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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1344206
審判番号 不服2017-13039  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-04 
確定日 2018-09-14 
事件の表示 特願2012-107345「排気ガス後処理装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日出願公開、特開2012-246920〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成24年5月9日(パリ条約による優先権主張2011年5月26日、欧州特許庁)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年1月28日(発送日) :拒絶理由通知書
平成28年7月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年11月17日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年4月17日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年5月2日(発送日) :拒絶査定
平成29年9月4日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年12月11日 :上申書の提出

そして、本願の請求項1ないし14に係る発明は、明りようでない記載の釈明を目的とした平成29年9月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明及び請求項12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明12」という。)は、次のとおりである。

(1)本願発明1
「【請求項1】
大型ディーゼル機関のための排気ガス後処理のための装置であり、前記装置は、細長い排気マニホールドを含み、前記排気マニホールドが複数の入口を含み、前記入口は前記大型ディーゼル機関の排気ガスを受けるためのその長手方向に沿って分配され、及び細長い触媒コンバータ容器を含み、これは前記排気マニホールドに接続され、前記触媒コンバータ容器に複数の触媒コンバータ要素が設けられ、及び1以上の出口を有し、前記排気マニホールド及び前記触媒コンバータ容器が実質的にお互いに平行に配置され、及び前記長手方向にそれぞれ伸びる少なくとも1つの隔壁によりお互いから区切られており;及び前記排気マニホールドは前記触媒コンバータ容器に、前記隔壁に設けられる1以上のポートを介して接続され、作動中に前記排気ガスをそれぞれの出口へ前記触媒コンバータ要素を通じて導き、それぞれの入口及び/又は周辺に配置された1以上の開口部が、前記排気マニホールドの入口スタブ内に、還元剤を供給し及びそれを前記排気ガス内に混合するために設けられ、及び前記それぞれの入口スタブは前記出口側で拡張され、及び/又は拡散装置が前記出口側のそれぞれの入口で形成され、前記それぞれの入口スタブが作動中に前記還元剤の吐出ポンプとして作用する、装置。」

(2)本願発明12
「【請求項12】
大型ディーゼル機関のための排気ガス後処理のための方法であり、細長い排気マニホールドを含む装置を含み、長手方向に沿って分布される複数の入口を含み、細長い触媒コンバータ容器を含み、これは前記排気マニホールドに接続され、前記触媒コンバータ容器に複数の触媒コンバータ要素が設けられ、1以上の出口を含み、前記大型ディーゼル機関が作動中に排気ガスを生成し、前記排気ガスが前記排気マニホールドにより前記入口を介して受けられ、前記排気マニホールド及び前記触媒コンバータ容器が1つのアセンブリに組み込まれ、前記排気マニホールドと前記触媒コンバータ容器とがお互いに実質的に平行に配置され、前記長手方向へそれぞれ伸びる少なくとも1つの隔壁によりお互いに区切られ;及び前記排気ガスが、前記隔壁内に設けられる1以上のポートを介して前記触媒コンバータ容器内へ、及び前記触媒コンバータ要素を通って前記それぞれの出口へ導かれる、方法。」

第2 原査定の拒絶の理由
1 本願発明1に対する原査定の拒絶の理由は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
2 本願発明12に対する原査定の拒絶の理由は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開昭49-71317号公報
引用文献2.特開平11-193714号公報

第3 引用文献
1 引用文献1
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記引用文献1には、「内燃機関用排気マニホルド」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。

