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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1344254
審判番号 不服2017-15506  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-19 
確定日 2018-10-02 
事件の表示 特願2013-253959「カメラモジュール及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月22日出願公開、特開2015-114359、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年12月9日の出願であって、平成28年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年7月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年10月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成30年7月30日付けで拒絶理由が通知され、平成30年8月1日に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要

平成29年7月13日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである(引用文献については、下記の引用文献等一覧を参照。)。

1 本願請求項1,5に係る発明は、引用文献1または2に記載された発明ならびに引用文献5および6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

2 本願請求項2に係る発明は、引用文献1または2に記載された発明ならびに引用文献3乃至7に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 本願請求項3-5に係る発明は、引用文献3に記載された発明ならびに引用文献5および6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4 本願請求項1,2,5に係る発明は、引用文献4に記載された発明ならびに引用文献1,2,5および6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2005-309076号公報
2.特開2005-107084号公報
3.特開2007-310242号公報
4.特開2008-116901号公報
5.特開2007-174222号公報
6.特開2006-276565号公報
7.特開2013-190654号公報


第3 本願発明

1 本願請求項1,2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成30年8月1日付けの手続補正による補正(以下、「本件補正」という。)がなされた特許請求の範囲の請求項1および2に記載された次の事項により特定されるとおりの発明である。

【請求項1】
「光軸方向に移動自在なレンズ枠部材と、前記レンズ枠部材を移動自在に保持する枠部材と、前記枠部材を支持するベース部材と、前記レンズ枠部材に固定されるマグネットと前記枠部材に固定されるコイルを備え前記レンズ枠部材を光軸方向に駆動する駆動手段を備えたレンズ駆動装置と、
シャッタ部材と該シャッタ部材を駆動するシャッタ駆動手段とを備えたシャッタ駆動装置とを具備し、
前記シャッタ駆動装置は、前記マグネットの移動方向延長位置に前記マグネットに吸着力を作用するヨークを配備しており、前記ヨークの少なくとも一つは、前記シャッタ駆動手段のヨークであり、
前記マグネットの正面が前記コイルと対面しており、前記ヨークは、前記マグネットの側面に対向していると共に、前記シャッタ駆動装置の開口部を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されていることを特徴とするカメラモジュール。」

【請求項2】
「請求項1記載のカメラモジュールを備えた電子機器。」

2 本願発明1は、原査定時の請求項3に係る発明に対して、次の発明特定事項が付加されたものである。
(1)「前記シャッタ駆動装置は、前記マグネットの移動方向延長位置に前記マグネットに吸着力を作用するヨークを配備しており、前記ヨークの少なくとも一つは、前記シャッタ駆動手段のヨークであ」ること。
(2)「前記マグネットの正面が前記コイルと対面しており、前記ヨークは、前記マグネットの側面に対向していると共に、前記シャッタ駆動装置の開口部を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されている」こと。


