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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1342996
異議申立番号 異議2017-700082  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-01 
確定日 2018-06-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5963027号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5963027号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-11〕について訂正することを認める。 特許第5963027号の請求項1ないし9、11に係る特許を維持する。 特許第5963027号の請求項10に係る特許に対する異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5963027号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成27年3月12日(優先権主張 平成26年3月13日 日本国)の出願であり、平成28年7月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年2月1日に特許異議申立人石田祥子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年5月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月10日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年8月24日付けで異議申立人より意見書が提出されたものである。そして、同年11月1日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年12月27日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。さらに、この訂正の請求に係る訂正請求書に対し、平成30年4月10日付けで手続補正指令を通知し、その指定期間内である同年5月1日に特許権者より手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成29年12月27日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。
なお、上記訂正請求書では、一群の請求項である請求項1ないし8及び請求項9ないし11ごとに、1から訂正事項の項番を付しているが、当審では、請求項9ないし11に対する訂正事項に、請求項1ないし8に対する訂正事項に連続する項番を付した。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上である粘着剤層(A)を有する粘着シート」とあるのを、「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)」に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であることを特徴とする粘着シート。」とあるのを、「前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。」に訂正する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項9に「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上である粘着剤層(A)」とあるのを、「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)」に訂正する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項9に「前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)を含有する粘着剤を用いて形成されたものであり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、前記水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.2質量%である」とあるのを、「前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)を含有する粘着剤を用いて形成されたものであり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、前記水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用する」に訂正する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項11に「請求項9または10に記載の粘着シートの製造方法」とあるのを、「請求項9に記載の粘着シートの製造方法」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1、3について

ア 訂正事項1、3は、「粘着剤層(A)」の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ」の範囲を「6N/cm^(2)以上」から「6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下」に限定するものであると共に、「粘着シート」を、「歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1、3に係る「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ」の範囲の上限を、「30N/cm^(2)以下」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0016】の「前記引張強さの上限は、特に制限ないが、30N/cm^(2)以下であることが好ましく、25N/cm^(2)以下であることがより好ましく、20N/cm^(2)以下であることが、ピール接着力とプッシュ強度と静荷重保持力等をはじめとする粘着シートの性能をバランスよく発現させるうえでさらに好ましい。」との記載に基づくものであり、粘着剤層(A)を、「歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり」とする訂正は、同段落【0019】の「前記粘着剤層(A)としては、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上のものを使用することが好ましく・・・19N/cm^(2)以上のものを使用することが特に好ましい。また、上記引張強さの上限は、70N/cm^(2)以下であることが好ましく、65N/cm^(2)以下のものを使用することがより好ましい。」との記載に基づくものであり、粘着剤層(A)を、「ゲル分率が35質量%?60質量%である」とする訂正は、同段落【0060】の「前記ゲル分率としては、20質量%?70質量%の範囲であることが好ましく、30質量%?60質量%の範囲であることがより好ましく、35質量%?55質量%の範囲であることが、より一層優れたピール接着力等を付与するうえでより好ましい。」との記載に基づくものであるから、訂正事項1、3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項1、3は、請求項1の「粘着剤層(A)」の「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ」の範囲を限定するものであり、「粘着剤層(A)」を、「歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である」ものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項1、3は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2)訂正事項2、4について

ア 訂正事項2、4は、「粘着剤層(A)」を形成する「アクリル重合体(a1)」に対して、「ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり」との要件を付加し、「アクリル重合体(a1)」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、同じく「粘着剤層(A)」を形成する「粘着付与樹脂(a2)」を、「重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上」と限定し、さらにその使用量を「前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用する」と限定するものであるから、訂正事項2、4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項2、4の「粘着剤層(A)」を形成する「アクリル重合体(a1)」に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0028】の「前記アクリル重合体(a1)としては、(メタ)アクリル単量体を含むビニル単量体成分を重合することによって得られるものを使用することが好ましい。」、【0031】の「前記ビニル単量体としては、例えば水酸基を有するビニル単量体、酸基を有するビニル単量体、アルキル(メタ)アクリレート等を使用することができる。」、段落【0034】の「前記水酸基を有するビニル単量体は、前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用することが好ましく・・・0.02質量%?0.08質量%の範囲で使用することが、粘着剤層(A)の引張強さを特定範囲に設定し、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでより好ましい。」、段落【0036】の「前記酸基を有するビニル単量体は・・・前記ビニル単量体成分の全量に対して1質量%?30質量%の範囲で使用することが好ましく、1質量%?15質量%の範囲で使用することより好ましく、1質量%?7質量%の範囲で使用することが、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでさらに好ましい」、及び段落【0043】の「前記その他の単量体として使用可能な前記アルキル(メタ)アクリレートのうち、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートは、前記アクリル重合体(a1)の製造に使用するビニル単量体成分の全量に対して・・・70質量%?96質量%の範囲で使用することが、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえで好ましい。」との記載に基づくものである。
また、訂正事項2、4の「粘着付与樹脂(a2)」に係る訂正は、段落【0053】の「前記粘着付与樹脂(a2)としては、例えばロジン系粘着付与樹脂、重合ロジン系粘着付与樹脂、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、ロジンフェノール系粘着付与樹脂、安定化ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、水添ロジンエステル系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、テルペンフェノール系粘着付与樹脂、石油樹脂系粘着付与樹脂、(メタ)アクリレート系粘着付与樹脂等を使用することができる。」、段落【0054】の「なかでも、前記粘着付与樹脂(a2)としては、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる2種以上を組み合わせ使用することが、前記アクリル重合体(a1)との相溶性に優れ、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえで好ましく、3種以上がより好ましい。」、及び段落【0056】の「前記粘着付与樹脂(a2)は、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して、5質量部?60質量部使用することが好ましく・・・より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでより好ましい。」との記載に基づくものであるから、訂正事項2、4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項2、4は、請求項1、9の「アクリル重合体(a1)」が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであり、そのビニル単量体成分と含有量を限定するものであると共に、請求項1、9の「アクリル重合体(a1)」が含む、「粘着付与樹脂(a2)」の種類と含有量を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

エ 訂正事項2、4は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)訂正事項5、6について

訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項10を削除するものであり、訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項11の引用請求項数を減少するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると共に、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
また、訂正事項5、6は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし8〕、〔9ないし11〕について訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし8〕、〔9ないし11〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし11に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に対応する特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)を有する粘着シートであって、前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層(A)が1μm?100μmの範囲の厚さを有するものである請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材が発泡体基材である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記発泡体基材が、1500μm以下の厚さを有するものである請求項3に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が合計5質量%以下、及び、ホモポリマーのガラス転移温度が100℃以上のアルキル(メタ)アクリレートの含有割合が合計1質量%以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着付与樹脂(a2)が、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる2種以上を含有するものである請求項1?5に記載の粘着シート。
【請求項7】
最狭部分の幅が0.5mm?2.5mmである請求項1?6のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤層(A)の、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが7.7N/cm^(2)以上である請求項1?7のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項9】
基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)を有することを特徴とする粘着シートの製造方法であって、前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)を含有する粘着剤を用いて形成されたものであり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、前記水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シートの製造方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記ビニル単量体成分が、さらにn-ブチルアクリレートを含有するものであり、前記ビニル単量体成分の全量に対する前記n-ブチルアクリレートの使用量が70質量%?98質量%である請求項9に記載の粘着シートの製造方法。」

