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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1343384
審判番号 不服2017-8566  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-13 
確定日 2018-08-16 
事件の表示 特願2015-224065「血小板由来成長因子-BB産生亢進剤、並びにそれを含む間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤、及び真皮再生化剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開、特開2016- 74690〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年7月1日を国際出願日として出願した特願2011-530182号の一部を平成27年11月16日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月16日付けで手続補正書が提出され、平成28年10月27日付け拒絶理由通知に対して平成28年12月26日付けで意見書が提出された後、平成29年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年6月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成27年12月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)及び請求項4に係る発明(以下、「本願発明4」という。)は次のとおりのものである。

本願発明1
「 【請求項1】
コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸からなる群より選択される1又は2以上を有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤を含んでなる、間葉系幹細胞産生促進剤。」

本願発明4
「 【請求項4】
コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸からなる群より選択される1又は2以上を有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。」

3 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、
(1)発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2)特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
というものである。

3 発明の詳細な説明の記載事項
発明の詳細な説明には、以下のア?サの記載がある。
記載ア
「本発明は、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤、並びに、当該PDGF-BB産生亢進剤を含んでなる間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤、及び真皮再生化剤に関する。」(段落【0001】)

記載イ
「以上の知見から、間葉系幹細胞の産生促進や安定化を図ることができれば、血管安定化、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、抗線維化、多発性硬化症や糖尿病等の各種疾患の予防・治療、メタボリックシンドローム等の慢性炎症に基づく各種状態の予防・改善等、各種の用途に極めて有効であると考えられる。」(段落【0008】)

記載ウ
「本発明者等は、真皮にも間葉系幹細胞が存在することを報告し、真皮から効率よく間葉系幹細胞を単離する方法を確立した(特願2009-213291)。上述の間葉系幹細胞の作用を考慮すれば、真皮における間葉系幹細胞の安定化や産生亢進を図ることにより、真皮の状態改善や再生等にも有効であると考えられる。」(段落【0009】)

記載エ
「更に、本発明者等は、真皮や皮下脂肪において間葉系幹細胞の存在する部位をより詳細に明らかにするとともに、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010-209705)。」(段落【0010】)

記載オ
「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたもので、その課題は、PDGF-BBの産生亢進に有効な剤を提供すると共に、これを用いて、間葉系幹細胞の産生促進及び/又はその安定化に有効な剤を提供することにある。」(段落【0013】?段落【0014】)

記載カ
「コケモモ由来物にPDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。」(段落【0022】)

記載キ
「マンゴスチン由来物にPDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。」(段落【0025】)

記載ク
「オウゴン由来物にPDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。」(段落【0028】)

記載ケ
「しかしながら、ビタミンB類又はイノシトール若しくはイノシトールリン酸が、PDGF-BB産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用を有することはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された。」(段落【0032】)

記載コ
「【0034】
上述のように、本発明者等の知見によれば、PDGF-BBは間葉系幹細胞の局在化に関与しており、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生を亢進することによって、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化を図ることができる(特願2010-209705)。すなわち、本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化の目的に極めて有効に用いることが可能である。」(段落【0034】)

