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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1343473
審判番号 不服2016-528  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-13 
確定日 2018-08-22 
事件の表示 特願2010-244261「膜の少なくとも一部を酸化シリコンに変換し,および/または,蒸気内紫外線硬化を利用して膜の品質を改善し,および,アンモニア内紫外線硬化を利用して膜を高密度化するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開,特開2011-109086〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年10月29日(パリ条約による優先権主張 2009年11月12日,アメリカ合衆国,2010年8月11日,アメリカ合衆国)の出願であって,平成25年10月28日に審査請求がされ,平成26年11月4日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月10日に意見書と手続補正書が提出され,同年9月17日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ,平成28年1月13日に拒絶査定不服の審判が請求され,平成29年3月2日付けで当審から拒絶理由を通知し,同年6月1日に意見書と手続補正書が提出され,同年8月22日付けで当審から最後の拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,平成30年2月27日に意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年2月27日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成30年2月27日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし26を補正して,補正後の請求項1ないし22とするものであって,補正前後の請求項1は次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
基板を処理する方法であって,
チャンバ内に蒸気を供給する段階と,
前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,
所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層にUV光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と
を備える方法。」

<補正後>
「【請求項1】
基板を処理する方法であって,
チャンバ内に蒸気を供給する段階と,
前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,
所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,
前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階と,を備える方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の請求項1についての補正事項を整理すると次のとおりである。

・補正事項1
補正前の請求項1の「所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層にUV光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と」を補正して,補正後の請求項1の「所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階と,」とすること。

3 新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)さらに,補正事項1による補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)そして,補正事項1は,発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。

(4)以上検討したとおりであるから,本件補正の補正事項1を含む請求項1についての補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項1を含むから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項1に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
基板を処理する方法であって,
チャンバ内に蒸気を供給する段階と,
前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,
所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,
前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階と,を備える方法。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
ア 当審から通知した最後の拒絶理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,国際公開第93/02472号(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

「本発明は,シリカ系絶縁膜を有する半導体装置およびその製造方法に関し,さらに詳しくは,ボイド,ピンホールが少なく緻密であり,かつ膜形成時の収縮ストレスが小さくクラックの発生がなく,しかも平坦なシリカ系絶縁膜を有する半導体装置,およびこのような半導体装置の製造方法に関する。」(明細書第1ページ第4-8行)

「本発明において用いられる絶縁膜形成用塗布液は,通常,有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる。
このような有機溶媒としては,ポリシラザンを溶解し,塗布液に流動性を付与するものであれば特に制限はなく,具体的には,シクロヘキサン,トルエン,キシレン,へキシレン等の炭化水素,塩化メチレン,塩化エチレン,トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素,エチルブチルエーテル,ジブチルエーテル,ジオキサン,テトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。これらの有機溶媒は単独でもしくは2種以上を混合して用いられる。
また,このような溶液中のポリシラザンの固形分濃度は,3?35重量%であることが望ましい。
本発明に係る半導体装置では,上記塗布液で半導体基板上に設けられた多結晶シリコン配線層,アルミニウム配線層,PN接合半導体,あるいはコンデンサー等の各種素子が覆われるように上記塗布液を半導体基板上に塗布し,得られた塗膜を酸化雰囲気中で加熱することにより硬化し,骨格構造のすべてまたはほとんどがSi-O結合からなるシリカ系絶縁膜が形成される。・・・<途中省略>・・・
ここで塗布液を半導体基板上に塗布して塗膜を形成する際には,スプレー法,スピンコート法,ディップコート法,ロールコート法,スクリーン印刷法,転写印刷法などの塗布方法が採用される。
またシリカ系絶縁膜を形成するための塗膜の加熱は,通常,150?800℃,好ましくは350?800℃の温度で,酸化雰囲気中,すなわち酸素,オゾン,水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われる。この加熱酸化によりほとんどのポリシラザン結合
<途中省略>
は,酸化されてシロキサン結合
<途中省略>
に変化する。なお塗膜を加熱するに際して,紫外線,電子線またはプラズマなどの電磁波の照射による硬化処理を併用することもできる。」(明細書第8ページ第5行-第9ページ第19行)

引用例1の上記の記載から,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液を半導体基板上に塗布し,得られた塗膜を酸化雰囲気中で加熱することにより硬化し,骨格構造のすべてまたはほとんどがSi-O結合からなるシリカ系絶縁膜を形成する方法であって,
前記塗布液を前記半導体基板上に塗布して塗膜を形成する際には,スピンコート法を採用し,
また,シリカ系絶縁膜を形成するための塗膜の前記加熱は,通常,150?800℃,好ましくは350?800℃の温度で,酸化雰囲気中,すなわち水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われ,この加熱酸化によりほとんどのポリシラザン結合は,酸化されてシロキサン結合に変化し,
塗膜を加熱するに際して,紫外線の照射による硬化処理を併用する,
シリカ系絶縁膜を形成する方法。」

