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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1343027
異議申立番号 異議2018-700336  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-23 
確定日 2018-08-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6223786号発明「硬脆材料用研磨液組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6223786号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6223786号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年11月12日に特許出願され、平成29年10月13日に特許権の設定登録がなされ、平成29年11月1日に特許公報が発行され、平成30年4月23日に、その特許に対し、特許異議申立人である和田直人により特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本1発明」?「本6発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
平均一次粒子径が80?500nmである大粒径シリカ粒子(成分A)と、平均一次粒子径が5?70nmである小粒径シリカ粒子(成分B)と、有機酸及び/又はキレート剤(成分C)と、水系媒体(成分D)とを混合してなり、
前記大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)が、0.6?1.4であり、
前記大粒径シリカ粒子と前記小粒径シリカ粒子のSiO_(2)換算モル数の合計に対する有機酸及び/又はキレート剤(成分C)のモル数の比(成分Cのモル数/成分Aと成分Bのモル数の合計)が0.0005?0.01である、硬脆材料用研磨液組成物。
【請求項2】
上記有機酸及び/又はキレート剤(成分C)が、1分子内に2個以上のカルボキシル基を有する有機酸である、請求項1に記載の硬脆材料用研磨液組成物。
【請求項3】
25℃におけるpHが9.0?11.5である、請求項1又は2に記載の硬脆材料用研磨液組成物。
【請求項4】
流体密度が1.0g/cm^(3)、流体粘度が1cpsの分散媒中に分散された、粒子密度が2.2g/cm^(3)、粒子径が80nm以上の粒子のみを沈殿可能とする遠心条件で遠心分離を行った場合に沈殿する沈殿シリカ粒子(成分X)と、前記遠心条件で遠心分離を行っても沈殿しない浮遊シリカ粒子(成分Y)と、有機酸及び/又はキレート剤(成分C)と、水系媒体(成分D)とを含み、
前記沈殿シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(p)と前記浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)との比(d/p)が、0.5?1.05であり、
前記沈殿シリカ粒子と前記浮遊シリカ粒子のモル数の合計に対する有機酸及び/又はキレート剤(成分C)のモル数の比(成分Cのモル数/成分Xと成分Yのモル数の合計)が0.0005?0.01である、硬脆材料用研磨液組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかの項に記載の硬脆材料用研磨液組成物を用いて被研磨硬脆材料を研磨する工程を含む、硬脆材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1?4のいずれかの項に記載の硬脆材料用研磨液組成物を用いて被研磨硬脆材料を研磨する工程を含む、硬脆材料の研磨方法。」

3.特許異議申立の概要及び提出した証拠
(1)申立ての理由1
本件請求項1?6に係る発明は、甲第1号証記載の発明及び周知技術(甲第1号証?甲第5号証)から容易想到であるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(2)証拠方法
甲第1号証:特開2004-146780号公報
甲第2号証:特開2006-80406号公報
甲第3号証:特開2001-342455号公報
甲第4号証:国際公開第2013/133198号
甲第5号証:特開2012-25873号公報

4.甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1?4
「【請求項1】水系媒体と研磨粒子を含んでなる研磨液組成物であって、該研磨粒子中における粒子径2?200nmの研磨粒子含有量が50体積%以上であり、該研磨粒子として粒子径が2?58nm未満の小粒径研磨粒子を粒子径2?200nmの研磨粒子全量中40?75体積%含有し、粒子径が58?75nm未満の中粒径研磨粒子を粒子径2?200nmの研磨粒子全量中0?50体積%含有し、粒子径が75?200nmの大粒径研磨粒子を粒子径2?200nmの研磨粒子全量中10?60体積%含有する研磨液組成物。
【請求項2】水系媒体と研磨粒子を含んでなる研磨液組成物であって、研磨粒子が平均粒子径が2?50nmである研磨粒子群(A)と、平均粒子径が52?200nmである研磨粒子群(B)とを含み、AとBの重量比(A/B)が0.5/1?4.5/1である、研磨液組成物。
【請求項3】被研磨面が半導体基板の面である請求項1又は2記載の研磨液組成物。
【請求項4】研磨粒子が二酸化ケイ素である請求項1?3いずれか記載の研磨液組成物。」

