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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B62D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B62D
管理番号 1343938
異議申立番号 異議2018-700354  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-27 
確定日 2018-09-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6223593号発明「電動パワーステアリング装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6223593号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6223593号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)10月22日を国際出願日とする特許出願であって、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成30年4月27日に特許異議申立人淺野文雄(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6223593号の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
単一のロータに対して独立した2組のコイル巻線を備えたステータを有し、車両の操舵機構を回転させるモータと、このモータに一体に取付けられた制御ユニット部とを備え、前記制御ユニット部は、定電圧を発生する電源回路、各回路の動作情報を入力する入力回路、前記モータのコイル巻線を駆動するための出力回路、前記出力回路への電流供給を遮断する電源リレー回路、前記入力回路からの情報に基づき制御量を演算して前記出力回路へ制御信号を出力する中央処理装置、および入力または出力するためのコネクタを有し、前記モータのコイル巻線にそれぞれ電流を独立して供給または遮断するように2系統形成され、
前記中央処理装置は、前記各回路または前記コイル巻線の異常を検出する異常検出機能を有するとともに2つの中央処理装置間で通信を行い、一方の系統に異常が検出された場合、他方の系統の前記制御ユニット部で制御を継続するように構成され、
さらに、前記電源回路、前記入力回路、前記出力回路、前記電源リレー回路、前記中央処理装置、および前記コネクタは、2系統にそれぞれ分離独立され、かつ並設配置されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記制御ユニット部の前記出力回路は、前記モータのコイル巻線を制御するインバータ回路と、前記中央処理装置の制御信号を前記インバータ回路に伝達する駆動回路とから構成され、前記インバータ回路を前記制御ユニット部の基板から分離するとともに、2つの前記インバータ回路を並設したことを特徴とする請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記インバータ回路は、ヒートシンクに当接され、前記ヒートシンクの少なくとも一部は、前記モータを収納するヨークに当接されるとともに、前記ヒートシンクにより前記制御ユニット部と前記モータとを仕切るように構成したことを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記インバータ回路は、ヒートシンクに当接され、前記ヒートシンクの少なくとも外周の一部を露出させ、この露出部の内側に前記インバータ回路を装着するとともに、前記モータを収納するヨークと前記ヒートシンクとを当接させるように構成したことを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記インバータ回路は、50%の電流を供給するように制御され、電流許容容量、又は熱容量に対して2倍の容量を有するように構成したことを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記中央処理装置の前記異常検出機能は、自己及び相手方の両方の異常を検出し、自己が正常でかつ相手方が異常と判断した場合、自己の制御指令を100%に設定するとともに、相手方が異常であることを報知することを特徴とする請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記中央処理装置の前記異常検出機能は、自己または相手方が異常であることを検出した場合、異常を報知する報知装置を備えたことを特徴とする請求項6記載の電動パワーステアリング装置。」

第3 申立理由の概要
1 申立理由1:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
特許異議申立人は、請求項1には、不明確な記載があり、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

2 申立理由2:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
特許異議申立人は、証拠として、以下の甲第1?4号証を提出し、本件発明1?7は、甲第1?4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2012-143037号公報
甲第2号証:特開2014-176215号公報
甲第3号証:特開2014-43122号公報
甲第4号証:特開2013-89104号公報

