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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1343018 |
異議申立番号 | 異議2017-701237 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-26 |
確定日 | 2018-07-09 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6159463号発明「耐火性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6159463号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔5?9〕について訂正することを認める。 特許第6159463号の請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6159463号の請求項1?4及び6?9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6159463号(請求項の数9。以下,「本件特許」という。)は,平成28年11月28日(優先権主張:平成28年2月2日)を出願日とする特許出願(特願2016-230519号)の一部を,平成28年12月12日に新たな出願とした特許出願(特願2016-240612号)に係るものであって,平成29年6月16日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成29年7月5日である。)。 その後,平成29年12月26日に,本件特許の請求項1?9に係る特許に対して,特許異議申立人である中谷浩美(以下,「申立人中谷」という。)により,特許異議の申立て(以下,「申立てA」という。)がされた。 また,平成29年12月28日に,本件特許の請求項1?9に係る特許に対して,特許異議申立人である小川鐵夫(以下,「申立人小川」という。)により,特許異議の申立て(以下,「申立てB」という。)がされた。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。 平成29年12月26日 特許異議申立書(申立てA) 12月28日 特許異議申立書(申立てB) 平成30年 4月16日 取消理由通知書 6月 5日 意見書,訂正請求書 なお,平成30年6月5日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,後記第2で述べるように,請求項5の削除(及びその削除に合わせた,請求項6?8における引用請求項の削除)のみであるから,特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるといえる(特許法120条の5第5項ただし書)ので,申立人中谷及び申立人小川に意見書を提出する機会を与えなかった。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 本件訂正の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項5?9について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5」とあるのを,「請求項1?4」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6」とあるのを,「請求項1?4,6」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7」とあるのを,「請求項1?4,6,7」に訂正する。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項5を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2)訂正事項2?4について 訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項6における引用請求項について,「請求項1?5」を「請求項1?4」に訂正するものである。 訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項7における引用請求項について,「請求項1?6」を「請求項1?4,6」に訂正するものである。 訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項8における引用請求項について,「請求項1?7」を「請求項1?4,6,7」に訂正するものである。 これらの訂正は,上記の訂正事項1による請求項の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項5?9について,請求項6?9は,請求項5を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項5?9に対応する訂正後の請求項5?9は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。 3 まとめ 上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号又は3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。 第3 本件発明 前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?9に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。)。 【請求項1】 マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含み, 粒子形状が球状である無機充填材を含有することを特徴とする耐火性樹脂組成物。 【請求項2】 熱膨張性黒鉛と上記球状の無機充填剤の合計含有量が30重量%以上であり,かつ,熱膨張性黒鉛の含有量が15重量%以上であることを特徴とする,請求項1に記載の耐火性樹脂組成物 【請求項3】 前記球状の無機充填材として亜リン酸塩を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項4】 ポリリン酸塩をさらに含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 可塑剤をさらに含むことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項7】 マトリックス成分が塩化ビニル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1?4,6のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1?4,6,7のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物よりなる耐火性樹脂成形体。 【請求項9】 請求項8に記載の耐火性樹脂成形体を備えた建具。 第4 取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由 (1)申立人中谷による申立てAについて 本件発明1?9(本件訂正前の請求項1?9に係る発明に対応する。)は,下記ア?オのとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?9に係る特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記カの甲第1号証?甲第14号証(以下,申立ての記号を付してそれぞれ「甲1A」等という。)を提出する。 ア 取消理由1-1(進歩性) 本件発明1?9は,甲1Aに記載された発明及び周知技術(甲3A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 イ 取消理由1-2(進歩性) 本件発明1?9は,甲2Aに記載された発明並びに甲3A?8Aに記載された事項及び周知技術(甲9A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 ウ 取消理由2(実施可能要件) 本件発明5?9は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。 エ 取消理由3(サポート要件) 本件発明1?9は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。 オ 取消理由4(明確性要件) 本件発明1?9は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。 カ 証拠方法 ・甲1A 特開平9-227716号公報 ・甲2A 特開2000-43035号公報 ・甲3A 特開2006-117814号公報 ・甲4A 特開平9-22617号公報 ・甲5A 特開2015-36357号公報 ・甲6A 特開2002-156771号公報 ・甲7A 特開平5-140448号公報 ・甲8A 特開平10-139928号公報 ・甲9A 特開平8-245598号公報 ・甲10A 特開2001-348489号公報 ・甲11A 特開2011-225723号公報 ・甲12A 特開2013-116982号公報 ・甲13A 特開平2-251552号公報 ・甲14A 特開平3-152143号公報 (2)申立人小川による申立てBについて 本件発明1?9(本件訂正前の請求項1?9に係る発明に対応する。)は,下記ア?ケのとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?9に係る特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記コの甲第1号証?甲第19号証(以下,申立ての記号を付してそれぞれ「甲1B」等という。)を提出する。 ア 取消理由5-1(新規性) 本件発明1,2,4,7及び8は,甲1Bに記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。 イ 取消理由5-2(新規性) 本件発明1,2,4,7及び8は,甲2Bに記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。 ウ 取消理由5-1(新規性) 本件発明1,2,4及び6?8は,甲3Bに記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。 エ 取消理由6-1(進歩性) 本件発明1,2,4,5,7及び8は,甲1Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 オ 取消理由6-2(進歩性) 本件発明1,2,4,5,7及び8は,甲2Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 カ 取消理由6-3(進歩性) 本件発明1,2及び4?8は,甲3Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 キ 取消理由7(明確性要件) 本件発明1?9は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。 ク 取消理由8(実施可能要件) 本件発明1?9は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。 ケ 取消理由9(サポート要件) 本件発明1?9は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。 コ 証拠方法 ・甲1B 特開平9-227716号公報 ・甲2B 特開平9-227747号公報 ・甲3B 特開平10-95887号公報 ・甲4B-1 特開2016-89149号公報 ・甲4B-2 特開2010-242007号公報 ・甲5B 協和化学工業株式会社のウェブページ ・甲6B 特開2006-117814号公報 ・甲7B 特開昭62-89701号公報 ・甲8B 特開昭61-236859号公報 ・甲9B 特開昭63-130626号公報 ・甲10B 特開平9-316268号公報 ・甲11B 特開2001-288232号公報 ・甲12B 太平化学産業株式会社のウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲13B デンカ株式会社のウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲14B デンカ株式会社のウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲15B 楠本化成株式会社のウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲16B-1 株式会社トクヤマのウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲16B-2 株式会社トクヤマのウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲17B 「Product Guide for Energy」,日本電気硝子株式会社,2015年,p.1-14 ・甲18B 日本フリット株式会社のウェブページ[2017年12月28日検索] ・甲19B 「特集 熱可塑性エラストマー エチレン系共重合樹脂」,日本ゴム協会誌,1984年,57巻,11号,p.728-735 2 取消理由通知書に記載した取消理由 上記1の取消理由2(実施可能要件),取消理由8(実施可能要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの),取消理由4(明確性要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの)と同旨。 第5 当審の判断 本件特許の請求項5が本件訂正により削除された結果,同請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。 また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由通知書に記載した取消理由 (1)取消理由2(実施可能要件),取消理由8(実施可能要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの) ア 本件発明5について 上記のとおり,本件特許の請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下すべきものであるから,取消理由2(実施可能要件),取消理由8(実施可能要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの)について判断しない。 イ 本件発明6?9について 取消理由通知書では,本件訂正前の請求項6?9に係る発明のうち,同請求項5を引用するものについて,実施可能要件違反を指摘しているところ,同請求項5を引用する同請求項6?9に係る発明については,本件訂正により削除されたから,取消理由2(実施可能要件),取消理由8(実施可能要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの)は解消した。 (2)取消理由4(明確性要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの) ア 本件発明5について 上記のとおり,本件特許の請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下すべきものであるから,取消理由4(明確性要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの)について判断しない。 イ 本件発明6?9について 取消理由通知書では,本件訂正前の請求項6?9に係る発明のうち,同請求項5を引用するものについて,明確性要件違反を指摘しているところ,同請求項5を引用する同請求項6?9に係る発明については,本件訂正により削除されたから,取消理由4(明確性要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの)は解消した。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由 (1)取消理由1-1(進歩性) ア 甲1Aに記載された発明 甲1Aの記載(請求項1,【0005】,【0013】,実施例1?6,表1)によれば,甲1Aには,以下の発明が記載されていると認められる。 「熱可塑性樹脂に,リン化合物,中和処理された熱膨張性黒鉛,及び,無機充填剤を含有してなり,それぞれの含有量が,前記熱可塑性樹脂100重量部に対して,リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部,無機充填剤が50?500重量部,中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が,9:1?1:100である,耐火性樹脂組成物。」(以下,「甲1A発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1A発明とを対比すると,両者は, 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲1A発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点1の検討 a 本件発明1は,耐火性樹脂組成物に関するものである。本件明細書の記載(【0003】,【0005】,【0006】,【0016】,【0044】,【0045】,【0047】,実施例1?15,比較例1?4,表1?3)によれば,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において,加工時間が長くなると,熱膨張性黒鉛内成分が抜けてしまい,膨張倍率が低下してしまうが,その一方で,混練が不十分であると,無機充填材のバインダー樹脂への混ぜ込みが十分でなく,耐火材が脆くなったり,表面が汚くなったりするという問題があるところ,本件発明1は,このような問題を解決するために,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを使用するものであり,それにより,難燃性に優れ,かつ,表面仕上がり,強度にも優れる耐火性樹脂組成物を提供できるという効果を奏するものである。 b これに対して,甲1Aのほか,甲3A?14Aのいずれにも,本件発明1に関して上記aで述べた事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識(周知技術)であるともいえない。 そうすると,「粒子形状が球状である」無機充填材が知られていたとしても,甲1A発明において,上記問題を解決するために,無機充填剤として,「粒子形状が球状である」ものを使用することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲1Aに記載された発明及び周知技術(甲3A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2?4及び6?9について 本件発明2?4及び6?9は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲1Aに記載された発明及び周知技術(甲3A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?4及び6?9についても同様に,甲1Aに記載された発明及び周知技術(甲3A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1?4及び6?9は,いずれも,甲1Aに記載された発明及び周知技術(甲3A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1-1(進歩性)は理由がない。 したがって,取消理由1-1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由1-2(進歩性) ア 甲2Aに記載された発明 甲2Aの記載(請求項1,2,【0006】,【0008】?【0010】,実施例1?4,表1)によれば,甲2Aには,以下の発明が記載されていると認められる。 「熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質,リン化合物,中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤を混練してなる,耐火性樹脂組成物。」(以下,「甲2A発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2A発明とを対比すると,両者は, 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点2 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲2A発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点2の検討 本件発明1は,上記(1)イ(イ)aで述べたとおりのものであるところ,甲2Aのほか,甲3A?14Aのいずれにも,本件発明1に関して上記(1)イ(イ)aで述べた事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識(周知技術)であるともいえない。 