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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
管理番号 1343942
異議申立番号 異議2018-700532  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-04 
確定日 2018-09-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6256460号発明「チオガレート系蛍光体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6256460号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6256460号の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成27年12月28日の出願であって、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年7月4日(受理日)に特許異議申立人中水 麻衣(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

特許第6256460号の請求項1?16の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1?16の発明を、項番号に応じて「本件発明1」などという。また、まとめて、「本件発明」ということがある。)。

「【請求項1】
ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1とユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子M2とを含む溶液(a-1)と、亜硫酸塩を含む溶液(b-1)とを準備する工程と、
溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程と、
得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を用いてチオガレート系蛍光体を得る工程とを有するチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項2】
ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む溶液(a-2)と、ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子M2を含む溶液(a-3)と、亜硫酸塩を含む溶液(b-1)とを準備する工程と、
溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程と、
得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を用いてチオガレート系蛍光体を得る工程とを有するチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記チオガレート系蛍光体が、下記一般式で表されるチオガレート系蛍光体である、請求項1又は2に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
(M1_(1-x)M2_(x))Ga_(2-y)S_(4-z)
(式中、M1は、ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子であり、M2は、ユウロピウム及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であり、x、y、zは、0.03≦x≦0.25、-0.2≦y≦0.2、及び-0.2≦z≦0.2を満たす。)
【請求項4】
前記チオガレート系蛍光体を得る工程において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体と、ガリウム化合物の粉体とを混合し、硫化水素雰囲気下で焼成する工程を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項5】
M1及びM2の合計に対する亜硫酸イオンの当量比が1.01?1.30である、請求項1?4のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記溶液(b-1)のpHを7.0?8.0の範囲に調整する、請求項1?5のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記粉体を得る工程の前に、M1及びM2の合計に対する亜硫酸イオンの当量比が0.2以下である亜硫酸塩を含む溶液(b-2)を反応容器に準備する工程を有する、請求項1?6のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記溶液(b-2)のpHを7.0?8.0の範囲に調整する、請求項7に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記粉体を得る工程において、反応系のpHを5.0?8.5の範囲に調整する、請求項1?8のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記粉体を得る工程において、反応系のpHを5.0?6.0の範囲に調整する、請求項9に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記粉体を得る工程において、反応系の温度が15?30℃の範囲にある、請求項1?10のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記一般式中、M1がストロンチウム、カルシウム、及びバリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子であり、M2がユウロピウムである、請求項3?11のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体の製造方法。
【請求項13】
F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径が1.5μm以上であり、F.S.S.S法で測定した平均粒径に対する細孔電気抵抗法で測定した体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径の比が1以上2.5以下であり、ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1とユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子M2とを含有するチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩。
【請求項14】
細孔電気抵抗法で測定した体積基準による粒度分布の標準偏差が0.5以下である、請求項13に記載のチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩。
【請求項15】
M1がストロンチウム、カルシウム、バリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子であり、M2がユウロピウムである、請求項13又は14に記載のチオガレート
系蛍光体用の亜硫酸塩。
【請求項16】
請求項13?15のいずれか一項に記載のチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩とガリウム化合物の粉体とを混合し、硫化水素雰囲気下で焼成することにより、下記一般式で表されるチオガレート系蛍光体を得ることを特徴とするチオガレート系蛍光体の製造方法。
(M1_(1-x)M2_(x))Ga_(2-y)S_(4-z)
(式中、M1は、ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子であり、M2は、ユウロピウム及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であり、x、y、zは、0.03≦x≦0.25、-0.2≦y≦0.2、及び-0.2≦z≦0.2を満たす。)」

第3 申立理由の概要

申立人は、特許異議申立書において、概ね、次のように主張している。

1 申立理由ア(明確性要件違反)

アA(1) 甲第1号証(「硫化物蛍光体のプロセッシングと機能」、Journal of MMIJ、2010年、Vol.126、No.7、p.456-459)には、チオガレート系材料が一般式(AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素であることが開示されている。
一方、本件発明1は、本件発明1で製造されるチオガレート系蛍光体において、ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含むことを規定する。
即ち、本件発明1では、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体についてもチオガレート系蛍光体と規定している。
しかし、甲第1号証には、チオガレート系材料が一般式(AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素であることが開示されているものの、それらを含まず、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含むものまでもチオガレート系蛍光体と定義されることは、出願時の技術常識ではない。また、本件特許明細書にも、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体までもチオガレート系蛍光体に含まれることは定義されていない。
したがって、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体についてもチオガレート系蛍光体と規定している本件発明1は、明確ではない。(第8頁第13行?第9頁第14行)

アA(2) 甲第1号証には、チオガレート系材料が一般式(AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素であることが開示されている。
一方、本件発明2は、本件発明2で製造されるチオガレート系蛍光体において、ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含むことを規定する。
即ち、本件発明2では、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体についてもチオガレート系蛍光体と規定している。
しかし、甲第1号証には、チオガレート系材料が一般式(AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素であることが開示されているものの、それらを含まず、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含むものまでもチオガレート系蛍光体と定義されることは、出願時の技術常識ではない。また、本件特許明細書にも、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体までもチオガレート系蛍光体に含まれることは定義されていない。
したがって、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体についてもチオガレート系蛍光体と規定している本件発明2は、明確ではない。(第9頁第15行?第10頁第15行)

