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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1342993
異議申立番号 異議2017-700980  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-12 
確定日 2018-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6114454号発明「メタクリル系樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6114454号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6114454号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6114454号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2016-209971号、以下「本願」という。)は、平成28年10月26日(優先権主張:平成28年1月21日、特願2016-9840号)に出願人旭化成株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年3月24日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、平成29年4月12日に特許公報が発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年10月12日付けで特許異議申立人高瀬彌平(以下「申立人」という。)により「特許第6114454号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がされた。

3.以降の経緯
以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月27日付け 取消理由通知・審尋(特許権者あて)
平成30年 3月12日 訂正請求書・意見書・回答書
平成30年 3月22日 証拠説明書(特許権者)
平成30年 4月23日付け 通知書(申立人あて)
平成30年 5月23日 意見書(申立人)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第8号証を提示し、申立書における取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由1ないし3が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件発明1ないし9は、いずれも、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件発明1ないし9は、いずれも、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由3:本件発明1ないし9は、その解決課題を解決したものではないか、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に照らして課題が解決したことを確認できないものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2015-183023号公報
甲第2号証:特開2015-135355号公報
甲第3号証:特開2015-67771号公報
甲第4号証:「高分子添加剤の新展開」、住友化学技術誌、2009-II、2009年11月30日発行、第19?27頁
甲第5号証:特開2009-294359号公報
甲第6号証:特開2007-261265号公報
甲第7号証:特開2001-151814号公報
甲第8号証:特開2014-28956号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲8」と略していう。)

第3 当審が通知した取消理由の概要
当審が平成29年12月27日付けで通知した取消理由の概略は、以下のとおりである。

「当審は、
申立人が主張する上記取消理由1ないし3により、本件発明1ないし9についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。・・(中略)・・

1.取消理由3について
・・(中略)・・
(3)小括
よって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

2.取消理由1及び2について
・・(中略)・・
ク.検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び4ないし9は、いずれも、甲1ないし甲3のいずれかに記載された発明であるか、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明2及び3は、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)取消理由1及び2に係る検討のまとめ
よって、本件発明1及び4ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1ないし9は、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。」

第4 平成30年3月12日付け訂正請求の適否

1.訂正請求の内容
上記平成30年3月12日付け訂正請求では、本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1ないし9について一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、以下の(ア)ないし(エ)の訂正事項を含むものである。(なお、下線は、当審が付したもので訂正箇所を表す。)

(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「・・・メタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、 ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、・・・ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。」と記載されているのを、
「・・・メタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、 GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であり、ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、・・・ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?9も同様に訂正する)。

(イ)訂正事項2
明細書の【0019】に、
「[1]・・・メタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、 ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、・・・ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。」と記載されているのを、
「[1]・・・メタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、 GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であり、 ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、・・・ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。」に訂正する。

(ウ)訂正事項3
明細書の【0158】に、「実施例12」と記載されているのを、[比較例7]に訂正する。

(エ)訂正事項4
明細書の【0171】の記載につき、
「【表1】


」と記載されているのを、
「【表1】


」と訂正する。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし9を「旧請求項1」ないし「旧請求項9」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし9を「新請求項1」ないし「新請求項9」という。

(1)訂正の目的要件について
上記の各訂正事項による訂正の目的につき検討する。
上記訂正事項1に係る訂正は、旧請求項4に記載された重量平均分子量の範囲の下限値に係る事項を、旧請求項1に直列的に付加して減縮し、新請求項1としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
上記訂正事項2ないし4に係る訂正は、上記訂正事項1に係る訂正により特許請求の範囲が減縮された新請求項1に記載された事項と不整合となる明細書の記載を単に正すか(訂正事項2)、当該減縮により新請求項1に記載された事項を具備しないものとなった「実施例」につき「比較例」としたものである(訂正事項3及び4)から、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項1ないし4による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1に係る訂正により、新請求項1及び同項を引用する新請求項2ないし9の特許請求の範囲が旧請求項1ないし9に記載された事項に対して減縮されていることが明らかであり、訂正事項2ないし4に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正により対応関係が不明瞭となった明細書の記載につき単に正したものであるから、上記訂正事項1ないし4による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の旧請求項2ないし9は、いずれも旧請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(4)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正を認める。

第5 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし9には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、 GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であり、
ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、
リン元素の含有量が10?1000質量ppmであり、
^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
残存溶媒量が、1000質量ppm未満である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
残存アルコール量が、500質量ppm未満である、請求項1又は2記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000?200,000である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(X)構造単位が、グルタルイミド系構造単位を含み、前記グルタルイミド系構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?70質量%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
光弾性係数の絶対値が、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項9】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項8に記載のメタクリル系樹脂組成物。」
(以下、上記訂正された請求項1ないし9に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由についてはいずれも理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1ないし3についてもいずれも理由がないから、本件発明1ないし9についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

I.当審が取消理由通知で通知した理由について

1.通知した理由の内容
当審が上記取消理由通知で通知した取消理由3に係る検討内容は、要約すると以下のとおりである。なお、取消理由1及び2については、申立人が主張する理由と同一の理由であるので併せて後で検討する。

「本件発明の解決しようとする課題(以下「本件解決課題」という。)は、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0012】?【0017】及び【0020】)の記載からみて、比較的高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂に有機リン化合物を配合させたメタクリル系樹脂組成物を用い、溶融加工等により高品質な光学用途に使用できるような、耐熱性が高く、複屈折性に優れ、加えて、熱安定性及び成型加工性にも優れているメタクリル系樹脂組成物の提供にあるものと認められる。
(それに対して、)本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】?【0119】)の記載を検討すると、背景技術として、光学材料向けのメタクリル系樹脂(組成物)、特に主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂(組成物)において、熱安定性の向上及び成形加工時等の加熱溶融による色調の変化を抑制するために、リン系のものを含む酸化防止剤を添加使用する技術が、本願出願時(優先日)に存していたことが開示されており(【0002】?【0011】)、本件発明のメタクリル系樹脂組成物において、(a)特定のリン元素含有量の範囲にあること及び(b)特定の3価リンと5価リンとの存在割合(P3/P5)の範囲にあることにつき、それぞれ、上記(a)及び(b)の事項を具備することによる作用機序につき一応記載されてはいる。
それに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例(比較例)に係る部分(【0120】?【0171】)の記載を検討すると、当該実施例(比較例)に係る部分の記載に基づき、本件発明のメタクリル系樹脂組成物が、上記(a)及び(b)の各事項を併せて具備することにより、本件解決課題、特に従来技術に比して成型加工性に優れる点を解決できると当業者が認識できるものとはいえない。
なお、本願出願時(優先日)において、上記(a)及び(b)を併せて具備することにより、上記本件発明における解決課題、特に熱安定性及び成型加工性に優れる点につき、解決することができると認識することができる当業者の技術常識が存するものとも認められない。
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】?【0119】)の記載と実施例(比較例)に係る部分(【0120】?【0171】)の記載との対応関係が不明であり、前者における作用機序に係る事項が、後者における記載内容により技術的に裏付けられておらず、むしろ相反する実験例(実施例12)につき記載されているから、当業者が、たとえその技術常識に照らしても、本件発明につき、本件解決課題、特に従来技術に比してメタクリル系樹脂組成物が熱安定性及び成型加工性に優れる点を解決できると当業者が認識できるものとはいえない。
したがって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載では、同各項に記載された事項で特定される本件発明1ないし9が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
よって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。」

2.検討
上記1.で示した理由について、訂正された本件請求項1ないし9の記載に対する当否を以下検討する。

(1)前提事項
当業者の技術常識等につき、検討の前提として確認する。

ア.リン系酸化防止剤について
樹脂・プラスチックに添加して使用される酸化防止剤は、熱、光、機械的せん断力、金属イオン等と酸素との作用により生じる酸化劣化を防止するために使用されるものであり、酸化劣化の開始時に発生する種々のラジカル又は過酸化物等を捕捉及び/又は分解することにより、樹脂・プラスチックの劣化を防止するものである。特に、亜リン酸エステル(フォスファイト)類などの3価のリン原子を有する有機リン系酸化防止剤は、上記の発生機構により生成した過酸化物を捕捉し、3価のリン原子が5価のリン原子に酸化されることによりその過酸化物から酸素を奪い、過酸化物を分解することにより、樹脂・プラスチックが酸化(劣化)することを防止するものである(必要ならば「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」2003年12月2日、株式会社ポリマーダイジェスト社発行、第91?103頁及び甲4を参照のこと。)。
そして、上記酸化防止機構において生成した5価のリン原子を有する有機リン系酸化防止剤(反応生成物)は、何らかの特段の還元的環境に置かれない限り、可逆的に3価の有機リン原子を有する化合物に戻ることはない。

イ.本件発明における「メタクリル系樹脂組成物」について
上記ア.で示したとおりであるから、3価のリン原子を有する有機リン系酸化防止剤を樹脂に一定量(10?1000質量ppm)添加使用した樹脂組成物において、添加時点における「(P3/P5)」値が最大であり、その後の酸素共存下における熱履歴(溶融混練、脱揮、成型等及びその条件)及び保管環境(温度、光照射有無、湿分存否、保管時間等の条件)により、「P3」が「P5」に変化し、「(P3/P5)」値が減少するものと理解するのが自然であり、単一の組成物につき一定の値となるものではない。
してみると、本件発明の「メタクリル系樹脂組成物」は、解決課題として溶融加工による成型加工性の改善を意図しているものであることからみて、当該「メタクリル系樹脂組成物」に係る「^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である」との点は、溶融加工による成型加工の直前の状態の樹脂組成物に係る物性値であり、それ以前の保管可能な状態又は更に成型加工以外の事前の熱履歴が加わる状態の樹脂組成物あるいは成型加工後の成形体を構成する樹脂組成物に係る物性値であると理解することはできない。
よって、本件発明に係る「メタクリル系樹脂組成物」は、「溶融加工による成型加工の直前の状態の樹脂組成物」であるものと認めるのが自然であるから、以下の検討においては、本件発明に係る「メタクリル系樹脂組成物」が、「溶融加工による成型加工の直前の状態の樹脂組成物」であることを前提として検討を行う。

(2)検討
本件発明の解決しようとする課題(以下「本件解決課題」という。)は、適法に訂正された本件特許明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明(【0012】?【0017】及び【0020】)の記載からみて、上記のとおり、比較的高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂に有機リン化合物を配合させたメタクリル系樹脂組成物を用い、溶融加工等により高品質な光学用途に使用できるような、耐熱性が高く、複屈折性に優れ、加えて、熱安定性及び成型加工性にも優れているメタクリル系樹脂組成物の提供にあるものと認められる。
それに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】?【0119】)の記載を検討すると、背景技術として、光学材料向けのメタクリル系樹脂(組成物)、特に主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂(組成物)において、熱安定性の向上及び成形加工時等の加熱溶融による色調の変化を抑制するために、リン系のものを含む酸化防止剤を添加使用する技術が、本願出願時(優先日)に存していたことが開示されており(【0002】?【0011】)、本件発明のメタクリル系樹脂組成物において、(a)特定のリン元素含有量の範囲にあること及び(b)特定の3価リンと5価リンとの存在割合(P3/P5)の範囲にあることにつき、それぞれ、
(a)「本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、リン元素の含有量が10?1000質量ppmであり、好ましくは20?500質量ppm、さらに好ましくは50?300質量ppmであることが好まし」く、「リン元素の含有量が10質量ppm未満であると、本実施形態のような高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂組成物の熱や酸素による分解を、十分に抑制することができない恐れがあ」り、「また、リン元素の含有量が1000質量ppmを超えると、本実施形態のように高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂組成物を用いて高温下で溶融混練を行う場合に、生成する分解生成物や酸化生成物がその組成中に多量の存在することとなり、凝集異物の形成や架橋等の副反応を促進したり、例えば、押出機に附帯させたフィルターの目詰まりを増加させる等、溶融加工を不安定化したり、例えば、フィルム中の異物の増加や、その表面における筋状物やシルバーストリークスの生成等、溶融成形時の揮発成分中に含まれる分解生成物等により得られる製品の品質が低下したりするおそれがある。」及び
(b)「加えて、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物中に含まれる有機リン化合物については、^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が、0.2?5.0であり、好ましくは0.5?3.0、さらに好ましくは、0.6?2.0であることが好まし」く、「この比率が0.2未満の場合には、本実施形態の組成物を用いて、フィルムや成形品を得る際に、熱や酸素による分解を十分に抑制できないばかりか、生成する分解生成物や酸化生成物の影響により、凝集異物の形成が生じ、フィルム中の異物の増加やその表面に筋状物やシルバーストリークスが生成したりするおそれがあ」り、「また、この比率が5.0を超える場合には、押出機に附帯させたフィルターの目詰まりを増加させたり、フィルム中の異物の増加やその表面に筋状物やシルバーストリークスが生成したりするおそれがある。」
と、「溶融加工による成型加工の直前の状態の樹脂組成物」である本件の「メタクリル系樹脂組成物」において、上記(a)及び(b)の事項を併せて具備することによる作用機序につき記載されている。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例(比較例)に係る部分(【0120】?【0171】)の記載を検討すると、実施例1ないし11及び13ないし18は、成型加工性の点で比較例に比して同等以上の実験例であるのに対して、比較例では、上記(a)及び(b)の2点につきいずれも下限値を下回るか上限値を上回る比較例1ないし3及び(a)は範囲内であるが(b)については下限値を下回る比較例4ないし6が記載されているのみであり、また、(a)及び(b)の2点につきいずれも具備するがメタクリル系樹脂の重量平均分子量に係る事項を具備しない比較例7が記載されているが、比較例として、上記(a)及び(b)の2点につきいずれか一方が上限値を上回り他方が範囲内にある比較例、特に(a)が範囲内で(b)が上限値を超える比較例については記載されていない。
しかるに、上記実施例(比較例及び参考例)に係る部分の記載を総合すると、「溶融加工による成型加工の直前の状態の樹脂組成物」である本件発明のメタクリル系樹脂組成物が、メタクリル系樹脂の重量平均分子量の点に加えて、上記(a)及び(b)の各事項を併せて具備することにより、比較例のものと同等以上の成型加工性を示すことが看取できる。
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」である本件発明につき、本件解決課題、特に従来技術に比してメタクリル系樹脂組成物が熱安定性及び成型加工性に優れる点を解決できると当業者が認識できるものといえる。
したがって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載では、同各項に記載された事項で特定される本件発明1ないし9が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。)。

