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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21C
管理番号 1343004
異議申立番号 異議2017-700276  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-16 
確定日 2018-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6023953号発明「古紙パルプの漂白方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6023953号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6023953号の請求項1、2、4?7、9に係る特許を維持する。 特許第6023953号の請求項3及び8に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6023953号(以下「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年7月31日の出願であって、平成28年10月21日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立て期間内である平成29年3月16日に特許異議申立人和田直人(以下「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年5月9日に特許異議申立人椎名一男(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年7月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月25日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年10月26日に申立人1より意見書が提出され、平成29年10月31日に申立人2より意見書が提出され、平成30年1月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年3月23日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年4月19日に申立人2より意見書が提出され、平成30年4月26日に申立人1より意見書が提出されたものである。
なお、平成29年9月25日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求
1.訂正の内容
平成30年3月23日の訂正の請求は、「特許第6023953号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる」とあるのを、
「モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させる」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び9についても同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「接触させることを含む、古紙パルプの漂白方法」とあるのを、
「接触させることを含み、
前記モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである、古紙パルプの漂白方法」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び9についても同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる」とあるのを、
「モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させる」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5?7及び9についても同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に
「接触させることを含む、古紙パルプの白色度向上方法」とあるのを、
「接触させることを含み、
前記モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである、古紙パルプの白色度向上方法」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5?7及び9についても同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、及びこれらの少なくとも2種以上の混合物」とあるのを、
「硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及びこれらの混合物」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7及び9についても同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1から3のいずれかに記載の漂白方法又は請求項4から8のいずれかに記載の白色度向上方法」とあるのを、
「請求項1又は2のいずれかに記載の漂白方法又は請求項4から7のいずれかに記載の白色度向上方法」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0033】に
「含水率を32%に調整し、32%パルプ原料を得た」とあるのを、
「含水率を調整し、32%パルプ原料を得た」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0033】に
「含水率を16%に調整し、16%パルプ原料を得た」とあるのを、
「含水率を調整し、16%パルプ原料を得た」に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1は、訂正前の請求項1の「古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる」を、古紙パルプに接触させる薬剤及び接触の順序について、「モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させる」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項1は、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び9についても上記のとおり限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項1は古紙パルプに接触させる薬剤及び接触の順序について限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書」という。」)の「本開示は、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法において、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンに接触させた古紙パルプスラリーに、過酸化水素による漂白を行うことにより、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、白色度が向上された古紙パルプが製造できる、との本発明者らによって見出された知見に基づく。」(【0008】)という記載に基づくものである。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(2)訂正事項2について
ア.訂正事項2は、モノクロラミンの濃度について、訂正前の請求項1には特定がなかったものを「モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項1は、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び9についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項2はモノクロラミンの濃度について限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項2は、本件特許明細書の「モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの濃度は、一又は複数の実施形態において、残留塩素量として、0.5?30mg/Lであり、漂白性向上の点から、1?30mg/Lが好ましく、経済性の点から、1?25mg/L又は1?20mg/Lが好ましい。残留塩素量は、一又は複数の実施形態において、要求される漂白性(白色度)によって決定できる。」(【0016】)という記載に基づくものである。
よって、訂正事項2は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(3)訂正事項3について
ア.訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(4)訂正事項4について
ア.訂正事項4は、訂正前の請求項4の「古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させる」を、古紙パルプに接触させる薬剤及び接触の順序について、「モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させる」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項4は、訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5?7及び9についても上記のとおり限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項4は古紙パルプに接触させる薬剤及び接触の順序について限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5?7及び9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項4は、本件特許明細書の「本開示は、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法において、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンに接触させた古紙パルプスラリーに、過酸化水素による漂白を行うことにより、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、白色度が向上された古紙パルプが製造できる、との本発明者らによって見出された知見に基づく。」(【0008】)という記載に基づくものである。
よって、訂正事項4は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(5)訂正事項5について
ア.訂正事項5は、モノクロラミンの濃度について、訂正前の請求項4には特定がなかったものを「モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項5は、訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5?7及び9についても上記のとおり限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項5はモノクロラミンの濃度について限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項4を引用する訂正後の請求項5?7及び9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項5は、本件特許明細書の「モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの濃度は、一又は複数の実施形態において、残留塩素量として、0.5?30mg/Lであり、漂白性向上の点から、1?30mg/Lが好ましく、経済性の点から、1?25mg/L又は1?20mg/Lが好ましい。残留塩素量は、一又は複数の実施形態において、要求される漂白性(白色度)によって決定できる。」(【0016】)という記載に基づくものである。
よって、訂正事項5は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(6)訂正事項6について
ア.訂正事項6は、アンモニア化合物について、訂正前の請求項6の「硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、及びこれらの少なくとも2種以上の混合物」を「硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及びこれらの混合物」と選択肢を減らして限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項6は、訂正後の請求項6を引用する訂正後の請求項7及び9についても上記のとおり限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項6はアンモニア化合物について限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項6を引用する訂正後の請求項7及び9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項6は、本件特許明細書の「(調製例A)次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液の調製・・・ (調製例D)次亜塩素酸ナトリウムと塩化アンモニウムとの混合液の調製」(【0032】)という記載に基づくものである。
よって、訂正事項6は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(7)訂正事項7について
ア.訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(8)訂正事項8について
ア.訂正事項8は、請求項9が引用する請求項から、削除された請求項3及び8を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項8は、請求項9が引用する請求項から、削除された請求項3及び8を除くものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項8は、請求項9が引用する請求項から、削除された請求項3及び8を除くものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(9)訂正事項9について
ア.願書に最初に添付した明細書の【0043】の「・・・パルプ濃度20%に脱水した。得られた20%パルプ原料に・・・」との記載、及び同【0017】の「本開示の漂白方法において、パルプ濃度は、一又は複数の実施形態において、5?30重量%、好ましくは10?25重量%である。」との記載から、「○○%パルプ原料」の「○○%」は、パルプ濃度(固形分濃度重量%)を指すことは、明らかである。そうすると、「含水率を32%に調整し、」と「32%(当審注:32%のパルプ濃度、すなわち含水率68%)パルプ原料を得た」とは矛盾するから、訂正前の【0033】の「含水率を32%に調整し、32%パルプ原料を得た」の記載は、明らかな誤記であり、訂正事項9は、その誤記を訂正して「含水率を調整し、32%パルプ原料を得た」とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項9は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項9は、本件特許明細書の【0017】、【0033】及び【0043】の記載に基づくものである。
よって、訂正事項9は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

(10)訂正事項10について
ア.訂正事項9で述べた理由と同様の理由により、訂正事項10は、誤記を訂正して「含水率を調整し、16%パルプ原料を得た」とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
イ.上記ア.の理由から明らかなように、訂正事項10は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ.訂正事項10は、本件特許明細書の【0017】、【0033】及び【0043】の記載に基づくものである。
よって、訂正事項10は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

3.一群の請求項について
訂正前の請求項9は、請求項1?8を引用しているので、訂正前の請求項1?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項9及び10は、当該一群の請求項1?9を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。

4.まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第4項ないし第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1、2、4?7、9に係る発明(以下「本件発明1、2、4?7、9」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?7、9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法であって、
モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させることを含み、
前記モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである、古紙パルプの漂白方法。
【請求項2】
前記過酸化水素の添加率が、対パルプあたり0.5?5.0重量%である、請求項1記載の漂白方法。
【請求項4】
過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白工程において、
モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させることを含み、
前記モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである、古紙パルプの白色度向上方法。
【請求項5】
前記漂白は、次亜塩素酸ナトリウム及びアンモニウム化合物が添加された古紙パルプスラリーに、過酸化水素を添加することを含む、請求項4記載の向上方法。
【請求項6】
前記アンモニウム化合物が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項5記載の向上方法。
【請求項7】
前記過酸化水素の添加率が、対パルプあたり0.5?5.0重量%である、請求項5又は6記載の向上方法。
【請求項9】
請求項1又は2のいずれかに記載の漂白方法又は請求項4から7のいずれかに記載の白色度向上方法を行うことを含む、古紙パルプの製造方法。」

第4 当審の判断
1.取消理由の概要
平成29年7月26日付け取消理由及び平成30年1月19日付け取消理由の概要は、以下のとおりである。なお、申立人1及び申立人2の申し立てた特許異議申立理由は全て通知した。

<理由1>
本件発明1、2、4?7、9は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
<理由2>
本件発明1、2、4?7、9は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<理由3>
本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

以下、申立人1による特許異議申立書を「申立書1」、申立人2による特許異議申立書を「申立書2」とする。 また、「刊行物1に記載された発明」等を「刊行物1発明」等といい、「刊行物1に記載された事項」等を「刊行物1記載事項」等という。

<刊行物等一覧>
刊行物1:特開2009-160580号公報(申立書1の甲第1号証)
刊行物2:米国特許出願公開第2003/0121868号明細書(申立書1の甲第2号証)
刊行物3:特開2010-236166号公報(申立書1の甲第3号証)
刊行物4:特表平8-507932号公報(申立書1の甲第4号証)
刊行物5:特表2003-514569号公報(申立書1の甲第5号証)
刊行物6:欧州特許出願公開第2202206号明細書(申立書1の甲第6号証)
刊行物7:特許第4713081号公報(申立書2の甲第1号証)

1.<理由1:第29条第1項第3号>及び<理由2:第29条第2項
(1)刊行物1を主たる引用例とする理由
本件発明1、2、4?7、9は、刊行物1発明である。
本件発明1、2、4?7、9は、刊行物1発明及び周知技術(刊行物3?刊行物6)に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

(2)刊行物7を主たる引用例とする理由
本件発明1、5、9は、刊行物7発明である。
本件発明1、2、4?7、9は、刊行物7発明に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

(3)刊行物3を主たる引用例とする理由
本件発明1は、刊行物3発明及び刊行物1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2、4?7、9は、刊行物3発明及び刊行物3、刊行物1記載事項に基いて当業者が容易に想到し得た発明である。

2.<理由3:第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号>
(1)請求項1、4には、「モノブロラミン」なる用語が記載されているが、「モノブロラミン」は、一般的な技術用語とはいえず、「モノブロラミン」がどのような物質を指すの不明である。
よって、本件発明1、4、及びそれらを引用する本件発明2、5、6、9は明確でない。

(2)本件発明1、4の「モノブロラミン」を用いたものについて、発明の詳細な説明には、段落【0012】に、「本開示の漂白方法において、モノクロラミン等との接触は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンを生成する薬剤、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンを含む薬剤を使用することにより行うことができる。このような薬剤としては、一又は複数の実施形態として、次亜塩素酸ナトリウムと、硫酸アンモニウム及び/又は臭化アンモニウムとを含む薬剤等が挙げられる。・・・モノブロラミンは、一又は複数の実施形態において、次亜臭素酸ナトリウムと、アンモニウム化合物とを混合することにより生成できる。・・・」と記載されるだけで、実施例を挙げる等して、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
よって、本件発明1、4及びそれらを引用する本件発明2、5?7、9は、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載したものではない。

