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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M |
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管理番号 | 1343016 |
異議申立番号 | 異議2017-701095 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-11-22 |
確定日 | 2018-07-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6134852号発明「潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6134852号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、[2-10]について訂正することを認める。 特許第6134852号の請求項2ないし10に係る特許を維持する。 特許第6134852号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6134852号(請求項の数10。以下、「本件特許」という。)は、平成26年9月1日(優先権主張 平成26年1月31日、日本国)を出願日とする出願である特願2014-177254号の一部を平成28年8月31日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年11月22日に特許異議申立人田中和幸(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 その後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成30年3月14日付け 取消理由通知 同年5月15日 訂正請求書・意見書(特許権者) 同年6月19日 意見書(申立人) 第2 訂正の適否についての判断 平成30年5月15日の訂正請求書による訂正の請求(「以下、「本件訂正請求」という。)が認められるかについて検討する。 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?14のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「さらに窒素を有する無灰分散剤を含み、下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?1.5を満たす、請求項1に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、 「潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たし、 下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?0.41を満たす、過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「さらにリンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるリンの濃度[P]が、[P]≦0.12質量%を満たす、請求項1または2記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「さらにリンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるリンの濃度[P]が、[P]≦0.12質量%を満たす、請求項2記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に 「さらにモリブデンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの濃度[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%を満たす、請求項1?3のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「さらにモリブデンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの濃度[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%を満たす、請求項2又は3のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に 「モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-0.85を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たす、請求項1?4のいずれか1項に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-0.85を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たす、請求項2?4のいずれか1項に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に 「潤滑油基油が100℃での動粘度2?15mm^(2)/sを有する、請求項1?5のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「潤滑油基油が100℃での動粘度2?15mm^(2)/sを有する、請求項2?5のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に 「[A]カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の1種以上を含む、請求項1?6のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「[A]カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の1種以上を含む、請求項2?6のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に 「[B]リンを有する摩耗防止剤の1種以上を含む、請求項1?7のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「[B]リンを有する摩耗防止剤の1種以上を含む、請求項2?7のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9に 「[C]モリブデンを有する摩擦調整剤の1種以上を含む、請求項1?8のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「[C]モリブデンを有する摩擦調整剤の1種以上を含む、請求項2?8のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (10) 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項10に 「[E]粘度指数向上剤の1種以上を含む、請求項1?9のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」とあるのを 「[E]粘度指数向上剤の1種以上を含む、請求項2?9のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」に訂正する。 (11) 訂正事項11 明細書の【0111】【表4】に記載された「実施例1?実施例10」を、それぞれ「参考例1-1?参考例1-10」に訂正する。 明細書の【0112】【表5】に記載された「実施例17」及び「実施例18」を、それぞれ「参考例1-17」及び「参考例1-18」に訂正する。 明細書の【0113】【表6】に記載された「比較例1?比較例9」を、それぞれ「参考比較例1?参考比較例9」に訂正する。 (12) 訂正事項12 明細書の【0112】【表5】に記載された「実施例16」及び「実施例19」を、それぞれ「比較例19」及び「比較例20」に訂正する。 (13) 訂正事項13 明細書の【0121】【表8】に記載された「実施例21」及び「実施例23」を、それぞれ「参考例21」及び「参考例23」に訂正する。 明細書の【0122】【表9】に記載された「実施例29」及び「実施例30」を、それぞれ「参考例29」及び「参考例30」に訂正する。 明細書の【0123】【表10】及び【0127】【表11】に記載された「実施例32?34」を、「参考例32?34」に訂正する。 (14) 訂正事項14 明細書の【0108】に記載された「[第一の発明について] [実施例1?20及び比較例1?9]」を「[第一の発明についての参考例及び参考比較例、並びに、実施例(第二の発明に包含されるもの)及び比較例]」に訂正する。 明細書の【0109】に記載された「比較例1」を「参考比較例1」に訂正する。 明細書の【0117】に記載された「[実施例21?34、比較例10?18、及び参考例1?8]」を「[実施例22、24?28、31、参考例21、23、29、30、32?34、比較例10?18、及び参考例1?8]」に訂正する。 2 訂正の目的、新規事項、特許請求の範囲の拡張・変更、一群の請求項について (1) 訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、当該訂正が、新規事項を追加するものでなく、また、特許請求の範囲の拡張・変更にも当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2) 訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項2について、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項に書き下すとともに、訂正前の請求項2記載の「Z=0.3?1.5」の範囲を「Z=0.3?0.41」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号及び第1号に規定する、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、上記訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 また、上記訂正事項2における「Z=0.3?0.41」の範囲の根拠については、明細書記載の実施例11?15及び実施例20に基づいて導き出される構成であるから、新規事項を追加するものでない。 したがって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3) 訂正事項3?10は、訂正前の請求項3?10が訂正前の請求項1(本件訂正請求により削除)も引用する記載であったものを、請求項1を引用せずに引用請求項数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、当該訂正が、新規事項を追加するものでなく、また、特許請求の範囲の拡張・変更にも当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (4) 訂正事項12、13は、訂正前の本件明細書に記載の実施例の内、上記訂正事項1、2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲に該当しないものとなった実施例を比較例又は参考例とするものであり、訂正事項11は、本件登録設定時の特許請求の範囲に記載に係る発明に該当しない実施例及びそれに対する比較例を参考例及び参考比較例とするものであり、訂正事項14は、上記訂正事項11?13に係る訂正に伴い、本件明細書の記載をこれらに整合するように訂正するものである。 よって、訂正事項11?14は、上記訂正事項1、2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、当該訂正事項11?14は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、いずれも新規事項を追加するものでなく、また、特許請求の範囲の拡張・変更にも当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (5)一群の請求項 訂正前の請求項2?10は、訂正前の請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?10は一群の請求項である。 また、明細書に関する訂正事項11?14は、いずれも、訂正前の一群の請求項である請求項1?10に関する訂正であり、一群の請求項に係る全てについて行われたものである。 したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものと認められる。 (6) 別の訂正単位とする求めについて 本件訂正請求書の第12頁において、訂正後の請求項2?10についての訂正が認められる場合には、一群の他の請求項とは別途訂正することを求めている。 上記(1)?(5)のとおり、本件訂正請求による請求項2?10についての訂正が認められるものであるため、上記一群の請求項とは別途訂正することを認める。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3項及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第5?6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、〔2-10〕について訂正することを認める。 第3 本件特許に係る発明 本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?10に係る発明(以下、請求項に係る各発明を項番に従って「本件発明1」などといい、併せて単に「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?37に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】(削除) 【請求項2】潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たし、 下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?0.41を満たす、過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項3】 さらにリンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるリンの濃度[P]が、[P]≦0.12質量%を満たす、請求項2記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項4】 さらにモリブデンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの濃度[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%を満たす、請求項2又は3のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項5】 モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-0.85を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たす、請求項2?4のいずれか1項に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項6】 潤滑油基油が100℃での動粘度2?15mm^(2)/sを有する、請求項2?5のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項7】 [A]カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の1種以上を含む、請求項2?6のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項8】 [B]リンを有する摩耗防止剤の1種以上を含む、請求項2?7のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項9】 [C]モリブデンを有する摩擦調整剤の1種以上を含む、請求項2?8のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項10】 [E]粘度指数向上剤の1種以上を含む、請求項2?9のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」 第4 取消理由の概要 当審において、本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件訂正前の請求項1?10に係る発明は、いずれも、甲第2号証に記載された発明、甲第2号証?甲第6号証に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである(申立ての理由に相当する。)。 第5 判断 1 本件発明に係る優先権について 次の2以降において申立ての理由に基づく取消理由を検討するにあたり、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明、すなわち、本件発明1?10に係る優先権について確認する。 本件特許に係る出願は、特願2014-177254号を原出願とする分割出願として出願され、当該原出願は、特許法第41条に規定する優先権の主張を伴うものであり、特願2014-16331号を優先権主張の基礎出願とするものである。 本件発明1は、過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物において、「式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、」、及び「式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす」ということを発明特定事項としている。 しかしながら、前記発明特定事項は、何れも、上記優先権主張の基礎とされた出願(特願2014-16331号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲1参照。)に記載されていない。 そして、本件発明2?10は、何れも、本件発明1を直接的または間接的に引用する発明であるところ、いずれも上記発明特定事項を有しているので、同様に、上記優先権主張の基礎とされた出願(特願2014-16331号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲1参照。)