イ 当審から通知した最後の拒絶理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開平9-183663号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0041】本発明で使用するプラスチックフィルムには,種々のプラスチック材料が包含される。耐熱性,耐溶剤性の観点から好ましい材料として,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリイミド(PI;例えば,商品名カプトンで市販されているピロメリット酸無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重縮合生成物),ポリカーボネート(PC),二軸延伸ポリプロピレン(OPP),ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリエーテルスルホン(PES),ポリエーテルイミド(PEI),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK),ポリアリレート(PAR),ポリスチレン,ポリアミド(ナイロン(商標)),ポリアミドイミド,ポリ塩化ビニル,ポリエステル系樹脂(例,ロンザ社製,ISARYL(登録商標)),アクリル系樹脂,ポリノルボルネン系樹脂(日本合成ゴム株式会社製,ARTON(登録商標)),ゼオネックス(日本ゼオン株式会社製,登録商標),セルロースアセテート,等の人造樹脂フィルムなどのフィルム状物もしくはシート状物又はこれらの複合フィルム状物もしくは複合シート状物,二軸延伸パラ系アラミドフィルム,ノルボルネン系ポリオレフィンフィルム,支持体付き極薄フィルム,等が挙げられる。プラスチックフィルムの面積や厚さには特に制限はなく,用途に応じた任意の面積及び厚さのフィルムを使用することができる。さらにまた,これらのフィルム又はシートを2種以上積層した複層フィルムであってもよい。
【0042】フィルムには,密着性向上のためにコロナ放電処理,シランカップリング剤の塗布,等の前処理を施すこともできる。本発明によると,上記のようなコーティング用組成物を上記のようなプラスチックフィルムの少なくとも片面に塗布することによってポリシラザンの膜を形成する。塗布方法は,通常実施されているプラスチックフィルムへの塗布方法,すなわち浸漬塗布,ロール塗布,バー塗布,ウェブ塗布(グラビア,キス,キスメイヤバー,ダイ,フレキソ,等),刷毛塗り,スプレー塗布,回転塗布,流し塗り等が用いられる。好ましい適用方法はグラビア(リバース)塗布法である。」

「【0047】この第一の態様による場合,塗布した後のポリシラザン又はその変性物を水蒸気雰囲気に暴露することによりポリシラザン又はその変性物をセラミックス化させる。この接触には,一般に加湿炉やスチームが用いられる。具体的には,塗布中に溶剤乾燥ゾーンにスチームを導入し,その中(温度50?100℃,相対湿度50?100%RH)を通過させる方法や,別に設けた加湿炉(温度50?100℃,相対湿度50?100%RH)の中を滞留時間10?60分で通過させる方法や,塗布後の溶剤乾燥時に通過したスチームを導入した溶剤乾燥ゾーン(温度50?100℃,相対湿度50?100%RH)を滞留時間10?60分で再度通過させる方法が考えられる。低温の場合には,単に水蒸気を含む容器内で処理しても,また大気中で処理することもできる。水蒸気と接触させる温度範囲は室温(約20℃)からプラスチックフィルム基材の耐熱温度までの範囲とすることができる。また,接触における湿度範囲は約0.1%RH?100%RHとすることができる。」

「【0052】・・・<途中省略>・・・いずれの方法においても,ポリシラザン塗膜に紫外線を照射することによって塗膜のセラミックス化を加速することができる。
【0053】上記の水蒸気雰囲気への暴露処理,アミン化合物及び/又は酸化合物含有水溶液から発生した蒸気との接触処理,或いはアミン化合物及び/又は酸化合物含有水溶液中での浸漬処理によって,ポリシラザン又はその変性物に含まれるSi-N,Si-H,N-H結合等は消失し,Si-O結合を主体とする強靱なセラミックス膜がプラスチックフィルム表面に形成される。」

「【0060】実施例1
参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm-キシレンに溶解して濃度12重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液に攪拌しながら酢酸を5重量%になるように室温で徐々に添加した。この溶液を,厚さ75μm,幅60cm,総延長300mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材を2m/分で搬送しながらグラビア(リバース)コート法(ロール#80)で片面に塗布した。塗布後,スチームを導入した溶剤乾燥ゾーン(温度80℃,相対湿度70%RH,内部搬送距離10m)を上記搬送速度で通過させることにより,ポリシラザン塗膜を乾燥した(滞留時間5分)。乾燥ゾーンを通過したポリシラザン塗布フィルムを,温度95℃,相対湿度80%RHに維持された内部搬送距離60mの加湿炉内を上記搬送速度で搬送することによって,ポリシラザン塗膜を30分間水蒸気雰囲気に暴露した。」

「【0093】膜特性の評価
上記実施例1?32で得られたセラミック被膜は,IR分光法におけるSi-H振動(N-H振動)ピークの消失と,Si-O振動ピークの出現により,すべて実質的にシリカへ転化したことを確認した。また,これらセラミック被膜の膜厚は,分光法により可視領域のスペクトル中の干渉を生じたピークを用いて計算したところ,すべて0.6μmであることがわかった。」

引用例2の上記記載から,
・ポリシラザン溶液を,フィルム基材の片面に塗布し,ポリシラザン塗膜を乾燥し,その後に,ポリシラザン塗布フィルムを,温度95℃,相対湿度80%RHに維持された内部搬送距離60mの加湿炉内を搬送することでポリシラザン塗膜を30分間水蒸気雰囲気に暴露して,Si-H振動(N-H振動)ピークが消失し,Si-O振動ピークの出現することで,すべて実質的にシリカへ転化したことが確認できるセラミック被膜が形成できること,
・回転塗布が,通常実施されているプラスチックフィルムへの塗布方法であること,及び,
・ポリシラザン塗膜に紫外線を照射することによって,塗膜のセラミックス化を加速することができることが,本願の優先権主張の日前に知られていたと理解できる。

ウ 当審から通知した最後の拒絶理由で引用した,本願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2000-198160号公報(以下「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0065】・・・<途中省略>・・・所望により,上記方法で塗布した後,上記低温化工程の前,低温化工程の後,又は低温化工程と同時に,ポリシラザンを含む塗膜に紫外線を照射することができる。この紫外線照射により,基材が加熱され,セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO_(2) とH_(2)Oや,紫外線吸収剤,ポリシラザン自身が励起,活性化されるため,ポリシラザンが励起し,ポリシラザンのセラミックス化が促進され,また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。
【0066】紫外線照射は,塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。」

「【0072】上記の低温での熱処理においてはSi-O,Si-N,Si-H,N-H結合が存在する膜が形成される場合がある。この膜はまだセラミックスへの転化が不完全である。この膜を,次に述べる2つの方法(1)及び(2)のいずれか一方又は両方(後処理)によって,セラミックスに転化させることが可能である。なお,上記の低温での熱処理を省略して後処理を直接施した場合でも,ポリシラザンのセラミックス化を促進することはできる。
【0073】(1)水蒸気雰囲気中での処理。
圧力は特に限定されるものではないが,1?3気圧が現実的に適当である。相対湿度は特に限定されるものではないが,10?100%RHが好ましい。温度は室温以上で効果的であるが室温?150℃が好ましい。水蒸気処理時間は特に限定されるものではないが10分?30日が現実的に適当である。
【0074】水蒸気雰囲気中での処理により,ポリシラザンの酸化または水蒸気との加水分解が進行するので,上記のような低い加熱温度で,実質的にSiO_(2 )からなる緻密な膜の形成が可能となる。」

「【0090】方法(A):シランカップリング剤のプライマー層を設ける方法
実施例1
・・・<途中省略>・・・得られたプライマー層用組成物を,10cm角,厚さ0.3mmのポリカーボネート(PC)シート板にフローコート法で塗布した。塗布後のPCシート板を120℃で10分間処理してプライマー層を硬化させた。得られたプライマー層の厚さは0.1μmであった。
【0091】参考例で合成したペルヒドロポリシラザンをm-キシレンに溶解して濃度10重量%のポリシラザン溶液を調製した。この溶液にポリシラザン1重量部当たり0.01重量部のプロピオン酸パラジウムを添加し,大気中,20℃で3時間攪拌しながら反応を行った。その後,孔径0.1μmのPTFE製フィルターで濾過した。この溶液を,先に調製したプライマー層の上に,スピンコート法(500rpm×2秒→2000rpm×20秒)で塗布することによりポリシラザン塗膜を形成させた。その後,ポリシラザン塗膜をクリーンオーブン内で120℃,1時間処理し,次いで恒温恒湿槽内で95℃,80%RH,3時間処理することによりポリシラザン塗膜をセラミックス化した。」

「【0097】上記のデータは,本発明によりプライマー層を設けたことにより,各種基材に耐溶剤性を付与すると共に,実質的にSiO_(2 )からなるセラミックス膜の各種基材に対する密着性を高めることができたことを示している。」

引用例3の上記記載から,引用例3には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「プライマー層を備えたポリカーボネート(PC)シート板の前記プライマー層の上に,ポリシラザン溶液を,スピンコート法で塗布することによりポリシラザン塗膜を形成し,その後,前記ポリシラザン塗膜をクリーンオーブン内で120℃,1時間処理し,次いで恒温恒湿槽内で95℃,80%RH,3時間処理することによりポリシラザン塗膜をセラミックス化した実質的にSiO_(2 )からなるセラミックス膜の形成方法。」

また,引用例3の上記記載から,
・ポリシラザンを含む塗膜に紫外線を照射するにより,基材が加熱され,セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO_(2) とH_(2)Oや,紫外線吸収剤,ポリシラザン自身が励起,活性化されるため,ポリシラザンが励起し,ポリシラザンのセラミックス化が促進され,また得られるセラミックス膜が一層緻密になること,及び,
・相対湿度が,10?100%RH,温度が,室温?150℃であることが好ましい水蒸気雰囲気中での処理(実施例1では,恒温恒湿槽内で95℃,80%RH)により,ポリシラザンの酸化または水蒸気との加水分解が進行するので,低い加熱温度で,実質的にSiO_(2 )からなる緻密な膜の形成が可能となることが,本願の優先権主張の日前に知られていたと理解できる。

(3)本願補正発明1の進歩性について
ア 引用例1を主引例とした検討
(ア)本願補正発明1と引用発明1との対比
(i)引用発明1の「シリカ系絶縁膜を形成する方法」は,「半導体基板」の上に,ポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液をスピンコート法で塗布し,その後,得られた塗膜を酸化雰囲気中で加熱することにより硬化し,骨格構造のすべてまたはほとんどがSi-O結合からなるシリカ系絶縁膜を形成するもの,すなわち,「半導体基板」という「基板」に対して,「加熱」等の「処理」を施すものであるから,引用発明1の「シリカ系絶縁膜を形成する方法」は,以下の相違点を除いて,本願補正発明1の「基板を処理する方法」に相当する。

(ii)引用発明1の「『有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液を』『塗布し』た『半導体基板』」は,本願補正発明1の「シリコンを含む堆積層が設けられている基板」に相当する。

(iii)引用発明1の「『塗布液を前記半導体基板上に塗布して塗膜を形成する際には,スピンコート法を採用し』て,『有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液を半導体基板上に塗布し,得られた塗膜』」は,本願補正発明1の「ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)」に相当する。

(iv)引用発明1の「骨格構造のすべてまたはほとんどがSi-O結合からなるシリカ系絶縁膜」は,本願補正発明1の「酸化シリコン」に相当する。

(v)引用発明1は,「シリカ系絶縁膜を形成するための塗膜の前記加熱」が,「酸化雰囲気中,すなわち水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われ」るのであるから,前記塗膜が形成された半導体基板が,前記加熱を行う場所に配置されること,及び,前記加熱が,酸化雰囲気中,すなわち水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われるように,前記塗膜が存在する空間に対して,水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流が供給されることは自明といえる。
してみれば,引用発明1の「有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液を半導体基板上に塗布し,得られた塗膜を酸化雰囲気中で加熱することにより硬化し,骨格構造のすべてまたはほとんどがSi-O結合からなるシリカ系絶縁膜を形成する方法であって,前記塗布液を前記半導体基板上に塗布して塗膜を形成する際には,スピンコート法を採用し,また,シリカ系絶縁膜を形成するための塗膜の前記加熱は,通常,150?800℃,好ましくは350?800℃の温度で,酸化雰囲気中,すなわち水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われ,この加熱酸化によりほとんどのポリシラザン結合は,酸化されてシロキサン結合に変化し,塗膜を加熱するに際して,紫外線の照射による硬化処理を併用する,シリカ系絶縁膜を形成する方法」と,本願補正発明1の「チャンバ内に蒸気を供給する段階と,前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階と,を備える方法」とは,「蒸気を供給する段階と,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,を備える方法」である点で一致する。

したがって,上記の対応関係から,引用発明1は,以下の一致点において,本願補正発明1の構成を満たし,以下の点で相違する。

<一致点>
「基板を処理する方法であって,蒸気を供給する段階と,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,を備える方法。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1は,「チャンバ内に蒸気を供給する段階と,前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と」を備えるのに対して,引用発明1では,このような特定が明示されていない点。

・相違点2:本願補正発明1は,「前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階」を備えるのに対して,引用発明1では,このような特定が明示されていない点。

(イ)相違点についての判断
・相違点1について
引用発明1は,「『通常,150?800℃,好ましくは350?800℃の温度で,酸化雰囲気中,すなわち水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われ』る『シリカ系絶縁膜を形成するための塗膜の前記加熱』」を備えた発明である。
そして,塗膜の加熱を,水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行うためには,前記「『有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液を』『塗布し』た『半導体基板』」の周囲の空間を自然環境から隔離して,「水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中」という環境に維持するための,当該空間を自然環境から隔離する隔壁を要することは明らかといえる。
すなわち,引用発明1は,「『有機溶媒中にポリシラザンを溶解して含んでいる塗布液を』『塗布し』た『半導体基板』」の周囲の空間を,自然環境から隔離して,「水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中」とする必要があることから,引用発明1は,前記半導体基板の周囲の空間を,他の空間から隔離するための隔壁を備えた室,すなわち「チャンバ」の存在を,前提としているものと理解される。
そして,前記チャンバ内で加熱を行うためには,チャンバ内に前記基板を配置する段階が存在することは自明であり,また,前記チャンバ内を「水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中」という環境とするために,前記チャンバ内に蒸気を供給する段階が存在することも明らかである。
してみれば,引用発明1は,「チャンバ内に蒸気を供給する段階と,前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と」を備えるといえるから,相違点1は実質的なものではない。
また,仮に相違点1が実質的なものであったとしても,処理をチャンバー内で行うことは通常行われていることであるから,引用発明1をチャンバー内で行うことは当業者が適宜なし得たことであって,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。

・相違点2について
化学反応を伴う処理において,当該反応によって所望の結果を得るために,当該反応の各種の条件を,予め定めた所定の値に,あるいは,所定の範囲内のものとなるように「調節」することは,一般に行われている技術常識と認められる。
すなわち,引用例2には,ポリシラザン溶液を,フィルム基材の片面に塗布し,ポリシラザン塗膜を乾燥し,その後に,ポリシラザン塗布フィルムを,加湿炉内を搬送することで水蒸気雰囲気に暴露して,実質的にシリカへ転化する方法において,当該水蒸気雰囲気に暴露する際の条件を,温度95℃,「相対湿度80%RHに維持」すると記載されている。そして,空間内の温度と相対湿度を一定の値に維持した場合には,空間内に存在する水蒸気の量もまた一定に維持されるから,この場合,当該空間の蒸気の分圧も一定に維持されることは明らかである。さらに,「維持」は,「調節」の一態様であるといえる。してみれば,引用例2の前記「相対湿度80%RHに維持」は,本願補正発明1の「チャンバ内の前記蒸気の分圧」を,所定の値に「調節する」ことに相当する。
また,引用例3には,ポリシラザン溶液を,スピンコート法で塗布することによりポリシラザン塗膜を形成し,その後,前記ポリシラザン塗膜をクリーンオーブン内で120℃,1時間処理し,次いで恒温恒湿槽内で95℃,80%RH,3時間処理することによりポリシラザン塗膜をセラミックス化した実質的にSiO_(2 )からなるセラミックス膜を形成する方法が記載されているところ,引用例3の前記「恒温恒湿槽内で95℃,80%RH,3時間処理」も,本願補正発明1の「チャンバ内の前記蒸気の分圧」を,所定の値に「調節する」ことに相当するといえる。
そうすると,引用発明1の「水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われ」る「加熱酸化」も,所望の結果を得るために,前記「水蒸気」の蒸気の分圧を,所定の値に「調節」しているものと理解することが自然といえる。
したがって,相違点2のうち,「前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を」「調節する」ことは実質的な相違点とはいえない。
また,仮に,相違点2の「蒸気の分圧を」「調節する」点が,実質的な相違点であったとしても,前記技術常識,及び引用例2,3の上記記載から,引用発明1において,「蒸気の分圧を」「調節する」ことは容易になし得たことである。

続いて,相違点2のうちの,蒸気の分圧を,「チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く」調節する点について検討する。
本願明細書には,以下の記載がある。
「【0010】
他の特徴を挙げると,上記の方法は,所定の変換期間において,チャンバ内の蒸気の分圧を,チャンバ内のガスの70体積%より高く調節する段階をさらに備える。上記の方法は,所定の変換期間において,チャンバ内の蒸気の分圧を,チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階をさらに備える。上記の方法は,所定の変換期間に先立って,所定の浸漬期間にわたって所定の温度で蒸気に基板を浸漬する段階をさらに備える。」

「【0018】
他の特徴を挙げると,チャンバ内での蒸気の分圧は,所定の変換期間において,チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低い。チャンバ内での蒸気の分圧は,所定の変換期間において,チャンバ内のガスの70体積%より高い。基板は,所定の変換期間の前に,所定の浸漬期間にわたって蒸気に浸漬される。」

「【0027】
他の特徴を挙げると,上記の方法は,所定の変換期間において,チャンバおよび別のチャンバのうち一方における蒸気の分圧を,チャンバ内のガスの70体積%より高くなるように調節する段階をさらに備える。上記の方法は,所定の変換期間において,チャンバおよび別のチャンバのうち一方における蒸気の分圧を,チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階をさらに備える。」

「【0049】
ステップ114において,希釈ガスと相対的に,チャンバ14内での蒸気の分圧を調整する。一例に過ぎないが,以下のような手順で蒸気の分圧を所望の値に設定するとしてよい。最初に希釈ガスを導入して所望の圧力を実現するとしてよい。一例に過ぎないが,圧力は,0Torrから700Torrの間に設定するとしてよいが,他の値であってもよい。一部の実施例によると,圧力値は50Torrに設定するとしてよい。」

「【0052】
一例に過ぎないが,分圧を低く設定して基板22をチャンバ14に導入することによって,PSZ膜がSiNに変換される。一方,分圧を中程度に設定して基板22をチャンバ14に導入することによって,PSZ膜の一部がSiOHに変換される。分圧を高く設定して基板22をチャンバ14に導入することによって,PSZ膜が全てSiO_(2)に変換される。一部の実施例によると,分圧を調整する前,または,所望の分圧に到達する前に,基板22をチャンバ内に配置するとしてよい。
【0053】
本例では,低い分圧とは,蒸気が15%未満の分圧を指す。中程度の分圧とは,蒸気が15%を超え,70%未満の分圧を指す。高い分圧とは,蒸気が70%を超える分圧を指す。想到の範囲内であろうが,他の半導体処理システムでは,分圧を直接制御可能であるとしてもよい。」

「【0060】
図4は,本開示に係る,蒸気内UV硬化の後のSODに対するフーリエ変換型赤外分光(FTIR)の結果を示すグラフである。SODは,堆積時には,Si-H結合(2000?2260cm^(-1))および部分Si-N結合(820-1020cm^(-1))の密度が非常に高い。Si-H結合および部分Si-N結合は,蒸気内UV硬化を実行すると,大部分がSi-O結合に変換される(1066cm^(-1))。本実施例では,蒸気内UV硬化の前に,所与の浸漬期間にわたって蒸気内に基板を浸漬させた。
【0061】
図5は,本開示に係る,蒸気内UV硬化の後の蒸気アニーリングされたSODに対するFTIRの結果を示すグラフである。Si-H結合および部分Si-N結合は,蒸気内UV硬化を実行すると,蒸気内UV硬化によってSi-O結合に変換される(1066cm^(-1))。この実施例によると,蒸気内UV硬化の前に,(浸漬期間よりも長い)所与の硬化期間にわたって蒸気内で基板を硬化させた。
【0062】
図6は,不活性環境においてSODを硬化させた後のFTIRの結果を示すグラフである。SODは,堆積時には,Si-H結合(2000?2260cm^(-1))および部分Si-N結合(820-1020cm^(-1))の密度が非常に高い。UV硬化を行うと,Si-H結合は,蒸気内UV硬化を行う場合よりも少なくなる。部分Si-N結合は増加し,Si-O変換は発生しない。」

そうすると,本願の明細書には,「一例」において,分圧を中程度(蒸気が15%を超え,70%未満の分圧)に設定して基板をチャンバに導入することによって,PSZ膜の一部がSiOHに変換され,分圧を高く(蒸気が70%を超える分圧)設定して基板をチャンバに導入することによって,PSZ膜が全てSiO_(2)に変換されることが記載されている。
しかしながら,本願の明細書の図4,図5に示された「蒸気内UV硬化」を伴う処理の結果は,当該「蒸気内UV硬化」を,「チャンバ内での蒸気の分圧は,所定の変換期間において,チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低い」条件で行ったものであるのか,あるいは「チャンバ内での蒸気の分圧は,所定の変換期間において,チャンバ内のガスの70体積%より高い」条件で行ったものであるのか特定されていないものである。
さらに,PSZ膜から,SiO_(2)への変換には,基板の温度,及びUV強度,処理時間等の条件もまた影響を与えることは明らかといえる。
そうすると,本願補正発明1における,蒸気の分圧についての「15体積%」及び「70体積%」という値には,本願の明細書の記載からは臨界的な意義を見いだすことができない。

一方,引用例2には「塗布した後のポリシラザン又はその変性物を水蒸気雰囲気に暴露することによりポリシラザン又はその変性物をセラミックス化させる。この接触には,一般に加湿炉やスチームが用いられる。具体的には・・・別に設けた加湿炉(温度50?100℃,相対湿度50?100%RH)の中を滞留時間10?60分で通過させる方法・・・が考えられる。・・・また,接触における湿度範囲は約0.1%RH?100%RHとすることができる」(【0047】)ことが,また,引用例3には「水蒸気雰囲気中での処理。圧力は特に限定されるものではないが,1?3気圧が現実的に適当である。相対湿度は特に限定されるものではないが,10?100%RHが好ましい。温度は室温以上で効果的であるが室温?150℃が好ましい」(【0073】)ことが記載されている。
そうすると,上記各記載から,ポリシラザンを水蒸気雰囲気に暴露することによりポリシラザンをセラミックス化させる場合における湿度範囲は,約0.1%RH?100%RH程度の範囲で適宜設定すべき設計事項と理解される。

そして,引用例2の「水蒸気雰囲気への暴露処理・・・によって,ポリシラザン又はその変性物に含まれるSi-N,Si-H,N-H結合等は消失し,Si-O結合を主体とする強靱なセラミックス膜が・・・形成される」(【0053】),「実施例1・・・で得られたセラミック被膜は,IR分光法におけるSi-H振動(N-H振動)ピークの消失と,Si-O振動ピークの出現により,すべて実質的にシリカへ転化したことを確認した。」(【0093】),及び,引用例3の「水蒸気雰囲気中での処理により,ポリシラザンの酸化または水蒸気との加水分解が進行するので,上記のような低い加熱温度で,実質的にSiO_(2 )からなる緻密な膜の形成が可能となる。」(【0074】)との記載に照らして,引用例2及び引用例3における水蒸気雰囲気への暴露処理は,ポリシラザンに含まれるSi-N,Si-H,N-H結合等を消失させて,Si-O結合が主体の実質的にSiO_(2 )からなる膜を形成するものであると理解されるから,当該処理は,引用発明1における「ほとんどのポリシラザン結合は,酸化されてシロキサン結合に変化し」「シリカ系絶縁膜を形成する」処理に相当するものといえる。
すなわち,ポリシラザン結合が酸化されてシロキサン結合に変化し,シリカ系絶縁膜が形成される反応は,空間中に水蒸気がほとんど含まれない相対湿度約0.1%RHから,水蒸気の量が飽和する相対湿度100%RH程度までの範囲で行い得ることが理解される。

そうすると,「水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中などで行われ,この加熱酸化によりほとんどのポリシラザン結合は,酸化されてシロキサン結合に変化」させる段階を備えた引用発明1において,当該「水蒸気などの酸化能を有する成分を含む空気,N_(2)気流中」における水蒸気の分圧は,空間中に水蒸気がほとんど含まれない量から,水蒸気の量が飽和するまでの範囲内において適宜決定し得た設計事項といえるから,引用発明1において,水蒸気の分圧を,「チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低い」範囲に含まれる値に調節することも,当業者が適宜なし得たことといえる。
そして,先に検討したように,本願補正発明1における,蒸気の分圧についての「15体積%」及び「70体積%」という値には,本願の明細書の記載からは臨界的な意義を見いだすことができないから,相違点2に基づく格別の効果を認めることはできない。

したがって,引用発明1において,上記相違点2について,本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

イ 引用例3を主引例とした検討
(ア)本願補正発明1と引用発明2との対比
(i)引用発明2の「プライマー層を備えたポリカーボネート(PC)シート板」,「『ポリシラザン塗膜を形成し』た『プライマー層を備えたポリカーボネート(PC)シート板』」及び「『スピンコート法で塗布』した『ポリシラザン塗膜』」は,それぞれ,本願補正発明1の「基板」,「シリコンを含む堆積層が設けられている基板」及び「ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)」に相当する。

(ii)引用発明2の「恒温恒湿槽」は,本願補正発明1の「チャンバ」に相当する。そして,「恒温恒湿槽」は,湿度,すなわち,蒸気の分圧を所定の値に調節することを機能として備えた装置であるから,引用発明2は,ポリシラザン塗膜をセラミックス化する変換期間において,チャンバ内の蒸気の分圧を,所定の値に調節する段階を備えている点で,本願補正発明1と一致する。

したがって,上記の対応関係から,引用発明2は,以下の一致点において,本願補正発明1の構成を満たし,以下の点で相違する。

<一致点>
「基板を処理する方法であって,
チャンバ内に蒸気を供給する段階と,
前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,
所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と,
前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,所定の値に調節する段階と,を備える方法。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1は,「前記所定の変換期間において,前記チャンバ内の前記蒸気の分圧を,前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く調節する段階」を備えるのに対して,引用発明2では,チャンバ内の蒸気の分圧が,上記範囲に含まれるか否かが明らかでない点。

・相違点2:本願補正発明1は,所定の変換期間にわたって,蒸気の存在下で,「堆積層に紫外線(UV)光を当て」て,前記堆積層を少なくとも部分的に,SODから酸化シリコンに変換する段階を備えるのに対して,引用発明2では,「堆積層に紫外線(UV)光を当て」ることが特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
・相違点1について
上記「ア 引用例1を主引例とした検討(イ)相違点についての判断・相違点2について」で検討したように,本願補正発明1における,蒸気の分圧についての「15体積%」及び「70体積%」という値には,臨界的な意義を見いだすことができない。