(3)本件発明1、2、4?7、9は、「過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減できる」(本件特許明細書【0007】)という課題を解決するものである。
本件発明1、4の「モノブロラミン」を用いたものに関して、発明の詳細な説明には、上記課題を解決し得るものなのか、実施例を挙げて実証的な説明がなされていない。
よって、本件発明1、4及びそれらを引用する本件発明2、5?7、9は、上記課題を解決し得ないものを含み得るものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(4)本件発明6の「次亜塩素酸ナトリウム」及び「スルファミン酸アンモニウム」を用いたものについて、発明の詳細な説明には、実施例を挙げる等して当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
よって、本件発明6、及び本件発明6を引用する本件発明7?9は、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載したものではない。

(5)本件発明6、7、9は、「過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減できる」(本件特許明細書【0007】)という課題を解決するものである。
本件発明6の「次亜塩素酸ナトリウム」及び「スルファミン酸アンモニウム」を用いたものに関して、発明の詳細な説明には、上記課題を解決し得るものなのか、実施例を挙げて実証的な説明がなされていない。
よって、本件発明6及び本件発明6を引用する本件発明7及び9は、上記課題を解決し得ないものを含み得るものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(6)本件発明1は、モノクロラミン及び過酸化水素と接触させる古紙パルプスラリーのパルプ濃度が10?25重量%であるが、【0033】?【0036】の(実施例1)?(実施例4)、【0043】?【0044】の(実施例5)?(実施例6)のいずれも、モノクロラミン及び過酸化水素と接触させる古紙パルプスラリーのパルプ濃度が10?25重量%の範囲のものではないので、(実施例1)?(実施例6)のいずれも、本件発明1の実施例ではない。したがって、本件発明1が、本件発明1の課題「過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減可能な古紙パルプの漂白方法を提供する」(明細書【0004】)を解決していることについて、発明の詳細な説明には具体的な実施例等を用いて実証的に説明されていない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

2.理由3(特許法第36条第4項第1号、同第36条第6項第1号及び第2号)についての判断
事案に鑑み、まず理由3について検討する。
(1)特許法第36条第6項第2号に係る理由
理由3の(1)について(「モノブロラミン」に関して)、本件訂正により、本件発明1及び4は、「モノブロラミン」に関する特定を含まないものとなった。
よって、本件発明1、4及びそれらを引用する本件発明2、5?7、9は明確でないとはいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号に係る理由
ア.理由3の(2)について(「モノブロラミン」に関して)
本件訂正により、本件発明1及び4は、「モノブロラミン」に関する特定を含まないものとなった。
よって、本件発明1、4及びそれらを引用する本件発明2、5?7、9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載したものではないとはいえない。

イ.理由3の(4)について(「次亜塩素酸ナトリウム」及び「スルファミン酸アンモニウム」に関して)
本件訂正により、本件発明6は、「次亜塩素酸ナトリウム」及び「スルファミン酸アンモニウム」に関する特定を含まないものとなった。
よって、本件発明6及びそれらを引用する本件発明7、9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載したものではないとはいえない。

(3)特許法第36条第6項第1号に係る理由
ア.理由3の(3)について(「モノブロラミン」に関して)
本件訂正により、本件発明1及び4は、「モノブロラミン」に関する特定を含まないものとなった。
よって、本件発明1、4及びそれらを引用する本件発明2、5?7、9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

イ.理由3の(5)について(「次亜塩素酸ナトリウム」及び「スルファミン酸アンモニウム」に関してに関して)
本件訂正により、本件発明6は、「次亜塩素酸ナトリウム」及び「スルファミン酸アンモニウム」に関する特定を含まないものとなった。
よって、本件発明6及びそれらを引用する本件発明7、9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

ウ.理由3の(6)について(「古紙パルプスラリーのパルプ濃度」に関して)
本件訂正により、本件発明1及び4は、「古紙パルプスラリーのパルプ濃度」に関する特定を含まないものとなった。
よって、本件発明1、4及びそれらを引用する本件発明2、5?7、9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

(4)小括
よって、本件特許明細書の記載及び本件発明1、2、4?7、9は、特許法第36条第4項第1項、第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1、2、4?7、9に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、理由3によっては、取り消されるべきものとすることはできない。

3.理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(特許法第29条第2項)についての判断
(1)刊行物記載事項及び刊行物発明
ア.刊行物1
刊行物1(特に、【0001】、【0020】、【0249】?【0261】の【実施例5】及び【実施例6】、【0250】の【表5】の(NH_(4)Cl+NaOClの58ppm、128ppmの行))には、以下の刊行物1発明が記載されている。
「NH_(4)Cl+NaOClで生成したモノクロロアミン(MCA)を、H_(2)O_(2)とカタラーゼを有する古紙の脱インクプロセス水に加え、カタラーゼのH_(2)O_(2)を分解する作用を不活性にし、H_(2)O_(2)の残留濃度の減少を防ぐ方法。」

イ.刊行物3
刊行物3(特に、【請求項1】、【0001】、【0010】?【0014】、【0030】の[実施例1])には、以下の刊行物3発明が記載されている。
「過酸化水素を用いた、古紙を原料とした脱墨パルプの漂白方法であって、
古紙を原料とした脱墨パルプに、過酸化水素を含む薬品と過酸化水素によって分解されない化合物であるカタラーゼ抑制剤を混合して添加する、古紙を原料とした脱墨パルプの漂白方法。」

ウ.刊行物7
刊行物7は、刊行物1に係る出願の原出願の特許公報であり、実質的に刊行物1発明と同じ刊行物7発明が記載されている。

(2)刊行物1を主たる引用例とする理由1
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「モノクロロアミン(MCA)」、「H_(2)O_(2)」は、それぞれ、本件発明1の「モノクロラミン」、「過酸化水素」に相当する。
そうすると、本件発明1と刊行物1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1では、モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させているのに対して、刊行物1発明では、モノクロラミンを、過酸化水素とカタラーゼを有する古紙の脱インクプロセス水に加えている点。

上記相違点1-1について検討する。
刊行物1の【0253】には「あらゆる実用的な目的のため、MCA及びFuzzicide BACは適正費用のバイオフィルム生成を阻害するのに最適化された供給量レベルで投与されると、過酸化物分解酵素を非活性化する効果を持たない。従って、過酸化物分解酵素カタラーゼに対するこれらバイオフィルム阻害物質の作用形態は、酵素の直接不活性化以外の機構に従って作用しなければならない。本実施例は、H_(2)O_(2)と即座に反応するHOCI及びHOBrとは異なり、MCA及びFuzzicide BACがH_(2)O_(2)を酸化しないことを示している。この特性は、MCA及びFuzzicide BACが、高い背景濃度のH_(2)O_(2)の存在下、又はH_(2)O_(2)を含む混合物中でバイオフィルム阻害物質として用いられることを可能にする。」(下線は当審で付与。)と、また、同じく【0254】には「脱インクシステムは、古紙1トン当たり7?10kgのH_(2)O_(2)を用いていた。グルタルアルデヒド等の従来の殺生剤を用いたH_(2)O_(2)の酵素分解を制御するためのこれまでの試みは、このシステムでの費用効率の高い結果をもたらさなかった。同一の工場の並列した脱インクシステムは同一供給源からの古紙に同様の脱インクプロセスを利用しており、グルタルアルデヒドを含む市販の化学的処方で首尾よく処理された:この脱インクプロセスにおける平均H_(2)O_(2)消費率が古紙1トン当たり約4kgのH_(2)O_(2)にまで低減した。Fuzzicide BAC技術での試験開始に先立って行われた測定は、脱インク工場の種々の部分で高い微生物負荷が存在することを示し、多量のスライムの蓄積を示唆した。大量のH_(2)O_(2)の初期投与にもかかわらず、システムの流路に沿った種々の点にて検出したH_(2)O_(2)の残留物は極めて僅かであった。」と、また同じく、【0255】には、「次に特許文献7において説明される産生/供給システムでその場で産生されたFuzzicide BACを、850分間にわたってプロセス水に連続的に供給した。」と記載されており、これらの記載からすると、バイオフィルム阻害物質(モノクロラミン)は、H_(2)O_(2)が含まれる脱インキプロセスに投入されるものであり、本件発明1のように、モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させているものではない。
よって、上記相違点1-1は実質的なものであり、本件発明1は、刊行物1発明ではない。

イ.本件発明4について
本件発明4と刊行物1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1-2>
本件発明4では、モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させているのに対して、刊行物1発明では、モノクロラミンを、過酸化水素とカタラーゼを有する古紙の脱インクプロセス水に加えている点。

上記相違点1-2は、上記ア.の本件発明1について検討した相違点1-1と実質的に同じであるから、同様の理由により、実質的な相違点である。
よって、本件発明4は、刊行物1発明ではない。

ウ.本件発明2、5?7、9について
本件発明2、5?7、9は、本件発明1又は本件発明4の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1又は本件発明4について述べた理由と同様の理由により、刊行物1発明ではない。

(3)刊行物7を主たる引用例とする理由1
刊行物7発明は、刊行物1発明と実質的に同じであるから、上記(2)で述べた理由と同様の理由により、本件発明1、5、9は、刊行物7発明ではない。

(4)刊行物1を主たる引用例とする理由2
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物1発明とは、少なくとも上記相違点1-1で相違する。

上記相違点1-1について検討する。
刊行物1発明は、「工業用水及び吸水ラインにおけるバイオフィルムの生成の制御」(刊行物1【0001】)に関するもので、刊行物1には、「モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させている」点は、記載されていないし示唆もない。また、周知技術として挙げられている刊行物3?刊行物6にも、その点は記載されていないし、示唆もない。
一方、本件発明1は、「過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減可能な古紙パルプの漂白方法を提供する」(本件特許明細書【0004】)ことを課題とするもので、相違点1-1に係る構成を有することにより、「本開示の漂白方法によれば、過酸化水素を単独で使用する場合と比較して、過酸化水素の使用量を、一又は複数の実施形態において、5?50重量%、好ましくは10?50重量%削減することができる。」(本件特許明細書【0019】)という作用効果を奏する。
したがって、相違点1-1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、刊行物1発明及び周知技術(刊行物3?刊行物6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明4について
本件発明4と刊行物1発明とは、少なくとも上記相違点1-2で相違する。

上記相違点1-2を検討する。
相違点1-2は、上記ア.の本件発明1について検討した相違点1-1と実質的に同じであるから、同様の理由により、相違点1-2に係る本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明4は、刊行物1発明及び周知技術(刊行物3?刊行物6)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明2、5?7、9について
本件発明2、5?7、9は、本件発明1又は本件発明4の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1又は本件発明4について述べた理由と同様の理由により、刊行物1発明及び周知技術(刊行物3?刊行物6)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)刊行物7を主たる引用例とする理由2
刊行物7発明は、刊行物1発明と実質的に同じであるから、上記(4)で述べた理由と同様の理由により、本件発明1、2、4?7、9は、刊行物7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)刊行物3を主たる引用例とする理由2
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物3発明とを対比すると、古紙を原料とする脱墨パルプの処理工程では、パルプをスラリーで処理を行うことは、製紙分野の技術常識であるから、刊行物3発明の「古紙を原料とした脱墨パルプ」は、本件発明1の「古紙パルプスラリー」に相当する。
そうすると、本件発明1と刊行物3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3-1>
過酸化水素水とともに使用する薬剤を、本件発明1では、過酸化水素水との接触に先立ち古紙パルプスラリーと接触させるのに対して、刊行物3発明では、過酸化水素と混合して添加する点。
<相違点3-2>
過酸化水素水と一緒にパルプに接触される物質が、本件発明1では、残留塩素量として1?25mg/Lであるモノクロラミンであるのに対して、刊行物3発明では、過酸化水素によって分解されない化合物であるカタラーゼ抑制剤である点。