第4 引用文献

1 引用文献3の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由において、原査定時の請求項3に係る発明の進歩性を否定する主引用文献として引用された引用文献3には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0029】
図1および図2において、本形態のレンズ駆動装置1は、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話機などの薄型カメラにおいて、3枚のレンズ26、27、28をレンズ光軸Xに沿って被写体(物体側)に近づくA方向(前側)、および被写体とは反対側(像側)に近づくB方向(後側)の双方向に移動させるためのものであり、レンズ駆動装置本体2は、概ね、3枚のレンズ26、27、28および固定絞り29を円筒状のレンズホルダ24上に一体に保持した移動レンズ体20と、この移動レンズ体20をレンズ光軸Xに沿って移動させるレンズ駆動機構5と、レンズ駆動機構5および移動レンズ体20が搭載された固定体10とを有している。また、移動レンズ体20は、レンズホルダ24の外周面に固着されたスリーブ15を備えている。
【0030】
本形態において、固定体10は、像側で撮像素子(図示せず)を保持するためのベース19と、被写体側に位置するケース11とを備えており、ケース11の前側の中央には、被写体からの反射光をレンズ26に取り込むための円形の入射窓18が形成されている。
【0031】
(レンズ駆動機構5の構成)
ケース11とベース19は嵌め込み可能であって、その間には、レンズ駆動機構5に用いた円筒状のヨーク16が固定されている。ヨーク16の内周面にはリング状のレンズ駆動用マグネット17が固着され、レンズ駆動用マグネット17は、ヨーク16の内周面から内側に突出するようにヨーク16に固着されている。ヨーク16は、例えば鋼板などの強磁性体からなる。」
「【0051】
図1、図5?図8に示すように、本形態のレンズ駆動装置1において、レンズ移動レンズ体20に対して被写体側(レンズ駆動装置本体2やケース11に対して被写体側)には、シャッタ板81(板状の光学部材)および減光フィルタ板86(板状の光学部材)を備えた付属ユニット8が積層されており、この付属ユニット8において被写体側には、光路を確保するための開口850が形成されたカバー85が配置されている。ここで、シャッタ板81は1枚の平板から構成され、減光フィルタ板86は、1枚の平板を2箇所で90°に折り曲げた構造を有している。
【0052】
付属ユニット8において、シャッタ板81に対しては、シャッタ板81に連結された回転軸83をレンズ光軸Xに平行な軸線L6周りに回転させてシャッタ板81を光路に出現した位置と光路から退避した位置とに駆動するシャッタ板駆動機構60(第1の光学部材駆動機構)が構成されている。シャッタ板駆動機構60は、コア板91およびコア板91に巻回されたコイル82を備えたステータ61と、このステータ61によって回転駆動されるロータマグネット84とを備えており、ロータマグネット84は回転軸83に固着されている。ここで、シャッタ板81は、シャッタ板駆動機構60より被写体側に配置されている。なお、ロータマグネット84は、周方向にN極とS極が形成されている。従って、コイル82に対する通電を制御すると、シャッタ板81を回転軸83の軸線L6周りに回転させることができ、シャッタ板81を光路に出現した状態と、光路から退避した位置とに切り換えることができる。
【0053】
また、付属ユニット8において、減光フィルタ板86に対しては、減光フィルタ板86が連結された回転軸88をレンズ光軸Xに平行な軸線L7周りに回転させて減光フィルタ板86を光路に出現した位置と光路から退避した位置とに駆動するフィルタ板駆動機構70(第2の光学部材駆動機構)が構成されている。フィルタ板駆動機構70は、コア板92およびコア板92に巻回されたコイル87を備えたステータ71と、このステータ71によって回転駆動されるロータマグネット89とを備えており、ロータマグネット89は回転軸88に固着されている。ここで、減光フィルタ板86は、フィルタ板駆動機構70より被写体側に配置されている。なお、ロータマグネット89は、周方向にN極とS極が形成されている。従って、コイル87に対する通電を制御すると、減光フィルタ板86を回転軸88の軸線L7周りに回転させることができ、減光フィルタ板86を光路に出現した状態と、光路から退避した位置とに切り換えることができる。
【0054】
このようなシャッタ板駆動機構60およびフィルタ板駆動機構70において、本形態では、ケース11の上面に平伏した状態に配置された地板90の上層側に5枚のコア板95、96、97、99、99を積層した矩形枠状の積層コア体94が用いられており、この積層コア体94において、コア板95、96、97、99、99は各々、所定のパターンで分割されている。また、地板90および5枚のコア板95、96、97、99、99は、図5および図6に示すように、磁性材料からなる4本のボルト71、72、73、74で連結されている。
【0055】
さらに本形態では、シャッタ板駆動機構60では、積層コア体94の上から3枚目のコア板97の一部分が、コイル82を巻回したコア板91として利用され、矢印L60で示す磁路が構成されている。また、フィルタ板駆動機構70でも、積層コア体94の上から3枚目のコア板97の一部分がコイル87を巻回したコア板92として利用され、矢印70で示す磁路が構成されている。
【0056】
(本形態の主な効果)
図8(a)、(b)、(c)は、本形態の効果を説明するための説明図である。以上説明したように、本形態の付属ユニット8においては、シャッタ板駆動機構60およびフィルタ板駆動機構70のステータ61、71を構成するのに、ケース11の被写体側の面に平伏した姿勢で配置された矩形枠状の積層コア体94が用いられている。また、シャッタ板81および減光フィルタ86は、積層コア体94より被写体側に配置されている。このため、付属ユニット8の撮像素子30側には、その中央部分に空間80が形成されている。」
「【0072】
(別の実施の形態6)
図16は、本発明の別の実施の形態6に係るレンズ駆動装置1Fの機械構成の概略を示す図である。図16(a)に示すレンズ駆動装置1Fは、第5の実施の形態に係るレンズ駆動装置1D(図14(a)参照)と同様の部品を用いるが、レンズ駆動用マグネット17がスリーブ15に固着されていて、第1のレンズ駆動用コイル14がヨーク16に固着している。このように、レンズ駆動用マグネット17と第1のレンズ駆動用コイル14の配置関係を交換しても構わない。勿論、図16(b)に示すように、図15と同様に、スリーブ15をカメラボディの後ろ側に移動させるようにしても構わない。」
(2)引用文献3の図1および図16(b)より、シャッタ板駆動機構60およびフィルタ板駆動機構70は、レンズ駆動用マグネット17のレンズ光軸X方向の延長位置にコア板91および92を配備していることが、看て取れる。
(3)引用文献3の図1および図6より、シャッタ板駆動装置60のコア板91およびフィルタ板駆動機構70のコア板92は、付属ユニット8の空間80を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されていることが、看て取れる。

