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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1343397
審判番号 不服2017-4109  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-22 
確定日 2018-08-15 
事件の表示 特願2014-558844「シクロドデカトリエントリアルデヒド及び関連化合物の調製及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月29日国際公開、WO2013/126641、平成27年 5月14日国内公表、特表2015-513542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年2月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年2月24日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成26年 8月25日 手続補正書の提出
平成28年 7月26日付け 拒絶理由通知
同年10月27日 意見書・手続補正書の提出
同年11月17日付け 拒絶査定
平成29年 3月22日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提 出
同年10月30日付け 当審における拒絶理由通知
平成30年 1月31日 意見書・手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年1月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「 シクロドデカトリエンをヒドロホルミル化してシクロドデカトリエンのトリアルデヒドを形成する方法であって、該方法は:
a)溶媒中にロジウム化合物及び有機ホスファイト配位子を含む第1混合物を調製する工程;
b)前記第1混合物をCO及びH_(2)を含むガスの存在下かつシクロドデカトリエンの不存在下で、圧力70?700psig及び温度50?120℃にて加熱して、活性化された触媒複合体を含む第2混合物を形成する工程;及び
c)シクロドデカトリエンと前記第2混合物とを合わせて、第3混合物を形成する工程、
を含み、
ステップc)において、シクロドデカトリエンを反応させてトリアルデヒドを形成する、方法。」
(下線は、平成29年3月22日付け手続補正により補正された請求項1に対して、平成30年1月31日付けの手続補正により補正された箇所である。)

第3 当審が通知した拒絶理由
平成29年10月30日付けで当審が通知した拒絶理由は理由1及び2であるところ、そのうち理由2は次のとおりである。
「本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
そして、刊行物として、次の刊行物1?4を挙げている。
刊行物1:特開2001-163824号公報(原査定の引用文献1)
刊行物2:特表2003-505438号公報
刊行物3:特開2012-1720号公報
刊行物4:国際公開第2011/046781号(特表2013-508274号公報)

第4 当審の判断
当審は、本願は、上記理由2によって拒絶すべきものであると判断する。
理由は以下のとおりである。

(1)引用刊行物及びそれらの記載事項
刊行物1:特開2001-163824号公報(原査定の引用文献1)
刊行物2:特表2003-505438号公報
刊行物3:特開2012-1720号公報
刊行物4:国際公開第2011/046781号(特表2013-508274号公報)

刊行物1:
1a)「【0013】本発明に用いられるヒドロホルミル化生成液は多くのヒドロホルミル化プロセスからの生成液に適用可能である。本発明により回収または分離されるアルデヒドはアルデヒド基を1個、2個、3個またはそれ以上含有する、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物または複素環式化合物である。このアルデヒドは好ましくは炭素数6以上であり、且つ1気圧において130℃の沸点を有するアルデヒドである。また、原料となるオレフィンは内部オレフィン、外部オレフィンどちらでもよく、分子内に両者を含有していてもよい。
【0014】原料となるオレフィンとしては以下の化合物が挙げられる。脂肪族モノアルデヒドの原料である脂肪族モノオレフィンとして、1-ブテン、2-ブテンなどの各異性体および混合ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンの各異性体とその混合物、および各種α-オレフィン、ビニルシクロヘキサン類などが挙げられる。脂肪族ジアルデヒドの原料である脂肪族ジオレフィンとして、1,3-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン、1,11-ドデカジエン、ジビニルシクロヘキセンなどが挙げられる。脂環式アルデヒドの原料である脂環式オレフィンとして、シクロヘキセン、1,5-シクロオクタジエン、シクロデカトリエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ビニルシクロヘキセン、テルペン類などが挙げられる。芳香族骨格および複素環を有するオレフィンとしてはスチレン類、ジビニルベンゼン類、ビニルピリジン類が挙げられる。脂肪族アルケナールとしては3-ブテン-1-アール、5-ヘキセン-1-ア-ル、7-オクテン-1-ア-ル、9-デケン-1-ア-ル、11-ドデケン-1-アールなどが挙げられる。脂環式アルケナールとしては3-(3-ビニルシクロヘキシル)プロピオンアルデヒド、3-(4-ビニルシクロヘキシル)プロピオンアルデヒド、トリシクロデセンアルデヒドなどが挙げられる。芳香族骨格を有するアルケナールとしては(3-ビニルフェニル)アセトアルデヒド、(4-ビニルフェニル)アセトアルデヒド、3-ビニルベンズアルデヒド、4-ビニルベンズアルデヒドなどが挙げられる。
【0015】また、原料オレフィンに各種置換基が存在していてもよく、そのような置換基としてはヒドロキシル基、エーテルおよびアセタールを含むアルコキシ基、アセトキシのようなアルカノイルオキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキサミド基、ケト基、シアノ基、ハロゲン基などが含まれていてもよい。
【0016】本発明におけるアルデヒド合成用の金属錯体触媒としては、反応条件下においてヒドロホルミル化触媒能を有する任意のコバルト化合物、またはその他のロジウム化合物を用いることができるが、比較的温和な条件で反応を進行することができるロジウム-有機リン化合物を用いることが好ましい。本発明で使用されるロジウム化合物は有機リン化合物と錯体を形成し水素と一酸化炭素存在下でヒドロホルミル化活性を示す物であればその前駆体の形態によらない。すなわち、Rh(acac)(CO)_(2),Rh_(2)O_(3),Rh_(4)(CO)_(12),Rh_(6)(CO)_(16),Rh(NO_(3))_(3)などの触媒前駆体物質を有機リン化合物と一緒に反応混合物中に導入し反応容器内で触媒活性を持つロジウム金属ヒドリドカルボニルリン錯体を形成させてもよいし、あらかじめロジウム金属ヒドリドカルボニルリン触媒を調製してそれを反応容器内に導入してもよい。本発明の好ましい具体例では、Rh(acac)(CO)_(2) をロジウム前駆体物質として使用して溶媒の存在下に有機リン化合物と反応させた後、過剰の遊離有機リン化合物と一緒に反応器に導入し、触媒活性を持つロジウム-有機リン錯体触媒とすることができる。いずれにしても、本発明の目的に対しては、ヒドロホルミル化反応で使用される一酸化炭素および水素の存在する条件下で活性ロジウム-有機リン触媒が反応混合物中に存在すれば充分である。
【0017】本発明において、ロジウム化合物とヒドロホルミル化反応の触媒を形成する有機リン化合物としてはホスフィンおよびホスファイトである。ホスフィンとしては第1、第2および第3ホスフィンである。アリール置換アルキルを含むアルキル基、シクロヘキシルのようなシクロアルキル基、並びにフェニルおよび1個以上のアルキル基で置換されたフェニルのようなアリール基を置換基として持つ第3ホスフィンが好適に使用される。第3ホスフィンにはトリアルキルホスフィン配位子:例えばトリ-n-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル-n-オクチルホスフィン:・・・が含まれる。・・・
【0018】ホスファイトとしては置換基で置換されたものが好ましい。好適な置換基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基;メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、メトキシ基などで置換されていてもよいフェニル基およびナフチル基などのアリール基;メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの脂肪族アルキル基;メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの低級アルキル基で置換されていてもよいシクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式アルキル基等が挙げられる。好適なホスファイトの具体例としては、トリフェニルホスファイト、トリス(2-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(3-メトキシ-6-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ジ(2-t-ブチルフェニル)t-ブチルホスファイトなどが挙げられるが、これらのホスファイトのみに限定されるものではない。また、これらのホスファイトは単独で使用してもよいし、2種以上を組合わせて使用しても良い。上記トリオルガノホスファイト以外に、特表昭61-501268や特開平8-165266、特開平8-337550、特開平10-45776、特開平10-130190記載の各種ビスホスファイトが使用できる。不斉炭素を持つホスファイト配位子も適用可能である。
・・・
【0020】本発明に従うヒドロホルミル化反応は溶媒を用いずに実施することも可能であるが、反応に不活性な炭化水素溶媒を用いるとより好適に実施できる。ヒドロホルミル化反応終了後、アルデヒドを含有する反応生成液を抽出溶剤である炭素数2?6の多価アルコールと混合し、触媒成分を炭化水素溶媒に、アルデヒド成分を抽出溶剤に抽出した後、2層分離を行う。そのため炭化水素溶媒は炭素数2?6の多価アルコールと層分離するものが好ましい。この様な炭化水素溶媒としては芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物、脂環式炭化水素化合物が挙げられる。
【0021】芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼンおよびトルエン、キシレン、メシチレン、プソイドクメンなどのメチルベンゼン類、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼンなどのエチルベンゼン類、イソプロピルベンゼン、1,3-ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼンなどのプロピルベンゼン類、またこれら以外の各種アルキルベンゼン類が好適に使用できる。脂肪族炭化水素化合物としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ドデカン、デカン等が好適に使用でき、標準温度および圧力で液体であればこれらに限定されない。・・・
【0022】本発明において好適なロジウム触媒の量としては、原料のオレフィンに対して、ロジウム金属として1?5000ppmであり、より好ましくは5?2000ppmである。ロジウムを10ppm以上で使う場合においては、触媒の再使用が必ず必要になってくる。ヒドロホルミル化反応を実施するための温度および圧力に関する条件は、40?160℃、好ましくは70?140℃の反応温度、および10?150気圧の反応圧力である。温度が40℃より低い場合はヒドロホルミル化の反応が遅く、160℃より高い場合は反応溶液中におけるオレフィンやヒドロホルミル化反応生成物からの副反応が進行し反応成績が悪化する。また、圧力が10気圧より低い場合はヒドロホルミル化の反応が遅く、150気圧より高い場合は高圧の反応装置を使用するため装置費用が高くなってしまう。反応に用いられる水素/一酸化炭素混合ガスにおける一酸化炭素に対する水素のモル比は導入ガス組成として0.2?5.0の範囲から選ぶことができる。水素/一酸化炭素混合ガスがこの範囲を外れるとヒドロホルミル化反応の反応活性あるいはアルデヒド選択率が低下する。」