アA(3) 本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3?11についても明確でない。

アA(4) 甲第1号証には、チオガレート系材料が一般式(AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素であることが開示されている。
一方、本件発明13は、本件発明13の亜硫酸塩が用いられるチオガレート系蛍光体において、ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含むことを規定する。
即ち、本件発明13では、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体についてもチオガレート系蛍光体と規定している。
しかし、甲第1号証には、チオガレート系材料が一般式(AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素であることが開示されているものの、それらを含まず、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含むものまでもチオガレート系蛍光体と定義されることは、出願時の技術常識ではない。また、本件特許明細書にも、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体までもチオガレート系蛍光体に含まれることは定義されていない。
したがって、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体についてもチオガレート系蛍光体と規定している本件発明13は、明確ではない。(第10頁下から第4行?第11頁下から第3行)

アA(5) 本件発明13を引用する本件発明14、16についても明確でない。

アB(1) 本件発明13は、チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩について、「F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径が1.5μm以上」と規定している。
これに対し、本件特許明細書には、当該平均粒径の上限は定義されていない。
また、当該平均粒径の上限がいくらであるかは、出願時の技術常識ではない。
したがって、チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩についての、F.S.S.S法で測定した平均粒径の上限を規定していない本件発明13は、明確ではない。(第12頁第6行?第13頁下から第7行)

アB(2) 本件発明13を引用する本件発明14?16についても、明確ではない。

アC 小括

本件特許の請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

2 申立理由イ(サポート要件違反)

イA(1) 本件発明1は、原子M1、M2として、それぞれ、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種」、「ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種」と規定している。
しかしながら、本件発明1は、製造されるチオガレート系蛍光体におけるM1とM2との比率を規定してない。
一方、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみである(例えば、段落【0070】【表1】参照。)。即ち、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、M1としてSrを用い、かつM1としてのSrとM2としてのEuとの比率(M1:M2)が0.96:0.04の場合のみである。
ここで、同族元素であっても原子半径や電荷密度は当然に異なるところ、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。また、原材料の2種以上の原子の比率の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。
そして、本件特許明細書には、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、及び原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、何ら記載されていない。
そのため、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(第14頁第7行?第15頁第9行)

イA(2) 本件発明2は、原子M1、M2として、それぞれ、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種」、「ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種」と規定している。
しかしながら、本件発明2は、製造されるチオガレート系蛍光体におけるM1とM2との比率を規定しない。
そして、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみである一方で、本件発明2の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は開示されていない。
ここで、同族元素であっても原子半径や電荷密度は当然に異なるところ、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。また、原材料の2種以上の原子の比率の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。
そして、本件特許明細書には、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、及び原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、なんら記載されていない。
また、上記の通り、本件特許明細書には、本件発明1の方法でチオガレート系蛍光体(Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4))を製造する具体例が開示されているものの、本件発明1の製造方法と、本件発明2の製造方法とでは、反応生成物の粒子の大きさにどの程度違いが生じるかについては、本件特許明細書には、なんら記載されていない。
そのため、出願時の技術常識に照らしても、本件発明2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(第15頁第10行?第16頁第15行)

イA(3) 本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3?12についても発明の詳細な説明に記載したものではない。

イB(1) 本件発明13は、「F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径が1.5μm以上」、「F.S.S.S法で測定した平均粒径に対する細孔電気抵抗法で測定した体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径の比が1以上2.5以下」と規定し、また、原子M1、原子M2として、それぞれ、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種」、「ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種」と規定している。
一方、本件特許明細書において、具体的に開示されている本件発明13のチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩は、実施例1?3の亜硫酸塩(Sr,Eu)SO_(3)〔Sr:Eu=0.96:0.04〕のみである。即ち、本件特許明細書において、具体的に開示されている本件発明13のチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩は、M1としてSrを用い、かつM1としてのSrとM2としてのEuとの比率(M1:M2)が0.96:0.04の場合のみである。
ここで、平均粒径を横軸に、比を縦軸に取ったX-Y面に、本件発明13の亜硫酸塩の平均粒径及び比の範囲と、実施例1?3の亜硫酸塩(Sr,Eu)SO_(3)〔Sr:Eu=0.96:0.04〕をプロットすると以下の通りであり、実施例1?3に対して、本件発明13の亜硫酸塩の平均粒径の範囲及び比の範囲は非常に広範囲である。

ここで、「F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径が1.5μm以上」かつ「F.S.S.S法で測定した平均粒径に対する細孔電気抵抗法で測定した体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径の比が1以上2.5以下」のM1及びM2含有亜硫酸塩の製造方法は、出願時に技術常識として知られていない。
そして、同族元素であっても原子半径や電荷密度は当然に異なるところ、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いは、反応生成物の粒子の大きさ、及び粒径分布に影響しないとは言えない。また、原材料の2種以上の原子の比率の違いは、反応生成物の粒子の大きさ、及び粒径分布に影響しないとは言えない。
そして、本件特許明細書には、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いが反応生成物の粒子の大きさ及び粒径分布にどの程度影響するかについて、並びに原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさ、及び粒径分布にどの程度影響するかについて、何ら記載されていない。
そのため、出願時の技術常識に照らしても、本件発明13の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明13は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(第16頁下から第4行?第18頁末行)

イB(2) 本件発明13を引用する本件発明14?16についても発明の詳細な説明に記載したものではない。

イC(1) 本件発明1は、「溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程」と規定している。
本件特許明細書には、「同時」に関し、【0021】に、「本明細書において、『同時』とは、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること、又は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給を開始する時間が一致していることをいう。溶液(a-1)と、溶液(b-1)とは、反応容器に供給を終了する時間が一致していることが望ましいが、供給を終了する時間が多少ずれていてもよい。」と記載されており、上記「溶液(a-1)と溶液[b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」とは、例えば、溶液(a-1)を先に反応容器に供給し始め、その供給がほぼ終わる寸前に、溶液(b-1)を反応容器に供給し始めることを含む。そうすると、上記「溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」は、本件特許明細書の【0050】において記載された「従来のように亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンのどちらか一方が大過剰に存在する反応系中に、亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンの他方のイオンを供給して反応させた場合」を含んでいる。
しかしながら、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみであり、その製造方法は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給するに際して、供給の開始及び終了が一致している具体例のみである(本件特許明細書の【0059】、【0061】、及び【0062】参照。)。
そして、本件特許明細書には、本件特許明細書の【0021】の「同時」に含まれるあらゆる場合に、本件発明1の課題が解決できることについて、出願時の技術常識を踏まえても当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
そのため、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(第19頁第7行?第21頁下から第5行)

イC(2) 本件発明2は、「溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程」と規定している。
本件特許明細書には、「同時」に関し【0021】に、「本明細書において、『同時』とは、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること、又は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給を開始する時間が一致していることをいう。溶液(a-1)と、溶液(b-1)とは、反応容器に供給を終了する時間が一致していることが望ましいが、供給を終了する時間が多少ずれていてもよい。」と記載されており、上記「溶液(a-1)と溶液[b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」とは、例えば、溶液(a-1)を先に反応容器に供給し始め、その供給がほぼ終わる寸前に、溶液(b-1)を反応容器に供給し始めることを含む。そうすると、上記「溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」は、本件特許明細書の【0050】において記載された「従来のように亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンのどちらか一方が大過剰に存在する反応系中に、亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンの他方のイオンを供給して反応させた場合」を含んでいる。
しかしながら、本件特許明細書において、具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、本件発明1の方法で製造されたSr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみであり、その製造方法は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給するに際して、供給の開始及び終了が一致している具体例のみである(本件特許明細書の【0059】、【0061】、及び【0062】参照。)。
また、上記の通り、本件特許明細書には、本件発明1の方法でチオガレート系蛍光体(Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4))を製造する具体例が開示されているものの、本件発明1の製造方法と、本件発明2の製造方法とでは、反応生成物の粒子の大きさにどの程度違いが生じるかについては、本件特許明細書には、なんら記載されていない。
加えて、本件特許明細書には、本件特許明細書の【0021】の「同時」に含まれるあらゆる場合に、本件発明1の課題が解決できることについて、出願時の技術常識を踏まえても当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
そのため、出願時の技術常識に照らしても、本件発明2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(第21頁下から第4行?第24頁第18行)

イC(3) 本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3?12についても発明の詳細な説明に記載したものではない。

イD 小括

本件特許の請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

3 申立理由ウ(実施可能要件違反)

ウA(1) 本件発明1は、原子M1、M2として、それぞれ、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種」、「ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種」と規定している。
しかしながら、本件発明1は、製造されるチオガレート系蛍光体におけるM1とM2との比率を規定してない。
一方、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみである(例えば、段落【0070】【表1】参照。)。即ち、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、M1としてSrを用い、かつM1としてのSrとM2としてのEuとの比率(M1:M2)が0.96:0.04の場合のみである。
ここで、同族元素であっても原子半径や電荷密度は当然に異なるところ、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。また、原材料の2種以上の原子の比率の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。
そして、本件特許明細書には、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、及び原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、何ら記載されていない。
そのため、本件発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。(第25頁第5行?第26頁第4行)

ウA(2) 本件発明2は、原子M1、M2として、それぞれ、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種」、「ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種」と規定している。
しかしながら、本件発明2は、製造されるチオガレート系蛍光体におけるM1とM2との比率を規定していない。
そして、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみである一方で、本件発明2の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は開示されていない。
ここで、同族元素であっても原子半径や電荷密度は当然に異なるところ、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。また、原材料の2種以上の原子の比率の違いは、反応生成物の粒子の大きさに影響しないとは言えない。
そして、本件特許明細書には、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、及び原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさにどの程度影響するかについて、なんら記載されていない。
また、上記の通り、本件特許明細書には、本件発明1の方法でチオガレート系蛍光体(Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4))を製造する具体例が開示されているものの、本件発明1の製造方法と、本件発明2の製造方法とでは、反応生成物の粒子の大きさにどの程度違いが生じるかについては、本件特許明細書には、なんら記載されていない。
そのため、本件発明2について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。(第26頁第5行?第27頁第7行)

ウA(3) 本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3?12についても、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

