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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1343033
異議申立番号 異議2018-700161  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2018-08-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6184745号発明「茶飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6184745号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6184745号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年5月17日に特許出願され、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ(特許公報掲載日:平成29年8月23日)、その後、平成30年2月23日に特許異議申立人菖蒲谷道広(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成30年4月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年6月22日に意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
白土処理された茶抽出物に、茶葉粉砕物を加える工程を含む、茶飲料の製造方法であって、該茶飲料中の珪素元素含有量が1mg/L以上であり、かつ非重合カテキンと、カフェインとの比(非重合カテキン/カフェイン)が15?150である、製造方法。
【請求項2】
茶葉粉砕物を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
茶飲料が緑茶飲料である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
茶葉粉砕物が抹茶である、請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
茶葉粉砕物が、茶飲料に対して、0.0005質量%以上となるように加えられる、請求項1?4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
白土処理された茶抽出物に、茶葉粉砕物を加えることを特徴とする、茶飲料の金属味低減方法であって、該該茶飲料中の非重合カテキンと、カフェインとの比(非重合カテキン/カフェイン)を15?150とし、かつ該茶飲料中の珪素元素含有量を1mg/L以上とする、方法。

第3 取消理由の概要
平成30年4月24日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。

本件発明1,3?6は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[引用文献]
甲第1号証:特開2012-231719号公報
甲第2号証:特開2001-89364号公報
甲第5号証:特開2005-27554号公報
甲第6号証:国際公開第2004/110161号
甲第7号証:特開平8-163958号公報
甲第8号証:特開平10-234301号公報
甲第9号証:特開2009-219447号公報

なお、特許異議申立書には上記以外に下記甲号証が添付されている。
甲第3号証:特開2004-159665号公報
甲第4号証:特開2011-19469号公報
甲第10号証:特開平6-142405号公報
以下、甲第1号証ないし甲第10号証を、それぞれ甲1ないし甲10という。

第4 引用文献等の記載
1.甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。
(審決注:以下、「・・・」は記載の省略を示す。)
(1)「【請求項1】
茶抽出物に、酸性白土および/または活性白土を接触させる工程と、アルカリ性物質を添加する工程とを含む、精製茶抽出物の製造方法。」

(2)「【請求項4】
アルカリ性物質が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、およびクエン酸三ナトリウムからなる群から選択される一種または二種以上である、請求項1?3いずれか一項に記載の製造方法。」

(3)「【0005】
しかしながら、従来の活性白土や酸性白土を用いたカフェイン低減方法では、活性白土や酸性白土由来のミネラル成分の茶抽出物への溶出が見られた。また、ミネラル成分の茶抽出物への溶出に伴い、茶抽出物の香味の損失および液色が悪化する可能性もあった。」

(4)「【0010】
本発明者らは、茶抽出物に、酸性白土および/または活性白土を接触させる工程と、アルカリ性物質を添加する工程とを含むことにより、茶抽出物からカフェインを除去しつつ、茶抽出物の香味変化を抑制できること、または茶抽出物からカフェインを除去しつつ、白土から茶抽出物へのミネラル成分の溶出を抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」

(5)「【0032】
・・・香味変化抑制とは、茶抽出物の香味が変化することを抑制することを意味し、好ましくは茶抽出物の香味が悪化することを抑制することを意味する。香味の悪化とは、人が不快と感じる香味へ変化することであれば特に限定されないが、例えば、茶抽出物へのミネラル類の溶出により香味(例えば、金属様の香味)が強くなることをいう。」

