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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D21H 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D21H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D21H |
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管理番号 | 1343925 |
異議申立番号 | 異議2018-700351 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-26 |
確定日 | 2018-09-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6223389号発明「紙の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6223389号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6223389号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年6月26日の出願であって、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成30年4月26日に、その特許に対し、特許異議申立人星光PMC株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件特許発明 本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 サイズ剤およびアルミニウム化合物を互いに衝突するように混合し、その混合物をパルプスラリーに添加する添加工程と、 前記添加工程の後、パルプスラリーを抄紙する抄紙工程と を備え、 前記添加工程において、 サイズ剤およびアルミニウム化合物が、滞留することなく混合される ことを特徴とする、紙の製造方法。 【請求項2】 前記添加工程において、 サイズ剤およびアルミニウム化合物の混合時間が、1秒以上30秒以下である、請求項1に記載の紙の製造方法。 【請求項3】 アルミニウム化合物の固形分の質量割合が、サイズ剤の固形分の質量に対して、0.5倍以上10倍以下である、請求項1または2に記載の紙の製造方法。 【請求項4】 サイズ剤が、溶液または分散液として調製されており、 前記溶液または前記分散液の固形分濃度が、0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の紙の製造方法。 【請求項5】 アルミニウム化合物が、溶媒に溶解されるか、または、分散媒に分散されており、 アルミニウム化合物の溶液または分散液において、アルミニウム化合物の濃度が、0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載の紙の製造方法。」 3.申立理由の概要 (1)申立人は、甲第1号証(特開平2-6680号公報。以下「甲1」という。)及び甲第2号証(特開平3-40893号公報。以下「甲2」という。)を提出し、本件発明1?5は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するため取り消すべきものである旨、 また、本件発明1?3は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4及び5は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するため取り消すべきものである旨、申立てている。 (2)さらに、申立人は、発明の詳細な説明に記載されている事項は、ロジン系サイズ剤として用いた場合について効果を有することを示しているに過ぎず、AKDサイズ剤やASAサイズ剤などの他のサイズ剤についても、同様の効果が得られることについては示されていないから、ロジン系サイズ剤とはその成分が化学物質として大きく異なる他のサイズ剤を含む本件発明1?5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1?5に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当するため取り消すべきものである旨、申立てている。 4.特許法第29条第1項第3号及び第2項に係る申立理由についての判断 (1)本件発明1について ア.(ア)本件発明1の添加工程の「サイズ剤およびアルミニウム化合物」の「混合」について、本件発明1には、サイズ剤およびアルミニウム化合物を「互いに衝突するように」混合し、「滞留することなく」混合するものと特定されている。 (イ)このうち、「滞留することなく」混合とは、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書」という。)に、「なお、本発明において、滞留しない状態とは、流体が上流から下流に向かって不可逆的に流れ、所定範囲に留まらない状態を示す。」(段落【0092】)と記載されていることからすると、サイズ剤およびアルミニウム化合物が、ともに流体の形態に調製され、それらの流体が上流から下流に向かって不可逆的に流れ、所定範囲に留まらない状態で混合されることを意味するものと解される。 (ウ)また、「互いに衝突するように」混合することについて、本件特許明細書には以下のように記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 「【0097】 より具体的には、図1Aにおいて、混合添加装置1は、サイズ剤を輸送するための第1輸送管2と、アルミニウム化合物を輸送するためのアルミニウム輸送管3と、パルプスラリー(後述)を輸送するためのパルプスラリー輸送管4とを備えている。 【0098】 第1輸送管2は、・・・・下流側端部が、パルプスラリー輸送管4に対して略直角となるように、接続されている。 【0099】 第2輸送管3は、・・・・下流側端部が、第1輸送管2の流れ方向途中部分において、第1輸送管2に対して略直角となるように、接続されている。 ・・・・ 【0111】 これにより、第1輸送管2と第2輸送管3との接続部分に向けて、サイズ剤およびアルミニウム化合物が輸送される。そして、第1輸送管2と第2輸送管3との接続部分およびその下流側において、サイズ剤とアルミニウム化合物とが、互いに衝突するように、滞留することなく混合される。」、 「【0127】 ・・・・第1輸送管2に対して第2輸送管3が非直角となるように、第1輸送管2および第2輸送管3aを接続することもできる(図1Aの破線および2点鎖線参照)。 【0128】 このような場合、好ましくは、サイズ剤の流れ方向と、アルミニウム化合物の流れ方向とが互いに逆らわないように、換言すれば、サイズ剤の流れに対して、アルミニウム化合物が逆流しないように、第1輸送管2に対して第2輸送管3aを接続する(図1Aの破線参照)。 【0129】 つまり、図1Bに示すように、第2輸送管3a中のアルミニウム化合物の流れベクトルV_(a)を、第1輸送管2中のサイズ剤の流れベクトルに対して垂直なベクトル成分V_(a1)と、サイズ剤の流れベクトルに対して平行なベクトル成分V_(a2)とに分解したとき、サイズ剤の流れベクトルV_(s)と逆方向のベクトル成分が生じないように、換言すれば、サイズ剤の上流方向へ向かうベクトル成分が生じないように、第1輸送管2および第2輸送管3aが接続される。 ・・・・ 【0131】 これにより、サイズ剤およびアルミニウム化合物が、第1輸送管2および第2輸送管3の接続部分およびその下流側において、滞留することなく混合される。」 これらの記載から、「互いに衝突するように」とは、アルミニウム化合物の流れのベクトル(方向)が、サイズ剤の流れのベクトル(方向)に対して垂直方向の成分を有するように流れることと理解できる。 この理解は、本件特許明細書の図3に示される「漏斗状の混合添加器具」により、「重力に従って逆円錐部7から管部8に輸送され、管部8において互いに衝突するように、滞留することなく混合される」(段落【0146】?【0148】)とされていること、また、同じく図4に示される、「第1吐出器12から吐出されるサイズ剤の軌道線」と、「第2吐出器13から吐出されるアルミニウム化合物の吐出の軌道線」とが、「互いに交わるように、鉛直方向に対して所定の角度で配置」され、「第1吐出器12から吐出されるサイズ剤の軌道線」と、「第2吐出器13から吐出されるアルミニウム化合物の吐出の軌道線」との「交点において、サイズ剤およびアルミニウム化合物は、互いに衝突するように、滞留することなく混合される」(段落【0153】?【0158】)とされていることとも整合する。 (エ)そうすると、本件発明1?5の添加工程のサイズ剤およびアルミニウム化合物を「互いに衝突するように」混合し、「滞留することなく」混合することは、サイズ剤およびアルミニウム化合物が、ともに流体の形態に調製され、それらの流体が上流から下流に向かって不可逆的に流れ、所定範囲に留まらない状態で混合されるとともに、アルミニウム化合物の流れの方向が、サイズ剤の流れの方向に対して垂直方向の成分を有するように流れて混合されることといえる。 イ.一方、甲1には、ロジンサイズ剤とアルミニウム塩との混合について、「混合装置を用いることが必要である」(4頁右上欄14?15行)として、実施例1では「実験室ミキサー」によりプレミックスが作成される旨記載されている。 しかし、甲1記載の「混合装置」による混合が、本件発明1の添加工程の「混合」のように、サイズ剤およびアルミニウム化合物を、「互いに衝突するように」混合するとともに「滞留することなく」混合するものであるとは、直ちにはいえない。 むしろ、甲1記載の「混合装置」の具体例である「実験室ミキサー」では、上記「ア(エ)」で述べた、本件発明1の、サイズ剤およびアルミニウム化合物が上流から下流に向かって不可逆的に流れ、所定範囲に留まらない状態で混合されるとともに、アルミニウム化合物の流れの方向が、サイズ剤の流れの方向に対して垂直方向の成分を有するように流れて混合されるようなものとはいえないものであり、本件特許明細書においても、「特許文献2(当審注:甲1)に記載されるように、ロジンサイズ剤とアルミニウム塩とのプレミックスをミキサーにより製造し、そのプレミックスをパルプに添加する方法では、プレミックスにおいて、ロジンサイズ剤およびアルミニウム塩が凝集および破壊されるという不具合がある」(段落【0008】)とされている。 そうすると、甲1に記載された「混合装置」による混合は、本件発明1の添加工程中の「混合」に相当するものはなく、その点で少なくとも相違するから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。 ウ.また、甲1には、「混合装置」による混合について、本件発明1の添加工程の「混合」のように、サイズ剤およびアルミニウム化合物を、「互いに衝突するように」混合するとともに「滞留することなく」混合することについて、記載あるいは示唆はなく、そのように混合しようとする動機付けはないから、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ.よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。 (2)本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定された本件発明2及び3も、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 よって、本件発明2及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明2及び3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。 (3)本件発明4及び5について 本件発明4及び5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、甲2には、ロジンエマルジョン分散液と硫酸アルミニウム水溶液を「ラインミキサー」で混合することが記載(3頁右下欄3?16行)されているが、甲2には、この「ラインミキサー」がどのような混合を行うものなのか記載されておらず、「ラインミキサー」が本件発明1のような「混合」を行い得ることが技術常識であるともいえないから、仮に、甲1の「混合装置」として甲2記載の「ラインミキサー」を採用したとしても、サイズ剤およびアルミニウム化合物を「互いに衝突するように」混合し、「滞留することなく」混合するものとはならない。 したがって、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定された本件発明4及び5も、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 よって、本件発明4及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明4及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。 5.特許法第36条第6項第1号に係る申立理由についての判断 本件発明1?5は、「サイズ剤およびアルミニウム化合物が添加されたパルプスラリーを抄紙する紙の製造方法」に関し(本件特許明細書の段落【0001】)、従来、パルプスラリーに硫酸バンド(硫酸アルミニウム)を加え、1分後にロジン系サイズ剤エマルションを添加すること(段落【0004】)や、サイズ剤とアルミニウム化合物とをミキサーにより予め混合し、その混合液をパルプスラリーに添加すること(段落【0005】)が提案されてきたが、サイズ効果が十分に得られず(段落【0007】)、ロジンサイズ剤およびアルミニウム塩が凝集および破壊される(段落【0008】)という課題があったことから、サイズ剤およびアルミニウム化合物を「互いに衝突するように」混合し、「滞留することなく」混合することにより、それらの課題を解決したものである。 ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、サイズ剤は、「樹脂が溶媒に溶解されてなる溶液(樹脂の溶液)、または、樹脂が分散媒に分散されてなる分散液(樹脂の分散液、エマルション)として調製され、好ましくは、樹脂の分散液として調製され」(段落【0015】)、その樹脂としては、「ロジン系樹脂に限定されず、サイズ剤として公知の樹脂が挙げられ」(段落【0047】)、サイズ剤およびアルミニウム化合物をパルプスラリーに添加する添加工程については、図1A?図4の添加装置を例示して、これらの添加装置によれば、「サイズ剤およびアルミニウム化合物を、互いに衝突するように、滞留することなく混合し、その混合物をパルプスラリーに添加すること」ができ、「紙に優れたサイズ性を付与することができる」(段落【0152】)と記載されている。 これらの記載からすると、サイズ剤は、アルミニウム化合物の添加を必要とするサイズ剤であることを前提に、溶媒に溶解されているか、分散媒に分散されてなる樹脂であり、このようなサイズ剤を、アルミニウム化合物と互いに衝突するように、滞留することなく混合することにより、従来の別々にパルプスラリーに混合する場合や、ミキサーにより予め混合した後にパルプスラリーに混合する場合と比べて、サイズ剤とアルミニウム化合物が接触し易くなり、凝集および破壊されることなくパルプスラリーに供給されるため、サイズ剤とアルミニウム化合物により形成される塩を増加させることができ、それにより、紙に優れたサイズ性を付与することができることが推認される。そして、本件発明1?5は、いずれも、サイズ剤およびアルミニウム化合物を、「互いに衝突するように」、「滞留することなく」混合することを含むものであるから、発明の課題を解決できることを、当業者が認識できる範囲内のものである。 申立人は、発明の詳細な説明に記載されている事項は、ロジン系サイズ剤として用いた場合について効果を有することを示しているに過ぎず、AKDサイズ剤やASAサイズ剤などの他のサイズ剤についても、同様の効果が得られることについては示されていないため、ロジン系サイズ剤とは異なる他のサイズ剤を含む本件発明1?5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する。 しかし、本件発明1?5の「サイズ剤」は、ロジン系樹脂に限らず、サイズ剤およびアルミニウム化合物を、「互いに衝突するように」、「滞留することなく」混合することにより、サイズ剤の樹脂とアルミニウム化合物が接触し易くなり、直ちにパルプスラリーに供給されるため、サイズ剤とアルミニウム化合物により形成される塩を増加させることができ、紙に優れたサイズ性を付与することができると認識し得るものであるから、申立人の上記主張は採用することができない。 よって、本件発明1?5の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではなく、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当するため取り消すべきものではない。 6.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-24 |
出願番号 | 特願2015-128427(P2015-128427) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(D21H)
P 1 651・ 113- Y (D21H) P 1 651・ 537- Y (D21H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増田 亮子、河島 拓未 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
西藤 直人 井上 茂夫 |
登録日 | 2017-10-13 |
登録番号 | 特許第6223389号(P6223389) |
権利者 | ハリマ化成株式会社 |
発明の名称 | 紙の製造方法 |
代理人 | 宇田 新一 |
代理人 | 蔦 康宏 |
代理人 | 岡本 寛之 |