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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1343913
異議申立番号 異議2018-700344  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-25 
確定日 2018-09-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6216936号発明「反応型化成処理用酸性組成物および化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6216936号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6216936号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成26年1月6日に特許出願(優先権主張 平成25年1月24日)され、平成29年10月6日にその特許権の設定登録がされ、同年10月25日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年4月25日付けで、その請求項1?14に係る特許に対し、特許異議申立人 細川桂司により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6216936号の請求項1?14の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明14」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
水溶性コバルト含有物質を含有しない、反応型化成処理用酸性組成物であって、
クロム換算で0.02mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質と、
チタン換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性チタン含有物質と、
カルボン酸換算で0.001mol/L以上0.2mol/L以下のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり、
前記酸性組成物における、前記クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第一比率が0.05以上0.8以下であり、及び/又は、
前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第二比率が0.05以上2以下である、
反応型化成処理用酸性組成物。

【請求項2】
前記カルボン酸化合物がクエン酸化合物である請求項1に記載の酸性組成物。

【請求項3】
前記第一比率が0.1以上0.6以下である、請求項1または2に記載の酸性組成物。

【請求項4】
前記第一比率が0.2以上0.4以下である、請求項1または2に記載の酸性組成物。

【請求項5】
前記カルボン酸化合物がシュウ酸である請求項1に記載の酸性組成物。

【請求項6】
前記第二比率が0.1以上1.7以下である、請求項1または5に記載の酸性組成物。

【請求項7】
前記第二比率が1以上2以下である、請求項1または5に記載の酸性組成物。

【請求項8】
水溶性バナジウム含有物質、フッ素を含有する水溶性物質を含有しない、請求項1から7のいずれか1項に記載の酸性組成物。

【請求項9】
水溶性コバルト含有物質を含有しない、反応型化成処理用酸性組成物であって、
クロム換算で0.01mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質と、
チタン換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性チタン含有物質と、
カルボン酸換算で0.001mol/L以上0.2mol/L以下のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり、
前記酸性組成物における、前記クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第一比率が0.05以上0.8以下であり、及び/又は、
前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第二比率が0.05以上2以下であり、
リン換算で0.001mol/L以上1mol/L以下の有機ホスホン酸化合物をさらに含有する、反応型化成処理用酸性組成物。

【請求項10】
亜鉛換算で0.005mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性亜鉛含有物質をさらに含有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の酸性組成物。

【請求項11】
水溶性コバルト含有物質を含有しない、反応型化成処理用酸性組成物であって、
クロム換算で0.01mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質と、
チタン換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性チタン含有物質と、
カルボン酸換算で0.001mol/L以上0.2mol/L以下のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり、
前記酸性組成物における、前記クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第一比率が0.05以上0.8以下であり、及び/又は、
前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第二比率が0.05以上2以下であり、
アルミニウム換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性アルミニウム含有物質をさらに含有する、
反応型化成処理用酸性組成物。

【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載される酸性組成物を、金属系表面を有する基材に接触させて、当該基材の前記金属系表面上に化成皮膜を形成する接触工程と、
前記接触工程を経た前記基材を洗浄して、前記化成皮膜をその表面に備える部材を得る洗浄工程とを備えること
を特徴とする、化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法。

【請求項13】
前記金属系表面が、塩化浴から形成された亜鉛系めっき皮膜の面、ジンケート浴から形成された亜鉛系めっき皮膜をベーキング処理して得られる皮膜の面、およびジンケート浴から形成された亜鉛系めっき皮膜であってベーキング処理されていない皮膜の面のいずれかである、請求項12に記載の部材の製造方法。

