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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41J
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B41J
管理番号 1343346
審判番号 不服2017-16161  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-31 
確定日 2018-09-04 
事件の表示 特願2013-136173「画像形成装置、システム、制御方法、およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月19日出願公開、特開2015- 9432、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は平成25年6月28日を出願日とする特許出願であって、平成29年3月14日付けで拒絶理由が通知(発送日:同年3月21日)され、同年5月19日付けで手続補正がされ、同年7月28日付けで拒絶査定(送達日:同年8月1日)(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、同年10月31日に拒絶査定不服審判が請求され、当審で平成30年4月19日付けで拒絶理由を通知(発送日:同年4月24日)し、同年6月5日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要

原査定に係る拒絶理由の概要は、次のとおりである。

本願の各請求項に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>

1.特開2008-225682号公報
2.特開2005-295151号公報

第3 当審の拒絶理由の概要

当審において平成30年4月19日付で通知した拒絶理由(以下、「当審の拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。

1.請求項:2、4、6、7、9、11、13における「1つの印刷データ」について検討すると、「複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合・・・印刷を実行する」「印刷データ」は、「同一文書名の複数の印刷データのうちの1つ」であると特定されていると解される。
一方、上記「複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合・・・印刷を実行する」「印刷データ」について、出願当初の特許請求の範囲、明細書には、「受信手段によって後に受信された印刷データ」(請求項2等)、「最新の印刷データ」(段落【0060】等)、「最も受信日時が新しい印刷データ」(段落【0063】)と記載され、「同一文書名の複数の印刷データ」の中で「印刷を実行する」「印刷データ」は最も受信日時が新しいものである旨説明されている。
そうすると、上記補正後の特許請求の範囲における「1つの印刷データ」は、上記のとおり、「同一文書名の複数の印刷データのうちの1つ」であれば最も受信日時が新しい等以外の「印刷データ」も含むと解されるので、上記手続補正は出願当初の特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.出願当初の明細書に「・・・連続して同一PCから受信・・・」(段落【0052】)と記載され、上記「連続して」と上記「同一PCから」は関連して説明されていたものを、請求項8、9に係る発明の「連続して受信」の事項と、請求項10、11に係る発明の「同一の外部装置から受信」(上記「PC」と同「外部装置」は同じものと解される。)に分離して発明特定事項とすることは、当初の特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.請求項3の「識別情報」と、請求項3が引用する請求項1、2の「文書名」との関連が不明であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願の発明

本願の請求項1ないし10に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、平成30年6月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される発明である。