第4 各甲号証に記載された事項等
以下、「甲第1?4号証」を、それぞれ、「甲1?4」という。
1 甲1について
ア 甲1に記載された事項
甲1には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様である。)。
(1a)
「【0012】
以下、本発明による複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるコントローラが適用される電動装置を図1?図8に示す。本実施形態のコントローラ3は、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)に用いられる電動装置1のモータ2の回転を駆動制御する。図1に示すように、電動装置1は、コラム軸6に設けられたギアボックス7のギアと噛合している。電動装置1は、ステアリング5の操舵トルクを検出するトルクセンサ8から出力されるトルク信号、及び図示しないCAN(Controller Area Network)から取得する車速信号に基づいて正逆回転することで、操舵のアシスト力を発生する。
【0013】
電動装置1は、モータ2およびコントローラ3から構成されている。モータ2は、ブラシレスモータである。モータ2は、コントローラ3により駆動電流としての三相交流が供給され、正逆回転を駆動制御される。
まず、コントローラ3の電気的構成を図1を参照して説明する。コントローラ3は、大電流をモータ2に供給するパワー部100、及びこのパワー部100を制御する制御部90から構成されている。
【0014】
パワー部100は、電源75に接続する配線に電気的に接続する第1平滑コンデンサ77、電源75と電源リレー87、88との間の配線に直列接続され電源変動を減衰するチョークコイル76、第1インバータ回路80、及び第2インバータ回路89を有している。本実施形態の第1インバータ回路80が特許請求の範囲に記載の「第1電流供給回路」に相当し、第2インバータ回路89が特許請求の範囲に記載の「第2電流供給回路」に相当する。
第1平滑コンデンサ77とチョークコイル76とは、フィルタ回路を構成し、電源75を共有する他の装置から伝わるノイズを低減する。また、第1インバータ回路80及び第2インバータ回路89から電源75を共有する他の装置へ伝わるノイズを低減する。
【0015】
パワー部100は、第1インバータ回路80と第2インバータ回路89それぞれに電源リレー87、88を有している。電源リレー87、88は、電界効果トランジスタの一種であるMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor、以下、「MOS」という。)により構成されている。第1インバータ回路80を構成するMOS81?83とチョークコイル76との間に設けられる電源リレー87、88は、異常時に第1インバータ回路80からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能である。第2インバータ回路89を構成するMOSとチョークコイルとの間に設けられる電源リレーは、異常時に第2インバータ回路89からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能である。」
(1b)
「【0017】
シャント抵抗99は、下アーム側のMOS84?86とグランドとの間に電気的に接続される。シャント抵抗99の両端の電位を検出することにより、U相コイル、V相コイル、W相コイルに通電される電流が検出される。
・・・
【0018】
制御部90は、集積回路としてのカスタムIC92、位置センサ93及びマイコン94などを備えている。カスタムIC92は、機能ブロックとして、第1プリドライバ91、第2プリドライバ98、レギュレータ部95、位置センサ信号増幅部96、及び検出電圧増幅部97などを有している。
レギュレータ部95は、電源を安定化する安定化回路である。レギュレータ部95は、各部へ供給される電源の安定化を行う。例えばマイコン94は、このレギュレータ部95により、安定した所定電圧(例えば5V)で動作する。
位置センサ信号増幅部96には、位置センサ93からの信号が入力される。位置センサ93は、モータ2の回転位置を検出した回転位置信号を位置センサ信号増幅部96に出力する。位置センサ信号増幅部96は、回転位置信号を増幅し、マイコン94へ出力する。
検出電圧増幅部97は、シャント抵抗99の両端電圧を検出し、その両端電圧を増幅してマイコン94へ出力する。
【0019】
マイコン94には、モータ2の回転位置信号、シャント抵抗99の両端電圧、トルクセンサ8からの操舵トルク信号、及び車速情報等が入力される。マイコン94は、これらの信号が入力されると、回転位置信号に合わせて第1プリドライバ91及び第2プリドライバ98に信号を出力する。
第1プリドライバ91は、マイコン94からの信号を受けて第1インバータ回路80に制御信号を出力する。第1プリドライバ91の制御信号により、第1インバータ回路80のMOS81?86のON/OFFのスイッチングが制御されることで、モータ2に供給する三相交流がつくられる。
第2プリドライバ98は、マイコン94からの信号を受けて第2インバータ回路89に制御信号を出力する。第2プリドライバ98の制御信号により、第2インバータ回路89のMOSのON/OFFのスイッチングが制御されることで、モータ2に供給する三相交流がつくられる。
また、マイコン94は、検出電圧増幅部97から入力されるシャント抵抗99の両端電圧に基づき、モータ2へ供給する三相交流を正弦波に近づけるように第1インバータ回路80と第2インバータ回路89とを制御する。」
【0020】
次に、電動装置1の構造について、図2?図7に基づいて説明する。
本実施形態の電動装置1は、モータ2、及びこのモータ2のシャフト35の軸方向の一方に設けられたコントローラ3を備えている。
まず、モータ2について説明する。モータ2は、モータケース10、ステータ20、ロータ30、シャフト35等を備えている。
モータケース10は、筒状に形成される。モータケース10のコントローラ3と反対側の開口には、フレームエンド14がねじ等により固定される。
【0021】
モータケース10の径内側には、ステータ20が配置される。ステータ20は、モータケース10の径方向内側に突出する12個の突極21及びスロットを有している。突極21及びスロットは、モータケース10の周方向に所定間隔で設けられている。突極21は、磁性材料の薄板を積層してなる積層鉄心から構成されている。この積層鉄心には、図示しないインシュレータを介して巻線26が巻回されている。巻線26は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成している。
一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第1インバータ回路80から電流が供給されることで回転磁界を生じる第1巻線群を構成する。他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第2インバータ回路89から電流が供給されることで回転磁界を生じる第2巻線群を構成する。
第1巻線群からコントローラ3側へ引き出された3本のモータ線27は、制御基板40及びパワーモジュール60の径方向外側を軸方向に延びてパワー基板70に接続される。
第2巻線群からコントローラ3側へ引き出された3本のモータ線28は、第1巻線群から引き出された3本のモータ線27の径方向反対側で、制御基板40及びパワーモジュール60の径方向外側を軸方向に延びてパワー基板70に接続される。
【0022】
ステータ20の径方向内側には、ロータ30がステータ20に対して相対回転可能に設けられる。ロータ30は、例えば鉄等の磁性体から筒状に形成される。ロータ30は、ロータコア31と、ロータコア31の径方向外側に設けられる永久磁石32を有している。永久磁石32は、N極とS極とが周方向に交互に着磁されている。
シャフト35は、ロータコア31の軸中心に形成された軸穴33に固定されている。シャフト35は、モータケース10に設けられる軸受12およびフレームエンド14に設けられる軸受15によって回転可能に支持される。これにより、シャフト35はロータ30と共に、ステータ20に対し相対回転可能となる。」
(1c)
「【0024】
次に、コントローラ3について説明する。
コントローラ3は、モータケース10を軸方向に投影した領域であるモータケース領域に収まるように設けられている。コントローラ3は、2個のパワーモジュール60、62、第1平滑コンデンサ77、第2平滑コンデンサ78、チョークコイル76、ヒートシンク50、パワー基板70及び制御基板40等から構成されている。この制御基板40が特許請求の範囲に記載の「基板」に相当する。
・・・
【0028】
チョークコイル76は、外径よりも軸方向の長さが短い環状に形成されている。チョークコイル76は、その軸線が、シャフト35の軸に垂直となるように配置される。チョークコイル76は、チョークコイル76は、シャフト35の軸方向の一方から見たとき、位置センサ93と重ならない位置に配置される。
パワーコネクタ79は、モータ2の径方向外側から配線を接続可能に設けられ、電源75と接続される。これにより、パワー基板70には、パワーコネクタ79を経由して電力が供給される。
【0029】
ヒートシンク50のモータ2における径方向外側には、2個のパワーモジュール60、62がシャフト35と略平行に縦置き配置される。
パワーモジュール60、62は、銅で形成された配線パターンにMOSを構成する半導体チップが搭載され、モールド部61により樹脂モールドされる。モールド部61の一方から制御端子64が突出し、他方からパワー端子65が突出している。
制御端子64には、MOSのスイッチングを制御する制御信号が入力される。制御端子は、MOSのゲートに接続されている。パワー端子65は、MOSのスイッチングにより電流が流れるソース及びドレインに接続されている。
一方のパワーモジュール60に第1インバータ回路80及び電源リレー87、88がモールドされている。他方のパワーモジュール62に第2インバータ回路89及び電源リレーがモールドされている。各パワーモジュール60、62は、各放熱ブロック51、52に対して1個ずつ配置されている。
パワーモジュール60、62は、放熱シートを介し、ねじ69によりヒートシンク50に螺着されている。これにより、パワーモジュール60の発する熱は、放熱シートを介し、ヒートシンク50に放熱される。
【0030】
パワーモジュール60、62のパワー端子65は、モールド部61からパワー基板70側に突出する。パワー端子65は、パワー基板70に形成されるスルーホール73に挿通され、はんだ等によりパワー基板70と電気的に接続される。パワー基板70には、パワー端子65とモータ線27、28とを接続する配線が形成されている。これにより、パワーモジュール60、62のパワー端子65からパワー基板70及びモータ線27、28を経由してモータ2の第1巻線群及び第2巻線群へ駆動電流が供給される。」
(1d)
「【0032】
制御基板40は、例えばガラスエポキシ基板により形成される4層基板であって、モータケース領域に収まる略長方形の板状に形成される。制御基板40には、ヒートシンク50をモータケース10に組み付けるための逃がしとして、3か所の切欠42が形成されている。制御基板40は、モータ2側からねじ47によってヒートシンク50に螺着される。
制御基板40には、制御部90を構成する各種電子部品が実装されている。制御基板40のモータ2側の表面には、位置センサ93が実装されている。位置センサ93は、シャフトの35の軸線上に設けられ、マグネット36と対向している。位置センサ93は、シャフト35とともに回転するマグネット36による磁界の変化を検出する。これにより、ロータ30の位置が検出される。制御基板40の短手側の一側に、制御コネクタ45が接続されている。制御コネクタ45は、パワーコネクタと同じ方向に設けられている。制御コネクタ45は、モータ2の径方向外側から配線を接続可能に設けられ、各種センサからのセンサ情報が入力される。」
(1e)
「【0038】
コントローラ3は、カバー68の内部に収容される。カバー68は、鉄等の磁性材料によって形成され、コントローラ3側から外部へ電界が漏れるのを防ぐとともに、コントローラ3側へ埃等が入り込むのを防止する。カバー68は、ねじ57によりヒートシンク50とともにモータケース10に螺着される。カバー68には、制御コネクタ45およびパワーコネクタ79と対応する位置に切欠69が設けられている。この切欠69から制御コネクタ45、パワーコネクタ79が、径方向外側に向いて露出する。また、樹脂ガイド16のパワーコネクタ79側の切欠69と対応する位置には、凸部18が形成されている。」
(1f)
「【0043】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるコントローラの制御基板40を図9に示す。本実施形態において、上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態では、カスタムICが第1カスタムIC921及び第2カスタムIC922とから構成される。第1カスタムIC921は、第1プリドライバ91を有する。第2カスタムIC922は、第2プリドライバ98を有する。第1カスタムIC921と第2カスタムIC922とは、中央線Sを挟んで対称に設けられる。
【0044】
第1カスタムIC921は、マイコン94から第1プリドライバ91に信号が入力される入力端子103が第2カスタムIC922側に設けられ、第1プリドライバ91から一方のパワーモジュール60に制御信号を出力する出力端子105が一方のパワーモジュール60側に設けられる。
第2カスタムIC922は、マイコン94から第2プリドライバ98に信号が入力される入力端子104が第1カスタムIC921側に設けられ、第2プリドライバ98から他方のパワーモジュール62に制御信号を出力する出力端子106が他方のパワーモジュール62側に設けられる。
【0045】
マイコン94の出力端子101から第1カスタムIC921有する第1プリドライバ91の入力端子103に制御基板40の配線Aを経由して信号が出力される。また、マイコン94の出力端子102から第2カスタムIC922有する第2プリドライバ98の入力端子104に制御基板40の配線Bを経由して信号が出力される。
配線Aは、マイコン94の出力端子101から、マイコン94と第1カスタムIC921の並び方向に延び、マイコン94と第1カスタムIC921の間で並び方向と直交方向であって中央線S側に折れ曲がり、そして中央線Sの手前で並び方向に折れ曲がり所定距離延び、所定の入力端子103と対向する位置でそれぞれ並び方向と直交方向に折れ曲がって所定の入力端子103と接続されている。
配線Bは、マイコン94の出力端子102から、マイコン94と第2カスタムIC922の並び方向に延び、マイコン94と第2カスタムIC922の間で並び方向と直交方向であって中央線S側に折れ曲がり、そして中央線Sの手前で並び方向に折れ曲がり所定距離延び、所定の入力端子104と対向する位置でそれぞれ並び方向と直交方向に折れ曲がって所定の入力端子104と接続されている。
【0046】
第1プリドライバ91は、マイコン94からの信号を受けて、第1カスタムIC921の出力端子105から一方のパワーモジュール60にモールドされた第1インバータ回路80に配線C?Hを経由して制御信号を出力する。
配線C?Hは、マイコン94と第1カスタムIC921の並び方向と直交方向であって、パワーモジュール60側へ直線上に延び、パワーモジュール60寄りの位置で直交方向に折れ曲がる。具体的には、2組の配線C?Fが並び方向におけるマイコン94側に折れ曲がり、1組の配線G,Hが並び方向におけるカスタムIC92側に折れ曲がる。そして、所定距離直線上に延び、所定のスルーホール43と対向する位置でそれぞれ並び方向と直交方向に折れ曲がってスルーホール43から飛び出した制御端子64と電気的に接続されている。これにより、第1インバータ回路80からパワー端子65、パワー基板70及びモータ線27を経由してモータ2の第1巻線群へ駆動電流としての三相交流が供給される。
【0047】
第2プリドライバ98は、マイコン94からの信号を受けて、カスタムIC92の出力端子106から他方のパワーモジュール62にモールドされた第2インバータ回路80に配線I?Nを経由して制御信号を出力する。
配線I?Nは、マイコン94と第2カスタムIC922の並び方向と直交方向であって、パワーモジュール62側へ直線上に延び、パワーモジュール62寄りの位置で直交方向に折れ曲がる。具体的には、2組の配線I?Lが並び方向におけるマイコン94側に折れ曲がり、1組の配線M、Nが並び方向における第2カスタムIC922側に折れ曲がる。そして、所定距離直線上に延び、所定のスルーホール46と対向する位置でそれぞれ並び方向と直交方向に折れ曲がってスルーホール46から飛び出した制御端子66と電気的に接続されている。これにより、第2インバータ回路89からパワー端子65、パワー基板70及びモータ線28を経由してモータ2の第2巻線群へ駆動電流としての三相交流が供給される。」