上記相違点3-1を検討する。
刊行物3発明は、「脱墨パルプ製造工程において、過酸化水素を含む薬品を添加する工程におけるカタラーゼを効果的に不活性化し、最終的な過酸化水素添加量の低減による漂白薬品コストの低減」(刊行物3【0010】)を課題としている。そして、刊行物3発明は、「本発明の脱墨パルプの製造方法によれば、脱墨パルプの製造工程において、カタラーゼ抑制剤と過酸化水素を含む薬品を混合して添加するという簡便な方法により漂白効率を向上させることが可能となり、過酸化水素の使用量の低減、あるいは同等の過酸化水素の添加量で比較した場合は白色度を向上させることができる。」(刊行物3【0013】)という効果するものである。したがって、「カタラーゼ抑制剤と過酸化水素を含む薬品を混合して添加する」ことを前提とする、刊行物3発明において、過酸化水素水とともに使用する薬剤(カタラーゼ抑制剤)を、過酸化水素水との接触に先立ち古紙パルプスラリーと接触させるようにすることは、刊行物3発明の課題や効果に反することから、刊行物3発明において、相違点3-1に係る構成を採用する動機付けがない。また、刊行物1にも、「過酸化水素水とともに使用する薬剤(モノクロラミン)を、過酸化水素水との接触に先立ち古紙パルプスラリーと接触させる」点について記載も示唆もない。
一方、本件発明1は、「過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減可能な古紙パルプの漂白方法を提供する」(本件特許明細書【0004】)ことを課題とするもので、相違点3-1に係る構成を有することにより、「本開示の漂白方法によれば、過酸化水素を単独で使用する場合と比較して、過酸化水素の使用量を、一又は複数の実施形態において、5?50重量%、好ましくは10?50重量%削減することができる。」(本件特許明細書【0019】)という作用効果を奏する。
したがって、相違点3-1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、上記相違点3-2を検討するまでもなく、刊行物3発明及び刊行物1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明4について
本件発明4と刊行物3発明とを対比すると、本件発明4と刊行物3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3-3>
過酸化水素水とともに使用する薬剤を、本件発明1では、過酸化水素水との接触に先立ち古紙パルプスラリーと接触させるのに対して、刊行物3発明では、過酸化水素と混合して添加する点。
<相違点3-4>
過酸化水素水と一緒にパルプに接触される物質が、本件発明1では、残留塩素量として1?25mg/Lであるモノクロラミンであるのに対して、刊行物3発明では、過酸化水素によって分解されない化合物であるカタラーゼ抑制剤である点。

上記相違点3-3を検討する。
相違点3-3は、上記ア.の本件発明1について検討した相違点3-1と実質的に同じであるから、同様の理由により、相違点3-3に係る本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明4は、上記相違点3-4を検討するまでもなく、刊行物3発明、刊行物3記載事項及び刊行物1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明2、5?7、9について
本件発明2、5?7、9は、本件発明1又は本件発明4の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1又は本件発明4について述べた理由と同様の理由により、刊行物3発明、刊行物3記載事項及び刊行物1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)小括
以上のとおり、本件発明1、2、4?7、9は、刊行物1発明ではなく、本件発明1、5、9は、刊行物7発明ではない。
よって、本件発明1、2、4?7、9に係る特許は、特許法第29条第1項第3号には該当せず、特許法第113条第2号に該当せず、理由1によっては、取り消されるべきものとすることはできない。
また、以上のとおり、本件発明1、2、4?7、9は、刊行物1発明及び周知技術(刊行物3?刊行物6)、あるいは、刊行物7発明、あるいは、刊行物3発明及び刊行物1記載事項、あるいは、刊行物3発明、刊行物3記載事項及び刊行物1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1、2、4?7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号に該当せず、理由2によっては、取り消されるべきものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1、2、4?7、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2、4?7、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項3及び8は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項3及び8に対して申立人1及び2がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項3及び8に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
古紙パルプの漂白方法
【技術分野】
【0001】
本開示は、古紙パルプの漂白方法、古紙パルプの白色度向上方法、及び過酸化水素の酸化力向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の点から、古紙を再利用した古紙パルプを使用することが広く求められている。しかしながら、古紙パルプは、新聞紙や雑誌等といった印刷済みの古紙を原料としていることから、漂白処理に手間とコストを要する一方で、得られるパルプの白色度が低い場合が多い。このため、より白色度の高い古紙パルプを低コストで効率よく製造する方法が求められている。
古紙パルプ製造における漂白方法としては、例えば、過酸化水素のみを用いた方法(例えば、特許文献1)や、過酸化水素を用いた酸化漂白と二酸化チオ尿素を用いた還元漂白とを組み合わせた方法(例えば、特許文献2)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-240188号公報
【特許文献2】特開2006-45745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減可能な古紙パルプの漂白方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一態様において、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法であって、古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させることを含む、古紙パルプの漂白方法に関する。
【0006】
本開示は、その他の態様において、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白工程において、古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させることを含む、古紙パルプの白色度向上方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白において、過酸化水素の使用量を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法において、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンに接触させた古紙パルプスラリーに、過酸化水素による漂白を行うことにより、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、白色度が向上された古紙パルプが製造できる、との本発明者らによって見出された知見に基づく。
【0009】
[古紙パルプの漂白方法]
本開示は、一態様において、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法であって、古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン(以下、「モノクロラミン等」ともいう)並びに過酸化水素と接触させることを含む、古紙パルプの漂白方法(以下、「本開示の漂白方法」という)に関する。本開示の漂白方法によれば、一又は複数の実施形態において、漂白に使用する過酸化水素の量を削減できるという効果を奏しうる。また、本開示の漂白方法によれば、一又は複数の実施形態において、白色度の高い古紙パルプを得ることができる。
【0010】
本開示において「古紙パルプスラリー」としては、一又は複数の実施形態において、少なくとも古紙原料を離解処理して得られたスラリー等が挙げられる。また、特に限定されない一又は複数の実施形態として、古紙パルプスラリーとしては、古紙パルプ製造工程において、原料となる古紙を水と混合しながら機械力でパルプスラリーとする離解工程、古紙に含まれる異物を除去する粗選工程、脱墨剤を加えてインキ成分を除去する脱墨工程、古紙に含まれる異物とパルプ分をスクリーンで分離する精選工程、脱墨されたパルプスラリーを水洗する洗浄工程、及びパルプの脱水を行う脱水工程等の工程を経て得られるスラリーが挙げられる。古紙原料としては、一又は複数の実施形態において、新聞紙、雑誌、及びチラシ等の古紙が挙げられる。
【0011】
本開示の漂白方法は、古紙パルプスラリーを、モノクロラミン等及び過酸化水素と接触させることを含む。本開示の漂白方法において、古紙パルプスラリーと、モノクロラミン等及び過酸化水素との接触は、一又は複数の実施形態において、古紙パルプスラリーと、モノクロラミン等と、過酸化水素とをアルカリ条件下で混合することにより行うこと、若しくは、モノクロラミン等を含む古紙パルプスラリーと、過酸化水素とをアルカリ条件下で混合することにより行うこと、あるいは、モノクロラミン等を用いて処理した古紙パルプと過酸化水素とをアルカリ条件で混合することにより行うことができる。
【0012】
本開示の漂白方法において、モノクロラミン等との接触は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンを生成する薬剤、モノクロラミン及び/又はモノブロラミンを含む薬剤を使用することにより行うことができる。このような薬剤としては、一又は複数の実施形態として、次亜塩素酸ナトリウムと、硫酸アンモニウム及び/又は臭化アンモニウムとを含む薬剤等が挙げられる。モノクロラミンは、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウムと、アンモニウム化合物とを混合することにより生成できる。モノブロラミンは、一又は複数の実施形態において、次亜臭素酸ナトリウムと、アンモニウム化合物とを混合することにより生成できる。アンモニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、及びこれらの少なくとも2種以上の混合物等が挙げられる。次亜塩素酸ナトリウムとアンモニウム化合物とのモル比は、一又は複数の実施形態において、残留塩素量と窒素とのモル比として1:1?1:2、1:1.1?1:2、1:1.2?1:2、又は1:1.2?1:1.6である。
【0013】
本開示の漂白方法は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン等を生成する薬剤、又はモノクロラミン等を含む薬剤を、古紙パルプスラリーに添加することを含んでもよい。また、本開示の漂白方法は、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム及びアンモニウム化合物を古紙パルプスラリーに添加することを含んでもよい。
【0014】
本開示の漂白方法は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン等を含む古紙パルプスラリーに、過酸化水素を添加することを含む。
【0015】
過酸化水素の添加率は、一又は複数の実施形態において、対パルプあたり0.5?5.0重量%が好ましい。
【0016】
モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの濃度は、一又は複数の実施形態において、残留塩素量として、0.5?30mg/Lであり、漂白性向上の点から、1?30mg/Lが好ましく、経済性の点から、1?25mg/L又は1?20mg/Lが好ましい。残留塩素量は、一又は複数の実施形態において、要求される漂白性(白色度)によって決定できる。
【0017】
本開示の漂白方法において、パルプ濃度は、一又は複数の実施形態において、5?30重量%、好ましくは10?25重量%である。
【0018】
漂白時におけるpH条件は、一又は複数の実施形態において、9?13、好ましくは10?11である。漂白時に反応温度条件は、一又は複数の実施形態において、30?80℃、好ましくは40?70℃である。漂白時の処理時間は、一又は複数の実施形態において、30?360分、好ましくは60?180分である。
【0019】
本開示の漂白方法によれば、過酸化水素を単独で使用する場合と比較して、過酸化水素の使用量を、一又は複数の実施形態において、5?50重量%、好ましくは10?50重量%削減することができる。
【0020】
[古紙パルプの白色度向上方法]
本開示は、その他の態様として、過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白工程において、古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させることを含む、古紙パルプの白色度向上方法(以下、「本開示の白色度向上方法」という)に関する。本開示の白色度向上方法によれば、一又は複数の実施形態において、従来の方法と比較して少量の過酸化水素で、白色度の高い古紙パルプが得られるという効果を奏しうる。本開示の白色度向上方法において、過酸化水素の濃度、モノクロラミン等の濃度、及び処理条件等は、本開示の漂白方法と同様である。よって、本開示の白色度向上方法は、本開示の漂白方法を行うことを含んでもよい。
【0021】
[古紙パルプの製造方法]
本開示は、さらにそのほかの態様として、過酸化水素を用いた漂白工程を含む古紙パルプの製造方法であって、前記漂白工程は、古紙パルプ原料を、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させることを含む古紙パルプの製造方法(以下、「本開示の古紙パルプの製造方法」ともいう)。本開示の古紙パルプの製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、従来の方法と比較して少量の過酸化水素で、白色度の高い古紙パルプが製造できるという効果を奏しうる。本開示の古紙パルプの製造方法において、過酸化水素の濃度、モノクロラミン等の濃度、及び処理条件等は、本開示の漂白方法と同様である。よって、本開示の古紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の漂白方法を行うことを含む古紙パルプの製造方法である。
【0022】
以下、本開示を好適な実施形態を示しながら説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定して解釈されるものではないことはいうまでもない。
【0023】
(実施形態1)
本実施形態1における漂白方法は、古紙パルプスラリーをモノクロラミン等と接触させる工程と、モノクロラミン等と接触させた古紙パルプスラリーと過酸化水素とをアルカリ条件下で混合することによって、古紙パルプの漂白を行う工程とを含む。本実施形態1の漂白方法は、モノクロラミン等と接触させた古紙パルプスラリーを用いて過酸化水素による漂白を行うため、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、得られる古紙パルプの白色度を向上させることができる。
【0024】
接触工程は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン等を、古紙パルプスラリーに対し、残留塩素量として0.5?30mg/Lとなるように添加することを含み、漂白性向上の点から、1?30mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましく、経済性の点から、1?25mg/L又は1?20mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましい。
【0025】
(実施形態2)
本実施形態2における漂白方法は、古紙パルプスラリーをモノクロラミン等と接触させる工程と、モノクロラミン等と接触させた古紙パルプスラリーを洗浄し、脱水する工程と、脱水した古紙パルプ原料と過酸化水素とをアルカリ条件下で混合することによって漂白を行う工程とを含む。本実施形態2の漂白方法は、モノクロラミン等と接触させた古紙パルプスラリーを用いて過酸化水素による漂白を行うため、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、得られる古紙パルプの白色度を向上させることができる。
【0026】
接触工程は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン等を、古紙パルプスラリーに対し、残留塩素量として0.5?30mg/Lとなるように添加することを含み、漂白性向上の点から、1?30mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましく、経済性の点から、1?25mg/L又は1?20mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましい。
【0027】
(実施形態3)
本実施形態3における漂白方法は、モノクロラミン等の存在下で古紙パルプスラリーの脱墨を行う工程と、脱墨した古紙パルプスラリーを洗浄し、脱水する工程と、脱水した古紙パルプ原料と過酸化水素とをアルカリ条件下で混合して漂白を行う工程とを含む。本実施形態3の漂白方法は、モノクロラミン等の存在下で脱墨を行った古紙パルプスラリーを用いて過酸化水素による漂白を行うため、過酸化水素の使用量を大幅に削減でき、また、得られる古紙パルプの白色度を向上させることができる。
【0028】
脱墨工程は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン等を、古紙パルプスラリーに対し、残留塩素量として0.5?30mg/Lとなるように添加することを含み、漂白性向上の点から、1?30mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましく、経済性の点から、1?25mg/L又は1?20mg/Lとなるように添加することを含むことが好ましい。
【0029】
上記実施形態は漂白方法を例にとり説明したが、本開示はこれに限定して解釈されず、古紙パルプの白色度向上方法及び古紙パルプの製造方法
【0030】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる;
[1] 過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法であって、
古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させることを含む、古紙パルプの漂白方法。
[2] 前記過酸化水素の添加率が、対パルプあたり0.5?5.0重量%である、[1]記載の漂白方法。
[3] モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの濃度が、残留塩素量として、0.5?30mg/Lである、[1]又は[2]記載の漂白方法。
[4] 過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白工程において、
古紙パルプスラリーを、モノクロラミン及び/又はモノブロラミン並びに過酸化水素と接触させることを含む、古紙パルプの白色度向上方法。
[5] 前記漂白は、次亜塩素酸ナトリウム及びアンモニウム化合物が添加された古紙パルプスラリーに、過酸化水素を添加することを含む、[4]記載の向上方法。
[6] 前記アンモニウム化合物が、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、及びこれらの少なくとも2種以上の混合物からなる群から選択される、[5]記載の向上方法。
[7] 前記過酸化水素の濃度が、古紙パルプスラリーの対パルプあたり、0.5?5.0重量%である、[5]又は[6]記載の向上方法。
[8] モノクロラミン及び/又はモノブロラミンの濃度が、残留塩素量として、0.5?30mg/Lである、[5]から[7]のいずれかに記載の向上方法。
【0031】
以下の実施例及び比較例に基いて本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(調製例A)次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液の調製
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、30%硫酸アンモニウム水溶液(硫酸アンモニウム(キシダ化学株式会社製))30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)と残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように調製した。
(調製例B)次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液の調製
残留塩素量と窒素とのモル比を1:1.6とした以外は、調製例Aと同様に調製した。
(調製例C)次亜塩素酸ナトリウムと臭化アンモニウムとの混合液の調製
