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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  G01N
管理番号 1342992
異議申立番号 異議2017-700994  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-17 
確定日 2018-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6117900号発明「検体検査システム、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6117900号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕、21、22、23について訂正することを認める。 特許第6117900号の請求項1?23に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6117900号の請求項1?23に係る特許についての出願は、平成27年11月27日に特許出願され、平成29年3月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年10月17日に特許異議申立人 奥村 一正(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年12月14日付けで取消理由が通知され、その取消理由通知の指定期間内である平成30年2月16日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年5月8日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
特許権者は、以下の訂正事項1?20により特定されるとおり訂正することを請求する。(下線部は訂正箇所を示す。)

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1「検体に含まれる有形成分を分析する検体分析装置と、」を、「尿検体に含まれる有形成分を分析する尿沈渣装置と、」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1「前記検体分析装置から前記検体の分析結果を受信する情報処理装置と、」を、「前記尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置と、」に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1「前記検体分析装置から受信した前記検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記検体の分析結果に基づいて再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、」を、「前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、」に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1「前記画面が表示されている状態で、前記検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる」を、「前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる」に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2?4、6、11?18に「前記検体」と記載されているのを、「前記尿検体」に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2、4、11、20に「前記検体分析装置」と記載されているのを、「前記尿沈渣装置」に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4「第2分析結果を前記参考情報表示領域にさらに表示させる、」を、「第2分析結果を、前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を含む第1領域に対して横方向に配置された第2領域において、前記参考情報表示領域にさらに表示させる、」に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5「前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記検体分析装置の分析結果を含む第1領域と、前記第2検体分析装置の分析結果を含む第2領域とが隣り合うよう各領域を表示する」を、「前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記第1領域と、前記第2領域とが隣り合うよう各領域を表示する」に訂正する。

(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6「前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記検体分析装置の分析結果を含む第1領域と、前記検体の目視検査結果を含む第3領域とが隣り合うよう各領域を表示し、」を、「前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記第1領域と、前記尿検体の目視検査結果を含む第3領域とが隣り合うよう各領域を表示し、」に訂正する。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7「前記検体分析装置は、尿沈渣装置であり、前記第2検体分析装置は、尿定性装置である、」を、「前記第2検体分析装置は、尿定性装置である、」に訂正する。

(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12「目視が必要であると判定した根拠となる情報を表示する、」を、「目視が必要であると判定した根拠となる情報として、目視検査において着目すべき検査項目を示す情報を表示する、」に訂正する。

(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項21「検体中の有形成分を分析する検体分析装置から前記検体の分析結果を受信する情報処理装置であって、」を、「尿検体中の有形成分を分析する尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置であって、」に訂正する。

(13) 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項21「前記検体分析装置から受信した前記検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記検体の分析結果に基づいて再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、」を、「前記尿沈渣装置から受信した前記検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、」に訂正する。

(14) 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項21「前記画面が表示されている状態で、前記検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる」を、「前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる」に訂正する。

(15) 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項22「有形成分を含む検体に対する目視検査の結果を入力するための情報処理方法であって、」を、「有形成分を含む尿検体に対する目視検査の結果を入力するための情報処理方法であって、」に訂正する。

(16) 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項22「検体分析装置が前記検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記検体の分析結果に基づいて再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させ、」を、「尿沈渣装置が前記尿検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させ、」に訂正する。

(17) 訂正事項17
特許請求の範囲の請求項22「前記画面が表示されている状態で、前記検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる」を、「前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる」に訂正する。

(18) 訂正事項18
特許請求の範囲の請求項23「有形成分を含む検体に対する目視検査の結果を入力するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、」を、「有形成分を含む尿検体に対する目視検査の結果を入力するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、」に訂正する。

(19) 訂正事項19
特許請求の範囲の請求項23「検体分析装置が前記検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記検体の分析結果に基づいて再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させる処理と、」を、「尿沈渣装置が前記尿検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させる処理と、」に訂正する。

(20) 訂正事項20
特許請求の範囲の請求項23「前記画面が表示されている状態で、前記検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる処理と、」を、「前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる処理と、」に訂正する。


2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)上記1の請求項1についての訂正である、訂正事項1?4は、以下のア?ウからなる。(以下、それぞれを、「訂正ア」?「訂正ウ」という。)
ア 「検体」を「尿検体」と訂正する。
イ 「検体分析装置」を「尿沈渣装置」と訂正する。
ウ 「再検査」を「前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査」と訂正する。