2 引用発明の認定
(1)引用文献3の段落【0072】に記載の「別の実施の形態6」において、「レンズ駆動用マグネット17」が固着されている「スリーブ15」は、段落【0029】の記載から、「レンズホルダ24の外周面」に固着されていることが明らかである。
(2)引用文献3の段落【0072】に記載の「別の実施の形態6」において、「第1のレンズ駆動用コイル14」が固着されている「ヨーク16」は、段落【0030】および【0031】の記載から、「レンズ駆動機構5」に用いたものであって、「固定体10」の「ケース11とベース19」の間に固定されていることが明らかである。
(3)引用文献3の段落【0051】-【0053】の記載より、「付属ユニット8」は「シャッタ板81」および「減光フィルタ板86」ならびに「シャッタ板駆動機構60」および「フィルタ板駆動機構70」を備えていると認められる。
(4)よって、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「レンズおよび固定絞りをレンズホルダ上に一体に保持した移動レンズ体と、前記移動レンズ体をレンズ光軸Xに沿って移動させるレンズ駆動機構と、前記レンズ駆動機構および前記移動レンズ体が搭載された固定体と、前記レンズホルダの外周面に固着されたスリーブに固着されているレンズ駆動用マグネットと、前記固定体のケースとベースの間に固定されている前記レンズ駆動機構に用いたヨークに固着されている第1のレンズ駆動用コイルとを備えたレンズ駆動装置本体と、
シャッタ板および減光フィルタ板ならびにシャッタ板駆動機構およびフィルタ板駆動機構を備えた付属ユニットと具備し、
前記シャッタ板駆動機構およびフィルタ板駆動機構は、前記レンズ駆動用マグネットの前記レンズ光軸X方向の延長位置にコア板を配備しており、
前記シャッタ板駆動装置のコア板および前記フィルタ板駆動機構のコア板は、前記付属ユニットの空間を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されているレンズ駆動装置。」