(1)「共通の仕切り壁を有し、最初前室を通り次に主室を通るガス流路を区画する前室および主室と、触媒反応成分を受けるための主室における手段、および前室を通るガス流の中へ後燃焼空気を導入するための手段からなる内燃機関用排気マニホルド。」(「特許請求の範囲」欄)
(2)「本発明は、内燃機関用排気マニホルドに関するものであり、排気の浄化、詳細には窒素酸化物の還元のための触媒リアクタを含んでいる。」(1ページ左欄12ないし14行)
(3)「本発明の主題は、内燃機関排気マニホルド構造体であり、その中には、エンジンの排気口に接近していることによる過熱の危険性にもかかわらず触媒還元反応成分が組み込まれている。このマニホルドは、リアクタのきわめて急速な始動と、装置の非常な小型化を確実とする一方内部配置と装置の構造は、触媒成分の過熱防止を可能とし、かつそれらの検査と交換をより容易にするものである。」(1ページ右欄19行ないし2ページ右上欄7行)
(4)「第1図と第2図は、外方主体1とカバー3の間に置かれたガスケツト2と、ボルト4とナツト5のねじ手段により固定可能な可動カバー3を有する外方主体1と、該主体1とカバー3が特別に鋳鉄部分品から成る本発明による排気マニホルドの実施例を表わす。」(3ページ左上欄7行ないし12行)
(5)「主体1は、内燃機関の排気ダクトに取りつけた入口管6を有する。管6に取りつけた連結装置7は、一方では、追加の後燃焼空気用の空気マニホルド11の管10を受け、他方では、管6から前方の流れ中に開口する空気管12を受ける。管10と12の連結は、両円錐形スリーブ8およびねじソケツト9による。マニホルド入口管6は、ステンレス耐火鋼板で作られた管13と内方で沿つて並べられており、前室14の中へ開いている。各入口管13の一端は自由であり、一方、他端は、排気マニホルドのガスケツト16中につかまれたカラー15を有する。」(3ページ左上欄13行ないし右上欄4行)
(6)「前室14は、その中で後燃焼が創始され、実質的に直平行六面体の断面の角柱形状を有し、エンジン排気ダクトからの入口開口17(第2図)に反対の下方コーナーは、第2室または主室19と共通の壁18によつて切られている。主室19は、円柱状触媒成分20と20a(第1図)を含み、その縦軸は、前室の縦軸に平行である。」(3ページ右上欄4行ないし11行)
(7)「前室14は、その一端で主室19へオリフイス23を通つて開く。」(3ページ右上欄17行ないし18行)
(8)「主室19の出口ケーシング29は、主体1に備えられた出口管35の中へ開口し、排気前管を受ける周知のベルフランジを有するガス出口オリフイス34を有する。」(3ページ左下欄19行ないし右下欄2行)
(9)「内燃機関が始動されるとき、過剰空気が、噴射ジエツト11と空気管12の列を通り、入口管6の中へ導入される。前室14が、後燃焼リアクタとして機能し、触媒リアクタの主室19において温度の急速上昇を生じる。なぜなら、主室19と前室14に共通する隔壁18が、入口管6から来る炎に直接作用されるからである。触媒が作動温度に達し、エンジンが始動時期の後に希薄混合気で機能するや否や直ちに、後燃焼空気の供給は停止され、触媒リアクタが、窒素酸化物の還元器として機能する。」(3ページ右下欄10行ないし20行)
(10)第1図及び第2図から、入口開口17が前室14の長手方向に沿って複数あり、前室14に複数の入口管13を有することが看て取れる。
(11)特許請求の範囲の記載、第1図及び第2図に付された矢印から、ガス流路は順に前室14、主室19そしてガス出口オリフイス34を通ることが看て取れる。
(12)上記(6)、第1図及び第2図から見て、細長い前室14と細長い主室19は一体であり、長手方向へそれぞれ伸びる共通の壁18にオリフイス23が設けられているといえる。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明が記載されている。

