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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F
管理番号 1343722
審判番号 不服2018-636  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-17 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 特願2014- 71666「浸漬型膜分離装置及びその運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開、特開2015-192937、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年 3月31日を出願日とする出願であって、平成29年 5月17日付けで拒絶理由通知がされ、同年 7月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ、平成30年 1月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年 5月 7日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の理由の概要

引用文献1:特開平11-076771号公報
引用文献2:特開2006-198462号公報

原査定の理由の概要は、「本願特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、引用文献1?2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」、というものである。

第3 本願発明
本願請求項1?5に係る発明は、審判請求時に補正された本願特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認める(以下、「本願発明1」?「本願発明5」という。)。

「【請求項1】
濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口を2つ以上有する平膜エレメントと、
前記平膜エレメントを浸漬する反応槽と、
前記集水口にそれぞれ対向配置されて接続される2つの集水管と、
第一開閉弁を設け、一方の前記集水管に接続される第一配管と、
前記第一配管を吸込口側に接続させる吸引ポンプと、
他方の前記集水管に接続され、前記第一開閉弁と前記吸引ポンプの吸込口との間の前記第一配管に接続される第二配管と、
第二開閉弁を設け、前記吸引ポンプの吐出口側に接続される濾過液配管と、
薬液投入部を設け、一端が前記吸引ポンプと前記第二開閉弁との間の前記濾過液配管に第三開閉弁を介して接続され、他端が前記第一開閉弁と前記一方の集水管との間の第一配管に第四開閉弁を介して接続される第三配管と
を備え、
前記平膜エレメントは、前記平膜エレメントの両端部を、一方の端は浸漬された前記平膜エレメントの上端とし、もう一方の端は浸漬された前記平膜エレメントの下端としており、前記集水口をそれぞれ、前記平膜エレメントの上端の上部に上向きに、前記平膜エレメントの下端の下部に下向きに、それぞれ1つ以上有し、
前記第一開閉弁及び前記第二開閉弁は、膜濾過運転時には開放され、膜洗浄運転時には閉止され、
前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁は、膜濾過運転時には閉止され、膜洗浄運転時には開放され、
前記吸引ポンプは、膜濾過運転時には前記平膜エレメントの下端の集水口から該下端の集水口に対向配置され水平に位置する前記一方の集水管を介して前記第一配管に、及び前記平膜エレメントの上端の集水口から該上端の集水口に対向配置された水平に位置する前記他方の集水管を介して前記第二配管に、濾過液を導出するように吸引し、膜洗浄運転時には前記薬液投入部から投入される薬液を前記第三配管から前記第一配管を経由して前記一方の集水管へ吸引し、前記薬液を前記平膜エレメントを経由して前記他方の集水管から導出するように吸引する
ことを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の浸漬型膜分離装置において、
前記平膜エレメントの直下に、ブロワの駆動により噴出した空気の上昇によって生じる気液混合の上向流によって前記平膜エレメントの膜面を洗浄するために設置され、膜濾過運転時にも膜洗浄運転時にも空気を噴出する散気管を有する
ことを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の浸漬型膜分離装置において、
前記薬液投入部が、漏斗状の入れ口を備えながら逆止機構を有する薬液投入口である
ことを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の浸漬型膜分離装置において、
前記薬液投入部が、筐体に開口状の薬液投入口を備え、前記吸引ポンプによって前記第三配管に導入される前記薬液を貯留する中継槽である
ことを特徴とする浸漬型膜分離装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の浸漬型膜分離装置の運転方法において、
膜濾過運転時には、前記第三配管の前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁を閉止し、前記第一配管及び前記第二配管を前記吸引ポンプに連通し、前記吸引ポンプで前記第一配管及び前記第二配管から濾過液を吸引して前記濾過液配管へ送出し、
膜洗浄運転時には、前記第一開閉弁及び前記第二開閉弁を閉止すると共に前記第三配管の前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁を開放し、前記薬液投入部で投入される所定の薬液を前記吸引ポンプで、前記第三配管から前記第一配管を経由して前記一方の集水管へ吸引した後、前記一方の集水管から前記平膜エレメントを経由して前記他方の集水管へ吸引し、前記他方の集水管から前記第二配管及び前記第一配管を経由して前記第三配管に導出する、前記平膜エレメント内を前記薬液が下から上に向かって流れるよう薬液循環路を構成する
ことを特徴とする浸漬型膜分離装置の運転方法。」

第4 当審の判断
1 引用文献1の記載事項
原査定で引用される引用文献1には、以下の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 膜分離槽内に配設された膜モジュール内に、消毒または滅菌効果のある薬液を通過させ、該薬液を処理水とともに引抜き排水することを特徴とする膜モジュールの薬液洗浄方法。」

(1b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、膜モジュールを薬液で洗浄する洗浄方法及び洗浄装置に関するものである。」

(1c)「【0004】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、第1実施例の薬液洗浄装置の概略配管構成図であり、図において、膜分離槽1内には、孔径が0.1?1ミクロンの中空糸膜で構成された膜モジュール2が内設されており、膜モジュール2の両側面には集水管3a,3bが設けられたものとなっており、この図示左側の集水管3aの上端には薬液投入配管4が接続されており、薬液投入配管4内にはバルブ5が設けられて、上端は薬液を貯留した薬液タンク6に接続されている。この薬液タンク6内には次亜塩素酸ナトリウムとかクロロアミン(NCl_(3))とかオゾン水等が貯留されている。
【0005】一方、前記膜分離槽1の側方には処理水槽15が隣接されており、前記薬液投入配管4からこの処理水槽15内に向かって連通配管7が配管されており、連通配管7の下端には逆止弁8が設けられ、また、連通配管7内にはバルブ14が設けられている。また、前記処理水槽15内には処理水引抜配管10が立設されており、処理水引抜配管10内には逆止弁11及びバルブ12が設けられている。前記膜モジュール2の右側の集水管3bの上端には薬液引抜配管9が接続され、この薬液引抜配管9は前記連通配管7を介してバルブ14の下流側に接続され、さらに前記処理水引抜配管10に接続されて、その下流側にはポンプ13が設けられたものとなっている。なお、前記膜分離槽1内には原水が流入されて、その水位Waは前記処理水槽15内の処理水の水位Wbよりも高い水位となるように設定されている。
【0006】このような構成において、前記バルブ5が閉じられて薬液タンク6から薬液が投入されない状態において、前記バルブ14及び12が開かれて前記ポンプ13が運転される時には、ポンプ13により処理水引抜配管10を介して処理水槽15内の処理水が引き抜かれるとともに、薬液引抜配管9を通し膜モジュール2内の液が引き抜かれて膜モジュール2がろ過され、ポンプ13の下流側に設けられた図示しない消毒槽内へ処理水と膜モジュール2内の液が排出されるものとなっている。
【0007】また、前記バルブ5及びバルブ12が開状態とされてバルブ14が閉止された時には、薬液タンク6内の薬液が薬液投入配管4を通し集水管3aに投入され、薬液が膜モジュール2内に重力落下方式により投入されることとなり、薬液は膜モジュール2内を集水管3a側から集水管3b側に向かって流れ、膜モジュール2内を良好に洗浄して膜面の汚れを防ぎ、薬液によりスライムを洗浄することができ、集水管3bから薬液引抜配管9を通り薬液は引き抜かれて、この薬液と同時に前記処理水引抜配管10を介し処理水が引き抜かれて、処理水と薬液はポンプ13を介し下流側の消毒槽へ排出されるものとなる。従って、下流側の消毒槽内へは薬液が混ざった処理水が流入されるため、別途、次亜塩素酸ナトリウム等の消毒液を添加する滅菌器を付設する必要がなく、消毒槽内で薬液を反応させて良好な滅菌及び消毒を行うことができるものとなる。」

(1d)「【0012】次に、図3は第3実施例を示すものであり、図において、膜分離槽1内には、膜モジュール2が内設され、膜モジュール2の両側面には集水管3a,3bが設けられ、図示左側の集水管3aの上端には薬液投入配管4が接続され、薬液投入配管4内にはバルブ5が設けられて、上端は薬液を貯留した薬液タンク6に接続されている。
【0013】また、膜モジュール2の右側の集水管3bの上端には、ポンプ13を備えた薬液引抜配管9が接続され、薬液引抜配管9と前記薬液投入配管4とはバルブ14を介し連通されたものとなっている。なお、前記膜分離槽1内には原水が流入されて水位Waとなるように設定されている。
【0014】このような構成において、前記バルブ5が開状態とされてバルブ14が閉止された時には、薬液タンク6内の薬液が薬液投入配管4を通し集水管3aに投入され、薬液が膜モジュール2内に重力落下方式により投入されることとなり、薬液は膜モジュール2内を集水管3a側から集水管3b側に向かって流れ、膜モジュール2内を良好に洗浄して膜面の汚れを防ぎ、薬液によりスライムを洗浄することができ、集水管3bから薬液引抜配管9を通り薬液は引き抜かれて下流側の消毒槽へ排出されるものとなる。従って、下流側の消毒槽内へは薬液が流入されるため、別途、次亜塩素酸ナトリウム等の消毒液を添加する滅菌器を付設する必要がなく、消毒槽内で薬液を反応させて良好な滅菌及び消毒を行うことができるものとなる。
【0015】また、前記バルブ5が閉じられて薬液タンク6から薬液が投入されない状態において、前記バルブ14が開かれて前記ポンプ13が運転される時には、ポンプ13により薬液引抜配管9を通し膜モジュール2内の液が引き抜かれて膜モジュール2がろ過され、ポンプ13の下流側に設けられた消毒槽内へ処理水と膜モジュール2内の液が排出される。なお、前記膜モジュール2は、中空糸膜の他、平膜等の上下または左右に吸引口のある膜モジュールで構成することができる。
【0016】
【発明の効果】本発明の膜モジュールの薬液洗浄方法は、膜分離槽内に配設された膜モジュール内に、消毒または滅菌効果のある薬液を通過させ、該薬液を処理水とともに引抜き排水することとしたため、薬液により膜モジュール内を良好に洗浄して膜面の汚れを防ぎ、スライムの発生を抑止させ膜モジュールの寿命を延ばすことができる効果を有する。
【0017】また、前記処理水とともに引き抜いた薬液を、下流側の消毒槽内へ流し込むように構成したことにより、別途、消毒液等を投入する滅菌器が不要となり、薬液を消毒槽内で良好に反応させ、洗浄後の薬液の処理が不要となる効果を有する。」