3 引用文献5
(1)原査定の拒絶の理由において、原査定時の請求項3に係る発明の進歩性を否定する周知技術を示す文献として引用された引用文献5には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0016】
カメラモジュール1は、ハウジング2と、カメラの光学系を構成するレンズユニット3と、レンズユニット3を収容すると共にレンズユニット3の光軸方向に沿って変位可能なホルダ4と、ホルダ4に設けられているマグネット5と、ハウジング2の内部に設けられていると共に、マグネット5の一の磁極の側方に間隔を隔てて巻回されている第1コイル6と、ハウジング2の内部に設けられていると共に、マグネット5の他の磁極の側方に間隔を隔てて巻回されている第2コイル7と、ハウジング2の内部に設けられていると共に、マグネット5の一の磁極と対向するように設けられている第1磁性体8と、ハウジング2の内部に設けられていると共に、マグネット5の他の磁極と対向するように設けられている第2磁性体9と、レンズユニット3の下方に設けられている撮像素子11とを有している。」
「【0021】
マグネット5は、ホルダ4の外周壁に沿って設けられている円筒状の形状を有する永久磁石であり、上方がS極であり、下方がN極となっている。
【0022】
第1コイル6は、反時計回りに巻回されている円筒状コイルであり、ハウジング2内の内壁下方において、マグネット5のN極の側方に間隔を隔てて配設されている。また、第2コイル7は、時計回りに巻回されている円筒状コイルであり、ハウジング2内の内壁上方において、マグネット5のS極の側方に間隔を隔てて配設されている。」
(2)引用文献5の段落【0022】には「第1コイル6は、・・・マグネット5のN極の側方に間隔を隔てて配設されている。また、第2コイル7は、・・・マグネット5のS極の側方に間隔を隔てて配設されている。」と記載されていることから、「マグネット5」と「第1コイル6」および「第2コイル7」とは対面していると認められる。
(3)してみると、引用文献5には、次の技術が記載されていると認められる。
「ハウジングと、カメラの光学系を構成するレンズユニットと、レンズユニットを収容すると共にレンズユニットの光軸方向に沿って変位可能なホルダと、ホルダに設けられているマグネットと、ハウジングの内部に設けられている第1コイルおよび第2コイルを有するカメラモジュールにおいて、マグネットと第1コイルおよび第2コイルとが対面していること。」

4 引用文献6
(1)原査定の拒絶の理由において、原査定時の請求項3に係る発明の進歩性を否定する周知技術を示す文献として引用された引用文献6には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0014】
このレンズ駆動装置10は、携帯電話のカメラ部分に用いられるものであるが、他の光学機器、たとえばコンピュータのディスプレイ周辺に取り付けられるカメラや内視鏡等にも適用することができる。レンズ駆動装置10は、主に、レンズホルダー1と、円筒形の固定部材2と、から構成されている。
【0015】
レンズホルダー1は、全体が略円筒形とされており、樹脂材で構成されている。レンズホルダー1は、凸レンズなどのレンズ11と、円筒形状の永久磁石からなるマグネット12とを有している。レンズ11は、絞りとしても働く光通過用の孔13を中心に有する円板部14の図1で下方に載置固定されている。レンズ11は、プラスチックレンズでかつ非球面レンズとされている。なお、レンズホルダー1にレンズ11以外のレンズを保持させることで、複数のレンズを有するレンズホルダー1としても良い。
【0016】
マグネット12は、レンズホルダー1の外周に円輪状に突出した2つの保持部15,16にはさまれるように配置され、接着剤等でレンズホルダー1に固定されている。マグネット12は、2?4個の円弧状部材が組み合わされて全体として円形となるように構成されている。このマグネット12は、内周面がS極で外周面がN極に磁化され、磁束は、マグネット12を径方向に横切るものとなっている。なお、マグネット12を全体として円筒形状ではなく、周方向に120度の範囲に渡るものを60度の間隔を空けて2つ対向させる構造等、部分的に隙間があるように形成しても良い。
【0017】
固定部材2は、レンズホルダー1を光軸21に沿って案内するもので、この実施の形態1では、樹脂材からなる大径のベース22と、コイル23を保持する樹脂材からなる小径のボビン24の2部材で構成されている。固定部材2は、2部材ではなくベース22とボビン24とを一体化した一部材としても良い。なお、ベース22の図1で上面は、レンズホルダー1が突き当たる突き当たり部25となっている。」
(2)引用文献6の図1より、マグネット12とコイル23とが対向していることが看て取れる。
(3)してみると、引用文献6には、次の技術が記載されていると認められる。
「凸レンズなどのレンズと円筒形状の永久磁石からなるマグネットとを有するレンズホルダーと、樹脂材からなる大径のベースとコイルを保持する樹脂材からなる小径のボビンの2部材で構成され、レンズホルダーを光軸に沿って案内する固定部材とから構成されるレンズ駆動装置において、マグネットとコイルとが対向していること。」