A 「内燃機関のための窒素酸化物の還元のための触媒リアクタを含む内燃機関用排気マニホルドであり、前記内燃機関用排気マニホルドは、細長い前室14を含み、前記前室14が複数のエンジン排気ダクトからの入口開口17を含み、前記入口開口17は前記内燃機関の排気ガスを受けるためのその長手方向に沿って分配され、及び細長い主室19を含み、これは前記前室14に接続され、前記主室19に円柱状触媒成分20,20aが設けられ、及びガス出口オリフイス34を有し、前記前室14及び前記主室19の縦軸は平行であり、及び長手方向へそれぞれ伸びる共通の壁18によりお互いから区切られており;及び前記前室14は前記主室19に、前記共通の壁18に設けられるオリフイス23を介して接続され、作動中に前記排気ガスをガス出口オリフイス34へ前記円柱状触媒成分20,20aを通じて導き、前記前室14に複数の入口管13を有する内燃機関用排気マニホルド。」(以下、「引用発明A」という。)

B 「内燃機関のための窒素酸化物の還元のための方法であり、細長い前室14を含む内燃機関用排気マニホルドを含み、長手方向に沿って分布される複数のエンジン排気ダクトからの入口開口17を含み、細長い主室19を含み、これは前記前室14に接続され、前記主室19に円柱状触媒成分20,20aが設けられ、ガス出口オリフイス34を含み、前記内燃機関が作動中に排気ガスを生成し、前記排気ガスが前記前室14により前記入口開口17を介して受けられ、前記前室14及び前記主室19は一体であり、前記前室14と前記主室19との縦軸は平行であり、長手方向へそれぞれ伸びる共通の壁18によりお互いから区切られ;前記排気ガスが、前記共通の壁18内に設けられるオリフイス23を介して前記主室19内へ、及び前記円柱状触媒成分20,20aを通って前記ガス出口オリフイス34へ導かれる、方法。」(以下、「引用発明B」という。)

