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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1342972
異議申立番号 異議2017-700983  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-13 
確定日 2018-06-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6121041号発明「酸性飲料」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6121041号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6121041号の請求項1,2,4,6ないし9に係る特許を維持する。 特許第6121041号の請求項3,5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯の概略
特許第6121041号の請求項1?9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,2015年11月20日を国際出願日とする特願2016-532017号の一部を平成28年10月31日に新たな特許出願とし,平成29年4月7日に特許権の設定登録がされ,平成29年4月26日に特許掲載公報が発行された。これに対し,平成29年10月13日に特許異議申立人藤本博基より特許異議の申立てがなされ,平成30年1月18日付けで取消理由が通知され,特許権者より平成30年3月23日付け意見書及び訂正請求書が提出され,特許異議申立人より平成30年4月24日付け意見書が提出された。
以下,平成30年3月23日付けの訂正請求書を「本件訂正請求書」といい,これに係る訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は,本件特許の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?9について訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,成分(A)に係るルチンの含有量について,「0.00001?0.002質量%」と記載されているのを,「0.00045?0.0009質量%」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に,「(B)塩化物イオン」と記載されているのを,「(B)塩化物イオン 0.0048?0.238質量%」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に,成分(C)に係る甘味料の含有量について,「ショ糖甘味換算濃度で1?9質量%」と記載されているのを,「ショ糖甘味換算濃度で3?8質量%」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に,「を含有し,」との記載と「成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が1?1000であり,」との記載との間に,「成分(C)が(C1)高甘味度甘味料を含み,(C1)高甘味度甘味料がスクラロースであり,」との記載を加える。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に,成分(A)と成分(B)との質量比について,「1?1000」と記載されているのを,「10.7?264.4」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に,「酸性飲料」と記載されているのを,「非アルコール酸性飲料」に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に,「成分(C)として(C1)高甘味度甘味料を含有する,請求項1?3のいずれか1項に記載の酸性飲料。」と記載されているのを,「容器詰酸性飲料である,請求項1又は2記載の酸性飲料。」に訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に,「請求項4又は5に記載の酸性飲料。」と記載されているのを,「請求項1,2及び4のいずれか1項に記載の酸性飲料。」に訂正する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項4?6のいずれか1項に記載の酸性飲料。」と記載されているのを,「請求項1,2,4及び6のいずれか1項に記載の酸性飲料。」に訂正する。
(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項8に,「請求項1?7のいずれか1項に記載の酸性飲料。」と記載されているのを,「請求項1,2,4,6及び7のいずれか1項に記載の酸性飲料。」に訂正する。

2 本件訂正の適否について
(1) 訂正事項1
前記訂正事項1は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「(A)ルチン」の含有量について,「0.00045?0.0009質量%」と特定し,その範囲を更に限定するものであるから,前記訂正事項1に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件特許明細書には,実施例17?21として成分(A)に係るルチンの含有量が「0.00045質量%」である酸性飲料が記載され,実施例2?7として成分(A)に係るルチンの含有量が「0.0009質量%」である酸性飲料が記載されている(【0056】?【0057】,【0060】?【0062】)。
よって,前記訂正事項1は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2
前記訂正事項2は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「(B)塩化物イオン」について,その含有量を「0.0048?0.238質量%」と特定するものであるから,前記訂正事項2に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件特許明細書には,実施例17として成分(B)に係る塩化物イオンの含有量が「0.0048質量%」である酸性飲料が記載され,実施例5として塩化物イオンの含有量が「0.238質量%」である酸性飲料が記載されている(【0056】?【0057】,【0060】?【0062】)。
よって,前記訂正事項2は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3
前記訂正事項3は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「(C)甘味料」の含有量について,「ショ糖甘味換算濃度で3?8質量%」であると特定し,その範囲を更に限定するものであるから,前記訂正事項3に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件特許明細書には,「本発明の酸性飲料中の成分(C)のショ糖甘味換算濃度による含有量は・・・,3質量%以上がより好ましく,そして,・・・8質量%以下がより好ましい。かかるショ糖甘味換算濃度の範囲としては,本発明の酸性飲料中に,・・・より好ましくは3?8質量%である。」(【0019】)と記載されている。
よって,前記訂正事項3は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4
前記訂正事項4は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「成分(C)」について,「成分(C)が(C1)高甘味度甘味料を含み,(C1)高甘味度甘味料がスクラロースであ(る)」と具体的に特定するものであるから,前記訂正事項4に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件訂正前の請求項5には,「成分(C1)としてスクラロース,・・・を含有する」と記載され,本件特許明細書には,「(C)甘味料としては,例えば,糖質系甘味料,高甘味度甘味料等が挙げられる。・・・また,高甘味度甘味料としては,例えば,スクラロース,・・・等が挙げられる。・・・中でも,成分(C)としては,・・・(C1)高甘味度甘味料を含有することが好ましい。高甘味度甘味料としては,スクラロース,・・・から選ばれる1種又は2種以上が好ましく,更にスクラロース,・・・から選ばれる1種又は2種以上が・・・好ましく,殊更に好ましくはスクラロース・・・から選択される少なくとも1種である。」(【0013】)と記載されている。
よって,前記訂正事項4は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5) 訂正事項5
前記訂正事項5は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「成分(A)と成分(B)との質量比」について,「10.7?264.4」であると特定し,その範囲を更に限定するものであるから,前記訂正事項5に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件特許明細書には,実施例17として成分(A)と成分(B)との質量比がが「10.7」である酸性飲料が記載され,実施例5として成分(A)と成分(B)との質量比が「264.4」である酸性飲料が記載されている(【0056】?【0057】,【0060】?【0062】)。
よって,前記訂正事項5は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(6) 訂正事項6
前記訂正事項6は,本件訂正後の請求項1に係る発明の「酸性飲料」について,その種類が「非アルコール酸性飲料」であると特定するものであるから,前記訂正事項6に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件特許明細書には,「本発明の酸性飲料は,非アルコール飲料でも,アルコール飲料でもよいが,・・・非アルコール飲料が好ましい。」(【0035】)と記載されている。
よって,前記訂正事項6は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(7) 訂正事項7
前記訂正事項7は,請求項3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ,新規事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(8) 訂正事項8
前記訂正事項8は,前記訂正事項4に伴い本件訂正前の請求項4に係る発明の「成分(C)として(C1)高甘味度甘味料を含有する」との事項を削除し,本件訂正後の請求項4に係る「酸性飲料」について「容器詰酸性飲料である」と具体的に特定するとともに,請求項3を引用しないものとして引用する請求項を減ずるものであるから,前記訂正事項8に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして,本件特許明細書には,「本発明の酸性飲料は,・・・容器詰酸性飲料として提供することができる。」(【0037】)と記載され,実施例2?7,17?21として「容器詰飲料」が具体的に記載されている(【0056】?【0057】,【0060】?【0062】)。
よって,前記訂正事項8は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(9) 訂正事項9
前記訂正事項9は,請求項5を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ,新規事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(10) 訂正事項10
