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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E03C
管理番号 1343937
異議申立番号 異議2018-700100  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-07 
確定日 2018-09-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6176337号発明「水栓装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6176337号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6176337号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年12月2日(優先権主張平成25年12月16日)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月21日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成30年2月7日付けで特許異議申立人TOTO株式会社(以下「申立人」という。)より請求項1?6に対して特許異議の申立てがされ、同年4月13日付けで取消理由(発送日同年4月19日)が通知され、その指定期間内である同年6月18日に意見書が提出されたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 請求項1?6に係る発明
請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
水を吐出する吐水部と、
前記吐水部による水の吐出領域を含む検出範囲における検出対象を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて、前記吐水部から吐出される水の供給・停止を制御するコントローラとを備え、
前記検出器は、
電波信号を送信し、物体で反射した前記電波信号を受信して、前記物体の動きに応じたセンサ信号を出力するセンサ部と、
前記センサ信号を周波数領域の信号に変換し、周波数帯域の異なる複数のフィルタバンク毎の信号として抽出する周波数分析部と、
前記複数のフィルタバンク毎の信号に基づく信号の周波数分布と、前記複数のフィルタバンク毎の信号に基づく信号強度の成分比との少なくとも一方を検出データとし、前記検出データにより検出対象を検出する認識処理を行う認識部と、
前記検出対象に対応する周波数分布と、前記検出対象に対応する信号強度の成分比との少なくとも一方をサンプルデータとして格納するデータベースとを備え、
前記認識部は、前記検出データを前記サンプルデータと照合することによって前記認識処理を行う
ことを特徴とする水栓装置。
【請求項2】
前記センサ信号に基づいて前記検出対象までの距離を測定する測距部を備え、前記認識部は、前記測距部の測定結果も併せて用いて前記認識処理を行うことを特徴とする請求項1記載の水栓装置。
【請求項3】
前記センサ信号に基づいて前記検出対象の移動方向を検出する方向検出部を備え、前記認識部は、前記方向検出部の検出結果も併せて用いて前記認識処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載の水栓装置。
【請求項4】
前記認識部は、前記複数のフィルタバンクの各信号強度の総和が閾値以上である場合、前記認識処理を行う、もしくは前記認識処理の結果を有効とし、前記吐水部が吐出する水の状態に応じて前記閾値、または前記認識処理で用いる前記サンプルデータを変更することを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の水栓装置。
【請求項5】
前記複数のフィルタバンクを通過した信号から背景信号を除去する背景信号除去部を備えることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の水栓装置。
【請求項6】
前記吐水部までの導水路を内部に形成したスパウトを備え、
前記スパウトは、外部の被取付面に取り付けられる基部と、前記基部から突出した突出部とを有し、
前記センサ部は、前記基部または前記突出部に設けられる
ことを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の水栓装置。」

2 取消理由の概要
請求項1?6に係る特許に対して平成30年4月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 甲各号証の記載
甲第1号証:特開2013-204323号公報
甲第2号証:国際公開2013/183271号
甲第3号証:特開2012-189445号公報

(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は当決定で付与。以下同じ。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は水栓装置に関し、特に、ドップラセンサのセンサ出力に応じて給水バルブの開閉動作を制御する水栓装置に関する。」

(イ)「【請求項1】
吐水口への給水路を開閉する給水バルブと、
前記吐水口の周辺の検出対象物を検出するドップラセンサと、
前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて前記給水バルブの開閉動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ドップラセンサのセンサ出力に含まれる定在波信号の出力レベルを検出する第1検出手段を有し、前記第1検出手段が検出した出力レベルに応じたオフセット量で前記定在波信号の出力レベルをオフセットさせる、水栓装置において、
前記制御部は、動作状態毎の前記第1検出手段が検出する出力レベルを記憶する記憶部と、前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて動作状態の変化を検出する第2検出手段とを更に有し、前記第2検出手段が動作状態の変化を検出すると、前記記憶部に記憶されている各動作状態の出力レベルに応じたオフセット量で前記定在波信号の出力レベルをオフセットさせる、ことを特徴とする水栓装置。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドップラセンサは、突然、その近傍に水等の反射物が現れると、センサ出力のDCレベルが急激に大きく変動するため、センサ出力が飽和してしまうことがある。このとき、上述した特許文献2の技術のようにセンサ出力のDCレベルに基づいてオフセットをかけても、DCレベルのオフセット量を適切に調整する事が出来ない。制御部に入力されるDCレベル自体が飽和しているため、真のセンサ出力のDCレベルが不明であり、適切なオフセット量を設定できないためである。
・・・
【0008】
その結果、飽和が解消されるまでの間は、本来検出すべき対象物の信号を検出することができない。これにより、水栓装置の反応速度が遅くなり、使用者が不便や不快を感じてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みて為されたものであり、検出対象物の接近を検出する検出効率を向上することにより水栓装置の反応速度を向上する事を目的とする。」

(エ)「【0043】
(1)本実施形態の構成:
図1は、本実施形態に係る水栓装置1の概略を断面的に示した図であり、図2は、本実施形態に係る水栓装置1の構成を示すブロック図である。水栓装置1は、対象物10(人体や物体等)を検出して自動的な吐水を行うものであり、洗面台に備え付けられる洗面器2に対して吐水を行う。
【0044】
洗面器2は、洗面カウンタ3の上面に設けられる。洗面カウンタ3上には、洗面器2のボール面2aに対して水を吐出するためのスパウトを構成する水栓4が設けられる。水栓4は、水を吐出する吐水口4aを有し、この吐水口4aから吐出される水が洗面器2のボール面2a内に吐出されるように設けられる。
【0045】
水栓4が吐水口4aから吐出する水は、給水路5により供給される。給水路5は、水道管等の給水源から供給される水を吐水口4aへと導く。洗面器2には、排水路6が接続されている。排水路6は、吐水口4aから洗面器2のボール面2a内に吐出された水を排出する。
【0046】
水栓装置1は、給水バルブとしての電磁弁11と、マイクロ波ドップラセンサ12と、制御部13とを備える。電磁弁11は、給水路5に設けられ、給水路5の開閉を行う。電磁弁11が開くと、給水路5から供給される水が吐水口4aから吐出される吐水状態となり、電磁弁11が閉じると、給水路5から供給される水が吐水口4aから吐出されない止水状態となる。
【0047】
電磁弁11は、制御部13に接続されており、電磁弁11の開閉動作は、制御部13によって制御される。電磁弁11は、制御部13からの制御信号に従って電気的に制御され、給水路5の開閉を行う。このように、電磁弁11は、吐水口4aから吐水される水の給水路5を開閉する給水バルブとして機能する。
【0048】
マイクロ波ドップラセンサ12は、吐水口4aに接近する対象物10を検出する。この吐水口4aの吐水先が、マイクロ波ドップラセンサ12の検知領域となる。マイクロ波ドップラセンサ12は、マイクロ波を送信し、送信したマイクロ波を受けた人体等の対象物10から反射したマイクロ波を受信することにより、対象物10の位置や動き等を検出する。
【0049】
マイクロ波ドップラセンサ12は、水栓4の吐水口4a近くの内部に設けられ、洗面台の使用者側(図1において左側)に向けてマイクロ波を送信するように配置される。マイクロ波ドップラセンサ12は、吐水口4aに人体が近づいてきたことや、吐水口4aに近づいた人体から吐水口4aに向けて手が差し出されたこと等を検出するために用いられる。
【0050】
マイクロ波ドップラセンサ12は、接続ケーブル8を介して制御部13に接続される。制御部13は、マイクロ波ドップラセンサ12の出力する信号を入力され、この信号に基づいて対象物10の位置や動き等を検知する。」

(オ)「【0079】
電磁弁制御部36は、対象物検出部35から出力される検出信号に基づいて、電磁弁11の開閉動作を制御する。具体的には、電磁弁制御部36は、対象物検出部35の人体動作検出部39においてドップラ信号検出部33から入力されたドップラ信号S6に基づいて対象物10が吐水口4aから吐出される水を受ける程度の位置に達したことが検出されると、電磁弁11を開動作させる。」

(カ)「【0100】
このように、吐水が開始されると、第3の周期T3でのサンプリングを開始し、その後、閾値F2を用いて水による反射成分の影響を排除したセンサ出力S3から生成された定在波信号S7の振幅が閾値Cよりも大きい場合は(X>C)、第3の周期T3でのサンプリングを継続し、当該振幅が閾値Cよりも小さくなると(X<C)、吐水を停止するとともに、サンプリング周期を第3の周期T3から第2の周期T2に変更する。」

イ 甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「マイクロ波ドップラセンサ12のセンサ出力に応じて給水バルブの開閉動作を制御する水栓装置であって、
水栓装置1は、給水バルブとしての電磁弁11と、マイクロ波ドップラセンサ12と、制御部13とを備え、
洗面カウンタ3上には、洗面器2のボール面2aに対して水を吐出するためのスパウトを構成する水栓4が設けられ、
水栓4は、水を吐出する吐水口4aを有し、この吐水口4aから吐出される水が洗面器2のボール面2a内に吐出されるように設けられており、
電磁弁11は、給水路5に設けられ、給水路5の開閉を行い、電磁弁11が開くと、給水路5から供給される水が吐水口4aから吐出される吐水状態となり、電磁弁11が閉じると、給水路5から供給される水が吐水口4aから吐出されない止水状態となり、
電磁弁11は、制御部13に接続されており、電磁弁11の開閉動作は、制御部13によって制御され、
マイクロ波ドップラセンサ12は、吐水口4aに接近する対象物10を検出し、この吐水口4aの吐水先が、マイクロ波ドップラセンサ12の検知領域となり、
マイクロ波ドップラセンサ12は、接続ケーブル8を介して制御部13に接続され、制御部13は、マイクロ波ドップラセンサ12の出力する信号を入力され、この信号に基づいて対象物10の位置や動き等を検知する
水栓装置。」

(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「[0001]本発明は、電波センサからのセンサ信号を信号処理する信号処理装置に関するものである。」

(イ)「[0013] 本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、検知対象以外の物体の動きに起因した誤検出を低減することが可能な信号処理装置を提供することにある。
[0014] 本発明に係る第1の形態の信号処理装置は、物体で反射された電波に応じたセンサ信号を周波数領域の信号に変換し周波数帯域の異なるフィルタバンクの群における前記フィルタバンク毎の信号として抽出する周波数分析手段と、前記周波数分析手段により抽出された信号の総和もしくは所定の複数の前記フィルタバンクを通過した信号の強度の総和で、前記各フィルタバンクそれぞれを通過した信号の強度を規格化し規格化強度として出力する規格化手段と、前記規格化手段から出力される前記フィルタバンク毎の規格化強度から決まる周波数分布もしくは前記規格化強度の成分比との少なくとも一方により前記物体を識別する認識処理を行う認識手段と、を備える。
[0015] 本発明に係る第2の形態の信号処理装置は、第1の形態において、前記センサ信号を増幅する増幅部と、前記増幅部によって増幅されたセンサ信号をディジタルのセンサ信号に変換して出力するA/D変換部と、を備える。前記周波数分析手段は、前記A/D変換部から出力されるセンサ信号を周波数領域の信号に変換し前記フィルタバンクの群における前記フィルタバンク毎の信号として抽出するように構成される。
[0016] 本発明に係る第3の形態の信号処理装置では、第1または第2の形態において、前記周波数分析手段が、前記A/D変換部から出力されるセンサ信号を離散コサイン変換することで前記周波数領域の信号に変換する機能を有するものである。前記各フィルタバンクの各々が複数の周波数ビンを有する。前記信号処理装置は、前記周波数分析手段と前記規格化手段との間に、前記各フィルタバンク毎に前記周波数ビン毎の信号の強度を周波数領域において平滑化処理する機能と、前記各フィルタバンク毎に前記周波数ビン毎の信号の強度を時間軸方向において平滑化処理する機能との少なくとも一方を有する平滑化処理手段を備える。
[0017] 本発明に係る第4の形態の信号処理装置は、第1?第3の形態のいずれか1つにおいて、前記フィルタバンクを通過した信号から背景信号を除去する背景信号除去手段を備える。」

(ウ)「[0042]電波センサ1としては、所定周波数の電波を検知エリアに向けて送信して、検知エリア内で動いている物体で反射された電波を受信し、送信した電波と受信した電波との周波数の差分に相当するドップラ周波数のセンサ信号を出力するドップラセンサを用いている。したがって、センサ信号(電波センサ1から出力されるセンサ信号)は、物体の動きに対応するアナログの時間軸信号である。このように、電波センサ1は、所定の検知エリアに電波を送信する。電波センサ1は、検知エリアからの電波を受信すると、受信した電波に応じた信号であるセンサ信号(アナログのセンサ信号)を出力する。」

(エ)「[0049] 換言すれば、周波数分析手段5は、物体で反射された電波に応じたセンサ信号を周波数領域の信号に変換し、周波数領域の信号を周波数帯域の異なる複数のフィルタバンク5aの群(フィルタ)に通して複数のフィルタバンク5aにそれぞれ対応する複数の信号を抽出するように構成される。ここで、フィルタバンク5aに対応する信号とは、フィルタバンク5aを通過した信号を意味する。
[0050] このように、周波数分析手段5は、センサ信号(周波数領域の信号)を周波数軸において分割して、周波数帯域が異なる複数の信号を生成する。」

(オ)「[0055] また、信号処理装置2は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度から決まる周波数分布により物体を認識する認識処理を行う認識手段7を備えている。つまり、認識手段7は、規格化手段6で求められた規格化強度により決定されるセンサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度に関する特徴により物体を識別する認識処理を行うように構成される。ここで、センサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度に関する特徴は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度から決まる周波数分布、すなわち、センサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度の周波数分布である。」

(カ)「[0071] 背景信号除去手段10は、例えば、フィルタバンク5aから出力される信号から背景信号を減算することで背景信号を除去するようにしてもよい。この場合、背景信号除去手段10は、例えば、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号m_(1) 、m_(2) 、・・・(図9参照)の強度から、背景信号推定手段9で推定された背景信号の強度b_(1)、b_(2)、・・(図8参照)を減算する減算器により構成することができる。図10は、同一のフィルタバンク5a同士で信号から背景信号を減算することで得られた信号の強度を示している。ここで、左から1番目のフィルタバンク5aの信号の強度をL_(1)とすれば、強度L_(1) は、下記の(8)式により求められる。」

(キ)「[0087] 認識手段7は、例えば、主成分分析(principal component analysis)によるパターン認識処理を行うことによって物体を識別するようにすることができる。この認識手段7は、主成分分析を用いた認識アルゴリズムに従って動作する。このような認識手段7を採用するには、あらかじめ、電波センサ1の検知エリアに検出対象の物体を含まない場合の学習サンプルデータ、検出対象の物体の異なった動きそれぞれに対応した学習サンプルデータを取得し、これら複数の学習データに対して主成分分析を施すことで得られたデータをデータベース(データベース装置)11に記憶させておく。ここにおいて、データベース11に記憶させておくデータは、パターン認識に利用するデータであり、物体の動きと射影ベクトル及び判別境界値(閾値)とを対応付けたカテゴリデータである。
[0088] ここでは、説明の便宜上、電波センサ1の検知エリアに検出対象の物体を含まない場合の学習サンプルデータに対応する規格化強度の周波数領域での分布が図15、検出対象の物体を含む場合の学習サンプルデータに対応する規格化強度の周波数領域での分布が図16であるとする。そして、図15では、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度が、低周波側から順に、m_(10) 、m_(20) 、m_(30) 、m_(40) 及びm_(50) とする。図16では、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度が、低周波側から順に、m_(11)、m_(21)、m_(31)、m_(41)及びm_(51)とする。そして、図15,16のいずれにおいても、低周波側の3つのフィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度の総和を変量m_(1)とし、高周波側の2つのフィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度の総和を変量m_(2 )とする。要するに、図15では、変量m_(1)、m_(2)はそれぞれ下記の(19)及び(20)式により求められる。」

(ク)「[0092] 図17は、2つの変量m 1 ,m 2 を互いに直交する座標軸とした場合の2次元散布図と射影軸及び識別境界とをイメージ的に説明するために2次元で図示したものである。図17では、破線で囲んだ領域内の各散布点(図17中の“+”)の座標位置をμ_(0 )(m_(2 ),m_(1 ))、実線で囲んだ領域内の各散布点の座標位置をμ_(1 )(m_(2) ,m_(1) )としている。主成分分析では、あらかじめ、電波センサ1の検知エリアに検出対象の物体を含まない場合の学習サンプルデータに対応するデータのグループGr0と、電波センサ1の検知エリアに検出対象の物体を含む場合の学習サンプルデータに対応するデータのグループGr1とを決める。そして、主成分分析では、図17において破線、実線で囲んだそれぞれの領域内の各散布点を射影軸上に射影したデータの分布(破線、実線で模式的に示してある)の平均値の間隔が最大となり、且つ、分散(variance)が最大となる条件で射影軸を決める。これにより、主成分分析では、学習サンプルごとに射影ベクトルを求めることができる。」

(ケ)「[0109] 認識手段7は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度の成分比により物体を識別する認識処理を行うようにしてもよい。つまり、認識手段7は、規格化手段6で求められた規格化強度により決定されるセンサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度に関する特徴により物体を識別する認識処理を行うように構成されていてもよい。ここで、センサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度に関する特徴は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度から決まる規格化強度の成分比、すなわち、センサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度の成分比である。
[0110] このような認識手段7は、例えば、重回帰分析による認識処理を行うことによって物体を識別するようにすればよい。この場合、認識手段7は、重回帰分析を用いた認識アルゴリズムに従って動作する。
[0111] このような認識手段7を採用する場合には、あらかじめ、電波センサ1の検知エリア内での検出対象の物体の異なった動きそれぞれに対応した学習データを取得し、これら複数の学習データに対して重回帰分析を施すことで得られたデータをデータベース11に記憶させておく。重回帰分析によれば、図28に示すように、信号成分s1と信号成分s2と信号成分s3とが合成された合成波形Gsは、信号成分s1,s2,s3の種別、信号成分の数、各信号成分s1,s2,s3それぞれの強度が未知であっても、合成波形から各信号成分s1,s2,s3に分離推定することが可能である。図28中の〔S〕は、信号成分s1、s2、s3を行列要素とする行列を示し、〔S〕^(-1) は〔S〕の逆行列を意味し、Iは規格化強度の成分比(係数)を意味している。より詳しくは、Iは、規格化強度の成分比(係数)i1、i2、i3を行列要素とする行列を意味している。ここにおいて、データベース11に記憶させておくデータは、認識処理に利用するデータであり、物体の動きと信号成分s1,s2,s3とを対応付けたデータである。」

(コ)「[0114] なお、認識手段7では、上述の周波数分布の特徴及び規格化強度の成分比に基づいて検知対象の物体を識別するようにしてもよい。つまり、認識手段7は、規格化手段6で求められた規格化強度により決定されるセンサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度に関する特徴により物体を識別する認識処理を行うように構成されていてもよい。ここで、センサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度に関する特徴は、センサ信号(周波数領域の信号)の規格化強度の周波数分布および規格化強度の成分比である。」

(サ)「[0119] また、信号処理装置2は、規格化手段6による規格化前の複数の所定のフィルタバンク5aを1つのフィルタバンク群50とし(図34参照)、複数のフィルタバンク群50のそれぞれにおいて、規格化前の信号成分の強度の総和もしくは重み付け総和が所定値(Eth2)以上であるか否かを判定してもよい。すなわち、信号処理装置2は、いずれかのフィルタバンク群50において、規格化前の信号成分の強度の総和が所定値(Eth2)以上である場合のみ、認識手段7による認識処理を行うかもしくは認識手段による認識処理の結果を有効とする。または、信号処理装置2は、全てのフィルタバンク群50において、規格化前の信号成分の強度の総和もしくは重み付け総和が所定値(Eth2)以上である場合のみ、認識手段7による認識処理を行うかもしくは認識手段による認識処理の結果を有効としてもよい。以下、この判定処理を含む一連の処理について、図35のフローチャートにしたがって説明する。なお、以降、「規格化前の信号成分の強度の総和もしくは重み付け総和」を、単に「規格化前の信号成分の強度の総和」と称す。」

(シ)「[0175] また、本実施形態の信号処理装置2は、以下の第4の特徴を備えていてもよい。第4の特徴では、信号処理装置2は、フィルタバンク5aを通過した信号から背景信号を除去する背景信号除去手段10を備える。
[0176] また、本実施形態の信号処理装置2は、第4の特徴に加えて、以下の第5の特徴を備えていてもよい。第5の特徴では、背景信号除去手段10は、フィルタバンク5aを通過した信号から背景信号を減算することで背景信号を除去する。また、本実施形態の信号処理装置2は、第5の特徴に加えて、以下の第6および第7の特徴を選択的に備えていてもよい。第6の特徴では、背景信号除去手段10は、事前に得た各フィルタバンク5a毎における複数点の信号の時間軸上での平均値を背景信号として除去する。第7の特徴では、背景信号除去手段10は、フィルタバンク5a毎の直前の信号を背景信号として除去する。」

(ス)「[0182] また、本実施形態の信号処理装置2は、以下の第16の特徴を備えていてもよい。第16の特徴では、信号処理装置2は、規格化手段6による規格化前の複数のフィルタバンク5aの信号の強度の総和が所定値以上である場合のみ、認識手段7による認識処理を行うかもしくは認識手段7による認識処理の結果を有効とする。」