ウB(1) 本件発明13は、「F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径が1.5μm以上」、「F.S.S.S法で測定した平均粒径に対する細孔電気抵抗法で測定した体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径の比が1以上2.5以下」と規定し、また、原子M1、原子M2として、それぞれ、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種」、「ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種」と規定している。
一方、本件特許明細書において、具体的に開示されている本件発明13のチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩は、実施例1?3の亜硫酸塩(Sr,Eu)SO_(3)〔Sr:Eu=0.96:0.04〕のみである。即ち、本件特許明細書において、具体的に開示されている本件発明13のチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩は、M1としてSrを用い、かつM1としてのSrとM2としてのEuとの比率(M1:M2)が0.96:0.04の場合のみである。
ここで、平均粒径を横軸に、比を縦軸に取ったX-Y面に、本件発明13の亜硫酸塩の平均粒径及び比の範囲と、実施例1?3の亜硫酸塩(Sr,Eu)SO_(3)〔Sr:Eu=0.96:0.04〕をプロットすると以下の通りであり、実施例1?3に対して、本件発明13の亜硫酸塩の平均粒径の範囲及び比の範囲は非常に広範囲である。

ここで、「F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径が1.5μm以上」かつ「F.S.S.S法で測定した平均粒径に対する細孔電気抵抗法で測定した体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径の比が1以上2.5以下」のM1及びM2含有亜硫酸塩の製造方法は、出願時に技術常識として知られていない。
そして、同族元素であっても原子半径や電荷密度は当然に異なるところ、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いは、反応生成物の粒子の大きさ、及び粒径分布に影響しないとは言えない。また、原材料の2種以上の原子の比率の違いは、反応生成物の粒子の大きさ、及び粒径分布に影響しないとは言えない。
そして、本件特許明細書には、原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いが反応生成物の粒子の大きさ及び粒径分布にどの程度影響するかについて、並びに原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさ、及び粒径分布にどの程度影響するかについて、何ら記載されていない。
そのため、本件発明13について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。(第27頁第17行?第29頁第11行)

ウB(2) 本件発明13を引用する本件発明14?16についても発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

ウC(1) 本件発明1は、「溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程」と規定している。
本件特許明細書には、「同時」に関し、【0021】に、「本明細書において、『同時』とは、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること、又は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給を開始する時間が一致していることをいう。溶液(a-1)と、溶液(b-1)とは、反応容器に供給を終了する時間が一致していることが望ましいが、供給を終了する時間が多少ずれていてもよい。」と記載されており、上記「溶液(a-1)と溶液[b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」とは、例えば、溶液(a-1)を先に反応容器に供給し始め、その供給がほぼ終わる寸前に、溶液(b-1)を反応容器に供給し始めることを含む。そうすると、上記「溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」は、本件特許明細書の【0050】において記載された「従来のように亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンのどちらか一方が大過剰に存在する反応系中に、亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンの他方のイオンを供給して反応させた場合」を含んでいる。
しかしながら、本件特許明細書において、本件発明1の方法で具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみであり、その製造方法は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給するに際して、供給の開始及び終了が一致している具体例のみである(本件特許明細書の【0059】、【0061】、及び【0062】参照。)。
そして、本件特許明細書には、本件特許明細書の【0021】の「同時」に含まれるあらゆる場合に、本件発明1が実施できることについて、出願時の技術常識を踏まえても当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
そのため、本件発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。(第29頁下から第8行?第32頁第4行)

ウC(2) 本件発明2は、「溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程」と規定している。
本件特許明細書には、「同時」に関し、【0021】に、「本明細書において、『同時』とは、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること、又は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給を開始する時間が一致していることをいう。溶液(a-1)と、溶液(b-1)とは、反応容器に供給を終了する時間が一致していることが望ましいが、供給を終了する時間が多少ずれていてもよい。」と記載されており、上記「溶液(a-1)と溶液[b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」とは、例えば、溶液(a-1)を先に反応容器に供給し始め、その供給がほぼ終わる寸前に、溶液(b-1)を反応容器に供給し始めることを含む。そうすると、上記「溶液(a-1)と溶液(b-1)とを共に反応容器に供給している時間が存在すること」は、本件特許明細書の【0050】において記載された「従来のように亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンのどちらか一方が大過剰に存在する反応系中に、亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンの他方のイオンを供給して反応させた場合」を含んでいる。
しかしながら、本件特許明細書において、具体的に製造されたチオガレート系蛍光体は、本件発明1の方法で製造されたSr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4)のみであり、その製造方法は、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを反応容器に供給するに際して、供給の開始及び終了が一致している具体例のみである(本件特許明細書の【0059】、【0061】、及び【0062】参照。)。
また、上記の通り、本件特許明細書には、本件発明1の方法でチオガレート系蛍光体(Sr_(0.96)Eu_(0.04)Ga_(2)S_(4))を製造する具体例が開示されているものの、本件発明1の製造方法と、本件発明2の製造方法とでは、反応生成物の粒子の大きさにどの程度違いが生じるかについては、本件特許明細書には、なんら記載されていない。
そして、本件特許明細書には、本件特許明細書の【0021】の「同時」に含まれるあらゆる場合に、本件発明2が実施できることについて、出願時の技術常識を踏まえても当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
そのため、本件発明2について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。(第32頁第5行?第34頁下から第6行)

ウC(3) 本件発明1、2を直接又は間接的に引用する本件発明3?12についても、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

ウD 小括

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

第4 判断

1 申立理由ア(明確性要件違反)について

(1) アA(1)?アA(5)について

本件発明1?16における「チオガレート系蛍光体」が、どのような組成を有するものかについて、本件特許明細書において明確に定義ないし説明した記載は見当たらない。

しかしながら、一般に、「チオガレート」という用語自体は、チオガリウム酸([Ga_(2)S_(4)]^(2-))塩、すなわち、チオガリウム酸と金属との塩化物を意味することは当業者にとって明らかであって、塩化物であれば、該金属が特定のものに限定されるものではない。
そうすると、本件発明1?16における「チオガレート系蛍光体」は、チオガリウム酸の金属塩である蛍光体を意味するものと解することができる。

そして、本件特許明細書において、たとえば、【0052】に、本件発明の「チオガレート系蛍光体」の好ましい例の組成に「(M1_(1-x)M2_(x))Ga_(2-y)S_(4-z)」が例示されるように(M1、M2は特定の金属)、本件特許明細書において「チオガレート系蛍光体」とされているものは、チオガリウム酸の金属塩のみであって、「チオガリウム酸の金属塩である蛍光体」以外のものを「チオガレート系蛍光体」と規定するような記載も示唆も見当たらない。

また、本件特許明細書には、本件発明1、2及び13における「チオガレート系蛍光体」を不明確にするような記載は見当たらない。

したがって、本件発明1?11、12、14及び16における「チオガレート系蛍光体」に「ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体」を含むことがあるとしても、本件発明1?11、12、14及び16における「チオガレート系蛍光体」の規定が明確ではない、ということはできない。

次に、申立人は、甲1を引用し、「チオガレート系蛍光体」に、ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体までもチオガレート系蛍光体と定義されることは、出願時の技術常識ではない旨主張しているので、甲1の記載について検討する。

甲1には、「硫化物蛍光体のプロセッシングと機能」(タイトル)に関して、次の記載が認められる(下線は、当審が付与した。)。
(甲1ア)「The purpose of this work is to present processing and function of the sulfide phosphor. Phosphors of rock salt structure such as SrS and CaS and alkaline earth thiogallates with the formula M^(II)Ga_(2)S_(4), where M^(II)=Ca, Sr and Ba have been investigated for full-color inorganic thin film electroluminescence.」
(当審仮訳:本稿は、硫化物蛍光体のプロセッシングと機能について述べることを目的とする。たとえば、SrS及びCaS並びにM^(II)Ga_(2)S_(4)で表される(ここでM^(II)はCa, Sr及びBa)アルカリ土類チオガレートのような岩塩構造のフルカラー有機薄膜EL用の蛍光体について調査・研究した。)(1頁上欄1?3行)

(甲1イ)「2.硫化物蛍光体の発光波長と種類
閃亜鉛鉱のZnS,黄銅鉱(カルコパイライト)のCuFeS_(2)は,それぞれ非鉄金属の中で重要なZnおよびCuの鉱物原料として長年使用されてきた。一方,硫化物は先端素材としても重要であり,閃亜鉛構造のZnS:Mnは,1936年に無機EL(Electroluminescence)パネル^(5))の蛍光体材料として使用された。無機EL素子では,電極間に高電圧を印可して母材であるZnS中にホットエレクトロンを発生させる。ホットエレクトロンがMn^(2+)に衝突することにより,Mn^(2+)の^(4)T_(1)(^(4)G)→^(6)A_(1)(^(6)S)遷移が起こり赤橙色で発光すると考えられている。ZnS:Mnを用いた無機EL素子は全固体型の表示素子^(6))であるため,信頼性が要求される医療分野,航空・宇宙分野の無機ELディスプレイ材料として使用されてきた。また,分散型EL材料としても船舶・車両の計器類のバックライトに用いられている。
無機ELパネルは,ZnS:Mnの赤橙色で実用化された後は,多色表示の開発が盛んに行われ,ZnS系ではZn_(1-x)Mg_(x)S:Mn^(7))の黄緑色,その他にSrS:Ceの青緑,CaS:Euの赤色と表示色は拡大した。また,ZnS:Mn(赤橙色)とSrS:Ce(青緑)と組合せた白色発光も可能となった。さらに,チオガレート,チオアルミネートのような二元系母材も新たな無機EL材料として注目され開発が進んだ。しかしながら,無機ELではペレット,ターゲットを電子ビーム蒸着またはスパッタといった非平衡プロセスで成膜されるため,蒸気圧差の異なる各種金属とSで構成される化合物の膜組成を一定にすることが難しく,S欠損の制御が困難であった。これに対して,白色LED用の蛍光体は,Fig.1に示したように樹脂のような媒体の中に粉末として使用されるため,熱力学的に非平衡なプロセスを必要としない。よって,硫化物蛍光体の欠点であるSの欠損による化学量論比のずれが軽減される。また,硫化物は酸化物に比べて化学的安定性に劣ると考えられているが,一般式ASで表現される岩塩構造の中ではSrS,CaS,一般式 (AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現されるチオガレート系材料の中でも,x=1y=1のAGa_(2)S_(4)が比較的化学安定性に優れることが分かってきた。ここで,記号AはAサイトに配位することのできるアルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素である。本稿では,蛍光体の説明が分かりやすいように発光中心をEu^(2+)に統一し,岩塩構造のAS(A=Ca,Sr)とチオガレートのAGa_(2)S_(4)(A=Ca,Sr,Ba )を用いて白色LED蛍光体に用いる赤色蛍光体と緑色蛍光体を説明する。各種材料の発光波長のまとめをTable 1に示す。硫化物蛍光体を用いて,CaS:Eu(赤色)?BaGa_(2)S_(4):Eu (青緑)まで幅広い範囲で発光が可能である。」 (457頁左欄24行?右欄20行)

上記下線部から、甲1の「2.硫化物蛍光体の発光波長と種類」の項には、次の(甲1a)?(甲1d)の事項が記載されていると認められる。
(甲1a)閃亜鉛構造のZnS:Mnは、無機ELパネルの蛍光体材料として使用され、ZnS系ではZn_(1-x)Mg_(x)S:Mnも用いられており、チオガレート、チオアルミネートのような二元系母材も新たな無機EL材料として注目されてきている。
(甲1b)無機ELに用いられる蛍光体材料は、ペレット、ターゲットを電子ビーム蒸着またはスパッタといった非平衡プロセスで成膜されるため、S欠損の制御が困難であった。
(甲1c)白色LED用の蛍光体は熱力学的に非平衡なプロセスを必要としないことから、硫化物蛍光体の欠点であるSの欠損による化学量論比のずれが軽減される。
(甲1d)硫化物は酸化物に比べて化学的安定性に劣ると考えられているが、一般式 (AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現されるチオガレート系材料の中でも、x=1y=1のAGa_(2)S_(4)が比較的化学安定性に優れており、ここで記号AはAサイトに配位することのできるアルカリ土類元素のCa,Sr,Baの3種類の元素である。

そうすると、申立人が主張するように、「甲1には、チオガレート系材料が一般式 (AS)_(x)(Ga_(2)S_(3))_(y)で表現される場合、Aサイトに配位することのできる元素は、アルカリ土類元素のCa、Sr、Baの3種類の元素であることが開示されている」(8頁7?9行、14?17行)としても、申立人が引用した箇所に述べられている特定のチオガレート系材料は、無機ELや白色LEDに用いられる蛍光体であって、比較的化学安定性に優れているものである、ということは理解できるものの、甲1は、一般的なチオガレート系材料について、「二元系母材」であると記載するにとどまり、その組成等について明確に定義するものではない。

したがって、甲1に、「ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体」はチオガレート系蛍光体に含まれない、ということまでが記載されているとは認められないのであるから、本件発明1?11、12、14及び16における「チオガレート系蛍光体」は、いずれも、「ベリリウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む場合であって、かつストロンチウム、カルシウム、及びバリウムを含まない場合の蛍光体」を含むことがあるとしても、甲1の記載と矛盾するものではない。

よって、甲1の記載に基づき、本件発明1?11、12、14及び16は、明確ではない、という申立人の主張は、採用することができない。

(2) アB(1)、アB(2)について

本件特許明細書には、次の記載がある(下線は、当審が付与した)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チオガレート系蛍光体は、輝度をさらに高めることが望まれている。輝度は蛍光体の粒径に依存するため、さらに大きい粒径を有するチオガレート系蛍光体の開発が望まれていた。そのため、チオガレート系蛍光体の原料となるチオガレート系蛍光体を構成する原子を含有する亜硫酸塩の粒径を大きくする必要がある。
しかしながら、例えば、特許文献1に開示されているような、亜硫酸塩を含有する溶液を、ストロンチウムを含有する溶液に加える方法で形成されたストロンチウム含有亜硫酸塩や、特許文献2に開示されているような、ストロンチウムを含有する溶液を、亜硫酸塩を含有する溶液に加える方法で形成されたストロンチウム含有亜硫酸塩は、粒径が小さく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を製造することが困難であった。
【0006】
本発明は、粒径が大きく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得ることができるチオガレート系蛍光体の製造方法、及び粒径の大きいチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩を提供することを課題とする。」
「【0044】
<チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩>
本発明の第三の実施形態に係るチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩について以下に説明する。
【0045】
チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩は、本願発明の第一の実施形態及び第二の実施形態によるチオガレート系蛍光体の製造方法の溶液を準備する工程において、M1がストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種であり、M2がユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種である場合において、粉体を得る工程により得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を、チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩として用いることができる。特にM1がストロンチウム、カルシウム、バリウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、M2がユウロピウムである場合、得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩をチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩として用いることにより、輝度の高いチオガレート蛍光体を得ることができる。
【0046】
チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩の粉体は、F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザーズ)法で測定した平均粒径(以下D1と示す)が1.5μm以上であり、F.S.S.S法で測定した平均粒径に対する細孔電気抵抗法で測定した体積基準による累積粒度分布の50%平均粒径(以下D2と示す。)の比(以下D2/D1と示す)が1以上2.5以下である。
【0047】
チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩の粉体は、一次粒子が凝集した二次粒子より構成される。F.S.S.S(フィッシャーサブシーブサイザー:Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される粒径D1は、空気透過法により比表面積を測定し、一次粒子の粒径の平均値を求めたものである。
【0048】
細孔電気抵抗法で測定される粒径D2は、体積基準による累積粒度分布の50%に相当する平均値であって二次粒子の粒径の平均値を求めたものである。
【0049】
本実施形態の第一の実施形態及び第二の実施形態のように亜硫酸イオンとM1およびM2イオンを同時に供給して当量に近い状態で反応させた場合、反応速度が適しているため一次粒子の生成よりも生成した一次粒子の成長が優先される。そのため一次粒子が大きく、それらが集合した緻密な二次粒子が生成する。得られた二次粒子は、D1が1.5μm以上であり、緻密であることからD2が小さくなり、結果として、D2/D1が1以上2.5以下となる。また、得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体の一次粒子が大きく緻密であることから、焼成後に得られる高いチオガレート蛍光体は、粒径が大きく輝度が高いと考えられる。」