イ 甲1に記載された発明
摘記(1a)?(1f)並びに図1?9を踏まえ、「第1実施形態」に着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「電動パワーステアリング装置に用いられる電動装置1は、トルク信号及び車速信号に基づいて正逆回転することで、操舵のアシスト力を発生し、モータ2、及びこのモータ2のシャフト35の軸方向の一方に設けられたコントローラ3を備え、
コントローラ3は、電動装置1のモータ2の回転を駆動制御し、
モータ2は、ステータ20、ロータ30、を備え、ステータ20は、突極21を有し、突極21は、積層鉄心から構成され、この積層鉄心には、巻線26が巻回され、巻線26は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成し、ステータ20の径方向内側には、ロータ30がステータ20に対して相対回転可能に設けられ、
コントローラ3は、パワー部100、及びこのパワー部100を制御する制御部90から構成され、
制御部90は、カスタムIC92、マイコン94を備え、
カスタムIC92は、第1プリドライバ91、第2プリドライバ98、レギュレータ部95、位置センサ信号増幅部96、及び検出電圧増幅部97を有し、
レギュレータ部95は、電源を安定化する安定化回路であり、マイコン94は、このレギュレータ部95により、安定した所定電圧で動作し、
位置センサ信号増幅部96は、位置センサ93からのモータ2の回転位置を検出した回転位置信号を増幅し、マイコン94へ出力し、
検出電圧増幅部97は、両端の電位を検出することにより、U相コイル、V相コイル、W相コイルに通電される電流が検出されるシャント抵抗99の両端電圧を検出し、その両端電圧を増幅してマイコン94へ出力し、
マイコン94は、回転位置信号に合わせて第1プリドライバ91及び第2プリドライバ98に信号を出力し、第1プリドライバ91は、マイコン94からの信号を受けて第1インバータ回路80に制御信号を出力し、第2プリドライバ98は、マイコン94からの信号を受けて第2インバータ回路89に制御信号を出力し、
マイコン94は、検出電圧増幅部97から入力されるシャント抵抗99の両端電圧に基づき、モータ2へ供給する三相交流を正弦波に近づけるように第1インバータ回路80と第2インバータ回路89とを制御し、
パワー部100は、電源75に接続する配線に電気的に接続する第1平滑コンデンサ77、電源75と電源リレー87、88との間の配線に直列接続され電源変動を減衰するチョークコイル76、第1インバータ回路80、及び第2インバータ回路89を有し、第1インバータ回路80と第2インバータ回路89それぞれに電源リレー87、88を有し、
第1インバータ回路80を構成するMOS81?83とチョークコイル76との間に設けられる電源リレー87、88は、異常時に第1インバータ回路80からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能であり、第2インバータ回路89を構成するMOSとチョークコイルとの間に設けられる電源リレーは、異常時に第2インバータ回路89からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能であり、
一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第1インバータ回路80から電流が供給されることで回転磁界を生じる第1巻線群を構成し、他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第2インバータ回路89から電流が供給されることで回転磁界を生じる第2巻線群を構成し、
パワーコネクタ79は、モータ2の径方向外側から配線を接続可能に設けられ、電源75と接続され、パワー基板70には、パワーコネクタ79を経由して電力が供給され、
制御コネクタ45は、パワーコネクタと同じ方向に設けられ、モータ2の径方向外側から配線を接続可能に設けられ、各種センサからのセンサ情報が入力され、
コントローラ3は、カバー68の内部に収容され、2個のパワーモジュール60、62、ヒートシンク50、パワー基板70及び制御基板40等から構成され、カバー68には、制御コネクタ45およびパワーコネクタ79と対応する位置に切欠69が設けられ、この切欠69から制御コネクタ45、パワーコネクタ79が、径方向外側に向いて露出し、
ヒートシンク50のモータ2における径方向外側には、2個のパワーモジュール60、62がシャフト35と略平行に縦置き配置され、
一方のパワーモジュール60に第1インバータ回路80及び電源リレー87、88がモールドされ、他方のパワーモジュール62に第2インバータ回路89及び電源リレーがモールドされる、
電動パワーステアリング装置に用いられる電動装置1。」

2 甲2について
甲2には、図とともに以下の事項が記載されている。
(2a)
「【0010】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の第1の実施形態を示すシステム構成図である。
【図2】第1の実施形態におけるモータ制御装置の具体的構成を示す回路図である。
・・・
【図7】本発明の第2の実施形態を示す回路図である。
・・・ 」
(2b)
「【0022】
また、制御演算装置31には、第1及び第2のモータ電流遮断回路33A及び33Bと3相電動モータ12の第1及び第2の3相モータ巻線L1及びL2との間に設けられた異常検出回路35A及び35Bで検出したモータ電流検出値I1ud、I1vd、I1wd及びI2ud、I2vd、I2wdが入力されている。そして、制御演算装置31は、入力されるモータ電流検出値I1ud?I1wd及びI2ud?I2wdと自身が算出した各相電流指令値Iu^(*)、Iv^(*)及びIw^(*)とを比較して後述する第1及び第2のインバータ回路42A及び42Bを構成するスイッチング素子としての電界効果トランジスタ(FET)Q1?Q6のオープン故障及びショート故障を検出する異常検出部31aを備えている。この異常検出部31aでは、第1及び第2のインバータ回路42A及び42Bを構成する電界効果トランジスタ(FET)のオープン故障又はショート故障を検出したときに、異常を検出したモータ駆動回路32A又は32Bのゲート駆動回路41A又は41Bに対して論理値“1”の異常検出信号SAa又はSAbを出力する。」
(2c)
「【0036】
さらに、ゲート駆動回路41A及び41Bでは、制御演算装置31から入力される電圧指令値V1^(*)及びV2^(*)に基づいてパルス幅変調を行ってゲート信号を形成し、形成したゲート信号をインバータ回路42A及び42Bの各電界効果トランジスタQ1?Q6のゲートに供給する。
したがって、車両が停止状態で、ステアリングホイール1を操舵していない状態では、操舵トルクTsが“0”であるので、操舵補助電流指令値も“0”となって電動モータ12は停止状態を維持する。しかしながら、車両の停止状態または車両の走行開始状態でステアリングホイール1を操舵して所謂据え切りを行うと、操舵トルクTsが大きくなることにより、図5を参照して、大きな目標操舵補助電流指令値It^(*)を半分に均等割りした操舵補助電流指令値I^(*)が算出され、これに応じた大きな電圧指令値V1^(*)及びV2^(*)がゲート駆動回路41A及び41Bに供給される。このため、ゲート駆動回路41A及び41Bから大きな電圧指令値V1^(*)及びV2^(*)に応じたデューティ比のゲート信号がインバータ回路42A及び42Bに出力される。このため、インバータ回路42A及び42Bから操舵補助電流指令値I^(*)に応じた120度の位相差を有するU相電流I1u、V相電流I1v、W相電流I1w及びI2u、I2v及びI3wが出力され、これらがモータ電流遮断回路33A及び33Bの各相に対応する電界効果トランジスタQA1?QA3及びQB1?QB3を通って3相電動モータ12の3相モータ巻線L1及びL2の各相コイルL1u?L1w及びL2u?L2wに供給される。」
(2d)
「【0042】
そして、この異常状態を検出すると、制御演算装置31では、図6に示す異常時操舵補助電流指令値算出マップを参照して操舵補助電流指令値I^(*)を算出する。このため、算出される操舵補助電流指令値I^(*)がインバータ回路42A及び42Bで流すことが可能な電流値までは正常時の目標操舵補助電流指令値It^(*)すなわちインバータ回路42A及び42Bの双方を動作させている場合と同じ電流指令値となる。したがって、許容電流値に達するまでは正常時の操舵と全く同じ操舵補助力を3相電動モータ12で発生させることができ、運転者に違和感を与えることがない。しかも、ある程度の車速Vsで走行している状態では、必要な操舵補助力も小さくなるので、異常発生を運転者に感じさせることがなく操舵補助制御を継続することができる。しかしながら、大きな操舵補助力を必要とする据え切り時や極低速走行時の操舵時には運転者に異常の発生を感知させることができ、修理が必要なことを警告することができる。」
(2e)
「【0048】
次に、本発明の第2の実施形態を図7について説明する。
この第2の実施形態では、上述した第1の実施形態において、制御演算装置31を第1及び第2のモータ駆動回路32A及び32Bに対応させて2組設けるようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図7に示すように、第1及び第2のモータ駆動回路32A及び32Bに対応させて前述した図2における制御演算装置31と同一構成を有する個別の制御演算装置31A及び31Bを設けている。
・・・
【0050】
ここで、制御演算装置31A及び31Bは相互監視機能を有し、両者の演算結果を比較したり、ウォッチドッグタイマの動作等を互いに監視したりして、制御演算装置31A及び31Bの一方例えば31B(又は31A)が異常となったときに、他方の制御演算装置31A(又は31B)が検出することが可能となる。このため、制御演算装置の異常を検出したときに、正常な制御演算装置で異常となった制御演算装置で制御されるモータ駆動回路を代替制御することも可能となる。
【0051】
この第2の実施形態によると、制御演算装置31A及び31Bで個別に操舵補助制御処理及び異常制御処理を実行することにより、前述した第1の実施形態と同様に、モータ駆動回路32A及び32Bのインバータ回路42A及び42Bの何れか一方にショート故障又はオープン故障が生じたときに、正常なモータ駆動回路で操舵補助制御を継続することができる。したがって、上記第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0052】
しかも、第2の実施形態によると、制御演算装置31A及び31B間で相互監視を行うことができ、制御演算装置31A及び31Bの一方に異常が発生した場合でも正常な制御演算装置で第1実施形態と同様の異常時制御を行うことができるとともに、一方の制御演算装置31A(又は31B)が異常となったことを検出したときに、正常な制御演算装置31B(又は31A)でモータ駆動回路32A及び32Bを制御可能に構成しておくことにより、制御演算装置に異常が発生した場合でも正常な操舵補助制御を継続することができる効果を発揮することができる。」