1b)「【0039】実施例2
[トリシクロペンタジエンのヒドロホルミル化]ガス導入管およびサンプル抜き出し管を備えた内容量500mL のステンレス製電磁攪拌式オートクレーブに、Rh(acac)(CO)_(2)0.0334g(0.129mmol)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト 2.50g(3.86mmol)およびメチルシクロヘキサン 40gを仕込み、窒素ガス0.5MPa で2回置換し、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガス0.5MPaで3回置換し、反応器内酸素濃度を100ppm以下とした。次いでオートクレーブ内に水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガスを供給して内圧を5.0Mpa に維持しながら、トリシクロペンタジエン250g 、およびメチルシクロヘキサン 60gからなる混合液を2時間かけて連続的にオートクレーブにフィードした。この間、オートクレーブ内の温度は100℃に保った。ジシクロペンタジエンを含有する上記の混合液のフィード終了後、100℃で更に3時間攪拌し反応を継続した。
【0040】反応終了後、オートクレーブ下部抜き出し管より生成液を一部サンプリングし、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、トリシクロペンタジエンの転化率は100%であり、ペンタシクロペンタデカンジカルバルデヒドの収率は99.0%であることが判った。トリシクロペンタジエンの二重結合の1つだけがヒドロホルミル化されたモノアルデヒド体の収率は1.0%であった。なお、原料であるトリシクロペンタジエンと溶媒のメチルシクロヘキサンはヒドロホルミル化反応前に蒸留を実施し、窒素下で保存しておいたものである。」

1c)「【0046】実施例4
[トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンのヒドロホルミル化]実施例2と同様な操作に従い、オートクレーブにRh(acac)(CO)_(2)0.0334g(0.129mmol)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト2.50g(3.86mmol)およびメチルシクロヘキサン40gを仕込み、トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエン200g、およびメチルシクロヘキサン60gからなる混合液を2時間かけて連続的にオートクレーブにフィードした。この間、オートクレーブ内の温度は100℃に保った。上記の混合液のフィード終了後、100℃で更に3時間攪拌し反応を継続した。
【0047】反応終了後、オートクレーブ下部抜き出し管より生成液を一部サンプリングし、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンの転化率は100%であり、モノ-ホルミル-シクロドデカジエン化合物(C13体)の収率は0.2%、ジ-ホルミル-シクロドデセン化合物(C14体)の収率は1.3%、トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)の収率は98.5%であった。」

刊行物2:
2a)「 【請求項3】 1種以上の環状アルデヒドを製造する方法であって、
(1)金属-有機燐リガンド錯体触媒、所望により遊離の有機燐リガンドおよび非極性溶媒の存在下で、環状オレフィン性不飽和化合物を一酸化炭素および水素と反応させて多相反応生成物流体を形成すること;ならびに(2)該多相反応生成物流体を分離して、該環状オレフィン性不飽和化合物、金属-有機燐リガンド錯体触媒、所望により遊離の有機燐リガンドおよび非極性溶媒を含む非極性相と、該環状アルデヒドを含む極性相とを得ること
を含む方法。」

2b)「 【0009】
詳細な説明
一般的プロセス
本発明の方法は、・・・
【0011】
例となるプロセスとしては、例えばヒドロホルミル化、ヒドロアシル化(分子内および分子間)、ヒドロシアン化(hydrocyanation)、ヒドロアミド化、ヒドロエステル化、アミノリシス、アルコーリシス、ヒドロカルボニル化、ヒドロキシカルボニル化、カルボニル化、オレフィン異性化、トランスファー水素化等が包含される。好ましいプロセスは、触媒量の金属-有機燐リガンド錯体触媒の存在下での、環状有機化合物と、一酸化炭素との反応または、一酸化炭素および第3の反応剤、例えば水素との反応、または、シアン化水素との反応を含む。最も好ましいプロセスは、ヒドロホルミル化、ヒドロシアン化(hydrocyanation)、ヒドロカルボニル化、ヒドロキシカルボニル化およびカルボニル化を含む。
【0012】
ヒドロホルミル化は、当技術分野で公知の慣用の手順にしたがって行うことができる。例えば、環状オレフィン化合物、一酸化炭素および水素を、ヒドロホルミル化の条件下で、本明細書に記載した金属-有機燐リガンド錯体触媒の存在下で反応させることによって、環状アルデヒドを製造することができる。ヒドロホルミル化のプロセスは、以下においてより充分に記載されている。」

2c)「 【0027】
本発明により包含されるプロセスにおいて使用可能な、例となる金属-有機燐リガンド錯体触媒ならびにその製造方法は当技術分野でよく知られており、以下に挙げる特許において開示されているものを包含する。一般に、そのような触媒は、そのような参考文献において記載されているように、「その場」(in situ)で予備形成されるかまたは形成されることができ、有機燐リガンドと組合せた錯体中の金属から本質的になる。活性種はまた、金属に直接結合された、一酸化炭素および/または水素を含むことができる。
【0028】
プロセスにおいて有用な触媒は、光学活性であるかまたは光学活性でないことができる、金属-有機燐リガンド錯体触媒を包含する。金属-有機燐リガンド錯体を構成する、許容される金属としては、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)およびそれらの混合物から選択される、第8、9および10族金属が含まれ、好ましい金属はロジウム、コバルト、イリジウムおよびルテニウムであり、より好ましくはロジウム、コバルトおよびルテニウムであり、特にロジウムである。・・・金属-有機燐リガンド錯体を構成する、許容される有機燐リガンドおよび遊離の有機燐リガンドとしては、有機ホスフィン、例えばビスホスフィンおよびトリオルガノホスフィン、ならびに有機ホスファイト、例えばモノ-、ジ-、トリ-およびポリオルガノホスファイトが含まれる。他の許容される有機燐リガンドとしては、例えば有機ホスホナイト、有機ホスフィナイト、有機燐アミド等が含まれる。所望なら、そのようなリガンドの混合物を、金属-有機燐リガンド錯体触媒および/または遊離のリガンドにおいて使用することができ、そのような混合物は同じかまたは異なることができる。・・・本明細書においては、いかなる理論またはメカニズムの論議にも結び付けられることを意図しないが、触媒種は、その最も単純な形態において、有機燐リガンドと組合せた錯体中の金属および、使用されるときには一酸化炭素および/または水素から本質的になり得ると思われる。
【0029】
・・・金属-有機燐リガンド錯体が触媒するプロセス、例えばヒドロホルミル化において、活性触媒が、金属に直接結合したハロゲンおよび硫黄を含まないことが、絶対に必要というわけではないが、好ましい。好ましい金属-リガンド錯体触媒としては、ロジウム-有機ホスフィンリガンド錯体触媒およびロジウム-有機ホスファイトリガンド錯体触媒が含まれる。
【0030】
そのような金属にて利用可能な配位部位の数は、当技術分野でよく知られている。かくして、触媒種は、単核、二核または高次核の形態で、錯体触媒混合物を含むことができ、好ましくは、金属、例えばロジウム1分子当たり錯体形成された少なくとも1つの有機燐含有分子によって特徴づけられる。例えば、ヒドロホルミル化反応において使用される好ましい触媒の触媒種は、有機燐リガンドの他に、ヒドロホルミル化反応によって使用される一酸化炭素および水素気体を考慮して、一酸化炭素および水素と錯体形成することができる。
【0031】
・・・
【0032】
反応混合物出発物質の金属-有機ホスフィン錯体触媒のリガンドおよび/または遊離の有機ホスフィンリガンドとして働くことができる有機ホスフィンの中には、トリオルガノホスフィン、トリアルキルホスフィン、アルキルジアリールホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、ジシクロアルキルアリールホスフィン、シクロアルキルジアリールホスフィン、トリアラルキルホスフィン、トリアルカリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、およびトリアリールホスフィン、アルキルおよび/またはアリールビスホスフィンならびにビスホスフィンモノオキシド等がある。もちろん、そのような第3級の非イオン性有機ホスフィンの任意の炭化水素基を、所望なら、ヒドロホルミル化反応の所望の結果に不適当に悪影響を与えない任意の適当な置換基で置換することができる。反応において使用可能な有機ホスフィンリガンドおよび/またはその製造方法は当技術分野で公知である。
・・・
【0038】
反応混合物出発物質の金属-有機ホスファイト錯体触媒のリガンドおよび/または遊離の有機ホスファイトリガンドとして働くことができる有機ホスファイトの中には、モノオルガノホスファイト、ジオルガノホスファイト、トリオルガノホスファイトおよびオルガノポリホスファイトがある。本発明において使用可能な有機ホスファイトリガンドおよび/またはその製造方法は、当技術分野で公知である。
【0039】
典型的モノオルガノホスファイトは、式:
・・・
【0042】
典型的ジオルガノホスファイトは、式:
・・・
【0049】
典型的なトリオルガノホスファイトとしては、式:
【0050】
【化5】