【請求項14】
水溶性コバルト含有物質を含有しない、反応型化成処理用酸性組成物であって、
クロム換算で0.01mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質と、
チタン換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性チタン含有物質と、
カルボン酸換算で0.001mol/L以上0.2mol/L以下のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり、
前記酸性組成物における、前記クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第一比率が0.05以上0.8以下であり、及び/又は、
前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第二比率が0.05以上2以下である、
酸性組成物を、金属系表面を有する基材に接触させて、当該基材の前記金属系表面上に化成皮膜を形成する接触工程と、
前記接触工程を経た前記基材を洗浄して、前記化成皮膜をその表面に備える部材を得る洗浄工程とを備え、
前記金属系表面がジンケート浴から形成された亜鉛系めっき皮膜であってベーキング処理して得られた皮膜の面であり、前記カルボン酸化合物が前記シュウ酸化合物を含む、化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法。


第3 異議申立の理由について
特許異議申立人は、以下の甲各号証を証拠として提出し、概ね次のように主張している。

<申立理由の概要>
本件発明1、5?8及び10?13は、甲第1号証に記載された発明であって、また、本件発明1?4、8及び10は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない出願に対してされたものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

さらに、本件発明1、5?8、10?13は甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件発明9は甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項に基づいて、本件発明12、13は甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された事項に基づいて、本件発明13、14は甲第1号証に記載された発明と周知技術(甲第4?6号証)または甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第4?6号証)に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない出願に対してされたものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

そして、本件発明1?4、8、10、11は甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件発明1?4、8、10、11?13は甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された事項に基づいて、本件発明9は甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項に基づいて、本件発明13、14は甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された事項及び周知技術(甲第4?6号証)に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない出願に対してされたものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<証拠>
甲第1号証:特開2005-248233号公報
甲第2号証:特開2003-171778号公報
甲第3号証:特開2010-196174号公報
甲第4号証:特開2003-3270号公報
甲第5号証:特開2004-18920号公報
甲第6号証:特開2004-360049号公報


第4 当審の判断
1 本件発明1?8について
1-1 甲第1号証について
1-1-1 甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の記載がある。

(1ア)「本発明は、亜鉛及び亜鉛合金めっき上で6価クロムを含有しない3価クロム主体の処理溶液に接することで得られる皮膜が、従来の6価クロムを主成分とするクロメート処理の皮膜の耐食性と同等であること、更には、従来の6価クロメート皮膜と同等以下の総合摩擦係数となる皮膜を提供することを目的とする。」(【0004】)

(1イ)「本発明の3価クロメート処理溶液用の皮膜総合摩擦係数低減剤はキノリン系化合物又はその誘導体を含有する。キノリン系化合物又はその誘導体としては、例えばキノリンから誘導される1価又は2価の置換基(7種の異性構造がある)を有する酸若しくはそれらの塩(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩)が挙げられる。好ましくは、水溶性のキノリン系化合物又はその誘導体であり、-SO_(3)H、-COOH、-OH、-CHO、-CH_(2)COOH、-NH_(2)、-C_(8)H_(4)O_(3)(-C_(2)O_(3)・C_(6)H_(4))、-C_(8)H_(5)O_(2)(-CH=CO_(2)・C_(6)H_(4))等の置換基を有する酸又はそれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が好ましい。具体的には、キノリンスルホン酸、キナルジン酸、キノフタロン、キノリル酢酸が好ましく、特にキノリンスルホン酸が好ましい。本発明において、キノリン系化合物又はその誘導体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の前記低減剤はいずれの3価クロメート処理溶液に対しても使用できる。3価クロメート処理溶液に添加する前記低減剤の量は、3価クロメート処理溶液中のキノリン系化合物又はその誘導体の濃度が0.1?25g/Lとなるような量であるのが好ましく、より好ましくは0.2?15g/Lとなるような量である。キノリン系化合物又はその誘導体の濃度を上記範囲とすることで、総合摩擦係数が低減した皮膜を形成するのに適した3価クロメート処理溶液を得ることができる。
キノリン系化合物又はその誘導体を含む総合摩擦係数が低減した皮膜を形成するための3価クロメート処理溶液としては、例えば以下の処理溶液が挙げられ、各処理溶液中のキノリン系化合物又はその誘導体の濃度は、好ましくは0.1?25g/Lであり、より好ましくは0.2?15g/Lである:
[3価クロメート処理溶液(1)]
3価クロムイオンとシュウ酸イオンとを0.5?1.5モル比で含有し、
3価クロムがシュウ酸との水溶性錯体の形態で存在し、
コバルトイオンがシュウ酸と難溶性の金属塩を形成して沈殿することなしに、3価クロメート処理溶液中に安定に存在する前記処理溶液であって、
亜鉛又は亜鉛合金めっきを該処理溶液に接触させたときに、亜鉛と反応して、亜鉛とクロムとコバルトとシュウ酸とキノリン系化合物又はその誘導体とを含む3価クロメート皮膜を亜鉛又は亜鉛合金めっき上に形成する前記処理溶液;
[3価クロメート処理溶液(2)]
3価クロムイオン、
Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオン、及び
塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン及びその組み合わせからなる群より選ばれる無機酸イオンを含有する3価クロメート処理溶液;及び
[3価クロメート処理溶液(3)]
3価クロムイオン、
Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオン、
塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン及びその組み合わせからなる群より
選ばれる無機酸イオン、及び
3価クロムイオンと水溶性錯体を形成する有機酸を含有する3価クロメート処理溶液。」(【0007】)