第4 平成29年11月1日付けで通知した取消理由(決定の予告)、この取消理由(決定の予告)に採用しなかった同年5月9日付け取消理由及び特許異議の申立理由の概要

1 取消理由(決定の予告)の概要

・特許法第36条第6項第1号

上記取消理由(決定の予告)は、要するに以下のものである。

本件発明は、「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立した粘着シート」を提供すること(段落【0007】)を発明の課題としているといえる。そして、本件特許明細書に記載される各「実施例」の粘着層であれば、発明の課題を解決することが、本件特許明細書の発明の詳細な説明に示されている。
一方、訂正前の請求項1に係る発明は、「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下」、「前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層」、及び「前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.2質量%である」ことを特定するだけであるが、本件特許明細書には、他に様々な要因が、ピール接着力と優れたプッシュ強度に関係することが記載されていると共に、訂正前の請求項1に係る発明の特定では、本件特許明細書に記載される各「実施例」の粘着層に対応するものであるということもできない。
そうすると、訂正前の請求項1に係る発明の特定だけでは、訂正前の請求項1に係る発明が、「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立した粘着シート」であるということはできない。
また、本件特許明細書の記載では、上記の発明の課題を解決するには、「応力-歪み曲線(いわゆるS-Sカーブ)より得られる引張強さが所定値以上の粘着剤層を有する粘着シートを使用する」(段落【0008】)ことが重要であり、本件特許明細書に記載される各「実施例」の粘着層であれば、応力-歪み曲線より得られる引張強さが所定値以上となることが分かるが、訂正前の請求項1に係る発明の特定では、本件特許明細書に記載される各「実施例」の粘着層に対応するものであるということができないため、訂正前の請求項1に係る発明が、実際に、応力-歪み曲線より得られる引張強さが所定値以上の粘着剤層であるとまでいうことができない。
よって、訂正前の請求項1に係る発明、訂正前の請求項1に係る発明を引用する請求項2ないし8に係る発明、及び訂正前の請求項1に係る発明の「粘着シート」の製造方法を特定する訂正前の請求項9ないし11に係る発明は、「粘着シート」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、訂正前の請求項1ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2 取消理由(決定の予告)に採用しなかった平成29年5月9日付け取消理由

・特許法第29条第1項第3号・同法同条第2項

訂正前の請求項1、2、5、6、8に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明であり、また、訂正前の請求項1ないし11に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明並びに下記刊行物2及び3に記載された周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由」という)。
上記「取消理由」は、異議申立ての甲第2号証を主引例とする新規性及び進歩性欠如に関する理由と同趣旨であるが、異議申立てでは、訂正前の請求項3、4、9ないし11に係る発明の新規性欠如も申立てているので、これらの発明については、上記「取消理由」の中で判断する。

3 取消理由(決定の予告)及び取消理由に採用しなかった特許異議の申立理由

・特許法第29条第1項第3号・同法同条第2項

訂正前の請求項1ないし6及び8ないし11に係る発明は、下記刊行物4に記載された発明であり、また、訂正前の請求項1ないし11に係る発明は、下記刊行物4に記載された発明及び下記刊行物4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由」という)。



刊行物1:特開2004-196867号公報(異議申立ての甲第2号証)
刊行物2:特開2008-285554号公報(周知技術を示す文献)
刊行物3:特開2013-40329号公報(周知技術を示す文献)
刊行物4:特開2005-187513号公報(異議申立ての甲第1号証)

第5 当審の判断

1 取消理由(決定の予告)について

本件特許明細書の段落【0007】の記載によれば、本件発明は、「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立した粘着シート」を提供することを発明の課題としているといえる。
ここで、この課題に対して、「応力-歪み曲線(いわゆるS-Sカーブ)より得られる引張強さが所定値以上の粘着剤層を有する粘着シートを使用すること」によって、ピール接着力を向上させるだけでなく、プッシュ強度を格段に向上できることを見出した(段落【0008】)としている。
そして、本件特許明細書の段落【0130】?【0147】、【0151】?【0166】、【0169】?【0181】に記載される実施例、特に同段落【0180】、【0181】の【表1】及び【表2】に記載される「実施例1」?「実施例13」では、「n-ブチルアクリレート」等、「アクリル酸」及び「4-ヒドロキシブチルアクリレート」を、所定の範囲で含み、重量平均分子量が、81万(実施例10で用いられるアクリル重合体(A-10))?184万(実施例5で用いられるアクリル重合体(A-5))であるアクリル重合体、特定の2種以上の粘着付与樹脂及び架橋剤を含有し、ゲル分率が43.9(実施例10)?47.3(実施例7)の粘着シートに関して、粘着剤層の引張強さ(N/cm^(2))が、6.3(実施例10)以上で、180°ピール接着力(N/20mm)が17.8(実施例3)以上及びプッシュ強度(N/4cm^(2))が179(実施例10)以上の結果が示されている。

一方、本件発明1は、本件訂正により、「基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)を有する粘着シートであって、前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。」と特定されるものとなった。

ここで、本件発明1では、上記の実施例で、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さと並び、実施例での各粘着シートの特性を示すものであり、本件特許明細書の段落【0019】で、「ピール接着力とプッシュ強度をはじめ静荷重保持力等のバランスのとれた粘着性能を備えた粘着シートを得るうえで好ましい」とされる、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強が、12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であることが特定され、
上記各実施例にて使用されるアクリル重合体(A-1)、(A-2)及び(A-4)?(A-10)に含まれる4-ヒドロキシブチルアクリレートに対応し、同段落【0034】で、「粘着剤層(A)の引張強さを特定範囲に設定し、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでより好ましい」とされる、ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%に特定され、
同様に、上記各実施例にて使用されるアクリル重合体に含まれるアクリル酸に対応し、同段落【0036】で、「より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでさらに好ましい」とされる、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であることが特定され、
同様に、上記各実施例にて使用されるアクリル重合体に含まれるn-ブチルアクリレート等に対応し、同段落【0043】で、「より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえで好ましい」とされる、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であることが特定され、
さらに、上記各実施例にて使用される粘着付与樹脂に対応し、同段落【0052】で、「より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得る」うえで好ましいとされる、粘着付与樹脂(a2)が、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であること、さらに、その使用量が、同段落【0056】で、「より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでより好ましい」とされる、10質量部?60質量部に特定され、本件発明1において、上記各実施例で使用されるアクリル重合体に含まれる具体的な単量体に対応する単量体の種類及びその使用量が特定され、上記各実施例の粘着シートに使用される粘着付与樹脂の種類及びその使用量が特定されると共に、粘着シートのゲル分率が特定されることにより、本件発明1は、上記各実施例に対応付けることができるものとなった。
しかも、本件訂正で特定された、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強が、12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であることは、上記各実施例に対する比較例とされる粘着シートでは、発揮できない特性であるし(段落【0182】、【表3】)、ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であることは、比較例1及び2で、それぞれ使用されるアクリル重合体(B-1)及び(B-2)に含まれる水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.1質量%であることからすると、比較例に対し「180°ピール接着力(N/20mm)」及び「プッシュ強度(N/4cm^(2))」で良好な結果を示す重要な要因であるといえる。

