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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C09K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1343251
審判番号 無効2014-800152  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-09-09 
確定日 2018-02-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5234227号「ネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子」の特許無効審判事件についてされた平成27年12月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1ないし5、7ないし11に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10038号、平成29年 7月26日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5234227号の明細書及び特許請求の範囲を、平成27年9月28日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第5234227号の請求項6に係る特許についての無効審判請求を却下する。 特許第5234227号の請求項1?5、7?11に係る特許についての本件審判の請求は成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判事件に係る特許第5234227号の特許(以下、「本件特許」という。)は、平成24年4月4日(優先権主張 平成23年4月6日、日本国)を国際出願日とする日本語国際特許出願であって、平成25年4月5日にその特許権の設定の登録がされたものである。
そして、本件無効審判請求に係る手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 9月 9日 :無効審判請求書及び甲第1?14号証の提出
同年10月 9日付け:答弁指令、請求書副本の送付
同年12月15日 :訂正請求書及び審判事件答弁書の提出
(受理日同年12月16日)
平成27年 1月14日付け:弁駁指令、答弁書副本、訂正請求書副本の送付
同年 2月13日 :弁駁書及び甲第15号証の提出
同年 2月25日付け:弁駁書副本の送付
同年 3月 9日付け:審理事項通知(両当事者あて)
同年 4月 7日 :口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
同日 :口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
(受理日同年 4月 8日)
同年 4月 8日付け:口頭審理陳述要領書(請求人)副本の送付
同年 4月 9日付け:口頭審理陳述要領書(被請求人)副本の送付
同年 4月16日 :上申書(請求人)の提出
同年 4月21日 :第1回口頭審理
同年 5月19日 :上申書(被請求人)の提出
(受理日同年 5月20日)
同年 5月21日付け:上申書(被請求人)副本の送付
同年 6月 2日 :上申書2(請求人)の提出
同年 6月 3日付け:上申書2(請求人)副本の送付
同年 7月23日付け:審決の予告
同年 7月30日 :審決の予告謄本の送達
同年 9月28日 :訂正請求書、上申書(被請求人)及び乙1?3号証の提出
(受理日同年 9月29日)
同年10月 8日付け:上申書(被請求人)副本の送付
同年10月 9日付け:訂正請求書副本の送付
同年11月11日 :弁駁書2(請求人)の提出
同年12月 3日付け:弁駁書2(請求人)副本の送付
同年12月 9日付け:審理終結通知
同年12月28日付け:審決(「訂正を認める。請求項1?5、7?11に係る発明についての特許を無効とする。請求項6に係る発明についての無効審判請求を却下する。」)
平成28年 1月 8日 :審決謄本の送達
同年 2月 5日 :知的財産高等裁判所出訴(被請求人原告 平成28年(行ケ)第10038号)
平成29年 7月26日 :判決言渡(審決取消)
同年 8月 7日 :上申書(請求人)及び甲第16?17号証の提出

上記のとおり、被請求人から平成27年9月28日に訂正請求書が提出されて、本件特許明細書及び特許請求の範囲の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたので、特許法第134条の2第6項の規定により、平成26年12月15日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 請求人の主張の概要及び証拠方法
[請求の趣旨]
請求人が主張する請求の趣旨は、「特許第5234227号の請求項1?11に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である。

[請求の理由]
請求人は、各特許を無効とすべき理由として、概略、下記無効理由1?無効理由3を提示し、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第14号証を上記審判請求書に添付し、下記甲第15号証を平成27年2月13日に提出した弁駁書に添付し、下記甲第16号証及び甲第17号証を平成29年8月7日に提出した上申書に添付して、それぞれ提出した。

1.無効理由1(新規性違反)
本件特許の請求項1?6、8?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
2.無効理由2(進歩性違反)
(1)本件特許の請求項1?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第5?11号証に記載された発明及び甲第4、12?14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)本件特許の請求項1、2、6、7、9?11に係る発明は、甲第2号証、及び甲第5?11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)本件特許の請求項1、2、6、7、9?11に係る発明は、甲第3号証、及び甲第5?11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
3.無効理由3(拡大先願)
本件特許の請求項1、2、4、6、8?11に係る発明は、当該特許出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開された願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲に記載された発明(甲第4号証記載の発明)と同一であって、その発明をした者が当該特許出願に係る発明の発明者とも同一ではなく、かつ当該特許出願の時にその出願人と当該特許出願の出願人とが同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
<審判請求書に添付>
甲第1号証:国際公開第2011/024666号
甲第2号証:特開2008-308581号公報
甲第3号証:特開2009-40942号公報
甲第4号証:国際公開第2012/053323号
甲第5号証:特開昭59-219382号公報
甲第6号証:北嶋勝広,横小路修,橘多聞,井上誠一,”トランス-ジフルオロスチルベン(DFS)系液晶の物性と高速応答STN用液晶組成物への応用”,液晶討論会講演予稿集,一般社団法人日本液晶学会,1997,vol.23,p.234-235
甲第7号証:Richard J. BEST,"Physical Properties of Diarylalkanes",Journal of chemical & engineering data,(米国),ACS Publiations,1963.04,vol.8,No.2,p.267-270
甲第8号証:国際公開第2010/119779号
甲第9号証:特開2009-102639号公報
甲第10号証:特開2009-104119号公報
甲第11号証:犬飼孝,宮澤和利,”表示用ネマティック液晶化合物の発展の概要”,EKISHO,一般社団法人日本液晶学会,1997,vol.1,No.1,p.9-22
甲第12号証:国際公開第2012/046590号
甲第13号証:中国特許公開第101323596号公報
甲第14号証:JNC石油化学株式会社市原研究所 次席研究員 木部茂作成になる平成26年9月1日付け試験成績証明書
<弁駁書に添付>
甲第15号証:特開2010-285499号公報
<上申書に添付>
甲第16号証:国際公開第2007/077872号
甲第17号証:S. M. Kelly,M. O'Neil,”Chapter 1 LIQUID CRYSTALS FOR ELECTRO-OPTIC APPLICATIONS”,edited by H. S. Nalwa,Handbook of Advanced Electronic and Photonic Materials and Devices, vol.7,Liquid Crystals, Display, and Laser Materials,(米国),Academic Press,2000,p.1-2,16-19
(以下、「甲第1号証」?「甲第17号証」をそれぞれ「甲1」?「甲17」という。まとめて、「甲号証」ということもある。)

第3 被請求人の答弁の概要及び証拠方法
[答弁の趣旨]
被請求人の答弁の趣旨は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」である。

[答弁の理由]
被請求人は、請求人が主張する無効理由1?3は、いずれも理由がない旨を主張し、証拠方法として、下記乙第1号証?乙第3号証を平成27年9月28日に提出した上申書に添付して、提出した。

[証拠方法]
<上申書に添付>
乙第1号証:特開平9-208503号公報
乙第2号証:液晶便覧編集委員会編,「液晶便覧」,丸善株式会社,平成12年10月30日,p.312-315
乙第3号証:DIC株式会社 埼玉工場 液晶材料技術1グループ 主任研究員 須藤豪が平成27年9月26日付けで作成した実験成績証明書
(以下、「乙第1号証」?「乙第3号証」をそれぞれ「乙1」?「乙3」という。まとめて、「乙号証」ということもある。)

第4 無効理由に係る主張の追加及び撤回
(1)無効理由に係る主張の追加
請求人は、平成27年2月13日に提出した弁駁書において、甲3に記載された発明を主たる引用発明としてなる無効理由2に係る主張を新たに追加した。
そして、当審は、平成27年4月21日に行われた口頭審理において、被請求人の意見を聴取した上で、当該主張の追加を許可する旨の決定を行った(調書参照)。

(2)無効理由に係る主張の撤回
請求人は、同人が提出した口頭審理陳述要領書において、上記無効理由3に係る主張を撤回した。
そして、被請求人は、口頭審理において、上記主張の撤回につき同意した(調書参照)。

第5 訂正請求について
1.訂正の内容
被請求人は、審判長が特許法第164条の2第2項に規定する訂正を請求するために指定した期間内である平成27年9月28日に訂正請求書を提出して、本件特許明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシル基炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、R^(1)及びR^(2)中に存在する1個の-CH_(2)-又は隣接していない2個以上の-CH_(2)-はそれぞれ独立的に-O-及び/又は-S-に置換されてもよく、またR^(1)及びR^(2)中に存在する1個又は2個以上の水素原子はそれぞれ独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、環A及び環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-フェニレン基、2-フルオロ-1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基を表し、p及びqはそれぞれ独立的に0、1又は2を表す。)」とあるのを、「(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシル基炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、環A及び環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-フェニレン基、2-フルオロ-1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基又は1,4-シクロヘキセニレン基を表し、p及びqはそれぞれ独立的に0、1又は2を表す。)」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「(R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、R^(3)及びR^(4)中に存在する1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子に置換されてもよい。)」とあるのを、「(R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表す。)」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.13の範囲であり、」とあるのを、「25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲であり、」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、「液晶組成物。」とあるのを、「液晶組成物であって、第三成分としてさらに、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)
[化5]

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すが、一般式(III-F)においてR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基を表すことはない。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有し、塩素原子を有する液晶化合物を含有しない、液晶組成物。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に、「第三成分としてさらに、一般式(III-A)から一般式(III-J)
[化4]

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシル基、炭素原子数2から5のアルケニル基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すが、一般式(III-F)においてR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基を表すことはない。)で表される化合物群から選ばれる化合物」とあるのを、「第三成分として、一般式(III-G)
[化6]

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる化合物」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1から6のいずれか1項」とあるのを、「請求項1から5のいずれか1項」と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1から7のいずれか1項」とあるのを、「請求項1から5、7のいずれか1項」と訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1から8のいずれか1項」とあるのを、「請求項1から5、7、8のいずれか1項」と訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1から8のいずれか1項」とあるのを、「請求項1から5、7、8のいずれか1項」と訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1から8のいずれか1項」とあるのを、「請求項1から5、7、8のいずれか1項」と訂正する。

2.本件訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的について
ア.訂正事項1?4について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された液晶組成物に含有される一般式(II-1)及び(II-2)で表される化合物の置換基R^(1)及びR^(2)の選択肢から、「1個の-CH_(2)-又は隣接していない2個以上の-CH_(2)-はそれぞれ独立的に-O-及び/又は-S-に置換され」た基、及び「1個又は2個以上の水素原子はそれぞれ独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換され」た基を削除し、さらに、当該化合物の環A及びBの選択肢から、「1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基」を削除するものである。
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された液晶組成物に含有される一般式(II-1A)、(II-1B)及び(II-2A)で表される化合物の置換基R^(3)及びR^(4)の選択肢から、「1個又は2個以上の水素原子はフッ素原子に置換され」た基を削除するものである。
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載された25℃における屈折率異方性(Δn)の範囲「0.08から0.13」を「0.08から0.12」に減縮するものである。
訂正事項4は、訂正前の請求項1に記載された液晶組成物に、「第三成分としてさらに、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)
[化5]

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すが、一般式(III-F)においてR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基を表すことはない。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有」するという事項及び「塩素原子を有する液晶化合物を含有しない」という事項をいずれも直列的に付加して発明特定事項を減縮するものである。
総合すると、訂正事項1?4は、訂正前の請求項1に係る特許請求の範囲を実質的に減縮するものであり、訂正後の請求項1を引用する各請求項についても同様に実質的に減縮されるものと認められる。
よって、訂正事項1?4は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項2に記載された液晶組成物に含有される「一般式(III-A)から一般式(III-J)・・・で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上」を、「一般式(III-G)・・・で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上」に減縮し、さらにその置換基R^(5)及びR^(6)の選択肢を、「炭素原子数1から5のアルキル基」に減縮するものであるから、訂正前の請求項2に係る特許請求の範囲を実質的に減縮するものである。
よって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ.訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

エ.訂正事項7?11について
訂正事項7は、訂正前の請求項7が「請求項1から6のいずれか1項」を引用するものであったところ、訂正事項6に係る訂正前の請求項6の削除に伴い、引用請求項から削除された請求項6を除き、「請求項1から5のいずれか1項」を引用するものに訂正するものである。
また、訂正事項8?11も同様に、訂正事項6に係る訂正前の請求項6の削除に伴い、訂正前の請求項8?11における引用請求項から削除された請求項6を除くものである。
よって、訂正事項7?11は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

オ.小括
以上のとおり、訂正事項1?11は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の有無について
ア.訂正事項1?4について
訂正事項1及び2は、いずれも訂正前の請求項1に記載されていた化合物の置換基及び環の選択肢の一部を削除したものであるから、明らかに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項3は、訂正前の本件特許明細書の[0036]の記載に基づいて、25℃における屈折率異方性(Δn)の範囲の上限を「0.13」から「0.12」に訂正するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項4は、訂正前の請求項2及び[0042]に記載されていた第三成分についての記載、及び訂正前の[0043]に記載されていた第三成分の好ましい選択肢についての記載に基づいて、液晶組成物が「第三成分としてさらに、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)・・・で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有」することを特定し、さらに、訂正前の請求項6及び[0056]の記載に基づいて、液晶組成物が「塩素原子を有する液晶化合物を含有しない」ことを特定するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、請求項1に係る訂正事項1?4は、いずれも特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすものである。

イ.訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項2に記載されていた第三成分の化合物の選択肢及び当該化合物の置換基の選択肢の一部を削除したものであるから、明らかに、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすものである。

ウ.訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、明らかに、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項6は、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすものである。

エ.訂正事項7について
訂正事項7?11は、いずれも、訂正事項6に係る訂正前の請求項6の削除に伴い、訂正前の請求項7?11における引用請求項から削除された請求項6を除くものであるから、明らかに、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項7?11は、いずれも特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすものである。

オ.請求人の主張について
請求人は、平成27年11月11日に提出した「弁駁書2」において、訂正事項4及び5は、いずれも特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない旨を主張している(上記弁駁書2の第3?10頁「7.7-0.「訂正要件違反について」の項。)。
しかし、上記第2 2.(1)ア.及びイ.並びに同(2)ア.及びイ.において検討したとおり、訂正事項4及び5は、いずれも本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で、選択肢の一部を削除し、又は発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。また、訂正事項4及び5により減縮された訂正後の発明は、本件特許明細書等の記載から当業者が認識することができない特段の効果を発揮するものともいえない。そうすると、訂正事項4及び5により、新たに個別化された選択肢の組合せからなる発明や、新たな上位概念の発明が本件特許明細書等に追加されるとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

カ.小括
以上のとおり、訂正事項1?11は、いずれも特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
ア.訂正事項1?5について
上記第2 2.(1)ア.及びイ.並びに同(2)ア.及びイ.において検討したとおり、訂正事項1?5は、いずれも訂正前の請求項1又は2を減縮するものであって、新たな技術的事項を導入するものでもないから、特許請求の範囲を実質的に減縮するものといえる。
そうすると、訂正事項1?5は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

イ.訂正事項6?11について
訂正事項6は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、明らかに特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項7?11は、請求項6の削除に伴い、請求項7?11における引用請求項から、単に削除された請求項6を除くものであるから、明らかに実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項6?11は、いずれも特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

ウ.小括
以上のとおり、訂正事項1?11は、いずれも特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

(4)一群の請求項について
訂正前の特許請求の範囲においては、請求項2?11が請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、請求項1?11が一群の請求項を構成するものである。
また、訂正事項1?11による訂正後の請求項2?5、7?11も、訂正後の請求項1を引用して記載されており、訂正により連動して訂正される。なお、訂正事項6により訂正前の請求項6は削除される。
そうすると、本件訂正は一群の請求項に対して請求されたものといえるから、特許法第134条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(5)独立特許要件について
本件無効審判においては、訂正前のすべての請求項1?11が無効審判の請求の対象とされているから、訂正事項1?11に関して、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(6)本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものである。
よって、本件訂正を認める。

第6 本件特許に係る発明
上記第2 2.「本件訂正の適否についての判断」に記載したとおりに本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5、7?11に係る発明は、それぞれ、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5、7?11に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。
なお、以下では、本件特許の請求項1?5、7?11のそれぞれに係る発明を、対応する請求項の番号を用いて、「本件発明1」などという。また、本件発明1?5、7?11をまとめて「本件発明」という。さらに、訂正した明細書を「本件明細書」という。
「[請求項1]
第一成分として、式(I)
[化1]

で表される化合物を含有し、その含有量が5から25%であり、
第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい、一般式(II-1)及び(II-2)
[化2]

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシル基炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、環A及び環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-フェニレン基、2-フルオロ-1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基又は1,4-シクロヘキセニレン基を表し、p及びqはそれぞれ独立的に0、1又は2を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し、その含有量が20から80質量%であり、該第二成分として一般式(II-1A)、(II-1B)及び(II-2A)
[化3]

(R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し、25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲であり、20℃における粘度(η)が10から30 mPa・sの範囲であり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が60から120℃の範囲であることを特徴とする液晶組成物であって、
第三成分としてさらに、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)
[化5]

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すが、一般式(III-F)においてR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基を表すことはない。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有し、
塩素原子を有する液晶化合物を含有しない、
液晶組成物。
[請求項2]
第三成分として、一般式(III-G)
[化6]

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有する請求項1に記載の液晶組成物。
[請求項3]
式(I)、一般式(II-1A)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有する請求項1又は2に記載の液晶組成物。
[請求項4]
式(I)、一般式(II-1B)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項5]
式(I)、一般式(II-1A)、(II-1B)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項6]
(削除)
[請求項7]
アルケニル基を有する液晶化合物の含有量が10%未満である請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項8]
重合性化合物を含有する請求項1から5、7のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項9]
請求項1から5、7、8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いた液晶表示素子。
[請求項10]
請求項1から5、7、8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いたアクティブマトリックス駆動用液晶表示素子。
[請求項11]
請求項1から5、7、8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いたVAモード、PSAモード、PSVAモード、IPSモード又はECBモード用液晶表示素子。」

第7 無効理由の整理
上記「第5」の本件訂正、及び上記「第4」の一部の無効理由に係る主張の追加及び撤回を踏まえると、請求人が主張する無効理由は以下のように整理することができる。
なお、本件訂正により削除された請求項6に係る発明についての本件無効審判の請求については却下する。

1.無効理由1(新規性違反)
本件発明1?5、8?11は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.無効理由2(進歩性違反)
(1)本件発明1?5、7?11は、甲1に記載された発明、並びに甲5?11に記載された発明及び甲4、12?15に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)本件発明1、2、7、9?11は、甲2、及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)本件発明1、2、7、9?11は、甲3、及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

第8 当審の判断
1.甲号証に記載された事項
(1)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1-1)「請求の範囲
[請求項1] 第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、そして負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;mは1または2である。
[請求項2] 液晶組成物の全重量に基づいて、第一成分の割合が5重量%から60重量%の範囲であり、そして第二成分の割合が5重量%から40重量%の範囲である請求項1に記載の液晶組成物。
[請求項3] 第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも一つの化合物をさらに含有する、請求項1または2に記載の液晶組成物。

ここで、R^(3)およびR^(4)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環A、環B、および環Cは独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、3-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり;Z^(1)は独立して、単結合、エチレン、またはカルボニルオキシであり;jは、0、1、または2である。
[請求項4] 第三成分が式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項3に記載の液晶組成物。

ここで、R^(3)およびR^(4)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
[請求項5] 第三成分が式(3-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項6] 第三成分が式(3-5)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項7] 第三成分が式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項8] 第三成分が、式(3-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および式(3-5)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の混合物である請求項4に記載の液晶組成物。
[請求項9] 液晶組成物の全重量に基づいて、第三成分の割合が20重量%から70重量%の範囲である請求項3から8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項10] 第四成分として式(4-1)および式(4-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項1から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。

ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Dおよび環Eは独立して、1,4-シクロへキシレン、または1,4-フェニレンであり;Z^(2)およびZ^(3)は独立して、単結合、エチレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;X^(1)およびX^(2)は独立して、フッ素または塩素であり;kは、1、2、または3であり;pおよびqは独立して、0、1、2、または3であり、そしてpとqとの和が3以下である。
[請求項11] 第四成分が、式(4-1-1)から式(4-1-2)、および式(4-2-1)から式(4-2-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項10に記載の液晶組成物。

ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環D^(1)、環D^(2)、環E^(1)、および環E^(2)は独立して、1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンであり;Z^(2)およびZ^(3)は独立して、単結合、エチレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。
[請求項12] 第四成分が式(4-1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項11に記載の液晶組成物。
[請求項13] 第四成分が式(4-1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項11に記載の液晶組成物。
[請求項14] 第四成分が式(4-2-3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である請求項11に記載の液晶組成物。
[請求項15] 液晶組成物の全重量に基づいて、第四成分の割合が5重量%から40重量%の範囲である請求項10から14のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項16] ネマチック相の上限温度が70℃以上であり、波長589nmにおける光学異方性(25℃)が0.08以上であり、そして周波数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)が-2以下である請求項1から15のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[請求項17] 請求項1から16のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。
[請求項18] 液晶表示素子の動作モードが、VAモード、IPSモード、またはPSAモードであり、液晶表示素子の駆動方式がアクティブマトリックス方式である請求項17に記載の液晶表示素子。」

(甲1-2)「技術分野
[0001] 本発明は、主としてAM(active matrix)素子などに適する液晶組成物およびこの組成物を含有するAM素子などに関する。特に、誘電率異方性が負の液晶組成物に関し、この組成物を含有するIPS(in-plane switching)モード、VA(vertical alignment)モードまたはPSA(polymer sustained alignment)モードの素子に関する。」