(1ウ)「本発明の3価クロメート処理溶液(1)において、3価クロムイオンの供給源としては3価クロムを含むいずれのクロム化合物も使用することができるが、好ましくは、塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩を使用し、又はクロム酸や重クロム酸塩等の6価クロムを、還元剤にて3価に還元することもできる。上記3価クロムの供給源は、1種あるいは2種以上を使用することができる。」(【0009】)

(1エ)「本発明の3価クロメート処理溶液(2)において、3価クロムイオンの供給源は上記処理溶液(1)と同様である。処理溶液中の3価クロムの濃度は、排水処理性の観点からすると、できるだけ低濃度とするのが好ましいが、耐食性を考慮して、0.2?10g/Lが好ましく、1?5g/Lがもっとも好ましい濃度である。本発明においてこの低濃度範囲で3価クロムを用いると、排水処理、経済的にも有利である。」(【0011】)

(1オ)「Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオンの供給源としては、それらを含むいずれの化合物も使用できるが、水溶液中でイオン化し易い硝酸塩、硫酸塩、塩化塩等の無機酸塩が好ましい。これらのイオンの処理溶液中の濃度は、合計で0.2?10g/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.5?8g/Lである。特に耐食性を向上させるためには2.0g/L以上であるのがよい。これらのイオンの皮膜中の含有量は処理溶液中の濃度の増加に従って増え、それに比例して皮膜の耐食性も向上する。」(【0011】)

(1カ)「本発明の前記処理溶液(2)のpHは0.5?4にするのが好ましい。より好ましくは1?3である。この範囲にpHを調整するために、前記無機酸イオンを用いてもよく、又水酸化アルカリ、アンモニア水などのアルカリ剤を用いてもよい。」(【0011】)

(1キ) 「本発明の3価クロメート処理溶液(3)は、上記処理溶液(2)に3価クロムイオンと水溶性錯体を形成する有機酸を加える。前記有機酸としては、シュウ酸等のカルボン酸若しくはそれらの塩(例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩)が挙げられ、これらの有機酸は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。有機酸の濃度は0.2?13g/Lであるのが好ましく、より好ましくは2?11g/Lである。処理溶液中の三価クロムと有機酸とのモル比は、0.5?1.5であるのが好ましく、より好ましくは0.8?1.3である。
本発明の上記処理溶液(1)?(3)における上記必須成分の残分は水である。」(【0012】)

(1ク)「【表1】

」(【0015】)

(1ケ)「【表2】

」(【0016】)

(1コ)「【表3】

」(【0018】)

1-1-2 甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証の記載事項(1イ)には、「3価クロメート処理溶液」に「皮膜総合摩擦係数低減剤」としての「キノリン系化合物又はその誘導体」を含有させることが記載されているところ、同記載事項(1イ)には、「本発明の前記低減剤はいずれの3価クロメート処理溶液に対しても使用できる」ことも記載されており、同「低減剤」を添加する前の「3価クロメート処理溶液」は、同「低減剤」なしでも処理溶液として機能するものとして存在するといえることから、甲第1号証に記載された同「低減剤」を添加する前の「3価クロメート処理溶液」に着目して甲第1号証に記載された発明を認定する。

(イ)甲第1号証の記載事項(1キ)において、「本発明の3価クロメート処理溶液(3)は、上記処理溶液(2)に3価クロムイオンと水溶性錯体を形成する有機酸を加える。」とされていることから、同記載事項(1カ)における「本発明の前記処理溶液(2)のpHは0.5?4」との記載により、3価クロメート処理溶液(3)のpHも0.5?4であると認められる。

(ウ)同記載事項(1エ)には、「3価クロメート処理溶液(2)において、3価クロムイオンの供給源は上記処理溶液(1)と同様である。」と記載され、上記処理溶液(1)の3価クロムイオンの供給源は、同記載事項(1ウ)に記載のとおり「3価クロムを含むいずれのクロム化合物も使用することができるが、好ましくは、塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩を使用し、又はクロム酸や重クロム酸塩等の6価クロムを、還元剤にて3価に還元することもできる。上記3価クロムの供給源は、1種あるいは2種以上を使用することができる。」とされているところ、上記(イ)と同様に、3価クロメート処理溶液(3)における3価クロムイオンの供給源も、「3価クロムを含むいずれのクロム化合物も使用することができるが、好ましくは、塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩を使用し、又はクロム酸や重クロム酸塩等の6価クロムを、還元剤にて3価に還元することもできる。上記3価クロムの供給源は、1種あるいは2種以上を使用することができる。」ものと認められる。

(エ)同記載事項(1エ)には、3価クロメート処理溶液(2)の3価クロムの濃度について、「0.2?10g/Lが好ましく」と記載されているところ、上記(イ)と同様に、3価クロメート処理溶液(3)の3価クロムの濃度についても、「0.2?10g/Lが好まし」いものと認められる。

(オ)同記載事項(1オ)には、3価クロメート処理溶液(2)は「Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオン」を含有し、その濃度が、「合計で0.2?10g/Lであるのが好ましく」と記載されており、上記(イ)と同様に、3価クロメート処理溶液(3)においても、「Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオン」を含有し、その濃度が、「合計で0.2?10g/Lであるのが好まし」いものと認められる。

(カ)同記載事項(1キ)には、3価クロメート処理溶液(3)は有機酸を含むものであって、「有機酸としては、シュウ酸等のカルボン酸若しくはそれらの塩(例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩)」であり、「有機酸の濃度は0.2?13g/Lであるのが好ましく」、さらに、「三価クロムと有機酸とのモル比は、0.5?1.5であるのが好ましく」と記載されている。

(キ)以上のことから、本件請求項1の記載に則して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「pH0.5?4の3価クロメート処理溶液であって、
3価クロム濃度が1?5g/Lとなる塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩又はクロム酸や重クロム酸塩等の6価クロムを還元剤にて3価に還元したクロム化合物と、
Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオンを合計で0.2?10g/Lと、
塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン及びその組み合わせからなる群より選ばれる無機酸イオンと、
濃度0.2?13g/Lでシュウ酸等のカルボン酸化合物とを含有し、
三価クロムとシュウ酸とのモル比は、0.5?1.5である
3価クロメート処理溶液。」

1-1-3 本件発明1と甲1発明との対比

(ア)甲第1号証の記載事項(1ア)には、「亜鉛及び亜鉛合金めっき上で6価クロムを含有しない3価クロム主体の処理溶液」であると記載されていることから、甲1発明における「pH0.5?4の3価クロメート処理溶液」は、本件発明1における「反応型化成処理用酸性組成物」に相当する。