そうすると、本件訂正により、本件発明1は、応力-歪み曲線(いわゆるS-Sカーブ)より得られる引張強さが所定値以上の粘着剤層を有する粘着シートであり、「180°ピール接着力(N/20mm)」及び「プッシュ強度(N/4cm^(2))」で良好な結果を示す実施例に対応付けられるものとなったから、取消理由(決定の予告)で述べた「(1)優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートに関して」、及び「(2)歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であることに関して」の点で、上述の本件発明の課題を解決することができるとはいえないということはできず、本件発明1は、「粘着シート」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。
さらに、本件発明2ないし8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するもので、本件発明1と同様の特定を含むものであり、本件発明9及び本件発明9を引用する本件発明11は、本件発明1の「粘着シート」に対し「粘着シートの製造方法」の関係にあるものであり、本件発明1と同様の特定を含むものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし9及び11も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。

よって、本件発明1ないし9及び11は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

2 取消理由について

(1)刊行物に記載の事項

ア 刊行物1(特開2004-196867号公報)(甲第2号証)

刊行物1には、次の記載がある。

ア-1 「【請求項1】200℃におけるせん断貯蔵弾性率が0.3×10^(6)?3.0×10^(6)dyn/cm^(2)である重量平均分子量100万以上のアクリル系重合体(A)を含む粘着剤組成物。
【請求項2】アクリル系重合体(A)が下記単量体(a)?(c)を共重合してなる請求項1記載の粘着剤組成物。
(a) ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体0.01?15重量%
(b) (a)以外の(メタ)アクリル酸エステル系単量体50?99.99重量%
(c)上記単量体(a)及び(b)と共重合可能で、且つ該単量体(a)及び(b)以外の単量体 0?50重量%、(但し単量体(a)、(b)、(c)の合計を100重量%とする)
【請求項3】アクリル系重合体(A)を構成する単量体(a)における反応性官能基が、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基、マレイミド基、イタコンイミド基、スクシンイミド基、エポキシ基から選ばれる請求項2記載の粘着剤組成物。
・・・
【請求項7】請求項1?6記載の粘着剤組成物を用いた粘着テープ類・粘着シート類。」

ア-2 「【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記、従来技術の問題点を解決するため、鋭意検討した結果、200℃におけるせん断貯蔵弾性率がある一定範囲にあり、且つ重量平均分子量が100万以上のアクリル共重合体をベースポリマーとした粘着剤組成物は、ハンダ浸漬・ハンダリフロー工程のような高温下においても発泡や流動することのない優れた耐熱性と実用上必要十分な粘着力をバランス良く併せ持つ粘着剤組成物になることを見つけ、それを用いた粘着テープ・粘着シート類が高温下での使用に適することを見出し、本発明に至った。」

ア-3 「【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の粘着剤組成物に含まれるアクリル系重合体は(A)は、ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体(a)と、(a)以外の(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b)、及び上記単量体(a)及び(b)と共重合可能で、且つ該単量体(a)及び(b)以外の単量体(c)を共重合してなるアクリル系重合体であるが、ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体(a)の例としては(メタ)アクリル酸・・・などのカルボキシル基を含有する単量体、また・・・4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート・・・等の水酸基を含有する単量体が挙げられる。またアミノメチル(メタ)・・・等のアミノ基を含有する単量体が挙げられる。また(メタ)アクリルアミド・・・等のアミド基を含有する単量体が挙げられる。またはN-シクロヘキシルマレイミド・・・等のマレイミド基を含有する単量体が挙げられる。またN-メチルイタコンイミド・・・等のイタコンイミド基を含有する単量体が挙げられる。またN-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド・・・等のスクシンイミド基を含有する単量体が挙げられる。またグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を含有する単量体などが挙げられる。これらは単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。その使用量は単量体全量に対して0.01?15重量%であり、その使用量が0.01重量%より少ない場合には、粘着剤組成物の凝集力が低下し、加熱環境下で発泡やハガレが起こる。15重量%より多い場合には、粘着力が低下する。」

ア-4 「【0036】
表1中、ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体(a)、(a)以外のアクリル酸エステル系単量体(b)、,上記単量体(a)及び(b)と共重合可能で、且つ該単量体(a)及び(b)以外の単量体(c)の種類を下記の略号で示した。
BA:ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
AA:アクリル酸
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
i-BA:イソブチルアクリレート
LA:ラウリルアクリレート
EA:エチルアクリレート
4-HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MMA:メチルメタアクリレート
BMA:n-ブチルメタアクリレート
VAc:酢酸ビニル
・・・
【0038】実施例1
合成例1で得られたアクリル系重合体1の固形分100重量部に対してテルペン系粘着付与樹脂 T145(YSポリスターT145:ヤスハラケミカル製)を10部、テルペン系粘着付与樹脂 S145(YSポリスターS145:ヤスハラケミカル製)各10部添加して均一に溶解するまで室温で攪拌する。更に架橋剤としてTGMXDA(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン:三菱瓦斯化学社製)を有効成分5%に希釈したものを1部添加して良く攪拌する。調整した粘着剤溶液をポリエステル製剥離フィルム(フィルム厚さ38μm)に乾燥塗膜厚さが50μmになるようにリップコーターで塗工し100℃120秒間熱風オーブンで乾燥させ、更にポリエステル剥離フィルムを貼り合せ、粘着シートを得る。この粘着シートを23℃50%RHの雰囲気下で7日間熟成させる。
・・・
【粘着力の測定方法】
剥離フィルムに挟まれた上記粘着シートの一面の剥離フィルムをはがし、ポリエステルフィルム(厚さ50μm)に貼り付けた試料を作成する。この粘着力測定用の粘着シートを幅25mm、長さ120mm切り、表面を清浄にしたステンレス板に重さ4kgのゴムロールを用いて貼り付け、粘着力測定用テストピースとする。貼り付けてから23℃50%RHの雰囲気下で1日静置した後、このテストピースを用いて180°ピール方向に剥離試験をおこない粘着力を測定する。
・・・
【0044】実施例7
実施例1で用いた合成例1のアクリル系重合体1の代わりに合成例7で得られるアクリル系重合体7を用いる以外は、実施例1と全く同様に粘着シートを作成し、各試験をおこなった。」

ア-5 「【0056】比較例4
実施例1で用いた合成例1のアクリル系重合体1の代わりに合成例16で得られるアクリル系重合体16を用いる以外は、実施例1と全く同様に粘着シートを作成し、各試験をおこなった。
以上の結果を表2、表3に示す。表2、3中、粘着付与樹脂、架橋剤の種類を下記の記号で示す。
T145:YSポリスターT145(ヤスハラケミカル製)
S145:YSポリスターS145(ヤスハラケミカル製)
P125:クリアロンP125(ヤスハラケミカル製)
KE359:パインクリスタルKE359(荒川化学社製)
KE311:パインクリスタルKE311(荒川化学社製)
KR1840:KR1840(荒川化学社製)
KR1842KR1842(荒川化学社製)
K3100:クリスタレックス3100(ハーキュレス社製)
FTR6100:FTR6100(三井化学社製)
TGMXDA:N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(三菱化学社製)
TDI/TMP:トルエンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体
TAT:トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン
【表1】