上記「訂正ア」と「訂正イ」に関連する記載として、段落0016には「尿沈渣装置30は、尿沈渣に関する複数の分析項目について尿中の有形成分を分析する。」と記載され、訂正前の請求項7には「前記検体分析装置は、尿沈渣装置であり、
前記第2検体分析装置は、尿定性装置である、請求項4ないし6の何れか一項に記載の検体検査システム。」と、「尿」が検体であり、「検体分析装置」として「尿沈渣装置」を用いることが記載されている。
また、上記「訂正ウ」に関連する記載として、段落0022には、「オペレータは、目視検査を行う必要があると判定された検体をスライドガラスに滴下し、スライドガラス上の検体を、顕微鏡60を用いて観察することにより目視検査を行う。オペレータは、入力部54を用いて、目視検査においてオペレータが判定した有形成分の種類の入力を行う。」と、前の検査結果からの判定によるオペレータが目視検査(再検査に相当する。)を行うこと、目視検査においてオペレータが有形成分の種類を判定することが記載されている。
したがって、上記「訂正ア」?「訂正ウ」は、明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において検体、検体分析装置及び再検査を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)上記1の請求項2?4、6、11?18についての訂正である訂正事項5は、上記「訂正ア」であるから、上記(1)と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)上記1の請求項2、4、11、20についての訂正である訂正事項6は、上記「訂正イ」であるから、上記(1)と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)上記1の請求項4についての訂正である訂正事項7に関連する記載として、本件図8には、定性装置の分析結果と尿沈渣装置の分析結果とが、それぞれ、互いに横方向に配置された領域121、122が記載されており、訂正前の請求項5には「前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記検体分析装置の分析結果を含む第1領域と、前記第2検体分析装置の分析結果を含む第2領域とが隣り合うよう各領域を表示する」ことが記載されている。
したがって、訂正事項7は、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内において、第2分析結果を前記参考情報表示領域にさらに表示させるための領域を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)上記1の請求項5についての訂正である訂正事項8は訂正事項7により請求項4に「第1領域」および「第2領域」が追加されたことに伴い、請求項5において、これら「第1領域」および「第2領域」を「前記第1領域」および「前記第2領域」として訂正後の請求項4の発明特定事項を引用する形式に修正したものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)上記1の請求項6についての訂正である訂正事項9は、上記訂正事項7により請求項4に「第1領域」が追加されたことに伴い、請求項6において、「第1領域」を「前記第1領域」として訂正後の請求項4の発明特定事項を引用する形式に修正したものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正及び、上記「訂正ア」である。
したがって、訂正事項9は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)上記1の請求項7についての訂正である訂正事項10は、上記訂正事項1により請求項1の「検体分析装置」が「尿沈渣装置」に限定されたことに伴い、訂正前の請求項7に記載されていた「前記検体分析装置は、尿沈渣装置であり、」との発明特定事項を削除したものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)上記1の請求項12についての訂正である訂正事項11に関連する記載として、本件図8には、領域121、122に目視検査による再検査が必要であることを示す「△」、「2」が示され、段落0095には「要再検を示す「△」、「2」が付された分析項目が画面上にある場合、オペレータは、そのマークが付された分析項目に着目して目視検査を行うことができる。」と記載されている。
したがって、訂正事項11は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内において、目視が必要であると判定した根拠となる情報を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)上記(1)と同様の理由により、上記1の請求項21についての訂正である、訂正事項12?14は、明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において検体、検体分析装置及び再検査を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)上記(1)と同様の理由により、上記1の請求項22についての訂正である、訂正事項15?17は、明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において検体、検体分析装置及び再検査を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)上記(1)と同様の理由により、上記1の請求項23についての訂正である、訂正事項18?20は、明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において検体、検体分析装置及び再検査を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(12)一群の請求項について
訂正事項1?4は、訂正前の請求項1を訂正するものであるが、訂正前の請求項1を訂正前の請求項2?20が直接的または間接的に引用しているから、訂正前の請求項1?20は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対する訂正である。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?20〕、21、22、23について訂正を認める。

第3 本件訂正発明について
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?23に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明23」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
尿検体に含まれる有形成分を分析する尿沈渣装置と、
前記尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、制御部、表示部および入力部を備え、
前記制御部は、
前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる、検体検査システム。
【請求項2】
前記尿沈渣装置は、有形成分に関する複数の分析項目について前記尿検体を分析し、
前記参考情報表示領域は、前記尿検体の分析結果として、前記複数の分析項目のそれぞれに対応する分析値を表示し、
前記入力値表示領域は、前記複数の分析項目よりも詳細な細分類項目を含む複数の検査項目と、それぞれの検査項目に対応する値表示領域とを表示し、
前記制御部は、目視検査において計数された有形成分の値を検査項目ごとに前記入力部
を介して受け付け、受け付けた計数値を前記値表示領域に表示させる、請求項1に記載の検体検査システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記尿検体について信頼性の低い又は異常な分析値を示す分析項目がある場合、信頼性が低い又は異常である旨の情報を前記分析項目に関連付けて表示する、請求項2に記載の検体検査システム。
【請求項4】
前記尿沈渣装置とは異なる測定原理で前記尿検体の分析を行う第2検体分析装置をさらに備え、
前記尿沈渣装置は、前記第2検体分析装置による前記尿検体の分析の後、再検査として前記尿検体を分析し、
前記制御部は、前記第2検体分析装置から受信した前記尿検体の第2分析結果を、前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を含む第1領域に対して横方向に配置された第2領域において、前記参考情報表示領域にさらに表示させる、請求項1ないし3の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記第1領域と、前記第2領域とが隣り合うよう各領域を表示する、請求項4に記載の検体検査システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記第1領域と、前記尿検体の目視検査結果を含む第3領域とが隣り合うよう各領域を表示し、
前記入力値表示領域に計数値が表示された状態で、所定の指示を受け付けると、前記入力値表示領域に表示された前記計数値を、目視検査結果として前記第3領域に表示させる、請求項4または5に記載の検体検査システム。
【請求項7】
前記第2検体分析装置は、尿定性装置である、請求項4ないし6の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記尿沈渣装置の分析結果を含む第1領域と、前記尿定性装置の分析結果を含む第2領域との間で、関連する分析項目が横方向に隣り合うよう各領域内の分析項目を表示する、請求項7に記載の検体検査システム。
【請求項9】
前記尿沈渣装置の分析結果を含む前記第1領域と、前記尿定性装置の分析結果を含む前記第2領域との間の関連する前記分析項目は、潜血と赤血球、蛋白濃度と円柱、白血球と白血球、亜硝酸塩と細菌、および、比重と導電率の組合せからなる群より選ばれた一の組合せである、請求項8に記載の検体検査システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記尿定性装置の分析結果と前記尿沈渣装置の分析結果との間でクロスチェックを行い、前記参考情報表示領域において、前記クロスチェックの結果を表示する、請求項7ないし9の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項11】
前記制御部は、
前記尿沈渣装置による前記尿検体の分析結果および前記第2検体分析装置による前記尿検体の分析結果に基づいて、前記尿検体について目視検査が必要であるか否かを判定し、
目視検査が必要であると判定した場合に、前記尿検体について目視検査が必要であることを示す情報を前記表示部に表示させる、請求項4ないし10の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記尿検体について目視検査が必要であると判定した場合に、前記参考情報表示領域において、目視検査が必要であると判定した根拠となる情報として、目視検査において着目すべき検査項目を示す情報を表示する、請求項11に記載の検体検査システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記尿検体中の有形成分の分布を示す分布図を表示する、請求項1ないし12の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、時系列に沿った前記尿検体の分析結果を表示する、請求項1ないし13の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記尿検体の目視検査に関するコメントの入力を前記入力部を介して受け付けて、前記参考情報表示領域において、前記尿検体の目視検査に関するコメントを表示する、請求項1ないし14の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項16】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記尿検体の分析結果に関する注釈情報を表示する、請求項1ないし15の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項17】
前記制御部は、前記尿検体について得られた少なくとも2つの分析項目の分析値が所定の関係を有する場合に、前記参考情報表示領域において、前記所定の関係から導かれる疾患に関する前記注釈情報を表示する、請求項16に記載の検体検査システム。
【請求項18】
前記制御部は、前記尿検体の分析において異常が生じた場合に、前記参考情報表示領域において、前記尿検体の分析において異常が生じたことを示す前記注釈情報を表示する、請求項16または17に記載の検体検査システム。
【請求項19】
前記画面は、前記参考情報表示領域の表示内容を切り替えるための切替指示を前記入力部を介して受け付けるための切替部をさらに備え、
前記制御部は、前記画面が表示されている状態で、前記切替指示を前記入力部を介して受け付け、受け付けた前記切替指示に応じた表示内容を前記参考情報表示領域に表示させる、請求項1ないし18の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項20】
前記尿沈渣装置は、尿および尿以外の体液中の有形成分を分析し、
前記制御部は、前記入力値表示領域において、目視検査を行う対象が尿と体液の何れであるかに応じて目視検査の検査項目を表示する、請求項1ないし19の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項21】
尿検体中の有形成分を分析する尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置であって、
制御部と、
表示部と、
入力部と、を備え、
前記制御部は、
前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる、情報処理装置。
【請求項22】
有形成分を含む尿検体に対する目視検査の結果を入力するための情報処理方法であって、
尿沈渣装置が前記尿検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させ、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる、情報処理方法。
【請求項23】
有形成分を含む尿検体に対する目視検査の結果を入力するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
尿沈渣装置が前記尿検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させる処理と、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる処理と、を含む、プログラム。」

第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由通知の概要
訂正前の請求項1?23に係る発明に対して平成29年12月14日付で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件特許発明1、5?7、14、21?23は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、同法113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)本件特許発明1?23は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1?10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同法113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2 甲号証の記載事項

(1)甲第1号証(福田 嘉明、“尿沈渣検査結果の入力システムの比較-システムの解説から乖離チェックまで35、都臨技会誌 Vol.34 No.3、平成18年(2006年)5月1日発行、第155頁?第162頁)の記載事項
甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審により付加したもの。丸付き数字は丸を省略した。)。


「III.尿沈渣入力端末に必要な機能とは?
1.尿沈渣検査を行うための付加情報
尿沈渣検査では、検査を実施するうえで必要な付加情報がある。これら付加情報が、尿沈渣カウンタ画面に表示されることは検査を進めるうえで重要なファクターとなる。
尿沈渣検査に必要な付加情報とは、
1患者属性情報
2尿定性結果
3直近の生化学データ(可能であれば時系列表示が可能なもの)
4尿沈渣結果の前回値(可能であれば時系列表示が可能なもの)
5出現が稀な成分の前回値表示機能
などの5つの項目が考えられる。
…(中略)
2.乖離チェック機能
乖離チェック機能とは、あらかじめ測定した尿定性結果と尿沈渣自動分析装置もしくは技師鏡検による尿沈渣結果とを比較し乖離の有無をリアルタイムにチェックする機能である。(中略)
3.前回値チェック機能
…(中略)
IV.各施設のシステム紹介
1.A施設のシステム(筆者の施設)
1尿検査システムの概要
A施設は、筆者の所属する検査部である。日大板橋病院では、図2に示したシステムBを採用している。メインの検査システムに富士通のLAINS-Xを使用し、尿検査に関してはサブシステムを用いて運用を行っている。尿定性自動分析装置の更新に伴い、尿検査システムにはOBシステムのCLIPシステムを採用した。」(第156頁左欄第8行?第157頁左欄第4行)


「2CLIPシステムについて
CLIPシステムには、尿沈渣カウンタが搭載されていたが、「以前使用していたシステムと同機能を有する」という条件に伴い、新たに尿沈渣カウンタの構築を行った。尿沈渣結果入力画面を図3に示した。画面上部は、患者属性エリア、下部が検査結果エリアとなっている。検査結果エリアの左側は、尿定性結果や関連項目結果、および尿沈渣自動分析にて再鏡検が必要な検査結果などが表示される。中央が尿沈渣結果の入力エリア、右側が過去異常値の前回日付の表示エリアとなっている。検査結果は、すべての項目でコード入力となっている。」(第157頁左欄第11行?右欄第4行)


「2)リアル乖離チェック機能
筆者の施設では乖離チェック機能として、尿定性結果と沈渣結果とに乖離が発生した場合に、画面中央に警告画面の表示が行われる。」(第157頁右欄第16行?第19行)


図2には、尿定性分析装置、尿沈渣自動分析装置及び尿沈渣結果入力端末が、一般検査用サーバーとオンラインで結ばれた尿検査システムが読み取れる。そして、尿沈渣結果入力端末は、ディスプレイ、キーボード及び本体を備えている点が見て取れる。


図3の尿沈渣結果入力画面は、尿沈渣結果入力端末の画面であると解される。そして、図3の尿沈渣結果入力画面下部左側には、参照項目が記載され、沈渣に関しては、「検査項目」に「沈渣Online」が、「承認」に「未承認」と記載されている。


上記ア?オの記載内容を総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「尿定性分析装置、尿沈渣自動分析装置及び尿沈渣結果入力端末が、一般検査用サーバーとオンラインで結ばれた尿検査システムであって、
尿沈渣結果入力端末は、ディスプレイ、キーボード及び本体を備えており、
尿沈渣結果入力端末のディスプレイに表示される尿沈渣結果入力画面のレイアウトは、画面上部が、患者属性エリア、下部が検査結果エリアとなっており、
該検査結果エリアの左側は、検査結果が参照項目として表示され、中央は、尿沈渣結果の入力エリアである
尿検査システム。」

(2)甲第2号証(油野 友二、“尿検査10年(2003-2012)の歩み”、尿検査教本 臨床病理レビュー 特集第14 9号、臨床病理刊行会、平成25年3月31日発行、第1頁?第7頁)の記載事項
甲第2号証(以下、「甲2」という。)には、尿沈渣検査の自動化が導入されても、異型細胞出現例などは従来法の技師の目による観察が必要であり、機器によるフローサイトメトリ一法を用いた成分分析では、大別された出現成分(赤血球、白血球、細菌など)の分布が明確に示される点で、それ以外の成分の詳細分類には限度があり、詳細分類には鏡検が必須であるという技術事項が記載されている。

(3)甲第3号証(特開2012-32353号公報)の記載事項
甲第3号証(以下、「甲3」という。)には、従来に比して測定結果のチェックを行なう際の測定項目の組合せの自由度が高い尿検査装置及び尿検体測定結果処理装置に関する技術事項が記載されている。

(4)甲第4号証(特開平9-218197号公報)の記載事項
甲第4号証(以下、「甲4」という。)には、尿沈渣検査装置2と尿定性検査装置3で測定されたデータをクロスチェックすることにより、互いのデータの信頼性を確かめることができるという技術事項が記載されている。

(5)甲第5号証(「血尿診断ガイドライン」、血尿診断ガイドライン検討委員会、平成18年(2006年)6月発行)の記載事項
甲第5号証(以下、「甲5」という。)には、尿試験紙法が陽性の場合に、尿沈渣検査法が行われ、尿沈渣検査は自動化が検討されているという技術事項が記載されている。

(6)甲第6号証(特開2006-98219号公報)の記載事項
甲第6号証(以下、「甲6」という。)には、尿定性分析装置2及び尿中有形成分分析装置3が、同一の検体に対して測定して得た測定結果データは、コンピュータ6へと送信され、そして、コンピュータ6によってクロスチェック処理が実行されるという技術事項が記載されている。

(7)甲第7号証(特開2011-39046号公報)の記載事項
甲第7号証(以下、「甲7」という。)には、尿検査ストリップ読み取り器は、検査エレメントを用いて尿に関する化学分析を行い、尿沈殿物分析器は、光学手段を用いて尿中の粒子の存在を検出し、機械が実行可能な工程は、各尿サンプルに対するストリップの分析結果および沈殿物の分析結果の是認または否認を示すという技術事項が記載されている。

(8)甲第8号証(特開2012-233710号公報)の記載事項
甲第8号証(以下、「甲8」という。)には、表示中の測定結果に関連する他の測定結果を簡単な操作で表示させるために、測定結果の詳細情報を表示するデータブラウザ画面D3に、初回測定の測定結果を表示させるための検体リンクボタンX1と、再測定(2回目の測定)の測定結果を表示させるための検体リンクボタンX2を設けた。検体リンクボタンX1をクリックすることで、初回測定の測定結果がデータブラウザ画面D3に表示され、検体リンクボタンX2をクリックすることで、再測定の測定結果がデータブラウザ画面D3に表示されるという技術事項が記載されている。

(9)甲第9号証(特開2001-174456号公報)の記載事項
甲第9号証(以下、「甲9」という。)には、尿沈渣自動分析装置としても用いられ得る白血球細分類装置は、尿および血液その他の体液(血清、血漿、随液、精液、前立腺液、関節液、胸水、腹水、分泌物など)を分析する」という技術事項が記載されている。

(10)甲第10号証(特開2005-194903号公報)の記載事項
甲第10号証(以下、「甲10」という。)には、複数の測定カテゴリー(便潜血検査、尿検査、免疫血清検査、微生物の薬剤感受性検査など)から選択された異なる分析対象試料の測定カテゴリーに応じて、測定結果を含む入力項目を表示するという技術事項が記載されている。

(11)甲第11号証(小林 紘士、” II.各施設の尿中有形成分分析装置の運用事例-2.UF-1000i:日本医科大学付属病院 中央検査部”、医療と検査機器・試薬 Vol.35 No.4、ラボ・サービス、2012年8月10日、第527頁?第529頁)の記載事項
甲第11号証(以下、「甲11」という。)には、尿沈渣自動分析装置の結果、または、尿定性検査測定値と尿沈渣自動分析装置の結果とのクロスチェックの結果、必要に応じて目視鏡検が実施されること、尿沈渣自動分析装置による分析の後、目視鏡検が実施されるという技術事項が記載されている。

(12)甲第12号証(米山 正芳、“6.尿中有形成分情報の活用-複数ロジックによる解析の効果-”、臨床病理レビュー特集第一二五号、臨床病理刊行会、平成15年(2003年)4月30日、第95頁?第101頁)の記載事項
甲第12号証(以下、「甲12」という。)には、尿沈渣自動分析装置による分析の後、必要に応じて目視再検が実施されるという技術事項が記載されている。

(13)甲第13号証(乙幡 明、“II.各施設の尿中有形成分分析装置の運用事例-4.オーションハイブリッドAU-4050:武蔵村山病院 臨床検査科”、医療と検査機器・試薬 Vol.35 No.4、ラボ・サービス、2012年8月10日、第533頁?第535頁)の記載事項
甲第13号証(以下、「甲13」という。)には、尿中有形成分の装置による検査の後、必要に応じて技師による目視鏡検が実施されるという技術事項が記載されている。

3 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「尿沈渣自動分析装置」は、尿検体に含まれる有形成分を分析するものであるから、本件訂正発明1の「尿検体に含まれる有形成分を分析する尿沈渣装置」に相当する。

(イ)甲1発明の「尿沈渣自動分析装置及び尿沈渣結果入力端末が、一般検査用サーバーとオンラインで結ばれ」ているから、「尿沈渣結果入力端末」が、「尿沈渣自動分析装置」から、尿検体の分析結果を受信していることは明らかである。すると、甲1発明の「尿沈渣結果入力端末」は、本件訂正発明1の「前記尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置」に相当する。

(ウ)甲1発明の「ディスプレイ」及び「キーボード」は、それぞれ本件訂正発明1の「表示部」及び「入力部」に相当する。そして、甲1発明の「尿沈渣結果入力端末」の「本体」は制御部を有していることは明らかであるから、甲1発明の「尿沈渣結果入力端末」と、本件訂正発明1の「情報処理装置」とは、「制御部、表示部および入力部を備え」ている点で共通する。

(エ)甲1発明の「尿沈渣結果入力端末のディスプレイに表示される尿沈渣結果入力画面」の「検査結果エリア」の「左側は、検査結果が参照項目として表示され、中央は、尿沈渣結果の入力エリアであ」り、「入力エリア」には、何らかの入力手段により入力された入力値が表示されていることは明らかであるから、甲1発明の「尿沈渣結果入力端末」と、本件訂正発明1の「情報処理装置」とは、「前記尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、何らかの入力手段により入力された入力値を表示する入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ」ている点で共通する。

(オ)上記(ア)?(エ)より、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。

(一致点)
「 尿検体に含まれる有形成分を分析する尿沈渣装置と、
前記尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置と、を備え、
情報入力装置は、制御部、表示部および入力部を備え、
前記制御部は、
尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、何らかの入力手段により入力された入力値を表示する入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させる、
検体検査システム。」

(相違点1)
「参考情報表示領域」に表示される「前記尿検体の分析結果」が本件訂正発明1は、「前記尿沈渣装置から受信した」ものであるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)
「入力値表示領域」が、本件訂正発明1は、「前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用され」るのに対して、甲1発明は、そのような特定がなく、
「入力値表示領域」に表示される値が、本件訂正発明1は、「前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値」であるのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について検討する。
甲2?甲13のいずれにも、「入力値表示領域」が、「前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用され」、「入力値表示領域」に表示される値が、「前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値」である点は記載されてなく、また本願の出願前において周知技術であるともいえない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明ではなく、また、当業者であっても甲1発明及び甲2?甲13に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件訂正発明2?20について
また、本件訂正発明2?20は、本件訂正発明1をさらに限定したものであるので、本件訂正発明1と同様に、本件訂正発明2?20は、甲1発明ではなく、また、当業者が甲1発明及び甲2?甲13に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件訂正発明21?23について
本件訂正発明21は、本件訂正発明1の情報処理装置を備えた検体検査装置の発明を、情報処理装置の発明として構成したものであるが、本件訂正発明1の相違点2に係る訂正発明1の構成を、同様に備えているので、本件訂正発明21は、甲1発明ではなく、また、当業者が甲1発明及び甲2?甲13に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件訂正発明22は、本件訂正発明21の装置の発明を、カテゴリを変えて方法の発明に書き換えたものであるので、本件訂正発明21と同様に、本件訂正発明21は、甲1発明ではなく、また、当業者が甲1発明及び甲2?甲13に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
さらに、本件訂正発明23は、本件訂正発明22の方法の発明を、プログラムの発明に書き換えたものであるので、本件訂正発明22と同様に、本件訂正発明23は、甲1発明ではなく、また、当業者が甲1発明及び甲2?甲13記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 申立人の意見について

申立人は、平成30年5月8日付け意見書において、「本願出願前に公知であった多くの文献が、尿沈渣自動分析装置による検査と技師鏡検との関係が、その何れか一方が選択的に行われるものではあり得ず、技師鏡検が行われるタイミングでは、尿沈渣自動分析装置による分析が行われていて、その分析結果が利用されることが技術常識であったことを示している。」(意見書第13頁末行?第14頁4行)、
「尿沈渣自動分析装置による結果と技師鏡検の何れか一方が選択的に行われる訳ではなく、尿沈渣自動分析装置による分析の後、必要に応じて技師鏡検が行われることは、甲第11号証?甲第13号証に記載されるように、尿検査のシステムにおいて技術常識であると言える。」(意見書第17頁1?3行)、
「検査結果エリアの左側に表示されるものとして記載される「尿沈渣自動分析装置にて再鏡検が必要な検査結果」(第157頁左欄第18行?第19行)は、「尿沈渣自動分析装置」による検査結果であるとしか考えられない。」(意見書第15頁4?7行)と主張する。
しかし、甲1には、「2 (1) イ」に摘記したように「尿沈渣結果入力画面を図3に示した。・・・検査結果エリアの左側は、尿定性結果や関連項目結果、および尿沈渣自動分析にて再鏡検が必要な検査結果などが表示される。中央が尿沈渣結果の入力エリア、右側が過去異常値の前回日付の表示エリアとなっている」と記載されており、尿沈渣結果入力端末の画面であると解される図3の尿沈渣結果入力画面下部左側には、参照項目が記載され、沈渣に関しては、「検査項目」に「沈渣Online」が、「承認」に「未承認」と記載されている。
まず、図3の「沈渣Online」が具体的にどのようなデータを示すのかは明らかでないから、尿沈渣結果入力端末の画面の検査結果エリアの左側に「尿沈渣自動分析装置」による検査結果が表示されるとは、明確に特定できない。
次に、甲3に「【0017】・・・尿中有形成分の検査は、尿定性の検査が行われた結果、さらに尿中有形成分の検査が必要であるとされた検体について行われる。」と記載されているように「尿定性の検査が行われた結果、さらに尿沈渣による再検査が必要である場合に尿沈渣の検査が行われること」も甲第1号証の公開当時に周知の技術事項であり、また、尿沈渣自動分析装置による検査が顕微鏡下で行われる場合、尿沈渣自動分析装置による検査を鏡検と呼ぶことも十分にあり得ることを考慮すれば、上記「尿沈渣自動分析装置にて再鏡検が必要な検査結果」は、尿定性検査の結果、「尿沈渣自動分析装置」による再検査(再鏡検)を行うことが必要と判断された検査結果(検査項目)を示すとも解することができる。
すると、申立人が主張するように、上記「尿沈渣自動分析装置にて再鏡検が必要な検査結果」が、尿沈渣自動分析装置による検査結果であるとしか考えられないとまではいえない。
したがって、 尿沈渣自動分析装置による検査の後、技師鏡検が行われるという技術常識を考慮しても、上記申立人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?23に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?23に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿検体に含まれる有形成分を分析する尿沈渣装置と、
前記尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、制御部、表示部および入力部を備え、
前記制御部は、
前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる、検体検査システム。
【請求項2】
前記尿沈渣装置は、有形成分に関する複数の分析項目について前記尿検体を分析し、
前記参考情報表示領域は、前記尿検体の分析結果として、前記複数の分析項目のそれぞれに対応する分析値を表示し、
前記入力値表示領域は、前記複数の分析項目よりも詳細な細分類項目を含む複数の検査項目と、それぞれの検査項目に対応する値表示領域とを表示し、
前記制御部は、目視検査において計数された有形成分の値を検査項目ごとに前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記値表示領域に表示させる、請求項1に記載の検体検査システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記尿検体について信頼性の低い又は異常な分析値を示す分析項目がある場合、信頼性が低い又は異常である旨の情報を前記分析項目に関連付けて表示する、請求項2に記載の検体検査システム。
【請求項4】
前記尿沈渣装置とは異なる測定原理で前記尿検体の分析を行う第2検体分析装置をさらに備え、
前記尿沈渣装置は、前記第2検体分析装置による前記尿検体の分析の後、再検査として前記尿検体を分析し、
前記制御部は、前記第2検体分析装置から受信した前記尿検体の第2分析結果を、前記尿沈渣壮置から受信した前記尿検体の分析結果を含む第1領域に対して横方向に配置された第2領域において、前記参考情報表示領域にさらに表示させる、請求項1ないし3の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記第1領域と、前記第2領域とが隣り合うよう各領域を表示する、請求項4に記載の検体検査システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記第1領域と、前記尿検体の目視検査結果を含む第3領域とが隣り合うよう各領域を表示し、
前記入力値表示領域に計数値が表示された状態で、所定の指示を受け付けると、前記入力値表示領域に表示された前記計数値を、目視検査結果として前記第3領域に表示させる、請求項4または5に記載の検体検査システム。
【請求項7】
前記第2検体分析装置は、尿定性装置である、請求項4ないし6の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記尿沈渣装置の分析結果を含む第1領域と、前記尿定性装置の分析結果を含む第2領域との間で、関連する分析項目が横方向に隣り合うよう各領域内の分析項目を表示する、請求項7に記載の検体検査システム。
【請求項9】
前記尿沈渣装置の分析結果を含む前記第1領域と、前記尿定性装置の分析結果を含む前記第2領域との間の関連する前記分析項目は、潜血と赤血球、蛋白濃度と円柱、白血球と白血球、亜硝酸塩と細菌、および、比重と導電率の組合せからなる群より選ばれた一の組合せである、請求項8に記載の検体検査システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記尿定性装置の分析結果と前記尿沈渣装置の分析結果との間でクロスチェックを行い、前記参考情報表示領域において、前記クロスチェックの結果を表示する、請求項7ないし9の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項11】
前記制御部は、
前記尿沈渣装置による前記尿検体の分析結果および前記第2検体分析装置による前記尿検体の分析結果に基づいて、前記尿検体について目視検査が必要であるか否かを判定し、
目視検査が必要であると判定した場合に、前記尿検体について目視検査が必要であることを示す情報を前記表示部に表示させる、請求項4ないし10の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記尿検体について目視検査が必要であると判定した場合に、前記参考情報表示領域において、目視検査が必要であると判定した根拠となる情報として、目視検査において着目すべき検査項目を示す情報を表示する、請求項11に記載の検体検査システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記尿検体中の有形成分の分布を示す分布図を表示する、請求項1ないし12の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、時系列に沿った前記尿検体の分析結果を表示する、請求項1ないし13の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記尿検体の目視検査に関するコメントの入力を前記入力部を介して受け付けて、前記参考情報表示領域において、前記尿検体の目視検査に関するコメントを表示する、請求項1ないし14の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項16】
前記制御部は、前記参考情報表示領域において、前記尿検体の分析結果に関する注釈情報を表示する、請求項1ないし15の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項17】
前記制御部は、前記尿検体について得られた少なくとも2つの分析項目の分析値が所定の関係を有する場合に、前記参考情報表示領域において、前記所定の関係から導かれる疾患に関する前記注釈情報を表示する、請求項16に記載の検体検査システム。
【請求項18】
前記制御部は、前記尿検体の分析において異常が生じた場合に、前記参考情報表示領域において、前記尿検体の分析において異常が生じたことを示す前記注釈情報を表示する、請求項16または17に記載の検体検査システム。
【請求項19】
前記画面は、前記参考情報表示領域の表示内容を切り替えるための切替指示を前記入力部を介して受け付けるための切替部をさらに備え、
前記制御部は、前記画面が表示されている状態で、前記切替指示を前記入力部を介して受け付け、受け付けた前記切替指示に応じた表示内容を前記参考情報表示領域に表示させる、請求項1ないし18の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項20】
前記尿沈渣装置は、尿および尿以外の体液中の有形成分を分析し、
前記制御部は、前記入力値表示領域において、目視検査を行う対象が尿と体液の何れであるかに応じて目視検査の検査項目を表示する、請求項1ないし19の何れか一項に記載の検体検査システム。
【請求項21】
尿検体中の有形成分を分析する尿沈渣装置から前記尿検体の分析結果を受信する情報処理装置であって、
制御部と、
表示部と、
入力部と、を備え、
前記制御部は、
前記尿沈渣装置から受信した前記尿検体の分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を前記表示部に表示させ、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を前記入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる、情報処理装置。
【請求項22】
有形成分を含む尿検体に対する目視検査の結果を入力するための情報処理方法であって、
尿沈渣装置が前記尿検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させ、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる、情報処理方法。
【請求項23】
有形成分を含む尿検体に対する目視検査の結果を入力するための処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
尿沈渣装置が前記尿検体中の有形成分を分析することで得られた分析結果を表示するための参考情報表示領域と、前記尿検体の分析結果に基づいて前記尿沈渣装置の分析対象と同じ種類の有形成分を検査対象とする再検査が必要とされた場合に実施される、顕微鏡を用いた前記尿検体の目視検査において使用される入力値表示領域とを備える画面を表示部に表示させる処理と、
前記画面が表示されている状態で、前記尿検体の目視検査において計数された有形成分の値を入力部を介して受け付け、受け付けた計数値を前記入力値表示領域に表示させる処理と、を含む、プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-11 
出願番号 特願2015-232373(P2015-232373)
審決分類 P 1 651・ 112- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 幸仙  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 昌哉
信田 昌男
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6117900号(P6117900)
権利者 シスメックス株式会社
発明の名称 検体検査システム、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム  
代理人 芝野 正雅  
代理人 芝野 正雅  

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