記載サ
「【実施例】
【0048】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0049】
[評価対象サンプル]
PDGF-BBの産生亢進作用の評価対象サンプルとして以下を用いた。
【0050】
・イノシトール:
市販のイノシトール粉末(和光純薬工業社製:ミオ-イノシトール)をPBSに溶解後、後述の培地に対して10ppmとなるように使用した。
【0051】
・フィチン酸:
市販のフィチン酸(ナカライテスク社製:50%水溶液)を、後述の培地に対して10ppmとなるように使用した。
【0052】
・オウゴンエキス:
オウゴンの周皮を除いた根を、70体積%エタノール(水とエタノールとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物を用いた。抽出物は乾燥して保存し、使用直前に70体積%エタノールを加えて溶解させた上で、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)15ppmとなるように使用した。
【0053】
・コケモモCRS(cell release system):
コケモモの葉を細胞分解酵素(マセロチームA)で処理した細胞懸濁液に、1,3-BGを40体積%になるよう加えた懸濁液を用いた。懸濁液は液体として保存し、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)30ppmとなるように使用した。
【0054】
・マンゴスチン樹皮エキス:
マンゴスチンの樹皮を、70体積%1,3-BG(水と1,3-BGとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物を用いた。抽出物は乾燥して保存し、使用直前に70体積%1,3-BGを加えて溶解させた上で、後述の培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)10ppmとなるように使用した。
【0055】
[血管内皮細胞におけるPDGF-BBの産生亢進作用の評価]
ヒト血管内皮細胞HUVECをEGM-2培地(三光純薬)で継代培養し、継代4代目の細胞を、VEGF-Aを含まないHumedia-EG2培地(クラボウ)に懸濁して、コラーゲンコート24穴マルチプレート(旭硝子)に20,000個の割合で播種し、5%CO2存在下、37℃で細胞が集密に達するまで3?5日間の培養を行った。上記の各サンプルを上記濃度となるように添加、又は各評価対象サンプルが溶解している溶媒を添加したHumedia-EG2培地(クラボウ)に交換した後、さらに2日間培養を行った。培養後の細胞からRNA抽出試薬MagNA Pure LC mRNA HSキット(Roche)と自動核酸抽出装置MagNA Pure LC 1.0 インスツルメント(Roche)を用いて、提供されたプロトコールに従ってmRNAの抽出・精製を行った。各サンプルについて、同容量のmRNAを鋳型に、後述の配列番号1及び2のプライマーペア、反応試薬QuantiFast SYBR Green RT-PCR Kit(Qiagen)と反応装置LightCycler(Roche)を用いて、PDGF-B遺伝子のワンステップ定量リアルタイム(RT)-PCRを行った。組成条件はQiagenのプロトコールに従った。また、RT-PCRの条件は、RT反応50℃で20分、初期変性95℃で15分、変性94℃で15秒、アニール60℃で20秒、伸長72℃で30秒とした。なお、G3PDHは内部標準として用い(配列番号3及び4のプライマーペア)、これを用いて対照群のmRNA量を補正した。
【0056】
PDGF-B:
フォワードプライマー:5'-CCTGGCATGCAAGTGTGA-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-CCAATGGTCACCCGATTT-3'(配列番号2)
G3PDH:
フォワードプライマー:5'-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-ATGGTGGTGAAGACGCCAGT-3'(配列番号4)
【0057】
[評価結果]
上記評価手順に従い、上記各サンプルについて得られたPDGF-BBのmRNAの発現量の、対照(各評価対象サンプルが溶解している溶媒)について得られた発現量に対する比を、以下の表に示す。以下の結果から、これらの成分はPDGF-BB発現を亢進させる活性を有することが分かる。
【0058】
【表1】

」(段落【0047】?段落【0058】)

4 当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)の検討
ア はじめに
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性を予測することは困難であり、当該医薬を用途に使用することができないから、医薬用途発明においては実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要があるとされる。
また、特許法第44条第2項は、分割出願について「新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」と定めている。
したがって、医薬の用途発明に係る分割出願において実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、当該分割出願の原出願の出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。

イ 本願発明1について
本願発明1の発明特定事項から、本願発明1は「コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸からなる群より選択される1又は2以上を有効成分として含んでなる」ものであって、「間葉系幹細胞産生を促進する」ことをその用途とする、医薬用途発明であるといえる。

そして、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用については、発明の詳細な説明に、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、「コケモモの葉を細胞分解酵素(マセロチームA)で処理した細胞懸濁液に、1,3-BGを40体積%になるよう加えた懸濁液」、「マンゴスチンの樹皮を、70体積%1,3-BG(水と1,3-BGとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「オウゴンの周皮を除いた根を、70体積%エタノール(水とエタノールとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「市販のイノシトール粉末(和光純薬工業社製:ミオ-イノシトール)をPBSに溶解」したもの、及び「市販のフィチン酸(ナカライテスク社製:50%水溶液)」について、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、それらが、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有する結果が得られたことが記載されている(上記記載サ)。

しかし、間葉系幹細胞産生を促進する作用については、発明の詳細な説明に、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、又はイノシトールリン酸が間葉系幹細胞産生を促進する作用を有することを、実施例などにより具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。
そればかりか、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、イノシトールリン酸に、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された旨の記載がある(上記記載カ、上記記載キ、上記記載ク、上記記載ケ)。

また、発明の詳細な説明には、「本発明者等は、……、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010-209705号)。」(上記記載エ)及び「本発明者等の知見によれば、……、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生を亢進することによって、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化を図ることができる(特願2010-209705)。すなわち、本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化の目的に極めて有効に用いることが可能である。」(上記記載コ)との記載はあるものの、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
また、発明の詳細な説明には、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「間葉系幹細胞産生を促進する」作用を有することを、具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「間葉系幹細胞産生を促進する」作用を有すると理解できるとはいえない。
また、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「間葉系幹細胞産生を促進する」作用を有することが、本願の原出願の出願時の技術常識であったといえる根拠も見出せない。

