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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01R
管理番号 1343582
審判番号 不服2017-9769  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-03 
確定日 2018-08-23 
事件の表示 特願2013- 48214「電流センサおよびセンサ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-217914〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月11日の出願(優先権主張、平成24年3月12日(以下、「優先日」という。))であって、平成28年9月12日付けの拒絶理由通知(発送日:同年同月20日)に対して同年11月21日付けで手続補正がされたが、平成29年3月27日付けで拒絶査定がされ(送達日:同年4月4日)、これに対し、同年7月3日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がされ、当審における平成30年3月14日付けの拒絶理由通知(発送日:同年同月20日)に対して、同年5月21日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がされ、同日付けで意見書(以下、「本件意見書」という。)の提出がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項2】
磁性材料を環状に形成してなり、該環状に囲まれた検出領域を貫通する被検出信号の影響で変化する外部磁場に応じて外部磁場0を頂点に透磁率μが減少していくと共に、該透磁率μの変化を「外部磁場-透磁率μで規定される座標系」にプロットした場合における曲線の曲率半径が外部磁場の絶対値に応じて大きくなる、といった特性を有するコア部材と、
前記コア部材に巻回され、該コア部材を励磁する励磁コイルと、
前記コア部材に巻回され、前記被検出信号の検出に用いられる検出コイルと、
前記コア部材に巻回され、前記被検出信号の影響による外部磁場の変化を相殺させるためのキャンセル信号が通電されるキャンセルコイル、を備え、
前記キャンセルコイルに通電されるキャンセル信号の影響で外部磁場が変化することにより、前記検出コイルからの出力信号に重畳される高調波成分を変化させるように構成されており、
さらに、
前記コア部材は、それぞれ前記検出領域を貫通する方向に沿って配置された第1,第2コア部材からなり、
前記励磁コイルは、前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが逆位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められており、
前記検出コイルは、前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが同位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められた2つが直列接続され、磁場に応じて増減する固有の高調波成分を強調してなる信号を出力するものであり、
前記キャンセルコイルは、前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが同位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められている
ことを特徴とするセンサ素子。」


第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審において平成30年3月14日付けで通知した拒絶の理由の理由2の概要は、本願の請求項1及び2に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された、国際公開第00/63057号に記載された発明及び特表2009-511868号公報に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


第4 引用例及びその記載事項
1 引用例1
(1)引用例1の記載
当審において平成30年3月14日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第00/63057号(2000年(平成12年)10月26日国際公開、以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付したものである。)。

ア 「This invention relates to a non-contact method of, and instrument for, sensing and measuring a current, particularly but not exclusively a current which may be less than 1 A.」(第1頁第3-6行)
(当審訳:本発明は、非接触で電流、特に1A以下、ただしこれに限定されるものでない、の電流を検知及び測定する装置及び方法に関する。)

イ 「The magnetic material forming the rings ensures that the relationship between electric current and magnetic flux density (B) is non- linear.The material desirably has a high magnetic permeability, as this enhances the sensitivity of the instrument.」(第2頁第23-27行)
(当審訳:リングを形成する磁性材料は、電流と磁束密度(B)との間の関係が非線形であることを保証する。この材料は、高い透磁率を有していることが望ましく、これは、装置の感度を強化する。)


ウ 「Referring to figures 1 and 2, an instrument 10 for sensing and monitoring DC currents in a cable 12 of external diameter 15 mm comprises two rings 14 each of internal diameter 20 mm, through which the cable 12 passes. The rings 14 are substantially identical, and each is wound from a 0.05 mm thick tape of mumetal, so it is of laminated form (mumetal is an alloy of approximate composition Fe 18%, Ni 75%, Cu 5%, and Cr 2%). Onto each ring 14 is wound a respective toroidal energising coil 16 (only one turn being shown in figure 1), of insulated wire, the coils 16 being connected in series with each other and connected to a source 18 of AC energising current. The coils 16 are arranged so the magnetising forces (H) in the rings 14 due to the energising current are equal, but are in opposite directions. Although shown spaced apart in the figures, the rings 14 are placed next to each other , separated only by the windings 16. A sensing winding 20 is then overwound around both rings 14 together (only one turn is shown in figure 1). The magnetic flux enclosed by the winding 20 is consequently the sum of the magnetic fluxes in the two rings 14, and any changes in that sum will generate a voltage in the winding 20. It will be appreciated that this is equivalent to winding separate sensing coils 20 around each ring 14 and then connecting these coils in series, as shown in the circuit diagram of figure 2. The sensing winding 20 is connected to a current indicator 22.」(第4頁第31行-第5頁第22行)
(当審訳:図1及び図2を参照すると、外径15mmのケーブル12内の直流電流を測定及び監視する装置10は、内径が20mmで、ケーブル12が貫通する2つのリング14を含む。2つのリング14は実質的に同一であり、各々は、厚さ0.05mmのミューメタルのテープが巻き付けられており、積層構造である(ミューメタルは、おおよその組成が、Fe 18%、Ni 75%、Cu 5%、Cr 2%の合金である)。各リング14上にはそれぞれ絶縁されたワイヤからなるトロイダル状励起コイル16が巻回されており(図1には1巻きのみ示されている。)、コイル16は互いに直列接続され、交流励起電流の電源18に接続されている。コイル16は、励磁電流に起因する2つのリング14内の磁化力(H)が逆方向であるが等しくなるように配置されている。図では離れて示されているが、リング14は、互いに隣に配置され、巻線16によってのみ分離されている。検出巻線20は、両方のリング14にまとめて巻回されている。(図1には1巻きのみ示されている。)巻線20に囲まれた磁束は従って2つのリング14内の磁束の総和であり、総和のいかなる変化も、巻線20に電圧を発生させる。これは、図2の回路図に示されているように、各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付け、これらのコイルを直列に接続することと等価であると理解される。検出巻線20は、電流指示器22に接続されている。)

エ 「In use of the instrument 10, the source 18 provides a square wave alternating voltage to the energising coils 16, which in this case is at a frequency of 750 Hz. The instrument is effectively an AC bridge network, and an output signal from the sensing winding 20 only occurs if there is a difference between the magnetic fluxes in the two rings 14. This happens if there is a current in the conductor 12, as this increases the flux in one ring 14 and decreases the flux in the other ring 14. Because of the non- linear characteristics of the magnetic material, the increase and the decrease will not be the same, and so there will be a voltage induced in the sensing winding 20. This frequency of AC current is such that each ring 14 is driven to saturation on each half cycle, using a peak current of 100 mA. (As excitation frequency is increased, the time available for saturating the magnetic material decreases, and therefore energy would have to be introduced at a greater rate. For a given number of turns in the energising windings 16, this may be achieved by adjusting the drive current, but there is no benefit in increasing the power consumption. Other considerations involved in selecting this frequency are that, in principle, one measurement of the current in the conductor 12 may be made per cycle; for accuracy it is preferable to average over a number of cycles. 」(第5頁第24行-第6頁第12行)
(当審訳:装置10を使用する際に、電源18は、励起コイル16に矩形波の交流電圧、このケースにおいては750Hzの周波数の交流電圧、を与える。この装置は、効果的な交流ブリッジネットワークであり、2つのリング14内の磁束間に差異がある場合のみ、検出巻線20から出力信号が発生する。これは、導体12に電流が流れている場合に起こり、1つのリング14内の磁束を増加させ、他方のリング14内の磁束を減少させるために起こる。磁性材料の非線形性によりその増加と減少が同じになることはないため、検出巻線20に誘導される電圧が生じる。この交流電流の周波数は、各リング14が各半サイクルで飽和状態にされ、100mAのピーク電流を使用する周波数である。(励起周波数が上昇するにつれて、磁気材料を飽和させるために利用可能な時間が減少するように、エネルギーはより大きな速度で導入しなければならない。巻き数が一定の励起巻線16については、これは、駆動電流を調整することによって達成することができるが、消費電力を増大させることに利益がない。この周波数を選択する際に他に考慮することは、原則的には、導体12の電流の1回の測定が、サイクル毎に実施できることであり、正確さを期すためには多数回のサイクルにわたり平均化することが好ましい。)

オ 「Referring again to Figure 1, the instrument 10 can be further improved by providing a feedback winding 30 driven by the output from the current indicator 22, the magnetic field of the current in the feedback winding 30 opposing the field of the current in the cable 12. The feedback winding 30 may have many turns, so the feedback current at balance may be many times less than the current in the cable 12. The variation with time of the flux in the rings 14 is thereby maintained near the zero- current condition, which has the beneficial effect of making operation of the instrument 10 substantially independent of the magnetic circuit characteristics. Furthermore the range of currents which can be measured is increased, being limited only by the capability of supplying a balancing current to the feedback winding 30. The sensitivity of the instrument 10 with feedback is dominated by the characteristics of the feedback, and is therefore much less dependent on the magnetic characteristics of the rings 14. With such a feedback system, the current in the feedback winding 30 provides a measure of the current in the cable 12.」(第8頁第11-31行)
(当審訳:再び図1を参照すると、装置10はさらに、電流指示器22からの出力によって駆動される帰還巻線30を設けることにより改良が可能であり、帰還巻線30内の電流による磁界はケーブル12における電流の磁界に対抗する。帰還巻線30は多数の巻数を有することができるので、平衡状態のフィードバック電流は、ケーブル12内の電流よりも何倍も小さくすることができる。それによりリング14内の磁束の時間的変化は、ほぼ零電流状態に維持され、このことは、装置10の動作を実質的に磁気回路特性に依存させないという効果を有する。さらに、測定することができる電流の範囲が増加し、帰還巻線30にバランス電流を供給する能力によってのみ制限される。フィードバックを備える装置10の感度は、フィードバックの特性によって支配されるので、リング14の磁気特性に著しく依存しなくなる。このようなフィードバックシステムにおいて、帰還巻線30内の電流は、ケーブル12内の電流の尺度を提供する。)


(2) 引用例1に記載された発明
引用例1の上記(1)の記載によれば、以下のことが認められる。

ア 引用例1には、電流を測定する装置の発明が記載されている。(上記(1)ア)

イ 電流を測定する装置10は、ケーブル12が内部を貫通する2つのリング14と、各リング14それぞれに巻回された2つのコイルが直列接続されたトロイダル状励起コイル16と、トロイダル状励起コイル16に接続された電源18と、2つのリングにまとめて巻回された検出巻線20と、検出巻線20に接続された電流指示器22と、を備える。(上記(1)ウ、図1)

ウ トロイダル状励起コイル16は、励磁電流に起因する2つのリング14内の磁化力が逆方向であるが等しくなるように配置されている。(上記(1)ウ)

エ 2つのリング14は実質的に同一であり、2つのリング14を形成する磁性材料は、透磁率が高く、測定対象に流れる電流と磁束密度との間の関係が非線形である磁性材料であり、例えばミューメタルである。(上記(1)イないしウ)

オ 電源18は、各リング14が各半サイクルで飽和する交流電圧をトロイダル状励起コイル16に与える。(上記(1)エ)

カ 電流を測定する装置10は、さらに、電流指示器22の出力によって駆動され、電流指示器22の出力が零となるように駆動され、流れる電流は2つのリング14の内部を貫通するケーブル12に流れる電流の大きさを示す帰還巻線30を備えることが可能である。(上記(1)オ、図1)

カ 以上のことを踏まえて、引用例1の前記(1)の記載をまとめると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ミューメタル等の、透磁率が高く、測定対象に流れる電流と磁束密度との間の関係が非線形である磁性材料から形成される、実質的に同一の2つのリング14と、
各リング14それぞれに巻回された2つのコイルが直列接続され、励磁電流に起因する2つのリング14内の磁化力が逆方向であるが等しくなるように配置されたトロイダル状励起コイル16と、
各リング14が各半サイクルで飽和する交流電圧をトロイダル状励起コイル16に与える電源18と、
2つのリング14にまとめて巻回された検出巻線20と、
検出巻線20に接続された電流指示器22と、
2つのリング14にまとめて巻回され、電流指示器22の出力によって駆動され、電流指示器22の出力が零となるように駆動され、流れる電流は2つのリング14の内部を貫通しているケーブル12に流れる電流の大きさを示す帰還巻線30と、
を備える電流を測定する装置。」

2 引用例2
(1)引用例2の記載
当審において平成30年3月14日付けで通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2009-511868号公報(平成21年3月19日国内公表)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付したものである。)。

「 【0001】
本発明は、磁界および電流センサと、これらのセンサのための制御方法と、これらのセンサのための磁心とに関する。」

「【背景技術】
【0002】
磁界センサは産業において様々に応用されている。例えば、磁界センサは自動車において、または航空分野において電流の測定を行うために使用されている。
【0003】
磁界センサは、信号を増幅するために変換器上に磁束を集束させるように磁心を使用することが多い。
【0004】
一般的に、磁心を形成する磁気材料は、ヒステリシスタイプの不要な非線形性を生じさせ、この非線形性は測定を混乱させ、および、従来の磁束フィードバック方法によるゼロ磁界動作を必要とする。
【0005】
特定の磁心が、磁界変換器または磁界変調器としても使用されている。この場合に、こうした磁心は、磁界の関数として変化する比透磁率によって特徴付けられている著しい非線形性を示すはずである。こうした磁心を形成するために従来において使用されている材料が軟質磁気合金である。ヒステリシスの問題を抑制するために、配向ナノ結晶状ストリップ型の等方性合金(例えば、Mu-metalTM)または非等方性合金が使用される。材料が何であろうとも、その材料を多少なりとも飽和させる励磁界が使用される。明確に述べると、磁気材料の飽和が、こうした材料の磁気サイクルB(H)における大きな屈曲点を生じさせる。この屈曲点は、磁界を変調するために使用される非線形性である。さらに明確に述べると、測定対象である外部磁界の存在が飽和を増大させ、および、したがって、検出される高調波を生じさせる。さらに、励磁界を変調するために外部磁界が使用されると述べることも可能である。
【0006】
したがって、
測定対象である磁界の振幅の関数として励磁界の振幅を変調することが可能であり、かつ、動作範囲[Hmin;Hmax]内においてヒステリシスを欠いている磁界の関数としての磁気誘導の磁気サイクルを示す少なくとも1つの磁心と、
磁心に接続されており、かつ、磁心内で誘導された磁界を測定することが可能である電子回路であって、この誘導磁界が、測定対象である磁界と励磁界との組合せの結果として生じる電子回路、とを有する磁界センサが存在する。」
【0007】
この材料が飽和させられる時に、比透磁率が急激に低下し、および、その次に、磁心がその磁束集束能力を失う。
【0008】
本発明は、磁心を飽和させる必要なしに測定対象である磁界の関数として励磁界を変調するために磁心を使用する磁界センサを提案することによって、この欠点を改善することを目的とする。」

「【0015】
本発明は、さらに、上述の磁界センサを制御する方法にも関係し、この方法は、ゼロの付近に位置しており、かつ磁心が決して飽和させられない動作範囲[Hmin;Hmax]内に、磁心内で誘導される磁界の振幅を恒久的に維持するのに適している励磁界および/またはフィードバック磁界を発生させる段階を含む。」

「【0017】
図1が、電気導体4内を流れる電流のセンサ2を示す。このセンサ2は、導体4によって放出される磁界Hmのセンサ6と、センサ6によって測定された磁界に基づいて導体4内を流れる電流の強度を明らかにするのに適している計算器8とを備える。
【0018】
センサ2は、例えば電流計クランプである。
【0019】
センサ6は、磁心10と、この磁心10に固定されている電子回路12とを備えている。この磁心10は超常磁性磁心であることが好ましい。
【0020】
磁心10は、磁界測定が導体の位置には無関係であるように導体4を取り囲む。このために、磁心10は、導体4を受け入れるようになっているハウジング14が中に作られている超常磁性本体13と、超常磁性留め具16とによって形成されている。この留め具16は、導体4がハウジング14内に送り込まれることが可能な開放位置と、導体4がハウジング14内に保持される閉鎖位置との間で移動可能である。
【0021】
この場合に、本体13は、2つの垂直方向の脚部18A、18Bを有する「U」字形の超常磁性ウェブ(添え骨)18で形成されている。
【0022】
同様に、留め具16は超常磁性のクレードル19で形成されている。この留め具16は、閉鎖位置にある時に、ハウジング14を取り囲む超常磁性材料の閉回路を形成するように、ウェブ18の自由端をクレードル19の自由端に磁気的に結合する。
【0023】
ウェブ18とクレードル19は同一の超常磁性材料で作られている。
【0024】
図1を単純化するために、ウェブ18とクレードル19だけが示されている。」

「【0026】
超常磁性磁心は磁気サイクルB(H)を示し、この磁気サイクルの典型的な例が図3Aのグラフに示されている。図3Aでは、横座標軸が、1メートル当たりのアンペアとして磁界Hを表し、および、縦座標軸がテスラ単位での磁気誘導を表す。
【0027】
図3Bが、この図に関する限り、その磁気誘導Bの第2次導関数の磁界Hの関数としての展開を表す。この第2次導関数は概ね線形でありかつ大きく傾斜した勾配23(楕円によって囲まれている)を表す。この勾配23は、磁界Hのゼロ値を中心としており、そして、限界Hminと限界Hmaxとの間に位置している。
【0028】
図3Cが、磁心10内で誘導された磁界の関数としての比透磁率の変動の典型的な例を示す。この変動は、限界Hminと限界Hmaxとの間において、非線形であり、そして、より明確に述べると、放物線状である。
【0029】
超常磁性材料は、次の点によって特徴付けられている。
(1)この材料は残留磁気を全く示さず、したがって、磁界Hがゼロである時には磁気誘導Bはゼロであるか、またはほぼゼロである。
(2)この材料はヒステリシスを全く示さず、したがって、磁化曲線が磁気サイクルB(H)中の減磁曲線と一致する。
(3)比透磁率は、磁界の関数として連続的かつ非線形的に変化する。
(4)磁気サイクルB(H)は、磁界Hの方向が何であろうとも、同一の形状と同一の特性とを示す。
(5)磁界Hに関する磁気誘導Bの第3次導関数の絶対値が、磁界Hがゼロである時に最大を示す。」

「【0032】
特徴(5)は、磁気サイクルB(H)がゼロ磁界の付近において高度に非線形的であるという事実から結果的に生じる。さらに、このことの必然的な結果として、勾配23が非常に傾斜している。したがって、磁界Hのわずかな変動が、磁気誘導Bの第2次導関数の大きな変動と、更には、測定された信号の偶数高高調波の振幅の大きな変動とを結果的に生じさせる。この偶数高高調波は、励磁界の周波数の整数倍数Nである周波数を有する高調波であり、かつ、Nは偶数であると定義されている。このことが、センサ6が、ゼロ磁界の付近において、測定対象である磁界の変動に対して非常に良好な感度を有するということを説明する。」

「【0053】
磁界Hexの振幅は限界Hminと限界Hmaxとの間にある。
【0054】
回路12は、磁界Hexを生じさせるための調整可能な供給源を含む。この供給源は、例えば、制御可能な電力供給源22によって周波数F0のAC電流を供給する励磁巻線20によって形成されている。
【0055】
巻線20は、磁界Hexが脚部18A、18B内で同一の方向を有するように、ウェブ18の周りに巻き付けられている。
【0056】
回路12は、更に、磁心内側の磁界Hexに応答して誘導された磁界Hiを測定可能な電流、または電圧のような電気信号に変形するのに適している、少なくとも1つの変換器も備える。このために、これらの変換器の各々は磁界Hiに対して感応する表面を有する。
【0057】
この場合に、回路12は、それぞれに垂直方向の脚部18A、18Bの内側の磁界Hiに対して感応する2つの変換器26、28を備える。
【0058】
例えば、変換器26、28は、それぞれに垂直方向の脚部18A、18Bの周りに巻き付けられている測定巻線である。
【0059】
変換器26、28は、差動的に能動フィルタの入力に接続されている。したがって、測定対象である磁界が全く存在しない場合には、フィルタ30の入力における電気信号はゼロである。変換器26、28のこのような差動的構成は、センサ6の感度を増大させることを可能にする。
【0060】
フィルタ30は、後続の処理にとって無用である高調波の測定電気信号を除去するために前フィルタリングすることを可能にする。
【0061】
フィルタ30の出力は、その周波数がF0の倍数でありかつF0が励磁界の周波数である入力として受け取られる信号の1つまたは複数の高調波を抽出するのに適している振幅復調器32の入力に接続されている。単一の高調波が測定される場合には、抽出された高調波の周波数はN.F0であり、前式中のNは、その信号の処理を容易にするために偶数である。例えば、この場合には、Nが2に等しい。
【0062】
フィルタ32は、例えば、電力供給源22に接続されている同期検出器である。
【0063】
回路12は、さらに、温度変動に対してセンサ6をより堅牢にするために、および、そのセンサ6の線形性の範囲を増大させるために、磁界フィードバックを備える。
【0064】
この場合に、この磁界フィードバックは、さらに、ゼロの付近に位置しており、そして好ましくは、値ゼロを中心としている動作範囲[Hmin;Hmax]内に恒久的に磁界Hiの振幅を維持するために使用される。この動作範囲[Hmin;Hmax]は図3Bと図3Cに示されている。
【0065】
限界Hminと限界Hmaxの値が、磁心10がその範囲内では決して飽和させられない動作範囲に相当するように選択されることが好ましい。
【0066】
このために、回路12は調整器36を備えており、および、この調整器の入力が復調器34の出力に接続されており、かつ、この調整器の出力が磁界フィードバック巻線40に接続されている。この調整器36は、測定対象である磁界Hmを消去するのに適しているフィードバック磁界Hcを巻線40が生じさせるように、巻線40を制御することが可能である。
【0067】
このために、巻線40はウェブ18の周りに巻き付けられている。
【0068】
巻線40を巡って流れる電流が、測定対象である磁界を表している。
【0069】
調整器36の出力の1つが計算器8に接続されている。」