摘記1b:段落0023、0026?0027及び0032
「【0023】態様1及び2において、研磨液組成物中の研磨粒子の含有量は、下限は研磨速度の観点、上限は分散安定性やコストの観点から、1?50重量%が好ましく、3?40重量%がより好ましく、5?30重量%が特に好ましい。…
【0026】態様1及び2の研磨液組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、pH調整剤、分散安定化剤、酸化剤、キレート剤、防腐剤等が挙げられる。
【0027】pH調整剤としては、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水溶性有機アミン等の塩基性物質、酢酸、シュウ酸、コハク酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸及び、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等の酸性物質が挙げられる。なお、シュウ酸とコハク酸はキレート剤としても使用し得る。…
【0032】態様1及び2の研磨液組成物のpHは、被研磨物の種類や要求品質等に応じて適宜決定することが好ましい。例えば、該研磨液組成物のpHは、被研磨物の洗浄性及び加工機械の腐食防止性、作業者の安全性の観点から、2?12が好ましい。また、被研磨物が半導体ウエハや半導体素子等の研磨、特にシリコン基板、ポリシリコン基板、酸化珪素膜等の研磨に用いる場合は、研磨速度向上と表面品質の向上の観点から、7?12がより好ましく、8?12がさらに好ましく、9?12が特に好ましい。該pHは、必要により、先に挙げたpH調整剤を適宜、所望量を配合することで調整することができる。」

摘記1c:段落0041?0043及び0047?0048
「【0041】
【実施例】実施例1?5及び比較例1?4
研磨粒子として、表1に記載のシリカ粒子を用いた。
【0042】【表1】

【0043】
本発明の研磨液組成物を得るために、表1記載のシリカ粒子および水を用いて、表2及び表3に記載の研磨粒子濃度を有する研磨液組成物(残部は水)を調製した。また、pHが10.5?11.5になるように水酸化カリウム水溶液で調整した。表2に記載された研磨粒子濃度は、下記研磨装置条件および研磨速度測定方法により、研磨速度が約2300(Å/min)〔230nm/min〕になるように決定した。…
【0047】【表2】

【0048】【表3】



(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1?3
「【請求項1】水系分散媒に、真球度が0.9以上、1.0以下の範囲にある球状粒子と該球状粒子に相当しない非球状粒子とが分散してなる研磨用組成物であって、非球状粒子に対する球状粒子の重量比が2/98?35/65の範囲にある研磨用組成物。
【請求項2】前記球状粒子と非球状粒子がシリカ粒子である請求項1記載の研磨用組成物。
【請求項3】前記球状粒子の平均粒子径が20?150nmの範囲にあり、前記非球状粒子の平均粒子径が5?100nmの範囲にある請求項1または2記載の研磨用組成物。」

摘記2b:段落0026、0034及び0044
「【0026】…この他添加可能な添加剤として、例えば、金属被研磨材表面に不動態層あるいは溶解抑制層を形成して基材の浸食を防止するためにイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール等を用いることができる。また、上記不動態層を攪乱するためにクエン酸、乳酸、酢酸、シュウ酸などの錯体形成剤を用いることもできる。…
【0034】非球状粒子からなるシリカゾルF(平均粒子径17nm、固形分20重量%)を350部と、球状粒子からなるシリカゾルC(平均粒子径80nm、固形分40重量%)を75部と、純水75部とを配合して、非球状粒子に対する球状粒子の重量比が30/70の研磨用組成物(固形分濃度20重量%)を調製した。この研磨用組成物中の塩基性不純物の濃度は、SiO_(2)に対して100ppm未満だった。
この研磨用組成物を用いて前記研磨試験を実施した。研磨速度を測定した結果を表1に示すが、表1中「研磨レート比」はシリカゾルCのみからなる研磨用組成物(後記比較例2における30分後の研磨速度)の研磨速度を1.0としたときの相対値を示す。…
【0044】[表1]
実施例NO シリカゾルの種類(重量部) 研 磨 レ ー ト 比
球状粒子 非球状粒子 30分後 60分後 120分後
実施例1 C(30) F(70) 1.02 0.84 0.77
実施例2 C(10) F(90) 1.34 1.45 1.47
実施例3 C( 8) F(92) 1.62 1.51 1.59
実施例4 C( 5) F(95) 1.77 1.56 1.44
実施例5 C( 3) F(97) 1.66 1.56 1.47
実施例6 B(30) F(70) 1.01 0.75 0.54
比較例1 C(40) F(60) 0.91 0.68 0.42
比較例2 C(100) - 1.00 0.70 0.43
比較例3 - F(100) 0.89 0.65 0.41
比較例4 B(100) - 0.62 0.42 0.35」

