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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G21F
管理番号 1343840
異議申立番号 異議2017-700159  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-22 
確定日 2017-11-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5975312号発明「吸水膨張性粘土材料の充填装置および充填方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5975312号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-8〕について訂正することを認める。 特許第5975312号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5975312号は、平成27年12月11日に特許出願され、平成28年7月29日に特許の設定登録がなされ、同年8月23日に特許掲載公報が発行され、その後、平成29年2月22日付けで、その請求項1ないし請求項8に係る特許に対し、特許異議申立人岩崎精孝により特許異議の申立てがなされ、同年4月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月22日付けで意見書が提出され、同年7月10日付けで取消理由の通知がなされ、その指定期間内である同年9月5日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人岩崎精孝から同年10月13日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年9月5日になされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次の(1)及び(2)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在にアーム保持躯体に保持されたアームと、このアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置とを備えることを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填装置。」
とあるのを、
「廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームと、このアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置とを備え、アームは、アーム保持躯体に対して移動自在に保持されることを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填装置。」
に訂正する。(下線は訂正個所を示す。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に
「廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在にアーム保持躯体に保持されたアーム」
とあるのを、
「廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームであってアーム保持躯体に対して移動自在に保持されたアーム」
に訂正する。(下線は訂正個所を示す。)

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「アーム保持躯体に保持されたアーム」の「移動自在」な形態について、「アーム保持躯体に対して移動自在」であることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、本件特許明細書の【0049】?【0058】及び【図2-1】?【図4】に記載される実施の形態2?実施の形態4等に基づいて導出される特定事項であるから、新規事項を追加する訂正には該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の一群の請求項を構成する請求項1?5を、訂正後の一群の請求項を構成する請求項1?5に訂正したものであって、一群の請求項ごとに請求されたものであるということができるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「アーム保持躯体に保持されたアーム」の「移動自在」な形態について、「アーム保持躯体に対して移動自在」であることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、本件特許明細書の【0049】?【0058】及び【図2-1】?【図4】に記載される実施の形態2?実施の形態4等に基づいて導出される特定事項であるから、新規事項を追加する訂正には該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2に係る請求項6の訂正は、訂正前の一群の請求項を構成する請求項6?8を、訂正後の一群の請求項を構成する請求項6?8に訂正したものであって、一群の請求項ごとに請求されたものであるということができるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(3)異議申立人の主張について
上記訂正事項1,2について、異議申立人は、平成29年10月13日付けで提出された意見書において、上記の訂正事項1,2に係る特定事項からは、「アームがアーム保持躯体に対して移動自在」であることは特定されるものの、アームが何に保持されるかについては特定されていないから、上記訂正事項1,2は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであって認められない旨の主張をしている。
しかしながら、「アーム保持躯体」の用語の記載はアームを保持する躯体であるといえるから、アームは当然に「アーム保持躯体」に保持されることが特定されるといえるし、また、「アーム保持躯体に対して移動自在に保持される」の記載から、アームを保持する主体がアーム保持躯体であると解することに何らの不自然さもない。
よって、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。

3 小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-8〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし8に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間に、吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレットを充填する装置であって、
坑道内に定置された廃棄体の手前側に配置されるアーム保持躯体と、このアーム保持躯体からすき間空間に向けて延在し、廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームと、このアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置とを備え、
アームは、アーム保持躯体に対して移動自在に保持されることを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項2】
アーム保持躯体は円柱状の廃棄体の断面よりも大きくない断面を有し、アーム保持躯体の底部には坑道内を前進および後進可能にする走行装置が設けられ、アーム保持躯体は1ないし複数のアームを坑道延長方向に対して水平もしくは若干の傾斜を持たせて保持可能であることを特徴とする請求項1に記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項3】
アームを前後方向に動かす機構をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項4】
アームもしくはペレット搬送装置には、充填状況を観察するための観察装置が設けられていることを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項5】
アームもしくはペレット搬送装置には、ペレットを均すためのエアー噴射機構がさらに設けられていることを特徴とする請求項4に記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項6】
坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間に、吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレットを充填する方法であって、
坑道内に定置された廃棄体の手前側に配置したアーム保持躯体からすき間空間に向けて延在し、廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームであってアーム保持躯体に対して移動自在に保持されたアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置を介してペレットをすき間空間の奥に搬送して投入することを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填方法。
【請求項7】
粒径の異なる複数種類のペレットが一定の重量比で混合したペレットを搭載し、坑道内を移動可能な搬送供給台車を廃棄体の手前側に配置して、この搬送供給台車からペレット搬送装置に粒径の異なる複数種類のペレットを供給することを特徴とする請求項6に記載の吸水膨張性粘土材料の充填方法。
【請求項8】
粒径の異なる複数種類のペレットを、粒径の種類別に複数台の搬送供給台車に搭載させ、各搬送供給台車を廃棄体の手前側に配置して、各搬送供給台車からペレット搬送装置に設けてある少なくとも1つの受入口を介してペレット搬送装置に各ペレットを別々に供給することにより、ペレット搬送装置の先端で一定の重量比で混合したペレットを投入可能としたことを特徴とする請求項6に記載の吸水膨張性粘土材料の充填方法。」

2 取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1ないし7(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)に係る発明に対して平成29年7月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件特許発明1は甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。よって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)本件特許発明2は甲第6号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許発明2は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)本件特許発明3は甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。よって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)本件特許発明4は甲第6号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許発明2は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(5)本件特許発明5は甲第6号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許発明2は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(6)本件特許発明6は甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。よって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(7)本件特許発明7は甲第6号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許発明2は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 甲号証の記載
(1)甲第6号証について
ア 甲第6号証の記載事項
取消理由通知で引用した甲第6号証のRyoichi Masuda 他7名、 "Buffer Construction Technique Using Granular Bentonite"、 一般社団法人日本原子力学会、 2012年1月5日、オンライン出版(以下「甲6」という。)には、次の事項が記載されている。(日本語訳は請求人による訳文を記載する。下線は当審において付されたものである。)

a “I. Introduction
Repository designs for the disposal of high level radioactive waste (HLW) often focus on an engineered barrier system (EBS) which includes a bentonite-based buffer constructed around the emplaced waste package. This bentonite buffer may have several important barrier roles as a result of its very low permeability, its ability to act as a colloid filter, its plasticity and its high sorption capacity for many radionuclides. In view of its importance in assuring post-closure safety, many studies are investigating techniques to construct buffers in a rigorously quality assured manner, using different emplacement approaches and various types of bentonite. Among these techniques, a buffer construction approach using granular material (hereafter referred to as “pellets”)is considered to be particularly advantageous in terms of ease of construction and economy.1)
An important challenge for any technology utilizing pellets, however, is ensuring that high enough buffer density is achieved. Research was initiated, therefore, to identify optimal buffer materials and construction methods.2,3) Initial results have shown that a simple method of constructing barriers by means of a pellet filling system is likely to achieve effective clay dry densities comparable to the buffer specifications developed in the “H12” demonstration of the feasibility of HLW disposal in Japan.4) In accordance with a site characterization of the repository, required formation and quality of the buffer material could be changed. Therefore, any concrete value and technical standards for the specification of the buffer materials have not been identified yet in the Japanese HLW disposal program. This study has also indicated that it should be possible to develop a highly practical and cost-effective buffer construction technique taking advantage of the excellent workability of such pellets.
This paper describes the results of a full-scale test conducted to validate the feasibility of buffer construction in horizontal tunnels using a pellet filling method. This is also intended to accumulate the data necessary for the development of an EBS construction system which can be tele-operated, allowing for the fact that radiation protection zoning may preclude worker presence in disposal tunnels.”(第448頁左下欄第1行?右下欄第17行)
「(日本語訳)I.はじめに
高レベルの放射性廃棄物の廃棄のための処分場設計において、しばしば焦点となるのは、定置された廃棄物パッケージ周辺に構築されるベントナイト系緩衝材を含む工学的バリアシステムである。このベントナイト緩衝材は透過性が非常に低く、更にコロイドフィルターとして作用する能力、可塑性および多くの放射性核種に対する高い収着能力を有するため、バリアとしての重要役割をいくつか担うであろうと思われる。閉鎖後の安全性確保における重要性に鑑みて、異なる定置方法および様々な種類のベントナイトを用いて多くの研究がなされており、厳密に品質が保証される緩衝材構築の技術が調査されている。これらの技術の中で、粒状材料(以下「ペレット」と呼ぶ)を用いた緩衝材構築手法は、構築の容易さおよび経済性の点で特に有利であると考えられている。
しかしながら、ペレットを利用する技術にとって重要な課題は、十分に高い緩衝材密度の達成を確保することである。そのため、最適な緩衝材の材料と施行方法を特定するための研究が開発された。初期の結果において、ペレット充填システムによるバリア構築という単純な方法が日本におけるHL処分の実現可能性についての「H12」実証研究において開発された緩衝材仕様に匹敵する有効粘土乾燥密度を達成することが示された。処分場の現場の特徴に応じて、緩衝材の形成要件および品質要件は変わり得る。したがって、日本のHLW処分計画では、緩衝材の仕様に関する具体的な数値や技術基準はまだ特定されていない。この研究はまた、このようなペレットの優れた加工性を利用して、非常に実用的で費用効果の高い緩衝材構築技術を開発可能であろうことを示した。
本稿では、ペレット充填法を用いた水平トンネルにおける緩衝材構築の実現可能性を検証するために実施された実寸大の試験の結果を照会する。これは、放射線防護地帯特定により処分トンネル内に作業者が存在しなくなる事実を考慮し、遠隔操作可能なEBS構築システムの開発に必要なデータを蓄積することも目的とする。」

b “II. Procedure for Buffer Construction Using Granular Material
Previous studies conducted by RWMC2,3) provide the basis for the present work, placing the project in the context of an integrated repository concept, including operations in both surface and underground facilities. They also provide design constraints for the basic form of a pellet filling system and guidelines for defining required quality levels.
Figures 1 and 2 illustrate the basic EBS concept considered and equipment used for buffer construction using pellets. The EBS is thus emplaced in 3 steps: (1) transporting and placing the compacted bentonite support plinth, (2)transporting and placing the overpack on the plinth, (3) fill-ing remaining void space with pellets. Note that this is illustrative only and not yet optimized (e.g., some concepts involve emplacement of the overpack and bentonite plinth together as a single unit; it may also be possible to position more than one overpack before pellet infilling1)).
Pellet infilling equipment includes a conveyor system and an agitator, which are here envisaged as being moved to the emplacement position by a remotely-operated battery locomotive.The conveyor system is moved back as the filling process proceeds and is designed so that it can straddle the previously emplaced overpack.
Important considerations when evaluating the practicality of this process include (1) the operational process for conveying and emplacing the granular material, (2) the resultant density of the granular material in the tunnel, and (3) the feasibility of achieving high uniformity of filling, without significant remnant void space. These form the focus of the work presented in this paper.”(第448頁右下欄第18行?第449頁左欄第18行)
「(日本語訳)II.粒状材料を用いたバッファー構築の工程
RWMCにより実施されたこらまでの研究は、当プロジェクトを地上及び地下の両施設での運用を含めた統合処分場概念の文脈に位置づけ、本研究の基礎を提供するものである。これらの研究はまた、ペレット充填システムの基本形態に対する設計上の制約と、要求される品質レベルを規定するガイドラインとを提供するものである。
図1および図2は、ペレットを使用した緩衝材構築で想定される基本的なEBS概念と使用される装置を示す。このように、EBSは、(1)圧縮ベントナイト支持台を運搬して配置し、(2)オーバーパックを台座上に輸送して載置し、(3)残った空間をペレットで充填するという3ステップによって設置される。尚、これは単なる例示であり、最適化されていない(例えば、ある概念では、オーバーパックトベントナイト支持台を単一ユニットとして一緒に定置したり、又、ペレット充填の前に複数のオーバーパックを配置したりすることも可能である。)
ペレット充填システムはコンベアシステムおよびアジテータを含み、該コンベアシステムおよびアジテータは、本稿では遠隔操作されるバッテリ機関車によって設置位置に移動されると想定する。コンベアシステムは、充填プロセスが進行するにつれて後退され、事前に定置されたオーバーパックを跨ぐことができるように設計されている。
このプロセスの実用性を評価する際の重要な考慮点としては、(1)粒状材料を運搬および定置する運用プロセス、(2)トンネル内の粒状材料の密度、および(3)充填が、重大な残存空隙を残すことなく高い均一性を達成する実現可能性である。本稿で紹介する研究は、これら3点に焦点を当てたものである。」

c “IV. Test Method
1. Test Equipment
Common methods of conveyance of granular materials include screw conveyor and pneumatic transportation methods. A key problem with pneumatic transportation is dust generation. Such dust is likely to make the monitoring of remote controlled operation difficult and require large-capacityventilation to improve the environment in the drift. This dust would need to be collected in order to carry out a quality assurance mass-balance check and the loss of fines would also tend to reduce the density of the emplaced buffer. A high air flow may also produce void spaces, further reducing the average density achievable. Despite the disadvantages of operational wear of the screw and the weight of the transport duct, the screw conveyor method generates a relatively small amount of dust and enables stable conveyance of granular materials. As dust was seen to be a critical issue, it was decided that the screw conveyor method was the best approach for granular material transport in the test.
Screws come in various shapes, as illustrated in Table 2. The transport capacity of a screw conveyor system is determined by such specifications as a screw shape, a screw pitch, a rotation speed and a shaft diameter. In this study, different types of screws were compared with respect to the structural characteristics and were tested in advance; on this basis, it was decided to use a screw with platy flights. The target conveyance rate, which was derived from data presented in the H12 Report,4) was set at 2.5m^(3)/h. The resulting screw specifications are as follows:
Screw shape: Platy Screw
Screw diameter: 151.2mm
Screw pitch: 125.0mm
Duct inner diameter: 155.2mm
Shaft diameter: 60.5mm
Rotation speed: 36 rpm
Power output: 3.7kW
Figures 5 and 6 show the full-scale pellet filling test layout and the equipment used. The filling equipment consists of a screw conveyor system, a belt conveyor system and a hopper. The equipment was installed on tracks, so that it can be moved back and forth depending on the filling position.
Figure 7 shows the configuration of the simulated disposal drift used for the test. The hemicylindrical model represents half of a disposal drift with an inside diameter of 2.22 m, cut by its axial vertical plane of symmetry. A clear acrylic glass panel forming the planar wall allows the filling process to be recorded in detail. The length of the simulated drift was 6.0 m, allowing buffer emplacement between two waste packages to be examined. The two overpacks on their bentonite emplacement plinths were full scale wooden dummies which were placed in the drift before the filling test. The overpack pitch corresponds to the reference in H124) but the size of the support plinths has not been specified. The option selected with plinths somewhat shorter than the overpack may be the worst case in terms of the challenges of granulate emplacement-in practice, a plinth longer than the overpack might be used (e.g., Fig. 1).”(第449頁右欄第1行?第451頁左欄第5行)
「(日本語訳)IV.試験方法
1.試験装置
粒状材料の搬送の一般的な方法として、スクリューコンベアと空気搬送方法がある。空気搬送方法の重大な問題は粉塵の発生である。このような粉塵は、遠隔操作緒ペレ-ションの監視を困難にし、坑道中の環境改善のために大容量の換気を要する可能性がある。この粉塵は品質保証付き物質収支検査を実施するために収集する必要があり、微細粉塵の喪失は、定置された緩衝材の密度を低下させる傾向もあると思われる。強い空気流は空隙を生じさせ、達成可能な平均密度をさらに低下させるかも知れない。スクリューコンベアは、スクリューの動作摩耗および輸送ダクトの重量という欠点にもかかわらず、粉塵の発生は比較的少量で、粒状材料の安定した搬送を可能にする。このように、粉塵が重大な問題であることから、スクリューコンベアが、本試験における粒状材料輸送のための最良のアプローチであると決定した。
表2に示すように、スクリューには様々な形状がある。スクリューコンベアシステムの搬送能力は、スクリュー形状、スクリューピッチ、回転速度およびシャフトの直径などの仕様によって決定される。本研究では、異なるタイプのスクリューを、構造特性に関して比較して、事前試験を行い、その結果に基づいて、板状のネジ山のスクリューを使用することにした。目標輸送速度は、H12報告書に示されたデータに基づき導出し、2.5m^(3)/時間に設定した。その結果得られたスクリューの仕様は以下のとおり。
スクリュー形状:板状スクリュー
スクリュー径:151.2mm
ネジピッチ:125.0mm
ダクト内径:155.2mm
回転速度:36rpm
出力:3.7kW
図5および図6は、実寸大ペレット充填試験のレイアウトおよび使用された装置を示す。充填装置は、スクリューコンベアシステム、ベルトコンベアシステム、およびホッパーからなる。充填装置は線路上に設置され、充填位置に応じて前後に移動することができる。
図7は、試験に使用された模擬処分坑道の構成を示す。半円筒形のモデルは、2.22mの内径を有する処分坑道を軸方向垂直対称面に沿って切断された半分の坑道を表す。透明のアクリルガラスパネルで平面壁を形成し、充填プロセスを詳細に記録することを可能とした。模擬処分坑道の長さは6.0mとし、2つの廃棄物パッケージ間の緩衝材の定置状体を検査可能とした。ベントナイト支持台の上の2個のオーバーパックは実寸大の木製のダミーで、充填試験の前に坑道内に配置された。
オーバーパック間のピッチH12の基準に対応するが、支持台のサイズは指定されていなかった。オーバーパックよりもやや短い支持台を選択した場合、粒状体の定置という課題において最悪の結果をもたらすと考えられる。実際には、オーバーパックよりも長い支持台が使用されると思われる(例えば図1)」

d “It was thus observed that both dry density and the percentage of small particle size material varied more at locations distant from the outlet of the screw conveyor. Lower densities appear also to correlate with the smaller percentages of fine materials. The mechanism involved thus seems to cause grain size segregation, thereby causing the occurrence of low density regions. Observation of the flow of the material at the time of filling showed that large grains can rapidly roll down the slope surface. If such particles build up layers before finer materials are added, the resultant void space will be larger (as it is evident that, in a well mixed system, such voids would be filled with smaller particles). Figure 18 illustrates this mechanism.
Based on this analysis, the generation of low density regions due to material segmentation can be reduced by development of a moveable delivery head which can reduce distances between the end of the screw conveyor and the area being filled.”(第454頁右欄第14行?第455頁左欄第7行)
「(日本語訳)このように、スクリューコンベアの出口から離れた場所では、乾燥密度及び小粒径材料の割合の両方がより大きく変動したことが観察された。また、密度の低下もまた微細材料のパーセントの低下と相関しているようである。このように作用するメカニズムは、粒度別の分離を発生させ、低密度領域の発生をさせるようだ。充填時の材料流れを観察したところ、大きな粒子は斜面を素早く転落し得ることが観測できた。もし、このように大きな粒子がより微細な材料が添加される前に層を形成する場合、その結果生じる空隙はより大きくなる(十分に混合されたシステムでは、より微小な粒子がこのような空隙を埋めるであろうことは明らかである)。図18はこのメカニズムを示す。
この分析に基づいて、スクリューコンベアの端部と充填対象領域との間の距離を縮めることができる移動可能な搬送ヘッドを開発することにより、材料分離による低密度領域の生成を低減することができるであろう。」

e「図2


f「図6


イ 甲6に記載された発明
上記fの図6から、「スクリューコンベア」はパイプ型(パイプとパイプ内に取り付けられたスクリューからなるもの)であるということができ、上記bの「ペレット充填システムはコンベアシステムおよびアジテータを含み、該コンベアシステムおよびアジテータは、本稿では遠隔操作されるバッテリ機関車によって設置位置に移動されると想定する。コンベアシステムは、充填プロセスが進行するにつれて後退され、事前に定置されたオーバーパックを跨ぐことができるように設計されている。」の記載から、「スクリューコンベア(パイプ)」は、(コンベア)システム全体が移動することにより、オーバーパックの外周に沿ってすき間空間を移動可能であることは明らかである。すると、e及びfの図面も参酌すれば、甲6には次の【甲6発明】が記載されているといえる。
【甲6発明】
「トンネル内壁とオーバーパックとの間のすき間空間に、ベントナイトからなる粒状のペレットを充填する充填装置であって、
トンネル内に定置されたオーバーパックの手前側に配置されるコンベア保持台車と、このコンベア保持台車からすき間空間に向けて延在し、システム全体が移動することにより、オーバーパックの外周に沿って移動可能に、コンベア保持台車に保持されたパイプと、このパイプ内に取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なスクリューとを備えるベントナイトの充填装置。」

(2)甲第7号証について
甲第7号証(特開2015-7594号公報)には次の事項が記載されている。
a 「【0032】
第1実施形態の球状ペレットの充填方法は、吸水膨張性を有する粘土を主体とする材料を略球状に成形したペレット1,2を、すき間あるいは仕切られた空間に充填する場合であって、大粒径ペレット1を先行して層状にまきだした後に、大粒径ペレット1の粒径よりも小さい粒径を有する小粒径ペレット2を落下させることによって、小粒径ペレット2がこぼれ落ちて大粒径ペレット1の間隙を充填するものである。ここで、略球状とは、必ずしも完全な球である必要はなく、ほぼ球形で傾斜した平面を転がることが可能であればよい。」

b 「【0042】
まず、あらかじめ大小2粒径ペレットを混合し、落下充填させた場合について説明する。
【0043】
例えば、大粒径ペレット(粒径約20mm級)と小粒径ペレット(粒径約1mm級)をあらかじめ事前混合してから搬送管を通して搬送し、対象となる空間の天端付近に位置させた搬送管出口から連続的に落下充填させた場合、充填密度の値が充填箇所に応じて、ばらついてしまう。
【0044】
その原因は、以下のような理由が考えられる。
(1)幅が30mm以下となる極小隙間部には大粒径ペレットをほとんど充填できないため、小粒径ペレットのみの充填となっていた。
(2)事前混合してから搬送管の中を搬送する途上で、大粒径ペレットと小粒径ペレットが分離してムラのある混合比率で搬送管出口から落下していた。
(3)搬送管出口から落下した大小2粒径混合ペレットは型枠空間内を型枠面に沿って転がりながら落下するが、その途上で大粒径ペレットと小粒径ペレットが分離して、さらにムラのある混合比率で空間内に堆積していた。
(4)小粒径ペレットが一緒に落下充填されるので、大粒径ペレットと大粒径ペレットの間に小粒径ペレットが存在する場合が多く、大粒径ペレットを相互に隣接させながら隙間なく並べられた状態では充填されにくかった。」

c 「【0087】
次に、大粒径ペレット1を層状にまきだした後に、小粒径ペレット2をまきだし、その後、高圧圧縮空気噴射装置を使って、小粒径ペレット2を吹き飛ばして均し、かつ、大粒径ペレット1の間隙に小粒径ペレット2をこぼれ落ちさせる第5実施形態の場合について説明する。第5実施形態の球状ペレットの充填方法では、観測装置を先端に有する高圧圧縮空気噴射装置を使って、充填状況を観察しながら小粒径ペレット2を吹き飛ばしてもよい。
【0088】
図9は、噴射装置を使って、小粒径ペレット2を吹き飛ばす第5実施形態の球状ペレットの充填方法を示す。
【0089】
図9(a)には、高圧の圧縮空気をノズル4から噴出させて小粒径ペレット2を吹き飛ばしつつ別の大粒径ペレット1の間隙に落下充填させる方法を例示した。小粒径ペレット2を移動させる方法には圧縮空気の噴出によって吹き飛ばす方法だけでなく、適度な柔軟性を有する捌け状のものを使って捌き出す方法によっても良いが、以下の実験により圧縮空気噴出法が実現可能性を有することを確認した。
【0090】
なお、小粒径ペレット2を大粒径ペレット1の間隙に落下充填させる手段としては、図5の実験で実施したように、単純に上から落下させて斜面上をこぼれ落ちさせる方法があるが、実際には図4に示すような空間へのペレット充填作業では人間が直接目視することは困難であるため、微妙に落下位置や落下充填量を調整して充填密度をコントロールすることは現実的ではない。
【0091】
この課題を解決するためには、図9(a)に示すように、遠隔の観察装置5が必要である。例えば、遠隔観測部5は小型のビデオカメラを先端に取り付けたフリーアームを随所に近づけることで観測できるし、胃カメラと同様のファイバースコープを使うことでも観察することができる。この場合には、観察できるだけでは十分ではなくて、図9(a)に示すように大粒径ペレット1の上にまきだしし過ぎた小粒径ペレット2を、図9(b)に示すように周囲の大粒径ペレット1の未充填間隙に移動させる行為が必要である。」

d 「【0096】
また、高圧圧縮空気噴射装置のノズル4の先端に取り付けた観測部5を使って、充填状況を観察しながら、小粒径ペレット2を吹き飛ばして均し、かつ、大粒径ペレット1の間隙に小粒径ペレット2をこぼれ落ちさせるので、状況を確認しながら充填することができ、十分な充填密度を担保することが可能となる。」

e 「【0119】
緩衝材一体型廃棄体と処分坑道12の内壁との間の狭い空間を移動可能な形状寸法のペレット充填装置50を備え、ペレット充填装置50は、本体51と、処分坑道12の入口から本体51に連通されてペレット1,2を輸送する輸送管52と、輸送管52を通って充填させるペレット1,2を本体51から充填位置まで搬送する図示しない搬送部と、大小粒径の異なるペレット1,2を別々に投下できる投下部53と、充填して堆積しているペレット1,2の表面に圧縮空気を噴射してペレット1,2を吹き飛ばすノズル4と、ノズル4に圧縮空気を供給する図示しない圧縮空気供給部と、ノズル4の先端付近にノズル4から圧縮空気を噴射する方向のペレット堆積面を観察できる観察部5と、遠隔操作によって関節を作動することにより、ノズル4の先端及び観察部5を堆積しているペレット1,2の表面に沿って移動させることができるフリーアーム54と、を有している。
【0120】
図11に示すように、廃棄体13と処分坑道12の内壁との間の坑道内周すき間14は狭小であるため、作業員が直接目視しながらペレット1,2を充填することは困難である。そこで、遠隔操作でペレット1,2の充填作業が可能なペレット充填装置50を使うことが望ましい。
【0121】
このような目的のペレット充填装置50には、少なくとも以下の5点の機能が必要である。
(1)ペレット1,2を充填箇所の近くまで搬送する機能
(2)大粒径ペレット1を落下充填する機能
(3)遠隔観察部5と同じく先端部に導いた圧縮空気をノズル4の先端から噴出することによって、大粒径ペレット1を移動させて凹凸の少ない斜面状に均す機能
(4)小粒径ペレット2を落下させてまきだしする機能
(5)遠隔観察部5と同じく先端部に導いた圧縮空気をノズル4の先端から噴出することによって小粒径ペレット3を均しつつ、大粒径ペレット1の間隙に充填させる機能」

4 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲6発明とを対比する。
(ア)甲6発明の「トンネル内壁」及び「オーバーパック」が、本件訂正発明1の「坑道内壁」及び「廃棄体」に相当し、よって、甲6発明の「トンネル内壁とオーバーパックとの間のすき間空間」が本件訂正発明1の「坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間」に相当し、また、甲6発明の「ベントナイトからなる粒状のペレット」が本件訂正発明1の「吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレット」に相当するから、甲6発明の「トンネル内壁とオーバーパックとの間のすき間空間に、ベントナイトからなる粒状のペレットを充填する充填装置」が、本件訂正発明1の「坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間に、吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレットを充填する装置」に相当する。
(イ)甲6発明の「トンネル内に定置されたオーバーパックの手前側に配置されるコンベア保持台車」が本件訂正発明1の「坑道内に定置された廃棄体の手前側に配置されるアーム保持躯体」に相当する。
(ウ)甲6発明の「このコンベア保持台車からすき間空間に向けて延在し、オーバーパックの外周に沿って移動可能に、コンベア保持台車に保持されたパイプ」が、本件訂正発明1の「このアーム保持躯体からすき間空間に向けて延在し、廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアーム」に相当する。
(エ)甲6発明の「パイプ内に取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なスクリュー」が、本件訂正発明1の「このアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置」に相当する。
(オ)甲6発明の「パイプ」が「オーバーパックの外周に沿って移動可能に、コンベア保持台車に保持された」ことと、本件訂正発明1の「アームは、アーム保持躯体に対して移動自在に保持される」こととは、「アームは、移動自在にアーム保持躯体に保持される」点で一致する。
(カ)甲6発明の「ベントナイトの充填装置」が、本件訂正発明1の「吸水膨張性粘土材料の充填装置」に相当する。

イ 一致点
よって、本件訂正発明1と甲6発明とは、
「坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間に、吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレットを充填する装置であって、
坑道内に定置された廃棄体の手前側に配置されるアーム保持躯体と、このアーム保持躯体からすき間空間に向けて延在し、廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームと、このアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置とを備え、
アームは、移動自在にアーム保持躯体に保持されることを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填装置。」
において一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
アームが移動自在であることについて、本件訂正発明1では、アームが「アーム保持躯体に対して」移動自在であるのに対して、甲6発明においてはシステム全体が移動する点。

エ 判断
上記相違点1について検討する。
ペレットをすき間空間に搬送するアームにおいて、アーム保持躯体に対して相対的に移動可能である構成は、甲各号証に示されておらず、また、周知の技術事項であるということもできない。
さらに、甲6発明において「アーム」に相当する「パイプ」は、スクリューコンベアにおけるパイプであり、甲6の図2に示される「アジテータ」「コンベアシステム」の構造から、「パイプ」が「コンベア保持台車」に対して相対的に移動可能に構成されることは想定されていないものであると認められるから、甲6発明において上記相違点に係る本件訂正発明1の構成を採用することには阻害要因があるといえる。
よって、上記相違点は、甲6発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるということはできないから、本件訂正発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2) 本件訂正発明2?7について
本件訂正発明2?7についても、上記相違点に係る「アームがアーム保持躯体に対して移動自在である」という発明特定事項を備えるものであるから、本件訂正発明1と同様の理由で、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3) 小活
以上のとおり、取消理由通知の理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
なお、甲第7号証に記載されている事項は、「3 甲号証の記載」の「(2)甲第7号証について」のとおりであり、甲第7号証にも、上記相違点に係る「アームがアーム保持躯体に対して移動自在である」という事項について記載されていないのは明らかである。

5 異議申立人の主張について
異議申立人は、平成29年10月13日付けで提出された意見書において、甲第6号証の第454頁右欄第14行?第455頁左欄第7行の記載において、「スクリューコンベアの端部と充填対象領域との間の距離を縮めることができる移動可能な搬送ヘッド」の開発が必要となることが記載されていることから、甲第6号証にはスクリューコンベア(パイプ)自体が移動自在にコンベア保持台車に保持されていることが記載されている、すなわち、上記相違点については、甲第6号証に記載されている事項である旨を主張する。
しかしながら、甲第6号証の上記の「スクリューコンベアの端部と充填対象領域との間の距離を縮めることができる移動可能な搬送ヘッド」の開発が必要となることの記載は、今後に開発する必要がある技術課題について記載したものであって、そのための構成を何ら具体的に示すものではない。よって、上記記載から、上記記載から、上記相違点に係る構成までが開示されているということはできない。
したがって、上記の異議申立人の主張を採用することはできない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲第1号証に記載された発明を主引例とした取消理由について
まず、甲第1号証については、その公知日(公然知られた日、公然実施された日、刊行物として頒布された日又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった日)が不明である。甲第1号証の第1頁及び第2頁に「December 2008」と記載されているが、これが刊行物として頒布された日又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった日を特定できるものとは認められない。よって、甲第1号証に記載された発明が、特許法第29条第1項第1ないし3号において規定される発明に該当しない。よって、本件訂正発明1ないし8が甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
次に、甲第1号証に、異議申立人が認定する次の発明、すなわち、
「保管トンネルとブロックとの間のすき間空間に、ベントナイトからなる粒状のペレットを充填する装置であって、
保管トンネル内に定置されたブロックの手前側に配置されるチューブ保持車両と、このチューブ保持車両からすき間空間に向けて延在し、ブロックの外周に沿ってすき間空間を移動自在に保持されたチューブと、このチューブに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能な圧縮空気供給装置とを備えるベントナイトの充填装置。」(以下「甲1発明」という。)が記載されていたとしても、甲1発明における「チューブ」が本件訂正発明1の「アーム」に相当するということはできない。「アーム」はその技術用語から、物を支えられる程度の硬度を有するものと認められるが、「チューブ」にはその機能・特性は認められないからである。
すなわち、本件訂正発明1?8のそれぞれと、甲6発明とを対比すると、すき間空間に向けて延在しベントナイトを搬送する部材が、本件訂正発明1ないし8では「アーム保持躯体に対して移動自在」な「アーム」であるのに対し、甲1発明では「チューブ」であり、かつ、チューブ保持車両に対して移動自在とは特定されない点で相違する。
そして、甲1発明において「チューブ」を「アーム」に置き換える動機付けはない。また、チューブはチューブ保持車両に対して移動しないことを前提に設定されていると言えるから、その保持車両に移動可能とすることに阻害要因があるということもできるから、甲1発明の「チューブ」を「アーム保持躯体に対して移動自在」な「アーム」とすることは当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。すなわち、本件訂正発明1ないし8が甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、異議申立人が主張する、甲第1号証に記載された発明を主引例とした取消理由については、理由がない。

(2)甲第2号証に記載された発明を主引例とした取消理由について
甲第2号証に、異議申立人が認定する次の発明、すなわち、
「トンネル内壁とキャニスタとの間のすき間空間に、ベントナイトからなる粒状のペレットを充填する装置であって、
トンネル内に定置されたキャニスタの手前側に配置されるコンベア保持台車と、このコンベア保持車両からすき間空間に向けて延在し、キャニスタの外周に沿ってすき間空間を移動可能に保持体に保持されたパイプと、このパイプに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なオーガコンベアとを備えるベントナイトの充填装置。」(以下「甲2発明」という。)が記載されていたとしても、本件訂正発明1?8のそれぞれと、甲2発明とを対比すると、上記「4」の「(1)」の「ウ」に記載した相違点、すなわち、本件訂正発明1?8では、アームが「アーム保持躯体に対して」移動自在であるのに対して、甲2発明においてはその特定がない点で相違する。
そして、上記「4」の「(1)」の「エ」に記載した理由と同様の理由により、上記相違点は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
したがって、異議申立人が主張する、甲第2号証に記載された発明を主引例とした取消理由については、理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件の訂正後の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の訂正後の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間に、吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレットを充填する装置であって、
坑道内に定置された廃棄体の手前側に配置されるアーム保持躯体と、このアーム保持躯体からすき間空間に向けて延在し、廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームと、このアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置とを備え、
アームは、アーム保持躯体に対して移動自在に保持されることを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項2】
アーム保持躯体は円柱状の廃棄体の断面よりも大きくない断面を有し、アーム保持躯体の底部には坑道内を前進および後進可能にする走行装置が設けられ、アーム保持躯体は1ないし複数のアームを坑道延長方向に対して水平もしくは若干の傾斜を持たせて保持可能であることを特徴とする請求項1に記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項3】
アームを前後方向に動かす機構をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項4】
アームもしくはペレット搬送装置には、充填状況を観察するための観察装置が設けられていることを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項5】
アームもしくはペレット搬送装置には、ペレットを均すためのエアー噴射機構がさらに設けられていることを特徴とする請求項4に記載の吸水膨張性粘土材料の充填装置。
【請求項6】
坑道内壁と廃棄体との間のすき間空間に、吸水膨張性粘土材料からなる粒状のペレットを充填する方法であって、
坑道内に定置された廃棄体の手前側に配置したアーム保持躯体からすき間空間に向けて延在し、廃棄体の外周に沿ってすき間空間を移動自在なアームであってアーム保持躯体に対して移動自在に保持されたアームに取り付けられ、ペレットをすき間空間の奥に搬送して投入可能なペレット搬送装置を介してペレットをすき間空間の奥に搬送して投入することを特徴とする吸水膨張性粘土材料の充填方法。
【請求項7】
粒径の異なる複数種類のペレットが一定の重量比で混合したペレットを搭載し、坑道内を移動可能な搬送供給台車を廃棄体の手前側に配置して、この搬送供給台車からペレット搬送装置に粒径の異なる複数種類のペレットを供給することを特徴とする請求項6に記載の吸水膨張性粘土材料の充填方法。
【請求項8】
粒径の異なる複数種類のペレットを、粒径の種類別に複数台の搬送供給台車に搭載させ、各搬送供給台車を廃棄体の手前側に配置して、各搬送供給台車からペレット搬送装置に設けてある少なくとも1つの受入口を介してペレット搬送装置に各ペレットを別々に供給することにより、ペレット搬送装置の先端で一定の重量比で混合したペレットを投入可能としたことを特徴とする請求項6に記載の吸水膨張性粘土材料の充填方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-25 
出願番号 特願2015-242431(P2015-242431)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G21F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 伸二  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5975312号(P5975312)
権利者 清水建設株式会社
発明の名称 吸水膨張性粘土材料の充填装置および充填方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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