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、1%水酸化ナトリウム水溶液を30ml/L加え、30%臭化アンモニウム水溶液(臭化アンモニウム(キシダ化学株式会社製))30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)と残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように調製した。
(調製例D)次亜塩素酸ナトリウムと塩化アンモニウムとの混合液の調製
次亜塩素酸ナトリウム溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が5g/Lになるように希釈した後、20%塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム(キシダ化学株式会社製))20gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)と残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるように調製した。
【0033】
(実施例1)
某製紙工場で漂白前のDIPパルプ原料及び希釈用水を入手した。DIPパルプ原料は、一旦吸引ろ過した後、含水率を調整し、32%パルプ原料を得た。希釈用水に調製例Aを下記表1の濃度となるように添加し、30℃で10分間攪拌した。32%パルプ原料に、調製例Aの混合液を添加した希釈用水を加え、含水率を調整して16%パルプ原料を調製した。
得られた16%パルプ原料に、過酸化水素を対パルプあたり0.6重量%、水酸化ナトリウムを1.0重量%となるように添加し、5分間よく混ぜ合わせた後、50℃で3時間静置した。
3時間静置後、水道水で十分洗浄し、試験用手抄き紙を作製した。
【0034】
(実施例2)
調製例Bを使用した以外は、実施例1と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0035】
(実施例3)
調製例Cを使用した以外は、実施例1と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0036】
(実施例4)
調製例Dを使用した以外は、実施例1と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0037】
(比較例1)
希釈用水のみを用いて16%パルプ原料を調製し、16%パルプ原料に過酸化水素及び水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0038】
(比較例2)
調製例Aを使用して16%パルプ原料を調製し、16%パルプ原料に過酸化水素及び水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0039】
(比較例3)
調製例Aを添加せず、希釈用水のみを用いて16%パルプ原料を調製し、実施例1と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0040】
得られた試験用手抄き紙について、ISO白色度を測定した。ISO白色度の測定は、分光白色度計・色差計PF-10(日本電色工業株式会社製)により行った。その結果を下記表1に示す。白色度の単位は%である。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すとおり、アルカリ条件下で結合ハロゲンと過酸化水素と併用して漂白した実施例1?4の手抄き紙は、過酸化水素のみで漂白した比較例3の手抄き紙と比べて白色度が1.8から3.1ポイント向上した。特に、硫酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムを用いた実施例1、実施例2および実施例4の手抄き紙はよりISO白色度が3ポイント以上と大きく向上した。
【0043】
(実施例5)
市販新聞紙を3×3cmに切断し、その60gを卓上離解機に入れた。希釈用水として準備した大阪市水に調製例Aを下記表2の残留塩素量になるよう添加した後、この水をパルプ濃度が4%になるよう離解機に加えた。脱墨剤(高級アルコール系)を対パルプあたり0.8重量%と水酸化ナトリウムを対パルプあたり0.5重量%加えて、35℃で15分間離解した。
全量を取り出して、水道水で十分洗浄した後、脱水機を用いてパルプ濃度20%に脱水した。得られた20%パルプ
原料に、水酸化ナトリウムを対パルプあたり1.0重量%加えた後、過酸化水素を1.0重量%になるよう添加し、5分間よく混ぜ合わせた。70℃で1時間静置した後、水道水で十分洗浄して、試験用手抄き紙を作製した。
【0044】
(実施例6)
実施例5において過酸化水素を1.2重量%になるよう添加した以外は、同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0045】
(比較例4)
実施例5において調製例Aを添加しなかった以外は、実施例5と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0046】
(比較例5)
実施例5において調製例Aを添加せず、過酸化水素を1.2重量%になるよう添加した以外は、同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0047】
(比較例6)
実施例5において過酸化水素を添加しなかった以外は、実施例5と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0048】
(比較例7)
実施例5において過酸化水素と調製例Aを添加しなかった以外は、実施例5と同様に試験用手抄き紙を作製した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すとおり、アルカリ存在下で結合ハロゲンに接触させた後、過酸化水素で漂白した実施例5及び6の手抄き紙は、過酸化水素のみで漂白した比較例4及び5の手抄き紙と比べて白色度が1.4ポイントから3.2ポイントと大きく向上した。
【0051】
(実施例7)実機の実例
新聞用紙の製造工程を有する某製紙工場で試験を実施した。この工場では通常、新聞古紙を漂白する際、過酸化水素を対パルプあたり1.0重量%、水酸化ナトリウムを対パルプあたり1.0重量%添加して、反応温度40?45℃、反応時間5時間の条件で漂白を行っている。
新聞古紙を溶解するために使用するパルプ工程水に、12%次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合物(残留塩素と窒素のモル比が1:1.2)を残留塩素量として8?12mg/Lになるよう添加した後、上記の条件で過酸化水素漂白を行った。
【0052】
過酸化水素漂白後の原料を用いて手抄き紙を作製し、ISO白色度を測定したところ、過酸化水素の使用量が同一であるにもかかわらず、通常の操業時よりも白色度が1?3ポイントと大きく向上した。
【0053】
日を改めて、過酸化水素の使用量を半分の対パルプあたり0.5重量%に減らした以外は同じ条件で、過酸化水素漂白を行ったところ、過酸化水素の使用量を50%削減したにも拘らず、同等の白色度を有する手抄き紙を作製することができた。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白方法であって、
モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させることを含み、
前記モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである、古紙パルプの漂白方法。
【請求項2】
前記過酸化水素の添加率が、対パルプあたり0.5?5.0重量%である、請求項1記載の漂白方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
過酸化水素を用いた古紙パルプの漂白工程において、
モノクロラミンと接触させた古紙パルプスラリーを、過酸化水素と接触させることを含み、
前記モノクロラミンの濃度が、残留塩素量として、1?25mg/Lである、古紙パルプの白色度向上方法。
【請求項5】
前記漂白は、次亜塩素酸ナトリウム及びアンモニウム化合物が添加された古紙パルプスラリーに、過酸化水素を添加することを含む、請求項4記載の向上方法。
【請求項6】
前記アンモニウム化合物が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項5記載の向上方法。
【請求項7】
前記過酸化水素の添加率が、対パルプあたり0.5?5.0重量%である、請求項5又は6記載の向上方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
請求項1又は2に記載の漂白方法又は請求項4から7のいずれかに記載の白色度向上方法を行うことを含む、古紙パルプの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-29 
出願番号 特願2013-159525(P2013-159525)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D21C)
P 1 651・ 537- YAA (D21C)
P 1 651・ 121- YAA (D21C)
P 1 651・ 536- YAA (D21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 蓮井 雅之
井上 茂夫
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6023953号(P6023953)
権利者 株式会社片山化学工業研究所 ナルコジャパン合同会社
発明の名称 古紙パルプの漂白方法  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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