2 引用文献2
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記引用文献2には、「大型ディーゼルエンジン」に関して、図面(特に、図1及び図2参照。)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は大型ディーゼルエンジン、特に多数のシリンダーを備えた2サイクル大型ディーゼルエンジンに関するものである。前記多数のシリンダーはそれぞれ少なくとも一つの排気接続パイプを介して好適に管状に形成され、端部を蓋で閉鎖可能とされた排気マニホルドに接続され、該排気マニホルドから排気管が分岐し、前記排気マニホルドは触媒装置を有し、該触媒装置には前記触媒装置の上流に設けられた供給装置によって還元剤を供給することのできるガスが還流している。
【0002】
【従来の技術】欧州特許第0 468 919号公開公報からはこの種の装置が周知である。この周知の装置においては前記排気マニホルドは中央に前記触媒装置を受容する管を有し、該管は環状空間に囲まれ、該環状空間に向かって前記排気接続パイプが開き、前記環状空間は一方の端部が閉鎖され、他方の端部が開放されている。この開放された端部を介して排気体積流量全体が前記触媒装置に到達し、前記触媒装置の前方には散気筒(ディフューザー)が設けられ、排気過給機のタービンに至る排気管が分岐する領域が後方に設けられている。」
(2)「【0015】2サイクル大型ディーゼルエンジンのような大型ディーゼルエンジンの構造および機能自体は周知であるので、本発明との関連でより詳しい説明をする必要はない。図1は2サイクル大型ディーゼルエンジンの上部領域を示している。前記2サイクル大型ディーゼルエンジンは列状に隣接して設けられた多数のシリンダ1を有し、該シリンダにはそれぞれシリンダカバーに配分された排気弁2が設けられ、該排気弁によって排気通路が開放または閉鎖可能であり、前記排気弁に排気接続パイプ3が接続される。前記シリンダの列に平行に排気マニホルド4が設けられ、該排気マニホルドに全ての排気接続パイプ3が開放され、前記排気マニホルドから排気ターボ過給機5のタービンに通じる排気管6が分岐する。前記排気接続パイプ3には前記管状の排気マニホルド内に突出した、散気筒(ディフューザー)状の端部7が設けられている。排気が冷却しないように、前記排気接続パイプ3には絶縁スリーブ8を設けることができる。」
(3)「【0016】前記排気マニホルド4は管状のケーシング9を有し、該ケーシングは図2に示すように端部が取外し可能な蓋10によって閉鎖できる。前記管状のケーシング9は排気に含有される煤および窒素酸化物を還元するために排気が貫流可能な触媒装置17と該触媒装置の前方に設けられた集合シャフト装置26を有し、該集合シャフト装置に前記排気接続パイプ3の前記端部7が開放される。前記触媒装置17の上流において前記排気にアンモニウムあるいは尿素などの還元剤が供給される。前記還元剤は前記排気接続パイプ3内に噴射される。前記排気接続パイプ3において排気が緩和されることによって排気と還元剤が充分混合されるので、前記還元剤が均一に分散される。このような効果は散気筒状の前記端部7によってさらに支援される。」
(4)「【0017】図1からさらに認められるように、前記還元剤を噴射するために、個々の前記排気接続パイプ3には好適な噴射弁11が設けられ、該噴射弁には供給管12を介してアンモニウムや尿素などの前記還元剤が供給され、制御装置13から分岐する信号線14によって制御可能である。前記制御装置13によって全ての還元剤噴射弁11が制御できるのは、前記制御装置13から分岐するさらなる信号線によって示される通りである。前記制御装置13には、信号線15によって示されるように機械のサイクルがあらかじめ与えられている。このためには例えばクランク軸を用いることもできるが、排気弁2を作動させる信号を用いることも考えられる。いずれの場合でもこれによって前記噴射弁11は対応する排気弁2も開放されている時、すなわち排気が行われている時だけ作動される。噴射量は固定的に定めることができるが、前記噴射量を個々のシリンダにおける燃焼比に応じてそれぞれの噴射弁11に対して個々に定めることも可能である。そのために前記制御装置には図1において信号線16によって示されるように、燃焼室の温度などの相応のデータが供給される。」
(5)「【0019】前記触媒装置の二つの部分17a,bはそれぞれ前後に設けられ、周知の方法で静的混合装置に準じて構成された多数の触媒装置部材から成り、該触媒装置部材はこの場合距離保持装置19によって互いに距離を設けられている。まず窒素酸化物触媒装置部材20が設けられる。図に示した実施形態では個々の触媒装置部分17a,bは前記窒素酸化物触媒装置部材20の他にさらに酸化触媒装置部材21を有し、該酸化触媒装置部材によって煤の粒子が除去される。前記酸化触媒装置部材21は本図ではそれぞれ配分された触媒装置部分17a,bの排気の入口に設けられているが、例えば排気の出口領域のように別の場所に設けることも可能である。図2において実線の矢印で示されるように、前記触媒装置部材20,21については前記ケーシング9の長手軸に平行に貫流され、前記二つの部分17a,bについては逆の、互いに向かい合う流れの方向が生じる。」
(6)「【0023】集合シャフト部分26a,bとして機能する、前記分離壁22によって形成された第二の通路は、図1から最もよく分かるように、中央の前記ケーシング9に対して同軸的な通路領域を有し、該通路領域は放射方向に、外部に向かって漏斗状に開放された流入スリットに移行する。前記ケーシング9内に突出し、散気筒状に形成された前記排気接続パイプ3の端部7は、該端部がそれぞれに配分された前記集合シャフト部分26a,bのスリットに排気するように設けられている。図に示された例では、前記端部の軸は前記ケーシング9の長手軸を含む左右対象平面に設けられ、それによって前記中央の通路領域の中心に合わせられた方向に入口の流れが作られる。
【0024】集合シャフト部分26a,bとして機能する通路は前記排気室18に対して、前記分離壁22の端面側に設けられた側壁27によって閉鎖されている。前記触媒装置部材20,21に配分された通路は前記排気室18に向かって開放されている。対向する蓋側の部分端部領域では二つの通路23,26は開放されている。前記分離壁22はそれぞれ、隣接する蓋10と所定距離を有して終端しており、それによって押し込み方向において最後方の触媒装置部材でも、相応に隣接する蓋10と距離を有する。これによって前記ケーシング9の端部領域には方向転換室28が作られ、該方向転換室によって個々の触媒装置部分17a,bが、流れ方向において前方に設けられた対応する集合シャフト部分26a,bに対して流れに従って接続される。」

これらの記載事項及び図面(特に、図1、図2参照)の図示内容を総合し、整理すると、引用文献2には次の事項が記載されている。

「それぞれの排気接続パイプ3に配置された噴射弁11が、集合シャフト装置26の前記排気接続パイプ3内に、還元剤を供給し及びそれを前記排気ガス内に混合するために設けられ、及び前記排気接続パイプ3は散気筒(ディフューザー)状の端部7が設けられた、大型ディーゼルエンジン。」

第4 当審の判断
事案に鑑み、本願発明12、本願発明1の順に判断を示す。
1 本願発明12について
(1)対比
本願発明12と引用発明Bとを対比すると、
引用発明Bの「窒素酸化物の還元」は本願発明12の「排気ガス後処理」に相当し、以下同様に、「前室14」は「排気マニホールド」に、「装置」は「内燃機関用排気マニホルド」に、「複数のエンジン排気ダクトからの入口開口17」は「複数の入口」に、「主室19」は「触媒コンバータ」に、「円柱状触媒成分20,20a」は「複数の触媒コンバータ要素」に、「ガス出口オリフィス34」は「1以上の出口」に、「前室14及び主室19は一体であり」は「前記排気マニホールド及び前記触媒コンバータ容器が1つのアセンブリに組み込まれ」に、「前記前室14と前記主室19との縦軸は平行であり」は「排気マニホールドと触媒コンバーターとが実質的に平行に配置され」に、「共通の壁18」は「少なくとも1つの隔壁」に、「オリフイス23」は「1以上のポート」にそれぞれ相当する。

また、引用発明Bの「内燃機関」は、本願発明12の「大型ディーゼル機関」と「内燃機関」という限りで共通する。

したがって、両者は、
「内燃機関のための排気ガス後処理のための方法であり、細長い排気マニホールドを含む装置を含み、長手方向に沿って分布される複数の入口を含み、細長い触媒コンバータ容器を含み、これは前記排気マニホールドに接続され、前記触媒コンバータ容器に複数の触媒コンバータ要素が設けられ、1以上の出口を含み、前記内燃機関が作動中に排気ガスを生成し、前記排気ガスが前記排気マニホールドにより前記入口を介して受けられ、前記排気マニホールド及び前記触媒コンバータ容器が1つのアセンブリに組み込まれ、前記排気マニホールドと前記触媒コンバータ容器とがお互いに実質的に平行に配置され、前記長手方向へそれぞれ伸びる少なくとも1つの隔壁によりお互いに区切られ;及び前記排気ガスが、前記隔壁内に設けられる1以上のポートを介して前記触媒コンバータ容器内へ、及び前記触媒コンバータ要素を通って前記それぞれの出口へ導かれる、方法。」

である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
内燃機関について、本願発明12は「大型ディーゼル機関」であるのに対し、引用発明Bは「内燃機関」である点。

(2)判断
相違点1について検討する。
大型小型を問わずディーゼル機関が内燃機関に含まれることは、一般に技術常識である。また、上記摘示事項を含む引用文献1の記載において、引用発明Bの「内燃機関」から大型ディーゼル機関が除外される事由を見出すことはできない。
そうすると、引用発明Bの内燃機関として大型ディーゼル機関を採用し、上記相違点1に係る本願発明12の事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

また、本願発明12が奏する効果は、引用発明Bから当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願発明12は、引用発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

付言すれば、排気マニホールドに備えた触媒装置で排気ガスの後処理を行う大型ディーゼル機関は、本願の優先日前に知られ(引用文献2の段落【0001】、【0002】参照)、同様の船舶用ディーゼル機関、陸舶ディーゼル機関も知られている(船舶用ディーゼル機関は特開平6-117222号公報(段落【0001】、【0008】ないし【0010】、図2、図4、図6)を、陸舶用ディーゼル機関は特開平6-50133号公報(段落【0001】、【0005】、図1)を参照)。

2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明Aとを対比すると、
引用発明Aの「窒素酸化物の還元」は本願発明1の「排気ガス後処理」に相当し、以下同様に、「前室14」は「排気マニホールド」に、「複数のエンジン排気ダクトからの入口開口17」は「複数の入口」に、「前記入口開口17は前記内燃機関の排気ガスを受けるためのその長手方向に沿って分配され」は「前記入口は機関の排気ガスを受けるためのその長手方向に沿って分配され」に、「主室19」は「触媒コンバータ容器」に、「円柱状触媒成分20,20a」は「複数の触媒コンバータ要素」に、「ガス出口オリフイス34」は「1以上の出口」に、「前記前室14及び前記主室19の縦軸は平行であり」は「前記排気マニホールド及び前記触媒コンバータ容器が実質的にお互いに平行に配置され」に、「共通の壁18」は「少なくとも1つの隔壁」に、「オリフイス23」は「1以上のポート」に、「入口管13」は「入口スタブ」に、「内燃機関用排気マニホルド」は「装置」にそれぞれ相当する。

また、引用発明Aの「前記前室14に複数の入口管13を有する」と本願発明1の「それぞれの入口及び/又は周辺に配置された1以上の開口部が、前記排気マニホールドの入口スタブ内に、還元剤を供給し及びそれを前記排気ガス内に混合するために設けられ」とは、「前記排気マニホールドに入口スタブを有する」という限りで共通し、引用発明Aの「内燃機関」は、本願発明1の「大型ディーゼル機関」と「内燃機関」という限りで共通する。

したがって、両者は、
「内燃機関のための排気ガス後処理のための装置であり、前記装置は、細長い排気マニホールドを含み、前記排気マニホールドが複数の入口を含み、前記入口は前記大型ディーゼル機関の排気ガスを受けるためのその長手方向に沿って分配され、及び細長い触媒コンバータ容器を含み、これは前記排気マニホールドに接続され、前記触媒コンバータ容器に複数の触媒コンバータ要素が設けられ、及び1以上の出口を有し、前記排気マニホールド及び前記触媒コンバータ容器が実質的にお互いに平行に配置され、及び前記長手方向にそれぞれ伸びる少なくとも1つの隔壁によりお互いから区切られており;及び前記排気マニホールドは前記触媒コンバータ容器に、前記隔壁に設けられる1以上のポートを介して接続され、作動中に前記排気ガスをそれぞれの出口へ前記触媒コンバータ要素を通じて導き、前記排気マニホールドに入口スタブを有する、装置。」

である点で一致し、以下の2点で相違している。
〔相違点2〕
内燃機関に関し、本願発明1は、「大型ディーゼル機関」であるのに対し、引用発明Aは「内燃機関」である点。

〔相違点3〕
本願発明1は、「それぞれの入口及び/又は周辺に配置された1以上の開口部が、前記排気マニホールドの入口スタブ内に、還元剤を供給し及びそれを前記排気ガス内に混合するために設けられ、及び前記それぞれの入口スタブは前記出口側で拡張され、及び/又は拡散装置が前記出口側のそれぞれの入口で形成され、前記それぞれの入口スタブが作動中に前記還元剤の吐出ポンプとして作用する」のに対し、引用発明Aはかかる事項を備えていない点。

(2)判断
相違点2、3について検討する。
ア 相違点2について
本願発明12と引用発明Bとの相違点に係る判断(第4、1(2)参照)と実質的に同様の理由により、引用発明Aの内燃機関として大型ディーゼル機関を採用し、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点3について
相違点3の検討にあたって、本願発明1と引用文献2に記載された事項とを対比する。
引用文献2に記載された事項の「排気接続パイプ3」は、本願発明1の「入口管13」に相当し、同様に、「集合シャフト装置26」は「排気マニホールド」に相当し、「それぞれの排気接続パイプ3に配置された噴射弁11」は「それぞれの入口及び/又は周辺に配置された1以上の開口部」に相当する。
また、本願発明1の発明特定事項である「前記それぞれの入口スタブは前記出口側で拡張され、及び/又は拡散装置が前記出口側のそれぞれの入口で形成され、前記それぞれの入口スタブが作動中に前記還元剤の吐出ポンプとして作用する」との事項は、本願明細書の段落【0045】の「一つの有利な実施態様において前記それぞれの入口スタブ7aは前記出口側で拡張され、及び/又は拡散装置15aが前記出口側のそれぞれの入口スタブで形成され、前記入口スタブが、操作中に前記還元剤のための注入ポンプ15として作用する(図7A)。」との記載及び段落【0047】の「通常の操作では、排気ガス及びガス状アンモニアの移動及び混合が有利には排出ポンプの手段により生じ、前記排出ポンプはそれぞれの入口スタブ7aで形成される。かかる排出ポンプ15の実施態様は図7Aで示される。示される実施態様では、前記還元剤はフィード13を介して供給され、これは例えばリング形状で作られる。拡散装置15aは、前記出口側のそれぞれの入口スタブに形成され、前記入口スタブが、操作中に前記還元剤のための吐出ポンプ15として作用する」との記載、並びに図7及び図7Aからみて、「前記それぞれの入口スタブは前記出口側で拡張され」るとの態様を含むと解されるから、引用文献2に記載された事項の「前記排気接続パイプ3は散気筒(ディフューザー)状の端部7が設けられ」ることは、本願発明Aの「前記それぞれの入口スタブは前記出口側で拡張され」ることに相当する。

そうすると、引用文献2に記載された事項は、本願発明1の用語で表すと、次のとおりものといえる。
「それぞれの入口及び/又は周辺に配置された1以上の開口部が、前記排気マニホールドの入口スタブ内に、還元剤を供給し及びそれを前記排気ガス内に混合するために設けられ、及び前記それぞれの入口スタブは前記出口側で拡張され、及び/又は拡散装置が前記出口側のそれぞれの入口で形成され、前記それぞれの入口スタブが作動中に前記還元剤の吐出ポンプとして作用する大型ディーゼルエンジン。」

また、引用発明Aは、窒素酸化物還元のための触媒リアクタを含んでいるから、引用発明Aに同様に窒素酸化物を還元する触媒であるSCR装置を前提とする引用文献2に記載された事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、引用文献1の3ページ右下欄10行ないし20行の記載、特に「触媒が作動温度に達し、エンジンが始動時期の後に希薄混合気で機能するや否や直ちに、後燃焼空気の供給は停止され、触媒リアクタが、窒素酸化物の還元器として機能する。」との記載からみて、引用発明Aにおいても、触媒リアクタが排気後処置装置として機能するときは後燃焼空気の供給は停止され、前室14が後燃焼リアクタとして機能することはなく、当然炎を伴う後燃焼は生じないと解されるから、引用発明Aに引用文献2に記載された事項を適用する際の阻害事由とはいえない。

そうしてみると、引用発明Aにおいて、引用文献2に記載された事項を適用して、相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ 効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明A及び引用文献2に記載された事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

エ まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明A及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
本願発明12は、引用発明Bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本願発明1は、引用発明A及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-04-19 
結審通知日 2018-04-20 
審決日 2018-05-07 
出願番号 特願2012-107345(P2012-107345)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔山本 健晴  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 水野 治彦
金澤 俊郎
発明の名称 排気ガス後処理装置及び方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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