(3)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:請求項7、11及び13
「【請求項7】第一のコロイダルシリカに対して、該第一のコロイダルシリカとは平均粒度が異なる第二のコロイダルシリカの少なくとも1種を添加、含有せしめると共に、更に、キレート性化合物を研磨促進剤として添加、含有せしめてなることを特徴とする硬脆材料用精密研磨組成物。…
【請求項11】前記第一のコロイダルシリカの平均粒子径が30?60nmである一方、前記第二のコロイダルシリカの平均粒子径が5?22nmまたは80?100nmであり、且つ該第一のコロイダルシリカと該第二のコロイダルシリカとが固形分の重量比で60?80%と40?20%の割合となるように用いられている請求項4、請求項7、請求項8、請求項9または請求項10に記載の硬脆材料用精密研磨組成物。…
【請求項13】前記研磨促進剤が、0.1?5.0重量%の割合において含有せしめられている請求項5、請求項6、請求項7、請求項9または請求項12に記載の硬脆材料用精密研磨組成物。」

摘記3b:段落0045及び0051
「【0045】そして、そのような2種以上の平均粒度の異なるコロイダルシリカを組み合わせるに際しては、それらのコロイダルシリカ中の固形分の含有割合は、要求される研磨特性等を考慮して、適宜に決定されることとなるのであるが、ベース研磨材としての固形分量10?50重量%の第一のコロイダルシリカに対して、第二のコロイダルシリカを、それら第一のコロイダルシリカと第二のコロイダルシリカを合わせた全固形分量が20?60重量%の割合で含有せしめることが、好ましく、更には、20?50重量%となるように配合することがより望ましいのである。…
【0051】そして、上述の如きキレート性化合物は、0.1?5.0重量%の割合で添加されることが好ましく、より好ましくは、0.5?3.0重量%の配合割合が良い。けだし、かかる配合割合が、0.1重量%より少ない場合には、研磨速度の向上は発現されず、5.0重量%より多い場合には、コストの上昇を招くばかりでなく、それに見合うだけの効果が得られないからである。」

(4)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1及び4
「[請求項1]化合物半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、砥粒と水とを含有し、砥粒のうち50質量%以上が粒子径40nm以上80nm以下の粒子Aからなり、且つ砥粒のうち10質量%以上が粒子径150nm以上300nm以下の粒子Bからなることを特徴とする研磨用組成物。…
[請求項4]pH調整剤を更に含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。」

摘記4b:段落0026及び0039
「[0026]pH調整剤として使用できる酸としては、…上記有機酸のなかでもクエン酸、シュウ酸、又は酒石酸を用いることが好ましい。…
[0039]上記の効果が得られる詳細な機構は明らかではないが、砥粒と研磨対象物との間に生じる相互作用エネルギーの増大に基づくものであると考えられる。一般的に、砥粒による研磨対象物の機械的加工は、砥粒と研磨対象物との間の摩擦力によってもたらされる。この摩擦力の大きさは、砥粒と研磨対象物との間に生じる相互作用エネルギーの大きさに依存する。砥粒の粒子径が大きいほど、研磨対象物に接触する砥粒中の分子の数が多くなるため、砥粒1個あたりの相互作用エネルギーは大きくなる。しかし、研磨用組成物中に粒子径の大きい砥粒を多数含有させた場合、研磨用組成物中における砥粒の分散安定性を確保することは難しい。その理由は、好適な相互作用エネルギーを得るために十分な大きさの粒子径をもつ砥粒を研磨用組成物中に多数含有させると、砥粒が凝集して研磨用組成物のゲル化を招くおそれがあるためである。そのため、砥粒の粒子径を大きくすることによって研磨速度を向上させる手法には限界がある。」

摘記4c:段落0061
「[0061][表3]



(5)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「【請求項1】複数種の研磨剤組成物を順次供給されている対象物の表面を同一の研磨パッドで擦る研磨方法において、前記複数種の前記研磨剤組成物のうちの一種の前記研磨剤組成物として用いられて、前記複数種の前記研磨剤組成物のうちの研磨材を含む前記研磨剤組成物の後に前記対象物の前記表面に供給され、
コロイダルシリカと酸と水とを含み、
前記コロイダルシリカは、Heywood径で測定された体積基準の粒度分布における粒子径50nmの累積体積頻度が35%以上かつ前記粒度分布における粒子径15nmの累積体積頻度が90%以下である研磨剤組成物。」

摘記5b:段落0022
「【0022】また、粒子径50nm以下のコロイダルシリカの粒子が相当な数を確保されていることによって、あるコロイダルシリカと対象物の表面との間の隙間にさらに別の小さい粒子径のコロイダルシリカが入り込む状態が生じやすくなっている。これにより、コロイダルシリカと対象物の表面との隙間に研磨材などの残留物がより逃げ込みにくくなって、コロイダルシリカと残留物との衝突もより生じやすくなる。その結果、残留物は対象物の表面から除去されやすくなる。」

5.判断
(1)甲第1号証に記載された発明
摘記1aの請求項1、2及び請求項1、2を引用する請求項4の記載からみて、甲第1号証には、
『水系媒体と二酸化ケイ素の研磨粒子を含んでなる研磨液組成物であって、該研磨粒子中における粒子径2?200nmの研磨粒子含有量が50体積%以上であり、該研磨粒子として粒子径が2?58nm未満の小粒径研磨粒子を粒子径2?200nmの研磨粒子全量中40?75体積%含有し、粒子径が58?75nm未満の中粒径研磨粒子を粒子径2?200nmの研磨粒子全量中0?50体積%含有し、粒子径が75?200nmの大粒径研磨粒子を粒子径2?200nmの研磨粒子全量中10?60体積%含有する研磨液組成物。』についての発明(以下「甲1発明の1」という。)、及び
『水系媒体と二酸化ケイ素の研磨粒子を含んでなる研磨液組成物であって、研磨粒子が平均粒子径が2?50nmである研磨粒子群(A)と、平均粒子径が52?200nmである研磨粒子群(B)とを含み、AとBの重量比(A/B)が0.5/1?4.5/1である、研磨液組成物。』についての発明(以下「甲1発明の2」という。)が記載されているといえる(特許異議申立書の第16第9?22行)。

(2)本1発明について
ア.甲1発明の1との対比・判断
(ア)対比
本1発明と甲1発明の1とを対比する。
甲1発明の1の「粒子径が2?58nm未満の小粒径研磨粒子」と、本1発明の「平均一次粒子径が5?70nmである小粒径シリカ粒子(成分B)」とは、甲1発明の1の「研磨粒子」は二酸化ケイ素であるから、「小粒径シリカ粒子」である点において共通する。なお、「シリカ」と「二酸化ケイ素」は同義である。
甲1発明の1の「粒子径が75?200nmの大粒径研磨粒子」と、本1発明の「平均一次粒子径が80?500nmである大粒径シリカ粒子(成分A)」とは、甲1発明の1の「研磨粒子」は二酸化ケイ素であるから、「大粒径シリカ粒子」である点において共通する。
そして、甲1発明の1の「水系媒体」及び「研磨液組成物」は、本1発明の「水系媒体(成分D)」及び「研磨液組成物」にそれぞれ相当する。
甲1発明の1の「研磨粒子」には、本1発明の「大粒径シリカ粒子(成分A)」と「小粒径シリカ粒子(成分B)」が含まれるから、甲1発明の「水系媒体と二酸化ケイ素の研磨粒子を含」む構成は、本1発明の「大粒径シリカ粒子(成分A)と」「小粒径シリカ粒子(成分B)と」「水系媒体(成分D)とを混合してな」る構成に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明の1は、『大粒径シリカ粒子(成分A)と、小粒径シリカ粒子(成分B)と、水系媒体(成分D)とを混合してなる、研磨液組成物。』である点で一致し、次の〔相違点α〕?〔相違点δ〕において相違する。

〔相違点α〕大粒径シリカ粒子と小粒径シリカ粒子のそれぞれの平均一次粒子径が、本1発明においては、大粒径シリカ粒子について「80?500nm」であり、小粒径シリカ粒子について「5?70nm」であるのに対して、甲1発明の1においては、大粒径研磨粒子及び小粒径研磨粒子の平均一次粒子径は不明な点。

〔相違点β〕大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)が、本1発明においては「0.6?1.4」であるのに対して、甲1発明の1においては、大粒径研磨粒子の乾燥粒子間空隙径(P)は不明であり、上述したように小粒径研磨粒子の平均一次粒子径(D)も不明であって、比(D/P)は不明である点。

〔相違点γ〕大粒径シリカ粒子(成分A)と小粒径シリカ粒子(成分B)のSiO_(2)換算モル数の合計に対する有機酸及び/又はキレート剤(成分C)のモル数の比(成分Cのモル数/成分Aと成分Bのモル数の合計)が、本1発明においては「0.0005?0.01」であるように混合されるのに対して、甲1発明の1においては、本1発明の「有機酸及び/又はキレート剤(成分C)」に相当する成分が必須でない点。