これらの記載によると、本件発明の課題は、「粒径が大きく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得ることができるチオガレート系蛍光体の製造方法、及び粒径の大きいチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩を提供すること」(【0006】)であるといえる。

そして、「チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩の粉体は、一次粒子が凝集した二次粒子より構成され」(【0047】)、「一次粒子が大き」いと、「それらが集合した緻密な二次粒子が生成する」(【0049】)ことから、「得られた二次粒子は、D1が1.5μm以上であ」れば、得られた二次粒子は「緻密であることから」、「D2が小さくなり、結果として、D2/D1が1以上2.5以下とな」(【0049】)り、「焼成後に得られる高いチオガレート蛍光体は、粒径が大きく輝度が高い」(【0049】)ものとなることが理解できる。

そうすると、本件発明13の「F.S.S.S法で測定した平均粒径が1.5μm以上であり」という発明特定事項は、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得るために、チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩の粉体を構成する二次粒子を得るために必要な、最小の一次粒子の平均粒径を規定したものであって、技術的に可能な限り、該粒径は大きいものであることを意味することは明らかである。

したがって、上記発明特定事項は明確であるといえ、申立人の上記主張は採用できない。

(3) 小括

したがって、本件発明1、2、13について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、本件発明3?12、14?16は、本件発明1、2、13を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、同様に、本件発明3?12、14?16について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえず、申立人の上記「申立理由ア」は、理由がない。

2 申立理由イ(サポート要件違反)について

上述したように、本件発明の課題は、「粒径が大きく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得ることができるチオガレート系蛍光体の製造方法、及び粒径の大きいチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩を提供すること」(【0006】)であるといえるところ、本件特許明細書には、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チオガレート系蛍光体は、輝度をさらに高めることが望まれている。輝度は蛍光体の粒径に依存するため、さらに大きい粒径を有するチオガレート系蛍光体の開発が望まれていた。そのため、チオガレート系蛍光体の原料となるチオガレート系蛍光体を構成する原子を含有する亜硫酸塩の粒径を大きくする必要がある。
しかしながら、例えば、特許文献1に開示されているような、亜硫酸塩を含有する溶液を、ストロンチウムを含有する溶液に加える方法で形成されたストロンチウム含有亜硫酸塩や、特許文献2に開示されているような、ストロンチウムを含有する溶液を、亜硫酸塩を含有する溶液に加える方法で形成されたストロンチウム含有亜硫酸塩は、粒径が小さく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を製造することが困難であった。」
「【0014】
本実施形態では、粉体を得る工程(B)において、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る。得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体は、一次粒子が凝集した二次粒子より構成される。亜硫酸イオンとM1及びM2イオンを同時に供給してアニオン及びカチオンを当量に近い状態で反応させた場合、アニオン及びカチオンの反応の反応速度が適していることから、多数の一次粒子の生成よりも生成した一次粒子の成長が優先され、一次粒子の大きいM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得ることができる。」
「【0050】
一方で、従来のように亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンのどちらか一方が大過剰に存在する反応系中に、亜硫酸イオン又はM1及びM2イオンの他方のイオンを供給して反応させた場合、アニオン又はカチオンのどちらか一方のイオンが大過剰に存在することから反応速度が速くなりすぎて、多数の一次粒子の生成が優先される。一般的に粒子が小さいと凝集が起こりやすいため、一次粒子は、粒子の成長が起こる前に凝集が起こり、小さい一次粒子の凝集体が集合した隙間の多い二次粒子が生成する。得られた二次粒子は、一次粒子が小さいためD1が1.5より小さく、多くの凝集体が集合するためD2が大きくなり、結果としてD2/D1が2.5より大きくなる。また、得られたM1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体の一次粒子が小さく、隙間が多いことから、焼成後に得られる高いチオガレート蛍光体は、粒径が小さく輝度が低いと考えられる。」

ここで、亜硫酸イオンはカチオンであり、溶液中のストロンチウムやM1及びM2イオンはアニオンであることは明らかであるから、これらの記載から、カチオン(亜硫酸イオン)を含有する溶液と、ストロンチウムやM1及びM2イオンのようなアニオンを含有する溶液とを混合して反応させる際に、一方が大過剰の状態で反応させた場合は、得られた亜硫酸塩の粉体の一次粒子が大きくならないのに対し、アニオン(M1及びM2イオン)とカチオン(亜硫酸イオン)とを同時に供給し、当量に近い状態で反応させた場合、得られた亜硫酸塩の粉体の一次粒子が大きくなることが理解できる。
そして、上述したように、亜硫酸塩の一次粒子の大きい粉体が得られれば、焼成後に、輝度が高い蛍光体が得られることが理解できる(【0049】)。

これに対し、本件発明1は、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1とユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子M2とを含む溶液(a-1)と、亜硫酸塩を含む溶液(b-1)とを準備する工程と、
溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程」を発明特定事項とするところ、上述したように、溶液(a-1)はアニオンであり、溶液(b-1)はカチオンであるから、これらが同時に反応容器に供給される場合、反応して得られた亜硫酸塩の粉体の粒径が大きく、輝度の高い蛍光体が得られることが理解できる。

また、本件発明2は、「ストロンチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の原子M1を含む溶液(a-2)と、ユウロピウム及びセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の原子M2を含む溶液(a-3)と、亜硫酸塩を含む溶液(b-1)とを準備する工程と、
溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給し、反応させる反応系において、M1及びM2を含有する亜硫酸塩の粉体を得る工程」を発明特定事項とするところ、溶液(a-2)及び溶液(a-3)はアニオンであり、溶液(b-1)はカチオンであるから、これらが同時に反応容器に供給される場合、反応して得られた亜硫酸塩の粉体の粒径が大きく、輝度の高い蛍光体が得られることも理解できる。

そして、本件発明13は、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得るために、チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩の粉体を構成する二次粒子を得るために必要な、一次粒子の平均粒径を規定したものであって、そのような一次粒子であれば、輝度の高い蛍光体が得られることも理解できる(【0049】)。

そうすると、本件発明1、2、13及びそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明3?12、14?16は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲のものと認められる。

そこで、申立人の主張について検討する。

・イA(1)?イA(3)について

申立人が主張するように、原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさに影響するとしても、当該比率が異なれば、反応生成物の粒子の大きさが異なるといえるだけで、本件発明1、2に係るチオガレート系蛍光体の製造方法によって、粒径が大きく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得ることができなくなるわけではない。

本件発明1、2を引用する本件発明3?12も同様である。

・イB(1)、イB(2)について

本件発明13は、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得るために、チオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩の粉体を構成する二次粒子を得るために必要な、一次粒子の平均粒径を規定したものであって、原材料の2種以上の原子の比率が異なれば、反応生成物の粒子の大きさが異なるとしても、本件発明13の規定を満たさないものは本件発明13に含まれないのであるから、本件発明13に係るチオガレート系蛍光体用の亜硫酸塩によって、粒径が大きく、輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得ることができなくなるわけではない。

本件発明13を引用する本件発明14?16も同様である。

・イC(1)、イC(3)について

本件発明1は、「同時」に含まれるあらゆる場合でも必ず、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給している時間が存在することから、粒径が大きく輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得られるものであって、本件発明1に係る発明の範囲まで、本件発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。

本件発明1を引用する本件発明3?12も同様である。

・イC(2)、イC(3)について

本件発明2は、「同時」に含まれるあらゆる場合でも必ず、溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給している時間が存在することから、粒径が大きく輝度を高めたチオガレート系蛍光体を得られるものであって、本件発明2に係る発明の範囲まで、本件発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。

また、本件特許明細書には、本件発明2の方法でチオガレート系蛍光体を製造する具体例が記載されていないが、本件発明1における溶液(a-1)と溶液(b-1)との反応容器における反応と、本件発明2における溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)との反応容器における反応は、上述したように、いずれも、アニオンとカチオンとの反応であって、反応自体に差が生じるものではない。

本件発明2を引用する本件発明3?12についても同様である。

(4) 小括

したがって、本件発明1、2、13について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、本件発明3?12、14?16は、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、同様に、本件発明3?12、14?16について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、申立人の上記「申立理由イ」は、理由がない。

3 申立理由ウ(実施可能要件違反)

(1) ウA(1)?ウA(3)について

原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いや、原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさに影響を与えるものであっても、大きさの異なる反応生成物の粒子が得られるというだけで、反応生成物である亜硫酸塩が製造できなくなるわけではなく、本件発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

本件発明1の製造方法と、本件発明2の製造方法とが異なるとしても、本件発明2は、上述したように、カチオンとアニオンとの反応である点で本件発明1と相違するものではなく、反応生成物である亜硫酸塩が製造できることは明らかであり、本件発明2について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(2) ウB(1)、ウB(2)について

原材料における原子の原子半径や電荷密度の違いや、原材料の2種以上の原子の比率の違いが反応生成物の粒子の大きさに影響を与えるものであっても反応生成物である亜硫酸塩が製造できなくなるわけではなく、本件発明13?16について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(3) ウC(1)、ウC(3)について

本件発明1は、「同時」に含まれるあらゆる場合でも必ず、溶液(a-1)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給している時間が存在することから、反応生成物である亜硫酸塩が製造できなくなるわけではなく、本件発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

本件発明1を引用する本件発明3?12も同様である。

(4) ウC(2)、ウC(3)について

本件発明2は、「同時」に含まれるあらゆる場合でも必ず、溶液(a-2)と溶液(a-3)と溶液(b-1)とを同時に反応容器に供給している時間が存在することから、反応生成物である亜硫酸塩が製造できなくなるわけではなく、本件発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

本件発明2を引用する本件発明3?12についても同様である。

(6) 小括

したがって、本件発明1、2、13について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、本件発明3?12、14?16は、本件発明1、2を直接的又は間接的に引用して、さらに限定するものであるから、同様に、本件発明3?12、14?16について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、申立人の上記「申立理由ウ」は、理由がない。

第5 むすび

以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-11 
出願番号 特願2015-255951(P2015-255951)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 古妻 泰一  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 日比野 隆治
國島 明弘
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6256460号(P6256460)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 チオガレート系蛍光体の製造方法  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  

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