(甲1-3)「背景技術
[0002]
・・(中略)・・
[0003] これらの素子は適切な特性を有する液晶組成物を含有する。この液晶組成物はネマチック相を有する。良好な一般的特性を有するAM素子を得るには組成物の一般的特性を向上させる。2つの一般的特性における関連を下記の表1にまとめる。組成物の一般的特性を市販されているAM素子に基づいてさらに説明する。ネマチック相の温度範囲は、素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ましい上限温度は約70℃以上であり、そしてネマチック相の好ましい下限温度は約-10℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。したがって、組成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより好ましい。
[0004]

[0005] 組成物の光学異方性は、素子のコントラスト比に関連する。組成物の光学異方性(Δn)と素子のセルギャップ(d)との積(Δn×d)は、コントラスト比を最大にするように設計される。適切な積の値は動作モードの種類に依存する。VAモードの素子では約0.30μmから約0.40μmの範囲、IPSモードの素子では約0.20μmから約0.30μmの範囲である。この場合、小さなセルギャップの素子には大きな光学異方性を有する組成物が好ましい。組成物における絶対値の大きな誘電率異方性は素子における低いしきい値電圧、小さな消費電力と大きなコントラスト比に寄与する。したがって、絶対値の大きな誘電率異方性が好ましい。組成物における大きな比抵抗は、素子における大きな電圧保持率と大きなコントラスト比に寄与する。したがって、初期段階において室温だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。長時間使用したあと、室温だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。紫外線および熱に対する組成物の安定性は、液晶表示素子の寿命に関連する。これらの安定性が高いとき、この素子の寿命は長い。このような特性は、液晶プロジェクター、液晶テレビなどに用いるAM素子に好ましい。
[0006] TNモードを有するAM素子においては正の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。一方、VAモードを有するAM素子においては負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。IPSモードを有するAM素子においては正または負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。PSAモードを有するAM素子においては正または負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。負の誘電率異方性を有する液晶組成物の例は次の特許文献1から6に開示されている。
・・(中略)・・
[0008] 望ましいAM素子は、使用できる温度範囲が広い、応答時間が短い、コントラスト比が大きい、しきい値電圧が低い、電圧保持率が大きい、寿命が長い、などの特性を有する。1ミリ秒でもより短い応答時間が望ましい。したがって、組成物の望ましい特性は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、正または負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性などである。」

(甲1-4)「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明の1つの目的は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。他の目的は、少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物である。別の目的は、このような組成物を含有する液晶表示素子である。別の目的は、小さな光学異方性、または大きな光学異方性である適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などを有する組成物であり、そして短い応答時間、大きな電圧保持率、大きなコントラスト比、長い寿命などを有するAM素子である。
課題を解決するための手段
[0010] 第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、そして負の誘電率異方性を有する液晶組成物、およびこの組成物を含有する液晶表示素子である。

ここで、R^(1)およびR^(2)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;mは1または2である。」

(甲1-5)「発明の効果
[0011] 本発明の長所は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。本発明の1つの側面は、少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物である。別の側面は、このような組成物を含有する液晶表示素子である。他の側面は、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、紫外線に対する高い安定性などを有する組成物であり、そして短い応答時間、大きな電圧保持率、大きなコントラスト比、長い寿命などを有するAM素子である。」

(甲1-6)「発明を実施するための形態
[0012] この明細書における用語の使い方は次のとおりである。本発明の液晶組成物または本発明の液晶表示素子をそれぞれ「組成物」または「素子」と略すことがある。液晶表示素子は液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相などの液晶相を有する化合物または液晶相を有さないが組成物の成分として有用な化合物を意味する。この有用な化合物は例えば1,4-シクロヘキシレンや1,4-フェニレンのような六員環を有し、その分子構造は棒状(rod like)である。光学活性な化合物および重合可能な化合物は組成物に添加されることがある。これらの化合物が液晶性化合物であったとしても、ここでは添加物として分類される。式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1)」と略すことがある。「化合物(1)」は、式(1)で表される1つの化合物または2つ以上の化合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「任意の」は、位置だけでなく個数についても任意であることを示すが、個数が0である場合を含まない。」

(甲1-7)「[0035]
第一に、組成物における成分化合物の構成を説明する。本発明の組成物は組成物Aと組成物Bに分類される。組成物Aはその他の液晶性化合物、添加物、不純物などをさらに含有してもよい。「その他の液晶性化合物」は、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4-1)、および化合物(4-2)とは異なる液晶性化合物である。このような化合物は、特性をさらに調整する目的で組成物に混合される。その他の液晶性化合物の中で、シアノ化合物は熱または紫外線に対する安定性の観点から少ない方が好ましい。シアノ化合物のさらに好ましい割合は0重量%である。添加物は、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合可能な化合物、重合開始剤などである。不純物は成分化合物の合成などの工程において混入した化合物などである。この化合物が液晶性化合物であったとしても、ここでは不純物として分類される。

(甲1-8)「[0037] 第二に、成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が組成物の特性に及ぼす主要な効果を説明する。成分化合物の主要な特性を本発明の効果に基づいて表2にまとめる。表2の記号において、Lは大きいまたは高い、Mは中程度の、Sは小さいまたは低い、を意味する。記号L、M、Sは、成分化合物のあいだの定性的な比較に基づいた分類であり、0(ゼロ)は、値がほぼゼロであることを意味する。
[0038]

[0039] 成分化合物を組成物に混合したとき、成分化合物が組成物の特性に及ぼす主要な効果は次のとおりである。化合物(1)は誘電率異方性の絶対値を上げる。化合物(2)は光学異方性を上げ、そして誘電率異方性の絶対値を上げる。化合物(3)は粘度を下げるまたは上限温度を上げる。化合物(4-1)および化合物(4-2)は誘電率異方性の絶対値を上げ、そして下限温度を下げる。」

(甲1-9)「[0040] 第三に、組成物における成分の組み合わせ、成分化合物の好ましい割合およびその根拠を説明する。組成物における成分の組み合わせは、第一成分+第二成分、第一成分+第二成分+第三成分、第一成分+第二成分+第四成分、および第一成分+第二成分+第三成分+第四成分である。組成物における成分の好ましい組み合わせは、第一成分+第二成分+第三成分および第一成分+第二成分+第三成分+第四成分である。
[0041] 第一成分の好ましい割合は、誘電率異方性の絶対値を上げるために約5重量%以上であり、下限温度を下げるために約60重量%以下である。さらに好ましい割合は約5重量%から約40重量%の範囲である。特に好ましい割合は約8重量%から約35重量%の範囲である。
[0042] 第二成分の好ましい割合は、光学異方性および誘電率異方性の絶対値を上げるために約5重量%以上であり、下限温度を下げるために約40重量%以下である。さらに好ましい割合は約5重量%から約30重量%の範囲である。特に好ましい割合は約10重量%から約25重量%の範囲である。
[0043] 第三成分の好ましい割合は、粘度を下げるためまたは上限温度を上げるために約20重量%以上であり、誘電率異方性の絶対値を上げるために約70重量%以下である。さらに好ましい割合は約25重量%から約65重量%の範囲である。特に好ましい割合は約30重量%から約60重量%の範囲である。
[0044] 第四成分の好ましい割合は、誘電率異方性の絶対値を上げるために約5重量%以上であり、粘度を下げるため約に40重量%以下である。さらに好ましい割合は約5重量%から約35重量%の範囲である。特に好ましい割合は約5重量%から約30重量%の範囲である。」

(甲1-10)「[0045] 第四に、成分化合物の好ましい形態を説明する。R^(1)、R^(2)、R^(3)、およびR^(4)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。好ましいR^(1)およびR^(2)はそれぞれ、紫外線または熱に対する安定性などを上げるために炭素数1から12のアルキル、または誘電率異方性の絶対値を上げるために炭素数1から12のアルコキシである。好ましいR^(3)およびR^(4)はそれぞれ、紫外線または熱に対する安定性などを上げるために炭素数1から12のアルキル、または下限温度を下げるために炭素数2から12のアルケニルである。
[0046] 好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるためにエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルである。
[0047] 好ましいアルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、またはヘプチルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである。
[0048] 好ましいアルケニルは、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、または5-ヘキセニルである。さらに好ましいアルケニルは、粘度を下げるためにビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルである。これらのアルケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。粘度を下げるためなどから1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ペンテニル、3-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはトランスが好ましい。2-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。これらのアルケニルにおいては、分岐よりも直鎖のアルケニルが好ましい。
[0049] 任意の水素がフッ素で置き換えられたアルケニルの好ましい例は、2,2-ジフルオロビニル、3,3-ジフルオロ-2-プロペニル、4,4-ジフルオロ-3-ブテニル、5,5-ジフルオロ-4-ペンテニル、および6,6-ジフルオロ-5-ヘキセニルである。さらに好ましい例は、粘度を下げるために2,2-ジフルオロビニル、および4,4-ジフルオロ-3-ブテニルである。
[0050] 環A、環B、および環Cは独立して、1,4-シクロへキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、3-フルオロ-1,4-フェニレン、または2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり、jが2である時、2つの環Cは同じであっても、異なってもよい。好ましい環A、環B、または環Cは、粘度を下げるために1,4-シクロへキシレンである。環D、環D^(1)、環D^(2)、環E、環E^(1)、および環E^(2)は独立して、1,4-シクロへキシレンまたは1,4-フェニレンであり、pが2または3である時、任意の2つの環Dは同じであっても、異なってもよく、qが2または3である時、任意の2つの環Eは同じであっても、異なってもよい。環D、環D^(1)、環D^(2)、環E、環E^(1)、または環E^(2)は、光学異方性を下げるために1,4-シクロへキシレンである。1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置は、上限温度を上げるためにシスよりもトランスが好ましい。
[0051] Z^(1)は独立して、単結合、エチレン、またはカルボニルオキシであり、jが2である時、2つのZ^(1)は同じであっても、異なってもよい。好ましいZ^(1)は、粘度を下げるために単結合である。Z^(2)およびZ^(3)は独立して、単結合、エチレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり、pが2または3である時、任意の2つのZ2は同じであっても、異なってもよく、qが2または3である時、任意の2つのZ^(3)は同じであっても、異なってもよい。好ましいZ^(2)またはZ^(3)は、粘度を下げるために単結合、または誘電率異方性の絶対値を上げるためにメチレンオキシである。
[0052] X^(1)およびX^(2)は独立して、フッ素または塩素である。好ましいX^(1)またはX^(2)は、粘度を下げるためにフッ素である。
[0053] mは、1または2である。好ましいmは、上限温度を上げるために2である。jは0、1、または2である。好ましいjは、下限温度を下げるために1である。kは、1、2または3である。好ましいkは、下限温度を下げるために2である。pおよびqは独立して、0、1、2、または3であり、そしてpとqの和が3以下である。好ましいpは、上限温度を上げるために2である。好ましいqは、下限温度を下げるために0である。」

(甲1-11)「[0054] 第五に、成分化合物の具体的な例を示す。下記の好ましい化合物において、R^(5)は、炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシである。R^(6)およびR^(7)は独立して、炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニルである。R^(8)は、炭素数2から12を有する直鎖のアルケニルである。
[0055] 好ましい化合物(1)は、化合物(1-1)および化合物(1-2)である。さらに好ましい化合物(1)は、化合物(1-1)である。好ましい化合物(2)は、化合物(2-1)である。好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)から化合物(3-10-1)である。さらに好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)、化合物(3-3-1)、化合物(3-5-1)、および化合物(3-10-1)である。特に好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)、化合物(3-3-1)、および化合物化合物(3-10-1)である。好ましい化合物(4-1)は、化合物(4-1-1-1)および化合物(4-1-2-1)である。さらに好ましい化合物(4-1)は、化合物(4-1-1-1)である。好ましい化合物(4-2)は、化合物(4-2-1-1)、化合物(4-2-1-2)、化合物(4-2-2-1)、化合物(4-2-3-1)から化合物(4-2-3-5)、化合物(4-2-4-1)、および化合物(4-2-4-2)である。さらに好ましい化合物(4-2)は、化合物(4-2-1-2)、化合物(4-2-3-1)、化合物(4-2-3-3)、および化合物(4-2-4-1)である。特に好ましい化合物(4-2)は、化合物(4-2-1-2)および化合物(4-2-3-3)である。
[0056]

[0057]

[0058]



(甲1-12)「[0060] 第六に、組成物に混合してもよい添加物を説明する。このような添加物は、光学活性な化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、消泡剤、重合可能な化合物、重合開始剤などである。・・・(中略)・・・
[0066] PSA(polymer sustained alignment)モードの素子に適合させるために重合可能な化合物が組成物に混合される。重合可能な化合物の好ましい例はアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。特に好ましい例は、アクリレート、またはメタクリレートの誘導体である。重合可能な化合物の好ましい割合は、その効果を得るために、約0.05重量%以上であり、表示不良を防ぐために10重量%以下である。さらに好ましい割合は、約0.1重量%から2重量%の範囲である。重合可能な化合物は、好ましくは光重合開始剤などの適切な開始剤存在下でUV照射などにより重合する。重合のための適切な条件、開始剤の適切なタイプ、および適切な量は、当業者には既知であり、文献に記載されている。例えば光開始剤であるIrgacure651(登録商標)、Irgacure184(登録商標)、またはDarocure1173(登録商標)(Ciba Japan K.K.)がラジカル重合に対して適切である。光重合開始剤の好ましい割合は、重合可能な化合物の約0.1重量%から約5重量%の範囲であり、特に好ましい割合は、約1重量%から約3重量%の範囲である。」

(甲1-13)「[0069] 最後に、組成物の用途を説明する。本発明の組成物は主として、約-10℃以下の下限温度、約70℃以上の上限温度、そして約0.07から約0.20の範囲の光学異方性を有する。この組成物を含有する素子は大きな電圧保持率を有する。この組成物はAM素子に適する。この組成物は透過型のAM素子に特に適する。成分化合物の割合を制御することによって、またはその他の液晶性化合物を混合することによって、約0.08から約0.25の範囲の光学異方性を有する組成物、さらには約0.10から約0.30の範囲の光学異方性を有する組成物を調製してもよい。この組成物は、ネマチック相を有する組成物としての使用、光学活性な化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用が可能である。
[0070] この組成物はAM素子への使用が可能である。さらにPM素子への使用も可能である。この組成物は、PC、TN、STN、ECB、OCB、IPS、VA、PSAなどのモードを有するAM素子およびPM素子への使用が可能である。IPSまたはVAモードを有するAM素子への使用は特に好ましい。これらの素子が反射型、透過型または半透過型であってもよい。透過型の素子への使用は好ましい。非結晶シリコン-TFT素子または多結晶シリコン-TFT素子への使用も可能である。この組成物をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematic curvilinear aligned phase)型の素子や、組成物中に三次元の網目状高分子を形成させたPD(polymer dispersed)型の素子にも使用できる。」

(甲1-14)「実施例
・・・(中略)・・・
[0074] ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
[0075] ネマチック相の下限温度(T_(C);℃):ネマチック相を有する試料をガラス瓶に入れ、0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、T_(C)を≦-20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
[0076] 粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):測定にはE型回転粘度計を用いた。
[0077] 光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n?は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n?-n⊥、の式から計算した。
[0078] 誘電率異方性(Δε;25℃で測定):誘電率異方性の値は、Δε=ε?-ε⊥、の式から計算した。誘電率(ε?およびε⊥)は次のように測定した。
1)誘電率(ε?)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε?)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を塗布した。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
[0079] しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧である。
[0080] 電圧保持率(VHR-1;25℃;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
[0081] 電圧保持率(VHR-2;80℃;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
[0082] 電圧保持率(VHR-3;25℃;%):紫外線を照射したあと、電圧保持率を測定し、紫外線に対する安定性を評価した。大きなVHR-3を有する組成物は紫外線に対して大きな安定性を有する。測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そしてセルギャップは5μmである。この素子に試料を注入し、光を20分間照射した。光源は超高圧水銀ランプUSH-500D(ウシオ電機製)であり、素子と光源の間隔は20cmである。VHR-3の測定では、減衰する電圧を16.7ミリ秒のあいだ測定した。VHR-3は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
[0083] 電圧保持率(VHR-4;25℃;%):試料を注入したTN素子を80℃の恒温槽内で500時間加熱したあと、電圧保持率を測定し、熱に対する安定性を評価した。大きなVHR-4を有する組成物は熱に対して大きな安定性を有する。VHR-4の測定では、減衰する電圧を16.7ミリ秒のあいだ測定した。
[0084] 応答時間(τ;25℃で測定;ms):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が3.2μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のPVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子にしきい値電圧を若干超える程度の電圧を約1分間印加し、次に5.6Vの電圧を印加しながら23.5mW/cm^(2)の紫外線を約8分間照射した。この素子に矩形波(60Hz、10V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である。応答時間は透過率0%から90%に変化するのに要した時間立ち上がり時間(rise time;ミリ秒)である。」

(甲1-15)「[0089]
実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は下記の実施例によって限定されない。比較例および実施例における化合物は、下記の表3の定義に基づいて記号により表した。
表3において、1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対応する。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)であり、液晶組成物には不純物が含まれている。最後に、組成物の特性値をまとめた。
[0090]



(甲1-16)「[0096] [比較例6]
特開2008-308581号公報に開示された組成物の中から実施例1を選んだ。根拠はこの組成物が、化合物(1-2)、化合物(3-1-1)、化合物(3-3-1)、化合物(3-5-1)、化合物(4-1-2-1)、および化合物(4-2-1-2)を含有しているからである。この組成物の成分および特性は下記のとおりである。
V-HH-3 (3-1-1) 30%
3-HH2B(2F,3F)-O2 (-) 10%
3-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1)10%
3-HH1OB(2F,3F)-O1 (1-2) 4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 9%
4-HH1OB(2F,3F)-O1 (1-2) 4%
3-H1OCro(7F,8F)-5 (4-2-1-2) 7%
5-H1OCro(7F,8F)-5 (4-2-1-2) 7%
V-HHB-1 (3-5-1) 9%
5-BB-1 (3-3-1) 10%
NI=82.7℃;Δn=0.087;η=19.4mPa・s;Δε=-3.1.」

(甲1-17)「[0097] [実施例1]
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
V-HH-3 (3-1-1) 33%
1V-HH-3 (3-1-1) 7%
3-HB-O2 (3-2-1) 3%
1V-HBB-2 (3-6-1) 4%
V-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 6%
V-HB(2F,3F)-O4 (4-1-1-1) 5%
3-H2Cro(7F,8F)-5 (4-2-1-1) 3%
3-H1OCro(7F,8F)-5 (4-2-1-2) 4%
3-HHCro(7F,8F)-5 (4-2-3-1) 3%
NI=77.2℃;Tc≦-20℃;Δn=0.087;η=10.9mPa・s;Δε=-2.8;τ=8.6ms;VHR-1=99.0%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.1%.」

(甲1-18)「[0098] [実施例2]
3-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 4%
5-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 4%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 7%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 8%
2-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 4%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 8%
3-HH-5 (3-1) 4%
V-HH-3 (3-1-1) 28%
1V-HH-3 (3-1-1) 8%
V2-BB-1 (3-3-1) 3%
V2-HHB-1 (3-5-1) 5%
3-HBB-2 (3-6-1) 3%
5-HBB(F)B-3 (3-10-1) 3%
2-Cro(7F,8F)2H-3 (4-2-2-1) 3%
2O-Cro(7F,8F)2H-3 (4-2-2-1) 3%
3-HH1OCro(7F,8F)-5(4-2-3-3) 5%
NI=87.1℃;Tc≦-20℃;Δn=0.089;η=10.8mPa・s;Δε=-2.6;τ=8.6ms;VHR-1=99.2%;VHR-2=98.2%;VHR-3=98.1%.」

(甲1-19)「[0099] [実施例3]
3-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 5%
5-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 5%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 4%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 4%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
3-HH-O1 (3-1) 3%
V-HH-3 (3-1-1) 25%
V-HH-5 (3-1-1) 10%
V-HHB-1 (3-5-1) 7%
5-HBBH-3 (3-8-1) 3%
5-HB(F)BH-3 (3-9-1) 3%
3-HHB(2F,3Cl)-O2 (4-1) 4%
3-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 6%
V-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1) 6%
3-H2Cro(7F,8F)-5 (4-2-1-1) 5%
NI=84.9℃;Tc≦-20℃;Δn=0.083;η=10.9mPa・s;Δε=-2.5;τ=8.6ms;VHR-1=99.1%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.2%.」

(甲1-20)「[0100] [実施例4]
3-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 5%
5-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 5%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
4-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 6%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
V-HH-3 (3-1-1) 40%
3-HHB-3 (3-5-1) 4%
3-HHEBH-5 (3-7-1) 4%
3-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 5%
5-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 5%
3-H2Cro(7F,8F)-3 (4-2-1-1) 3%
3-H2Cro(7F,8F)-5 (4-2-1-1) 3%
2O-Cro(7F,8F)HH-5 (4-2-4-1) 3%
3-Cro(7F,8F)2HH-5 (4-2-4-2) 3%
NI=73.7℃;Tc≦-20℃;Δn=0.082;η=11.4mPa・s;Δε=-2.8;τ=8.6ms;VHR-1=99.1%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.0%.」

(甲1-21)「[0101] [実施例5]
3-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 6%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 5%
3-HH1OB(2F,3F)-O4 (1-2) 5%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 7%
3-HH-VFF (3-1) 5%
V-HH-3 (3-1-1) 28%
1V2-BB-1 (3-3-1) 4%
V-HHB-1 (3-5-1) 6%
3-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 5%
3-HB(2F,3F)-O4 (4-1-1-1) 5%
3-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1) 6%
2-Cro(7F,8F)2H-3 (4-2-2-1) 3%
2O-Cro(7F,8F)2H-3 (4-2-2-1) 3%
3-HH1OCro(7F,8F)-5(4-2-3-3) 5%
NI=77.4℃;Tc≦-20℃;Δn=0.088;η=12.6mPa・s;Δε=-2.3;τ=8.8ms;VHR-1=99.1%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.1%.」

(甲1-22)「[0102] [実施例6]
V-H1OB(2F,3F)-O4 (1-1) 7%
3-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 7%
5-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 7%
V-HH1OB(2F,3F)-O4 (1-2) 6%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
V-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 4%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 6%
2-HH-3 (3-1) 3%
V-HH-3 (3-1-1) 30%
7-HB-1 (3-2-1) 3%
3-HHEH-3 (3-4-1) 3%
3-HHB-1 (3-5-1) 3%
V2-HHB-1 (3-5-1) 3%
V-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1) 9%
1O1-HBBH-5 (-) 3%
NI=85.2℃;Tc≦-20℃;Δn=0.081;η=11.2mPa・s;Δε=-3.1;τ=8.6ms;VHR-1=99.1%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.1%.」

(甲1-23)「[0103] [実施例7]
3-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 6%
4-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 6%
5-H1OB(2F,3F)-O2 (1-1) 6%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 9%
4-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 3%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 9%
V-HH-3 (3-1-1) 30%
V-HH-5 (3-1-1) 5%
1V-HH-3 (3-1-1) 7%
VFF-HHB-1 (3-5) 3%
VFF2-HHB-1 (3-5) 3%
5-HBB(F)B-2 (3-10-1) 2%
5-HBB(F)B-3 (3-10-1) 2%
3-HH2Cro(7F,8F)-5 (4-2-3-2) 3%
3-HBCro(7F,8F)-5 (4-2-3-4) 3%
3-BBCro(7F,8F)-5 (4-2-3-5) 3%
NI=89.5℃;Tc≦-20℃;Δn=0.102;η=11.7mPa・s;Δε=-2.8;τ=8.7ms;VHR-1=99.2%;VHR-2=98.1%;VHR-3=98.1%.」

(甲1-24)「[0104] [実施例8]
3-H1OB(2F,3F)-O4 (1-1) 5%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 9%
2-HH-3 (3-1) 28%
5-HB-O2 (3-2-1) 5%
V2-BB-1 (3-3-1) 5%
3-HHB-O1 (3-5-1) 4%
3-HBB-2 (3-6-1) 4%
V-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 5%
V-HB(2F,3F)-O4 (4-1-1-1) 5%
V2-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1) 5%
3-HHB(2F,3Cl)-O2 (4-1) 3%
NI=79.9℃;Tc≦-20℃;Δn=0.093;η=10.3mPa・s;Δε=-2.7;Vth=2.63V;τ=8.5ms;VHR-1=99.0%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.2%.」

(甲1-25)「[0105] 実施例1から実施例8の組成物は、比較例1から比較例6のそれと比べて小さいバルク粘度を有する。よって、本発明による液晶組成物は、特許文献1から特許文献6に示された液晶組成物よりも、さらに優れた特性を有する。」

(甲1-26)「産業上の利用可能性
[0106] ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、大きな光学異方性、大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する、または少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物である。このような組成物を含有する液晶表示素子は、短い応答時間、大きな電圧保持率、大きなコントラスト比、長い寿命などを有するAM素子となるので、液晶プロジェクター、液晶テレビなどに用いることができる。」

(2)甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2-1)「[請求項1]
第一成分として構造式(1)、
[化1]

で表される化合物を20?65%含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0?-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物。
[請求項2]
構造式(1)で表される化合物を25?50%含有することを特徴とする請求項1記載のネマチック液晶組成物。
[請求項3]
第二成分としてとして一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)
[化2]

(式中、R^(1)?R^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基を表し、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)?B^(7)はそれぞれ独立して
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -O- 又は -S- に置き換えられてもよい。)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は -N- に置き換えられてもよい。)
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)?L^(7)はそれぞれ独立して単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
m、n、o、p、q及びrはそれぞれ独立して0、1又は2を表し、m+nは0、1又は2を表し、o+p、及びq+rはそれぞれ独立して0、1、2又は3を表し、
X^(1)?X^(7)はそれぞれ独立してH、F又はClを表す。) で表される化合物からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1記載のネマチック液晶組成物。
[請求項4]
請求項1又は2に記載のネマチック液晶組成物を用いた液晶表示素子。
[請求項5]
請求項1又は2に記載のネマチック液晶組成物を用いたアクティブマトリックス液晶表示素子。」

(甲2-2)「[技術分野]
[0001]
本発明は電気光学的液晶表示材料として有用な誘電率異方性が負のネマチック晶組成物、これを用いた液晶表示装置に関する。
[背景技術]
[0002]
表示品質が優れていることから、アクティブマトリクス形液晶表示装置が携帯端末、液晶テレビ、プロジェクタ、コンピューター等の市場に出されている。アクティブマトリクス表示方式は、画素毎にTFT(薄膜トランジスタ)あるいはMIM(メタル・インシュレータ・メタル)等が使われており、この方式には高電圧保持率であることが重要視されている。また、更に広い視角特性を得るためにVA、IPS、OCBモードと組み合わせたTFT表示やより明るい表示を得るためにECBモードの反射型が提案されている。この様な表示素子に対応するために、現在も新しい液晶化合物あるいは液晶組成物の提案がなされている(特許文献1、特許文献2)。
・・・
[0004]
低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。」

(甲2-3)「[発明が解決しようとする課題]
[0009]
本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低く、誘電率異方性が負のアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること、また、この液晶組成物を使用した動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供することにある。
・・・(中略)・・・
[発明の効果]
[0012]
本発明の液晶化合物の組み合わせによって、非常に粘性が低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた。この組成物を用いることにより、動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子が提供され、反射または半透過モード等の液晶ディスプレイとして非常に実用的である。」

(甲2-4)「[0013]
本願発明における液晶組成物において、第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は20?65%であるが、25?50質量%の範囲であることが好ましい。
[0014]
組成物の物性値を調整するために第二成分としてとして一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)
[0015]
[化3]

(式中、R^(1)?R^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基又は炭素数2?15のアルケニル基を表し、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH_(2)基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B^(1)?B^(7)はそれぞれ独立して
(a)トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は-O-又は-S-に置き換えられてもよい。)
(b)1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH_(2)基又は隣接していない2個以上のCH_(2)基は-N-に置き換えられてもよい。)
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)はCH_(3)又はハロゲンで置換されていても良く、
L^(1)?L^(7)はそれぞれ独立して単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-又は-C≡C-を表し、
m、n、o、p、q及びrはそれぞれ独立して0、1又は2を表し、m+nは0、1又は2を表し、o+p、及びq+rはそれぞれ独立して0、1、2又は3を表し、
X^(1)?X^(7)はそれぞれ独立してH、F又はClを表す。)で表される化合物からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することが好ましい。これらの化合物を含有する場合、1種?15種が好ましく、3種?10種がより好ましく、5種?10種がさらに好ましい。又、これらの化合物からなる群の含有率は、20?70質量%の範囲であることが好まく、30?60質量%の範囲であることがより好ましい。」

(甲2-5)「[0019]
・・・(中略)・・・
さらに詳述すると、一般式(2)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
[0020]
[化5]

(式中R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立して、炭素数1?15のアルキル基、アルコキシル基、炭素数2?15のアルケニル基又は炭素数2?15のアルケニルオキシ基を表す。)」

(甲2-6)「[0023]
本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は70℃以上であることがより好ましい。固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-20℃以下であることが好ましい。25℃における誘電率異方性(Δε)が-2.0?-8.0であることが好ましく、-3.0?-5.0であることがより好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08?0.13であることが好ましい。」

(甲2-7)「[実施例]
[0025]
以下にを挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらのに限定されるものではない。また、以下のおよび比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
T_(N-I) :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)を液晶相上限温度とする
T_(→N) :固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(℃)を液晶相下限温度とする。
Δε :誘電率異方性
Δn :屈折率異方性
η :粘性
HR :70℃での保持率(%)(セル厚3.5μmのVA-LCDに注入し、5V印加、フレームタイム16.7ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値。)
化合物記載に下記の略号を使用する。
末端のn(数字) C_(n)H2_(n+1)-
-2- -CH_(2)CH_(2)-
-1O- -CH_(2)O-
-O1- -OCH_(2)-
-On -OC_(n)H_(2n+1)
ndm- C_(n)H_(2n+1)-C=C-(CH_(2))_(m-1)-
[0026]
[化8]



(甲2-8)「[0027]
(実施例 1?2) 液晶組成物の調整
以下に示すネマチック液晶組成物(No.1)及び(No.2)を調整しその物性値を測定し、その結果を表1に示す。
[0028]
[表1]

[0029]
1?2のネマチック液晶組成物(No.1)?(No.2)特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)全ての特性において所望の値を示した。また粘性も低く、パネルの応答速度も良好であり、さらに電圧保持率の値も良好であり、高い信頼性を示した。」

(3)甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3-1)「[請求項1]
第一成分として一般式(1)、
[化1]

(式中、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基または炭素数2?15のアルケニル基を表し、mは0または1を表す。)で表される化合物を含有し、第二成分として一般式(2)
[化2]

(式中、R^(2)は炭素数1?15のアルキル基または炭素数2?15のアルケニル基を表す。)で表される化合物を含有し、誘電率異方性が負であることを特徴とするネマチック液晶組成物。
[請求項2]
一般式(3)
[化3]

(式中、R^(a)及びR^(b)は、それぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基または炭素数2?15のアルケニル基を表す。)で表される化合物を含有する請求項1記載のネマチック液晶組成物。
[請求項3]
式(3-1)
[化4]

で表される化合物を含有する請求項2記載のネマチック液晶組成物。
[請求項4]
一般式(2)において、R^(2)が炭素数2?5のアルケニル基である請求項1記載のネマチック液晶組成物。
[請求項5]
請求項1から4のいずれかに記載のネマチック組成物を用いた液晶表示素子。
[請求項6]
請求項1から4のいずれかに記載のネマチック組成物を用いたアクティブマトリックス駆動液晶表示素子。
[請求項7]
請求項1から4のいずれかに記載のネマチック組成物を用いたVAモード、IPSモードまたはECBモード液晶表示素子。」

(甲3-2)「[0001]
本発明は電気光学的液晶表示材料として有用な誘電率異方性が負のネマチック晶組成物及びこれを用いた液晶表示装置に関する。
[背景技術]
[0002]
表示品質が優れていることから、アクティブマトリクス形液晶表示装置が携帯端末、液晶テレビ、プロジェクタ、コンピューター等の市場に出されている。アクティブマトリクス表示方式は、画素毎にTFT(薄膜トランジスタ)あるいはMIM(メタル・インシュレータ・メタル)等が使われており、この方式には高電圧保持率であることが重要視されている。また、更に広い視角特性を得るためにVA、IPS、OCBモードと組み合わせたTFT表示やより明るい表示を得るためにECBモードの反射型が提案されている。この様な表示素子に対応するために、現在も新しい液晶化合物あるいは液晶組成物の提案がなされている(特許文献1、特許文献2)。
[0003]
よりきれいな動画表示が求められる今日、応答速度を高速化させるために低粘性化された液晶組成物への要望が強くなっている。また、低温領域から高温領域まで広い動作温度範囲を可能にするためにネマチック温度範囲の広い液晶組成物が要求されている。
[0004]
低粘性液晶組成物は、Δnの小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。」

(甲3-3)「[0013]
本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低い、誘電率異方性が負のアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること、及び、これを使用したアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供することにある。
・・・(中略)・・・
[発明の効果]
[0017]
本発明の液晶化合物の組み合わせによって、粘性がより低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた。この組成物を用いることにより、応答速度が速く、動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子が提供され、VAモード、IPSモードまたはECBモード等の液晶ディスプレイとして非常に有用である。」

(甲3-4)「[0018]
本願発明における液晶組成物は、一般式(1)及び(2)を同時に含有することを特徴とするが、その含有量は一般式(1)で表される化合物を5?60%含有し、一般式(2)で表される化合物を5?60%含有することが好ましく、一般式(1)で表される化合物を10?50%含有し、一般式(2)で表される化合物を10?30%含有することがより好ましい。
[0019]
一般式(1)において、R^(1)は炭素数1?15のアルキル基または炭素数2?15のアルケニル基を表すが、炭素数1?7のアルキル基または炭素数2?7のアルケニル基がより好ましく、炭素数2?5のアルキル基が特に好ましい。
一般式(2)において、R^(2)は炭素数1?15のアルキル基または炭素数2?15のアルケニル基を表すが、炭素数1?7のアルキル基または炭素数2?7のアルケニル基がより好ましく、炭素数2?5のアルケニル基が特に好ましい。
本願発明の液晶組成物は、第三成分として、一般式(3)
[0020]
[化6]

(式中、R^(a)及びR^(b)はそれぞれ独立して炭素数1?15のアルキル基または炭素数2?15のアルケニル基を表す。)で表される化合物を含有することがより好ましい。この場合の含有量は、一般式(1)で表される化合物を5?60%含有し、一般式(2)で表される化合物を5?60%含
有し、一般式(3)で表される化合物を5?60%含有することが好ましく、一般式(1)で表される化合物を10?50%含有し、一般式(2)で表される化合物を10?30%含有し、一般式(3)で表される化合物を10?40%含有することがより好ましい。
一般式(3)において、R^(a)及びR^(b)はそれぞれ独立して炭素数1?5のアルキル基または炭素数2?5のアルケニル基が好ましく、R^(a)またはR^(b)の一方がアルキル基を表し、もう一方がアルケニル基を表すことがより好ましく、
具体的な構造としては、式(3-1)
[0021]
[化7]

で現される化合物が特に好ましい。
本発明の液晶組成物の物性値を調整するために、一般式(4)及び一般式(5)
[0022]
[化8]

(式中、R^(3)?R^(4)はそれぞれ独立して炭素数1?10のアルキル基、アルコキシル基または炭素数2?10のアルケニル基を表し、R^(5)?R^(6)はそれぞれ独立して炭素数1?10のアルキル基またはアルコキシル基を表し、A?Eはそれぞれ独立的してトランス-1,4-シクロへキシレン基または1,4-フェニレン基を表すが、これらの基中の水素原子はそれぞれ独立して-CH_(3)、-Fまたは-Clで置換されていても良く、L^(1)?L^(4)はそれぞれ独立して単結合、-CH_(2)CH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-CH=CH-、-COO-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCF_(2)-または-CF_(2)O-を表し、n及びoはそれぞれ独立して0?2を表し、X^(1)?X^(2)はそれぞれ独立して-H、-Fまたは-Clを表す。)で表される化合物群から選ばれる1種または2種以上の化合物を含有することが好ましい。但し、該化合物群から一般式(2)、一般式(3)及び式(3-1)で表される化合物は除かれる。
[0023]
一般式(4)及び一般式(5)で表される化合物群から選ばれる化合物を含有する場合、1種?15種含有することが好ましく、1種?5種がより好ましい。
一般式(4)及び一般式(5)で表される化合物群から選ばれる化合物は、5?40%含有することが好ましく、5?25%含有することが特に好ましい。
一般式(5)において、X^(1)?X^(2)はそれぞれ独立して-H、-Fまたは-Clを表すが、-Hまたは-Fがより好ましく、X^(1)=X^(2)=-Fが特に好ましい。
さらに詳述すると、一般式(4)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
[0024]
[化9]

(式中R^(7)及びR^(8)はそれぞれ独立して、炭素数1?5のアルキル基、アルコキシル基、炭素数2?5のアルケニル基または炭素数2?5のアルケニルオキシ基を表し、フェニル基中のH原子はF原子で置換されていても良い。)
一般式(5)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
[0025]
[化10]

[0026]
(式中R^(9)及びR^(11)は炭素数1?5のアルキル基、R^(10)は炭素数1?5のアルキル基またはアルコキシル基を表す。)
上記の化合物以外に、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶などを含有してもよい。」

(甲3-5)「[0027]
本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は68?120℃であるが、70?105℃がより好ましく、70?95℃が特に好ましい。固体相またはスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-80?-20℃であるが、-30℃以下であることがより好ましく、-40℃以下であることが特に好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)は0.05?0.15であるが、0.07?0.13であることがより好ましく、0.08?0.11であることが特に好ましい。25℃における誘電率異方性(Δε)は-1.5?-8.0であるが、-1.5?-6.0であることがより好ましく、-1.5?-5.5であることが特に好ましい。」

(甲3-6)「[0029]
以下、例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、「%」は「質量%」を意味する。
T_(N-I) :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)を液晶相上限温度とする
T_(→N) :固体相またはスメクチック相-ネマチック相転移温度(℃)を液晶相下限温度とする。
Δε :25℃における誘電率異方性
Δn :25℃における屈折率異方性
η :20℃における粘性
VHR :60℃における保持率(%)
(セル厚3.5μmのVA-LCDに注入し、5V印加、フレームタイム16.7ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との比を%で表した値。)
[0030]
化合物の記載に下記の略号を使用する。
末端のn(数字) C_(n)H_(2n+1)-
-2- -CH_(2)CH_(2)-
-1O- -CH_(2)O-
-O1- -OCH_(2)-
-On -OC_(n)H_(2n+1)
ndm- C_(n)H_(2n+1)-C=C-(CH_(2))_(m-1)-
[0031]
[化11]

本発明のネマチック液晶組成物として実施例1(No.1)及び比較例1(R1)の組成と物性値を表1に示す。」

(甲3-7)「[0032]
[表1]

[0033]
実施例1(No.1)の物性値は、比較例1(R1)と比較してT_(→N)が十分に低く、ηも大幅に低減されており、その他の物性値は同等かそれ以上の値を示した。以上のことから、本発明の液晶組成物である実施例1(No.1)は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低いため、非常に有用であることがわかる。
次に、実施例2(No.2)、比較例2(R2)及び比較例3(R3)の組成と物性値を表2に示す。」

(甲3-8)「[0034]
[表2]

[0035]
特許文献3記載の液晶組成物である比較例2(R2)は、本発明の必須成分である一般式(2)で表される化合物を含まない。そのため、比較例2(R2)は実施例2(No.2)と比較して粘度ηが高く、T_(→N )(℃)も高いため、応答速度が遅く、低温安定性に課題を残すものであった。比較例3(R3)は本発明の必須成分である一般式(1)を含まないため、比較例2(R2)と同様、応答速度が遅く、低温安定性に課題を残すものであった。以上のことから、本発明である実施例2(No.2)は低温安定性を大幅に改善し、なおかつ、応答速度に関わる粘度ηが非常に低い優れた液晶であることがわかる。」

(4)甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4-1)「【0115】
[実施例9]
1-BB-3 (1-1) 6%
1-BB-7 (1-1) 3%
2-BB-3 (1-1) 4%
3-BB-5 (1-1) 5%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (2-8-1) 4%
5-DhB(2F,3F)-O2 (2) 6%
3-HH-V (3-1-1) 5%
3-HH-V1 (3-1-1) 5%
3-HH-VFF (3-1) 5%
V2-BB(F)B-3 (3-6-1) 3%
5-B(F)BB-2 (3-7-1) 5%
3-HHEBH-3 (3-8-1) 3%
5-HBB(F)B-2 (3-12-1) 3%
8-BB(2F,3F)-O2 (4-3-1) 5%
1V2-BB(2F,3F)-O2 (4-3-1) 5%
3-HH2B(2F,3F)-O2 (4-5-1) 5%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-6-1) 8%
4-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-6-1) 4%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-6-1) 8%
V2-HBB(2F,3F)-O2 (4-7-1) 4%
1V2-HBB(2F,3F)-O2 (4-7-1) 4%
NI=86.3℃;Tc≦-20℃;Δn=0.131;η=18.8mPa・s;Δε=-3.4;VHR-1=99.1%;VHR-2=98.2%;VHR-3=97.6%.」

(5)甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5-1)「更に分子の長さのみに関して言えば、アルキル基の長さが短い方が粘性が一般的には低く、好ましい。しかしアルキル基の長さと相転位温度との相関関係は複雑であり好適な要因のみを自由に選びとれるものではない。」(第2頁左上欄15?19行)

(甲5-2)「電気光学的表示素子用の液晶化合物の1つとして、次式の化合物が既に特許出願され、特開昭55-85583号として公開されている。

(但し、上式に於てn、mは1?10である)
しかし、その中で具体的な物性値が示されて化合物は第1表に示す様にn、mが比較的大きな値のものである。

上表中、Cは結晶相、SAはスメクチツクA相、Nはネマチツク相、Iは液体層(透明相)を示し、・の後の数字が各相間の転移温度を示す。
また( )はモノトロピツクであることを示している。」(第2頁左上欄末行?右下欄5行)

(甲5-3)「又、特開昭56-95979号(本出願人出願のもの)には第1表に示された化合物を構成成分とする液晶材料が開示されているが、本発明者らは、更に性能のすぐれた液晶材料を開発することを目的として種々検討した結果前記特開昭55-85583号の特許請求範囲には入るが、具体的に物性値の記載されていない、n、mの値がより小さい化合物群が、前記公知の物性値から予測されるよりは、著るしく意外な物性値、特にN-I点を有し、それらが前記目的にとつて非常に好適な物質であることを見出し本発明に到達した。
即ち本発明は一般式