(6)「【0042】
[試験1](白土添加量と、ミネラル溶出と、香味との関係)
蒸し製緑茶葉100gに対して70℃の熱水4000gを添加し、6分間抽出した。抽出後、固液分離し、得られた濾液を20℃まで冷却した後にイオン交換水で4000gとし、遠心分離処理を行い、緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液400gに対し、酸性白土(ミズカエース#20、水澤化学社製)または活性白土(ガレオンアースNVZ、水澤化学社製)を2?15g添加後、1時間接触させた。得られた緑茶抽出液と白土との接触の際のpHは、酸性白土添加区が5.1?5.6、活性白土添加区が4.0?5.1であった。接触後に遠心分離処理を行い、0.2μmメンブランフィルター濾過を行った。得られた濾液にL-アスコルビン酸を400mg添加し、イオン交換水で1000gとして緑茶飲料を得た。緑茶飲料は、調合の際にpHが約6.5となるように炭酸水素ナトリウムで適宜調整した。
【0043】
得られた緑茶飲料について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:日本分光社製)を用いてカフェインを、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP-AES:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製iCAP 6500 Duo)を用いて元素分析を行った。また、訓練されたパネリスト5名によって官能評価を行った。評価は白土の無添加区を対照(4点満点中の4点)として、緑茶飲料としての総合的な香味を相対評価した。評価基準は以下に示したとおりである。◎が最も無添加区の香味に近く、○、△、×の順に従って、無添加区からの香味の変化が大きくなるものである。なお、白土無添加の緑茶のカフェイン濃度は11.24mg/100mLであった。カフェイン濃度・除去率、ミネラル溶出量(鉄(Fe)およびアルミニウム(Al)溶出量)、および香味評価の結果を下記表2に示した。ここで、ミネラル溶出量とは、白土無添加の緑茶のミネラル(Fe、Al)含有量を、下記表2に記載の白土添加量によって処理された各緑茶のミネラル含有量から差し引いた値である。
【0044】
香味評価方法
訓練されたパネリスト5名それぞれが、1点、2点、3点、および4点の4段階で評価を行い、パネリスト5名の平均点を当該飲料の評価点とし、以下の基準に従い、記号化した。
◎:評価点3.5点以上
○:評価点3点以上3.5点未満
△:評価点2点以上3点未満
×:評価点2点未満
【0045】
【表2】


表2から、「試験1の香味評価では、酸性白土添加量が6.0?15.0gであった緑茶飲料は、評価が△又は×であった」点、「試験1の香味評価では、活性白土添加量が4.0gであった緑茶飲料は、評価が△であった」点、「15.0gの酸性白土で処理された茶飲料が0.31mg/100mLのカフェイン濃度を有する」点、及び「4.0gの活性白土で処理された茶飲料が4.16mg/100mLのカフェイン濃度を有する」点が看取できる。

以上の記載によれば、甲1には以下の発明が記載されているものと認められる。
「蒸し製緑茶葉100gに対して70℃の熱水4000gを添加し、6分間抽出後、固液分離し、得られた濾液を20℃まで冷却した後にイオン交換水で4000gとし、遠心分離処理を行って得られた緑茶抽出液400gに対し、酸性白土(ミズカエース#20,水澤化学社製)を2?15g添加後、5.1?5.6のpHで1時間接触させ、接触後に遠心分離処理を行い、0.2μmメンブランフィルター濾過を行って得られた濾液に、pHが約6.5となるように炭酸水素ナトリウムで適宜調整しながら、L-アスコルビン酸を400mg添加し、イオン交換水で1000gとする、緑茶飲料の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

2.甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0002】
【従来の技術】近年、日本人の食生活は豊かになったがその反面、栄養に偏りがあり、国民栄養調査によるとミネラルに関しては厚生省の決める基準値を下回っているものもある。そこで最近、食品や飲料、サプリメントや栄養強化剤などにミネラルが付加されているが、金属の持つ特有の味のために添加量が制限されていたり、商品としての価値を下げている。」

(2)「【0003】従来、金属味の改善には、甘味剤の添加や特定の香料を添加して、金属味の緩和を行っているが、このような手段では強い不快感を与える金属味成分については充分な効果が得られないという問題がある。そこで、不快感を与える金属味のマスキング方法としては、マイクロカプセル化や包摂化合物を用いる方法(特開平3-236316)等がとられている。しかし、いずれの方法も完全に金属味をマスキングできなかったり、工程の複雑化や、限定された食品にしか使用できないなどの問題点を有している。飲料の場合はさらに深刻で、コーティング剤等を使用できないため、高濃度の糖や有機酸を添加したり、フレーバーを添加しているが、いずれも金属味のマスキングは不完全である。その他の方法として、ポリグリセリン脂肪酸エステルと油脂との混合物にマグネシウム塩の水溶液を添加、混合、乳化し油中水型乳化物にすることによるマグネシウム塩の苦味低減方法(特開平8-332053)が挙げられるが、水相への添加ができず、また、食品の安全を確保する上で重要な加熱殺菌を行うと効果が大幅に低下するという点で応用範囲が制限されてしまう。また、テアニンは食品添加物に指定されており、風味改善組成物として知られている(特開平9-313129)が、テアニンを含有することによる金属味の改善についてはこれまで知られていない。」

