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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1343036 |
異議申立番号 | 異議2018-700448 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-05 |
確定日 | 2018-08-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6242351号発明「ダイシング用基体フイルム、ダイシングフイルム、及びダイシング用基体フイルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6242351号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6242351号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は,平成27年1月5日(以下,「本件出願日」という。)に特許出願され,平成29年11月17日に特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,平成30年6月5日に特許異議申立人古郡裕介により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 1 本件特許発明1 「【請求項1】 ポリプロピレン系樹脂を含有するダイシング用基体フイルムであって, 前記ポリプロピレン系樹脂は,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であり, 前記ダイシング用基体フイルムの引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である, ことを特徴とするダイシング用基体フイルム。」 2 本件特許発明2 「【請求項2】 請求項1に記載のダイシング用基体フイルム上に,更に,粘着剤層及び離型フイルムを有するダイシングフイルム。」 3 本件特許発明3 「【請求項3】 ダイシング用基体フイルムの製造方法であって,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であるポリプロピレン系樹脂を含有する樹脂組成物を押出成形する工程を有し, 前記ダイシング用基体フイルムの引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である, ことを特徴とする製造方法。」 第3 申立理由の概要 1 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は,下記2の証拠方法を提出し,次の主張をしている。 (1)本件特許発明1ないし3は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから,請求項1ないし3に係る特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (2)本件特許発明1ないし3は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1ないし3に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)本件特許発明1ないし3は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,請求項1ないし3に係る特許は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。 2 証拠方法 甲第1号証:特開平9-31130号公報 甲第2号証:特開2009-127006号公報 甲第3号証:特開2007-63340号公報 甲第4号証:特開2005-255909号公報 甲第5号証:特開2013-197194号公報 甲第6号証:特開2014-82414号公報 甲第7号証:「業界再編の動き」(https://www.jpca.or.jp/4stat/01aramashi/05saihen.htm) 甲第8号証:参考図1(本件特許の実施例データ) 甲第9号証:参考図2(甲第1号証の実施例データ) 第4 甲号証の記載 1 甲第1号証の記載 (1)甲第1号証 甲第1号証は,本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 重量平均分子量(Mw)が100000?700000,重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で示される分子量分布が2?3.5及びポリプロピレンの立体規則性を示すペンタッド分率が0.5?0.93であるポリプロピレン系樹脂よりなる軟質ポリプロピレンフィルム。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,応力緩和性に優れ,良好な2次加工性を有する軟質ポリプロピレンフィルムに関する。」 ウ 「【0004】これらを原料として得られるフィルムは,高い結晶性を有するため柔軟性に乏しいものや,複雑な分子の絡み合いがあるためゴム弾性を有し,引っ張り時(10%延伸)の応力緩和が小さい。従って粘着加工フィルムを基材に貼付する際,伸縮性が十分でなくネッキングが発生することにより,しわが入り,実際の使用には適さない。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明者らは,上記従来の問題を解決するために,応力緩和性の優れるフィルムに関して研究を重ねた結果,特定の分子量,分子量分布,及びの柔軟なポリプロピレンを原料としたフィルムで,応力緩和性が優れ従来の軟質PVCの代替となるフィルムを見出し,本発明を完成するに至った。」 エ 「【0024】本発明の軟質ポリプロピレンフィルムは,上記方法で得られたポリプロピレン系樹脂を公知のフィルム成膜法で何ら制限されることなく成膜できる。例えば,Tダイ成形法,カレンダー成形法,インフレーション成形法等の成形方法が使用できる。」 オ 「【0027】 【発明の効果】本発明の軟質ポリプロピレンフィルムは,柔軟性が良好で,引張弾性率,引張強度,引張伸度等の機械物性が良好で,かつ応力緩和性にも優れ良好な2次加工性を有する。このため,本発明の軟質ポリプロピレンフィルムは,従来の軟質PVCフィルムが用いられている種々の分野に好適に使用される。 【0028】例えば,表面保護フィルム,車両用保護フィルム,ダイシングフィルム,化粧フィルム,ラップフィルム,シュリンクフィルム,ストレッチフィルム,パッレトストレッチフィルム,シーラント用フィルム,熱溶着フィルム,熱接着フィルム,貼付フィルム,絆創膏基材フィルム,ラベル用フィルム,建材用フィルム,建材表皮フィルム,文具用フィルム,粘着基材フィルム,粘着テープ,結束テープ,マスキングテープ,表示用テープ,包装用テープ,包装用フィルム,電気絶縁テープ,マーキングテープ,農業用テープ,ハウス用テープ,医療用フィルム,医療用粘着テープ,輸液バック,サージカルテープ等に採用することができる。」 カ 「【0029】 【実施例】以下,本発明を実施例及び比較例を掲げて説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 (中略) 【0032】2) ^(13)C-NMR ペンタッド分率の測定 A.Zawbelliとうによってマクロモレキュールズ(Macromolecules) 6925(1973年)に発表されている方法,すなわち,^(13)C-NMRを用いポリマー分子鎖中の連続したモノマー5個のアイソタクチックに結合した分率である。測定はJEOLGSX-270を用いてパルス幅90°,パルス間隔15秒,積算10000回行った。ピーク帰属は,Macromolecules 8697(1975)に従って行った。 【0033】3)引張弾性率 JIS Z1521に準じて測定した。 【0034】4)応力緩和測定 短冊状に切り出した試験片を10%延伸し,5分間保持する。5分後の応力の値を測定し,延伸時の最大応力値との関係から求める。 【0035】応力緩和値=(最大応力値-5分後の応力値)/最大応力値 なお,本発明で記載した応力緩和性は,上記応力緩和値の大きいものを良好とする。 (中略) 【0047】実施例1?5 製造例1,2,3,4,5で得られた軟質ポリプロピレンのペレットをφ40mmTダイ押出機にてダイス温度230℃,ロール温度40℃の条件で,厚み100μmの無延伸フィルムを成膜した。得られたフィルムを長手方向(MD),幅方向(TD)にそれぞれに10mm幅の短冊状に切り出し試験片とし,引張弾性率の測定を行った。また,同様にして切り出した試験片により応力緩和を測定した。また,10%延伸時の表面ネッキングの状態を○,×で評価し結果を表1に示した。 【0048】実施例6(当審注:原文の「実施例5」は誤記と認める。) 出光石油化学製(出光TPO)E2900を用い実施例1と同様にしてフィルムを成膜し,物性を測定しその結果を表1に示した。」 キ 表1(【0051】)には,「使用樹脂」が「出光E2900」であり,「ペンタッド分率」が「0.77」であり,「引張弾性率」が「480MPa」であり,「応力緩和」が「58%」である「実施例6」が,記載されていると認められる。 (2)甲1発明 前記(1)より,甲第1号証には次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「^(13)C-NMRペンタッド分率が0.77であるポリプロピレン樹脂よりなる,引張弾性率が480MPaであるフィルム。」 2 甲第2号証の記載 (1)甲第2号証 甲第2号証は,本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が50?90%の範囲にあるポリプロピレン系樹脂(A)に,(メタ)アクリル酸の金属塩(B)がグラフト共重合されており,(メタ)アクリル酸の金属塩(B)由来の構成単位の含有量が0.1?5重量%の範囲である変性ポリプロピレン系樹脂を成形して得られることを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシート。 (中略) 【請求項7】 請求項1?4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートからなることを特徴とするストレッチフィルム。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートおよびその用途に関する。