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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C |
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管理番号 | 1343650 |
審判番号 | 不服2017-19240 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-26 |
確定日 | 2018-09-25 |
事件の表示 | 特願2014-253630「フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-113670、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月16日の出願であって、平成29年5月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで手続補正がなされると同時に意見書が提出され、同年11月22日付けで拒絶査定(原査定)がされ(同年11月28日発送)、これに対し、同年12月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 本願発明について 本願請求項1ないし5に係る発明は、平成29年12月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載される事項によって特定される以下のとおりのものである。 (各請求項に記載される発明を請求項の順に「本願発明1」「本願発明2」のように記載し、それらを総称して「本願発明」と記載する。) 「 【請求項1】 質量%で、C:0.005?0.05%、Si:0.02?1.00%、Mn:0.05?0.60%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15.5?18.0%、Al:0.001?0.10%、N:0.01?0.06%、Ni:0.1?0.6%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNi/Mn≧0.64(Ni、Mnは各元素の含有量(質量%))を満たし、 El≧25%、平均r値≧0.65およびリジング高さが2.5μm以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。 【請求項2】 質量%で、さらに、Cu:0.1?1.0%、Mo:0.1?0.5%、Co:0.01?0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。 【請求項3】 質量%で、C:0.005?0.05%、Si:0.02?1.00%、Mn:0.05?0.60%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15.5?18.0%、Al:0.001?0.10%、N:0.01?0.06%、Ni:0.1?0.6%を含有し、さらに、V:0.01?0.25%、Ti:0.001?0.015%、Nb:0.001?0.025%、Mg:0.0002?0.0050%、B:0.0002?0.0050%、REM:0.01?0.10%、Ca:0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNi/Mn≧0.6(Ni、Mnは各元素の含有量(質量%))を満たし、 El≧25%、平均r値≧0.65およびリジング高さが2.5μm以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。 【請求項4】 質量%で、C:0.005?0.05%、Si:0.02?1.00%、Mn:0.05?0.60%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:15.5?18.0%、Al:0.001?0.10%、N:0.01?0.06%、Ni:0.1?0.6%を含有し、さらに、Cu:0.1?1.0%、Mo:0.1?0.5%、Co:0.01?0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上、V:0.01?0.25%、Ti:0.001?0.015%、Nb:0.001?0.025%、Mg:0.0002?0.0050%、B:0.0002?0.0050%、REM:0.01?0.10%、Ca:0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNi/Mn≧0.6(Ni、Mnは各元素の含有量(質量%))を満たし、El≧25%、平均r値≧0.65およびリジング高さが2.5μm以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法であって、鋼スラブに対して、熱間圧延を施し、次いで900?1050℃の温度範囲で5秒?15分間保持する焼鈍を行いフェライト相とマルテンサイト相の二相組織からなる熱延焼鈍板とし、次いで冷間圧延を施した後、800?900℃の温度範囲で5秒?5分間保持する冷延板焼鈍を行い、フェライト単相組織とすることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼の製造方法。」 第3 原査定の概要 原査定の概要は、請求項3、4に係る発明(本願発明3、4に対応)は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 なお、原査定では、請求項1、2、5に係る発明(本願発明1、2、5に対応)についても、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを付記しているので、同時に検討する。 第4 引用文献の記載 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2006-328525号公報には、次の事項が記載されている。 (1-ア)「質量%で、 C :0.005?0.030% Si:0.01?2.00% Mn:0.01?3.00% P :0.040%未満 S :0.03%以下 Cr:12.5?22.0% Al:0.0005?0.2000% N :0.005?0.040% C+N≦0.050% を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物よりなる鋼組成を有し、下記(1)式により計算されるγp(%)が0?65%を満足し、下記(2)式におけるH_(M)値が20?40を満足し、板面において圧延方向から0°,45°及び90°の3方向に引張試験をした際の引張強度の最大値と最小値の差が20MPa未満であり、かつポンチ径:Φ50mm、ポンチ肩R:5mm、ダイス肩R:5mm、ブランク径:Φ100mm、しわ押さえ力:1トン、摩擦係数:0.11?0.13の条件で絞り比2.0の円筒深絞り成形後の耳高さが2.0mm以内であることを特徴とする成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。 γp=420×〔C〕+470×〔N〕+23×〔Ni〕+12×〔Cu〕+7×〔Mn〕-11.5×(〔Cr〕+〔Si〕)-52×〔Al〕 -49×〔Ti〕+189・・・(1) H_(M) =145×〔C〕-0.1×〔Cr〕+0.8×〔Mn〕+1.8×〔Ni〕+120×〔N〕+0.7×〔Cu〕+26.8・・・(2) (ここで〔 〕は質量%)」(【請求項1】) (1-イ)「前記鋼が、さらに、質量%で、 Ni:3.0%以下、 Cu:3.0%以下 のうち1種または2種を含むことを特徴とする、請求項1記載の成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。」(【請求項2】) (1-ウ)「前記鋼が、さらに、質量%で、 B :0.010%以下 を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。」(【請求項3】) (1-エ)「前記鋼が、さらに、質量%で、 Mg:0.010%以下 を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。」(【請求項4】) (1-オ)「前記鋼が、さらに、質量%で、 Ti:0.40%以下、 Nb:0.40%以下 のうち1種または2種を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。」(【請求項5】) (1-カ)「前記鋼が、さらに、質量%で、 Mo:0.50%以下 を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。」(【請求項6】) (1-キ)「請求項1から6のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼薄板を製造するに際し、鋼片を、熱間圧延工程において700℃?1100℃における総圧延率が90%以上とした圧延後に450℃?700℃で巻取り処理を実施し、得られた熱延板を700℃?850℃で3h以上保持する均質化熱処理を実施し、さらに900℃?1100℃で1s以上保持したのちに3℃/s以上の冷却速度で冷却する部分変態熱処理を実施し、さらに常法により、酸洗、冷間圧延および冷延板最終焼鈍を施すことを特徴とする成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板の製造方法。」(【請求項8】) (1-ク)「請求項1から6のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼薄板を請求項7乃至9のいずれか1項に記載の方法により製造するに際し、冷延板最終焼鈍工程において最高到達温度がA_(c1)(℃)以下で1?120sの保定を有する熱処理を行うことを特徴とする成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板の製造方法。」(【請求項10】) (1-ケ)「耐リジング性の測定方法は、次に述べるとおりである。圧延方向から0°方向にJIS5号引張試験片を採取し、歪が16%の引張を行う。表面粗度計において引張試験片表面の平行部の長手方向中央位置において、半径5μmの触針を接触させて、引張方向と垂直方向に0.60mm/sの速度で、カットオフ波長0.08mmとして10mm走査させてうねりチャートを得る。チャートの一例を図4に示す。リジング高さはうねりの最も大きい谷部を形成する山を直線で結び、この直線を深さ方向に平行移動して谷部底に合せた直線(点線)との距離として求める。」(【0056】) (1-コ)「また耐リジング性、耐肌荒れ性、成形時の面内異方性を評価した。耐リジング性はリジング高さが5μm以下である場合に合格とした。」(【0062】) (1-サ)「表1に示す成分の各鋼を溶製し、種々の条件で熱間圧延を実施した。得られた熱延板について数水準の条件によって均質化熱処理及び部分変態熱処理を実施した。焼鈍後、表3に示す条件で冷間圧延を行い、計算されるA_(c1)より10?30℃低い温度で60sの保定を有する熱処理を行った。得られた鋼板より、前項と同様に、引張強度異方性、円筒深絞り成形試験後の耳高さを測定した。耐リジング性、耐肌荒れ性及び成形時の面内異方性の評価基準は前項と同じである。加えて焼鈍後の割れ性、冷延時の耳割れ発生有無を調査した。」(【0064】) (1-シ)「表3に製造条件及び各種評価結果を示す。本発明法によると成形時の面内異方性が小さく、耐リジング性及び耐肌荒れ性が優れる鋼板を、焼鈍後の割れ及び冷延時の耳割れなく製造することができる。」(【0065】) (1-ス)質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物よりなる鋼組成を有し、A_(c1)が942℃の鋼Aが、本願発明1の鋼の成分組成に最も近いものとして記載されている。(【0068】【表1】) (1-セ)鋼Aを溶製し、熱間圧延を実施して得られた熱延板について均質化熱処理及び950℃で190分(審決注:「190秒」の誤記と認める。)保持する部分変態熱処理を実施した後、冷間圧延を行い、A_(c1)より10?30℃低い温度で60秒の保定を有する熱処理を行って製造され、耐リジング性評価が「○」の本発明例が記載されている。(【0070】【表3】) 「表1に示す成分の各鋼を溶製し、種々の条件で熱間圧延を実施した。得られた熱延板について数水準の条件によって均質化熱処理及び部分変態熱処理を実施した。焼鈍後、表3に示す条件で冷間圧延を行い、計算されるA_(c1)より10?30℃低い温度で60sの保定を有する熱処理を行った。得られた鋼板より、前項と同様に、引張強度異方性、円筒深絞り成形試験後の耳高さを測定した。耐リジング性、耐肌荒れ性及び成形時の面内異方性の評価基準は前項と同じである。加えて焼鈍後の割れ性、冷延時の耳割れ発生有無を調査した。」(【0064】) 第5 対比・判断 5-1.本願発明1について (1)引用文献1に記載された発明の認定 引用文献1の摘示事項(1-ス)(以下「(1-ス)」のように記す。)及び(1-セ)並びに(1-ア)の記載から、製造された「フェライト系ステンレス鋼薄板」とその性質に着目すると、引用文献1には「質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物よりなる鋼組成を有し、成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板」が記載されているといえる。 また、前記(1-コ)から、上記「耐リジング性に優れた」とは、「リジング高さが5μm以下である」ことを意味するといえる。 したがって、引用文献1には 「質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物よりなる鋼組成を有し、成形時の面内異方性が小さく、リジング高さが5μm以下で、耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板。」の発明(以下、「引用発明1」という。) が記載されていると認められる。 (2)本願発明1と引用発明1との対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明1における「残部が鉄」は、本願発明1における「残部がFe」に相当する。 また、本願発明1の「フェライト系ステンレス鋼」は、「質量%で」「C:0.005?0.05%」「N:0.01?0.06%」を含有し、引用発明1の「低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板」は「質量%で」「C:0.025%」「N:0.023%」を含有し、これは本願発明1の「C」「N」の含有量内の値であり、同「薄板」の材質は「フェライト系ステンレス鋼」であるので、引用発明1の「低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板」は、本願発明1の「フェライト系ステンレス鋼」に相当する。 イ 引用発明1において、Ni/Mn(Ni、Mnは各元素の含有量(質量%))は0.21/0.35=0.6と計算される。 したがって、本願発明1と引用発明1とは、 「質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からな」る「フェライト系ステンレス鋼」である点で一致し、以下の点で相違する。 なお、本願明細書【0047】には「肌荒れ」を防止することが記載されているので、本願発明1は「耐肌荒れ性」を有し得るといえる。 <相違点1> 「Ni/Mn(Ni、Mnは各元素の含有量(質量%))」について、本願発明1では「≧0.64」であるのに対し、引用発明1では「0.6」である点。 <相違点2> 「リジング高さ」について、本願発明1では「2.5μm以下」であるのに対し、引用発明1では「5μm以下」である点。 <相違点3> El(破断伸び)について、本願発明1では「El≧25%」であるのに対し、引用発明1ではどの程度か明らかでない点。 <相違点4> 成形性の指標について、本願発明1では「平均ランクフォード値」である「平均r値」が「0.65以上」であるのに対して、引用発明1では「成形時の面内異方性が小さい」としている点。 (3)相違点の検討 事案に鑑み、まず相違点1について検討すると、本願発明1は、「Mnに比べて焼戻し軟化抵抗が低い元素」である「Ni」を増加させて「Mn含有量、Ni含有量をNi/Mn≧0.6となるように調整すること」により、「熱延板焼鈍の冷却が完了した時点でマルテンサイト相がHVで500以下にまで十分に軟質化」されるため、「所定の成形性および耐リジング特性を得つつ、線状疵の発生を回避できる」という効果を奏するものである(本願明細書【0022】【0028】)。 一方、引用文献1には、「Ni/Mn≧0.6に調整すること」で当該効果を奏し得ることについて記載も示唆もない。 また、引用発明1の認定の基礎である「鋼A」については、γp=11.3(%)、H_(M)値=32.1であり(いずれも前記(1-ア)の(1)式及び(2)式並びに前記(1-ス)の「鋼A」の鋼組成から計算したものである。)、いずれも所望の値の範囲内(「γp(%)が0?65%」「H_(M)値が20?40」)にあり、「Ni/Mn」が0.64以上となる程度に「Ni」を増加させる動機付けはないし、そもそも「γp」「H_(M)値」を変化させるに当たり、本願発明1を構成する複数の元素の中からあえて「Ni」を選択し、「Ni/Mn」を指標としてその量を変化させるべき理由も見当たらない。 (4)小括 以上から、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 5-2.本願発明2について 本願発明2は、請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 5-3.本願発明3について (1)本願発明3と引用発明1との対比 本願発明3と引用発明1とを対比すると、上記「5-1.」の検討を参酌すれば、両者は、「質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNi/Mn=0.6(Ni、Mnは各元素の含有量(質量%))を満た」す「フェライト系ステンレス鋼」である点で一致し、上記相違点2ないし4及び以下の点で相違する。 <相違点5> 本願発明3では「質量%で」「さらに、V:0.01?0.25%、Ti:0.001?0.015%、Nb:0.001?0.025%、Mg:0.0002?0.0050%、B:0.0002?0.0050%、REM:0.01?0.10%、Ca:0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含」むことが特定されているのに対し、引用発明1ではこのような特定はされていない点。 (2)相違点の検討 相違点5について、本願発明3は、「さらに、V:0.01?0.25%、Ti:0.001?0.015%、Nb:0.001?0.025%、Mg:0.0002?0.0050%、B:0.0002?0.0050%、REM:0.01?0.10%、Ca:0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含」むところ、「V」は「平均r値を向上させ」たり「線状疵の発生を抑制」したりし(本願明細書【0039】)、「REM」は「耐酸化性を向上させ」て特に「溶接部の耐食性を向上させ」(本願明細書【0043】)、「Ca」は「連続鋳造の際に発生しやすいTi系介在物の晶出によるノズルの閉塞を防止する」(本願明細書【0044】)ものである。 一方、引用文献1には、引用発明1において、「V」「REM」「Ca」を添加することにより、いかなる効果が奏されるかの記載はなく、これらの成分を含有させる動機付けも見当たらない。 また、引用文献1には、「Ti」「Nb」「Mg」「B」について前記(1-ウ)ないし(1-オ)に記載され、それらの成分の含有量は、本願発明3と比較して全ての成分において1桁以上高いものを含むものであるところ、上記(1)の一致点を満たす「フェライト系ステンレス鋼」(【表1】の「鋼A」)すなわち引用発明1においては、「Ti」「Nb」「Mg」「B」は全て含まれていないし、「Ti」「Nb」「Mg」「B」のいずれかが含まれている鋼種では「フェライト系ステンレス鋼」の「Ti」「Nb」「Mg」「B」以外の成分が一致しない。 すなわち、引用文献1には、「鋼A」すなわち引用発明1においては、「Ti」「Nb」「Mg」「B」はいずれも含まないこと(【表1】)が記載されているといえるから、引用文献1に記載された「鋼A」以外の鋼種で「Ti」「Nb」「Mg」「B」を含み得るからといって、「鋼A」すなわち引用発明1においても「Ti」「Nb」「Mg」「B」を含み得るとはいえないし、仮に含有させるとしても、含有量を本願発明3の範囲内になるように低く抑えなければならない理由も見いだせない。 (3)小括 以上から、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明3は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 5-4.本願発明4について 本願発明4は、本願発明3において更に「質量%で」「Cu:0.1?1.0%、Mo:0.1?0.5%、Co:0.01?0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上」を含有させるものであるが、本願発明3の特定事項を有するものであるから、本願発明3と同様の理由により、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 5-5.本願発明5について (1)引用文献1に記載された発明の認定 前記(1-キ)、(1-ク)、(1-サ)、(1-ス)及び(1-セ)の記載から、引用文献1には、 「質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物よりなる鋼組成を有する鋼を溶製し、鋼片を、熱間圧延工程において700℃?1100℃における総圧延率が90%以上とした圧延後に450℃?700℃で巻き取り処理を実施し、得られた熱延板を700?850℃で3h以上保持する均質化熱処理を実施し、さらに、950℃で190秒保持した後に3℃/s以上の冷却速度で冷却する部分変態熱処理を実施し、さらに常法により、酸洗、冷間圧延を施した後、A_(c1)より10?30℃低い温度で60秒の保定を有する冷延板最終焼鈍を施し、成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板の製造方法。」の発明(以下「引用発明2」という。) が記載されていると認められる。 (2)本願発明5と引用発明2との対比 本願発明5と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明2の「鋼を溶製し、鋼片を、熱間圧延工程において700℃?1100℃における総圧延率が90%以上とした」ことは、溶製された鋼をスラブとして熱間圧延することは自明であることからみて、本願発明5の「鋼スラブに対して、熱間圧延を施し、」に相当する。 イ 本願発明5は、引用発明2の「圧延後に450℃?700℃で巻取り処理を実施し、得られた熱延板を700℃?850℃で3h以上保持する均質化熱処理を実施し、」を包含する。 ウ 本願発明5の「次いで900?1050℃の温度範囲で5秒?15分間保持する焼鈍を行いフェライト相とマルテンサイト相の二相組織からなる熱延焼鈍板とし、」と引用発明2の「さらに950℃で190s保持したのちに3℃/s以上の冷却速度で冷却する部分変態熱処理を実施し、」は「950℃で190s保持した」熱処理を行う点で一致する。 エ 引用発明2の「さらに常法により、酸洗、冷間圧延」を行うことは、本願発明5の「次いで冷間圧延を施した」に相当する。 オ 引用文献1の【表1】(【0068】)から鋼種「A」は「A_(c1)」が「942℃」であるから、引用発明2の「A_(c1)より10?30℃低い温度で冷延板最終焼鈍を施し」は「912?932℃で冷延板最終焼鈍を施し」といえるので、本願発明1と引用発明2とは「60秒間保持する冷延板焼鈍」を行うことで一致する。 カ 引用発明2は「フェライト系ステンレス鋼」に関するものではあるが、引用文献1には製造された「低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板」が「フェライト単相組織」になっているとまでは記載されていない。 そうすると、上記「5-1.」の検討も参酌すれば、本願発明5と引用発明2とは 「質量%で、C:0.025%、Si:0.35%、Mn:0.35%、P:0.026%、S:0.0009%、Cr:17.2%、Al:0.0860%、N:0.023%、Ni:0.21%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物よりなる鋼組成を有する鋼を溶製し、鋼スラブに対して、熱間圧延を施し、950℃で190秒間保持する熱処理を行い、次いで冷間圧延を施した後、60秒間保持する冷延板焼鈍を行い、成形時の面内異方性が小さく耐リジング性及び耐肌荒れ性に優れた低炭素低窒素フェライト系ステンレス鋼薄板の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点6> 「950℃で190秒間保持する」熱処理について、本願発明5は当該熱処理が「焼鈍」であり、「フェライト相とマルテンサイト相の二相組織からなる熱延焼鈍板」が生成するのに対して、引用発明2では当該熱処理の後で「3℃/s以上の冷却速度で冷却する」事まで含めて「部分変態熱処理」を行う点。 <相違点7> 「冷延板焼鈍」を行うことについて、本願発明5は「800?900℃の温度範囲」で行うものであるのに対して、引用発明2は「912?932℃」で「冷延板最終焼鈍を施」すものである点。 <相違点8> 製造されたフェライト系ステンレス鋼の組織について、本願発明5は「フェライト単相組織」であるが、引用発明2はフェライトの「単相組織」であるのか不明である点。 そして、本願発明5は、本願発明1ないし4の何れかを引用するから、次の相違点9-1、9-2の点で本願発明5と引用発明2とはさらに相違する。 <相違点9-1>本願発明5が本願発明1又は2を引用する場合には、本願発明5と引用発明2とは製造されるフェライト系ステンレス鋼について、上記の相違点1ないし4で相違する。 <相違点9-2>本願発明5が本願発明3又は4を引用する場合には、本願発明5と引用発明2とは製造されるフェライト系ステンレス鋼について、上記の相違点2ないし5で相違する。 (3)相違点の検討 相違点9-1、9-2について、引用発明2は引用発明1を製造する方法の一部に係る発明であるといえるが、前記「5-1.」ないし「5-4.」において検討したとおり、本願発明1ないし4は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえないため、本願発明1ないし4を引用する本願発明5についても引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (4)小括 以上から、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明5は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明1又は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-09-11 |
出願番号 | 特願2014-253630(P2014-253630) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C22C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 川村 裕二 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
結城 佐織 長谷山 健 |
発明の名称 | フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 |
代理人 | 坂井 哲也 |
代理人 | 磯村 哲朗 |
代理人 | 尾崎 大介 |
代理人 | 熊坂 晃 |