イ 甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記アを踏まえると、次の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。

「電波センサからのセンサ信号を信号処理する信号処理装置であって、
物体で反射された電波に応じたセンサ信号を周波数領域の信号に変換し周波数帯域の異なるフィルタバンクの群における前記フィルタバンク毎の信号として抽出する周波数分析手段と、
前記周波数分析手段により抽出された信号の総和もしくは所定の複数の前記フィルタバンクを通過した信号の強度の総和で、前記各フィルタバンクそれぞれを通過した信号の強度を規格化し規格化強度として出力する規格化手段と、
前記規格化手段から出力される前記フィルタバンク毎の規格化強度から決まる周波数分布もしくは前記規格化強度の成分比との少なくとも一方により前記物体を識別する認識処理を行う認識手段と、
前記認識手段を採用する場合には、あらかじめ、電波センサの検知エリア内での検出対象の物体の異なった動きそれぞれに対応した学習データを取得し、これら複数の学習データに対して重回帰分析を施すことで得られたデータをデータベースに記憶させておき、データベースに記憶させておくデータは、認識処理に利用するデータであり、物体の動きと信号成分とを対応付けたデータであり、
規格化手段による規格化前の複数のフィルタバンクの信号の強度の総和が所定値以上である場合のみ、認識手段による認識処理を行うかもしくは認識手段による認識処理の結果を有効とし、
フィルタバンクを通過した信号から背景信号を除去する背景信号除去手段を備える、
信号処理装置。」

4 第29条第2項(進歩性欠如違反)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の相違点で相違する。

<相違点>
「検出器」について、本件発明1は
「センサ信号を周波数領域の信号に変換し、周波数帯域の異なる複数のフィルタバンク毎の信号として抽出する周波数分析部と、
前記複数のフィルタバンク毎の信号に基づく信号の周波数分布と、前記複数のフィルタバンク毎の信号に基づく信号強度の成分比との少なくとも一方を検出データとし、前記検出データにより検出対象を検出する認識処理を行う認識部と、
前記検出対象に対応する周波数分布と、前記検出対象に対応する信号強度の成分比との少なくとも一方をサンプルデータとして格納するデータベースとを備え、
前記認識部は、前記検出データを前記サンプルデータと照合することによって前記認識処理を行う」のに対し、
甲1発明はそのような特定がなされていない点。

イ 判断
相違点について検討するに、甲第1号証の請求項1、【0006】?【0009】の記載から見て、甲第1号証においては、制御部13における処理を工夫すること(出力レベルをオフセットさせること)によって、発明が解決しようとする課題を解決していることは明らかである。
そして、甲第1号証に記載された「制御部13」は、上記相違点に対応する部位であり、上記相違点に係る構成を甲2技術が有するとしても、甲2技術を甲1発明に適用することは、甲第1号証に記載された「制御部13」の処理も含めて入れ替えることになり、甲第1号証における課題解決手段を失うことになるから、そのようなことを行う動機付けはないというべきである。
申立人は、「甲第2号証に記載されたものは電波センサに用いられる信号処理装置であり、甲1発明における水栓装置のマイクロ波ドップラセンサと技術分野を一にし、物体を検知するものである。また、甲第2号証は、誤検出を低減することを目的としている。これは、甲1発明の目的である、検出すべき対象物の信号を検出可能とし、検出効率を向上させることと共通する。従って、甲1発明のマイクロ波ドップラセンサにおける処理において、甲2記載事項を適用することは、容易に想到し得るものである」(申立書18頁下から4行?19頁3行)旨主張するが、上記したように、甲2技術を甲1発明に適用する動機付けはないから、上記申立人の主張は採用できない。
また、上記相違点について、甲第3号証にも記載されておらず、甲第3号証の記載から導き出せる事項でもない。
よって、甲1発明において相違点に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は甲第1号証?甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記(1)参照)により、甲1発明において、相違点に係る本件発明2?6の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(3)まとめ
したがって、本件発明1?6は、甲第1号証?甲第3号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第3 むすび
以上のとおりであるから、平成30年4月13日付け取消理由通知及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-06 
出願番号 特願2015-553357(P2015-553357)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 油原 博  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 西田 秀彦
井上 博之
登録日 2017-07-21 
登録番号 特許第6176337号(P6176337)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 水栓装置  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  
代理人 日向寺 雅彦  

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