(3)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決したミネラル組成物を提供するものである。」

(4)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、金属味改善に効果のある物質について検討した結果、緑茶に多く含まれているアミノ酸の一種、テアニンをミネラルに含有させることで上記課題を解決し、本発明を完成した。これは、本発明者らが初めて見いだした新規効果である。本発明品は種々のミネラルを製品に添加する際に生じる風味の劣化を抑える効果がある。さらに詳しくは、ミネラルを製品に添加した際に生じる収斂味、苦味、酸味、塩味、えぐ味、渋味、辛味等に効果的である。以下、本発明について詳述する。」

3.甲3の記載
甲3には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
緑茶抽出物の濃縮物を配合した緑茶飲料であって、
(a)非エピ体カテキン類(A)とエピ体カテキン類(B)の重量比率 [(A)/(B)]が0.54?9.0である非重合体カテキン類0.05?0.5重量%
(b)アルミニウムイオン10?30mg/kg
(c)珪素イオン10?30mg/kg
を含有する容器詰緑茶飲料。
【請求項2】
緑茶抽出液と緑茶抽出物の濃縮物を混合した緑茶調合液に、カテキン含有液に対する鉄放出量が0.8mg/kg以下であるアルミノシリケートを接触させることを特徴とする非重合体カテキン類濃度が0.05?0.5重量%の容器詰緑茶飲料の製造法。
【請求項3】
アルミノシリケートの添加量が緑茶調合液に対して0.05?0.5重量%である請求項2記載の容器詰緑茶飲料の製造法。
【請求項4】
容器詰緑茶飲料が請求項1記載の容器詰緑茶飲料である請求項2又は3記載の容器詰緑茶飲料の製造法。」

(2)「【0006】
本発明の課題は非重合体カテキン類を高濃度に含有し、かつ長期保存時の沈殿を抑制した容器詰緑茶飲料及びその製造法を提供することにある。」

(3)「【0044】
試験例1
試験方法
緑茶調合液組成:緑茶抽出液に緑茶抽出物の濃縮物(ポリフェノンHG、東京フードテクノ製、非重合体カテキン類33.70重量%含有)を添加し、緑茶調合液としたもの。 非重合体カテキン類濃度0.18重量%、ガレート体の全非重合体カテキン類中の組成46?57重量%、殺菌処理後のpH=6.2
【0045】
上記緑茶調合液に対して外比で0.15重量%の各種活性白土を添加後、常温(25℃)下で10分間の攪拌を行なった。その後、0.8μmメンブランフィルターで濾過し、得られた緑茶調合液を耐熱性ガラス容器に充填後、ヘッドスペースを窒素置換した後密閉し、121℃、10分間の殺菌処理をオートクレーブで行なった。殺菌終了後直ちに30℃以下まで冷却した緑茶調合液中の鉄含有量と明度(L値)並びにpHを測定した。
表1に活性白土と緑茶調合液中の鉄含有量の関係を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
試験例2
表2記載の活性白土を用いる以外は、試験例1と同様にして得られた容器詰緑茶飲料を、55℃下で保存し、終日で沈殿の生成状況を観察した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】


表1及び表2から、実施例において、アルミノシリケートとして、活性白土(ガレオンアースV1(実施例1,5及び6)、ガレオンアースNS(実施例2及び7)、ガレオンアースNV(実施例3及び4)が使用されている点が看取できる。

以上の記載によれば、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「茶抽出物を白土(ガレオンアース)処理する工程を含む、緑茶飲料の製造方法であって、該緑茶飲料中の珪素元素含有量が10?30mg/kgである、製造方法」

4.甲4の記載
甲4には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
シュウ酸を含有する水性液を、酸性白土及び/又は活性白土を有する処理剤に接触させることを特徴とする水性液のシュウ酸除去方法。」

(2)「【請求項9】
請求項1?7の何れかに記載の水性液のシュウ酸除去方法に従って、茶抽出成分を含有する水性液からシュウ酸を除去した後に、前記水性液を用いて茶飲料を調製する茶飲料の製造方法。」

(3)「【0020】
以下、本発明のシュウ酸除去方法について詳細に説明する。尚、本願の記載において、「総カテキン」は、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、及び、これらのジアステレオ異性体であるガロカテキン(GC)、ガロカテキンガレート(GCg)、カテキン(C)及びカテキンガレート(Cg)の8種の化合物のHPLC分離分析による個別定量値の合計を示し、「カテキン類」は、前記総カテキンの構成化合物の単独物及び複数混合物を概括的に含む意味とする。」

(4)「【0035】
(実施例1)
処理剤として、下記の珪藻土、カオリン、タルク、活性白土1?4及び酸性白土1?4を用意した。
【0036】
・・・
活性白土1: 商品名:ガレオンアースV1(水澤化学工業社製)
活性白土2: 商品名:ガレオンアースNC(水澤化学工業社製)
活性白土3: 商品名:ガレオンアースNS(水澤化学工業社製)
活性白土4: 商品名:ガレオンアースNV(水澤化学工業社製)
・・・
【0038】
次に、緑茶抽出物(商品名:テアフラン30F、株式会社伊藤園製)を脱イオン水に溶解して濃度が2.0質量%の水溶液を調製し、上述の各処理剤を用いて、緑茶抽出物水溶液のシュウ酸除去処理を後述の手順に従って行い、処理後の水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインをHPLC分析により後述の分析条件及び定量方法に従って定量した。結果を表2に、各成分の含量比を表3に示す。尚、表中の不等号による記載値は、定量限界以下を示す。
【0039】
<シュウ酸除去処理>
直径6cmの桐山ロートに、5C濾紙、5B濾紙及び5A濾紙を順次敷いて、アスピレーターで吸気しながら、脱イオン水50mLに懸濁させた珪藻土1.413gを濾紙上に投入して珪藻土による濾過床を準備した。次に、処理剤2.825g及び珪藻土1.143gを脱イオン水50mLに懸濁し、これを、アスピレーターで吸気した濾過床上に投入して処理剤層を形成し、脱イオン水500mLを通液して洗浄した。
【0040】
上記で調製した緑茶抽出物水溶液113mLに珪藻土1.13gを加えて懸濁した後、上記処理剤層上に投入して通液し、処理剤層を通過した水溶液を回収した。尚、処理剤層の通液に要した時間は20分程度であった。
【0041】
回収した緑茶抽出物水溶液のBrixを0.25%に調整して孔径0.25μmのフィルターで濾過した後に、HPLCによる各成分量の測定を行った。」

(5)「【0047】



(6)「【0053】
表2の結果は、酸性白土及び活性白土がカフェインに対しても吸着作用を有することを示している。・・・」

表2から、「緑茶抽出物を、活性白土1、活性白土3及び活性白土4で処理してカフェインを除去した緑茶飲料が、それぞれ78.2、47.4及び28.7の非重合カテキン/カフェイン比を有していた」点が看取できる。

以上の記載によれば、甲4には以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「茶抽出物を白土処理する工程を含む、緑茶飲料の製造方法。」

5.甲5の記載
甲5には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0002】
【従来の技術】
従来、茶風味増強の方法としては、茶フレーバーを添加する方法、茶の熱水抽出物を添加する方法ならびに抹茶粉末を添加する方法などがある。・・・」

6.甲6の記載
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「請求の範囲
[4] 茶葉原料を粉砕し、得られた粉末茶をさらに微粉砕処理した後、茶抽出液に配合し、粒子径 1 μm以上の粒子の大部分を除去して得られることを特徴とする茶飲料。」

(2)「[0012] 本発明にかかる飲料は、ざらつき、雑味が極力少なく茶飲料 (例えば緑茶飲料)に不可欠なすっきりした後味を保持し、茶(例えば緑茶)本来の食感、コク、味わいを有し、かつ長期保管においても沈殿や濁りの発生しない安定な、優れた品質の飲料である。」

(3)「[0024] (実施例 1)
超微粉砕茶葉分散液の製造法
碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶を約20倍量の水に懸濁させ、この懸濁液を高圧ホモジナイザーにより15MPaの圧力で処理し、遠心分離処理(6,000rpm、10分)し、超微粉砕茶葉分散液を得た。・・・」

(4)「[0025] (実施例 2)
超微粉砕茶葉分散液を用いた緑茶飲料の官能評価
実施例1で得られた超微粉砕茶葉分散液を従来法によって抽出、濾過を行った緑茶抽出液に30重量%添加し、 L-アスコルビン酸および炭酸水素ナトリウムを添加し 、濁度0.05?0.15となる調合液を得た。この調合液を缶詰、レトルト殺菌し、缶入り緑茶飲料を得た。試飲したところ、表1に示すように、その風味は食感、甘味が感じられるものの、ざらつきがなく後口がすっきりしているという良好な結果であった。」

7.甲7の記載
甲7には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 緑茶抽出に伴って生じる微粒子を除去して濁度をOD_(720)で0.05未満とした透明緑茶抽出液に、緑茶粉末を添加して濁度をOD_(720)で0.05?3.00としたことを特徴とする緑茶飲料。」

(2)「【発明の効果】本発明により、緑茶微粒子を適度に含むコクがあり、深い味わいの緑茶飲料を得ることができた。また、本発明の緑茶飲料は、適度な濁度に任意調整できる特徴を持つ。・・・」

8.甲8の記載
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 緑茶飲料中に粉砕茶葉を0.3重量%以上?10.0重量%未満添加することによりSOD様活性を1,000?25,000(U/ml)有することを特徴とする缶入り緑茶飲料。」

(2)「【0012】本発明の緑茶飲料はお茶の有効成分に富み、粉砕茶葉中の有効成分及び添加した抗酸化能物質に基づくSOD様活性が高い。加えて喉ごしの良く、緑茶の味と香りを生かした「コク味」を有するものである。」

9.甲9の記載
甲9には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
粉末ほうじ茶葉を茶抽出液に混合して得られる、茶飲料。」

(2)「【0010】
本発明によると、茶葉由来成分のみで製造される茶飲料、すなわち、合成又は茶葉由来でない天然香料を使用しない茶飲料であって、茶特有の香りや、旨味、コク味が増強された、急須で淹れたてのような風味(味及び香)を有する茶飲料、特に、容器詰茶飲料を製造することが可能である。」

(3)「【0018】
・・・
(茶飲料)
上記茶抽出液ベースに、粉末ほうじ茶葉を添加して混合することにより、本発明の茶飲料は製造される。粉末ほうじ茶葉の配合割合は、所望する香味等により適宜設定すればよいが、通常、茶飲料全体に対する粉砕ほうじ茶葉量として、0.001?0.5重量%、好ましくは0.01?0.2重量%程度である。0.001重量%未満であると、茶飲料の緑茶本来の香味を増強する作用が十分に得られず、また0.5重量%を超えて配合すると、ほうじ茶の独特な香ばしい香りが強くなり、緑茶本来のグリーンな香りが損なわれることになる。」

(4)「【0020】
粉末ほうじ茶の可溶性高分子画分の溶出量は、その抽出温度にはほとんど影響されないが、高圧ホモジナイザー処理を施すことによって、大きく増大することがわかっている。したがって、本発明の茶飲料の好ましい製造方法は、以下の工程;1)ほうじ茶葉の細胞壁を破壊して粉末ほうじ茶葉を得る工程、2)前記粉末ほうじ茶葉に水又は茶抽出液を混合して粉末茶葉の懸濁液を得る工程、及び3)前記懸濁液に高圧ホモジナイザー処理を施す工程、を含む工程により製造することが好ましい。なお、上記工程2)において、水を混合する場合は、高圧ホモジナイザー処理後の懸濁液を別途調製した茶抽出液に添加することで、茶飲料が製造できる。」

(5)「【0022】
さらに、上記工程3)の後に、遠心分離や濾過のような分離処理(清澄化処理)によって不溶性固形分を除去することにより、粉砕茶葉組織の微細片や緑茶粒子等の不溶性固形分によるざらつきや後味の悪さを改善することができ、保存中の沈殿を抑制することもできる。この場合にも、本発明における香り及びコク味を増強するのに有用な成分は可溶性高分子画分であるから、清澄化処理によって、茶飲料の好ましい香り及びコク味が減少することはない。」

(6)「【0026】
・・・
比較例1(ベース抽出液:A):
煎茶葉1.40gを200mLの水(70℃)で5分間抽出
・・・
比較例4(ほうじ茶抽出液B+抹茶懸濁液D):
(B)に、抹茶を用い実施例1と同様にして製造した抹茶懸濁液(D)を、(B):(D)=6:1となるように混合
・・・
本発明1:(ベース抽出液A+粉末ほうじ茶葉E1):
実施例1の粉末ほうじ茶葉(E1)を、(A):(E1)=6:1となるように混合
本発明2:(ベース抽出液A+粉末ほうじ茶懸濁液E2):
実施例1の粉末ほうじ茶葉懸濁液(E2)を、(A):(E2)=6:1となるように混合
本発明3:(ベース抽出液A+抹茶懸濁液D+粉末ほうじ茶懸濁液E2):
(A)と(D)と(E2)とを、(A):(D):(E2)=6:0.5:0.5となるように混合
結果を表1に示す。本発明1?3は、コク味、香り、すっきり感の項目において好ましいものであった。また、この評価結果より、以下のことが示唆された。」

(7)「【0027】
・・・
・本発明3より、粉末ほうじ茶葉に抹茶を併用することで、コク味、香りの強さをコントロールできること」

10.甲10の記載
甲10には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、茶あるいはコーヒーなどのカフェインを含有する水溶液を特定の吸着剤と接触させることにより、水溶液から選択的にカフェインを除去する方法を検討した結果、活性白土または酸性白土をカフェインを含有する水溶液と接触させることにより、操作が容易簡便で、かつ効率よく工業的にカフェインを除去できることを見いだした。すなわち本発明は、カフェインを含有する水溶液から選択的にカフェインを除去する方法である。本発明におけるカフェインを含有する水溶液としてはコーヒー,カカオ,コーラ,紅茶,ウーロン茶,緑茶,マテ茶などのカフェイン含有植物の抽出液が主として用いられるが、その他の植物の抽出液、あるいは合成カフェイン含有液でも用いることができる。・・・
【0005】
【実施例】
試験例1
緑茶抽出物粉末40mgを5mlの脱イオン水に溶解し、各種吸着剤を1g添加し、時々撹拌しながら室温にて30分間保ち、上清液中のカフェインおよび緑茶ポリフェノールである(-)-エピカテキン(EC),(-)-エピカテキンガレート(ECg),(-)-エピガロカテキンガレート(EGCg)の残存量をHPLCにより分析し、チャート上のピーク面積より残存量を比較した。吸着剤として、カラムライト(メタケイ酸アルミン酸マグネシウム,富士化学工業社製),活性炭(粒状白鷺,武田薬品工業社製),ケラチン(ナカライテスク社製),セルロース粉末(片山化学工業社製),シルトンEP(水澤化学社製),トクシールN(徳山曹達社製),ロカヘルプ(パーライト,三井金属鉱業社製),ゼオライト5A(水澤化学社製),ゼオライト13X(水澤化学社製),キトパールBL-03(富士紡績社製),ガレオンアースNF-2(活性白土,水澤化学社製),ガレオナイトNo.251(活性白土,水澤化学社製),活性白土(ナカライテスク社製),酸性白土(ナカライテスク社製),の14種類を用いて試験した。・・・」

以上の記載によれば、甲10には以下の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されている。
「茶抽出物を白土処理する工程を含む、緑茶飲料の製造方法。」

第5 判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「蒸し製緑茶葉100gに対して70℃の熱水4000gを添加し、6分間抽出後、固液分離し、得られた濾液を20℃まで冷却した後にイオン交換水で4000gとし、遠心分離処理を行って得られた緑茶抽出液400gに対し、酸性白土(ミズカエース#20,水澤化学社製)を2?15g添加後、5.1?5.6のpHで1時間接触させ、接触後に遠心分離処理を行い、0.2μmメンブランフィルター濾過を行って得られた濾液」は、本件発明1の「白土処理された茶抽出物」に相当し、甲1発明の「緑茶飲料」は、本件発明1の「茶飲料」に相当する。
そして、甲1発明の「炭酸水素ナトリウム」での調整と、本件発明1の「茶葉粉砕物」を加えることは、金属味を抑制する添加物を加える点で一致する。
してみると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
白土処理された茶抽出物に、金属味を抑制する添加物を加える工程を含む、茶飲料の製造方法。

【相違点】
ア.金属味を抑制する添加物が、本件発明1は茶葉粉砕物であるのに対して、甲1発明は炭酸水素ナトリウムである点
イ.本件発明1は、茶飲料中の珪素元素含有量が1mg/L以上であり、かつ非重合カテキンと、カフェインとの比(非重合カテキン/カフェイン)が15?150であるのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点