(但し、上式に於て、n+mは9以下であり、しかもnが3以上の場合はmは2又は3である)
で表わされる液晶物質である。
先にも述べた様にこの化合物は先願である特開昭55-85583号の特許請求範囲に含まれるので、いわゆる、その選択発明となるものである。まず本願に含まれる化合物の物性値を第2表に示す。

* 外挿値(実効N-I点)」(第2頁右下欄6行?第3頁右上欄末行)

(甲5-4)「次に第2表の化合物を公知の第1表の化合物と比較して、その物性が予測外であることを示す。
・・・(中略)・・・
更に、本発明の化合物は第1表の化合物に比して低粘度であるという特徴を有する。言うまでもなくTND用の液晶組成物は低粘度であることが応答速度の面からも望ましいが、一般的にはアルキル基の長さが短い方が低粘性の傾向にあることは、他の系統の液晶化合物で知られている。第2表の右欄に本発明の化合物の実効粘度η(20℃)を示す。但し、そこに示される値はメルク社製のフエニルシクロヘキザン系液晶混合物S-1132に夫々の化合物を15重量%混合して得られる液晶組成物の粘度から外挿法によつて求めたいわゆる実効粘度と称するもので、実用的見地からはかなり有効な目安となる値である。第1図は実効粘度と(1)式のm、nとの関係を示すグラフである。即ち縦軸に実効粘度η(20℃)の値をとり、横軸に(1)式のn+mの値をとつてある。又、図中の(n;m)は各々の化合物の(1)式のn、mを示す。又nの同じもの同志を線で結んである。第1図からわかる様に、特にnが1又は2の場合に全般的に粘度が低く好適である。」(第3頁左下欄1行?右下欄19行)

(6)甲6に記載された事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6-1)「1.はじめに
我々は、対称型二置換ジフルオロスチルベンが、低粘性化合物として優れた物性を示すことを既に報告している^(1))。しかし、本化合物はUV安定性(シス異性化)に懸念があったため、フェニル環をシクロヘキサン環に置換すること^(2))、またはフェニル環へのフッ素導入により、大幅に安定性を向上させた。今回、これらの液晶化合物の物性と組成物の特性について報告する。」(第234頁の「1.はじめに」の項)

(甲6-2)「4.物性と特性

」(第235頁の「4.物性と特性」の項の表1)

(7)甲7に記載された事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7-1)「

」(第267頁右下欄表I)

(甲7-2)「

」(第269頁左下欄表V)

(8)甲8に記載された事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8-1)「請求の範囲
[請求項1] 第一成分として、一般式(I)
[化1]

(式中、R^(11)は以下の式(R-1)から式(R-15)
[化2]

の何れかを表し、
・・・(中略)・・・)で表される重合性化合物から選ばれる一種又は二種以上の化合物を含有し、第二成分として、一般式(II)
[化3]

(・・・中略・・・)で表される化合物を一種又は二種以上含有し、第三成分として、一般式(IIIa)、一般式(IIIb)及び一般式(IIIc)
[化4]

(・・・中略・・・)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物又は
一般式(IVa)、一般式(IVb)及び一般式(IVc)
[化5]

(・・・中略・・・)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物を一種又は二種以上含有することを特徴とする液晶組成物。
[請求項2] 一般式(I)において、Z^(11)が、-S^(12)-R^(12)の場合、S^(11)及びS^(21)の少なくとも一方が、酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素原子数2?12のアルキレン基を表わすことを特徴とする請求項1記載の液晶組成物。
[請求項3] 一対の基板に液晶を狭持した構造を有し、少なくとも透明電極及び偏光板を備え、液晶組成物中に含有した重合性化合物を重合することにより液晶配向能を付与したことを特徴とする液晶表示素子に使用する請求項1又は2記載の液晶組成物。
[請求項4] 一般式(I)から選ばれる化合物を0.01?2質量%と、一般式(II)から選ばれる化合物を5?70質量%と、一般式(IIIa)、一般式(IIIb)又は一般式(IIIc)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物又は一般式(IVa)、一般式(IVb)及び一般式(IVc)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物を5?70質量%を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶組成物。
[請求項5] 第三成分として、一般式(IVa)、一般式(IVb)及び一般式(IVc)で表される化合物からなる群から選ばれる化合物を一種又は二種以上含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の液晶組成物。
[請求項6] 請求項1、2、3、4又は5記載の液晶組成物を使用し、液晶組成物中に含有した重合性化合物を重合することにより液晶配向能を付与したことを特徴とする液晶表示素子。
[請求項7] 液晶組成物の誘電率異方性が負であることを特徴とする請求項6記載の液晶表示素子。」

(甲8-2)「技術分野
[0001] 本発明は重合性化合物を含有する液晶組成物、更に当該液晶組成物を使用した液晶表示素子に関する。
背景技術
[0002] MVAモード液晶表示装置の製造において、重合可能なモノマーを含有している液晶材料を基板間に注入し、電圧を印加した状態でモノマーを重合して液晶分子の倒れる方向を記憶しておくという技術が導入された。しかし、モノマーを重合する際に使用する重合開始剤や重合が不十分なため残存してしまうモノマーが液晶表示素子に対して焼き付き等の不具合を惹き起こすという問題が生じていた。このため、このような液晶材料中のモノマーを重合することにより液晶配向能を付与した液晶表示素子の製造においては、重合開始剤を使用しなくとも重合し、重合工程によりモノマーが完全に消費されるような液晶組成物の開発が求められていた。更に、実際の使用にあたっては、モノマーと液晶材料が良好に相溶し重合後の配向性も要求レベルを満たす必要があった。
・・・(中略)・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] 本発明が解決しようとする課題は、光重合開始剤を使用せずに重合性化合物を重合させ該化合物が残存しない、あるいは極めて残存量が少なくなる重合性化合物含有液晶組成物を提供することにあり、そして、重合性化合物と液晶材料が良好に相溶し、重合後の配向性がより安定し、表示特性に不具合が起こらない重合性化合物含有液晶組成物を提供することにある。更には、重合性化合物含有液晶組成物が重合することにより液晶配向能が付与され表示性能が優れた液晶表示素子を提供することにある。」

(甲8-3)「[0033][化11]



(甲8-4)「[0079] 本願発明の液晶組成物において、Δnは0.08?0.25の範囲であることが好ましい。
[0080] 本願発明の液晶組成物において、Δεは液晶表示素子の表示モードによって、正、又は負のΔεを有するものを用いることができる。MVAモードの液晶表示素子においては、負のΔεを有する液晶組成物を使用する。その場合のΔεは、-1以下が好ましく、-2以下がより好ましい。」

(甲8-5)「[0085]
本願発明の液晶組成物は、液晶組成物中の重合性化合物が重合することにより液晶配向能が付与され、液晶組成物の複屈折を利用して光の透過光量を制御する液晶表示素子に使用される。液晶表示素子として、AM-LCD(アクティブマトリックス液晶表示素子)、TN(ネマチック液晶表示素子)、STN-LCD(超ねじれネマチック液晶表示素子)、OCB-LCD及びIPS-LCD(インプレーンスイッチング液晶表示素子)に有用であるが、AM-LCDに特に有用であり、透過型あるいは反射型の液晶表示素子に用いることができる。」

(甲8-6)「[0117]
・・・(中略)・・・
(実施例12)
一般式(II)から選ばれる化合物、一般式(IIIa)、一般式(IIIb)及び一般式(IIIc)から選ばれる化合物又は、一般式(IVa)、一般式(IVb)及び一般式(IVc)から選ばれる化合物を含有した実例として以下のような構成成分の液晶組成物LC-6を調製した。
[0118][化38]

[0119] 上記液晶組成物LC-6の物性を表7に示す。
[0120][表7]

[0121] 液晶組成物LC-6 99.7%に対して、一般式(I-37)で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性液晶組成物CLC-12を調製した。CLC-12をセルギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチルト角を測定した後、周波数1KHzで1.8Vの矩形波を印加しながら、320nm以下の紫外線をカットするフィルターを介して、高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表面の照射強度が10mW/cm^(2)となるように調整して600秒間照射して、重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示素子を得た。素子の紫外線照射前のプレチルト角は、89.8度であったのに対して、照射後のプレチルト角は86.5度とプレチルトが付与されていた。液体クロマトグラフ分析により、素子中に含有する一般式(I-37)で示される化合物の含有量を分析したが、検出限界以下であった。これにより、一般式(I-37)で示される重合性化合物は、重合開始剤を使用することなく重合することができ、かつ重合後に残存する未重合物が検出限界以下であることを確認した。」

(9)甲9に記載された事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9-1)「[請求項1]
液晶(LC)媒体中に存在する全ての重合性化合物は重合性基としてメタクリレート基を排他的に含む1種類以上の重合性化合物と、
前記メタクリレート基の重合で使用される条件下の重合反応に対して安定な1個以上のアルケニル基を含む1種類以上の低分子量メソゲンまたは液晶化合物と
を含むLC媒体。
・・・(中略)・・・
[請求項13]
LCディスプレイ中、特にPSA-VA、PSA-OCB、PS-IPS、PS-FFSおよびPS-TNディスプレイ中における請求項1ないし12のいずれか一項に記載のLC媒体の使用。」

(甲9-2)「[0001]
本発明は重合性化合物を含む液晶(LC)媒体、特に、PS(polymer stabilised:高分子安定化)またはPSA(polymer sustained alignment:高分子維持配向)型のLCディスプレイ中での使用のための媒体に関し、さらにこの型のLC媒体を備えるPS(A)ディスプレイに関する。
[背景技術]
[0002]
現在使用されている液晶ディスプレイ(LCディスプレイ)は、ほとんどTN(twisted nematic:捩れネマチック)型のものである。しかしながら、これらは、コントラストの視野角依存性が強い不都合を有する。
[0003]
加えて、より広い視野角を有する所謂VA(vertical alignment:垂直配向)ディスプレイが知られている。VAディスプレイのLCセルは2つの透明電極の間にLC媒体の層を含有しており、通常、LC媒体は負の値の誘電(DC)異方性を有する。スイッチが切れている状態で、LC層の分子は電極表面に垂直に配向(ホメオトロピック)しているか、またはチルトホメオトロピック配向を有している。電極に電圧を印加すると、電極表面に平行となるようLC分子の再配向が起きる。」

(甲9-3)「[発明が解決しようとする課題]
[0015]
本発明は、上に示された不都合を有していないか低減された程度にのみ有しており、プレチルト角の設定を可能とし、好ましくは同時に非常に高い比抵抗値、低い閾電圧および短い応答時間を有するPS(A)ディスプレイを提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
[0016]
驚くべきことに、LC媒体の重合性成分(RM)がメタクリレート基を含む化合物よりなり、低分子量成分(「LCホスト混合物」)が1種類以上のアルケニル化合物を含む、本発明によるPS(A)ディスプレイを使用することにより、この目的を達成できることが見出された。一方で、特にUV曝露後にHRが非常に良好な値となること、他方で、アルケニル化合物を含むLC媒体において、メタクリレート基を含む重合性成分を使用することで非常に良好なチルト値を達成できることが見出された。加えて、LCホスト混合物中でアルケニル化合物を使用することにより低い回転粘度が可能となり、よってLC混合物中で非常に短い応答時間が達成される。従って、この材料の組み合わせは、TFT-PSA-VAディスプレイ中での使用に特に適する。特に、種々のアルケニル化合物を含むLCホスト混合物は、広範囲の異なる特定のアルケニル化合物において、メタクリレートRMの添加により非常に同様で良好なチルトを示す。対照的に、同一のLCホスト混合物は著しく貧弱なHR(UV)値を示し、加えて、例えばアクリレートRMの添加によりチルトの生成が低下するか、場合によっては全く抑制すらされる。」

(甲9-4)「[0236]
以下の略称を使用する(n、mおよびzは、それぞれ互いに独立に、1、2、3、4、5または6である)。
[0237]
[表1]



(甲9-5)「[0262]
<例2>
ネマチックLC混合物N2を以下の通り調合する。
[0263]
[表12]

LCホスト混合物N3?N8を、それぞれの場合において10%のアルケニル化合物CC-3-V、CC-4-V、CC-5-V、CC-1-V3、CC-3-V1およびアルケニル基を有さない同種の化合物CCH-34を、LC混合物N2に添加して調製する。
[0264]
0.3%のメタクリレート化合物M1をホスト混合物N3?N8に添加して、本発明による重合性混合物MM3?MM8を調製する。
[0265]
重合後の混合物のチルト角を、上に示される通り(光開始剤なし)決定する。結果を表2に示す。
[0266]
[表13]

表2より証明される通り、本発明による全ての混合物MM3?MM8は、著しくより顕著なチルト角(即ち、82°および84°の間の小さい値)を示す。ここで、全てのアルケニル化合物においてチルト角はほぼ同一であり、「非アルケニル化合物」CCH-34を含む混合物より僅かに小さいのみでもある。よって、、本発明による混合物中において、重合性成分としてメタクリレート類を同時に使用して各種のアルケニル化合物を添加す
ることに起因するチルト角に対する悪影響は僅かであることが観測される。」

(10)甲10に記載された事項
甲10には、以下の事項が記載されている。
(甲10-1)「[請求項1]
ポリマー安定型配向(PSA)処理の混合液晶であって:
少なくとも一組のいかなる二重結合も有さない第1の液晶化合物;
少なくとも一組の第2の液晶化合物であり、該化合物のそれぞれが少なくとも1つの二重結合を有し、前記一組の第1及び第2の液晶化合物の全重量の約0.1乃至20重量%(wt%)という範囲で濃度を有する第2の液晶化合物;並びに、
少なくとも一組のメタクリル酸基を有する反応性単量体;
を含む混合液晶。」

(甲10-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0006]
従って、従来のPSA LCDパネルの、高い回転粘度から生じる長い応答時間という上記のデメリットを改善するために、二重結合を有する液晶化合物と反応性単量体の特定の組成物を有する混合液晶を提供することが、本発明の第一の目的である。」

(甲10-3)「[0012]
図3を参考にすると、LCDパネル10の組み立て後、PSA処理又は重合配向処理が以下のステップと同様に行われる。第一に、混合液晶24に電場を与えて第1の液晶化合物26及び第2の液晶化合物28等のLC分子を所定の角度まで回転させるために、直流電圧又は交流電圧等の電圧が、上側基板14及び下側基板12の導電層18及び20に繰り返し印加される。次に、電圧が依然として印加されている間、光34又は熱がLCDパネル10に加えられる。従って、図3に示されているように、相分離が引き起こされるよう、混合液晶24の反応性単量体30がLC分子の所定の角度に沿って重合し、重合体36が、反応性単量体によって上側基板14及び下側基板12の表面上に形成される。重合体36は、上側基板14及び下側基板12の表面にある配向フィルム22上で所定の角度を有するLC分子の配列方向に沿って配列されるため、LC分子にプレチルト角を与える従来技術のMVA LCDパネルの突出部と実質的に代わることができる。従って、本発明のLCDパネル10の製造は完了する。」

(甲10-4)「[0026]
混合液晶24における二重結合を有する第2の液晶化合物28の存在が、混合液晶24の他の物質の内容及び組成に影響するということに注目されるべきである。第2の液晶化合物28を含んだ混合液晶24が、重合処理中に不十分に重合する又は配列を誤るのを防ぐために、特定の液晶化合物及び反応性単量体30の組成物及び濃度を有する特定の規定が、本発明による混合液晶24に与えられる。本発明の好ましい実施形態において、第2の液晶化合物28は、混合液晶24における液晶化合物の全重量の約0.1から20重量%という範囲の濃度を有していることが好ましい。例えば、本発明である混合液晶24の液晶化合物の組成は、約30から70wt%の化学式(23)の化合物、約10から50wt%の化学式(24)の化合物、約20から60wt%の化学式(25)の化合物、及び、約0.1から20wt%の前記第2の液晶化合物28を含むことができ、濃度の重量パーセントという単位「wt%」は、混合液晶24における液晶化合物の全重量に基づいている。」

(甲10-5)「[図3]



(11)甲11に記載された事項
甲11には、以下の事項が記載されている。
(甲11-1)「表6

」(第13頁表6)

(甲11-2)「6.2 ハロゲン原子を側方位に有する液晶化合物
ハロゲン原子(特にフッ素原子)が側方に置換したベンゼン環を含む液晶化合物も数多く報告されている(Table 6).フッ素原子は極めて大きな電気陰性度を有しながら,水素原子に比べてわずか12.5%大きなVan der Waals半径をもつ(水素原子1.2A,フッ素原子1.35A?1.47A).このため液晶性をそれほど損なわずに大きな負のΔεを発現できることが期待される.また,2,3-ジフルオロフェニル基を導入することで傾斜したスメクティック相,特にスメクティックC相を発現しやすくなることを理由に,強誘電性液晶組成物のホスト化合物としても注目された^(46?48)).
・・・(中略)・・・化合物12のΔεは非常に大きく(約-6),現在までに報告されているなかで最も大きな値である.」(第14頁図下左欄5?34行)

(12)甲12に記載された事項
甲12には、以下の事項が記載されている。
(甲12-1)「[0109]
[実施例2]
1-BB-3 (1-1) 8%
1-BB-5 (1-1) 7%
3-BB-5 (1-1) 9%
4-HHB(2F,3F)-O2 (2-1-1) 5%
5-HHB(2F,3F)-O2 (2-1-1) 5%
2-HHB(2F,3F)-1 (2-1-1) 3%
2-HHB(2F,3CL)-O2 (2-2-1) 3%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-4-1) 8%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (2-4-1) 8%
5-HB(2F,3F)-O2 (3-1-1) 9%
1V2-HB(2F,3F)-O2 (3-1-1) 5%
3-H2B(2F,3F)-O4 (3-2-1) 4%
2-HH-5 (4-1-1) 3%
3-HH-O1 (4-1-1) 5%
3-HB-O2 (4-2-1) 3%
3-HHB-O1 (4-4-1) 5%
3-HHEBH-3 (4-8-1) 4%
3-HHEBH-4 (4-8-1) 3%
3-HHEBH-5 (4-8-1) 3%
NI=84.6℃;Tc≦-20℃;Δn=0.101;η=18.3mPa・s;Δε=-3.2;VHR-1=99.6%;VHR-2=98.1%;VHR-3=97.9%.」

(13)甲13に記載された事項
甲13には、以下の事項が記載されている。なお、記載事項の認定は、甲13と同時に提出された甲13の抄訳に基づいて行った。
(甲13-1)「実施例14
式Iの液晶化合物を含有する液晶組成物であり,以下の成分を含む:

そのうち,“%”表示は“質量百分率”を示し,本実施例中で測定される特性は以下に示す通りである:
相転移温度TNIは85.4℃;25℃下で測定した屈折率異方性Δnは0.215;20℃下で測定したバルク粘度ηは29.0mPa・s;セル厚6μmのTN-LCDを構成したときの25℃下で測定した閾値電圧Vthは2.63Vである。」(第22?24頁実施例14)

(14)甲14に記載された事項
甲14には、以下の事項が記載されている。
(甲14-1)「1.試験の目的
特許5234227号公報(以下、本件特許という)の先行文献である国際公開第2011-024666号パンフレット(以下、甲第1号証という)には、実施例1から8と比較例1から6が記載されている。甲第1号証は本件特許と発明が同一であることを説明するために、実施例8とその成分を一部入れ替えた組成物に関する物性を測定して、比較する。」(第1頁「1.試験の目的」の項)

(甲14-2)「3.測定用の試料
甲第1号証の実施例8の成分は14種類の液晶化合物である。このうちの一部の成分を入れ替えた組成物Aを調製した。すなわち、実施例8の成分のうち、No.8の化合物を以下の構造の化合物(No.15の化合物)と入れ替えた。この化合物は甲第1号証の式(3-3)または(3-3-1)に含まれると共に、本件特許の化合物(I)でもある。なお、組成物Aは本件特許に該当する組成物である。

上記15種類の液晶化合物を定法に従って合成した。これらの化合物を[表1]に記載された割合で混合し、測定用の試料を調製した。これらの試料はいずれもネマチック状態であった。」(第1頁「3.測定用の試料」の項)

(甲14-3)「6.まとめ
甲第1号証の実施例8とその成分を一部入れ替えた組成物Aの物性を測定した結果を[表1]にまとめた。組成物Aは実施例8のNo.8の化合物を本件特許の化合物(I)に入れ替えたものである。No.8の化合物を選択したのは本件特許の化合物(I)と炭素数が1違うだけだからである。いずれの結果もTni、Δn、Δεがほぼ同等であり、かつ、粘度もほぼ同等であった。」(第2頁「6.まとめ」の項)

(甲14-4)「表1.甲第1号証の実施例8および組成物Aの物性を測定した結果

」(第3頁表1)

(15)甲15に記載された事項
甲15には、以下の事項が記載されている。
(甲15-1)「[0001]
本発明は重合性化合物を含有する液晶組成物、更に当該液晶組成物を使用した液晶表示素子に関する。
[背景技術]
[0002]
PSA(Polymer Sustained Alignment)型液晶表示装置は、液晶分子のプレチルト角を制御するためにセル内にポリマー構造物を形成した構造を有するものであり、高速応答性や高いコントラストから次世代の液晶表示素子として期待されている。」

(甲15-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0009]
本発明が解決しようとする課題は、光重合開始剤を使用しないか、極めて少ない使用量において重合を行った場合においても、重合性化合物の残存量が少なくなる、重合性化合物を含有する液晶組成物を提供することにあり、重合性化合物含有液晶組成物を提供することにあり、そして、重合性化合物と液晶材料が良好に相溶し、重合後の配向性がより安定し、表示特性に不具合が起こらない重合性化合物含有液晶組成物を提供することにある。更には、重合性化合物含有液晶組成物が重合することにより液晶配向能が付与され表示性能が優れた液晶表示素子を提供することにある。」

(甲15-3)「[実施例]
[0104]
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
[0105]
液晶組成物の物性として、以下のように表す。
T_(N-I) :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)を液晶相上限温度
Δε :誘電率異方性
Δn :屈折率異方性
Vth :周波数1KHzの矩形波を印加した時の透過率が10%変化する印加電圧(しきい値電圧)
(UV硬化後のモノマー残存量の測定方法)
液晶セルに液晶組成物を注入後、UVを照射し重合性化合物を重合させる。その後、液晶セルを分解し、液晶材料、重合物、未重合の重合性化合物を含む溶出成分のアセトニトリル溶液を得る。これを高速液体クロマトグラフィー(カラム:、展開溶媒:アセトニトリル)により、各成分のピーク面積を測定する。指標とする液晶材料のピーク面積と未重合の重合性化合物のピーク面積比から、残存する重合性化合物の量を決定した。この値と当初添加した重合性化合物の量からモノマー残存量を決定した。なお、重合性化合物の残存量の検出限界は1000ppmであった。
(実施例1)
一般式(II)から選ばれる化合物、一般式(IIIa)、一般式(IIIb)及び一般式(IIIc)から選ばれる化合物又は、一般式(IVa)、一般式(IVb)及び一般式(IVc)から選ばれる化合物を含有した液晶組成物LC-1を調製した。構成する化合物及び含有する比率は以下の通りである。
[0106]
[化39]

[0107]
上記液晶組成物LC-1の物性を表1に示す。
[0108]
[表1]

[0109]
液晶組成物LC-1 99.7%に対して、式(I-1-a)
[0110]
[化40]

[0111]
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性液晶組成物CLC-1を調製した。CLC-1の物性は上記のLC-1の物性とほとんど違いはなかった。CLC-1をセルギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチルト角(クリスタルローテーション法)を測定した後、周波数1KHzで1.8Vの矩形波を印加しながら、320nm以下の紫外線をカットするフィルターを介して、高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表面の照射強度が10mW/cm^(2)となるように調整して600秒間照射して、重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示素子を得た。素子の紫外線照射前後のプレチルト角及び素子の電気光学特性を表2に示す。
[0112]
[表2]

[0113]
上記のプレチルト角の結果から、重合性化合物が重合することにより、液晶化合物に対する配向規制力が生じており、液晶分子が垂直方向から2.3度傾いた状態でプレチルト角を固定化した垂直配向性液晶表示素子を得ることがわかった。
[0114]
また、液体クロマトグラフ分析により、素子中に含有する一般式(I-1-a)で示される化合物の含有量を分析したが、検出されなかった。これにより、一般式(I-1-a)で示される重合性化合物は、重合開始剤を使用することなく重合することができ、かつ重合後に残存する未重合物が検出限界以下であることを確認した。」

2.甲号証に記載された発明
(1)甲1に記載された発明
甲1には、「第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、そして負の誘電率異方性を有する液晶組成物。(当審注:各式を表す化学構造式及び定義は、摘記甲1-1の請求項1を参照。以下同様に、化学構造式及びその定義の記載を省略することがある。)」(摘記甲1-1)が記載されており、「液晶組成物の全重量に基づいて、第一成分の割合が5重量%から60重量%の範囲であり、そして第二成分の割合が5重量%から40重量%の範囲である」こと(摘記甲1-1の請求項2)、「第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも一つの化合物をさらに含有する」こと(摘記甲1-1の請求項3)、「第三成分が式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である」こと(摘記甲1-1の請求項4)、「液晶組成物の全重量に基づいて、第三成分の割合が20重量%から70重量%の範囲である」こと(摘記甲1-1の請求項9)、及び「ネマチック相の上限温度が70℃以上であり、波長589nmにおける光学異方性(25℃)が0.08以上であり、そして周波数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)が-2以下である」こと(摘記甲1-1の請求項16)が記載されており、「好ましい化合物(1)は、化合物(1-1)および化合物(1-2)である」こと、「好ましい化合物(2)は、化合物(2-1)である」こと、及び「好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)から化合物(3-10-1)である」ことが記載されている(摘記甲1-11の[0055]?[0058]、式の定義は、同[0054]を参照。)。
また、甲1には、上記「液晶組成物を含有する液晶表示素子」(摘記甲1-1の請求項17)、及び「液晶表示素子の動作モードが、VAモード、IPSモード、またはPSAモードであり、液晶表示素子の駆動方式がアクティブマトリックス方式である」こと(摘記甲1-1の請求項18)が記載されており、「PSA(polymer sustained alignment)モードの素子に適合させるために重合可能な化合物が組成物に混合される」こと(摘記甲1-12の[0066])が記載されている。
さらに、甲1には、上記好ましいものと記載されている成分である「式(1-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」(以下、「化合物(1-1)」ということがある。他の式で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物についても同様。)及び/又は化合物(1-2)と、化合物(2-1)と、化合物(3-1)?(3-10)から選択された少なくとも1つの化合物とを含有し、上記請求項16に記載された諸特性の要件を満たす液晶組成物の実施例として、実施例1?8(摘記甲1-17?甲1-24)が記載されており、いずれの実施例も、ビニル基(「V」)を末端に有する化合物を含有していることが読み取れる。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「液晶組成物の全重量に基づいて、第一成分として式(1-1)及び式(1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の5重量%から60重量%、第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の5重量%から40重量%、及び第三成分として式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の20重量%から70重量%、をそれぞれ含有し、更に必要に応じて、重合可能な基を有する化合物を含有する、ネマチック相の上限温度が70℃以上であり、波長589nmにおける光学異方性(25℃)が0.08以上であり、そして周波数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)が-2以下である負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

(ここで、R^(5)は、炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシであり、R^(6)は、炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニルである。)

(ここで、R^(3)およびR^(4)は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。)」(以下、「甲1発明1」という。)

また、甲1には、実施例8(摘記甲1-24)に基づいて、以下の発明も記載されているものと認められる(当審注:化合物の略号の意味は、摘記甲1-15を参照。特性の略号の意味は、摘記甲1-14を参照。)。
「以下の組成及び特性を有する液晶組成物。
3-H1OB(2F,3F)-O4 (1-1) 5%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 9%
2-HH-3 (3-1) 28%
5-HB-O2 (3-2-1) 5%
V2-BB-1 (3-3-1) 5%
3-HHB-O1 (3-5-1) 4%
3-HBB-2 (3-6-1) 4%
V-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 5%
V-HB(2F,3F)-O4 (4-1-1-1) 5%
V2-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1) 5%
3-HHB(2F,3Cl)-O2 (4-1) 3%
NI=79.9℃;Tc≦-20℃;Δn=0.093;η=10.3mPa・s;Δε=-2.7;Vth=2.63V;τ=8.5ms;VHR-1=99.0%;VHR-2=98.0%;VHR-3=98.2%.」(以下、「甲1発明2」という。)

(2)甲2に記載された発明
甲2には、「第一成分として構造式(1)・・・で表される化合物を20?65%含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0?-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物」が記載されており(摘記甲2-1の請求項1)、「第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は20?65%であるが、25?50質量%の範囲であることが好ましい」こと(摘記甲2-1の請求項2、摘記甲2-4の[0013])、「第二成分としてとして一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)・・・で表される化合物からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有すること」(摘記甲2-1の請求項3)、「組成物の物性値を調整するために第二成分として一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)・・・で表される化合物からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することが好ましい・・・これらの化合物からなる群の含有率は、20?70質量%の範囲であることが好まく、30?60質量%の範囲であることがより好ましい」こと(摘記甲2-4の[0014]?[0015])が記載されている。
また、甲2には、上記「ネマチック液晶組成物を用いたアクティブマトリックス液晶表示素子」(摘記甲2-1の請求項5)が記載されている。
さらに、甲2には、上記第一成分及び第二成分に相当する化合物を含有し、諸特性が上記好ましい範囲にあるネマチック液晶組成物の実施例として、実施例1?2(摘記甲2-8)が記載されている。
そうすると、甲2には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「第一成分として構造式(1)で表される化合物を20?65%含有し、第二成分として一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表される化合物からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を20?70質量%含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0?-8.0であるネマチック液晶組成物(当審注:構造式(1)?構造式(4)の化学構造式及び定義は、摘記甲2-1の請求項1及び3を参照。)。」(以下、「甲2発明1」という。)

また、甲2には、実施例1(摘記甲2-8)に基づいて、以下の発明も記載されているものと認められる(当審注:化合物の略号の意味及び特性の略号の意味は、摘記甲2-7を参照。)。
「以下の組成及び特性を有するネマチック液晶組成物。

」(以下、「甲2発明2」という。)

(3)甲3に記載された発明
甲3には、「第一成分として一般式(1)・・・で表される化合物を含有し、第二成分として一般式(2)・・・で表される化合物を含有し、誘電率異方性が負であることを特徴とするネマチック液晶組成物」(摘記甲3-1の請求項1)が記載されており、上記「液晶組成物は、一般式(1)及び(2)を同時に含有することを特徴とするが、その含有量は一般式(1)で表される化合物を5?60%含有し、一般式(2)で表される化合物を5?60%含有することが好ましく、一般式(1)で表される化合物を10?50%含有し、一般式(2)で表される化合物を10?30%含有することがより好ましい」こと(摘記甲3-4の[0018])、さらに、「第三成分として、一般式(3)・・・で表される化合物を含有することがより好ましい」こと(摘記甲3-1の請求項2、甲3-4の[0019]?[0029])、「この場合の含有量は、一般式(1)で表される化合物を5?60%含有し、一般式(2)で表される化合物を5?60%含有し、一般式(3)で表される化合物を5?60%含有することが好ましく、一般式(1)で表される化合物を10?50%含有し、一般式(2)で表される化合物を10?30%含有し、一般式(3)で表される化合物を10?40%含有することがより好ましい」こと(摘記甲3-4の[0020])、「『%』は『質量%』を意味する」こと(摘記甲3-6の[0029])及び「本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は68?120℃であるが、70?105℃がより好ましく、70?95℃が特に好ましい。固体相またはスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-80?-20℃であるが、-30℃以下であることがより好ましく、-40℃以下であることが特に好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)は0.05?0.15であるが、0.07?0.13であることがより好ましく、0.08?0.11であることが特に好ましい。25℃における誘電率異方性(Δε)は-1.5?-8.0であるが、-1.5?-6.0であることがより好ましく、-1.5?-5.5であることが特に好ましい」こと(摘記甲3-5)が記載されている。
また、甲3には、上記「ネマチック組成物を用いたアクティブマトリックス駆動液晶表示素子」(摘記甲3-1の請求項6)、及び上記「ネマチック組成物を用いたVAモード、IPSモードまたはECBモード液晶表示素子」(摘記甲3-1の請求項7)が記載されている。
さらに、甲3には、上記第一成分?第三成分に相当する化合物を含有し、諸特性が上記好ましい範囲にあるネマチック液晶組成物の実施例として実施例1?2(摘記甲3-7?甲3-8)が記載されている。
そうすると、甲3には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「第一成分として一般式(1)で表される化合物を5?60質量%含有し、第二成分として一般式(2)で表される化合物を5?60質量%含有し、第三成分として一般式(3)で表される化合物を5?60質量%含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(N-I))は68?120℃であり、固体相またはスメクチック相-ネマチック相転移温度(T_(→N))は-80?-20℃であり、25℃における屈折率異方性(Δn)は0.05?0.15であり、25℃における誘電率異方性(Δε)は-1.5?-8.0であるネマチック液晶組成物(当審注:一般式(1)?一般式(3)の化学構造式及び定義は、摘記甲3-1の請求項1及び2を参照。)。」(以下、「甲3発明1」という。)

また、甲3には、実施例1(摘記甲3-7)に基づいて、以下の発明も記載されているものと認められる(当審注:化合物の略号の意味及び特性の略号の意味は、摘記甲3-6を参照。)。
「以下の組成及び特性を有するネマチック液晶組成物。

」(以下、「甲3発明2」という。)

3.無効理由1(新規性違反)について
無効理由1は、上記「第7 無効理由の整理」に記載したとおり、本件発明1?5、8?11は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、というものである。

(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「ネマチック相の上限温度」、「光学異方性(25℃)」、「誘電率異方性(25℃)」は、それぞれ本件発明1の「ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))」、「25℃における屈折率異方性(Δn)」、「25℃におけるΔε」に相当する。なお、甲1発明1においては、「波長589nmにおける光学異方性(25℃)」、「周波数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)」と特定されているのに対し、本件発明1においては、波長及び周波数が特定されていない点で、厳密に一致するものではないが、甲1発明1は主な用途の一つとしてアクティブマトリックス方式の液晶表示素子を想定しており(摘記甲1-1の請求項18)、測定すべき特性は本件発明1と概ね一致すると解されるから、実質的な相違点にはならないと解される。
そこで、上記の各特性値の数値範囲を対比すると、両者は、「25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲であり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が70から120℃の範囲」で、特性が重複していると認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲であり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が70から120℃の範囲である液晶組成物。」の点で一致し、
相違点1:本件発明1においては、「第一成分として、式(I)で表される化合物を含有し、その含有量が5から25%であ」ることが特定されているのに対し、甲1発明1においてはそのように特定されていない点
相違点2:本件発明1においては、「第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい、一般式(II-1)及び(II-2)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し、その含有量が20から80質量%であ」ることが特定されているのに対し、甲1発明1においてはそのように特定されていない点
相違点3:本件発明1においては、「該第二成分として一般式(II-1A)、(II-1B)及び(II-2A)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」することが特定されているのに対し、甲1発明1においてはそのように特定されていない点
相違点4:本件発明1においては、「第三成分としてさらに、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有」することが特定されているのに対し、甲1発明1においてはそのように特定されていない点
相違点5:本件発明1においては、「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」ことが特定されているのに対し、甲1発明1においてはそのように特定されていない点
相違点6:本件発明1においては、「20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範囲であ」ることが特定されているのに対し、甲1発明1においてはそのようなことが特定されている点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点2について
事案に鑑みて、まず、相違点2について検討する。
(イ-1)相違点2の化合物(II-1)の化学構造について
甲1発明1における「第一成分」である「化合物(1-1)」及び「化合物(1-2)」の化学構造と本件発明1における「化合物(II-1)」の化学構造とを対比すると、前者の骨格部分は、後者の骨格部分の定義のうち、p=0又は1の場合には一致する。また、前者の両末端基R^(5)及びR^(6)の定義が、「R^(5)は、炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数1から12を有する直鎖のアルコキシである。R^(6)・・・は独立して、炭素数1から12を有する直鎖のアルキルまたは炭素数2から12を有する直鎖のアルケニルである。」(摘記甲1-11)というものであるのに対し、後者の対応する両末端基R^(2)及びR^(1)の定義は、「R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシル基炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表」すというものであるから、定義の一部(R^(5)及びR^(2)が炭素原子数1から10の直鎖のアルキル基又は炭素原子数1から10の直鎖のアルコキシル基であり、R^(6)及びR^(1)が炭素原子数1から10の直鎖のアルキル基又は炭素原子数2から10の直鎖のアルケニル基である場合)は一応一致している。
しかし、両者の関係は、前者が後者を包含するという関係にあるものではなく、前者は後者に含まれない化合物であり得るし(例えば、前者におけるR^(6)が炭素数11を有する直鎖のアルキル基を表す場合。)、逆に、後者は前者に含まれない化合物であり得る(例えば、後者におけるR^(1)がアルコキシ基を表す場合。)から、両者は化合物の一部が一致するという関係にあるものにすぎない。

(イ-2)相違点2の化合物(II-2)の化学構造について
甲1発明1における「第二成分」である「化合物(2-1)」の化学構造と本件発明1における「化合物(II-2)」の化学構造とを対比すると、前者の骨格部分は、後者の骨格部分の定義のうち、q=1でありかつ環Aがトランス-1,4-シクロヘキシレン基であり、環Bが1,4-フェニレン基を表す場合には一致する。また、前者の両末端基R^(5)及びR^(6)の定義は、上記(イ-1)に記載した両末端基R^(5)及びR^(6)の定義と同じであり、後者の対応する両末端基R^(2)及びR^(1)の定義は、上記(イ-1)に記載した両末端基R^(2)及びR^(1)の定義と同じである。
そうすると、上記(イ-1)において検討したのと同じ理由により、両者の関係は、前者が後者を包含するという関係にあるものではなく、化合物の一部が一致するという関係にあるものにすぎない。

(イ-3)相違点2の化合物の化学構造についてのまとめ
してみると、甲1発明が、「式(1-1)及び式(1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」及び「式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を含有することをもって、本件発明1における「一般式(II-1)及び(II-2)・・・で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」することと一致するということはできない。

(イ-4)相違点2の化合物の含有量について
甲1発明1においては、「第一成分として式(1-1)及び式(1-2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を「5重量%から60重量%」含有すること、及び「第二成分として式(2-1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」を「5重量%から40重量%」それぞれ含有することが特定されているが、上記(イ-1)及び(イ-2)において検討したとおり、甲1発明1における「第一成分」である「化合物(1-1)」及び「化合物(1-2)」と、本件発明1における「化合物(II-1)」とは、化合物の一部が重複するという関係にあるものにすぎず、甲1発明1における「第二成分」である「化合物(2-1)」と、本件発明1における「化合物(II-2)」とは、化合物の一部が重複するという関係にあるものにすぎないから、甲1発明1における上記「第一成分」及び「第二成分」それぞれの含有割合の記載をもって、直ちに本件発明1における「化合物(II-1)」の含有割合が「5重量%から60重量%」であり、かつ「化合物(II-2)」の含有割合が「5重量%から40重量%」であることが特定されていることにはならない。

また、仮に、甲1発明1における「第一成分」が、本件発明1における「化合物(II-1)」に対応し、甲1発明1における「第二成分」が、本件発明1における「化合物(II-2)」に対応するものであることを前提としても、甲1の記載からは、甲1発明1における「第一成分」及び「第二成分」の総和としての含有量が、上記の上限と下限を単純に加算した「10重量%から100重量%」であることが理解できるものとはいえない。
すなわち、甲1の請求項1(摘記甲1-1)では、式(1-1)及び式(1-2)の上位概念である「式(1)」で表される化合物の群から選択された少なくとも一つの化合物(化合物(1))は「第一成分」とされており、また、式(2-1)の上位概念である「式(2)」で表される化合物の群から選択された少なくとも一つの化合物(化合物(2))は「第二成分」とされており、両者は別々の成分であることが規定されている。そして、甲1の請求項2(摘記甲1-1)では、両者が別々の成分であることを前提に、液晶組成物の全重量に基づく、それぞれの含有割合が個別に規定されている。
また、甲1の表2「化合物の特性」(摘記甲1-8の[0038])の記載によれば、化合物(1)と化合物(2)とは、成分化合物としての主要な特性のうち、上限温度、光学異方性及び誘電率異方性において差異があるものとされ、さらに、[0039](摘記甲1-8)には、成分化合物を組成物に混合したときに、当該成分化合物が組成物の特性に及ぼす影響についても、「化合物(1)は誘電率異方性の絶対値を上げる。化合物(2)は光学異方性を上げ、そして誘電率異方性の絶対値を上げる。」として、やはり両者に差異がある旨が記載されているのであるから、以上のような甲1の記載に接した当業者は、甲1記載の発明において、化合物(1)と化合物(2)とは、それぞれ異なる特性を有する別成分であると認識するものといえる。
してみると、甲1発明1においては、化合物(1-1)及び化合物(1-2)は、「第一成分」に係る一群のものとして、また、化合物(2-1)は、「第一成分」とは別の「第二成分」に係る一群のものとして、それぞれ当業者に認識されるものといえるのであり、これを前提とすれば、当業者は、甲1発明1の液晶組成物において化合物(1-1)及び化合物(1-2)を液晶組成物の全重量に基づいて「5重量%から60重量%」の範囲で含有されるべき一つの成分として認識し、また、化合物(2-1)を液晶組成物の全重量に基づいて「5重量%から40重量%」の範囲で含有されるべき別の成分として認識するのであって、これらの各成分を合わせた含有量を特定の範囲のものとすることを認識するとはいえない。
したがって、甲1の記載からは、甲1発明1における化合物(1-1)、化合物(1-2)及び化合物(2-1)の総和としての重量が、上記「5重量%から60重量%」及び「5重量%から40重量%」の上限と下限を単純に加算した「10重量%から100重量%」であることが理解できるものではない。
そうすると、上記相違点2の化合物の含有量の点は、実質的な相違点である。

(イ-5)相違点2の化合物の誘電率異方性(Δε)について
甲1発明1の液晶組成物は、全体として、「周波数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)が-2以下である負の誘電率異方性を有する」とされており、また、甲1の表2「化合物の特性」(摘記甲1-8の[0038])には、化合物(1)及び化合物(2)の誘電率異方性の概略が、それぞれ「L」及び「M?L」であること(誘電率異方性の値は負であり、記号は絶対値の大小を示す。)が記載されているものの、甲1発明1の第一成分である化合物(1-1)及び化合物(1-2)自体、並びに第二成分である化合物(2-1)自体の誘電率異方性の数値が記載されているわけではないから、甲1の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識を参酌しても、上記各化合物の誘電率異方性を具体的に把握することはできない。そうすると、甲1発明1の化合物(1-1)及び化合物(1-2)、並びに化合物物(2-1)の誘電率異方性が、本件発明1の第二成分の誘電率異方性に相当する「負でその絶対値が3よりも大きい」ものであることを当業者が把握できるとはいえないから、甲1発明1と本件発明1とでは、この点においても実質的に相違する。

(イ-6)相違点2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明1とは、相違点2の点で実質的に相違するものである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、甲1発明1の第一成分及び第二成分に当たる化合物について、甲1の請求項1(摘記甲1-1)の定義及び[0055]?[0056](摘記甲1-11)の「好ましい化合物(1)は、化合物(1-1)および化合物(1-2)である。」との記載等に基づいて、記載事項を認定した上で、「式(1)で表される化合物は、本件発明1の『第二成分として一般式(II-1A)、(II-1B)』に相当している。また、・・・式(2)で表される化合物は、本件発明1の『第二成分として一般式(II-2A)』に相当している。」(審判請求書の第60?65頁。)と主張している。
しかし、甲1の請求項1、[0054]等に記載された化合物(1)、(2)、(1-1)及び(1-2)の一般式の定義は、上記3.イ(イ-1)?(イ?4)において検討したとおり、本件発明1の第二成分の化合物(II-1)及び(II-2)の定義と一部が重複するという関係にあるものにすぎず、また、本件発明1において第二成分に含有されることが記載されている化合物(II-1A)、(II-1B)及び(II-2A)の定義と対比しても、定義の一部が重複するという関係にあるものにすぎないから、請求人の主張は採用することができない。
また、請求人は、平成29年8月7日に提出した上申書において、「甲1の実施例2を参照していただければ、相違点は実質的に先の審決の(相違点1)しかなく、本件発明の容易想到は明らかであります。」(上記上申書の第2頁)、「『本件発明1』と『甲1発明1』との対比における一致点として、次の事項を追加してください。
本件発明1における
『一般式(II-1)及び一般式(II-2)・・・で表される化合物群から選ばれる1種又は2種の化合物を含有』すること」(上記上申書の第2?3頁)、「本件発明1に最も近いとされる甲1の実施例2では、本件発明1の一般式(II-1)に相当する式(1-1)、式(1-2)を23%、一般式(II-2)に相当する式(2-1)を12%含有し、合わせると本件発明1の「一般式(II-1)及び一般式(II-2)」相当を35%含有しています。・・・これらの全ての実施例によれば、化合物含有量において一致すると言え、相違点Aの化合物、含有量の一致が理解でき裏づけられています。・・・そうしますと、対比した結果の相違点Aは、化合物、含有量において一部一致していると判断できます。」(上記上申書の第2?7頁)と主張している。
しかし、甲1発明1における化合物(1-1)、化合物(1-2)及び化合物(2-1)の定義は、上記第8 2.(1)に記載したとおりであり、いずれも実施例1?8(摘記甲1-17?甲1-24)に含有される具体的な化合物に限られるものではないから、甲1発明1と本件発明1との対比においては、上記の化合物の定義の一部が本件発明1の第二成分の化合物の定義の一部と一致するという関係にあることがいえるにとどまり、甲1発明1における化合物(1-1)、化合物(1-2)及び化合物(2-1)が、本件発明1の第二成分の化合物と定義上必ず一致するとはいえない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。
なお、甲1に記載された具体的な実施例(特に実施例8:甲1発明2)と本件発明1との対比、判断は、後記する第8 4.(1)「無効理由2(進歩性違反)(1)について」に記載したとおりである。

エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明1をもって、本件発明1が甲1に記載された発明であるということはできない。

(2)本件発明2?5、8?11について
本件発明2?5及び8?11は、本件発明1にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲1に記載された発明ということができない。

(3)無効理由1(新規性違反)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?5、8?11は、いずれも甲1に記載された発明ということができないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。よって、無効理由1は、理由がないものである。

4.無効理由2(進歩性違反)について
無効理由2は、上記「第7 無効理由の整理」2.に記載した(1)?(3)に整理することができるので、順次検討する。
(1)無効理由2(進歩性違反)(1)について
無効理由2(1)は、本件発明1?5、7?11は、甲1に記載された発明、並びに甲5?11に記載された発明及び甲4、12?15に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、というものである。

ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明2との対比
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書においては、甲1に基づく無効理由2(進歩性違反)の主張を、甲1発明2(甲1の実施例8に基づく)に基づいて行っているので、まず、甲1発明2に基づく進歩性について検討する。
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における
「3-H1OB(2F,3F)-O4 (1-1) 5%」は、本件発明1における「化合物(II-1A)」に相当し、
甲1発明2における
「3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2) 6%」は、本件発明1における「化合物(II-1B)」に相当し、
甲1発明2における
「3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 10%
5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1) 9%」は、本件発明1における「化合物(II-2A)」に相当し、
甲1発明2における
「2-HH-3 (3-1) 28%」は、本件発明1における「化合物(III-A)」に相当し、
甲1発明2における
「5-HB-O2 (3-2-1) 5%」は、本件発明1における「化合物(III-D)」に相当し、
甲1発明2における
「V2-BB-1 (3-3-1) 5%」は、本件発明1における「化合物(III-F)」に相当し、
甲1発明2における
「3-HHB-O1 (3-5-1) 4%」は、本件発明1における「化合物(III-G)」に相当し、
甲1発明2における
「3-HBB-2 (3-6-1) 4%」は、本件発明1における「化合物(III-H)」に相当し、
甲1発明2における
「V-HB(2F,3F)-O2 (4-1-1-1) 5%
V-HB(2F,3F)-O4 (4-1-1-1) 5%
V2-HHB(2F,3F)-O2 (4-1-2-1) 5%」は、本件発明1における「化合物(II-2)」に相当し、
甲1発明2における「NI=79.9℃」、「Δn=0.093」、「η=10.3mPa・s」、「Δε=-2.7」は、本件発明1における「ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が60から120℃の範囲」、「25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲」、「20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範囲」、「25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲」と、特性が重複していると認められる。
そうすると、両者の一致点は、甲1発明2の化合物名を『 』内に記載する形で借りて整理すると、
「第二成分として、一般式(II-1)に相当する
『3-H1OB(2F,3F)-O4 (1-1)』
『3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2)』及び
『5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2)』、並びに
一般式(II-2)に相当する
『3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1)』及び
『5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1)』を含有し、
その含有量が(5+6+6+10+9=)36質量%であり、
該第二成分として、一般式(II-1A)に相当する
『3-H1OB(2F,3F)-O4 (1-1)』、
一般式(II-1B)に相当する
『3-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2)』及び
『5-HH1OB(2F,3F)-O2 (1-2)』、並びに
一般式(II-2A)に相当する
『3-HBB(2F,3F)-O2 (2-1)』及び
『5-HBB(2F,3F)-O2 (2-1)』を含有し、
第三成分としてさらに、一般式(III-A)に相当する
『2-HH-3 (3-1)』、
一般式(III-D)に相当する
『5-HB-O2 (3-2-1)』、
一般式(III-F)に相当する
『V2-BB-1 (3-3-1)』、
一般式(III-G)に相当する
『3-HHB-O1 (3-5-1)』及び
一般式(III-H)に相当する
『3-HBB-2 (3-6-1)』を含有し、
25℃におけるΔεが-2.7であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.093であり、20℃における粘度(η)が10.3mPa・sであり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が79.9℃である、液晶組成物。」の点であり、
両者の相違点は、
相違点1’:本件発明1においては、「第一成分として、式(I)で表される化合物を含有し、その含有量が5から25%であ」ることが特定されているのに対し、甲1発明2においてはそのように特定されていない点
相違点2’:本件発明1においては、「第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい、一般式(II-1)及び(II-2)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」することが特定されているのに対し、甲1発明2においては、該当成分の誘電率異方性(Δε)が明らかでない点
相違点3’:本件発明1においては、「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」ことが特定されているのに対し、甲1発明2は、塩素原子で置換された液晶化合物(『3-HHB(2F,3Cl)-O2 (4-1) 3%』)を含有する点
である。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1’について
(イ-a)甲1に記載された第三成分について
甲1には、第三成分として式(3-1)から式(3-10)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物の20重量%から70重量%を含有することが記載されており(摘記甲1-1の請求項4、9等)、定義の一部に本件発明1の化合物(I)と重複する選択肢が含まれる(式(3-3)において、両末端のR^(3)及びR^(4)が「C_(3)H_(7)-」と「-CH_(3)」とをそれぞれ表す場合。)。
しかし、甲1発明2に含まれる第三成分の具体的な化合物は、『2-HH-3 (3-1)』、『5-HB-O2 (3-2-1)』、『V2-BB-1 (3-3-1)』、『3-HHB-O1 (3-5-1)』及び『3-HBB-2 (3-6-1)』であり、いずれも本件発明1の第一成分である化合物(I)(甲1の略号を借りて借りて表現すると『3-HH-1』。)とは異なる化合物である。また、甲1全体をみても、本件発明1の化合物(I)に相当する化合物は、具体的には記載されていない。

(イ-b)第三成分として本件発明1の化合物(I)に相当する化合物を選択することについて
甲1には、第三成分の化合物(3)が液晶組成物の特性に及ぼす主要な効果は、粘度を下げるまたは上限温度を上げることであること(摘記甲1-8)、第三成分の好ましい割合は、粘度を下げるためまたは上限温度を上げるために約20重量%であり、誘電率異方性の絶対値を上げるために約70重量%以下であること(摘記1-9)が記載されており、さらに、甲1には、甲1発明2が解決しようとする課題について、「1つの目的は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物」を提供することにあることが記載されているから(摘記甲1-4)、甲1においては、「小さな粘度」の液晶組成物を提供することが課題の一つとして認識されており、その課題解決手段の一つとして第三成分の化合物(3)を用いることが記載されているといえる。しかし、上記の記載においては、第三成分の(3-1)から(3-10)のすべての選択肢は、機能上並列的に位置づけられていると解される。
また、甲1には、成分化合物の好ましい形態についての説明が記載されており(摘記甲1-10)、第三成分の式(3-1)から式(3-10)の定義に含まれる末端基R^(3)及びR^(4)については、「好ましいR^(3)およびR^(4)はそれぞれ、紫外線または熱に対する安定性などを上げるために炭素数1から12のアルキル、または下限温度を下げるために炭素数2から12のアルケニルである。好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるためにエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルである。」と記載されている(摘記甲1-10の[0045]?[0046])。
さらに、甲1には、成分化合物の具体的な例の説明が記載されており(摘記甲1-11)、第三成分については、「好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)から化合物(3-10-1)である。さらに好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)、化合物(3-3-1)、化合物(3-5-1)、および化合物(3-10-1)である。特に好ましい化合物(3)は、化合物(3-1-1)、化合物(3-3-1)、および化合物化合物(3-10-1)である。」(摘記甲1-11の[0055])と記載されている。
ここで、上記「特に好ましい」とされているものの一つである化合物(3-3-1)は、本件発明1の化合物(I)と共通する骨格を有するが、どのような観点から好ましいものとされているのか具体的には記載されていないから、「小さな粘度」の液晶組成物を提供するという課題と結び付けて、(3-3-1)の骨格を採用することが積極的に動機付けられるものではない。
また、(3-3-1)の骨格を採用することが上記の記載から動機付けられるとしても、粘度を下げるために好ましい置換基は「エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルである。」と記載されているから(摘記甲1-10の[0046])、本件発明1の化合物(I)(式(3-3)において、両末端のR^(3)及びR^(4)が「C_(3)H_(7)-」と「-CH_(3)」とを表す場合)の化学構造を採用することが動機付けられるものではない。

(イ-c)『V2-BB-1 (3-3-1)』の置き換えについて(その1)
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、本件発明1と甲1発明2との相違点を、「本件発明1が、第一成分として、式(I)・・・を含有し、その含有量が5から25%であるとしているのに対して、甲1発明2は、第一成分として、V2-BB-1(3-3-1)・・・を5%含有するとしている点。」と認定し(審判請求書の第81頁)、甲5(摘記甲5-2?甲5-4)、甲6(摘記甲6-1?甲6-2)及び甲7(摘記甲7-1?甲7-2)を引用して、「液晶化合物のアルキル鎖の炭素数が少ない方が粘度は低いことは周知なことであり、甲1発明2では低粘度の液晶組成物を提供することを目的としており、甲1において式(3-1)、(3-1-1)は・・・R^(3)(R^(6))として粘度の観点から短いものを選ぶものであって、メチル、エチル、プロピルと検討して行くことが物性上も合成原料上も有利であるので・・・甲1発明2の第一成分V2-BB-1(3-3-1)の炭素数4のアルケニルを炭素数3のアルキルとすることは当業者ならば容易に想到し得ることである。」(審判請求書の第81?83頁)と主張している。
しかし、甲5?甲7に記載された化合物は、骨格が『V2-BB-1』とは異なる化合物であるから、『V2-BB-1』の置換基を置き換えたときの粘度の変化を確実に予測できるものではない。また、甲5には、請求人が指摘するように、「一般的にはアルキル基の長さが短い方が低粘性の傾向にあることは、他の系統の液晶化合物で知られている。」との一文があるが(摘記甲5-4)、同じ甲5の第2表に記載された粘度の実測値(摘記甲5-3)を参照すると、表の下半(アルキル基の炭素数の合計n+mが5?9の場合)では逆の傾向が見られるし、さらに甲5には、「アルキル基の長さと相転位温度との相関関係は複雑であり好適な要因のみを自由に選びとれるものではない。」(摘記甲5-1)との記載もあるから、これらの記載に接した当業者は、『V2-BB-1』のV2の長さを短くしても一概に粘度を下げられるとは限らないこと、及び液晶組成物の他の特性(Δn、T_(ni)、Δε)を維持したままηだけを改善できるとも限らないことを理解するといえる。また、仮にV2の長さを短くすることを当業者が想起するとしても、化学的に特徴のある基であるエチレン性不飽和基(V)を有する基(V2)に代えて、飽和炭化水素である「3」を採用することは、単に炭素鎖の長さを短くすることに止まらない化学構造の変更を伴うことであるから、そのような変更が一概に容易なことであるともいえない。
さらに、請求人は置換基の炭素数を短くする対象として、本件発明1との対比で相違点として抽出された『V2-BB-1』だけを想定しているが、上記(イ-a)で検討したとおり、甲1発明2に含まれる「第三成分」に属する化合物は『V2-BB-1』だけではないし、上記(イ-b)に記載したとおり、粘度の観点からはすべての「第三成分」が並列的に記載されていると解し得るから、甲1発明2の含有成分のうち、『V2-BB-1』に着目する必然性はない。
よって、『V2-BB-1』の「V2」を「3」(C_(3)H_(7)-)に置き換えることにより相違点1に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(イ-d)『V2-BB-1 (3-3-1)』の置き換えについて(その2)
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、「別の観点で検討してみると本件発明1と甲1発明2・・・とのあいだで、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)、粘度(η)、相転移温度(T_(ni))のような物性においては相違がなく、相違は、甲1発明2のV2-BB-1の代わりに化合物(I)・・・を採用した点にある。・・・両者はC_(3)H_(7)-とH_(2)C=CHCH_(2)CH_(2)-とが相違するに過ぎない。
したがって、本件特許の課題を解決するために、Δεがほぼゼロである公知の化合物の中からV2-BB-1に類似した化合物(1)を第一成分として選択したのであるから、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。」(審判請求書の第84頁)、
「本件特許明細書の[0016]には、『・・・液晶組成物を液晶セルに注入する際に極低圧とするため蒸気圧が低い化合物は揮発してしまうため、その含有量を増やすことが出来ないと考えられていた。このため・・・式(I)の含有量を限定・・・粘度が著しく高いという問題があった。』という記載がある・・・が、この記載は誤りである。なぜならば・・・甲4・・・甲第12号証・・・甲第13号証・・・」(審判請求書の第85頁)、と主張している。
しかし、上記(イ-a)及び(イ-b)において検討したとおり、甲1発明2に含まれる「第三成分」に属する化合物は『V2-BB-1』だけではなく、粘度の観点からは、すべての「第三成分」が並列的に記載されていると解し得るから、甲1発明2の含有成分のうち、『V2-BB-1』に着目する必然性はない。また、上記(イ-c)において検討したとおり、液晶化合物の置換基(炭素鎖長)を変更することは、粘度の変化に止まらず、液晶組成物の他の特性にも影響を与える可能性があること等から、本件発明1と甲1発明とを比較してみたときに、その相違点が、「C_(3)H_(7)-とH_(2)C=CHCH_(2)CH_(2)-とが相違するに過ぎない」ように見えたとしても、この差異を単なる「当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内」の微差と判断することはできない。
また、甲13に「化合物(I)」に相当する化合物を11%含有する液晶組成物が記載されているとしても(摘記甲13-1)、それだけで甲1発明2に化合物(I)を含有させることの動機付けにはならないし、本件発明1の効果の否定につながるものでもない。なお、甲4及び甲12は、本件特許に係る出願の優先権主張日以降に公開された文献であるから、本件特許明細書に従来技術として記載された事項を否定する根拠にはならないし、甲1発明2との組合せにおいて、本件発明1の進歩性を否定する証拠にもならない。

(イ-e)本件発明1の化合物(I)の効果について
本件特許明細書の[0019]には、本件発明が解決しようとする課題が、「ΔnおよびT_(ni)を低下させることなく、ηが十分に小さく、Δεが負でその絶対値が大きな液晶組成物を提供し、更にこれを用いたVA型等の表示不良がない又は抑制された液晶表示素子を提供することにある」ことが記載され、[0020]には、課題を解決するための手段について、「本発明者は、種々のビフェニル誘導体及びフルオロベンゼン誘導体を検討し、特定の化合物を組み合わせることにより前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されている。
より具体的には、Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物(第二成分、化合物(II-1)、(II-2))と、化合物(I)(第一成分)とを組み合わせること([0021]?[0035])、化合物(I)は、従来、製造工程で揮発してしまうため、その含有量を増やすことができないと考えられていたが([0016])、本件発明1は化合物(I)を5から25%含有させたものであること([0021]?[0023])、そして化合物(I)の含有量が異なる実施例1と比較例1、2([0061]?[0067])の実験データに基づいて、「本発明のように式(I)で表される化合物の含有量を増加させることによりΔεが負の化合物を含有する液晶組成物はΔnとT_(ni)を低下させることなく、ηを改善できることがわかった。」([0068])ことが記載されており、さらに別の実施例2、3([0070]?[0072])も実施例1と同様の効果を有することが記載されており、化合物(I)の含有量である5?25%という数値範囲の意義は、実施例と比較例の実験データ(実施例1?3、比較例1、2)等により確認することができる。

これに対して、甲1には、上記(イ-b)において検討したとおり、第三成分の化合物(3)の主要な効果が液晶組成物の粘度を下げるまたは上限温度を上げることであること等は記載されているものの(摘記甲1-8?甲1-9)、甲1には、「ΔnおよびT_(ni)を低下させることなく、ηが十分に小さく、Δεが負でその絶対値が大きな液晶組成物を提供」するという本件発明1のような課題について記載されておらず、また、第三成分の一群の化合物(3-1)?(3-10)のうち、特に本件発明1の化合物(I)に相当する化合物を選択すること、及びそれにより上記特有の効果が得られることも、具体的には記載されていない。
また、上記(イ-c)において検討したとおり、甲5には、「アルキル基の長さと相転位温度との相関関係は複雑であり好適な要因のみを自由に選びとれるものではない。」(摘記甲5-1)等の記載もあるから、甲5の記載に接した当業者は、V2-BB-1のV2の長さを短くしても一概に粘度を下げられるとは限らないこと、及び液晶組成物の他の特性(Δn、T_(ni)、Δε)を維持したままηだけを改善できるとも限らないことを理解するといえる。
そうすると、本件発明1の「ΔnおよびT_(ni)を低下させることなく、ηが十分に小さく、Δεが負でその絶対値が大きな液晶組成物を提供」できるという効果は、当業者にとって予測し得ない有利な効果であると認められる。

(イ-f)本件発明1の効果についての請求人の主張について
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、「本件特許の段落[0067]に『・・・実施例1と比較すると、T_(ni)、Δn及びΔεはほぼ同等の値となったが、ηは比較例1で6%、比較例2で7%上昇した。』と記載されている。しかしながら、これらの比較は、化合物(I)の濃度を11%から2%と0%に減少させた以外に、新たな三種類の化合物を追加したので、化合物(I)が組成物の物性に及ぼす効果を調べるには適してない。・・・本件発明1の組成物の物性は、甲1の実施例8のそれとほぼ同等であり、本件発明1の組成物には、有利な効果を見い出すことができなかった」(審判請求書の第85?86頁、甲14)と主張している。
しかし、上記(イ-a)?(イ-d)において検討したとおり、そもそも甲1発明2から本件発明1の構成に至ることが容易であるという論理付けが困難であることから、仮に請求人のいうとおり、甲1の実施例8が本件発明1とほぼ同等の効果を有しているとしても、それにより本件発明1の進歩性が否定されるものではない。また、上記(イ-e)において検討したとおり、甲1には、「ΔnおよびT_(ni)を低下させることなく、ηが十分に小さく、Δεが負でその絶対値が大きな液晶組成物を提供」するという本件発明1と共通する課題は記載されておらず、本件発明1の化合物(I)に相当する化合物が上記のような作用効果をもたらすことについても、具体的には記載されていないから、仮に甲1の一実施例が本件発明1とほぼ同等の効果を有しているとしても、化合物(I)を5?25%含有させたことに基づく本件発明1の有利な効果の存在を当業者が予測し得たとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(イ-g)相違点1’についてのまとめ
以上のことから、甲1に記載された発明、甲5?7に記載された発明、及び甲13、甲14に記載された事項に基づいて、当業者が相違点1’に係る構成に容易に想到し得たとすることはできない。
なお、無効理由2(1)に関連して提出されているその他の証拠のうち、甲8?10には主にアルケニル基を有する液晶化合物について記載されており(摘記甲8-1?甲10-5)、甲11には本件発明1の化合物(II-1)及び(II-2)に相当する化合物のΔε及びΔnの測定値が記載されているが、これらの記載を参酌しても、当業者が相違点1’に係る構成に容易に想到し得たとはいえない。また、甲4、12は、(イ-d)に記載したとおり、本件特許に係る出願の優先権主張日以降に公開された文献である。

(ウ)本件発明1と甲1発明2との対比、判断のまとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明2並びに甲5?11に記載された発明及び甲4、12?14に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明1と甲1発明1との対比、判断
請求人は、平成29年8月7日に提出した上申書において、本件発明1と甲1発明1との対比を行い、その相違点について主張しているので、念のため甲1発明1に基づく進歩性についても検討する。
本件発明1と甲1発明1とは、上記3.「無効理由1(新規性違反)について」の(1)ア「本件発明1と甲1発明1との対比」に記載したとおりの点で一致し、同項に記載した相違点1?6の点で相違するものと認められる。このうち、「相違点1」は、上記4.(1)ア(ア)「本件発明1と甲1発明2との対比」に記載した「相違点1’」と同じであるから、上記4.(1)ア(イ)のとおり判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明1並びに甲5?11に記載された発明及び甲4、12?14に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?5、7?11について
本件発明2?5、7?11は、本件発明1にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲1に記載された発明並びに甲5?11に記載された発明及び甲4、12?14に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

ウ 無効理由2(進歩性違反)(1)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?5、7?11は、いずれも甲1に記載された発明並びに甲5?11に記載された発明及び甲4、12?14に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。よって、無効理由2(1)は、理由がないものである。

(2)無効理由2(進歩性違反)(2)について
無効理由2(2)は、本件発明1、2、7、9?11は、甲2に記載された発明、及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、というものである。

ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明2との対比
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、甲2に基づく無効理由2(進歩性違反)の主張を、甲2発明(甲2の実施例1、上記2.(2)「甲2に記載された発明」において認定した「甲2発明2」に相当する。)に基づいて行っているので、まず、甲2発明2に基づく進歩性について検討する。
本件発明1と甲2発明2とを対比すると、
甲2発明2における第二成分 一般式(2)の、
「3-Cy-Cy-1O-Ph5-O1 4%
3-Cy-Cy-1O-Ph5-O2 9%
4-Cy-Cy-1O-Ph5-O1 4%」は、本件発明1における「化合物(II-1B)」に相当し、
甲2発明2における第二成分 一般式(2)の、
「3-Cy-Cy-2-Ph5-O2 10%」は、本件発明1における「化合物(II-2)」に相当し、
甲2発明2における第一成分 式(1)の、
「0d1-Cy-Cy-3 30%」は、本件発明1における「化合物(III-A)」に相当し、
甲2発明2における第二成分 その他の、
「0d1-Cy-Cy-Ph-1 9%」は、本件発明1における「化合物(III-G)」に相当し、
甲2発明2における第二成分 その他の、
「5-Ph-Ph-1 10%」は、本件発明1における「化合物(III-A)」に相当し、
甲2発明2における「TNI=82.7℃」、「Δn=0.087」、「η=19.4」、「Δε=-3.1」は、本件発明1における「ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が60から120℃の範囲」、「25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲」、「20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範囲」、「25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲」と、特性が重複していると認められ、さらに、甲2発明2は、塩素原子で置換された液晶化合物を含有していない点でも本件発明1と一致する。
そうすると、両者の一致点は、甲2発明2の化合物名を『 』内に記載する形で借りて整理すると、
「第二成分として、一般式(II-1)に相当する
『3-Cy-Cy-1O-Ph5-O1』、
『3-Cy-Cy-1O-Ph5-O2』及び
『4-Cy-Cy-1O-Ph5-O1』、並びに
一般式(II-2)に相当する
『3-Cy-Cy-2-Ph5-O2』を含有し、
その含有量が(4+9+4+10=)27質量%であり、
該第二成分として、一般式(II-1B)に相当する
『3-Cy-Cy-1O-Ph5-O1』、
『3-Cy-Cy-1O-Ph5-O2』及び
『4-Cy-Cy-1O-Ph5-O1』を含有し、
第三成分としてさらに、一般式(III-A)に相当する
『0d1-Cy-Cy-3』及び
『5-Ph-Ph-1』、並びに
一般式(III-G)に相当する
『0d1-Cy-Cy-Ph-1』を含有し、
25℃におけるΔεが-3.1であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.087であり、20℃における粘度(η)が19.4mPa・sであり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が82.7℃であり、塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない、液晶組成物。」の点であり、
両者の相違点は、
相違点1”:本件発明1においては、「第一成分として、式(I)で表される化合物を含有し、その含有量が5から25%であ」ることが特定されているのに対し、甲2発明2においてはそのように特定されていない点
相違点2”:本件発明1においては、「第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい、一般式(II-1)及び(II-2)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」することが特定されているのに対し、甲2発明2においては、該当成分の誘電率異方性(Δε)が明らかでない点
である。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1”について
(イ-a’)甲2発明2の第一成分について
甲2には、第一成分として式(1)で表される特定の化合物(『0d1-Cy-Cy-3』)を20?65%必須成分として含有することが記載されており(摘記甲2-1の請求項1)、甲2発明2も当該化合物を30%含有する。当該化合物は、その化学構造に選択の余地がない特定の化合物であり、本件発明1の化合物(I)とは骨格及び末端基の化学構造が異なるものである。

(イ-b’)甲2発明2の第一成分の置き換えについて
甲2には、従来技術に関連して、「低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。」と記載されており(摘記甲2-2)、当該課題が、甲2の請求項1(摘記甲2-1)に記載された「第一成分として化合物(1)を20?65%含有し、ネマチック-アイソトロピック転移温度が68℃?120℃であり、クリスタル又はスメクチック-ネマチック転移温度が-80℃?-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05?0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0?-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物。」により解決されること、及び「本発明の液晶化合物の組み合わせによって、非常に粘性が低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られ」ること(摘記甲2-3)が記載されている。
これらの従来技術の課題及び解決手段に関する記載(摘記甲2-1?甲2-3)からみて、甲2発明2の第一成分である式(1)の化合物(『0d1-Cy-Cy-3』)は、本件発明1の化合物(I)と、「粘性が低」い液晶組成物を提供するという点で、共通する作用をもたらすものと解される。しかし、甲2発明2の式(1)の化合物は、発明の課題解決のための最も重要な成分と解されるものであり、しかも、その化学構造に選択の余地がないものとして記載されているから、当該化合物を他の化合物、すなわち相違点1”に係る本件発明1の化合物(I)に置き換えることは、甲2の記載から動機付けられることではない。

(イ-c’)甲2発明2の第二成分及びその他の成分と、それらの置き換えについて
甲2には、「組成物の物性値を調整するために第二成分として一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)・・・の化合物を含有することが好ましい。」(摘記甲2-4)ことが記載されているが、一般式(2)?(4)は、相違点1”に係る本件発明1の化合物(I)とは、骨格がまったく異なる化合物であり、また、甲2には、これらの化合物を液晶組成物の低粘性化という課題と結びつける記載もないから、甲2発明2の第二成分を本件発明1の化合物(I)に置き換えることは、甲2の記載から積極的に動機付けられることではない。
また、甲2発明2は、「その他」の化合物を含有しているが、甲2には、「その他」の化合物がどのような意図で添加された化合物であるのかを説明する具体的な記載はないから、「その他」の化合物を本件発明1の化合物(I)に置き換えることは、甲2の記載から積極的に動機付けられることではない。

(イ-d’)『5-Ph-Ph-1』の置き換えについて
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、本件発明1と甲2発明2との相違点を、「本件発明1が、第一成分として、式(I)・・・を含有し、その含有量が5から25%であるとしているのに対して、甲2発明は、『(1)その他 5-Ph-Ph-1 10%』・・・としている点。」と認定し(審判請求書の第103頁)、「相違点1については、上記『4)無効理由2(甲第1号証に基づく進歩性違反について-1) 4)-1・・・甲1発明2との対比・・・」(当審注:審判請求書の第80?83頁に当たる。)で述べたとおりであって、即ち、甲2発明の「(1)その他5-Ph-Ph-1 10%」・・・の炭素数5のアルキルを炭素数の3のアルキルとすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。」(審判請求書の第103頁)と主張している。
しかし、上記4.(1)ア(イ)の(イ-c)?(イ-f)において検討したとおり、公知文献の記載及び周知の技術的事項を参酌しても、液晶組成物に含まれる特定成分の置換基の炭素鎖長を変更することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえず、それに伴う効果、特に、化合物(I)を5?25%含有させたことに基づく本件発明1の有利な効果の存在を当業者が予測し得たとはいえない。

(イ-e’)相違点1”についてのまとめ
以上のことから、甲2の記載、甲5?7の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が相違点1”に係る構成に容易に想到し得たとすることはできない。
なお、無効理由2(2)に関連して提出されているその他の証拠のうち、甲8?10には主にアルケニル基を有する液晶化合物について記載されており(摘記甲8-1?甲10-5)、甲11には本件発明1の化合物(II-1)及び(II-2)に相当する化合物のΔε及びΔnの測定値が記載されているが、これらの記載を参酌しても、当業者が相違点1”に係る構成に容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)本件発明1と甲2発明2との対比、判断のまとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明2及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明1と甲2発明1との対比、判断
請求人は、平成29年8月7日に提出した上申書の「(7)無効理由2-2(甲2に基づく進歩性違反)について」の「ア.甲2記載発明」(第19?21頁)において、甲2の記載事項を摘記し、「以上の請求項、[0015][0020]の記載から『甲2発明A』が認定できます。(引用発明の認定、一致点の検討は省略します。)」と主張しているところ、「甲2発明A」は、上記第8 2.(2)に記載した、「甲2発明1」に相当するものと認められる。
また、請求人は同上申書において、「そうしますと、本件発明1と甲2発明Aとを対比した結果の相違点は、審判請求書103頁の相違点1のみに実質的になり、この相違点1は、無効理由2-1で述べたと同じく、5-Ph-Ph-1のペンチル基をプロピル基に変えようとするのは、甲2発明Aも粘性が低い液晶組成物を提供する・・・ことを課題としていますので、容易に想到しえるものであります(審判請求書:無効理由2-1、81?86頁)。」(上記上申書の第21頁)と主張している。
そこで、甲2発明1に基づく進歩性についても検討する。
しかし、本件発明1と甲2発明1とは、少なくとも上記4.(2)ア(ア)「本件発明1と甲2発明2との対比」に記載した「相違点1”」の点で相違するから、上記4.(2)ア(イ)のとおり判断される。特に、『5-Ph-Ph-1』のペンチル基をプロピル基に変更することについて、当業者が容易に想到し得ることとはいえず、それに伴う効果、特に、化合物(I)を5?25%含有させたことに基づく本件発明1の有利な効果の存在を当業者が予測し得たとはいえないことは、上記4.(2)ア(イ)の(イ-d’)「『5-Ph-Ph-1』の置き換えについて」及び4.(1)ア(イ)の(イ-c)?(イ-f)に記載したとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明1及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2、7、9?11について
本件発明2、7、9?11は、本件発明1にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲2に記載された発明及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

ウ 無効理由2(進歩性違反)(2)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、7、9?11は、いずれも甲2に記載された発明及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。よって、無効理由2(2)は、理由がないものである。

(3)無効理由2(進歩性違反)(3)について
無効理由2(3)は、本件発明1、2、7、9?11は、甲3に記載された発明、及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、というものである。

ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明2との対比
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、甲3に基づく無効理由2(進歩性違反)の主張を、甲3発明(甲3の実施例1、上記2.(3)「甲3に記載された発明」において認定した「甲3発明2」に相当する。)に基づいて行っているので、まず、甲3発明2に基づく進歩性について検討する。
本件発明1と甲3発明2とを対比すると、
甲3発明2における一般式(2)の、
「0d1-Cy-Cy-1O-Ph5-O3d0 13%
0d1-Cy-Cy-1O-Ph5-O4d0 13%」は、本件発明1における「化合物(II-1B)」に相当し、
甲3発明2における一般式(3)の、
「3-Cy-Cy-2 4%
3-Cy-Cy-4 4%
3-Cy-Cy-5 4%
0d1-Cy-Cy-5 4%」は、本件発明1における「化合物(III-A)」に相当し、
甲3発明2における一般式(4)の、
「5-Ph-Ph-1 20%」は、本件発明1における「化合物(III-F)」に相当し、
甲3発明2における「TN-I=80.5℃」、「Δn=0.102」、「η=23.9」、「Δε=-4.1」は、本件発明1における「ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が60から120℃の範囲」、「25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲」、「20℃における粘度(η)が10から30mPa・sの範囲」、「25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲」と、特性が重複していると認められ、さらに、甲3発明2は、塩素原子で置換された液晶化合物を含有していない点でも本件発明1と一致する。
そうすると、両者の一致点は、甲3発明2の化合物名を『 』内に記載する形で借りて整理すると、
「第二成分として、一般式(II-1)に相当する
『0d1-Cy-Cy-1O-Ph5-O3d0』及び
『0d1-Cy-Cy-1O-Ph5-O4d0』を含有し、
その含有量が(13+13=)26質量%であり、
該第二成分として一般式(II-1B)に相当する
『0d1-Cy-Cy-1O-Ph5-O3d0』及び
『0d1-Cy-Cy-1O-Ph5-O4d0』を含有し、
第三成分としてさらに、一般式(III-A)に相当する
『3-Cy-Cy-2』、
『3-Cy-Cy-4』、
『3-Cy-Cy-5』及び
『0d1-Cy-Cy-5』、並びに
一般式(III-F)に相当する
『5-Ph-Ph-1』を含有し、
25℃におけるΔεが-4.1であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.102であり、20℃における粘度(η)が23.9mPa・sであり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が80.5℃であり、塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない、液晶組成物。」の点であり、
両者の相違点は、
相違点1''':本件発明1においては、「第一成分として、式(I)で表される化合物を含有し、その含有量が5から25%であ」ることが特定されているのに対し、甲3発明2においてはそのように特定されていない点
相違点2''':本件発明1においては、「第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい、一般式(II-1)及び(II-2)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有」することが特定されているのに対し、甲3発明2においては、該当成分の誘電率異方性(Δε)が明らかでない点
である。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1'''について
(イ-a”)甲3発明2の第一成分及び第二成分について
甲3には、第一成分として一般式(1)で表される化合物、第二成分として一般式(2)で表される化合物を必須成分として含有することが記載されており(摘記甲2-1の請求項1)、甲3発明2もこれらに相当する化合物を含有する。しかし、いずれの化合物も相違点1'''に係る本件発明1の化合物(I)とは骨格がまったく異なる化合物である。

(イ-b”)甲3発明2の第一成分及び第二成分の置き換えについて
甲3には、従来技術に関連して、「低粘性液晶組成物は、Δnの小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。」と記載されており(摘記甲3-2)、当該課題が、甲3の請求項1(摘記甲3-1)に記載された「第一成分として化合物(1)・・・を含有し、第二成分として一般式(2)・・・を含有し、誘電率異方性が負である・・・ネマチック液晶組成物。」により解決されること、及び「本発明の液晶化合物の組み合わせによって、粘性がより低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05?0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた。」こと(摘記甲3-3)が記載されている。
これらの従来技術の課題及び解決手段に関する記載(摘記甲3-1?甲3-3)からみて、甲3発明2の第一成分である一般式(1)で表される化合物及び第二成分である一般式(2)で表される化合物は、低粘性等に寄与する発明の課題解決のための最も重要な成分と解されるから、これらの化合物を他の化合物、すなわち相違点1'''に係る本件発明1の化合物(I)に置き換えることは、甲3の記載から動機付けられることではない。

(イ-c”)甲3発明2の第三成分及びその他の成分について
甲3には、第三成分として一般式(3)で表される化合物を含有することが好ましいこと、具体的には式(3-1)で表される化合物が特に好ましいことが記載されており(摘記甲3-1の請求項2、3、摘記甲3-4の[0019]?[0021])従来技術に関する記載(摘記甲3-2)等を参酌すると、当該第三成分は、「Δnの小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体」であり、液晶組成物に「低粘性」の特性をもたらすものと解される。しかし、当該化合物は相違点1'''に係る本件発明1の化合物(I)とは異なる骨格を有するものとして具体的に特定されており、他の骨格を有する本件発明1の化合物(I)等へ置き換えることは甲3においては想定されていないから、甲3発明2の第三成分を他の化合物、すなわち相違点1'''に係る本件発明1の化合物(I)に置き換えることは、甲3の記載から動機付けられることではない。
また、甲3には、「組成物の物性値を調整するために、一般式(4)及び一般式(5)・・・の化合物を含有することが好ましい。」(摘記甲3-4)ことが記載されているが、甲3には、これらの化合物がどのような物性値をどのように調整するための化合物であるのかを説明する具体的な記載はないから、これらの化合物を本件発明1の化合物(I)に置き換えることは、甲3の記載から積極的に動機付けられることではない。

(イ-d")『5-Ph-Ph-1』の置き換えについて
請求人は、平成26年9月9日に提出した審判請求書において、本件発明1と甲3発明2との相違点を、「本件発明1が、第一成分として、式(I)・・・を含有し、その含有量が5から25%であるとしているのに対して、甲3発明は、その他として、5-Ph-Ph-1 20%・・・としている点。」と認定し(審判請求書の第115頁)、「相違点1については、上記『4)無効理由2(甲第1号証に基づく進歩性違反について-1) 4)-1・・・甲1発明2との対比・・・」(当審注:審判請求書の第80?83頁に当たる。)で述べたとおりであって、即ち、甲3発明の「その他 5-Ph-Ph-1 20%」・・・の炭素数5のアルキルを炭素数の3のアルキルとすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。」(審判請求書の第115頁)と主張している。
しかし、上記4.(1)ア(イ)の(イ-c)?(イ-f)において検討したとおり、公知文献の記載及び周知の技術的事項を参酌しても、液晶組成物に含まれる特定成分の置換基の炭素鎖長を変更することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえず、それに伴う効果、特に、化合物(I)を5?25%含有させたことに基づく本件発明1の有利な効果の存在を当業者が予測し得たとはいえない。

(イ-e”)相違点1'''についてのまとめ
以上のことから、甲3の記載、甲5?7の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が相違点1'''に係る構成に容易に想到し得たとすることはできない。
なお、無効理由2(3)に関連して提出されているその他の証拠のうち、甲8?10には主にアルケニル基を有する液晶化合物について記載されており(摘記甲8-1?甲10-5)、甲11には本件発明1の化合物(II-1)及び(II-2)に相当する化合物のΔε及びΔnの測定値が記載されているが、これらの記載を参酌しても、当業者が相違点1'''に係る構成に容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)本件発明1と甲3発明2との対比、判断のまとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明2及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明1と甲3発明1との対比、判断
請求人は、平成29年8月7日に提出した上申書の「(8)無効理由2-3(甲3に基づく進歩性違反)について」の「ア.甲3記載発明」(第21?22頁)において、甲3の記載事項を摘記し、「以上の請求項、[0027]の記載から『甲3発明A』が認定できます。(引用発明の認定、一致点の検討は省略します。)」と主張しているところ、「甲3発明A」は、上記第8 2.(3)に記載した、「甲3発明1」に相当するものと認められる。
また、請求人は同上申書において、「そうしますと、本件発明1と甲3発明Aとを対比した結果の相違点は、審判請求書115頁の相違点1のみになり、この相違点1は、無効理由2-1で述べたと同じく、5-Ph-Ph-1のペンチル基をプロピル基に変えようとするのは、甲3発明Aも粘性が低い液晶組成物を提供する・・・ことを課題としていますので、容易に想到しえるものであります(審判請求書:無効理由2-3)。」(上記上申書の第22?23頁)と主張している。
そこで、甲3発明1に基づく進歩性についても検討する。
しかし、本件発明1と甲3発明1とは、少なくとも上記4.(3)ア(ア)「本件発明1と甲3発明2との対比」に記載した「相違点1'''」の点で相違するから、上記4.(3)ア(イ)のとおり判断される。特に、『5-Ph-Ph-1』のペンチル基をプロピル基に変更することについて、当業者が容易に想到し得ることとはいえず、それに伴う効果、特に、化合物(I)を5?25%含有させたことに基づく本件発明1の有利な効果の存在を当業者が予測し得たとはいえないことは、上記4.(3)ア(イ)の(イ-d”)「『5-Ph-Ph-1』の置き換えについて」及び4.(1)ア(イ)の(イ-c)?(イ-f)に記載したとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明1及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2、7、9?11について
本件発明2、7、9?11は、本件発明1にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲3に記載された発明及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

ウ 無効理由2(進歩性違反)(3)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、7、9?11は、いずれも甲3に記載された発明及び甲5?11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。よって、無効理由2(3)は、理由がないものである。

第9 むすび
以上のとおり、平成27年9月28日付け訂正請求によって求められる訂正は、これを認めるべきものであり、当該訂正によって訂正された本件特許請求の範囲の請求項1?5、7?11に記載された発明に係る特許を無効とすべき理由はない。また、当該訂正により削除された本件特許請求の範囲の請求項6記載された発明に係る特許についての本件無効審判の請求は却下されるべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示材料として有用な誘電率異方性(Δε)が負の値を示すネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、家庭用各種電気機器、測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型、IPS(インプレーンスイッチング)型、OCB(光学補償複屈折)型、ECB(電圧制御複屈折)型、VA(垂直配向)型、CSH(カラースーパーホメオトロピック)型、あるいはFLC(強誘電性液晶)等を挙げることができる。また駆動方式としてもスタティック駆動、マルチプレックス駆動、単純マトリックス方式、TFT(薄膜トランジスタ)やTFD(薄膜ダイオード)等により駆動されるアクティブマトリックス(AM)方式を挙げることができる。
【0003】
これらの表示方式において、IPS型、ECB型、VA型、あるいはCSH型等は、Δεが負の値を示す液晶材料を用いるという特徴を有する。これらの中で特にAM駆動によるVA型表示方式は、高速で広視野角の要求される表示素子、例えばテレビ等の用途に使用されている。
【0004】
VA型等の表示方式に用いられるネマチック液晶組成物には、低電圧駆動、高速応答及び広い動作温度範囲が要求される。すなわち、Δεが負で絶対値が大きく、低粘度であり、高いネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が要求されている。また、屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積であるΔn×dの設定から、液晶材料のΔnをセルギャップに合わせて適当な範囲に調節する必要がある。加えて液晶表示素子をテレビ等へ応用する場合においては高速応答性が重視されるため、粘度(η)の低い液晶材料が要求される。
【0005】
これまでは、Δεが負でその絶対値の大きな化合物を種々検討することにより液晶組成物の特性を改良してきた。
【0006】
Δεが負の液晶材料として、以下のような2,3-ジフルオロフェニレン骨格を有する液晶化合物(A)及び(B)(特許文献1参照)を用いた液晶組成物が開示されている。
【0007】
【化1】

【0008】
この液晶組成物は、Δεがほぼ0である化合物として液晶化合物(C)及び(D)を用いているが、この液晶組成物は、液晶テレビ等の高速応答が要求される液晶組成物においては十分に低い粘性を実現するに至っていない。
【0009】
【化2】

【0010】
一方、式(E)で表される化合物を用いた液晶組成物も既に開示されているが、上記の液晶化合物(D)を組み合わせたΔnが小さい液晶組成物(特許文献2参照)や応答速度の改善のために液晶化合物(F)のようにアルケニル基を分子内に有する化合物(アルケニル化合物)を添加した液晶組成物(特許文献3参照)であり、高Δnと高信頼性を両立させるには更なる検討が必要であった。
【0011】
【化3】

【0012】
また、式(G)で表される化合物を用いた液晶組成物は既に開示されている(特許文献4参照)が、この液晶組成物も上記の液晶化合物(F)のようにアルケニル化合物を含む化合物を含有した液晶組成物であるため、焼き付きや表示ムラ等の表示不良が発生し易い弊害があった。
【0013】
【化4】

【0014】
なお、アルケニル化合物を含む液晶組成物の表示不良への影響については既に開示されている(特許文献5参照)が、一般的にはアルケニル化合物の含有量が減少すると液晶組成物のηが上昇し、高速応答の達成が困難になるため、表示不良の抑制と高速応答の両立が困難であった。
【0015】
このようにΔεが負の値を示す化合物と液晶化合物(C)、(D)及び(F)を組み合わせるのみでは、高いΔnと低いηを両立させ、なおかつ、表示不良のない又は抑制されたΔεが負の液晶組成物の開発は困難であった。
【0016】
ここで、式(A)及び式(G)にΔεがほぼゼロである式(I)を組み合わせた液晶組成物(特許文献6参照)が開示されている。しかし液晶表示素子の製造工程では液晶組成物を液晶セルに注入する際に極低圧とするため蒸気圧が低い化合物は揮発してしまうため、その含有量を増やすことが出来ないと考えられていた。このため、該液晶組成物は式(I)の含有量を限定してしまっており、大きなΔnを示すものの、粘度が著しく高いという問題があった。従って、高Δnと低粘度の両立が求められていた。
【0017】
【化5】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平8-104869号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0474062号
【特許文献3】特開2006-37054号
【特許文献4】特開2001-354967号
【特許文献5】特開2008-144135号
【特許文献6】WO2007/077872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明が解決しようとする課題は、ΔnおよびT_(ni)を低下させることなく、ηが十分に小さく、Δεが負でその絶対値が大きな液晶組成物を提供し、更にこれを用いたVA型等の表示不良がない又は抑制された液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、種々のビフェニル誘導体及びフルオロベンゼン誘導体を検討し、特定の化合物を組み合わせることにより前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明は、第一成分として、式(I)
【0022】
【化6】

【0023】
で表される化合物を含有し、その含有量は5から25%であり、第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有する液晶組成物を提供し、また、これを用いた液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のΔεが負の液晶組成物は、Δn及びT_(ni)を低下させることなく、十分に粘度が低いため、これを用いたVA型等の液晶表示素子は高速応答であり、表示不良が抑制されるため、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明における液晶組成物において、第一成分として、式(I)
【0026】
【化7】

【0027】
で表される化合物を含有するが、その含有量は5から25%であることが好ましく、その下限値としては5%が好ましく、8%が好ましく、10%が好ましく、11%が好ましく、その上限値としては20%が好ましく、18%が好ましく、15%が好ましい。更に詳述すると、高Δnを得るにはその含有量は10から25%が好ましいが、低温における析出の抑制を重視する場合にはその含有量は3から15%が好ましい。
【0028】
第二成分として、Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有するが、その含有量は10から90%であることが好ましく、20から80%がより好ましく、40から70%が特に好ましい。
【0029】
具体的には、第二成分は一般式(II-1)及び(II-2)
【0030】
【化8】

【0031】
(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシル基、炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、R^(1)及びR^(2)中に存在する1個の-CH_(2)-又は隣接していない2個以上の-CH_(2)-はそれぞれ独立的に-O-及び/又は-S-に置換されてもよく、またR^(1)及びR^(2)中に存在する1個又は2個以上の水素原子はそれぞれ独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されてもよく、環A及び環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、2-フルオロ-1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基を表し、p及びqはそれぞれ独立的に0、1又は2を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物である。
【0032】
式中のR^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に直鎖状の炭素原子数1から5のアルキル基、アルコキシル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基、アルケニルオキシ基であることがより好ましく、R^(1)は炭素原子数1から5のアルキル基、R^(2)は炭素原子数1から5のアルコキシル基であることが特に好ましい。
【0033】
p及びqはそれぞれ独立的に0又は1であることがより好ましい。
【0034】
環A及び環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、2-フルオロ-1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基又は2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基であることがより好ましく、トランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の液晶組成物は、第二成分を1種又は2種以上含有するが、2種から10種含有することが好ましい。
【0036】
本発明の液晶組成物は、25℃におけるΔεが-2.0から-6.0であるが、-2.5から-5.0がより好ましく、-2.5から-3.5が特に好ましい。25℃におけるΔnが0.08から0.13であるが、0.09から0.13がより好ましく、0.10から0.12が特に好ましい。更に詳述すると、薄いセルギャップに対応する場合は0.10から0.13であることが好ましく、厚いセルギャップに対応する場合は0.08から0.10であることが好ましい。20℃におけるηが10から30 mPa・sであるが、10から25mPa・sであることがより好ましく、10から20mPa・sであることが特に好ましい。T_(ni)が60℃から120℃であるが、70℃から100℃がより好ましく、70℃から85℃が特に好ましい。
【0037】
一般式(II-1)で表される化合物は、一般式(II-1A)及び(II-1B)で表される化合物から選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、一般式(II-2)で表される化合物は、一般式(II-2A)であることがより好ましい。

【0038】
(R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表し、R^(3)及びR^(4)中に存在する1個又は2個以上の水素原子はそれぞれ独立的にフッ素原子に置換されてもよい。)
R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立的に直鎖状の炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基であることがより好ましく、炭素原子数1から5のアルキル基であることが特に好ましい。
【0039】
一般式(II-1A)、(II-1B)及び一般式(II-2A)で表される化合物は単独で使用してもよく、一般式(II-1A)及び(II-1B)で表される化合物を組み合わせても、一般式(II-1A)及び(II-2A)で表される化合物を組み合わせても又は一般式(II-1B)及び(II-2A)で表される化合物を組み合わせてもよく、一般式(II-1A)、(II-1B)及び一般式(II-2A)で表される化合物全てを組み合わせて使用してもよい。
【0040】
これら組み合わせにより、液晶組成物の組成比の変動も抑えることが可能となる。
【0041】
本発明の液晶組成物は、更に、第三成分として、一般式(III-A)から一般式(III-J)
【0042】
【化9】

【0043】
で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有してもよいが、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)から選ばれる化合物を2種から10種含有することがより好ましい。なお、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基、炭素原子数1から5のアルコキシル基、炭素原子数2から5のアルケニル基又は炭素原子数2から5のアルケニルオキシ基を表すが、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数1から5のアルコキシル基であることがより好ましい。なお、一般式(III-F)で表される化合物はR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基を表す場合及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基を表す場合には式(I)で表される化合物と同一の化合物を表すこととなるため、一般式(III-F)で表される化合物はR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基で表される化合物及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基で表される化合物を除く。
【0044】
本発明の液晶組成物は、式(I)、一般式(II-1A)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有することが好ましく、式(I)、一般式(II-1B)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有することが好ましく、式(I)、一般式(II-1A)、(II-1B)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有することが特に好ましい。
【0045】
本発明の液晶組成物は、上述の化合物以外に、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合性モノマーなどを含有してもよい。
【0046】
例えば、重合性モノマーとしてビフェニル誘導体、ターフェニル誘導体などの重合性化合物を含有し、その含有量は0.01%から2%であることが好ましい。更に詳述すると、本発明の液晶組成物に、第4成分として、一般式(IV)
【0047】
【化10】

【0048】
(式中、R^(7)及びR^(8)はそれぞれ独立して以下の式(R-1)から式(R-15)
【0049】
【化11】

【0050】
の何れかを表し、X^(1)からX^(8)はそれぞれ独立してトリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、フッ素原子又は水素原子を表す。)で表される重合性モノマーを一種又は二種以上含有することが好ましい。
【0051】
一般式(IV)におけるビフェニル骨格の構造は、式(IV-11)から式(IV-14)であることがより好ましく、式(IV-11)であることが特に好ましい。
【0052】
【化12】

【0053】
式(IV-11)から式(IV-14)で表される骨格を含む重合性化合物は重合後の配向規制力が最適であり、良好な配向状態が得られる。
【0054】
例えば、式(I)、一般式(II-1A)、(II-1B)、(II-2A)、一般式(III-A)及び一般式(IV)を同時に含有する重合性化合物含有液晶組成物は高Δnと低粘性を達成しており、これを用いてPSAモード又はPSVAモードの液晶表示素子にした場合、高Δnに対応した狭ギャップと液晶組成物の低粘度から高速応答が実現でき、また、表示ムラが抑制されるか、又は、全く発生しないという優れた特徴がある。
【0055】
また、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶として、アルケニル基を有する液晶化合物を含有した方が液晶組成物の粘度低下には効果があり、高速応答に有用であるが、VHRの低下を引き起こし、表示不良を誘発してしまうため、応答速度を重視するのか、信頼性を重視するのかで使い分ける必要がある。特に表示不良を抑制したい場合はアルケニル基を有する液晶化合物の含有量を減らすか、又は含有しないことが重要である。その含有量としては、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、含有しないことが特に好ましい。ここで含有しないとは積極的に添加しないことを意味し、製造時の不純物等不可避的に含有するものを含まないことを意味し、0.5%以下が好ましく、0.1%以下が好ましく、測定限界(ガスクロマトグラフィーによる測定では10ppm程度)以下が好ましい。
【0056】
また、塩素基を有する液晶化合物を含有した液晶組成物が開示されているが、信頼性を著しく損ない、表示不良を引き起こす。このため、塩素基を有する液晶化合物の含有量を減らすか、又は含有しないことが重要である。その含有量としては、10%未満が好ましく、5%未満がより好ましく、含有しないことが特に好ましい。ここで含有しないとは積極的に添加しないことを意味し、製造時の不純物等不可避的に含有するものを含まないことを意味し、0.5%以下が好ましく、0.1%以下が好ましく、測定限界(ガスクロマトグラフィーによる測定では10ppm程度)以下が好ましい。
【0057】
本発明の液晶組成物を用いた液晶表示素子は高速応答と表示不良の抑制を両立させた有用なものであり、特に、アクティブマトリックス駆動用液晶表示素子に有用であり、VAモード、PSVAモード、PSAモード、IPSモード又はECBモード用に適用できる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0059】
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
【0060】
T_(ni) :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)
Δn :25℃における屈折率異方性
Δε :25℃における誘電率異方性
η :20℃における粘度(mPa・s)
(実施例1)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0061】
【化13】

【0062】
実施例1に示すネマチック液晶組成物の物性値は、T_(ni):75.5℃、Δn:0.108、Δε:-3.0、η:16.3mPa・sであった。また、本液晶組成物を使用した液晶表示素子の応答速度を測定したところ、9.3msecであった。更に、電圧保持率(VHR)を測定し、高いVHRを有していることが確認された。なお、セル厚は3.5um、配向膜はJALS2096であり、応答速度の測定条件は、Vonは5.5V、Voffは1.0V、測定温度は20℃で、AUTRONIC-MELCHERS社のDMS301を用いた。VHRの測定条件は電圧5V、周波数60Hz、温度60℃で、東陽テクニカ株式会社のVHR-1を用いた。
【0063】
また、液晶セル注入の条件(圧力及びODF法)を変えても物性値に変化は見られなかった。
(比較例1)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0064】
【化14】

【0065】
比較例1に示すネマチック液晶組成物の物性値は、T_(ni):74.7℃、Δn:0.109、Δε:-3.0、η:17.3mPa・sであった。参考文献6に記載の実施例2のように式(I)で表される化合物が2%含有している場合、実施例1よりも粘度が高い。従って、本発明の請求範囲である式(I)を5から20%含有することは、本発明の効果を得るために非常に重要であることがわかる。また、本液晶組成物を使用した液晶表示素子の応答速度を測定したところ、10.5msecであった。
(比較例2)
比較例1では式(I)で表される化合物を2%含有する液晶表示組成物の例を示したが、この式(I)で表される化合物を使用せず、側鎖の炭素原子数が多い式(III-F)のR5がペンチル基、R6がメチル基である化合物の含有量を13%から15%に増加させた液晶組成物を調製した。その物性値を示す。
【0066】
【化15】

【0067】
比較例2に示すネマチック液晶組成物は本発明の式(I)を含まず、その物性値は、T_(ni):75.0℃、Δn:0.109、Δε:-3.0、η:17.6mPa・sであった。式(I)で表される化合物を2%含有する比較例1及び式(I)で表される化合物を含有しない比較例2の物性値を、実施例1と比較すると、T_(ni)、Δn及びΔεはほぼ同等の値となったが、ηは比較例1で6%、比較例2で7%上昇した。
【0068】
これにより本発明のように式(I)で表される化合物の含有量を増加させることによりΔεが負の化合物を含有する液晶組成物はΔnとT_(ni)を低下させることなく、ηを改善できることがわかった。
(実施例2)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0069】
【化16】

【0070】
実施例2に示すネマチック液晶組成物の物性値は、T_(ni):71.2℃、Δn:0.115、Δε:-2.7、η:15.5mPa・sであった。
(実施例3)
以下に、調製した液晶組成物とその物性値を示す。
【0071】
【化17】

【0072】
実施例3に示すネマチック液晶組成物の物性値は、T_(ni):75.3℃、Δn:0.095、Δε:-3.2、η:15.3mPa・sであった。
(実施例4)
実施例1に示すネマチック液晶組成物 99.7%に対して、式(IV-a)
【0073】
【化18】

【0074】
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性液晶組成物CLC-1を調製した。CLC-1の物性は実施例1に示すネマチック液晶組成物の物性とほとんど違いはなかった。CLC-1をセルギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチルト角(クリスタルローテーション法)を測定した後、周波数1kHzで1.8Vの矩形波を印加しながら、320nm以下の紫外線をカットするフィルターを介して、高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表面の照射強度が10mW/cm^(2)となるように調整して600秒間照射して、重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示素子を得た。重合性化合物が重合することにより、液晶化合物に対する配向規制力が生じていることが確認できた。また、垂直配向性液晶表示素子は優れた光学特性及び高速応答性を有していることを確認した。
(実施例5)
実施例1に示すネマチック液晶組成物 99.7%に対して、式(IV-b)
【0075】
【化19】

【0076】
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性液晶組成物CLC-2を調製した。CLC-2の物性は実施例1に示すネマチック液晶組成物の物性とほとんど違いはなかった。CLC-2をセルギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチルト角(クリスタルローテーション法)を測定した後、周波数1kHzで1.8Vの矩形波を印加しながら、320nm以下の紫外線をカットするフィルターを介して、高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表面の照射強度が10mW/cm^(2)となるように調整して600秒間照射して、重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示素子を得た。重合性化合物が重合することにより、液晶化合物に対する配向規制力が生じていることが確認できた。また、垂直配向性液晶表示素子は優れた光学特性及び高速応答性を有していることを確認した。
(実施例6)
実施例1に示すネマチック液晶組成物 99.7%に対して、式(IV-c)
【0077】
【化20】

【0078】
で示される重合性化合物を0.3%添加し均一溶解することにより重合性液晶組成物CLC-3を調製した。CLC-3の物性は実施例1に示すネマチック液晶組成物の物性とほとんど違いはなかった。CLC-3をセルギャップ3.5μmでホメオトロピック配向を誘起するポリイミド配向膜を塗布したITO付きセルに真空注入法で注入した。このセルのプレチルト角(クリスタルローテーション法)を測定した後、周波数1kHzで1.8Vの矩形波を印加しながら、320nm以下の紫外線をカットするフィルターを介して、高圧水銀灯により液晶セルに紫外線を照射した。セル表面の照射強度が10mW/cm^(2)となるように調整して600秒間照射して、重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させた垂直配向性液晶表示素子を得た。重合性化合物が重合することにより、液晶化合物に対する配向規制力が生じていることが確認できた。また、垂直配向性液晶表示素子は優れた光学特性及び高速応答性を有していることを確認した。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分として、式(I)
【化1】

で表される化合物を含有し、その含有量が5から25%であり、第二成分として、誘電率異方性(Δε)が負でその絶対値が3よりも大きい、一般式(II-1)及び(II-2)
【化2】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基、炭素原子数1から10のアルコキシル基炭素原子数2から10のアルケニル基又は炭素原子数2から10のアルケニルオキシ基を表し、環A及び環Bはそれぞれ独立的にトランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、2-フルオロ-1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基、3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン基又は1,4-シクロヘキセニレン基を表し、p及びqはそれぞれ独立的に0、1又は2を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し、その含有量が20から80質量%であり、該第二成分として一般式(II-1A)、(II-1B)及び(II-2A)
【化3】

(R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立的に炭素原子数1から10のアルキル基又は炭素原子数2から10のアルケニル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有し、25℃におけるΔεが-2.0から-6.0の範囲であり、25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08から0.12の範囲であり、20℃における粘度(η)が10から30 mPa・sの範囲であり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(T_(ni))が60から120℃の範囲であることを特徴とする液晶組成物であって、
第三成分としてさらに、一般式(III-A)、(III-D)、(III-F)、(III-G)及び(III-H)
【化5】

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基又は炭素原子数2から5のアルケニル基を表すが、一般式(III-F)においてR^(5)がメチル基かつR^(6)がプロピル基及びR^(5)がプロピル基かつR^(6)がメチル基を表すことはない。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有し、
塩素原子を有する液晶化合物を含有しない、
液晶組成物。
【請求項2】
第三成分として、一般式(III-G)
【化6】

(式中、R^(5)は炭素原子数1から5のアルキル基を表し、R^(6)は炭素原子数1から5のアルキル基を表す。)で表される化合物群から選ばれる化合物を1種又は2種以上含有する請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
式(I)、一般式(II-1A)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有する請求項1又は2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
式(I)、一般式(II-1B)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有する請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項5】
式(I)、一般式(II-1A)、(II-1B)、(II-2A)及び一般式(III-A)を同時に含有する請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
アルケニル基を有する液晶化合物の含有量が10%未満である請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項8】
重合性化合物を含有する請求項1から5、7のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項9】
請求項1から5、7、8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いた液晶表示素子。
【請求項10】
請求項1から5、7、8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いたアクティブマトリックス駆動用液晶表示素子。
【請求項11】
請求項1から5、7、8のいずれか1項に記載の液晶組成物を用いたVAモード、PSAモード、PSVAモード、IPSモード又はECBモード用液晶表示素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-12-12 
結審通知日 2017-12-14 
審決日 2017-12-26 
出願番号 特願2012-525771(P2012-525771)
審決分類 P 1 112・ 113- YAA (C09K)
P 1 112・ 121- YAA (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
原 賢一
登録日 2013-04-05 
登録番号 特許第5234227号(P5234227)
発明の名称 ネマチック液晶組成物及びこれを用いた液晶表示素子  
代理人 河野 通洋  
代理人 池田 正人  
代理人 河野 通洋  
代理人 吉住 和之  
代理人 城所 宏  
代理人 城戸 博兒  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 正人  
代理人 清水 義憲  
代理人 石井 良夫  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  

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