なお、請求人は審判請求書の【請求の理由】欄において、上記記載エ及び上記記載コに示された特願2010-209705号について、
「また、’705出願記載の上記事項は、本願の原出願日、即ち、PCT/JP2011/065207の国際出願日である2011年7月1日時点では未公開でしたが、その後、’705出願に基づく優先権を主張する国際出願PCT/JP2011/071017の国際公開公報第2012/036211号パンフレット(2012年3月22日公開)により公開されております。しかも、当該国際公開公報の公開日である2012年3月22日は、本分割出願の原出願の公開日、即ち、国際公開公報第2013/005281号パンフレットの公開日である2013年1月10日よりも、遙か以前であります。言い換えれば、PDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与するという事項を裏付ける’705出願に記載の実験データは、本願発明の公開時点において既に公知であり、当業者が参酌することが可能であったということになります。
ここで、特許は発明の公開の代償として付与される独占権であり、特許明細書は発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権の成立後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにする役割を有することを考慮すると、当業者が特許明細書の記載に加え、出願公開の時点で利用可能な公知情報を勘案することにより、出願に係る発明を実施することができ、且つ、発明の課題が解決できることを認識できれば、実施可能要件及びサポート要件は満たされると解するのが適当であると思量致します。
しかも本件の場合、’705出願に記載の前記実験データは、本願出願の遙か前の’705出願の時点で既に取得されていたデータであり、且つ、公開を予定した’705出願の明細書に(実際に公開された内容と一字一句違わぬまま)具体的に記載され、御庁に提出されていたデータであります。それにもかかわらず、斯かる実験データの公開時点が本願出願日の以前か以後かによって、本願の実施可能要件及びサポート要件の充否が左右されるのは、極めて不合理であるといえます。
斯かる前提に立てば、当初明細書の記載に加えて、本願出願前に既に取得・作成され、本願公開前に公知となった‘705出願の前記実験データを参酌することにより、当業者は本願発明を十分に実施可能であり、且つ、本願発明の課題が解決できることを十分に認識可能であったと言えます。従って、たとえPDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与することを示す実験データが必要であると仮定しても、本願は実施可能要件及びサポート要件を満たしております。」などと述べている。

しかし、そもそも、特許出願に際し、出願人は、発明の詳細な説明を含む事項を記載した明細書、特許請求の範囲、及び必要な図面を願書に添付して提出しなければならず(特許法第36条第2項、第3項)、この明細書の発明の詳細な説明を、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)を満たす程度に記載することは、出願人の責任に帰する。そして、明細書、特許請求の範囲又は図面に対する補正又は訂正による新規事項の追加は許されないから(特許法第17条の2第3項、同第126条第5項など)、実施可能要件を満たす程度の技術事項の記載は、出願時になされていなければならない。したがって、実施可能要件の判断は出願時を基準とするものであり、公開時を基準とするものではない。

このことは、仮に実施可能要件の判断が公開時を基準とするものであるとすると、ある特許出願について、出願時に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載していない技術事項を、出願後かつ公開前に何らかの手段によって技術常識にしさえすれば、出願時には実施可能要件を満たさない出願を、その後に実施可能要件を満たす出願に変えることが可能であるということになり、明細書の発明の詳細な説明を、当業者が出願に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載して出願することを定めた特許法第36条第4項第1号の趣旨に反することになることからも、明らかである。

そして、特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明を、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」すなわち当業者が、その発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することを求めるものであるから、ここでいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識」とは、出願時における技術常識であって、公開時における技術常識でも公知技術でもないことは明らかであるし、出願時に出願人の有していた知識でもないことも明らかである。

ここで、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、実施可能要件の判断に際して、その番号の特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された内容を参酌できるかについて検討する。
まず、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されていても、その特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができない以上、その内容を明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
さらに、その番号の特許出願は公開前に取り下げられて未公開のままになることがあり得る。また、たとえその番号の特許出願に基づく優先権主張を伴う特許出願がなされたとしても、優先権主張を伴う特許出願の明細書等に、優先権の基礎とされた特許出願の明細書等に記載された内容が記載されていることは、法律上なんら保障されていない。
そうすると、明細書の発明の詳細な説明に、未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、その番号の特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができないだけでなく、その後に公開されるか否かすら不確定であるから、実施可能要件の判断に際して参酌すべきではない。
このことは、特許法施行規則第24条に「願書に添付すべき明細書は、様式第29により作成しなければならない。」とあるとともに、様式第29備考6.に「文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に発明の全体を出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と規定する趣旨に合致する。