(1e)「



(ア)上記(1a)、(1b)によれば、上記引用文献1には、膜モジュールの薬液洗浄方法に係る発明が記載されており、上記(1c)によれば、上記膜モジュールの薬液洗浄方法においては、膜分離槽1内に、孔径が0.1?1ミクロンの中空糸膜で構成された膜モジュール2が内設されるものであって、上記(1d)によれば、上記膜モジュール2は、中空糸膜の他、平膜等の上下または左右に吸引口のある膜モジュールで構成することができるものである。

(イ)上記(1d)、(1e)によれば、上記膜モジュール2は、2つの集水管3a、3bが設けられるものであって、このうちの一方の集水管3aの上端には、薬液投入配管4が接続されており、薬液投入配管4内にはバルブ5が設けられて、上端は薬液を貯留した薬液タンク6に接続されているものであり、他方の集水管3bの上端には、ポンプ13を備えた薬液引抜配管9が接続され、薬液引抜配管9と薬液投入配管4とはバルブ14を介し連通されるものであり、上記膜分離槽1、膜モジュール2、2つの集水管3a,3b、薬液投入配管4、バルブ5、薬液タンク6、ポンプ13、薬液引抜配管9、バルブ14等からなる装置は、膜分離装置といえるものである(なお、以降、「バルブ14」を「第1バルブ」ともいい、「バルブ5」を「第2バルブ」ともいう。)。

(ウ)そうすると、上記引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。

「平膜等の上下または左右に吸引口のある膜モジュールと、
前記膜モジュールが内設される膜分離槽と、
2つの集水管と、
2つの集水管のうちの一方の集水管の上端に接続された、第2バルブが設けられる薬液投入配管と、
薬液投入配管の上端に接続された、薬液を貯留した薬液タンクと、
2つの集水管のうちの他方の集水管の上端に接続された、ポンプを備えた薬液引抜配管と、
を備え、
薬液引抜配管と薬液投入配管とは第1バルブを介し連通される、膜分離装置。」(以下、「引用発明1-1」という。)

(エ)また、上記引用文献1に記載される膜モジュールの薬液洗浄方法は、膜分離装置の運転方法といえるものであって、上記(1d)、(1e)によれば、バルブ5(第2バルブ)が開状態とされてバルブ14(第1バルブ)が閉止された時には、薬液タンク6内の薬液が薬液投入配管4を通し集水管3aに投入され、薬液が膜モジュール2内に重力落下方式により投入されることとなり、薬液は膜モジュール2内を集水管3a側から集水管3b側に向かって流れ、膜モジュール2内を良好に洗浄して膜面の汚れを防ぎ、薬液によりスライムを洗浄するものであり、前記バルブ5(第2バルブ)が閉じられて薬液タンク6から薬液が投入されない状態において、前記バルブ14(第1バルブ)が開かれて前記ポンプ13が運転される時には、ポンプ13により薬液引抜配管9を通し膜モジュール2内の液が引き抜かれて膜モジュール2がろ過され、ポンプ13の下流側に設けられた消毒槽内へ処理水と膜モジュール2内の液が排出されるものである。

(オ)そうすると、上記引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。

「引用発明1-1の運転方法において、
第2バルブが開状態とされて第1バルブが閉止された時には、薬液タンク内の薬液が薬液投入配管を通し一方の集水管に投入され、薬液が膜モジュール内に重力落下方式により投入されることとなり、薬液は膜モジュール内を一方の集水管側から他方の集水管側に向かって流れ、膜モジュール内を良好に洗浄して膜面の汚れを防ぎ、薬液によりスライムを洗浄するものであり、前記第2バルブが閉じられて薬液タンクから薬液が投入されない状態において、前記第1バルブが開かれて前記ポンプが運転される時には、ポンプにより薬液引抜配管を通し膜モジュール内の液が引き抜かれて膜モジュールがろ過され、ポンプの下流側に設けられた消毒槽内へ処理水と膜モジュール内の液が排出される、
膜分離装置の運転方法。」(以下、「引用発明1-2」という。)

2 引用文献2の記載事項
原査定で引用される引用文献2には、以下の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の両面が流路材、平膜の順で覆われ、流路材が配されたろ過室と連通する薬液注入用と薬液排出用の少なくとも2つのノズルを該基板の上部に有する平膜エレメントの洗浄方法であって、水頭差を用いて薬液を注入し、該薬液および該ろ過室に貯留していた処理水の混合液を循環させることを特徴とする平膜エレメントの洗浄方法。」

(2b)「【0016】
図1は本発明の洗浄方法を説明するための活性汚泥処理装置の一例を示す概略構成図であり、図2は平膜エレメント1の一例を示す概略斜視図であり、図3は図2の平膜エレメント1を用いたモジュール2を示す概略斜視図である。
【0017】
本発明に使用される平膜エレメント1は、基本的に上部に薬液注入ノズル25、薬液排出ノズル24を有した基板21の両面に、処理水の通路となる流路材22、平膜23を固定した構造であり、流路材22が配されている空間が処理水を貯留するろ過室26となる。平膜23の外側から内側にろ過を行い、ろ過室26を介して、上部のノズルから処理水を取り出す構造である。
【0018】
活性汚泥処理装置は、生物処理槽3と、生物処理槽3内の被処理水を固液分離した処理水を貯留する処理水槽4、および薬液を貯留する薬液槽5を持つ。生物処理槽3には、平膜エレメント1を複数枚装填したモジュール2が浸漬され、平膜エレメント1からの薬液排出ノズル24は処理水ライン7を介して処理水槽4に、薬液注入ノズル25は薬液注入ライン9を介して薬液槽5に接続され、またこの処理水ライン7と薬液注入ライン9が循環ライン8で接続されている。また、生物処理槽3にはブロア12と接続した散気装置15と原水流入ライン10が付設されている。
【0019】
通常のろ過運転では、原水供給ライン10から供給される廃水を生物処理槽3内で生物処理を行いながら、一方で散気装置15から供給されるエアーで平膜エレメント1の表面を洗浄しつつ平膜エレメント1の外から内側へ吸引ろ過を行い、流路材22が配されているろ過室26から処理水ライン7を通して処理水槽4に清澄な処理水を得る。吸引ろ過は、吸引ポンプ11の使用、または生物処理槽3と処理水槽4との水頭差を利用して行われる。
【0020】
継続してろ過運転を行うと、平膜エレメント1の表面にエアーでは除去できない濁質分が付着するため、ろ過運転を停止して薬液洗浄を行う。
【0021】
本発明の薬液洗浄方法では、まず処理水ライン7のバルブ17を閉じ、次にバルブ16およびバルブ18を開けることによって、薬液槽5の薬液を薬液注入ライン9を介して水頭差により平膜エレメント1内のろ過室26に導入する。またこの時平膜エレメント1の薬液排出ノズル24から吸引ポンプ11でろ過室26内の薬液および洗浄前から溜まっている処理水の混合液を吸引し、循環ライン8を介して、薬液槽5に戻す。以上の方法により、(1)水頭差を利用することで平膜エレメント内部を過剰に加圧しない、(2)薬液槽5内の薬液を無駄に捨てることない、(3)平膜エレメントを複雑な構造としない、安全かつ効率的な洗浄を実施することができる。」

(2c)「【0031】
ハウジング41そのものの形状は、円筒形や直方体など種々の形状を選択することができるが、板状の平膜エレメント1を充填密度が高くするためには直方体にするのが好ましい。また、本平膜モジュールを生物処理槽内に設けて使用する場合には、散気による旋回流がハウジング41内を通過し、平膜エレメント間の流路6を通過するように上下端部を開放することが好ましい。また、各平膜エレメント1の薬液注入ノズル25と薬液排出ノズル24をチューブ44を介してそれぞれ接続できる集合管43を付設している構造も好ましく使用することができる。材質は特に限定されず、形状の保持が可能な種々の材質を適宜選択して使用することができる。」

(2d)「



(ア)上記(2a)?(2c)によれば、上記引用文献2には、平膜エレメントの洗浄方法に係る発明が記載されており、上記平膜エレメントの洗浄方法における活性汚泥処理装置は、生物処理槽3と、生物処理槽3内の被処理水を固液分離した処理水を貯留する処理水槽4、および薬液を貯留する薬液槽5を持ち、生物処理槽3には、平膜エレメント1を複数枚装填したモジュール2が浸漬され、平膜エレメント1からの薬液排出ノズル24は処理水ライン7を介して処理水槽4に、薬液注入ノズル25は薬液注入ライン9を介して薬液槽5に接続され、またこの処理水ライン7と薬液注入ライン9が循環ライン8で接続されており、また、生物処理槽3にはブロア12と接続した散気装置15と原水流入ライン10が付設されているものである。
また、上記活性汚泥処理装置は、各平膜エレメント1の薬液注入ノズル25と薬液排出ノズル24をチューブ44を介してそれぞれ接続できる集合管42、43を付設している構造も好ましく使用することができるものである。

(イ)そして、上記平膜エレメントの洗浄方法は、流路材が配されたろ過室と連通する薬液注入用と薬液排出用の少なくとも2つのノズルを基板の上部に有する平膜エレメントの洗浄方法に係るものであって、水頭差を用いて薬液を注入するものであり、具体的には、通常のろ過運転では、原水供給ライン10から供給される廃水を生物処理槽3内で生物処理を行いながら、一方で散気装置15から供給されるエアーで平膜エレメント1の表面を洗浄しつつ平膜エレメント1の外から内側へ吸引ろ過を行い、流路材22が配されているろ過室26から処理水ライン7を通して処理水槽4に清澄な処理水を得るものであり、吸引ろ過は、吸引ポンプ11等を利用して行われるものであり、平膜エレメントの洗浄時には、処理水ライン7のバルブ17を閉じ、次にバルブ16およびバルブ18を開けることによって、薬液槽5の薬液を薬液注入ライン9を介して水頭差により平膜エレメント1内のろ過室26に導入し、この時平膜エレメント1の薬液排出ノズル24から吸引ポンプ11でろ過室26内の薬液および洗浄前から溜まっている処理水の混合液を吸引し、循環ライン8を介して薬液槽5に戻すものであるから、薬液を、平膜エレメント1の上部から水頭差によりろ過室に導入し、上部から吸引して循環するものといえる。
また、引用文献2に記載される平膜エレメントの洗浄方法は、上記の構成により、水頭差を利用することで平膜エレメント内部を過剰に加圧しない、といった効果を奏するものである(なお、以降、「バルブ18」を「第Iバルブ」ともいい、「バルブ17」を「第IIバルブ」ともいい、「バルブ16」を「第IIIバルブ」ともいう。)。

(ウ)そうすると、上記引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。

「薬液排出ノズル及び薬液注入ノズルを基板の上部に有する平膜エレメントと、
前記平膜エレメントを浸漬する生物処理槽と、
前記薬液排出ノズル及び薬液注入ノズルにそれぞれ対向配置されて接続される2つの集合管と、
第Iバルブを設け、一方の前記集水管に接続される第一配管と、
他方の前記集水管に接続される吸引ポンプと、
第IIバルブを設け、前記吸引ポンプの吐出口側に接続される処理水ラインと、
薬液槽を設け、一端が前記吸引ポンプと前記第IIバルブとの間の前記処理水ラインに第IIIバルブを介して接続され、他端が前記薬液槽に接続される第三配管と、
を備え、
通常のろ過運転では、廃水を生物処理槽内で生物処理を行いながら、平膜エレメントの外から内側へ吸引ろ過を行い、処理水ライン通して処理水を得、
平膜エレメントの洗浄時には、処理水ラインの第IIバルブを閉じ、次に第IIIバルブおよび第Iバルブを開けることによって、薬液槽の薬液を水頭差により平膜エレメント内に導入し、この時平膜エレメントの薬液排出ノズルから吸引ポンプで薬液および洗浄前から溜まっている処理水の混合液を吸引して、薬液を、平膜エレメントの上部から水頭差によりろ過室に導入し、上部から吸引して循環する、
活性汚泥処理装置。」(以下、「引用発明2-1」という。)

(エ)また、上記(イ)によれば、上記引用文献2には、以下の発明が記載されているといえる。

「引用発明2-1の運転方法において、
通常のろ過運転では、廃水を生物処理槽内で生物処理を行いながら、平膜エレメントの外から内側へ吸引ろ過を行い、処理水ライン通して処理水を得、
平膜エレメントの洗浄時には、処理水ラインの第IIバルブを閉じ、次に第IIIバルブおよび第IIバルブを開けることによって、薬液槽の薬液を水頭差により平膜エレメント内に導入し、この時平膜エレメントの薬液排出ノズルから吸引ポンプで薬液および洗浄前から溜まっている処理水の混合液を吸引して、薬液を、平膜エレメントの上部から水頭差によりろ過室に導入し、上部から吸引して循環する、
平膜エレメントの洗浄方法。」(以下、「引用発明2-2」という。)

3 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と引用発明1-1とを対比すると、引用発明1-1における「平膜等の上下または左右に吸引口のある膜モジュール」は、本願発明1における「濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口を2つ以上有する平膜エレメント」といえ、引用発明1-1における「前記膜モジュールが内設される膜分離槽」は、本願発明1における「前記平膜エレメントを浸漬する反応槽」といえ、引用発明1-1に係る「膜分離装置」は「浸漬型膜分離装置」といえるものである。

(イ)引用発明1-1に係る「膜分離装置」は「2つの集水管」を有するものであるが、当該「2つの集水管」が、上記「濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口」にそれぞれ対向配置されて接続されることは明らかであるから、引用発明1-1に係る「膜分離装置」は、「前記集水口にそれぞれ対向配置されて接続される2つの集水管」を備えるものといえる。

(ウ)引用発明1-1における、一方の集水管、他方の集水管、薬液投入配管、薬液引抜配管、ポンプ、第1のバルブの構成からみれば、引用発明1-1は、第一開閉弁(第1のバルブに相当する。)を設け、一方の前記集水管(一方の集水管に相当する。)に接続される第一配管と、前記第一配管を吸込口側に接続させる吸引ポンプ(ポンプに相当する。)と、他方の前記集水管(他方の集水管に相当する。)に接続され、前記第一開閉弁と前記吸引ポンプの吸込口との間の前記第一配管に接続される第二配管と、前記吸引ポンプの吐出口側に接続される濾過液配管と、を備えるものといえる。

(エ)そうすると、本願発明1と引用発明1-1とは
「濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口を2つ以上有する平膜エレメントと、
前記平膜エレメントを浸漬する反応槽と、
前記集水口にそれぞれ対向配置されて接続される2つの集水管と、
第一開閉弁を設け、一方の前記集水管に接続される第一配管と、
前記第一配管を吸込口側に接続させる吸引ポンプと、
他方の前記集水管に接続され、前記第一開閉弁と前記吸引ポンプの吸込口との間の前記第一配管に接続される第二配管と、
前記吸引ポンプの吐出口側に接続される濾過液配管と、
を備える浸漬型膜分離装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本願発明1は、濾過液配管が第二開閉弁を有し、更に薬液投入部を設け、一端が前記吸引ポンプと前記第二開閉弁との間の前記濾過液配管に第三開閉弁を介して接続され、他端が前記第一開閉弁と前記一方の集水管との間の第一配管に第四開閉弁を介して接続される第三配管を備え、前記平膜エレメントは、前記平膜エレメントの両端部を、一方の端は浸漬された前記平膜エレメントの上端とし、もう一方の端は浸漬された前記平膜エレメントの下端としており、前記集水口をそれぞれ、前記平膜エレメントの上端の上部に上向きに、前記平膜エレメントの下端の下部に下向きに、それぞれ1つ以上有し、前記第一開閉弁及び前記第二開閉弁は、膜濾過運転時には開放され、膜洗浄運転時には閉止され、前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁は、膜濾過運転時には閉止され、膜洗浄運転時には開放され、前記吸引ポンプは、膜濾過運転時には前記平膜エレメントの下端の集水口から該下端の集水口に対向配置され水平に位置する前記一方の集水管を介して前記第一配管に、及び前記平膜エレメントの上端の集水口から該上端の集水口に対向配置された水平に位置する前記他方の集水管を介して前記第二配管に、濾過液を導出するように吸引し、膜洗浄運転時には前記薬液投入部から投入される薬液を前記第三配管から前記第一配管を経由して前記一方の集水管へ吸引し、前記薬液を前記平膜エレメントを経由して前記他方の集水管から導出するように吸引するのに対して、引用発明1-1は、上記の発明特定事項を有しない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1に係る発明特定事項は、本願発明1が、薬液投入部、第一配管、一方の集水管、平膜エレメントの下端の集水口、平膜エレメントの上端の集水口、他方の集水管、第二配管、第三配管、第三開閉弁、第四開閉弁といった部材を備えることにより、膜洗浄運転時に、薬液を循環使用する構成を含むものといえる。

(イ)一方、上記1(1d)、(1e)によれば、引用発明1-1においては、バルブ5が開状態とされてバルブ14が閉止された時には、薬液タンク6内の薬液が薬液投入配管4を通し集水管3aに投入され、薬液が膜モジュール2内に重力落下方式により投入されることとなり、薬液は膜モジュール2内を集水管3a側から集水管3b側に向かって流れ、膜モジュール2内を良好に洗浄して膜面の汚れを防ぎ、薬液によりスライムを洗浄することができ、集水管3bから薬液引抜配管9を通り薬液は引き抜かれて下流側の消毒槽へ排出されるものであり、下流側の消毒槽内へ薬液が流入されるため、別途、次亜塩素酸ナトリウム等の消毒液を添加する滅菌器を付設する必要がなく、消毒槽内で薬液を反応させて良好な滅菌及び消毒を行うことができるものであり、更に、薬液を消毒槽内で良好に反応させ、洗浄後の薬液の処理が不要となるものである。

(ウ)そうすると、引用発明1-1は、膜モジュール内を洗浄した後の薬液を下流側の消毒槽へ排出するものであって、薬液を消毒槽内の処理水の滅菌及び消毒に使用することによって、洗浄後の薬液の処理を不要とすることを目的とするものであるから、引用発明1-1において、膜モジュール内を洗浄した後の薬液を消毒槽内の処理水の滅菌及び消毒に使用せずに、膜モジュール内の洗浄に循環使用することには阻害要因があるというべきであり、このことは、引用文献2の記載事項に左右されるものではない。

(エ)上記(ア)?(ウ)の検討によれば、引用発明1-1において、膜洗浄運転時に、薬液を循環使用する構成を含む、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本願発明1を、引用発明1-1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?4について
ア 対比・判断
(ア)本願発明2は請求項1を引用するものであるから、本願発明2と引用発明1-1とを対比した場合、本願発明2と引用発明1-1とは、少なくとも上記相違点1を有するものである。

(イ)そして、引用発明1-1において、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることを、引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないから、本願発明1を、引用発明1-1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1)イ(エ)に記載のとおりである。

(ウ)したがって、同様の理由により、本願発明2も、引用発明1-1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そしてこのことは、請求項1を引用する本願発明3?4についても同様である。

(3)本願発明5について
ア 対比
(ア) 本願発明5と引用発明1-2とを対比すると、引用発明1-1に係る「膜分離装置」が「浸漬型膜分離装置」といえることは、上記(1)ア(ア)に記載のとおりであるので、本願発明5と引用発明1-2とは、「浸漬型膜分離装置の運転方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2:本願発明5は、浸漬型膜分離装置が、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の浸漬型膜分離装置であるのに対して、引用発明1-2は、浸漬型膜分離装置が、引用文献1に記載の浸漬型膜分離装置である点。

相違点3:本願発明5は、膜濾過運転時には、前記第三配管の前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁を閉止し、前記第一配管及び前記第二配管を前記吸引ポンプに連通し、前記吸引ポンプで前記第一配管及び前記第二配管から濾過液を吸引して前記濾過液配管へ送出し、膜洗浄運転時には、前記第一開閉弁及び前記第二開閉弁を閉止すると共に前記第三配管の前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁を開放し、前記薬液投入部で投入される所定の薬液を前記吸引ポンプで、前記第三配管から前記第一配管を経由して前記一方の集水管へ吸引した後、前記一方の集水管から前記平膜エレメントを経由して前記他方の集水管へ吸引し、前記他方の集水管から前記第二配管及び前記第一配管を経由して前記第三配管に導出する、前記平膜エレメント内を前記薬液が下から上に向かって流れるよう薬液循環路を構成するのに対して、引用発明1-2は上記の発明特定事項を有しない点。

イ 判断
イ-1 相違点2について
(ア)本願発明1を、引用発明1-1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1)イ(エ)に記載のとおりであり、本願発明2?4を、引用発明1-1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2)ア(ウ)に記載のとおりである。

(イ)してみれば、同様の理由により、本願発明5において、浸漬型膜分離装置を、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の浸漬型膜分離装置として、上記相違点2に係る本願発明5の発明特定事項とすることを、引用発明1-2及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、相違点3について検討するまでもなく、本願発明5を、引用発明1-2及び引用文献2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 引用文献2を主引用例とした場合について
原査定では検討されていないが、引用文献2を主引用例とした場合についても検討しておく。
(1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と引用発明2-1とを対比すると、引用発明2-1における「薬液排出ノズル」は、本願発明1における「濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口」といえ、引用発明2-1における「薬液排出ノズル及び薬液注入ノズル有する平膜エレメント」は、本願発明1における「濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口を有する平膜エレメント」といえ、引用発明2-1における「平膜エレメントを浸漬する生物処理槽」は、本願発明1における「前記平膜エレメントが浸漬する反応槽」といえ、引用発明2-1における「前記薬液排出ノズルに対向配置されて接続される集合管」は、本願発明1における「前記集水口に対向配置されて接続される集水管」といえ、引用発明2-1における「活性汚泥処理装置」は、本願発明1における「浸漬型膜分離装置」といえるものである。

(イ)そうすると、本願発明1と引用発明2-1とは
「濾過膜流路より外部に濾過液を取り出す集水口を有する平膜エレメントと、
前記平膜エレメントを浸漬する反応槽と、
前記集水口に対向配置されて接続される集水管と、
を備える浸漬型膜分離装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4:本願発明1は、平膜エレメントが集水口を2つ以上有し、2つの集水管を、前記集水口にそれぞれ対向配置して接続し、第一開閉弁を設け、一方の前記集水管に接続される第一配管と、前記第一配管を吸込口側に接続させる吸引ポンプと、他方の前記集水管に接続され、前記第一開閉弁と前記吸引ポンプの吸込口との間の前記第一配管に接続される第二配管と、第二開閉弁を設け、前記吸引ポンプの吐出口側に接続される濾過液配管と、薬液投入部を設け、一端が前記吸引ポンプと前記第二開閉弁との間の前記濾過液配管に第三開閉弁を介して接続され、他端が前記第一開閉弁と前記一方の集水管との間の第一配管に第四開閉弁を介して接続される第三配管とを備え、前記平膜エレメントは、前記平膜エレメントの両端部を、一方の端は浸漬された前記平膜エレメントの上端とし、もう一方の端は浸漬された前記平膜エレメントの下端としており、前記集水口をそれぞれ、前記平膜エレメントの上端の上部に上向きに、前記平膜エレメントの下端の下部に下向きに、それぞれ1つ以上有し、前記第一開閉弁及び前記第二開閉弁は、膜濾過運転時には開放され、膜洗浄運転時には閉止され、前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁は、膜濾過運転時には閉止され、膜洗浄運転時には開放され、前記吸引ポンプは、膜濾過運転時には前記平膜エレメントの下端の集水口から該下端の集水口に対向配置され水平に位置する前記一方の集水管を介して前記第一配管に、及び前記平膜エレメントの上端の集水口から該上端の集水口に対向配置された水平に位置する前記他方の集水管を介して前記第二配管に、濾過液を導出するように吸引し、膜洗浄運転時には前記薬液投入部から投入される薬液を前記第三配管から前記第一配管を経由して前記一方の集水管へ吸引し、前記薬液を前記平膜エレメントを経由して前記他方の集水管から導出するように吸引するのに対して、引用発明2-1は、上記の発明特定事項を有しない点。

イ 判断
(ア)上記相違点4に係る発明特定事項は、本願発明1において、平膜エレメントが集水口を2つ以上有し、2つの集水管を、前記集水口にそれぞれ対向配置して接続し、薬液投入部、第一配管、一方の集水管、平膜エレメントの下端の集水口、平膜エレメントの上端の集水口、他方の集水管、第二配管、第三配管、第三開閉弁、第四開閉弁といった部材を備えることにより、膜洗浄運転時に、薬液を、第一配管を経由して、平膜エレメントの下端の集水口から流入させる構成を含むものといえる。

(イ)ここで、上記1(1d)によれば、引用文献1には、膜モジュールの薬液洗浄方法において、膜モジュールを、中空糸膜の他、平膜等の上下または左右に吸引口のある膜モジュールで構成することができることが記載されている。

(ウ)これに対し、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【0030】
次に、漏斗状の入れ口を備えながら逆止機構を有する薬液投入口39から所定の薬液を投入する。
投入された薬液を含む濾過液は、吸引ポンプ27の連続駆動(運転)により、矢印で示すように、第三配管33から合流部21aを経由して第一配管21へ流入し、下方の集水管19aから集水口17aを介して各平膜エレメント15内に流入し、膜の洗浄を行いながら集水口17bを介して上方の集水管19bへ導かれる。
【0031】
薬液を含む濾過液は、吸引ポンプ27によって、さらに、上方の集水管19bから第二配管25を経由して合流部21bへ吸引され、合流部21bから合流部29aを経由して第三配管33へ再度流入する。
このように、本実施形態に係る浸漬型膜分離装置10の洗浄方法によれば、薬液投入口39から薬液を注入しながら、薬液を第三配管33及び第一配管21を介して下方の集水管19aから各平膜エレメント15を供給して洗浄した後、上方の集水管19bと連通する第二配管25から吸引ポンプ27で吸引し、吸引した薬液を第三配管33の薬液投入口39に戻す(循環)ため、各平膜エレメント15の膜が膨らむまでの大量の薬液を入れず少量の薬液量と短い時間で膜面全体に薬液を充填させ、均一な濃度で膜面全体を洗浄できる。特に、高さ方向に大型化した平膜エレメントにおいて、自然流下で流し込んで膜面全体に薬液を行き渡らせるよりも効果的である。」

(エ)そして、上記(ウ)の記載からみれば、本願発明1は、平膜エレメントの上端の集水口から濾過液流路内の液を吸引しながら、平膜エレメントの下端の集水口の集水口から薬液を流入させ循環させるため、膜が膨らむまでの薬液を入れず少量の薬液で、各平膜エレメント内に薬液を充填し、均一な濃度で膜面全体を洗浄でき、特に、高さ方向に大型化した平膜エレメントにおいて、自然流下で流し込んで膜面全体に薬液を行き渡らせるよりも効果的である、といった効果を奏するものである。
ここで、上記(ア)の検討及び上記(ウ)の記載からみれば、上記効果は、上記相違点4に係る発明特定事項に基づくものといえるから、そうすると、本願発明1は、上記相違点4に係る発明特定事項により、特に、高さ方向に大型化した平膜エレメントにおいて、自然流下で流し込んで膜面全体に薬液を行き渡らせるよりも効果的である、といった効果を奏するものである。

(オ)一方、引用発明2-1は、膜洗浄運転時に薬液を循環使用するものといえ、薬液を、平膜エレメントの上部から水頭差を用いて注入し、集水口から該薬液および該ろ過室に貯留していた処理水の混合液を吸引して循環させるものである。
そして、薬液を平膜エレメントの上部から水頭差を用いて注入する引用発明2-1は、薬液を、平幕エレメントに自然流下で流し込んで膜面全体に行き渡らせるものといえる。

(カ)上記(エ)、(オ)の検討によれば、引用発明2-1は、薬液を平幕エレメントに自然流下で流し込んで膜面全体に行き渡らせるものといえるところ、本願発明1は、上記相違点4に係る発明特定事項により、特に、高さ方向に大型化した平膜エレメントにおいて、自然流下で流し込んで膜面全体に薬液を行き渡らせるよりも効果的である、といった効果を奏するものであるから、引用発明2-1と同様、膜洗浄運転時に薬液を循環使用するものではあっても、引用発明2-1によっては奏し得ない効果を奏するものである。

(キ)また、上記2(ウ)の検討によれば、引用発明2-1は、薬液を平膜エレメントの上部から水頭差によりろ過室に導入するものであって、薬液を平膜エレメントの下端の集水口から流入させるものではない。
一方、上記1(1d)によれば、引用文献1には、膜モジュールの薬液洗浄に際して、薬液を、膜モジュールの上下いずれかの吸引口から流入させることも例示されているが、そうすることによって奏される効果が記載されているわけではないから、引用文献1の記載事項は、引用発明2-1において、あえて、平膜エレメントの下端に集水口を設けて、薬液を流入させるものとする動機付けとはならない。
したがって、本願発明1を、引用発明2-1及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明2?4について
ア 対比・判断
(ア)本願発明2は請求項1を引用するものであるから、本願発明2と引用発明2-1とを対比した場合、本願発明2と引用発明2-1とは、少なくとも上記相違点4を有するものである。

(イ)そして、引用発明2-1において、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易になし得るとはいえないから、本願発明1を、引用発明2-1及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1)イ(キ)に記載のとおりである。

(ウ)したがって、同様の理由により、本願発明2も、引用発明2-1及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そしてこのことは、請求項1を引用する本願発明3?4についても同様である。

(3)本願発明5について
ア 対比
(ア) 本願発明5と引用発明2-2とを対比すると、引用発明2-1における「活性汚泥処理装置」が「浸漬型膜分離装置」といえることは、上記(1)ア(ア)に記載のとおりであるので、本願発明5と引用発明2-2とは、「浸漬型膜分離装置の運転方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点5:本願発明5は、浸漬型膜分離装置が、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の浸漬型膜分離装置であるのに対して、引用発明2-2は、浸漬型膜分離装置が、引用文献2に記載の浸漬型膜分離装置である点。

相違点6:本願発明5は、膜濾過運転時には、前記第三配管の前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁を閉止し、前記第一配管及び前記第二配管を前記吸引ポンプに連通し、前記吸引ポンプで前記第一配管及び前記第二配管から濾過液を吸引して前記濾過液配管へ送出し、膜洗浄運転時には、前記第一開閉弁及び前記第二開閉弁を閉止すると共に前記第三配管の前記第三開閉弁及び前記第四開閉弁を開放し、前記薬液投入部で投入される所定の薬液を前記吸引ポンプで、前記第三配管から前記第一配管を経由して前記一方の集水管へ吸引した後、前記一方の集水管から前記平膜エレメントを経由して前記他方の集水管へ吸引し、前記他方の集水管から前記第二配管及び前記第一配管を経由して前記第三配管に導出する、前記平膜エレメント内を前記薬液が下から上に向かって流れるよう薬液循環路を構成するのに対して、引用発明2-2は上記の発明特定事項を有しない点。

イ 判断
イ-1 相違点5について
(ア)本願発明1を、引用発明2-1及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1)イ(キ)に記載のとおりであり、本願発明2?4を、引用発明2-1及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(2)ア(ウ)に記載のとおりである。

(イ)してみれば、同様の理由により、本願発明5において、浸漬型膜分離装置を、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の浸漬型膜分離装置として、上記相違点5に係る本願発明5の発明特定事項とすることを、引用発明2-2及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、相違点6について検討するまでもなく、本願発明5を、引用発明2-2及び引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5 まとめ
以上のとおりであるので、本願発明1?5は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、引用文献2に記載された発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-10 
出願番号 特願2014-71666(P2014-71666)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河野 隆一朗  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
金 公彦
発明の名称 浸漬型膜分離装置及びその運転方法  
代理人 古谷 史旺  
代理人 河田 良夫  
代理人 大橋 剛之  
代理人 狩野 彰  

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