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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C22C |
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管理番号 | 1343802 |
審判番号 | 不服2017-15900 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-26 |
確定日 | 2018-10-01 |
事件の表示 | 特願2015-222854「アルミニウムブレージングシート」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月17日出願公開、特開2016- 35112、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年(平成22年) 9月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年 9月17日及び2010年 4月 9日、スウェーデン(SE))を国際出願日として出願された特願2012-529715号の一部を、平成27年11月13日に新たな外国語書面出願による特許出願としたものであって、平成28年11月 8日付けで拒絶理由が通知され、平成29年 1月16日に意見書が提出され、同年 6月20日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年10月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成30年 5月14日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年 8月16日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたものである。 平成30年 8月16日に提出された誤訳訂正書でした手続補正を、以下、「本件補正」という。 第2 本願発明 本願の請求項1?14に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。以下、本願請求項1?14に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明14」といい、それらを総称して「本願発明」という。 「 【請求項1】 多層のアルミニウム合金ブレージングシートであって、コア材料と、前記コア材料のいずれか一方又は両方の側に設けられるAl-Siロウ付け合金からなる中間層と、前記中間層の上の薄い被覆層とからなり、ここで前記コア材料と前記被覆層は前記Al-Siロウ付け合金よりも高い融点を有し、前記中間層に対する前記被覆層の厚みが1%?40%の間であり、前記被覆層は、 Bi 0.01?0.5重量%, Mg ≦0.05重量%, Mn ≦1.0重量%, Cu ≦1.2重量%, Fe ≦1.0重量%, Si ≦4.0重量%, Ti ≦0.1重量%, Zn≦6重量%,及び 避けられない不純物であって、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満である、避けられない不純物と、 残余のアルミニウムとからなり、 前記Al-Siロウ付け合金は、 Si 5?14重量%, Mg 0.01?5重量%, Bi ≦0.5重量%, Fe ≦0.8重量%, Cu ≦0.3重量%, Mn ≦0.15重量%, Sn ≦0.1重量%, In ≦0.1重量%, Sr ≦0.05重量%、及び 避けられない不純物であって、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満である、避けられない不純物と、 残余のアルミニウムとからなることを特徴とする多層のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項2】 前記被覆層は、 Bi 0.01?0.5重量%, Mg ≦0.05重量%, Fe ≦1.0重量%, Si ≦4.0重量%,及び 避けられない不純物であって、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満である、避けられない不純物と、 残余のアルミニウムとからなることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項3】 前記被覆層は、≦0.01重量%のMgを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項4】 前記被覆層は、Biを0.05?0.5重量%の量、含んでいることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項5】 前記被覆層は、Biを0.07?0.5重量%の量、含んでいることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項6】 前記薄い被覆層は、Siを含みその量が≦1.9重量%であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項7】 前記Al-Siロウ付け合金は、 Si 5?14重量%, Mg 0.01?5重量%, Bi ≦0.05?0.5重量%, Fe ≦0.8重量%, Cu ≦0.3重量%, Mn ≦0.15重量%, Sn ≦0.1重量%, In ≦0.1重量%, Sr ≦0.05重量%,及び 避けられない不純物であって、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満である、避けられない不純物と、残余のアルミニウムとからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項8】 前記Al-Siロウ付け合金はBiを含まないことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項9】 前記コア材料は、 Mn 0.5?2.0重量%, Cu ≦1.2重量%, Fe ≦1.0重量%, Si ≦1.0重量%, Ti ≦0.2重量%, Mg ≦2.5重量%, Zr,Cr,V及び/又はSc≦0.2重量%,及び 避けられない不純物であって、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満である、避けられない不純物と、残余のアルミニウムとからなることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項10】 前記中間層及び前記被覆層は、前記コア材料の両側に存在することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項11】 前記被覆層は、0.4?160μmの間の厚みを有していることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項12】 前記アルミニウム合金ブレージングシートの全厚みが0.04?4mmの間にあることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項13】 前記アルミニウム合金ブレージングシートの厚みに対する前記中間層の厚みが3%?30%であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。 【請求項14】 請求項1から13のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートを備える熱交換器。」 第3 原査定の概要 本件補正前の特許請求の範囲に記載の請求項1?15は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審拒絶理由の概要 本件補正前の特許請求の範囲に記載の請求項1?15は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、また、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、この出願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 第5 原査定及び当審拒絶理由について 1 本件補正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合することについて (1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解されるので、以下、この観点から、検討する。 ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(「・・・」により記載の省略を示す。下線は当審で付した。以下同様である。) (ア) 「【背景技術】 【0002】 本願発明は、表面の酸化層を壊し、溶解し、若しくは除去するためにフラックスを適用する必要なしに不活性又は還元性大気中で、アルミニウム材料のロウ付けによって接合するためのシート材料に関する。 【0003】 今日の課題は、できるだけ、低い最終コスト且つ高い品質で、熱交換器産業のための材料及びコンポーネントを製造することである。熱交換器の製造において通常使用される技術の1つは、窒素とできるだけ低い量の酸化不純物とから通常構成される制御された雰囲気において、ロウ付けすることである。このプロセスは、制御大気ロウ付け(「CAB」)として知られており、ロウ付け前に結合されるべき表面上にAl-K-Fベースのフラックスを付加することを含む。・・・ 【0004】 フラックスの付加なしに、CABを使用する熱交換器を製造することを可能にするために、新規な材料の開発が、アルミニウム合金の表面上の酸化層を除去することなしに、ロウ付け接合を形成することを可能にするのに、必要とされる。 ・・・ 【0006】 特許文献1(欧州特許第1306207B1号明細書)は、フラックスの使用なしに、不活性ガス中でロウ付けするのに適したアルミニウムブレージング合金を記載する。この発明は、多層ブレージングシートを基にしており、外側材料は、薄い被覆層であり、0.1?0.5重量%のMgと、0.01?0.5重量%のBiを含むAl-Siベースの合金、及びコア材料を覆っている。ロウ付け周期の温度上昇ステージ中に、中間Al-Si層は、最初に溶け始め、体積が膨張して壊れて、薄い被覆層であって、融けたフィラー金属が、クラックを通じて、ブレージングシートの表面に染み出ることを可能にする。 【0007】 特許文献2(国際公開第2008/155067A1号パンフレット)において、フラックスなしにロウ付けするための類似の方法が開示されている。