【表2】



イ 刊行物2(特開2008-285554号公報)に記載の事項

刊行物2には、次の記載がある。

イ-1 「【請求項1】
(A)(a)アルキル基の炭素数が4?12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを65?99.9質量部と、
(b)ヒドロキシル基含有単量体を0.1?20質量部と、
(c)その他重合可能な単量体を0?27質量部[ただし(a)+(b)+(c)=100質量部]と、を乳化重合することにより得られる共重合体エマルジョン及び、
(B)軟化温度が140?170℃であり、かつその樹脂が乳化されたロジン系粘着付与樹脂を1?30質量部と、を含有してなるとともに、
テトラヒドロフランに溶解したときに、溶解せずに固形分として残存するゲル分が15?60質量%であり、かつテトラヒドロフラン溶解分をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した場合にテトラヒドロフラン溶解分のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が5万?50万である水系エマルジョン型の粘着剤組成物。
・・・
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の水系エマルジョン型の粘着剤組成物を、発泡体基材の片面または両面に塗布してなる粘着テープまたは粘着シート。」

ウ 刊行物3(特開2013-40329号公報)に記載の事項

刊行物3には、次の記載がある。

ウ-1 「【請求項1】
ポリオレフィン系発泡体基材の両面側にアクリル系粘着剤層を有する両面粘着シートであって、
前記ポリオレフィン系発泡体基材は、独立気泡率が70%以上、架橋度が3?60重量%であり、
前記アクリル系粘着剤層は、直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーと粘着付与樹脂とを含む粘着剤組成物から形成されたアクリル系粘着剤層であることを特徴とする両面粘着シート。」

(2)刊行物1発明

刊行物1には、上記ア-1の【請求項7】に記載される「粘着剤組成物を用いた粘着シート」に関し、上記ア-4の段落【0044】に、「実施例7」として、実施例1で用いた合成例1のアクリル系重合体1の代わりに合成例7で得られるアクリル系重合体7を用いる以外は、実施例1と全く同様に作成された粘着シートが記載されている。
ここで、「合成例7で得られるアクリル系重合体」とは、上記ア-5の段落【0056】、【表1】の「合成例7」に示される「AA」4.0重量部、「4-HBA」0.5重量部、「BA」75.0重量部、「MA」20.5重量部から形成され、重量平均分子量(Mw(×10^(4)))が155万である重合体である。そして、上記ア-4の段落【0036】の記載によれば、「AA」、「4-HBA」、「BA」及び「MA」は、それぞれ、「アクリル酸」、「4-ヒドロキシブチルアクリレート」、「ブチルアクリレート」及び「メチルアクリレート」である。
また、上記ア-4の段落【0038】の記載によれば、実施例7が、引用している実施例1で作成された粘着シートとして、合成例1で得られたアクリル系重合体1の固形分100重量部に対してテルペン系粘着付与樹脂T145を10部(重量部)、テルペン系粘着付与樹脂S145を10部(重量部)、架橋剤としてTGMXDA(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン)を有効成分5%に希釈したものを1部含む接着剤溶液をポリエステル製剥離フィルムに塗工乾燥して形成された塗膜を、ポリエステルフィルムに貼り付けた粘着シート(【粘着力の測定方法】)が記載されているといえる。

そうすると、刊行物1には、上記「実施例7」に対応する粘着シートとして、「アクリル酸4.0重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.5重量部、ブチルアクリレート75.0重量部、メチルアクリレート20.5重量部から形成され、重量平均分子量が155万のアクリル系重合体100重量部に対してテルペン系粘着付与樹脂T145を10重量部、テルペン系粘着付与樹脂S145を10重量部、架橋剤としてのTGMXDA(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン)を有効成分5%に希釈したものを1部含む接着剤溶液をポリエステル製剥離フィルムに塗工乾燥して形成された塗膜を、ポリエステルフィルムに貼り付けた粘着シート」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と刊行物1発明を対比する。
(ア)刊行物1発明の「ポリエステルフィルム」、「アクリル系重合体」、「テルペン系粘着付与樹脂T145、テルペン系粘着付与樹脂S145」、「架橋剤としてのTGMXDA(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン)を有効成分5%に希釈したもの」、「4-ヒドロキシブチルアクリレート」、「アクリル酸」、及び「ブチルアクリレート」は、それぞれ本件発明1の「基材」、「アクリル重合体(a1)」、「『粘着付与樹脂(a2)』及び『重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であ(る粘着付与樹脂(a2))』」、「架橋剤(a3)」、「水酸基を有するビニル単量体」、「酸基を有するビニル単量体」、及び「アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレート」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「重量平均分子量が155万のアクリル系重合体100重量部に対してテルペン系粘着付与樹脂T145を10重量部、テルペン系粘着付与樹脂S145を10重量部、架橋剤としてのTGMXDA(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン)を有効成分5%に希釈したものを1部含む接着剤溶液をポリエステル製剥離フィルムに塗工乾燥して形成された塗膜」について、刊行物1発明のアクリル系重合体の重量平均分子量は、本件発明1の重量平均分子量の範囲に含まれるから、刊行物1発明の、上記の「塗膜」は、本件発明1の「『粘着剤層(A)』及び『重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であ(る粘着剤層(A))』に相当する。
さらに、刊行物1発明の、テルペン系粘着付与樹脂T145及びテルペン系粘着付与樹脂S145の使用量は、本件発明1の粘着付与樹脂(a2)の使用量の範囲に含まれるものである。

(ウ)刊行物1発明の「(接着剤溶液をポリエステル製剥離フィルムに塗工乾燥して形成された)塗膜を、ポリエステルフィルムに貼り付けた粘着シート」は、本件発明1の「基材の片面または両面に・・・粘着剤層(A)を有する粘着シート」に相当する。

(エ)刊行物1発明の接着剤溶液に含まれる「アクリル系重合体」は、本件発明1のアクリル重合体(a1)と、ビニル単量体成分及びその使用量について、「ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、水酸基を有するビニル単量体を含み、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%」である点で共通している。

そうすると、本件発明1と刊行物1発明は、「基材の片面または両面に、粘着剤層(A)を有する粘着シートであって、前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、水酸基を有するビニル単量体を含み、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用する粘着シート」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
粘着剤層(A)について、本件発明1では、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%であるのに対し、刊行物1発明では、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及びゲル分率が不明な点。

<相違点2>
アクリル重合体(a1)について、本件発明1では、水酸基を有するビニル単量体の使用量が、0.01質量%?0.08質量%であるのに対し、刊行物1発明では、0.5質量%(ビニル単量体成分の全体の使用量100重量部に対し、4-ヒドロキシチルアクリレートの使用量が0.5重量部)である点。

事案に鑑み、上記相違点2をまず検討し、その後、上記相違点1について、検討する。

<相違点2>について

刊行物1発明のアクリル系重合体は、刊行物1の上記ア-1の【請求項2】に記載される「(a)ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体0.01?15重量%
(b)(a)以外の(メタ)アクリル酸エステル系単量体50?99.99重量%
(c)上記単量体(a)及び(b)と共重合可能で、且つ該単量体(a)及び(b)以外の単量体 0?50重量%、(但し単量体(a)、(b)、(c)の合計を100重量%とする)」を共重合してなるアクリル系重合体(A)の具体的な化合物となるものであり、刊行物1発明のアクリル系重合体の4-ヒドロキシブチルアクリレートは、上記「(a)ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体」の具体例となるものである。
そして、刊行物1の上記ア-3の記載によれば、「ラジカル重合性不飽和基を有し、且つ少なくとも1個の反応性官能基を有する単量体(a)」を単量体全量に対して0.01?15重量%使用することが記載されているが、上記単量体(a)の例示を見ると、上記単量体(a)には、水酸基を含有する単量体の他に、カルボキシル基を含有する単量体、アミノ基を含有する単量体、アミド基を含有する単量体、マレイミド基を含有する単量体、イタコンイミド基を含有する単量体、スクシンイミド基を含有する単量体、エポキシ基を含有する単量体等が含まれ、水酸基を有するビニル単量体が必ず使用されるというものではない。その使用量も0.01?15重量%と相当に広い範囲に及ぶと共に、上記ア-1の【請求項2】に記載されるアクリル系重合体の具体例である上記ア-5の【表1】に記載されるアクリル系重合体の内、反応性官能基が水酸基である単量体を用いている合成例7?9のアクリル系重合体7?9を見ても、反応性官能基が水酸基である単量体の使用量は、0.5重量部(0.5質量%)のみである。
さらに、本件発明1で水酸基を有するビニル単量体の使用量を0.01質量%?0.08質量%とするのは、本件特許明細書の段落【0034】の「前記水酸基を有するビニル単量体は、前記ビニル単量体成分の全量に対して0.01質量%?0.2質量%の範囲で使用することが好ましく・・・0.02質量%?0.08質量%の範囲で使用することが、粘着剤層(A)の引張強さを特定範囲に設定し、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るうえでより好ましい。」との記載によれば、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るためである。一方、刊行物1に記載されるアクリル系重合体で上記単量体(a)の使用量の範囲を、0.01?15重量%とするのは、上記ア-3の「その使用量は単量体全量に対して0.01?15重量%であり、その使用量が0.01重量%より少ない場合には、粘着剤組成物の凝集力が低下し、加熱環境下で発泡やハガレが起こる。15重量%より多い場合には、粘着力が低下する。」との記載によれば、凝集力が低下し加熱環境下で発泡やハガレが起こること、及び粘着力が低下することを防ぐためであり、本件発明1の水酸基を有するビニル単量体の使用量の理由である、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得ることは何ら認識されていない。
そうすると、刊行物1の上記ア-3の記載を参酌したとしても、刊行物1発明において、4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量を低減し、その使用量を、本件発明1の0.01質量%?0.08質量%という限定された範囲に重複するものとする動機付けが、刊行物1発明にあるとはいえない。
また、刊行物2の上記イ-1及び刊行物3の上記ウ-1の記載を見ても、刊行物2及び3にも、刊行物1発明の4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量を、本件発明1の水酸基を有するビニル単量体の使用量に重複するものとすることを示唆する記載はない。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点であるといえるし、上記相違点2に係る本件発明1の事項は当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

<相違点1>について

次に、上記相違点1について検討するに、刊行物1には、上記相違点1について、少なくとも「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下」である点は記載されていない。
そして、この特定は、本件特許明細書の段落【0013】?【0019】の「【0013】
本発明の粘着シートを構成する粘着剤層(A)としては、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上であるものを使用する。
・・・
【0015】
ここで、前記引張強さが6N/cm^(2)未満である粘着剤層を備えた粘着シートでは、優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立することができない場合がある。
【0016】
前記引張強さの上限は、特に制限ないが、30N/cm^(2)以下であることが好ましく・・・ピール接着力とプッシュ強度と静荷重保持力等をはじめとする粘着シートの性能をバランスよく発現させるうえでさらに好ましい。
・・・
【0019】
また、前記粘着剤層(A)としては、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上のものを使用することが好ましく・・・また、上記引張強さの上限は、70N/cm^(2)以下であることが好ましく、65N/cm^(2)以下のものを使用することがより好ましい。上記範囲の歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さを有する粘着剤層を使用することによって、ピール接着力とプッシュ強度をはじめ静荷重保持力等のバランスのとれた粘着性能を備えた粘着シートを得るうえで好ましい。」との記載によれば、本件発明1の発明の課題である「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立する」ために必要な特性を特定したものであるといえる。一方で、刊行物1発明は、上記ア-2に記載されるように、「ハンダ浸漬・ハンダリフロー工程のような高温下においても発泡や流動することのない優れた耐熱性と実用上必要十分な粘着力をバランス良く併せ持つ粘着剤組成物」を得ることを発明の課題とするものであり、本件発明1の上述の発明の課題の認識がないのであるから、刊行物1発明において、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さを、本件発明1の範囲に重複するものとすることは、当業者ならば容易に想到し得るとはいえない。
また、刊行物1発明において、4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量を低減し、本件発明1の範囲に重複するものとすることが、当業者が容易に想到し得るものではないことは、上記「<相違点2について>」で述べたとおりであるが、本件特許明細書の段落【0034】の記載によれば、この水酸基含有モノマーの使用量は、「ピール接着力とプッシュ強度」の特性に影響するものである。
さらに、本件特許明細書の段落【0167】、【0168】、【0182】【表3】に記載される比較例1及び2で、それぞれ使用されるアクリル系重合体に含まれる水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.1質量%では、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さにおいて、本件発明1の範囲に重複する値が得られていないことを考慮すると、4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量が本件発明1の範囲に含まれていない刊行物1発明では、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが、本件発明1の範囲に含まれているということはできないし、刊行物1発明において、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さを、本件発明1の範囲に重複するものとすることは、当業者ならば容易に想到し得るとはいえない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点であるといえるし、上記相違点1に係る本件発明1の事項は当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

そして、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0010】に【発明の効果】として記載される「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立できる」という、刊行物1発明、刊行物1に記載の事項及び刊行物2、3に記載の周知の技術的事項からは予測し得ない効果を奏するといえる。

よって、上記相違点1及び上記相違点2は、実施的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、刊行物1発明ではないし、刊行物1発明、刊行物1に記載の事項及び刊行物2、3に記載の周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2ないし9及び11について

本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし6、8は、刊行物1発明ではないし、本件発明2ないし8は、刊行物1発明、刊行物1に記載の事項及び刊行物2、3に記載された周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明9は、「粘着シートの製造方法」に係る発明であるが、粘着シートに関しては、本件発明1と同様の特定がなされているから、本件発明1と同様に、本件発明9、本件発明9を引用する本件発明11は、刊行物1に記載された発明ではないし、刊行物1に記載された発明、刊行物1に記載された事項及び刊行物2、3に記載された周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)取消理由に関するまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし9及び11は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

3 申立理由について

(1)刊行物4に記載の事項

刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(1-1)「【請求項1】
電子機器の部品を固定するための両面粘着シートであって、(a)1層の粘着剤層により構成され、(b)前記粘着剤層が-40?-15℃の温度域に損失正接(tanδ)の極大値(M_(1))を持ち、(c)前記粘着剤層のアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂に対する面接着強度が19N/cm^(2)以上であることを特徴とする両面粘着シート。
・・・
【請求項4】
前記粘着剤層を形成する粘着剤が、(A)-50?-20℃の温度域に損失正接(tanδ)の極大値(M_(2))を持つ(メタ)アクリル系共重合体(I)と、(B)粘着付与剤として、前記極大値(M_(2))が示す温度より30℃以上高いガラス転移温度を持ち、且つ重量平均分子量が20000?500の(メタ)アクリル系共重合体(II)又は重合ロジンエステルを含有し、(C)前記(メタ)アクリル系共重合体(I)100質量部に対する前記粘着付与剤の使用量が1?25質量部である請求項1、2又は3のいずれかに記載の両面粘着シート。」

(1-2)「【0016】
したがって、本発明の目的は、両面粘着シートで部品を固定した電子機器が落下した時などの場合に、その衝撃によって部品が脱落しにくい特性(以下、耐衝撃性)を有しながら、且つ電子機器の歪みが部品に伝わった場合や電子機器に固定されている部品に貼られた保護シールを剥がす時のような、比較的低速の力が加わった場合であっても部品が脱落しにくい面接着強度に優れた耐衝撃性両面粘着シートを提供するものである。」

(1-3)「【0029】
本発明の両面粘着シートに使用する前記粘着剤は、前記した損失正接および面接着強度の条件を満たすものであれば公知の天然ゴム系粘着剤や合成ゴム系粘着剤、アクリル系の粘着剤が使用できるが、(A)-50?-20℃の温度域に損失正接(tanδ)の極大値(M_(2))を持つ(メタ)アクリル系共重合体(I)と、(B)粘着付与剤として、前記極大値(M_(2))が示す温度より30℃以上高いガラス転移温度を持ち、且つ重量平均分子量が20000?500の(メタ)アクリル系共重合体(II)又は重合ロジンエステルを含有し、(C)前記(メタ)アクリル系共重合体(I)100質量部に対する前記粘着付与剤の使用量が1?30質量部である粘着剤を使用することが好ましい。なお、本明細書では、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸のことであり、アクリル酸またはメタクリル酸の誘導体についても同様である。
・・・
【0031】
(A)成分である、損失正接の極大値(M_(2))を示す温度が-50℃?-20℃である(メタ)アクリル系共重合体(I)の種類としては、特に限定されるものではないが、(a)炭素数が1?14のアルキル側鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル90?99.9質量部、(b)ヒドロキシル基を含有するモノマー0.01?1.0質量部、(c)(b)以外の極性基を有するモノマー0.1?6.0質量部を主成分として得られる(メタ)アクリル系共重合体が好ましい。」

(1-4)「【0036】
(メタ)アクリル系共重合体(I)の質量平均分子量は、ゲルパーミエッションクロマトグラフ(GPC)で測定されるポリスチレン換算での重量平均分子量で40万?200万、好ましくは60万?130万である。質量平均分子量が40万未満では、凝集力や面接着強度が低下する。200万を超えると、塗工適性が劣る。」

(1-5)「【0059】
(粘着剤溶液Aの調製)
攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、ブチルアクリレート97.9質量部、アクリル酸2.0質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを、酢酸エチル90質量部とn-ヘキサン10質量部からなる混合溶媒に溶解し、70℃で10時間重合して、質量平均分子量90万(ポリスチレン換算)のアクリル系共重合体溶液を得た。酢酸エチルを加えて不揮発分45%の粘着剤溶液Aを得た。
【0060】
(粘着剤溶液Bの調製)
攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、ブチルアクリレート96.4質量部、アクリル酸3.5質量部、2-ヒドロキエチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを、酢酸エチル90質量部とn-ヘキサン10質量部からなる混合溶媒に溶解し、70℃で10時間重合して、質量平均分子量80万のアクリル系共重合体溶液を得た。酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Bを得た。
【0061】
(粘着剤溶液Cの調製)
攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、ブチルアクリレート44.9質量部、2エチルヘキシルアクリレート50質量部、アクリル酸2質量部、酢酸ビニル3質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを酢酸エチル100質量部に溶解し、70℃で10時間重合して、質量平均分子量80万のアクリル系共重合体溶液を得た。次にアクリル系共重合体100質量部に対し、荒川化学社製ペンセルD135(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)10質量部を添加、酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Cを得た。
【0062】
(粘着剤溶液Dの調製)
粘着剤溶液Aのアクリル系共重合体100質量部に対し、荒川化学社製ペンセルD135(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)10質量部を添加、酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Dを得た。
【0063】
(粘着剤溶液Eの調製)
攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、2エチルヘキシルアクリレート96.9質量部、アクリル酸3質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを酢酸エチル100質量部に溶解し、70℃で10時間重合して、質量平均分子量90万のアクリル系共重合体溶液を得た。次に、前記アクリル系共重合体溶液の固形分100質量部に対し、荒川化学社製ペンセルD135(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)10質量部を添加、酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Eを得た。
【0064】
(粘着剤溶液Fの調整)
粘着剤溶液Aのアクリル系共重合体100質量部に対し、シクロヘキシルメタクリレート97質量部とアクリル酸3質量部からなるアクリル系樹脂(ガラス転移温度:66℃、重量平均分子量:6000)を10質量部添加したこと以外は、粘着剤溶液Dと同様に調整し不揮発分45%の粘着剤溶液Fを得た。
【0065】
(粘着剤溶液Gの調整)
粘着剤溶液Aのアクリル系共重合体100質量部に対し、荒川化学社製ペンセルD125(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)10質量部を添加、酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Gを得た。
【0066】
(粘着剤溶液Hの調製)
攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、2エチルヘキシルアクリレート98.1質量部、アクリル酸1.8質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを酢酸エチル90質量部とn-ヘキサン10質量部からなる混合溶媒に溶解し、70℃で10時間重合して、質量平均分子量82万のアクリル共重合体溶液を得た。次に、前記アクリル系共重合体溶液の固形分100質量部に対し、理化ファインテック社製理化ロジンPCJ(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)15質量部を添加、酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Hを得た。」

(1-6)「【0074】
(実施例1)
(両面粘着シートの調製1)
上記の粘着剤溶液A100質量部に対し、日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)を0.9質量部添加し15分攪拌後、離型処理した厚さ75μmのPETフィルム上に乾燥後の厚さが90μmになるように塗工して、70℃で3分間乾燥し粘着シートを得た。次に、離型処理した厚さ38μmのPETフィルムを貼り合わせた後、40℃で2日間熟成し、厚さ90μmの両面粘着シートを得た。なお、ゲル分率は48%だった。
・・・
【0076】
(実施例3)
(両面粘着シートの調製2)
上記の粘着剤溶液C100質量部に対し、日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)を1.1質量部添加し15分攪拌後、離型処理した厚さ75μmのPETフィルム上に乾燥後の厚さが73μmになるように塗工して、70℃で3分間乾燥し粘着シートを得た。次に、坪量14g/m^(2)、厚さ50μmの三木特種製紙社製不織布「ミキロン805」の両面に、前記粘着シート2枚を貼り合わせ、表面温度80℃、線圧2N/cmの熱ロールでラミネートした。その後、40℃で2日間熟成し、厚さ160μmの両面粘着シートを得た。なお、ゲル分率は50%だった。
【0077】
(実施例4?8、比較例3?8)
表1または表2記載の粘着剤溶液に、表1または表2記載のコロネートL-45を添加使用すること以外は、実施例3と同様に両面粘着テープを作成した。」

(1-7)「【0084】
【表1】



(2)刊行物4発明

刊行物4の上記(1-1)の【請求項1】には、「電子機器の部品を固定するための両面粘着シートであって、(a)1層の粘着剤層により構成され、(b)前記粘着剤層が-40?-15℃の温度域に損失正接(tanδ)の極大値(M_(1))を持ち、(c)前記粘着剤層のアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂に対する面接着強度が19N/cm^(2)以上であることを特徴とする両面粘着シート。」が記載され、【請求項4】には、この粘着剤層を形成する粘着剤として、「(A)-50?-20℃の温度域に損失正接(tanδ)の極大値(M_(2))を持つ(メタ)アクリル系共重合体(I)と、(B)粘着付与剤として、前記極大値(M_(2))が示す温度より30℃以上高いガラス転移温度を持ち、且つ重量平均分子量が20000?500の(メタ)アクリル系共重合体(II)又は重合ロジンエステルを含有し、(C)前記(メタ)アクリル系共重合体(I)100質量部に対する前記粘着付与剤の使用量が1?25質量部である」ものが記載されている。
そして、上記(メタ)アクリル系共重合体(I)について、上記(1-6)の段落【0077】で上記(1-7)の【表1】に記載の粘着剤溶液に、表1記載のコロネートL-45を添加使用すること以外は、実施例3と同様に両面粘着テープを作成したとされる「実施例4」に着目すると、実施例4が引用している実施例3は、「上記の粘着剤溶液C100質量部に対し、日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)を1.1質量部添加し15分攪拌後、離型処理した厚さ75μmのPETフィルム上に乾燥後の厚さが73μmになるように塗工して、70℃で3分間乾燥し粘着シートを得た。次に、坪量14g/m^(2)、厚さ50μmの三木特種製紙社製不織布「ミキロン805」の両面に、前記粘着シート2枚を貼り合わせ、表面温度80℃、線圧2N/cmの熱ロールでラミネートした。その後、40℃で2日間熟成し、厚さ160μmの両面粘着シートを得た。なお、ゲル分率は50%だった。」というものである。
ここで、「実施例4」が使用する「粘着剤溶液D」(【表1】)については、上記(1-5)の段落【0062】に「粘着剤溶液Aのアクリル系共重合体100質量部に対し、荒川化学社製ペンセルD135(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)10質量部を添加、酢酸エチルを加えて均一に混合し、不揮発分45%の粘着剤溶液Dを得た。」とされ、「粘着剤溶液D」で使用している「粘着剤溶液A」は、上記(1-5)の段落【0059】に「攪拌機、寒流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、ブチルアクリレート97.9質量部、アクリル酸2.0質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを、酢酸エチル90質量部とn-ヘキサン10質量部からなる混合溶媒に溶解し、70℃で10時間重合して、質量平均分子量90万(ポリスチレン換算)のアクリル系共重合体溶液を得た。酢酸エチルを加えて不揮発分45%の粘着剤溶液Aを得た。」と記載されている。

以上の「実施例4」の要部をまとめると、刊行物4には、「実施例4」として、
「ブチルアクリレート97.9質量部、アクリル酸2.0質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリル0.1質量部とを、溶媒に溶解し、重合した、質量平均分子量90万(ポリスチレン換算)のアクリル系共重合体溶液に、アクリル系共重合体100質量部に対し、荒川化学社製ペンセルD135(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)10質量部を添加、混合して得た、不揮発分45%の粘着剤溶液D100質量部に対し、日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)を1.1質量部添加し攪拌後、厚さ75μmのPETフィルム上に乾燥後の厚さが73μmになるように塗工し、乾燥して得た、ゲル分率50%の粘着シート。」(以下、「刊行物4発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と刊行物4発明を対比する。

(ア)刊行物4発明の「厚さ75μmのPETフィルム」、「アクリル系共重合体」、「荒川化学社製ペンセルD135(粘着付与樹脂、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル)」、『日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)』、「4-ヒドロキシブチルアクリレート」、「アクリル酸」、及び「ブチルアクリレート」は、それぞれ本件発明1の「基材」、「アクリル重合体(a1)」、「『粘着付与樹脂(a2)』及び『重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であ(る粘着付与樹脂(a2))』」、「架橋剤(a3)」、「水酸基を有するビニル単量体」、「酸基を有するビニル単量体」、及び「アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレート」に相当し、刊行物4発明の「4-ヒドロキシブチルアクリレート」、「アクリル酸」、及び「ブチルアクリレート」は、それぞれ本件発明1の「ビニル単量体成分」に含まれるものである。

(イ)刊行物4発明の『粘着剤溶液D100質量部に対し、日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)を1.1質量部添加し攪拌後、厚さ75μmのPETフィルム上に乾燥後の厚さが73μmになるように塗工し、乾燥」(したもの)は、本件発明1の「粘着剤層(A)」に相当し、本件発明1の「粘着剤層(A)」と、「アクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層」である点で共通している。

(ウ)刊行物4発明の『(粘着剤溶液D100質量部に対し、日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」(イソシアネート系架橋剤、固形分45%)を1.1質量部添加し攪拌後、厚さ75μmのPETフィルム上に乾燥後の厚さが73μmになるように塗工し、乾燥して得た粘着シート』は、本件発明1の「基材の片面または両面に・・・粘着剤層(A)を有する粘着シート」に相当する。

(エ)刊行物4発明の粘着シート(の粘着剤層)のゲル分率は、50%であり、本件発明1の35質量%?60質量%のゲル分率の範囲に含まれるものである。

(オ)刊行物4発明の粘着剤溶液Dに含まれる「アクリル系共重合体」は、本件発明1のアクリル重合体(a1)と、ビニル単量体成分及びその使用量について、「ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、水酸基を有するビニル単量体含み、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを使用するもの」である点で共通している。

そうすると、本件発明1と刊行物4発明は、「基材の片面または両面に、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)を有する粘着シートであって、前記粘着剤層(A)が、アクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、水酸基を有するビニル単量体を使用し、前記ビニル単量体成分の全量に対する、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートを使用するものであり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用する粘着シート。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
粘着剤層(A)について、本件発明1では、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であるのに対し、刊行物4発明では、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが不明な点。

<相違点2>
アクリル重合体(a1)について、本件発明1では、重量平均分子量が、100万?220万の範囲であり、ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であるのに対し、甲1発明では、質量平均分子量が、90万(ポリスチレン換算)であり、4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量が0.1質量部であり、ブチルアクリレートの使用量が97.9質である点。