本件訂正前の請求項6において,本件訂正前の請求項1?3を引用する本件訂正前の請求項4,本件訂正前の請求項4を引用する請求項5を引用していたところ,本件訂正事項10は,前記訂正事項4により本件訂正前の請求項4に係る発明を特定するための事項が本件訂正後の請求項1に組み込まれ,本件訂正事項7,9により請求項3,5が削除されたことに伴い,本件訂正後の請求項6が本件訂正後の「請求項1,2及び4のいずれか1項」を引用するものとするもので,引用する請求項を減ずるものであるから,前記訂正事項10に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
よって,前記訂正事項10は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(11) 訂正事項11
本件訂正前の請求項7において,本件訂正前の請求項1?3を引用する本件訂正前の請求項4,本件訂正前の請求項4を引用する請求項5,本件訂正前の請求項4又は請求項5を引用する本件訂正前の請求項6を引用していたところ,本件訂正事項11は,前記訂正事項4により本件訂正前の請求項4に係る発明を特定するための事項が本件訂正後の請求項1に組み込まれ,本件訂正事項7,9により請求項3,5が削除されたことに伴い,本件訂正後の請求項7が本件訂正後の「請求項1,2,4及び6のいずれか1項」を引用するものとするもので,引用する請求項を減ずるものであるから,前記訂正事項11に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
よって,前記訂正事項11は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(12) 訂正事項12
本件訂正前の請求項8において,本件訂正前の請求項1?7を引用していたところ,本件訂正事項12は,本件訂正事項7,9により請求項3,5が削除されたことに伴い,本件訂正後の請求項8が本件訂正後の「請求項1,2,4,6及び7のいずれか1項」を引用するものとするもので,引用する請求項を減ずるものであるから,前記訂正事項12に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
よって,前記訂正事項12は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(13) さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。
(14) 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであって,同条4項及び同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1?9に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,総称して「本件発明」という。
【請求項1】
次の成分(A),(B)及び(C);
(A)ルチン 0.00045?0.0009質量%
(B)塩化物イオン 0.0048?0.238質量%,及び
(C)甘味料 ショ糖甘味換算濃度で3?8質量%
を含有し,
成分(C)が(C1)高甘味度甘味料を含み,(C1)高甘味度甘味料がスクラロースであり,
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が10.7?264.4であり,かつ
pHが2?5.4である,
一価の金属の塩化物が配合されてなる非アルコール酸性飲料。
【請求項2】
一価の金属の塩化物が塩化ナトリウムである,請求項1記載の酸性飲料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
容器詰酸性飲料である,請求項1又は2記載の酸性飲料。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
成分(C1)の含有量が0.0001?5質量%である,請求項1,2及び4のいずれか1項に記載の酸性飲料。
【請求項7】
成分(A)と成分(C1)との質量比[(C1)/(A)]が1?100である,請求項1,2,4及び6のいずれか1項に記載の酸性飲料。
【請求項8】
更に成分(F)として酸味料を含有する,請求項1,2,4,6及び7のいずれか1項に記載の酸性飲料。
【請求項9】
成分(F)の含有量が0.001?1質量%である,請求項8記載の酸性飲料。

第4 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。すなわち,本件特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消すべきものである。
(1) 発明の詳細な説明において,ルチンが0.0009質量%以上の場合に,発明の課題が解決できるように記載されているとはいえず,発明の詳細な説明の内容を0.0009質量%よりも高い濃度のルチンを含有する飲料にまで拡張することができない。
(2) 発明の詳細な説明において,塩化物イオン濃度が0.0048質量%以下の場合に,発明の課題が解決できるように記載されているとはいえず,発明の詳細な説明の内容を0.0048質量%よりも低い濃度の塩化物イオンを含有する飲料にまで拡張することができない。
(3) 甘味料の各々のマスキング効果が異なるため,発明の詳細な説明の内容をスクラロース以外の高甘味度甘味料にまで拡張ないし一般化することはできず,ぶどう糖以外の高甘味度甘味料ではないあらゆる甘味料にまで拡張ないし一般化することはできない。
(4) 実施例に係る特定の飲料に効果があったとしても,様々な風味を有する広範囲の酸性飲料まで効果があることは確認されていないから,発明の詳細な説明の内容をあらゆる種類の酸性飲料にまで拡張ないし一般化することはできない。

2 判断
(1) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,ルチンはフラボノイドの一種で,その血圧降下作用,血流改善作用等の生理活性機能に着目し,ルチンを含有した飲料が提案されているが,本件発明者は,液性が酸性領域においては,ルチンの含有量が僅かであったとしても,喉にヒリヒリするような刺激感が残り,酸味のキレが悪く,酸性飲料の風味に影響を与えることを見出し,特定量のルチンを含有する酸性飲料において,塩化物イオン及び甘味料を含有させ,ルチンと塩化物イオンとの質量比,pHを特定範囲内に制御することにより,喉に残る刺激感が抑制され,かつ酸味のキレの良好な酸性飲料が得られることを見出したもので,本件発明によれば,ルチンを含有するにも拘わらず,喉に残る刺激感が抑制され,かつ酸味のキレの良好な酸性飲料を提供することができるというものである(【0003】?【0008】)。
このように,本件発明は,ルチンを含有するにも拘わらず,喉に残る刺激感が抑制され,かつ酸味のキレの良好な酸性飲料を提供することを課題とするものである。
(2) また,発明の詳細な説明には,以下の点が記載されている。
・酸性飲料中の成分(A)の含有量は,生理効果発現の観点から,0.0003質量%以上が殊更に好ましく,酸味のキレ改善の観点から,0.0012質量%以下が更に好ましい(【0009】)。
・喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善するために,成分(B)として塩化物イオンを含有する。成分(B)は,酸性飲料中に塩化物の形態で配合することができ,より一層の酸味のキレ改善の観点から,塩化ナトリウム,塩化カリウム等の一価の金属との塩化物が好ましい(【0010】)。成分(B)の含有量は,酸味のキレ改善の観点から,0.001質量%以上がより好ましく,0.24質量%以下が殊更に好ましい(【0011】)。
・成分(A)と,成分(B)との質量比 [(B)/(A)]は,より一層の酸味のキレ改善の観点から,8以上が殊更に好ましく,300以下が殊更に好ましい(【0012】)。
・成分(C)として甘味料を含有することにより,成分(B)と相まって,酸性飲料における成分(A)由来の喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善することができる。(C)甘味料としては,例えば,糖質系甘味料,高甘味度甘味料等が挙げられ,高甘味度甘味料としては,例えば,スクラロース等が挙げられる。喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善する観点から,(C1)高甘味度甘味料を含有することが好ましく,殊更に好ましくはスクラロース及びアセスルファムカリウムから選択される少なくとも1種である(【0013】)。成分(C)の含有量は,ショ糖甘味換算濃度により規定され,喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善する観点から,3質量%以上がより好ましく,8質量%以下がより好ましい(【0017】?【0019】)。
・酸性飲料のpH(20℃)は2?5.4である(【0033】)。
・酸性飲料は,喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善する観点から,非アルコール飲料が好ましい(【0035】)。
(3) そして,このような本件発明について,実施例(実施例1?21)が比較例1?3とともに開示されているところ(【0056】?【0062】),実施例2?6,17?20として,
・ルチン製剤,一価の金属の塩化物(KCl又はNaCl),甘味料(スクラロース及びぶどう糖),酸味料(クエン酸,クエン酸ナトリウム及びアスコルビン酸)及びイオン交換水を配合して得られ,
・成分(A)ルチン,(B)塩化物イオン,(C)甘味料の含有量に関し,成分(A)ルチン:0.00045質量%(実施例17?20),又は0.0009質量%(実施例2?6),成分(B)塩化物イオン:0.0048質量%(実施例17)?0.238質量%(実施例5),成分(C)甘味料:ショ糖甘味換算濃度で8質量%であり,成分(A)と成分(B)との質量比が10.7(実施例17)?264.4(実施例5)で,pHが3.4である容器詰酸性飲料,
が記載され,飲料の喉に残る刺激感,酸味のキレについての評価は,いずれも良好であったものである。
【表2】

【表4】

(4) このように,発明の詳細な説明には,本件発明が記載されている上,(A)ルチン 0.00045?0.0009質量%,(B)塩化物イオン 0.0048?0.238質量%,及び成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が10.7?264.4であり,スクラロースを含む成分(C)甘味料をショ糖甘味換算濃度で8質量%含有する飲料に関し,喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善する効果を奏することが具体的に裏付けられていることがわかる。
そして,「喉に残る刺激感を抑制し,かつ酸味のキレを改善するために,成分(B)として塩化物イオンを含有する。」(【0010】)ことを前提に,スクラロースを含む成分(C)甘味料は,特定含有量の成分(B)塩化物イオンと相まって当該効果を発揮していることにも照らせば,成分(C)甘味料の含有量の多少の変動や,スクラロース以外の甘味料の違いにより,その効果が格別に減ずるとも解されないから,成分(C)甘味料がショ糖甘味換算濃度で3質量%の場合でも同様の効果が期待できる。
また,実施例に係る飲料は,その処方からしてルチン含有の酸性水といえ,非アルコール飲料を模式的に実現した酸性飲料とも解され,その結果からすると,更に各種成分が配合されたその他の非アルコール飲料についても,同様に効果が期待できるものと認められる。
(5) 以上のとおりであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が,課題を解決できるものとして,記載されているものと認められ,本件発明が,発明の詳細な説明に記載されたものではない,とは認められない。

第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由は,概ね,以下のとおりである。
(1) 36条6項1号について
ア 発明の詳細な説明に「喉に残る刺激感」の定義はなく,「ルチンによる苦み,渋みまたはアク味」とどのように異なるか説明がない。「喉に残る刺激感」の抑制を,「ポリフェノールに由来する苦み,渋みまたはアク味」の抑制と区別できるように,どのように官能評価するか具体的に記載されていないから,「喉に残る刺激感」が抑制できているかどうかを追試し,正確に評価することもできない。
また,実施例の官能評価では「喉に残る刺激感」の抑制,「酸味のキレ」の改善を客観的に評価できているとはいえないから,課題を解決できると認識できるように記載されていない。
よって,本件発明は,「喉に残る刺激感」の抑制及び「酸味のキレ」の改善という発明の課題を解決できると当業者が認識できるようには記載されていない。
イ KCl濃度が約0.03質量%を超える場合には,酸性飲料は苦いはずであるから,課題が解決できるように記載されているとはいえない。
(2) 29条2項について
本件発明は,甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証?甲第9号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法(甲第1号証?甲第9号証)は以下のとおりである。以下,各号証を証拠の番号に従って「甲1」などという。
甲1:山口静子,「官能評価とは何か,そのあるべき姿」,化学と生物,2012年,Vol.50,No.7,p.518-524
甲2:斎藤幸子,「味覚のあいまいさ」,バイオメカニズム学会誌,1983年,Vol.7,No.3,p.14-19
甲3:特開2015-177767号公報
甲4:特開2014-168401号公報
甲5:浜島教子,「味の相互関係について(第3報) 塩から味と苦味の関係」,家政学雑誌,1977年,Vol.28,No.4,p.278-281
甲6:P.A.S. Breslin et al.,"Suppression of Bitterness by Sodium:Variation Among Bitter Taste Stimuli",Chemical Senses,1995,Vol.20,No.6,p.609-623
甲7:河合崇行 外1,「苦味マスキング効果の定量的解析」,食総研報,2012年,No.76,p.9-16
甲8:「高甘味度甘味料 スクラロースのすべて」,株式会社光琳,平成15年5月30日,p.58-65
甲9:特開2008-99677号公報

3 判断
(1) 36条6項1号について
ア 「喉に残る刺激感」の抑制と「酸味のキレ」の改善について
本件特許明細書の発明の詳細な説明に,「酸性領域においては,ルチンの含有量が僅かであったとしても,喉にヒリヒリするような刺激感が残り,酸味のキレが悪く,酸性飲料の風味に影響を与えることを見出した。」(【0006】)と記載されているとおり,「喉に残る刺激感」とは,舌上で感じる「苦味」とは異なり,酸性飲料を飲用した後に喉に残るヒリヒリするような刺激感であることは明らかである。
発明の詳細な説明には,このような「喉に残る刺激感」,そして「酸味のキレ」について,官能評価に関し,以下のように記載されている。
・「【0053】
8.官能評価
各容器詰酸性飲料の「喉に残る刺激感」,「酸味のキレ」について,専門パネル4名が下記の基準に基づいて評価し,その後評点の平均値を求めた。
【0054】
1)喉に残る刺激感
実施例4の容器詰酸性飲料の「喉に残る刺激感」を評点1とし,比較例1の容器詰酸性飲料の「喉に残る刺激感」を評点5として,下記の5段階で評価を行った。
評点1:喉に刺激感がなく問題ない
2:喉に刺激感が僅かにあるが問題ない
3:喉に刺激感がややあるが問題ない
4:喉に刺激感がある
5:喉に刺激感が強い
【0055】
2)酸味のキレ
実施例4の容器詰酸性飲料の「酸味のキレ」を評点1とし,比較例1の容器詰酸性飲料の「酸味のキレ」を評点5として,下記の5段階で評価を行った。
評点1:酸味のキレがよい
2:酸味のキレがややよい
3:酸味のキレが僅かに良い
4:酸味のキレがやや悪い
5:酸味のキレが悪い」
そして,このような基準を指標に,実施例2?6,17?20について評価を行った結果,酸性飲料の喉に残る刺激感,酸味のキレについての評価が,いずれも良好であったものである。
当該官能評価は,専門パネル4名が実施例4の酸性飲料の評点を「1」とし,比較例1の評点を「5」とした5段階評価で行われているものであるから,専門パネル間で評価基準が合意されているといえるし,専門パネル間で評点が極端に偏ることは通常考えられないこと,及び平均値を用いることは通常の手法であることを考慮すると,実施例の結果が客観的に評価できているというべきである。
そうすると,発明の詳細な説明には,本件発明が,課題を解決できるものとして,記載されているものと認められる。
イ 塩化カリウム濃度について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,KClを0.01質量%?0.5質量%含有した酸性飲料が本件発明の課題を解決できることが,実施例2?5,17?19に具体的に示されているから,KCl濃度が0.03質量%を超えても課題を解決できるといえる。既に述べたとおり,「喉に残る刺激感」が酸性飲料を飲用した後に喉に残るヒリヒリするような刺激感であって,「苦味」とは異なるから,仮にKClの濃度が0.03質量%を超える飲料が苦いとしても(甲3),本件発明の課題を解決できるものである。
そうすると,発明の詳細な説明には,本件発明が,課題を解決できるものとして,記載されているものと認められる。

(2) 29条2項について
ア 甲4?9について
(ア) 甲4
a 甲4に記載された事項
・「【請求項1】
(A) L-アスコルビン酸と,(B) ルチン,ハマナス抽出物,及びクロロゲン酸から選ばれる1種又は2種以上とを含有し,かつpHが3.0以上であることを特徴とする,白ぶどう果汁入り飲料。
・・・
【請求項3】
前記ルチン,ハマナス抽出物,及びクロロゲン酸から選ばれる1種又は2種以上の含有量が合計で10?200ppmである,請求項1または2に記載の飲料。」
・「【0001】
本発明は,白ぶどう果汁入り飲料およびその製造方法,ならびに白ぶどう果汁入り飲料の異臭抑制方法に関する。」
・「【0002】
・・・例えば,白ぶどうを使用した果汁飲料は,経時的に「ゴム臭」または「溶剤臭」のような好ましくない臭気が発生するため,風味上商品価値を著しく低下させるという問題がある。」
・「【0005】
しかしながら,これまで白ぶどう果汁入り飲料の保存中に発生する独得の臭気を抑制する方法が検討された例はない。」
・「【0007】
従って,本発明の課題は,白ぶどう果汁入り飲料について,保存中に発生する異臭を抑制する有効な手段を提供することにある。」
・「【0010】
本発明によれば,白ぶどう特有の異臭の発生が抑制され,保存性の良好な爽やかな香味の白ぶどう果汁入り飲料が提供される。」
・「【0025】
また,本発明の飲料には,飲料に許容される各種添加剤,たとえば甘味料(ステビア,アスパルテーム,アセスルファムK,スクラロース等),・・・などを含有してもよい。」
・「【0030】
・・・
(実施例1,比較例1?6)
(1)白ぶどう果汁入り飲料の調製
15重量%の68°Bx白ぶどう(マスカットオブアレキサンドリア)透明濃縮果汁・・・と5重量%の68°Bx白ぶどう(品種混合)透明濃縮果汁・・・を混合し,水で希釈した果汁希釈溶液を調製した。この果汁希釈溶液に,L-アスコルビン酸,ルチンとしてエンジュ抽出物・・・,ハマナス抽出物・・・,クロロゲン酸・・・を下記表1に示す濃度で添加し調合液を得た(実施例1,比較例1?6)。実施例1では,・・・pHが3.3となるように調整した。各調合液を加熱殺菌した後に,PETボトルに充填し,室温まで水冷して白ぶどう果汁入り飲料(マスカット果汁含有率:93%)を調製した。」
・「【表1】


・「【0035】
・・・,実施例1では,比較例1?6と比較して異臭の発生が抑制され,対照品との風味差が小さかった。」
b 以上の記載からすると,甲4には,次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
(甲4発明)
「(A) L-アスコルビン酸と,(B) ルチン,ハマナス抽出物,及びクロロゲン酸から選ばれる1種又は2種以上とを合計で10?200ppm含有し,スクラロース等の甘味料を配合し,かつpHが3.0以上である,白ぶどう果汁入り飲料。」

(イ) 甲5?9について
a 甲5に記載された事項
・「表5-1は以上の表と異なり,カフェイン溶液に食塩を添加した場合の影響を調べたものである.カフェイン0.03%という濃度は一般に閾値に相当する濃度であるが,食塩の閾値濃度0.2%以上を添加すると,添加量が多くなるに従って苦味は減少することがわかる.」(280頁左欄下から3行?右欄下から8行)
・「3) 苦味は食塩添加により減少する.すなわち,苦味は塩から味により消殺されることが明かであった.」(281頁右欄3?4行)
b 甲6に記載された事項(和訳は,特許異議申立人提出の翻訳文による。)
・「Taste interactions between salts(NaCl,LiCl,KCl,L-arginine:L-aspartic acid,Na-acetate and Na-gluconate) and bitter-tasting compounds(uera,quinine HCl,magnesium sulphate,KCl,amiloride HCl and caffeine) were investigated.・・・In most cases,perceived bitterness was suppressed by salts,although the degree of suppression varied.」(599頁Abstract)
(塩類(NaCl,LiCl,KCl,L-アルギニン,L-アスパラギン酸,酢酸ナトリウム,及びグルコン酸ナトリウム)と苦味化合物(尿素,塩酸キニーネ,硫酸マグネシウム,KCl,塩酸アミロライド及びカフェイン)の間の味の相互作用を調べた。・・・ほとんどの場合で,抑制の程度の違いはあったものの,知覚された苦味は塩類により抑制された。)
・「The goal of Experiment 1 of this paper was to compare the interactions of NaCl with several bitter-eliciting compounds that may have different transduction sequences.」(610頁左欄下から6?下から4行)
(本論文の実験1の目的は異なる伝達シーケンスを有する可能性があるいくつかの苦味誘起化合物とNaClとの相互作用を比較することであった。)
・「Quinine HCl(Figures 1a and 2a)
Bitterness:NaCl significantly suppressed the bitterness of quinine HCl,suppressing 41±11% of the maximum bitterness sensation.」(612頁右欄下から10?下から7行)
(塩酸キニーネ(図1a及び図2a)
苦味:NaClは塩酸キニーネの苦味を有意に抑制し,最大の苦味感覚の41±11%を抑制した。)
・「KCl(Figures 1e and 2e)
Bitterness:NaCl at all concentrations suppressed the bitterness of all concentrations of KCl.」(614頁右欄下から5?下から3行)
(塩化カリウム(図1e及び図2e)
苦味:すべての濃度のNaClはすべての濃度のKClの苦味を抑制した。)
c 甲7に記載された事項
・「甘味・うま味・塩味を添加してマスキング効果を検討するときには,0.125,0.25,0.5,1,2,4mM安息香酸デナトニウム溶液を二組作製し,片方にサッカリンNa,グルタミン酸Na,塩化ナトリウムを添加した.」(11頁右欄4?8行)
・「24時間絶水後に0.125?4mM安息香酸デナトニウム溶液を提示し,各溶液10秒間のリック数を計測した結果を図1aに示す.マウスは元来,苦味は嫌いであるが,飲水欲求とのバランスにより,安息香酸デナトニウム0.5mM程度の苦味までは積極的に摂取行動をとっていることが示されている.1mM以上では,濃度依存的にリック数が減少し,2?4mMでは忌避していると判断した.」(12頁左欄下から5行?右欄3行)
・「0.125?4mMの安息香酸デナトニウムに100mM塩化ナトリウムを添加した溶液を提示した場合のリック数を図1dに示す.塩化ナトリウム添加により1及び2mM安息香酸デナトニウム溶液でリック数の増加が認められ,リックカーブは高苦味濃度側へのシフトが見られた.リック数が最大値の半値を示す苦味濃度を比較することにより,100mM塩化ナトリウム添加は安息香酸デナトニウムの苦味を約46%弱めていると推算される.」(12頁右欄下から17?下から9行)
d 甲8に記載された事項
・「高甘味度甘味料は,甘味の付与および不快な味のマスキングを初めとする味の変調を行い,食品の完成度を高める目的のために使用されている場合がある。スクラロースについても次のような味質改善効果を期待できる。まず,マスキング効果(緩和する効果)として,苦味や酢カド(酢の刺激),塩カド(塩味の刺激),アルコールのバーニング感の緩和(焼けるような刺激),豆臭(特に豆乳)等の粉っぽさを緩和する効果がある。」(59頁下から10?下から5行)
e 甲9に記載された事項
・「【請求項1】
スクラロースを含有することを特徴とする,渋味又は収斂味が抑制されたポリフェノールを含有する組成物。
・・・
【請求項3】
渋味又は収斂味を呈するポリフェノールに,スクラロースを併用することを特徴とする渋味又は収斂味を抑制する方法。」
・「【0003】
キニーネなどに代表される苦味は,舌上皮細胞上に存在するレセプターを介した反応であることが知られている。一方,例えば渋茶を口に含んだ場合に感じる渋味は,茶中のタンニンなどのポリフェノールが唾液中のタンパク質(プロリン・リッチ・プロテイン)と凝集体を形成し,これらが舌上皮や口腔内の上皮に存在する脂質二重層膜に沈殿することによる味刺激であることが報告されており・・・,苦味と渋味は全く異なる食味であることが知られている。」
・「【0011】
本発明に用いられるポリフェノールとしては,通常経口摂取するものであれば特に制限されるものではなく,例えば,・・・酵素処理ルチン,・・・エンジュ・ソバ葉(ルチン),・・・等が挙げられる。」
・「【0013】
スクラロースの含有量は,得られた製品の味の総合的なバランス等を考慮して,適宜調整することができるが,通常,ポリフェノール1重量部に対し,スクラロースを0.001?2重量部,更に好ましくは,0.003?1重量部添加することができる。」
イ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲4発明とを,その有する機能に照らして対比すると,甲4発明の「ルチン」,「甘味料」は,本件発明1の「ルチン」,「甘味料」に,それぞれ相当する。
甲4発明は「スクラロース等の甘味料」を配合するが,スクラロースは高甘味度甘味料であるから,本件発明1と,甘味料が,高甘味度甘味料を含み,高甘味度甘味料がスクラロースである点で一致する。
そして,甲4発明のpHは「3.0以上」であるから,本件発明1のpHの値と重複するところがあり,「白ぶどう果汁入り飲料」が,非アルコール酸性飲料であることは明らかである。
そうすると,両者は,以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「次の成分(A),及び(C);
(A)ルチン
(C)甘味料
を含有し,
成分(C)が(C1)高甘味度甘味料を含み,(C1)高甘味度甘味料がスクラロースであり,
pHが3?5.4である,非アルコール酸性飲料。」
(相違点)
本件発明1は,「成分(A),(B)及び(C)」に関し,「(A)ルチン 0.00045?0.0009質量%」,「(B)塩化物イオン 0.0048?0.238質量%」,及び「(C)甘味料 ショ糖甘味換算濃度で3?8質量%」を含有し,「成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が10.7?264.4であり」,かつ,「pHが2?5.4である,一価の金属の塩化物が配合されてなる」ものであるのに対し,甲4発明は,ルチン,甘味料を含むもののその含有量は不明で,塩化物イオンを含んでいない点。
(イ) 判断
前記相違点について検討するに,甲4発明は,白ぶどう果汁入り飲料における,保存中に経時的に発生する「ゴム臭」,「溶剤臭」といった異臭を抑制することを目的としたもので,ルチンを含有する酸性飲料における,喉に残るヒリヒリするような刺激感,酸味のキレの悪さ,といった点に着目したものではない。甲4には,その他,ルチン由来の味に関する課題について記載はない。
甲4発明においてルチン含有量を適宜調整できるとしても,甲4発明において,ルチン由来の味に関する課題があることを認識することは,当業者にとって困難である。甲4には,本件発明1よりも,ルチンの含有量が相当程度高い場合(実施例1(0.01%))であっても官能評価の結果は良好であった旨記載され(【0030】?【0035】),ルチン由来の味に関する課題について特段認識されていない。仮に,本件発明1と同程度のルチン含有量(最大で0.0009質量%)とする場合には,苦味などの問題があるとはより一層認識し難いものと解される。
そして,食塩(塩化ナトリウム)は様々な種類の苦味化合物の苦味を抑制することが周知であると認められるが(甲5?7),甲4において苦味を問題としておらず,甲5?7にルチンの苦味を抑制できることまでは示されていないから,甲4発明がルチンを含有することから,当然に食塩を含有させることが導かれるものとは認められない。
また,甲4発明はスクラロース等の甘味料を含有するが,ルチンの含有量との関係も含め,スクラロース等の甘味料の具体的な含有量について示唆は特段ない。高甘味度甘味料を,甘味の付与及び不快な味のマスキングをはじめとする味の変調を行う目的で使用することや,スクラロースが苦味を緩和し,特にポリフェノールの渋味や収斂味を抑制する作用があることが周知であるとしても(甲8,9),スクラロース等の甘味料が,ルチンによる喉に残るヒリヒリするような刺激感,酸味のキレの悪さ,といった点に有効であるか不明であって,甲4発明において,スクラロース等の甘味料の含有量をルチン含有量との関係で本件発明1と同様の量に調整することは,当業者にとって容易ではない。
よって,甲4発明には,前記相違点に係る構成とするための動機付けが認められない。
これに対し,本件発明1は,前記相違点に係る構成を有することにより,「ルチンを含有するにも拘わらず,喉に残る刺激感が抑制され,かつ酸味のキレの良好な酸性飲料を提供することができる。」(本件特許明細書【0008】)といった顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲4発明において,前記相違点に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものとは認められない。
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲4発明及び甲5?9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
ウ 本件発明2,4,6?9について
本件発明2,4,6?9は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるところ,既に述べたとおり,本件発明1は,甲4発明及び甲5?9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
よって,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2,4,6?9は,同様の理由により,甲4発明及び甲5?9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

3 なお,特許異議申立人は,本件訂正後の請求項6の記載は,請求項1の記載と整合が取れていないから,訂正後の請求項6の範囲は不明確であって,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないなどと主張している(意見書8?9頁)。
しかしながら,請求項6において,引用する請求項1の記載を併せれば,「成分(C1)」の含有量の上限は,請求項1において特定された成分(C)甘味料に関する条件及び請求項6において特定された成分(C1)に関する条件の両者を満足するものであることは,明らかであって,不明確なところはない。

第6 本件特許の請求項3,5についての特許異議の申立てについて
前記第2のとおり,本件訂正が認められるので,本件特許の請求項3,5についての特許異議の申立ては,その対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって,本件特許の請求項3,5についての特許異議の申立ては,不適法であって,その補正をすることができないものであることから,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により,却下すべきものである。

第7 むすび
以上のとおり,本件の請求項1,2,4,6?9に係る特許は,特許法36条6項1号,29条2項の規定に違反してされたものとは認められないから,前記取消理由及び特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1,2,4,6?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項3,5についての特許異議の申立ては,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C);
(A)ルチン 0.00045?0.0009質量%
(B)塩化物イオン 0.0048?0.238質量%、及び
(C)甘味料 ショ糖甘味換算濃度で3?8質量%
を含有し、
成分(C)が(C1)高甘味度甘味料を含み、(C1)高甘味度甘味料がスクラロースであり、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が10.7?264.4であり、かつ
pHが2?5.4である、
一価の金属の塩化物が配合されてなる非アルコール酸性飲料。
【請求項2】
一価の金属の塩化物が塩化ナトリウムである、請求項1記載の酸性飲料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
容器詰酸性飲料である、請求項1又は2記載の酸性飲料。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
成分(C1)の含有量が0.0001?5質量%である、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の酸性飲料。
【請求項7】
成分(A)と成分(C1)との質量比[(C1)/(A)]が1?100である、請求項1、2、4及び6のいずれか1項に記載の酸性飲料。
【請求項8】
更に成分(F)として酸味料を含有する、請求項1、2、4、6及び7のいずれか1項に記載の酸性飲料。
【請求項9】
成分(F)の含有量が0.001?1質量%である、請求項8記載の酸性飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-08 
出願番号 特願2016-212656(P2016-212656)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 窪田 治彦
紀本 孝
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6121041号(P6121041)
権利者 花王株式会社
発明の名称 酸性飲料  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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