(3)小括
よって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たすものである。

3.まとめ
よって、本件訂正後の請求項1ないし9に係る記載については、当審が通知した取消理由3は理由がない。

II.申立人が主張する取消理由について
申立人が主張する上記取消理由1ないし3につき、再度検討する。

1.取消理由1及び2について

(1)前提事項
上記取消理由1及び2につき検討するにあたり、その前提として、上記I.2.(1)イ.で示したとおりの理由により、本件発明の「メタクリル系樹脂組成物」は、特に「^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である」との点につき、「溶融加工による成型加工の直前の状態の樹脂組成物」であることを前提として以下検討する。

(2)甲1ないし8に記載された事項及び甲1ないし3に記載された発明
以下、上記取消理由につき検討するにあたり、当該取消理由1及び2はいずれも特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし8に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1ないし3に記載された発明の認定を行う。
なお、各甲号証の摘示における下線は、元々記載されているものを除き、当審が付したものである。

ア.甲1

(ア)甲1に記載された事項
上記甲1には、申立人が申立書第10頁表下第5行ないし第14頁上段(【表1】)で指摘したとおりの事項(【請求項1】ないし【請求項5】、【0007】、【0008】、【0030】、【0031】、【0033】、【0034】、【0065】ないし【0070】及び【表1】)が記載されている。

(イ)甲1に記載された発明
上記甲1には、「多環芳香族系キノン化合物と(メタ)アクリルモノマーを含む単量体組成物をラジカル重合して得られる重合体(A)と、リン含有化合物(B)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項1】)、「組成物中に含まれるリン含有化合物(B)のリン原子濃度が、10?1000質量ppmであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項2】)、「重合体(A)が、主鎖に環構造を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項3】)、「主鎖に含まれる環構造が、ラクトン環構造である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項4】)及び「請求項1?4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とするフィルム。」(【請求項5】)がそれぞれ記載されている。
そして、甲1には、上記各請求項に記載された事項を具備する熱可塑性樹脂組成物に係る実施例として、重量平均分子量13万?17万のアクリル系熱可塑性樹脂を含むことも記載されている(申立人が摘示する【0065】?【0070】参照)。
してみると、これらの記載からみて、
「多環芳香族系キノン化合物と(メタ)アクリルモノマーを含む単量体組成物をラジカル重合して得られる、主鎖にラクトン環構造を含む重量平均分子量13万?17万の重合体(A)と、組成物全体に対してリン原子濃度で10?1000質量ppmであるリン含有化合物(B)を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。

イ.甲2

(ア)甲2に記載された事項
上記甲2には、申立人が申立書第14頁表下第3行ないし第18頁上段(表)で指摘したとおりの事項(【請求項1】、【0006】、【0032】、【0036】、【0051】、【0105】ないし【0140】、【0145】及び【0146】)が記載されている。

(イ)甲2に記載された発明
上記甲2には、「以下の式(1)に示す(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位(A)と、以下の式(2)に示すN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位(B)とを有する熱可塑性樹脂(C)を含み、o-キシレンの含有率が10ppm以上500ppm以下(質量基準)である、熱可塑性樹脂組成物。」(【請求項1】、各式及びその説明は省略)が記載され、「樹脂(C)の重量分子量Mwの下限は、例えば5万以上であり、10万以上が好まし」く、「Mwの上限は、例えば30万以下であり、20万以下が好ましい」こと(申立人摘示の【0036】)及び「本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(D)は、熱可塑性樹脂以外の材料、例えば添加剤、を含むことができ」、「添加剤は、例えば、紫外線吸収剤(UVA);酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー、樹脂改質剤、可塑剤、滑剤であ」り「樹脂組成物(D)における添加剤の含有率(UVAを除く)は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である」こと(同【0051】)も記載されている。
また、上記甲2には、実施例1ないし16の具体的実施例が記載され、各実施例では、単量体100質量部につき、「アデカスタブ2112」なる商品名のリン系酸化防止剤0.05質量部(すなわち500質量ppm)の存在下で重合してなる樹脂(C)を含む樹脂組成物につき、樹脂(C)の重量平均分子量Mwが12.2万?13.7万、ガラス転移温度が121℃?150℃であることも記載されている(申立人摘示【0105】?【0128】、【表1A】、【表1B】参照)。
してみると、上記甲2には、これらの記載からみて、
「以下の式(1)に示す(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位(A)の少なくとも50質量%と、以下の式(2)に示すN-フェニルマレイミド単位および/またはN-シクロヘキシルマレイミド単位などのN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位(B)の2?40質量%とを有する熱可塑性樹脂(C)及びリン系酸化防止剤500質量ppmを含み、o-キシレンの含有率が10ppm以上500ppm以下(質量基準)である熱可塑性樹脂組成物(D)であって、当該樹脂(C)の重量平均分子量Mwが12.2万?13.7万であり、ガラス転移温度(Tg)が110℃?150℃である、熱可塑性樹脂組成物。


式(1)において、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数1?12の炭化水素基である。


式(2)において、R^(3)およびR^(4)は、互いに独立して、水素原子、炭素数1?12のアルキル基または炭素数6?14のアリール基であり、Xは、炭素数3?12のシクロアルキル基または炭素数6?14のアリール基である。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものといえる。

ウ.甲3

(ア)甲3に記載された事項
上記甲3には、申立人が申立書第18頁表下第3行ないし第20頁第25行で指摘したとおりの事項(【請求項1】、【0046】、【0048】、【0064】、【0065】、【0074】、【0093】、【0104】ないし【0106】、【0112】、【0113】及び【0116】)が記載されている。

(イ)甲3に記載された発明
上記甲3には、「紫外線吸収剤(B)をX質量%の含有率で含む熱可塑性樹脂組成物(C)の製造方法であって、熱可塑性樹脂(A)と前記紫外線吸収剤(B)とを押出機にて溶融混練する工程と、前記溶融混練により形成された熱溶融状態の組成物をポリマーフィルタに導入して濾過する工程と、を含み、前記ポリマーフィルタへの前記組成物の導入を開始した後、前記ポリマーフィルタ内部の前記組成物の経路が前記組成物により充填されるまで、前記ポリマーフィルタへの前記組成物の導入量を定常状態よりも低くするとともに、当該組成物における前記紫外線吸収剤の含有率をY質量%(ただし、0≦Y≦1.5×X)とし、その後、前記導入量を定常状態とし、前記含有率をX質量%として、前記熱可塑性樹脂組成物(C)を得る、紫外線吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(【請求項1】)及び「前記熱可塑性樹脂(A)が主鎖に環構造を有するアクリル樹脂である、請求項1?6のいずれかに記載の紫外線吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」(【請求項7】)が記載され、上記「主鎖に環構造を有するアクリル樹脂」が「ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である」こと(申立人摘示【0048】)、当該「樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば1000?300000であり、好ましくは5000?250000、より好ましくは10000?200000、さらに好ましくは50000?200000である」こと(申立人摘示【0074】)及び「樹脂組成物(C)は、熱可塑性樹脂およびUVA(B)以外の材料、例えば添加剤、を含むことができ」、「添加剤は、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤などの位相差調整剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラー、無機フィラー、樹脂改質剤、可塑剤、滑剤であ」って「樹脂組成物(C)における添加剤の含有率は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である」こと(申立人摘示【0093】)もそれぞれ記載されている。
また、上記甲3には、「製造例1」として、メタクリル酸メチルを主成分とする単量体の合計263質量部につき「アデカスタブ2112」なる商品名のリン系酸化防止剤0.15質量部(すなわち約570質量ppm)の存在下で重合してなるアクリル系樹脂が記載され、さらに「実施例1」として上記「製造例1」で製造したアクリル系樹脂につき環化縮合を完了させ、主鎖にラクトン環を有するアクリル系樹脂を含む樹脂組成物を製造しており、当該樹脂組成物につき、重量平均分子量Mwが13.6万、ガラス転移温度が121℃であることも記載されている(申立人摘示【0104】?【0127】参照)。
してみると、甲3には、これらの記載からみて、
「主鎖にラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を有するメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル樹脂(A)、紫外線吸収剤(B)及びリン系酸化防止剤570ppmを含む熱可塑性樹脂組成物であって、重量平均分子量Mwが13.6万、ガラス転移温度が121℃である樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものといえる。

エ.甲4に記載された事項
上記甲4には、申立人が申立書第20頁第28行ないし第21頁下段(最下行)で指摘したとおりの、「SUMILIZER GP」なる商品名の3価のリン原子を有するリン系酸化防止剤が、アルキルハイドロパーオキサイド(ROOH)から酸素を奪って、5価のリン原子を有する化合物に変化するという安定化機構で酸化防止剤として機能すること(第20頁「Scheme2」)及び「SUMILIZER GP」が他の3価のリン原子を有するリン系酸化防止剤(「P-1」)に比して、クメンハイドロパーオキサイドの分解速度が速いこと(第23頁左欄第6行ないし右欄第3行)が記載されている。

オ.甲5に記載された事項
上記甲5には、申立人が申立書第22頁第3行ないし第23頁第4行で指摘したとおりの、ラクトン環含有アクリル系樹脂ペレットに「PEP-36」なる商品名のリン系酸化防止剤を0.1重量%含有させてなる樹脂ペレット(【0145】)が記載されている。

カ.甲6に記載された事項
上記甲6には、申立人が申立書第23頁第7行ないし第24頁第4行で指摘したとおりの、「115℃以上のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂を溶融押出し法で成型機を用いて成型加工する工程を含むアクリル系樹脂成型品の製造方法であって、該溶融押出し工程は、アクリル系樹脂を溶融する前に、70℃以上、かつ、酸素濃度5体積%以下の状態で保持する操作を行うことを特徴とするアクリル系樹脂成型品の製造方法」が記載され(【請求項1】)、「上記溶融押出し工程は、アクリル系樹脂を溶融する前に、70℃以上、かつ、酸素濃度を5体積%以下の状態で保持する操作を行うことが好まし」く「これにより、成型時に熱を加えてもゲル化を起こしにくいため、ポリマーゲルや、ポリマー炭化物等の異物の生成を抑制することができ、かつ、着色を防止することができ、優れた光学特性を有するアクリル系樹脂成型品を製造することができ」、「より好ましくは、90℃以上、最も好ましくは、100℃以上であり、かつ、酸素濃度が1体積%以下である」こと及び「酸素濃度が5体積%を超えると、異物の生成を充分に抑制することができないおそれがある」こと(【0011】)も記載されている。

キ.甲7に記載された事項
上記甲7には、申立人が申立書第24頁第7行から第10行で主張するとおりの事項を含む、「分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を脱アルコール反応させて該重合体中にラクトン環構造を導入させることにより透明性耐熱樹脂を得る方法において、前記脱アルコール反応の際に、有機リン化合物を触媒として用いることを特徴とする、透明性耐熱樹脂の製造方法」(【請求項1】)が記載され、当該製造方法により得られた「本発明の透明性耐熱樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、115℃以上、好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、最も好ましくは130℃以上である」と共に、「本発明の透明性耐熱樹脂中の残存揮発分は、その総量が、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とな」り、「これよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーなどの成形不良の原因となる」こと(【0050】)が記載されている。

ク.甲8に記載された事項
上記甲8には、申立人が申立書第24頁第13行から第24行で主張するとおりの事項を含む、「下記式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)50?95質量%と、下記式(2)で表されるN-置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)0.1?20質量%と、下記式(3)で表されるN-置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)0.1?49.9質量%とを含有し、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計量が100質量%である、アクリル系熱可塑性樹脂であって、・・光弾性係数(C)の絶対値が、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であり、ハロゲン原子の含有率が、当該アクリル系熱可塑性樹脂の質量を基準として0.47質量%未満である、アクリル系熱可塑性樹脂」(【請求項1】)が記載され、「フラットパネルディスプレイの大型化の結果、必要とされる光学材料も大型化してきており、外力の偏りによって光学材料内に複屈折分布が生じるためにコントラストが低下するという問題が生じて」おり、「この複屈折分布を小さくするためには、外力による複屈折の変化が小さい、即ち、光弾性係数の絶対値が小さい光学材料が必要とされている」こと(【0007】)及び「本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂、又はアクリル系熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるフィルム又はシート状の成形体を特性評価した場合に、成形体の光弾性係数(C)の絶対値は、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であ」り、「2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることがより好ましく、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることがさらに好ましい」こと(【0098】?【0099】)も記載されている。

(3)対比・検討
以下、本件発明1ないし9につき、それぞれ、各甲号証に記載された発明と個々に対比・検討する。

ア.本件発明1について

(ア)甲1発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「多環芳香族系キノン化合物と(メタ)アクリルモノマーを含む単量体組成物をラジカル重合して得られる、主鎖にラクトン環構造を含む重量平均分子量13万?17万の重合体(A)」は、本件発明1における「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、・・ラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂」及び「GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上である」に相当し、甲1発明の「組成物全体に対してリン原子濃度で10?1000質量ppmであるリン含有化合物(B)を含む」は、甲1において、当該リン含有化合物として亜リン酸エステル、すなわちリン含有有機化合物が好適なものとして例示されている(甲1【0033】)から、本件発明1における「有機リン化合物とを含み、」及び「リン元素の含有量が10?1000質量ppmであ」るに相当する。
また、甲1発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、本件発明1における「メタクリル系樹脂組成物」に相当することが明らかである。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、下記の2点で相違し、その余で一致している。

相違点1:本件発明1では「^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である」のに対して、甲1発明では、上記「(P3/P5)」につき特定されていない点
相違点2:「メタクリル系樹脂組成物」につき、本件発明1では「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」るのに対して、甲1発明では、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度につき特定されていない点