この方法は、0.01?0.09重量%の間隔におけるロウ付け金属のMg含有物を使用することが上記とは異なる。また、コア材料の低いMg含有物(好ましくは0.015重量%よりも低い)がこの発明が機能するには必要である。」 (イ) 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 従来技術で利用可能なフラックスレスロウ付けのための方法は、それらは、ロウ付け合金層にBiの存在を必要とする制約を有している。Biは、多くの場合に、不純物であると考えられており、したがって、製造工程からのスクラップ処理の問題を構成する。また、ロウ付け工程を改善する要望がある。 【0010】 本願発明の目的は、不活性又は減少された大気でフラックスを付加する必要なしにロウ付けされることができるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することであり、それは、改善されたロウ付け接合をもたらし、より清浄なスクラップを生じさせる、すなわち、スクラップ処理の負担が少ないものである。」 (ウ) 「【課題を解決するための手段】 【0011】 その目的は、請求項1に従った多層アルミニウム合金ブレージングシートにより達成される。実施形態は、従属請求項により規定される。 ・・・ 【0014】 本願発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウムベースのコアと、中間層としてAl-Siタイプのロウ付け合金により覆われた1つ又は2つの側面と、からなり、前記中間層は、Biが追加された薄いMgを含まないアルミニウムベースの合金から構成される外側被覆層により次いで覆われている。中間Al-Siロウ付け合金の液相温度は、コア及び薄い被覆層の固相温度よりも低く、中間ブレーズ層が体積的な膨張によりロウ付け中に被覆層を壊すことを可能にし、溶解されたフィラー金属が被覆層を通じて染み出て、全ての反対表面を濡らして、ジョイントを形成することを可能にする。 【0015】 本発明は、3層のアルミニウム合金ブレージングシートとしてこの後に記載され、ロウ付けは、そのシートの1つ側上で起こる。しかしながら、本発明は、コアの両側上のロウ付け接合を作るために使用されることができ、その場合、ブレージングシートは、5層により作り上げられる。それは、コア材料よりも低い腐食ポテンシャルを備えるアルミニウム合金層により1つの側上が覆われることもできる。また、コア及び犠牲層の間に配置されるアルミニウム合金層が、コアと犠牲層の元素を合金化の拡散障害を提供するために挿入されることができ、したがって、それらの間で混合することを減少させる。その場合、もし拡散合金層がコア合金の1又は両方の側上に必要であれば、ブレージングシートは、6又は7層を含む。」 (エ) 「【0016】 本願発明は、中間層としてAl-Si合金により覆われたコア材料と、ロウ付け性能を改善するためにBiを含む薄い被覆アルミニウム層を備えるアルミニウム合金ブレージングシートを提供し、前記コア材料と被覆層は、中間ブレージング合金よりも高い溶融温度を有する。 【0017】 中間Al-Siロウ付け合金の液相温度は、コア及び薄い被覆層の固相温度よりも低く、それは、体積的な膨張により、前記中間ロウ付け層が、ロウ付け中に被覆層を壊すことを可能にし、溶融されたフィラー金属が被覆層を通じて染み出て、前記被覆層の表面に接触する近くの材料で接続を形成することを可能にする。 【0018】 前記Al-Siロウ付け合金は、0.01?5重量%のMgを、好ましくは、0.05?2.5重量%のMgを含む。Mgの含有量は、ロウ付け合金とコア合金との硬度との最適な関係を得るために、最も好ましくは、0.1?2.0重量%であり、そして、1.5重量%よりも少ないBi、好ましくは0.5重量%よりも少ないBi、最も好ましくは0.2重量%よりも少ないBiである。薄い被覆外側層は、0.01?1.0重量%Biを含み、より好ましくは0.05?0.7重量%Biを含む。最も好ましいロウ付け合金は、よいロウ付けを得て、不必要なコストを避けるために、0.07?0.3重量%Biを含む。」 (オ) 「【0019】 本願発明による、薄い外側層へのBiの追加は、接合形成を促進するので、接合がより早く形成されてより大きな寸法を有するようになる。薄い被覆層中のBiの存在は、また、中間ロウ付け合金に大量のBiで合金にする必要を減少し、中間ロウ付け合金のBiは、一緒に除去されることができる。これは、Biの使用を節約し、Bi含有スクラップの量を減少させる。・・・それは、また、薄い被覆層のMg含有量が、ロウ付けのための加熱中に、その表面上の酸化フィルムの成長を避けるために低く保たれることが重要であり、好ましくは、0.05重量%未満であり、最も好ましいのは、その薄い被覆層にはMgが全くないことである。」 (カ) 「【0021】 したがって、Al-Siロウ付け合金は、 Si 5?14重量%,好ましくは7?13重量%,より好ましくは10?12.5重量%, Mg 0.01?5重量%,好ましくは0.05?2.5重量%,より好ましくは0.1?2.0重量%, Bi ≦1.5重量%,好ましくは0.05?0.5重量%,より好ましくは0.07?0.2重量%, Fe ≦0.8重量% Cu ≦0.3重量%, Mn ≦0.15重量%, Zn ≦4重量%, Sn ≦0.1重量% In ≦0.1重量% Sr ≦0.05重量%,及び 避けられない不純物を含み、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満であり、残りはアルミニウムからなる。」 (キ) 「【0025】 中間Al-Siロウ付け金属の融点よりも高い融点を有する、アルミニウム合金からなる薄い被覆層は、マグネシウム酸化物を表面上に形成することを防ぐために、実質的に、Mgがないようにする必要がある。したがって、薄い被覆層は、0.05重量%未満の、より好ましくは0.01重量%未満のMg含有量を有する。最も好ましい場合は、Mgは合金に意図的に追加されない場合である。 【0026】 その薄い被覆材料の化学的組成は、 Bi 0.01?1.0重量%,好ましくは0.05?0.7重量%,及び、より好ましくは0.07?0.5重量%, Mg ≦0.05重量%,好ましくは≦0.01重量%,より好ましくは0% Mn ≦1.0重量%, Cu ≦1.2重量%. Fe ≦1.0重量%, Si ≦4.0重量%,好ましくは≦2重量% Ti ≦0.1重量%, Zn≦6重量%,Sn≦0.1重量%,in≦0.1重量%,及び 避けられない不純物を含み、それぞれ0.05重量%未満の量で、全不純物量が0.2重量%未満であり、残りはアルミニウムからなる。」 (ク) 「【0031】 アルミニウムブレージングシートの全厚みは、0.04?4mmの間にあり、それは熱交換器の製造に適している。ブレージングシート表面の酸化形成の効果的な防止をもたらすために、及びロウ付け中にその上容易に壊されるために、多層ブレージングシートの全体の厚みに対する薄い被覆層の厚みは、好ましくは0.1?10%である。被覆層の厚みは、0.4?160μmの間にしてもよい。中間層は、好ましくは、多層ブレージングシートの全体の厚みに対して3?30%の厚みを有している。薄い被覆の厚みは、MgとBiが、ロウ付け中にその被覆層を通じてそれらの外側表面に拡散するための時間を有さないように、選ばれ、それにより、酸化及び機能を果たさない湿潤の危険を最小化する。中間ロウ付け合金層に対する薄い被覆層の厚みは、1%?40%の間であり、より好ましくは、1?30%であり、最も好ましくは10?30%の間にある。ロウ付けが実行されるのに好適な温度間隔は、560℃?615℃の範囲であり、好ましくは570℃?610℃の範囲である。」 (ケ) 「【0035】 [実施例] 全ての合金が、研究所の鋳造装置を使用して、長さ150mm、幅90mm及び厚さ20mmの小さなスラブを製造するいわゆるブックモールドに鋳造された。ロウ付け性を試験される合金の化学組成は、表1に見られることができる。 ・・・ 【0038】 [表1] 化学組成 OESでmett分析により試験された合金の重量% 【表1】 」 (コ) 「【0039】 上のサンプルは、ロウ付け接合の視覚試験により試験され、代表的に選択された幾つかの結果が下に示される。本発明内に入る全てのサンプルは、受容可能なロウ付け接合とフィレットの迅速な形成をもたらした。 【0040】 [表2] 選択された実験結果 【表2】 【0041】 実施例4及び5において、接合形成が、ロウ付け中にクラッドクーポンと未クラッド角の間で起こる。接合がより迅速に形成され、対応する実施例2及び3のものよりも幾分か大きな寸法に成長した。これは、本発明による外側層中のBiの存在による。 【0042】 実施例6及び7において中間ブレーズクラッディング中のBiの不存在にも関わらず、ジョイント形成が、ロウ付け中にクラッドクーポンと未クラッド角の間で起こる。これは、本発明による外側層のBiの存在による。」 イ 発明の詳細な説明において、本願発明が解決しようとする課題として記載された事項について検討する。 上記ア(ア)、(イ)によれば、フラックスの付加なしに制御大気ロウ付け(「CAB」)を使用する熱交換器を製造することを可能にするために、新規な材料の開発が、アルミニウム合金の表面上の酸化層を除去することなしに、ロウ付け接合を形成することを可能にするのに、必要とされるところ、従来技術で利用可能なフラックスレスロウ付けのための方法は、ロウ付け合金層において、スクラップ処理の問題を構成するBiの存在を必要とする制約を有していた。 そこで、本願発明は、不活性又は減少された大気でフラックスを付加する必要なしにロウ付けされることができるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することであって、改善されたロウ付け接合をもたらすとともに、より清浄なスクラップを生じさせることを、解決すべき課題(以下、単に「本願課題」ということがある)とするものである。 そして、「より清浄なスクラップを生じさせる」との事項は、Biがスクラップ処理の問題を構成するとされていることと、従来技術である特許文献1においてはBiの含有量の上限が0.5重量%であることとを考慮すると、具体的には、Biの含有量を「0.5重量%」以下とすることを要求していると解される。 ウ 次に、発明の詳細な説明において、本願課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲について検討する。 (ア)上記ア(ウ)、(エ)及び(ク)によれば、「コア材料」及び「被覆層」は、「中間層」としてのAl-Siロウ付け合金よりも高い溶融温度を有し、そのことによって、前記「中間層」が、体積的な膨張により、ロウ付け中に「被覆層」を壊すことを可能にし、溶融されたフィラー金属が「被覆層」を通じて染み出て、全ての反対表面を濡らして、「被覆層」の表面に接触する近くの材料で接続を形成することを可能にするものである。 (イ)上記ア(オ)によれば、「被覆層」へのBiの追加が、接合形成を促進するとともに、「中間層」である中間ロウ付け合金のBiが除去される(Biを減少させる)ことができ、Biの使用を節約し、Bi含有スクラップの量を減少させるものである。 また、上記ア(キ)によれば、「被覆層」の具体的なBi含有量は、より好ましくは0.07?0.5重量%である。 そして、上記ア(エ)及び(カ)によれば、「中間層」の具体的なBi含有量の上限値は、好ましくは0.05?0.5重量%である。 (ウ)上記ア(オ)によれば、「被覆層」のMg含有量は、ロウ付けのための加熱中に、その表面上の酸化フィルムの成長を避けるために低く保たれる。 そして、上記ア(オ)及び(キ)によれば、「被覆層」の具体的なMg含有量は、0.05重量%以下であり、好ましくは0.05重量%未満であり、最も好ましくは0%である。 (エ)上記ア(ク)によれば、「被覆層」の厚みについて、「MgとBiが、ロウ付け中にその被覆層を通じてそれらの外側表面に拡散するための時間を有さないように、選ばれ、それにより、酸化及び機能を果たさない湿潤の危険を最小化する。」とされており、「中間層」に対する「被覆層」の厚みは、1%?40%の間である。 (オ)そして、上記ア(コ)によれば、実施例4及び5においては、接合形成が、ロウ付け中にクラッドクーポンと未クラッド角の間で起こり、接合がより迅速に形成され、対応する実施例2及び3のものよりも幾分か大きな寸法に成長しており、また、実施例6及び7においては、「中間層」中のBiの不存在にもかかわらず、接合形成が、ロウ付け中にクラッドクーポンと未クラッド角の間で起こっており、これらは、「被覆層」中にBiが存在することによるものである。 (カ)これらを総合すると、発明の詳細な説明において、本願課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されたものは、以下のa ?e の事項を課題解決手段として備える多層アルミニウム合金ブレージングシートであるといえる。 a 「コア材料」及び「被覆層」が、「中間層」としてのAl-Siタイプのロウ付け合金よりも高い溶融温度を有する。これと、下記eとが相まって、前記「中間層」が、体積的な膨張により、ロウ付け中に「被覆層」を壊すことを可能にし、溶融されたフィラー金属が「被覆層」を通じて染み出て、「被覆層」の表面に接触する近くの材料で接続を形成することを可能にする。 b 「被覆層」がBiを含有することで、ロウ付けを改善するとともに、「中間層」が含有するBiの量を減少させる。このことにより、ロウ付けによる接合が促進されるとともに、Biの使用を節約し、Bi含有スクラップの量を減少させる。 c 本願課題のうち「より清浄なスクラップを生じさせる」との事項は、Biの含有量を「0.5重量%」以下とすることを要求していると解されるところ、「被覆層」及び「中間層」のBiの含有量の上限値を0.5質量%とすることの記載がある。 d 「被覆層」のMg含有量が低く、0.05重量%以下である。このことにより、ロウ付けのための加熱中に表面上の酸化フィルムの成長を避けることができる。 e 「中間層」に対する「被覆層」の厚みは、1%?40%の間であり、「被覆層」をこの程度に薄いものとすることで、上記aとも相まって、MgとBiが被覆層を通じて外側表面に拡散するための時間を有さないようになり、表面を濡らして、「被覆層」の表面に接触する近くの材料で接続を形成することを可能にする。 エ 上記の検討を踏まえて、本願発明1?14が、本願課題を解決できるといえるものであるか否かについて検討する。 本願発明1は、前記第2に示したとおりのものであるところ、上記ウ(カ)a ?e の全ての事項を発明特定事項として備えるものである。 また、本願発明2?14は、いずれも本願発明1を引用するものであって、上記ウ(カ)a ?e の全ての事項を発明特定事項として備えるものである。 オ したがって、本願発明1?14は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本願発明1?14は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 カ よって、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。 (2)原査定の理由では、本件補正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえないことについて ア 原査定は、「被覆層」を構成するアルミニウム合金の成分範囲を、本件補正前の請求項1に記載の如く拡張し得るとする技術的な根拠は、発明の詳細な説明には記載されていないとして、本件補正前の請求項1?15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない、としたものである。以下、この点について検討する。 イ 本願発明1?14は、前記第2で示したとおりのものであって、「被覆層」が「Mn」、「Cu」、「Fe」、「Si」、「Ti」及び「Zn」(以下、「Mn」等という。)を所定量含有し得ることを特定している。なお、「被覆層」が前記「Mn」等の元素を含有する点に関し、本件補正の前後において違いはない。 ウ ここで、発明の詳細な説明においては、前記「Mn」等の元素を含有した「被覆層」を備えるブレージングシートの接合性が、実施例4?7のブレージングシートの接合性と同等であることを実験的に裏付ける記載はない。 エ しかしながら、「被覆層」が前記「Mn」等の元素を所定量含有することによって、当該元素を含有しない場合に比較して、本願課題(前記(1)イを参照。)の解決を阻害することになるという技術常識が存在するとは認められない。 オ また、JIS規格であるJIS Z 3263 2002(以下の、「JISハンドブック 3 非鉄 2016年1月29日発行」 から抜粋した表5を参照)には、アルミニウムろう材の化学成分が規定されており、当該規格に規定されるろう材は、「Mn」、「Cu」、「Fe」、「Si」、「Ti」又は「Zn」の各元素を含み得ることから、これらの「Mn」等の元素がアルミニウムろう材において含有されることは、本願発明の出願時における当業者の技術常識として十分に想定されると認められる。 「 」 カ 上記エ及びオの検討に照らすと、前記(1)ウ(カ)に示した課題解決手段を全て備える本願発明1?14が、その「被覆層」において「Mn」、「Cu」、「Fe」、「Si」、「Ti」及び「Zn」を所定量含有することによって、本願課題を解決できないものとなっているとまではいうことはできない。 キ したがって、原査定の理由により、本件補正後の請求項1?14に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (3)当審拒絶理由では、本件補正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえないことについて ア 当審拒絶理由は、本件補正前の請求項1?15において、「中間層」及び「被覆層」におけるBiの上限値の数値が「0.5質量%」以下であることが特定されていない点、及び、「被覆層」の厚みが「中間層」に対して1%?40%の間であることが特定されていない点によって、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本願発明1?15は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、としたものである。 イ これに対し、本件補正によって、請求項1において、「中間層」及び「被覆層」におけるBiの上限値の数値が「0.5質量%」であることが特定されるとともに、「被覆層」の厚みが「中間層」に対して1%?40%の間であることが特定された。 ウ この結果、本願発明1及びこれを引用する本願発明2?14は、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものとなったから、本願発明1?14は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 エ したがって、当審拒絶理由の理由により、本件補正後の請求項1?14に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 2 本件補正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合することについて ア 当審拒絶理由は、本件補正前の請求項1について、以下の点において、特許を受けようとする発明が不明確であるとしたものである。 ・本件補正前の請求項1の冒頭部の記載では、初めに出現する「コア」と、二回目に出現する「コア材料」との関係が不明であり、また、初めに出現する「Al-Siロウ付け材料」と、二回目に出現する「Al-Siロウ付け材料」との関係が不明である。 ・本件補正前の請求項1の冒頭部の記載では、「多層のアルミニウム合金ブレージングシート」が、あたかも「コア材料からな」るようにも解され得るものである。すなわち、「多層」のシートであるにもかかわらず、「コア材料」という一つの材料からなるようにも解され得る記載となっているため、不明確である。 ・本件補正前の請求項1の冒頭部において「薄い中間層」との記載があるが、「薄い」との事項の比較の基準又は程度が不明であり、どのような厚さのものを意味しているのかが不明確である。 イ これに対し、本件補正後の請求項1は、前記第2に示すとおりのものであって、上記アに示した不明確な点は全て解消しており、本件補正後の請求項1?14に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確である。 ウ よって、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合する。 第6 むすび 以上のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものであって、原査定の理由及び当審拒絶理由のいずれによっても、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-09-14 |
出願番号 | 特願2015-222854(P2015-222854) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(C22C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 毅 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
▲辻▼ 弘輔 長谷山 健 |
発明の名称 | アルミニウムブレージングシート |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |