡(SEM)写真観察で求めた平均粒径が0.4μmで、非表面積が1.6m^(2)/gの、市販のNi粉末を用いた。
・共材としては、SEM観察で求めた平均粒径が0.01μm、比表面積が85m^(2)/gの、市販のBaTiO_(3)を用いた。

なお、甲第1号証の実施例には、「アミン価/酸価が2.0」の有機添加剤の具体的な構成が開示されていない。そのため、報告者は、甲第1号証に不記載の条件を恣意的に決定したと判断されることを避けるために、段落0014の記載を基に、電子ペースト分野において、酸価を示す官能基を有する化合物として一般的な、(A)カルボン酸系分散剤、(B)スルホン酸系分散剤および(C)リン酸系分散剤の3種の分散剤と、アミン価を示す官能基を有する化合物として一般的なアミン系界面活性剤と、を用い、下記表1に示す配合でこれらを混合することで、3種の「アミン価/酸価が2.0」の有機添加剤を用意した。そして、導電性ペーストとして、3種の有機添加剤をそれぞれ用いた導電性ペーストA?Cを作製した。
・カルボン酸系分散剤としては、クローダジャパン(株)製、KD16(酸価299)を用いた。
・スルホン酸系分散剤としては、クローダジャパン(株)製、Zephrym3300B(酸価140)を用いた。
・リン酸系分散剤としては、クローダジャパン(株)製、Crodafos 03A(酸価130)を用いた。
・アミン系界面活性剤としては、関東化学(株)製、ジシクロヘキシルアミン(アミン価395)を用いた。

(3)導電性ペーストA?Cの配合を、下記表1に示した。なお、導電性ペーストA?Cにおける全樹脂量を2.0重量%(甲第1号証の表2参照)とするために、有機バインダの配合は39重量%とした。
[表1]


II.甲第1号証の実施例5の導電性ペーストの性状
導電性ペーストA?Cについて、以下の物性を調べた。

(1)25℃、10rpmにおける導電性ペーストA?Cの粘度を、ブルックフィールド社製、B型粘度計HBT、スピンドルNo.14を用いて測定した。その結果、導電性ペーストA?Cの粘度は20?50Pa・sの範囲にあることが確認できた。

(2)導電性ペーストA?Cに対して、HAKKE製のレオメータRheoStress6000を用い、25℃、角周波数を6.284rad/s(1Hz)、ひずみ振幅を0.02又は0.2で一定とする周期的なひずみを印加し、応答としてのせん断応力波形からひずみと応力との位相差δを調べ、その結果を下記の表2に示した。
表2から、導電性ペーストA?Cのひずみ0.02、0.2における位相差δは、60.90°?73.31°であり、いずれも45°より大きいことが確認できた。

(3)導電性ペーストA?Cに対して、HAKKE製のレオメータRheoStress6000を用い、25℃、せん断速度40(1/s)における粘度と、せん断速度4(1/s)における粘度と、を測定した。これらの粘度の測定結果から、せん断速度40(1/s)の粘度に対するせん断速度4(1/s)の粘度の比を粘度比として算出し、下記の表2に示した。
表2から、導電性ペーストA?Cの粘度比は、2.63?4.18であり、いずれも4.5以下であることが確認できた。
[表2]



(3)甲第3号証について
(3-1)甲第3号証の記載事項
ア 「【請求項1】
セラミックグリーンシート上にスクリーン印刷される積層電子部品用導体ペーストであって、
導電性金属粉末70?95重量%と、樹脂および溶剤を含み、
動的粘弾性測定における位相差δが、周波数0.05Hzにおいて43°?72°であり、かつ周波数30Hzにおいて63°以下の範囲であることを特徴とする積層電子部品用導体ペースト。」(特許請求の範囲)

イ 「特許文献1には、セラミックグリーンシートに印刷されて積層コンデンサ等の内部電極を形成するのに適した、導電性金属粉末と、有機ビヒクルとを含む導電性ペーストにおいて、温度25℃において、ズリ速度500s^(-1)のときの粘度が1.0?10.0Pa・s、ズリ速度10s^(-1)のときの粘度が5.0?20.0Pa・sであり、かつ、周波数1Hzにて、貯蔵弾性率と損失弾性率との比(tanδ)が2.0以上8.0以下となるようにすることにより、印刷後の図形ににじみ、目詰まり、糸引き、スキージによるペーストの削り取り等の問題を解決し得ることが記載されている。これは、スクリーン印刷時のにじみ、糸引き等の不具合は、ペーストが印刷時の高ズリ速度下の粘度から開放されて、低ズリ速度下に変化した際の構造回復の速さに起因して発生し、この速さはペーストを構成している粘性成分(動的粘弾性測定における損失弾性率)と弾性成分(動的粘弾性測定における貯蔵弾性率)の割合に影響されると考え、特定の周波数1Hzにて貯蔵弾性率と損失弾性率との比であるtanδを特定範囲に調整することで解決を図ったものである。
【特許文献1】特開2003-124052号公報」(【0012】)

ウ 「本発明者等は、ペーストに正弦振動を与えてその応答を観測する動的粘弾性測定により、ペーストの印刷性を評価した結果、導電性金属粉末の含有量の高い導体ペーストでは、特定の周波数における複素弾性率G*(ω)における位相差δと、連続スクリーン印刷時の、にじみ、かすれ、欠け、だれの発生に相関があり、この周波数における位相差δが特定範囲となるように設計することにより、これらの不具合を発生しない導体ペーストが得られることを見出し、本発明を完成させたものである。」(【0015】)

エ 「本発明は、膜厚が厚く、かつ連続スクリーン印刷においても欠陥のないラインを高精度で形成することを可能にするために、積層電子部品用導体ペースト(以下、「導体ペースト」又は「ペースト」とも言う)の動的粘弾性特性を測定したとき、前記位相差δが以下の範囲に入るよう、ペーストを設計、調製することが特徴である。
i)周波数0.05Hzでのδが43°?72°の範囲。
ii)周波数30Hzでのδが63°以下の範囲。
0.05Hzでδが43°より小さい場合、連続スクリーン印刷によりにじみが発生する。これは粘性に比べて弾性が高すぎ、スクリーンのメッシュ部分をペーストが通過しやすく、ペースト吐出量が高すぎてしまい、ペーストが版裏に回り込むためと考えられる。また、0.05Hzでδが72°より大きいペーストは、連続スクリーン印刷により膜厚不足になったり印刷かすれやパターンの欠けが発生したりする。これは弾性に比べて粘性が高すぎて、スクリーンのメッシュ部分をペーストが通過しにくくなり、基板への転写量が少なくなるためと考えられる。0.05Hzにおけるδの値は、43°?64°の範囲であることがより好ましい。0.05Hzでδが64°を超える場合、連続印刷開始直後はペーストの吐出量が安定せず、かすれが発生することがある。この問題は、はじめに10回程度の捨て印刷を行なうことで解決できるが、64°以下であれば、連続印刷開始直後にもかすれの発生がなく、優れた印刷性が得られる。
しかしながら、周波数0.05Hzでの位相差δが43°?72°の範囲に入るペーストでも、周波数30Hzでδが63°を超える場合には、印刷だれが発生する。これはペーストの粘性が弾性に比べて高すぎて、流動し易くなるためと考えられる。
本発明において、ペーストの動的粘弾性は、レオメータを用いて次のようにして測定される。ペーストの動的粘弾性は、貯蔵弾性率G’(ω)や損失弾性率G”(ω)あるいは位相差δなどの粘弾性関数が、応力や変形に依存しない線形領域で測定される。具体的には、まず周波数を一定にして歪み量を変化させ、粘弾性関数が一定値を示す線形領域を求める。次にこの線形領域内の一定の歪み量で周波数を変化させて位相差δを測定する。このとき歪み量が線形領域内の比較的高い値で測定すると、装置の精度による誤差が小さくなるので好ましい。」(【0023】?【0026】)

オ 「本発明の導体ペーストは、常法により、各材料を混合、混練し、導電性金属粉末を樹脂および溶剤を含むビヒクル中に均一に分散させることにより調製される。本発明は、前記位相差δが前記範囲内にある時に、前述のような優れた連続印刷性が得られることを利用して、導体ペーストを構成する各材料の取捨選択や配合比等を決定することが特徴である。即ち、本発明の導体ペーストは、実際に各材料を混練して得られたペーストの動的粘弾性特性を測定した時の、前記位相差δが前記の範囲に入るように設計が行われる。動的粘弾性特性に影響を与える要因は、各ペースト材料の配合比の他、導電性金属粉末の粒径、表面状態や凝集度、また樹脂の種類、重合度、溶剤への溶解性や樹脂溶液(ビヒクル)の粘度などがある。従って具体的には、導体ペーストを設計する際、例えば使用する幾つかの材料候補を実際に混練してペーストを作製し、位相差δが好ましい範囲内であるか若しくは当該範囲に近い組成に絞った上で、必要に応じて、さらに材料選択や配合比等の微調整を行うことにより、印刷性に優れた導体ペースト組成を決定することができる。あるいは、予め多種の材料の組合せと、それらの配合比を変えた複数種のペーストを作成しておき、これらの動的粘弾性特性を測定して多数の位相差データが得られている場合には、このデータに基づいて最終組成を決定することもできる。」(【0028】)

カ 「次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお、実施例および比較例において、銀粉末の粒子径は、全てBET法で測定された比表面積からの換算粒子径である。
[実施例1]
導電性金属粉末として粒子径1.79μmの球状銀粉末a89.0重量部、エチルセルロースAの12%ブチルカルビトール溶液からなる粘度30Pa・sのビヒクル11.0重量部を混合し、3本ロールミルを使って混練して、導体ペーストを作製した。なお、エチルセルロースAは、5%トルエン-エタノール溶液の粘度(規格値)が約0.150?0.250Pa・sであるハーキュレス社製N-200である。またビヒクルの粘度は、ブルックフィールド社製回転粘度計を用いて25℃、ずり速度4s^(-1)で測定されたものである。
得られた導体ペーストのレオロジー特性を、市販のレオメータ(TAインスツルメント社製AR1000)を用い全て25℃で測定した。即ち、動的粘弾性測定モードにて、予め求めた線形領域内で周波数を変化させ、動的粘弾性測定を行った。周波数0.05Hz、1Hz、および30Hzにおける位相差δは、それぞれ49.1°、64.3°、51.9°であった。また、降伏値として、定常流粘度測定モードにおいて静置されたペーストに与える微小応力を次第に大きくし、ペーストの流動が生じた応力を測定したところ、4.4Paであった。さらに、ブルックフィールド社製回転粘度計を用いてずり速度0.4s^(-1)、4s^(-1)、40s^(-1)における粘度を25℃で測定したところ、それぞれ650Pa・s、245Pa・s、84Pa・sであった。レオメータを用いて測定されたずり速度500s^(-1)における粘度は、25℃で20Pa・sであった。
・・・
[実施例2?12、比較例1?6]
導電性金属粉末として粒子径の異なる9種類の球状銀粉末(b1?b2、c1?c3、d、e、f)を、またビヒクルとして5種類のエチルセルロースのブチルカルビトール溶液を用い、表1に示す配合で各材料を混合し、3本ロールミルを使って混練して、導体ペーストを作製した。
・・・
【表1】