(b)検討

(b-1)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、上記I.2.(1)イ.で示したとおり、3価のリン原子を有する有機リン系酸化防止剤を樹脂に一定量(10?1000質量ppm)添加使用した樹脂組成物において、添加時点における「(P3/P5)」値が最大であり、その後の酸素共存下における熱履歴(溶融混練、脱揮、成型等及びその条件)及び保管環境(温度、光照射有無、湿分存否、保管時間等の条件)により、「P3」が「P5」に変化し、「(P3/P5)」値が減少するものと理解するのが自然であり、単一の組成物につき一定の値となるものではないところ、甲1発明において、亜リン酸エステルなどの3価リンのみからなるリン含有化合物を組成物全体に対してリン原子濃度で10?1000質量ppmである量で添加使用したものであっても、その後の熱履歴(溶融混練、脱揮、成型等及びその条件)及び保管環境(温度、光照射有無、湿分存否、保管時間等の条件)により「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「(P3/P5)」がいかなる値となるか不明であって、本件発明1の「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「0.2?5.0」なる範囲となるものとは認められない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、甲1に記載された事項及び他の甲号証に記載された事項を含めて検討しても、甲1発明において、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「(P3/P5)」の値を「0.2?5.0」なる範囲にすべき技術的動機が存するものともいえないから、上記相違点1は、甲1発明に基づいて、当業者が適宜なし得ることということはできない。

(b-2)小括
したがって、上記相違点2につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(イ)甲2発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「以下の式(1)に示す(メタ)アクリレート単量体に由来する構成単位(A)の少なくとも50質量%と、以下の式(2)に示すN-フェニルマレイミド単位および/またはN-シクロヘキシルマレイミド単位などのN-置換マレイミド単量体に由来する構成単位(B)の2?40質量%とを有する熱可塑性樹脂(C)」は、本件発明1における「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位・・からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂」に相当し、甲2発明の「リン系酸化防止剤500質量ppmを含み」は、甲2発明において使用される「アデカスタブ2112」なる商品名のリン系酸化防止剤が有機亜リン酸エステルであり、その500質量ppmには、リン原子が約24質量ppm含有されることが当業者に自明であるから、本件発明1における「有機リン化合物とを含み、」及び「リン元素の含有量が10?1000質量ppmであ」るの「24質量ppm」に相当することが、いずれも当業者に自明である。
また、甲2発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、「熱可塑性樹脂(C)」と「リン系酸化防止剤」を含有する点で、本件発明1における「メタクリル系樹脂組成物」に相当する。
そして、甲2発明における「当該樹脂(C)の重量平均分子量Mwが12.2万?13.7万であり、ガラス転移温度(Tg)が110℃?150℃である」点は、甲2発明の「熱可塑性樹脂組成物」のガラス転移温度は、「熱可塑性樹脂(C)」のガラス転移温度と略同等なものとなることが当業者に自明であるから、本件発明1における「GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であ」る点及び「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」る点との間で、それぞれ、「12.2万?13.7万」との範囲及び「120℃超150℃以下」との範囲で重複するものと認められる。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、下記の点でのみ一応相違し、その余で一致している。

相違点1’:本件発明1では「^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である」のに対して、甲2発明では、上記「(P3/P5)」につき特定されていない点

(b)検討

(b-1)相違点1’について
上記相違点1’につき検討すると、相違点1’は、上記(ア)で示した相違点1と同一の事項であって、上記(ア)(b)(b-1)で説示した相違点1に係る理由と同一の理由により、「アデカスタブ2112」なる商品名の有機亜リン酸エステルであるリン系酸化防止剤500質量ppm(リン含量24質量ppm)を使用する甲2発明においても、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「(P3/P5)」がいかなる値となるか不明であって、本件発明1の「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「0.2?5.0」なる範囲となるものとは認められず、また、甲2に記載された事項及び他の甲号証に記載された事項を含めて検討しても、甲2発明において、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「(P3/P5)」の値を「0.2?5.0」なる範囲にすべき技術的動機が存するものともいえないから、上記相違点1’は、実質的な相違点であると共に、甲2発明に基づいて、当業者が適宜なし得ることということはできない。

(b-2)小括
したがって、本件発明1は、上記甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)甲3発明との対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「主鎖にラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を有するメタクリル酸メチルを主成分とするアクリル樹脂(A)」は、本件発明1における「主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂」に相当し、甲3発明の「リン系酸化防止剤570ppmを含む」は、甲3発明において使用される「アデカスタブ2112」なる商品名のリン系酸化防止剤が有機亜リン酸エステルであり、その570質量ppmには、リン原子が約27質量ppm含有されることが当業者に自明であるから、本件発明1における「有機リン化合物とを含み、」及び「リン元素の含有量が10?1000質量ppmであ」るの「27質量ppm」に相当することが、いずれも当業者に自明である。
また、甲3発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、「アクリル樹脂(A)」と「リン系酸化防止剤」を含有する点で、本件発明1における「メタクリル系樹脂組成物」に相当する。
そして、甲3発明における「重量平均分子量Mwが13.6万、ガラス転移温度が121℃である樹脂組成物」は、本件発明1における「GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であ」る点及び「ガラス転移温度が120℃超160℃以下であ」る点との間で、それぞれ、「13.6万」の点及び「121℃」の点で一致するものと認められる。
してみると、本件発明1と甲3発明とは、下記の点でのみ一応相違し、その余で一致している。

相違点1’’:本件発明1では「^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である」のに対して、甲3発明では、上記「(P3/P5)」につき特定されていない点

(b)検討

(b-1)相違点1’’について
上記相違点1’’につき検討すると、相違点1’’は、上記(ア)で示した相違点1と同一の事項でああって、上記(ア)(b)(b-1)で説示した相違点1に係る理由と同一の理由により、「アデカスタブ2112」なる商品名の有機亜リン酸エステルであるリン系酸化防止剤570質量ppm(リン含量27質量ppm)を使用する甲3発明においても、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「(P3/P5)」がいかなる値となるか不明であって、本件発明1の「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「0.2?5.0」なる範囲となるものとは認められず、また、甲3に記載された事項及び他の甲号証に記載された事項を含めて検討しても、甲3発明において、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」における「(P3/P5)」の値を「0.2?5.0」なる範囲にすべき技術的動機が存するものともいえないから、上記相違点1’’は、実質的な相違点であると共に、甲3発明に基づいて、当業者が適宜なし得ることということはできない。

(b-2)小括
したがって、本件発明1は、上記甲3発明、すなわち甲3に記載された発明であるということはできず、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1ないし甲3の各甲号証に記載された発明であるとはいえず、甲1ないし甲3の各甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

イ.本件発明2ないし9について
本件発明2ないし9は、いずれも、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるところ、上記ア.で検討したとおり、本件発明1は、甲1ないし甲3の各甲号証に記載された発明であるとはいえず、甲1ないし甲3の各甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできないのであるから、同一の理由により、本件発明2ないし9のいずれについても、甲1ないし甲3の各甲号証に記載された発明であるとはいえず、甲1ないし甲3の各甲号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

ウ.検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし9は、いずれも、甲1ないし甲3のいずれかに記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4)取消理由1及び2に係る検討のまとめ
よって、本件発明1ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明1ないし9は、同法同条第2項の規定にも該当しないから、いずれにしても特許を受けることができないものということはできないから、申立人が主張し、当審が通知した取消理由1及び2につき、いずれも理由がない。

2.取消理由3について
申立人が主張する取消理由3は、申立書第39頁最下行ないし第41頁第2行の記載からみて、上記I.2.(2)で示したとおりの本件発明の解決課題を指摘した上で、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例において確認されている「光弾性係数」、「ガラス転移温度」、「溶液透過率」、「ロール汚れ」、「フィルム外観」なる各物性と課題解決手段との関係が不明であるとし、本件発明に係る構成要件事項、特に「^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である」こととの技術的対応関係が不明であることにより、本件発明で規定する構成要件を充足することにより、本件発明の課題が解決されるわけではなく、本件発明はいわゆるサポート要件に違反するというものであると認められる。
しかるに、上記I.で説示したとおりの理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、「(溶融加工による成型加工の直前の状態の)樹脂組成物」である本件発明につき、本件解決課題、特に従来技術に比してメタクリル系樹脂組成物が熱安定性及び成型加工性に優れる点を解決できると当業者が認識できるものといえるのであるから、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載では、同各項に記載された事項で特定される本件発明1ないし9が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきであって(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。)、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する、すなわちサポート要件を満たすものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たすものである。
よって、申立人が主張する取消理由3は、理由がない。

III.当審の判断のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する取消理由1ないし3及び当審が通知した取消理由1ないし3は、いずれも理由がないから、本件訂正後の請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する理由及び提示した証拠によっては、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、ほかに本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
メタクリル系樹脂組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が高く、高度に複屈折性が制御され、熱安定性、及び成形加工性にも優れるメタクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタクリル系樹脂は、その透明性、表面硬度等が優れていることに加え、光学特性である複屈折が小さいことから、例えば、各種光学製品、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイや、小型赤外線センサー、微細光導波路、超小型レンズ、短波長の光を扱うDVD/BlueRayDisk用ピックアップレンズ等、光学ディスク、光学フィルム、プラスチック基板等の光学材料向け光学樹脂として注目され、その市場が大きく拡大しつつある。
【0003】
特に、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂及び該メタクリル系樹脂を含む組成物は、耐熱性と光学特性との両方に優れた性能を有していることが知られており、年々、その需要が急速に拡大してきている。しかしながら、上記のように耐熱性と光学特性とを改良した主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を加熱溶融し、フィルムやその他成形品等に加工し、光学用途向け部材を得ようとした場合、その高いガラス転移温度のため、比較的高温での溶融加工を余儀なくされ、熱分解を生じやすいという欠点がある。また、近年、その需要の拡大と更なる高品質化の要求が進むに従い、より高吐出量下で、且つ、異物除去の目的で各種フィルターを附帯した、発熱しやすく、また、滞留時間が比較的長い大型押出機を用いた溶融成形を行うことが増々増えている。このような過酷な成形条件下でも、成形加工安定性に優れ、より高品質な光学用途向け部材を提供し得る、光学特性及び耐熱性に優れたメタクリル系樹脂及びそれを含む組成物の提供が期待されている。
【0004】
従来、メタクリル系樹脂の熱安定性を向上させたり、加熱溶融に伴う色調変化を抑制したりする目的で、メタクリル系樹脂に、特定のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及びイオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を配合した組成物、及びそれを用いた成形品やフィルムが数多く知られている。
【0005】
また、主鎖に環構造を有し、ガラス転移温度が高いメタクリル系樹脂及び該メタクリル系樹脂を含む組成物についても、上記の目的に加え、重合生成物の着色抑制や、環化反応により主鎖に環構造を導入する製法を採用する際に、環化触媒や分子間架橋抑制のための安定剤としてリン系酸化防止剤を含む有機リン化合物を配合する試みや、該樹脂組成物を製造するための工程のいずれかにおいて、前記酸化防止剤を添加し、熱安定性を改良する試みが進んでいる。
【0006】
例えば、特許文献1では、マレイミド系単量体を10重量%以上含有し、かつリン原子を有する化合物を全単量体に対し、0.001?1重量%含有する組成物が高温下長時間さらされた場合においても黄変を起こさず、高い透明性を発現できることが提案されている。
【0007】
また、特許文献2では、メタクリル酸メチル10?70重量%、及びN-置換マレイミドを5?30重量%、メタクリル酸シクロヘキシル15?85重量%、及びその他共重合可能な単量体を0?30重量%からなる共重合体に対し、ヒンダードアミン系光安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤を含有する樹脂組成物が提案されており、連続長時間成形による異物混入が少なく、また、成形時の着色、高温雰囲気(100℃付近)下での着色の少ない、耐熱性、低複屈折性に優れた成形品を得ることが提案されている。
【0008】
また、特許文献3では、N-置換マレイミドを含むラジカル重合可能な単量体を重合する際に、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を用い、その一部を単量体成分の重合中に共存させ、その残りの酸化防止剤を単量体成分の重合終了後に添加し重合する方法を採用することにより、着色の少ない樹脂を効率的に製造する方法が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献4では、ラクトン環構造を有するメタクリル系樹脂を主成分として含む樹脂成分と、該樹脂成分100重量部に対して0.02重量部以上の300℃で20分間の加熱における重量減少が10%以下であるフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤から選ばれた酸化防止剤とを含有する成形用組成物が、優れた耐熱性、優れた光学的透明性を有し、且つ、成形温度が250℃以上であっても、光学フィルム中の発泡の生成を抑制できることが提案されている。
【0010】
さらに、特許文献5では、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂と共役ジエン単量体構造単位を必須成分とする弾性有機微粒子とを含む樹脂組成物にリン系酸化防止剤等の酸化防止剤を含有させることにより、成形により得られる位相差フィルムの光学特性の安定性を向上させる方法が提案されている。その際、酸化防止剤は、メタクリル系樹脂と弾性有機微粒子とを混合する際に共に混合、具体的には二軸押出機により混練することにより含有させても、あるいは、メタクリル系樹脂又は弾性有機微粒子の調製時にそれらの構成単量体成分と共に混合しておいてもよいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6-116331号公報
【特許文献2】特開平8-217944号公報
【特許文献3】特開平10-45850号公報
【特許文献4】特開2008-76764号公報
【特許文献5】特開2013-83907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂は、光学フィルムとしての需要の拡大に伴い、異物除去の目的で各種フィルターを附帯した、滞留時間が比較的長い大型押出機を用いた溶融加工に利用され、より高吐出量下で、より高温で実施される傾向が強まっている。このような場合には、押出機に附帯させたフィルターの目詰まりが増加したり、フィルム成形時のキャストロール汚れが増大したりする等のフィルム製造時のトラブルや、例えば、光学用途向けフィルムとして異物の増加やその表面に筋状物やシルバーストリークスが生成する等の製品の品質低下が多く発生する傾向にある。
【0013】
このような過酷な条件下での溶融加工においても、溶融樹脂中の凝集異物形成や架橋等の副反応を生じることが少なく、安定した溶融成形を可能とし、高い成形品の品質確保が可能なメタクリル系樹脂組成物の提供が強く求められている。
【0014】
しかしながら、先行文献に見られる提案においては、その溶融加工条件が、より過酷な条件、例えば、大型の押出機や成形機であったり、異物を除去する目的で高精度のフィルターを附帯する、より滞留時間が長い押出機であったりした場合にも、安定した溶融押出、成形が可能で、優れた性能を有する成形体が得られる組成物であるのかについては全く言及されていない。また、上述のように、各種酸化防止剤を配合した組成物による改良が数多く試みられているものの、その好ましい配合量については言及されているものの、得られた組成物中における各種酸化防止剤、中でもリン系酸化防止剤が、前述のような、より過酷な使用条件においても、より有効に作用するための要件に関しては、全く言及されていない。
【0015】
一般的に、樹脂組成物に用いられるリン系酸化防止剤等に代表される有機リン化合物は、3価のリン元素を有する有機リン化合物(以下、ホスファイト類と記載することもある)であり、酸素存在下に熱を加えることにより酸化され易く、また加水分解も起こしやすいことが知られている。また、3価のリン元素を有する有機リン化合物は加水分解によって、酸性P-OH及びPH=Oのプロトンを生成し、酸素やヒドロペルオキシドと直接反応し、5価のリン元素を有する有機リン化合物となることも知られている。
【0016】
5価のリン元素を有する有機リン化合物は、一般に、その化学的安定性が比較的高いと言われ、例えば、非ハロゲン系難燃剤や可塑剤として熱可塑性樹脂に配合される場合が知られている。しかしながら、比較的高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂に含有する場合には、高温下、溶融状態では、凝集によるゲル状物質や異物の形成を促進する、あるいは、鉄を含む金属素材と接触した場合に、その表面に強く吸着する等の作用により、押出や成形等の溶融加工において問題を生じる可能性があることが懸念される。
【0017】
比較的高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂に有機リン化合物を配合させたメタクリル系樹脂組成物を用い、溶融加工等により高品質な光学用途に使用できる部材を安定に提供し、且つ、素材の使用期間中においても、より安定した優れた性能を発現させ得る組成物の提供が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上述した従来技術の問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、比較的ガラス転移温度が高く、主鎖に環構造単位を有するメタクリル系樹脂と有機リン化合物とを少なくとも含む組成物において、組成物中に含まれるリン元素の含有量とその価数を好適化することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、
GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であり、
ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、
リン元素の含有量が10?1000質量ppmであり、
^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
[2]残存溶媒量が1000質量ppm未満である、[1]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[3]残存アルコール量が500質量ppm未満である、[1]又は[2]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
[4]GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が90,000?200,000である、[1]乃至[3]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[5]前記(X)構造単位が、グルタルイミド系構造単位を含み、
前記グルタルイミド系構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?70質量%である、[1]乃至[4]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[6]前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、
前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、[1]乃至[4]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[7]前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、
前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、[1]乃至[4]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[8]光弾性係数の絶対値が3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、[1]乃至[7]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
[9]光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、[8]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐熱性が高く、複屈折性に優れ、加えて、熱安定性及び成型加工性にも優れているメタクリル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0022】
(メタクリル系樹脂組成物)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂、有機リン化合物を含み、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂、添加剤を含む。
【0023】
-メタクリル系樹脂-
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造を主鎖に有する構造単位(X)を含み、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位も含む。
【0024】
以下、各単量体構造単位について説明する。
【0025】
--メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位--
まず、メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位について説明する。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、例えば、以下に示すメタクリル酸エステル類から選ばれる単量体から形成される。
メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ジシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1-フェニルエチル、メタクリル酸2-フェノキシエチル、メタクリル酸3-フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用する場合もある。
上記メタクリル酸エステルのうち、得られるメタクリル系樹脂の透明性や耐候性が優れる点で、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベンジルが好ましい。
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位は、一種のみ含有していても、二種以上含有していてもよい。
【0026】
以下に、特に、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂における構造単位(X)ついて説明する。
【0027】
--N-置換マレイミド単量体由来の構造単位--
次に、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位について説明する。
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位は、下記式(1)で表される単量体及び/又は下記式(2)で表される単量体から選ばれた少なくとも一つとしてよく、好ましくは、下記式(1)及び下記式(2)で表される単量体の両方から形成される。
【0028】
【化1】

式(1)中、R^(1)は、炭素数7?14のアリールアルキル基、炭素数6?14のアリール基のいずれかを示し、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数6?14のアリール基のいずれかを示す。
また、R^(2)がアリール基の場合には、R^(2)は、置換基としてハロゲンを含んでいてもよい。
【0029】
【化2】

式(2)中、R^(4)は、水素原子、炭素数3?12のシクロアルキル基、炭素数1?12のアルキル基のいずれかを示し、R^(5)及びR^(6)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数6?14のアリール基のいずれかを示す。
【0030】
以下、具体的な例を示す。
式(1)で表される単量体としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(2-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(2-エチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-(2-ニトロフェニル)マレイミド、N-(2、4、6-トリメチルフェニル)マレイミド、N-(4-ベンジルフェニル)マレイミド、N-(2、4、6-トリブロモフェニル)マレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-アントラセニルマレイミド、3-メチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、3,4-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1,3,4-トリフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、得られるメタクリル系樹脂の耐熱性、及び複屈折等の光学的特性が優れる点から、N-フェニルマレイミド及びN-ベンジルマレイミドが好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0031】
式(2)で表される単量体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-s-ブチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-n-ペンチルマレイミド、N-n-ヘキシルマレイミド、N-n-ヘプチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド、N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、1-シクロヘキシル-3-メチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3-フェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン、1-シクロヘキシル-3,4-ジフェニル-1H-ピロール-2,5-ジオン等が挙げられる。
これらの単量体のうち、メタクリル系樹脂の耐候性が優れる点から、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドが好ましく、近年光学材料に求められている低吸湿性に優れることから、N-シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
これらの単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いることもできる。
【0032】
本実施形態のメタクリル系樹脂において、式(1)で表される単量体と式(2)で表される単量体とを併用して用いることが、高度に制御された複屈折特性を発現させ得る上で特に好ましい。
式(1)で表される単量体由来の構造単位の含有量(B1)の、式(2)で表される単量体由来の構造単位の含有量(B2)に対するモル割合(B1/B2)は、好ましくは0超15以下、より好ましくは0超10以下である。
モル割合B1/B2がこの範囲にあるとき、本実施形態のメタクリル系樹脂は透明性を維持し、黄変を伴わず、また耐環境性を損なうことなく、良好な耐熱性と良好な光弾性特性を発現する。
【0033】
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量としては、得られる組成物が本実施形態のガラス転移温度の範囲を満たすものであれば特に限定されないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5?40質量%の範囲、より好ましくは5?35質量%の範囲である。
この範囲内にあるとき、メタクリル系樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量を40質量%以下とすることが、重合反応時に単量体成分の反応性が低下し未反応で残存する単量体量が多くなることによるメタクリル系樹脂の物性低下を防ぐのに有効である。
【0034】
本実施形態におけるN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、メタクリル酸エステル単量体及びN-置換マレイミド単量体と共重合可能な他の単量体由来の構造単位を含有していてもよい。
例えば、共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基、又は炭素数1?18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸等を挙げることができる。上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。また、上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。また、グリシジル化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物等が挙げられる。
上記共重合可能な他の単量体由来の構造単位は、一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0035】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量%として、0?20質量%であることが好ましく、0.1?15質量%であることがより好ましく、0.1?10質量%であることがさらに好ましい。
他の単量体由来の構造単位の含有量がこの範囲にあると、主鎖に環構造を導入する本来の効果を損なわずに、樹脂の成形加工性や機械的特性を改善できるため好ましい。
【0036】
主鎖にN-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれの重合方法が挙げられ、好ましくは塊状重合、溶液重合法であり、さらに好ましくは溶液重合法である。
本実施形態における製造方法では、重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。
本実施形態における製造方法では、ラジカル重合により単量体を重合することが好ましい。
【0037】
以下、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂(以下、「マレイミド共重合体」と記す場合がある)の製造方法の一例として、溶液重合法を用いてバッチ式でラジカル重合で製造する場合について、具体的に説明する。
【0038】
用いる重合溶媒としては、重合により得られるマレイミド共重合体の溶解度を高め、ゲル化防止等の目的から反応液の粘度を適切に保てるものであれば、特に制限はない。
具体的な重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;ジメチルホルムアミド、2-メチルピロリドン等の極性溶媒を用いることができる。
また、重合時における重合生成物の溶解を阻害しない範囲で、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合溶媒として併用してもよい。
【0039】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、生産時に共重合体や使用モノマーの析出等が起こらず、容易に除去できる量であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、10?200質量部とすることが好ましい。より好ましくは25?200質量部、さらに好ましくは50?200質量部、さらにより好ましくは50?150質量部である。
【0040】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から、50?200℃であることが好ましく、より好ましくは80?200℃である。さらに好ましくは90?200℃、さらにより好ましくは100?180℃、よりさらに好ましくは110?170℃である。
【0041】
また、重合時間については、必要な転化率にて、必要な重合度を得ることができる時間であれば特に限定はないが、生産性等の観点から、0.5?10時間であることが好ましく、より好ましくは1?8時間である。
【0042】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0043】
重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、1,1-ジt-ブチルパーオキシシクロヘキサン等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの重合開始剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよい。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01?1質量部としてよく、好ましくは0.05?0.5質量部である。
【0044】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等のメルカプタン化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、α-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等の不飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は、重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の添加量としては、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.01?1質量部としてよく、好ましくは0.05?0.5質量部である。
【0045】
溶液重合においては、重合溶液中の溶存酸素濃度を出来る限り低減させておくことが重要であり、例えば、溶存酸素濃度は、10ppm以下の濃度であることが好ましい。
溶存酸素濃度は、例えば、溶存酸素計 DOメーターB-505(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定することができる。溶存酸素濃度を低下する方法としては、重合溶液中に不活性ガスをバブリングする方法、重合前に重合溶液を含む容器中を不活性ガスで0.2MPa程度まで加圧した後に放圧する操作を繰り返す方法、重合溶液を含む容器中に不活性ガスを通ずる方法等の方法を適宜選択することができる。
【0046】
溶液重合により得られる重合液から重合物を回収する方法としては、特に制限はないが、例えば、重合により得られた重合生成物が溶解しないような炭化水素系溶媒やアルコール系溶媒等の貧溶媒が過剰量存在する中に重合液を添加した後、ホモジナイザーによる処理(乳化分散)を行い、未反応単量体について、液-液抽出、固-液抽出する等の前処理を施すことで、重合液から分離する方法;あるいは、脱揮工程と呼ばれる工程を経由して重合溶媒や未反応の単量体を分離し、重合生成物を回収する方法;等が挙げられる。
【0047】
ここで、脱揮工程とは、重合溶媒、残存単量体、反応副生成物等の揮発分を、加熱・減圧条件下で、除去する工程をいう。
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、管状熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置;神鋼環境ソリューション社製ワイブレン及びエクセバ、日立製作所製コントラ及び傾斜翼コントラ等の薄膜蒸発機;脱揮性能を発揮するに十分な滞留時間と表面積とを有するベント付き押出機;等を挙げることができる。
これらの中からいずれか2つ以上の装置を組み合わせた脱揮装置を用いた脱揮工程等も利用することができる。
【0048】
脱揮装置での処理温度は、好ましくは150?350℃、より好ましくは170?300℃、さらに好ましくは200?280℃である。この温度が150℃以上であると、残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効である。逆に、この温度が350℃以下であると、得られるアクリル系樹脂の着色や分解が起こる恐れが少ない。
脱揮装置内における真空度としては、10?500Torrの範囲としてよく、中でも、10?300Torrの範囲が好ましい。この真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にあり、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施がより容易である。
処理時間としては、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られるメタクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには、短いほど好ましい。
【0049】
脱揮工程を経て回収された重合物は、造粒工程と呼ばれる工程にて、ペレット状に加工される。
【0050】
造粒工程では、溶融状態の樹脂を多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウオーターカット方式にて、ペレット状に加工する。
【0051】
なお、脱揮装置としてベント付押出機を採用した場合には、脱揮工程と造粒工程とを兼ねてもよい。
【0052】
--グルタルイミド系構造単位--
主鎖にグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2006-249202号公報、特開2007-009182号公報、特開2007-009191号公報、特開2011-186482号公報、再公表特許2012/114718号公報等に記載されている、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂であり、当該公報に記載されている方法により形成することができる。
本実施形態のメタクリル系樹脂を構成するグルタルイミド系構造単位は、樹脂重合後に形成されてよい。
具体的には、グルタルイミド系構造単位は、下記一般式(3)で表されるものとしてよい。
【化3】

上記一般式(3)において、好ましくはR^(7)及びR^(8)は、それぞれ独立して、水素又はメチル基であり、R^(9)は、水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基のいずれかであり、より好ましくは、R^(7)は、メチル基であり、R^(8)は、水素であり、R^(9)は、メチル基である。
【0053】
グルタルイミド系構造単位は、単一の種類のみを含んでいてもよいし、複数の種類を含んでいてもよい。
【0054】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂において、グルタルイミド系構造単位の含有量については、本実施形態の組成物として好ましいガラス転移温度の範囲を満たすものであれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂を100質量%として、好ましくは5?70質量%の範囲、より好ましくは5?60質量%の範囲である。
グルタルイミド系構造単位の含有量が上記範囲にあると、成形加工性、耐熱性、及び光学特性の良好な樹脂が得られることから好ましい。
【0055】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂は、必要に応じて、芳香族ビニル単量体単位をさらに含んでいてもよい。
芳香族ビニル単量体としては特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレンが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0056】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂における芳香族ビニル単位の含有量としては、特に限定されないが、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を100質量%として、0?20質量%が好ましい。
芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲にあると、耐熱性と優れた光弾性特性との両立が可能となり好ましい。
【0057】
次に、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法の一例を説明する。
まず、メタクリル酸メチル等のメタ(ア)クリル酸エステルを重合することにより、メタ(ア)クリル酸エステル重合体を製造する。グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂に芳香族ビニル単位を含める場合には、メタ(ア)クリル酸エステルと芳香族ビニル(例えば、スチレン)とを共重合させ、メタ(ア)クリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体を製造する。
【0058】
次に、上記メタ(ア)クリル酸エステル重合体又は上記メタクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体にイミド化剤を反応させることで、イミド化反応を行う(イミド化工程)。これにより、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を製造することができる。
【0059】
上記イミド化剤としては、特に限定されず、上記一般式(3)で表されるグルタルイミド系構造単位を生成できるものであればよい。
イミド化剤としては、具体的には、アンモニア又は一級アミンを用いることができる。上記一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、i-プロピルアミン、n-ブチルアミン、i-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有一級アミン;シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有一級アミン;等が挙げられる。
上記イミド化剤のうち、コスト、物性の面から、アンモニア、メチルアミン、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0060】
このイミド化工程では、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂におけるグルタルイミド系構造単位の含有量を調整することができる。
【0061】
上記イミド化反応を実施するための方法は、特に限定されないが、従来公知の方法を用いることができ、例えば、押出機又はバッチ式反応槽を用いることでイミド化反応を進行させることができる。
上記押出機としては、特に限定されないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等を用いることができる。
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマーとイミド化剤との混合を促進することができる。
二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等が挙げられる。
上記例示した押出機は、単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。
【0062】
また、使用する押出機には、大気圧以下に減圧可能なベン卜口を装着することが、反応のイミド化剤、メタノール等の副生物、又は、モノマー類を除去することができるため、特に好ましい。
【0063】
グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を製造するにあたっては、上記イミド化の工程に加えて、ジメチルカーボネート等のエステル化剤で樹脂のカルボキシル基を処理するエステル化工程を含むことができる。その際、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の触媒を併用し処理することもできる。
エステル化工程は、上記イミド化工程と同様に、例えば、押出機又はバッチ式反応槽を用いることで進行させることができる。
また、過剰なエステル化剤、メタノール等の副生物、又はモノマー類を除去する目的で、使用する装置には、大気圧以下に減圧可能なベン卜口を装着することが好ましい。
【0064】
イミド化工程、及び必要に応じてエステル化工程を経たメタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機から、ストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウオーターカット方式等にて、ペレット状に加工される。
【0065】
また、樹脂の異物数を低減するために、メタクリル系樹脂を、トルエン、メチルエチルケトン、塩化メチレン等の有機溶媒に溶解し、得られたメタクリル系樹脂溶液を濾過し、その後、有機溶媒を脱揮する方法を用いることも好ましい。
【0066】
--ラクトン環構造単位--
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、例えば、特開2001-151814号公報、特開2004-168882号公報、特開2005-146084号公報、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報、特開2007-63541号公報、特開2007-297620号公報、特開2010-180305号公報等に記載されている方法により形成することができる。
【0067】
本実施形態のメタクリル系樹脂を構成するラクトン環構造単位は、樹脂重合後に形成されてよい。
本実施形態におけるラクトン環構造単位としては、環構造の安定性に優れることから6員環であることが好ましい。
6員環であるラクトン環構造単位としては、例えば、下記一般式(4)に示される構造が特に好ましい。
【化4】