3 甲3について
甲3には、図とともに以下の事項が記載されている。
(3a)
「【0022】
制御ユニット3は、モータ5のリアカバーの役目もなすヒートシンク29、パワーモジュール7、中継部材30、及びCPU6を搭載した制御基板31等を階層的に構成して形成されている。また、制御ユニット3は、ケース32、コネクタ33により、内蔵したパワーモジュール7、制御基板31等を保護している。」
(3b)
「【0025】
電源ライン38a、グランドライン38bは、コネクタ33の端子から延長され、中継部材30の一つの部位30a中にインサートモールドされている。その延長先はパワーモジュール7の電源端子39、グランド端子40付近まで延びている。また、トルクセンサ1、車速センサ2等の信号ラインも同様に中継部材30の部位30aの中を延長され、信号端子41を介して制御基板31へ接続されている。この信号端子41と同様に、電源ライン38a、グランドライン38bも制御基板31へ延びている。」
(3c)
「【0039】
図7、図8は、実施の形態1の図3?図5に相当する図で、図3?図5と同様に、ヒートシンク29にパワーモジュールを搭載し、中継部材30を図示せずに電源ライン38a、グランドライン38bの板状導体の配線状態を描いたものである。図7に示す例は、パワーモジュール7jと7kは同一のものであり、ほぼ長方形をなしヒートシンク29の外周側に近い1辺にはモータ5への出力端子34u、34v、34wの3個が並置されている。また、パワーモジュール7j、7kの出力端子34u、34v、34wの辺とは別の辺に電源端子39j、39k、グランド端子40j、40k(図7(a)では電源端子39k、グランド端子40kのみ図示)が隣接して配置されている。更に、この辺には少し離れた位置に制御用端子35j1、35k1(図7では35k1のみ図示)が配置されている。この制御用端子35j1、35k1は電源リレー9a、9bの制御信号用端子である。また、出力端子34u、34v、34wと対向する辺には第1スイッチング素子T1a?T6a、T1b?T6bの駆動用、又はモニタ用の制御用端子35j、35k(図7では35kのみ図示)が複数配列されている。更に、シャント抵抗Ra、Rbのモニタ用端子35j2、35k2(図7では35k2のみ図示)も配置されている。これら制御用端子35j、35k、35j1、35k1、35j2、35k2は電気的には図6の信号群42、43に相当する。
【0040】
パワーモジュール7j、7kの出力端子34u、34v、34wがヒートシンク29の外周側にくるように、かつヒートシンク29の中心に対してほぼ点対称位置に配置されている。一方、電源ライン38a、グランドライン38bは、図2に示すコネクタ33から延長され、互いに平行で隣接した状態で中継部材30の中を延びている。電源ライン38aはチョークコイル8を介して、グランドライン38bはそのままヒートシンク29の中央部まで延長される。ヒートシンク29の中央部には中心を示すために少し広い四角部39a、39bが形成されている。この四角部39a、39bは中心を示すために際立たせているが、特に形状、大きさは延長されたラインと変える必要はない。」
(3d)
「【0042】
図7(b)において、まず電源ライン38aとグランドライン38bは同一の下層面に配置されて平行に四角部39a、39bまで延びている。両四角部39a、39bはそれぞれ上層部に同等な第2の四角部39c、39dを配置している。これら上下層を接続するための垂直部45、46が互いに対向する辺に設けられている。そして電源ライン38a1、38a2がそれぞれ両パワーモジュール7j、7kへ向かって上層面で延長されている。」

4 甲4について
甲4には、図とともに以下の事項が記載されている。
(4a)
「【0009】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1による電子制御装置を図に基づいて説明する。この発明の実施の形態1による電子制御装置の全体構成を示すブロック図である。図1に於いて、この発明の実施の形態1による電子制御装置は、例えば車両の電子制御スロットルの制御装置として提供されたものであり、コントロールユニット(以下、ECUと称する)1と、アクチュエータ2と、センサ10とにより構成されている。」
(4b)
「【0021】
第2のマイコン4による前述の比較検証により第1のマイコン3が異常であると判断した場合、第2のマイコン4は、異常信号を出力する。この異常信号は出力ライン9を介して、ドライバ7を停止したり、第1のマイコン3に送信したり、又は警報を行う。第1のマイコン3の異常の状況によっては、一過性のものであったり、故障の箇所が一部であったり、軽症であった等により、更には後の点検に使用できるため、異常判断を第2のマイコン4のみならず第1のマイコン3も第2のマイコン4からの異常信号を記憶しておくとよい。」
(4c)
「【0033】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2による電子制御装置について説明する。実施の形態1では第1のマイコンの動作を第2のマイコンが監視する構成について説明したが、第1のマイコンと第2のマイコンが相互に相手の動作を監視することも可能である。電子制御装置の制御対象物に応じては、2つのマイコンを用い、各マイコンに制御機能を有するもの、或いは、冗長系を構成し、一方のマイコンが故障の場合、他方のマイコンで駆動を継続するようなシステムも多い。このようなシステムでは、2つのマイコンで相互に相手の動作を監視する構成が好適である。
【0034】
このような構成では、例えば第1のマイコンがマスター、第2のマイコンがスレーブとして動作する第1の通信手段を備え、第2のマイコンが実施の形態1と同様に自身のCPUリソースを用いずに第1のマイコンと通信を行い、また、第2のマイコンがマスター、第1のマイコンがスレーブとして動作する第2の通信手段を備え、第1のマイコンが実施の形態1と同様に自身のCPUリソースを用いずに第2のマイコンと通信を行うことで実現可能である。但し、この場合は、通信コントローラを第1のマイコンと第2のマイコンのそれぞれに保有している必要がある。」

第5 当審の判断
特許異議の申立ての理由について、以下、検討する。
1 申立理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1)
特許異議申立人は、「請求項1に『前記電源回路、前記入力回路、前記出力回路、前記電源リレー回路、前記中央処理装置、および前記コネクタは、2系統にそれぞれ分離独立され、かつ並設配置されている』と規定されている。この『2系統にそれぞれ分離独立』とは、電気回路が『2系統にそれぞれ分離独立』されているのか、それぞれの構成が電気回路としても、物理的/構造的にも『2系統にそれぞれ分離独立』されているのか不明瞭である。 上記した不備のある請求項1を引用する請求項2乃至請求項7にも同等の申し立ての理由がある。」(特許異議申立書の1頁下から2行?2頁5行及び11頁1?8行)旨主張する。
(2)

本件特許請求の範囲の請求項1には、「前記電源回路、前記入力回路、前記出力回路、前記電源リレー回路、前記中央処理装置、および前記コネクタは、2系統にそれぞれ分離独立され、かつ並設配置されている」と記載されている。