」(【0036】?【0043】)

(4)甲第4号証について
(4-1)甲第4号証の記載事項
ア 「積層型電子部品、たとえば積層セラミックコンデンサー(MLCC)では、急激に高容量化、小サイズ化が進んでいる。
MLCCでは、チタン酸バリウムなどの高誘電材料を含むセラミックグリーンシートと、主に導電性材料、バインダー樹脂および溶剤を含む導電性ペーストから形成された層とを、交互に多層積層し、乾燥・焼成によって誘電層と電極層とが交互に積層されたチップを得ている。MLCCの高容量化に伴い、多層化、各層の薄膜化が要求されているが、これによって様々な製造上の問題が発生している。特に問題となっている点は、電極層の膜強度や、誘電材料シートに対する密着性が不十分となり、そのために欠陥を生じたり、電極層が誘電層界面から剥離することである。また、導電性材料の微粒子化にともなってバインダー樹脂中への分散性が低下することで形成した電極が不均一になり、得られたMLCCの容量低下や電気的短絡を起こしやすいという問題もある。」([0002])

イ 「発明が解決しようとする課題
しかしながら、上記先行技術に記載されている混合バインダー樹脂について検討したところ、セルロース誘導体と他の樹脂との相溶性が低いために、たとえば導電性ペーストに用いた場合、該導電性ペーストにおいて相分離などを生じてペーストの均質性、更には該ペーストから形成された塗布膜の均質性が低下する、また導電性ペーストで形成された塗布膜中の金属粒子の分散性が低下し、塗布膜の平滑性が低下する、更には塗布膜に微細な穴(欠陥)を生じ、延いては焼成後の塗布膜(金属膜など)において平滑性や緻密性などの膜質が低下するなどの問題が生じ易いことを見出した。
したがって、本発明の主な目的は、導電性ペーストなどの塗布用ペーストに好適に使用されるバインダー樹脂であって、それをペーストに用いることにより形成された塗布膜の平滑性や緻密性などの膜質を向上させることができるバインダー樹脂およびその製造方法ならびに該製造方法により製造されたバインダー樹脂を用いた樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
セルロース誘導体と、ポリビニルアセタールと、前記セルロース誘導体および前記ポリビニルアセタールが有する水酸基と反応工程において反応可能な官能基を分子内に2以上有する結合剤とを、準備する準備工程と、
前記セルロース誘導体と、前記ポリビニルアセタールと、前記セルロース誘導体および前記ポリビニルアセタールのうち、添加するモル数が多い方に対して、2倍モル量以上の前記結合剤とを、混合し、前記水酸基と前記官能基とを結合させる反応工程とを、有するバインダー樹脂の製造方法が提供される。」([0005]?[0006])

ウ 「(1)セルロース誘導体
セルロース誘導体とはメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース、アセチルセルロースなどから選択される高分子材料である。・・・
(2)ポリビニルアセタール
ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどが好適である。・・・
(3)結合剤
結合剤は前記セルロース誘導体および前記ポリビニルアセタールが有する水酸基と反応可能な官能基を分子内に2以上有するものであるが、結合剤の官能基は反応工程において反応可能であればよく、活性剤の添加により反応可能となる官能基を有する結合剤であってもよい。
結合剤としては、反応性を有する複数の官能基を有した、(ポリ)エチレンオキシド基、アルキル基、アルキレン基またはシリコーン基を骨格とする化合物が使用可能であり、上記の官能基としては、カルボキシル基、イソシアネート基、酸無水物基などが挙げられる。具体的には、結合剤として、多官能イソシアネート化合物や、複数のカルボキシル基を有する化合物およびその無水物などが使用される。
・・・
上記のなかでも、好ましくは、反応性に富んだ多官能イソシアネート化合物や、結合時に比較的長い分子鎖がスペーサーとして作用するポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテルが使用され、特に好ましくは、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテルが使用される。
・・・
以下では、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテルを、特に断りの無い限り単に「PEG」と呼ぶ。
・・・
(4)活性化剤
用いる結合剤によっては、その官能基は活性化剤によって前記セルロース誘導体および前記ポリビニルアセタールが有する水酸基と反応可能になる。例えばカルボジイミドや塩化チオニルなどの、エステル化反応などを活性化させる活性化剤が使用される。具体的には、結合剤としてPEGを用いた場合、エステル化反応を活性化させる活性化剤が用いられ、この場合、活性化剤により、結合剤が前記水酸基と反応可能となる。・・・」([0013]?[0018])

エ 「合成例2
減圧乾燥によって十分に乾燥させた、エチルセルロース(ダウ・ケミカル製:STD200、数平均分子量Mn=80000)15gおよびポリビニルブチラール(積水化学工業製:BM-S、数平均分量Mn=53000)10gを、1,4-ジオキサン(和光純薬工業製)250gに均一に溶解させた。
かかる溶液に対し、PEG(Sigma-Aldrich製:Mn=600)0.34g(ポリビニルブチラールのモル数に対して3倍モル量)、カルボキシル基活性化剤であるN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(和光純薬工業製)0.143g(PEGのモル数の2倍モル量)および反応促進剤である4-ジメチルアミノピリジン1mgを添加し、30℃で24時間、撹拌しながら反応させた。反応終了後、溶液を減圧ろ過して副生成物のウレアを除去したのちに減圧乾燥させた。
当該生成物をGPC分析したところ、エチルセルロースとポリビニルブチラールとの高分子混合物に比べて高分子量側にシフトしていた。さらに粘度測定を行ったところ、反応後には高粘度化していた。
合成例3
合成例2において、結合剤であるPEG(Sigma-Aldrich製:Mn=600)を0.566g(ポリビニルブチラールのモル数に対して5倍モル量)、カルボキシル基活性化剤であるN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(和光純薬工業製)を0.24g(PEGのモル数の2倍モル量)とした。
それ以外は合成例2と同様な反応と操作によってバインダー樹脂を合成した。
当該生成物をGPC分析したところ、エチルセルロースとポリビニルブチラールとの高分子混合物に比べて高分子量側にシフトしていた。さらに粘度測定を行ったところ、反応後には高粘度化していた。
合成例4
合成例2において、結合剤であるPEG(Sigma-Aldrich製:Mn=600)を0.792g(ポリビニルブチラールのモル数に対して7倍モル量)、カルボキシル基活性化剤であるN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(和光純薬工業製)を0.34g(PEGのモル数の2倍モル量)とした。
それ以外は合成例2と同様な反応と操作によってバインダー樹脂を合成した。
当該生成物をGPC分析したところ、エチルセルロースとポリビニルブチラールとの高分子混合物に比べて高分子量側にシフトしていた。さらに粘度測定を行ったところ、反応後には高粘度化していた。」([0040]?[0042])

オ 「合成例9(2段階反応)
減圧乾燥によって十分に乾燥させたポリビニルブチラール(積水化学工業製:BM-S、数平均分量Mn=53000)10gを1,4-ジオキサン(和光純薬工業製)100gに均一に溶解させた。かかる溶液に対し、結合剤としてPEG(Sigma-Aldrich製:Mn=600)0.566g(ポリビニルブチラールのモル数に対して5倍モル量)、カルボキシル基活性化剤であるN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(和光純薬工業製)0.12g(PEGのモル数の1倍モル量)、反応促進剤である4-ジメチルアミノピリジン1mgを添加・混合し、30℃で24時間、撹拌しながら反応させて1段階目の反応を実施した。
次に、エチルセルロース(ダウ・ケミカル製:STD200、数平均分子量Mn=80000)15gを1,4-ジオキサン(和光純薬工業製)150gに均一に溶解させた溶液を調製し、これにN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(和光純薬工業製)0.12g(PEGのモル数の1倍モル量)を添加・溶解させた後、かかる溶液を、先のポリビニルブチラール反応溶液に混合して、30℃で24時間、撹拌しながら反応させて2段階目の反応を実施した。反応終了後、溶液を減圧ろ過して副生成物のウレアを除去したのちに減圧乾燥した。
当該生成物をGPC分析したところ、エチルセルロースとポリビニルブチラールとの高分子混合物に比べて高分子量側にシフトしていた。さらに粘度測定を行ったところ、反応後には高粘度化していた。」([0047])

カ 「(2)導電性ペーストの作製
(2.1)本発明実施例1-1?1-15および比較例1-1?1-7
上記合成例1?15および比較合成例1?7で作製したそれぞれのバインダー樹脂を、ニッケル粒子と共に有機溶剤に分散した導電性ペーストを作製し、実施例1-1?1-15および比較例1-1?1-7の導電性ペーストサンプルとした。
各サンプルの作製にあたり、配合比は以下のとおりとして、3本ロールを使って混練して導電性ペーストを作製した。
ニッケル粒子(昭栄化学工業製、レーザー散乱法による体積平均粒径(D50)=0.3μm):100重量部
バインダー樹脂:8重量部
有機溶剤(ジヒドロターピネオール(日本テルペン化学製)):100重量部」([0062])

キ 「[サンプルの評価]
導電性ペーストを、ガラス基板上に塗布膜厚30μmで塗布し、その後130℃で5分間乾燥させた。
塗布・乾燥膜について、AFM(原子間力顕微鏡:キーエンス製)を使って表面粗さデータからRa値を求めた。
また、塗布・乾燥膜について、SEM(電子顕微鏡:日本電子製)により、穴の大きさや特定面積における穴の数(20μm×20μmの視野における0.5μm×0.5μm未満の欠陥穴の数)を観察して膜質を評価した。
SEMによる膜質評価の指標は下記のとおりとした。
「○」:5個以下
「△」:6?10個
「×」:11個以上あるいは0.5μm×0.5μm以上の穴の存在
さらに、導電性ペーストを、ガラス基板上に塗布膜厚100μmでキャストし乾燥させ、その膜の体積と重さから膜密度を算出した。
評価結果を表1?表2に示す。
[表1]

」([0064]?[0066])

(4-2)甲第4号証に記載された発明
ア 上記(4-1)のエ?カの記載事項において、合成例2?4、9の導電性ペーストに用いるバインダー樹脂に注目すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明1」という。)が、また、合成例2?4、9のバインダー樹脂を使用した導電性ペーストに注目すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明2」という。)が記載されているものと認められる。

<甲4発明1>
「エチルセルロース15gおよびポリビニルブチラール10gに対し、PEG(ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテル)0.34g?0.792(ポリビニルブチラールのモル数に対して3?7倍モル量)、カルボキシル基活性化剤であるN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド0.143?0.34g(PEGのモル数の2倍モル量)および反応促進剤である4-ジメチルアミノピリジン1mgを添加し反応させた、ニッケル粒子と共に有機溶剤に分散する導電性ペースト用バインダー樹脂。」

<甲4発明2>
「エチルセルロース15gおよびポリビニルブチラール10gに対し、PEG(ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテル)0.34g?0.792(ポリビニルブチラールのモル数に対して3?7倍モル量)、カルボキシル基活性化剤であるN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド0.143?0.34g(PEGのモル数の2倍モル量)および反応促進剤である4-ジメチルアミノピリジン1mgを添加し反応させたバインダー樹脂8重量部を、ニッケル粒子100重量部と共に有機溶剤100重量部に分散した導電性ペースト。」

第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由1について
ア 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)の概要
本件特許明細書の発明の詳細な説明からは、【0005】に記載されている本件特許発明が解決しようとする課題を解決する手段として、ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体にカルボジイミドを特定の混合量で混合させることが必須であると認められるものの、当該手段であるカルボジイミドを特定の混合量で樹脂に混合させることが本件訂正前の請求項1及び11に記載されていないことから、本件訂正前の請求項1及び11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えた部分も含むものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとしたものである。
なお、当該取消理由1は、上記申立理由6を概ね採用したものである。

イ 取消理由に対する判断
上記第2で示したように、本件訂正は認められ、請求項1及び11に、ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体を含む混合物に、カルボジイミドをセルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部混合する発明特定事項を備えることになったため、上記アの取消理由は解消され、本件特許の請求項1及び11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たするものである。また、請求項1を引用する請求項2?3、5?10及び請求項11を引用する請求項12?14に係る発明も同様に、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。

2 取消理由として採用しなかった申立理由について
(1)申立理由1及び2(特許法第29条第1項第3号および第29条第2項)について
ア 本件特許発明11と甲1発明について
(ア)対比
本件特許発明11と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点1?1:バインダー樹脂について、本件特許発明11では、ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物にカルボジイミドを混合させたものであり、前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であるのに対し、甲1発明では、カルボジイミドをポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体の混合物に混合しない点。

相違点1-2:無機粒子分散ペーストについて、本件特許発明11では、「角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ」「前記ペーストの、せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下」であるのに対し、甲1発明では、位相差δ及び粘度の比について明らかでない点。

(イ)相違点についての判断
(イ-1)相違点1-1について
上記相違点1-1に係る本件特許発明11の発明特定事項、すなわち、カルボジイミドを特定の混合量でポリビニルアセタール及びセルロース誘導体を混合させた混合物に混合させることについては、本件特許明細書の【0012】【0018】、【0023】、実施例の記載を考慮すると、無機粒子含有ペーストが「所定のレオロジー特性(位相差δ、粘度比)を有することにより、接着性(密着性)や機械強度に優れたポリビニルアセタールと、印刷性に優れたセルロース誘導体のそれぞれの特性を阻害することなく、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂が得られる。」という技術的意義を有するものであることから、上記相違点1-1は、本件特許発明11が解決すべき課題に関連する実質的な相違点であるといえる。
また、甲第1号証には、無機粒子含有ペーストのバインダー樹脂を構成するエチルセルロースとポリビニルブチラールとの混合物にカルボジイミドを配合することは記載されていないし、無機粒子含有ペーストの印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂を得るために樹脂成分にカルボジイミドを混合させることが本件特許の最先もしくは2つ目の優先日前において、技術常識であったとも認められないので、甲1発明において、上記相違点1-1に係る本件特許発明11の発明特定事項を設けることは、当業者であっても容易であるとはいえない。

(イ-2)相違点1-2について
上記(イ-1)における、相違点1-1の検討より、本件特許発明11は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明から当業者が容易になし得たものとはいえないものであるが、念のため、上記相違点1-2についても検討する。