【0051】
(ここで、各R^(8)は同じかまたは異なり、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリールおよびアラルキル基であり、これらは1?24個の炭素原子を含むことができ、好ましくは少なくとも1つのR^(8)が、リガンドを親油性にするのに充分なC_(4)?C_(30)脂肪族基を含む)
を有するものを包含し得る。・・・。最も好ましいトリオルガノホスファイトは、リガンドを親油性にするのに充分な、少なくとも1つのC_(4)?C_(30)脂肪族基で置換されたトリフェニルホスファイトである。そのようなトリオルガノホスファイトは、例えば米国特許・・・その開示は、参照することによって本明細書に組入れられる。」

2d)「 【0065】
金属-有機燐リガンド錯体触媒は好ましくは均一形態である。例えば、予備形成されたロジウムヒドリド-カルボニル-有機燐リガンド触媒を製造することができ、特定のプロセスの反応混合物中へと導入することができる。より好ましくは、金属-有機燐リガンド錯体触媒は、ロジウム触媒前駆体から誘導することができ、これを、活性触媒の「その場」での形成のために反応媒体中へ導入することができる。例えば、ロジウム触媒前駆体、例えばロジウムジカルボニルアセチルセトネート、Rh_(2)O_(3)、Rh_(4)(CO)_(12)、Rh_(6)(CO)_(16)、Rh(NO_(3))_(3)等を、活性触媒の「その場」での形成のために有機燐リガンドと一緒に反応混合物中へ導入することができる。」

2e)「 【0069】
本発明の方法において使用可能な許容される反応条件はもちろん、所望の特定の合成に依存して選択される。そのようなプロセス条件は、当技術分野でよく知られている。本発明の方法のすべてを、当技術分野で公知の慣用の手順にしたがって行うことができる。本発明の方法を行うための例となる反応条件は、例えばカーク-オスマー(Kirk-Othmer)の化学技術辞典(Encyclopedia of Chemical Technology)、第4版、1996年に記載されており、その関連部分は、参照することによって本明細書に組入れられる。特定のプロセスに依存して、操作温度は約-80℃またはそれ以下?約500℃またはそれ以上の範囲にあることができ、操作圧力は、約1psigまたはそれ以下?約10,000psigまたはそれ以上の範囲にあることができる。
【0070】
本発明の方法は、所望の環状生成物を製造するのに充分な時間行われる。使用される正確な反応時間は、温度、圧力、出発物質の性質および割合等のような要因に、一部分依存する。反応時間は通常、約0.5時間?約200時間またはそれ以上の範囲内にあり、好ましくは約1時間未満?約10時間である。」

2f)「 【0073】
先に示したように、本発明の方法は、非極性溶媒の存在下で行われる。・・・
【0075】
本発明において有用な例となる非極性溶媒としては、例えば・・・ヘプタン、・・・が含まれる。」

2g)「 【0092】
ヒドロホルミル化プロセス
本発明において有用な好ましいプロセスはヒドロホルミル化である。例となる金属-有機燐リガンド錯体が触媒するヒドロホルミル化プロセスは、例えば米国特許第号;第4,148,830号;第4,593,127号;第4,769,498号;第4,717,775号;第4,774,361号;第4,885,401号;第5,264,616号;第5,288,918号;第5,360,988号;第5,364,950号および第5,491,266号に記載されているものであり、その開示は、参照することによって本明細書に組入れられる。したがって、本発明のヒドロホルミル化処理技術は、任意の公知の処理技術に相当し得る。好ましいプロセスは、触媒液体再利用ヒドロホルミル化プロセスを含むものである。
【0093】
一般に、そのような触媒液体再利用ヒドロホルミル化プロセスは、金属-有機燐リガンド錯体触媒の存在下で、触媒およびリガンドのための非極性溶媒をまた含む液体媒体中で、環状オレフィン性不飽和化合物を一酸化炭素および水素と反応させることによる環状アルデヒドの製造を含む。・・・
【0095】
本発明のヒドロホルミル化プロセス(および他の適当なプロセス)において使用することができる置換もしくは非置換の環状オレフィン反応剤は、約6?40個またはそれ以上、好ましくは6?20個の炭素原子を含む、光学活性(プロキラルおよびキラル)および非光学活性(アキラル)の両方のオレフィン性不飽和化合物を含む。そのような環状オレフィン性不飽和化合物は、オレフィン混合物と同様に、末端もしくは内部で不飽和であり得る。その上、そのような環状オレフィン化合物は1つ以上のエチレン性不飽和基をさらに含むことができ、もちろん、2種以上の異なる環状オレフィン性不飽和化合物の混合物を、所望なら、出発物質として使用することができる。例えば、4個以上の炭素原子を含む市販のαオレフィンは、少量の対応する内部オレフィンおよび/または対応する飽和炭化水素を含むことができ、そのような市販のオレフィンは、反応させる前に必しも精製する必要はない。ヒドロホルミル化反応において使用することができる、・・・
【0096】
最も好ましくは、本発明は、約6?30個、好ましくは6?20個の炭素原子を含む環状のアキラルなαオレフィンおよび、約6?20個の炭素原子を含む環状のアキラルな内部オレフィン、ならびに、そのようなαオレフィンおよび内部オレフィンの出発物質混合物をヒドロホルミル化することによる、環状の非光学活性のアルデヒドの製造のために特に有用である。適当な置換および非置換の環状オレフィン出発物質の例としては、J.マーチ(March)、上級有機化学 (Advanced Organic Chemistry)、ウィリー、ニューヨーク、1992年、839-852頁(その関連部分は、参照することにより本明細書に組入れられる)に記載された、そのような許容される置換および非置換の環状オレフィン化合物が含まれる。
【0097】
示されているように、本発明のヒドロホルミル化プロセスは、前記した金属-有機燐リガンド錯体触媒の使用を含む。・・・一般に、約10?500ppmの金属、例えばロジウム、より好ましくは25?400ppmの金属、例えばロジウムを使用するのが好ましい。
【0098】
・・・
【0099】
本発明に含まれるヒドロホルミル化プロセスの反応条件は、光学活性および/または非光学活性なアルデヒドを製造するためにこれまで使用された、任意の適当なタイプのヒドロホルミル化条件を含み得る。例えば、水素、一酸化炭素およびヒドロホルミル化プロセスのオレフィン出発化合物の全気体圧力は、約1?約10,000psiaの範囲にあり得る。しかし、一般に、水素、一酸化炭素およびオレフィン出発化合物の全気体圧力約2000psia未満、より好ましくは約1000psia未満でプロセスを行うのが好ましい。最小全圧は主に、所望の反応速度を得るのに必要な反応剤の量によって限定される。より詳細には、本発明のヒドロホルミル化プロセスの一酸化炭素分圧は好ましくは約1?約1000psia、より好ましくは約3?約800psiaであり、一方、水素分圧は、好ましくは約5?約500psia、より好ましくは約10?約300psiaである。一般に、気体状水素対一酸化炭素のH_(2):COモル比は約1:10?100:1またはそれ以上の範囲にあることができ、より好ましい水素対一酸化炭素モル比は約1:10?約10:1である。さらに、ヒドロホルミル化プロセスは、約‐25℃?約200℃の反応温度で行うことができる。一般に、約50?約120℃のヒドロホルミル化反応温度が、すべてのタイプのオレフィン出発物質のために好ましい。」

2h)「 【0109】
・・・
〔例〕
以下に示されたリガンドが、以下の例において使用される。
【0110】
【化9】

【0111】
例1
300ppmのロジウムをリガンド/ロジウムのモル比20/1で含む、ロジウムジカルボニルアセチルアセトネートおよびリガンドAのヘキサン(20g)溶液を、80ミリリットルのパー(Parr)反応器に入れ、90℃および100psiの合成ガス(CO/H_(2) 1:1)にて約1時間活性化した。1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒド(6g)およびオクタン(4g、内部標準)の混合物をオートクレーブに入れた。反応進行中に採取した試料のガスクロマトグラフィー分析により、反応速度を決定した。反応速度は、2.5モル/リットル・時間(モル/L-時間)であることがわかった。
【0112】
例2?6
リガンドAの代わりにリガンドB?Fを用いた変更で、例1に記載した手順を繰り返した。リガンドB?Fについての反応速度を表1にまとめる。
【0113】
【表4】