本件特許明細書の段落【0022】には、「2組のコネクタ類が独立に互いにほぼ平行にハウジング51に配置され、」と記載されている。

本件特許明細書の段落【0023】には、「図4は、制御基板4cを上方から見た上面図で、主要な電子部品のみを示している。図において、単一の制御基板4cに2組の制御回路が装着されており、中心線4dから左右に分離して各部品が配置されている。図中、左側には第1系統、右側には第2系統の制御回路が装着されている。」と記載され、段落【0025】には、「以上のように2組の独立した制御ユニット1a、1bが単一のハウジング内で、単一の制御基板4cに装着され、2系統の制御回路が並設されている。」と記載されている。

上記請求項1の「並設配置」の「配置」は、「それぞれの位置に割り当てること。割り当てられた位置・持場・受持」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味していることから、物理的な概念の用語であるといえる。
この用語の意味を踏まえると、上記請求項1の「2系統にそれぞれ分離独立され、かつ並設配置されていること」は、「2系統にそれぞれ分離独立され」ていることが、物理的/構造的にも「2系統に」「分離独立」されていることを意味しているものと理解できる。
そして、このように理解することは、本件特許明細書の記載(上記イ及びウ)と、整合するといえる。

以上から、上記請求項1の「前記電源回路、前記入力回路、前記出力回路、前記電源リレー回路、前記中央処理装置、および前記コネクタは、2系統にそれぞれ分離独立され、かつ並設配置されていること」の「2系統にそれぞれ分離独立」という記載は、「前記電源回路、前記入力回路、前記出力回路、前記電源リレー回路、前記中央処理装置、および前記コネクタ」が、電気回路としても、物理的/構造的にも「2系統にそれぞれ分離独立」されていることを意味していることは明らかである。

したがって、上記請求項1の「2系統にそれぞれ分離独立」という記載は、不明瞭であるとはいえず、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確であり、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?7も明確である。
(3)小括
したがって、本件発明1?7は、明確であり、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとはいえないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものであるとはいえない。

2 申立理由2(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)
a
甲1発明の「ロータ30」、「ステータ20」及び「モータ2」は、それぞれ、本件発明1の「ロータ」、「ステータ」及び「モータ」に相当する。
b
甲1発明において、「巻線26は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成し」、「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第1インバータ回路80から電流が供給されることで回転磁界を生じる第1巻線群を構成し、他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第2インバータ回路89から電流が供給されることで回転磁界を生じる第2巻線群を構成し」ていることから、甲1発明の「第1巻線群」と「第2巻線群」とは、互いに独立しているといえる。
したがって、甲1発明の「U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成」する「巻線26」は、「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」が、「第1巻線群を構成」し、「他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」が、「第2巻線群を構成」するものであり、これらの「巻線群」は互いに独立していることから、甲1発明の「U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成」する「巻線26」は、本件発明1の「独立した2組のコイル巻線」に相当する。
c
甲1発明において、「ステータ20は、突極21を有し」ているところ、「突極21は、積層鉄心から構成され、この積層鉄心には、巻線26が巻回され、巻線26は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成し」ていることから、上記a及びbを踏まえると、甲1発明の「ステータ20」は、独立した2組のコイル巻線を備えているといえる。
したがって、甲1発明の「ステータ20」は、本件発明1の「独立した2組のコイル巻線を備えたステータ」に相当する。
d
甲1発明において、「ステータ20の径方向内側には、ロータ30がステータ20に対して相対回転可能に設けられ」ることから(甲1の図2も参照)、甲1発明の「ロータ30」は、単一の「ロータ30」であるといえる。
そして、上記a?cを踏まえると、甲1発明の「モータ2は、ステータ20、ロータ30、を備え、ステータ20は、突極21を有し、突極21は、積層鉄心から構成され、この積層鉄心には、巻線26が巻回され、巻線26は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成し、ステータ20の径方向内側には、ロータ30がステータ20に対して相対回転可能に設けられ」る構成は、本件発明1の「単一のロータに対して独立した2組のコイル巻線を備えたステータを有し」ている「モータ」の構成に相当する。
e
甲1発明において、「モータ2」及び「コントローラ3」を備える「電動パワーステアリング装置に用いられる電動装置1」は、「トルク信号及び車速信号に基づいて正逆回転することで、操舵のアシスト力を発生し」ているものであり、「コントローラ3は、電動装置1のモータ2の回転を駆動制御」する。
このことから、実質的には、「コントローラ3」が、「モータ2の回転を駆動制御」することにより、「電動装置1」が「正逆回転」し、それにより車両の「ステアリング装置」を回転させて「操舵のアシスト力を発生し」ている、すなわち、「モータ2」が操舵機構を回転させるといえる。
したがって、上記aを踏まえると、甲1発明の「電動装置1のモータ2」は、本件発明1の「車両の操舵機構を回転させるモータ」に相当する。
f
上記d及びeを踏まえると、甲1発明の「電動パワーステアリング装置に用いられる電動装置1は、トルク信号及び車速信号に基づいて正逆回転することで、操舵のアシスト力を発生し」、「コントローラ3は、電動装置1のモータ2の回転を駆動制御し」、「モータ2は、ステータ20、ロータ30、を備え、ステータ20は、突極21を有し、突極21は、積層鉄心から構成され、この積層鉄心には、巻線26が巻回され、巻線26は、U相コイル、V相コイル及びW相コイルを二系統構成し、ステータ20の径方向内側には、ロータ30がステータ20に対して相対回転可能に設けられ」る構成は、本件発明1の「単一のロータに対して独立した2組のコイル巻線を備えたステータを有し、車両の操舵機構を回転させるモータ」の構成に相当する。
(イ)
甲1発明の「コントローラ3」は、「モータ2のシャフト35の軸方向の一方に設けられた」ものであり、「モータ2」に一体に取付けて「設けられた」ものといえる(甲1の図2等も参照)。
甲1発明の「コントローラ3」は、本件発明1の「制御ユニット部」に相当する。
したがって、甲1発明の「モータ2、及びこのモータ2のシャフト35の軸方向の一方に設けられたコントローラ3」は、本件発明1の「このモータに一体に取付けられた制御ユニット部」に相当する。
(ウ)
甲1発明において、「レギュレータ部95は、電源を安定化する安定化回路であり、マイコン94は、このレギュレータ部95により、安定した所定電圧で動作」することから、甲1発明の「レギュレータ部95」は、定電圧を発生する回路であるといえる。
したがって、甲1発明の「電源を安定化する安定化回路であり」、「マイコン94」を、「安定した所定電圧で動作」させる「レギュレータ部95」は、本件発明1の「定電圧を発生する電源回路」に相当する。
(エ)
a
甲1発明の「位置センサ信号増幅部96」は、「位置センサ93からのモータ2の回転位置を検出した回転位置信号を増幅し、マイコン94へ出力し」ていることから、「位置センサ93」を含む回路の動作情報を入力するものといえる。
b
甲1発明の「検出電圧増幅部97」は、「両端の電位を検出することにより、U相コイル、V相コイル、W相コイルに通電される電流が検出されるシャント抵抗99の両端電圧を検出し、その両端電圧を増幅してマイコン94へ出力し」ていることから、「シャント抵抗99」を含む回路の動作情報を入力するものといえる。
c
上記a及びbを踏まえると、甲1発明の「位置センサ93からのモータ2の回転位置を検出した回転位置信号を増幅し、マイコン94へ出力」する「位置センサ信号増幅部96」、及び、「両端の電位を検出することにより、U相コイル、V相コイル、W相コイルに通電される電流が検出されるシャント抵抗99の両端電圧を検出し、その両端電圧を増幅してマイコン94へ出力」する「検出電圧増幅部97」は、本件発明1の「各回路の動作情報を入力する入力回路」に相当する。
(オ)
a
甲1発明において、「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第1インバータ回路80から電流が供給されることで回転磁界を生じる第1巻線群を構成」することから、甲1発明の「第1インバータ回路80」が、「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」に「電流」を「供給」することで、「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」は、「回転磁界を生じる第1巻線群を構成」するといえる。
このことと、上記(ア)dを踏まえると、甲1発明の「第1インバータ回路80」は、「モータ2」の「巻線26」の「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」を駆動しているといえる。
b
甲1発明において、「他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイルは、第2インバータ回路89から電流が供給されることで回転磁界を生じる第2巻線群を構成」することから、上記aと同様に、甲1発明の「第2インバータ回路89」は、「モータ2」の「巻線26」の「他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」を駆動しているといえる。
c
上記a及びbを踏まえると、甲1発明の「回転磁界を生じる第1巻線群を構成」する「一方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」に、「電流」を「供給」する「第1インバータ回路80」、及び、甲1発明の「回転磁界を生じる第2巻線群を構成」する「他方の系統のU相コイル、V相コイル及びW相コイル」に、「電流」を「供給」する「第2インバータ回路89」は、本件発明1の「モータのコイル巻線を駆動するための出力回路」に相当する。
(カ)
a
甲1発明は、「パワー部100は、電源75に接続する配線に電気的に接続する第1平滑コンデンサ77、電源75と電源リレー87、88との間の配線に直列接続され電源変動を減衰するチョークコイル76、第1インバータ回路80、及び第2インバータ回路89を有し」、「第1インバータ回路80と第2インバータ回路89それぞれに電源リレー87、88を有し」、「第1インバータ回路80を構成するMOS81?83とチョークコイル76との間に設けられる電源リレー87、88は、異常時に第1インバータ回路80からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能であり、第2インバータ回路89を構成するMOSとチョークコイルとの間に設けられる電源リレーは、異常時に第2インバータ回路89からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能であ」ることから、電源75、チョークコイル76、電源リレー87、88、第1インバータ回路80がこの順に直列に設けられているものと理解でき、「電源リレー87、88は、異常時に第1インバータ回路80からモータ2側へ電流が流れるのを遮断可能」、すなわち、第1インバータ回路80に関連する前記電源リレー87、88が、第1インバータ回路80への電源75からの電流を遮断可能であるものと理解できる(図1も参照)。
また、これと同様に、電源75、チョークコイル76、電源リレー87、88、第2インバータ回路89がこの順に直列に設けられ、第2インバータ回路80に関連する前記電源リレー87、88が、第2インバータ回路89への電源75からの電流を遮断可能であるものと理解できる。
b
したがって、上記(オ)cを踏まえると、甲1発明の「第1インバータ回路80と第2インバータ回路89それぞれ」が「有し」ている上記「電源リレー87、88」は、本件発明1の「前記出力回路への電流供給を遮断する電源リレー回路」に相当する。
(キ)
a
甲1発明において、「位置センサ信号増幅部96は、位置センサ93からのモータ2の回転位置を検出した回転位置信号を増幅し、マイコン94へ出力し」ていること、及び、上記(エ)cを踏まえると、甲1発明の「増幅」された「回転位置信号」は、本件発明1の「入力回路からの情報」に相当する。
また、甲1発明の「検出電圧増幅部97から入力されるシャント抵抗99の両端電圧」は、上記(エ)cを踏まえると、検出電圧増幅部97で増幅されマイコン94へ入力されるものといえることから、本件発明1の「入力回路からの情報」に相当する。
b
甲1発明において、「マイコン94は、回転位置信号に合わせて第1プリドライバ91及び第2プリドライバ98に信号を出力し、第1プリドライバ91は、マイコン94からの信号を受けて第1インバータ回路80に制御信号を出力し、第2プリドライバ98は、マイコン94からの信号を受けて第2インバータ回路89に制御信号を出力し」ていることから、甲1発明の「マイコン94」は、「回転位置信号」に基づき制御量を演算して、「第1プリドライバ91及び第2プリドライバ98に信号を出力し」、「第1プリドライバ91及び第2プリドライバ98」を介して、「第1インバータ回路80」及び「第2インバータ回路89」へ「制御信号を出力する」ものといえる。
c
甲1発明において、「マイコン94は、検出電圧増幅部97から入力されるシャント抵抗99の両端電圧に基づき、モータ2へ供給する三相交流を正弦波に近づけるように第1インバータ回路80と第2インバータ回路89とを制御し」ていることから、甲1発明の「マイコン94」は、「電圧増幅部97から入力されるシャント抵抗99の両端電圧」「に基づき」、制御量を演算して、「第1インバータ回路80」及び「第2インバータ回路89」へ制御信号を出力するものといえる。
d
上記a?c、上記(イ)及び上記(オ)cを踏まえると、甲1発明の「回転位置信号に合わせて第1プリドライバ91及び第2プリドライバ98に信号を出力し」、かつ、「検出電圧増幅部97から入力されるシャント抵抗99の両端電圧に基づき、モータ2へ供給する三相交流を正弦波に近づけるように第1インバータ回路80と第2インバータ回路89とを制御し」ている、「マイコン94」は、本件発明1の「前記入力回路からの情報に基づき制御量を演算して前記出力回路へ制御信号を出力する中央処理装置」に相当する。
(ク)
甲1発明の「モータ2の径方向外側から配線を接続可能に設けられ、電源75と接続され」る「パワーコネクタ79」及び「パワーコネクタと同じ方向に設けられている」「モータ2の径方向外側から配線を接続可能に設けられ、各種センサからのセンサ情報が入力され」る「制御コネクタ45」は、本件発明1の「入力または出力するためのコネクタ」に相当する。
(ケ)
a
甲1発明は、「コントローラ3は、パワー部100、及びこのパワー部100を制御する制御部90から構成され」、「制御部90は、カスタムIC92、マイコン94を備え」、「カスタムIC92」は、「レギュレータ部95、位置センサ信号増幅部96、及び検出電圧増幅部97を有し」、「パワー部100」は、「第1インバータ回路80、及び第2インバータ回路89を有し、第1インバータ回路80と第2インバータ回路89それぞれに電源リレー87、88を有し」ている構成を備えるものである。
このことから、甲1発明の「コントローラ3」すなわち制御ユニット部(上記(イ))は、「レギュレータ部95」すなわち電源回路(上記(ウ))、「位置センサ信号増幅部96」及び「検出電圧増幅部97」すなわち入力回路(上記(エ))、「第1インバータ回路80」及び「第2インバータ回路89」すなわち出力回路(上記(オ))、「電源リレー87、88」すなわち電源リレー回路(上記(カ))、及び、「マイコン94」すなわち中央処理装置(上記(キ))を有しているといえる。
したがって、甲1発明の上記構成は、本件発明1の「前記制御ユニット部」は、「電源回路」、「入力回路」、「出力回路」、「電源リレー回路」、「中央処理装置」を「有し」ている構成に相当する。
b
甲1発明において、「コントローラ3は、カバー68の内部に収容され、2個のパワーモジュール60、62、ヒートシンク50、パワー基板70及び制御基板40等から構成され、カバー68には、制御コネクタ45およびパワーコネクタ79と対応する位置に切欠69が設けられ、この切欠69から制御コネクタ45、パワーコネクタ79が、径方向外側に向いて露出し」ていること、及び、「パワー基板70には、パワーコネクタ79を経由して電力が供給され」ることから、「制御コネクタ45」及び「パワーコネクタ79」は、「コントローラ3」の「制御基板40」等に繋がっているものと理解でき、併せて図4等も参照すると、甲1発明の「コントローラ3」は、「制御コネクタ45」及び「パワーコネクタ79」を有しているものと理解できる。
したがって、上記(イ)を踏まえると、甲1発明の「コントローラ3」は「制御コネクタ45」及び「パワーコネクタ79」を有している構成は、本件発明1の「前記制御ユニット部」は「入力または出力するためのコネクタを有し」ている構成に相当する。