(イ)甲1発明における「3価クロム濃度が1?5g/L」は、クロム換算(クロム原子のモル質量52.00g/molで除算)で0.02mol/L以上0.1mol/L以下にあたるから、甲1発明における「3価クロム濃度が1?5g/Lとなる塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩又はクロム酸や重クロム酸塩等の6価クロムを還元剤にて3価に還元したクロム化合物」は、本件発明1における「クロム換算で0.02mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質」に相当する。

(ウ)同記載事項(1キ)に記載のとおり、「処理溶液(1)?(3)における上記必須成分の残分は水である。」ことから、甲1発明における「塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩又はクロム酸や重クロム酸塩等の6価クロムを還元剤にて3価に還元したクロム化合物」は、本件発明1における「水溶性三価クロム化合物」に相当する。

(エ)甲1発明におけるシュウ酸等のカルボン酸化合物の「濃度0.2?13g/L」について、シュウ酸の場合、カルボン酸換算(シュウ酸((COOH)_(2))はカルボキシ基を2つ有し、シュウ酸1molはカルボン酸換算では2molであることから、シュウ酸のモル質量90.036g/molで除して2倍する)で0.004mol/L以上0.28mol/L以下にあたるから、甲1発明における「濃度0.2?13g/Lでシュウ酸等のカルボン酸化合物とを含有し」は、本件発明1における「カルボン酸換算で0.004mol/L以上0.2mol/L以下のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり」に相当する。

(オ)甲1発明における「三価クロムとシュウ酸とのモル比は、0.5?1.5である」は、本件発明1における「前記酸性組成物における、前記クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第一比率が0.05以上0.8以下であり、及び/又は、
前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率である第二比率が0.05以上2以下である」について、「前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率が0.5以上1.5以下である」に相当する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、

「反応型化成処理用酸性組成物であって、
クロム換算で0.02mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質と、
カルボン酸換算で0.004mol/L以上0.2mol/L以下のカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、シュウ酸化合物を含んでおり、
前記酸性組成物における、前記シュウ酸化合物のシュウ酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率が0.5以上1.5以下である、
反応型化成処理用酸性組成物。」

の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)本件発明1は、「水溶性コバルト含有物質を含有しない」ものであって、「チタン換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性チタン含有物質」を含有するものであるのに対し、甲1発明は、「Alイオン、Siイオン、Tiイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン及びその組み合わせからなる群より選ばれるイオンを0.2?10g/Lとを含有」するものである点

(相違点2)本件発明1では、無機酸イオンを含有する点が特定されていないのに対し、甲1発明は、「塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、燐酸イオン及びその組み合わせからなる群より選ばれる無機酸イオン」を含有するものである点

1-1-4 相違点の検討
上記相違点1について検討すると、甲1発明は、選択肢としてCoイオンを含まずTiイオンを含む場合も態様として有してはいるとしても、甲第1号証の記載事項(1ク)?(1コ)の実施例において、Coイオンは必須成分となっている一方、Tiイオンを添加した例はないことも踏まえると、甲1発明において、Coイオンを含まずTiイオンを含む態様を敢えて選択する動機付けはなく、当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
そして、それにより、本件発明1は、「水溶性コバルト含有物質を用いることなく、耐食性に優れ、環境保全への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な化成処理液が提供される」という格別顕著な効果を奏するものである。

1-1-5 小括
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
なお、異議申立人は異議申立理由として主張してはいないが、甲第2?6号証には、甲1発明において、Coイオンを含まずTiイオンを含む態様とする示唆の記載は認められないことから、甲1発明と甲第2?6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。


1-2 甲第2号証について
1-2-1 甲第2号証の記載
甲第2号証には以下の記載がある。

(2ア)「本発明の目的は、亜鉛、ニッケル、銅、銀、鉄、カドミウム、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金表面に保護皮膜を形成させるに当たり、有害な六価クロムを用いず、腐食性の強いフッ素化合物を必須成分とせず、均一で良好な外観と六価クロムを用いた処理に匹敵する安定した耐食性を兼ね備えた皮膜を生成させることにある。」(【0004】)

(2イ)「本発明の水性酸性液状組成物は、・・・(2)三価クロム、Ti、V、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Wから成る群から選択される少なくとも一種と有機酸及び/又はリンの酸素酸、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸等の無機酸及び/又はこれらの塩から成る群から選択される少なくとも一種、並びにLi、Na、K、Be、Co、Mg、Ca、Al、Ni、Siから成る群から選択される少なくとも一種、更には任意成分としてフッ素を含有する組成物」(【0006】)

(2ウ)「(2)の組成物における各成分の正確な挙動は不明であるが三価クロム、Ti、V、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Wは水酸化物や塩として析出したり、置換により金属表面に析出するなどして皮膜の骨格をなすものと推定され、有機酸及び/又はリンの酸素酸、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸等の無機酸及び/又はこれらの塩は金属成分の液中での安定性の確保及び亜鉛、ニッケル、銅、銀、鉄、カドミウム、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金表面を適度にエッチングしスムーズな皮膜生成に寄与していると推測する。加えてLi、Na、K、Be、Co、Mg、Ca、Al、Ni、Siは皮膜生成を制御し、皮膜構造を腐食電流が分散しやすく変化させることにより耐食性向上に寄与しているものと推測する。三価クロム、Ti、V、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Wは塩又は金属酸化物塩等例えば塩化クロム、硫酸クロム、硫酸チタン、チタン酸アンモニウム、バナジン酸ソーダ、塩化マンガン、モリブデン酸アンモニウム等で供給されるが供給源を制限するものではない。これらは液中では一部が電離し、適当な平衡状態を保っているものと推測する。また、これらの総量は0.01?150g/Lで0.5?80g/Lが好ましい。これより少ないと良好な皮膜生成が行われにくく、皮膜が生成しなかったり、皮膜が薄く要求する性能が得られなかったりする。また、これより多量な場合は皮膜外観・光沢性が低下したり耐食性が低下したりする。加えるならばくみ出しによる経済的損失も大きくなり適当でない。」(【0009】)

(2エ)「有機酸及び/又はリンの酸素酸、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸等の無機酸及び/又はこれらの塩としては任意の薬品が使用可能であり、使用薬品を制限するものではない。これらの総量は0.01?300g/Lで、1?100g/Lが好ましい。これより少ないと良好な皮膜生成が行われないばかりか、沈殿生成や平衡の移動により液の安定性が低下する。これより多量な場合は金属表面のオーバーエッチングによる処理外観不良が発生する上に良好な耐食性も得られなくなる。pHは0.1?6.5で、1.0?4.0が好ましい。これより低いと均一な皮膜化成が難しくなり、高いとやや耐食性が低下する傾向がある。pHの調整に用いる薬品としては、高いpHの場合には硝酸、硫酸などの酸を、低いpHの場合にはアンモニア水、水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加すれば良く、添加薬品を制限するものではない。」(【0010】)

(2オ)「Li、Na、K、Be、Co、Mg、Ca、Al、Ni、Siは塩又は水酸化物、酸化物等例えば塩化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸コバルト、ケイ酸ナトリウム等で供給されるが供給源を制限するものではない。これらの総量は0.1?300g/Lで、1?200g/Lが好ましい。これより少ないと耐食性向上効果が得られにくくなり、多いと処理外観が低下する。加えるならばくみ出しによる経済的損失も大きくなり適当でない。」(【0011】)

(2カ)「実施例25
亜鉛-鉄合金めっきした鉄板(50×100×1mm)を塩化クロム20g/L、クエン酸5g/L、硝酸5g/L、チタン酸アンモニウム5g/L、酢酸マグネシウム5g/Lを含みアンモニア水でpH2.2に調整した処理液に40秒間浸漬後、濯ぎ工程を行わずに乾燥して試験片を作製した。外観を目視で評価し、耐食性は塩水噴霧試験(JIS Z 2371)における240時間経過時点での表面状態により評価した。」(【0049】)

1-2-2 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の記載事項(2ア)?(2オ)からみて、同記載事項(2カ)における「処理液」は、表面に保護皮膜を形成させる「水性酸性液状組成物」であると認められる。
したがって、甲第2号証には、実施例25に基づいて認定した以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「塩化クロム20g/L、
チタン酸アンモニウム5g/L、
クエン酸5g/L、
硝酸5g/L、酢酸マグネシウム5g/Lを含み
アンモニア水でpH2.2に調整した
表面に保護皮膜を形成させる水性酸性液状組成物。」

1-2-3 本件発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明における「塩化クロム20g/L」は、クロム換算(塩化クロムCrCl_(3)のモル質量158.4g/molで除算)で0.13mol/Lにあたるから、甲2発明における「塩化クロム20g/L」は、本件発明1における「クロム換算で0.13mol/Lの水溶性三価クロム含有物質」に相当する。

(イ)甲2発明における「チタン酸アンモニウム」は水溶性であることから、本件発明1と甲2発明とは、「水溶性チタン含有物質」を有することで一致する。

(ウ)甲2発明における「クエン酸5g/L」は、カルボン酸換算(クエン酸(C(OH)(CH_(2)COOH)_(2)COOH)はカルボキシ基を3つ有し、クエン酸1molはカルボン酸換算では3molであることから、クエン酸のモル質量192.124g/molで除して3倍する)で0.078mol/Lにあたるから、甲2発明における「濃クエン酸5g/L」は、本件発明1における「カルボン酸換算で0.078molのカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり」に相当する。

(エ)甲2発明において、クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率は、上記(ア)及び(イ)から、0.078/0.13=0.6であると認められる。

(オ)甲2発明における「アンモニア水でpH2.2に調整した
表面に保護皮膜を形成させる水性酸性液状組成物」は、本件発明1における「反応型化成処理用酸性組成物」に相当する。

以上のことから、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、

「反応型化成処理用酸性組成物であって、
クロム換算で0.13mol/Lの水溶性三価クロム含有物質と、
水溶性チタン含有物質と、
カルボン酸換算で0.078molのカルボン酸化合物とを含有し、
前記カルボン酸化合物は、クエン酸化合物およびシュウ酸化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでおり、
前記酸性組成物における、前記クエン酸化合物のクエン酸換算含有量(単位:mol/L)の水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量(単位:mol/L)に対する比率が0.6である
反応型化成処理用酸性組成物。」

の点で一致し、次の点で相違している。

(相違点3)本件発明1は、「クロム換算で0.02mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質」を含有するものであるのに対し、甲2発明は、「クロム換算で0.13mol/Lの塩化クロム」を含有するものである点

(相違点4)水溶性チタン含有物質について、本件発明1は、「チタン換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下」を含有しているのに対し、甲2発明は、水溶性チタン含有物質としての「チタン酸アンモニウム」の化学式が不明であり、そのモル質量に基づく含有量が不明な点

(相違点5)本件発明1では、硝酸、酢酸マグネシウムを含有する点が特定されていないのに対し、甲2発明は、「硝酸5g/L、酢酸マグネシウム5g/L」を含有するものである点

1-2-4 相違点の検討
上記相違点3について検討すると、異議申立人は、「クロム換算で0.13mol/Lの塩化クロムは、有効数字の観点から、クロム換算で0.02mol/L以上0.1mol/L以下の水溶性三価クロム含有物質に包含される。」から、本件発明と甲2発明とは相違しない旨主張している。
しかしながら、本件発明の実施例1において(【0077】)、硝酸クロムの建浴時含有量は、Cr換算で42mmol/L、すなわち0.042mol/Lであって、小数点以下3桁まで有効数字としていることから、本件発明1における「0.1mol/L以下」は、「0.100mol/L以下」と理解することができる。
してみると、上記相違点3は実質的な相違点であり、甲2発明において、クロム換算で0.100mol/Lの塩化クロムとする動機付けは認められないから、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。