に記載されていない。 したがって、本件発明1?10は、何れも、優先権の利益を享受することはできず、本件発明1?10についての新規性及び進歩性の判断の基準日は、原出願の出願日である平成26年9月1日である。 なお、上記1の事項においては、取消理由で通知していたものであるが、特許権者からの意見書を参照する限り、上記優先権に関し、何らの反論もなされていない。 2 取消理由通知に記載した取消理由について (1) 引用文献 甲第2号証:特表平10-510876号公報(以下、甲第2号証などを単に「甲2」などといい、甲2に記載された発明を「甲2発明」という。) 甲3:平野聡伺ほか2名、「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第3報)」、公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集、日本、2013年発行、No.12-13、表紙、p.11-14 甲4:特開2014-152301号公報 甲5:特開2009-235258号公報 甲6:特開2008-106199号公報 (2) 引用文献に記載の事項 ア 甲2に記載の事項 (記載事項2-1) 「1.燃費特性および燃費保持特性の改良された内燃機関用エンジン油であって、 (a)基油、 (b)該エンジン油を基準に、少なくとも 2 重量%のホウ素含有アルケニルスクシンイミド〔ただし、該エンジン油中のホウ素濃度は、該エンジン油を基準に、約800 ppmwを超える〕、 (c)該エンジン油を基準に、50?2000 ppmwのモリブデン原子〔ただし、ジチオリン酸モリブデンまたはジチオカルバミン酸モリブデンとして存在する〕、 (d)該エンジン油を基準に、50?4000 ppmwのカルシウム原子〔ただし、サリチル酸カルシウムとして存在する〕、 (e)該エンジン油を基準に、50?4000 ppmwのマグネシウム原子〔ただし、サリチル酸マグネシウムとして存在する〕、および (f)該エンジン油を基準に、0?15 重量%の、エチレンと少なくとも一つの他のα-オレフィンモノマーとの共重合体〔ただし、該共重合体は 2 未満の Mw/Mn比がおよび1.8 未満の Mz/Mw比のうちの少なくともいずれか一つで特徴付けられる分子量分布を有し;該共重合体はメチレン単位から成る少なくとも一つの結晶可能なセグメントと少なくとも一つの低結晶化度のエチレン-α-オレフィン共重合体セグメントとを含有する分子内不均一ポリマー鎖を含み;該結晶可能なセグメントは該共重合体鎖の少なくとも 約10 重量%を占めるとともに、平均エチレン含有量が少なくとも 約57 重量%であり;該低結晶化度のセグメントは平均エチレン含有量が約20?約53重量%であり;各々の分子内不均一鎖中の少なくとも二つの部分(これらの部分はそれぞれ該鎖の少なくとも 5 重量%を占める)の組成はエチレン含有量に関して互いに少なくとも 7 重量%で異なる〕 を含有することを特徴とする前記エンジン油。」(請求項1) (記載事項2-2) 「内燃機関の可動部分のほとんどは流体潤滑状態にあり、一方、ピストンや弁機構など、摺動部分のいくつかは境界潤滑状態にある。境界潤滑状態における摩擦から生じる摩粍への耐性を与えるためには、エンジン油に添加剤を加えて摩粍を減少させる必要がある。長年にわたり、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(「ZDDP」)が標準的な摩粍防止用添加剤であった。ZDDPは良好な摩耗防止剤であるが、燃費に悪影響を及ぼす。従って、通常は、燃費節減のために摩擦調整剤を加える必要がある。摩耗防止剤および摩擦調整剤はいずれも、摺動金属表面上への吸着を介して機能するため、互いにそれぞれの機能を妨害しあう可能性がある。」(第4頁第11?18行) (記載事項2-3) 「本発明のエンジン油は潤滑油基油を主成分とする必要がある。 潤滑油基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、またはそれらの混合物から誘導できる。好適な潤滑油基油としては、合成ワックスおよびスラックワックスの異性化によって得られる基油、ならびに原油中の芳香族成分および極性成分を(溶剤抽出というよりむしろ)水素化分解で製造された水素化分解基油などが挙げられる。・・・(中略)・・・こうした再精製油はまた、再生油または再処理油としても知られており、多くの場合、使用済み添加剤および油分解生成物を除去する技術を利用して更に処理が施される。」(第6頁第5行?第7頁第15行) (記載事項2-4) 「ジチオカルバミン酸モリブデンおよびジチオリン酸モリブデンは、摩擦調整剤として機能するが、ジチオカルバミン酸モリブデンが好ましい。ジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、ジブチルジチオカルバミン酸モリブデン、ジアミルジチオカルバミン酸モリブデン、ジ(2-エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸モリブデン、ジラウリルジチオカルバミン酸モリブデン、ジオレイルジチオカルバミン酸モリブデン、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸モリブデンなどの C6?C18のジアルキルまたはジアリールジチオカルバメートが挙げられる。エンジン油中のモリブデン量は、モリブデン原子として、50?2000 ppm、好ましくは 100?1000 ppmである。こうしたモリブデン化合物は市販されている。」(第7頁第16?24行) (記載事項2-5) 「ホウ素化分散剤は、米国特許第4,863,624号に記載されている。好ましいホウ素化分散剤は、無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導されるホウ素誘導体(PIBSA/PAM)であり、その添加量は、油組成物を基準として、2?16 重量%であることが好ましい。これらの反応生成物はアミド、イミド、またはそれらの混合物である。ホウ素化分散剤は『過剰ホウ素化』されている。すなわち、これらのホウ素含有量は、分散剤を基準として 0.5?5.0重量%である。こうした過剰ホウ素化分散剤は、エクソンケミカルカンパニーから入手可能である。ホウ素化分散剤の他に、全ホウ素濃度に寄与しうる他のホウ素供給源としては、ホウ素化分散剤型 VI 向上剤およびホウ素化清浄剤が挙げられる。」(第7頁第25行?第8頁第7行) (記載事項2-6) 「本発明のエンジン油では、清浄剤としてサリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウムを併用することにより相乗効果が得られる。清浄剤を併用する方が単独で使用するよりも、相乗効果でより良い性能が得られることが見出された。サリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウムとして存在するカルシウム原子およびマグネシウム原子の好ましい濃度は、エンジン油を基準に、それぞれ、100?3000 ppmwである。より好ましい実施態様においては、相乗効果を呈するサリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウムの組合せ中に存在するカルシウム原子とマグネシウム原子との重量比は、8/1?1/8 の範囲である。清浄剤は、通常、エンジンの清浄性および酸性種の中和を目的としてエンジン油に添加されるが、ジチオリン酸モリブデンおよび/またはジチオカルバミン酸モリブデンならびに過剰ホウ素化アルケニルスクシンイミドを併用したとき本発明のサリシレート清浄剤は、より良好な燃費特性および燃費保持特性のエンジン油をもたらす。サリシレート清浄剤は燃費および燃費保持に関して同等のスルホネート清浄剤よりも優れている。」(第7頁第25行?第8頁第7行) (記載事項2-7) 「粘度指数(VI)向上剤は米国特許第4,804,794号に記載されているし、エクソンケミカルカンパニーから市販されているので入手できる。これらのVI向上剤は、エチレンと少なくとも一つの他のα-オレフィンモノマーとの共重合体でセグメント化されたものである。」(第9頁第5?8行) (記載事項2-8) 「通常のエンジン油は、当該技術分野で周知の他の添加剤を含むことができる。こうした添加剤としては、他の摩擦調整剤、他の分散剤、酸化防止剤、防錆剤および防食剤、他の清浄剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、耐摩粍剤、泡消剤、抗乳化剤、加水分解安定化剤、ならびに極圧添加剤などが挙げられる。これらの添加剤は、Dieter Klamann著「Lubricants and Related Products」,Verlag Chemie,Weinheim,Germany, 1984に記載されている。本発明のエンジン油は、本質的にはいかなる内燃機関にも使用できる。」(第10頁第16?22行) (記載事項2-9) 「シーケンスVIスクリーナー試験の結果を、表 1 に示す。 」(第13頁第4行?第14頁下から第3行) (記載事項2-10) 「実施例 7 この実施例では、完全処方のエンジン油を提示する。燃費は、実施例 1 に記載の ASTMシーケンスVI試験を使用して式 2 から求めた。結果を表 3 に示す。 この実施例は、5W-30 エンジン油を用いて 4.26 %という高い EFEI値が得られることを示している。市販の製品 SAE 5W-30 の典型的な EFEI値は、2.7?3.2 %である。」(第17頁第1行?第19頁第7行) (記載事項2-11) 「実施例 8 実施例 7 に記載したものと同じ成分を使用して、配合物 A、B、C、および D を調製した。これらの配合物には、同量のホウ素化分散剤(6.6 重量%)、オレフィン系共重合体(5.1 重量%)、および他の成分が含まれているが、サリチル酸カリシウム清浄剤(当審注:「サリチル酸カルシウム清浄剤」の誤記と認定する。以下、「サリチル酸カリシウム清浄剤」を「サリチル酸カルシウム清浄剤」と表記する。)およびサリチル酸マグネシウム清浄剤の相対量が異なる。配合物A、B、C、および D は、既述のボールオンシリンダ(BOC)摩擦試験にかけた。以下の表 4 に示された結果は、サリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウムが共存すると、サリチル酸カルシウムまたはサリチル酸マグネシウムのどちらか一方が存在するときよりも、低い摩擦係数が得られることを示している。摩擦係数が低ければ、燃費もそれだけ良くなる。 」(第19頁第8行?第20頁第8行) イ 甲3に記載の事項(当審注:句読点については、他の文献のように適宜「、」、「。」に変更している。) (記載事項3-1) 「1.まえがき ガソリンエンジン車両の燃費向上のため、世界的に過給直噴エンジンの導入が進んでいる。・・・(中略)・・・ 一方で、低回転域での正味平均有効圧を高めていくと、異常燃焼の一種である突発的な低速プレイグニッション(Low Speed Pre-Ignition, 以下LSPI)が発生し、低速トルクを向上する上での制約条件になっている。・・・(中略)・・・本報告では現在のエンジンに要求される性能を維持しながら、LSPIの発生を抑制可能なエンジンオイル組成の実現可能性について調査を行ったので、その結果について報告する。」(第11頁左欄第1行?右欄第7行) (記載事項3-2) 「エンジンオイルは燃焼や高温にさらされる過酷な環境で使用され、その使用過程で酸化劣化等の劣化が進行する。そのため、現在一般的に使用されているエンジンオイルには種々の酸化防止剤が配合されている。ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zinc Di-Alkyl Di-Thio-Phosphate、以下ZnDTP)やモリブデンジチオカーバメート(Molybdenum Di-Thio-Carbamate、以下MoDTC)は酸化防止性を持つ添加剤であり、LSPIの頻度を低減する効果があることが分かっている。」(第12頁左欄第1?8行目) (記載事項3-3) 「3.3. 評価オイル ガソリンエンジンに使用されている一般的な製品のLSPI頻度を確認するため、表2に示す市販品を評価した。・・・(中略)・・・No.4のACEA C2規格はDPFのAsh堆積を抑制するため特に低Ashに処方されたものであり、Ca量が0.11mass%と顕著に低いものである。」(第12頁右欄第8?18行) (記載事項3-4) 「4.1. 市販油の評価結果 図4に、表2に示した市販油の評価結果を示す。・・・(中略)・・・既報の第1報、第2報では、CaはLSPI頻度を顕著に増加し、P(ZnDTPとして)およびMo(MoDTC)はLSPI頻度を低減する効果が確認された(Ca=0.1mass%にて)。しかし、No.1?3のオイルの比較ではMoの低減効果が見られなかった。これはCa量が多い場合その影響が強く、Moの効果が見られなくなるためと考えられる。一方、No.4オイルはCa量が少なく、顕著にLSPI頻度が低減したと考えられる。」(第13頁左欄第12行?右欄第7行。) (記載事項3-5) 「4.2. 試作油によるCa濃度の影響の評価結果 図5に、表3で示した試験用オイルのCaに対するLSPI頻度の変化を示す。・・・(中略)・・・Caの増加に対しては既報と同様、LSPI頻度が増加した。しかし、そのレスポンスは直線的ではなく、Ca量で約0.15%を超えたところから増加し始める傾向が見られた。」(第13頁第8?13行) ウ 甲4に記載の事項 (記載事項4-1) 「【請求項1】 基油に、(A)スルフォネート、サリチレート、及びフェネートの各々のCa塩、Mg塩及びNa塩から選ばれる少なくとも1種の金属系清浄剤を潤滑油組成物全量基準で金属量として100質量ppm以上2000質量ppm以下と、(B)ジチオリン酸亜鉛を潤滑油組成物全量基準でP量として500質量ppm以上2000質量ppm以下とを配合してなり、前記(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)成分中のP量/(A)成分中の金属量]が0.45以上である直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物。」 (記載事項4-2) 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ・・・(中略)・・・ すなわち、本発明の課題は、直噴ターボ機構搭載エンジンにおいて、低燃費と高い運動性能とを実現するとともに、LSPI現象を抑制することができる直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物を提供することにある。」 (記載事項4-3) 「【発明の効果】 【0007】 直噴ターボ機構搭載エンジンにおいて、低燃費と高い運動性能とを実現するとともに、本発明の特定の配合組成を有する潤滑油組成物を用いることで、従来汎用されている内燃機関用エンジン油に比べ、大幅にLSPI現象を抑制することが可能となる。」 (記載事項4-4) 「【0012】 ((A)金属系清浄剤) 本発明の直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物における(A)成分の金属系清浄剤は、スルフォネート、サリチレート、及びフェネートの各々のCa塩、Mg塩及びNa塩から選ばれる少なくとも1種であり、具体的には各々スルフォネートのCa塩、Mg塩又はNa塩;サリチレートのCa塩、Mg塩又はNa塩;及びフェネートのCa塩、Mg塩又はNa塩の全ての中から選ばれる少なくとも1種である。 上記金属系清浄剤は、1種で使用してもよいが、2種以上組み合わせて使用することもできる。」 (記載事項4-5) 「【0013】 本発明の直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物においては、(A)成分の金属系清浄剤として、LSPI現象を顕著に抑制する観点から、スルフォネート、サリチレートまたはフェネートのCa塩が好ましく用いられる。」 (記載事項4-6) 「【0015】 本発明の直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物においては、(A)成分の金属系清浄剤の配合量は、(A)成分中のCa、Mg、Naの金属量として、潤滑油組成物全量基準で100質量ppm以上2000質量ppm以下である。金属系清浄剤の配合量が金属量で2000質量ppmを超えると、直噴ターボ機構搭載エンジンにおけるLSPI現象を抑制する効果が不十分であり、一方、配合量が金属量で100質量ppm未満であれば、酸化安定性や高温清浄性、あるいは酸中和性等を確保することができず好ましくない。上記観点から、(A)成分の金属系清浄剤の配合量は、金属量として潤滑油組成物基準で好ましくは500質量ppm以上1800質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以上1700質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以上1600質量ppm以下である。」 (記載事項4-7) 「【0016】 ((B)ジチオリン酸亜鉛) 本発明の直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物は、(B)成分として、ジチオリン酸亜鉛を、(B)成分中のP量として潤滑油組成物全量基準で500質量ppm以上2000質量ppm以下配合してなる。 ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)としては、例えば下記一般式(I) 【0017】 【化1】 【0018】 (式中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に炭素数3?22の第1級もしくは第2級のアルキル基又は炭素数3?18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基を示す。) で表される構造のものを挙げることができる。」 (記載事項4-8) 「【0019】 本発明の直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物においては、前記(B)成分のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の配合量は、(B)成分中のP量として潤滑油組成物全量基準で500質量ppm以上2000質量ppm以下である。P量が500質量ppm以上であれば良好な耐摩耗性が発揮されると共に、低燃費性能が発現しやすくなり、また、直噴ターボ機構搭載エンジンにおけるLSPI現象を抑制することができる。一方、P量が2000質量ppm以下であれば、自動車後処理装置である三元触媒への被毒影響を小さくすることができる。