• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04M
管理番号 1343894
異議申立番号 異議2016-701025  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-27 
確定日 2018-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5912330号発明「システム,発信機および管理方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5912330号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1-12,13-18及び19について訂正することを認める。 特許第5912330号の請求項1ないし12,13ないし18及び19に係る特許を維持する。 
理由
第1.手続の経緯

特許第5912330号の請求項1-19に係る特許についての出願は,平成23年8月5日に特許出願され,平成28年4月8日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,平成28年10月27日に特許異議申立人中條澄子により特許異議の申立てがされ,平成29年1月4日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成29年3月10日に意見書の提出及び訂正の請求があり,その訂正の請求に対して特許異議申立人中條澄子から平成29年6月23日付けで意見書が提出され,平成29年10月17日付けで訂正拒絶理由が通知され,平成29年12月12日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成30年2月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり,その訂正の請求に対して特許異議申立人中條澄子から平成30年4月20日付けで意見書が提出され,特許異議申立人中條澄子から平成30年4月22日に上申書が提出されたものである。


第2.訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

平成30年2月15日に訂正の請求があったので,平成29年3月10日の訂正の請求は,取り下げられたものとみなされた。
したがって,本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)-(8)のとおりである。

1-1.一群の請求項1-12に係る訂正について

(1) 特許請求の範囲の請求項1に「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と記載されているのを,「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」に訂正し,これにともなって,特許請求の範囲の請求項1に「当該携帯端末が存在する場所」と記載されているのを,「当該携帯端末の位置」に訂正する。

(2) 特許請求の範囲の請求項12に「前記処理情報は,前記発信機でカウントされる時間についての情報を含む」と記載されているのを,「前記処理情報は,タイムスタンプを含む」に訂正する。

(3) 明細書の段落【0007】に「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と記載されているのを,「携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」に訂正し,これにともなって,明細書の段落【0007】および【0008】に「当該携帯端末が存在する場所」と記載されているのを,「当該携帯端末の位置」に訂正する。

(4) 明細書の段落【0030】および【0031】に「発信機でカウントされる時間についての情報」と記載されているのを,「タイムスタンプ」に訂正する。


1-2.一群の請求項13-18に係る訂正について

(5) 特許請求の範囲の請求項13に「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と記載されているのを,「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」に訂正する。

(6) 明細書の段落【0032】に「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と記載されているのを,「携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」に訂正する。

1-3.一群の請求項19に係る訂正について

(7) 特許請求の範囲の請求項19に「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と記載されているのを,「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」に訂正し,これにともなって,特許請求の範囲の請求項19に「当該携帯端末が存在する場所」と記載されているのを,「当該携帯端末の位置」に訂正する。

(8) 明細書の段落【0046】に「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と記載されているのを,「携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」に訂正し,これにともなって,明細書の段落【0046】に「当該携帯端末が存在する場所」と記載されているのを,「当該携帯端末の位置」に訂正する。


2.訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

2-1.一群の請求項1-12に係る訂正について

(1)の訂正事項について

下記「第3.特許異議の申立てについて」「3.取消理由の概要」で記載したとおり,訂正前の請求項1に係る発明では,「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」の「処理情報」が,「処理をする情報」であって「場所」を示す「情報」であるのか「携帯端末の位置を取得するため」に用いる「処理情報」であるのか不明瞭であったが,(1)の訂正事項に関し,訂正後の「処理情報」は「前記携帯端末の位置の取得に用いられる」処理情報であることが明確になった。

したがって,(1)の訂正については,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,上記(1)の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)の訂正事項について

下記「第3.特許異議の申立てについて」「3.取消理由の概要」で記載したとおり,訂正前の請求項12に係る発明の「前記発信機でカウントされる時間についての情報」について,「タイムスタンプ」と「ビーコン間隔」のどちらを示すのか不明瞭であったのを,「タイムスタンプ」と明確にする訂正である。

したがって,(2)の訂正については,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,上記(2)の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)の訂正事項について

「(1)の訂正事項について」で記載したのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)の訂正事項について

「(2)の訂正事項について」で記載したのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

そして,これら(1)から(4)の訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

2-2.一群の請求項13-18に係る訂正について

(5)の訂正事項について

「(1)の訂正事項について」で記載したのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(6)の訂正事項について

「(5)の訂正事項について」で記載したのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

そして,これら(5)および(6)の訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

2-3.一群の請求項19に係る訂正について

(7)の訂正事項について

「(1)の訂正事項について」で記載したのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(8)の訂正事項について

「(7)の訂正事項について」で記載したのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

そして,これら(7)および(8)の訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括

以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項1-12,13-18及び19について,訂正を認める。


第3.特許異議の申立てについて

1.本件発明

本件訂正請求により訂正された訂正請求項1-19に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1-本件発明19」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1-19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも1つの携帯端末,当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機,および前記携帯端末から信号を受信する中央端末を備えるシステムであって,
前記発信機は,前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信し,
前記携帯端末は,前記発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに,当該信号に含まれる前記状態情報を前記中央端末に送信し,
前記中央端末は,前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する,システム。
【請求項2】
前記発信機は可搬型である,請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記発信機は,バッテリで駆動され,
前記状態情報は,前記バッテリの残量についての情報を含む,請求項1または2記載のシステム。
【請求項4】
前記状態情報は,前記発信機が動いた回数についての情報を含む,請求項1ないし3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記発信機は,照度センサを含み,
前記状態情報は,前記照度センサの検出値についての情報を含む,請求項1ないし4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記状態情報は,前記照度センサに設定される閾値についての情報をさらに含む,請求項5記載のシステム。
【請求項7】
前記状態情報は,前記信号の発信間隔についての情報を含む,請求項1ないし6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記状態情報は,前記信号の出力強度についての情報を含む,請求項1ないし7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記発信機は,前記状態情報を前記携帯端末に送信する送信機を含み,
前記状態情報は,前記送信機の固有情報および前記発信機に割り当てられた識別情報を含む,請求項1ないし8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記処理情報は,前記発信機の位置に関連する情報を含む,請求項1ないし9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記携帯端末は,前記発信機の位置に関する情報を用いて,当該携帯端末の位置を取得し,前記所定の処理として,取得した当該携帯端末の位置に基づいた処理を実行する,請求項10記載のシステム。
【請求項12】
前記処理情報は,タイムスタンプを含む,請求項1ないし11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
携帯端末で受信可能な信号を発信する発信機であって,
前記信号は,前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含み,
前記状態情報は,自身が動いた回数についての情報を含む,発信機。
【請求項14】
可搬型である,請求項13記載の発信機。
【請求項15】
バッテリで駆動され,
前記状態情報は,前記バッテリの残量についての情報を含む,請求項13または14記載の発信機。
【請求項16】
前記処理情報は,自身の位置に関連する情報を含む,請求項13ないし15のいずれかに記載の発信機。
【請求項17】
前記信号はビーコン信号である,請求項13ないし16のいずれかに記載の発信機。
【請求項18】
前記信号は宛先を指定せずに発信される,請求項13ないし17のいずれかに記載の発信機。
【請求項19】
少なくとも1つの携帯端末,当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機,および前記携帯端末から信号を受信する中央端末を用いて機器を管理する管理方法であって,
前記発信機は,前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信し,
前記携帯端末は,前記発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに,当該信号に含まれる前記状態情報を前記中央端末に送信し,そして
前記中央端末は,前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する,管理方法。」

2.特許異議申立理由の概要

特許異議申立人中條澄子は,

(1)本件特許は,請求項1,4-13,16および19の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1-1)請求項1について
ア.「携帯端末が存在する場所を予測」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と「発信機の状態を示す状態情報」の技術的意味が理解できない。
ウ.「当該携帯端末が存在する場所に応じた所定の処理」という記載の技術的意味が理解できない。
エ.「前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する」という記載の技術的意味が理解できない。
(1-2)請求項4について
ア.「前記発信機が動いた回数」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「前記状態情報は,前記発信機が動いた回数についての情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-3)請求項5について
「前記状態情報は,前記照度センサの検出値についての情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-4)請求項6について
「前記照度センサに設定される閾値」という記載において,「閾値」が何のために使用されるのか不明である。
(1-5)請求項7について
ア.「前記信号の発信間隔」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「前記状態情報は,前記信号の発信間隔についての情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-6)請求項8について
「前記状態情報は,前記信号の出力強度についての情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-7)請求項9について
ア.「前記送信機の固有情報」という記載と「前記発信機に割り当てられた識別情報」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「処理情報」という記載と「状態情報」という記載の技術的意味が理解できない。
(1-8)請求項10について
ア.「前記発信機の位置に関連する情報」という記載の意味内容が理解できない。
イ.「前記状態情報は,前記発信機の位置に関連する情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-9)請求項11について
「取得した当該携帯端末の位置に基づいた処理」という記載の意味内容が理解できない。
(1-10)請求項12について
ア.「前記発信機でカウントされる時間」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「前記処理情報は,前記発信機でカウントされる時間についての情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-11)請求項13について
ア.「前記携帯端末が存在する場所を予測」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「処理情報」という用語と「状態情報」という用語のそれぞれの意味内容を理解できない。
ウ.「自身が動いた回数」という記載の技術的意味が理解できない。
エ.「前記状態情報は,自身が動いた回数についての情報を含む」という記載が,他の要素とどのような関係で存在するのか,その技術的意味が不明である。
(1-12)請求項16について
「自身の位置」という記載の意味内容が理解できない。
(1-13)請求項19について
ア.「機器を管理する」という記載の技術的意味が理解できない。
イ.「携帯端末が存在する場所を予測」という記載の技術的意味が理解できない。
ウ.「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と「発信機の状態を示す状態情報」の技術的意味が理解できない。
エ.「当該携帯端末が存在する場所に応じた所定の処理」という記載の技術的意味が理解できない。
オ.「前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する」という記載の技術的意味が理解できない。

(2)請求項1-19に係る発明は,甲第1号証ないし甲第6号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2-1)請求項1について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-2)請求項2について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-3)請求項3について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-4)請求項4について
甲第1号証に記載の発明,甲第2号証に記載の事項,甲第3号証に記載の事項および甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-5)請求項5について
甲第1号証に記載の発明,甲第2号証に記載の事項および甲第3号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-6)請求項6について
甲第1号証に記載の発明,甲第2号証に記載の事項および甲第3号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-7)請求項7について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-8)請求項8について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-9)請求項9について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-10)請求項10について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-11)請求項11について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-12)請求項12について
甲第1号証に記載の発明,甲第2号証に記載の事項および甲第3号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-13)請求項13について
甲第1号証に記載の発明,甲第3号証に記載の事項および甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-14)請求項14について
甲第1号証に記載の発明,甲第3号証に記載の事項および甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-15)請求項15について
甲第1号証に記載の発明,甲第3号証に記載の事項および甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-16)請求項16について
甲第1号証に記載の発明,甲第3号証に記載の事項および甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-17)請求項17について
甲第1号証に記載の発明,甲第3号証に記載の事項,甲第6号証に記載の事項および甲第4号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-18)請求項18について
甲第1号証に記載の発明,甲第3号証に記載の事項,甲第6号証に記載の事項および甲第4号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。
(2-19)請求項19について
甲第1号証に記載の発明および甲第2号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものである。

旨,主張し,証拠として甲第1号証ないし甲第6号証(後記「4.甲号証の記載」を参照。)を提出している。

3.取消理由の概要

訂正前の特許に対して平成29年12月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。

理由1.(サポート要件)本件特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(明確性)本件特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

以下の理由1(サポート要件)及び理由2(明確性)については,本件訂正前の本件特許査定時の本件特許請求の範囲について通知する。

請求項:1
備考 :

「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」の「処理情報」が,携帯端末で「処理をする情報」であって「場所」を示す「情報」(明細書における「発信機ID」に相当=携帯端末の位置の取得に用いられる情報)であるのか,「携帯端末の位置を取得するため」に用いる「処理情報」(明細書における「制御プログラム」に相当)であるのか不明瞭である。(明確性)
また,「処理情報」が制御プログラムを示す場合,発信機が制御プログラムを発信することは明細書に記載されていない。(サポート要件)

請求項:12
備考 :

「前記発信機でカウントされる時間についての情報」について,明細書では「前記発信機でカウントされる時間についての情報」は「タイムスタンプ」と「ビーコン間隔」の2つが記載されており,どちらか一方あるいは両方を示すのかが不明瞭である。(明確性)
また,「前記発信機でカウントされる時間についての情報」が「ビーコン間隔」を含む場合は,「処理情報」が「ビーコン間隔」を含むこととなるが,「ビーコン間隔」が制御プログラムに含まれることも,「ビーコン間隔」を用いて携帯端末で何らかの処理を行うことも,どちらも明細書に記載されていないから,「処理情報」が「携帯端末の位置の取得に用いられる情報」であるとしても,「制御プログラム」であるとしても,明細書に記載されていない。(サポート要件)

請求項:13,19
備考 :

請求項1と同様の理由である。

4.甲号証の記載

(1)特許異議申立人中條澄子による甲第1号証

特許異議申立人中條澄子による甲第1号証である,特開2008-206022号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0026】
移動体位置検出システム1は,位置センサ2(201?215)と,無線タグ3(301,302)と,タグ管理装置4とを備えている。位置センサ201?208は部屋R1?R8の各部屋に配置され,位置センサ209はホールHに配置され,位置センサ210?215は廊下Pに配置されている。無線タグ3は,移動体である被監視者が携帯しており,無線タグ301を携帯する被監視者が部屋R1に,無線タグ302を携帯する被監視者が部屋R3にいる。タグ管理装置4は,無線部41が廊下Pの中央に配置され,管理装置本体42が部屋R7に配置されている。」

「【0029】
次に,位置センサ2の構成について,図2に基づいて詳細に説明する。図2は,図1に示す移動体位置検出システムの位置センサを示すブロック図である。
図2に示すように,位置センサ2は,記憶部21と,電源電圧監視部22と,送信部23と,出力調整部24とを備え,図示しない電池で駆動されるタバコサイズの無線送信装置である。」

「【0032】
送信部23は,記憶部21に格納されたセンサID情報と,電源電圧監視部22から通知された電圧情報とを位置センサ情報として,所定間隔ごとに無線信号で,設置された位置の周囲へ送信するセンサ信号送信手段である。」

「【0034】
次に,無線タグ3の構成について,図3に基づいて詳細に説明する。図3は,図1に示す移動体位置検出システムの無線タグを示すブロック図である。
無線タグ3は,記憶部31と,無線部32と,電源電圧監視部33と,ランプ部34と,ブザー部35と,ボタン部36と,制御部37とを備え,図示しない電池で駆動されるタバコサイズの無線送受信機である。」

「【0042】
次に,タグ管理装置4の構成について,図4に基づいて詳細に説明する。図4は,図1に示す移動体位置検出システムのタグ管理装置を示すブロック図である。
図4に示すように,タグ管理装置4は,無線部41と,管理装置本体42とが,LANで接続されている。この管理装置本体42は,専用のハードウェアとすることもできるが,例えばパーソナルコンピュータにプログラムを動作させることで,実現することができる。なお,図4においては,無線部41と,管理装置本体42との間に位置するハブなどのネットワーク接続装置は,省略している。」

「【0049】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る移動体位置検出システムの動作および使用状態について,図面に基づいて説明する。図5は,本発明の実施の形態に係る移動体位置検出システムの動作を示すシーケンスチャートである。図6および図7は,タグ管理装置の表示部に表示される一例を示す図である。図8は,本発明の実施の形態に係る移動体位置検出システムの動作を示すシーケンスチャートである。
なお,本実施の形態では,無線タグ301を携帯する被監視者が,入り口Eから建物B内に進入し,次に,部屋R1内へ入室する場合を説明する。
【0050】
図5に示すように,ホールHに設置された位置センサ209は,センサID情報(「009」)や電圧情報(「正常」)などを含む位置センサ情報を,所定間隔で送信している(S100)。また,部屋R1に設置された位置センサ201も,センサID情報(「001」)や電圧情報(「正常」)などを含む位置センサ情報を,所定間隔で送信している(S110)。なお,その他の部屋R2?R8に設置された位置センサ202?208や,廊下Pに設置された位置センサ210?215も同様に,それぞれの位置センサ情報を送信している。この位置センサ情報は,センサID情報が記憶部21から読み出され,電圧情報が電源電圧監視部22から通知されることで,送信部23により無線信号で送信される。
【0051】
被監視者が携帯する無線タグ301は,建物Bの外にいるときには,それぞれの位置センサ2の監視範囲外であるので,受信部32bには位置センサ2からの無線信号が到達しない。位置センサ2からの無線信号が受信できない場合,無線タグ301の送信部32aから無用な無線信号を送信しないようにすることで,無線タグ301の消費電力を低減させることができる。また,無線タグ301から無用な無線信号が送信されないので,外部で悪意のある受信者に無線信号を傍受される頻度が低減する。従って,セキュリティの向上を図ることができる。
【0052】
被監視者は,入り口Eから建物Bに入ることでホールHに位置する。すなわち,部屋R1?R8に設置された位置センサ201?208や,廊下Pに設置された位置センサ210?215の監視範囲の外であり,かつホールHに設置された位置センサ209の監視範囲内に,無線タグ301が位置することになる(S120)。位置センサ209からの位置センサ情報を,受信部32bにより受信した無線タグ301は,制御部37が,記憶部31から読み出したタグID情報(「001」)と,電源電圧監視部33からの電圧情報(「正常」)とを,無線タグ情報として,受信した位置センサ情報と共に,送信部32aによりタグ管理装置4へ送信する(S130)。無線タグ301の検出可能範囲内にタグ管理装置4があるので,無線タグ301からの無線信号はタグ管理装置4へ到達可能である。従って,無線タグ301からの位置センサ情報と無線タグ情報とを,タグ管理装置4へ到達させることができる。」

「【0054】
タグ管理装置4では,無線タグ301からの無線タグ情報と,位置センサ情報とが,無線部41の受信部41cにより受信され,通信部41a,42aを介して制御部42eに通知される。
【0055】
制御部42eでは,位置センサ情報に含まれるセンサID情報(「009」)から記憶部42bに格納されたセンサID情報(「009」)に関連付けられた位置情報(ホールH)を検索して,検索された位置情報に基づいて被監視者がいる位置を表示部42cに表示する。また,無線タグ情報に含まれるタグID情報(「001」)から記憶部42bに格納されたタグID情報(「001」)に関連付けられた氏名情報を検索して,検索された氏名情報(「特許太郎」)を表示部42cに表示する。」

「【0062】
ここで,図5に示す位置センサ201からの位置センサ情報において,電圧情報が「電圧低下」であることがタグ管理装置4に通知されている。タグ管理装置4は,この位置センサ201からの電圧情報「電圧低下」を受信したことを契機に,制御部42eが,図7に示すように,表示部42cに電池交換を促すメッセージMを表示するようにしてもよい。なお,本実施の形態では,位置センサ2側にて電圧低下か否かの判断を行っているが,位置センサ2から電圧情報として電池電圧の測定値をそのまま送信するようにして,タグ管理装置4側で電圧低下の判断を行うようにしてもよい。」

「【0065】
次に,建物B内において危険物が載置されているために,部屋R1への入室が禁止されている場合を,図8に基づいて説明する。
【0066】
図8に示すように,入り口Eから建物Bに進入した被監視者が携帯する無線タグ301は,ホールHに設置された位置センサ209からの位置センサ情報を受信して,タグ管理装置4へ送信する(S200)。そして,被監視者は,ホールHを通過して,部屋R1へ入室することで,位置センサ201の監視範囲に入り,位置センサ201からの位置センサ情報を受信する(S210)。無線タグ301は,この位置センサ201からの位置センサ情報を受信すると,タグ管理装置4へ送信する(S220)。
【0067】
タグ管理装置4では,記憶部42bに格納された位置センサ201?215のセンサID情報のうち,部屋R1に設置された位置センサ201のセンサID情報(「001」)に,危険を示す危険情報(選択情報)が付与されている。
【0068】
タグ管理装置4の制御部42eは,受信したセンサID情報(「001」)に危険情報が付与されていることで,受信した無線タグ情報のタグID情報を呼出先情報として,ブザー鳴動およびランプ点灯を指示する制御情報と共に,送信部41bから送信する(S230)。
【0069】
無線タグ301の制御部37は,タグ管理装置4からのタグID情報が,自タグID情報と一致することを判定すると,制御情報からランプ部34を点灯させると共に,ブザー部35を鳴動させる。被監視者は,無線タグ301のランプ部34が点灯し,ブザー部35が鳴動することで,部屋R1への入室が禁止されていることを認識して,部屋R1から退出する(S240)。このように,部屋R1へ入室する被監視者に対してタグ管理装置4から呼び出し,危険を通知することで,遠隔から被監視者へ情報の伝達を行うことができる。部屋R1に設置された位置センサ201のセンサID情報(「001」)に,危険を示す危険情報(選択情報)を付与することで,部屋R1へ入室する全ての被監視者に対して呼び出しを行うことができるが,この危険情報にタグID情報を関連付けることで,部屋R1へ入室する無線タグ3を選択的に制限することも可能である。」

無線タグ3は,位置センサ2からの位置センサ情報を受信するから,位置センサ2が無線タグ3で受信可能な信号を発信していること,「無線タグ301からの位置センサ情報と無線タグ情報とを,タグ管理装置4へ到達させる」から,タグ管理装置4は,無線タグ3から信号を受信すること,はいずれも明らかである。
したがって,「移動体位置検出システム1」は,「少なくとも1つの無線タグ3」「当該無線タグ3で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの位置センサ2」「前記無線タグ3から信号を受信するタグ管理装置4」を備えている。

そして,「部屋R1への入室が禁止されている場合」の動作についてみると,

無線タグ301が「位置センサ209からの位置センサ情報を受信して,タグ管理装置4へ送信」する一方,タグ管理装置4は,「受信したセンサID情報に危険情報が付与されていることで,受信した無線タグ情報のタグID情報を呼出先情報として,ブザー鳴動およびランプ点灯を指示する制御情報と共に,送信部41bから送信」している。
ここで,「位置センサ2が送信したセンサ情報」に「タグID情報」と「電源電圧監視部33からの電圧情報」が付加された情報が「無線タグ情報」であって,該無線タグ情報を無線タグ3がタグ管理装置4へ送信している。

したがって,甲第1号証には,

「少なくとも1つの無線タグ3,当該無線タグ3で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの位置センサ2,および前記無線タグ3から信号を受信するタグ管理装置4を備える移動体位置検出システムであって,
前記位置センサ2は,センサID情報および電源電圧監視部22から通知された電圧情報を含む位置センサ情報を発信し,
前記無線タグ3は,前記位置センサ2から受信した位置センサ情報に含まれるセンサID情報と電源電圧監視部22から通知された電圧情報をタグ管理装置4に送信し,
前記タグ管理装置4は,位置センサ201からの電圧情報「電圧低下」を受信したことを契機に,制御部42eが,電池交換を促すメッセージMを表示し,
建物B内において危険物が載置されているために,部屋R1への入室が禁止されている場合は,
被監視者が携帯する無線タグ301は,ホールHに設置された位置センサ209からの位置センサ情報を受信して,タグ管理装置4へ送信し,
被監視者は,ホールHを通過して,部屋R1へ入室することで,位置センサ201の監視範囲に入り,位置センサ201からの位置センサ情報を受信し,無線タグ301は,この位置センサ201からの位置センサ情報を受信すると,タグ管理装置4へ送信し,
タグ管理装置4では,無線タグ301からの無線タグ情報と,位置センサ情報とが,制御部42eに通知され,
制御部42eでは,位置センサ情報に含まれるセンサID情報から記憶部42bに格納されたセンサID情報に関連付けられた位置情報を検索して,検索された位置情報に基づいて被監視者がいる位置を表示部42cに表示し,
タグ管理装置4では,記憶部42bに格納された位置センサ201?215のセンサID情報のうち,部屋R1に設置された位置センサ201のセンサID情報に,危険を示す危険情報が付与されており,
タグ管理装置4の制御部42eは,受信したセンサID情報に危険情報が付与されていることで,受信した無線タグ情報のタグID情報を呼出先情報として,ブザー鳴動およびランプ点灯を指示する制御情報と共に,送信部41bから送信し,
無線タグ301の制御部37は,タグ管理装置4からのタグID情報が,自タグID情報と一致することを判定すると,制御情報からランプ部34を点灯させると共に,ブザー部35を鳴動させる
システム。」

が記載されている。(以下,「甲1発明」という。)

(2)特許異議申立人中條澄子による甲第2号証

特許異議申立人中條澄子による甲第2号証である,特開2003-219446号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】美術館や観光地のおいて,絵画や名所旧跡などの説明や案内をユーザーが携帯する端末で聴くことができるようにしたガイド・システムが広く用いられている。こうしたガイド・システムとしては,例えば美術館の場合,展示された各絵画の付近に設置された送信機から各絵画の説明を定期的に送信し,ユーザーがその絵画の付近に来たときに携帯端末で受信して説明を聴くものがある。
【0003】しかし,こうした従来のガイド・システムにおいては,ユーザーが説明や案内を1回聴く期間に合わせて送信機から説明や案内が送信されるので,説明や案内の途中で送信機の設置個所に来た者は,その説明や案内を冒頭から聴くことができないという問題があった。
【0004】別のシステムとして,絵画や名所旧跡にそれぞれ番号を付しておき,携帯端末内の記憶装置に,絵画や名所旧跡の説明や案内を,絵画や名所旧跡に付された番号とともに記憶させておき,送信機からは番号情報のみを送信し,携帯端末で番号情報を受信すると,それに対応した説明や案内が再生されるシステムも公知である。しかし,このシステムは,展示されている絵画や名所旧跡の全部についての説明や案内を携帯端末に記憶させておくことが必要であり,必然的に大容量の記憶装置を用いなければならないのでコストが増大するという問題がある。」

したがって,甲第2号証には,

「美術館や観光地のおいて,絵画や名所旧跡などの説明や案内をユーザーが携帯する端末で聴くことができるようにしたガイド・システムにおいて,
絵画や名所旧跡にそれぞれ番号を付しておき,携帯端末内の記憶装置に,絵画や名所旧跡の説明や案内を,絵画や名所旧跡に付された番号とともに記憶させておき,送信機からは番号情報のみを送信し,携帯端末で番号情報を受信すると,それに対応した説明や案内が再生されるシステム。」

が記載されている。

(3)特許異議申立人中條澄子による甲第3号証

特許異議申立人中條澄子による甲第3号証である,特開2011-76404号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0019】
本発明によれば,集配業務における車両,ドライバ及び荷物の状態をリアルタイムに把握できる。」

「【0023】
集配業務システム1は,依頼者から配送依頼された荷物を配送先に届ける集配業務を管理するシステムである。図1に示すように,集配業務システム1は,携帯端末としてのハンディターミナル10と,車載装置としてのクレードル30と,無線タグ60と,本部サーバ80と,PC(Personal Computer)90と,を備える。」

「【0027】
無線タグ60は,集配する荷物に添付される(貼り付けられる)RFIDタグである。無線タグ60には,付される荷物に関する情報が記憶される。無線タグ60は,集荷後に荷物とともに車両2の中に持ち込まれ,輸送後に荷物とともに車両2の外に持ち出される。また,図1で,無線タグ60が,1台で表されているが,少なくとも輸送される荷物の数に対応する台数が用意される。」

「【0075】
センサ70は,無線タグ60が添付される荷物の環境データを検出するセンサである。センサ70は,加速度センサ701,温度センサ702,湿度センサ703,照度センサ704を備える。加速度センサ701は,加速度センサ461と同様である。温度センサ702は,気温を検出してCPU61に出力する。湿度センサ703は,湿度を検出してCPU61に出力する。照度センサ704は,照度を検出してCPU61に出力する。」

「【0144】
次いで,図14?図17を参照して,無線タグ60とコーディネータとの通信に関する処理を説明する。ここでは,コーディネータがクレードル30である場合を説明するが,コーディネータがハンディターミナル10である場合も同様である。図14に,無線タグ60で実行される無線タグ制御処理を示す。図15に,クレードル30で実行される受信処理を示す。図16に,クレードル30で実行される送信処理を示す。図17に,クレードル30で実行されるデータ処理を示す。
【0145】
図14を参照して,無線タグ60で実行される無線タグ制御処理を説明する。無線タグ制御処理は,無線タグ60で荷物に関する各種環境情報を測定してコーディネータ(クレードル30)に送信する処理である。無線タグ60において,例えば,スイッチ62が押下されて電源オンされ,又はRFID部692を介してハンディターミナル10からスタートコマンドがメモリに書き込まれたことをトリガとして,ROM65から読み出されてRAM63に展開された無線タグ制御プログラムと,CPU61との協働で,無線タグ制御処理が実行される。
【0146】
先ず,センサ70により,荷物に関する各種環境情報の測定が開始される(ステップS91)。ステップS91では,加速度センサ701により荷物にかかる加速度が測定され,温度センサ702により温度が測定開始され,湿度センサ703により湿度が測定開始され,照度センサ704により照度が測定開始される。ステップS91以降,環境情報の測定は,周期的に行われる。」

「【0151】
ステップS98の実行後,又はアラームが発生していない場合(ステップS97;NO),PAN部691を介して環境情報の測定データがコーディネータに送信される(ステップS99)。ステップS99では,送信要求が無い場合に,周期的(例えば,1ms?1分)に測定データが送信される。」

「【0161】
図17を参照して,コーディネータ(ここではクレードル30とする)で実行されるデータ処理を説明する。データ処理は,無線タグ60から受信した情報を用いてデータ処理を行う処理である。コーディネータとしてのクレードル30において,例えば,データ処理のための周期的割り込みが発生したことをトリガとして,ROM35から読み出されてRAM33に展開されたデータ処理プログラムと,CPU31との協働で,データ処理が実行される。
【0162】
先ず,フラッシュメモリ37に記憶されている環境情報の測定データの最高値,最低値,平均値が算出されてフラッシュメモリ37に記憶(更新)される(ステップS131)。この最高値,最低値,平均値は,クレードル30に保持する目的のデータとなる。ステップS131では,環境情報の測定データの最高値,最低値,平均値がWWAN部391を介して本部サーバ80に送信される。そして,ステップS107で受信及び記憶されたアラーム情報に基づいて,荷物に異常があるアラームがあるか否かが判定される(ステップS132)。アラームがある場合(ステップS132;YES),荷物異状がドライバに通知され(ステップS133),データ処理が終了する。荷物異状は,例えば,表示部34にアラーム表示されることにより通知される。アラームがない場合(ステップS132;NO),データ処理が終了する。」

「【0217】
また,無線タグ60は,荷物の環境情報(温度,湿度,照度及び前記荷物にかかる加速度)を測定し,コーディネータに送信する。コーディネータは,荷物の環境情報を受信して,その環境情報の最高値,最低値及び平均値を算出して保持する。このため,コーディネータ側で荷物の環境情報を管理できる。また,コーディネータが,荷物の環境情報の最高値,最低値及び平均値を本部サーバ80に送信する。このため,本部サーバ80側で荷物の環境情報をリアルタイムに把握できる。」

したがって,甲第3号証には,

「集配業務における車両,ドライバ及び荷物の状態をリアルタイムに把握する,携帯端末としてのハンディターミナル10と,車載装置としてのクレードル30と,無線タグ60と,本部サーバ80と,PC90と,を備える集配業務システムであって,
無線タグ60は,集配する荷物に添付されるRFIDタグであり,センサ70は,無線タグ60が添付される荷物の環境データを検出するセンサであり,
センサ70により,荷物に関する各種環境情報の測定が開始され,
環境情報の測定データがコーディネータとしてのクレードル30に送信され,
無線タグ60から受信した情報を用いてコーディネータで実行されるデータ処理は,
環境情報の測定データの最高値,最低値,平均値が算出されてフラッシュメモリ37に記憶され,
環境情報の測定データの最高値,最低値,平均値がWWAN部391を介して本部サーバ80に送信され,
本部サーバ80で荷物の環境情報をリアルタイムに把握できる
システム。」

が記載されている。

(4)特許異議申立人中條澄子による甲第6号証

特許異議申立人中條澄子による甲第6号証である,特開2008-154004号公報(下線は当審が付与。)には,以下の記載がある。

「【0026】
動作判定部16は,上記加速度センサ17からの加速度データを常に監視しており,その加速度データにより,当該携帯電話端末に対して所定の振動運動が加えられたか否かを判定する。すなわち本実施形態において,動作判定部16は,上記所定の振動運動として,例えば人が握手をする際に手を上下に振動させるのと略々同じような振動運動が,当該携帯電話端末に加えられたか否かを判定する。より具体的に説明すると,動作判定部16は,携帯電話端末に振動が加えられて一定方向の加速度が所定の閾値を超え,且つその振動回数が規定回数以上になった時に,握手時の上下振動と略々同じような所定の振動運動が携帯電話端末に加えられたと判定する。以下,このような所定の振動運動をハンドシェイク動作と呼ぶことにする。そして,動作判定部16は,当該ハンドシェイク動作を検知した場合には,制御部10のCPUの入力ポートに割り込み信号を送ることにより,上記ハンドシェイク動作が検知されたことを当該制御部10へ伝える。」

したがって,甲第6号証には,

「振動が加えられて一定方向の加速度が所定の閾値を超え,且つその振動回数が規定回数以上になった時に,握手時の上下振動と略々同じような所定の振動運動が携帯電話端末に加えられたと判定する携帯電話端末。」

が記載されている。

5.判断

(1)本件特許発明1について

(1-1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア.特許法第36条第6項について

「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」については,「処理情報」の技術的意味は「携帯端末の位置の取得に用いられる」であることが明らかとなった。

イ.特許異議申立人の平成30年4月20日付けの意見書について

特許異議申立人は,平成30年4月20日付けの意見書において,平成30年2月15日付けの訂正請求に関し,「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」を「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」と訂正することは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである旨の主張を行っている。

特許異議申立人は,訂正前の「前記携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」が「場所」と「処理情報」の関係が一義的であることを示唆する傾向が強いのに対し,訂正後の「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」は,携帯端末の位置の取得という目的と処理情報との関係が多義的であることを示唆する傾向が強いことを理由として,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであると主張しているが,
訂正前の「場所」と「処理情報」の関係が一義的であることの根拠,
訂正後の携帯端末の位置の取得という目的と処理情報との関係が多義的であることの根拠
は,いずれも示されておらず,特許請求の範囲が,どのように拡張し,あるいは変更するものであるのか理解できないから,主張を採用することができない。

また,本件特許の明細書段落【0110】には「なお,この実施例では,展示物OBJ毎に発信機12を設けるため,複数のビーコン信号を受信している場合には,電波強度に基づいて1つの発信機12を特定し,携帯端末14(ユーザ)の位置を取得するようにしてある。」の記載があるから,「携帯端末の位置を取得する」ための情報であることは,明細書に記載されており,新規事項ではないことが明らかである。

なお,その他の主張については,訂正請求にかかる意見ではないから,採用できない。
特に,訂正されていない事項についてのサポート要件違反の主張を行っているが,特許異議申立の理由は,特許法第36条第6項第2号(明確性)と特許法第29条第2項(進歩性)であって,サポート要件違反は新たな理由であるから,採用しない。

(1-2)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

ア.特許法第36条第6項第2号について

2.(1)(1-1)ア.については,取消理由通知に採用した。

2.(1)(1-1)イ.については,
「状態情報」について,段落【0103】に「ただし,この実施例では,状態情報は,MACアドレス,ビーコン間隔,発信機ID,電池電圧計測値,照度センサ計測値,振動回数,電波強度設定値および照度センサ設定閾値である。」と記載されているように,その内容は明確である。
「処理情報」については,明細書において明確に定義はされていないものの,「携帯端末の位置の取得に用いられる」情報であって,本願明細書においては,発信機IDによって発信機の配置位置を取得することが可能であることが記載されているから,その内容は明確である。

なお,特許異議申立人は「処理情報」と「状態情報」は重複しない情報と解釈するのが自然であり,「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と「発信機の状態を示す状態情報」について,両者が意味的に確実に重複しないように適切に定義されていない旨主張している。
まず,「携帯端末が存在する場所を予測可能な処理情報」と「発信機の状態を示す状態情報」が,重複しない情報であるという根拠はない。
さらに,本件特許の明細書段落【0086】に「このため,発信機IDは,発信機12の配置位置についての識別情報(位置ID)ということもできる。」と記載される一方,段落【0103】に「ただし,この実施例では,状態情報は,MACアドレス,ビーコン間隔,発信機ID,電池電圧計測値,照度センサ計測値,振動回数,電波強度設定値および照度センサ設定閾値である。」と記載されているから,「発信機ID」は,「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報」であるとともに「状態情報」でもあることが本件特許の明細書に記載されている。
したがって,「処理情報」と「状態情報」は,重複しうる情報であることは,本件特許の明細書からも明らかであるから,特許異議申立人の主張は採用できない。

2.(1)(1-1)ウ.について,「当該携帯端末が存在する場所に応じた所定の処理」とは,「当該携帯端末が存在する場所」に応じた「所定の処理」,すなわち,「所定の処理」は,「当該携帯端末が存在する場所に応じ」ているという関係を有することが明らかである。
また,「所定の処理」によりどのような結果が得られるかを明確にしなければならない理由は存在しないから,技術的意義が理解できないという主張は採用できない。

2.(1)(1-1)エ.について,「前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する」とは,「中央端末」が「前記携帯端末からの前記状態情報」を受信し,「前記携帯端末からの前記状態情報」を処理することが明らかである。
どのような処理であるのか処理の内容を明確にしなければならない理由は存在しないから,技術的意義が理解できないという主張は採用できない。

イ.特許法第29条第2項について

甲1発明の「位置センサ2」は,本件特許発明1の「発信機」に,
甲1発明の「無線タグ3」は,本件特許発明1の「携帯端末」に,
甲1発明の「タグ管理装置4」は,本件特許発明1の「中央端末」に,
それぞれ相当する。

甲1発明は,センサID情報に基づいて被監視者が携帯する無線タグ3の位置を把握するから,甲1発明の「センサID情報」は,「携帯端末の位置の取得に用いられる情報」に含まれる。
甲1発明の「電圧情報」は,「位置センサ2」の電源電圧監視部22が監視した電圧情報であるから,「発信機の状態を示す状態情報」に含まれる。
甲1発明の「位置センサ情報」は,「センサID情報および電源電圧監視部22から通知された電圧情報」を含み,「無線タグ3」が受信する信号であるから,甲1発明の「位置センサ2」は,「前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信し」ているといえる。

甲1発明の無線タグ3は,位置センサ情報に含まれるセンサIDと電圧情報をタグ管理装置4に送信するから,本件特許発明1の携帯端末とは,「発信機から受信した信号に含まれる処理情報と状態情報について所定の処理を実行」しているといえる。

甲1発明のタグ管理装置4は,電圧情報「電圧低下」を受信したことを契機に電子交換を促すメッセージMを表示するから「前記中央端末は,前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する」といえる。

したがって,本件特許発明1と甲1発明とは,

「少なくとも1つの携帯端末,当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機,および前記携帯端末から信号を受信する中央端末を備えるシステムであって,
前記発信機は,前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信し,
前記携帯端末は,前記発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報と状態情報について所定の処理を実行し,
前記中央端末は,前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する,システム。」

で一致し,

携帯端末が,発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報と状態情報について実行する所定の処理に関し,本件特許発明1は,「前記発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに,当該信号に含まれる前記状態情報を前記中央端末に送信」するのに対し,甲1発明は,「位置センサ情報に含まれるセンサIDと電圧情報をタグ管理装置4に送信する」点で相違する。

相違点について検討すると,甲1発明は,「無線タグ3」,「位置センサ2」,「タグ管理装置4」の3つを備える「移動体位置検出システム」であるのに対し,甲第2号証に記載されるシステムは,「送信機」,「携帯端末」の2つから構成されるシステムであって,甲1発明における「タグ管理装置」に相当する装置は存在しない。
したがって,甲1発明と甲第2号証に記載されるシステムは,同じ「位置検出システム」といえども,異なる構成を前提とするシステムであって,異なる構成のシステムの各要素を組み合わせることはできない。

また,甲1発明は,無線タグにおいてタグIDや設定情報を付加するとしても,受信したセンサID情報や電圧情報に対する処理は行わずに,そのままタグ管理装置4へ送信しており,甲第2号証は,無線タグが受信した情報は全て無線タグ自身で処理され,他の装置へ転送される情報は無いから,仮に甲1発明において,甲第2号証に記載される,送信機から送信される送信機IDに基づいて携帯端末で対応する情報を表示するような構成を採用したとしても,無線タグが受信した「センサID情報(処理情報)」と「電圧情報(状態情報)」の両方を無線タグ自身が処理を行うシステムが想定されるだけである。
結局,「処理情報」と「状態情報」の2種類の情報のうち,「処理情報」を無線タグで処理し,「状態情報」をタグ管理装置へ送信するという,それぞれの情報の種類に応じた処理を行うことについては,甲1発明にも甲第2号証にも記載されていないから,当業者といえども容易に想到しうるものではない。

特許異議申立人は,甲1発明に甲第2号証を採用する阻害要因は存在せず,携帯端末が発信機から受信した番号情報に基づいて中央端末に依存することなく場所に応じた情報またはサービスとしての音声ガイドを提供する点が甲第2号証に記載されているから,甲第1号証に記載された発明および甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に想到し得たものである旨主張しているが,上記のように,携帯端末が受信した情報のうちの片方の情報については自らが処理を行い,他方の情報については中央端末に送信するといった情報の種類に応じた異なる処理を行う点については,甲第1号証にも甲第2号証にも記載されていないから,容易に想到しうるものとすることはできない。

(1-3)小括

取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明1を取り消すことはできない。

(2)本件特許発明2について

(2-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

本件特許発明2は,本件特許発明1において,さらに発信機を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(2-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明2を取り消すことはできない。

(3)本件特許発明3について

(3-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

本件特許発明3は,本件特許発明1または2において,さらに発信機と状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(3-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明3を取り消すことはできない。

(4)本件特許発明4について

(4-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(4-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-2)ア.について,「動いた」とは,一般に「場所を移動」「プログラム等が起動」等複数の意味が存在するものの,詳細な説明において「回数」についての情報は,「振動回数」のみであるから,「動いた回数」が,「振動回数」を意味していることは明らかである。

2.(1)(1-2)イ.について,また,中央端末における「処理」について,中央端末が携帯端末から「回数」を受信して処理することは明確であり,「振動回数」は「状態情報」に含まれる情報であるから,「状態情報」と関連して存在することは明らかである。

(4-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明4は,本件特許発明1-3において,さらに状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(4-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明4を取り消すことはできない。

(5)本件特許発明5について

(5-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(5-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-3)について,「照度センサの検出値についての情報」は「状態情報」に含まれる情報であるから,「状態情報」と関連して存在することは明らかである。

(5-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明5は,本件特許発明1-4において,さらに発信機と状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(5-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明5を取り消すことはできない。


(6)本件特許発明6について

(6-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(6-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-4)について,「照度センサに設定される閾値」は,「照度センサに設定」されるために使用されることは明らかである。

(6-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明6は,本件特許発明5において,さらに状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(6-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明6を取り消すことはできない。

(7)本件特許発明7について

(7-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(7-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-5)ア.について,「前記信号」は,発信機が発信する信号であるから,「発信間隔」とは,発信機が発信する信号が発信される間隔であることが明らかでる。

2.(1)(1-5)イ.について,「前記信号の発信間隔」は「状態情報」に含まれる情報であるから,「状態情報」と関連して存在することは明らかである。

(7-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明7は,本件特許発明1-6において,さらに状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(7-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明7を取り消すことはできない。

(8)本件特許発明8について

(8-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(8-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-6)について,「信号の出力強度についての情報」は「状態情報」に含まれる情報であるから,「状態情報」と関連して存在することは明らかである。

(8-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明8は,本件特許発明1-7において,さらに状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(8-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明8を取り消すことはできない。

(9)本件特許発明9について

(9-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

ア.特許法第36条第6項について

2.(1)(1-7)ア.について,段落【0086】に「発信機IDは,発信機12に割り当てられた識別情報である。」と記載されているように,「発信機に割り当てられた識別情報」は「発信機ID」であり,段落【0083】に「Address2は,発信機12に設けられる送信機(無線通信モジュール22)に割り当てられているMACアドレスの情報である。」と記載されているように,「前記送信機の固有情報」とは,MACアドレスであって,「発信機」に設けられている無線通信モジュールが「送信機」である。
したがって,「前記送信機の固有情報」と「前記発信機に割り当てられた識別情報」の技術的意味は明確である。

2.(1)(1-7)イ.について,「処理情報」と「状態情報」については,5.(1)(1-2)ア.に記載したとおりである。

イ.特許法第29条第2項について

本件特許発明9は,本件特許発明1-8において,さらに発信機と状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(9-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明9を取り消すことはできない。

(10)本件特許発明10について

(10-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(10-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-8)ア.について,「前記発信機の位置に関連する情報」とは,「前記発信機の位置」に関連する情報である。
段落【0086】に「発信機IDは,発信機12に割り当てられた識別情報である。」,「発信機12は,所定の場所に配置されるため,所定の場所に配置された後では,配置位置と発信機IDとを対応づけておくことにより,発信機IDによって発信機12を識別することにより,その配置位置を知ることができる。このため,発信機IDは,発信機12の配置位置についての識別情報(位置ID)ということもできる。」と記載されているように,「発信機ID」は,それ自体は「発信機の識別情報」であって「位置」を表す情報ではないが,配置位置と発信機IDとを対応づけておくことにより位置を知ることができる情報であって,位置IDということも可能であることが記載されているから,「発信機ID」は,「前記発信機の位置に関連する情報」である。
発信機の位置を直接的に表す情報であるかどうかを明確にしなければならない理由は存在しない。

2.(1)(1-8)イ.について,「発信機ID」は「処理情報」に含まれる情報であるから,「処理情報」と関連して存在することは明らかである。

(10-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明10は,本件特許発明1-9において,さらに処理情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(10-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明10を取り消すことはできない。

(11)本件特許発明11について

(11-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(11-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-9)について,請求項1は「当該携帯端末の位置」と訂正されたので,「当該携帯端末の位置」と,「取得した当該携帯端末の位置」との関係は明らかである。

(11-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明11は,本件特許発明10において,さらに携帯端末が実行する処理を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(11-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明11を取り消すことはできない。

(12)本件特許発明12について

(12-1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア.特許法第36条第6項について

取消理由通知に記載した理由については,解消される訂正が行われた。

イ.特許異議申立人の意見について

「発信機でカウントされる時間についての情報」を「タイムスタンプ」とする訂正は,新規事項の追加であって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである旨
タイムスタンプは,位置に関係しない情報であるから,前記処理情報は,タイムスタンプを含むという記載は,処理情報が携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報であることを考慮すれば,技術的に矛盾する旨
の2つを主張している。

(ア)「発信機でカウントされる時間についての情報」を「タイムスタンプ」とする訂正は,新規事項の追加であって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである旨の主張について

まず,本件特許の明細書を参照すれば,「発信機でカウントされる時間」に関する情報は,「タイムスタンプ」と「ビーコン間隔」の2つの情報である。

平成30年4月20日付けの意見書においては,特許異議申立人は,「発信機でカウントされる時間についての情報」に「タイムスタンプ」が含まれないことを,新規事項の追加,あるいは実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである理由と主張していると解される。

しかし,「タイムスタンプ」は,発信機が発信する「ビーコン信号」に含まれる情報であって,明細書段落【0085】に「Time Stampは,タイムスタンプであり,当該ビーコン信号を生成したときの時間(年月日を含む)の情報である。」と記載されているように,「ビーコン信号を生成したときの時間」である。
そして,発信機が発信する「ビーコン信号」は「発信機」が生成することは明らかであるから,「ビーコン信号」に含まれるタイムスタンプも,発信機が生成することは明らかである。
そうすると,タイムスタンプは,発信機が「ビーコン信号」を発信するにあたって,発信機が生成する必要のある「ビーコン信号を生成したときの時間」であるといえる。
ここで,「ビーコン信号を生成した時の時間」を発信機が生成するには,発信機がカウントしておく必要があることは自明であるから,「タイムスタンプ」は,「発信機でカウントされる時間」に関する情報である。
つまり,「発信機でカウントされる時間についての情報」は,「タイムスタンプ」を含むといえる。

したがって,訂正前の「前記発信機でカウントされる時間についての情報」に「タイムスタンプ」は含まないから,「前記発信機でカウントされる時間についての情報」を「タイムスタンプ」と訂正することは,新規事項の追加であって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるとの主張は,採用することができない。

(イ)タイムスタンプは,位置に関係しない情報であるから,前記処理情報は,タイムスタンプを含むという記載は,処理情報が携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報であることを考慮すれば,技術的に矛盾する旨の主張について

a.本件特許の明細書段落【0103】に「時間調整プログラム90dは,受信したビーコン信号に含まれる時間情報(Time Stamp)に基づいて,携帯端末14のマイコン60の内部に設けられるタイマ60aでカウントされる時間(年月日を含む)を調整(補正)するためのプログラムである。したがって,たとえば,時刻を含むガイド情報が提示される場合に,携帯端末14では,調整された正確な時刻によって,当該時刻を含むガイド情報を提供することができる。」と記載されるように,「タイムスタンプ」に基づいて携帯端末14の内部のタイマでカウントされる時間を調整して,当該時刻を含むガイド情報を提供することが記載されている。
つまり,「タイムスタンプ」は,「ガイド画像」の表示に必要な情報であるといえる。

b.「処理情報」は発信機が発信する信号に含まれる情報であって,「前記携帯端末の位置の取得に用いられる」情報であり,携帯端末が「前記処理情報」を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するものである。
そして,「処理情報」が「位置の取得に用いられる」情報であって,「位置の取得のため」の情報,すなわち「位置に関係した情報」ではない。

ここで,本件特許の明細書段落【0056】に「携帯端末14は,発信機12からのビーコン信号を受信し,これに応じて,展示物OBJの説明などのガイド画像を画面表示したり,音声ガイドを出力したりする。さらに,携帯端末14は,発信機12からのビーコン信号を受信し,これに応じて,自身でカウントする時間を調整(補正)する。したがって,正しい時間がユーザに提示される。」と記載されるように,ビーコン信号を受信し,携帯端末14でガイド画像を画面表示したり,カウントする時間を調整することが記載されている。
そして,ガイド画像を画面表示することや,カウントする時間を調整することは,いずれも携帯端末14において処理を実行した結果であることは,技術常識に照らして明らかである。

c.上記によれば,位置の取得を行って「ガイド画像」を表示するために,端末内で処理が行われ,該処理に必要な情報が「処理情報」であって,「タイムスタンプ」は「ガイド画像」の表示に必要な情報であるから,「タイムスタンプ」は「処理情報」に含まれることが明らかである。

(12-2)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

ア.特許法第36条第6項第2号について

2.(1)(1-10)ア.については,取消理由通知に採用した。

2.(1)(1-10)イ.について,「タイムスタンプ」は,「処理情報」に含まれる情報であるから,「処理情報」と関連して存在することは明らかである。

イ.特許法第29条第2項について

本件特許発明12,本件特許発明1-11において,さらに状態情報を限定する発明であるから,5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(12-3)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明12を取り消すことはできない。

(13)本件特許発明13について

(13-1)取消理由通知に記載した取消理由について

(13-1-1)特許法第36条第6項について

5.(1)(1-1)ア.に記載したのと同様の理由により,明らかとなった。

(13-1-2)特許異議申立人の意見について

5.(1)(1-1)イ.に記載したとおりである。

(13-2)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(13-2-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-11)ア.については,取消理由通知に採用した。

2.(1)(1-11)イ.について,5.(1)(1-2)ア.で,2.(1)(1-1)イ.について記載したのと同様である。

2.(1)(1-11)ウ.について,「動いた」とは,一般に「場所を移動」「プログラム等が起動」等複数の意味が存在するものの,詳細な説明において「回数」についての情報は,「振動回数」のみであるから,「動いた回数」は,「振動回数」を意味していることは明らかである。

2.(1)(1-11)エ.について,「自身が動いた回数」は,「状態情報」に含まれる情報であるから,「状態情報」と関連して存在することは明らかである。

(13-2-2)特許法第29条第2項について

甲1発明の「位置センサ2」は,本件特許発明13の「発信機」に,
甲1発明の「無線タグ3」は,本件特許発明13の「携帯端末」に,
それぞれ相当する。

甲1発明の「位置センサ情報」は,「無線タグ3」が受信する信号であるから,「携帯端末で受信可能な信号」に含まれる。

甲1発明の「位置センサ2」が送信する「位置センサ情報」は,センサIDおよび電圧情報を含んでおり,センサIDによって,無線タグを携帯する被監視者の位置を把握するから,甲1発明の「センサID」は,「無線タグの位置の取得に用いられる情報」に含まれ,電圧情報は,「位置センサ2」の電源電圧監視部22が監視した電圧情報であるから,「発信機の状態を示す状態情報」に含まれる。

したがって,本件特許発明13と甲1発明とは,

「携帯端末で受信可能な信号を発信する発信機であって,
前記信号は,前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む,発信機。」

で一致し,

状態情報として,本件特許発明13は,「自身が動いた回数についての情報を含む」のに対し,甲1発明は,電圧情報である点

で相違する。

相違点について検討すると,

甲3発明の「無線タグ60」は,荷物をリアルタイムに把握するために荷物に添付されるものであって,加速度センサは,「移動する荷物」の移動検出処理に用いられている一方,甲1発明は,「無線タグ3」,「位置センサ2」,「タグ管理装置4」の3つを備える「移動体位置検出システム」であって,「位置センサ2」は,部屋,ホール,廊下などに固定的に配置されていて,移動検出処理を行う必要は無い。

さらに,本件の「振動回数」は,段落【0122】に「さらにまた,管理者等は,振動回数に基づいて,発信機12の配置位置が変更されているかどうかを判断する。たとえば,振動回数が多いと,発信機12の配置位置が変更されている可能性があり,この場合には,正しくサービスが提供されていない場合がある。したがって,振動回数が多い場合には,発信機12の配置位置を確認し,正しい位置に戻すことができる。」と記載されるように,基本的に振動しない発信機12において,振動を検出することで異常を検出するための状態情報であるが,甲1発明における「位置センサ2」において,振動を検出することで位置センサの異常を検出することは行われていない。

つまり,甲1発明に甲3発明を組み合わせる動機付けは存在しないし,甲1発明において振動を検出しようとする目的も記載されていないから,仮に加速度センサによって移動回数を求めることが周知技術であったとしても,甲1発明における「位置センサ2」において「動いた回数」を送信するようにすることは当業者にとって容易に想到し得たことである,とはいえない。

したがって,甲1発明,甲第3号証に記載の事項および甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。

(13-3)小括

取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明13を取り消すことはできない。

(14)本件特許発明14について

(14-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(14-1-1)特許法第29条第2項について

本件特許発明14は,本件特許発明13において,さらに発信機を限定する発明であるから,(13)(13-2)(13-2-2)で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(14-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明14を取り消すことはできない。

(15)本件特許発明15について

(15-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(15-1-1)特許法第29条第2項について

本件特許発明15は,本件特許発明13,14において,さらに発信機と状態情報を限定する発明であるから,(13)(13-2)(13-2-2)で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(15-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明15を取り消すことはできない。

(16)本件特許発明16について

(16-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(16-1-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-12)について,請求項16は,「発信機」の発明を記載した請求項であるから,「自身」が発信機を示すことは明確である。

(16-1-2)特許法第29条第2項について

本件特許発明16は,本件特許発明13-15において,さらに処理情報を限定する発明であるから,(13)(13-2)(13-2-2)で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(16-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明16を取り消すことはできない。

(17)本件特許発明17について

(17-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(17-1-1)特許法第29条第2項について

本件特許発明17は,本件特許発明13-16において,さらに信号を限定する発明であるから,(13)(13-2)(13-2-2)で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(17-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明17を取り消すことはできない。

(18)本件特許発明18について

(18-1)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(18-1-1)特許法第29条第2項について

本件特許発明18は,本件特許発明13-17において,さらに信号を限定する発明であるから,(13)(13-2)(13-2-2)で記載したのと同様の理由により,容易に想到しうるものとすることはできない。

(18-2)小括

特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明18を取り消すことはできない。

(19)本件特許発明19について

(19-1)取消理由通知に記載した取消理由について

(19-1-1)特許法第36条第6項について

取消理由通知に記載した理由については,解消される訂正が行われた。

(19-1-2)特許異議申立人の意見について

5.(1)(1-1)イ.に記載したとおりである。

(19-2)取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について

(19-2-1)特許法第36条第6項について

2.(1)(1-13)ア.について,「機器」とは,器具・器械・機械の総称。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であって,その意味は明確であり,本件明細書の段落【0117】-【0124】に管理者が管理できる内容についても記載されており,特に段落【0121】に,「照度センサ28に異常が発生した」ことを推測することが記載されているように,発信機だけを管理しているのではなく,「管理情報」に基づいて管理可能な「機器」を管理していることが明らかである。

2.(1)(1-13)イ.ウ.エ.オ.については,5.(1)(1-2)ア.で記載したのと同様の理由により,明確である。

(19-2-2)特許法第29条第2項について

5.(1)(1-2)イ.で記載したのと同様の理由により,当業者といえども容易に想到しうるものではない。

(19-3)小括

取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明19を取り消すことはできない。


第4.むすび

以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1-19に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1-19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
システム、発信機および管理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、システム、発信機および管理方法に関し、特にたとえば、所定の情報を提供する、システム、発信機および管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された位置情報検出表示システムでは、移動端末装置は、GPS受信部が使用できない場合には、基地局の電波を受信し、その電界強度を測定するとともに基地局識別情報を抽出し、これらのサービスセンタに送信する。サービスセンタは、基地局識別情報に対応する基地局の設置位置を獲得し、この獲得した設置位置とその測定電界強度に基づいて移動端末装置の現在位置を算出し、かつその現在位置に対応する地図を地図データベースから獲得する。そして、サービスセンタは、算出した現在位置と獲得した地図とを移動端末装置に送信する。
【0003】
また、背景技術の他の例が特許文献2に開示されている。特許文献2に開示されたゲートウェイサーバの位置情報提供部は、それぞれ異なる表現形式で生成される携帯機の位置情報を測位センターから取得し、取得した位置情報を位置情報変換装置を介して各IPサーバが取り扱い可能な表現形式に変換し、変換後の位置情報を各IPサーバへ通知する。これによって、各IPサーバは、表現形式の違いを意識することなく各携帯機の位置情報を取得することができる。
【特許文献1】特開2000-348297[G08G 1/137,G01C 21/00,G01S 5/14,H04Q 7/34]
【特許文献2】特開2007-89196[H04Q 7/34,H04M 11/00]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2の背景技術では、信号を発信する基地局の管理という点については想定されていない。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、システム、発信機および管理方法を提供することである。
【0006】
また、この発明の他の目的は、簡単に管理して安定した信号を発信できる、システム、発信機および管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、少なくとも1つの携帯端末、当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機、および携帯端末から信号を受信する中央端末を備えるシステムである。発信機は、携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信する。携帯端末は、発信機から受信した信号に含まれる処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに、当該信号に含まれる状態情報を中央端末に送信する。そして、中央端末は、携帯端末からの状態情報を受信して処理する。
【0008】
第1の発明によれば、発信機は処理情報および状態情報を含む信号を発信するので、これらを受信した携帯端末は当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに発信機の状態情報を収集し、中央端末に送信する。したがって、発信機の状態情報を簡単に管理することができる。また、必要に応じて発信機のメンテナンスを行うことができるので、安定した信号を発信することができる。
【0009】
すなわち、ユーザに所定のサービスを提供するシステムであって、当該システムは、当該サービスの提供に用いられる前記携帯端末と、当該サービスの提供に利用可能な情報を前記携帯端末に発信する発信機、および、携帯端末と通信可能な中央端末を備えている。前記携帯端末は前記発信機が発信した情報を受信し、受信した情報を元に、前記サービスの提供のための処理を実行し、これによってユーザはサービスを享受する。一方、前記発信機は、前記サービスの提供に利用可能な情報の他に、当該発信機の状態を示す情報も同時に発信しており、前記携帯端末は、この情報も受信する。当該携帯端末は受信した前記発信機の状態を示す情報を記憶しておき、前記中央端末と通信可能となった際に、記憶しておいた前記発信機の状態を示す情報を中央端末に送信する。こうして、中央端末は各発信機の情報を集めることができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に従属し、発信機は可搬型である。
【0011】
第2の発明によれば、発信機は可搬型であるため、所望の位置に設置することができ、しかも、設置する場所ないし会場を変更する場合にも、容易に移動および設置することができる。このように、発信機が移動されるような場合には、特に、安定して電源が供給されているかどうかを確認したり、安定して信号が発信されているかどうかを確認したりするなど、発信機の管理が面倒であるが、本発明により、このような場合でも発信機の管理を効率よく行うことができる。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、発信機は、バッテリで駆動される。状態情報は、バッテリの残量についての情報(電池電圧)を含む。
【0013】
第3の発明によれば、状態情報は、バッテリの残量についての情報を含むので、バッテリの残量が少なくなると、電池切れになる前にバッテリを交換ないし充電することができる。つまり、電池切れを回避して、安定した信号を発信することができる。
【0014】
第4の発明は、第1ないし第3の発明に従属し、状態情報は、発信機が動いた回数についての情報を含む。
【0015】
第4の発明によれば、状態情報は、発信機が動いた回数を含むので、動いた回数が多い場合には、予め配置された位置から大幅にずれていることが容易に推測される。したがって、配置位置を元に戻して、安定した信号を発信することができる。
【0016】
第5の発明は、第1ないし第4の発明のいずれかに従属し、発信機は、照度センサを含む。状態情報は、照度センサの検出値についての情報を含む。
【0017】
第5の発明によれば、照度センサの検出値に応じて、発信機の動作および停止を切り替えることができる。特に、バッテリで駆動する場合には、明るさないしは暗さに応じて発信機を動作させることにより、無駄な電力消費を削減することができる。
【0018】
第6の発明は、第5の発明に従属し、状態情報は、照度センサに設定される閾値についての情報をさらに含む。
【0019】
第6の発明によれば、検出した照度が所定の閾値を超えるかどうかに応じて、発信機の動作および停止を切り替えることができ、また、その所定の閾値が正しく設定されているかどうかを判断することができる。つまり、発信機が適切に動作および停止されているかを知ることができるのである。
【0020】
第7の発明は、第1ないし第6の発明のいずれかに従属し、状態情報は、信号の発信間隔についての情報を含む。
【0021】
第7の発明によれば、状態情報は、信号の発信間隔についての情報を含むので、発信機が設定された発信間隔で正しく動作しているかどうかを知ることができる。つまり、携帯端末側で正しく信号を受信できているかどうかを知ることができる。また、発信機がバッテリで駆動される場合には、電力消費を無駄に消費していないかどうかを知ることもできる。
【0022】
第8の発明は、第1ないし第7の発明に従属し、状態情報は、信号の出力強度についての情報を含む。
【0023】
第8の発明によれば、信号の出力強度が正しく設定されているかどうかを知ることができる。
【0024】
第9の発明は、第1ないし第8の発明のいずれかに従属し、発信機は、状態情報を携帯端末に送信する送信機を含む。状態情報は、送信機の固有情報(MACアドレス)および発信機に割り当てられた識別情報(ID)を含む。
【0025】
第9の発明によれば、送信機の固有情報と発信機に割り当てられた識別情報を含むので、発信機を交換した場合であっても、交換後の発信機に同じ識別情報を割り当てることにより、システムを大幅に変更する必要がなく、その運用および管理が楽である。
【0026】
第10の発明は、第1ないし第9の発明のいずれかに従属し、処理情報は、発信機の位置に関連する情報を含む。
【0027】
第10の発明によれば、処理情報は、発信機の位置に関連する情報を含むので、携帯端末では、その情報に基づいた処理を実行することができる。
【0028】
第11の発明は、第10の発明に従属し、携帯端末は、発信機の位置に関する情報を用いて、当該携帯端末の位置を取得し、所定の処理として、取得した当該携帯端末の位置に基づいた処理を実行する。
【0029】
第11の発明によれば、携帯端末の位置を取得することにより、たとえば、当該位置をマップ上に示したり、当該位置に配置されたオブジェクトについての情報を提示したりすることができる。
【0030】
第12の発明は、第1ないし第11の発明のいずれかに従属し、処理情報は、タイムスタンプを含む。
【0031】
第12の発明によれば、タイムスタンプに基づいて、たとえば、携帯端末でカウントしている時間を調整することができる。
【0032】
第13の発明は、携帯端末で受信可能な信号を発信する発信機である。信号は、携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも発信機の状態を示す状態情報を含み、状態情報は、自身が動いた回数についての情報を含む。
【0033】
第13の発明においても、第1の発明と同様に、安定した信号を発信することができる。
また、第4の発明と同様に、配置位置を元に戻して、安定した信号を発信することができる。
【0034】
第14の発明は、第13の発明に従属し、可搬型である。
【0035】
第14の発明においても、第2の発明と同様に、所望の位置に設定することができ、移動も簡単である。
【0036】
第15の発明は、第13または第14の発明に従属し、バッテリで駆動され、状態情報は、バッテリの残量についての情報を含む。
【0037】
第15の発明においても、第3の発明と同様に、電池切れを回避して、安定した信号を発信することができる。
【0040】
第16の発明は、第13ないし第15の発明のいずれかに従属し、処理情報は、自身の位置に関連する情報を含む。
【0041】
第16の発明においても、第10の発明と同様に、携帯端末側で、発信機の位置に関する情報に基づいた処理を実行することができる。
【0042】
第17の発明は、第13ないし第16の発明のいずれかに従属し、信号はビーコン信号である。
【0043】
第17の発明によれば、たとえばユーザが所持して移動される携帯端末ではビーコン信号を受信することができる。
【0044】
第18の発明は、第13ないし第17の発明のいずれかに従属し、信号は宛先を指定せずに発信される。
【0045】
第18の発明によれば、信号は宛先を指定せずに発信されるので、発信機側では受信する相手の情報を知らなくても自身の状態を示す状態情報を知らせることができる。
【0046】
第19の発明は、少なくとも1つの携帯端末、当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機、および携帯端末から信号を受信する中央端末を用いて機器を管理する管理方法である。発信機は、携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信する。携帯端末は、発信機から受信した信号に含まれる処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに、当該信号に含まれる状態情報を中央端末に送信する。そして、中央端末は、携帯端末からの状態情報を受信して処理する。
【0047】
第19の発明においても、第1の発明と同様に、安定した信号を発信することができる。
【発明の効果】
【0048】
この発明によれば、発信機は処理情報および状態情報を含む信号を発信するので、これらを受信した携帯端末は所定の処理を実行するとともに発信機の状態情報を収集し、中央端末に送信する。したがって、発信機の状態情報を簡単に管理することができる。また、必要に応じて発信機のメンテナンスを行うことができるので、安定した信号を発信することができる。
【0049】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1はこの発明のシステムの一実施例を示す図解図である。
【図2】図2は図1に示したシステムが適用される所定の会場の一例を示す図解図である。
【図3】図3は図1に示す発信機の外観構成の一例を示す図解図である。
【図4】図4は図1に示す発信機の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
【図5】図5は図1に示す携帯端末の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
【図6】図6は図1に示す発信機から発信されるビーコン信号の具体的な内容の一例を示す図解図である。
【図7】図7は図1に示す発信機に内蔵されるフラッシュメモリのメモリマップの一例を示す図解図である。
【図8】図8は図1に示す携帯端末に内蔵されるフラッシュメモリのメモリマップの一例を示す図解図である。
【図9】図9は図8に示す状態情報データの具体的な内容の一例を示す図解図である。
【図10】図10は図1に示す中央端末で集計される状態情報の一例を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1を参照して、この発明の一実施例であるシステム10は、複数の発信機12、複数の携帯端末14および中央端末16を含む。図1では、発信機12および携帯端末14が、それぞれ複数台設けられるように示してあるが、これに限定されなくてよい。発信機12および携帯端末14は、いずれか一方または両方が1台でもよい。
【0052】
図2に示すように、たとえば、システム10は、或る展示会場のような所定の会場100で用いられ、複数の発信機12(図2は、「C」を付して示す丸)のそれぞれは所望の位置に配置され、それぞれ独立して動作する。たとえば、所望の位置としては、会場内の通路、部屋、出入り口、ブース、オブジェクト(展示物)の展示位置などが該当するが、図2に示す実施例では、各発信機12は、各展示物OBJの展示位置ないしその近傍に配置される。
【0053】
詳細な説明は省略するが、発信機12は、床に置いたり、壁や天井に固定されたりする。ただし、床に固定するようにしてもよい。固定部材ないし固定器具としては、典型的には、ビスやボルトが用いられるが、場合によっては接着してもよい。
【0054】
また、発信機12は、可搬型であるため、所定の会場100内の所望の位置に配置することができ、また、会場を変更する場合にも、移動および配置が簡単である。
【0055】
携帯端末14(図2では、「M」を付した四角)は、この所定の会場100に訪れたユーザ(図示せず)が使用し、たとえば、管理者等によって所定の会場100に入場する際などに、ユーザに貸与される。図2に示すように、たとえば、ユーザは、携帯端末14を所持して所定の会場100内を実線および矢印で示す順路に従って移動し、展示物OBJを鑑賞する。このとき、携帯端末14を用いて、これを使用するユーザに所定のサービスが提供される。
【0056】
具体的には、携帯端末14は、発信機12からの信号(この実施例では、ビーコン信号)を受信し、これに応じて、所定の会場100のマップ画像(見取り図)を画面表示し、当該携帯端末14またはこれを使用するユーザの現在位置を当該マップ画像上に表示する。たとえば、図2に示すような、所定の会場100を上方向から見た俯瞰図が表示される。または、携帯端末14は、発信機12からのビーコン信号を受信し、これに応じて、展示物OBJの説明などのガイド画像を画面表示したり、音声ガイドを出力したりする。さらに、携帯端末14は、発信機12からのビーコン信号を受信し、これに応じて、自身でカウントする時間を調整(補正)する。したがって、正しい時間がユーザに提示される。
【0057】
ただし、これらは一例であり、携帯端末14は、発信機12からの信号に応じて所定の処理を実行し、その結果として、当該携帯端末14を使用するユーザに、何らかの情報ないしサービスが提供されるのである。
【0058】
また、ユーザは、所定の会場100から退出する際に、管理者等に携帯端末14を返却する。図2では、省略するが、中央端末16は、所定の会場100の出口付近に配置されたり、返却後の携帯端末14が保管される場所などに配置されたり、管理者等が存在する場所に配置されたりする。ただし、中央端末16の配置位置は単なる例示である。後述するように、携帯端末14によって蓄積(収集)された複数の発信機12についての情報(状態情報)が中央端末16によって受信されればよい。
【0059】
状態情報は、所定のタイミングで、携帯端末14から中央端末16に送信される。たとえば、所定のタイミングは、携帯端末14を充電台に置いたタイミングや携帯端末14の所定のスイッチを操作したタイミングなどである。
【0060】
なお、携帯端末14と中央端末16は、直接通信するようにしてもよいが、ネットワークを介して通信するようにしてもよい。
【0061】
図3は、発信機12の外観構成の一例を示す。この実施例の発信機12は、所定の形状および所定の大きさの筐体120を含む。筐体120は、大きく分けて、柱部120a、台座120bおよび蓋部120cの3つの部材で構成される。柱部120aは、筒状に形成され、アルミニウムやステンレスなどの金属またはプラスチックなどの樹脂で形成される。台座120bは、柱部120aをその一方端部において固定し、柱部120aと同様に、金属または樹脂で形成される。詳細な説明は省略するが、柱部120aおよび台座120bを樹脂で構成する場合には、不透明のものが使用され、その内部が見えないようにされる。蓋部120cは、柱部120aの他方端部に着脱可能に形成され、半透明の樹脂で形成される。ただし、蓋部120cは、上面(天面)または側面のうち、後述する照度センサ28が配置される位置に対応する部分のみが透明ないし半透明にされてもよい。
【0062】
図4は、発信機12の電気的な構成の一例を示すブロック図である。図示は省略するが、この図4に示す発信機12の各回路コンポーネントはプリント基盤に実装され、図3に示した筐体120(柱部120aおよび蓋部120c)の内部に収容(収納)される。したがって、図示は省略するが、アンテナ24および照度センサ28は、蓋部120cの内側の位置に実装ないし配置される。これは、ビーコン信号を外部に発信したり、周囲の照度を検出したりするためである。
【0063】
図4に示すように、発信機12は、マイコン20を含み、マイコン20には、無線通信モジュール22、スイッチ26、照度センサ28、振動センサ30、表示ドライバ32、アンプ36、メモリ制御回路40、RTC44、電源制御回路46および電圧検出回路50が接続される。
【0064】
また、無線通信モジュール22には、アンテナ24が接続される。表示ドライバ32には、LCD34が接続される。アンプ36には、スピーカ38が接続される。メモリ制御回路40には、フラッシュメモリ42が接続される。そして、電源制御回路46および電圧検出回路50には、バッテリ48が接続される。
【0065】
マイコン20は、発信機12の全体制御を司り、所定時間毎に、後述する所定の信号(ビーコン信号)を生成し、生成したビーコン信号を、宛先を指定せずに無線通信モジュール22およびアンテナ24を介して発信(送信)する。無線通信モジュール22は、所定の無線規格(この実施例では、IEEE802.11b)に従う通信装置であって、マイコン20から与えられるビーコン信号を、アンテナ24から出力(発信)する。
【0066】
スイッチ26は、図示は省略するが、十字スイッチおよび押圧スイッチを含み、ビーコン信号についての各設定事項を設定および変更するために用いられる。照度センサ28は、汎用の照度センサであり、発信機12の周辺の照度を検出し、検出値をマイコン20に与える。振動センサ30は、汎用の傾斜(角)センサであり、傾斜または移動されたこと(振動)を検出し、検出結果をマイコン20に与える。したがって、マイコン20で、振動回数が計測される。
【0067】
なお、この実施例では、発信機12はバッテリ48で駆動されるため、出来る限り消費電力を少なくするように、傾斜(角)センサを用いるようにしてある。ただし、発信機12を商用電源で駆動する場合には、電池切れを考慮しなくて良いため、傾斜(角)センサに代えて加速度センサを用いることができる。
【0068】
表示ドライバ32は、マイコン20の指示の下、LCD34の表示を制御する。LCD34には、発信機12の各設定事項を設定する際の画面が表示される。図示は省略するが、各設定項目に割り当てられた番号とその設定値が表示される。したがって、LCD34に代えて、2つの7セグメントLEDを備える表示器を用いるようにしてもよい。この場合、一方の7セグメントLEDが設定事項を識別する数字や記号を表示し、他方の7セグメントLEDが設定値の数字または設定値に対応する記号を表示する。
【0069】
アンプ36は、マイコン20からの音信号を増幅し、増幅した音信号をスピーカ38に出力する。この実施例では、振動センサ30によって、発信機12の振動が検出された場合に、音(アラーム)を出力する(鳴らす)。メモリ制御回路40は、マイコン20の指示の下、フラッシュメモリ42にデータを書き込んだり、フラッシュメモリ42からデータを読み出したりする。
【0070】
なお、この実施例では、フラッシュメモリ42を用いているが、EEPROMのような他の不揮発性メモリでもよい。また、不揮発性メモリは、マイコン20に内蔵してもよい。
【0071】
RTC44は、時間(年月日を含む。)をカウントする時計回路であり、カウントした時間のデータをマイコン20からの要求に応じて与える。電源制御回路46は、マイコン20の指示の下、バッテリ48から供給される電源電圧を降圧および整流(ノイズ除去)して、各回路コンポーネントに、供給および停止するための回路である。ただし、詳細な説明は省略するが、マイコン20およびRTC44には、常時電源が付与されている。
【0072】
バッテリ48は、複数本(この実施例では、4本)の1次電池または2次電池であり、直列接続される。電圧検出回路50は、バッテリ48の電圧値を検出し、検出した電圧値のデータをマイコン20に与える。このように、発信機12をバッテリ48からの電源によって駆動するのは、発信機12の配置位置が商用電源の供給を受けるためのコンセント(図示せず)の位置によって制約されるのを回避するためである。
【0073】
図5は、携帯端末14の電気的な構成の一例を示すブロック図である。以下、携帯端末14の各回路コンポーネントについて説明するが、先に説明した発信機12と同じコンポーネントについては簡単に説明することにする。
【0074】
図5に示すように、携帯端末14は、マイコン60を含み、マイコン60には、無線通信モジュール62、スイッチ66、表示ドライバ68、メモリ制御回路72および電源制御回路76が接続される。マイコン60は、携帯端末14の全体制御を司る。マイコン60には、タイマ60aが内蔵され、時間(年月日を含む)がカウントされる。無線通信モジュール62は、所定の無線規格(発信機12の無線通信モジュール22と同じ。)に従う通信装置である。この実施例では、無線通信モジュール62は、発信機12からのビーコン信号を、アンテナ64を介して受信し、マイコン60に与える。また、マイコン60から与えられた発信機12の状態についての情報(状態情報)を、アンテナ64を介して中央端末16に送信する。状態情報については、後で詳細に説明することにする。
【0075】
スイッチ66は、図示は省略するが、十字スイッチおよび押圧スイッチを含み、携帯端末14で実行される所定の処理の開始や終了を指示したり、この所定の処理の処理結果についてのLCD70への表示を指示したりするために用いられる。ただし、スイッチ66に代えてタッチパネルのようなポインティングデバイスを設けるようにしてもよい。
【0076】
表示ドライバ68は、マイコン60の指示の下、LCD70の表示を制御する。上述したように、所定の処理の処理結果が表示される。この実施例では、所定の会場100のマップ画像および携帯端末14ないしユーザの現在位置がLCD70に表示されたり、携帯端末14ないしユーザの現在位置におけるイベントや展示物OBJの説明の内容(ガイド画像:画像およびテキスト、またはテキストのみ)が表示されたりする。
【0077】
なお、図示は省略するが、表示ドライバ68には、描画用のメモリ(VRAM)が内蔵されており、マイコン60から与えられる画像データは、VRAMに一旦記憶され、その後、LCD70に出力される。
【0078】
メモリ制御回路72は、マイコン60の指示の下、フラッシュメモリ74にデータを書き込んだり、フラッシュメモリ74からデータを読み出したりする。電源制御回路76は、マイコン60の指示の下、バッテリ78からの電源電圧を降圧および整流し、各回路コンポーネントに供給および停止する。
【0079】
図示は省略するが、中央端末16は、汎用のPCないしサーバのようなコンピュータであり、この実施例では、通信機能を備えており、携帯端末14と無線通信が可能である。
【0080】
図6(A)は、上述したビーコン信号のフレームフォーマットを示す図解図である。このフレームフォーマットは、無線規格によって予め決定されている。この実施例では、IEEE802.11bの規格に従うため、図6(A)に示すように、ビーコン信号は、物理ヘッダ(この実施例では、15byte)、MACヘッダ(この実施例では、24byte)、データ(この実施例では、31byte)およびFSC(4byte)によって構成される。
【0081】
なお、物理ヘッダ(PLCPプリアンブルとPCLPヘッダ)およびFSC(巡回冗長検査(CRC32))は、上記の無線規格のとおりであるため、これらの説明については省略することにする。
【0082】
MACヘッダ(IEEE802.11bヘッダ)は、さらに、Frame Control(2byte)、Duration ID(2byte)、Address1(6byte)、Address2(6byte)、Address3(6byte)およびSequence Control(2byte)によって構成される。
【0083】
Frame Controlは、フレームの種類等であり、この実施例では、ビーコン信号であることを示す情報が記述される。Duration IDは、電波を使用する予定期間(フレーム送信に必要な時間)の情報である。Address1は、宛先のMACアドレスの情報である。この実施例では、宛先は特定の携帯端末14に指定されず、ブロードキャストされるので、ブロードキャストを示す情報が記憶される。Address2は、発信機12に設けられる送信機(無線通信モジュール22)に割り当てられているMACアドレスの情報である。Address3も、Address2と同様に、発信機12に設けられる送信機(無線通信モジュール22)に割り当てられているMACアドレスの情報である。Sequence Controlは、シーケンス番号またはフラグメント番号の情報である。
【0084】
図6(B)に示すように、この実施例では、ビーコン信号に含まれるデータ(Frame Body(payload))には、Time Stamp(8byte)、Beacon Interval(2byte)、発信機ID(2byte)、電池電圧計測値(1byte)、照度センサ計測値(1byte)、振動回数(1byte)、電波強度設定値(1byte)および照度センサ設定閾値(1byte)などが含まれる。
【0085】
Time Stampは、タイムスタンプであり、当該ビーコン信号を生成したときの時間(年月日を含む)の情報である。この時間の情報は、RTC44から取得される。Beacon Intervalは、ビーコン信号の出力(発信)間隔である。この実施例では、発信間隔は、1秒程度と、比較的長い時間に設定される。これは、発信機12はバッテリ48によって駆動されるため、出来る限り消費電力を低減させるためである。また、ビーコン信号(電波)が届く範囲(20?30m程度)と、ユーザの移動速度(歩行速度)とを考慮して、当該範囲内で移動するユーザが所持する携帯端末14でビーコン信号を確実に受信できるように設定される。発信機12を商用電源によって駆動する場合には、電池切れを考慮しなくて良いため、発信間隔を1秒よりも短くして(たとえば、0.1秒)、携帯端末14でより確実にビーコン信号(電波)を受信できるようにすることもできる。また、実際にはビーコン信号には上記または以下に説明するもの以外にも、無線規格に定められたものや、独自の実装に係る様々な情報を示すデータが含まれる。
【0086】
発信機IDは、発信機12に割り当てられた識別情報である。この実施例では、番号(シリアル番号)が各発信機12に割り当てられる。上述したように、発信機12は、所定の場所に配置されるため、所定の場所に配置された後では、配置位置と発信機IDとを対応づけておくことにより、発信機IDによって発信機12を識別することにより、その配置位置を知ることができる。このため、発信機IDは、発信機12の配置位置についての識別情報(位置ID)ということもできる。また、この実施例では、システム10自体がなんらかのサービス(ユーザ体験)を提供するものであり、発信機IDは、そのサービスで用いられる携帯端末14において、ユーザの体験を実現するために用いられる情報であるともいうことができる。より具体的には、サービスはユーザ(携帯端末14)が居る場所に応じた体験を提供するものであり、このサービスで利用可能な情報とは、ユーザが居る場所を予測可能な情報であることを意味する。
【0087】
電池電圧計測値は、計測したバッテリ48の電圧値の情報である。照度センサ計測値は、計測した照度の情報である。振動回数は、発信機12の振動(移動や傾き)を検知した回数の情報である。電波強度設定値は、電波強度(この実施例では、無線出力)の設定値についての情報である。照度センサ設定閾値は、当該発信機12を動作させるか停止させるかを判断するために設定された照度の閾値である。各発信機12は、配置される位置ないし場所が異なり、検出する照度の大きさも様々であるため、個別に照度センサ設定閾値が決定されている。
【0088】
なお、照度に応じて、発信機12を動作させたり停止させたりしない場合には、照度センサ28は不要であり、かかる場合には、照度センサ計測値および照度センサ設定閾値の情報は、ビーコン信号に含めなくてよい。たとえば、発信機12を動作させる期間(開始時刻および終了時刻)を設定しておき、RTC44でカウントされる時間が当該期間の開始時刻になると発信機12を動作させ、当該期間の終了時刻になると発信機12を停止させてよい。この場合には、期間の情報がビーコン信号に含まれる。ただし、期間として、曜日や日付をさらに指定するようにしてもよい。
【0089】
また、上述したように、この実施例では、振動センサ30によって発信機12の振動が検出された場合には、アラームを鳴らすようにするため、振動回数は、アラームの鳴動回数と言うこともできる。また、アラームの鳴動時間を設定可能にする場合には、その設定値(アラーム鳴動時間設定値)をビーコン信号に含めるようにしてもよい。
【0090】
図7は、図4に示した発信機12に含まれるフラッシュメモリ42のメモリマップの一例を示す。図7に示すように、フラッシュメモリ42は、プログラム記憶領域80およびデータ記憶領域82を含む。プログラム記憶領域80には、発信機12の制御プログラムが記憶され、この制御プログラムは、動作切替プログラム80a、発信プログラム80b、操作入力検出プログラム80c、設定プログラム80dおよび検出情報取得プログラム80dなどによって構成される。
【0091】
動作切替プログラム80aは、照度に応じて、発信機12の動作および停止を切り替えるためのプログラムである。つまり、動作切替プログラム80aは、後述する発信プログラム80bを開始したり終了したりする。たとえば、日中にシステム10によるサービスを提供する場合には、照度が或る程度明るい場合に発信機12を動作させ、暗くなると発信機12を停止させる。また、たとえば、博物館等の建物の中でシステム10によるサービスを提供する場合には、開館時間中で照明が付いている間に発信機12を動作させ、閉館時間となり、照明が消えた際には、自動で発信機12を停止させるといったことが可能である。一方、夜間にシステム10によるサービスを提供する場合には、照度が或る程度暗い場合に発信機12を動作させ、明るくなると発信機12を停止させてもよい。この明るさないし暗さを判定するために、照度センサ設定閾値が設定されており、照度センサ28によって検出された照度と比較することにより、発信機12の動作および停止が切り替えられる。ただし、上述したように、期間に応じて、発信機12を動作および停止させてもよい。
【0092】
発信プログラム80bは、ビーコン信号を生成し、生成したビーコン信号を発信するためのプログラムである。ただし、ビーコン信号は、後述する設定プログラム80cに従って設定されたビーコン間隔(この実施例では、1秒間隔)で、生成および発信される。また、ビーコン信号を生成するとき、後述する設定値データ82aおよび計測値データ82bが参照され、各設定事項の設定値および計測値が取得されるとともに、無線通信モジュール22からMACアドレスが取得される。
【0093】
操作入力検出プログラム80cは、スイッチ26からの操作信号を検出するためのプログラムである。設定プログラム80dは、操作入力検出プログラム80cに従って検出された操作信号に基づいて、発信機12の各設定事項(この実施例では、発信機ID、ビーコン間隔、電波強度、照度センサ設定閾値)についての初期設定または変更を行うためのプログラムである。各設定事項についてのデータ(設定値データ82a)は、データ記憶領域82に記憶される。ただし、電波強度(無線出力)は、データ記憶領域82に記憶されるとともに、無線通信モジュール22に設定される。
【0094】
検出情報取得プログラム80eは、照度センサ28、振動センサ30および電池電圧検出回路50の出力を検出し、照度、振動回数および電圧値の計測値についてのデータをフラッシュメモリ42に記憶するためのプログラムである。
【0095】
なお、図示は省略するが、プログラム記憶領域80には、発信機12を制御するための他のプログラムも記憶される。
【0096】
データ記憶領域82には、設定値データ82aおよび計測値データ82bなどが記憶される。
【0097】
設定値データ82aは、設定プログラム80dに従って設定または変更した各設定事項の設定値についてのデータである。つまり、設定値データ82aは、発信機ID、ビーコン間隔、電波強度、照度センサ設定閾値についてのデータである。計測値データ82bは、センサ情報検出プログラム80dに従って検出された計測値についてのデータである。
【0098】
なお、図示は省略するが、データ記憶領域82には、発信機12の制御プログラムの実行に必要な他のデータが記憶されたり、その制御プログラムの実行に必要なカウンタ(タイマ)やフラグが設けられたりする。
【0099】
図8は図5に示した携帯端末14に内蔵されるフラッシュメモリ74のメモリマップの一例を示す。図8に示すように、フラッシュメモリ74は、プログラム記憶領域90およびデータ記憶領域92を含む。
【0100】
プログラム記憶領域90には、携帯端末14の制御プログラムが記憶され、この制御プログラムは、通信プログラム90a、マップ表示プログラム90b、ガイド表示プログラム90c、時間調整プログラム90dおよび状態情報抽出プログラム90eなどによって構成される。
【0101】
通信プログラム90aは、他の機器と通信するためのプログラムであり、この実施例では、発信機12からのビーコン信号を受信したり、後述する状態情報データ92eを中央端末16に送信したりする。マップ表示プログラム90bは、後述するマップ画像データ92bを用いて所定の会場100のマップ画像をLCD70に表示するとともに、後述する現在位置データ92dを用いて当該マップ画像上に当該携帯端末14ないしこれを所持するユーザの現在位置を表示するためのプログラムである。
【0102】
ガイド表示プログラム90cは、後述するガイド画像データ92cを用いて、ガイド画像をLCD70に表示するためのプログラムである。ここでは、ガイド画像を表示するようにしてあるが、上述したように、音声ガイドを出力するようにしてもよい。かかる場合には、ガイド画像に代えて、音声ガイドのデータを記憶しておき、図示等は省略するが、携帯端末14のスピーカやイヤホンジャックから出力するようにしてもよい。また、ガイド画像の表示および音声ガイドの出力の両方を実行するようにしてもよい。
【0103】
時間調整プログラム90dは、受信したビーコン信号に含まれる時間情報(Time Stamp)に基づいて、携帯端末14のマイコン60の内部に設けられるタイマ60aでカウントされる時間(年月日を含む)を調整(補正)するためのプログラムである。したがって、たとえば、時刻を含むガイド情報が提示される場合に、携帯端末14では、調整された正確な時刻によって、当該時刻を含むガイド情報を提供することができる。状態情報抽出プログラム90eは、受信したビーコン信号に含まれる状態情報を抽出し、対応する状態情報データ92eを記憶するためのプログラムである。ただし、この実施例では、状態情報は、MACアドレス、ビーコン間隔、発信機ID、電池電圧計測値、照度センサ計測値、振動回数、電波強度設定値および照度センサ設定閾値である。
【0104】
なお、図示は省略するが、プログラム記憶領域90には、携帯端末14を制御するための他のプログラムも記憶される。
【0105】
データ記憶領域92には、発信機配置位置データ92a、マップ画像データ92b、ガイド画像データ92c、現在位置データ92dおよび状態情報データ92eなどが記憶される。
【0106】
発信機配置位置データ92aは、各展示物OBJに対応して配置されている各発信機12の配置位置と、各発信機12の発信機IDとが対応づけられた対応表のデータである。たとえば、発信機12の配置位置としては、後述するマップ画像上の座標やその近傍に配置される展示物OBJの識別情報が記憶される。したがって、発信機IDに基づいて、マップ画像上の位置やオブジェクトOBJを特定することができる。
【0107】
マップ画像データ92bは、図2に示した所定の会場100を上方から俯瞰的に見た俯瞰図(マップ画像)に対応する画像データである。ただし、マップ画像には、所定の会場100に展示された各展示物OBJも識別可能に表示されている。
【0108】
ガイド画像データ92cは、ガイド画像に対応するデータである。上述したように、この実施例では、ガイド画像は、展示物OBJの内容を説明する情報(画像およびテキスト、テキストのみ)である。図示は省略するが、ガイド画像データ92cは、各展示物OBJについてのガイド画像のデータを含み、各ガイド画像のデータは、対応する展示物OBJの近傍に配置された発信機12の発信機IDに対応づけて記憶される。
【0109】
現在位置データ92dは、当該携帯端末14ないしこれを使用するユーザの現在位置に対応する位置データである。上述したように、発信機配置位置データ92aは、各発信機12の配置位置と各発信機の発信機IDとを対応づけて記憶するため、現在位置データ92dとしては、受信したビーコン信号に含まれる発信機IDが記憶される。ただし、図2に示したように、各発信機12は、対応する展示物OBJの近傍に配置されるため、たとえば、2つの展示物OBJの間に携帯端末14(ユーザ)が存在する場合には、当該携帯端末14はそれぞれの近傍に配置される発信機12からのビーコン信号を受信する場合がある。したがって、この実施例では、ビーコン信号を受信したときの電波強度を検知するようにしてある。そして、携帯端末14では、複数のビーコン信号を受信した場合には、最も電波強度が強いビーコン信号の発信元である発信機12が当該携帯端末14(ユーザ)に最も近い位置に配置されていると判断して、最も電波強度が強いビーコン信号に含まれる発信機IDを現在位置データ92dとして記憶するようにしてある。
【0110】
なお、この実施例では、展示物OBJ毎に発信機12を設けるため、複数のビーコン信号を受信している場合には、電波強度に基づいて1つの発信機12を特定し、携帯端末14(ユーザ)の位置を取得するようにしてある。ただし、複数のビーコン信号に基づいて、携帯端末14(ユーザ)の位置を算出(取得)するようにしてもよい。たとえば、ソニーコンピュータサイエンス研究所によって開発されたPlaceEngine(登録商標)などの技術を用いることによって算出することができる。
【0111】
状態情報データ92eは、受信したビーコン信号に含まれる発信機12についての状態情報についてのデータである。図9は、図8に示した状態情報データ92eの具体的な内容の一例を示す。状態情報データ92eは、ビーコン信号の発信元(送信元)である発信機12の設定ないし動作についての状態および当該発信機12の周囲の状態(周囲環境)についてのデータである。図9に示すように、状態情報データ92eは、発信機12毎に記憶される、第1状態情報データ920、第2状態情報データ922、…を含む。
【0112】
第1状態情報データ920は、MACアドレスデータ920a、ビーコン間隔データ920b、発信機IDデータ920c、電池電圧計測値データ920d、照度センサ計測値データ920e、振動回数データ920f、電波強度設定値データ920gおよび照度センサ設定閾値データ920hを含む。
【0113】
これらは、ビーコン信号に含まれるデータ(情報)であり、各内容については上述したとおりであるため、重複した説明は省略する。また、第2状態情報データ922なども、第1状態情報データ920と同様である。
【0114】
詳細な説明は省略するが、携帯端末14では、このような状態情報データ92eが記憶(蓄積)されるが、同じ発信機12からのビーコン信号を受信した場合には、対応する状態情報データは上書き(更新)される。
【0115】
また、携帯端末14に記憶された状態情報データ92eは、中央端末16で集計される。上述したように、携帯端末14に記憶された状態情報データ920は、中央端末16に送信されたり、コピー(移動)されたりする。中央端末16では、たとえば、1日単位ですべての発信機12についての状態情報を集計する。図10に示すように、発信機ID(この実施例では、1、2、3、…)毎に、状態情報すなわちMACアドレス、ビーコン間隔[sec]、電池電圧計測値[V]、照度センサ計測値[lx]、振動回数、電波強度設定値[mW]および照度センサ設定閾値[lx]が記憶される。ただし、この実施例では、複数の携帯端末14が設けられるため、中央端末16では、複数の携帯端末14から同じ発信機IDの状態情報データを受信した場合には、最新の状態情報データに従って状態情報が上書きされる。ただし、電池電圧は温度によっても変化するため、複数の携帯端末14から送信された電池電圧のうち、最小となる電池電圧を記憶するようにしてもよい。
【0116】
なお、図10では、簡単のため、各状態情報についての具体的な値を記載せずに、横棒で示してある。
【0117】
また、図10では省略するが、たとえば、電池電圧計測値および照度センサ計測値の欄には、複数(多数)の計測値のうちの代表値(最大値、最小値、平均値、標準偏差値など)が記述される。このとき、複数の携帯端末14で蓄積された状態情報が集計される。また、携帯端末14では、電池電圧計測値および照度センサ計測値は、時系列に従って記憶されているため、時間毎に代表値を算出して、記憶するようにしてもよい。この場合には、時間毎の代表値の時間変化をグラフで表示することもできる。
【0118】
このように、状態情報として、MACアドレスのみならず、発信機IDを管理するため、発信機12を交換した場合にも、交換後の発信機12に同じ発信機IDを割り当てることにより、システム10を変更する手間を省くことができる。たとえば、中央端末16では、交換した発信機12についてはMACアドレスが変わるだけであり、データベースを大幅に変更する必要がない。また、発信機IDが変化されないため、各携帯端末14に記憶されているデータ(発信機配置位置データ92a、マップ画像データ92b、ガイド画像データ92c)をそのまま使用することができる。したがって、システムの運用および管理が楽である。
【0119】
管理者等は、本発明のシステム10を利用することによって、ひとつひとつの発信機12の位置を見て回ることなく、各発信機12のビーコン間隔、電波強度設定値および照度センサ設定閾値を確認することができ、これらが設定値になっているかどうかを判断する。設定値からずれている発信機12がある場合には、個別に、設定値を変更することができる。したがって、管理者等が意図した設定値で発信機12を動作させて、安定したビーコン信号を発信することができる。また、発信機12毎に設定値を変えるような場合に、各発信機12に適した設定値となっているかどうかを確認することができる。
【0120】
また、管理者等は、予め取得している電池特性を参照し、電池電圧計測値に応じてバッテリ48の残量を知ることができる。このため、予めバッテリ48を交換ないし充電することにより、電池切れを回避して、安定したビーコン信号を発信することができる。
【0121】
さらに、管理者等は、照度センサ計測値と照度センサ設定閾値とに基づいて、発信機12の動作および停止が正しく切り替えられているかどうかを知ることができる。また、照度センサ計測値が明らかに他と異なる場合には、照度センサ28に異常が発生したのではないか、または当該発信機12の近傍に障害物等が置かれたのではないか等の推測ができる。
【0122】
さらにまた、管理者等は、振動回数に基づいて、発信機12の配置位置が変更されているかどうかを判断する。たとえば、振動回数が多いと、発信機12の配置位置が変更されている可能性があり、この場合には、正しくサービスが提供されていない場合がある。したがって、振動回数が多い場合には、発信機12の配置位置を確認し、正しい位置に戻すことができる。
【0123】
この実施例によれば、携帯端末は発信機からのビーコン信号を受信し、ビーコン信号に含まれる発信機IDに基づいて所定の処理を実行したり、ビーコン信号に含まれる状態情報を中央端末に送信したりするので、携帯端末を用いることにより、ユーザが本来のサービスを受けながら、発信機の状態情報を収集することができる。したがって、システムないし発信機の管理者等は、中央端末での集計結果に応じて、各発信機の状態情報を確認し、必要に応じて発信機をメンテナンスすることができる。つまり、簡単に発信機を管理して、安定してビーコン信号を発信することができる。その結果、安定したサービスを提供することができる。
【0124】
なお、この実施例では、ビーコン信号を受信した携帯端末では、マップ画像を表示したり、ガイド画像を表示したり、時間を調整したりするようにしたが、これらすべての処理(サービス)が実行されなくてもよい。少なくとも1つの処理が実行されればよい。また、これらのサービスとは異なるサービスが提供されてもよい。たとえば、テーマパークにおいて、各店舗の店頭に発信機を設置しておき、発信機からのビーコン信号を受信すると、該当する店舗で使用できるクーポンが携帯端末のLCDに表示されたり、所定のキャラクタが携帯端末のLCDに表示されたりしてもよい。
【0125】
また、この実施例では、電波でビーコン信号を発信するようにしたが、携帯端末で受信可能であれば、超音波、赤外線、可視光線などでビーコン信号を発信するようにしてもよい。ただし、赤外線は指向性を有しているため、発信機を設定する場合に、設置位置のみならず、設置方向が考慮される。
【0126】
さらに、この実施例によれば、十字スイッチおよび押圧スイッチを操作することにより、各設定事項を設定するようにしたが、各設定事項に対応したディップスイッチによって設定するようにしてもよい。
【0127】
さらにまた、この実施例によれば、携帯端末から中央端末に、状態情報を無線通信で送信するようにしたが、これに限定される必要はない。携帯端末と中央端末とを有線接続して、状態情報を送信してもよい。また、状態情報をSDカードのような外部記憶媒体に記憶し、当該SDカードを中央端末に装着して、状態情報を移動(コピー)してもよい。
【0128】
また、この実施例では、所定の会場として、或る展示会場にシステムを適用した場合について説明したが、或るイベント会場に適用することができる。かかる場合には、各イベントが行われている場所のマップ画像および現在位置を提示したり、各イベントの内容のガイドを提示したりすることができる。
【0129】
さらに、この実施例では、所定の会場のような屋内に発信機を配置する場合について説明したが、屋外に配置してもよい。たとえば、景色や動植物が見られる場所に発信機を配置しておき、携帯端末を所持するユーザに、マップ画像および現在位置を提示したり、景色や動植物についてのガイドを提示したりすることができる。
【0130】
さらにまた、この実施例で示した状態情報は一例であり、限定されるべきではない。たとえば、状態情報として、発信機の配置位置における、温度、湿度、音(周囲音)、気圧、風速などを検出するようにしてもよい。ただし、必要に応じて、それぞれを検知するセンサが設けられる。たとえば、周囲音を検出する場合には、所定の音量(閾値)を設定しておき、所定の閾値以上の音(音声)を検知すると、人間が近くに存在すると判断し、ビーコン信号の発信を開始するようにし、検知する音が所定の閾値未満である場合には、ビーコン信号を発信しないようにすることができる。つまり、発信機の周囲音に応じて、当該発信機を動作させたり、停止させたりすることもできる。
【符号の説明】
【0131】
10 …システム
12 …発信機
14 …携帯端末
16 …中央端末
20,60 …マイコン
22,62 …無線通信モジュール
28 …照度センサ
30 …振動センサ
34,70 …LCD
42,74 …フラッシュメモリ
44 …RTC
46,76 …電源制御回路
48,78 …バッテリ
50 …電圧検出回路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの携帯端末、当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機、および前記携帯端末から信号を受信する中央端末を備えるシステムであって、
前記発信機は、前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信し、
前記携帯端末は、前記発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに、当該信号に含まれる前記状態情報を前記中央端末に送信し、
前記中央端末は、前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する、システム。
【請求項2】
前記発信機は可搬型である、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記発信機は、バッテリで駆動され、
前記状態情報は、前記バッテリの残量についての情報を含む、請求項1または2記載のシステム。
【請求項4】
前記状態情報は、前記発信機が動いた回数についての情報を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記発信機は、照度センサを含み、
前記状態情報は、前記照度センサの検出値についての情報を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記状態情報は、前記照度センサに設定される閾値についての情報をさらに含む、請求項5記載のシステム。
【請求項7】
前記状態情報は、前記信号の発信間隔についての情報を含む、請求項1ないし6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記状態情報は、前記信号の出力強度についての情報を含む、請求項1ないし7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記発信機は、前記状態情報を前記携帯端末に送信する送信機を含み、
前記状態情報は、前記送信機の固有情報および前記発信機に割り当てられた識別情報を含む、請求項1ないし8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記処理情報は、前記発信機の位置に関連する情報を含む、請求項1ないし9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記携帯端末は、前記発信機の位置に関する情報を用いて、当該携帯端末の位置を取得し、前記所定の処理として、取得した当該携帯端末の位置に基づいた処理を実行する、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
前記処理情報は、タイムスタンプを含む、請求項1ないし11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
携帯端末で受信可能な信号を発信する発信機であって、
前記信号は、前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含み、
前記状態情報は、自身が動いた回数についての情報を含む、発信機。
【請求項14】
可搬型である、請求項13記載の発信機。
【請求項15】
バッテリで駆動され、
前記状態情報は、前記バッテリの残量についての情報を含む、請求項13または14記載の発信機。
【請求項16】
前記処理情報は、自身の位置に関連する情報を含む、請求項13ないし15のいずれかに記載の発信機。
【請求項17】
前記信号はビーコン信号である、請求項13ないし16のいずれかに記載の発信機。
【請求項18】
前記信号は宛先を指定せずに発信される、請求項13ないし17のいずれかに記載の発信機。
【請求項19】
少なくとも1つの携帯端末、当該携帯端末で受信可能な信号を発信する少なくとも1つの発信機、および前記携帯端末から信号を受信する中央端末を用いて機器を管理する管理方法であって、
前記発信機は、前記携帯端末の位置の取得に用いられる処理情報および少なくとも前記発信機の状態を示す状態情報を含む信号を発信し、
前記携帯端末は、前記発信機から受信した信号に含まれる前記処理情報を用いて当該携帯端末の位置に応じた所定の処理を実行するとともに、当該信号に含まれる前記状態情報を前記中央端末に送信し、そして
前記中央端末は、前記携帯端末からの前記状態情報を受信して処理する、管理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-17 
出願番号 特願2011-171803(P2011-171803)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H04M)
P 1 651・ 121- YAA (H04M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松平 英  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 吉田 隆之
佐藤 実
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5912330号(P5912330)
権利者 任天堂株式会社
発明の名称 システム、発信機および管理方法  
代理人 山田 義人  
代理人 山田 義人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