一方,引用例2には「塗布した後のポリシラザン又はその変性物を水蒸気雰囲気に暴露することによりポリシラザン又はその変性物をセラミックス化させる。この接触には,一般に加湿炉やスチームが用いられる。具体的には・・・別に設けた加湿炉(温度50?100℃,相対湿度50?100%RH)の中を滞留時間10?60分で通過させる方法・・・が考えられる。・・・また,接触における湿度範囲は約0.1%RH?100%RHとすることができる」(【0047】)ことが,また,引用例3には「水蒸気雰囲気中での処理。圧力は特に限定されるものではないが,1?3気圧が現実的に適当である。相対湿度は特に限定されるものではないが,10?100%RHが好ましい。温度は室温以上で効果的であるが室温?150℃が好ましい」(【0073】)ことが記載されている。
そうすると,上記各記載から,ポリシラザンを水蒸気雰囲気に暴露することによりポリシラザンをセラミックス化させる場合における湿度範囲は,約0.1%RH?100%RH程度の範囲で適宜設定すべき設計事項と理解される。

してみれば,「恒温恒湿槽内で95℃,80%RH,3時間処理することによりポリシラザン塗膜をセラミックス化」する段階における,前記「95℃,80%RH」の蒸気の分圧が,「前記チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低く」という条件を満たしていなかったとしても,引用発明2において,当該「恒温恒湿槽内」における水蒸気の分圧は設計事項であると認められるから,引用例2及び引用例3の「接触における湿度範囲は約0.1%RH?100%RHとすることができる」及び「相対湿度は特に限定されるものではないが,10?100%RHが好ましい」等の記載に基づいて,「チャンバ内のガスの15体積%より高く,且つ,70体積%より低い」範囲に含まれる値に調節することは,当業者が適宜なし得たことといえる。そして,相違点1に基づく効果は,当業者が予測する範囲内のものであって,本願明細書の記載からは,格別のものとは認められない。

したがって,引用発明2において,上記相違点1について,本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
引用例3には「ポリシラザンを含む塗膜に紫外線を照射することができる。この紫外線照射により,基材が加熱され,セラミックス化(シリカ転化)に寄与するO_(2) とH_(2)Oや,紫外線吸収剤,ポリシラザン自身が励起,活性化されるため,ポリシラザンが励起し,ポリシラザンのセラミックス化が促進され,また得られるセラミックス膜が一層緻密になる。紫外線照射は,塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。」(【0065】,【0066】)との記載がある。
してみれば,引用例3の上記記載に基づいて,引用発明2において,「恒温恒湿槽内で95℃,80%RH,3時間処理することによりポリシラザン塗膜をセラミックス化」する段階で,当該処理期間にわたって,蒸気の存在下で,堆積層に紫外線(UV)光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,SODから酸化シリコンに変換すること,すなわち,引用発明2において,上記相違点2について,本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・効果について
上記相違点1,2に基づく効果は,当業者が予測する範囲内のものであって,本願明細書の記載からは,格別のものとは認められない。

(4)むすび
本願補正発明1は,引用例1ないし引用例3に記載された発明および技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであり,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年2月27日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-26に係る発明は,平成29年6月1日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-26に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
基板を処理する方法であって,
チャンバ内に蒸気を供給する段階と,
前記チャンバ内に,シリコンを含む堆積層が設けられている基板を配置する段階と,前記堆積層は,ポリシラザン(PSZ)を含むスピンオン誘電体(SOD)であり,
所定の変換期間にわたって,前記蒸気の存在下で,前記堆積層にUV光を当てて,前記堆積層を少なくとも部分的に,前記SODから酸化シリコンに変換する段階と
を備える方法。」

2 当審拒絶理由
この出願の請求項1ないし26に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献1ないし9に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開93/02472号
2.特開平9-183663号公報
3.特開2000-198160号公報
4.特表2009-503157号公報
5.特開平10-279362号公報
6.特開平5-343336号公報
7.米国特許第5387546号明細書
8.特開平8-55848号公報
9.特表2009-539265号公報

3 引用文献
当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3及びその記載事項は,前記第2の[理由]4(2)に記載したとおりである。

4 当審の判断
本願発明1を限定したものである本願補正発明1が,前記第2の[理由]4(3)で判断したとおり,引用例1ないし3に記載された発明および技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明1も同様に,引用例1ないし3に記載された発明および技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1ないし3に記載された発明および技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-22 
結審通知日 2018-03-27 
審決日 2018-04-09 
出願番号 特願2010-244261(P2010-244261)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 加藤 浩一
大嶋 洋一
発明の名称 膜の少なくとも一部を酸化シリコンに変換し、および/または、蒸気内紫外線硬化を利用して膜の品質を改善し、および、アンモニア内紫外線硬化を利用して膜を高密度化するシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  
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