そうすると,「粒子形状が球状である」無機充填材が知られていたとしても,甲2A発明において,上記(1)イ(イ)aで述べた問題を解決するために,無機充填剤として,「粒子形状が球状である」ものを使用することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲2Aに記載された発明並びに甲3A?8Aに記載された事項及び周知技術(甲9A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2?4及び6?9について 本件発明2?4及び6?9は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲2Aに記載された発明並びに甲3A?8Aに記載された事項及び周知技術(甲9A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?4及び6?9についても同様に,甲2Aに記載された発明並びに甲3A?8Aに記載された事項及び周知技術(甲9A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1?4及び6?9は,いずれも,甲2Aに記載された発明並びに甲3A?8Aに記載された事項及び周知技術(甲9A?14A)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1-2(進歩性)は理由がない。 したがって,取消理由1-2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 (3)取消理由3(サポート要件) 申立人中谷は,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の解決しようとする課題として,「難燃性に優れる」ことが記載されているものの(【0008】),本件発明1に係る耐火性樹脂組成物が難燃性に優れることについて,そのことを示すデータが示されておらず,また,合理的な説明も記載されていないから,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと主張する。また,本件発明2?4及び6?9についても同様に主張する。 しかしながら,本件発明1に係る耐火性樹脂組成物は,熱膨張性黒鉛を含有するものである以上,「難燃性に優れる」ことは,当業者にとって明らかである。本件明細書の発明の詳細な説明に,本件発明1に係る耐火性樹脂組成物が難燃性に優れることについて,そのことを示すデータが示されておらず,また,合理的な説明が記載されていないからといって,本件発明1について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということはできない。また,本件発明2?4及び6?9についても同様である。 よって,申立人中谷の主張は理由がない。 したがって,取消理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 (4)取消理由4(明確性要件)(うち,球状に関するもの),取消理由7(明確性要件) 申立人中谷は,本件明細書には,本件発明1における「球状」について,「球状とは,真球状であってもよく,球を扁平にした楕円球状であってもよく,又はこれらに類似した形状であってもよい。例えば,粒子の形状がランダム形状,立方形状,紡錘形状,繊維形状などの場合は,球状ではないと理解される。」(【0045】)と定義されているが,上記記載のうち,「これらに類似した形状」が,どのような形状まで含むものであるのか不明確であるから,本件発明1は明確でないと主張する。また,本件発明2?4及び6?9についても同様に主張する。 また,申立人小川は,本件明細書における「球状とは,アスペクト比が2以下であるもの,特に1.5以下のものをいう。アスペクト比とは,粒子の長軸と短軸の比率を表す。」(【0044】)との記載及び上記【0045】の記載を参酌すると,本件発明1における「球状」とは,真球状以外の形態をも含むものと解されるが,「ランダム形状,立方形状,紡錘形状,繊維形状」以外の形状であっても,アスペクト比が2以下のものには,一般的に「球状」ではないものが多く含まれており,「球状」の範囲が明確ではなく,また,「真球状」,「球を扁平にした楕円球状」に類似した形状についても同様であると主張する。 しかしながら,粒子形状を表す用語として,「球状」は,通常用いられる用語であり,当業者が「球状」と認識しうるものを意味することは,明らかである。また,本件明細書には,本件発明1における「球状」に関する説明が記載されているから(【0044】,【0045】),当業者は,本件発明1における「球状」がどのようなものであるのか理解できる。 そうすると,本件発明1について,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないから,本件発明1が明確でないということはできない。また,本件発明2?4及び6?9についても同様である。 よって,申立人中谷及び申立人小川の主張は,いずれも,理由がない。 したがって,取消理由4(明確性要件)(うち,球状に関するもの),取消理由7(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 (5)取消理由5-1(新規性) ア 甲1Bに記載された発明 甲1Bの記載(請求項1,【0005】,【0013】,実施例1?6,表1)によれば,甲1Bには,以下の発明が記載されていると認められる。 「熱可塑性樹脂に,リン化合物,中和処理された熱膨張性黒鉛,及び,無機充填剤を含有してなり,それぞれの含有量が,前記熱可塑性樹脂100重量部に対して,リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部,無機充填剤が50?500重量部,中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が,9:1?1:100である,耐火性樹脂組成物。」(以下,「甲1B発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1B発明とを対比すると,両者は, 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点3 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲1B発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点3の検討 a 甲1Bには,多数の無機充填剤が例示列挙されているが(【0023】),無機充填剤の粒子形状については,何ら記載されていない。 b 申立人小川は,甲1Bの実施例において無機充填剤として使用された「水酸化アルミニウム(B703S,日本軽金属社製)」(以下,単に「B703S」という。)は,甲4B-1及び4B-2によれば,本件発明1における「粒子形状が球状である無機充填材」に相当すると主張する。 しかしながら,以下に述べるとおり,申立人小川の主張は理由がない。 甲1Bには,B703Sについて,「粒子形状が球状である」ことは記載されていない。 甲4B-1には,制振材料用のポリアミド樹脂組成物に含まれる充填剤として,粒状充填剤を用いることができること(請求項1,【0043】),粒状充填剤とは,真球状の形態を呈するものだけでなく,ある程度断面楕円状や略長円状のものも含み,アスペクト比(粒状体の最長の直径/粒状体の最短の直径)が1以上2未満のものであり,1に近いものが好適であること(【0047】)が記載され,さらに,実施例では,粒状充填剤として,「水酸化アルミニウム;B703(日本軽金属社製,平均粒径:3.5μm,アスペクト比:1.5)」(以下,単に「B703」という。)を使用したこと(【0090】,表1?5)が記載されている。 確かに,甲4B-1における粒状充填剤には,概念上は,真球状等の「球状」のものが含まれるとはいえるものの,その実施例で使用されたB703が,実際に「球状」のものであるのかどうかは不明である。また,甲4B-2によっても,甲1Bの実施例で使用されたB703Sが,甲4B-1の実施例で使用されたB703を表面脂肪酸処理したものかどうかも不明であるから,仮に,B703が「球状」のものであったとしても,B703Sが「球状」のものであるということはできない。 