詳しくは,本発明は,ポリプロピレン系樹脂に(メタ)アクリル酸の金属塩をグラフト共重合した変性ポリプロピレン系樹脂からなり,透明性および柔軟性に優れ,かつ耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂フィルムまたはシートおよびその用途に関する。」 ウ 「【0003】 近年,この軟質ポリ塩化ビニル系樹脂の代替材料としてポリオレフィン系樹脂,例えばポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などが検討されており,特にポリプロピレン系樹脂はポリエチレン系樹脂よりも耐熱性が優れるため,このポリプロピレン系樹脂を軟質化した軟質ポリ塩化ビニル代替材料が種々提案されている。例えば,特許文献1では,リアクターブレンドにより共重合されたプロピレン系共重合体を使用した表面保護フィルム,また,特許文献2,および3には,特定のエラストマー成分をブレンドした軟質ポリプロピレン系樹脂を使用した透明性,柔軟性に優れた軟質ポリプロピレン系樹脂シート及びフィルムが提案されている。しかしながら,軟質ポリ塩化ビニルの重要な特性である耐傷付き性については検討されていなかった。 【0004】 一般的に,ポリプロピレン樹脂にエラストマー成分を添加すると,柔軟性を発現する一方で,耐傷付き性が低下してしまうため,ポリプロピレン樹脂にエラストマー成分を添加するだけでは柔軟性と耐傷付き性を両立することは困難である。例えば,特許文献4には,アンチブロッキング剤と末端に水酸基を有する飽和炭化水素系ポリマーを添加したポリプロピレン樹脂組成物を使用した透明性,耐傷付き性に優れる二軸延伸フィルム用ポリプロピレン樹脂組成物が提案されているが,プロピレン系樹脂の耐傷付き性を改良すると,柔軟性が不十分になる。このように,透明で,柔軟性に優れ,かつ耐傷付き性に優れた軟質ポリプロピレン系樹脂はこれまで得られていない。 【特許文献1】特開平8-27445号公報 【特許文献2】特開平9-25347号公報 【特許文献3】特開2004-217839号公報 【特許文献4】特開平8-3389号公報 【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は,軟質ポリ塩化ビニル樹脂から製造されるフィルムやシートに代替可能であり,透明性および柔軟性に優れ,しかも耐傷付き性にも優れる,ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムまたはシートを提供することを課題としている。」 エ 「【発明の効果】 【0013】 本発明によれば,焼却処理する場合にも有害物質が発生しないポリオレフィン系樹脂からなり,軟質ポリ塩化ビニル樹脂から製造されるフィルムやシートに代替可能であり,透明性および柔軟性に優れ,しかも耐傷付き性にも優れる,ポリオレフィン系樹脂からなるフィルムまたはシートを提供することができる。また本発明によれば,透明性および柔軟性に優れ,かつ耐傷付き性にも優れる表面保護フィルムまたはシート,化粧シート,ストレッチフィルム,自動車内装用シート,ラップフィルムならびにシュリンクフィルムを提供することができる。」 オ 「【0040】 実施例 以下,実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 (中略) 【0043】 (3)引張り破断点伸び,引張り弾性率 Tダイ成形機(東洋精機製)にて作製した厚み100μmのフィルムを用いて,JIS K6781に準拠して測定した。 (中略) (6)メソペンタッド分率 ^(13)C-NMRにより測定したスペクトルにおいて,メチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピーク分率をペンダッド分率として求めた。 【0046】 また,以下の実施例および比較例において用いた各成分は以下のとおりである。 (A)成分 (A-1)エチレン量4wt%のプロピレン-エチレンランダム共重合体(メソペンタッド分率:60mol%,MFR:2.8g/10分,商品名:E2740,(株)プライムポリマー製) (A-2)プロピレン単独重合体(メソペンタッド分率:72mol%,MFR:2.8g/10分,商品名:E2900,(株)プライムポリマー製) (A-3)プロピレン単独重合体(メソペンタッド分率:96mol%,MFR:2.0g/10分,商品名:F122,(株)プライムポリマー製) (A-1)エチレン量4wt%のプロピレン-エチレンランダム共重合体(メソペンタッド分率:96mol%,MFR:1.0g/10分,商品名:B241,(株)プライムポリマー製) (B)成分 (B-1)メタクリル酸亜鉛(浅田化学(株)製,商標R-20S) (C)成分 (C-1):t-ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製,商標パーブチルZ) (C-2):ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂(株)製,商標ナイパーBW) [実施例1] ポリプロピレン系樹脂(A-1)100重量部,メタクリル酸亜鉛(B-1)0.5重量部,成分(C)としてt-ブチルパーオキシベンゾエート(C-1)0.5重量部をヘンシェルミキサーで均一に混合した後,同方向二軸混練機(テクノベル(株)製,商標:KZW31-30HG)にて210℃で加熱混練し,変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム,試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。 (中略)) 【0048】 [実施例3] 実施例1において,成分(A)をポリプロピレン系樹脂(A-2)100重量部に変更したこと以外は,実施例1と同じ方法で変性ポリプロピレン系樹脂を得た。得られた変性ポリプロピレン系樹脂およびそれを成形したフィルム,試験片の性状を上記の方法により測定した。結果を表1に示す。」 カ 表1(【0055】)には,「引張り弾性率」が「456MPa」である「実施例3」が,記載されていると認められる。 (2)甲2発明 前記(1)より,甲第2号証には次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が72mol%のポリプロピレン系樹脂に,メタクリル酸亜鉛がグラフト共重合されている変性ポリプロピレン系樹脂を成形したフィルムであって,引張り弾性率が456MPaであるフィルムからなるストレッチフィルム。」 3 甲第3号証の記載 甲第3号証は,本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 半導体ウエハ加工用粘着テープに用いるフィルム基材であって, 該フィルム基材は,主としてプロピレン系共重合体を含む樹脂組成物で構成され, 該フィルム基材の引張弾性率が50?250MPaであることを特徴とするフィルム基材。」 「【背景技術】 【0002】 半導体装置を製造する工程において,半導体ウエハを切断する際に半導体ウエハ加工用の粘着テープが用いられている。この粘着テープは,半導体ウエハに貼り付け,ダイシング,エキスパンド等を行い,半導体ウエハを切断して得られた半導体素子をピックアップ(実装)するために用いられる。 【0003】 このようなテープは,基材フィルムと,基材フィルムの一方の面に設けられた粘着層とで構成されている。 基材フィルムとしては,主にポリ塩化ビニル(PVC)樹脂フィルムが用いられていた。しかし,ポリ塩化ビニル樹脂の使用に対する環境問題,ポリ塩化ビニル樹脂に用いる可塑剤等の添加剤のブリードによる半導体素子の汚染の可能性等を理由として,最近はポリプロピレン系フィルム,エチレンビニルアルコール系フィルムやエチレンメタクリル酸アクリレート系のフィルム等のポリオレフィン系材料を用いた基材フィルムが開発されている(例えば特許文献1参照)。 【0004】 近年,半導体素子は小型化・薄型化が進み,これまでは問題になっていなかったエキスパンド性,半導体素子の欠け,切り屑の発生等の問題が顕在化してきている。例えばポリプロピレン系フィルムは,エキスパンド後にフィルムの復元率が劣るためカセットラックに収納する際に,弛んだフィルムが下段のウエハ表面と接触し半導体素子を破壊する恐れがある。また,エチレンビニルアルコール系フィルムやエチレンメタクリル酸アクリレート系のフィルムでは,ダイシング時に切り屑が発生しやすく,かつエキスパンド時に裂けやすいという問題がある。そのため,半導体ウエハ加工用粘着テープにおける基材フィルムの性能向上が強く求められている。 【0005】 【特許文献1】特開平09-008111号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は,エキスパンド性に優れ,かつエキスパンド後の半導体ウエハ加工用粘着テープの復元率が高い等の半導体ウエハ加工用粘着テープに要求される性能に優れたフィルム基材およびそれを用いた半導体ウエハ加工用粘着テープを提供することにある。 「【発明の効果】 【0008】 本発明によれば,エキスパンド性に優れ,かつエキスパンド後の半導体ウエハ加工用粘着テープの復元率が高い等の半導体ウエハ加工用粘着テープに要求される性能に優れたフィルム基材およびそれを用いた半導体ウエハ加工用粘着テープを得ることができる。 また,フィルム基材を構成する樹脂組成物に,熱可塑性エラストマーを含む場合,特にフィルム基材の復元性を向上することができる。 また,前記熱可塑性エラストマーとして,特定の復元率を有するものを用いた場合,半導体ウエハ加工用粘着テープの加工後の弛みを特に防止することができる。」 4 甲第4号証の記載 甲第4号証は,本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 剥離基材と,熱硬化型の接着層と,放射線硬化型の粘着層と,基材フィルムとが順次積層された構成を有する接着シートであって, 前記接着層は,前記剥離基材上に部分的に形成されており, 前記粘着層は,前記接着層を覆い,且つ,周縁部が前記剥離基材と接するように形成されており, 前記剥離基材は,厚さが3?100μm,25℃での引張弾性率が1000MPa以上であり, 前記基材フィルムは,厚さが20?300μm,25℃での引張弾性率が10?300MPaであり, 前記剥離基材と前記粘着層との間の25℃での90°ピール強度が0.1?20N/mであることを特徴とする接着シート。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 このプリカット加工が施された接着シート(ダイボンドダイシングシート)は,リール状に巻回された状態で保管されていることが多く,使用時には剥離基材がキャリアフィルムの役割を果たし,接着層及び粘着フィルムからなる積層体は,半導体ウェハやウェハリングに貼り付ける手前で剥離基材から剥がされる。 【0011】 この際の剥離方法としては,(1)手作業又は機械的手段により剥離端部を持ち上げる方法,(2)剥離端部にエアー等を噴射して剥がす方法,(3)剥離基材側から楔状,板状あるいは柱状の部材を当てることにより,剥離基材を部材側へ鋭角に曲げ,剥離基材と,接着層及び粘着フィルムからなる積層体との間に剥離起点を作り剥離する方法,及び,(4)これらを組み合わせた方法等が考えられる。 【0012】 これらの方法のうち,(1)及び(2)の方法では,工程の自動化が難しく,作業の効率化が困難であるという問題があった。これに対して,(3)の方法は,工程の自動化が容易であるため好ましいが,その反面,剥離基材と積層体との界面の密着性が良いと,うまく剥離起点を作ることができずに剥離不良を起こす場合があった。そして,このような剥離不良の発生を,剥離基材と積層体との密着性を低下させることで改善しようとした場合,接着シートの保管時や積層体を半導体ウェハに貼り付ける作業の前に,剥離基材と積層体との間に剥離が生じてしまうという問題があった。 【0013】 本発明は,上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり,使用前における剥離基材と,接着層及び粘着フィルムからなる積層体との間の剥離の発生を十分に低減し,積層体を剥離基材から剥離して半導体ウェハに貼り付ける工程において,剥離不良の発生を十分に低減することが可能な接着シートを提供することを目的とする。また,本発明は,上記接着シートを用いて半導体装置を効率的に製造することが可能な半導体装置の製造方法,及び,かかる製造方法により製造される半導体装置を提供することを目的とする。」 5 甲第5号証の記載 甲第5号証は,本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ブレードダイシングに用いられるダイシングフィルムであって, 基材層,粘着剤層,および保護層がこの順に積層してなり, 基材層の粘着剤層と反対側の面の平均面粗さSa1(μm)が,0.6以下であることを特徴とするダイシングフィルム。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 不良が発生した半導体部材の含まれたパッケージは,出荷前の検査で不良を検知して,出荷停止等の措置が取られるが,パッケージを完成させるまで不良の発生を検知することができないため,パッケージ製造の歩留まりを低下させていた。 【0006】 本発明の目的は,ダイシングにおいて発生した不良を,予め検知して,パッケージ製造の歩留まりを向上させることにある。」 6 甲第6号証の記載 甲第6号証は,本件出願日前に日本国内において頒布された刊行物であって,次のとおりの記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材樹脂フィルムの少なくとも片側に放射線硬化性の粘着剤層を有し,前記粘着剤層にウエハを貼合して前記ウエハをダイシングするダイシングテープであって, 23℃,50%RHの条件下,剥離角度90度,剥離速度50mm/minにおける,#2000で研磨されたシリコンミラーウエハとの剥離力が,前記粘着剤層を放射線硬化させる前は0.5N/25mm以上であり,前記粘着剤層を放射線硬化させた後は0.05?0.4N/25mmであり, かつ,前記粘着剤層を放射線硬化させた後の,23℃,50%RHの条件下,剥離角度90度における,#2000で研磨されたシリコンミラーウエハとの剥離力について,剥離速度50mm/minでの剥離力を(i),1000mm/minでの剥離力を(ii)としたとき,(ii)/(i)が1以下であることを特徴とするダイシングテープ。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら,半導体素子の薄型化が進んでおり,特に半導体ウエハの厚みが100μm以下になると,従来のダイシングテープでは,従来通り突き上げピンを素早く突き上げて半導体チップをピックアップすると,突き上げピンの突き上げによる衝撃で,半導体チップが非常に割れやすいという問題があった。そのため,半導体チップへの衝撃を抑えるべく突き上げピンをゆっくりと持ち上げるようにすると,ピックアップ時間が長くなるという問題があった。また,従来のダイシングテープでは,ダイシングテープと半導体チップとの剥離力は,剥離速度が速いほど大きくなる。したがって,たとえ半導体チップへの衝撃を抑えつつ突き上げピンを素早く突き上げることができたとしても,突き上げピンにより,ダイシングテープと半導体チップとの剥離を助長した際に,剥離の進行速度が速いと剥離力も大きくなるため,薄型で剛性の低い半導体チップでは,その端部が変形してチップ割れが起こりやすいという問題があった。そのため,ダイシングテープと半導体チップの剥離が進行するまで待機して十分な剥離面積が確保された後に,吸着コレットの真空吸着により半導体チップをピックアップすることとなり,やはりピックアップ時間が長くなるという問題があった。 【0006】 そこで,本発明は,ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップをチップ割れすることなく,短時間で効率良くピックアップすることができるダイシングテープを提供することを目的とする。」 