以上から、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「単一のロータに対して独立した2組のコイル巻線を備えたステータを有し、車両の操舵機構を回転させるモータと、このモータに一体に取付けられた制御ユニット部とを備え、前記制御ユニット部は、定電圧を発生する電源回路、各回路の動作情報を入力する入力回路、前記モータのコイル巻線を駆動するための出力回路、前記出力回路への電流供給を遮断する電源リレー回路、前記入力回路からの情報に基づき制御量を演算して前記出力回路へ制御信号を出力する中央処理装置、および入力または出力するためのコネクタを有している、電動パワーステアリング装置。」
<相違点>
「定電圧を発生する電源回路、各回路の動作情報を入力する入力回路、前記モータのコイル巻線を駆動するための出力回路、前記出力回路への電流供給を遮断する電源リレー回路、前記入力回路からの情報に基づき制御量を演算して前記出力回路へ制御信号を出力する中央処理装置、および入力または出力するためのコネクタを有しているを有している」「制御ユニット部」に関して、
本件発明1では、前記制御ユニット部は、「前記モータのコイル巻線にそれぞれ電流を独立して供給または遮断するように2系統形成され」、「さらに、前記電源回路、前記入力回路、前記出力回路、前記電源リレー回路、前記中央処理装置、および前記コネクタは、2系統にそれぞれ分離独立され、かつ並設配置され」、「前記中央処理装置は、前記各回路または前記コイル巻線の異常を検出する異常検出機能を有するとともに2つの中央処理装置間で通信を行い、一方の系統に異常が検出された場合、他方の系統の前記制御ユニット部で制御を継続するように構成され」ているのに対して、
甲1発明では、「コントローラ3」(本件発明1の「制御ユニット部」に相当。以下、同様に( )内は、相当する用語を示す。各相当関係は、上記ア(ケ)aも参照。)は、「第1インバータ回路80、及び第2インバータ回路89」(出力回路)と、「第1インバータ回路80を構成するMOS81?83とチョークコイル76との間に設けられる電源リレー87、88」及び「第2インバータ回路89を構成するMOSとチョークコイルとの間に設けられる電源リレー」(電源リレー回路)とを有し、「2個のパワーモジュール60、62がシャフト35と略平行に縦置き配置され、一方のパワーモジュール60に第1インバータ回路80及び電源リレー87、88がモールドされ、他方のパワーモジュール62に第2インバータ回路89及び電源リレーがモールドされ」ているが、「コントローラ3」(制御ユニット部)の、「レギュレータ部95」(電源回路)、「位置センサ信号増幅部96」及び「検出電圧増幅部97」(入力回路)、「マイコン94」(中央処理装置)、および「制御コネクタ45」及び「パワーコネクタ79」(コネクタ)は、それぞれ1つである点。

イ 判断
以下、相違点について検討する(特に、上記相違点に係る「コネクタ」について検討する。)。
(ア)
「コネクタ」は、「連結器。継ぎ手。電線相互あるいは電線と電気器具を接続するための電気部品。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」を意味しているところ、甲2(摘記(2a)?(2e)等)には、コネクタという用語もコネクタに該当する電気部品も記載されていない(甲2の図7は、回路図であるが(摘記(2a))、コネクタやコネクタに相当する電気部品は記載されていないし、それを看取することもできない。)。
(イ)
また、コネクタを、2系統に分離独立させることは、甲1?4のいずれにも記載も示唆もされていないし(摘記(1d)、(1e)、(1f)、(3b)及び(3d)等も参照)、そのようにしようとする動機付けも無い。
(ウ)
上記(イ)のとおり、少なくとも、甲1発明において、「コネクタ」を、「2系統に」「分離独立」させる動機付けは存在しないことから、上記相違点に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者にとって格別に困難なことではないとはいえない。
さらに、コネクタに関して、上記の「2系統に」「分離独立」させた上で「並設配置」する構成を採用することは、当業者であっても、動機付けが存在しない上に、他の部品との配置関係などについて、創意工夫を重ねる必要があるといえる。
(エ)
そうすると、甲1には、「カスタムICが第1カスタムIC921及び第2カスタムIC922とから構成され」ること等(摘記(1f))が記載され、甲2には、「制御演算装置31A及び31B間で相互監視を行うことができ」ること等(摘記(2e))が記載されていたとしても、甲1発明の、コネクタ以外の他の各回路の「分離独立」や「並設配置」について検討するまでもなく、上記のコネクタに関する構成を含む上記相違点に係る本件発明1の構成を想到することは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(オ)
以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?7について
本件発明2?7は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1を減縮した発明であるところ、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(1)で述べたとおり、甲1発明及び甲2ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申書の17頁10?13行において、特許異議申立人は、甲2に関して、「図7には、バッテリ22からの電源ラインがノイズフィルタ43を介して、一点鎖線で囲まれた第1及び第2のモータ駆動回路32Aおよび32Bに至る前に分岐している。つまり、第1及び第2のモータ駆動回路32Aおよび32B毎に電源用のコネクタが電気回路として分離独立させることが記載されている。」と主張するが、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、甲2には、コネクタもコネクタに相当する電気部品も、記載も示唆もされていないことから、この主張は採用できない。

(4)小括
したがって、本件発明1?7は、甲1発明及び甲2ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-05 
出願番号 特願2016-554994(P2016-554994)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B62D)
P 1 651・ 121- Y (B62D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 中田 善邦
出口 昌哉
登録日 2017-10-13 
登録番号 特許第6223593号(P6223593)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 電動パワーステアリング装置  
代理人 村上 啓吾  
代理人 吉澤 憲治  
代理人 大岩 増雄  
代理人 竹中 岑生  

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