そして、上述のとおり、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならず、実施可能要件の判断に際して参酌すべきではない。

したがって、上記「ア はじめに」において述べたとおり、医薬の用途発明に係る分割出願において実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、分割出願の原出願の出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要があるにもかかわらず、発明の詳細な説明は、本願の原出願の出願時の技術常識に照らして、本願発明1の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されていない。

よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ウ 本願発明4について
本願発明4の発明特定事項から、本願発明4は「コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール及びイノシトールリン酸からなる群より選択される1又は2以上を有効成分として含んでなる」ものであって、「幹細胞を安定化する」ことをその用途とする、医薬用途発明であるといえる。

そして、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用については、発明の詳細な説明に、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、「コケモモの葉を細胞分解酵素(マセロチームA)で処理した細胞懸濁液に、1,3-BGを40体積%になるよう加えた懸濁液」、「マンゴスチンの樹皮を、70体積%1,3-BG(水と1,3-BGとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「オウゴンの周皮を除いた根を、70体積%エタノール(水とエタノールとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「市販のイノシトール粉末(和光純薬工業社製:ミオ-イノシトール)をPBSに溶解」したもの、及び「市販のフィチン酸(ナカライテスク社製:50%水溶液)」について、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、それらが、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有する結果が得られたことが記載されている(上記記載サ)。

しかし、幹細胞を安定化する作用については、発明の詳細な説明に、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、又はイノシトールリン酸が幹細胞を安定化する作用を有することを、実施例などにより具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。
そればかりか、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、イノシトールリン酸に、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された旨の記載がある(上記記載カ、上記記載キ、上記記載ク、上記記載ケ)。

また、発明の詳細な説明には、「本発明者等は、……、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010-209705号)。」(上記記載エ)及び「本発明者等の知見によれば、……、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生を亢進することによって、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化を図ることができる(特願2010-209705)。すなわち、本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化の目的に極めて有効に用いることが可能である。」(上記記載コ)との記載はあるものの、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
また、発明の詳細な説明には、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「幹細胞を安定化する」作用を有することを、具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「幹細胞を安定化する」作用を有すると理解できるとはいえない。
また、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「幹細胞を安定化する」作用を有することが、本願の原出願の出願時の技術常識であったといえる根拠も見出せない。

なお、請求人は審判請求書の【請求の理由】欄において、上記記載エ及び上記記載コに示された特願2010-209705号について、
「また、’705出願記載の上記事項は、本願の原出願日、即ち、PCT/JP2011/065207の国際出願日である2011年7月1日時点では未公開でしたが、その後、’705出願に基づく優先権を主張する国際出願PCT/JP2011/071017の国際公開公報第2012/036211号パンフレット(2012年3月22日公開)により公開されております。しかも、当該国際公開公報の公開日である2012年3月22日は、本分割出願の原出願の公開日、即ち、国際公開公報第2013/005281号パンフレットの公開日である2013年1月10日よりも、遙か以前であります。言い換えれば、PDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与するという事項を裏付ける’705出願に記載の実験データは、本願発明の公開時点において既に公知であり、当業者が参酌することが可能であったということになります。
ここで、特許は発明の公開の代償として付与される独占権であり、特許明細書は発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権の成立後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにする役割を有することを考慮すると、当業者が特許明細書の記載に加え、出願公開の時点で利用可能な公知情報を勘案することにより、出願に係る発明を実施することができ、且つ、発明の課題が解決できることを認識できれば、実施可能要件及びサポート要件は満たされると解するのが適当であると思量致します。
しかも本件の場合、’705出願に記載の前記実験データは、本願出願の遙か前の’705出願の時点で既に取得されていたデータであり、且つ、公開を予定した’705出願の明細書に(実際に公開された内容と一字一句違わぬまま)具体的に記載され、御庁に提出されていたデータであります。それにもかかわらず、斯かる実験データの公開時点が本願出願日の以前か以後かによって、本願の実施可能要件及びサポート要件の充否が左右されるのは、極めて不合理であるといえます。
斯かる前提に立てば、当初明細書の記載に加えて、本願出願前に既に取得・作成され、本願公開前に公知となった‘705出願の前記実験データを参酌することにより、当業者は本願発明を十分に実施可能であり、且つ、本願発明の課題が解決できることを十分に認識可能であったと言えます。従って、たとえPDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与することを示す実験データが必要であると仮定しても、本願は実施可能要件及びサポート要件を満たしております。」などと述べている。