〔相違点δ〕研磨液組成物の用途が、本1発明は「硬脆材料用」であるのに対して、甲1発明の1は「硬脆材料用」かどうか不明な点。

(イ)判断
事案に鑑み、上記〔相違点α〕及び〔相違点β〕についてまとめて検討する。
甲1発明の1の「大粒径研磨粒子」と「小粒径研磨粒子」のそれぞれの平均一次粒子径は不明というほかない。

したがって、上記〔相違点α〕及び〔相違点β〕は、実質的な相違点である。

また、甲第1号証?甲第5号証の記載からは、甲1発明の1の「大粒径研磨粒子」と「小粒径研磨粒子」の平均一次粒子径を、それぞれ、「80?500nm」、「5?70nm」の範囲のものとする動機付けは見出すことができない〔相違点α〕。

そして、甲第2号証?甲第5号証のいずれにも、大粒径の研磨粒子の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径の研磨粒子の平均一次粒子径(D)との比(D/P)を、0.6?1.4の範囲のものとすることは示されておらず、甲1発明の1の「大粒径研磨粒子」と「小粒径研磨粒子」のそれぞれの平均一次粒子径を上記〔相違点α〕に係る本1発明の範囲のものとした上で、さらに、大粒径研磨粒子の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径研磨粒子の平均一次粒子径(D)との比(D/P)を、0.6?1.4の範囲のものとする動機付けも見出すことができない〔相違点β〕。

一方、本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0020】大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)が、0.6?1.4であれば、研磨の最中に、大粒径シリカ粒子の粒子間空隙に小粒径シリカ粒子が効率良く充填されて、シリカ粒子全体の充填率が向上するため、シリカ粒子と被研磨対象物との総接触面積が増大し、その結果、研磨速度が向上したと推察される。」

そうすると、本1発明は、特に、上記〔相違点β〕に係る発明特定事項を備えることにより、「研磨の最中に、大粒径シリカ粒子の粒子間空隙に小粒径シリカ粒子が効率良く充填されて、シリカ粒子全体の充填率が向上」させることができ、そのため、「シリカ粒子と被研磨対象物との総接触面積が増大し、その結果、研磨速度が向上した」ものといえるものであって、甲1発明の1及び甲第1号証?甲第5号証の記載からは、当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものということができる。

したがって、上記〔相違点γ〕及び〔相違点δ〕について検討するまでもなく、本1発明は、甲1発明の1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

イ.甲1発明の2との対比・判断
本1発明と甲1発明の2とを対比する。
仮に、甲1発明の2の「平均粒子径が52?200nmである研磨粒子群(B)」、「平均粒子径が2?50nmである研磨粒子群(A)」、「水系媒体」及び「研磨液組成物」が、本1発明の「平均一次粒径が80?500nmである大粒径シリカ粒子(成分A)」、「平均一次粒径が5?70nmである小粒径シリカ粒子(成分B)」、「水系媒体(成分D)」及び「研磨液組成物」に、それぞれ相当するとしても、本1発明では、「大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)が、0.6?1.4」であるのに対し、甲1発明の2では、「平均粒子径が52?200nmである研磨粒子群(B)」の乾燥粒子間空隙径(P)と「平均粒子径が2?50nmである研磨粒子群(A)」の平均一次粒子径(D)との比(D/P)は不明である点で、相違が認められる。

そして、この相違点は、上記〔相違点β〕と同様な相違点である。

そうすると、上述したように、上記相違点は、実質的な相違点であって、本1発明は、甲1発明の2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(3)本4発明について
ア.対比
本4発明(前者)と、甲1発明の1又は2(後者)とを対比すると、両者は『少なくとも2種類のシリカ粒子と、水系媒体とを含む、研磨液組成物。』に関するものである点において一致し、次の〔相違点ε〕?〔相違点θ〕の4つの点において相違する。

〔相違点ε〕少なくとも2種類のシリカ粒子が、前者(本4発明)においては「流体密度が1.0g/cm^(3)、流体粘度が1cpsの分散媒中に分散された、粒子密度が2.2g/cm^(3)、粒子径が80nm以上の粒子のみを沈殿可能とする遠心条件で遠心分離を行った場合に沈殿する沈殿シリカ粒子(成分X)と、前記遠心条件で遠心分離を行っても沈殿しない浮遊シリカ粒子(成分Y)」であるのに対して、後者(甲1発明の1又は2)においては、特定の「遠心条件」で「遠心分離」を行った場合の「沈殿シリカ粒子」と「浮遊シリカ粒子」として区分けされるものではない点。