(イ-2-1)
相違点1-2に係る本件特許発明11の発明特定事項に関し、本件特許明細書の【0012】には、「無機粒子分散ペーストは、位相差δ の値が45°以下の場合には弾性的性質を有するが、位相差δの値が45°より大きい場合には粘性的性質を有する。」、「本発明のバインダー樹脂を上記所定の条件によりペースト化した場合に、粘度比が4.5以下と小さくなる。そのため、印刷時におけるサドル効果の減少やレベリング性の向上が期待できる。」、「所定のレオロジー特性(位相差δ、粘度比)を有することにより、接着性(密着性)や機械強度に優れたポリビニルアセタールと、印刷性に優れたセルロース誘導体のそれぞれの特性を阻害することなく、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂が得られる。」と記載されていることから、この発明特定事項を設けることが、【0005】に記載される本件特許発明が解決しようとする課題を達成する一つの手段であるといえる。

(イ-2-2)
一方、申立人は、特許異議申立書(第25頁下から第2行から第27頁第2行)にて、甲第2号証である実験報告書に記載された事項より、甲1発明が、上記相違点1-2を、本来備える特徴であることを主張している。ここで、申立人の主張の根拠となる甲第2号証について検討すると、甲第2号証は、甲第1号証の実施例5に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストについての確認試験の結果をまとめたものとされているが、その結果は、上記第5の(2)(2-1)摘記アのとおりであり、当該結果によっては、上記第5の(1)(1-1)摘記エに示されるように、甲第1号証の実施例5の具体的態様と同様に、特徴的な性質として有する「圧壊強度」、「電極アライメント」、「ペースト粘度」において優れるものであることを確認することはできない。してみると、甲第2号証に示される確認試験の結果は、甲第1号証の実施例5に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストが有する特徴的な性質が確認できないため、これを、甲第1号証の実施例5の記載に基づいて忠実に行われた確認試験であるとは認められない。

(イ-2-3)
上記(イ-2-1)のとおり、上記相違点1-2に係る本件特許発明11の発明特定事項は、無機粒子含有ペーストが「所定のレオロジー特性(位相差δ、粘度比)を有することにより、接着性(密着性)や機械強度に優れたポリビニルアセタールと、印刷性に優れたセルロース誘導体のそれぞれの特性を阻害することなく、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂が得られる。」という技術的意義をもって設けられたものであり、また、甲第2号証は、上記(イ-2-2)のとおり、甲第1号証の実施例5の記載に基づいて忠実に行われた確認試験であるとは認められないから、上記相違点1-2は、本件特許発明11が解決すべき課題に関連する実質的な相違点であるといえる。

(イ-2-4)
さらに、申立人は、甲第3号証に記載された事項から、上記相違点1-2に係る本件特許発明11の発明特定事項とすることは、単なる設計事項に過ぎないと主張している(特許異議申立書第27頁第3行から下から第5行)。しかしながら、甲第3号証における最も重要な技術的な特徴は、第5の(3)(3-1)ア、エ、カによると、積層電子部品用導体ペーストの「動的粘弾性測定における位相差δが、周波数0.05Hzにおいて43°?72°であり、かつ周波数30Hzにおいて63°以下の範囲であること」であるといえ、さらに、第5の(3)(3-1)イの従来技術の記載も考慮すると、甲第3号証に記載された発明は、本件特許発明11に規定される「角周波数6.284rad/s」に相当する周波数1Hzおける、動的粘弾性測定による位相差δに注目したものとはいえない。また、第5の(3)(3-1)カに示される実施例と比較例における粘度、位相差δの結果を見ると、複数の実施例、比較例で上記相違点1-2の条件を満足する具体的態様は確認できるが、これら実施例から比較例にわたって見られる個々の具体的態様から上記相違点1-2に係る本件特許発明11の発明特定事項を抽出することは困難であるといえ、特に、上記のように甲第3号証において、注目されていない「角周波数6.284rad/s」に相当する周波数1Hzおける、動的粘弾性測定による位相差δに関する条件を抽出するのは極めて困難といえる。そして、その抽出された条件を甲1発明に適用しようとする動機付けも存在しない。
したがって、本件特許発明11が、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項とに基づき、当業者が容易になし得るものであるとする申立人の上記主張は採用できない。

(イ-3)小活
上記(イ-1)及び(イ-2)より、本件特許発明11は、甲第2号証を参照しても甲1発明と実質的な相違点があり、同一の発明であるということはできない。また、本件特許発明11は、甲1発明、甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものであるともいえない。

イ 本件特許発明12?14と甲1発明について
本件特許発明12?14は本件特許発明11を引用するものであるから、甲1発明と対比すると、少なくとも上記相違点1-1及び上記相違点1-2で相違するものである。そして、上記アで検討したように、本件発明12?14も、甲第2号証を参照しても甲1発明と相違点1-1、1-2で実質的に相違し、また、甲1発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)申立理由3(特許法第29条第2項)について
ア 甲第4号証の公開時刻について
申立人は、特許異議申立書(第32頁第1行?第33頁第4行)にて、甲第4号証は、世界知的所有権機関による通常の国際公開公報の公開時間によれば、平成27年7月23日の16:30?17:00に公開されたものと考えられ、一方、本件特許の2つ目の優先の基礎となる平成27年7月23日に出願された特願2015-146217号は、その出願番号から同日の17時30分以降に出願されたものである蓋然性が高く、甲第4号証が特願2015-146217号の出願前に公開されたものであると主張する。
しかしながら、申立人の上記主張は、平成27年7月23日の全ての特許出願が一定の間隔で出願されたことを前提としているところ、そのようなことが現実味を欠くことが明らかであるし、特願2015-146217号の現実の出願時刻については、何ら明らかでないことから、甲第4号証の公開との前後関係は、明らかであるとはいえない。したがって、出願人の上記主張を採用することはできない。

イ 本件特許発明と甲第4号証に記載された発明について
上記アに示すように、甲第4号証は、本件特許の2つ目の優先の基礎となる平成27年7月23日に出願された特願2015-146217号の出願前に公開にされたものであるか明らかではないが、仮に、甲第4号証の公開が特願2015-146217号の出願より前にされたものであったとして、以下検討を行う。
(ア)本件特許発明1について
(ア-1)対比
本件特許発明1と甲4発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

相違点2?1:樹脂を固形分換算で6質量部を、平均粒径0.3μmの球状のニッケル粒子100質量部、平均粒径0.05μmのチタン酸バリウム粒子10質量部、ノニオン系界面活性剤0.5質量部、ジヒドロターピネオール68質量部、及びミネラルスピリット17質量部とともに混合し、3本ロールミルを使用して混練してペーストにしたときの特性について、本件特許発明1では、「角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ」「前記ペーストの、せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下」であるのに対し、甲4発明1では、前記位相差δの値及び粘度の比について明らかでない点。

(ア-2)相違点についての判断
上記相違点2-1は、上記(1)ア(イ-2)で検討した相違点1-2と実質的に同じものである。そして、上記(1)ア(イ-2)の(イ-2-3)?(イ-2-4)での検討と同様に、当該相違点2-1は、本件特許発明1が解決すべき課題に関連する実質的な相違点であるといえ、また、甲第3号証に記載された多くの実施例及び比較例で上記相違点2-1の条件を満足する具体的態様は確認できるが、これら実施例と比較例にわたって見られる個々の具体的態様から上記相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を抽出し、甲4発明1に適用しようとする動機付けは存在しない。したがって、本件特許発明1が、甲第4号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項とに基づき、当業者が容易になし得るものであるとする申立人の上記主張は採用できない。

(イ)本件特許発明2?3、5?10について
本件特許発明2?3、5?10は本件特許発明1を引用するものであるから、甲4発明1と対比すると、少なくとも上記相違点2-1で相違するものである。そして、上記(ア)で検討したように、本件発明2?3、5?10も、甲4発明1と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ウ)本件特許発明11について
(ウ-1)対比
本件特許発明11と甲4発明2とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

相違点3?1:無機粒子分散ペーストについて、本件特許発明11では、「角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ」「前記ペーストの、せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下」であるのに対し、甲4発明2では、前記位相差δの値及び粘度の比について明らかでない点。

(ウ-2)相違点についての判断
上記相違点3-1は、上記(1)ア(イ-2)で検討した相違点1-2と同じものである。そして、上記(1)ア(イ-2)の(イ-2-3)?(イ-2-4)での検討と同様に、当該相違点3-1は、本件特許発明11が解決すべき課題に関連する実質的な相違点であるといえ、また、甲第3号証に記載された多くの実施例及び比較例で上記相違点3-1に規定される特性を満足する具体的態様は確認できるが、これら実施例と比較例にわたって見られる個々の具体的態様から上記相違点3-1に係る本件特許発明11の発明特定事項を抽出し、甲4発明2に適用しようとする動機付けは存在しない。したがって、本件特許発明11が、甲第4号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項とに基づき、当業者が容易になし得るものであるとする申立人の上記主張は採用できない。

(エ)本件特許発明12?14について
本件特許発明12?14は本件特許発明11を引用するものであるから、甲4発明2と対比すると、少なくとも上記相違点3-1で相違するものである。そして、上記(ウ)で検討したように、本件発明12?14も、甲4発明2と相違点3-1で実質的に相違し、また、甲4発明2と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について
ア 本件特許の請求項1及び11には、上記第3に示したとおり、「角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく」(以下、「位相差δの規定」という。)、かつ、「せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下」(以下、「粘度比の規定」という。)である「無機粒子分散ペースト」が記載されている。

イ そして、本件特許明細書の【0005】には、本件特許発明が解決しようとする課題として「印刷性及び接着性がともに優れる無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂及び無機粒子分散ペーストを提供すること」と記載されている。

ウ また、本件特許明細書【0012】には、「無機粒子分散ペーストは、位相差δ の値が45°以下の場合には弾性的性質を有するが、位相差δの値が45°より大きい場合には粘性的性質を有する。」、「本発明のバインダー樹脂を上記所定の条件によりペースト化した場合に、粘度比が4.5以下と小さくなる。そのため、印刷時におけるサドル効果の減少やレベリング性の向上が期待できる。」、「所定のレオロジー特性(位相差δ、粘度比)を有することにより、接着性(密着性)や機械強度に優れたポリビニルアセタールと、印刷性に優れたセルロース誘導体のそれぞれの特性を阻害することなく、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂が得られる。」と記載されており、本件特許の請求項1及び11に記載される位相差δの規定と粘度比の規定を満足することにより、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂が得られる、すなわち、上記イに示した本件特許発明が解決しようする課題を解決できることが説明されている。

エ そして、本件特許明細書【0036】?【0052】に示される実施例においても、本件特許の請求項1及び11に記載される位相差δの規定と粘度比の規定を満足する態様により、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂、無機粒子分散ペーストを提供できることが実証されている。

オ 上記イ?エから、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、本件特許の請求項1及び11に記載される位相差δの規定と粘度比の規定が、印刷性と接着性を両立したバインダー樹脂、無機粒子分散ペーストを提供できるという技術的意義を有すると理解できるので、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1項に規定する委任省令要件を満足しないとはいえない。

(4)申立理由5(特許法第36条第4項第1号)について
ア 申立理由5の概要
本件特許明細書の発明の詳細な説明から、ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体を所定の割合で含むバインダー樹脂を用いた無機粒子含有ペーストは、バインダー樹脂がカルボジイミドを含むか否かで、レオロジー特性が大幅に異なるものであるが、本件訂正前の請求項1?3、5、7?14には、カルボジイミドに関する規定がないため、カルボジイミドを含まないバインダー樹脂について、如何にすれば、当業者が、当該請求項を実施できる程度に十分かつ明確に記載されておらず特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。

イ 申立理由5についての判断
当業者であれば、無機粒子含有ペーストのレオロジー特性を評価する手法に関し、どのような機器、条件で測定し評価するのか、出願時の技術常識に基づき理解できるものと認められるため、本件訂正前の1?3、5、7?14に係る発明のカルボジイミドを含まない部分についても、通常のレオロジー評価手法を用いて無機粒子含有ペーストのレオロジー特性を評価することで、当業者が実施できるものであるといいえる。
また、上記第2で示したように、本件訂正は認められ、請求項1及び11に、ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体を含む混合物に、カルボジイミドをセルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部混合する発明特定事項を備えることになったため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1項の規定を満足しないとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由、特許異議申立の理由、及び、証拠によっては、本件訂正請求によって訂正された請求項1?3、5?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件訂正請求により訂正された請求項1?3、5?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項4に係る特許は存在しなくなったので、当該請求項4に係る特許については、特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物を含む樹脂であり、
前記混合物は、さらにカルボジイミドを混合させたものであり、
前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であり、
当該樹脂を固形分換算で6質量部を、平均粒径0.3μmの球状のニッケル粒子100質量部、平均粒径0.05μmのチタン酸バリウム粒子10質量部、ノニオン系界面活性剤0.5質量部、ジヒドロターピネオール68質量部、及びミネラルスピリット17質量部とともに混合し、3本ロールミルを使用して混練してペーストにしたときに、
前記ペーストに角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ、
前記ペーストの、せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下である無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項2】
前記混合物は、さらにカルボン酸を混合させたものであることを特徴とする請求項1に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項3】
前記カルボン酸の混合量が前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.2?10質量部であることを特徴とする請求項2に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記カルボン酸は、ポリエチレングリコールビスカルボキシメチルエーテルであることを特徴とする請求項2又は3に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項6】
前記カルボジイミドは、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド及び1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミドのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3及び5のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項7】
前記位相差δが50°より大きいことを特徴とする請求項1乃至3、5及び6のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂。
【請求項8】
請求項1乃至3、5乃至7のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂と、無機粒子と、有機溶剤とを含むことを特徴とする無機粒子分散ペースト。
【請求項9】
前記無機粒子がニッケル粒子であることを特徴とする請求項8に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項10】
無機粒子分散ペーストに対して、前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤との合計量が95質量%以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項11】
ポリビニルアセタール及びセルロース誘導体をそれぞれX質量部、Y質量部としたとき、0.2≦X/(X+Y)≦0.8を満たすように前記ポリビニルアセタール及び前記セルロース誘導体を混合させた混合物を含むバインダー樹脂と、
無機粒子と、
有機溶剤とを含み、
無機粒子分散ペーストに対して、前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤との合計量が95質量%以上であり、
前記混合物は、さらにカルボジイミドを混合させたものであり、
前記カルボジイミドの混合量は、前記セルロース誘導体及び前記ポリビニルアセタール総量100質量部に対して0.1?5質量部であり、
角周波数6.284rad/sでひずみ0.02及び0.2を加えたときの前記各ひずみとそのひずみで生じた応力との位相差δの値が45°より大きく、かつ、
せん断速度40(1/s)における粘度に対するせん断速度4(1/s)における粘度の比が4.5以下である無機粒子分散ペースト。
【請求項12】
前記無機粒子は、BET法により測定した比表面積が5.2m2/g以上であることを特徴とする請求項11に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項13】
前記位相差δが50°より大きいことを特徴とする請求項11又は12に記載の無機粒子分散ペースト。
【請求項14】
前記無機粒子がニッケル粒子であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか一項に記載の無機粒子分散ペースト。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-14 
出願番号 特願2016-569860(P2016-569860)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01B)
P 1 651・ 113- YAA (H01B)
P 1 651・ 537- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 小川 進
宮本 純
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6119939号(P6119939)
権利者 昭栄化学工業株式会社
発明の名称 無機粒子分散ペースト用のバインダー樹脂及び無機粒子分散ペースト  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 永田 良昭  
代理人 永田 元昭  
代理人 酒井 正己  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  
代理人 北村 吉章  
代理人 西村 弘  
代理人 須田 芳國  
代理人 大田 英司  
代理人 須田 芳國  
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