しかし、そもそも、特許出願に際し、出願人は、発明の詳細な説明を含む事項を記載した明細書、特許請求の範囲、及び必要な図面を願書に添付して提出しなければならず(特許法第36条第2項、第3項)、この明細書の発明の詳細な説明を、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)を満たす程度に記載することは、出願人の責任に帰する。そして、明細書、特許請求の範囲又は図面に対する補正又は訂正による新規事項の追加は許されないから(特許法第17条の2第3項、同第126条第5項など)、実施可能要件を満たす程度の技術事項の記載は、出願時になされていなければならない。したがって、実施可能要件の判断は出願時を基準とするものであり、公開時を基準とするものではない。

このことは、仮に実施可能要件の判断が公開時を基準とするものであるとすると、ある特許出願について、出願時に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載していない技術事項を、出願後かつ公開前に何らかの手段によって技術常識にしさえすれば、出願時には実施可能要件を満たさない出願を、その後に実施可能要件を満たす出願に変えることが可能であるということになり、明細書の発明の詳細な説明を、当業者が出願に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載して出願することを定めた特許法第36条第4項第1号の趣旨に反することになることからも、明らかである。

そして、特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明を、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」すなわち当業者が、その発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することを求めるものであるから、ここでいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識」とは、出願時における技術常識であって、公開時における技術常識でも公知技術でもないことは明らかであるし、出願時に出願人の有していた知識でもないことも明らかである。

ここで、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、実施可能要件の判断に際して、その番号の特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された内容を参酌できるかについて検討する。
まず、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されていても、その特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができない以上、その内容を明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
さらに、その番号の特許出願は公開前に取り下げられて未公開のままになることがあり得る。また、たとえその番号の特許出願に基づく優先権主張を伴う特許出願がなされたとしても、優先権主張を伴う特許出願の明細書等に、優先権の基礎とされた特許出願の明細書等に記載された内容が記載されていることは、法律上なんら保障されていない。
そうすると、明細書の発明の詳細な説明に、未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、その番号の特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができないだけでなく、その後に公開されるか否かすら不確定であるから、実施可能要件の判断に際して参酌すべきではない。
このことは、特許法施行規則第24条に「願書に添付すべき明細書は、様式第29により作成しなければならない。」とあるとともに、様式第29備考6.に「文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に発明の全体を出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と規定する趣旨に合致する。

そして、上述のとおり、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならず、実施可能要件の判断に際して参酌すべきではない。

したがって、上記「ア はじめに」において述べたとおり、医薬の用途発明に係る分割出願において実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、分割出願の原出願の出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要があるにもかかわらず、発明の詳細な説明は、本願の原出願の出願時の技術常識に照らして、本願発明4の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されていない。

よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)の検討
ア はじめに
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきとされる。
また、特許法第44条第2項は、分割出願について「新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」と定めている。
したがって、分割出願において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当該分割出願の原出願の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきといえる。

イ 本願発明1について

本願発明1の発明特定事項及び上記記載ア?ウ、オから、本願発明1の課題は「間葉系幹細胞の産生促進に有効な剤」を提供することであると認められる。

そして、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用については、発明の詳細な説明に、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、「コケモモの葉を細胞分解酵素(マセロチームA)で処理した細胞懸濁液に、1,3-BGを40体積%になるよう加えた懸濁液」、「マンゴスチンの樹皮を、70体積%1,3-BG(水と1,3-BGとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「オウゴンの周皮を除いた根を、70体積%エタノール(水とエタノールとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「市販のイノシトール粉末(和光純薬工業社製:ミオ-イノシトール)をPBSに溶解」したもの、及び「市販のフィチン酸(ナカライテスク社製:50%水溶液)」について、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、それらが、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有する結果が得られたことが記載されている(上記記載サ)。

しかし、間葉系幹細胞産生を促進する作用については、発明の詳細な説明に、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、又はイノシトールリン酸が間葉系幹細胞産生を促進する作用を有することを、実施例などにより具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。
そればかりか、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、イノシトールリン酸に、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された旨の記載がある(上記記載カ、上記記載キ、上記記載ク、上記記載ケ)。

また、発明の詳細な説明には、「本発明者等は、……、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010-209705号)。」(上記記載エ)及び「本発明者等の知見によれば、……、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生を亢進することによって、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化を図ることができる(特願2010-209705)。すなわち、本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化の目的に極めて有効に用いることが可能である。」(上記記載コ)との記載はあるものの、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
また、発明の詳細な説明には、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「間葉系幹細胞産生を促進する」作用を有することを、具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「間葉系幹細胞産生を促進する」作用を有すると認識できるとはいえない。
また、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「間葉系幹細胞産生を促進する」作用を有することが、本願の原出願の出願時の技術常識であったといえる根拠も見出せない。

なお、請求人は審判請求書の【請求の理由】欄において、上記記載エ及び上記記載コに示された特願2010-209705号について、
「また、’705出願記載の上記事項は、本願の原出願日、即ち、PCT/JP2011/065207の国際出願日である2011年7月1日時点では未公開でしたが、その後、’705出願に基づく優先権を主張する国際出願PCT/JP2011/071017の国際公開公報第2012/036211号パンフレット(2012年3月22日公開)により公開されております。しかも、当該国際公開公報の公開日である2012年3月22日は、本分割出願の原出願の公開日、即ち、国際公開公報第2013/005281号パンフレットの公開日である2013年1月10日よりも、遙か以前であります。言い換えれば、PDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与するという事項を裏付ける’705出願に記載の実験データは、本願発明の公開時点において既に公知であり、当業者が参酌することが可能であったということになります。
ここで、特許は発明の公開の代償として付与される独占権であり、特許明細書は発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権の成立後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにする役割を有することを考慮すると、当業者が特許明細書の記載に加え、出願公開の時点で利用可能な公知情報を勘案することにより、出願に係る発明を実施することができ、且つ、発明の課題が解決できることを認識できれば、実施可能要件及びサポート要件は満たされると解するのが適当であると思量致します。
しかも本件の場合、’705出願に記載の前記実験データは、本願出願の遙か前の’705出願の時点で既に取得されていたデータであり、且つ、公開を予定した’705出願の明細書に(実際に公開された内容と一字一句違わぬまま)具体的に記載され、御庁に提出されていたデータであります。それにもかかわらず、斯かる実験データの公開時点が本願出願日の以前か以後かによって、本願の実施可能要件及びサポート要件の充否が左右されるのは、極めて不合理であるといえます。
斯かる前提に立てば、当初明細書の記載に加えて、本願出願前に既に取得・作成され、本願公開前に公知となった‘705出願の前記実験データを参酌することにより、当業者は本願発明を十分に実施可能であり、且つ、本願発明の課題が解決できることを十分に認識可能であったと言えます。従って、たとえPDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与することを示す実験データが必要であると仮定しても、本願は実施可能要件及びサポート要件を満たしております。」などと述べている。

しかし、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきとされるところ、そもそも、特許出願に際し、出願人は、発明の詳細な説明を含む事項を記載した明細書、特許請求の範囲、及び必要な図面を願書に添付して提出しなければならず(特許法第36条第2項、第3項)、この明細書及び特許請求の範囲を、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たすように記載することは、出願人の責任に帰する。そして、明細書、特許請求の範囲又は図面に対する補正又は訂正による新規事項の追加は許されないから(特許法第17条の2第3項、同第126条第5項など)、サポート要件を満たす記載は、出願時になされていなければならない。したがって、したがって、サポート要件の判断は出願時を基準とするものであり、公開時を基準とするものではない。

このことは、仮にサポート要件の判断が公開時を基準とするものであるとすると、ある特許出願について、出願時に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載していない技術事項を、出願後かつ公開前に何らかの手段によって技術常識にしさえすれば、出願時にはサポート要件を満たさない出願を、その後にサポート要件を満たす出願に変えることが可能であるということになり、特許請求の範囲の記載について、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」に適合するように記載して出願することを定めた特許法第36条第6項第1号の趣旨に反することになることからも、明らかである。

そして、当業者とは、特許法第36条第4項第1号にいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」であって、ここでいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識」とは、出願時における技術常識であって、公開時における技術常識でも公知技術でもないことは明らかであるし、出願時に出願人の有していた知識でもないことも明らかである。

ここで、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、サポート要件の判断に際して、その番号の特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された内容を参酌できるかについて検討する。
まず、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されていても、その特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができない以上、その内容を明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
さらに、その番号の特許出願は公開前に取り下げられて未公開のままになることがあり得る。また、たとえその番号の特許出願に基づく優先権主張を伴う特許出願がなされたとしても、優先権主張を伴う特許出願の明細書等に、優先権の基礎とされた特許出願の明細書等に記載された内容が記載されていることは、法律上なんら保障されていない。
そうすると、明細書の発明の詳細な説明に、未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、その番号の特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができないだけでなく、その後に公開されるか否かすら不確定であるから、サポート要件の判断に際して参酌すべきではない。
このことは、特許法施行規則第24条に「願書に添付すべき明細書は、様式第29により作成しなければならない。」とあるとともに、様式第29備考6.に「文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に発明の全体を出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と規定する趣旨に合致する。

そして、上述のとおり、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならず、サポート要件の判断に際して参酌すべきではない。

したがって、上記「ア はじめに」において述べたとおり、分割出願において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当該分割出願の原出願の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきところ、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本願の原出願の出願時の技術常識に照らして本願発明1の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるともいえない。

よって、本願発明1は発明の詳細な説明に記載したものでないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

ウ 本願発明4について

本願発明4の発明特定事項及び上記記載ア?ウ、オから、本願発明4の課題は「幹細胞の安定化に有効な剤」を提供することであると認められる。

そして、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用については、発明の詳細な説明に、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、「コケモモの葉を細胞分解酵素(マセロチームA)で処理した細胞懸濁液に、1,3-BGを40体積%になるよう加えた懸濁液」、「マンゴスチンの樹皮を、70体積%1,3-BG(水と1,3-BGとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「オウゴンの周皮を除いた根を、70体積%エタノール(水とエタノールとの体積割合3:7の混合液)で抽出して得られた抽出物」、「市販のイノシトール粉末(和光純薬工業社製:ミオ-イノシトール)をPBSに溶解」したもの、及び「市販のフィチン酸(ナカライテスク社製:50%水溶液)」について、血管内皮細胞における血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)の産生亢進作用をmRNA量で評価したところ、それらが、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有する結果が得られたことが記載されている(上記記載サ)。

しかし、幹細胞を安定化する作用については、発明の詳細な説明に、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、又はイノシトールリン酸が幹細胞を安定化する作用を有することを、実施例などにより具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。
そればかりか、コケモモ由来物、マンゴスチン由来物、オウゴン由来物、イノシトール、イノシトールリン酸に、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生促進作用、間葉系幹細胞産生促進作用、幹細胞安定化作用、及び真皮安定化作用があることはこれまで全く知られておらず、これらの作用は本発明者らによって今回初めて見出された旨の記載がある(上記記載カ、上記記載キ、上記記載ク、上記記載ケ)。

また、発明の詳細な説明には、「本発明者等は、……、間葉系幹細胞の局在化に血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が関与していることを見出し、更には、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生亢進が間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化に寄与することを明らかにした(特願2010-209705号)。」(上記記載エ)及び「本発明者等の知見によれば、……、血管内皮細胞でのPDGF-BBの産生を亢進することによって、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化を図ることができる(特願2010-209705)。すなわち、本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の産生亢進及び安定化の目的に極めて有効に用いることが可能である。」(上記記載コ)との記載はあるものの、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
また、発明の詳細な説明には、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「幹細胞を安定化する」作用を有することを、具体的に示す記載はなく、技術常識に基づいた理論的な説明等も記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「幹細胞を安定化する」作用を有すると認識できるとはいえない。
また、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)発現を亢進させる作用を有するものであれば「幹細胞を安定化する」作用を有することが、本願の原出願の出願時の技術常識であったといえる根拠も見出せない。

なお、請求人は審判請求書の【請求の理由】欄において、上記記載エ及び上記記載コに示された特願2010-209705号について、
「また、’705出願記載の上記事項は、本願の原出願日、即ち、PCT/JP2011/065207の国際出願日である2011年7月1日時点では未公開でしたが、その後、’705出願に基づく優先権を主張する国際出願PCT/JP2011/071017の国際公開公報第2012/036211号パンフレット(2012年3月22日公開)により公開されております。しかも、当該国際公開公報の公開日である2012年3月22日は、本分割出願の原出願の公開日、即ち、国際公開公報第2013/005281号パンフレットの公開日である2013年1月10日よりも、遙か以前であります。言い換えれば、PDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与するという事項を裏付ける’705出願に記載の実験データは、本願発明の公開時点において既に公知であり、当業者が参酌することが可能であったということになります。
ここで、特許は発明の公開の代償として付与される独占権であり、特許明細書は発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権の成立後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにする役割を有することを考慮すると、当業者が特許明細書の記載に加え、出願公開の時点で利用可能な公知情報を勘案することにより、出願に係る発明を実施することができ、且つ、発明の課題が解決できることを認識できれば、実施可能要件及びサポート要件は満たされると解するのが適当であると思量致します。
しかも本件の場合、’705出願に記載の前記実験データは、本願出願の遙か前の’705出願の時点で既に取得されていたデータであり、且つ、公開を予定した’705出願の明細書に(実際に公開された内容と一字一句違わぬまま)具体的に記載され、御庁に提出されていたデータであります。それにもかかわらず、斯かる実験データの公開時点が本願出願日の以前か以後かによって、本願の実施可能要件及びサポート要件の充否が左右されるのは、極めて不合理であるといえます。
斯かる前提に立てば、当初明細書の記載に加えて、本願出願前に既に取得・作成され、本願公開前に公知となった‘705出願の前記実験データを参酌することにより、当業者は本願発明を十分に実施可能であり、且つ、本願発明の課題が解決できることを十分に認識可能であったと言えます。従って、たとえPDGF-BB産生亢進が間葉系幹細胞産生促進・幹細胞安定化に寄与することを示す実験データが必要であると仮定しても、本願は実施可能要件及びサポート要件を満たしております。」などと述べている。

しかし、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきとされるところ、そもそも、特許出願に際し、出願人は、発明の詳細な説明を含む事項を記載した明細書、特許請求の範囲、及び必要な図面を願書に添付して提出しなければならず(特許法第36条第2項、第3項)、この明細書及び特許請求の範囲を、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たすように記載することは、出願人の責任に帰する。そして、明細書、特許請求の範囲又は図面に対する補正又は訂正による新規事項の追加は許されないから(特許法第17条の2第3項、同第126条第5項など)、サポート要件を満たす記載は、出願時になされていなければならない。したがって、したがって、サポート要件の判断は出願時を基準とするものであり、公開時を基準とするものではない。

このことは、仮にサポート要件の判断が公開時を基準とするものであるとすると、ある特許出願について、出願時に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載していない技術事項を、出願後かつ公開前に何らかの手段によって技術常識にしさえすれば、出願時にはサポート要件を満たさない出願を、その後にサポート要件を満たす出願に変えることが可能であるということになり、特許請求の範囲の記載について、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」に適合するように記載して出願することを定めた特許法第36条第6項第1号の趣旨に反することになることからも、明らかである。

そして、当業者とは、特許法第36条第4項第1号にいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」であって、ここでいう「その発明の属する技術の分野における通常の知識」とは、出願時における技術常識であって、公開時における技術常識でも公知技術でもないことは明らかであるし、出願時に出願人の有していた知識でもないことも明らかである。

ここで、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、サポート要件の判断に際して、その番号の特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された内容を参酌できるかについて検討する。
まず、明細書の発明の詳細な説明に未公開の他の特許出願番号が記載されていても、その特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができない以上、その内容を明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならない。
さらに、その番号の特許出願は公開前に取り下げられて未公開のままになることがあり得る。また、たとえその番号の特許出願に基づく優先権主張を伴う特許出願がなされたとしても、優先権主張を伴う特許出願の明細書等に、優先権の基礎とされた特許出願の明細書等に記載された内容が記載されていることは、法律上なんら保障されていない。
そうすると、明細書の発明の詳細な説明に、未公開の他の特許出願番号が記載されている場合に、その番号の特許出願の内容は、本願出願時において当業者が把握することができないだけでなく、その後に公開されるか否かすら不確定であるから、サポート要件の判断に際して参酌すべきではない。
このことは、特許法施行規則第24条に「願書に添付すべき明細書は、様式第29により作成しなければならない。」とあるとともに、様式第29備考6.に「文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に発明の全体を出願当初から記載する。この場合において、他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と規定する趣旨に合致する。

そして、上述のとおり、特願2010-209705号の明細書、特許請求の範囲又は図面は本願の原出願である特願2011-530182号の出願時までに公開されておらず、その内容を本願の原出願の出願時において当業者が把握することはできなかった以上、上記記載エ及び上記記載コに「(特願2010-209705)」との表示があっても、その内容を上記記載エ又は上記記載コに記載されたものとして扱うことはできないし、その内容が本願の原出願の出願時において技術常識であったことを示す根拠にもならず、サポート要件の判断に際して参酌すべきではない。

したがって、上記「ア はじめに」において述べたとおり、分割出願において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当該分割出願の原出願の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきところ、本願発明4は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本願の原出願の出願時の技術常識に照らして本願発明4の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるともいえない。

よって、本願発明4は発明の詳細な説明に記載したものでないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-12 
結審通知日 2018-06-19 
審決日 2018-07-02 
出願番号 特願2015-224065(P2015-224065)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 肇  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 淺野 美奈
前田 佳与子
発明の名称 血小板由来成長因子-BB産生亢進剤、並びにそれを含む間葉系幹細胞産生促進剤、幹細胞安定化剤、及び真皮再生化剤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 武居 良太郎  
代理人 中島 勝  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  

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