上記一般式(4)において、R^(10)、R^(11)及びR^(12)は、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1?20の有機残基である。
有機残基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1?20の飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基等);エテニル基、プロペニル基等の炭素数2?20の不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基等);フェニル基、ナフチル基等の炭素数6?20の芳香族炭化水素基(アリール基等);これら飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基における水素原子の一つ以上が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;等が挙げられる。
【0068】
ラクトン環構造は、例えば、ヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル単量体とを共重合して、分子鎖にヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基又はカルボキシル基との間で、脱アルコール(エステル化)又は脱水縮合(以下、「環化縮合反応」ともいう)を生じさせることにより形成することができる。
【0069】
重合に用いるヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体としては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチル)、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する単量体である2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルであり、特に好ましくは2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルである。
【0070】
主鎖にラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂におけるラクトン環構造単位の含有量は、本実施形態の組成物として好ましいガラス転移温度の範囲を満たすものであれば特に制限はないが、メタクリル系樹脂100質量%に対して、5?40質量%であることが好ましく、より好ましくは5?35質量%である。
ラクトン環構造単位の含有量がこの範囲にあると、成形加工性を維持しつつ、耐溶剤性向上や表面硬度向上等の環構造導入効果が発現できる。
なお、メタクリル系樹脂におけるラクトン環構造の含有率は、前述の特許文献記載の方法を用いて決定できる。
【0071】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上述したメタクリル酸エステル単量体及びヒドロキシ基を有するアクリル酸系単量体と共重合可能な他の単量体由来の構成単位を有していてもよい。
このような共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、α-ヒドロキシメチルスチレン、α-ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニル、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、メチルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール等の重合性二重結合を有する単量体等が挙げられる。
これら他のモノマー(構成単位)は、1種のみを有していてもよいし2種以上有していてもよい。
【0072】
これら共重合可能な他の単量体由来の構造単位の含有量としては、メタクリル系樹脂100質量%に対して、0?20質量%であることが好ましく、耐候性の観点からは、10質量%未満であることがより好ましく、7質量%未満であることがさらに好ましい。
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、上記の共重合可能な他の単量体由来の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0073】
ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造方法としては、重合後に環化反応によりラクトン環構造を形成させる方法が用いられるが、環化反応を促進させる上で、溶媒を使用する溶液重合が好ましい。
【0074】
重合に用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0075】
重合時の溶媒量としては、重合が進行し、ゲル化を抑制できる条件であれば特に制限はないが、例えば、配合する単量体の総量を100質量部とした場合に、50?200質量部とすることが好ましく、より好ましくは100?200質量部である。
【0076】
重合液のゲル化を充分に抑制し、重合後の環化反応を促進するためには、重合後に得られる反応混合物中における生成した重合体の濃度が50質量%以下になるように重合を行うことが好ましく、重合溶媒を反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。
重合溶媒を反応混合物に適宜添加する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0077】
重合温度としては、重合が進行する温度であれば特に制限はないが、生産性の観点から50?200℃であることが好ましく、より好ましくは、80?180℃である。
【0078】
重合時間としては、目的の転化率が満たされれば、特に制限されないが、生産性等の観点から、0.5?10時間であることが好ましく、より好ましくは1?8時間である。
【0079】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤を添加して重合してもよい。
【0080】
重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した重合開始剤等が利用できる。
これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05?1質量部としてよい。
【0081】
連鎖移動剤としては、一般的なラジカル重合において用いる連鎖移動剤が使用でき、例えば、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル樹脂の調製方法に開示した連鎖移動剤等が利用できる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
これらの連鎖移動剤は重合反応が進行中であれば、いずれの段階に添加してもよく、特に限定されるものではない。
連鎖移動剤の使用量については、使用する重合条件において所望の重合度が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは重合に用いる単量体の総量を100質量部とした場合に、0.05?1質量部としてよい。
【0082】
本実施形態におけるラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂は、上記重合反応終了後、環化反応を行うことにより得ることができる。そのため、重合反応液から重合溶媒を除去することなく、溶媒を含んだ状態で、ラクトン環化反応に供することが好ましい。
重合により得られた共重合体は、加熱処理されることにより、共重合体の分子鎖中に存在するヒドロキシル基(水酸基)とエステル基との間での環化縮合反応を起こし、ラクトン環構造を形成する。
【0083】
ラクトン環構造形成の加熱処理の際、環化縮合によって副生し得るアルコールを除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた反応装置、脱揮装置を備えた押出機等を用いることもできる。
【0084】
ラクトン環構造形成の際、必要に応じて、環化縮合反応を促進するために、環化縮合触媒を用いて加熱処理してもよい。
環化縮合触媒の具体的な例としては、例えば、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル等のリン酸モノアルキルエステル、ジアルキルエステル又はトリアルキルエステル;酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、オクチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
環化縮合触媒の使用量としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01?3質量部であり、より好ましくは0.05?1質量部である。
触媒の使用量が0.01質量部以上であると、環化縮合反応の反応率の向上に有効であり、触媒の使用量が3質量部以下であると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して溶融成形が困難になることを防ぐのに有効である。
【0085】
環化縮合触媒の添加時期としては、特に限定されるものではなく、例えば、環化縮合反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、その両方で添加してもよい。
【0086】
溶媒の存在下に環化縮合反応を行う際に、同時に脱揮を行うことも好ましく用いられる。
環化縮合反応と脱揮工程とを同時に行う場合に用いる装置については、特に限定されるものではないが、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものが好ましく、ベント付き二軸押出機がより好ましい。
【0087】
用いるベント付き二軸押出機としては、複数のベント口を有するベント付き押出機が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150?350℃、より好ましくは200?300℃である。反応処理温度が150℃以上であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることを防ぐのに有効であり、反応処理温度が350℃以下であると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
ベント付き押出機を用いる場合の真空度としては、好ましくは10?500Torr、より好ましくは10?300Torrである。真空度が500Torr以下であると、揮発分が残存しにくい傾向にある。逆に、真空度が10Torr以上であると、工業的な実施が比較的容易である。
【0088】
上記の環化縮合反応を行う際に、残存する環化縮合触媒を失活させる目的で、造粒時に有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩を添加することも好ましい。
有機酸のアルカリ土類金属及び/又は両性金属塩としては、例えば、カルシウムアセチルアセテート、ステアリン酸カルシウム、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、2-エチルヘキシル酸亜鉛等を用いることができる。
【0089】
環化縮合反応工程を経た後、メタクリル系樹脂は、多孔ダイを附帯した押出機からストランド状に溶融し押出し、コールドカット方式、空中ホットカット方式、水中ストランドカット方式、及びアンダーウオーターカット方式にてペレット状に加工する。
【0090】
なお、前述のグルタルイミド系構造単位を形成するためのイミド化、及び前述のラクトン環構造単位を形成するためのラクトン化は、樹脂の製造後樹脂組成物の製造(後述)前に行ってもよく、樹脂組成物の製造中に、樹脂と樹脂以外の成分との溶融混練と併せて、行ってもよい。
【0091】
本実施形態におけるメタクリル系樹脂は、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、ラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の環構造単位を有することが好ましく、その中でも、特に、他の熱可塑性樹脂をブレンドすること無く、光弾性係数等の光学特性を高度に制御しやすい点から、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有することが特に好ましい。
【0092】
-有機リン化合物-
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物に含まれる有機リン化合物としては、有機性置換基(本実施形態においては、P-C結合及びP-O-C結合を有するものを含む)を有したリン化合物であれば、特に限定されないが、亜リン酸エステル類(以下、「ホスファイト類」とも記載する)、ホスホナイト類、及びそれらの加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種の、3価のリンをその構成元素に有する有機リン化合物と;リン酸エステル類(以下、「ホスフェイト類」とも記載する)、上記亜リン酸エステル類の酸化生成物、及び上記ホスホナイト類の酸化生成物から選ばれる少なくとも一種の、5価のリンをその構成元素に含む有機リン化合物と;の両方を含有するものである。
【0093】
ホスファイト類、ホスホナイト類、及びホスフェイト類は、芳香環を有し、嵩高い化合物が好ましく、例えば、アリール置換基やペンタエリスリトール構造を有する、ホスファイト類、ホスホナイト類、ホスフェイト類が好ましい。
【0094】
一般的に、3価の有機リン化合物であるホスファイト及びホスホナイトは、酸素存在下で熱を加えることにより酸化され易く、また加水分解も起こしやすいことが知られている。加水分解によって、酸性P-OH及びPH=Oのプロトンを生成し、酸素やヒドロペルオキシドと直接反応し、5価の有機リン化合物となることが知られている。
本願明細書において定義する有機リン化合物には、上記加水分解や上記酸化反応により生成した、加水分解生成物及び酸化生成物をも含む。
【0095】
亜リン酸エステル類(ホスファイト類)の具体例としては、亜リン酸モノエステル、ジエステル又はトリエステル(例えば、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニル等)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]-N,N-ビス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]-エチル]エタナミン、ジフェニルトリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、これらの亜リン酸エステル類の加水分解生成物、該加水分解生成物のうち3価のリンをその構成元素に有するもの、及びこれらの酸化生成物等が挙げられる。
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、例えば、イルガフォス168(Irgafos168:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、BASF製)、JPP100(城北化学製:テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト)、JPH3800(城北化学製:水添ビスフェノールA-ペンタエリスリトールホスファイトポリマー)、イルガフォス12(Irgafos12:トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、BASF製)、イルガフォス38(Irgafos38:亜リン酸エチルビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)、BASF製)、アデカスタブHP-10(ADKSTAB HP-10:2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36(ADKSTAB PEP36:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP36A(ADKSTAB PEP36A:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト:株式会社ADEKA製)、アデカスタブPEP-8(ADKSTAB PEP-8:サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニルフォスファイト:株式会社ADEKA製)等が挙げられる。また、スミライザーGP(SumilizerGP:(6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学製)も挙げられる。
【0096】
ホスホナイト類としては、例えば、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイトやテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスファイト、これらのホスホナイト類の加水分解生成物、該加水分解生成物のうち3価のリンをその構成元素に有するもの、及びこれらの酸化生成物等が例示できる。
市販のリン系酸化防止剤であってもよく、例えば、HostanoxP-EPQ(P-EPQ:テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト:クラリアントCo.Ltd製)、GSY-P101(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、堺化学製)等が挙げられる。
【0097】
リン酸エステル類(ホスフェイト類)の具体的な例としては、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ハイドロゲンホスファイト等の酸性リン酸エステル;エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジフェニルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のジアリールホスフェート;ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸2-エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジ-2-エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステル又はトリエステル;これらリン酸エステル類の加水分解生成物;該リン酸エステル類の加水分解生成物のうち5価のリンをその構成元素に有するもの等が挙げられる。
【0098】
(メタクリル系樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の要件を満たす組成物を得ることができれば、特に限定されるものではない。
例えば、重合時に、単量体と共に有機リン化合物を共存させる方法、溶液重合終了後に残存する単量体や重合溶媒等を除去する脱揮工程前に、有機リン化合物を配合する方法、脱揮工程後に回収した重合生成物を造粒する際(他の熱可塑性樹脂を同時にブレンドする場合も含む)に添加する方法、脱揮工程終了後にサイドフィード装置やベント口を附帯した押出機を用いてペレット化して、再度、押出機等の溶融混練装置を用い造粒する際(他の熱可塑性樹脂を同時にブレンドする場合も含む)に、直接又はマスターバッチペレットとして添加する方法等が挙げられる。
組成物の調製法として溶融押出法を採用する場合においては、ベント付押出機を用い、残留する揮発成分を出来る限り除去しながら組成物を調製する方法を採用することが好ましい。
【0099】
また、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物をフィルム用途等に用いる場合には、異物を減少させる目的で、重合反応工程、液-液分離工程、液-固分離工程、脱揮工程、造粒工程、及び成形工程のいずれか又は複数の工程において、例えば、濾過精度1.5?20μmの焼結フィルター、プリーツフィルター、及びリーフディスク型ポリマーフィルター等を濾過装置に付加して用いて、調製することも好ましい方法である。
【0100】
いずれの方法を選択した場合においても、有機リン化合物をその組成に含む本実施形態の組成物を調製する上では、酸素及び水を可能な限り低減させた上で、組成物を調製することが好ましい。
例えば、溶液重合での重合溶液中の溶存酸素濃度としては、重合工程において、300ppm未満が好ましく、また、押出機等を利用した調製法において、押出機内の酸素濃度としては、1容量%未満とすることが好ましく、0.8容量%未満とすることがさらに好ましい。
メタクリル系樹脂の水分量としては、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下に調整する。
これらの範囲内であれば、本発明の要件を満たす組成物を調製することが比較的容易となり、有利である。
【0101】
例えば、押出機を用いた製造方法を採用した場合、原料であるペレット化されたメタクリル系樹脂及び有機リン化合物は、減圧下又は除湿空気下で加温し、予め十分に乾燥させることで、水分を出来る限り除去して、混合し、押出機に供給することが好ましい。
さらに、押出機内に酸素が混入することを極力低減し、溶融状態にある組成物の酸化を防止するため、押出機内に不活性ガス、例えば、窒素ガス等を流入させ、ベント付押出機を用い、減圧排気しながら実施することが好ましい。
その際の原料等の乾燥温度としては、40?120℃が好ましく、より好ましくは70?100℃である。
減圧度に関しては、特に制限はないが、特に、粉体状の有機リン化合物を用いる場合には、予め添着剤等を用いることで有機リン化合物をメタクリル系樹脂に付着させて、飛散しないようにして用いる等の処置を施しつつ、減圧度を適宜選択すればよい。