また、異議申立人は、記載事項(2ウ)には、三価クロムの濃度が0.5?80g/L(0.01?1.5mol/L)であることが記載されているから、相違点3は設計的事項にすぎない旨主張しているが、記載事項(2ウ)における「0.5?80g/L」は、「三価クロム、Ti、V、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Wから成る群から選択される少なくとも一種」の総量であって、酸化クロムは選択肢の1つにすぎないことから、記載事項(2ウ)に基づいて、甲2発明から本件発明1を当業者が容易に想到し得るものとは認められない。

さらに、異議申立人は、記載事項(2イ)、(2エ)及び(2オ)から、甲第1号証には水溶性三価クロム含有物質と、水溶性チタン含有物質と、カルボン酸化合物とを含有する反応型化成処理用酸性組成物において、クロム換算で0.02mol/L以上0.1mol/L以下(1?5g/L)を含有することが記載されているし、耐食性や排水処理性の観点から、このような甲第1号証に記載の事項を甲2発明に適用することは、容易に想到し得る旨主張しているが、甲第1号証において、記載事項(2オ)のとおり、チタンは多数の選択肢のうちの1つにすぎないものであり、さらに本件発明1はコバルトを含まない態様であることから、甲2発明と甲第1号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
そして、それにより、本件発明1は、「水溶性コバルト含有物質を用いることなく、耐食性に優れ、環境保全への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な化成処理液が提供される」という格別顕著な効果を奏するものである。

1-2-5 小括
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲第2号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

なお、異議申立人は異議申立理由として主張してはいないが、甲第3?6号証には、甲2発明において、クロム換算で0.100mol/L以下の塩化クロムとすることを示唆する記載は認められないことから、甲2発明と甲第3?6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

1-3 結言
以上から、本件発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲第1?6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そして、本件発明2?8は、直接的に本件発明1を引用した上でさらに特定事項を追加して発明を減縮するものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲第1?6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

2 本件発明9?10について
本件発明9は、実質的に請求項1を含みつつ、水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量の下限値について、本件発明1における「0.02mol/L」を「0.01mol/L」とするとともに、「リン換算で0.001mol/L以上1mol/L以下の有機ホスホン酸化合物をさらに含有する」事項を付加するものである。
しかしながら、上記のとおり、本件発明1が、相違点1及び相違点3において、それぞれ甲1発明及び甲2発明と相違し、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1?6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明9についても同様である。

そして、本件発明10は、直接的に本件発明1?9を引用した発明であることから、本件発明9と同様に、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1?6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 本件発明11?13について
本件発明11は、実質的に請求項1を含みつつ、水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量の下限値について、本件発明1における「0.02mol/L」を「0.01mol/L」とするとともに、「アルミニウム換算で0.0001mol/L以上1mol/L以下の水溶性アルミニウム含有物質をさらに含有する」事項を付加するものである。
しかしながら、上記2のとおりであるから、本件発明11?13について、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1?6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

4 本件発明14について
本件発明14は、実質的に請求項1を含みつつ、水溶性三価クロム含有物質のクロム換算含有量の下限値について、本件発明1における「0.02mol/L」を「0.01mol/L」とするとともに、「化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法」としたものである。
しかしながら、上記2のとおりであるから、本件発明14について、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1?6号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。


第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-08-24 
出願番号 特願2014-267(P2014-267)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 寿美  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 長谷山 健
亀ヶ谷 明久
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6216936号(P6216936)
権利者 ユケン工業株式会社
発明の名称 反応型化成処理用酸性組成物および化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法  
代理人 大窪 克之  
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