第5 申立理由についての判断 1 本件特許発明1の新規性及び進歩性について (1)本件特許発明1と甲1発明との対比 ア 甲1発明の「^(13)C-NMRペンタッド分率が0.77であるポリプロピレン樹脂」は,本件特許発明1の「ポリプロピレン系樹脂は,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であり」を満たす。 イ 甲1発明の「引張弾性率が480MPa」は,本件特許発明1の「引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である」を満たす。 ウ 甲1発明の「ポリプロピレン樹脂よりなる」「フィルム」は,下記相違点1を除いて,本件特許発明1の「ポリプロピレン系樹脂を含有するフイルム」に相当する。 エ すると,本件特許発明1と甲1発明とは,下記オの点で一致し,下記カの点で相違する。 オ 一致点 「ポリプロピレン系樹脂を含有するフイルムであって, 前記ポリプロピレン系樹脂は,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であり, 前記フイルムの引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である, ことを特徴とするフイルム。」 カ 相違点 本件特許発明1の「フイルム」は「ダイシング用基体フイルム」であるのに対し,甲1発明では「フィルム」である点。(「相違点1」という。) (2)本件特許発明1と甲2発明との対比 ア 甲2発明の「^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が72mol%のポリプロピレン系樹脂」は,本件特許発明1の「ポリプロピレン系樹脂は,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であり」を満たす。 イ 甲2発明の「引張り弾性率が456MPaである」は,本件特許発明1の「引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である」を満たす。 ウ 甲2発明の「フィルムからなるストレッチフィルム」は,本件特許発明1の「ダイシング用基体フイルム」と,「フイルム」である点で共通する。 エ すると,本件特許発明1と甲2発明とは,下記オの点で一致し,下記カの点で相違する。 オ 一致点 「ポリプロピレン系樹脂を含有するフイルムであって, 前記ポリプロピレン系樹脂は,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であり, 前記フイルムの引張弾性率が150MPa以上500MPa以下である, ことを特徴とするフイルム。」 カ 相違点 (ア)本件特許発明1では「ポリプロピレン系樹脂」であるのに対し,甲2発明では「ポリプロピレン系樹脂に,メタクリル酸亜鉛がグラフト共重合されている変性ポリプロピレン系樹脂」である点。(「相違点2」という。) (イ)本件特許発明1では「フイルム」は「ダイシング用基体フイルム」であるのに対し,甲2発明では「ストレッチフィルム」である点。(「相違点3」という。) (3)判断 ア 新規性について 本件特許発明1は,甲1発明と相違点1において,甲2発明と相違点2及び3において,それぞれ相違するから,本件特許発明1は,甲1発明又は甲2発明ではない。 イ 進歩性について (ア)相違点1について 甲第1号証において,甲1発明を「ダイシングフィルム」に採用することの示唆があり(前記第4の1(1)オ),甲第3号証及び甲第4号証には「ダイシングテープ」及び「ダイボンドダイシングシート」が記載されている。しかし,甲第1号証において,「ダイシングフィルム」以外にも「従来の軟質PVCフィルムが用いられている種々の分野」が数多く列挙されており,甲第1号証に記載された実施例1?6のうち特に「実施例6」を選択した上でそれが「種々の分野」のうち特に「ダイシングフィルム」に適していることの記載や示唆はない。甲1発明の目的は「応力緩和性の優れるフィルム」にあり(同ウ),その効果も「応力緩和性に優れ良好な2次加工性を有する」(同オ)というものである。ここで「応力緩和性」とは,フィルムを延伸して一定時間保持し一定時間後の応力値の延伸時の最大応力値からの減少をいい(同カ【0034】,【0035】),すなわちフィルムを延伸して基材に貼付した後に収縮力が弱まるというもの(同ウ【0004】)であるから,高い復元率とは逆方向の目的,効果であり,「優れた拡張性及びラック収納・回収性を示す」(本件特許明細書【0006】,【0013】)という本件特許発明1の効果は,甲1発明に基づく当業者の予測を越えるものである。 そもそも,ダイシングフィルムは半導体ウエハに貼付しダイシングした後に面方向に一様にエクスパンドされるものであり(本件特許明細書【0003】,前記第4の3【0002】),甲1発明が前提としているような延伸して基材に貼付するものではないから,前記示唆にもかかわらず,当業者が甲1発明をダイシングフィルムに採用する動機付けを欠いている。 (イ)相違点2について 甲2発明は,ポリプロピレン樹脂にエラストマー成分を添加するだけでは柔軟性と耐傷付き性を両立することは困難であること(前記第4の2(1)ウ【0004】)から,ポリプロピレン樹脂にメタクリル酸亜鉛がグラフト共重合されている変性ポリプロピレン系樹脂を用いるというものであるから,グラフト共重合をしないポリプロピレン系樹脂を用いることは,甲2発明の目的に反し,阻害要因がある。 (ウ)相違点3について 甲2発明をダイシングフィルムに採用することについて,いずれの甲号証に記載も示唆もない。また,甲2発明の効果は「透明性および柔軟性に優れ,しかも耐傷付き性にも優れるストレッチフィルムを提供する」(前記第4の2(1)エ)というものであり,「優れた拡張性及びラック収納・回収性を示す」(本件特許明細書【0006】,【0013】)という本件特許発明1の効果は,甲2発明に基づく当業者の予測を越えるものである。 (4)まとめ したがって,本件特許発明1は,甲1発明又は甲2発明ではなく,甲1発明又は甲2発明及び甲3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件特許の請求項1に係る特許は,特許法第29条第1項3号又は同条第2項の規定に違反してされたものではない。 2 本件特許発明2及び3について 本件特許発明1を引用した本件特許発明2及び本件特許発明1と発明のカテゴリーが相違する発明である本件特許発明3については,本件特許発明1の発明特定事項あるいは前記発明特定事項に対応する事項をすべて含むものであるから,本件特許発明1と同様に,甲1発明又は甲2発明ではなく,甲1発明又は甲2発明及び甲3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,本件特許の請求項2及び3に係る特許は,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものではない。 3 記載要件について ア 本件特許発明の課題 本件特許発明1ないし3(以下,まとめて「本件特許発明」という。)の課題は「優れた拡張性及びラック収納・回収性を示す」(本件特許明細書【0010】)というものである。 イ 発明の詳細な説明において,課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲 上記課題に対応して,ダイシング基体フイルムが含有するポリプロピレンの「メソペンタッド分率(mmmm分率)が60?85%である」と結晶性が低過ぎず高過ぎず,エキスパンド時に延びやすく全方向に均等に拡張しやすくなり(同【0015】),実施例1ないし4において,mmmm分率が60?85%であり,いずれも拡張性がMD方向とTD方向とで均等な値を示しており,全方向に均等に拡張することができ,復元率が高く,MD方向とTD方向とで均等となっており,収縮性に優れており,ラック収納・回収性に優れていることが分かる(同【0067】-【0070】)。 ウ 特許請求の範囲の記載 そして,請求項1ないし3には「前記ポリプロピレン系樹脂は,^(13)C-NMRスペクトルにより測定されるメソペンタッド分率が60?85%であり」と記載されているから,上記イで示した「範囲」を越えるものではない。 エ 引張弾性率について 一方で,引張弾性率については,発明の詳細な説明において,実施例1ないし4において273?296の値しか示されていない(同【0068】)。しかし,引張弾性率が500MPaを超えると,ダイシングフイルムをエキスパンドする際の降伏点応力が低減されず,拡張性に優れたダイシングフイルムを得ることができない(同【0039】)こと,比較例1は引張弾性率が650MPaで,拡張性が低いこと(同【0068】?【0071】)が開示されていることから,上記課題との関係では,引張弾性率が500MPa以下であれば,課題が解決できることを当業者が認識できるというべきであり,また,発明の詳細な説明において,引張弾性率が150MPa未満であると,ダイシング用基体フイルムの製造時に取扱いが難しくなること(同【0039】)が記載されていることから,引張弾性率が150MPa以上であれば,当業者が,技術常識に照らして,課題が解決できることを認識できるというべきである。そして,これらは,請求項1ないし3に反映されている。 オ まとめ したがって,本件特許発明1ないし3は,発明の詳細な説明に記載したものであり,本件特許は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。 第6 結び 以上のとおりであるから,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-03 |
出願番号 | 特願2015-182(P2015-182) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L) P 1 651・ 537- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮久保 博幸 |
特許庁審判長 |
加藤 浩一 |
特許庁審判官 |
深沢 正志 河合 俊英 |
登録日 | 2017-11-17 |
登録番号 | 特許第6242351号(P6242351) |
権利者 | グンゼ株式会社 |
発明の名称 | ダイシング用基体フイルム、ダイシングフイルム、及びダイシング用基体フイルムの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |