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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1343649
審判番号 不服2017-13600  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-12 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 特願2013-124881「定着部材及びその製造方法、定着装置、画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月13日出願公開、特開2014- 44401、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月13日(優先権主張平成24年8月2日)の出願であって、平成28年6月8日付けで手続補正がされ、平成29年1月24日付けで拒絶理由通知がされ、同年3月31日付けで手続補正がされ、同年6月8日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成30年4月20日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月21日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1乃至11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明11」という。)は、平成30年6月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、及び本願発明8は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
基材、該基材の表面に設けられた弾性層、及び該弾性層の表面に形成された表層を有する定着部材であって、
該表層は、
下記構造式(1)で示される部分構造を有しているテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含み、かつ、
ぬれ張力が31.0mN/mであるぬれ張力試験用混合液で測定した接触角が67度以上である表面を有し、
該部分構造は、未架橋のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層に対して、酸素濃度1000ppm以下で、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のガラス転移点(Tg)以上、融点より30℃高い温度(Tm+30℃)以下の温度範囲で電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に形成された架橋構造であり、
該表層は、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層の、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の融点以上での加熱物である、ことを特徴とする定着部材:
【化1】

。」
「【請求項8】
基材と、
該基材の表面に設けられた弾性層と、
下記構造式(1)で示される部分構造を有しているテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む表層と、を有する定着部材の製造方法であって、
該表層を、下記第一の工程?第三の工程により形成することを特徴とする定着部材の製造方法:
(1)該弾性層の表面に形成した、未架橋のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の温度を、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のガラス転移点(Tg)以上、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の融点より30℃高い温度(Tm+30℃)以下の温度範囲に調整する第一の工程、
(2)該第一の工程にて調整した温度範囲にある、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の表面に、酸素濃度が1000ppm以下の雰囲気下、電離性放射線を照射し、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体に、下記構造式(1)で示される部分構造を形成せしめる第二の工程、
(3)該第二の工程によって得られた、下記構造式(1)で示される部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の温度を、340℃以上380℃以下の温度範囲に調整する第三の工程:
【化2】

。」
なお、本願発明2乃至7、及び9乃至11の概要は以下のとおりである。
本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明3は、本願発明1または2を減縮した発明である。
本願発明4は、本願発明1または2を減縮した発明である。
本願発明5は、本願発明1乃至4の何れかを減縮した発明である。
本願発明6は、本願発明1乃至5の何れかを減縮した発明である。
本願発明7は、本願発明6を減縮した発明である。
本願発明9は、本願発明8を減縮した発明である。
本願発明10は、本願発明8または9を減縮した発明である。
本願発明11は、本願発明10を減縮した発明である。


第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成14年1月23日に頒布された引用文献1(特開2002-23539号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも表面層が、酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂を含有してなることを特徴とする定着部材。

【請求項3】 フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン系共重合体から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着部材。
【請求項4】 酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、フッ素樹脂に電離性放射線を照射して表面層を形成することを特徴とする定着部材の製造方法。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、用紙等に対する耐摩耗性及びトナー等に対する非粘着性に優れた樹脂組成物を用いた定着部材(特に定着ロール及び定着エンドレスベルト)に関する。また、本発明は、粉末トナー像を形成した支持体に、熱と圧力を同時に作用させて、トナー像を融着させる定着装置(例えば加熱ロール型定着装置及び加熱ロール・ベルト型定着装置)に関する。」
(3)「【0016】本発明の定着部材は、酸素不在雰囲気下、且つ樹脂の結晶融点以上に加熱された状態において、フッ素樹脂に電離性放射線を照射することで、樹脂(高分子)の崩壊反応を防ぎ、架橋反応を促進させることができる。このように選択的に架橋反応を促進させることができ、架橋反応は条件にもよるが架橋反応:崩壊反応=80:20(好ましくは90:10)の割合で生じていると推定している。このため、このような処理をされたフッ素樹脂を表面層とすることで、表面平滑化させトナーの離型性等を向上させるだけではなく、高強度化して耐摩耗性を向上させることができる。このため、本発明の定着部材は、耐久性及び高画質適性が共に優れる。」
(4)「【0030】図1は、本発明の定着装置の一例を示す概略構成図である。図1に示す定着装置は、加熱ロール型定着装置であり、一対の定着ロールとして、定着ロール1及び加圧ロール2が対向して設けられ、圧接してニップが形成されている。加熱ロール1は、内部にヒーターランプ1dを有する金属製の中空芯金コア1aに耐油耐熱性弾性体層1b及びフッ素樹脂よりなる表面層1cが順次形成された前記本発明の定着部材である。加熱ロール1の外周には、加熱ロール1表面をクリーニングするためのクリーニング装置5と、加熱ロール1表面に補助的な加熱を行う外部加熱装置6と、定着後の記録媒体3を剥離するための剥離爪7と、加熱ロール1表面の温度を制御するための温度センサー8が設けられている。加圧ロール2は、内部にヒーターランプ2dを有する金属製の中空芯金コア2aに耐油耐熱性弾性体層2bおよび表面層2cが順次形成されてなる。加圧ロール2の外周には、定着後の記録媒体3を剥離するための剥離爪7と、加圧ロール2表面の温度を制御するための温度センサー8が設けられている。加熱ロール1と加圧ロール2とが形成するニップ域に、未定着トナー4が形成された記録媒体3を通過させることで、未定着トナー4を定着させることができる。」
(5)上記(1)、及び(4)より、【請求項4】の「定着部材」と、【請求項1】、【請求項3】、及び【0030】の「定着部材」対応することは明らかである。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1-1」という。)が記載されていると認められる。
「内部にヒーターランプを有する金属製の中空芯金コアに耐油耐熱性弾性体層及びフッ素樹脂よりなる表面層が順次形成された定着部材であって、
少なくとも表面層が、酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂を含有し、
フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン系共重合体から選ばれる少なくとも一種である定着部材。」
また、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1-2」という。)が記載されていると認められる。
「酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、フッ素樹脂に電離性放射線を照射して表面層を形成する定着部材の製造方法であって、
内部にヒーターランプを有する金属製の中空芯金コアに耐油耐熱性弾性体層及びフッ素樹脂よりなる表面層が順次形成され、
少なくとも表面層が、酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂を含有し、
フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン系共重合体から選ばれる少なくとも一種である、定着部材の製造方法。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成24年6月21日に頒布された引用文献2(特開2012-118371号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱加圧方式の定着方法と、それを用いた画像形成方法に関するものである。」
(2)「【0138】
図4は、無端状のベルト部材の構成例であり、Aは画像支持体が接する面、7aはポリイミド基体、7bはシリコンゴム、7cはPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)である。」
(3)上記(2)、及び図4より、画像支持体、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、シリコンゴム、ポリイミド基体の順に積層された無端状のベルト部材が看取できる。

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「画像支持体、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、シリコンゴム、ポリイミド基体の順に積層された無端状のベルト部材。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成24年3月22日に頒布された引用文献3(特開2012-58644号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式による複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置における定着部材の基材として用いられる無端状金属薄膜を電鋳によって製造する無端状金属薄膜の製造方法に関する。」
(2)「【0005】
前記定着ベルトの基材であるニッケル電鋳皮膜の厚さは、10μmを下回ると、基材としての強度が足りなくなり、60μmを超えるとベルトとしての柔軟性が低下するので、その膜厚は、好ましくは、10?60μmであり、さらに好ましくは、20?50μmである。その内側に、摺動層として厚さ15μmのポリイミド又はPFA層が積層され、その外周部に、弾性層として100?200μm厚の発泡シリコーンゴム層が積層され、さらに、その外周部に、離型層として20?40μm厚のPFAが積層されて、図9に示される定着ベルトとされている。」

したがって、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「厚さが、20?50μmであるニッケル電鋳皮膜の基材の内側に、摺動層として厚さ15μmのポリイミド又はPFA層が積層され、その外周部に、弾性層として100?200μm厚の発泡シリコーンゴム層が積層され、さらに、その外周部に、離型層として20?40μm厚のPFAが積層された、定着ベルト。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成22年8月12日に頒布された引用文献4(特開2010-176130号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0048】
<実施例3:定着器部材の表面層の調製>
PFAトップコートは、表面層として使用され、実施例1?2で形成された中間層の最上面にPFA水性分散体を噴霧コーティングし、その後、約350℃の高温で10分間ベークすることによって調製した。
【0049】
<実施例4:定着器部材の表面層の調製>
PFAトップコートは、やはり表面層として使用され、実施例1?2で形成された中間層の最上面にPFA水性分散体を粉末コーティングし、その後、約350℃の高温で10分間ベークすることによって調製した。
【0050】
<実施例5:組み合わせた熱処理を使用する定着器部材の調製>
定着器部材は、従来の定着器部材のシリコーンゴム層の最上面に、実施例1?2のCNT/Viton複合体分散体をフローコーティングすることによって製作した。コーティングされたCNT/Viton複合体分散体を、約49℃から約177℃の温度で2時間、手短に乾燥した。次いでPFA層を、実施例3?4の噴霧または粉末コーティング技法を使用して、乾燥した複合体分散体の最上面にコーティングし、その後、約204℃の高温で2時間、次いで約232℃で6時間、次いで約350℃で10分間ベークして、中間複合体のさらなる硬化とPFA表面層のベークとを行うことにより、定着器部材を形成した。」
(2)上記(1)より、定着器部材の形成方法が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「定着器部材のシリコーンゴム層の最上面に、CNT/Viton複合体分散体をフローコーティングし、コーティングされたCNT/Viton複合体分散体を、約49℃から約177℃の温度で2時間、手短に乾燥し、次いでPFA層を、PFA水性分散体を噴霧コーティングまたはPFA水性分散体を粉末コーティングを使用して、乾燥した複合体分散体の最上面にコーティングし、その後、約204℃の高温で2時間、次いで約232℃で6時間、次いで約350℃で10分間ベークして、中間複合体のさらなる硬化とPFA表面層のベークとを行う、定着器部材の形成方法。」

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成19年2月22日に頒布された引用文献5(特開2007-47641号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
硬度が減少する温度が500?600℃であるステンレス鋼からなる基板に、フッ素樹脂の融点以上に加熱した状態で放射線を照射して架橋された放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層を形成したことを特徴とする定着部材。」
(2)「【技術分野】
【0001】
放射線架橋フッ素樹脂を含有する定着部材およびそれを用いた定着器に関する。」
(3)上記(1)より、実質的に、定着部材の表面層形成方法が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献5には次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「硬度が減少する温度が500?600℃であるステンレス鋼からなる基板に、フッ素樹脂の融点以上に加熱した状態で放射線を照射して架橋された放射線架橋フッ素樹脂を含む表面層を形成した定着部材の表面層形成方法。」

6.引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成23年8月18日に頒布された引用文献6(特開2011-158892号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している定着部材であって、
該表面層は、該表面層の応力-歪み曲線が、歪みが0.25?0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力-歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなることを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記表面層が、フルオロポリマーとシリコーン系界面活性剤とを含む表面層形成用の溶液の塗膜に対して、電子線を照射し、その後に加熱して二次架橋させることによって形成されたものである請求項1に記載の定着部材。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真画像の熱定着に用いる定着部材とその製造方法並びに定着装置に関する。」
(3)上記(1)より、実質的に、定着部材の表面層形成方法が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献6には次の発明(以下、「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。
「フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している定着部材の表面層形成方法であって、
該表面層は、該表面層の応力-歪み曲線が、歪みが0.25?0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力-歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなり、
前記表面層が、フルオロポリマーとシリコーン系界面活性剤とを含む表面層形成用の溶液の塗膜に対して、電子線を照射し、その後に加熱して二次架橋させることによって形成されたものである、定着部材の表面層形成方法。」

7.引用文献7について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成6年9月9日に頒布された引用文献7(特開平6-250553号公報)には、次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 剛性コアーと非粘着性被覆層とを有するロールにおいて、非粘着性被覆層が低分子量四フッ化エチレン樹脂を配合したパーオキシド架橋フッ素ゴムからなることを特徴とするロール。」
(2)「【0026】加硫条件も適宜に変更することが出来る。標準的なオーブン加熱条件は、180℃x四時間であるが、コピー時の熱圧定着ロールの表面温度は230℃に上昇するので、250℃x24時間でも支障はない。また、一次加硫及び二次オーブン加熱は、真空中でも不活性ガス、例えば炭酸ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス又は窒素ガス中でも行うことが出来る。一次加硫及び/又は二次加熱において放射線を利用することも出来る。所望ならば、架橋ゴムに紫外線照射あるいはフッ素ガス処理を適用する事もできる。」
(3)上記(1)、(2)より、実質的に、ロールの非粘着性被覆層形成方法が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献7には次の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。
「一次加硫及び/又は二次加熱において放射線を利用した、剛性コアーと非粘着性被覆層とを有するロールに、非粘着性被覆層が低分子量四フッ化エチレン樹脂を配合したパーオキシド架橋フッ素ゴムからなるロールの非粘着性被覆層形成方法。」

8.引用文献8について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成16年11月11日に頒布された引用文献8(特開2004-315833号公報)には、次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の融点以上の温度で電離性放射線を照射して架橋させてなる架橋ふっ素樹脂成形体の主鎖ポリマーに、官能基を有する有機化合物からなる側鎖モノマーがグラフト共重合されてなることを特徴とする改質ふっ素樹脂成形体。

【請求項10】
ふっ素樹脂が、テトラフルオロエチレン系重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体及びテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の改質ふっ素樹脂成形体。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ふっ素樹脂成形体の表面に官能基を有する有機化合物をグラフトさせた改質ふっ素樹脂成形体に関し、より詳細には、架橋ふっ素樹脂の主鎖ポリマーに特定の側鎖モノマーをグラフト共重合させて、イオン交換性、親水性、接着性又は耐摩耗性等の特性を改善した改質ふっ素樹脂成形体に関するものである。」
(3)「【0012】
ふっ素樹脂を架橋するときの電離性放射線としては、γ線、電子線、X線、中性子線、あるいは高エネルギーイオン等が使用される。電離性放射線を照射するに際しては、ふっ素樹脂をその結晶融点以上に加熱しておく必要がある。例えば、ふっ素樹脂としてPTFEを使用する場合には、この材料の結晶融点である327℃よりも高い温度にふっ素樹脂を加熱した状態で電離性放射線を照射する必要があり、また、PFAやFEPを使用する場合には、前者が310℃、後者が275℃に特定される融点よりも高い温度に加熱して照射する。ふっ素樹脂をその融点以上に加熱することは、ふっ素樹脂を構成する主鎖の分子運動を活発化させることになり、その結果、分子間の架橋反応を効率良く促進させることが可能となる。但し、過度の加熱は、逆に分子主鎖の切断と分解を招くようになるので、このような解重合現象の発生を抑制する意味合いから、加熱温度はふっ素樹脂の融点よりも10?30℃高い範囲内に抑えるべきである。」
(4)上記(1)、(3)より、実質的に、改質ふっ素樹脂成形体の形成方法が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献8には次の発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されていると認められる。
「樹脂の融点以上の温度で電離性放射線を照射して架橋させてなる架橋ふっ素樹脂成形体の主鎖ポリマーに、官能基を有する有機化合物からなる側鎖モノマーがグラフト共重合されてなる改質ふっ素樹脂成形体の形成方法であって、
ふっ素樹脂が、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体であって、
310℃に特定される融点よりも高い温度に加熱して照射する、改質ふっ素樹脂成形体の形成方法。」

9.引用文献9について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の平成12年7月14日に頒布された引用文献9(特開2000-194220号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 互いに圧接しながら回転する一対の回転体で転写材を挟圧搬送するためのニップ部を形成し、該ニップ部で前記転写材に形成されている未定着現像剤像を加熱及び加圧することによって未定着現像剤像を前記転写材に永久画像として定着させる定着装置において、
前記回転体の少なくとも一方に他方の回転体と接する離型層を形成し、該離型層にエレクトレット処理を施したことを特徴とする定着装置。
【請求項2】 前記離型層をエレクトレット処理されたフッ素樹脂で構成したことを特徴とする請求項1記載の定着装置。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真方式を用いた画像形成装置に備えられる定着装置に関する。」
(3)「【0027】エレクトレット処理を行うことができる材料としては、例えばPEA(四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリ四フッ化エチレン)、FEP(四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体)、ポリプロピレン、マイラ、シリコーン、エポキシ樹脂、ポリ-1-オレフィン類、ポリスチレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルハライド、ポリアルキルメタクリレート等の樹脂が挙げられるが、この中でも定着ローラや加圧ローラの離型層として通常使用されるPTFE、FEP、PFA等のフッ素樹脂を使用することが好ましい。
【0028】上記材料をポリマーエレクトレット化する製法としては、
(1)ポリマーを軟化点又はガラス転移温度間で加熱し、これに直流高電圧を印加しながら冷却する方法。
(2)ポリマーをガラス転移温度以上に加熱してコロナ荷電を行いながら冷却する方法。
(3)ポリマー表面に真空中で10?40kVの低エネルギー電子線を照射する方法。
(4)ポリマーを高温度で強い静磁場を作用させながら冷却する方法。
等が知られている。

【0030】本実施の形態では、定着ローラ1の離型層10としてPFAを用いた。即ち、芯金3の表面にディスパージョン塗装や粉体塗装等の通常の方法でPFAを塗膜した後、定着ローラ1を250℃で加熱しながら負コロナ帯電(-5μA/cm^(2 ))を20分間行った後、急速冷却する処理を5回繰り返してエレクトレット処理された膜厚30μmのPFA離型層10を得た。尚、本実施の形態に係る定着ローラ1は弾性層を持たないが、弾性層を持ちその上に離型層を持つ定着ローラを用いても良い。」
(4)上記(1)、(3)より、実質的に、定着装置の製造方法が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献9には次の発明(以下、「引用発明9」という。)が記載されていると認められる。
「互いに圧接しながら回転する一対の回転体で転写材を挟圧搬送するためのニップ部を形成し、該ニップ部で前記転写材に形成されている未定着現像剤像を加熱及び加圧することによって未定着現像剤像を前記転写材に永久画像として定着させる定着装置の製造方法において、
前記回転体の少なくとも一方に他方の回転体と接する離型層を形成し、該離型層をエレクトレット処理を施したフッ素樹脂(PFA)で構成し、
前記離型層が、芯金の表面にディスパージョン塗装や粉体塗装等の通常の方法でPFAを塗膜した後、定着ローラを250℃で加熱しながら負コロナ帯電(-5μA/cm^(2) )を20分間行った後、急速冷却する処理を5回繰り返してエレクトレット処理された膜厚30μmのPFA離型層である、定着装置の製造方法。」


第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1-1とを対比すると、
後者の「定着部材」は、「中空芯金コアに耐油耐熱性弾性体層及びフッ素樹脂よりなる表面層が順次形成された」ものであるから、後者の「中空芯金コア」、「耐油耐熱性弾性体層」、「フッ素樹脂よりなる表面層」、及び「定着部材」は、それぞれ、前者の「基材」、「該基材の表面に設けられた弾性層」、「該弾性層の表面に形成された表層」、及び「定着部材」に相当する。
後者の「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」は、前者の「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」に相当する。
後者の「表面層が、酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂を含有」するものであるから、後者の「表面層」と前者の「表層」とは、「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含」むという点で共通する。
後者の「電離性放射線を照射」は、前者の「電離性放射線を照射」に相当する。
後者の「電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂」は、架橋構造が形成されていることは明らかであって、フッ素樹脂が「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」であるから、後者の「架橋されたフッ素樹脂」は、前者の「『下記構造式(1)で示される部分構造(架橋構造)』が形成された『テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体』

」に相当する。

したがって、両者は、
「基材、該基材の表面に設けられた弾性層、及び該弾性層の表面に形成された表層を有する定着部材であって、
該表層は、
下記構造式(1)で示される部分構造を有しているテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含み、かつ、
該部分構造は、未架橋のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層に対して、電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に形成された架橋構造である、定着部材:
【化1】

。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1が、「ぬれ張力が31.0mN/mであるぬれ張力試験用混合液で測定した接触角が67度以上である表面を有し」ているのに対し、引用発明1-1は、そのような表面を有しているのか定かでない点。

[相違点2]
本願発明1が、「酸素濃度1000ppm以下で、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のガラス転移点(Tg)以上、融点より30℃高い温度(Tm+30℃)以下の温度範囲で」電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に架橋構造を形成するものであるのに対し、引用発明1-1は、電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に架橋構造を形成するための条件が定かでない点。

[相違点3]
本願発明1が、「該表層は、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層の、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の融点以上での加熱物である」のに対し、引用発明1-1は、そのようなものではない点。

(2)判断
上記相違点3について検討する。
引用文献1には、「酸素不在雰囲気下、且つ樹脂の結晶融点以上に加熱された状態において、フッ素樹脂に電離性放射線を照射することで、樹脂(高分子)の崩壊反応を防ぎ、架橋反応を促進させることができる。…このような処理をされたフッ素樹脂を表面層とすることで、表面平滑化させトナーの離型性等を向上させるだけではなく、高強度化して耐摩耗性を向上させることができる。このため、本発明の定着部材は、耐久性及び高画質適性が共に優れる。」(上記「第3 1.(3)」参照。)と記載されていることから、引用発明1-1は、「酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して」フッ素樹脂よりなる表面層のトナーの離型性を向上させようとするものである。
これに対し、上記相違点3に関して、本願明細書には、「第三の工程; 本工程では、上記第二の工程によって得られた、上記構造式(1)で示される部分構造、すなわち、架橋構造を有するPFAを含む膜を、更に340?380℃の温度範囲に調整する。この工程は、第二の工程を行った装置内において引き続いて、窒素雰囲気下で行ってもよく、また、大気中で行ってもよい。また、第二の工程を経た膜を、一旦常温に冷却した後に、再び、340?380℃の温度範囲に加熱してもよい。 この工程を経ることで、電離性放射線照射後の、架橋したPFAを含む膜の表面のトナー離型性を改善することができる。 未架橋PFAの融点近傍に調整した、未架橋PFAを含む膜に対して電離性放射線を照射した後の当該膜の表面のトナー離型性の低下は、PFA中のパーフルオロアルキルビニルエーテル基の分解に伴う、高表面エネルギー成分の生成によるものと考えられる。そして、本工程において、架橋PFAを含む膜を、架橋PFAの融点以上の温度範囲に調整することで、架橋PFAの分子鎖の流動性を高め、表面エネルギーを最小化するように分子の再配列が促されるものと考えられる。その結果、架橋PFAを含む膜中の、表面エネルギーの高い成分が、当該膜中の内部に移動し、表面エネルギーの低い架橋PFAが表面側に移動することで、一旦低下した当該膜のトナー離型性が回復するものと考えられる。 本工程における、架橋PFAを含む膜の温度範囲である340?380℃は、架橋PFAの結晶が十分に流動し、かつ、架橋PFAの分解が実質的に生じない温度であると考えられる。」(【0025】参照。)と記載されており、未架橋PFAを含む膜に対して電離性放射線を照射した後では、当該膜の表面のトナー離型性は低下しているため、本願発明1は、「融点以上での加熱物」とすることで、電離性放射線照射後の、架橋したPFAを含む膜の表面のトナー離型性を改善しようとするものである。
そうすると、「酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射」することで、フッ素樹脂よりなる表面層のトナーの離型性を向上させようとする引用発明1-1は、本願発明1が課題としている「未架橋PFAを含む膜に対して電離性放射線を照射した後では、当該膜の表面のトナー離型性は低下している」ことは認識し得ないから、引用発明1-1において、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を設計的事項とする理由もない。

したがって、上記相違点1、及び相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1-1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

そして、本願発明1は、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項により、「本発明によれば、高い耐摩耗性を有し、かつ、表面のトナー離型性に優れた定着部材を得ることができる。また、本発明によれば、高品位な電子写真画像の安定的な提供に資する定着装置および画像形成装置を得ることができる。」(【0010】参照。)という作用効果を奏するものである。

また、原査定で提示されたその余のいずれの引用文献にも、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

したがって、本願発明1は、引用発明1-1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.本願発明2乃至7について
本願発明2乃至7は、本願発明1の発明特定事項にさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「1. (2)」と同様の理由により、本願発明2乃至7が、引用発明1-1、引用発明2、及び引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.本願発明8について
本願発明8と引用発明1-2とを対比すると、
後者の「定着部材」は、「中空芯金コアに耐油耐熱性弾性体層及びフッ素樹脂よりなる表面層が順次形成された」ものであるから、後者の「中空芯金コア」、「耐油耐熱性弾性体層」、「フッ素樹脂よりなる表面層」、及び「定着部材」は、それぞれ、前者の「基材」、「該基材の表面に設けられた弾性層」、「表層」、及び「定着部材」に相当し、後者の「定着部材の製造方法」は、前者の「定着部材の製造方法」に相当する。
後者の「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」は、前者の「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」に相当する。
後者の「表面層が、酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂を含有」するものであるから、後者の「表面層」と前者の「表層」とは、「テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含」むという点で共通する。
後者の「電離性放射線を照射」は、前者の「電離性放射線を照射」に相当する。
後者の「電離性放射線を照射して架橋されたフッ素樹脂」は、架橋構造が形成されていることは明らかであって、フッ素樹脂が「テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体」であるから、後者の「架橋されたフッ素樹脂」は、前者の「『下記構造式(1)で示される部分構造(架橋構造)』が形成された『テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体』

」に相当する。

したがって、両者は、
「基材と、
該基材の表面に設けられた弾性層と、
下記構造式(1)で示される部分構造を有しているテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む表層と、を有する定着部材の製造方法であって、
該表層を、下記工程により形成することを特徴とする定着部材の製造方法:
(2)該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の表面に、電離性放射線を照射し、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体に、下記構造式(1)で示される部分構造を形成せしめる第二の工程、
:
【化2】

。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点4]
本願発明8が、「(1)該弾性層の表面に形成した、未架橋のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の温度を、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のガラス転移点(Tg)以上、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の融点より30℃高い温度(Tm+30℃)以下の温度範囲に調整する第一の工程」を有しているのに対し、引用発明1-2は、そのような工程を有しているのか定かでない点。

[相違点5]
本願発明8が、「該第一の工程にて調整した温度範囲にある、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の表面に、酸素濃度が1000ppm以下の雰囲気下、電離性放射線を照射し、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体に、下記構造式(1)で示される部分構造を形成せしめる第二の工程」を有するものであるのに対し、引用発明1-2は、電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に架橋構造を形成するための条件が定かでない点。


[相違点6]
本願発明8が、「(3)該第二の工程によって得られた、下記構造式(1)で示される部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の温度を、340℃以上380℃以下の温度範囲に調整する第三の工程」を有するのに対し、引用発明1-2は、そのような工程を有していない点。


(2)判断
上記相違点6について検討する。
上記引用文献5、6、及び8には、フッ素樹脂に対して電離性放射線を照射した後に、加熱処理をするフッ素樹脂成形体の製造方法までは記載されている。また、上記引用文献4、及び7には、PFAに対して、加熱処理をするPFA成形体の製造方法までは記載されている。
しかし、上記引用文献2乃至引用文献9のいずれにも、上記相違点6に係る本願発明8の「該第二の工程によって得られた、下記構造式(1)で示される部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の温度を、340℃以上380℃以下の温度範囲に調整する第三の工程」は記載も示唆もされていない。
引用文献1には、「酸素不在雰囲気下、且つ樹脂の結晶融点以上に加熱された状態において、フッ素樹脂に電離性放射線を照射することで、樹脂(高分子)の崩壊反応を防ぎ、架橋反応を促進させることができる。…このような処理をされたフッ素樹脂を表面層とすることで、表面平滑化させトナーの離型性等を向上させるだけではなく、高強度化して耐摩耗性を向上させることができる。このため、本発明の定着部材は、耐久性及び高画質適性が共に優れる。」(上記「第3 1.(3)」参照。)と記載されていることから、引用発明1-2は、「酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射して」フッ素樹脂よりなる表面層のトナーの離型性を向上させようとするものである。
これに対し、上記相違点6に関して、本願明細書には、「第三の工程; 本工程では、上記第二の工程によって得られた、上記構造式(1)で示される部分構造、すなわち、架橋構造を有するPFAを含む膜を、更に340?380℃の温度範囲に調整する。この工程は、第二の工程を行った装置内において引き続いて、窒素雰囲気下で行ってもよく、また、大気中で行ってもよい。また、第二の工程を経た膜を、一旦常温に冷却した後に、再び、340?380℃の温度範囲に加熱してもよい。 この工程を経ることで、電離性放射線照射後の、架橋したPFAを含む膜の表面のトナー離型性を改善することができる。 未架橋PFAの融点近傍に調整した、未架橋PFAを含む膜に対して電離性放射線を照射した後の当該膜の表面のトナー離型性の低下は、PFA中のパーフルオロアルキルビニルエーテル基の分解に伴う、高表面エネルギー成分の生成によるものと考えられる。そして、本工程において、架橋PFAを含む膜を、架橋PFAの融点以上の温度範囲に調整することで、架橋PFAの分子鎖の流動性を高め、表面エネルギーを最小化するように分子の再配列が促されるものと考えられる。その結果、架橋PFAを含む膜中の、表面エネルギーの高い成分が、当該膜中の内部に移動し、表面エネルギーの低い架橋PFAが表面側に移動することで、一旦低下した当該膜のトナー離型性が回復するものと考えられる。 本工程における、架橋PFAを含む膜の温度範囲である340?380℃は、架橋PFAの結晶が十分に流動し、かつ、架橋PFAの分解が実質的に生じない温度であると考えられる。」(【0025】参照。)と記載されており、未架橋PFAを含む膜に対して電離性放射線を照射した後では、当該膜の表面のトナー離型性は低下しているため、本願発明8は、「340℃以上380℃以下の温度範囲に調整する第三の工程」を有することで、電離性放射線照射後の、架橋したPFAを含む膜の表面のトナー離型性を改善しようとするものである。
そうすると、「酸素不在雰囲気下で、且つ結晶融点以上に加熱された状態において、電離性放射線を照射」することで、フッ素樹脂よりなる表面層のトナーの離型性を向上させようとする引用発明1-2は、本願発明8が課題としている「未架橋PFAを含む膜に対して電離性放射線を照射した後では、当該膜の表面のトナー離型性は低下している」ことは認識し得ないから、引用発明1-2において、上記引用文献4乃至8に記載の加熱処理を適用する動機付けがない。
また、仮に、引用発明1-2に、引用文献4乃至8に記載の加熱処理を適用できたとしても、架橋PFAの結晶が十分に流動し、かつ、架橋PFAの分解が実質的に生じず、トナー離型性が回復する「340℃以上380℃以下の温度範囲に調整する第三の工程」とすることは、設計的事項とする理由もないし、当業者であっても容易に想到し得ない。

したがって、上記相違点4、及び相違点5について検討するまでもなく、本願発明8は、引用発明1-2、引用発明2、引用発明3、引用文献4乃至9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

そして、本願発明8は、上記相違点6に係る本願発明8の発明特定事項により、「架橋PFAを含む膜中の、表面エネルギーの高い成分が、当該膜中の内部に移動し、表面エネルギーの低い架橋PFAが表面側に移動することで、一旦低下した当該膜のトナー離型性が回復するものと考えられる。 本工程における、架橋PFAを含む膜の温度範囲である340?380℃は、架橋PFAの結晶が十分に流動し、かつ、架橋PFAの分解が実質的に生じない温度であると考えられる。」(【0025】参照。)という作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明8は、引用発明1-2、引用発明2、引用発明3、引用文献4乃至9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.本願発明9乃至11について
本願発明9乃至11は、本願発明8の発明特定事項にさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「3. (2)」と同様の理由により、本願発明9乃至11が、引用発明1-2、引用発明2、引用発明3、引用文献4乃至9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献 1

・請求項 2-7
・引用文献 1-3

・請求項 8-11
・引用文献 1-9

<引用文献等一覧>
1.特開2002-23539号公報
2.特開2012-118371号公報
3.特開2012-58644号公報
4.特開2010-176130号公報
5.特開2007-47641号公報
6.特開2011-158892号公報
7.特開平6-250553号公報
8.特開2004-315833号公報
9.特開2000-194220号公報」
というものである。

しかしながら、平成30年6月21日付け手続補正により補正された請求項1乃至請求項7は、それぞれ「該部分構造は、未架橋のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層に対して、酸素濃度1000ppm以下で、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のガラス転移点(Tg)以上、融点より30℃高い温度(Tm+30℃)以下の温度範囲で電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に形成された架橋構造であり、 該表層は、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層の、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の融点以上での加熱物である」という事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1は、引用発明1-1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないし、本願発明2乃至7は、引用発明1-1、引用発明2、及び引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、引用文献1乃至引用文献9のいずれにも、本願発明8の「(3)該第二の工程によって得られた、下記構造式(1)で示される部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む膜の温度を、340℃以上380℃以下の温度範囲に調整する第三の工程」は、記載も示唆もされていないし、設計的事項といえる理由もないから、本願発明8乃至11は、引用発明1-2、引用発明2、引用発明3、引用文献4乃至9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審では、
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願明細書の「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本発明者らは、フッ素樹脂として、PTFEに比較して溶融粘度が低く、扱いやすいPFAに着目し、PFAを含む表層に対して、上記特許文献1の開示に基づき、酸素不在下で、融点近傍まで加熱して電離性放射線を照射する方法を適用してみた。その結果、表層の耐摩耗性は確かに向上するものの、表層の表面のトナーの離型性が低下してしまう場合があることを見出した。
そこで、本発明の目的は、耐摩耗性に優れ、かつ、トナーに対する高い離型性を有する、PFAを含む表層を有する定着部材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、耐摩耗性に優れ、かつ、トナーに対する高い離型性を有する、PFAを含む表層を有する定着部材の製造方法を提供することにある。」
との記載を参酌すると、本願発明の課題は、“トナーに対する高い離型性を有する、PFAを含む表層を有する定着部材、及び定着部材の製造方法を提供すること”にあると認められる。
そして、上記課題を解決するための手段として、本願明細書には、“電離放射線の照射によって、下記構造式(1)で示される部分構造(架橋構造)を形成してなるPFAを含む膜の温度を、当該架橋構造を有するPFAの融点以上の温度に調整し、当該膜を実質的な熔融状態に所定の時間置くこと。

”(【0015】参照。)と記載されている。
そうすると、本願発明の課題を解決するための手段は、“架橋構造を有するPFAを含む表層を有する定着部材における、架橋構造を有するPFAを、融点以上の温度に調整して形成する工程”であると認められるから、請求項1?7に係る発明は、本願発明の課題を解決する手段を欠くものと認められる。」
との拒絶の理由を通知しているが、平成30年6月21日付けの補正において、上記指摘に対して、請求項1乃至7は、「該部分構造は、未架橋のテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層に対して、酸素濃度1000ppm以下で、該テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体のガラス転移点(Tg)以上、融点より30℃高い温度(Tm+30℃)以下の温度範囲で電離性放射線を照射することによって、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体中に形成された架橋構造であり、 該表層は、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含む層の、該部分構造を有するテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の融点以上での加熱物である」との補正がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-10 
出願番号 特願2013-124881(P2013-124881)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 孝幸  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 定着部材及びその製造方法、定着装置、画像形成装置  
代理人 齋藤 正巳  
代理人 越智 隆夫  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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