上記観点から、(B)成分のジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)の好ましい配合量は、P量として潤滑油組成物基準で500質量ppm以上1500質量ppm以下であり、より好ましくは500質量ppm以上1000質量ppm以下であり、さらに好ましくは500質量ppm以上950質量ppm以下である。」 (記載事項4-9) 「【0020】 ((A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)成分中のP量/(A)成分中の金属量]) 本発明の直噴ターボ機構搭載エンジン用潤滑油組成物においては、前記(A)成分と(B)成分の質量比[(B)成分中のP量/(A)成分中の金属量]が0.45以上である。この値が0.45以上であれば、直噴ターボ機構搭載エンジンにおけるLSPI現象を十分に抑制することができる。上記観点から、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)成分中のP量/(A)成分中の金属量]は0.5以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましい。なお、(B)成分の劣化由来の酸性成分の中和性能確保の観点から上記質量比の上限は1.0程度とすることが好ましい。」 (記載事項4-10) 「【0032】 <実施例1?5及び比較例1> 表1に示す基油に同表に示す各種添加剤を配合して潤滑油組成物を調製した後、得られた潤滑油組成物の各々について、前記の通りLSPI性能を評価した。同表の比較例1に示す潤滑油組成物を用いた際のLSPI発生頻度を基準とし、各潤滑油組成物を用いた際のLSPI発生頻度を相対値として示す。 【0033】 【表1】 【0034】 なお、使用した基油及び各添加剤は以下の通りである。 (1)基油:100N鉱油(100℃動粘度:4mm^(2)/s、粘度指数:130、APIベースオイルカテゴリー:Gr.III)及び合成油(100℃動粘度:6mm^(2)/s、ポリ-α-オレフィン(PAO)) 【0035】 (2)耐摩耗剤:ジチオリン酸亜鉛(Zn含有量:9.0質量%、リン含有量:8.2質量%、硫黄含有量:17.1質量%) (3)粘度指数向上剤:ポリメタアクリレート(重量平均分子量:300,000)、配合量は、潤滑油組成物の100℃動粘度が8.2mm^(2)/sとなる量とした。 (4)金属系清浄剤:Caスルフォネート、及びCaフェネート (5)無灰分散剤:高分子アルキルコハク酸イミド、及びB変性アルキルコハク酸イミド (6)酸化防止剤:ジフェニルアミン、アルキルフェノール、モリブデン系酸化防止剤 (7)摩擦調整剤:モリブデンジチオカーバメイト(Mo含有量:1.0質量%)、エステル系摩擦調整剤 (8)その他の添加剤 ・金属不活性化剤:銅不活性化剤 ・消泡剤:シリコーン系消泡剤」 (記載事項4-11) 「【0036】 実施例1?5では、それぞれCa量が0.11?0.17質量%の範囲、かつP/Ca質量比が0.53?0.82の範囲であり、LSPI発生頻度は、比較例1対比60%以下と発生頻度が低かった。 一方、比較例1では、Ca量が0.22質量%、P/Ca質量比が0.41であり、LSPI発生頻度は、実施例1?5対比で高かった。」 エ 甲5に記載の事項 (記載事項5-1) 「【0049】 本発明の潤滑油組成物は、その清浄性及び摩耗防止性を向上させるために、(C)ホウ素変性コハク酸イミド無灰分散剤を含有する。」 (記載事項5-2) 「【0052】 上記コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(5)又は(6)で示される化合物等が例示できる。 【化9】 [式中、R^(7)は炭素数40?400、好ましくは60?350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、mは1?5、好ましくは2?4の整数を示す。] 【化10】 [式中、R^(8)及びR^(9)は、それぞれ個別に炭素数40?400、好ましくは60?350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、mは0?4、好ましくは1?3の整数を示す。] 【0053】 なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(5)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(6)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含されるが、本発明の潤滑油組成物においては、それらの一方のみを含んでもよく、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。 【0054】 上記コハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば、炭素数40?400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100?200℃で反応させて得たアルキル又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。 【0055】 本発明で用いることのできる無灰分散剤は、上記一般式(5)又は(6)で表されるアルキル又はアルケニルコハク酸イミドに、ホウ酸等のホウ素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和した、いわゆるホウ素変性アルキル又はアルケニルコハク酸イミドであって、ホウ素化されていないアルキル又はアルケニルコハク酸イミドと比較して、熱・酸化安定性に優れるという特徴を有する。」 (記載事項5-3) 「【0087】 本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチ用、二輪車用4サイクルエンジン用、あるいは湿式クラッチを有する二輪車用4サイクルエンジン用に用いた場合に特に優れた性能を発揮するが、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油としても好ましく使用することができる。」 (記載事項5-4) 「【0089】 [実施例1?3、比較例1?6] 実施例1?3及び比較例1?6においては、それぞれ以下に示す潤滑油基油及び添加剤を用いて表1に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。表1には、各実施例又は比較例で得られた潤滑油組成物のホウ素、カルシウム、モリブデン及びリンの濃度(潤滑油組成物全量を基準とした元素換算値)を併せて示す。 (1)潤滑油基油 基油1:水素化分解鉱油(100℃における動粘度:5.0mm^(2)/s、粘度指数:100、芳香族分:6.0質量%、硫黄分:0.11質量%) (2)リン含有添加剤 リン含有化合物A-1:一般式(2)中のR^(4)及びR^(5)が2-エチルヘキシル基であり、R^(6)が水素原子であり、qが1であるリン化合物の亜鉛塩(リン含有量:7.0質量%、硫黄含有量:0質量%、亜鉛含有量:10.5質量%) リン含有化合物2:アルキル基がsec-ブチル/sec-ヘキシルであるジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含有量:7.2質量%、硫黄含有量:15.2質量%、亜鉛含有量:10.5質量%) (3)金属系清浄剤 金属系清浄剤B-1:プロピレンオリゴマーである炭素数15?27のアルキル基を有する過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:300mgKOH/g、カルシウム含有量:12質量%) 金属系清浄剤B-2:プロピレンオリゴマーである炭素数12のアルキル基を有する過塩基性カルシウムフェネート(塩基価:280mgKOH/g、カルシウム含有量:12.7質量%、硫黄含有量:2質量%) 金属系清浄剤3:エチレンオリゴマーである炭素数16?20のアルキル基を有する過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:250mgKOH/g、カルシウム含有量:9.25質量%) 金属系清浄剤4:エチレンオリゴマーである炭素数14?18のアルキル基を有する過塩基性カルシウムサリチレート(塩基価:170mgKOH/g、カルシウム含有量:6.0質量%) (4)無灰分散剤 無灰分散剤C-1:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基数平均分子量:1300、窒素含有量:1.7質量%、ホウ素含有量:0.9質量%)。 無灰分散剤2:ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基数平均分子量:1300、窒素含有量:1.6質量%、ホウ素含有量:0質量%)。 (5)摩擦調整剤 モリブデンジチオカーバメートD-1:炭素数8?13のアルキル基を有するMoDTC(モリブデン含有量10質量%) (6)酸化防止剤 ジアルキルジフェニルアミン (7)粘度指数向上剤 オレフィン共重合体(重量平均分子量:90,000、PSSI:25)」 オ 甲6に記載の事項 (記載事項6-1) 「【0048】 本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて他の添加剤、例えば粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤又は極圧剤、摩擦低減剤、分散剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。」 (記載事項6-2) 「【0051】 清浄分散剤としては、無灰分散剤および/または金属系清浄剤を用いることができる。無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、一般式(IV)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、または一般式(V)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。 【0052】 【化6】 」 (記載事項6-3) 「【0056】 また、上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。 例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。 このホウ素誘導体中のホウ素含有量には特に制限はないが、ホウ素として、通常0.05?5質量%、好ましくは0.1?3質量%である。」 (記載事項6-4) 「【0075】 第1表に示す組成および配合量の潤滑油組成物を調製し、金属腐食試験を行った。試験結果および潤滑油組成物の性状を第2表に示す。なお、潤滑油組成物の調製に用いた各成分は、次のとおりである。 (1)基油A:水素化精製基油、40℃動粘度21mm^(2)/s、100℃動粘度4.5mm^(2)/s、粘度指数127、%C_(A)0.1以下、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量% (2)基油B:ポリα-オレフィン、40℃動粘度17.5mm^(2)/s、100℃動粘度3.9mm^(2)/s、粘度指数120、NOACK蒸発量14.9質量% (3)基油C:ポリα-オレフィン、40℃動粘度28.8mm^(2)/s、100℃動粘度5.6mm^(2)/s、粘度指数136、NOACK蒸発量6.0質量% (4)モリブデンジチオカーバメート:サクラルーブ515(株式会社ADEKA製)、Mo含有量10.0質量%、硫黄含有量11.5質量% (5)アミド系摩擦調整剤:オレイン酸ジエタノールアミド (6)エステル系摩擦調整剤:グリセリンモノオレート (7)アミン系摩擦調整剤:キクルーブFM910(株式会社ADEKA製) (8)ジチオリン酸亜鉛:Zn含有量9.0質量%、リン含有量8.2質量%、硫黄含有量17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物 (9)金属不活性化剤:1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール (10)粘度指数向上剤A:ポリメタクリレート、重量平均分子量420,000、樹脂量39質量% (11)粘度指数向上剤B:スチレン-イソブチレン共重合体、重量平均分子量583,500、樹脂量10質量% (12)フェノール系酸化防止剤:オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート (13)アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量4.62質量% (14)モリブデンアミン系酸化防止剤:サクラルーブS-710(株式会社ADEKA製)モリブデン含有量10質量% (15)金属系清浄剤(A):過塩基性カルシウムフェネート、塩基価(過塩素酸法)255mgKOH/g、カルシウム含有量9.3質量%、硫黄含有量3.0質量% (16)金属系清浄剤(B):過塩基製カルシウムサリシレート、塩基価(過塩素酸法)225mgKOH/g、カルシウム含有量7.8質量%、硫黄含有量0.3質量% (17)金属系清浄剤(C):カルシウムスルホネート、塩基価(過塩素酸法)17mgKOH/g、カルシウム含有量2.4質量%、硫黄含有量2.8質量% (18)無灰分散剤A:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.76質量%、ホウ素含有量2.0質量%) (19)無灰分散剤B:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.23質量%、ホウ素含有量1.3質量%) (20)無灰分散剤C:ポリブテニルコハク酸ビスイミド(ポリブテニル基の数平均分子量2000、窒素含有量0.99質量%) (21)その他の添加剤:防錆剤、抗乳化剤および消泡剤」 (3) 甲2に記載された発明 ア 甲2の上記(記載事項2-9)、(記載事項2-10)、(記載事項2-11)によれば、甲2には、実施例7として、「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油、オレフィン共重合体型VI向上剤、ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)、サリチル酸カルシウム、サリチル酸マグネシウム、摩擦調整剤としてジチオカルバミン酸モリブデン、添加剤パッケージ(酸化防止剤、耐摩耗剤、耐食剤、抗乳化剤、および消泡剤が含まれている。)を含有し、ホウ素濃度が0.136重量%、カルシウム濃度が0.137重量%、マグネシウム濃度が0.0445重量%、モリブデン濃度が0.0462重量%である、内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)」、が記載されている。 イ 甲2の上記(記載事項2-9)、(記載事項2-10)、(記載事項2-11)によれば、甲2には、実施例8(配合物C)として、「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油、オレフィン共重合体型VI向上剤、ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)、サリチル酸カルシウム、サリチル酸マグネシウム、摩擦調整剤としてジチオカルバミン酸モリブデン、添加剤パッケージ(酸化防止剤、耐摩耗剤、耐食剤、抗乳化剤、および消泡剤が含まれている。)を含有し、ホウ素濃度が0.0845重量%、カルシウム濃度が0.0203重量%、マグネシウム濃度が0.1550重量%、モリブデン濃度が0.0462重量%である、内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)」、が記載されている。 ウ 上記ア、イより、甲2の実施例7、実施例8(配合物C)に注目すると、甲2には、 「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油、オレフィン共重合体型VI向上剤が、ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)、清浄剤として、サリチル酸カルシウム、及びサリチル酸マグネシウム、摩擦調整剤としてジチオカルバミン酸モリブデン、並びに添加剤パッケージ(酸化防止剤、耐摩耗剤、耐食剤、抗乳化剤、および消泡剤が含まれている。)を含有し、ホウ素濃度が0.136重量%、カルシウム濃度が0.137重量%、マグネシウム濃度が0.0445重量%、モリブデン濃度が0.0462重量%である、内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)。」(以下、「甲2発明A」という。)、 「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油、オレフィン共重合体型VI向上剤、ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)、清浄剤として、サリチル酸カルシウム、及びサリチル酸マグネシウム、摩擦調整剤としてジチオカルバミン酸モリブデン、並びに添加剤パッケージ(酸化防止剤、耐摩耗剤、耐食剤、抗乳化剤、および消泡剤が含まれている。)を含有し、ホウ素濃度が0.0845重量%、カルシウム濃度が0.0203重量%、マグネシウム濃度が0.1550重量%、モリブデン濃度が0.0462重量%である、内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)。」(以下、「甲2発明B」という。)、 が記載されていると認められる。 エ 特許異議申立書の第19頁〔「ウ-1.引用発明の説明」の(ア)参照。〕によれば、申立人は、実施例8(配合物B)まで言及しているが、当該配合物Bのカルシウム濃度は、サリチル酸マグネシウムの市販品サンプル中の不純物に由来するものであって、サリチル酸カルシウムを含有していない蓋然性が高いことから、甲2に記載された発明の認定から除外している。 なお、この配合物Bに関する事項においては、取消理由で通知していたものであるがその後に提出された申立人からの意見書を参照する限り、上記当審の認定に関し、何らの反論もなされていない。 (4) 対比・検討 ア 甲2発明Aを主発明とした場合 (ア) 本件発明2について 本件発明2と甲2発明Aとを対比する。 a 甲2発明Aの「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油」は、甲2の(記載事項2-10)によれば、内燃機関用潤滑油組成物中に74.50重量%含有するものであって、また、甲2の(記載事項2-3)によれば、「本発明のエンジン油は潤滑油基油を主成分とする必要がある。」と記載されているから、本件発明2の「潤滑油基油」に相当するといえる。 b 甲2発明Aの「サリチル酸マグネシウム」は、本件発明2の「少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物」に相当する。 c 甲2発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」は、甲2の(記載事項2-5)によれば、「無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導される」ものであり、その製造方法からして、窒素を有することは明らかであるから、本件発明2の「窒素を有する無灰分散剤」に相当するといえる。 d 甲2発明Aの「サリチル酸カルシウム」は、本件発明2の「少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物」に相当する。 e 本件発明2の「過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物」と、甲2発明Aの「内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)」とは、「潤滑油組成物」である点で共通する。 f 甲2発明Aの潤滑油組成物中のカルシウム及びマグネシウムの濃度が、それぞれ、0.137重量%、0.0445重量%であるから、本件発明2の発明特定事項である式(4)「Q=[Ca]+0.05[Mg]」、式(5)「W=[Ca]+1.65[Mg]」〔ただし、[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)〕に対して、各濃度の値を代入すると、Q=0.1392、W=0.2104となる。 したがって、甲2発明Aは、本件発明2の式(4)及び式(5)に関する要件である「Qが、Q≦0.15」及び「Wが、0.14≦W≦1.0」を、いずれも満たしているといえる。 g 上記a?fより、本件発明2と甲2発明Aとは、 「潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす、潤滑油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1A> 本件発明2は、「下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?0.41を満た」しているのに対して、甲2発明Aは、無灰分散剤(ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM)由来の窒素の濃度(質量%)が不明であって、式(3)で求められるZが、Z=0.3?0.41を満たしているかどうか不明である点。 <相違点2A> 潤滑油組成物について、本件発明1は、「過給ガソリンエンジン用」であるのに対して、甲2発明は、「内燃機関用」である点。 以下、上記相違点について検討する。 h <相違点1A>について 甲2発明Aにおいて、窒素を有する無灰分散剤に相当する「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」については、甲2の上記(記載事項2-1)?(記載事項2-11)及びその他の記載事項を参照しても、ホウ素の含有量(濃度)が明記されているだけであって、窒素の含有量(濃度)については、開示も示唆もされていない。 仮に、申立人が主張するように、甲2発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」が、甲5の上記(記載事項5-4)の「無灰分散剤C-1:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基数平均分子量:1300、窒素含有量:1.7質量%、ホウ素含有量:0.9質量%)」と同様なものであって、甲5に基づいて換算した甲2発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」の窒素濃度の値が「0.257%」であるとしても、本件発明2の発明特定事項である式(3)「Z=[N]/([Ca]+[Mg])」〔ただし、[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)〕に各濃度の値を代入すると、Z=1.416となり、甲2発明Aは、甲5の記載に基づいたとしても、本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」を、満たしていないといえる。 また、仮に、申立人が主張するように、甲2発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」が、甲6の上記(記載事項6-4)の「無灰分散剤B:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.23質量%、ホウ素含有量1.3質量%)」と同様なものであって、甲6に基づいて換算した甲2発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」の窒素濃度の値が「0.129%」であるとしても、本件発明2の発明特定事項である式(3)「Z=[N]/([Ca]+[Mg])」〔ただし、[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)〕に各濃度の値を代入すると、Z=0.711となり、甲2発明Aは、甲6の記載に基づいたとしても、本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」を、満たしていないといえる。 そして、本件発明2の式(3)である「Z=[N]/([Ca]+[Mg])」におけるZの値は、その式の内容からみて、カルシウム濃度[Ca]と、マグネシウム濃度[Mg]が一定であるならば、窒素濃度[N]を増減することによってZの値が増減することは自明であるところ、甲2発明AのZの値が「1.416」であることから、これを本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」の範囲を満たすためには、甲2発明Aの窒素の濃度を減少させる必要があるが、上記したように、甲2には、「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」についての窒素の濃度については、開示も示唆もされてないことから、当該「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」の窒素の濃度を減少させるような動機付けを見出すことは不可能である。 また、甲2発明Aに対して、そのようにする動機付けを、異議申立人が提示した甲3?甲6、及びその他の証拠からは見出すこともできない。 i <本件発明2の作用効果について> 本件訂正後の本件明細書の実施例(特に、【0112】【表5】、【0121】【表8】、【0122】【表9】)を参照すると、本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」を満たす実施例11?15及び実施例20は、「LPSI発生頻度(相対値)」、「防錆性」の評価項目で良好な結果が得られ、さらに、「高温清浄性」の評価項目である「ホットチューブテスト」の評点が「6.5?7.5」であり、極めて優れた高温清浄性の結果が得られているのに対して、Zの値が「0.47」であって、本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」を満たさない比較例19、20は、その「高温清浄性」の評価項目である「ホットチューブテスト」の評点が「6.0」であり、少なくとも「高温清浄性」の観点から、実施例11?15及び実施例20に対して良好な結果が得られていないことがわかる。 したがって、本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」の範囲を満たすことによって、上記全ての評価項目で同時に良好な結果を示す点で、極めて優れた作用効果を奏していると認められる。 一方、甲2には、上記(記載事項2-1)、(記載事項2-6)によれば、燃費特性及び燃費保持特性の改良を目的とするものであって、上記hで述べたとおり、窒素(N)の含有量(濃度)については、開示も示唆もされてなく、本件発明2において窒素の含有量(濃度)の具体的値の特定が必須である式(3)〔Z=[N]/([Ca]+[Mg])〕に関する要件である「Z=0.3?0.41」の範囲を満たすことによって、「LPSI発生頻度(相対値)」、「防錆性」、及び「高温清浄性」の全ての評価項目で同時に良好な結果を示すというものではなく、甲2より、上記のとおりの本件発明2が有する効果を予測することは困難であるから、本件発明2は、甲2発明Aに対して、有利な効果を有するといえる。 j 小括 よって、相違点1Aは実質的な相違点であり、また、当業者といえども容易に想到することができない。 したがって、相違点2Aについて検討するまでもなく、本件発明2は、当業者といえども、甲2発明A、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ) 本件発明3?10について 本件発明3?10は、本件発明2をさらに限定するものであるから、本件発明3?10も、本件発明2と同様の理由により、当業者といえども、甲2発明A、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 甲2発明Bを主発明とした場合 (ア) 本件発明2について 本件発明2と甲2発明Bとを対比する。 a 甲2発明Bの「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油」は、甲2の(記載事項2-10)によれば、内燃機関用潤滑油組成物中に74.50重量%含有するものであって、また、甲2の(記載事項2-3)によれば、「本発明のエンジン油は潤滑油基油を主成分とする必要がある。」と記載されているから、本件発明2の「潤滑油基油」に相当するといえる。 b 甲2発明Bの「サリチル酸マグネシウム」は、本件発明2の「少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物」に相当する。 c 甲2発明Bの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」は、甲2の(記載事項2-5)によれば、「無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導される」ものであり、その製造方法からして、窒素を有することは明らかであるから、本件発明2の「窒素を有する無灰分散剤」に相当するといえる。 d 甲2発明Bの「サリチル酸カルシウム」は、本件発明2の「少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物」に相当する。 e 本件発明2の「過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物」と、甲2発明Bの「内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)」とは、「潤滑油組成物」である点で共通する。 f 甲2発明Bの潤滑油組成物中のカルシウム及びマグネシウムの濃度が、それぞれ、0.0203重量%、0.1550重量%であるから、本件発明2の発明特定事項である式(4)「Q=[Ca]+0.05[Mg]」、式(5)「W=[Ca]+1.65[Mg]」〔ただし、[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)〕に各濃度の値を代入すると、Q=0.0281、W=0.2761となる。 したがって、甲2発明Bは、本件発明2の式(4)及び式(5)に関する要件である「Qが、Q≦0.15」及び「Wが、0.14≦W≦1.0」を、いずれも満たしているといえる。 g 上記a?fより、本件発明2と甲2発明Bとは、 「潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす、潤滑油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1B> 本件発明2は、「下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?0.41を満た」しているのに対して、甲2発明Aは、無灰分散剤(ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM)由来の窒素の濃度(質量%)が不明であって、式(3)で求められるZが、Z=0.3?0.41を満たしているかどうか不明である点。 <相違点2B> 潤滑油組成物について、本件発明1は、「過給ガソリンエンジン用」であるのに対して、甲2発明は、「内燃機関用」である点。 以下、上記相違点について検討する。 h <相違点1B>について 相違点1Bは、上記「ア 甲2発明Aを主発明とした場合」における相違点1Aと同一であることから、上記「ア 甲2発明Aを主発明とした場合」で検討したものと同様に、相違点1Bは、実質的な相違点であり、相違点2Bについて検討するまでもなく、本件発明2は、当業者といえども、甲2発明B、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 i <本件発明2の作用効果について> 本件発明2の作用効果については、上記「ア 甲2発明Aを主発明とした場合」の(ア)iで述べたことと同様であり、本件発明2の式(3)に関する要件である「Z=0.3?0.41」の範囲を満たすことによって、上記全ての評価項目で同時に良好な結果を示す点で、極めて優れた作用効果を奏していると認められる。 j 小括 よって、相違点1Bは実質的な相違点であり、また、当業者といえども容易に想到することができない。 したがって、相違点2Bについて検討するまでもなく、本件発明2は、当業者といえども、甲2発明B、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ) 本件発明3?10について 本件発明3?10は、本件発明2をさらに限定するものであるから、本件発明3?10も、本件発明2と同様の理由により、当業者といえども、甲2発明B、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5) 申立人の意見について 申立人は、平成30年6月19日付けの意見書(第7?9頁)において、訂正明細書の【0111】【表4】に記載される「参考例1-7は、式(3)のZの値が0.67で本件発明2に規定するZ値の範囲からは外れます。一方で、ホットチューブテストの結果は6.5であり、特許権者が主張する優れた高温洗浄性を示す範囲です。」、「参考例32はZの値が0.12であり、本件発明2の下限値より低くなっていますが、ホットチューブテストの結果が7.5で優れた高温洗浄性を示します。」、「本件発明2のZ値が0.3?0.41の範囲であることで、この範囲外の潤滑油組成物に対して優れた効果を顕著に示すとは認められず、特許権者が主張する『甲2記載の潤滑油組成物に対して、極めて優れた洗浄性を示します。』との主張は根拠が無く、許容されるべきものではありません。」と主張している。 そもそも、本件発明2は、上記(4)で検討したとおり、相違点1A(相違点2A)が実質的な相違点であって、当該申立人の主張に関わらず、当業者といえども容易に想到することができないものといえる。 なお、確かに、「参考例1-7」、「参考例32」におけるZ値の値が、本件発明2の範囲外であるにも関わらず、ホットチューブテストの結果が、それぞれ「6.5」、「7.5」であり、優れた高温洗浄性を示すものであるが、これらは、あくまでも「参考例」であって、本件発明2が奏する効果の顕著性や臨界的意義を検討するために対象となる「実施例」や「比較例」からは除外されているというべきである。 したがって、当該「参考例」に関する記載に基づく申立人の主張は採用することができない。 (6) 結論 よって、本件発明2?10は、甲2発明A、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、甲2発明B、甲2?甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 第6 まとめ 本件発明2?10に係る特許は、上記第5で検討したとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができないし、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、上記のとおり、本件訂正請求による訂正により、請求項1は削除されたので、当該請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないため、却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 潤滑油組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は潤滑油組成物に関し、詳細には、内燃機関用の潤滑油組成物、特に過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、内燃機関には、小型高出力化、省燃費化、排ガス規制対応など、様々な要求がなされており、省燃費性を目的とした内燃機関用潤滑油組成物が種々検討されている(特許文献1及び2)。 【0003】 また、ガソリンエンジン車両の燃費向上のために、過給直噴エンジンの導入が進んでいる。過給直噴エンジンの導入により、より低速回転でのトルクを高め、同等の出力を維持しながら排気量を下げることができる。そのため、燃費を向上することができ、また機械損失の割合を低減することもできる。しかし一方で、過給直噴エンジンにおいては、低回転域でトルクを高めていくと、突発的な異常燃焼である低速プレイグニッション(Low Speed Pre-Ignition、以下、LSPIという)が現れるという問題がある。LSPIの発生は燃費向上の制約条件となったり、機械損失を増加する原因となる。 【0004】 エンジン油には、様々な性能を満たすために例えば摩耗防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤等、種々の添加剤が配合される。非特許文献1?3は、LSPI発生の一因としてこれら添加剤が影響していることを記載している。例えば、非特許文献1は、添加剤中のカルシウムがLSPIを促進し、モリブデン及びリンがLSPIを抑制することを記載している。非特許文献2は、基油の種類及び金属清浄剤の有無によりLSPI発生頻度が異なることを記載している。非特許文献3は、添加剤中のカルシウム、リン、モリブデン、および、摩耗により溶出する鉄、銅のLSPI発生頻度への影響、エンジンオイルの劣化に伴うLSPI発生頻度の増加について記載している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2011-184566号公報 【特許文献2】特開2013-199594号公報 【非特許文献】 【0006】 【非特許文献1】竹内一雄等「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第1報)-エンジン油添加剤による低速プレイグニッション抑制/促進効果-」公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 No.70-12,p.1-4(2012年5月25日 自動車技術会春季学術講演会) 【非特許文献2】藤本公介等「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第2報)-オイルの自己着火温度と低速プレイグニッション頻度-」公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 No.70-12,p.5-8(2012年5月25日 自動車技術会春季学術講演会) 【非特許文献3】平野聡伺等「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第3報)」公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 No.12-13,p.11-14(2013年5月22日 自動車技術会春季学術講演会) 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 上述したエンジン油として必要な性能には、清浄性、防錆性、分散性、酸化防止性、耐摩耗性等がある。これらの性能を得るためには適切な添加剤の設計が必要となる。例えば、清浄性や防錆性を得るためにはカルシウムを有する金属清浄剤が配合される。上記のようにLSPI発生頻度を減らすためにカルシウムを有する金属清浄剤の量を減らすと、エンジン油の清浄性や防錆性が確保できなくなるという問題がある。また、モリブデンやリンを含む添加剤としては、モリブデンを有する摩擦調整剤、リンを有する摩耗防止剤があるが、これらは高温で分解してデポジットとなる恐れがある。そのため、LSPI発生頻度を減らすためにモリブデンを有する摩擦調整剤やリンを有する摩耗防止剤の量を増やすと、高温清浄性が低下するという問題がある。すなわち、LSPIを防止する技術とエンジン油に必要とされる性能(特に清浄性、及び防錆性)を確保する技術は背反となることがあり、これらを共に達成する技術が求められている。 【0008】 本発明は上記事情に鑑み、第一に、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性を確保することができる潤滑油組成物を提供することを目的とする。 【0009】 本発明者らは、上記第一の課題を解決するために鋭意検討した結果、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの量が特定の関係式を満たし、且つ、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量と無灰分散剤由来の窒素の量が特定の関係式を満たすことにより、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性を確保できることを見出し、本発明を成すに至った。 【0010】 すなわち、本発明は第一に、潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む潤滑油組成物であって、 下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-0.85を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たす潤滑油組成物に関する。 【0011】 また、上記の通り、LSPI発生頻度を低下するために潤滑油組成物中のカルシウム系金属清浄剤の量を減らすと潤滑油組成物の防錆性を十分に確保できない。そこで、本発明は第二に、LSPI発生頻度を低下し、且つ、防錆性を確保することができる潤滑油組成物を提供することを目的とする。 【0012】 本発明者らは、上記第二の課題を解決するために鋭意検討した結果、潤滑油組成物中に含まれるマグネシウム及びカルシウムの量が特定の関係式を満たすことにより、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保できることを見出した。すなわち本発明は第二に、潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む潤滑油組成物であって、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物に関する。 【0013】 さらには上記第二の発明は、潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物とを含む潤滑油組成物であって、上記式(4)で求められるQがQ≦0.15を満たし、かつ上記式(5)で求められるWが0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物に関する。 【0014】 また本発明は、潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、及び窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む潤滑油組成物であって、 下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-0.85を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たし、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、且つ 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物に関する。 【0015】 上記本発明の潤滑油組成物はいずれも、特には内燃機関用の潤滑油組成物に関し、さらに特には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物に関する。 【発明の効果】 【0016】 上記第一の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、高温清浄性を確保することができる。また、上記第二の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保することができる。さらに、上記第一の発明の要件及び第二の発明の要件を共に満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下し、清浄性を確保し、さらには防錆性を確保することもできる。上記本発明の潤滑油組成物はいずれも、特には内燃機関用の潤滑油組成物として、さらに特には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物として好適に使用できる。また、本発明の潤滑油組成物はいずれも低粘度グレード用の潤滑油として好適である。具体的には、0W-20/5W-20あるいは0W-16/5W-16の低グレード、あるいはさらに低粘度化した潤滑油として好適である。 【図面の簡単な説明】 【0017】 【図1】図1は式(1)で求められるXの値とLSPI発生頻度の関係を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0018】 本発明は第一に、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性を確保できる潤滑油組成物を提供する。該第一の発明は、潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む潤滑油組成物である。該第一の発明において、潤滑油組成物は、組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、無灰分散剤由来の窒素、モリブデン及びリンの濃度について、上記式(1)で示されるX及び上記式(2)で示されるYが上記特定の範囲を満たすことを特徴とする。以下、式(1)及び式(2)について詳細に説明する。 【0019】 上記式(1)は潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度の関係を示す式である。上記式(1)において、[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である。潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度が、上記式(1)で示されるXがX≦-0.85を満たす範囲であることによりLSPIの発生を効果的に抑制することができる。 【0020】 上記式(1)は、LSPIの発生頻度と、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度との相関関係から求められた式である。式(1)は、カルシウム及びマグネシウムがLSPI防止性について負の働きを持ち、モリブデン及びリンは、LSPI防止性について正の働きを持つことを意味する。式(1)において、8、8、30という係数は、それぞれの元素の寄与度を定量化したものである。Xの好ましい範囲は-0.85未満であり、より好ましくは-1以下であり、更に好ましくは-1未満であり、より一層好ましくは-1.2以下であり、最も好ましくは-1.68以下である。Xの下限値は限定的ではないが、好ましくは-5.0以上、より好ましくは-3.0以上、最も好ましくは-2.4以上である。Xが上記下限値を下回ると高温清浄性が悪化したり、排ガス後処理装置に悪影響を及ぼすという問題が発生する場合がある。また、式(1)において[Mg]の係数は0.5である。これは元素ごとにLSPI防止効果が異なるために設定されるものである。上記式(1)で求められるXの値とLSPI発生頻度の関係を図1に示す。図1に記載の通り、上記式(1)で求められるXの値が上記上限値以下であるとLSPIの発生を効果的に抑制することができる。 【0021】 潤滑油組成物がカルシウムを含まずマグネシウムを含む場合、上記式(1)は以下の式(1’)となる。 X’=0.5[Mg]×8-[Mo]×8-[P]×30 (1’) (上記式(1’)において、[Mg]、[Mo]、[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のマグネシウム、モリブデン、リンの濃度(質量%)を示す) 上記式(1’)で求められるX’の値がX’≦-0.85を満たすことによりLSPIの発生を効果的に抑制することができる。 【0022】 また、潤滑油組成物がマグネシウムを含まずカルシウムを含む場合、上記式(1)は以下の式(1’’)となる。 X’’=[Ca]×8-[Mo]×8-[P]×30 (1’’) (上記式(1’’)において、[Ca]、[Mo]、[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、モリブデン、リンの濃度(質量%)を示す) 上記式(1’’)で求められるX’’の値がX’’≦-0.85を満たすことによりLSPIの発生を効果的に抑制することができる。 【0023】 上記式(2)は、潤滑油組成物中に、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と窒素を有する無灰分散剤が合計して特定量以上必要であることを示すものである。上記式(2)において、[Ca]及び[Mg]は、潤滑油組成物中のカルシウム及びマグネシウムの含有量(質量%)であり、[N]は潤滑油組成物中の無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)である。本発明において、潤滑油組成物中のカルシウム及びマグネシウムの含有量(質量%)、及び無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)は、上記式(2)で示されるYがY≧0.18を満たす量である。好ましくは、Yは0.19以上、より好ましくは0.21以上である。Yが上記下限値以上あれば、LSPI発生頻度を低下しながら、潤滑油組成物の清浄性を確保することができる。Yが上記下限値未満であると清浄性が不十分になる。Yの上限値は限定的ではないが、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.5以下である。Yが上記上限値を超えると、清浄性は向上するものの、添加量に応じた清浄効果が得られず、また、添加剤の増量により粘度特性の悪化を引き起こし、燃費に対して悪影響するという問題が発生する場合がある。 【0024】 上記式(2)において[Mg]の係数は1.65である。これは、カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の清浄性向上効果がその元素の原子数(すなわちモル数)に比例することから設定されたものである。マグネシウムの原子量がカルシウムの原子量に対して1/1.65であるため、同じ質量当たり1.65倍の清浄性向上効果を示すことを意味する。 【0025】 潤滑油組成物がカルシウムを含まずマグネシウムを含む場合、上記式(2)は以下の式(2’)となる。 Y’=1.65[Mg]+[N] (2’) (上記式(2’)において、[Mg]及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のマグネシウム及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)を示す) 上記式(2’)で求められるY’の値がY’≧0.18を満たすことによりLSPI発生頻度を低下しながら、潤滑油組成物の清浄性を確保することができる。 【0026】 また、潤滑油組成物がマグネシウムを含まずカルシウムを含む場合、上記式(2)は以下の式(2’’)となる。 Y’’=[Ca]+[N] (2’’) (上記式(2’’)において、[Ca]及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)を示す) 上記式(2’’)で求められるY’’の値がY’’≧0.18を満たすことによりLSPI発生頻度を低下しながら、潤滑油組成物の清浄性を確保することができる。 【0027】 上記第一の発明において、潤滑油組成物は、上記式(1)及び式(2)に加え、下記式(3)で示されるZが、Z=0.3?1.5を満たすことが好ましい。 Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) Zは、好ましくは0.35?1.3以下である。上記式において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)である。 【0028】 上記式(3)で求められるZは、潤滑油組成物中の金属清浄剤の量と無灰分散剤の量の好適な比率を表すものであり、カルシウム及びマグネシウムの量は潤滑油組成物中の金属清浄剤の量を意味し、窒素の量は潤滑油組成物中の無灰分散剤の量を意味する。Zが上記範囲を満たすことにより、潤滑油組成物は酸化安定性とスラッジ分散性の両方の機能を獲得することができる。Zの値が上記下限値未満では、LSPI発生頻度を低下できない、あるいはスラッジ分散性が低下して清浄性が不十分となる恐れがある。また、Zの値が上記上限値超では、酸化安定性を確保できなかったり、清浄性が悪化する恐れがある。本発明の第一の潤滑剤組成物は、上記式(1)で示すXと式(2)で示すYとが上述した特定の範囲を満たせばよいが、さらに上記式(3)で示すZが上述した特定の範囲を満たすことにより、LSPIの発生を防止することと清浄性を確保することの両立をより確実なものにすることができる。 【0029】 潤滑油組成物がカルシウムを含まずマグネシウムを含む場合、上記式(3)は以下の式(3’)となる。 Z’=[N]/[Mg] (3’) 上記式(3’)で求められるZ’が0.3?1.5を満たすことが好ましい。 【0030】 潤滑油組成物がマグネシウムを含まずカルシウムを含む場合、上記式(3)は以下の式(3’’)となる。 Z’’=[N]/[Ca] (3’’) 上記式(3’’)で求められるZ’’が0.3?1.5を満たすことが好ましい。 【0031】 さらに上記第一の発明において、潤滑油組成物に含まれるモリブデンの量(質量%)[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%であり、より好ましくは[Mo]≦0.08質量%、最も好ましくは[Mo]≦0.06質量%、さらには[Mo]≦0.02質量%であるのがよい。モリブデンの量が上記上限値を超えると、清浄性が悪化するおそれがある。モリブデン量の下限値は特に限定されない。式(1)のXが、X≦-0.85を満たせば、モリブデン量は0質量%であってもよい。 【0032】 さらに上記第一の発明において、潤滑油組成物に含まれるリンの量(質量%)[P]が、[P]≦0.12質量%であり、好ましくは[P]≦0.10質量%、最も好ましくは[P]≦0.09質量%であるのがよい。リンの量が上記上限値を超えると、高温清浄性が悪化し、また、排ガス後処理装置に対して悪影響を及ぼす恐れがあるため好ましくない。リン量の下限値は特に限定されないが、好ましくは[P]≧0.02質量%であり、より好ましくは[P]≧0.04質量%であり、最も好ましくは[P]≧0.06質量%である。リン量が上記下限値未満である場合には、耐摩耗性が悪化する恐れがある。 【0033】 上記第一の発明において、潤滑油組成物に含まれるカルシウム及びマグネシウムの含有量は、上記式(1)で示すX及び上記式(2)で示すYが、好ましくは更に上記式(3)で示すZが、上記範囲を満たす限りにおいて特に限定されることはない。好ましくは、潤滑油組成物に含まれるカルシウムの量(質量%)[Ca]及びマグネシウムの量(質量%)[Mg]が、[Ca]+1.65[Mg]≧0.08質量%、より好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≧0.1質量%であり、最も好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≧0.12質量%である。[Ca]+1.65[Mg]の値が上記下限値未満の場合には、高温清浄性が悪化するおそれがある。[Ca]+1.65[Mg]の上限は、好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≦0.5質量%、より好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≦0.3質量%、最も好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≦0.25質量%である。[Ca]+1.65[Mg]の値が上記上限値を超えると、硫酸灰分量が多くなり、排ガス後処理装置に悪影響を及ぼす。 【0034】 本発明は第二に、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保できる潤滑油組成物を提供する。該第二の発明において、潤滑油組成物は、潤滑油基油と、マグネシウムを有する化合物の少なくとも1種とを含む。該潤滑油組成物は、任意的に、カルシウムを有する化合物の少なくとも1種を含む。該第二の発明は、潤滑油組成物中に含まれるマグネシウム及びカルシウムの濃度(質量%)が特定の関係式を満たすことを特徴とする。すなわち下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物である。以下、式(4)及び式(5)について詳細に説明する。 【0035】 上記式(4)は、LSPIの発生頻度と、潤滑油組成物中に含まれるマグネシウムの濃度及びカルシウムの濃度との相関関係から求められた式である。上記式(4)において、[Ca]及び[Mg]は、潤滑油組成物中のマグネシウム及びカルシウムの含有量(質量%)である。Qの好ましい範囲は0.15未満であり、より好ましくは0.14以下であり、最も好ましくは0.13以下である。Qの値が上記上限値以下であるとLSPIの発生を効果的に抑制できる。Qの下限値は限定的ではないが、好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01以上、最も好ましくは0.06以上である。Qが上記下限値を下回ると防錆性が悪化する場合があり、また、清浄性が悪化する場合もある。式(4)において[Mg]の係数は0.05である。該係数は、LSPIの発生頻度に対する、カルシウムに比較したマグネシウムの寄与度を意味する。 【0036】 上記式(5)は防錆性と潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの濃度との相関関係から求められた式であり、式(5)で求められるWの下限値は防錆性を確保するためのカルシウム及びマグネシウムの量の下限値を意味する。Wの下限値は好ましくは0.15以上、より好ましくは0.16以上である。カルシウム及びマグネシウムの量は多ければ防錆性を確保できるが、多すぎると潤滑油組成物中の硫酸灰分量が多くなり、排ガス処理装置に影響を及ぼす。上記式(5)で求められるWの上限値は、硫酸灰分量が所定値を超えないためのカルシウム及びマグネシウムの量の上限値を意味する。Wの上限値は好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、最も好ましくは0.65以下、特に好ましくは0.25以下である。 【0037】 潤滑油組成物中に含まれる硫酸灰分の量は、JIS K-2272に準拠して測定すればよい。潤滑油組成物中に含まれる硫酸灰分の量は3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下、最も好ましくは1.0質量%以下である。 【0038】 上記式(5)において[Mg]の係数は1.65である。該係数は、防錆性に関する、カルシウムに比較したマグネシウムの寄与度を意味する。金属清浄剤の防錆効果はその元素の原子数(すなわちモル数)に比例する。マグネシウムの原子量はカルシウムの原子量に対して1/1.65であるため、同じ質量当たり1.65倍の防錆効果を示す。 【0039】 上記第二の発明において特に好ましい範囲は、上記式(4)で示されるQの値が0.06≦Q≦0.13であり、且つ、上記式(5)で示されるWの値が0.15≦W≦0.24を満たす範囲である。 【0040】 上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量は上記式(4)で求められるQ及び上記式(5)で求められるWが上記範囲を満たす限りにおいて限定されない。特には潤滑油組成物中のカルシウムの量は0?0.15質量%、好ましくは0.02?0.14質量%、より好ましくは0.05?0.13質量%、最も好ましくは0.06?0.12質量%である。潤滑油組成物中のマグネシウムの量は0.01?0.6質量%、好ましくは0.02?0.5質量%、より好ましくは0.05?0.3質量部、最も好ましくは0.09?0.2質量%である。 【0041】 上記第二の発明において、潤滑油組成物はカルシウムを有する化合物を含まなくてもよい。カルシウムを有する化合物を含まない場合、上記式(4)は以下の式(4’)となり、 Q’=0.05[Mg] (4’) 上記式(5)は以下の式(5’)となる。 W’=1.65[Mg] (5’) 潤滑油組成物に含まれるマグネシウムの量[Mg](質量%)は、上記Q’の値が、Q’≦0.15を満たし、且つ、上記W’の値が、0.14≦W’≦1.0を満たす量であればよい。すなわち0.08≦[Mg]≦0.6の量である。好ましくは0.1≦[Mg]≦0.25である。 【0042】 上記第二の発明において、潤滑油組成物はモリブデンを有する化合物、リンを有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含んでいてよい。潤滑油組成物中に含まれるリン、モリブデン、及び窒素の量は特に制限されない。 【0043】 上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれるモリブデンの量(質量%)[Mo]は、限定的ではないが、好ましくは[Mo]≦0.1質量%であり、より好ましくは[Mo]≦0.08質量%、最も好ましくは[Mo]≦0.06質量%、さらには[Mo]≦0.02質量%であるのがよい。モリブデン量の下限値は0質量%であってもよい。 【0044】 上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれるリンの量(質量%)[P]は、好ましくは[P]≦0.12質量%であり、好ましくは[P]≦0.10質量%、最も好ましくは[P]≦0.09質量%であるのがよく、下限は限定的ではないが、好ましくは[P]≧0.02質量%であり、より好ましくは[P]≧0.04質量%であり、最も好ましくは[P]≧0.06質量%である。特に好ましくは0.06質量%≦[P]≦0.08質量%である。 【0045】 上記第二の発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油と、マグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物とを含み、及び任意的に、カルシウムを有する化合物を含む組成物であり、上記式(4)で求められるQの値がQ≦0.15を満たし、且つ、上記式(5)で求められるWの値が0.14≦W≦1.0を満たし、さらに、上記式(1)で求められるXの値がX≦-0.85を満たす範囲にある潤滑油組成物であってよい。Q、W、及びXの好ましい範囲は上記の通りである。 【0046】 また、上記第二の発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油と、マグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物とを含み、及び任意的に、カルシウムを有する化合物を含む組成物であり、上記式(4)で求められるQの値がQ≦0.15を満たし、且つ、上記式(5)で求められるWの値が0.14≦W≦1.0を満たし、さらに、上記式(1)で求められるXの値がX>-0.85である潤滑油組成物であってよい。Q、W、及びXの好ましい範囲は上記の通りである。 【0047】 上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれる窒素の量は特に制限されるものでない。ここで潤滑油組成物に含まれる窒素の量とは潤滑油組成物中の無灰分散剤の量を意味する。上記した式(3):Z=[N]/([Ca]+[Mg])で示されるZの値が、Z=0.3?1.5、好ましくは0.35?1.3以下を満たすような量であるのが特に好ましい。上記式において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)である。 【0048】 本発明は、さらに、潤滑油基油と、少なくとも1種のマグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、及び窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種のカルシウムを有する化合物を含む組成物であり、上記式(1)で求められるXの値がX≦-0.85を満たし、上記式(2)で求められるYの値がY≧0.18を満たし、上記式(4)で求められるQの値がQ≦0.15を満たし、且つ、上記式(5)で求められるWの値が0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物を提供する。このような潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下でき、清浄性を確保し、且つ、防錆性を確保することができる。 【0049】 [潤滑油基油] 上記本発明において潤滑油基油は、鉱油及び合成油のいずれであってもよく、これらを単独で使用することもできれば、混合して使用することもできる。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、或いは、ワックス異性化鉱油、GTL(Gas to Liquid)基油、ATL(Asphalt to Liquid)基油、植物油系基油またはこれらの混合基油を挙げることができる。 【0050】 合成油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー等のポリ-α-オレフィン又はその水素化物;ラウリン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸2-エチルヘキシル等のモノエステル;ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ネオペンチルグリコールジ-n-オクタノエート、ネオペンチルグリコールジ-n-デカノエート、トリメチロールプロパントリ-n-オクタノエート、トリメチロールプロパントリ-n-デカノエート、ペンタエリスリトールテトラ-n-ペンタノエート、ペンタエリスリトールテトラ-n-ヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラ-2-エチルヘキサノエート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。 【0051】 潤滑油基油の100℃における動粘度(mm^(2)/s)は限定されることはないが、2?15mm^(2/)sが好ましく、3?10mm^(2)/sがより好ましく、3?6mm^(2)/sが最も好ましい。これにより、油膜形成が十分であり、潤滑性に優れ、かつ、蒸発損失のより小さい組成物を得ることができる。 【0052】 潤滑油基油の粘度指数(VI)は限定されることはないが、100以上が好ましく、120以上がより好ましく、130以上が最も好ましい。これにより、高温での油膜を確保しつつ、低温での粘度を低減することができる。 【0053】 潤滑油基油の40℃における動粘度(mm^(2)/s)は、上述した100℃における動粘度と、上述した粘度指数VIから決定できる値であればよい。 【0054】 上記第一の本発明は、上記潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む潤滑油組成物である。上記第二の本発明は、上記潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む潤滑油組成物である。これらの化合物は下記で説明する各種添加剤を配合することにより与えられる。 【0055】 [添加剤] 添加剤は潤滑油組成物に添加される公知のものを使用することができる。本発明の潤滑油組成物は、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する添加剤の少なくとも1種、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する添加剤の少なくとも1種を含む。該添加剤としては、金属清浄剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤が挙げられる。また、上述の通り本発明の潤滑油組成物は窒素を有する無灰分散剤を含む。以下、これらの添加剤について詳細に説明する。 【0056】 [A]金属清浄剤 金属清浄剤は特に限定されるものでないが、カルシウム及びマグネシウムから選択される少なくとも1種を有する金属清浄剤の1種以上であるのが好ましい。 【0057】 カルシウムを有する金属清浄剤としては、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレートが好ましい。また、ホウ素を含有するカルシウム系清浄剤を使用しても良い。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの金属清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性、及び防錆性を確保することができる。特には、本発明の潤滑油組成物は、過塩基性のカルシウムを有する金属清浄剤を含有することが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。なお、過塩基性のカルシウムを有する金属清浄剤を使用する場合は、中性のカルシウムを有する金属清浄剤を併用してもよい。 【0058】 カルシウムを有する金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20?500mgKOH/g、より好ましくは50?400mgKOH/g、最も好ましくは100?350mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性、防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。 【0059】 金属清浄剤中のカルシウム含有量は、0.5?20質量%が好ましく、1?16質量%がより好ましく、2?14質量%が最も好ましい。これにより、適切な添加量で所望の効果を得ることができる。 【0060】 マグネシウムを有する金属清浄剤としては、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの金属清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性、防錆性を確保することができる。また、上記マグネシウムを有する金属清浄剤は、上述したカルシウムを有する金属清浄剤と混合して使用してもよい。 【0061】 特には、過塩基性のマグネシウムを有する金属清浄剤を含有することが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。なお、過塩基性のマグネシウムを有する金属清浄剤を使用した場合は、中性のマグネシウムまたはカルシウムを有する金属清浄剤を混合してもよい。 【0062】 マグネシウムを有する金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20?600mgKOH/g、より好ましくは50?500mgKOH/g、最も好ましくは100?450mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性、防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が、前記の範囲となることが好ましい。 【0063】 金属清浄剤中のマグネシウム含有量は、0.5?20質量%が好ましく、1?16質量%がより好ましく、2?14質量%が最も好ましい。これにより、適切な添加量で所望の効果を得ることができる。 【0064】 潤滑油組成物中の金属清浄剤の量は、組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。 【0065】 なお、本発明においては、発明の要旨を変更しない範囲でナトリウムを有する金属清浄剤を任意成分として使用することができる。ナトリウムを有する金属清浄剤としては、ナトリウムスルホネート、ナトリウムフェネート、ナトリウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの金属清浄剤により、潤滑油として必要な高温清浄性、防錆性を確保することができる。該ナトリウムを有する金属清浄剤は、上述したカルシウムを有する金属清浄剤、及び/またはマグネシウムを有する金属清浄剤と混合して使用することができる。 【0066】 特には、過塩基性のナトリウムを有する金属清浄剤を含有することが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。なお、過塩基性のナトリウムを有する金属清浄剤を使用した場合は、中性のナトリウム又はカルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤を混合してもよい。 【0067】 ナトリウムを有する金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20?500mgKOH/g、より好ましくは50?400mgKOH/g、最も好ましくは100?350mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性、防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が、前記の範囲となるようにすることが好ましい。 【0068】 金属清浄剤中のナトリウムの含有量は、0.5?20質量%が好ましく、1?16質量%がより好ましく、2?14質量%が最も好ましい。これにより、適切な添加量で所望の効果を得ることができる。ナトリウムを有する金属清浄剤を使用する場合、その量は潤滑油組成物中に5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。 【0069】 [B]摩耗防止剤 摩耗防止剤は従来公知のものを使用することができる。中でも、リンを有する摩耗防止剤が好ましく、特には下記式で示されるジチオリン酸亜鉛(ZnDTP(ZDDPともいう))が好ましい。 【化1】 上記式において、R^(1)及びR^(2)は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1?26の一価炭化水素基である。一価炭化水素基としては、炭素数1?26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基;炭素数2?26のアルケニル基;炭素数6?26のシクロアルキル基;炭素数6?26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R^(1)及びR^(2)は、好ましくは炭素数2?12の、第1級または第2級アルキル基、炭素数8?18のシクロアルキル基、炭素数8?18のアルキルアリール基であり、各々、互いに同一であっても異なっていてもよい。特にはジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、第1級アルキル基は、炭素数3?12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数4?10である。第2級アルキル基は、炭素数3?12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数3?10である。上記ジチオリン酸亜鉛は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を組合せて使用してもよい。 【0070】 また、下記式(6)及び(7)で示されるホスフェート、ホスファイト系のリン化合物、並びにそれらの金属塩及びアミン塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を使用することもできる。 【化2】 上記一般式(6)中、R^(3)は炭素数1?30の一価炭化水素基であり、R^(4)及びR^(5)は互いに独立に、水素原子又は炭素数1?30の一価炭化水素基であり、mは0又は1である。 【化3】 上記一般式(7)中、R^(6)は炭素数1?30の一価炭化水素基であり、R^(7)及びR^(8)は互いに独立に水素原子又は炭素数1?30の一価炭化水素基であり、nは0又は1である。 【0071】 上記一般式(6)及び(7)中、R^(3)?R^(8)で表される炭素数1?30の一価炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。特には、炭素数1?30のアルキル基、又は炭素数6?24のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3?18のアルキル基、最も好ましくは炭素数4?15のアルキル基である。 【0072】 上記一般式(6)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1?30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸;上記炭素数1?30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1?30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物等が挙げられる。 【0073】 上記一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1?30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物等を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属(但し、モリブデンは除く)等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。 【0074】 潤滑油組成物中の摩耗防止剤の量は、組成物中に含まれるリンの量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。リンを含まない摩耗防止剤、例えばジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を使用する場合は、潤滑油組成物中0.1?5.0質量%、好ましくは0.2?3.0質量%であればよい。 【0075】 [C]摩擦調整剤 摩擦調整剤は従来公知のものを使用することができる。例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体等、或いは、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。前記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等が挙げられる。硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等が挙げられる。特にはモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の有機モリブデン化合物が好ましい。これらは、1分子中に異なる炭素数及び/又は異なる構造の炭化水素基を有する化合物を使用することもできる。 【0076】 モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は下記式[I]で表される化合物であり、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)は下記[II]で表される化合物である。 【化4】 【化5】 【0077】 上記一般式[I]および[II]において、R_(1)?R_(8)は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1?30の一価炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。該一価炭化水素基としては、炭素数1?30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2?30のアルケニル基;炭素数4?30のシクロアルキル基;炭素数6?30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アリールアルキル基において、アルキル基の結合位置は任意である。より詳細には、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3?8のアルキル基が好ましい。また、X_(1)およびX_(2)は酸素原子または硫黄原子であり、Y_(1)およびY_(2)は酸素原子または硫黄原子である。 【0078】 本発明の摩擦調整剤として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物も使用できる。該有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩等が挙げられる。中でも、モリブデン-アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。 【0079】 上記モリブデン-アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO_(3)・nH_(2)O)、モリブデン酸(H_(2)MoO_(4))、モリブデン酸アルカリ金属塩(M_(2)MoO_(4);Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NH_(4))_(2)MoO_(4)又は(NH_(4))_(6)[Mo_(7)O_(24)]・4H_(2)O)、MoCl_(5)、MoOCl_(4)、MoO_(2)Cl_(2)、MoO_(2)Br_(2)、Mo_(2)O_(3)Cl_(6)等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらのモリブデン化合物の中でも、モリブデン-アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。 【0080】 上記モリブデン-アミン錯体を構成するアミン化合物は、特に制限されない。例えば、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。さらに詳細には、炭素数1?30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン、及び炭素数2?30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン、炭素数1?30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン、炭素数1?30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン、またジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン、上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8?20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物、また、これらの化合物のアルキレンオキシド付加物、及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。 【0081】 上記モリブデン-アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4?30であり、最も好ましくは8?18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン-アミン錯体におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。 【0082】 モリブデン-コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン-アミン錯体の説明において例示した硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、後述する無灰分散剤の項で述べる炭素数40?400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4?39、好ましくは炭素数8?18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン-コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。 【0083】 有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン-アミン錯体の説明において例示したモリブデン酸化物、或いはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、上記一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物及びカルボン酸が好ましい。また、カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。 【0084】 一塩基酸としては、炭素数が通常2?30、好ましくは4?24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また、飽和のものでも不飽和のものでもよく、飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。また、一塩基酸として上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4?30、より好ましくは7?30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1?30、好ましくは炭素数1?20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0?3個、好ましくは1?2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられる。 【0085】 多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2?16の鎖状二塩基酸が好ましく挙げられる。 【0086】 アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン-アミン錯体の説明において例示した硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステル若しくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)等のいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン-アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)等が挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。 【0087】 さらに本発明の摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物も用いることができる。 【0088】 潤滑油組成物中の摩擦調整剤の量は、組成物中に含まれるモリブデンの量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。また、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)を使用する場合は、潤滑油組成物中に含まれるリン量の合計が上述した特定範囲を満たすような量とする。 【0089】 [D]無灰分散剤 本発明の潤滑油組成物は無灰分散剤を含有することにより清浄性を確保できる。無灰分散剤としては、炭素数40?500、好ましくは60?350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、或いはモノ又はビスコハク酸イミド(例えば、アルケニルコハク酸イミド)、炭素数40?500のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、或いは炭素数40?400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、或いはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類又は2種類以上を配合することができる。特に本発明においては、アルケニルコハク酸イミドを含有することが好ましい。 【0090】 上記コハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40?500のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100?200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。上記無灰分散剤として例示した含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1?30の、脂肪酸等のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2?30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2?6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物は、上述の基油と併用することで耐熱性を更に向上させることができる。 【0091】 本発明の潤滑油組成物における上記無灰分散剤の含有割合は、組成物全量基準で、窒素量として、通常0.005?0.4質量%、好ましくは0.01?0.3質量%、より好ましくは0.01?0.2質量%、最も好ましくは0.02?0.15質量%であるのがよい。また、無灰分散剤として、ホウ素含有無灰分散剤を、ホウ素を含有しない無灰分散剤と混合して使用することもできる。また、ホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、その含有割合は特に制限はないが、組成物中に含まれるホウ素量が、組成物全量基準で、好ましくは0.001?0.1質量%、より好ましくは0.003?0.05質量%、最も好ましくは0.005?0.04質量%であるのがよい。 【0092】 無灰分散剤の数平均分子量(Mn)は、2000以上であることが好ましく、より好ましくは2500以上、より一層好ましくは3000以上、最も好ましくは5000以上であり、また、15000以下であることが好ましい。無灰分散剤の数平均分子量が上記下限値未満では、分散性が十分でない可能性がある。一方、無灰分散剤の数平均分子量が上記上限値を超えると、粘度が高すぎ、流動性が不十分となり、デポジット増加の原因となる。 【0093】 [E]粘度指数向上剤 本発明の潤滑油組成物に含むことができる上記以外の添加剤として、粘度指数向上剤が挙げられる。該粘度指数向上剤としては例えば、ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン-ブタジエン水添共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、星状イソプレン等を含むものが挙げられる。 【0094】 粘度指数向上剤は通常上記ポリマーと希釈油とから成る。本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、ポリマー量として好ましくは0.01?20質量%であり、より好ましくは0.02?10質量%、最も好ましくは0.05?5質量%である。粘度指数向上剤の含有量が上記下限値より少なくなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化する恐れがある。一方、上記上限値よりも多くなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化する恐れがあり、更には、製品コストが大幅に上昇する。 【0095】 その他の添加剤 本発明の潤滑油組成物は、その性能を向上させるために、目的に応じてその他の添加剤をさらに含有することができる。その他の添加剤としては一般的に潤滑油組成物に使用されているものを使用できるが、例えば、酸化防止剤、上記[B]成分以外の摩耗防止剤(又は極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。 【0096】 酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。酸化防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1?5質量%で配合される。 【0097】 上記[B]成分以外の摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油組成物に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、硫黄-リン系の極圧剤等が使用できる。具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。該摩耗防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1?5質量%で配合される。 【0098】 腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。上記防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。腐食防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01?5質量%で配合される。 【0099】 流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。流動点降下剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01?3質量%で配合される。 【0100】 抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01?5質量%で配合される。 【0101】 金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01?3質量%で配合される。 【0102】 消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000?10万mm^(2)/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は、通常、潤滑油組成物中に0.001?1質量%で配合される。 【実施例】 【0103】 以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。 【0104】 潤滑油組成物の調製 以下に示す各成分を表1?3に記載の組成(全成分の合計質量(100質量%)に対する質量%)で混合することにより潤滑油組成物No.1?29を調製した。 [潤滑油基油] 基油の量は、該基油により潤滑油組成物の全量を100質量%とする量(残部)である。 ・基油1:水素化分解基油(鉱油)、粘度指数:125、100℃動粘度:4mm^(2)/s ・基油2:水素化分解基油(鉱油)、粘度指数:135、100℃動粘度:4mm^(2)/s ・基油3:水素化分解基油(鉱油)とポリ-α-オレフィンの混合物、粘度指数:125、100℃動粘度:4mm^(2)/s [添加剤] [A]金属清浄剤 金属清浄剤は、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量が表1?3に記載の量となるように配合した。 ・金属清浄剤1:カルシウムスルフォネート(全塩基価300mgKOH/g、カルシウム含有量12質量%) ・金属清浄剤2:カルシウムサリシレート(全塩基価350mgKOH/g、カルシウム含有量13質量%) ・金属清浄剤3:カルシウムサリシレート(全塩基価60mgKOH/g、カルシウム含有量2質量%) ・金属清浄剤4:マグネシウムスルフォネート(全塩基価400mgKOH/g、マグネシウム含有量9質量%) ・金属清浄剤5:カルシウムフェネート(全塩基価260mgKOH/g、カルシウム含有量9質量%) ・金属清浄剤6:マグネシウムサリシレート(全塩基価340mgKOH/g、マグネシウム含有量8質量%) [B]摩耗防止剤 摩耗防止剤は、潤滑油組成物中に含まれるリンの量が表1?3に記載の量となるように配合した。 ・摩耗防止剤1:sec-ZnDTP(第二級アルキルタイプ、C3、C6、P含有量8質量%) ・摩耗防止剤2:pri-ZnDTP(第一級アルキルタイプ、C8)とsec-ZnDTP(第二級アルキルタイプ、C3、C6)の混合物(P含有量8質量%) [C]摩擦調整剤 摩擦調整剤は、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの量が表1?3に記載の量となるように配合した。 ・摩擦調整剤1:MoDTC(Mo含有量10質量%、S含有量11質量%) ・摩擦調整剤2:アルキルチオカルバミドモリブデン錯体(Mo含有量6質量%、S含有量10質量%) [D]無灰分散剤 無灰分散剤は、潤滑油組成物中に含まれる窒素の量が表1?3に記載の量となるように配合した。 ・無灰分散剤1:ホウ素変性ポリイソブテニルコハク酸イミド(窒素含有量1.7質量%、ホウ素含有量0.4質量%、無灰分散剤の数平均分子量(Mn)6,000) ・無灰分散剤2:非ホウ素変性ポリイソブテニルコハク酸イミド(窒素含有量1.2質量%、無灰分散剤の数平均分子量(Mn)6,000) ・無灰分散剤3:ホウ素変性ポリイソブテニルコハク酸イミド(窒素含有量2.1質量%、ホウ素含有量0.02質量%、無灰分散剤の数平均分子量(Mn)3,000) [E]粘度指数向上剤 粘度指数向上剤は、潤滑油組成物中に含まれる下記ポリマーの量が表1?3に記載の量となるように配合した。 ・粘度指数向上剤1:オレフィンコポリマー(Mw 200,000)の含有量が10重量% ・粘度指数向上剤2:ポリメタアクリレート(Mw 300,000)の含有量が20重量% [その他の添加剤] ・酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤を含むパッケージ 【0105】 【表1】 【0106】 【表2】 【0107】 【表3】 【0108】 [第一の発明についての参考例及び参考比較例、並びに、実施例(第二の発明に包含されるもの)及び比較例] 上記で得た潤滑油組成物No.1?29各々について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、マグネシウムの濃度(質量%)[Mg]、モリブデンの濃度(質量%)[Mo]、リンの濃度(質量%)[P]、及び無灰分散剤に由来する窒素濃度(質量%)[N]を、下記式(1)?(3)に当てはめた。得られたX、Y、及びZの値を表4?6に記載する。 式(1):X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 式(2):Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] 式(3):Z=[N]/([Ca]+[Mg]) 【0109】 低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定 潤滑油組成物No.1?29各々を使用し、直列4気筒の過給ガソリン直噴エンジンを用い、1800回転、スロットル全開条件にて、各気筒に装着した燃焼圧センサを用いて1時間に発生するLSPIの回数を測定した。参考比較例1の潤滑油組成物(No.21)にて発生したLSPIの回数を1.0(基準)として算出したLSPI発生頻度(相対値)を表4?6に記載する。LSPI発生頻度が基準油(比較例1)の発生頻度の3分の1以下のものを合格とした。結果を表4?6に示す。 【0110】 ホットチューブテスト(高温清浄性の評価) 潤滑油組成物No.1?29各々について、JPI-5S-55-99に準拠してホットチューブテストを行った。試験方法の詳細を以下に記載する。 内径2mmのガラス管中に、潤滑油組成物を0.3ミリリットル/時で、空気を10ミリリットル/秒で、ガラス管の温度を280℃に保ちながら16時間流し続けた。ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較し、透明の場合は10点、黒の場合は0点として評点を付けた。評点が高いほど高温清浄性が良いことを示す。評点が3.5以上のものを合格とした。結果を表4?6に示す。 【0111】 【表4】 【0112】 【表5】 【0113】 【表6】 【0114】 潤滑油組成物No.1?20は、表4及び5に示す通り、潤滑油組成物中に含まれる、カルシウム、マグネシウム、リン、モリブデン、及び窒素の濃度(質量%)が、上記した第一の発明の要件を満たす。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性、特には高温清浄性を確保することができる。これに対し、潤滑油組成物No.21?29は、表6に示す通り、上記した第一の発明の要件を満たさない。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度の低下と清浄性の確保を両立することができない。 【0115】 [第二の発明について] 潤滑油組成物30?32の調製 上記した基油及び添加剤を下記表7に記載の組成(全成分の合計質量(100質量%)に対する質量%)で混合することにより、潤滑油組成物No.30?32を調製した。 【0116】 【表7】 【0117】 [実施例22、24?28、31、参考例21、23、29、30、32?34、比較例10?18、及び参考例1?8] 上記で調整した潤滑油組成物No.1?32各々について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、及びマグネシウムの濃度(質量%)[Mg]を、下記式(4)及び(5)に当てはめた。得られたQ及びWの値を表8?10及び表12?13に記載する。 式(4):Q=[Ca]+0.05[Mg] 式(5):W=[Ca]+1.65[Mg] 【0118】 防錆性の評価 潤滑油組成物No.1?32各々について、ASTM-D6557に準拠してBall Rust test(BRT)を行い、防錆性を評価した。測定により得られた平均グレー値が高いほど錆の形成が少ないことを示す。得られた値が100以上を合格とした。結果を表8?10及び表12?13に示す。 【0119】 硫酸灰分量の測定 潤滑油組成物No.1?32各々について、JIS K 2272「原油及び石油製品-灰分及び硫酸灰分試験方法」に準拠して、硫酸灰分量(質量%)を測定した。硫酸灰分量の値が3質量%以下を合格とした。結果を表8?10及び表12?13に示す。 【0120】 低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定及びホットチューブテスト 潤滑油組成物No.30?32について、上記した方法により、低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定及びホットチューブテストを行った。結果を表10に示す。 【0121】 【表8】 【0122】 【表9】 【0123】 【表10】 【0124】 潤滑油組成物No.5?7、11?16、19、20、及び30?32は、表8?10に示す通り、潤滑油組成物中のマグネシウム及びカルシウムの濃度(質量%)が、上記した第二の発明の要件を満たす。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度が低く、且つ、防錆性を確保することができる。 【0125】 尚、潤滑油組成物No.5?7、11?16、19、及び20は、上記表4及び5に示す通り、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、リン、モリブデン、及び窒素の濃度(質量%)が、上記した第一の発明の要件も満たす。従って、当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度が低く、清浄性を確保でき、且つ、防錆性を確保することもできる。すなわち本発明の第一の発明の課題に加え第二の発明の課題も達成する潤滑油組成物である。 【0126】 また、潤滑油組成物No.30?32について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、マグネシウムの濃度(質量%)[Mg]、モリブデンの濃度(質量%)[Mo]、リンの濃度(質量%)[P]、及び無灰分散剤に由来する窒素濃度(質量%)[N]を、上記式(1)?(3)に当てはめた。得られたX、Y、及びZの値を表11に記載する。 【0127】 【表11】 【0128】 表11に記載する通り、潤滑油組成物No.30?32は、式(1)で求められるXの値がX>-0.85である潤滑油組成物である。即ち、上記した第一の発明の要件は満たさない。潤滑油組成物No.30?32は、表10に示す通り、潤滑油組成物中のマグネシウム及びカルシウムの濃度(質量%)が、上記した第二の発明の要件を満たすため、LSPI発生頻度が低く、且つ、防錆性を確保することができる。 【0129】 【表12】 【0130】 【表13】 【0131】 潤滑油組成物No.21?29は、表12に示す通り、上記式(4)で示されるQ、及び上記式(5)で示されるWの少なくとも一方が第二の発明の要件を満たさない。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度の低下と防錆性の確保を両立することができない。 【0132】 潤滑油組成物No.1、2、4、8?10、17及び18は、表4及び5に示す通り第一の発明の要件は満たすが、表13に示す通り第二の発明の要件を満たさない。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度が低く、かつ清浄性は良好であるが、防錆性に劣る。すなわち、本発明の第一の発明の課題は達成されるが、第二の発明の課題は達成されない。 【0133】 [参考例9?11] 上記した基油及び添加剤を下記表14に記載の組成(質量%)で混合することにより潤滑油組成物No.33?35を調製した。 【0134】 【表14】 【0135】 上記潤滑油組成物No.33?35について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、マグネシウムの濃度(質量%)[Mg]、リンの濃度(質量%)[P]、モリブデンの濃度(質量%)[Mo]及び窒素の濃度(質量%)[N]を、上記式(1)?(5)に当てはめた。得られたX、Y、Z、Q及びWの値を下記表15に記載する。これらの潤滑油組成物について、上述した方法により低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定、ホットチューブテスト、防錆性評価、及び硫酸灰分量測定を行った。結果を下記表15に記載する。 【0136】 【表15】 【0137】 潤滑油組成物No.33?35は、表15に示す通り、LSPI発生頻度が低く清浄性及び防錆性が良好であるが、マグネシウムの量が多すぎることにより潤滑油組成物中の硫酸灰分の量が規定量を超えている。従って本発明の潤滑油組成物として好ましくない。 【産業上の利用可能性】 【0138】 上記した第一の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性、特には高温清浄性を確保することができる。また、上記した第二の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保することができる。これら本発明の潤滑油組成物は、特には内燃機関用の潤滑油組成物として、さらに特には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物として好適に使用できる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、 下記式(4) Q=[Ca]+0.05[Mg] (4) (上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるQが、Q≦0.15を満たし、 下記式(5) W=[Ca]+1.65[Mg] (5) (上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である) で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たし、 下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?0.41を満たす、過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項3】 さらにリンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるリンの濃度[P]が、[P]≦0.12質量%を満たす、請求項2記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項4】 さらにモリブデンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの濃度[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%を満たす、請求項2又は3のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項5】 モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-0.85を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たす、請求項2?4のいずれか1項に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項6】 潤滑油基油が100℃での動粘度2?15mm^(2)/sを有する、請求項2?5のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項7】 [A]カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の1種以上を含む、請求項2?6のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項8】 [B]リンを有する摩耗防止剤の1種以上を含む、請求項2?7のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項9】 [C]モリブデンを有する摩擦調整剤の1種以上を含む、請求項2?8のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項10】 [E]粘度指数向上剤の1種以上を含む、請求項2?9のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-07-04 |
出願番号 | 特願2016-168748(P2016-168748) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C10M)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 貴浩 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
井上 能宏 國島 明弘 |
登録日 | 2017-04-28 |
登録番号 | 特許第6134852号(P6134852) |
権利者 | トヨタ自動車株式会社 EMGルブリカンツ合同会社 |
発明の名称 | 潤滑油組成物 |
代理人 | 村上 博司 |
代理人 | 加藤 由加里 |
代理人 | 加藤 由加里 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 村上 博司 |
代理人 | 加藤 由加里 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 村上 博司 |