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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C25D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C25D
管理番号 1343472
審判番号 不服2017-4051  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-21 
確定日 2018-09-18 
事件の表示 特願2016-516064「金属プレート」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/000003、平成28年 9月29日国内公表、特表2016-530396、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年) 6月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年 7月 5日 (AT)オーストリア共和国)を国際出願日とする出願であって、平成28年 3月 4日付けで特許協力条約34条補正の翻訳文提出書が2通(受付番号51600462856、51600462860)提出され、同年 7月 6日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月11日付けで意見書及び手続補正書(以下、「一次補正書」という。)が提出され、同年11月15日付けで拒絶査定がされ、平成29年 3月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書(以下、「二次補正書」という。)が提出され、同年 8月 9日付けで上申書が提出され、当審より平成30年 4月16日付けで拒絶理由通知がされ、同年 7月19日付けで意見書及び手続補正書(以下、「三次補正書」という。)が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本願の請求項1?4に係る発明は、前記三次補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める(以下、請求項1?4に係る発明を「本願発明1」?「本願発明4」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
コイン(2)用、コイン(2)の玉(3)用又はコイン(2)の環(4)用の金属プレート(1)であって、
前記金属プレート(1)の少なくとも一方の面の表面の少なくとも一部部分領域が、2色の視覚要素(5)を有し、前記視覚要素(5)は、干渉色である第1の色を有する第1の酸化物層(7)を有する少なくとも1つの第1の領域(6)と、第2の色を有する少なくとも1つの第2の領域(8)とを有し、
前記第1の色は、前記第2の色とは異なり、
前記金属プレート(1)の前記表面の前記少なくとも一部部分領域が高さ方向に型打ち加工もされており、前記第1の領域(6)は、前記第2の領域(8)に対して前記高さ方向の凹部(9)として形成されている金属プレートにおいて、
前記第1の領域(6)及び前記第2の領域(8)が、所定のモチーフにしたがって形成されており、
前記モチーフが、前記高さ方向の型打ち加工部によっても描かれており、
前記第2の領域(8)は第2の酸化物層(10)を有し、前記第2の色は干渉色であり、前記第1の酸化物層(7)は前記第2の酸化物層(10)より厚いことを特徴とする金属プレート。
【請求項2】
前記金属プレート(1)は、周期表の第4族、第5族及び/又は第6族の金属、又は周期表の第4族、第5族及び/又は第6族の元素を含む金属合金からなる、請求項1に記載の金属プレート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属プレート(1)を備えるコイン。
【請求項4】
玉(3)と環(4)とを備えるコイン(2)であって、少なくとも前記玉(3)は、請求項1又は2に記載の金属プレート(1)として形成されていることを特徴とするコイン。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。
1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(ア)前記二次補正書による補正後の請求項1の「高さ方向の輪郭」について、「輪郭」とは、通常、物の外形を形づくる線を示すものであり、一囲い線により面を描くものであると認められるから、前記「高さ方向の輪郭」とはどの部分の外形を示すものであるのかが不明確である。
このため、前記二次補正書による補正後の請求項1に係る発明は不明確である。このことは、前記二次補正書による補正後の請求項1を引用する請求項2?4に係る発明についても同様である。

(イ)国際出願日における国際特許出願の明細書の出願翻訳文(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明における「第1の領域」及び「第2の領域」は、「モチーフ」にしたがって形成されるものであって、前記「モチーフ」は、更に「型打ち加工部」によっても描かれるものというべきであるが、前記二次補正書による補正後の請求項1には、前記「第1の領域」及び「第2の領域」が前記「モチーフ」にしたがって形成されることが明確に特定されていないので、前記「第1の領域」及び「第2の領域」と前記「モチーフ」の関係が不明確である。
このため、前記二次補正書による補正後の請求項1に係る発明は不明確である。このことは、前記二次補正書による補正後の請求項1を引用する請求項2?4に係る発明についても同様である。