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「レンズホルダ」は「移動レンズ体」を構成するものであり、「移動レンズ体」は「レンズ光軸Xに沿って移動される」ものであるから、引用発明の「レンズホルダ」は本願発明1の「レンズ枠部材」と同様に「光軸方向に移動自在」であると認められる。してみると、引用発明の「レンズホルダ」は本願発明1の「光軸方向に移動自在なレンズ枠部材」に相当する。
(イ)引用発明の「レンズホルダ」は「移動レンズ体」を構成するものであるから、引用発明の「移動レンズ体をレンズ光軸Xに沿って移動させるレンズ駆動機構」は、本願発明1の「レンズ枠部材を移動自在に保持する枠部材」に相当する。
(ウ)引用発明の「固定体」の「ベース」は、本願発明1の「枠部材」に相当する「レンズ駆動機構」の「ヨーク」を固定するものであるから、本願発明1の「枠部材を支持するベース部材」に相当する。
(エ)引用発明の「レンズ駆動用マグネット」は、「レンズホルダ」の「外周面に固着されたスリーブに固着されている」から、「レンズホルダ」に固定されていると認められる。そして、引用発明の「レンズホルダ」は本願発明1の「レンズ枠部材」に相当するから、引用発明の「レンズホルダの外周面に固着されたスリーブに固着されているレンズ駆動用マグネット」は、本願発明1の「レンズ枠部材に固定されるマグネット」に相当する。
(オ)引用発明の「第1のレンズ駆動用コイル」は、「レンズ駆動機構」「に用いたヨークに固着されている」から、「レンズ駆動機構」に固定されていると認められる。そして、引用発明の「レンズ駆動機構」は本願発明1の「枠部材」に相当するから、引用発明の「レンズ駆動機構に用いたヨークに固着されている第1のレンズ駆動用コイル」は、本願発明1の「枠部材に固定されるコイル」に相当する。
(カ)引用発明の「レンズ駆動装置本体」は、本願発明1の「レンズ駆動装置」に相当する。
(キ)引用発明の「シャッタ板」および「シャッタ板駆動機構」は、それぞれ、本願発明1の「シャッタ部材」および「シャッタ部材を駆動するシャッタ駆動手段」に相当する。
(ク)引用発明の「付属ユニット」は、本願発明1の「シャッタ部材」に相当する「シャッタ板」および本願発明1の「シャッタ部材を駆動するシャッタ駆動手段」に相当する「シャッタ板駆動機構」を備えているから、本願発明1の「シャッタ駆動装置」に相当する。
(ケ)引用発明の「コア板」は、本願発明1の「ヨーク」に相当する。
(コ)引用発明の「レンズ駆動用マグネット」は「移動レンズ体」を構成する「レンズホルダ」に固定されたものであって、「移動レンズ体」が「レンズ光軸X方向」に移動するから、「レンズ駆動用マグネット」は「レンズ光軸X方向」に移動すると認められる。してみると、引用発明の「前記レンズ駆動用マグネットの前記レンズ光軸X方向の延長位置にコア板を配備しており」は、本願発明1の「前記マグネットの移動方向延長位置にヨークを配備しており」に相当する。
(サ)引用発明の「コア板」の一つは「レンズ駆動機構」のものであるから、引用発明は、本願発明1の「ヨークの少なくとも一つは、前記シャッタ駆動手段のヨークであ」るとの要件を満たす。
(シ)引用発明の「前記シャッタ板駆動装置のコア板および前記フィルタ板駆動機構のコア板は、前記付属ユニットの空間を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されている」は、本願発明1の「前記ヨークは・・・前記シャッタ駆動装置の開口部を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されている」に相当する。
(ス)引用発明の「レンズ駆動装置」は、本願発明1の「レンズ駆動装置」に相当する「レンズ駆動装置本体」および本願発明1の「シャッタ駆動装置」に相当する「付属ユニット」を具備するものであるから、本願発明1の「カメラモジュール」に相当する。

イ 以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点および相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「光軸方向に移動自在なレンズ枠部材と、前記レンズ枠部材を移動自在に保持する枠部材と、前記枠部材を支持するベース部材と、前記レンズ枠部材に固定されるマグネットと前記枠部材に固定されるコイルを備え前記レンズ枠部材を光軸方向に駆動する駆動手段を備えたレンズ駆動装置と、
シャッタ部材と該シャッタ部材を駆動するシャッタ駆動手段とを備えたシャッタ駆動装置とを具備し、
前記シャッタ駆動装置は、前記マグネットの移動方向延長位置にヨークを配備しており、前記ヨークの少なくとも一つは、前記シャッタ駆動手段のヨークであり、
前記ヨークは、前記シャッタ駆動装置の開口部を挟んで相対する位置にそれぞれ配置されているカメラモジュール。」
【相違点1】
本願発明1では「ヨーク」が「マグネットに吸着力を作用する」のに対して、引用発明ではそうであるか否か不明である点。
【相違点2】
「コイルと対面」する面を「マグネットの正面」として、本願発明1では「ヨーク」は「マグネットの側面に対向している」のに対して、引用発明では「マグネットの側面に対向」していない点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点1および2について検討する。
相違点1に係る本願発明1の発明特定事項(以下、「発明特定事項1」という。)は、原査定の拒絶の理由において、原査定時の請求項3に係る発明の進歩性を否定する周知技術を示す文献として引用された引用文献5および6には、記載されていない。そして、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項(以下、「発明特定事項2」という。)についても、引用文献5および6には、記載されていない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明ならびに引用文献5および6に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、発明特定事項1および2は、引用文献2-4,7にも記載されていない。

2 本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の発明特定事項1および2を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明ならびに引用文献5および6に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定についての判断

平成30年8月1日付け手続補正により補正された請求項1,2は、それぞれ発明特定事項1および2を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1,2は、引用文献3に記載された発明ならびに引用文献5および6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第7 当審拒絶理由について