〔相違点ζ〕沈殿シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(p)と浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)との比(d/p)が、前者(本4発明)においては「0.50?1.05」の範囲に特定されているのに対して、後者(甲1発明の1又は2)においては、当該「比(d/p)」の値は不明な点。

〔相違点η〕沈殿シリカ粒子と前記浮遊シリカ粒子のモル数の合計に対する有機酸及び/又はキレート剤(成分C)のモル数の比(成分Cのモル数/成分Xと成分Yのモル数の合計)が、前者(本4発明)においては「0.0005?0.01」となるように含むのに対して、後者(甲1発明の1又は2)においては、本4発明の「有機酸及び/又はキレート剤(成分C)」に相当する成分が必須でない点。

〔相違点θ〕研磨液組成物の用途が、前者(本4発明)は「硬脆材料用」であるのに対して、後者(甲1発明の1又は2)は「硬脆材料用」かどうか不明な点。

イ.判断
事案に鑑み、まず、〔相違点ζ〕について検討する。
甲1発明の1又は2の「研磨液組成物」の「研磨粒子」について、仮に、「流体密度が1.0g/cm^(3)、流体粘度が1cpsの分散媒中に分散された、粒子密度が2.2g/cm^(3)、粒子径が80nm以上の粒子のみを沈殿可能とする遠心条件で遠心分離を行った場合に沈殿する沈殿シリカ粒子(成分X)と、前記遠心条件で遠心分離を行っても沈殿しない浮遊シリカ粒子(成分Y)」とを含むことがいえたとしても、甲1発明の1又は2における「前記沈殿シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(p)と前記浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)との比(d/p)」は不明というほかない。

したがって、上記〔相違点ζ〕は、実質的な相違点である。

そして、甲第2号証?甲第5号証のいずれにも、沈殿シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(p)と浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)との比(d/p)を、0.50?1.05の範囲のものとすることは示されておらず、甲1発明の1又は2における「前記沈殿シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(p)と浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)との比(d/p)」を、0.50?1.05の範囲のものとする動機付けは見出すことができない。

一方、本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0020】…また、本発明の硬脆材料用研磨液組成物に対して特定の遠心条件で遠心分離を行った場合に沈殿する沈殿シリカ粒子(成分X)の乾燥粒子間空隙(p)と浮遊シリカ粒子(成分Y)の分散粒径(d)との比(d/p)が、0.5?1.05であれば、研磨の最中に、沈殿シリカ粒子の粒子間空隙に小粒径シリカ粒子が効率良く充填され、シリカ粒子全体の充填率が向上するため、研磨速度が向上したと推察される。」

そうすると、本4発明は、特に、上記〔相違点ζ〕に係る発明特定事項を備えることにより、「研磨の最中に、大粒径シリカ粒子の粒子間空隙に小粒径シリカ粒子が効率良く充填されて、シリカ粒子全体の充填率が向上」させることができ、そのため、「研磨速度が向上した」ものといえるものであって、甲1発明の1及び甲第1号証?甲第5号証の記載からは、当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものということができる。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本4発明は、甲1発明の1又は2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(4)本2発明?本3発明及び本5発明?本6発明について
本2発明?本3発明は本1発明を引用するものであり、本5発明?本6発明は本4発明を引用するものである。そして、本1発明及び本4発明の各々が、甲1発明の1又は2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、本2発明?本3発明及び本5発明?本6発明が、甲1発明の1又は2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)まとめ
上述したように、甲第1号証?甲第5号証のいずれにも、大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)を、0.6?1.4の範囲のものとすること、及び、沈殿シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(p)と浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)との比(d/p)を、0.50?1.05の範囲のものとすることは示されておらず、本1発明?本6発明は、このような発明特定事項を備えることで、研磨速度が向上する、という格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本1発明?本6発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(6)特許異議申立人の主張について
ア.甲第1号証に関連した主張
(ア)上記〔相違点β〕に関連すること
特許異議申立人は、特許異議申立書の第24頁第7?16行において「大粒径シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径を本件特許発明と同様の方法で測定した結果、18nmであった(本件特許発明では、島津製作所(株)製の細孔径測定装置を使用しているが、この結果は(株)島津テクノリサーチに島津製作所(株)の細孔径測定装置を使用してSI-80Pの分析を依頼して得られた結果である。)。…甲第1号証の実施例1…の比(D/P)は1.0となり、本件特許発明1の範囲(D/P=0.6?1.4)に含まれる。」と主張している。しかしながら、当該「大粒径シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径」が「18nm」であったとする「結果」については、これを裏付ける実験成績証明書などの具体的な証拠が提示されていない。このため、特許異議申立人の証拠方法によっては、甲第1号証の実施例1のものの「比(D/P)」が「1.0」になると認めることはできず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(イ)上記〔相違点γ〕に関連すること
特許異議申立人は、特許異議申立書の第25頁第4?7行において「甲1発明では、キレート剤の含有量を開示していないが、添加量は少ないと考えられ、本件特許発明1の含有量と範囲が重なると推測される。さらに、後述するように、甲第3号証では、本件特許発明1発明と範囲の重なるキレート剤が用いられている(以下、「甲3記載事項」という。)。…甲1発明に甲3記載事項を適用することは、当業者にとって容易に想到し得るものである。」と主張している。
しかしながら、甲第1号証段落0026?0027に記載された「シュウ酸」などの「キレート剤」について「添加量は少ない」といえる根拠は見当たらない。また、甲第1号証記載の発明は、その段落0023の記載にあるように「研磨液組成物中の研磨粒子の含有量」が「5?30重量%が特に好ましい」としているものであるのに対して、甲第3号証記載の発明は、その段落0045の記載にあるように「ベース研磨材」としての「コロイダルシリカ」の「全固形分量」が「20?50重量%」となるように配合することがより望ましいとされており、その研磨材の好ましい配合量の範囲が必ずしも一致しないので、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の技術事項をそのまま適用できるとは認められない。
そして、甲第3号証の段落0051(摘記3b)には、研磨速度の向上の観点から「キレート性化合物」を、より好ましくは「0.5?3.0重量%」の配合割合で添加することが好ましい旨の記載がなされているところ、甲第1号証の段落0023(摘記1b)に記載された「研磨粒子の含有量」の「5?30重量%」という特に好ましい範囲を基準に換算すると、シュウ酸のモル質量が90.03g/モルであり、SiO_(2)のモル質量が60.1g/モルであることから、甲第3号証の「0.5?3.0重量%」というキレート性化合物の好ましい配合割合は、その下限値が(0.5/90.03)/(30/60.1)=0.011となり、その上限値が(3.0/90.03)/(5/60.1)=0.401となるので、当該「0.011?0.401」という数値範囲は、本1発明の「0.0005?0.01」という数値範囲を示唆しない。
このため、上記特許異議申立人の主張を斟酌しても、上記〔相違点γ〕の点を当業者が容易に想到し得るとは認められない。

イ.甲第2号証に関連した主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第26頁第18?26行において「本件特許発明の実施例1で使用されているコロイダルシリカは、大粒径粒子の平均粒子径(130nm)が小粒径粒子の平均粒子径(23nm)の約5倍程度であるが、甲第2号証の実施例1で使用されているコロイダルシリカも大粒径粒子の平均粒子径(80nm)が小粒径粒子の平均粒子径(17nm)の約5倍程度である。このことから、本件特許発明1に記載されている「B 大粒径シリカ粒子の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子の平均一次粒子径(D)の比(D/P)が0.6?1.4」の範囲内に甲第2号証の実施例1は含まれると推測される。」と主張している。しかしながら、本件特許の実施例1の130÷23=5.7倍に対して、甲第2号証の実施例1の80÷17=4.7倍は、その粒径の比が同程度といえる範囲にない。このため、特許異議申立人の証拠方法によっては、甲第2号証の実施例1のものの「比(D/P)」が「0.6?1.4」になると認めることはできない。

ウ.甲第3号証に関連した主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第28頁第5?19行において「甲第3号証には、コロイダルシリカの固形分全合計量が10?50%であることが請求項3に記載されている。さらに、研磨促進剤としてのキレート性化合物が、請求項5?7等に記載され、「キレート性化合物は、0.1?5.0重量%の割合で添加されることが好ましく」(段落0051)と記載されている。…キレート性化合物を甲第3号証の実施例で使用されているEDTA・2NH_(4)とした場合を計算して求めると、…組成物中のキレート剤の含有量とシリカ成分の含有量の量比関係も、本件特許発明は甲第3号証の範囲内となっていることがわかる。以上のことから明らかなように、本件特許発明は上記のように甲1発明に甲3記載事項を適用することにより容易に類推できるものである。」と主張している。しかしながら、甲第1号証においては、キレート剤の使用目的が明らかにされておらず、キレート剤の例として「シュウ酸」などが例示されるものの、甲第3号証の「EDTA・2NH_(4)」と合致するキレート剤は例示されておらず、その研磨粒子の好ましい配合量の範囲も甲第1号証と甲第3号証とで異なっている。このため、上記「甲1発明に甲3記載事項を適用すること」が、当業者にとって容易に類推できると直ちに認めることはできない。