事案に鑑み、上記相違点2をまず検討し、その後、上記相違点1について、検討する。

<相違点2>について

刊行物4発明のアクリル系共重合体は、刊行物4の上記(1-1)の【請求項4】に記載される(メタ)アクリル系共重合体(I)の具体例となるものである。ここで、(メタ)アクリル系共重合体(I)については、上記(1-3)の段落【0031】に、刊行物4発明の「ブチルアクリレート」を含む「炭素数が1?14のアルキル側鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」の使用量として90?99.9質量部の範囲が、刊行物4発明の「4-ヒドロキシブチルアクリレート」を含む「ヒドロキシル基を含有するモノマー」の使用量として0.01?1.0質量部の範囲が記載されている。また、上記(1-4)には、(メタ)アクリル系共重合体(I)の重量平均分子量として40万?200万の範囲が記載されている。
上記の記載では、特に、「ヒドロキシル基を含有するモノマー」の使用量、及び(メタ)アクリル系共重合体(I)の質量平均分子量の範囲は、相当に広い範囲に及んでいるが、上記(1-7)の【表1】に記載される実施例1?10で使用されている上記(1-5)に記載される粘着剤溶液A?Hに含まれるアクリル系重合体を見ても、ヒドロキシル基を含有するモノマーの使用量、及び質量平均分子量において、本件発明1の範囲に重複するものはない。
さらに、本件発明1で水酸基を有するビニル単量体の使用量を0.01質量%?0.08質量%とするのは、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るためであり(本件特許明細書の段落【0034】)、重量平均分子量の範囲を100万?220万にするのも、同段落【0023】の「100万?220万の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することが、粘着剤層(A)の引張強さを特定範囲に設定し、その結果、優れたピール接着力と優れたプッシュ強度を両立した粘着シートを得るうえでさらに好ましい。」との記載によれば、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得るためである。一方、刊行物4に記載されるアクリル系重合体を含む両面粘着シートは、上記(1-2)の記載によれば、「両面粘着シートで部品を固定した電子機器が落下した時などの場合に、その衝撃によって部品が脱落しにくい特性(以下、耐衝撃性)を有しながら、且つ電子機器の歪みが部品に伝わった場合や電子機器に固定されている部品に貼られた保護シールを剥がす時のような、比較的低速の力が加わった場合であっても部品が脱落しにくい面接着強度に優れた耐衝撃性両面粘着シートを提供する」もので、刊行物4に記載されるアクリル系重合体に含まれる「ヒドロキシル基を含有するモノマー」の使用量の規定の理由や、アクリル系重合体の質量平均分子量の規定の理由に、本件発明1の水酸基を有するビニル単量体の使用量の理由、及び重量平均分子量の規定の理由である、より一層優れたピール接着力とより一層優れたプッシュ強度とを両立した粘着シートを得ることが認識されているとはいえない。
そうすると、刊行物4の上記(1-3)の段落【0031】の記載、及び上記(1-4)の記載を参酌したとしても、刊行物4発明において、4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量、及びアクリル系共重合体の質量平均分子量を、本件発明1の範囲に重複するものとする動機付けが、刊行物4発明にあるとはいえない。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点であるといえるし、上記相違点2に係る本件発明1の事項は当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

<相違点1>について

次に、上記相違点1について検討するに、刊行物4には、「歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下」である点は記載されていない。
そして、上記2、(3)、「<相違点1>について」で述べた様に、上記の相違点1に係る特定は、本件発明1の発明の課題に対応する「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立する」ために必要な特性であるといえる。一方で、刊行物4発明は、上記(1-2)に記載されるように、「両面粘着シートで部品を固定した電子機器が落下した時などの場合に、その衝撃によって部品が脱落しにくい特性(以下、耐衝撃性)を有しながら、且つ電子機器の歪みが部品に伝わった場合や電子機器に固定されている部品に貼られた保護シールを剥がす時のような、比較的低速の力が加わった場合であっても部品が脱落しにくい面接着強度に優れた耐衝撃性両面粘着シートを提供する」ことを発明の課題とするものであり、本件発明1の上述の発明の課題の認識がないのであるから、刊行物4発明において、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さを、本件発明1の範囲に重複するものとすることは、当業者ならば容易に想到し得るとはいえない。
また、上記「<相違点2>について」で述べた様に、アクリル重合体における、水酸基を有するビニル単量体の使用量、及び重量平均分子量の範囲は、「ピール接着力とプッシュ強度」の特性に影響するものであるから、4-ヒドロキシブチルアクリレートの使用量、及びアクリル系重合体の質量平均分子量が、本件発明1の範囲に含まれていない刊行物4発明において、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが、本件発明1の範囲に含まれているということはできないし、刊行物4発明において、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さ、及び歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さを、本件発明1の範囲に重複するものとすることは、当業者ならば容易に想到し得るとはいえない。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点であるといえるし、上記相違点1に係る本件発明1の事項は当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

そして、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0010】に【発明の効果】として記載される「優れたピール接着力と優れたプッシュ強度とを両立できる」という、刊行物4発明からは予測し得ない効果を奏するといえる。

よって、上記相違点1及び上記相違点2は、実施的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、刊行物4発明ではないし、刊行物4発明及び刊行物4に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2ないし9及び11について

本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし6、8は、刊行物4発明ではないし、本件発明2ないし8は、刊行物4発明及び刊行物4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明9は、「粘着シートの製造方法」に係る発明であるが、粘着シートに関しては、本件発明1と同様の特定がなされているから、本件発明1と同様に、本件発明9、本件発明9を引用する本件発明11は、刊行物4に記載された発明ではないし、刊行物4に記載された発明及び刊行物4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由に関するまとめ

以上のとおり、本件発明1ないし9及び11は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

第6 むすび

上記「第5」で検討したとおり、本件特許1ないし9及び11は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由(決定の予告)、上記取消理由及び上記申立理由によっては、本件特許1ないし9及び11を取り消すことはできない。
そして、他に本件特許1ないし9及び11を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件発明10は、削除されたので、本件発明10に対する異議申立ては却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)を有する粘着シートであって、前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)によって形成された層であり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記粘着剤層(A)が1μm?100μmの範囲の厚さを有するものである請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記基材が発泡体基材である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記発泡体基材が、1500μm以下の厚さを有するものである請求項3に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、(メタ)アクリル単量体以外のビニル単量体の含有量が合計5質量%以下、及び、ホモポリマーのガラス転移温度が100℃以上のアルキル(メタ)アクリレートの含有割合が合計1質量%以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着付与樹脂(a2)が、重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる2種以上を含有するものである請求項1?5に記載の粘着シート。
【請求項7】
最狭部分の幅が0.5mm?2.5mmである請求項1?6のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤層(A)の、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが7.7N/cm^(2)以上である請求項1?7のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項9】
基材の片面または両面に、歪み量100%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが6N/cm^(2)以上30N/cm^(2)以下であり、歪み量500%における応力-歪み曲線に基づく引張強さが12N/cm^(2)以上70N/cm^(2)以下であり、ゲル分率が35質量%?60質量%である粘着剤層(A)を有することを特徴とする粘着シートの製造方法であって、前記粘着剤層(A)が、重量平均分子量100万?220万の範囲のアクリル重合体(a1)、粘着付与樹脂(a2)及び架橋剤(a3)を含有する粘着剤を用いて形成されたものであり、前記アクリル重合体(a1)が、ビニル単量体成分を重合させて得られるものであって、前記ビニル単量体成分の全量に対する、前記水酸基を有するビニル単量体の使用量が0.01質量%?0.08質量%であり、酸基を有するビニル単量体の使用量が1質量%?15質量%であり、アルキル基の炭素原子数が4?12であるアルキル(メタ)アクリレートの使用量が70質量%?96質量%であり、前記粘着付与樹脂(a2)が重合ロジンエステル系粘着付与樹脂、不均化ロジンエステル系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂及びテルペンフェノール系粘着付与樹脂からなる群より選ばれる1種以上であり、前記アクリル重合体(a1)100質量部に対して5?60質量部使用することを特徴とする粘着シートの製造方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記ビニル単量体成分が、さらにn-ブチルアクリレートを含有するものであり、前記ビニル単量体成分の全量に対する前記n-ブチルアクリレートの使用量が70質量%?98質量%である請求項9に記載の粘着シートの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-15 
出願番号 特願2015-49467(P2015-49467)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 原 賢一
天野 宏樹
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5963027号(P5963027)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 粘着シート  
代理人 河野 通洋  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  
代理人 小川 眞治  
代理人 大野 孝幸  
代理人 河野 通洋  
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