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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1343943
異議申立番号 異議2018-700545  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-09 
確定日 2018-09-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6257542号発明「プレススルーパックの蓋材及びそれを用いたプレススルーパック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6257542号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6257542号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年2月20日(優先権主張 平成26年2月27日 日本国)に特許出願され、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年7月9日に特許異議申立人葛西文枝(以下「申立人」という。また、”葛”の字は「ヒ」の部分が「人」となったものである。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。また、これをまとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、
該アルミニウム箔は、Al含有量が98.0重量%以上であり、Fe含有量が0.2?1.5重量%であり、Cu含有量が0.02?0.05重量%であり、Si含有量が0.2重量%以下であり、
該アルミニウム箔は、JIS Z2241の金属材料の引張試験に準じて測定した破断点伸び率が、2.1%以上であり、
該積層体の引張強度が170MPaを超える、
ことを特徴とするプレススルーパックの蓋材。
【請求項2】
前記積層体が更にベタ着色層を含む、請求項1に記載のプレススルーパックの蓋材。
【請求項3】
前記ヒートシール層が塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂を含有する、請求項1又は2に記載のプレススルーパックの蓋材。
【請求項4】
前記積層体の破断点伸び率が2.0%を超える、請求項1?3のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋材。
【請求項5】
前記アルミニウム箔の厚みが15?25μmである、請求項1?4のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋材。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋材とプレススルーパック用の容器とをヒートシールすることにより得られるプレススルーパックであって、
該蓋材の表面に網目模様が賦型されるようにヒートシールされたプレススルーパック。
【請求項7】
プレススルーパックの製造方法であって、
請求項1?5のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋材とプレススルーパック用の容器とを、該蓋材の表面に網目模様が賦型されるように、薬剤充填包装機を用いて温度260?280℃、圧力0.3?0.5MPaの条件でヒートシールする工程を含み、
該蓋材を構成する前記アルミニウム箔にピンホール状の孔が発生していないプレススルーパックの製造方法。」

3.申立ての理由の概要
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「甲第1号証に記載された発明」等を「甲1発明」等といい、「甲第1号証に記載された事項」等を「甲1記載事項」等という。

(理由1)特許法第29条第2項違反
申立人は、証拠として、以下の甲1?甲12を提出し、本件発明1?7は、甲1発明及び甲2記載事項?甲12記載事項、あるいは、甲2発明、甲1記載事項、及び甲3記載事項?甲12記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
(証拠一覧)
甲1:再公表特許第2014/021170号
甲2:特開平4-173941号公報
甲3:特開平2-50932号公報
甲4:特開2006-312768号公報
甲5:特開平4-6238号公報
甲6:特許第5154906号公報
甲7:特開平5-254067号公報
甲8:特開2009-103664号公報
甲9:特開2011-5838号公報
甲10:特公平5-82461号公報
甲11:特開平11-217656号公報
甲12:日本規格協会編「JISハンドブック 非鉄」財団法人日本規格協会発行 2004年1月31日 第1版第1刷 第800頁?第803頁

(理由2)特許法第36条第6項第1号違反
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例において、本件発明の課題を解決していることが示されているのは、「Fe含有量が0.43?0.44重量%であり、Cu含有量が0.030?0.040重量%であり、Si含有量が0.09?0.10重量%」の範囲でしかないにもかかわらず、本件特許請求の範囲の各請求項には、その範囲を超えて記載されているので、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

4.判断
(1)理由2について(特許法第36条第6項第1号違反)
ア 事案に鑑み、理由2をまず検討する。
本件発明の課題は、「少なくともAl箔とヒートシール層とを有する積層体からなるPTPの蓋材であって、PTP用の容器とヒートシールした際のAl箔へのカヤの発生が抑制されているPTPの蓋材を提供する」(本件特許明細書段落【0007】)ことである。
本件特許明細書段落【0070】の「Al箔は、柔軟性の確保及びカヤの発生抑制という理由から、1.7%程度以上の破断点伸び率(伸び率)を有することが好ましい。Al箔の破断点伸び率は、1.9%程度以上がより好ましく、2.0%?5%程度が更に好ましい。Al箔の破断点伸び率は、JIS Z2241の金属材料の引張試験に準じて測定することができる。」との記載、及び同【0075】の「積層体の引張強度は、170MPaを超えるのが好ましい。積層体の引張強度が170MPaを超えることにより、蓋材の強度維持及びカヤの発生抑制が可能であると考えられる。積層体の引張強度は、170MPaを超え?230MPa以下がより好ましく、180MPaを超え?210MPa以下が更に好ましい。積層体の引張強度は、前記の引張試験に準じて測定することができる。」との記載によれば、本件発明の課題の解決には、アルミニウム箔のJIS Z2241の金属材料の引張試験に準じて測定した破断点伸び率が1.7%以上、及び積層体の引張強度が170MPaを超えればよいことが理解できる。
そうすると、本件発明1は、「アルミニウム箔」の「JIS Z2241の金属材料の引張試験に準じて測定した破断点伸び率」が、「2.1%以上」であり、「積層体の引張強度」が「170MPaを超える」ものであるから、カヤの発生が抑制されるとの作用効果を奏するものであり、したがって、上記本願発明の課題を解決するものであるといえる。
よって、本件発明1と、本件発明1の特定事項を全て包含する本件発明2?7は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるので、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反するものであるとはいえない。

イ 小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として、取り消すことはできない。

(2)理由1について(特許法第29条第2項違反)
ア 甲1、甲2の記載事項
(ア)甲1
甲1には、【請求項1】、【請求項2】、【0001】?【0002】、
【0009】、【0013】?【0015】、【0019】?【0022】、【0025】?【0028】、【0035】?【0039】、【0045】?【0046】、【0051】?【0053】の記載があり、【図2】の図示がある。
上記摘記事項及び図示から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの深い凹部成形を有する成形包装体材料であって、
該アルミニウム箔は、Al含有量が98.0重量%以上であり、Fe含有量が0.8?1.5重量%であり、Cu含有量が0.01?0.05重量%であり、Si含有量が0.05?0.2重量%であり、
該アルミニウム箔は、JISZ2241の金属材料の引張試験に準じて測定した破断点伸び率が、15%以上であり、
該アルミニウム箔の引張強度が200MPa以上である、プレススルーパックの深い凹部成形を有する成形包装体材料。」

(イ)甲2
甲2には、1頁左下欄4行?12行、1頁左下欄下から3行?右下欄下から2行、2頁右上欄5行?19行、3頁左上欄13行?18行、3頁左上欄下から2行?右上欄18行、第1表(3頁)、4頁左下欄1行?7行の記載がある。
上記摘記事項から、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「プレススルーパックの蓋材用のアルミニウム箔であって、
該アルミニウム箔は、Al含有量が98.0重量%以上であり、Fe含有量が0.8?1.8重量%であり、Cu及びSiが不純物として含有されており、
該アルミニウム箔は、JISZ2241の金属材料の引張試験に準じて測定した破断点伸び率が、4%以上であり、
該アルミニウム箔の引張強度が215.6MPa以上である、プレススルーパックの蓋材用のアルミニウム箔。」

イ 本件発明1について
(ア)甲1発明を主とする特許法第29条第2項違反
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも、次の相違点1において相違する。

(相違点1)本件発明1では、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、該積層体の引張強度が170MPaを超えるのに対して、甲1発明では、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの深い凹部成形を有する成形包装体材料であって、該アルミニウム箔の引張強度が200MPa以上であるが、積層体の引張強度は不明である点。

相違点1を検討する。
甲1発明は、深い凹部成形を有した成形包装体材料を用いるため、医薬品包装容器の成形凹部内に格納することができるので医薬品の格納量や形状選択の自由度を更に向上させることができるものである(甲1【0015】)。よって、甲1発明の引張強度は、プレススルーパックの蓋材についてではなく、医薬品が格納される側のプレススルーパックの深い凹部成形包装体材料についてのものであり、本件発明1と、発明の対象が異なり、要求される性能も異なるものである。
よって、プレススルーパックの蓋材ではない甲1発明において、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、該積層体の引張強度が170MPaを超えるようにすることの動機付けがない。又、甲2?12においても、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、該積層体の引張強度が170MPaを超えるようにすることは記載されていないし、示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る構成により、少なくともAl箔とヒートシール層とを有する積層体からなるPTPの蓋材であって、PTP用の容器とヒートシールした際のAl箔へのカヤの発生が抑制されるとの格別な作用効果を奏する。
以上のとおりであるから、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2記載事項?甲12記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲2発明を主とする特許法第29条第2項違反
本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも、次の相違点2において相違する。

(相違点2)本件発明1では、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、該積層体の引張強度が170MPaを超えるのに対して、甲2発明では、プレススルーパックの蓋材用のアルミニウム箔であって、該アルミニウム箔の引張強度が215.6MPa以上であるが、蓋材としての積層体の引張強度は不明である点。

相違点2を検討する。
甲2発明は、厚さの薄いアルミニウム箔を良好に得るため(甲2の3頁左上欄13行?18行)のものであり、アルミニウム箔自体の発明である。甲2の第1表にもアルミニウム箔の評価しか記載されていない。
よって、甲2発明において、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、該積層体の引張強度が170MPaを超えるようにすることの動機付けがない。又、甲1、甲3?12においても、少なくともアルミニウム箔とヒートシール層とを有する積層体からなるプレススルーパックの蓋材であって、該積層体の引張強度が170MPaを超えるようにすることは記載されていないし、示唆する記載もない。
なお、申立人は、本件特許明細書の記載を根拠に、甲2のアルミニウム箔の引張強度から積層体の引張強度を求められる旨主張するが、そもそも甲2には、アルミニウム箔とヒートシール層を積層して積層体を得ること自体の記載はなく、ましてや当該積層体の引張強度が170MPaを超えることまでは記載されていないから、上記申立人の主張は甲2の記載に基づく主張でないので採用できない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る構成により、少なくともAl箔とヒートシール層とを有する積層体からなるPTPの蓋材であって、PTP用の容器とヒートシールした際のAl箔へのカヤの発生が抑制されるとの格別な作用効果を奏する。
以上のとおりであるから、甲2発明において、上記相違点2に係る本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲2発明、甲1記載事項、及び甲3記載事項?甲12記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲2記載事項?甲12記載事項、あるいは、甲2発明、甲1記載事項、及び甲3記載事項?甲12記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1?7は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消すことはできない。

5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-05 
出願番号 特願2015-31700(P2015-31700)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B65D)
P 1 651・ 537- Y (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 蓮井 雅之
西藤 直人
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6257542号(P6257542)
権利者 東洋アルミニウム株式会社
発明の名称 プレススルーパックの蓋材及びそれを用いたプレススルーパック  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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