エ.甲第4号証に関連した主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第29頁第2?9行において「両者の請求項1の大粒子と小粒子の粒径範囲は重複している。さらに本件特許発明1も甲第4号証も、明細書中に研磨対象として炭化ケイ素と窒化ガリウムが挙げられている。…SiO_(2)換算モル数に対する有機酸やキレート剤のモル数の比の記載がないものの、甲第4号証と項第1?3号証等を組み合わせることにより、本件特許発明1は容易に類推できることは明らかである。」と主張している。しかしながら、甲第1?5号証には、本1発明の「大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)」を「0.6?1.4」の範囲に最適化するという技術思想を示唆する記載が見当たらない。このため、当該主張を参酌したとしても、本1発明を想到することが当業者にとって容易であると認めることはできない。

オ.甲第5号証に関連した主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第29頁第11行?第30頁第1行において「甲第5号証には…段落0022)との記載がある。…つまり本件特許発明1は、甲第5号証の記載内容と同様の考え方であり、本件特許発明1の上記記載は、従来の考え方を別な表現で示したものである。」と主張している。しかしながら、甲第5号証の「隙間」は「コロイダルシリカ」と「対象物の表面」との間の「隙間」を意味するのに対して、本1発明の「大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)」は「乾燥凝集体を構成する一次粒子間」にある「複数の細孔」を意味するから、両者の技術思想は一致しない。このため、甲第5号証の記載によっては、本1発明の「大粒径シリカ粒子(成分A)の乾燥粒子間空隙径(P)と小粒径シリカ粒子(成分B)の平均一次粒子径(D)との比(D/P)」を適切な範囲にするという技術思想を導き出し得るとは認められない。

カ.本4発明に関連した主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第33頁第5?9行において「甲第1号証の実施例1で、2?58nmと58?75nmを合わせた粒度範囲に相当するSI-40(d=18nm)、75?200nmの粒度範囲に相当するSI-80P(80nm、p=18nm)から、求められるd/pは1.0となり、本件特許発明4の範囲(d/p=0.50?1.05)に含まれる。」と主張している。
しかしながら、甲第1号証の実施例1で使用されている「Cataloid SI-40」という商品名のコロイダルシリカの平均粒子径は「18nm」であるとされているものの、当該「SI-40」は、本4発明における「前記遠心条件で遠心分離を行っても沈殿しない浮遊シリカ粒子(成分Y)」のように「粒子密度が2.2g/cm^(3)、粒子径が80nm以上の粒子のみを沈殿可能とする遠心条件で遠心分離」を行って沈殿しなかった「浮遊シリカ粒子(成分Y)」と同じ内容のものではない。
このため、当該「SI-40」の平均粒子径が「18nm」であることを根拠に、本4発明における「前記浮遊シリカ粒子の分散粒径(d)」が「18nm」になると直ちにはいえない。
また、甲第1号証の実施例1で使用されている「Cataloid SI-80P」という商品名のコロイダルシリカの「乾燥粒子間空隙径(P)」が仮に「18nm」であると推認し得たとしても、その場合の「P」は、本4発明における「粒子密度が2.2g/cm^(3)、粒子径が80nm以上の粒子のみを沈殿可能とする遠心条件で遠心分離を行った場合に沈殿する沈殿シリカ粒子(成分X)」についての「乾燥粒子間空隙径(p)」と必ず等しくなるとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落0104の実施例1?5及び7のものは、その「比(D/P)」がいずれも「1.2」であるのに対して、その「比(d/p)」は「0.87」から「0.91」の範囲で変動しているところ、本1発明で定義される「比(D/P)」と本4発明で定義される「比(d/p)」とが必ずしも同じ値にならないので、甲第1号証の実施例1の「比(D/P)」が仮に「1.0」になったとしても、その「比(d/p)」が「1.0」になるとは必ずしもいえない。
したがって、上記特許異議申立人の「求められるd/pは1.0となり」との主張は採用できない。

6.むすび
以上総括するに、特許異議申立人が主張する特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-24 
出願番号 特願2013-234190(P2013-234190)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 啓二  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 木村 敏康
天野 宏樹
登録日 2017-10-13 
登録番号 特許第6223786号(P6223786)
権利者 花王株式会社
発明の名称 硬脆材料用研磨液組成物  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 渡邉 一平  

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