「【0077】
次に、センサ2の動作を、図4の方法に関して説明する。
【0078】
連続電流または交流が導体4内を流れると、この導体4は磁心10内側に磁界Hmの発生を生じさせる。
【0079】
ステップ50では、巻線20が磁心10の内側に磁界Hexを生じさせる。これと並行して、ステップ51中に、巻線40が、磁心10の内側で導体4の周りを循環する磁界Hcを生じさせる。
【0080】
したがって、変換器26、28がそれに対して感応性を有する磁心10の内側で誘導された磁界Hiが、磁界Hm、Hex、および、Hcのベクトル合計の結果である。
【0081】
ステップ50とステップ51の間に、回路12は、誘導磁界Hiが範囲[Hmin;Hmax]内に維持されるように磁界Hexと磁界Hcとを発生させる。したがって、磁心10は飽和させられず、および、磁束を集束させるための適切な能力を保持することが可能である。」

図3C


(2)引用例2に記載された技術
引用例2の上記(1)の記載によれば、以下のことが認められる。

ア 引用例2には、背景技術として、Mu-metal等の材料を使用した磁心を用い、磁気材料の飽和により磁気サイクルにおける屈曲点が生じ、当該屈曲点による非線形性を使用して測定対象である磁界の振幅の関数として励磁界の振幅を変調し、高調波の検出をおこなう磁界センサが挙げられている。(【0002】-【0006】)

イ 上記アの磁界センサには、「この材料が飽和させられる時に、比透磁率が急激に低下し、および、その次に、磁心がその磁束集束能力を失う。」(【0007】)という課題がある。

ウ 引用例2に記載された技術は、上記イの課題を解決するために、「磁心を飽和させる必要なしに測定対象である磁界の関数として励磁界を変調するために磁心を使用する磁界センサを提案することによって、この欠点を改善することを目的とする。」(【0008】)ものである。

エ 上記アないしウから、引用例2には、背景技術であるMu-metal等の材料を使用した磁心を用い、磁気材料を飽和させるセンサが有する「材料が飽和させられる時に、比透磁率が急激に低下し、および、その次に、磁心がその磁束集束能力を失う」という課題を、「磁心を飽和させる必要なしに測定対象である磁界の関数として励磁界を変調するために磁心を使用する」ことにより解決する技術思想が記載されている。

オ 引用例2には、上記エの技術思想を具体化するために、段落【0028】、【0029】に記載の特性を有する超常磁性体を用い、当該超常磁性体が「磁気サイクルB(H)がゼロ磁界の付近において高度に非線形的である」ことを利用することで、「ゼロ磁界の付近において、測定対象である磁界の変動に対して非常に良好な感度を有する」「センサ」(【0032】)を構成している。

カ 引用例2には、上記エの技術思想を具体化したセンサとして、以下の構成を備える電流センサが記載されている。

「超常磁性ウェブ18及びクレードル19を有する磁心10と(【0020】-【0024】)、
回路12とを備える磁界のセンサ6であって(【0017】、【0019】)、
回路12は、
超常磁性磁心10に巻き付けられ周波数FoのAC電流を供給する励磁巻線20と(【0054】、【0055】)、
超常磁性磁心10に巻き付けられ、磁心内側の磁界に感応する測定巻線26、28と(【0057】、【0058】)、
超常磁性磁心10に巻き付けられた磁界フィードバック巻線40(【0063】、【0066】、【0067】)と、
測定巻線26、28からの信号が差動的に入力され、後続の処理にとって無用である高調波の測定電気信号を除去するフィルタ30と(【0059】、【0060】)、
フィルタ30の出力が入力され、例えば2×Foの高調波を抽出するのに適している振幅複調器と(【0061】)、
入力が振幅複調器の出力に接続されており、出力が磁界フィードバック巻線40に接続され、測定対象である磁界Hmを消去するのに適しているフィードバック磁界Hcを磁界フィードバック巻線40が生じさせるように、磁界フィードバック巻線40を制御することが可能な調整器36と(【0066】)を備える磁界のセンサ6と、
調整器36の出力が接続され、超常磁性磁心10内を貫通する導体4に流れる電流の強度を明らかにする計算器8と(【0017】、【0020】、【0069】)
を備える電流センサ2(【0017】)。」

キ 上記カの電流センサにおいて、励磁巻線20に電流を供給することにより生じる磁界Hexと、磁界フィードバック巻線40により生じるフィードバック磁界Hcを、磁界Hm、Hex、および、Hcのベクトル合計の結果で表される誘導磁界Hiが、磁心が決して飽和させられない動作範囲[Hmin;Hmax]内に維持されるように発生させることにより、磁心10を飽和させない。(【0015】、【0079】-【0081】)


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「磁性材料から形成される2つのリング14」は、本願発明の「磁性材料を環状に形成してなり、該環状に囲まれた検出領域を貫通する被検出信号の影響で変化する外部磁場に応じて外部磁場0を頂点に透磁率μが減少していくと共に、該透磁率μの変化を「外部磁場-透磁率μで規定される座標系」にプロットした場合における曲線の曲率半径が外部磁場の絶対値に応じて大きくなる、といった特性を有するコア部材」と、「磁性材料を環状に形成してなるコア部材」である点で共通し、
引用発明の「2つのリング14」が、「ケーブル12」が「内部を貫通」していることは、本願発明の「コア部材」が、「それぞれ前記検出領域を貫通する方向に沿って配置された第1,第2コア部材からな」ることに相当する。

(2)引用発明の「各リング14それぞれに巻回された2つのコイルが直列接続され」た「トロイダル状励起コイル16」は、「励磁電流に起因する2つのリング14内の磁化力が逆方向であるが等しくなるように配置され」ていること、及び「2つのリング14」が「実質的に同一」であることから、「各リング14それぞれに巻回された2つのコイル」の一方のコイルに流れる電流と他方のコイルに流れる電流とが逆位相かつ同一レベルとなるように巻回される回数および位置関係が定められていると認められる。
このことと上記(1)を踏まえると、引用発明の「各リング14それぞれに巻回された2つのコイルが直列接続され、励磁電流に起因する2つのリング14内の磁化力が逆方向であるが等しくなるように巻回されたトロイダル状励起コイル16」は、本願発明の「前記コア部材に巻回され、該コア部材を励磁」し、「前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが逆位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められて」いる「励磁コイル」に相当する。

(3)上記(1)を踏まえると、引用発明の「2つのリング14にまとめて巻回された検出巻線20」は、本願発明の「前記コア部材に巻回され、前記被検出信号の検出に用いられる検出コイル」に相当する。

(4)上記(1)を踏まえると、引用発明の「2つのリング14へとまとめて巻回され、電流指示器22の出力によって駆動され、電流指示器22の出力が零となるように駆動され」る「帰還巻線30」は、本願発明の「前記コア部材に巻回され、前記被検出信号の影響による外部磁場の変化を相殺させるためのキャンセル信号が通電されるキャンセルコイル」に相当する。
引用発明の「帰還巻線30」が、「電流指示器22の出力によって駆動され、電流指示器22の出力が零となるように駆動され」ることは、「電流指示器22の出力」に応じて「帰還巻線30」に電流が流され、当該電流により2つのリング14内に磁界を生じさせ、検出巻線20からの出力を変化させることと認められるから、本願発明の「キャンセルコイル」が、「前記キャンセルコイルに通電されるキャンセル信号の影響で外部磁場が変化することにより、前記検出コイルからの出力信号に重畳される高調波成分を変化させるように構成されて」いることと、「前記キャンセルコイルに通電されるキャンセル信号の影響で外部磁場が変化することにより、前記検出コイルからの出力信号を変化させるように構成されて」いる点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
磁性材料を環状に形成してなるコア部材と、
前記コア部材に巻回され、該コア部材を励磁する励磁コイルと、
前記コア部材に巻回され、前記被検出信号の検出に用いられる検出コイルと、
前記コア部材に巻回され、前記被検出信号の影響による外部磁場の変化を相殺させるためのキャンセル信号が通電されるキャンセルコイル、を備え、
前記キャンセルコイルに通電されるキャンセル信号の影響で外部磁場が変化することにより、前記検出コイルからの出力信号を変化させるように構成されており、
さらに、
前記コア部材は、それぞれ前記検出領域を貫通する方向に沿って配置された第1,第2コア部材からなり、
前記励磁コイルは、前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが逆位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められている
ことを特徴とするセンサ素子。

(相違点)
(相違点1)
本願発明の「コア部材」は、「該環状に囲まれた検出領域を貫通する被検出信号の影響で変化する外部磁場に応じて外部磁場0を頂点に透磁率μが減少していくと共に、該透磁率μの変化を「外部磁場-透磁率μで規定される座標系」にプロットした場合における曲線の曲率半径が外部磁場の絶対値に応じて大きくなる、といった特性を有する」のに対し、引用発明の「リング14」は、「ミューメタル等の、透磁率が高く、測定対象に流れる電流と磁束密度との間の関係が非線形磁性材料」を有しているものの、透磁率が上記特性を有しているのか否か不明な点。

(相違点2)
本願発明の「キャンセルコイル」は、「検出コイルからの出力信号に重畳される高調波成分を変化させるように構成されて」いるのに対し、引用発明の「帰還巻線30」は、「検出巻線20」からの出力信号に重畳される高調波成分を変化させるように構成されているのかどうか不明な点。

(相違点3)
本願発明の「検出コイル」は、 「第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが同位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められた2つが直列接続され、磁場に応じて増減する固有の高調波成分を強調してなる信号を出力するもの」であるのに対し、引用発明の「検出巻線20」は、2つのリングへとまとめて巻回されており、磁場に応じて増減する固有の高調波成分を強調してなる信号を出力するものであるのか否か不明な点。

(相違点4)
本願発明2の「キャンセルコイル」は、「前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが同位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められている」のに対し、引用発明の「帰還巻線30」は、2つのリングへとまとめて巻回されている点。


第6 判断
以下、相違点1ないし4について検討する。

1 相違点1及び2について
引用例2には、上記第4の2(2)エにおいて述べたように、背景技術であるMu-metal等の材料を使用した磁心を用い、磁気材料を飽和させるセンサが有する「材料が飽和させられる時に、比透磁率が急激に低下し、および、その次に、磁心がその磁束集束能力を失う」という課題を、「磁心を飽和させる必要なしに測定対象である磁界の関数として励磁界を変調するために磁心を使用する」ことにより解決する技術思想が記載されている。
引用発明は、引用例2に記載の背景技術と同様に、リング14(引用例2の「磁心」に相当)の材料として例えばミューメタル(mumetal)を用いるものであり、引用例1には交流電流の半サイクル毎に各リングの磁化が飽和するように交流電流が制御される旨記載されていることから(上記第4の1(1)エ参照)、引用発明は、引用例2に記載の背景技術と同様にリング14を飽和させるものであると認められる。
よって、引用例2の記載に接した当業者にとって、引用発明が引用例2に記載の課題「材料が飽和させられる時に、比透磁率が急激に低下し、および、その次に、磁心がその磁束集束能力を失う」を有していることは自明な事項であり、当該課題を解決するために引用例2に記載された技術の適用可能性を検討することは当然である。

次に、引用発明に引用例2に記載された技術を容易に適用可能かどうかを検討する。
引用例2には、上記第4の2(2)オにおいて述べたように、上記課題を解決するために、段落【0028】、段落【0029】に記載の特性を有する超常磁性材料により磁心を形成し、当該超常磁性体が「磁気サイクルB(H)がゼロ磁界の付近において高度に非線形的である」ことを利用することで、「ゼロ磁界の付近において、測定対象である磁界の変動に対して非常に良好な感度を有する」「センサ」とすることが記載されている。
そして、上記段落【0028】には「図3Cが、磁心10内で誘導された磁界の関数としての比透磁率の変動の典型的な例を示す。この変動は、・・・放物線状である。」と記載されており、当該記載及び図3Cから、引用例2に記載の「超常磁性体」からなる「磁心」は、外部磁場に応じて外部磁場0を頂点に透磁率μが減少していくと共に、該透磁率μの変化を「外部磁場-透磁率μで規定される座標系」にプロットした場合における曲線の曲率半径が外部磁場の絶対値に応じて大きくなる特性を有していると認められる。
引用発明と引用例2に記載されたセンサ(上記第4の2(2)カ)はいずれも電流センサであり、磁心(引用発明の「リング14」、引用例2に記載された電流センサの「超常磁性磁心10」に相当。以下、同順)、励磁コイル(「トロイダル状励磁コイル16」、「励磁巻線20」)、検出コイル(「検出巻線20」、「測定巻線26、28」)、フィードバックコイル(「帰還巻線30」、「磁界フィードバック巻線40」)を備えている点で共通する。

さらに、引用発明は、トロイダル状励磁コイル16により生じた磁界の方向が、一方のリングにケーブル12に流れる電流により生じた磁界の方向と同方向である場合には、他方のリングにおいては逆方向となるように構成されており、各リングに誘起された磁束密度の差の変化量を検出巻線により検出するものであり、
引用例2に記載されている電流センサは、励磁巻線20により生じた磁界の方向が、一方の測定巻線の位置において導体4に流れる電流により生じた磁界の方向と同方向である場合には、他方の測定巻線の位置においては逆方向となるように構成されており、各測定巻線において検出した磁心10に誘起された磁束密度の変化量の差をフィルタ30に入力する発明である。
よって、引用発明と引用例2に記載されている発明とは、励磁コイルにより生じた磁界の方向が、測定対象に流れる電流に生じた磁界の方向と同方向となる箇所と逆方向となる箇所の2箇所において磁束密度の変化量を検出し、該磁束密度の変化量の差を検出する点で共通する。

したがって、上記共通点を踏まえると、磁心を飽和させる引用発明において、磁心を飽和させる手法の課題を解決するために引用例2に記載された技術を適用することを検討した場合、引用発明の「リング14」を引用例2に記載された特徴を有する超常磁性材料により形成された磁心に換え、「検出巻線20」から出力される信号の内、「トロイダル状励磁コイル16」に付与される交流電圧の周波数の2倍の高調波を検出する構成を付加すれば、「リング14」を飽和させる必要がなく、検出巻線に高調波成分が重畳されて当該高調波成分に基づいてケーブル12に流れる電流の大きさが検出可能な電流センサが得られ、上記課題を解決できることは、当業者であれば自明な技術事項であるから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは、当業者が容易になしえたことである。
さらに、引用例2には、上記第4の2(2)キで述べたように、励磁巻線20に電流を供給することにより生じる磁界Hexと、磁界フィードバック巻線40により生じるフィードバック磁界Hcを、誘導磁界Hiが磁心が決して飽和させられない動作範囲[Hmin;Hmax]内に維持されるように発生させることにより、磁心10は飽和させないことが記載されており、「励磁コイル」及び「フィードバックコイル」備える引用発明においても、引用例2に記載された技術と同様に、「トロイダル状励磁コイル16」及び「帰還巻線30」に流す電流を制御し、生じる磁界の大きさを制御することにより、磁心を飽和させない制御が可能であることは、当業者にとって自明な事項であるから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することに格別の技術的な困難性も認められない。

以上により、引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、引用発明の「リング14」を引用例2に記載の、外部磁場に応じて外部磁場0を頂点に透磁率μが減少していくと共に、該透磁率μの変化を「外部磁場-透磁率μで規定される座標系」にプロットした場合における曲線の曲率半径が外部磁場の絶対値に応じて大きくなる特性を有する材料で形成し、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になしえたことである。

そして、引用発明に引用例2に記載された技術を適用した発明は、引用例2に記載の電流センサが「測定巻線26、28」の出力に「例えば2×Foの高調波」成分が重畳され、「高調波を抽出する」「振幅複調器」の出力により「磁界フィードバック巻線40を制御する」のと同様に、引用発明の「検出巻線20」が高調波成分が重畳された信号を出力し、「帰還巻線30」が該高調波成分を変化させる機能を有するものとなるから、本願発明の相違点2に係る構成を有するものである。

2 相違点3について
引用例1の第5頁第14-20行(上記第4の1(1)ウ参照)には、「検出巻線20は、両方のリング14にまとめて巻回されている。・・・これは、図2の回路図に示されているように、各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付け、これらのコイルを直列に接続することと等価であると理解される。」と記載されている。
そして、引用発明において、「検出巻線20」を、各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付けこれらのコイルを直列に接続したものとすることに対する阻害要因が認められず、各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付けこれらのコイルを直列に接続することに対する、両方のリング14にまとめて巻回すことの格別の効果も認められないから、引用発明において「検出巻線20」を2つのリング14に巻回す際に、回路的に等価である「両方のリング14にまとめて巻回す」及び「各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付け、これらのコイルを直列に接続する」のいずれの巻回し方を選択するかは、当業者が適宜選択可能な設計事項に過ぎない。

さらに、上記1において述べたように、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは当業者が容易に想到しえたことであり、引用発明に引用例2に記載された技術を適用した発明は、「検出巻線20」が高調波成分が重畳された信号を出力するものとなる。

よって、引用発明に引用例2に記載された技術を適用して本願発明の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になしえたことである。

3 相違点4について
上記2において述べた、検出巻線20が両方のリング14にまとめて巻回されていることと、各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付けこれらのコイルを直列に接続することが回路的に等価であることは、検出巻線20が両方のリング14にまとめて巻回されているときと、各リング14にそれぞれ検出コイル20を巻き付けこれらのコイルを直列に接続したときとでは、電気的な接続関係に違いがなく、回路として区別ができないことによるものであって、コイルの用途が検出用であることによるものでない。したがって、これは、検出用のコイルに限らず、コイル一般に当てはまる。
よって、引用発明の「帰還巻線30」についても、各リング14にそれぞれ巻回されたコイルを直列に接続することに対する阻害要因が認められず、各リング14にそれぞれコイルを巻き付けこれらのコイルを直列に接続することに対する、両方のリング14にまとめて巻回すことの格別の効果も認められないから、引用発明において「帰還巻線30」を2つのリング14に巻回す際に、回路的に等価である「両方のリング14にまとめて巻回す」及び「各リング14にそれぞれコイルを巻き付け、これらのコイルを直列に接続する」のいずれの巻回し方を選択するかは、当業者が適宜選択可能な設計事項に過ぎない。
よって、引用発明及び上記設計事項に基づいて本願発明の相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になしえたことである。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 請求人の主張について
請求人は、本件意見書において、以下のように主張している。
「まず、これまでの出願人の主張のとおり、2つのコア部材を有する電流センサが開示された引用文献3に記載の発明(以降、「引用発明3」という)と、1つのコア部材で微小な高調波成分と特定する電流センサが開示された引用文献1に記載の発明(以降、「引用発明1」という)とは、本願発明のように、“2つのコア部材を有する構成により微小な高調波成分を特定する”という技術的課題に着目したものでなく、その解決のために創意工夫を施したものではないため、そもそもその組み合わせ自体が困難であり、それ故に単純に組合せたとしても、本願発明の構成要素全てを備えたものとはなりません。」

上記主張は以下の2点について主張しているものと認められる。
(主張1)引用発明(本件意見書の「引用発明3」)に、引用例2に記載の発明(本件意見書の「引用文献1に記載の発明」)に適用することは当業者が容易に想到するものでない。

(主張2)引用発明(本件意見書の「引用発明3」)に、引用例2に記載の発明(本件意見書の「引用文献1に記載の発明」)に適用することが当業者が容易に想到しえたとしても、本願発明の構成要素全てを備えたものとはならない。

以下、上記(主張1)及び(主張2)について検討する。

1(主張1)について
上記第6の1において述べたように、当業者にとって、引用発明が引用例2に記載の課題を有していることは自明な事項であり、当該課題を解決するために引用例2に記載された技術の適用可能性を検討することは当然であり、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することに技術的困難性も認められないから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは、当業者が容易に想到しえたことである。

2(主張2)について
請求人は、本件意見書において(主張2)についてさらに、「『前記キャンセルコイルは、前記第1,第2コア部材それぞれに巻回された2つが直列接続され、一方に流れる信号と他方に流れる信号とが同位相かつ同一信号レベルとなるように、巻回される回数および位置関係が定められている』という構成要素が備えられたものではありません。」、
及び
「この点補足しますと、拒絶理由通知では、引用文献3の第5頁第14-20行の記載をもとに、「2つのリング14へとまとめて巻回された巻線は、各リング14にそれぞれ巻回された巻線を直列に接続したものと等価であること」が「当業者であれば周知の技術事項」とし、これをもって、キャンセルコイルに相当する帰還巻線30が「いずれの巻回し方とするかは当事者が適宜選択可能な設計事項」としていますが、この行は、帰還巻線30について言及したものではありません。つまり、この設計事項とする認定には誤りがあり、「「帰還巻線30」を各リング14にそれぞれ巻回された巻線を直列に接続する構成に換えることは、当業者が適宜なしうること」ということもできません。」と主張している。
しかし、上記第6の3において述べたように、コイルが両方のリング14にまとめて巻回されていることと、各リング14にそれぞれコイルを巻き付けこれらのコイルを直列に接続することが回路的に等価であることは、検出用のコイルに限らず、コイル一般に当てはまることであるから、引用発明の「帰還巻線30」についても、いずれの巻回し方を選択するかは、当業者が適宜選択可能な設計事項に過ぎない。

したがって、請求人の(主張1)及び(主張2)は採用できない。


第8 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-14 
結審通知日 2018-06-26 
審決日 2018-07-09 
出願番号 特願2013-48214(P2013-48214)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01R)
P 1 8・ 537- WZ (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
須原 宏光
発明の名称 電流センサおよびセンサ素子  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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