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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1343627
審判番号 不服2017-11501  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-02 
確定日 2018-08-30 
事件の表示 特願2012- 55510「放射性セシウムの固定化材」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開、特開2013-190257〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月13日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成27年12月 2日付け:拒絶理由通知書(同年同月8日発送)
平成28年 1月20日 :意見書・手続補正書の提出
同年 4月28日付け:拒絶理由通知書(同年5月10日発送)
同年 6月16日 :意見書・手続補正書の提出
同年10月20日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
(同年同月26日発送)
同年12月13日 :意見書・手続補正書の提出
平成29年 5月23日付け:平成28年12月13日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(同年同月30日送達)
同年 8月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成29年8月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年8月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、平成28年6月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「(A)ブレーン比表面積が3000cm^(2)/g以上のフライアッシュからなるフィラーと、(B)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カリウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ活性剤と、(C)水とを含む、放射性セシウムの固定化材(ただし、スラグは含まれない。)。」が、

「(A)ブレーン比表面積が3000cm^(2)/g以上のフライアッシュからなるフィラーと、
(B)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カリウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ活性剤と、
(C)水とを含み、
(B)アルカリ活性剤中のアルカリ金属/(C)水のモル比が0.31である、
放射性セシウムの固定化材(ただし、スラグは含まれない。)。」
と補正された(下線は、補正箇所を示す。)。

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「アルカリ活性剤」及び「水」について、「(B)アルカリ活性剤中のアルカリ金属/(C)水のモル比が0.31である」と限定するものを含むものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は、第17条の2第5項第2号の規定に適合する。

さらに、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、前記した事項により特定される、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1) 本願補正発明
本願補正発明は、上記「1」(1)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である「A. Fernandez-Jimenez, ほか3名,"Immobilization of cesium in alkaline, activated fly ash matrix",Journal of Nuclear Materials,2005年11月15日,Vol. 346,p. 185-193」には、図面とともに、次の事項が記載されている(翻訳文は、当審が作成した。また、下線は、当審が付加した。以下同様。)。

(ア) 「 The reported success of hydrothermal studies, in which Cs from highly alkaline (pH > 13) solution is incorporated in crystalline aluminosilicate minerals [5-8], prompted the present study which seeks to investigate the efficacy of alkali-activated fly ash cements as alternative binders for waste immobilization. A number of factors are relevant. Alkaline activated fly ash cements have some similarities with Portland cement and other ceramic materials [9,10]. For example, alkaline activated fly ashes set at low temperature (45-150 ℃) to give amorphous to semicrystalline structures [11,12] from which zeolite crystallisation may occur in the final stages of hydration. The first-formed aluminosilicate gel product is essentially amorphous to X-rays but NMR [11] studies have revealed a three-dimensional short-range structure in which the Si is found in a variety of environments, with a predominance of Q^(4)(3Al) and Q^(4)(2Al) units. Also, alkaline activated aluminosilicates materials are reported to be more durable in aggressive environments [13] than Portland cements. Consequently it is thought that most of industrial and even nuclear wastes (liquids, sludges, solids, etc.) could be stabilized in this type of matrix [6,14-17].」(185頁本文右欄1行?186頁左欄2行)
(「Csが高度にアルカリ性(pH>13)の水溶液から結晶性アルミノケイ酸塩鉱物中に取り込まれるという水熱研究の成功の報告[5-8]が本研究のきっかけとなり、廃棄物固定のための代替え結合材としてアルカリ活性化フライアッシュセメントの効能に関する研究を追求する。多数の因子が関係する。アルカリ活性化フライアッシュセメントは、ポルトランドセメントおよび他のセラミック材料といくつかの類似性を持つ[9,10]。例えば、アルカリ活性化フライアッシュは低温(45?150℃)でアモルファスないし半結晶構造をとり[11,12]、その後の水和の最終段階でゼオライト結晶化が起こるであろう。最初に形成されるアルミノケイ酸塩ゲル生成物は基本的にX線に対してアモルファスであるが、NMR研究[11]により種々の環境に見出されるSiの三次元短距離構造が明らかになり、そこではQ^(4)(3Al)およびQ^(4)(2Al)のユニットが優勢である。さらに、アルカリ活性アルミノケイ酸塩材料は浸蝕性環境でポルトランドセメントより耐久性の高いことが報告されている[13]。従って、大抵の産業廃棄物や放射性廃棄物(液体、スラッジ、固体、その他)は、このタイプのマトリックス中で安定化されるだろうと考えられる[6,14-17]。」(翻訳文))

(イ) 「 A complete chemical, physical, mineralogical and microstructural characterization of the Spanish class F fly ash used has been reported elsewhere [18,19]; chemical analyses data only are reproduced here in Table 1. The fly ash used is a vitreous material with some minor crystalline phases (mullite, quartz, magnetite and hematite) and is made up of cenospheres and plerospheres with 78.5 wt% of particles sized less than 45 μm.
All samples were activated with 8M NaOH solution, with a fly ash/solution ratio = 0.4. The cesium content of mixes was kept constant at 1 wt% of the initial fly ash content, and was added as CsOH A H_(2)O (strongly alkaline base which can attack glass) and CsNO_(3) dissolved in the alkaline activator. Pastes were mixed by hand to give complete homogenization. They were then poured and compacted into metal moulds. Samples were then sealed in polypropylene bottles and cured in an oven for 5 h and 7 d at temperatures of 85℃ or 120 ℃. After curing, the samples were removed from the oven and demolded. 」(186頁左欄15行?右欄5行)
(「用いたスペイン種フライアッシュの化学的、物理的および微細構造的な完全な特性評価は別に報告した[18,19]。化学分析データのみをここで表1に再現する。用いたフライアッシュは硝子体材料で、いくつかの微結晶相(ムライト、石英、マグネタイトおよびヘマタイト)を含み、セノスフィア(ガラス質粒土球)とプレロスフィアからなり、その78.5重量%は粒子サイズが45mmより小である。
全てのサンプルを8MNaOH水溶液でフライアッシュ/水溶液比=0.4として活性化した。混合物中のセシウム含有量は最初のフライアッシュ含有量の1重量%に一定に保ち、セシウムはCsOH・CsOH・H_(2)O(ガラスを溶かすことのできる強アルカリ性塩基)およびアルカリ性活性剤中に溶かしたCsNO_(3)として加えた。ペーストを手操作で混合し均一化した。次いでそれらを金属製の型に流し入れ、固めた。サンプルはポリプロピレン瓶に封入し、オーブン中85℃あるいは120℃で5時間および7日間養生した。養生の後、サンプルをオーブンから除き、型から取り出した。」(翻訳文))

(ウ) 「 Leachate Cs concentrations following the ANS 16.1 leaching test were consistently below the analytical detection limit (1 ppm).」(191頁右欄16?18行)
(「ANS16.1浸出試験に従った浸出液のCs濃度は、一貫して分析検出限界(1ppm)より小さかった。」(翻訳文))

(エ) 上記(ア)の「Csが高度にアルカリ性(pH>13)の水溶液から結晶性アルミノケイ酸塩鉱物中に取り込まれるという水熱研究の成功の報告[5-8]が本研究のきっかけとなり、廃棄物固定のための代替え結合材としてアルカリ活性化フライアッシュセメントの効能に関する研究を追求する。」、及び、
「アルカリ活性化フライアッシュセメントは、ポルトランドセメントおよび他のセラミック材料といくつかの類似性を持つ[9,10]。・・・(中略)・・・従って、大抵の産業廃棄物や放射性廃棄物(液体、スラッジ、固体、その他)は、このタイプのマトリックス中で安定化されるだろうと考えられる[6,14-17]。」からみて、
アルカリ活性化フライアッシュセメントは、放射性セシウムの固定化を行うためのものであることが読み取れる。

(オ) 上記(ア)、及び、上記(イ)の「全てのサンプルを8MNaOH水溶液でフライアッシュ/水溶液比=0.4として活性化した。」からみて、
アルカリ活性化フライアッシュセメントは、フライアッシュと、8MNaOH水溶液とを含み、フライアッシュ/水溶液比=0.4として活性化したものであることが読み取れる。

したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「フライアッシュと、
8MNaOH水溶液とを含み、
フライアッシュ/水溶液比=0.4として活性化した、
放射性セシウムの固定化を行うためのアルカリ活性化フライアッシュセメント」

(3) 対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用文献1発明とを対比する。

(ア) 本願補正発明の「(A)ブレーン比表面積が3000cm^(2)/g以上のフライアッシュからなるフィラー」と、引用文献1発明の「フライアッシュ」とを対比すると、
引用文献1発明の「フライアッシュ」は固体状のものであり、「8MNaOH水溶液」とともに「フライアッシュセメント」を構成する際に充填材(フィラー)として機能するから、両者は、「フライフィッシュからなるフィラー」という点で一致する。

(イ) 引用文献1発明の「8MNaOH水溶液」は、「フライアッシュ/水溶液比=0.4として活性化」するものであり、そして、NaOH(水酸化ナトリウム)と水からなるから、
本願補正発明の「(B)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カリウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ活性剤と、
(C)水」に相当する。

(ウ) 引用文献1発明の「放射性セシウムの固定化を行うためのアルカリ活性化フライアッシュセメント」は、フライアッシュからなるものであり、スラグを含まないから、
本願補正発明の「放射性セシウムの固定化材(ただし、スラグは含まれない。)」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用文献1発明との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「(A)フライアッシュからなるフィラーと、
(B)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カリウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ活性剤と、
(C)水とを含み、
放射性セシウムの固定化材(ただし、スラグは含まれない。)。」

(相違点1)
「フライアッシュ」が、本願補正発明では、「ブレーン比表面積が3000cm^(2)/g以上」のものであるのに対し、引用文献1発明の「フライアッシュ」は、「ブレーン比表面積」に関する記載がない点。

(相違点2)
本願補正発明では、「(B)アルカリ活性剤中のアルカリ金属/(C)水のモル比が0.31である」のに対し、引用文献1発明では、「8MNaOH水溶液」である点。

イ 判断
(ア) (相違点1)について
固定化剤として用いられるフライアッシュのブレーン比表面積を3000cm^(2)/gとすることは、特開2001-264488号公報の段落【0008】?【0011】に、
「【0008】本発明の高濃度ホウ酸水溶液の固化材(以下、固化材という)は、カルシウムアルミネート類と水酸化カルシウムを含有するものであり、カルシウムアルミネート類と水酸化カルシウムの配合割合は、カルシウムアルミネート類100部に対して10?200部の水酸化カルシウムが好ましく、30?150部がより好ましく、50?120部がさらに好ましい。10部未満では、材料分離を生じたり、固化性状が悪い場合があり、200部を超えると固化性状が悪くなったり強度発現性が悪くなる場合がある。なお、本発明における部、%は、質量単位を表す。
・・・(略)・・・
【0011】本発明では、カルシウムアルミネート類、水酸化カルシウム、アルカリ金属塩の他に、さらに、ベントナイトやゼオライト等の粘土鉱物、高炉スラグ、シリカフューム、及びフライアッシュ等のシリカ質物質(以下、無機粉末という)のうち少なくとも1種以上を併用することができる。これらの無機粉末は、材料分離抵抗性を与えるばかりでなく、水和発熱量を低減し、長期的な強度の増進を促す点で好ましい。無機粉末の粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で4000cm^(2)/g以上が好ましく、6000cm^(2)/g以上がより好ましい。4000cm^(2)/g未満では、十分な材料分離抵抗性を与えることができない場合がある。」と記載されているように、周知の技術である。

したがって、引用文献1発明の「フライアッシュ」として、上記周知のブレーン比表面積を有するものを採用して、(相違点1)に係る本願補正発明の発明特定事項となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(イ) (相違点2)について
引用文献1発明の8MNaOH水溶液について検討する。

8MのNaOH水溶液には、NaOH水溶液1リットルあたり8モルのNaOHが含まれている。
ここで、8MNaOH水溶液の比重を1と仮定した場合について検討すると、1リットルの8MNaOH水溶液には、次のNaOHと水が含まれている。
・NaOHの質量(g):40(NaOHのモル質量g/mol)×8(mol)=320(g)
・1リットルの8MNaOH水溶液の質量:1(g/ml)×1(比重)×1000(l/ml)=1000(g)
・水の質量(g):1000(g)-320(g)=680(g)
そして、NaOHと水のモル比は次のとおりである。
・NaOHのモル数:8(mol)
・水のモル数:680(g)/18(水のモル質量g/mol)=37.8(mol)
よって、NaOHと水とのモル比は、8/37.8=0.21である。

引用文献1発明のNaOH水溶液は、「フライアッシュ/水溶液比=0.4として活性化」することからみて、放射性セシウムの固定化を行うためのアルカリ活性化フライアッシュセメントフライアッシュに添加した際に、活性化機能を有するものである。
そのため、活性化機能を有するものを添加するのであれば、より活性化機能を発揮できるように添加する量を増加させるように設計することは、当該機能に基づき、当業者の通常の創作活動の範囲で設計し得ることである。

したがって、引用文献1発明の8MNaOH水溶液に関し、NaOHの量を適宜設計して、(相違点2)に係る本願補正発明の発明特定事項となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(ウ) 審判請求人の主張及び当該主張についての当審の判断
a 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書で次の主張をしている。

「引用文献1には、審査官が指摘のとおり、8MのNaOH水溶液を用いることが記載されている。8MのNaOH水溶液(計算のため、比重を仮に1とする。)中の水量は、1000g(該水溶液1リットルの質量)-40(NaOHの式量)×8M=1000-320=680gであるから、これに基づき、アルカリ活性剤中のアルカリ金属/水のモル比を計算すると、8M/(680/18(水の分子量))M=0.21であり、これは、本願発明のアルカリ金属/水のモル比である前記0.31の2/3程度になるから、近い値とは云えないと考える。また、この0.31の値は実施例に基づくため、発明の効果を奏する値として具体的かつ明確である。
このように、アルカリ活性剤中のアルカリ金属/水のモル比を0.31に具体化して、セシウムの溶出を測定限界未満に抑制するという本願発明固有の技術思想は、引用文献1?3のいずれにも記載も示唆もないから、引用文献1?3の記載に基づいて、本願発明を想到することは、少なくとも容易とまでは云えないと考える。」

b 審判請求人の主張の検討
本願補正発明の「アルカリ活性剤中のアルカリ金属/水のモル比を0.31」に関し、明細書の段落【0018】に「(B)アルカリ活性剤/(A)フィラーの質量比は0.05?1が好ましく、0.1?0.9がより好ましく、0.3?0.8がさらに好ましく、0.46?0.7が特に好ましい。該比が0.05?1の範囲でジオポリマーの強度発現性が良好になる。」と記載され、
明細書の【0022】?【0025】には、水酸化ナトリウム/水のモル比を0.31とした固定化材に関する実施例1?4と、セメント硬化体に関する比較例1?2について記載されている。

しかしながら、前記各実施例には、水酸化ナトリウム/水のモル比が0.31以外のものが含まれていないから、水酸化ナトリウム/水のモル比を0.31とすることに格別の技術的意義を見出すことができない。

したがって、上記(イ)で検討したとおり、引用文献1発明の8MNaOH水溶液に関し、NaOHの量を適宜設計して、(相違点2)に係る本願補正発明の発明特定事項となすことは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、上記主張は採用できない。

c 効果について
引用文献1発明のアルカリ活性化フライアッシュセメントは、上記(2)「ア」(ウ)で摘記した「ANS16.1浸出試験に従った浸出液のCs濃度は、一貫して分析検出限界(1ppm)より小さかった。」とあるように、セシウムを固定化する効果を奏するものであり、相違点1?相違点2を総合的に勘案しても、本願補正発明の奏する作用効果は、引用文献1発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(エ) 小括
したがって、本願補正発明は、引用例1発明に記載された事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年8月2日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年6月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記「第2」「1 本件補正について」の記載参照。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-3に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1 A. Fernandez-Jimenez, ほか3名,“Immobilization of cesium in alkaline activated fly ash matrix”,Journal of Nuclear Materials,2005年11月15日,Vol. 346,p. 185-193
引用文献2 特開2001-264488号公報
引用文献3 特開昭52-12756号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明については、上記「第2」の「2(2)引用文献の記載事項」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明と引用文献1発明とを対比すると、上記「第2」の「2(3)ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用文献1発明とは、次の一致点、相違点がある。
(一致点)
「(A)フライアッシュからなるフィラーと、
(B)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カリウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ活性剤と、
(C)水とを含み、
放射性セシウムの固定化材(ただし、スラグは含まれない。)。」

(相違点1’)
「フライアッシュ」が、本願発明では、「ブレーン比表面積が3000cm^(2)/g以上」のものであるのに対し、引用文献1発明の「フライアッシュ」は、「ブレーン比表面積」に関する記載がない点。

上記の相違点1’についての検討は、上記「第2」の「2(3)イ(ア)」に記載した相違点1についての検討によって既に検討済みの事項であり、引用文献1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用文献1発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

よって、本願発明は、引用文献1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであり、本願発明は、引用文献1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-28 
結審通知日 2018-07-04 
審決日 2018-07-18 
出願番号 特願2012-55510(P2012-55510)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21F)
P 1 8・ 575- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 孝平右田 純生  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 野村 伸雄
居島 一仁
発明の名称 放射性セシウムの固定化材  
代理人 新井 範彦  

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