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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1343633
審判番号 不服2017-18797  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-19 
確定日 2018-08-30 
事件の表示 特願2014- 4507「透明蛍光発光物体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月23日出願公開、特開2015-131912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成26年1月14日の出願であって、平成29年6月20日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月28日に意見書及び補正書が提出され、同年9月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月19日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成29年8月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「酸化アルミニウム蛍光体と、透明硬化性樹脂とを含む透明な成形体であって、
前記酸化アルミニウム蛍光体が非晶質酸化アルミニウムと炭素不純物から成り、希土類元素及び希少元素を含有しない、ことを特徴とする透明蛍光発光物体。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1:国際公開第2006/038449号
引用例2:特開2005-320425号公報
引用例3:特開2004-146843号公報
引用例4:特開平9-40944号公報
引用例5:特開2012-201714号公報
(審決注:原査定の引用文献2?6を、それぞれ順に、引用例1?5と改めた。)」

4.引用例の記載(下線は当審が付与した。)
(1)引用例3
引用例3には、「発光ダイオードの形成方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引3ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、該発光素子からの発光波長の少なくとも一部を吸収し蛍光を発する蛍光物質を含有する透光性樹脂とを有し前記発光素子からの光と蛍光物質からの蛍光の混色光を発光する発光ダイオードであって、
前記蛍光物質を含有する透光性樹脂は射出成形によって発光素子の少なくとも一部を被覆してなることを特徴とする発光ダイオード。」
(引3イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は発光素子から放出される発光波長の少なくとも一部を蛍光物質により変換して放出する発光ダイオードに係わり、特に、発光むら、色むらや形成された発光ダイオード間における発光バラツキが少なく歩留りの高い発光ダイオードに関するものである。」
(引3ウ)「【発明の効果】
【0014】
本発明による製造方法を用いることによって、発光特性が安定した蛍光物質を有する白色系が発光可能な発光ダイオードを量産性良く製造させることができる。また、長時間量産時においても最初に形成された発光ダイオードと、後に形成された発光ダイオード間の発光ばらつきが極めて小さくさせることができる。さらに、比較的簡便に形成された発光ダイオード内における発光むらを低減させることができるため量産性と歩留りを向上させることができる。」
(引3エ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施態様例による発光ダイオードとして図1に、白色発光可能な発光ダイオード100の模式的断面図を示してある。銅あるいは鉄系合金材の表面に銀あるいは金等のメッキ処理が施されたマウント・リード104の先端にLEDチップを搭載するカップ上部を有する。搭載されたLEDチップは単体では青色系の可視光を発光する発光素子103であり、マウント部材106となるエポキシ樹脂によりマウント固着されている。発光素子103の各電極は、金等よりなるワイヤ107でマウント・リード104及びインナー・リード105とワイヤボンド結合している。耐熱性に優れた透光性樹脂101としてノルボネン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂(TPX)、非晶質ナイロン樹脂などの熱可塑性樹脂や脂環式エポキシ樹脂や含窒素エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって封止してある。透光性樹脂中には、青色光を照射すると黄色の蛍光を発するCeで付活されたYAG蛍光体102を約5質量%混合してある。
【0016】
発光ダイオードは、リードフレームにLEDチップをマウント、ワイヤボンドしたものを成形型にインサートし、1個が数十mm^(3)程度のペレット状の樹脂とYAG蛍光体をホッパに撹拌しながら収容したもの、或いは予め樹脂ペレット内にYAG蛍光体を混ぜ込んだものをホッパ内に収容した射出成形機で、射出成形し封止する。射出成型は樹脂を成型機のスクリュー内で数秒程度の短時間で加熱溶融、撹拌圧送し、型内に樹脂を注入し、型内に注入された樹脂は速やかに冷却され、数十秒で固化する。
【0017】
本発明で透光性樹脂は、成型前状態において固体状とできる。成型機投入前に均一に樹脂ペレットと蛍光物質とを混合しておけば、液体のように樹脂中の蛍光物質が自由に沈降あるいは浮遊することはない。そのため、蛍光物質の混合状態は型内に投入前の状態まま保持される。また、成形時に樹脂が溶融し液体で存在する期間は数分から数十秒と、注型成形により熱硬化形成する方法の数時間と比較して極めて短い。また、射出される際にスクリューで加圧撹拌される場合、樹脂中での蛍光物質の分布はより均一にすることができる。さらに、固化までの時間も極めて短く樹脂と蛍光物質との分離もほとんど発生しない。
【0018】
すなわち、成形前及び成形後固化までの間に樹脂と蛍光物質との分離が極めて発生し難い。これにより本発明の発光ダイオードでは、樹脂と蛍光物質の比重差によらず樹脂中に均一分散させることができる。そのため、発光ダイオード内の蛍光物質の分布均一だけでなく、製造ロット毎の蛍光物質の含有量バラツキも極めて少ない。」
(引3オ)「【0021】
(透光性樹脂101)
本発明に用いられる透光性樹脂は蛍光物質を内部に含有させ射出により一定の形状をとることができる樹脂である。具体的には、ノルボネン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、非晶質ナイロン樹脂、ポリアリレートやポリカーボネート樹脂など透光性がありかつ耐熱性に優れた熱可塑性樹脂、ポリアミドや酢酸ビニル等の100℃から260℃程度の比較的低温、1から25Kgf/cm^(2)程度の比較的低圧にていわゆるホットメルト成形と称される射出成形が可能でかつ透光性を有する熱可塑性樹脂及び脂環式エポキシ樹脂、含窒素エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に挙げられる。これらの樹脂中に蛍光物質を溶融分散させ一定の大きさに形成させることで射出形成の軟化溶融材料となるペレットなどとすることができる。これらの透光性樹脂には所望の波長をカットする着色剤、所望の光を拡散させる拡散材、樹脂の耐光性を高める紫外線吸収剤、酸化防止剤や硬化促進剤など種々の添加剤を含有させることができる。
【0022】
(蛍光物質102)
本発明に用いられる蛍光物質としては、発光素子から発光された電磁波で励起されて蛍光を発する蛍光物質をいう。蛍光物質は一般に発光波長よりも励起波長が短波長の方が効率が良いため、発光素子からの発光波長よりも長波長の蛍光を発する蛍光体を用いることが好ましい。具体的蛍光物質として青色の発光素子との混色により白色を発光させるためには、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、ペリレン系誘導体、銅で付活されたセレン化亜鉛など種々のものが挙げられる。特に、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体は、発光素子に窒化物半導体を用いた場合、耐光性や効率などの観点から特に好ましい。」
(引3カ)「【0030】
本発明の発光ダイオードにおいて白色系を発光させる場合は、蛍光物質からの発光波長との補色関係や透光性樹脂の劣化等を考慮して発光素子の発光波長は400nm以上530nm以下が好ましく、420nm以上490nm以下がより好ましい。発光素子と蛍光物質との励起、発光効率をそれぞれより向上させるためには、450nm以上475nm以下がさらに好ましい。なお、400nmより短い紫外域の波長を利用できることは言うまでもない。」

(2)引用例5
引用例5には、「酸化アルミニウム蛍光体の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引5ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化アルミニウム蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、一般に絶縁性の母体材料に希土類元素やガリウム等の希少元素を発光メカニズムの中心として添加してなる発光材料であり、照明デバイス、ディスプレイデバイス又は発光ダイオード(LED)等の広い分野で利用されている。
【0003】
蛍光体のなかでも酸化アルミニウム蛍光体(アルミナ蛍光体ともいう。)は、蛍光灯に使用されるBaMg_(2)Al_(16)O_(27):Eu^(2+)や、蓄光蛍光体としてのSr_(4)Al_(14)O_(25):Dy^(3+)、Eu^(2+)等として知られている。これらの酸化アルミニウム蛍光体は、酸化アルミニウム塩からなる蛍光体又は酸化アルミニウムを含む蛍光体であり、希土類元素等の添加によって安定で効率的な蛍光を示す。これまで絶縁性が高く、化学的に安定な酸化アルミニウム蛍光体がいくつか報告されている。」
(引5イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来提案されている酸化アルミニウム蛍光体の調製方法では、高価な希土類元素等を用いたり、気相法やレーザー法を用いたりするので、調製プロセスが複雑であり、製造コストが高くなるという問題がある。また、従来の酸化アルミニウム蛍光体は、発光強度が低く、再現性が乏しいという問題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、安価な原料を用いることができ、簡単な製造プロセスで製造でき、発光強度が高く再現性のよい酸化アルミニウム蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を添加しない酸化アルミニウム蛍光体を作製するための研究を行っている。そして、焼成温度や焼成雰囲気等の条件を変化させて発光メカニズムについて検討してきた。その過程で、発光強度が高く且つ再現性のよい酸化アルミニウム蛍光体の製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法は、アルミニウム塩、水及び水溶性溶剤を混合した原料溶液を準備する工程(原料溶液準備工程)と、前記原料溶液を濃縮処理して該原料溶液中の水を除去し、高粘性溶液を得る工程(濃縮工程)と、前記高粘性溶液を加熱処理して前記水溶性溶剤を除去し、非晶質の仮焼粉末を得る工程(仮焼工程)と、前記仮焼粉末を大気雰囲気又は酸素雰囲気中で加熱処理し、非晶質の酸化アルミニウム蛍光体粉末を得る工程(焼成工程)と、を含むことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、準備した原料溶液から、濃縮工程、仮焼工程及び焼成工程を順次経て酸化アルミニウム蛍光体を製造するので、簡単な製造プロセスで大型設備も不要となることから、生産性に優れたものとなり、製造コストを低減できる。また、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を必要としないので、安価な蛍光体を製造できるとともに、蛍光と燐光を示す蛍光体を製造できる。また、水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害して、仮焼粉末を非晶質とすると考えられる。さらに焼成工程により、非晶質の仮焼粉末を非晶質のままで酸化アルミニウム蛍光体粉末としたので、発光強度の高い酸化アルミニウム蛍光体を製造できる。」
(引5ウ)「【発明の効果】
【0016】
本発明に係る酸化アルミニウム蛍光体の製造方法によれば、簡単な製造プロセスで大型設備も不要となることから、生産性に優れたものとなり、製造コストを低減できる。また、高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を必要としないので、安価な蛍光体を製造できるとともに、蛍光と燐光を示す蛍光体を製造できる。また、水溶性溶剤に由来する成分が仮焼工程での酸化アルミニウムの結晶化を阻害でき、さらに焼成工程により、非晶質の仮焼粉末を非晶質のままで酸化アルミニウム蛍光体粉末としたので、発光強度の高い酸化アルミニウム蛍光体を製造できる。
【0017】
こうして得られた酸化アルミニウム蛍光体は、発光強度が高く、再現性がよく、蛍光と燐光を示すので、蛍光灯やプラズマディスプレイ等のディスプレイ用の蛍光材料として利用可能である。」
(引5エ)「【実施例】
【0044】
以下の実験例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実験例の記載に限定されるものではない。
【0045】
[実験例1:試料の作製]
原料として硝酸アルミニウム九水和物[Al(NO_(3))_(3)・9H_(2)O]を用い、硝酸アルミニウム水溶液(0.48mol/L)を調製し、その水溶液に水溶性溶剤としてジエチレングリコール(1.92mol/L)を加えて原料溶液を準備した(原料溶液準備工程)。準備した原料溶液をエバポレーターでの減圧下で80℃で濃縮し、原料溶液中の水を除去した。こうしてゲル状の高粘性溶液を得た(加熱濃縮工程)。
【0046】
得られた高粘性溶液を、排気口がついた箱型電気炉中で、大気雰囲気(1気圧、空気中)下、350℃で3時間仮焼した。こうして茶色の仮焼粉末を得た(仮焼工程)。得られた仮焼粉末を、大気雰囲気(1気圧、空気中)下、710℃で3時間焼成して、白色の焼成粉末(試料1)を得た(焼成工程)。
【0047】
得られた試料1に254nmのブラックライトを照射したところ、図1(審決注:省略)に示すように、強い発光を示していた。なお、仮焼粉末をX線回折測定した結果、結晶性ピークを示さないブロードパターンが見られたことから、仮焼粉末が非晶質又は微結晶であることが確認された。また、焼成粉末をX線回折測定した結果、図2(A)(審決注:省略)に示すように、結晶性ピークを示さないブロードパターンが見られたことから、焼成粉末が非晶質又は微結晶の酸化アルミニウム蛍光体であることが確認された。」
(引5オ)「【0066】
[実験例8:有機微量元素分析測定]
実施例1で得られた試料1(焼成条件:大気雰囲気下、710℃で3時間)について、有機微量元素分析を行った。有機微量元素分析は、発光試料を完全燃焼させ、発生したガスの中に含まれる微量の有機物を同定して行った。有機微量元素分析は、パーキンエルマージャパン社製、全自動元素分析装置2400IIを用いた。
【0067】
元素分析測定結果より、試料に炭素と水素が含まれていることがわかった。本実験例は、硝酸アルミニウム水溶液と水溶性溶剤とを混合させた溶液法を用いており、分子レベルで原料を均一に混合できる。一方、試料にOH基や炭素等の不純物が残留しやすいという特徴を有する。また、大きな比表面積を持っている発光材料である試料1の表面には、H_(2)Oが吸着しているため、上記の測定結果になったと考えられる。」

4.引用発明の認定
(1)引用例3の請求項1の「透光性樹脂」に着目すると、引用例3には、
「発光素子からの発光波長の少なくとも一部を吸収し蛍光を発する蛍光物質を含有する透光性樹脂であって、
射出成形によって発光素子の少なくとも一部を被覆してなる透光性樹脂。」が記載されているといえる。

(2)ここで、「透光性樹脂」は「蛍光物質」を含有するところ、「蛍光物質」を含有しない「透光性樹脂」を、「樹脂材」と表現し、「蛍光物質」を含有する「透光性樹脂」を「被覆材」と表現すれば、該「透光性樹脂」(被覆材)は、「樹脂材と、発光素子からの発光波長の少なくとも一部を吸収し蛍光を発する蛍光物質とを含有する被覆材」と表すことができる。

(3)そうすると、引用例3の請求項1には、
「樹脂材と、
発光素子からの発光波長の少なくとも一部を吸収し蛍光を発する蛍光物質とを含有する被覆材であって、
射出成形によって発光素子の少なくとも一部を被覆してなる被覆材。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 本願発明の「酸化アルミニウム蛍光体」と引用発明の「蛍光物質」とは、「蛍光体」である点で共通する。

イ 引用発明の「樹脂材」は、「蛍光物質」を含有しない「透光性樹脂」であるから、透明であることは明らかである。
そして、該「樹脂材」と「蛍光物質」とを含有した「被覆材」は、射出成形によって発光素子の一部を被覆するものであり、引用例3の(引3エ)の【0016】に、「射出成型は樹脂を成型機のスクリュー内で数秒程度の短時間で加熱溶融、撹拌圧送し、型内に樹脂を注入し、型内に注入された樹脂は速やかに冷却され、数十秒で固化する。」と記載され、同【0015】及び(引3オ)の【0021】に、「脂環式エポキシ樹脂、含窒素エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂」が例示されているように、射出成形に用いられる該「樹脂材」は硬化性の樹脂であることも明らかである。
そうすると、引用発明の「樹脂材」は、本願発明の「透明硬化性樹脂」に相当する。

ウ 引用発明の「被覆材」は、「透光性樹脂」であり、しかも、「被覆材」によって被覆された「発光素子」を備えた「発光ダイオード」について、上記「4.(1)」の(引3ア)の【請求項1】に、「発光素子からの光と蛍光物質からの蛍光の混色光を発光する発光ダイオード」と記載されるように、引用発明の「被覆材」は、発光素子からの光を透過するとともに、蛍光物質からの蛍光も透過して、混色光を発光するものであるから、「樹脂材」に、「蛍光物質」が含まれていても、含まれていなくても、発光素子からの光及び蛍光物質からの蛍光を透過する透明なものであることは明らかである。
さらに、該「被覆材」は、射出成形によって発光素子の一部を被覆するものであるから、本願発明の「透明な成形体」に相当するといえる。
また、引用発明の「被覆材」は、発光素子からの発光波長の少なくとも一部を吸収し蛍光を発する蛍光物質とを含有するから、蛍光発光するものであるといえ、本願発明の「透明蛍光発光物体」に相当する。

なお、本願発明の「透明」の技術的意味について、本願の明細書の【0065】には、「『透明』とは、透明又は半透明も含まれる意味であり、その透明度としては、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V-570)によるUV-VIS透過率スペクトル測定で、5%以上の範囲内の透明度を例示できる。」と記載されていることから、本願発明においては、透過率が5%で、半透明、すなわち、光が散乱するように濁ったものも「透明」ものということができる。
そうすると、引用発明の「被覆材」のように「樹脂材」に「蛍光物質」が含まれたものについて、たとえ「蛍光物質」が「発光素子」からの光を透過せず、「蛍光物質」で光が散乱するようなことがあったとしても、「被覆材」は「発光素子からの光」が透過するものである以上、本願発明でいう「透明」なものであるといえる。

エ そうすると、上記ア?ウから、本願発明と引用発明とは、
「蛍光体と、透明硬化性樹脂とを含む透明な成形体である透明蛍光発光物体。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点)
蛍光体の組成について、本願発明は、非晶質酸化アルミニウムと炭素不純物から成り、希土類元素及び希少元素を含有しない酸化アルミニウムであるのに対し、引用発明の「蛍光物質」の組成については規定されていない点。

(2)判断
ここで、相違点について検討する。
ア 引用例3には、「本発明に用いられる蛍光物質としては、発光素子から発光された電磁波で励起されて蛍光を発する蛍光物質をいう。」〔(引3オ)の【0022】〕と記載され、発光素子の発光波長については、「400nmより短い紫外域の波長を利用できることは言うまでもない。」〔(引3カ)の【0030】〕と記載されているように、用いられる蛍光物質の組成が特定のものに限定されるものではなく、蛍光物質を励起する発光素子の発光波長が、400nmより短い紫外域の波長であるものを含むものである。

イ 一方、「酸化アルミニウム蛍光体」について、引用例5には、(引5エ)の【0045】?【0047】の「実験例1」において得られた「白色の焼成粉末(試料1)」(以下、単に「試料1」という。)(同【0046】)は、「非晶質又は微結晶の酸化アルミニウム蛍光体」(同【0047】)であって、「254nmのブラックライトを照射したところ」「強い発光を示」(同【0047】)し、その組成は、「高価な希土類元素やガリウム等の希少元素を必要としない」〔(引5イ)の【0011】〕ものであって、「炭素等の不純物が残留しやす」く、「炭素と水素が含まれている」〔(引5オ)の【0067】〕ものであることが記載されている。
すなわち、引用例5の「酸化アルミニウム蛍光体(試料1)」は、上記相違点に係る本願発明の蛍光体であるということができる。

ウ また、引用例5には、「酸化アルミニウム蛍光体(試料1)」は、生産性に優れ、製造コストを低減でき、安価な蛍光体で、しかも、発光強度が高い(同【0011】)ことが記載されている。

エ さらに、引用例5には、蛍光体は、「照明デバイス、ディスプレイデバイス又は発光ダイオード(LED)等の広い分野で利用されている」((引5ア)の【0002】)ものであることが記載され、引用例5の「酸化アルミニウム蛍光体(試料1)」は、「蛍光灯やプラズマディスプレイ等のディスプレイ用の蛍光材料として利用可能」((引5ウ)の【0017】)であることが記載されている。
すなわち、引用例5の「酸化アルミニウム蛍光体(試料1)」は、「発光ダイオード(LED)」等に利用されることが示唆されているといえる。

オ そして、引用例3には、「本発明による製造方法を用いることによって、・・・(略)・・・発光ダイオードを量産性良く製造させることができる。・・・(略)・・・量産性と歩留りを向上させることができる。」((引3ウ)の【0014】)と記載されるように、引用発明において、生産性に優れ、製造コストが低減された蛍光物質を用いるという課題が内在することは明らかである。

カ そうすると、引用発明の「蛍光物質」について、引用例5に接した当業者は、生産性に優れ、製造コストが低減された、安価な蛍光体で、しかも、発光強度の高い蛍光体である、引用例5に記載された「酸化アルミニウム蛍光体(試料1)」を用いる動機付けがあるといえ、本願発明は、引用発明及び引用例5の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

キ また、引用発明の「被覆材」は、射出成形によるものであるから形状は自由な形状に成形できるものであり、引用例5の「酸化アルミニウム蛍光体(試料1)」は、酸化アルミニウムであるから無毒で安価であるといえ、本願明細書の【0021】に記載された「本発明によれば、蛍光発光する透明な発光体として、自由な形状に成形可能な透明蛍光発光物体、及びその製造方法を提供することができる。特に、成形体である蛍光発光体を構成する透明硬化性樹脂成分によって自由な形状に成形することができ、その成形体を構成する酸化アルミニウム蛍光体によって蛍光発光させることができる。こうした透明蛍光発光物体は、無毒で安価な酸化アルミニウムで構成されたシンプルな蛍光体であり、材料と製造設備のコスト低減を図ることができる。」という本願発明の効果は、引用発明及び引用例5の記載から、当業者が容易に予測し得る範囲のものである。

6.請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、本願発明は、分散粒子(酸化アルミニウム蛍光体)の屈折率と分散媒(透明硬化性樹脂)の屈折率とがほぼ同じ場合である透明な分散物であって、仮焼、焼成して、一次粒子が凝集したような粒子を樹脂材料と混ぜて透明組成物になったものであり、引用文献2、3(引用例1、2)の、蛍光体粒子として可視光の波長以下の粒径の粒子を用いた透明な組成物とは異なっていて、本願のようにして得られた酸化アルミニウム系蛍光体の採用は、当業者が適宜なし得ることではない旨主張している。

しかしながら、本願発明において、酸化アルミニウム蛍光体と透明硬化性樹脂の屈折率に関する特定はされておらず、しかも、酸化アルミニウム蛍光体の粒径についての特定もされていないことから、請求人の主張は、請求項の記載に基づくものではなく、採用することができない。

なお、本願明細書の発明の詳細な説明には、酸化アルミニウム蛍光体と透明硬化性樹脂の屈折率に関する明示的な記載や、酸化アルミニウム蛍光体の粒径についての明示的な記載は見出すことができない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-21 
結審通知日 2018-06-26 
審決日 2018-07-18 
出願番号 特願2014-4507(P2014-4507)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 建二  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 天野 宏樹
川端 修
発明の名称 透明蛍光発光物体及びその製造方法  
代理人 吉村 俊一  
代理人 吉村 俊一  

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