1 特許法36条6項2号(明確性)について、当審では、下記の拒絶理由を通知した。
(1)請求項1には「前記マグネットにおける前記コイルとは対面していない側面」との記載があるが、当該「側面」が、「前記コイル」と対面している面に対してどのような位置関係にあるのかが明確でない。
(2)請求項1には「前記シャッタ駆動手段のヨークを配備しており、・・・前記ヨークは、・・・開口部を挟んで相対する・・・位置に配置され」と記載されている。
しかしながら、本願の図5には、図面右側の「ヨーク23」が「シャッタ駆動手段21」を構成することが示されている一方、図面左側の「ヨーク23」は単独であり、「シャッタ駆動手段21」との関係が示されていないところ、請求項1の「前記シャッタ駆動手段のヨーク」は、後者のような「ヨーク」も含むのか否かが明確でない。
(3)請求項1の「シャッタ駆動手段の開口部」との記載は、「シャッタ駆動手段」のどの部分を指すのかが不明である。なお、本願の発明の詳細な説明および図面において、「開口部」を有するのは「シャッタ駆動装置」であって、「シャッタ駆動手段」は「開口部」を有していないと認められる。
(4)請求項1には「相対する一方向の位置に配置され、該一方向に直交する方向には配置されていない」との記載があるが、「相対する一方向の位置」における「一方向の」が意味するところが不明確である。また、「該一方向に直交する方向には配置されていない」とは、どのような位置に配置されないことを意味するのかが不明確である。
(5)上記(1)-(4)の点について、請求項1を引用する請求項2においても明確でない。
(6)よって、請求項1,2の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 特許法36条6項2号(明確性)の拒絶理由についての判断
(1)本件補正により、請求項1で、「前記マグネットと前記コイルが対面しており、前記ヨークは、前記マグネットにおける前記コイルとは対面していない側面に対向している」が、「前記マグネットの正面が前記コイルと対面しており、前記ヨークは、前記マグネットの側面に対向している」と補正された結果、上記1(1)の拒絶理由は解消した。
(2)本件補正により、請求項1で、「前記マグネットの移動方向延長位置に前記シャッタ駆動手段のヨークを配備しており」が、「前記シャッタ駆動装置は、前記マグネットの移動方向延長位置に前記マグネットに吸着力を作用するヨークを配備しており、前記ヨークの少なくとも一つは、前記シャッタ駆動手段のヨークであり」と補正された結果、上記1(2)の拒絶理由は解消した。
(3)本件補正により、請求項1で、「シャッタ駆動手段の開口部」が、「シャッタ駆動装置の開口部」と補正された結果、上記1(3)の拒絶理由は解消した。
(4)本件補正により、請求項1で、「相対する一方向の位置に配置され、該一方向に直交する方向には配置されていない」が、「相対する位置にそれぞれ配置されている」と補正された結果、上記1(4)の拒絶理由は解消した。
(5)本件補正により、請求項1における上記1(1)-(4)の拒絶理由が解消した結果、請求項2における上記1(5)の拒絶理由も解消した。

3 特許法36条6項1号(サポート要件)について、当審では、下記の拒絶理由を通知した。
(1)請求項1には「前記マグネットの移動方向延長位置に前記シャッタ駆動手段のヨークを配備しており」との記載があるが、当該「ヨーク」が「マグネット」に吸着力を作用するとは規定されていない。
これに対して、発明の詳細な説明には本願発明の課題として「レンズ駆動装置の始動電流を低くして電源の消費電力を低く抑えること、レンズ枠部材の最大ストロークを含む大きな駆動ストロークを得るための駆動電流を低く抑えること、等が本発明の目的である。」(段落【0005】)が記載されているところ、「ヨーク」が、「レンズ枠部材に固定されるマグネット」に吸着力を作用しなければ、レンズ駆動をアシストできず、当該課題を解決できないことは明らかである。してみれば、請求項1に係る発明において「ヨーク」が「マグネット」に吸着力を作用しない場合については、発明の詳細な説明において前記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。
(2)この点について、請求項1を引用する請求項2においても同様である。
(3)したがって、請求項1,2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 特許法36条6項1号(サポート要件)の拒絶理由についての判断
(1)本件補正により、請求項1で、「ヨーク」が、「前記マグネットに吸着力を作用するヨーク」と補正された結果、上記3(1)の拒絶理由は解消した。
(2)本件補正により、請求項1における上記3(1)の拒絶理由が解消した結果、請求項2における上記3(2)の拒絶理由も解消した。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由および当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-18 
出願番号 特願2013-253959(P2013-253959)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小倉 宏之  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 森次 顕
後藤 昌夫
発明の名称 カメラモジュール及び電子機器  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  

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