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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1343301
審判番号 不服2017-16265  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-01 
確定日 2018-09-04 
事件の表示 特願2014-210314「情報処理装置及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 7日出願公開、特開2016- 31754、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成26年10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年7月29日(以下,「優先日」という。),米国)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 2月28日付け :拒絶理由の通知
平成29年 5月 2日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 7月21日付け :拒絶査定
平成29年11月 1日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年 7月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

<理由1(特許法第29条第2項)について>
本願請求項1-12に係る発明は,以下の引用文献1-2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-41404号公報
2.田村 奈央,検証 Windows 7ネットワーク,日経NETWORK,日本,日経BP社,2009年
7月28日,第112号,pp.24-31

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は,請求項1,3,4,6の「実行環境決定部」などを限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-8に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,平成29年11月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
情報処理装置であって,
ウイルス感染の可能性がある電子ファイル,又は,前記情報処理装置で実行することができない電子ファイルの操作に関する指示を取得する電子ファイル操作部と,
前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき実行環境を決定する実行環境決定部と,
前記電子ファイルの操作を実行すべき実行環境との間に遠隔操作可能な通信経路を確立し,前記実行環境上で前記電子ファイルの操作を実行させるための実行指示を,前記遠隔操作可能な通信経路を介して前記実行環境に送信する遠隔操作部と,
前記指示に応じて,前記電子ファイルを前記実行環境に送信する電子ファイル送信部と,
前記電子ファイルを格納する電子ファイル格納部と,
遠隔操作された後の前記電子ファイルを,前記電子ファイル格納部に格納するか否かを制御する電子ファイル格納制御部と,
を備え,
前記実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され,
前記実行環境決定部は,
前記電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,
前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する,
情報処理装置。
【請求項2】
前記実行環境をさらに備え,
(i)前記電子ファイル操作部,前記遠隔操作部,及び,前記電子ファイル送信部の少なくとも1つと,(ii)前記実行環境とが,同一の物理サーバ又は物理マシン上に構築され,
前記1以上の仮想サーバは,前記物理サーバ又は物理マシン上に構築される,
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
情報処理装置であって,
ユーザの指示に応じて,ウイルス感染の可能性がある電子データを特定する電子データ特定情報を取得する電子データ特定情報取得部と,
前記電子データを実行すべき実行環境を決定する実行環境決定部と,
前記実行環境決定部により決定された前記実行環境を遠隔操作するための遠隔操作プログラムを生成する遠隔操作プログラム生成部と,
を備え,
前記遠隔操作プログラムは,
コンピュータに,
前記コンピュータと,前記実行環境決定部により決定された前記実行環境との間に,遠隔操作可能な第1の通信経路を確立する手順,
を実行させるためのプログラムであり,
前記実行環境決定部により決定された前記実行環境は,当該コンピュータとは別のコンピュータとの間の第2の通信経路を有し,
前記実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され,
(i)前記電子データ特定情報取得部が予め定められたプロセスを用いて前記電子データ特定情報を取得した場合,
前記実行環境決定部は,前記電子データを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行することを決定し,
遠隔操作プログラム生成部は,前記コンピュータに,前記実行環境と前記別のコンピュータとの間に前記第2の通信経路を確立させる手順を実行させるための前記遠隔操作プログラムを生成し,
(ii)前記電子データ特定情報取得部が予め定められたプロセス以外のプロセスを用いて前記電子データ特定情報を取得した場合,
前記実行環境決定部は,前記電子データを,前記情報処理装置上で電子データを実行する電子データ実行部で実行することを決定する,
情報処理装置。
【請求項4】
情報処理装置であって,
ユーザの指示に応じて,ウイルス感染の可能性がある電子データを特定する電子データ特定情報を取得する電子データ特定情報取得部と,
前記電子データを実行すべき実行環境を決定する実行環境決定部と,
前記実行環境決定部により決定された前記実行環境を遠隔操作するための遠隔操作プログラムを生成する遠隔操作プログラム生成部と,
を備え,
前記遠隔操作プログラムは,
コンピュータに,
前記コンピュータと,前記実行環境決定部により決定された前記実行環境との間に,遠隔操作可能な第1の通信経路を確立する手順,
を実行させるためのプログラムであり,
前記実行環境決定部により決定された前記実行環境は,当該コンピュータとは別のコンピュータとの間の第2の通信経路を有し,
前記実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され,
前記遠隔操作プログラムは,前記コンピュータに,
(a)前記実行環境に対する指示であって,(i)前記実行環境にインストールされたWebブラウザを起動させ,(ii)前記Webブラウザを介して,前記電子データ特定情報により特定された前記電子データを前記第2の通信経路を介して取得させ,(iii)取得された当該電子データを前記実行環境で処理させるための指示と,(b)(i)前記情報処理装置にインストールされたWebブラウザのクッキーに格納された情報,(ii)前記Webブラウザの設定情報,又は,(iii)前記Webブラウザで保存されたWebサイト毎の暗証情報若しくは設定情報と,(c)前記Webブラウザのクッキーに格納された情報,前記Webブラウザの設定情報,又は,前記Webブラウザで保存されたWebサイト毎の暗証情報若しくは設定情報を,前記Webブラウザに読み込ませるための指示とを,前記第1の通信経路を介して,前記実行環境に送信する手順を,
更に実行させるためのプログラムである,
情報処理装置。
【請求項5】
前記実行環境をさらに備え,
(i)前記電子データ特定情報取得部,前記実行環境決定部,及び,前記遠隔操作プログラム生成部の少なくとも1つと,(ii)前記実行環境とが,同一の物理サーバ又は物理マシン上に構築され,
前記1以上の仮想サーバは,前記物理サーバ又は物理マシン上に構築される,
請求項3又は請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
クライアント端末からの遠隔操作によってウイルス感染の可能性がある電子データ,又は,前記クライアント端末で実行することができない電子データを実行する1以上の仮想サーバを備え,
前記1以上の仮想サーバの少なくとも1つは,
前記クライアント端末におけるユーザの指示に応じて,当該クライアント端末との通信を,第1の通信経路を介して行う第1通信部と,
前記クライアント端末とは異なる端末から,前記ユーザの指示に応じた電子データを第2の通信経路を介して取得する第2通信部と,
取得した前記電子データを実行する電子ファイル実行部と,
前記クライアント端末に対して,前記第1の通信経路を介して,ユーザに表示されるべき画面情報を送信する画面情報送信部と,
を有し,
前記第2通信部は,
(i)前記ユーザの指示が予め定められたアプリケーションからの要求である場合,
当該要求を受け付け,
ファイアウォールを開放するTCPポート又はUDPポートを決定し,
前記異なる端末との間に前記第2の通信経路を確立させ,
前記第2の通信経路を介して,前記電子データを取得し,
(ii)前記ユーザの指示が予め定められたアプリケーションからの要求でない場合,
当該要求を受け付けない,
情報処理装置。
【請求項7】
前記1以上の仮想サーバを管理する仮想サーバ管理部をさらに備え,
前記仮想サーバ管理部は,予め定められたイベントが発生した場合に,前記1以上の仮想サーバの少なくとも1つを再構築する,
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
コンピュータを,請求項1から請求項7までの何れか一項に記載の情報処理装置として機能させるためのプログラム。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2014-41404号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0001】
本発明は,通信接続したクライアント側の端末装置からの指示,データ等を処理し,処理結果を返すサーバ装置を有するターミナルサービスシステムにおいて,システムの状態を監視する監視装置に関するものである。
…(中略)…
【0003】
通常,サーバ装置は,複数のクライアント装置からの要求に基づいて処理を行っている。このため,例えば通信接続しているクライアント装置の数が多くなると処理に係る負荷が増大する。負荷が増大すると各クライアント装置に対する処理が遅くなり,性能劣化(スローダウン)が発生する。特にこのシステムのように,クライアント装置とサーバ装置とを通信接続している場合,ターミナルサーバの処理が遅くなると,クライアント装置において指示から処理結果表示までの時間が無視できないほど長くなる。そこで,例えば,複数台のターミナルサーバに処理を分散させ,各ターミナルサーバにおける負荷を軽減させて遅延を回避するようにしている。
…(中略)…
【0005】
上記のようなシステムは,複数台のターミナルサーバに負荷を分散させるものである。しかしながら,例えば複数台のターミナルサーバが処理を分散することができても,ファイルサーバが1台だけ等,例えば各ターミナルサーバの要求(アクセス)による負荷が,ファイルサーバの処理に対して大きくなると,ファイルサーバの処理遅延が発生する可能性がある。そして,例えばファイルサーバの処理遅延が,最終的にはターミナルサーバもスローダウン等の性能劣化を起こしてターミナルサービスを実現を困難にすることがあった。」

B 「【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るリモートデスクトップ管理システムを中心とする構成を表す図である。図1に示すように,複数のターミナルサーバ100と複数の端末装置(コンピュータ等)であるクライアント装置400とがネットワーク(電気通信回線)500を介して通信接続している。本実施の形態では,ターミナルサーバ100とクライアント装置400とが,例えばリモートデスクトップ接続(Remote Desktop Protocol 以下,RDP接続という)に基づく通信接続を行っているものとする。また,複数のターミナルサーバ100,ファイルサーバ200及び監視装置300がそれぞれネットワーク500とは別に通信可能に接続している。
【0011】
クライアント装置400は,端末入力手段410,端末表示手段420,端末通信手段430及び端末処理手段440を有している。端末入力手段410は,例えばキーボード等,入力された操作者の指示,データを信号にして端末処理手段440に送信する装置である。端末表示手段420は,端末処理手段440からの表示信号に基づき,ターミナルサーバ100から送られた実行処理結果等の表示を行う,例えばディスプレイ等の装置である。端末通信手段430は,ネットワーク500と有線又は無線接続して,端末処理手段440とターミナルサーバ100との間で,指示,データ,実行処理結果等を含む信号を送受信するための通信を行う。端末処理手段440は,クライアント装置400が有する各手段の制御処理等を行う。例えば,端末入力手段410からの信号に基づいて指示,データを処理し,端末通信手段430に指示,データを含む信号を送信させる処理を行う。また,端末通信手段430からの信号に基づいて実行処理結果を処理し,端末表示手段420に表示信号を送信する。以下,特に断らない限り,クライアント装置400が行う処理は端末処理手段440が行い,ネットワーク500を介して行う通信は端末通信手段430が行うものとする。
【0012】
ターミナルサーバ100はターミナルサービスを実現するためのサーバ(コンピュータ)である。クライアント装置400から送られる指示,データに基づいて,アプリケーションプログラムを実行して処理する。そして,実行処理結果を含む信号をネットワーク500を介してクライアント装置400に送る。アプリケーションプログラムとは,例えば,ワードプロセッサ,表計算,インターネットブラウザ等のソフトウェアである。本実施の形態のターミナルサーバ100は,サーバ通信手段110,アプリケーション実行手段120を有している。サーバ通信手段110は,ネットワーク500と有線又は無線接続して,アプリケーション実行手段120とクライアント装置400との間で,信号を送受信するための通信を行う。また,アプリケーション実行手段120は,通信接続したクライアント装置400からの要求に基づくアプリケーションプログラムを実行する。そして,ファイルサーバ200が有するドキュメント等のファイル形式のデータ(以下,ファイルという)を読み込み,クライアント装置400から送られる指示,データ等に基づいて処理を行い,サーバ通信手段110に実行処理結果を含む信号を送信させる。以下,特に断らない限り,ターミナルサーバ100が行う処理はアプリケーション実行手段120が行い,ネットワーク500を介して行う通信はサーバ通信手段110が行うものとする。
【0013】
ファイルサーバ200は,ターミナルサーバ100がアプリケーションプログラムを実行して処理したデータをファイルとして記憶して管理するサーバ(コンピュータ)である。ターミナルサーバ100からの要求に基づき,ターミナルサーバ100の処理に係るファイルを送る。ファイルサーバ200は,ファイル管理手段210及びファイル記憶手段220を有している。ファイル管理手段210は,ファイル名,サイズ,作成日時等と共にファイルの管理を行う。また,ファイル記憶手段220は,処理に係るデータを記憶する。」

C 「【0016】
図2は実施の形態1に係る処理の流れを説明する図である。次に,システムにおける動作の流れについて説明する。クライアント装置400は,例えば使用者の指示に基づいて,ターミナルサーバ100との間でRDP接続による通信を行えるようにする(図2(1))。ターミナルサーバ100はアプリケーションを実行する。このとき,ファイルサーバ200が記憶するファイルの読み込み等を行う(図2(2))。ここで,例えば複数のターミナルサーバ100からのアクセスが集中すると,ファイルサーバ200の負荷が多くなり,例えばリソースを消費する。このため,処理が遅くなり,処理遅延が発生する。
…(中略)…
【0019】
ファイルサーバ200の処理遅延がひどくなると,ファイルサーバ200が管理するドキュメント(ファイル)を使用するすべてのクライアント装置400に対して処理遅延が発生し,システムが使用できなくなる。実施の形態1のシステムによれば,監視装置300が,例えばターミナルサーバ200からのアクセスの負荷増大によりファイルサーバ200の処理遅延が許容範囲を超えたものと判断すると,ターミナルサーバ100に新たな接続を拒否させるようにしたので,ファイルサーバ200による処理遅延の拡大を防ぐことができる。このため,ターミナルサーバ100における性能劣化(スローダウン)を防ぐことができ,すでにターミナルサービスを提供しているクライアント装置400にサービス提供ができなくなることを防ぎ,システムの信頼性を高めることができる。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数のターミナルサーバと,ファイルサーバと,監視装置と,ネットワークを介して通信接続するクライアント装置であって,
操作者が入力した指示,データを信号にする端末入力手段と,
前記ターミナルサーバにリモートデスクトップ接続を行い,データに基づいた処理をアプリケーションプログラムに実行させる指示,データを前記ターミナルサーバに送信する端末通信手段と,
前記端末入力手段からの信号に基づいて指示,データを処理する端末処理手段と,
を備えたクライアント装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された,
田村 奈央,検証 Windows 7ネットワーク,日経NETWORK,日本,日経BP社,2009年7月28日,第112号,pp.24-31
には,「RDP接続でリモートデスクトップを提供するサーバを仮想サーバで構築する」旨の技術(以下,「引用文献2技術」という。)が記載されていると認められる。

3 その他の文献について
また,参考文献3(国際公開第2013/140995号)の段落[0017]-[0055]には,「受信した電子メールの添付ファイルを,自端末で保有するアプリケーションで処理をすることができない場合に,クラウドサーバにファイルの処理を依頼するシステムにおいて,添付ファイルのデータ形式を処理可能なアプリケーションを保有しているか否かを判定し,保有していない場合に,クラウドサーバに添付ファイルを送信し,クラウドサーバの仮想PCでアプリケーションを実行するとともに,仮想PCでウイルスの検出を行う」旨の技術が記載されている。
参考文献4(特開2006-252218号公報)の段落【0031】-【0033】には,「端末で実行できないファイルをサーバで実行させるシステムにおいて,実行させるアプリケーションがサーバに存在しない場合に,他のサーバに処理を転送することが記載されているように,サーバ毎に実行できるアプリケーションを異ならせる」旨の技術が記載されている。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明の「クライアント装置」はネットワークを介して複数の「ターミナルサーバ」に接続し,データに基づいた処理を実行させることから,引用発明の「クライアント装置」は本願発明1の「情報処理装置」に対応し,引用発明の「ターミナルサーバ」は,上位概念では“実行環境”とみることができる。

イ 引用発明では,「クライアント装置」は,「操作者が入力した指示,データを信号にする端末入力手段」を備えるところ,引用発明の「データ」と本願発明1の「電子ファイル」とは,上位概念では“情報処理装置では実行しないデータ”とみることができ,引用発明の「端末入力手段」と本願発明1の「電子ファイル操作部」とは,データの操作に関する指示を“情報処理装置”に取得する手段であることから,上位概念では“操作部”である点で共通するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“情報処理装置では実行しないデータの操作に関する指示を取得する操作部”を備える点で共通するといえる。

ウ 引用発明では,「クライアント装置」は,「前記ターミナルサーバにリモートデスクトップ接続を行い,データに基づいた処理をアプリケーションプログラムに実行させる指示,データを前記ターミナルサーバに送信する端末通信手段」を備えるところ,上記アでの検討より,「ターミナルサーバ」は,上位概念では“実行環境”とみることができ,「クライアント装置」は「リモートデスクトップ接続」に当たり,「ターミナルサーバ」との間に遠隔操作可能な通信経路を確立することは自明であるから,“前記データの操作を実行すべき実行環境との間に遠隔操作可能な通信経路を確立し,前記実行環境上で前記データの操作を実行させるための実行指示を,前記遠隔操作可能な通信経路を介して前記実行環境に送信する”といえるとともに,引用発明の「端末通信手段」と本願発明1の「遠隔操作部」とは,“遠隔操作部”である点で共通するといえる。
また,引用発明の「端末通信手段」は,「前記ターミナルサーバにリモートデスクトップ接続を行い」,「アプリケーションプログラムに実行させる指示」に加え,「データ」も「前記ターミナルサーバに送信する」ことから,“前記指示に応じて,前記データを前記実行環境に送信する”といえるとともに,引用発明の「端末通信手段」と本願発明1の「電子ファイル送信部」とは,“送信部”である点で共通するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“前記データの操作を実行すべき実行環境との間に遠隔操作可能な通信経路を確立し,前記実行環境上で前記データの操作を実行させるための実行指示を,前記遠隔操作可能な通信経路を介して前記実行環境に送信する遠隔操作部と”,
“前記指示に応じて,前記データを前記実行環境に送信する送信部と”
を備える点で共通するといえる。

エ 引用発明では,「クライアント装置」は,「前記端末入力手段からの信号に基づいて指示,データを処理する端末処理手段」を備えるところ,「クライアント装置」は自装置上でも「指示,データを処理する」機能を有することから,“情報処理装置上でデータを実行する”といえるとともに,引用発明の「端末処理手段」と本願発明1の「電子ファイル実行部」とは,“実行部”である点で共通するといえる。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“前記情報処理装置上でデータを実行する実行部”
を備える点で共通するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「情報処理装置であって,
情報処理装置では実行しないデータの操作に関する指示を取得する操作部と,
前記データの操作を実行すべき実行環境との間に遠隔操作可能な通信経路を確立し,前記実行環境上で前記データの操作を実行させるための実行指示を,前記遠隔操作可能な通信経路を介して前記実行環境に送信する遠隔操作部と,
前記指示に応じて,前記データを前記実行環境に送信する送信部と,
前記情報処理装置上でデータを実行する実行部と,
を備える情報処理装置。」

(相違点)
(相違点1)
操作部に関し,本願発明1の「電子ファイル操作部」は「ウイルス感染の可能性がある電子ファイル,又は,前記情報処理装置で実行することができない電子ファイルの操作に関する指示を取得する」のに対して,引用発明の「操作部」は「データ」の操作に関する指示を取得するものの,「ウイルス感染の可能性がある電子ファイル,又は,前記情報処理装置で実行することができない電子ファイル」については特定されていない点。

(相違点2)
実行環境に関し,本願発明1では,「実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され」るのに対して,引用発明では,データに基づいた処理を実行させる実行環境として,複数の「ターミナルサーバ」を備えるものの,仮想サーバ上に構築されることは特定されていない点。

(相違点3)
実行環境の決定に関し,本願発明1は,「電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき実行環境を決定する実行環境決定部」を備え,「前記実行環境決定部は,前記電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する,」のに対して,引用発明は,実行環境を決定することについて言及されていない点。

(相違点4)
遠隔操作部に関し,本願発明1の「遠隔操作部」は「実行環境上で前記電子ファイルの操作を実行させるための実行指示を」,「前記実行環境に送信する」のに対して,引用発明の「端末通信手段」は「データに基づいた処理をアプリケーションプログラムに実行させる指示」を「ターミナルサーバ」に送信するものの,「電子ファイルの操作を実行させるための実行指示」を送信することについて明記されていない点。

(相違点5)
送信部に関し,本願発明1の「電子ファイル送信部」は「指示に応じて,前記電子ファイルを前記実行環境に送信する」のに対して,引用発明の「端末通信手段」は「データに基づいた処理をアプリケーションプログラムに実行させる指示,データ」を「ターミナルサーバ」に送信するものの,指示に応じて「電子ファイル」を送信することについて特定されていない点。

(相違点6)
本願発明1は,「電子ファイルを格納する電子ファイル格納部」と,「遠隔操作された後の前記電子ファイルを,前記電子ファイル格納部に格納するか否かを制御する電子ファイル格納制御部」とを備えているのに対して,引用発明は,「電子ファイル格納部」,「電子ファイル格納制御部」を備えることについて特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点3を先に検討すると,引用発明は,実行環境として複数の「ターミナルサーバ」を備え,「クライアント装置」が「ターミナルサーバ」にリモートデスクトップ接続を行い,データに基づいた処理をアプリケーションプログラムに実行させるところ,引用文献1の上記Aの段落【0005】の記載からすると,「ターミナルサーバ」を複数備えるのは,負荷分散のためであると解され,異なる実行環境の中から適した実行環境を選択可能にして,選択した実行環境(ターミナルサーバ)のもとでデータに基づいた処理を実行させるものと解することはできないから,本願発明1のように,実行環境を仮想サーバ上に構築し,電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する,実行環境決定部を具備することの動機付けは直ちには認められない。
ここで,引用文献2を検討すると,「RDP接続でリモートデスクトップを提供するサーバを仮想サーバで構築する」旨の技術が記載されていると認められるものの,電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,仮想サーバを決定することまでは示唆するものではない。この点については,参考文献3,4にも記載されておらず,本願の優先日前に当該技術分野において周知技術であったともいえない。
そうすると,引用発明において,電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する,実行環境決定部を具備すること,すなわち,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとはいえない。

したがって,上記相違点1-2,4-6について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の「電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する」,「実行環境決定部」,と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明3,5について
本願発明3,5は,本願発明1の「実行環境決定部」に対応する構成を備えるものであり,「実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され,(i)前記電子データ特定情報取得部が予め定められたプロセスを用いて前記電子データ特定情報を取得した場合,前記実行環境決定部は,前記電子データを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行することを決定し,遠隔操作プログラム生成部は,前記コンピュータに,前記実行環境と前記別のコンピュータとの間に前記第2の通信経路を確立させる手順を実行させるための前記遠隔操作プログラムを生成し,(ii)前記電子データ特定情報取得部が予め定められたプロセス以外のプロセスを用いて前記電子データ特定情報を取得した場合,前記実行環境決定部は,前記電子データを,前記情報処理装置上で電子データを実行する電子データ実行部で実行することを決定する,」ことから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明4について
本願発明4は,「電子データを実行すべき実行環境を決定する実行環境決定部」を備え,「実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され」るものであり,さらに,「遠隔操作プログラムは,前記コンピュータに,(a)前記実行環境に対する指示であって,(i)前記実行環境にインストールされたWebブラウザを起動させ,(ii)前記Webブラウザを介して,前記電子データ特定情報により特定された前記電子データを前記第2の通信経路を介して取得させ,(iii)取得された当該電子データを前記実行環境で処理させるための指示と,(b)(i)前記情報処理装置にインストールされたWebブラウザのクッキーに格納された情報,(ii)前記Webブラウザの設定情報,又は,(iii)前記Webブラウザで保存されたWebサイト毎の暗証情報若しくは設定情報と,(c)前記Webブラウザのクッキーに格納された情報,前記Webブラウザの設定情報,又は,前記Webブラウザで保存されたWebサイト毎の暗証情報若しくは設定情報を,前記Webブラウザに読み込ませるための指示とを,前記第1の通信経路を介して,前記実行環境に送信する手順を,更に実行させるためのプログラムである」ことから,当業者であっても,引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明6について
本願発明6は,「クライアント端末からの遠隔操作によってウイルス感染の可能性がある電子データ,又は,前記クライアント端末で実行することができない電子データを実行する1以上の仮想サーバ」を備え,さらに,「前記クライアント端末とは異なる端末から,前記ユーザの指示に応じた電子データを第2の通信経路を介して取得する第2通信部」を備えるものであり,「第2通信部は,(i)前記ユーザの指示が予め定められたアプリケーションからの要求である場合,当該要求を受け付け,ファイアウォールを開放するTCPポート又はUDPポートを決定し,前記異なる端末との間に前記第2の通信経路を確立させ,前記第2の通信経路を介して,前記電子データを取得し,(ii)前記ユーザの指示が予め定められたアプリケーションからの要求でない場合,当該要求を受け付けない,」ことから,当業者であっても,引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

6 本願発明7-8について
本願発明7は,本願発明1から本願発明6の何れかを減縮した発明であり,また,本願発明8は,本願発明1から本願発明7の何れかを減縮した発明であり,本願発明1の「電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する」,「実行環境決定部」,と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
<理由1(特許法第29条第2項)について>
審判請求時の補正により,本願発明1-3,5,7-8は,
「電子ファイルが実行される前に,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,又は,ユーザの選択に基づいて,(i)前記電子ファイルを,前記情報処理装置上で電子ファイルを実行する電子ファイル実行部で実行するのか,又は,(ii)前記電子ファイルを,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行するのかを決定し,前記電子ファイルが,前記1以上の仮想サーバ上に構築される前記実行環境で実行される場合,前記電子ファイルの形式,拡張子若しくは名称に基づいて,遠隔操作により前記電子ファイルを実行すべき前記実行環境を決定する」,「実行環境決定部」,と同一または対応する構成を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1,2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
また,審判請求時の補正により,本願発明4は,
「電子データを実行すべき実行環境を決定する実行環境決定部」を備え,「実行環境は,1以上の仮想サーバ上に構築され」るものであり,さらに,「遠隔操作プログラムは,前記コンピュータに,(a)前記実行環境に対する指示であって,(i)前記実行環境にインストールされたWebブラウザを起動させ,(ii)前記Webブラウザを介して,前記電子データ特定情報により特定された前記電子データを前記第2の通信経路を介して取得させ,(iii)取得された当該電子データを前記実行環境で処理させるための指示と,(b)(i)前記情報処理装置にインストールされたWebブラウザのクッキーに格納された情報,(ii)前記Webブラウザの設定情報,又は,(iii)前記Webブラウザで保存されたWebサイト毎の暗証情報若しくは設定情報と,(c)前記Webブラウザのクッキーに格納された情報,前記Webブラウザの設定情報,又は,前記Webブラウザで保存されたWebサイト毎の暗証情報若しくは設定情報を,前記Webブラウザに読み込ませるための指示とを,前記第1の通信経路を介して,前記実行環境に送信する手順を, 更に実行させるためのプログラムである」,との構成を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1,2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
さらに,審判請求時の補正により,本願発明6は,
「クライアント端末からの遠隔操作によってウイルス感染の可能性がある電子データ,又は,前記クライアント端末で実行することができない電子データを実行する1以上の仮想サーバ」を備え,さらに,「前記クライアント端末とは異なる端末から,前記ユーザの指示に応じた電子データを第2の通信経路を介して取得する第2通信部」を備えるものであり,「第2通信部は,(i)前記ユーザの指示が予め定められたアプリケーションからの要求である場合,当該要求を受け付け,ファイアウォールを開放するTCPポート又はUDPポートを決定し,前記異なる端末との間に前記第2の通信経路を確立させ,前記第2の通信経路を介して,前記電子データを取得し,(ii)前記ユーザの指示が予め定められたアプリケーションからの要求でない場合,当該要求を受け付けない,」との構成を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1,2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。

したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,本願発明1-8は,当業者が引用発明及び引用文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-21 
出願番号 特願2014-210314(P2014-210314)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 漆原 孝治  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 須田 勝巳
辻本 泰隆
発明の名称 情報処理装置及びプログラム  
代理人 龍華国際特許業務法人  
代理人 大野 聖二  
代理人 松野 知紘  
代理人 大野 浩之  

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