第4 原査定の理由の概要
1 特許法第29条第2項について

引用文献1:特開2009-261889号公報
引用文献2:登録実用新案第3048232号(実願平9-9851号)公報

原査定の理由の概要は、前記一次補正書により補正された本願特許請求の範囲の請求項1、4、5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第5 当審の判断
1 当審拒絶理由について
(ア)前記第2のとおり、請求項1における「高さ方向の輪郭」との記載は削除されるとともに、請求項1において、「金属プレート」の表面の少なくとも「一部部分領域」が高さ方向に型打ち加工され、「第1の領域」が「第2の領域」に対して前記高さ方向の凹部として形成されること、及び、前記「第1の領域」及び「第2の領域」が「モチーフ」にしたがって形成されるものであって、前記「モチーフ」は、更に「型打ち加工部」によっても描かれることが特定されたので、本願発明1は明確となった。
このことは、請求項1を引用する本願発明2?4についても同様である。

(イ)したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものであり、当審拒絶理由は理由がない。

2 原査定の理由について
(1)各引用文献の記載事項
(1-1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側枠を成す外側部材(10)と、その外側部材(10)に嵌め込まれる内側部材(20)から成り、その内外側部材(20、10)の両表面の少なくとも一方の表面に凹凸模様(23、13)を圧印した遊戯用コイン(C)の製造方法であって、
上記内外側部材(21、12)の両表面の少なくとも一方の表面に凹凸模様(23、13)を圧印し、その圧印凹凸模様(23、13)の全域に色入れをした後、その色入れ部分の凸部表面の色剥がしをするとともに凹部表面は色入れを残し、その凹部表面に色入れされた部材(24、12)と他の部材(12、24)を嵌め合わせ、その外側部材(12)の外周縁を拘束した状態で、金型(P)によって、
上記内外側部材(21、12)の一方の表面のみに凹凸模様(23、13)を圧印した場合は、その凹凸模様(23、13)を有しない部材(12、24)のみを押圧して、
上記内外側部材(21、12)の両表面に凹凸模様(23、13)をそれぞれ圧印した場合は、どちらか一方の部材(12、24)のみを押圧して、
その押圧した部材(12、24)の周縁を他の部材(24、12)側に変形圧接させて、両部材(24、12)を一体化するようにしたことを特徴とする遊戯用コインの製造方法。」

(1b)「【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の製造方法によって製造された遊戯用コイン。」

(1c)「【0001】
この発明は、ゲームセンター等の遊戯場で使用する新規な遊戯用コインに関するものである。」

(1d)「【0007】
この発明は、このような状況の下、独自の新加工技術と既存技術を応用する事により、今までにない斬新なデザインの遊戯用コインを提供することを第1の課題、新規な識別子を有する遊戯用コインを提供することを第2の課題とする。」

(1e)「【0024】
図1(II)(b)に、この発明の一実施例による製造コインCを示し、この遊戯用コインCは、外側枠を成す真鍮製外側部材10と、その外側部材10に嵌め込まれるステンレス製内側部材20から成る。このとき、外側部材10をステンレス、内側部材20を真鍮とすることもできる。
・・・
【0026】
内側部材20は、図1(III)に示すように、同じく、帯状部材から、圧穿により、円盤状素材21を製作し(同図(a))、その円盤状素材21の周縁を圧縁21aした後(同図(b))、QRコードaの圧印をする(同図(c))。その圧縁時、後述の凹条25が外周面全周に形成される。圧印は両面(表裏面)でも片面でも良いが、実施例では両面に圧印した。その圧印した素材22を塗料の吹付けによってその全表面(表裏及び側周面)に黒色入れする(同図(d))。この時、QRコードaを成す凹凸模様23の凸表面及び凹表面の全域が色入れされる。
その色入れされた内側部材(素材)22の表面を研磨して、凹凸模様23の凸表面の色入れを除去して(色剥がして)、その凹部表面のみが色入れされた内側部材24を得る(同図(e))。この凹部表面の色入れ模様は所要のQRコードaを成す。
【0027】
以上のようにして製作された外側部材12と内側部材24の一体化は、まず、図1(II)(a)に示すように、その外側部材12に内側部材24を入れる。・・・
【0028】
つぎに、図2(a)から同図(b)に示すように、その外側部材12の外周縁を規制(拘束)枠32により拘束した状態で、図3で示す圧印用金型Pでもって、その外側部材12のみを押圧して、その外側部材12に凹凸模様13を圧印するとともに、その外側部材12の内周縁を内側に変形させ、内側部材24に圧接させて両部材12、24を一体化して、遊戯用バイメタルコインCを得る。・・・」

(1f)「【図1】



(ア)前記(1a)?(1b)によれば、前記引用文献1には遊戯用コインに係る発明が記載されており、前記(1c)?(1d)によれば、前記遊戯用コインは、ゲームセンター等の遊戯場で使用する新規な遊戯用コインであって、今までにない斬新なデザインの遊戯用コインを提供することを第1の課題とし、新規な識別子を有する遊戯用コインを提供することを第2の課題とするものである。

(イ)前記(1e)?(1f)によれば、前記遊戯用コインは、外側枠を成す真鍮製外側部材10と、その外側部材10に嵌め込まれるステンレス製内側部材20から成るものであって、前記外側部材10から外側部材12を造るものであり、このうち前記内側部材20は、帯状部材から、圧穿により、円盤状素材21を製作し、その円盤状素材21の周縁を圧縁21aした後、QRコードaの圧印をするものであり、圧印は両面(表裏面)でも片面でも良いが、実施例では両面に圧印したものである。
そして、その圧印した素材22を塗料の吹付けによってその全表面に黒色入れするが、この時、QRコードaを成す凹凸模様23の凸表面及び凹表面の全域が色入れされるものであり、その色入れされた内側部材22の表面を研磨し、凹凸模様23の凸表面の色入れを除去して(色剥がして)、その凹部表面のみが色入れされた内側部材24を得た後、外側部材12と内側部材24を隙間なく一体化して、遊戯用バイメタルコインCを得るものである。

(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、前記引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。

「遊戯用コイン用のステンレス製内側部材であって、
前記ステンレス製内側部材の両面が、圧印による凹凸模様を有し、前記凹凸模様は、黒色を有する少なくとも1つの凹表面と、色入れが除去された少なくとも1つの凸表面とを有するステンレス製内側部材において、
前記凹表面及び前記凸表面が、QRコードにしたがって形成されており、
前記QRコードが、前記圧印によっても描かれている、ステンレス製内側部材。」(以下、「引用1発明」という。)

(1-2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。
(2a)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 遊技用コインの表面全体に、イオンプレーティング又はスパッタリングによってチタン-アルミニウム合金の被膜層が形成されると共に、該被膜層が陽極酸化処理されて酸化被膜層が形成され、該酸化被膜層によって発色されていることを特徴とする着色遊技用コイン。」

(2b)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、遊技場又はアミューズメントセンター等の施設において使用される着色遊技用コインに関するものである。
・・・
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら前記ニッケルメッキを施した遊技用コインにあっては、その表面の色調が銀色に限られており、他の色には着色できず、デザイン上の制限があり商品価値が小さかった。又、ほとんどの遊技店がニッケルメッキを施したコインを使用している現状では、他店のコインが混入しても区別がつかず、経営上からも、他店とのコインの明瞭な区別が望まれていた。なお遊技用コインには、これまでも、他店との区別が可能となるようにその表面に図案を施しているものが多いが、同一色であることから区別上効果が上がらない難点があった。
【0004】
本考案は、かかる問題点を解決し、必要とされる機能を保持しながら、従来と異なる色調が付与されて美麗な外観を持つ着色遊技用コインの提供を目的とするものである。」

(2c)「【0009】
【実施例】
以下本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
図1?2において本考案に係る着色遊技用コイン1は、円板状をなす金属製の遊技用コイン(芯材)2の表面全体を被覆するように、イオンプレーティング又はスパッタリングによって、高耐食性を有するチタン-アルミニウム合金の被膜層3が形成されると共に、該被膜層3が陽極酸化処理されて酸化被膜層4が形成され、該酸化被膜層4によって発色されているものである。なお図1においては、前記被膜層3及び酸化被膜層4の厚さを、便宜上、誇張して示している。
・・・
【0011】
かかる構成の着色遊技用コイン1を製造する工程は、イオンプレーティング又はスパッタリングによって、装置の真空容器内で、イオン化したチタン-アルミニウム合金を前記遊技用コイン(芯材)の表面全体に付着せしめて、所要厚さのチタン-アルミニウム合金の被膜層を形成する。その後、常法により、電解質液中において陽極酸化処理を施し、チタン-アルミニウム合金の被膜層で酸化被膜層を成長させる。
【0012】
この酸化被膜層4は、遊技用コインに所要の発色をもたらすものであるが、この発色色調は、酸化被膜層表面における光の干渉作用によって起こり、その酸化被膜の膜厚に応じて多彩な色調を得ることができるのである。このように発色色調は、酸化被膜層の厚さ、即ち陽極酸化電圧によって制御できる。」

(2d)「【0015】
【考案の効果】
本考案は以下の如き優れた効果を奏する。
本考案に係る着色遊技用コインは、イオンプレーティング又はスパッタリングによってコインの表面にチタン-アルミニウム合金の被膜層が形成されているため、この被膜層の密着性が極めて良好である。又、表面硬度が著しく高くて耐磨耗性に優れると共に高耐食性を発揮する。かかることから本考案によるときは、耐久性に優れた着色遊技用コインが得られることとなる。
因みに、前記チタン-アルミニウム合金の被膜層を形成することに代え、純チタンの被膜層を形成した場合は、該被膜層の密着力が弱いために、熱処理等の後処理を必要とするのであるが、本考案で用いるチタン-アルミニウム合金の被膜層は、このような後処理をしなくてもその密着性が極めて良好であり、従って、生産性及び経済性の面において優位である。
【0016】
又、チタン-アルミニウム合金の被膜層が陽極酸化されて酸化被膜層が形成されているため、該酸化被膜層の厚さに応じて、遊技用コインの外観に、淡青色、金色、赤紫色、紫色、青色、黄緑色等の美麗な色調を付与できる。従って、遊技用コインを明瞭に識別できると共に、遊技用コインのカラフル化によって遊技の楽しみを増大させることができる。
このように本考案によるときは、遊技用コインの高級化、差別化を図ることができて遊技場の売り上げアップに寄与できることとなる。」

(2e)「【図1】



(2)対比・判断
(2-1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と引用1発明とを対比すると、引用1発明における「遊戯用コイン用のステンレス製内側部材」は、本願発明1における「コイン用、コインの玉用又はコインの環用の金属プレート」といえるものであって、引用1発明の「凹凸模様」は、本願発明1の「視覚要素」に相当し、引用1発明の「凹表面」は、本願発明1の「第1の領域」に相当し、引用1発明の「凸表面」は、本願発明1の「第2の領域」に相当し、引用1発明の「凹表面」に色入れされる「黒色」は、本願発明1の「第1の色」に相当し、引用1発明の「印圧」による加工は、本願発明1の「高さ方向の型打ち加工」に相当し、引用1発明の「QRコード」は、本願発明1の「モチーフ」に相当する。
また、引用1発明の「凹凸模様」は本願発明1の「視覚要素」に相当するから、引用1発明においては、「金属プレート」の少なくとも一方の面の表面の少なくとも一部部分領域が「視覚要素」を有し、引用1発明の「凹表面」は本願発明1の「第1の領域」に相当し、引用1発明の「凸表面」は本願発明1の「第2の領域」に相当し、引用1発明の「凹表面」に色入れされる「黒色」は本願発明1の「第1の色」に相当するから、引用1発明においては、「視覚要素」は、凹凸と色の相違により識別される、「第1の色」としての黒色を有する「第1の領域」と、これと区別される「第2の領域」とを有し、引用1発明の「印圧」による加工は本願発明1の「高さ方向の型打ち加工」に相当するから、引用1発明においては、「金属プレート」の前記一部部分領域が「高さ方向に型打ち加工」もされており、「第1の領域」は、「第2の領域」に対して「高さ方向の凹部」として形成され、引用1発明の「QRコード」は本願発明1の「モチーフ」に相当するから、引用1発明においては、「第1の領域」及び「第2の領域」が、所定の「モチーフ」にしたがって形成され、「モチーフ」が、「高さ方向の型打ち加工部」によっても描かれている「視覚要素」を有するものといえる。

(イ)そうすると、本願発明1と引用1発明とは
「コイン用、コインの玉用又はコインの環用の金属プレートであって、
前記金属プレートの少なくとも一方の面の表面の少なくとも一部部分領域が、視覚要素を有し、前記視覚要素は、第1の色を有する少なくとも1つの第1の領域と、少なくとも1つの第2の領域とを有し、
前記金属プレートの前記表面の前記少なくとも一部部分領域が高さ方向に型打ち加工もされており、前記第1の領域は、前記第2の領域に対して前記高さ方向の凹部として形成されている金属プレートにおいて、
前記第1の領域及び前記第2の領域が、所定のモチーフにしたがって形成されており、
前記モチーフが、前記高さ方向の型打ち加工部によっても描かれている、金属プレート。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:本願発明1においては、金属プレートの視覚要素が2色の視覚要素であって、視覚要素の第1の領域が、干渉色である第1の色を有する第1の酸化物層を有し、第2の領域が、干渉色である第2の色を有する第2の酸化物層を有し、前記第1の色は、前記第2の色とは異なり、更に、第1の酸化物層が第2の酸化物層より厚いのに対して、引用1発明は、かかる事項を有しない点。

イ 判断
イ-1 相違点に係る発明特定事項について
(ア)本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0015】
視覚要素5は、干渉色である第1の色を有する第1の酸化物層7を有する少なくとも1つの第1の領域6を有している。特に好ましくは、第1の酸化物層7は、少なくとも半透明である。この関連において干渉色は、光線、特に白色光が、少なくとも半透明の材料層の両界面において少なくとも部分的に反射され、このとき、光路差によって、反射された光線の個々の色成分の強め合う干渉及び/又は弱め合う干渉が起こって生じる色である。・・・」

「【0019】
さらに視覚要素5は、第2の色を有する少なくとも1つの第2の領域8を有している。第1の色と第2の色とは異なっている。・・・」

「【0037】
特に好ましくは、第2の領域8は、第2の酸化物層10を有し、特に第2の色は、干渉色であってもよい。・・・」

「【0043】
さらに特に好ましくは、第1の酸化物層7は、第2の酸化物層10より厚くてもよい。より厚い第1の酸化物層7により、第1の領域6及び第2の領域8の両干渉色の良好なコントラストが達成可能である。・・・」

(イ)前記(ア)の記載によれば、本願発明1は、第1の領域が、干渉色である第1の色を有する第1の酸化物層を有し、第2の領域が、干渉色である第2の色を有する第2の酸化物層を有するものであって、第1の領域の第1の酸化物層を第2の領域の第2の酸化物層より厚くすることにより、第1の色と第2の色とを異なるものとして、金属プレート内で、第1の領域及び第2の領域の両干渉色の良好なコントラストが達成可能なものである。
すなわち、本願発明1は、上記相違点に係る発明特定事項を備えることにより、金属プレート内で、第1の領域及び第2の領域の両干渉色の良好なコントラストが達成可能なものである。

(ウ)これに対して、前記(1)(1-1)(1e)によれば、引用1発明は、塗料の吹付けによって素材の全表面(表裏及び側周面)に黒色入れして、モチーフを成す視覚要素の第2の領域及び第1の領域の全域を色入れした後、その色入れされた素材の表面を研磨して、視覚要素の第2の領域の色入れを除去して(色剥がして)、その第1の領域のみが色入れされた金属プレートを得るものであるから、色入れの除去の際には第2の領域の塗料を全て除去するものであり、金属プレート内で、第1の領域及び第2の領域の両干渉色の良好なコントラストを達成可能とするものではない。

(エ)また、前記(1)(1-2)(2a)?(2c)、(2e)によれば、引用文献2には着色遊技用コインに係る発明が記載されており、当該着色遊技用コインは、遊技場又はアミューズメントセンター等の施設において使用されるものであって、他店のコインとの明瞭な区別ができるようにするものであり、円板状をなす金属製の遊技用コイン(芯材)の表面全体を被覆するように、高耐食性を有するチタン-アルミニウム合金の被膜層が形成されると共に、該被膜層が陽極酸化処理されて酸化被膜層が形成され、該酸化被膜層によって発色されるものであるが、この発色色調は、酸化被膜層表面における光の干渉作用によって起こり、その酸化被膜の膜厚に応じて多彩な色調を得ることができるのであり、発色色調は、酸化被膜層の厚さ、即ち陽極酸化電圧によって制御できるものである。

(オ)そして、前記(1)(1-2)(2d)によれば、前記着色遊技用コインは、被膜層の密着性が極めて良好であり、又、表面硬度が著しく高くて耐磨耗性に優れると共に高耐食性を発揮するものであり、また、酸化被膜層の厚さに応じて、遊技用コインの外観の全体に、淡青色、金色、赤紫色、紫色、青色、黄緑色等の美麗な色調を付与できるので、遊技用コインを明瞭に識別できるものである。

(カ)前記(エ)?(オ)によれば、引用文献2には、遊技用コインにおいて、他店のコインとの明瞭な区別ができるようにするために、陽極酸化処理による酸化被膜層を形成して、光の干渉作用により発色させること、そのときの発色色調は酸化被膜層の厚さによって制御でき、酸化被膜層の厚さに応じて、遊技用コインの外観に、淡青色、金色、赤紫色、紫色、青色、黄緑色等の美麗な色調を付与できることが開示されるものであるが、前記引用文献2の開示事項は、着色遊技用コインの表面全体に酸化被膜層を形成して干渉色を発色し、更に酸化被膜層の厚さに応じて発色色調を変化させることによって、他店のコインと区別がつけられるようにする、というにとどまるものであり、コインを構成する金属プレート内の第1の領域の酸化皮膜層の厚さを第2の領域酸化被膜層の厚さよりも厚くして、一枚のコインの一表面において、前記第1の領域及び第2の領域の両干渉色の良好なコントラストを達成可能とすることを開示するものではない。

(キ)そうすると、色入れの除去の際に第2の領域の塗料を全て除去する引用1発明に、引用文献2の開示事項を適用して酸化皮膜層により色入れしたとしても、色入れの除去の際に、金属プレート内の第1の領域の酸化皮膜層の厚さを第2の領域酸化被膜層の厚さよりも厚くする、という技術思想が導かれるものではなく、第2の領域の酸化被膜層は全て除去されるものとなるから、引用1発明において、金属プレート内の第1の領域の酸化皮膜層の厚さを第2の領域酸化被膜層の厚さよりも厚くして、第1の領域及び第2の領域の両干渉色の良好なコントラストを達成可能とすることを、当業者が想到し得るとはいえない。

(ク)したがって、引用1発明において、引用文献2の記載事項に基づいて、金属プレートの構成を前記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえない。

イ-2 本願発明の効果について
(ア)本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0006】
これにより、2色の視覚要素(optische Element:外観要素)により良好なコントラストが達成可能であるため、コインが観察者により遠方からでも良好に弁別可能かつ/又は識別可能であるという利点が生じる。・・・さらに酸化物は、金属よりも化学的に不活性であり、これにより、望ましくない以後の酸化が起こらないため、コインは、長い年月を経ても外見に変化をきたさない。」

(イ)前記(ア)の記載によれば、本願発明においては、酸化物は、金属よりも化学的に不活性であり、これにより、望ましくない以後の酸化が起こらないため、コインは、長い年月を経ても外見に変化をきたさない、という効果を奏するものである。

(ウ)これに対して、色入れの除去の際に第2の領域の塗料を全て除去する引用1発明に、引用文献2の開示事項を適用して酸化皮膜層により色入れしたとしても、第2の領域の酸化被膜層は全て除去されるものとなることは、前記イ-1(キ)に記載のとおりであり、酸化被膜層が全て除去される第2の領域を有する金属プレートが、長い年月を経ても外見に変化をきたさない、という効果を奏するとは必ずしもいえないので、本願発明1は、引用1発明に引用文献2の開示事項を適用したものに比べて優れた効果を奏するものといえる。

イ-3 むすび
(ア)前記イ-1、イ-2の検討によれば、引用文献2に、着色遊技用コインに酸化被膜層を形成して干渉色を発色し、更に発色色調を変化させることによって、他店のコインと区別がつけられるようにすることが開示されているとしても、引用1発明において、引用文献2の記載事項に基づいて、前記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえない。

(イ)したがって、本願発明1を、引用1発明及び引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本願発明2?4について
(ア)本願発明2?4は、いずれも請求項1を引用するものであるから、本願発明2?4と引用1発明とは、少なくとも、前記(2-1)ア(イ)に記載される相違点と同じ相違点を有するものである。

(イ)そして、引用1発明において前記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本願発明1を、引用1発明及び引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、前記(2-1)イイ-3(ア)?(イ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、本願発明2?4も、引用1発明及び引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3)むすび
以上のとおりであるので、本願発明1?4は、引用1発明及び引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないので、原査定の理由は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-08-31 
出願番号 特願2016-516064(P2016-516064)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C25D)
P 1 8・ 537- WY (C25D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 辰己 雅夫祢屋 健太郎印出 亮太  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 土屋 知久
金 公彦
発明の名称 金属プレート  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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