以下、上記相違点について検討する。
相違点アについて:
甲1発明は、本件発明1同様、白土処理によるミネラル成分の溶出により茶飲料が金属味を呈することを抑制するものであるが、その具体的手段は、アルカリ性物質を添加するものであり(請求項1:第4 1.(1)参照。)、当該アルカリ性物質の具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、およびクエン酸三ナトリウムからなる群から選択される一種または二種以上(請求項4:第4 1.(2)参照。)が意図されているのであるから、当該アルカリ性物質を他の金属味の抑制手段と置き換える動機付けが存在しないし、既に金属味が抑制されている以上、他の金属味の抑制手段を採用する動機付けも存在しない。
また、甲2にはテアニンを金属味の抑制に用いることの記載があるものの、ミネラルを製品に添加する際に生じる風味の劣化を抑えることを想定したものであり、白土処理された茶抽出物の金属味を抑制することの示唆はなく、茶葉粉砕物を用いることの示唆もない。
そして、甲5ないし9に記載されたように、茶葉粉砕物を緑茶の風味付けのために用いることが慣用技術であるとしても、茶葉粉砕物を甲2に記載されたテアニンと同視することはできないから、金属味の抑制のためのテアニンを、更に茶葉粉砕物に置き換えることまで容易であるとはいえない。
よって、相違点アに係る本件発明1の構成は、甲1発明並びに甲2に記載された技術事項及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に想到できたとはいえないから、相違点イについては検討するまでもなく、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
そして、本件発明3ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明3ないし5は本件発明1と同様の理由により、甲1発明並びに甲2に記載された技術事項及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
加えて、本件発明6は、本件発明1が「茶飲料の製造方法」に係る発明であったのを「茶飲料の金属味低減方法」に係る発明に発明の対象を改めたものであり、相違点アに係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明並びに甲2に記載された技術事項及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲1を主引例とする特許異議申立理由について
申立人は、本件発明2は、甲1,2,6,9に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかし、上記1.で検討したように、本件発明1は、甲1発明並びに甲2に記載された技術事項及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に想到できたとはいえないのであるから、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2についても同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2)甲3を主引例とする特許異議申立理由について
本件発明1と甲3発明を対比すると、少なくとも本件発明1は「白土処理された茶抽出物に、茶葉粉砕物を加える工程」を含んでいるのに対し、甲3発明は当該工程を含んでいない点で相違する(以下、「相違点ウ」という。)。
そして、本件発明1は白土処理により生じた金属味を抑制するために、相違点ウに係る構成を備えるところ、甲3発明には当該金属味を抑制するという課題に係る記載はなく、金属味抑制のために茶葉粉砕物を適用することに対する動機付けが存在しない。
よって、茶葉粉砕物を緑茶抽出物へ適用することが甲5ないし9に記載されているように慣用技術であるとしても、金属味を抑制するために当該慣用技術を利用することが容易であるとはいえない。
したがって、上記相違点ウに係る本件発明1の構成は、甲3発明及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に想到できたとはいえないから、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
また、本件発明2ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2ないし5は本件発明1と同様の理由により、甲3発明及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
加えて、本件発明6は、本件発明1が「茶飲料の製造方法」に係る発明であったのを「茶飲料の金属味低減方法」に係る発明に発明の対象を改めたものであり、相違点ウに係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3発明及び甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3)甲4及び甲10を主引例とする特許異議申立理由について
本件発明1と甲4発明及び甲10発明を対比すると、少なくとも上記相違点ウで相違する。
そして、当該相違点ウに係る構成は、上記(2)で検討したように甲5ないし9に示された慣用技術を加味しても、当業者が容易に想到できたとはいえないから、本件発明1を、甲4発明及び甲10発明並びに甲5ないし9に示された慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
また、本件発明2ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2ないし5は本件発明1と同様の理由により、甲4発明及び甲10発明並びに甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
加えて、本件発明6は、本件発明1が「茶飲料の製造方法」に係る発明であったのを「茶飲料の金属味低減方法」に係る発明に発明の対象を改めたものであり、相違点ウに係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲4発明及び甲10発明並びに甲5ないし9に示された慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-30 
出願番号 特願2013-105521(P2013-105521)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 槙原 進
井上 哲男
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6184745号(P6184745)
権利者 キリンビバレッジ株式会社
発明の名称 茶飲料の製造方法  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 反町 洋  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 藤井 宏行  

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