【0102】
押出機を用い、溶融混練され溶融状態となったメタクリル系樹脂組成物は、多孔ダイから溶融押出しされペレット化される。
その際、用いることのできる造粒方式としては、例えば、空中ホットカット方式、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウオーターカット方式等が挙げられる。
【0103】
本実施形態のように、含まれる有機リン化合物の存在状態が高度に制御されたメタクリル系樹脂組成物を得ようとするためには、高温下で溶融状態にある組成物をできる限り空気に触れないようにして、素早く冷却固化させることができる造粒方式を採用することが好ましい。
かかる目的のためには、例えば、ウォータリングホットカット方式、コールドカット方式、水中ストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式等が好ましいが、生産性及び造粒装置コストの面から、一般的には水冷ストランドカット方式がより好ましい。
その場合には、溶融樹脂温度を可能な範囲で低くし、且つ多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間を極力少なくし、冷却水の温度も可能な範囲で高い温度にて実施できる条件にて、造粒を行うことがより好ましい。
例えば、溶融樹脂温度としては、240?300℃が好ましく、より好ましくは250?290℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの滞留時間は5秒以内が好ましく、より好ましくは3秒以内であり、冷却水の温度としては、30?80℃が好ましく、より好ましくは40?60℃である。
【0104】
以下、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の特性について詳細に記載する。
【0105】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、リン元素の含有量が10?1000質量ppmであり、好ましくは20?500質量ppm、さらに好ましくは50?300質量ppmであることが好ましい。
リン元素の含有量が10質量ppm未満であると、本実施形態のような高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂組成物の熱や酸素による分解を、十分に抑制することができない恐れがある。
また、リン元素の含有量が1000質量ppmを超えると、本実施形態のように高いガラス転移温度を有するメタクリル系樹脂組成物を用いて高温下で溶融混練を行う場合に、生成する分解生成物や酸化生成物がその組成中に多量の存在することとなり、凝集異物の形成や架橋等の副反応を促進したり、例えば、押出機に附帯させたフィルターの目詰まりを増加させる等、溶融加工を不安定化したり、例えば、フィルム中の異物の増加や、その表面における筋状物やシルバーストリークスの生成等、溶融成形時の揮発成分中に含まれる分解生成物等により得られる製品の品質が低下したりするおそれがある。
組成物中に含まれるリン元素の含有量は、蛍光X線解析装置を用いて測定することができ、例えば、リガク製蛍光X線:ZSXPrimusIIを用い、SQXオーダー分析法にて求めることができる。
【0106】
加えて、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物中に含まれる有機リン化合物については、^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が、0.2?5.0であり、好ましくは0.5?3.0、さらに好ましくは、0.6?2.0であることが好ましい。
この比率が0.2未満の場合には、本実施形態の組成物を用いて、フィルムや成形品を得る際に、熱や酸素による分解を十分に抑制できないばかりか、生成する分解生成物や酸化生成物の影響により、凝集異物の形成が生じ、フィルム中の異物の増加やその表面に筋状物やシルバーストリークスが生成したりするおそれがある。
また、この比率が5.0を超える場合には、押出機に附帯させたフィルターの目詰まりを増加させたり、フィルム中の異物の増加やその表面に筋状物やシルバーストリークスが生成したりするおそれがある。
本実施形態における上記割合(P3/P5)は、^(31)P-NMRを用いて得られるスペクトルピークから求めることができる。具体的には、例えば、BrukerBiospin社製 フーリエ変換型核磁気共鳴装置(AVANCE III 500HD Prodigy)を用い、観測周波数:202MHz、積算回数:50000回、検出パルスのフリップ角:30°、遅延時間:2秒、パルスプログラム:zg30、測定温度:室温、使用溶媒:CDCl_(3)、内部標準物質:ヘキサメチルリン酸トリアミド、の条件で、測定を行うことにより、求めることができる。
より具体的な測定試料溶液の調製条件としては、後述の実施例記載の方法を用いることができる。
【0107】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を調製する際に、少量のアルコール類を併用した重合溶媒を用いて、環構造を有する単量体を溶液重合法で重合したり、環化反応により主鎖への環構造の導入を行ったりした場合には、その製造過程に脱揮工程を設けた場合であっても、使用した溶媒や環化反応に伴う副生物であるアルコール(例えば、メタノール等)が、その組成中に少なからず残存することが知られている。
【0108】
本発明者らが鋭意検討を続けた結果、本実施形態の、少なくとも、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と有機リン化合物とを含むメタクリル系樹脂組成物を調製する際に、組成物の^(31)P-NMR測定において算出される、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が特定の範囲にあるように制御するためには、メタクリル樹脂組成物に残存する溶媒やアルコール(例えば、メタノール等)の量に注目することが重要であることが明らかとなった。
【0109】
ここで、本実施形態におけるメタクリル系樹脂組成物では、残存する溶媒量(残存溶媒量)が1000質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは800質量ppm未満であり、さらに好ましくは700質量ppm未満である。
ここで、残存する溶媒とは、重合時に用いた重合溶媒(但し、アルコール類を除く)、及び重合により得られた樹脂を再度溶解し、溶液化する際に用いる溶媒を指し、具体的には、重合溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、2-メチルピロリドン等の極性溶媒;等が例示でき、再溶解に用いる溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、塩化メチレン等が例示できる。
【0110】
本実施形態におけるメタクリル系樹脂組成物では、残存するアルコール量(残存アルコール量)が500質量ppm未満であることが好ましく、より好ましくは400質量ppm未満であり、さらに好ましくは350質量ppm未満である。
ここで、残存するアルコールとは、重合時に他の重合溶媒と共に用いたアルコール、及び、環化縮合反応により副生したアルコールを指し、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール等脂肪族アルコール等が例示できる。
【0111】
上記残存溶媒量及び上記残存アルコール量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0112】
さらに、本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、GPC測定法により測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が90,000?200,000が好ましく、より好ましくは100,000?170,000であり、さらに好ましくは100,000?150,000であり、特に好ましくは、120,000?150,000である。
上記の通り、残存溶媒量と残存アルコール量とを制御することに加えて、重量平均分子量(Mw)としてこの範囲を選択することにより、組成物の^(31)P-NMR測定において算出される上記割合(P3/P5)が特定の範囲にあるように制御することが容易になることが明らかとなった。
【0113】
加えて、重量平均分子量(Mw)がこの範囲にあると、機械的強度、及び流動性のバランスにも優れるため好ましい。なお、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))に関しては、特に制限はないが、流動性と機械強度とのバランスを考慮すると、1.5?5であることが好ましく、より好ましくは1.5?4.5であり、さらに好ましくは1.6?4であり、さらにより好ましくは1.6?3であり、よりさらに好ましくは1.5?2.5である。
メタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)については、具体的には、後述の実施例記載の方法にて測定することができる。
【0114】
本実施形態におけるメタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、120℃超160℃以下である。
メタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度が120℃を超えていれば、近年のレンズ成形体、液晶ディスプレイ用フィルム成形体光学フィルムとして必要十分な耐熱性をより容易に得ることができる。
ガラス転移温度(Tg)は、使用環境温度下での寸法安定性の観点から、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。
一方、メタクリル樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が160℃を超える場合には、溶融加工時の温度をかなり高い温度としなくてはならず、樹脂等の熱分解を招きやすく、溶融加工にて良好な製品を得ることが難しくなる可能性がある。
ガラス転移温度(Tg)は、上述の理由から、好ましくは150℃以下である。
ガラス転移温度(Tg)は、JIS-K7121に準拠して測定することにより決定できる。具体的には、後述する実施例に記載する方法を用いて測定することができる。
【0115】
本実施形態の主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C_(R)の絶対値は、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることが好ましく、2.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることがより好ましく、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であることがさらに好ましい。
光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i-a)及び(i-b)により定義されるものである。光弾性係数C_(R)の値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことがわかる。
C_(R)=|Δn|/σ_(R)・・・(i-a)
|Δn|=|nx-ny|・・・(i-b)
(式中、C_(R)は、光弾性係数、σ_(R)は、伸張応力、|Δn|は、複屈折の絶対値、nxは、伸張方向の屈折率、nyは、面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。)
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C_(R)の絶対値が3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下であれば、フィルム化して液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることを抑制ないし防止することができる。
メタクリル系樹脂組成物の光弾性係数C_(R)は、具体的には、後述の実施例記載の方法にて求めることができる。
【0116】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物の波長500?600nmの範囲の透過率としては、94%以上が好ましく、より好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。この範囲であれば、フィルムよりさらに肉厚のあるシート状成形体やさらには導光板等への利用も可能となる。
透過率は、具体的には、後述の実施例記載の方法にて求めることができる。
【0117】
-他の熱可塑性樹脂-
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物を調製する際には、本実施形態の目的を損なわず、複屈折率の調整や可撓性を向上させる目的で、他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート類;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレンーブチルアクリレート共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;さらには、例えば、特開昭59-202213号公報、特開昭63-27516号公報、特開昭51-129449号公報、特開昭52-56150号公報等に記載の、3?4層構造のアクリル系ゴム粒子;特公昭60-17406号公報、特開平8-245854公報に開示されているゴム質重合体;国際公開第2014-002491号に記載の、多段重合で得られるメタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子;等が挙げられる。
この中でも、良好な光学特性と機械的特性とを得る観点からは、スチレン-アクリロニトリル共重合体や、主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含むメタクリル系樹脂と相溶し得る組成からなるグラフト部をその表面層に有するゴム含有グラフト共重合体粒子が好ましい。
前述のアクリル系ゴム粒子、メタクリル系ゴム含有グラフ卜共重合体粒子、及びゴム質重合体の平均粒子径としては、本実施形態の組成物より得られるフィルムの衝撃強度及び光学特性等を高める観点から、0.03?1μmであることが好ましく、より好ましくは0.05?0.5μmである。
【0118】
他の熱可塑性樹脂の含有量としては、メタクリル系樹脂を100質量部とした場合に、好ましくは0?50質量部、より好ましくは0?25質量である。
【0119】
-添加剤-
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物には、本実施形態の効果を著しく損なわない範囲内で、種々の添加剤を含有していてもよい。
添加剤としては、特に制限はないが、例えば、無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤・離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤;あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0121】
<1.構造単位の解析>
後述の各製造例において特に断りのない限り、^(1)H-NMR測定及び^(13)C-NMR測定により、後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂の構造単位を同定し、その存在量を算出した。^(1)H-NMR測定及び^(13)C-NMR測定の測定条件は、以下の通りである。
・測定機器:ブルーカー社製 DPX-400
・測定溶媒:CDCl_(3)又はDMSO-d_(6)
・測定温度:40℃
なお、メタクリル系樹脂の環構造がラクトン環構造である場合には、特開2001-151814号公報、特開2007-297620号公報に記載の方法にて確認し、メタクリル系樹脂の環構造がグルタルイミド環構造である場合には、再公表特許WO2012/114718号公報に記載の方法にて確認した。
【0122】
<2.分子量及び分子量分布の測定>
後述の製造例で製造したメタクリル系樹脂、並びに後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:東ソー株式会社製、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC)
・測定条件:
カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、 TSKgel SuperH2500 1本、を順に直列接続して使用した。カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/分、内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加した。
検出器:RI(示差屈折)検出器、検出感度:3.0mV/分
サンプル:0.02gのメタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物のテトラヒドロフラン20mL溶液。注入量:10μL
検量線用標準サンプル:単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる、以下の10種のポリメタクリル酸メチル(PolymerLaboratories製;PMMACalibration Kit M-M-10)を用いた。
重量ピーク分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、メタクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂組成物の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
上記、検量線用標準サンプルの測定により得られた検量線を基に、メタクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めた。
【0123】
<3.ガラス転移温度>
JIS-K7121に準拠して、メタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)(℃)を測定した。
まず、標準状態(23℃、65%RH)で状態調節(23℃で1週間放置)した試料から、試験片として4点(4箇所)、それぞれ約10mgを切り出した。
次に、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製 Diamond DSC)を窒素ガス流量25mL/分の条件下で用いて、ここで、10℃/分で室温(23℃)から200℃まで昇温(1次昇温)し、200℃で5分間保持して、試料を完全に融解させた後、10℃/分で200℃から40℃まで降温し、40℃で5分間保持し、さらに、上記昇温条件で再び昇温(2次昇温)する間に描かれるDSC曲線のうち、2次昇温時の階段状変化部分曲線と各ベースライン延長線から縦軸方向に等距離にある直線との交点(中間点ガラス転移温度)をガラス転移温度(Tg)(℃)として測定した。1試料当たり4点の測定を行い、4点の算術平均(小数点以下四捨五入)を測定値とした。
【0124】
<4.リン元素の含有量の決定>
後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物のリン元素の含有量(質量ppm)は、下記の装置、及び条件で測定した。
・測定装置:リガク社製、蛍光X線分析装置(ZSXPrimusII)
・測定方法:SQXオーダー分析法
凍結粉砕した試料3gを30mm径の塩ビ製リングに充填し、加圧成形機にて固形化して、測定に用いた。
【0125】
<5.5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)の決定>
後述の実施例及び比較例で製造したメタクリル系樹脂組成物の前述の割合(P3/P5)は、^(31)P-NMRにより決定した。
^(31)P-NMRの測定条件は、以下の通りである。
・測定装置:ブルーカー バイオスピン社製 フーリエ変換型核磁気共鳴装置(AVANCE III 500HD Prodigy)
・測定条件:
観測周波数:202MHz、積算回数:50000回
検出パルスのフリップ角:30°、遅延時間:2秒
パルスプログラム:zg30
測定温度:室温
使用溶媒:CDCl_(3)、内部標準物質としてヘキサメチルリン酸トリアミドを添加した。
試料200mgを、予め上記内部標準物質を添加したCDCl_(3)1mLに溶解し、5mmφ試料管に充填して、測定に用いた。
得られたスペクトルより、90ppmから140ppmの間にて観測されるスペクトルピークの積算値をP3とし、20ppmから-30ppmの間にて観測されるスペクトルピークの積算値をP5として、P3/P5をその存在比として算出した。
【0126】
<6.光弾性係数C_(R)の測定>
実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物を、真空圧縮成形機を用いてプレスフィルムとすることで、測定用試料とした。
具体的な試料調製条件としては、真空圧縮成形機(神藤金属工業所製、SFV-30型)を用い、260℃、減圧下(約10kPa)、10分間予熱した後、樹脂組成物を、260℃、約10MPaで5分間圧縮し、減圧及びプレス圧を解除した後、冷却用圧縮成形機に移して冷却固化させた。得られたプレスフィルムを、23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行った上で、測定用試験片(厚み約150μm、幅6mm)を切り出した。
Polymer Engineering and Science 1999, 39,2349-2357に詳細な記載のある複屈折測定装置を用いて、光弾性係数C_(R)(Pa^(-1))を測定した。
フィルム状の試験片を、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるように配置した。次いで、複屈折測定装置(大塚電子製、RETS-100)のレーザー光経路がフィルムの中心部に位置するように装置を配置し、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら、試験片の複屈折を測定した。
測定より得られた複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ_(R))の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め、光弾性係数(C_(R))(Pa^(-1))を計算した。計算には、伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの間のデータを用いた。
C_(R)=|Δn|/σ_(R)
ここで、複屈折の絶対値(|Δn|)は、以下に示す値である。
|Δn|=|nx-ny|
(nx:伸張方向の屈折率、ny:面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率)
【0127】
<7.残存溶媒量及び残存アルコール量の測定>
後述の製造例にて得られたメタクリル系樹脂及び後述の実施例及び比較例にて得られたメタクリル系樹脂組成物に残存する溶媒量及びアルコール量(質量ppm)を、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製 GC-2010)を用いて測定した。
試料をクロロホルムに溶解して、5質量%溶液を調整し、これに、内部標準物質としてn-デカンを添加して得た溶液を、測定に用いた。
【0128】
(8.メタクリル系樹脂組成物のフィルム製膜評価)
後述の実施例及び比較例により得られたペレット状樹脂組成物は、90℃、24時間、除湿空気による乾燥を行い、水分量を300質量ppm以下に低減させた上で、以下に示すA法及びB法の2つの方法によりフィルム製膜を行った。
A法:押出機先端部に300mm幅のTダイを設置した15mmφ二軸押出機(テクノベル社製)を用い、フィルムを調製した。その際の製膜条件としては、押出機先端部設定温度260℃、Tダイ温度設定255℃、吐出量1kg/時、冷却ロール設定温度:ガラス転移温度-10℃とし、膜厚80μmのフィルムを得た。この条件にて6時間連続運転した後、評価用フィルムを1m長さで採取した。
B法:押出機先端部に樹脂濾過用のフィルター(長瀬産業製リーフフィルター)と1000mm幅のTダイを設置した65mmφ単軸押出機を用い、フィルムを調製した。
その際の製膜条件としては、押出機先端部設定温度260℃、Tダイ温度設定255℃、吐出量100kg/時、冷却ロール設定温度:ガラス転移温度-10℃とし、膜厚150μmのフィルムを得た。この条件にて6時間連続運転した後、評価用フィルムを1m長さで採取した。
本実施例において、A法での評価結果に対してB法での評価結果が大きく低下しない場合には、大型でより過酷な溶融加工においても、良好な成形性と良好な品位の成形体が得られると判断した。
【0129】
(9.成形体中の凝集物評価)
溶融加工による凝集物の形成状態を評価するため、以下の方法を用いた。
得られたフィルムを細かく裁断した上で試料として用いた。試料を、溶液濃度が20w/v%(すなわち、10gの試料をクロロホルムに溶解し50mLの溶液とするような割合で作製した溶液)になるように所定量を採取しクロロホルムに投入し、撹拌下で試料を溶解させ、組成物を含む溶液を調製した。この溶液を光路長100mmのセルに投入し、紫外線分光分析計(島津製作所製UV-2500PC)を用いて、波長500?600nmの範囲の平均透過率(%)を測定した。この操作を5回繰り返し、測定を行い、その平均値を結果とした。
従来のフィルム内の異物量評価としては、例えば、試料を溶液化した後、パーティクルカウンターにて特定サイズ以上の異物を評価したり、薄いフィルム状の試料を目視で観察することにより評価したりする方法が採用されている。しかしながら、溶融加工時に形成されるような微小サイズの凝集物については、十分な評価が実施できない恐れがある。そのため、本実施例においては、試料の高濃度溶液にて、上記波長範囲での長光路長セルを用いて、透過率を評価する手法を採用した。
【0130】
(10.フィルム製膜性の評価)
(10-i.フィルム製膜時のキャストロールの汚れ状態)
製膜開始前に十分に清掃したロールを用い、6時間後のロール表面の汚れを目視で観察し、製膜前とほとんど変わらず、ごく一部がかすかに汚れているものを「○」、ロール表面が全面的にかすかに汚れているものを「△」、ロール表面が全面的に汚れており、再度清掃が必要なものを「×」とした。
【0131】
(10-ii.フィルムの筋状欠陥の評価)
製膜6時間後に、得られたフィルムを幅200mm、長さ500mmに切り出し、点光源にてスクリーンに投影し、影に見える縦方向や横方向の筋(シルバーストリークスを含む)を欠陥とし評価した。切り出しから5回繰り返し、測定を行い、その平均値を結果とした。
筋状欠陥が観察されない場合は、「○」、長さが10mm以上の欠陥が5本未満の場合は、「△」、長さが10mm以上の欠陥が10本以上の場合は「×」とした。
これらの結果を表1に示す。
【0132】
[原料]
後述する実施例及び比較例において使用した原料について下記に示す。
[[単量体]]
・メチルメタクリレート:旭化成ケミカルズ社製
・N-フェニルマレイミド(phMI):株式会社日本触媒製
・N-シクロヘキシルマレイミド(chMI):株式会社日本触媒製
・2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA):Combi Bloks社製
・モノメチルアミン:三菱瓦斯化学社製
[[有機リン化合物]]
・A-1:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト
・A-2:リン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学(株)製)
・A-3:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
・A-4:(6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(住友化学製:スミライザーGP)
・A-5:2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト
・A-6:テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’ビフェニレンジホスホナイト
・A-7:ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)
【0133】
[製造例1-1]:N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造
メチルメタクリレート(以下、「MMA」と記す)450.7kg、N-フェニルマレイミド(以下、「phMI」と記す)39.8kg、N-シクロヘキシルマレイミド(以下、「chMI」と記す)59.7kg、連鎖移動剤であるN-オクチルメルカプタン0.41kg、メタキシレン450kg(以下、「mXy」と記す)を計量し、予め窒素置換した1.25m^(3)反応器に加えて、これらを撹拌し、混合単量体溶液を得た。
次いで、混合単量体溶液に、100mL/分の速度で窒素によるバブリングを6時間実施し、溶存酸素を除去し、温度を124℃に上昇させた。
次いで、重合開始剤である1,1-ジt-ブチルパーオキシシクロヘキサン0.30kgをmXy3.85kgに溶解させた重合開始剤溶液を、1kg/時間の速度で追添することで、重合を開始した。
重合開始から10時間経過した後、主鎖に環構造を有するメタクリル系樹脂を含む重合溶液を得た。
この重合溶液を予め170℃に加熱した管状熱交換器と気化槽からなる濃縮装置とに供給し、溶液中に含まれる重合体の濃度を70質量%まで高めた。
得られた重合溶液を、伝熱面積が0.2m^(2)である薄膜蒸発機に供給し、脱揮を行った。この際、装置内温度280℃、供給量30L/時、回転数400rpm、真空度30Torrで実施し、脱揮後の重合物をギアポンプで昇圧し、ストランドダイから押し出し、水冷後、ペレット化した。
得られた重合物(1-1)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、重量平均分子量は145,000であり、得られた重合物には、メタキシレンが770質量ppm含まれていた。
【0134】
[製造例1-2]
製造例1-1において、メチルメタクリレートを503.5kgに、N-フェニルマレイミドを17.2kgに、N-シクロヘキシルマレイミドを29.5kgに変更し、且つ、重合開始剤の使用量を0.49kgに、連鎖移動剤の使用量を0.62kgに変更したこと以外は製造例1-1と同様の方法にて重合を行い、重合物を回収した。
得られた重合物(1-2)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、90.3質量%、4.0質量%、5.7質量%であった。また、重量平均分子量は115,000であり、得られた重合物には、メタキシレンが530質量ppm含まれていた。
【0135】
[製造例1-3]
製造例1-1において、重合開始剤の使用量を0.23kgに変更し、連鎖移動剤を使用しなかった以外は製造例1-1と同様の方法にて重合を行い、重合物を回収した。
得られた重合物(1-3)の重量平均分子量は235,000であり、また、得られた重合物には、メタキシレンが950質量ppm含まれていた。
【0136】
[製造例1-4]
製造例1-1において、連鎖移動剤の使用量を0.80kgに変更したこと以外は製造例1-1と同様の方法にて重合を行い、重合物を回収した。
得られた重合物(1-4)の重量平均分子量は89,000であり、また、得られた重合物には、メタキシレンが300質量ppm含まれていた。
【0137】
[製造例1-5]
製造例1-1において、薄膜蒸発機での真空度を200Torrに変更した以外は製造例1-1と同様に実施し、重合物を得た。得られた重合物(1-5)の重量平均分子量は148,000であり、また、得られた重合物には、メタキシレンが2250質量ppm含まれていた。
【0138】
[製造例1-6]
製造例1-1において、薄膜蒸発機での真空度を500Torrに変更した以外は製造例1-1と同様に実施し、重合物を得た。得られた重合物(1-6)の重量平均分子量は150,000であり、また、得られた重合物にはメタキシレンが7180質量ppm含まれていた。
【0139】
[製造例1-7]
製造例1-1において、メチルメタクリレートの使用量を500kgに変更し、N-フェニルマレイミドの使用量は変更せず、N-シクロヘキシルマレイミドの使用量を10.4kgに変更し、連鎖移動剤の使用量を0.17kgに変更したこと以外は製造例1-1と同様の方法にて重合を行い、重合物を回収した。
得られた重合物(1-7)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、90.2質量%、7.9質量%、1.9質量%であった。また、得られた重合物の重量平均分子量は172,000であり、また、得られた重合物には、メタキシレンが690質量ppm含まれていた。
【0140】
[製造例1-8]
製造例1-1において、メチルメタクリレートの使用量を351.2kgに、N-フェニルマレイミドの使用量を79.6kgに、N-シクロヘキシルマレイミドの使用量を119.4kgに変更したこと以外は製造例1-1と同様の方法にて行い、重合物を回収した。
得られた重合物(1-8)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、63.3質量%、15.8質量%、20.9質量%であった。得られた重合物の重量平均分子量は127,000であり、また、得られた重合物には、メタキシレンが910質量ppm含まれていた。
【0141】
[製造例2-1]:ラクトン環構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造
予め内部を窒素にて置換した、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えたオートクレーブに、メタクリル酸メチル40質量部、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル10質量部、トルエン50質量部、有機リン化合物としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(A-1)0.025質量部を仕込んだ。
その後、窒素ガスを導入しながら、100℃まで昇温し、重合開始剤として、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.05質量部を添加しつつ、t-アミルパーオキシイソノナノエート0.1質量部を含むトルエン溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105?110℃で溶液重合を行い、さらに重合を4時間継続した。
得られた重合体溶液に、環化触媒として有機リン化合物であるリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(A-2)0.05質量部を添加し、還流下、約90?102℃で2時間、環化縮合反応を行った。
次に得られた重合体溶液を、多管式熱交換機からなる加熱機にて240℃に加熱すること、脱揮用に複数のベント口と下流に複数のサイドフィード口とを装備した二軸押出機に導入することにより、脱揮を行いつつ環化反応を進行させた。
二軸押出機では、樹脂換算で15kg/時となるように、得られた共重合体溶液を供給し、バレル温度250℃、回転数100rpm、真空度10?300Torrの条件とした。その際、二軸押出機の後半部分に備え付けられた2つのサイドフィードより、酸化防止剤(BASF社製、イルガノックス1010)、触媒失活剤(オクチル亜鉛)、及びAS樹脂(アクリロニトリル-スチレン樹脂)(旭化成ケミカルズ株式会社製、スタイラックAS783)を投入した。AS樹脂は1.65kg/時の供給速度にて添加した。
二軸押出機で溶融混練を行った樹脂組成物を、ストランドダイから押出し、水冷後ペレット化し、樹脂組成物(2-1)を得た。
得られた樹脂組成物の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は28.3質量%であった。ラクトン環構造単位の含有量については、特開2007-297620号公報に記載の方法に従い求めた。なお、製造例2-1では、樹脂のみの状態でその組成を確認することはしなかった。また、得られた樹脂組成物の重量平均分子量は129,000であり、また、得られた樹脂組成物(2-1)には、トルエンが510質量ppm、メタノールが250質量ppm含まれていた。
【0142】
[製造例2-2]
製造例2-1にて得られた重合溶液を用い、150℃、10Torr、6時間の条件にて減圧乾燥し、重合溶媒等の揮発分を除去した。得られた固体状の樹脂組成物を粉砕し、さらに、80℃、10Torr、3時間の条件にて減圧乾燥した。
得られた樹脂組成物の組成を確認したところ、ラクトン環構造単位の含有量は31.5質量%であった。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は121,000であった。また、得られた樹脂組成物(2-2)には、トルエンが4360質量ppm、メタノールが720質量ppm含まれていた。
【0143】
[製造例3-1]:グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂の製造
原料樹脂としてメタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)を用い、イミド化剤としてモノメチルアミンを用い、口径15mm、L/D=90の噛合い型同方向回転式二軸押出機を利用して、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を製造した。
その際、ポッパーより窒素ガスをフローすることで、押出機内の酸素濃度を1%以下にした。押出機の各温調ゾーンの設定温度を250℃、スクリュー回転数300rpm、MS樹脂を1kg/時で供給し、モノメチルアミンの供給量をMS樹脂100質量部に対して20質量部とした。
ホッパーからMS樹脂を投入し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルからモノメチルアミンを注入した。反応ゾーンの末端にはシールリングを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物及び過剰のメチルアミンをベント口の真空度を60Torrに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
次いで、口径15mm、L/D=90の噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数150rpmの条件にて、ホッパーより、上記にて得られたペレットを1kg/hrの供給量にて投入し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから、上記ペレット状樹脂100質量部に対して0.8質量部の炭酸ジメチルを注入し、樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物及び過剰の炭酸ジメチルを、ベント口の真空度を100Torrに減圧して除去した。
押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザで再度ペレット化し、グルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂(3-1)を得た。
得られた樹脂(3-1)のグルタルイミド系構造単位の含有量を再公表特許WO2012/114718号公報に従い測定したところ、グルタルイミド系構造単位の含有量は58質量%であり、スチレン単量体由来の構造単位の含有量は19質量%であった。得られた樹脂の重量平均分子量は109,000であり、得られた樹脂ペレットはメタノールを750質量ppm含有していた。
【0144】
[製造例3-2]
製造例3-1で得られたグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂を、樹脂濃度が30質量%となるようにトルエンで溶解した。得られた樹脂溶液を濾過精度1μmのステンレス製カートリッジ型フィルターで濾過した。濾過後の樹脂溶液を製造例1-1にて用いた濃縮装置及び薄膜蒸発機を用いて脱揮した。薄膜蒸発機での運転条件を装置内温度270℃、真空度200Torrの条件に変更した以外は製造例1-1に準じて実施して脱揮を行った。得られた樹脂(3-2)はトルエンを1700質量ppm、メタノールを370質量ppm含有していた。
【0145】
[製造例3-3]
MS樹脂の供給速度を0.5kg/時に、モノメチルアミンの供給量をMS樹脂100質量部に対して40質量部に、それぞれ変更した以外は製造例3-1と同様にしてグルタルイミド系構造単位を有するメタクリル系樹脂(3-3)を得た。
得られた樹脂(3-3)のグルタルイミド系構造単位の含有量を再公表特許WO2012/114718号公報に従い測定したところ、グルタルイミド系構造単位の含有量は72質量%であり、スチレン単量体由来の構造単位の含有量は19質量%であった。得られた樹脂の重量平均分子量は98,000であり、得られた樹脂ペレットはメタノールを560質量ppm含有していた。
【0146】
[製造例4]
製造例1-1において、重合時に単量体、連鎖移動剤、重合開始剤に加えて、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト0.10kgを添加して重合を行った以外は製造例1-1と同様にして樹脂組成物(4)を得た。
得られた樹脂組成物(4)の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。なお、製造例4では、樹脂のみの状態でその組成を確認することはしなかった。
樹脂組成物(4)の詳細を表1に示す。
【0147】
[実施例1]
(メタクリル系樹脂組成物の調製)
製造例1-1にて得られたメタクリル系樹脂(1-1)を90℃で5時間真空乾燥し、窒素雰囲気下にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。
また、有機リン化合物については、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(A-3)を用い、使用前に減圧下乾燥したものを用いた。
予め窒素置換されたタンブラー型ミキサーを用いて、メタクリル系樹脂(1-1)を100質量部と有機リン化合物を0.1質量部との混合物を調製した。
露点を-30℃に、且つ温度を80℃に調整した除湿空気を利用し、得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に供給し溶融混練を行った。その際、二軸押出機に附帯する原料ポッパーの下部には、窒素導入ラインを設けて、押出機内に窒素を導入しながら行った。原料ホッパー下での酸素濃度を測定したところ、約1容量%であった。
運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量120kg/時の条件にて実施した。
溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状の組成物を得た。
多孔ダイ出口における溶融樹脂組成物の温度を測定したところ、280℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの到達時間は約2秒であった。
得られた組成物は、リン元素を96質量ppm、メタキシレンを660質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)は1.1であった。また、重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、フィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0148】
[実施例2]
有機リン化合物(A-3)の配合量を0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を270質量ppm、メタキシレンを590質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は1.8であった。重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0149】
[実施例3]
有機リン化合物(A-3)の配合量を0.8質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を720質量ppm、メタキシレンを340質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は2.8であった。重量平均分子量は142,000、また、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0150】
[実施例4]
使用する有機リン化合物を、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(A-3)に代えて、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’ビフェニレンジホスホナイト(A-6)を用いた以外は実施例2と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を140質量ppm、メタキシレンを510質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は4.8であった。重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0151】
[実施例5]
製造例1-1で得られた重合物に代えて製造例2-1で得られた重合組成物を用い、有機リン化合物(A-3)の配合量を0.2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を215質量ppm、トルエンを310質量ppm、メタノールを210質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は1.1であった。重量平均分子量は122,000、ガラス転移温度が124℃、光弾性係数が1.5×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0152】
[実施例6]
製造例1-1で得られた重合物に代えて製造例3-1で得られた重合物を用い、有機リン化合物(A-3)の配合量を0.2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を190質量ppm、メタノールを190質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は1.2であった。重量平均分子量は112,000、ガラス転移温度は140℃、光弾性係数は3×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0153】
[実施例7]
有機リン化合物として、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(A-3)に代えて、(6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(A-4)を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を46質量ppm、メタキシレンを600質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.8であった。また、重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0154】
[実施例8]
有機リン化合物として、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(A-3)に代えて、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(A-5)を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を49質量ppm、メタキシレンを570質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.9であった。また、重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0155】
[実施例9]
実施例1において用いた製造例1-1で得られた重合物を製造例1-2で得られた重合物に代えると共に、使用する有機リン化合物を、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(A-3)に代えて、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’ビフェニレンジホスホナイト(A-6)を用い、その配合量としては0.02質量部に変更する以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。なお、調製に際して、有機リン化合物の取扱い量が少ないことから、予め該有機リン化合物をトルエンに溶解させ、製造例1-2で得られた重合物にトルエン溶液を噴霧し、タンブラー型ミキサーを用いて、混合物を調製し、減圧乾燥した上で押出機に供給した。
得られた組成物はリン元素を10質量ppm、メタキシレンを480質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は2.8であった。重量平均分子量は108,000、ガラス転移温度は121℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0156】
[実施例10]
製造例1-1の重合物に代えて製造例1-7で得られた重合物を用い、有機リン化合物(A-3)の配合量を0.2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を195質量ppm、メタキシレンを650質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は2.7であった。また、重量平均分子量は168,000、ガラス転移温度は128℃、光弾性係数は0.9×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0157】
[実施例11]
製造例1-1の重合物に代えて製造例1-8で得られた重合物を用い、有機リン化合物(A-3)の配合量を0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を283質量ppm、メタキシレンを610質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は1.2であった。また、重量平均分子量は112,000、ガラス転移温度は157℃、光弾性係数は0.5×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0158】
[比較例7]
製造例1-1で得られた重合物に代えて製造例1-4で得られた重合物を用いる以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を98質量ppm、メタキシレンを260質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は1.3であった。また、重量平均分子量は86,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)、であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0159】
[実施例13]
製造例1-1で得られた重合物に代えて製造例1-3で得られた重合物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を96質量ppm、メタキシレンを900質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.2であった。また、重量平均分子量は216,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0160】
[実施例14]
製造例1-1で得られた重合物に代えて製造例1-5で得られた重合物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を96質量ppm、メタキシレンを1720質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.5であった。また、重量平均分子量は146,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0161】
[実施例15]
製造例1-1で得られた重合物に代えて製造例1-6で得られた重合物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を95質量ppm、メタキシレンを2870質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.3であった。また、重量平均分子量は146,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0162】
[実施例16]
製造例1-1の重合物に代えて製造例2-2で得られた重合組成物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を120質量ppm、トルエンを1230質量ppm、メタノールを650質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.4であった。また、重量平均分子量は121,000、ガラス転移温度は129℃、光弾性係数は2.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0163】
[実施例17]
製造例1-1の重合物に代えて製造例3-2で得られた重合物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を95質量ppm、トルエンを1150質量ppm、メタノールを310質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.3であった。また、重量平均分子量は112,000、ガラス転移温度は140℃、光弾性係数は3×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0164】
[実施例18]
実施例1において、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)(酸化防止剤)を0.05質量部をさらに加えた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を96質量ppm、メタキシレンを470質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は3.6であった。重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0165】
[比較例1]
製造例1-1により得られた重合物90質量部と、実施例1で得られた組成物10質量部とを混合し溶融混練を行って調製した組成物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を8質量ppm、メタキシレンを610質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.1であった。また、重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
このことから、従来の小型製膜機による評価では、実施例1での結果と大差ない場合においても、より大型で過酷な製膜条件による評価では、実施例1に対して大きく見劣りすることがわかる。
【0166】
[比較例2]
製造例1-1の重合物に代えて製造例4により得られた有機リン化合物をその組成に含む重合組成物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物は、リン元素を9質量ppm含み、メタキシレンを730質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.1であった。また、重量平均分子量は14,5000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
この重合物は新たに有機リン化合物を添加することなく、そのままで利用し、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
このことから、従来の小型製膜機による評価では、実施例1での結果と大差ない場合においても、より大型で過酷な製膜条件による評価では、実施例1に対して大きく見劣りすることがわかる。
【0167】
[比較例3]
有機リン化合物の配合量を2.0質量部に変更する以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を1870質量ppm、メタキシレンを830質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は8.7であった。また、重量平均分子量は152,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0168】
[比較例4]
有機リン化合物として、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト(A-3)を用いる代わりに、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(A-7)を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を62質量ppm、メタキシレンを510質量ppm含有し、^(31)P-NMRでは3価のリンに帰属されるスペクトルが観測されなかった。また、重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0169】
[比較例5]
製造例1-1の重合物に代えて製造例3-3で得られた重合物を用いた以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。
得られた組成物はリン元素を97質量ppm、メタノールを270質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.1であった。また、重量平均分子量は96,000、ガラス転移温度は166℃、光弾性係数は3×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0170】
[比較例6]
製造例1-1にて得られたメタクリル系樹脂(1-1)を90℃で5時間真空乾燥し、大気中にて30℃まで冷却し、組成物の調製に用いた。
また、有機リン化合物については、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(A-3)を用い、使用前に減圧下乾燥したものを用いた。
タンブラー型ミキサーを用い、メタクリル系樹脂(1-1)を100質量部と有機リン化合物を0.1質量部との混合物を予め調製した。
得られた混合物を58mmφベント付二軸押出機に投入し溶融混練を行った。その際、ホッパー下部には特に窒素を流入させずに実施した。
運転条件としては、押出機下部及びダイ設定温度270℃、回転数200rpm、ベント部での真空度は200Torr、吐出量120kg/時の条件にて実施した。
溶融混練された樹脂組成物は、多孔ダイを通じてストランド状に押出され、予め50℃に加温された冷却水が満たされた冷却バスに導入し冷却固化させ、カッターにより裁断され、ペレット状の組成物を得た。
多孔ダイ出口における溶融樹脂組成物の温度を測定したところ、280℃であり、多孔ダイ出口から冷却水面までの到達時間は約10秒であった。
得られた組成物はリン元素を96質量ppm、メタキシレンを520質量ppm含有し、^(31)P-NMRにより得られる上記割合(P3/P5)は0.1であった。また、重量平均分子量は142,000、ガラス転移温度は135℃、光弾性係数は0.2×10^(-12)Pa^(-1)であった。
得られた組成物を用い、実施例1と同様にフィルム製膜評価を行った。その結果を表1に示す。
【0171】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、耐熱性が高く、複屈折性に優れ、加えて、熱安定性及び成型加工性にも優れている。
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、光学材料として、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイ等に用いられる偏光板保護フィルム;1/4波長板、1/2波長板等の位相差板;視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム;ディスプレイ前面板;ディスプレイ基板;レンズ;太陽電池に用いられる透明基板、タッチパネル等の透明導電性基板;光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野における、導波路、レンズ、レンズアレイ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料;LEDのレンズ;レンズカバー等として、好適に用いることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に環構造を有する構造単位(X)を含み、前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、グルタルイミド系構造単位、及びラクトン環構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種であるメタクリル系樹脂と、有機リン化合物とを含み、
GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000以上であり、
ガラス転移温度が120℃超160℃以下であり、
リン元素の含有量が10?1000質量ppmであり、
^(31)P-NMR測定において、5価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P5)に対する3価リンに帰属されるスペクトルピークの積分値(P3)の割合(P3/P5)が0.2?5.0である
ことを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
残存溶媒量が、1000質量ppm未満である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
残存アルコール量が、500質量ppm未満である、請求項1又は2記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
GPCにより測定されるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)が、90,000?200,000である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(X)構造単位が、グルタルイミド系構造単位を含み、前記グルタルイミド系構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?70質量%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(X)構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位を含み、前記N-置換マレイミド単量体由来の構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記(X)構造単位が、ラクトン環構造単位を含み、前記ラクトン環構造単位の含有量が、前記メタクリル系樹脂を100質量%として、5?40質量%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
光弾性係数の絶対値が、3.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項9】
光弾性係数の絶対値が、1.0×10^(-12)Pa^(-1)以下である、請求項8に記載のメタクリル系樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-21 
出願番号 特願2016-209971(P2016-209971)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 大島 祥吾
橋本 栄和
登録日 2017-03-24 
登録番号 特許第6114454号(P6114454)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 メタクリル系樹脂組成物  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 神 紘一郎  
代理人 杉村 憲司  
代理人 神 紘一郎  

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