以上のとおり,甲1Bの実施例で使用されたB703Sが,本件発明1における「粒子形状が球状である無機充填材」に相当すると認めるに足りる証拠はないから,申立人小川の主張は理由がない。 c 申立人小川は,甲1Bの実施例において無機充填剤として使用された「水酸化マグネシウム(キスマ5B,協和化学社製)」(以下,単に「キスマ5B」という。)は,甲5Bによれば,アスペクト比が2以下であるから,本件発明1における「粒子形状が球状である無機充填材」に相当すると主張する。 確かに,甲5Bには,協和化学工業株式会社製の「キスマ5」や「キスマ8」等と称する水酸化マグネシウム(製品)について記載されているとはいえるものの,甲5Bに示される写真が,キスマ5Bのものであるかどうかは明らかではない。また,その写真を見ても,「球状」のものであるとはいえない。そもそも,アスペクト比が2以下であるからといって,そのことのみをもって,その無機充填剤が「球状」のものであるということはできない。 以上のとおり,甲1Bの実施例で使用されたキスマ5Bが,本件発明1における「粒子形状が球状である無機充填材」に相当すると認めるに足りる証拠はないから,申立人小川の主張は理由がない。 d 以上のとおりであるから,相違点3は実質的な相違点である。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲1Bに記載された発明であるとはいえない。 ウ 本件発明2,4,7及び8について 本件発明2,4,7及び8は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲1Bに記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2,4,7及び8についても同様に,甲1Bに記載された発明であるとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1,2,4,7及び8は,いずれも,甲1Bに記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由5-1(新規性)は理由がない。 したがって,取消理由5-1(新規性)によっては,本件特許の請求項1,2,4,7及び8に係る特許を取り消すことはできない。 (6)取消理由5-2(新規性) ア 甲2Bに記載された発明 甲2Bの記載(請求項1,【0007】,【0014】,実施例1?5,表1)によれば,甲2Bには,以下の発明が記載されていると認められる。 「塩素含有量60?71重量%の塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂に,リン化合物,中和処理された熱膨張性黒鉛,及び,無機充填剤を含有してなり,それぞれの含有量が,前記塩素含有量60?71重量%の塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して,リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部,無機充填剤が30?500重量部,中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が,9:1?1:9である,耐火性塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。」(以下,「甲2B発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2B発明とを対比すると,両者は, 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点4 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲2B発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点4の検討 相違点4は,上記(5)イ(イ)で検討した相違点3と同様のものである。 甲2Bには,多数の無機充填剤が例示列挙されているが(【0024】),無機充填剤の粒子形状については,何ら記載されていない。 また,申立人小川は,上記(5)イ(イ)と同様の主張をしているが,既に述べたとおり,いずれも理由がない。 以上によれば,相違点4は実質的な相違点である。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲2Bに記載された発明であるとはいえない。 ウ 本件発明2,4,7及び8について 本件発明2,4,7及び8は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲2Bに記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2,4,7及び8についても同様に,甲2Bに記載された発明であるとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1,2,4,7及び8は,いずれも,甲2Bに記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由5-2(新規性)は理由がない。 したがって,取消理由5-2(新規性)によっては,本件特許の請求項1,2,4,7及び8に係る特許を取り消すことはできない。 (7)取消理由5-3(新規性) ア 甲3Bに記載された発明 甲3Bの記載(請求項1,【0007】,【0021】,実施例1?12,表1,3)によれば,甲3Bには,以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリ塩化ビニル系樹脂に,リン化合物,中和処理された熱膨張性黒鉛,及び,無機充填剤を含有してなり,それぞれの含有量が,前記ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して,リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部,無機充填剤が30?500重量部,中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が,9:1?1:9である,耐火性ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。」(以下,「甲3B発明」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3B発明とを対比すると,両者は, 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点5 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲3B発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点5の検討 相違点5は,上記(5)イ(イ)で検討した相違点3と同様のものである。 甲3Bには,多数の無機充填剤が例示列挙されているが(【0031】),無機充填剤の粒子形状については,何ら記載されていない。 また,申立人小川は,上記(5)イ(イ)と同様の主張をしているが,既に述べたとおり,いずれも理由がない。 以上によれば,相違点5は実質的な相違点である。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲3Bに記載された発明であるとはいえない。 ウ 本件発明2,4及び6?8について 本件発明2,4及び6?8は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が甲3Bに記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2,4及び6?8についても同様に,甲3Bに記載された発明であるとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1,2,4及び6?8は,いずれも,甲3Bに記載された発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由5-3(新規性)は理由がない。 したがって,取消理由5-3(新規性)によっては,本件特許の請求項1,2,4及び6?8に係る特許を取り消すことはできない。 (8)取消理由6-1(進歩性) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1B発明とを対比すると,両者は,上記(5)イ(ア)のとおり,以下の一致点で一致し,以下の相違点3で相違する。 ・一致点 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 ・相違点3 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲1B発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点3の検討 本件発明1は,上記(1)イ(イ)aで述べたとおりのものであるところ,甲1Bのほか,甲6B?11B及び18Bのいずれにも,本件発明1に関して上記(1)イ(イ)aで述べた事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識(周知技術)であるともいえない。 そうすると,「粒子形状が球状である」無機充填材が知られていたとしても,甲1B発明において,上記(1)イ(イ)aで述べた問題を解決するために,無機充填剤として,「粒子形状が球状である」ものを使用することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲1Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2,4,7及び8について 本件発明2,4,7及び8は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲1Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2,4,7及び8についても同様に,甲1Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1,2,4,7及び8は,いずれも,甲1Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由6-1(進歩性)は理由がない。 したがって,取消理由6-1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2,4,7及び8に係る特許を取り消すことはできない。 (9)取消理由6-2(進歩性) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2B発明とを対比すると,両者は,上記(6)イ(ア)のとおり,以下の一致点で一致し,以下の相違点4で相違する。 ・一致点 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 ・相違点4 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲2B発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点4の検討 本件発明1は,上記(1)イ(イ)aで述べたとおりのものであるところ,甲2Bのほか,甲6B?11B及び18Bのいずれにも,本件発明1に関して上記(1)イ(イ)aで述べた事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識(周知技術)であるともいえない。 そうすると,「粒子形状が球状である」無機充填材が知られていたとしても,甲2B発明において,上記(1)イ(イ)aで述べた問題を解決するために,無機充填剤として,「粒子形状が球状である」ものを使用することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲2Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2,4,7及び8について 本件発明2,4,7及び8は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲2Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2,4,7及び8についても同様に,甲2Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1,2,4,7及び8は,いずれも,甲2Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由6-2(進歩性)は理由がない。 したがって,取消理由6-2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2,4,7及び8に係る特許を取り消すことはできない。 (10)取消理由6-3(進歩性) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3B発明とを対比すると,両者は,上記(7)イ(ア)のとおり,以下の一致点で一致し,以下の相違点5で相違する。 ・一致点 「マトリックス成分,熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において, 前記マトリックス成分が,熱可塑性樹脂を含む,耐火性樹脂組成物。」 ・相違点5 本件発明1では,無機充填材として,「粒子形状が球状である」ものを含有するのに対して,甲3B発明では,粒子形状が特定されていない点。 (イ)相違点5の検討 本件発明1は,上記(1)イ(イ)aで述べたとおりのものであるところ,甲3Bのほか,甲6B?11B及び18Bのいずれにも,本件発明1に関して上記(1)イ(イ)aで述べた事項については,何ら記載されておらず,また,技術常識(周知技術)であるともいえない。 そうすると,「粒子形状が球状である」無機充填材が知られていたとしても,甲3B発明において,上記(1)イ(イ)aで述べた問題を解決するために,無機充填剤として,「粒子形状が球状である」ものを使用することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。 (ウ)小括 したがって,本件発明1は,甲3Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2,4及び6?8について 本件発明2,4及び6?8は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲3Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2,4及び6?8についても同様に,甲3Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ まとめ 以上のとおり,本件発明1,2,4及び6?8は,いずれも,甲3Bに記載された発明及び周知技術(甲6B?11B,18B)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由6-3(進歩性)は理由がない。 したがって,取消理由6-3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1,2,4及び6?8に係る特許を取り消すことはできない。 (11)取消理由8(実施可能要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの以外のもの),取消理由9(サポート要件) 申立人小川は以下のア?エのとおり主張し,本件発明1?9は,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものではなく,また,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものではないと主張するので,以下,検討する。 ア 申立人小川は,本件明細書の発明の詳細な説明には,「略真球状」以外の形状の無機充填材を使用したものが,本件発明1の作用効果を奏することについて記載されていないと主張する。 しかしながら,「略真球状」以外の形状の無機充填材でも,その球状の程度に応じて,所定の効果を奏することは,当業者であれば理解できるといえる。 イ 申立人小川は,樹脂組成物の難燃性,表面仕上がり,強度は,通常,熱可塑性樹脂に対する無機充填材の含有量に大きく依存するものであるところ,実施例では,マトリックス成分100重量部に対して,無機充填材を,それぞれ,50重量部,75重量部,100重量部,40重量部,20重量部含有させたものに限られており,無機充填材の含有量が100重量部より多い場合や20重量部より少ない場合にも,本件発明1の効果を奏するか否か不明であると主張するとともに,球状の無機充填材の含有量が,40重量部(実施例14),20重量部(実施例15)の場合は,ランダム形状の無機充填材と併用した場合のみであり,球状の無機充填材のみを40重量部又は20重量部含有させた場合や,ランダム形状の無機充填材の含有量を増やした場合,他の「球状」以外の形状の無機充填材を含有させた場合にも,本件発明1の効果を奏するか否か不明であると主張する。 しかしながら,球状の無機充填材の含有量に応じて,所定の効果を奏すること,また,球状以外の形状の無機充填材を含有する場合であっても,球状の無機充填材の含有量に応じて,所定の効果を奏することは,当業者であれば理解できるといえる。 ウ 申立人小川は,実施例は,すべて,軟質の樹脂を用いた場合のみを例示しており,硬質の樹脂を用いた場合にも,本件発明1の効果を奏することについては,何ら示されていないと主張する。 しかしながら,本件発明1に係る耐火性樹脂組成物は,熱可塑性樹脂を含有するものであるが,その熱可塑性樹脂の可塑性の程度に応じて,所定の効果を奏することは,当業者であれば理解できるといえる。そして,熱可塑性樹脂の種類により,必要に応じて可塑剤を用いることは,技術常識にすぎない(本件発明1は,このような場合を排除していない。)。 エ 申立人小川は,本件発明4は,「ポリリン酸塩をさらに含む」ものであるが,ポリリン酸塩を含む実施例は例示されておらず,ポリリン酸塩を含有させた場合に,本件発明4の効果を奏するか否かは不明であり,仮に,ポリリン酸塩を含有させることによって,本件発明4の効果を奏するとしても,通常,樹脂組成物に物質を含有させる場合には,その含有量による影響が大きいと解されるところ,本件明細書には,ポリリン酸塩の含有量について記載がなく,どの程度含有させることで,本件発明4の効果を奏するかについても不明であると主張する。 しかしながら,ポリリン酸塩は,難燃剤として周知のものであり,その効果も周知のものである。本件発明1に係る耐火性樹脂組成物において,さらにポリリン酸塩を含有すれば,その含有量に応じて,当該効果が得られるとともに,球状の無機充填材の含有量に応じて,所定の効果を奏することは,実施例がなくとも,当業者であれば理解できるといえる。 以上のとおりであるから,申立人小川の主張は,いずれも,理由がない。 したがって,取消理由8(実施可能要件)(うち,本件発明5?9に対するアスペクト比の測定方法に関するもの以外のもの),取消理由9(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり,本件特許の請求項5が本件訂正により削除された結果,同請求項5に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。 また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項1?4及び6?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 マトリックス成分、熱膨張性黒鉛及び無機充填材を含有する耐火性樹脂組成物において、 前記マトリックス成分が、熱可塑性樹脂を含み、 粒子形状が球状である無機充填材を含有することを特徴とする耐火性樹脂組成物。 【請求項2】 熱膨張性黒鉛と上記球状の無機充填剤の合計含有量が30重量%以上であり、かつ、熱膨張性黒鉛の含有量が15重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の耐火性樹脂組成物 【請求項3】 前記球状の無機充填材として亜リン酸塩を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項4】 ポリリン酸塩をさらに含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項5】(削除) 【請求項6】 可塑剤をさらに含むことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項7】 マトリックス成分が塩化ビニル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1?4、6のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1?4、6、7のいずれか1項に記載の耐火性樹脂組成物よりなる耐火性樹脂成形体。 【請求項9】 請求項8に記載の耐火性樹脂成形体を備えた建具。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-06-28 |
出願番号 | 特願2016-240612(P2016-240612) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L) P 1 651・ 536- YAA (C08L) P 1 651・ 121- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 楠 祐一郎、海老原 えい子 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 井上 猛 |
登録日 | 2017-06-16 |
登録番号 | 特許第6159463号(P6159463) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 耐火性樹脂組成物 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 虎山 滋郎 |