「【請求項1】
データを記憶する記憶手段と、ユーザを認証する認証手段と、シートに画像を形成する画像形成手段と、を有し、外部装置から受信した印刷データを前記記憶手段に記憶させ、前記印刷データに関連付けられたユーザが前記認証手段で認証されたことにしたがって、認証ユーザによる印刷データの選択によらずに、前記印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる認証後印刷が可能な画像形成装置において、
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付けて前記記憶手段に記憶されている複数の印刷データが各々異なる文書名である場合、前記各々異なる文書名の印刷データに基づき認証後印刷を実行し、前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうち前記認証ユーザによって選択された印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる制御手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
データを記憶する記憶手段と、ユーザを認証する認証手段と、シートに画像を形成する画像形成手段と、を有し、外部装置から受信した印刷データを前記記憶手段に記憶させ、前記印刷データに関連付けられたユーザが前記認証手段で認証されたことにしたがって、認証ユーザによる印刷データの選択によらずに、前記印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる認証後印刷が可能な画像形成装置において、
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付けて前記記憶手段に記憶されている複数の印刷データが各々異なる文書名である場合、前記各々異なる文書名の印刷データに基づく認証後印刷を実行し、前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データについてのみ認証後印刷を実行する制御手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
情報を表示する表示手段を有し、
前記制御手段は、前記記憶手段に記憶されている印刷データの文書名を前記表示手段にリスト表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く前記同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データ以外の印刷データを削除することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合において、前記複数の印刷データを一定時間以内に受信していることに基づいて、印刷データの選択をユーザに要求することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合において、前記複数の印刷データを一定時間以内に受信していることに基づいて、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データについてのみ認証後印刷することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合において、前記複数の印刷データを同一の外部装置から連続して受信していることに基づいて、印刷データの選択をユーザに要求することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合において、前記複数の印刷データを同一の外部装置から連続して受信していることに基づいて、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データについてのみ認証後印刷することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項9】
データを記憶する記憶手段と、ユーザを認証する認証手段と、シートに画像を形成する画像形成手段と、を有し、外部装置から受信した印刷データを前記記憶手段に記憶させ、前記印刷データに関連付けられたユーザが前記認証手段で認証されたことにしたがって、認証ユーザによる印刷データの選択によらずに、前記印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる認証後印刷が可能な画像形成装置の制御方法であって、
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付けて前記記憶手段に記憶されている複数の印刷データが各々異なる文書名である場合、前記各々異なる文書名の印刷データに基づき認証後印刷を実行し、前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうち前記認証ユーザによって選択された印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる工程を有することを特徴とする制御方法。
【請求項10】
データを記憶する記憶手段と、ユーザを認証する認証手段と、シートに画像を形成する画像形成手段と、を有し、外部装置から受信した印刷データを前記記憶手段に記憶させ、前記印刷データに関連付けられたユーザが前記認証手段で認証されたことにしたがって、認証ユーザによる印刷データの選択によらずに、前記印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる認証後印刷が可能な画像形成装置の制御方法において、
前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付けて前記記憶手段に記憶されている複数の印刷データが各々異なる文書名である場合、前記各々異なる文書名の印刷データに基づく認証後印刷を実行し、前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データについてのみ認証後印刷を実行する工程を有することを特徴とする制御方法。」

第5 引用文献、引用発明等

1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献1(特開2008-225682号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。(以下の下線は、いずれも当審で付した。引用文献2以下についても同様である。)

(1)「【0050】
(第1の実施の形態)
本発明の実施の形態として、画像処理装置であってコピー機能、ファクシミリ(FAX)機能、プリント機能、スキャナ機能及び入力画像(スキャナ機能による読み取り原稿画像やプリンタあるいはFAX機能により入力された画像)を配信する機能等を複合したいわゆるMFP(Multi Function Peripheral)と称される複合機に適用した例を示す。
・・・【0067】
ここで、ID情報に含まれる各IDについて説明する。まず、入力された一連の原稿画像群に対して印刷出力が完了するまでを1ジョブとすると、ジョブごとに機器内で一意に割り当てられたIDをJIDと呼ぶ。
【0068】
また、上記印刷出力で複数部を印刷出力する場合に、その部ごとに機器内で一意に割り当てられたIDをBIDとする。1つのジョブで複数部数の印刷を指定できるため、1つのJIDには複数のBIDが対応しうる。
・・・【0092】
ID取得部307は、検出部309により検出されたPIDが属する印刷単位(部単位またはジョブ単位)に含まれるすべての画像のEIDを取得することにより、再印刷する画像を特定するものである。また、ID取得部307は、検出されたPIDが属する印刷単位の印刷時の印刷条件である印刷設定を取得する。
・・・【0099】
以下に、複合機300がマーキングを印刷し、複合機350が再印刷を行う場合の処理手順について説明する。
【0100】
次に、このように構成された第1の実施の形態にかかる複合機300による印刷処理について説明する。図8は、第1の実施の形態にかかる複合機300における印刷処理の全体の流れを示すフローチャートである。
・・・【0111】
プリンタエンジン322の画像取得部324は、印刷が指示されたEIDに対応する画像を画像記憶部302から読み出す処理を開始する(ステップS717)。画像記憶部302からの画像の読み出しが終了すると(ステップS718)、マーキング部323がPIDを符号化したマーキングを生成し、プリンタエンジン322が生成されたマーキングを印刷画像に合成して印刷する(ステップS719)。
・・・【0114】
次に、複合機300に格納された画像を用いて、複合機350が再印刷処理を行う処理手順について説明する。図9は、第1の実施の形態にかかる複合機300及び複合機350における再印刷処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0115】
まず、操作パネル321等を介してユーザにより再印刷処理が指定されると、印刷制御部308が、マーキング検出を開始することを検出部309に対して指示する(ステップS901)。この際、ユーザは、再印刷を所望する部を構成する印刷用紙のうち、いずれか1枚をスキャンするだけでよい。
【0116】
指示を受けた検出部309は、読取られた原稿画像から複数のマーキングを検出し、検出したマーキング毎に復号化を行い、マーキング毎にPID、印刷時間及び機器を特定する情報を検出する。そして、検出部309は、検出したPID等を印刷制御部308に通知する(ステップS902)。また、印刷制御部308は、機器を特定する情報により、画像を蓄積している機器を特定できる。なお、本処理手順では、複合機300が特定されたものとする。
【0117】
次に、印刷制御部308は、再印刷する画像を特定する画像特定処理をID取得部307に対して指示する(ステップS903)。この指示には、検出された全てのPIDが含まれている。これにより、ID取得部307は、以下に示すステップS904?ステップS910の処理を検出されたPID数分繰り返す。
・・・【0129】
このようにして複合機300から再印刷する画像データが取得されて自装置内の画像記憶部302に保存された後、保存した画像データについての画像再印刷処理が実行される。
【0130】
次に、印刷制御部308は、取得したEIDに対応する画像についての画像再印刷処理を実行する(ステップS917?ステップS921)。なお、画像再印刷処理では、印刷処理と同様に、再印刷する用紙のPID、および再印刷する部のBIDの生成処理が行われるが、同図では省略している。」

(2)「【0137】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態にかかる複合機は、原稿用紙に複数のマーキングが付されている場合に、最新のマーキングから再印刷処理を行うこととしたものである。
・・・【0147】
なお、印刷処理については、第1の実施の形態と同様の処理を行うこととして、説明を省略する。
・・・【0154】
また、ステップS1305?ステップS1322までの画像特定処理、画像蓄積処理及び再印刷処理は、第1の実施の形態にかかる複合機300におけるステップS904?ステップS921までと同様の処理なので、その説明を省略する。」

(3)「【0158】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態にかかる複合機は、原稿用紙に複数のマーキングが付されている場合に、当該複数のマーキングから検出されたPIDが同じ印刷ジョブの場合に、一部のみ再印刷処理を行うこととしたものである。
・・・【0161】
印刷制御部1501は、第1の実施の形態の印刷制御部308と異なる点として、ID取得部307が、ID取得部307が取得した印刷単位を識別する情報(例えば部IDやジョブID)を、判断部1502に出力する点がある。なお、印刷制御部1501は、他の処理は印刷制御部308と同様なので説明を省略する。
・・・【0167】
まず、ステップS1801?ステップS1810までの画像特定処理は、第1の実施の形態にかかる複合機300におけるステップS901?ステップS910までとほぼ同様の処理なので、その説明を省略する。異なる点としては部単位ではなく印刷所部単位で再印刷を行うことにしたため、BIDの代わりにJIDを利用した点のみ異なる。
・・・【0172】
そして、ステップS1814?ステップS1824までの画像蓄積処理及び再印刷処理は、第1の実施の形態にかかる複合機300におけるステップS901?ステップS910までと同様の処理なので、その説明を省略する。」

(4)「【0174】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態にかかる複合機は、原稿用紙に複数のマーキングが付されている場合に、当該複数のマーキングから検出されたPIDが同じ印刷ジョブの場合に、当該印刷ジョブについては再印刷処理を行わないこととしたものである。
・・・【0183】
本実施の形態における処理フローは図18に示した処理フローとステップS1812の処理を除いて同様のため説明を省略する。」

(5)「【0231】
(変形例)
また、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、以下に例示するような種々の変形が可能である。
【0232】
(変形例1)
上述した第1?4の実施の形態では、スキャンした用紙に複数のマーキングが付されている場合に、異なる処理を行う例について説明した。しかしながら、上述した第1?4の実施の形態の複合機の機能を1つの複合機にまとめ、使用する利用者の目的に応じて処理を選択可能にしても良い。そこで本変形例では処理を選択可能な複合機の例について説明する。
【0233】
当該複合機では、利用者がマーキングを付された原稿用紙を用いて再印刷処理を行おうとした際、複数のマーキングを検出した場合に、その旨を操作パネルに表示する。
【0234】
図34は、複数のマーキングを検出した場合に表示する画面の例を示した図である。同図に示すように、利用者は、全てのジョブの再印刷、重複したジョブを除き再印刷、最新のジョブのみ再印刷、重複したジョブは1つのみ再印刷から適切な処理を選択することができる。
【0235】
なお、各項目が選択された場合の処理は、上述した実施形態で説明したので省略する。これにより、利用者の利用用途に応じた印刷処理を行うことができる。このため、利用者の利便性が向上する。
【0236】
(変形例2)
また、スキャンした用紙に複数のマーキングが付されている場合に、利用者に再印刷させるジョブを選択させても良い。そこで本変形例では再印刷させる印刷ジョブを選択可能な複合機の例について説明する。なお、本変形例ではマーキングに印刷時間が含まれているものとする。
【0237】
本変形例における複合機では、複数のマーキングを検出した場合、検出したマーキングに対応する印刷ジョブを表示する。
【0238】
図35は、変形例2にかかる複合機における複数のマーキングを検出した場合に表示する印刷ジョブ選択画面の例を示した図である。同図に示すように、利用者は、表示された印刷ジョブから、再印刷を行いたい印刷ジョブを選択できる。」

(6)「第1の実施の形態」(前記「(1)」)、「第2の実施の形態」(前記「(2)」)、「第3の実施の形態」(前記「(3)」)、「第4の実施の形態」(前記「(4)」)、「変形例2」(前記「(6)」)は、いずれも「スキャンした用紙に複数のマーキングが付されている場合」の処理であり、引用文献1の明細書には「【0232】・・・上述した第1?4の実施の形態では、スキャンした用紙に複数のマーキングが付されている場合に、異なる処理を行う例について説明した。しかしながら、上述した第1?4の実施の形態の複合機の機能を1つの複合機にまとめ、使用する利用者の目的に応じて処理を選択可能にしても良い」、「【0236】(変形例2)また、スキャンした用紙に複数のマーキングが付されている場合に、利用者に再印刷させるジョブを選択させても良い。」(前記「(6)」)と記載されているから、「第1?4の実施の形態」や「変形例2」の処理は、1つの複合機にまとめられ、各処理を利用者が選択しておこなっても良いものである。
よって、引用文献1には、「スキャンした用紙に複数のマーキングが付されている場合」、「最新のマーキングから再印刷処理を行」っても良く」(第2の実施の形態)、「該複数のマーキングから検出されたのが同じ印刷ジョブの場合に、一部のみ再印刷処理を行」っても良く」(第3の実施の形態)、「当該複数のマーキングから検出されたPIDが同じ印刷ジョブの場合に、当該印刷ジョブについては再印刷処理を行わな」くても良く」(第4の実施の形態)、「検出したマーキングに対応する印刷ジョブを表示し、利用者は、表示された印刷ジョブから、再印刷を行いたい印刷ジョブを選択」しても良い」(変形例2)との事項が記載されているといえる。

前記の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認定できる。

「複合機300がマーキングを印刷し、複合機350が再印刷を行う場合の処理をするものであり、複合機300による印刷処理は、マーキングを印刷画像に合成して印刷し、複合機300に格納された画像を用いて、複合機350が再印刷処理を行う処理手順は、ユーザにより再印刷処理が指定されると、ユーザは、再印刷を所望する部を構成する印刷用紙をスキャンし、読取られた原稿画像から複数のマーキングを検出して、再印刷する画像を特定し、複合機300から再印刷する画像データが取得されて自装置内の画像記憶部302に保存された後、保存した画像データについての画像再印刷処理が実行されるものであり、原稿用紙に複数のマーキングが付されている場合に、最新のマーキングから再印刷処理を行っても良く、原稿用紙に複数のマーキングが付されている場合に、当該複数のマーキングから検出されたのが同じ印刷ジョブの場合に、一部のみ再印刷処理を行っても良く、原稿用紙に複数のマーキングが付されている場合に、当該複数のマーキングから検出されたPIDが同じ印刷ジョブの場合に、当該印刷ジョブについては再印刷処理を行わなくても良く、複数のマーキングを検出した場合、検出したマーキングに対応する印刷ジョブを表示し、利用者は、表示された印刷ジョブから、再印刷を行いたい印刷ジョブを選択しても良い複合機。」

2.引用文献2について

原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献2(特開2005-295151号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(1)「【0026】
本実施形態では、文書管理システムとして、文書管理機能を備えたデジタル複合機を例に挙げて説明する。」

(2)「【0058】
ステップS401において、スキャン装置104によって原稿を読み取り、バーコード画像を含む原稿画像の読取を行う。読取原稿画像中のバーコード画像から、バーコード画像を検出する検出処理を実行する。」

(3)「【0062】
ステップS403において、バーコードデコード部301は、検出したバーコード画像をデコードし、文書IDを示すID番号を取得する。」

(4)「【0067】
特に、図4の処理では、文書IDが検出される毎に、重複判別部303によって、その検出された文書IDと文書ID記憶部302が保持する文書IDリストの文書IDを比較して、重複文書IDの有無を検出し、その文書IDが重複文書IDでなければ、文書ID記憶部302が保持する文書IDリストに登録することで、検索結果として文書IDリストを出力する。」

(5)「【0073】
図4の処理によって得られた文書IDリストからなる検索結果は、ユーザインタフェース107によってユーザに表示される。」

(6)「【0076】
文書IDリストに記憶された全ての文書IDに対してプロパティ情報を取得すると、重複文書ID記憶部302が保持する重複文書IDリストを参照し、文書ID毎に重複して検出された個数(重複数)をカウントする。
【0077】
そして、取得したプロパティ情報と重複数をユーザインタフェース107によって表示し、ユーザに検索結果として提示する。
【0078】
以上によって、読取原稿に対応する電子文書データの検索が実現される。
【0079】
これらの検索結果に対して、ユーザインタフェース107上におけるユーザの操作が実行され、必要に応じて、送受信装置105や印刷装置106を利用し、電子文書データの送信処理や印刷処理等の各種処理を実行する。あるいは、データ操作部204によって文書管理部205へ削除要求を出力し、電子文書データの削除処理を実行することもできる。
【0080】
これらのユーザ操作を省き、検索結果に対して自動的に作業を行う構成も考えられる。例えば、読取原稿に対応する電子文書データの検索及び送信を指示して、原稿の読取動作を開始することで、電子文書データの検索及び送信までを自動的に実行することが可能である。もちろん、送信以外に、印刷までを自動的に実行することも可能である。」

前記の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下、「技術事項1」という。)が記載されていると認定できる。

「スキャン装置104によって原稿を読み取り、読取原稿画像中のバーコード画像から、バーコード画像を検出する検出処理を実行し、検出したバーコード画像をデコードし、文書IDを示すID番号を取得し、文書IDが検出される毎に、重複文書IDの有無を検出し、その文書IDが重複文書IDでなければ、文書IDリストに登録することで、検索結果として文書IDリストを出力し、文書IDリストからなる検索結果は、ユーザインタフェース107によってユーザに表示され、文書IDリストに記憶された全ての文書IDに対してプロパティ情報を取得し、文書ID毎に重複して検出された重複数をカウントし、取得したプロパティ情報と重複数をユーザインタフェース107によって表示し、ユーザに検索結果として提示し、これらの検索結果に対して、ユーザインタフェース107上におけるユーザの操作が実行され、必要に応じて、送受信装置105や印刷装置106を利用し、電子文書データの送信処理や印刷処理等の各種処理を実行し、これらのユーザ操作を省き、検索結果に対して自動的に作業を行う構成も考えられるデジタル複合機。」

第6 対比・判断

1.本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「複合機300」は、前者の「外部装置」に相当し、以下同様に、「複合機350」は「画像形成装置」に、「再印刷」は「画像を形成」に、「画像記憶部302」は「記憶手段」にそれぞれ相当する。

また、後者の「複合機350」(本願発明1の「画像形成装置」に相当。)は、再印刷(本願発明1の「画像を形成」に相当。)するから、前者の「シートに画像を形成する画像形成手段」を有するといえる。

また、後者は「利用者は、表示された印刷ジョブから、再印刷を行いたい印刷ジョブを選択するもの」であるのに対して、前者は「前記認証ユーザによって選択された印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる」ものであることからすれば、後者の「印刷ジョブ」は前者の「印刷データ」に相当する。

したがって、両者は、

「データを記憶する記憶手段と、シートに画像を形成する画像形成手段と、を有し、外部装置から受信した印刷データを前記記憶手段に記憶させる画像形成装置」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本願発明1が「認証ユーザによる印刷データの選択によらずに」、画像形成をするのに対して、引用発明1は「ユーザは、再印刷を所望する部を構成する印刷用紙をスキャンし、読取られた原稿画像から複数のマーキングを検出して、再印刷する画像を特定」するもの、すなわち、ユーザは印刷データを選択により、画像形成をしているといえる点。

相違点2:本願発明1の「印刷データ」には「文書名」があるのに対して、引用発明1の「ジョブ」には「文書名」があるのか明らかでない点。

相違点3:本願発明1の、「前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付けて前記記憶手段に記憶されている複数の印刷データが各々異なる文書名である場合、前記各々異なる文書名の印刷データに基づき認証後印刷を実行」することが、引用発明1には備えられていない点。

相違点4:本願発明1の、「前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうち前記認証ユーザによって選択された印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行」することが、引用発明1には備えられていない点。

相違点5:本願発明1の、「前記認証手段で認証されたことにしたがって、前記印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる認証後印刷が可能な」ことが、引用発明1には備えられていない点。

(2)判断

まず、前記相違点3、4について以下検討する。

技術事項1にも、前記相違点3、4に係る本願発明1の発明特定事項は開示されていないし、これを示唆するものもない。

そして、本願発明1は前記相違点3、4に係る発明特定事項を備えることによって、「・・・リスト表示された文書から所望の文書を選択する手間を軽減させることを目的として、ユーザによる文書名の選択操作を省略して自動的に印刷を開始する画像形成装置が提案されている・・・提案されている方法では、認証したユーザの印刷データを自動的に印刷開始する。そのため、ユーザが誤って同じ印刷データを画像形成装置に2度送ってしまったり、あるいは、印刷設定を変更した上で印刷データを送り直したりする様な場合、それらの印刷データが全て自動的に印刷される。この結果、無駄な印刷が行われる可能性がある。・・・ そこで本発明は、このような課題に鑑みて、無駄な印刷がされないような仕組みを提供する・・・」(段落【0004】ないし【0007】参照。)という作用効果を奏するものである。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2について

(1)対比

本願発明2は、本願発明1の発明特定事項である「前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうち前記認証ユーザによって選択された印刷データに基づく画像形成を前記画像形成手段に実行させる」ことを、「前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データについてのみ認証後印刷を実行する」との発明特定事項に置き換えた他は、本願発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項からなるものであるから、両者は、「データを記憶する記憶手段と、シートに画像を形成する画像形成手段と、を有し、外部装置から受信した印刷データを前記記憶手段に記憶させる画像形成装置」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本願発明1と同様。

相違点2:本願発明1と同様。

相違点3:本願発明1と同様。

相違点5:本願発明1と同様。

相違点6:本願発明2の、「前記認証手段により認証された認証ユーザに関連付く複数の印刷データであって同一文書名の複数の印刷データが前記記憶手段によって記憶されている場合、前記同一文書名の複数の印刷データのうちの受信日時が最も新しい印刷データについてのみ認証後印刷を実行」することが、引用発明1には備えられていない点。

(2)判断

まず、前記相違点3、6について以下検討する。

技術事項1にも、前記相違点3、6に係る本願発明2の発明特定事項は開示されていないし、これを示唆するものもない。

そして、本願発明2は前記相違点3、6に係る発明特定事項を備えることによって、「・・・リスト表示された文書から所望の文書を選択する手間を軽減させることを目的として、ユーザによる文書名の選択操作を省略して自動的に印刷を開始する画像形成装置が提案されている・・・提案されている方法では、認証したユーザの印刷データを自動的に印刷開始する。そのため、ユーザが誤って同じ印刷データを画像形成装置に2度送ってしまったり、あるいは、印刷設定を変更した上で印刷データを送り直したりする様な場合、それらの印刷データが全て自動的に印刷される。この結果、無駄な印刷が行われる可能性がある。・・・ そこで本発明は、このような課題に鑑みて、無駄な印刷がされないような仕組みを提供する・・・」(段落【0004】ないし【0007】参照。)という作用効果を奏するものである。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明2は、引用発明1及び技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明3ないし10について
前記「第4」のとおり、本願発明9、10は、末尾が「制御方法」である他は、実質的にそれぞれ本願発明1、2と変わるところはなく、本願発明1、2と同様に前記相違点3、4、6に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1、2についてと同様の理由で、引用発明1及び技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
前記「第4」のとおり、本願発明3ないし8は、それぞれ本願発明1、2をさらに限定するものであるから、本願発明1、2についてと同様の理由で、引用発明1及び技術的事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
前記「第6」で検討したとおり、本願発明1ないし10は、引用発明1及び技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 当審の拒絶の理由について

1 出願当初の特許請求の範囲、明細書には、「受信手段によって後に受信された印刷データ」(請求項2等)、「最新の印刷データ」(段落【0060】等)、「最も受信日時が新しい印刷データ」(段落【0063】)と記載され、「同一文書名の複数の印刷データ」の中で「印刷を実行する」「印刷データ」は最も受信日時が新しいものである旨説明されている。
特許請求の範囲における「1つの印刷データ」は、「同一文書名の複数の印刷データのうちの1つ」であれば最も受信日時が新しい等以外の「印刷データ」も含むと解されるので、手続補正は出願当初の特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない」(前記「第3 1」参照。)との拒絶理由に対して、補正後の請求項2、10について、補正前の請求項2、13の「1つの印刷データ」を、「受信日時が最も新しい印刷データ」と補正されたので、拒絶理由は解消された。

2 出願当初の明細書に「・・・連続して同一PCから受信・・・」(段落【0052】)と記載され、上記「連続して」と上記「同一PCから」は関連して説明されていたものを、請求項8、9に係る発明の「連続して受信」の事項と、請求項10、11に係る発明の「同一の外部装置から受信」(上記「PC」と同「外部装置」は同じものと解される。)に分離して発明特定事項とすることは、当初の特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないとの拒絶理由(前記「第3 2」参照。)に対して、補正後の請求項7、8について、補正前の請求項8,9の発明特定事項である「前記複数の印刷データを連続して受信」を、「前記複数の印刷データを同一の外部装置から連続して受信」と補正されたので、拒絶理由は解消された。

3 請求項3の「識別情報」と、請求項3が引用する請求項1、2の「文書名」との関連が不明であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由(前記「第3 3」参照。)に対して、補正後の請求項3について、補正前の請求項3の発明特定事項である「印刷データの識別情報」を、「印刷データの文書名」と補正されたので、拒絶理由は解消された。

4 小括
前記1ないし3のとおり、当審の拒絶理由は、全て解消された。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1ないし10は、引用発明1及び技術事項1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-17 
出願番号 特願2013-136173(P2013-136173)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (B41J)
P 1 8・ 537- WY (B41J)
P 1 8・ 121- WY (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 輝雄  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 森次 顕
畑井 順一
発明の名称 画像形成装置、システム、制御方法、およびプログラム  
代理人 黒岩 創吾  
代理人 阿部 琢磨  

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