【0114】
例7
リガンドAの代わりにリガンドCを用い、ヘキサンの代わりにトルエンを用いた変更で、例1に記載した手順を繰り返した。反応速度は4.4モル/L-時間であることがわかった。
【0115】
例8
300ppmのロジウムをリガンド/ロジウムのモル比20/1で含む、ロジウムジカルボニルアセチルアセトネートおよびリガンドCのヘキサン(20g)溶液を、パー(Parr)反応器に入れ、90℃および100psiの合成ガス(CO/H_(2) 1:1)にて約1時間活性化した。1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒド(40g)をオートクレーブに仕込み、90℃および100psiの合成ガスにてヒドロホルミル化した。反応進行中、CO/H_(2)比を1:1に維持した。ガスクロマトグラフィー分析が、1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの完全消費を示すまで、反応を続けた。1,3-および1,4-シクロヘキサンジカルボキシアルデヒド生成物への選択性は95%より上であった。・・・
【0116】
例9
1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの代わりに3-シクロヘキセン-1-メタノールを用いた変更で、例8に記載した手順を繰り返した。反応が完了すると、2相系が形成された。3-(ヒドロキシメチル)-1-シクロヘキサンカルボキシアルデヒドおよび4-(ヒドロキシメチル)-1-シクロヘキサンカルボキシアルデヒド生成物(それぞれの異性体についてシスおよびトランス形態)への選択性は95%以上であった。・・・
【0117】
例10
1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの代わりに3-シクロヘキセン-1-カルボニトリルを用いた変更で、例8に記載した手順を繰り返した。反応が完了すると、2相系が形成された。3-シアノ-1-シクロヘキサンカルボキシアルデヒドおよび4-シアノ-1-シクロヘキサンカルボキシアルデヒド生成物(それぞれの異性体についてシスおよびトランス形態)への選択性は95%以上であった。・・・
【0118】
例11
1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの代わりに5-ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒドを用いた変更で、例8に記載した手順を繰り返した。反応が完了すると、2相系が形成された。エキソ,エキソ-2,5-ノルボルナンジカルボキシアルデヒド、エキソ,エキソ-2,6-ノルボルナンジカルボキシアルデヒド、エキソ,エンド-2,5-ノルボルナンジカルボキシアルデヒド、エキソ,エンド-2,6-ノルボルナンジカルボキシアルデヒド、エンド,エンド-2,5-ノルボルナンジカルボキシアルデヒドおよびエンド,エンド-2,6-ノルボルナンジカルボキシアルデヒド生成物(エンドおよびエキソ混合物)への選択性は95%以上であった。・・・
【0119】
例12
1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの代わりに5-ノルボルネン-2-カルボニトリルを用いた変更で、例8に記載した手順を繰り返した。反応が完了すると、2相系が形成された。エキソ,エキソ-2-シアノ-5-ノルボルナンカルボキシアルデヒド、エキソ,エキソ-2-シアノ-6-ノルボルナンカルボキシアルデヒド、エキソ,エンド-2-シアノ-5-ノルボルナンカルボキシアルデヒド、エキソ,エンド-2-シアノ-6-ノルボルナンカルボキシアルデヒド、エンド,エンド-2-シアノ-5-ノルボルナンカルボキシアルデヒドおよびエンド,エンド-2-シアノ-6-ノルボルナンカルボキシアルデヒド生成物への選択性は95%以上であった。・・・
【0120】
例13
1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの代わりに4-ビニル-1-シクロヘキセンを用いた変更で、例8に記載した手順を繰り返した。反応が完了すると、2相系が形成された。3-(3-ホルミルシクロヘキシル)プロパナール、3-(4-ホルミルシクロヘキシル)プロパナール、2-(3-ホルミルシクロヘキシル)プロパナールおよび2-(4-ホルミルシクロヘキシル)プロパナール生成物への選択性は95%以上であった。・・・
【0121】
例14
1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの代わりに3-シクロヘキセン-1-メタノールを用いた変更で、例8に記載した手順を繰り返した。反応完了後、取り出した混合物にアセトニトリル(40g)を添加した。混合物を振とうし、放置し、2相が分離された。上相からアセトニトリルを蒸発させ、アルデヒド生成物、すなわち3-(ヒドロキシメチル)-1-シクロヘキサンカルボキシアルデヒドおよび4-(ヒドロキシメチル)-1-シクロヘキサンカルボキシアルデヒド生成物(それぞれの異性体についてシスおよびトランス形態)を、蒸留によって精製した。ヘプタン上相は、主に触媒およびリガンドを含んでいた。」

刊行物3:
3a)「【0060】
第2コンポーネントのポリアルデヒドは2?20個の炭素原子を有するこのような分子を含むことができ、またはポリアルデヒドは20個を超える炭素原子、すなわち、100以下を有することができ、ただし、20個を超える炭素原子を有するポリアルデヒドは11個の炭素原子ごとに少なくとも1つのアルデヒド基、例えば、10個の炭素原子ごとに少なくとも1つのアルデヒド基を有するであろう。ポリアルデヒドは環式、直鎖、もしくは分岐の;環式かつ非芳香族;環式かつ芳香族(例えば、3-ホルミルベンズアルデヒド)、またはその組み合わせであることができる。」

3b)「【0066】
好適な環式ポリアルデヒドの例は・・・。シクロドデカン-1,4,8-トリカルバルデヒドは1,3-ブタジエンをトリマー化して1,4,8-シクロドデカトリエンを得て、後述のヒドロホルミル化条件を用いてこの1,4,8-シクロドデカトリエンをヒドロホルミル化する方法によって製造されうる。
・・・
【0070】
本発明のポリアルデヒドは何らかの好適な手段、例えば、対応するポリオールの酸化によって、並びにポリアルデヒドを製造するバッチ式および連続方法で製造されうる。好ましくは、ポリアルデヒドは実質的に水不溶性のモノオレフィン含有アルデヒド化合物、実質的に水不溶性の多オレフィン含有アルデヒド化合物、もしくは実質的に水不溶性の多オレフィン含有出発化合物(本明細書においては、簡略化のために、集合的に、実質的に水不溶性のオレフィン含有化合物と称する)をヒドロホルミル化することによって製造される。ヒドロホルミル化工程は何らかの従来の手段によって、例えば、水素ガス、一酸化炭素、およびオレフィン含有出発化合物を用いて製造されうる。好ましくは、ヒドロホルミル化工程は概して、改良された分離プロセスを記載する米国特許第6,252,121B1号に記載される様な方法で行われる。
【0071】
好適なヒドロホルミル化方法においては、例えば、水素ガス(H_(2))、一酸化炭素(CO)およびオレフィン出発化合物の全ガス圧力は約1ポンド/平行インチ絶対圧力(psia;6.9キロパスカル(kPa))?約10,000psia(69メガパスカル(MPa))の範囲であり得る。しかし、概して、その方法は水素、一酸化炭素および実質的に水不溶性のオレフィン含有化合物の全ガス圧力約2000psia未満、より好ましくは約1000psia未満で操作されるのが好ましい。最小全圧力は、反応の所望の速度を得るのに必要な反応物質の量によって主に限定される。より具体的には、本発明のヒドロホルミル化方法の一酸化炭素分圧は好ましくは約1psia?約1000psia、より好ましくは約3psia?約800psiaであり、一方、水素分圧は好ましくは約5psia?約500psia、より好ましくは約10psia?約300psiaである。概して、ガス状水素対一酸化炭素のH_(2):COモル比は約1:10?100:1、もしくはそれより高い範囲であることができ、より好ましくは、水素:一酸化炭素モル比は約1:10?約10:1でありうる。さらに、ヒドロホルミル化方法は約-25℃?約200℃の反応温度で行われることができる。概して、約50℃?約120℃のヒドロホルミル化反応温度が全ての種類のオレフィン含有化合物に好ましい。
【0072】
好ましくは、ヒドロホルミル化は連続方法で行われる。連続ヒドロホルミル化方法は当該技術分野において周知であり、(a)オレフィン含有化合物を一酸化炭素および水素ガスを用いて、非極性溶媒、金属-有機リンリガンド複合体触媒および遊離の有機リンリガンドを含む液体均一反応混合物中でヒドロホルミル化し;(b)オレフィン含有化合物のヒドロホルミル化に有利な反応温度および圧力条件を維持し;(c)組成量のオレフィン含有化合物、一酸化炭素および水素ガスを、これら反応物質が使い尽くされる様に反応媒体に供給し;並びに(d)相分離によって所望のポリアルデヒド生成物を回収する;ことを伴うことができる。」

3c)「【0134】
製造例
製造1:1,3-および1,4-シクロヘキサンジカルボキシアルデヒドの約1:1混合物(P1)の製造。
米国特許第6,252,121号の実施例8の手順に従う。ヘキサン(20グラム)中のロジウムジカルボニルアセチルアセトナートおよびトリス(2,4-ビス(1,1-ジメチルエチルフェニル)ホスファイト)(すなわち、リガンドC)の溶液(300ppmのロジウムを含み、20/1のリガンドC/ロジウムモル比を有する)がParr反応器に入れられ、90℃および100psiの合成ガス(CO/H_(2)=1:1)で約1時間活性化される。1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒド(40グラム、1,3-ブタジエンおよびアクロレインのディールスアルダー反応によって製造される)をこのオートクレーブに入れ、90℃および100psiの合成ガスでヒドロホルミル化する。このCO/H_(2)比は反応過程中1:1に維持される。ガスクロマトグラフ分析が1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドの完全な消費を示すまで、この反応が続けられる。1,3-および1,4-シクロヘキサンジカルボキシアルデヒド生成物の選択性は95%を超える。このオートクレーブは周囲温度まで冷却され、反応混合物はオートクレーブから取り出されて2相系を生じさせる。上部ヘプタン相は主として触媒およびリガンドCを含み、これは所望の場合には、別のバッチの1,2,3,6-テトラヒドロベンズアルデヒドのヒドロホルミル化のために再利用されうる。下相が分け取られ、ヘプタンで洗浄され、蒸留によって精製されて、(シス/トランス)-1,3-シクロヘキサンジカルボキシアルデヒドおよび(シス/トランス)-1,4-シクロヘキサンジカルボキシアルデヒドの約1:1混合物(P1)を得る。」

刊行物4(訳文で示す):
4a)「1.少なくとも1種のアルデヒド生成物を製造するためのヒドロホルミル化方法であって、気相反応条件においてヒドロホルミル化触媒の存在下で一酸化炭素、水素及び1種以上のオレフィン系不飽和化合物を接触させることを含み、前記触媒が少なくとも1種のオルガノホスフィットリガンドを含むリガンドと触媒金属を含み、前記触媒が担体上に物理吸着されており、少なくとも一部の時間水蒸気が存在している方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

4b)「本発明のヒドロホルミル化方法において用いることのできる置換されたもしくは未置換のオレフィン系化合物は、2?8個、好ましくは3?6個の炭素原子及び1以上の炭素-炭素二重結合(C=C)を含む光学活性な(プロキラル及びキラル)及び非光学活性な(アキラル)不飽和化合物を含む。そのようなオレフィン系化合物は末端もしくは内部不飽和であってよく、直鎖、分枝鎖、又は環式構造であってよい。さらに、そのようなオレフィン系化合物は1種以上のエチレン系不飽和基を含んでいてもよい。混合ブテンのようなオレフィン混合物も用いてよく、たとえばラフィネートI及びラフィネートIIは当業者に良く知られている。そのようなオレフィン系化合物及びそれより得られる対応するアルデヒド生成物も本発明のヒドロホルミル化に悪影響を与えない1種以上の基もしくは置換基を含んでいてよく、好適な基もしくは置換基は、例えばUS3,527,809、US4,769,498に記載されている。」(4頁3?14行)

4c)「触媒は担体に物理吸着された別個の金属-リガンド錯体を含む。好ましくは、ヒドロホルミル化触媒は金属-オルガノホスフィットリガンド錯体触媒を含み、このリガンドは、例えばオルガノモノホスフィットリガンド、オルガノポリホスフィットリガンド、又はこれらの組み合わせを含む。より好ましくは、ヒドロホルミル化触媒は金属-オルガノホスフィットリガンド錯体触媒を含む。
本発明の触媒は、担体に金属-リガンド錯体を加えることにより形成され、又は金属前駆体及びリガンドを担体に加えることにより現場で形成される。
遷移金属-リガンド錯体触媒の好適な金属は、例えばロジウム(Rh)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)及びこれらの混合物より選ばれるVIII族金属を含み、好ましい金属はロジウム、コバルト、イリジウム及びルテニウムであり、より好ましくはロジウム、コバルト及びルテニウムであり、最も好ましくはロジウムである。他の可能な金属は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及びこれらの混合物より選ばれるVIA族金属を含む。VIA族金属とVIII族金属の混合物のような金属の混合物も用いることができる。VIA族金属及びVIII族金属は"Chemistry of the Elements", Greenwood and Earnshaw, Pergamon Press, 1984に規定されている。
遷移金属-オルガノホスフィットリガンド錯体触媒に加えて、遊離オルガノホスフィットリガンドが反応ゾーンに存在してもよい。本発明において、「オルガノホスフィットリガンド」とは、オルガノポリホスフィット及びオルガノモノホスフィットの両者のリガンドを包含する。オルガノホスフィットリガンドは錯体であっても未結合であってもよい。「遊離オルガノホスフィットリガンド」とは、錯体触媒のロジウム原子のような金属と錯体を形成していないオルガノホスフィットリガンドを意味する。
オルガノホスフィットリガンドは好ましくはオルガノポリホスフィットリガンドを含む。一酸化炭素及び水素が存在する場合、金属はリガンド、一酸化炭素及び水素と直接結合すると考えられる。CO及び水素もリガンドと解釈されるが、本明細書においては「リガンド」とは、特に示さない限り、有機リン種を意味する。
・・・
下式を有する6,6'-[[3,3',5,5'-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-[1,1'-ビフェニル]-2,2'-ジイル]ビス(オキシ)]ビスジベンゾ[d,f][1,3,2]-ジオキサホスフェピン

・・・R^(11)は水素又は1?10個の炭素原子を有するアルキルラジカル、好ましくはメチルを表し、各R^(12)は同一であるか異なり、水素又は1?約10個の炭素原子を有するアルキル、好ましくはメチルを表し、・・・
トリオルガノモノホスフィットの例は、下式を有するものを含む。

上式中、各R^(13)は同一であるか異なり、1?24個の炭素原子を有する置換されたもしくは未置換の一価炭化水素ラジカル、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、又はアラルキルラジカルである。トリオルガノモノホスフィットの例は、例えばトリアルキルホスフィット、ジアルキルアリールホスフィット、アルキルジアリールホスフィット、及びトリアリールホスフィット、例えばトリフェニルホスフィット、トリス(2,6-トリイソプロピル)ホスフィット、トリス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)ホスフィット、並びにより好ましいトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィットを含む。これらの一価炭化水素ラジカル部分は官能化されていてもよいが、ただしこの官能基は遷移金属と相互作用しないか又はヒドロホルミル化を阻害しないものである。官能基の例は、アルキルもしくはアリールラジカル、エーテル、ニトリル、アミド、エステル、-N(R^(11))_(2)、-Si(R^(12))_(3)、ホスフェート等(R^(11)及びR^(12)は前記の規定と同じである)を含む。そのようなトリオルガノモノホスフィットはUS3,527,809及びUS5,277,532に詳細に記載されている。」(5頁21行?24頁11行)

4d)「本発明において、GHSVは気体時間空間速度であり、これは触媒上の気体流の速度である。これは1時間あたり触媒上を通過する気体の体積(25℃、1気圧)を触媒の体積で割ることにより求められる(供給材料のリットル/hr/触媒のリットル)。GHSVは、例えば反応条件、供給材料の組成、及び用いる触媒の量及びタイプのような多くのファクターによって大きく異なる。GHSVは約1?約30,000hr^(-1)、好ましくは少なくとも約500hr^(-1)、より好ましくは少なくとも1,000hr^(-1)に維持される。
通常、本発明のヒドロホルミル化方法はあらゆる操作可能な反応温度で行ってよい。反応ゾーンにおける温度は約15℃?約200℃、好ましくは約50℃?約150℃、特に好ましくは約75℃?約125℃の温度範囲より選ばれる。一態様において、この温度は約-25℃より高く、約200℃未満である。
通常、本発明のヒドロホルミル化方法はあらゆる操作可能な反応圧力で行ってよい。通常、水素、一酸化炭素及びオレフィン出発化合物を含む総気体圧力は約1psia(6.9kPa)?約10,000psia(68.9MPa)である。しかし、通常、水素、一酸化炭素及びオレフィン出発化合物の総気体圧力は、好ましくは約2,000psia(613.8MPa)未満、より好ましくは約500psia(3.4MPa)未満である。さらに、本発明のヒドロホルミル化方法の一酸化炭素分圧は約1psia(6.9kPa)?約1000psia(6,890kPa)であり、より好ましくは約3psia(20.7kPa)?約800psia(5,516kPa)であり、さらに好ましくは約20psia(137.8kPa)?約100psia(689kPa)であり、水素分圧は好ましくは約5psia(34.5kPa)?約500psia(3,450kPa)であり、より好ましくは約10psia(68.9kPa)?約300psia(2070kPa)である。一態様において、水素、一酸化炭素及びオレフィン出発化合物を含む総気体圧力は約25psia(173kPa)より高く、約2,000psia(13,800kPa)未満である。」(27頁4?末行)

4e)「例1-Rh=0.5wt%
以下のようにして触媒を調製する。N_(2)ドライボックス中において、0.0267gのRh(CO)_(2)AcAc及び0.0865gのリガンドD(リガンドD:Rh=1)を1.5mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。この溶液を1ステップで2.04gの10-20メッシュKA-160(市販入手可能なシリカ)に加える。この混合物を穏やかに振盪し、ついでドライボックスから出し、密閉したバイアルにいれ、約1/2時間回転させる。この触媒は0.5wt%のロジウムを含んでいる。次いで、0.760g(1.5mL)の触媒を反応器チューブに入れる。この触媒は、H_(2):CO=1:1中において70℃、100psigにおいて2時間加熱することにより「活性化」される。流速は約10SLHである。
この後、プロピレンを加え、プロピレン=6.74SLH、H_(2)=2.6SLH、及びCO=1.60SLHに調整し、圧力80psig及び温度70℃において方法Aに従う。ノルマル-イソ生成物の比(n/i)=26.9及び119.3lb/ft^(3) cat-hrにおいて約6時間まず触媒を活性を過度にする。48時間以内で活性は35lb/ft^(3) cat-hrに低下する。温度を60℃に下げ、17lb/ft^(3) cat-hrのアルデヒド活性において1週間操作する。この間、n/iは29で比較的一定のままである。
理論付けようとするものではないが、最初の過活性は触媒に対して毒性である分解性生物の形成前の活性であると考えられ、活性の低下はそのような触媒毒の堆積によるものと考えられる。アルドール反応からの現場で形成した水(及び供給材料からの不純物)が、それが形成するのと同じ速度で毒を分解する時点において活性レベルは安定する。
・・・
例5-(方法B)
ガラス反応器チューブに、入口ガス供給スパージャー以上のレベルまでガラスビーズを入れる。次に、10-20メッシュのKA-160を担体として加え、反応器をシールし、N_(2)中に入れる。例1と同様にして、しかし方法Bを用いて、THFに溶解したRh(CO)_(2)AcAc及びリガンドD(L:Rh=1.15)をシリンジにてKA-160に加える。ロジウム濃度は520ppmである。プロピレンを加える前に例1と同様にして触媒を現場で活性化させる。反応の間、リガンドを触媒に加える。以下のようにして定期的に緩衝液によって触媒も洗浄する。結果を図3に示す。実験は70℃、100psig、H_(2)=2.80SLH、CO=1.60SLH、及びプロピレン=6.74SLHにて開始する。合成ガスは水飽和する(残留触媒活性化期間及び当初の過活性は存在しない)。4日において、THF中0.5当量のリガンドDを触媒に加える。37.2lb/ft^(3) cat-hr及びn/i比52において活性は一定となる。8日から39日まで、活性は一定である。
温度は39日において80℃に上昇する。他の条件はすべて同じである。活性は40lb/ft^(3) cat-hrに上昇し、n/iは33に低下する。
緩衝液洗浄1-42日において、圧力は1atmに低下し、合成ガス/プロピレンを止め、N_(2)を開始する。4mLの燐酸ナトリウム緩衝液を加える。触媒層を溶液で覆う。緩衝液を15分間保持し、次いでシリンジによって除去する。触媒をH_(2)及びCOにより、80℃、100psigにおいて2時間再活性化させ、次いで当初の流れを再び確立する。42日から56日まで、この条件に反応を保つ。活性は約30lb/ft^(3) cat-hrであり、n/i=30である。
緩衝液洗浄2-63日において、温度を100℃に高め、他の条件は同じである。63日及び69日において緩衝液洗浄を行う。この条件において緩衝液洗浄により安定な活性を維持する。

例6
以下のようにしてトリオルガノホスフィットリガンドを用いて触媒を製造する。全ての工程をN_(2)下で行う。0.0033gのRh(CO)_(2)AcAc及び0.0818gのトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィットを1.419gのテトラグリムに溶解する。穏やかに加熱後、1.374gのこの混合物を2.001gのKA-160に加える。この混合物を0.5時間回転させる。得られる触媒は354ppmのロジウムを含み、リガンド:Rhのモル比は10である。
この触媒を用いて、以下の条件:80℃、150psig、H_(2)=1.44SLH、CO=0.8SLH、及びプロピレン=1.86SLHにおいて例5に記載のようにしてプロピレンをヒドロホルミル化する。最初のならし期間後、アルデヒド活性=15.5lb/ft^(3) cat-hr、n/i=1.7である。160時間後、活性=7.9lb/ft^(3)、n/i=1.7である。

例7
以下のようにしてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィットから触媒担体を調製する。3.64gのトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィットを0.9gのスターチと混合し、ダイ中で17,000psigにおいて1時間プレスする。得られた個体ペレットを粉砕し、8-20メッシュにふるいわけする。この担体材料は約80%トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィット及び20%スターチである。N_(2)下において、0.0043gのRh(CO)_(2)AcAc及び0.0211gのリガンドCを1.008gのメタノールに溶解する。0.913gのこの混合物を2.003gのトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフィット/スターチ担体に加える。この材料をよく混合し、真空中に2時間おく。
この触媒を用いて、80℃、150psig、H_(2)=1.42SLH、CO=0.8SLH、プロピレン=1.86SLH、及びN_(2)=7.0SLHにおいて実験を行うことを除き、例5の方法に従いプロピレンをヒドロホルミル化する。得られたデータを図4に示す。
N_(2)は4日で止め、他の条件はすべて同じである。8日において、活性=1.5lb/ft^(3) cat-hr、n/i=10.3である。28日において温度を90℃に高める。活性は=3lb/ft^(3)に上昇し、n/iは5に低下する。」(33頁下から3行?37頁7行)

(2)引用発明
刊行物1には、ヒドロホルミル化によりアルデヒドを製造することが記載されているところ(摘示1a?1c)、実施例4には、実施例2と同様な操作に従い、トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンをヒドロホルミル化して、モノ-ホルミル-シクロドデカジエン化合物(C13体)、ジ-ホルミル-シクロドデセン化合物(C14体)、トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)を生成する旨が記載されている(摘示1c)。
したがって、当該実施例2及び4の記載からみて、刊行物1には、
「ガス導入管およびサンプル抜き出し管を備えた内容量500mL のステンレス製電磁攪拌式オートクレーブに、Rh(acac)(CO)_(2) 0.0334g(0.129mmol)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト2.50g(3.86mmol)およびメチルシクロヘキサン40gを仕込み、窒素ガス0.5MPa で2回置換し、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガス0.5MPaで3回置換し、反応器内酸素濃度を100ppm 以下とし、次いでオートクレーブ内に水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガスを供給して内圧を5.0Mpa に維持しながら、トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエン200g、およびメチルシクロヘキサン60gからなる混合液を2時間かけて連続的にオートクレーブにフィードし、この間、オートクレーブ内の温度は100℃に保ち、上記の混合液のフィード終了後、100℃で更に3時間攪拌し反応を継続し、モノ-ホルミル-シクロドデカジエン化合物(C13体)、ジ-ホルミル-シクロドデセン化合物(C14体)、トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)を生成する方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3)対比・判断
ア 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明は、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の存在下に、「トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエン」から生成物の一つとして「トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)」を形成する方法であるといえるところ、この方法の反応はヒドロホルミル化であり、「トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエン」及び「トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)」は本願発明1の「シクロドデカトリエン」及び「シクロドデカトリエンのトリアルデヒド」に相当するから、本願発明1と引用発明とは、「シクロドデカトリエンをヒドロホルミル化してシクロドデカトリエンのトリアルデヒドを形成する方法であ」る点で一致する。
ステップa)について
また、引用発明は、Rh(acac)(CO)_(2) 0.0334g(0.129mmol)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト2.50g(3.86mmol)およびメチルシクロヘキサン40gを仕込むものであるところ、「Rh(acac)(CO)_(2)」及び「メチルシクロヘキサン」はそれぞれ、本願発明1の「ロジウム化合物」及び「溶媒」に相当し、「Rh(acac)(CO)_(2)」と「トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト」について、ロジウム化合物は有機リン化合物と錯体を形成し水素と一酸化炭素存在下でヒドロホルミル化活性を示す物であることから(摘示1a、段落【0016】)、引用発明の「トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト」は本願発明1の「有機ホスファイト配位子」に相当する。そして、引用発明において、これら3成分を仕込むことで混合物が調製されることは自明であり、引用発明において、当該混合物は最初に形成される混合物であるから、この「Rh(acac)(CO)_(2)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト及びメチルシクロヘキサンを仕込んでできる混合物」は、本願発明1の「第1混合物」に相当する。したがって、本願発明1と引用発明とは、「a)溶媒中にロジウム化合物及び有機ホスファイト配位子を含む第1混合物を調製する工程」を含む点で一致する。
ステップb)について
そして、引用発明は上記した3成分を仕込んだ後、窒素ガス0.5MPa で2回置換し、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガス0.5MPaで3回置換し、反応器内酸素濃度を100ppm 以下とするものであるところ、この処理における温度は明らかでなく、この処理で活性化された触媒複合体が形成されるともされていないから、引用発明は本願発明1のステップb)を含むとはいえない。
ステップc)について
さらに、引用発明は、次いで、オートクレーブ内に水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガスを供給して内圧を5.0Mpa に維持しながら、トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエン200g、およびメチルシクロヘキサン60gからなる混合液を2時間かけて連続的にオートクレーブにフィードし、この間、オートクレーブ内の温度は100℃に保ち、上記の混合液のフィード終了後、100℃で更に3時間攪拌し反応を継続し、モノ-ホルミル-シクロドデカジエン化合物(C13体)、ジ-ホルミル-シクロドデセン化合物(C14体)、トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)を生成するものである。
ここで、引用発明は、上記した第1混合物に相当する混合物を窒素ガス、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガスで処理した物にトランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンを含む混合液をフィードするものであるところ、このフィードによってトランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンを反応させてトリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)が生成することは明らかである。
そして、引用発明において生成するモノ-ホルミル-シクロドデカジエン化合物(C13体)、ジ-ホルミル-シクロドデセン化合物(C14体)、トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)が混合物を形成することは明らかであり、該混合物は本願発明1のステップc)で形成される混合物に相当する。
さらに、本願発明1の第2混合物は第1混合物に由来する混合物であるといえるところ、引用発明の第1混合物に相当する混合物を上記混合ガスで処理した物も上記第1混合物に相当する混合物に由来する混合物であるといえ、この限りにおいて一致する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「c)シクロドデカトリエンと第1混合物に由来する混合物とを合わせて、混合物を形成する工程、を含み、ステップc)において、シクロドデカトリエンを反応させてトリアルデヒドを形成する、方法」である点で一致する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、
「シクロドデカトリエンをヒドロホルミル化してシクロドデカトリエンのトリアルデヒドを形成する方法であって、該方法は:
a)溶媒中にロジウム化合物及び有機ホスファイト配位子を含む第1混合物を調製する工程;及び
c)シクロドデカトリエンと第1混合物に由来する混合物とを合わせて、混合物を形成する工程、を含み、
ステップc)において、シクロドデカトリエンを反応させてトリアルデヒドを形成する、方法。」
である点で一致し、以下の2点で相違する。

<相違点1>
本願発明1が、b)第1混合物をCO及びH_(2)を含むガスの存在下かつシクロドデカトリエンの不存在下で、圧力70?700psig及び温度50?120℃にて加熱して、活性化された触媒複合体を含む第2混合物を形成する工程を有するのに対し、引用発明はステップb)を含むとはいえない点
<相違点2>
本願発明1は、ステップc)におけるシクロドデカトリエンと合わせる第1混合物に由来する混合物が、ステップb)により形成された第2混合物としており、また、ステップc)で形成される混合物が第3混合物であると特定しているのに対し、引用発明は、上記第1混合物に由来する混合物が、「ガス導入管およびサンプル抜き出し管を備えた内容量500mL のステンレス製電磁攪拌式オートクレーブに、Rh(acac)(CO)_(2) 0.0334g(0.129mmol)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト2.50g(3.86mmol)およびメチルシクロヘキサン40gを仕込み、窒素ガス0.5MPa で2回置換し、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガス0.5MPaで3回置換し、反応器内酸素濃度を100ppm 以下とし」て生じた混合物であり、また、ステップc)で形成される混合物に名称がつけられていない点

上記各相違点について検討する。
<相違点1>について
上述のとおり、引用発明のロジウム化合物は有機リン化合物と錯体を形成し水素と一酸化炭素存在下でヒドロホルミル化活性を示す物であるところ、刊行物1には、Rh(acac)(CO)_(2),Rh_(2)O_(3),Rh_(4)(CO)_(12),Rh_(6)(CO)_(16),Rh(NO_(3))_(3)などの触媒前駆体物質を有機リン化合物と一緒に反応混合物中に導入し反応容器内で触媒活性を持つロジウム金属ヒドリドカルボニルリン錯体を形成させてもよいし、あらかじめロジウム金属ヒドリドカルボニルリン触媒を調製してそれを反応容器内に導入してもよいこと、Rh(acac)(CO)_(2)をロジウム前駆体物質として使用して溶媒の存在下に有機リン化合物と反応させた後、過剰の遊離有機リン化合物と一緒に反応器に導入し、触媒活性を持つロジウム-有機リン錯体触媒とすることができることが記載されており(摘示1a、段落【0016】)、触媒活性を持つ触媒はヒドロホルミル化反応開始前に調製してよいことが示唆されているといえると共に、該触媒は、触媒複合体であるといえる。
一方、上記刊行物2?4には、各種オレフィンのヒドロホルミル化反応において、ヒドロホルミル化反応に供する原料の供給前にRh(acac)(CO)_(2)等のロジウム化合物とトリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等の有機ホスファイト配位子を混合した物を、その後に、相違点1に係る技術的事項であるガス、圧力、温度の条件に該当する条件下(刊行物2:CO/H_(2) 1:1、100psi、90℃(摘示2h)、刊行物3:CO/H_(2)=1:1、100psi、90℃(摘示3c)、刊行物4:H_(2):CO=1:1、100psig、70℃(摘示4e))で、活性化し、活性化された触媒とすることが記載されており(摘示2a?2h、3a?3c、4a?4e)、このことからみて、ロジウム化合物と有機ホスファイト配位子を用いる触媒を使用するヒドロホルミル化反応において、当該反応の開始前に触媒を活性化すること、当該活性化を相違点1に係るガス、圧力、温度の条件に該当する条件下で行うことは公知であるといえる。
してみると、出発物質がオレフィン化合物に含まれる引用発明において、第1混合物に相当する混合物を調製した後、ヒドロホルミル化反応開始前(トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンとメチルシクロヘキサンの混合液をフィードする前)に触媒活性を持つ触媒を調製するために、第1混合物に相当する混合物を刊行物2?4に記載された条件と同様の条件で処理するものとすることで、第1混合物をCO及びH_(2)を含むガスの存在下かつシクロドデカトリエンの不存在下で、圧力70?700psig及び温度50?120℃にて加熱することに該当する条件で処理して、活性化された触媒複合体を含む第2混合物を形成する工程を有するものとすることは、当業者が容易になし得た事項である。

<相違点2>について
引用発明において上記相違点1に係る技術的事項を採用した場合には、引用発明の「ガス導入管およびサンプル抜き出し管を備えた内容量500mL のステンレス製電磁攪拌式オートクレーブに、Rh(acac)(CO)_(2) 0.0334g(0.129mmol)、トリス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト2.50g(3.86mmol)およびメチルシクロヘキサン40gを仕込み、窒素ガス0.5MPa で2回置換し、水素/一酸化炭素=1/1(モル比)の混合ガス0.5MPaで3回置換し、反応器内酸素濃度を100ppm 以下とし」て生じた混合物に相違点1に係る技術的事項であるステップb)を経た混合物は上記第2混合物となるから、引用発明のトランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンと合わせる混合物は自ずと本願発明1で特定される第2混合物と同じ物となる。また、トランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンと当該第2混合物とを合わせて形成される混合物に適宜の名称(第3混合物)を付与することは格別のことではないから、相違点2に係る技術的事項を採用することに格別の創意を要したものとはいえない。

<効果について>
本願明細書の記載からみて、本願発明1が奏する効果は、シクロドデカトリエンのモノ及びジアルデヒドを除去するための別々のステップを必要とせず、シクロドデカトリエンのトリアルデヒドを選択的に調製できることである(段落【0013】)と解され、具体的には、本願明細書に記載された実施例1において、モノ、ビス及びトリアルデヒドの生成割合が1:8:93(全アルデヒド中トリアルデヒドは約91%)であることが記載されている。一方、刊行物1の実施例4では、トリ-ホルミル-シクロドデカン化合物(C15体)の収率が98.5%であることが記載されており、トリアルデヒドの収率が高いことは、トリアルデヒドを選択的に調製できることを意味し、また、トリアルデヒドが選択的に調製できれば、本願明細書において認識されている範囲においてシクロドデカトリエンのモノ及びジアルデヒドを除去するための別々のステップを必要としないこととなるから、刊行物1に記載されたこの具体例と対比しても、本願発明1が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。

したがって、本願発明1は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年1月31日付けの意見書において、(i)「本願発明は、穏やかな条件を用いて高収率でシクロドデカトリエンのトリアルデヒドを調製すること、及びシクロドデカトリエンのトリアルデヒドを選択的に調製するヒドロホルミル化に着目します。」、(ii)「刊行物1は、トリエンからトリアルデヒドを製造する方法に特段着目するものではありません。このことは、刊行物1の他の実施例におけるジエンのヒドロホルミル化に関する記載を含めた刊行物1全体の記載から理解できます。」、(iii)「刊行物1には、(実施例4にトリエンの教示があるとしても)、ジエンとトリエンとでのこのような反応性の違いに考慮した反応条件を選択するという技術思想も、当該技術思想に基づいた具体的反応条件の教示もないのであり、例えば刊行物2?4に教示される活性剤を単純に刊行物1に適用しても、本願発明に係る方法で規定する、トリエンのヒドロホルミル化のための特定条件の構成を当業者が想起することはできません。」等と主張する。
そこで検討する。
(i)について
本願発明1では、ヒドロホルミル化反応自体の反応条件について、何ら特定するものではないが、本願明細書には、反応条件に関する一般的な記載として、
「【0035】
CO及びH_(2)を含むガスの存在下で第1混合物を加熱して第2混合物を形成するとき、反応容器内の圧力は70psig?2200psigである。さらなる実施形態では、圧力は300?800psigであり、400?700psigがより好ましく、550?650psigの圧力がさらにより好ましく、約600psigの圧力が最も好ましい。より高い圧力はヒドロホルミル化反応を促進するはずであると考えられる。
【0036】
反応物を、撹拌、掻き混ぜ、又は他の方法で機械的に混合することで、反応成分の混合を確実にすることができる。
【0037】
第1混合物を50?120℃の温度(反応温度は、使用する溶媒及び反応容器内の圧力に依存する)に加熱する。より好ましくは、反応は70?100℃で行われる;またより好ましくは、反応温度は75?85℃である;さらにより好ましくは、反応温度は80℃である。
【0038】
ヒドロホルミル化の反応時間は、一般的に4?24時間である。より好ましくは、反応時間は6?12時間である。さらにより好ましくは、反応時間は8?10時間であり、9時間が一般的である。一態様では、反応は80℃で9時間行われる。」との記載がある。
さらに、明細書に記載の実施例1においては、ヒドロホルミル化反応について「【0099】
実施例1・・・反応器を45℃に加温し、合成ガスを排気して、シクロドデカトリエン(34.3g)を100mLのガスタイトシリンジで添加した。混合物を合成ガスでパージし、次いで、合成ガスで150psigに加圧した。反応物を80℃に加熱した。温度が79℃に達すると、合成ガス圧を600psigに上昇させた。試料を三方弁を介して定期的に取り出し、GCで分析した。反応は、200psigの合成ガス下で一晩撹拌せずに室温まで冷却することで、9時間後に停止した。透明な下部の生成物相をサンプリングラインを介して反応器から収集した(38.4g)。触媒溶液を130psigの合成ガス及び室温下で反応器中に放置した。合成ガスを排気した。追加のシクロドデカトリエン(34.3g)を、ガスタイトシリンジを介して反応器に添加した。反応器を合成ガスでパージし、合成ガスで600psigに加圧した。反応器を6時間80℃に加熱し、一晩かけて室温まで冷却した。翌日、反応を80℃で3.5時間続けた。反応物を150psigの合成ガス下で一晩撹拌せずに室温まで冷却した。生成物(49.4g)をサンプルラインを通して収集した。生成物及び触媒溶液の残りの反応器の内容物を集め、反応器をTHFで洗浄して乾燥させた。
【0099】
いくつかのトリアルデヒド反応生成物を合わせ、GC及びNMRを用いて分析した。」との記載がある。
【0035】及び【0037】の記載は、ヒドロホルミル化反応についての記載であるか必ずしも明らかでないが、仮に当該記載がヒドロホルミル化反応についてのものであるとすると、本願明細書には、ヒドロホルミル化反応の条件として、圧力70psig?2200psig、温度が50?120℃、時間が4?24時間という条件が記載されている。一方、刊行物1には、ヒドロホルミル化反応を実施するための温度および圧力に関する条件は、40?160℃、好ましくは70?140℃の反応温度、および10?150気圧(注:換算して約132?2190psig)の反応圧力であること、実施例4では、100℃、5.0MPa(注:換算して約710psig)で合計5時間反応させることが記載されており(摘示1a?1c)、温度、圧力については本願明細書の【0035】及び【0037】に記載のものは刊行物1に記載されたものと重複ないし一致し、本願明細書の実施例に記載のものは、室温まで冷却する等の工程があるため判然としない部分もあるが、少なくとも反応当初の条件は刊行物1に記載された範囲内のものと認める。なお、時間については刊行物1には一般的な記載はないものの、引用発明における反応時間(合計5時間)は本願明細書に記載された4?24時間に該当する。したがって、いずれの点を考慮しても、本願明細書に記載された条件が刊行物1に記載された条件と比較して穏やかな条件であるとはいえない。
また、トリアルデヒドの収率、選択的な調製については上記(3)で述べたとおりである。
したがって、本願発明が、引用発明と比較して、穏やかな条件を用いて高収率でシクロドデカトリエンのトリアルデヒドを調製するものであり、シクロドデカトリエンのトリアルデヒドを選択的に調製するヒドロホルミル化であるとはいえない。
(ii)について
刊行物1の請求項1には、「○1(注:○の中に1。以下同様。)アルデヒド、○2ロジウム化合物及び有機リン化合物からなる触媒成分、及び○3炭化水素溶媒を含むヒドロホルミル化反応生成液と炭素数2?6の多価アルコールからなる抽出溶媒とを酸素濃度1000ppm以下の雰囲気で混合した後、得られた混合物を炭化水素溶媒層と抽出溶媒層に2層分離し、抽出溶媒層より該アルデヒドを単離することを特徴とする高沸点アルデヒドの回収法。」と記載され、上記アルデヒドの原料化合物としては、「【0013】・・・原料となるオレフィンは内部オレフィン、外部オレフィンどちらでもよく、分子内に両者を含有していてもよい。
【0014】原料となるオレフィンとしては以下の化合物が挙げられる。脂肪族モノアルデヒドの原料である脂肪族モノオレフィンとして、1-ブテン、2-ブテンなどの各異性体および混合ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンの各異性体とその混合物、および各種α-オレフィン、ビニルシクロヘキサン類などが挙げられる。脂肪族ジアルデヒドの原料である脂肪族ジオレフィンとして、1,3-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン、1,11-ドデカジエン、ジビニルシクロヘキセンなどが挙げられる。脂環式アルデヒドの原料である脂環式オレフィンとして、シクロヘキセン、1,5-シクロオクタジエン、シクロデカトリエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ビニルシクロヘキセン、テルペン類などが挙げられる。芳香族骨格および複素環を有するオレフィンとしてはスチレン類、ジビニルベンゼン類、ビニルピリジン類が挙げられる。脂肪族アルケナールとしては3-ブテン-1-アール、5-ヘキセン-1-ア-ル、7-オクテン-1-ア-ル、9-デケン-1-ア-ル、11-ドデケン-1-アールなどが挙げられる。脂環式アルケナールとしては3-(3-ビニルシクロヘキシル)プロピオンアルデヒド、3-(4-ビニルシクロヘキシル)プロピオンアルデヒド、トリシクロデセンアルデヒドなどが挙げられる。芳香族骨格を有するアルケナールとしては(3-ビニルフェニル)アセトアルデヒド、(4-ビニルフェニル)アセトアルデヒド、3-ビニルベンズアルデヒド、4-ビニルベンズアルデヒドなどが挙げられる。
【0015】また、原料オレフィンに各種置換基が存在していてもよく、そのような置換基としてはヒドロキシル基、エーテルおよびアセタールを含むアルコキシ基、アセトキシのようなアルカノイルオキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキサミド基、ケト基、シアノ基、ハロゲン基などが含まれていてもよい。」(摘示1a)と記載されており、また、この原料に対応して、ヒドロホルミル化の生成物として、「アルデヒド基を1個、2個、3個またはそれ以上含有する、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物または複素環式化合物」(摘示1a)が記載されており、これら原料及びそれに対応する生成物はそれぞれ独立して記載されているといえる。そして、これらに該当するもののうち、引用発明として認定したのは、原料としてシクロドデカトリエンを用いるものに相当する、実施例4に記載のトランス、トランス、シス-1,5,9-シクロドデカトリエンのヒドロホルミル化についてであって、トリエン構造を有する化合物、ジエン等の他のオレフィン構造を有する化合物に関して、それぞれが独立した発明として記載されていることからみても、刊行物1におけるジエン等の他のオレフィン構造を有する化合物のヒドロホルミル化の記載がトリエン構造を有する化合物の反応についての判断に影響を与えるものでない。
したがって、刊行物1がトリエンからトリアルデヒドを製造する方法に特段着目するものかどうかは、進歩性の判断を左右しない。
(iii)について
刊行物2?4には、ヒドロホルミル化プロセスにおいて使用することができる置換もしくは非置換の環状オレフィン反応剤について、環状オレフィン化合物は1つ以上のエチレン性不飽和基をさらに含むことができること(摘示2g)、ポリアルデヒドは実質的に水不溶性のモノオレフィン含有アルデヒド化合物、実質的に水不溶性の多オレフィン含有アルデヒド化合物、もしくは実質的に水不溶性の多オレフィン含有出発化合物をヒドロホルミル化することによって製造されること(摘示3b)、ヒドロホルミル化法において用いることのできる置換されたもしくは未置換のオレフィン系化合物は、2?8個、好ましくは3?6個の炭素原子及び1以上の炭素-炭素二重結合(C=C)を含む光学活性な(プロキラル及びキラル)及び非光学活性な(アキラル)不飽和化合物を含む。そのようなオレフィン系化合物は末端もしくは内部不飽和であってよく、直鎖、分枝鎖、又は環式構造であってよいこと(摘示4b)が記載され、さらに刊行物3には、シクロドデカン-1,4,8-トリカルバルデヒドはヒドロホルミル化条件を用いて1,4,8-シクロドデカトリエンをヒドロホルミル化する方法によって製造されうる旨の記載もあり(摘示3b)、これらの記載から、刊行物2?4には、1,4,8-シクロドデカトリエンを含めた様々な原料を用いるヒドロホルミル化についての記載があり、トリエン構造を有する化合物のヒドロホルミル化について示唆されているといえる。そして、上記「(ii)について」で述べたとおり、刊行物1には、トリエン構造を有する化合物に関して独立した発明として記載されているのであるから、刊行物1に記載された発明に、刊行物2?4に記載された事項を適用することは当業者が容易に行う事項であるといえる。
したがって、刊行物1に、ジエンとトリエンとで反応性の違いに考慮した反応条件を選択するという技術思想も、当該技術思想に基づいた具体的反応条件の教示もないことが、刊行物2?4に教示される活性剤を刊行物1に適用しても、本願発明に係る方法で規定する、トリエンのヒドロホルミル化のための特定条件の構成を当業者が想起することはできないとする理由とはならない。

よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の点を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-15 
結審通知日 2018-03-20 
審決日 2018-04-03 
出願番号 特願2014-558844(P2014-558844)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 冨永 保
瀬下 浩一
発明の名称 シクロドデカトリエントリアルデヒド及び関連化合物の調製及び使用  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 胡田 尚則  

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