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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1344315
審判番号 不服2017-5448  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-17 
確定日 2018-09-05 
事件の表示 特願2015-163581「10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの光学的に純粋なジアステレオマーおよび該ジアステレオマーを用いる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日出願公開、特開2016- 6111〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2010年3月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月2日(US)米国)を国際出願日とする2012-551957号の一部を平成27年8月21日に新たな特許出願としたものであって、平成27年9月24日に手続補正書が提出され、平成28年4月28日付けの拒絶理由が通知され、同年11月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月13日付けで拒絶査定され、平成29年4月17日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年9月8日付けで上申書が提出され、平成30年3月19日に面接が実施されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?17に係る発明は、平成28年11月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「実質的に純粋な(2S)-2-[[4-[(1R)-1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸またはその塩、および薬学的に許容されうるキャリアーを含み、該ジアステレオマーの量は、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの総量に基づき97重量%以上である、肺癌を治療するための薬学的組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりのものと認める。
この出願の請求項1?17に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1?6,8?13に記載された発明および技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、拒絶査定の対象となった、平成28年11月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明である本願発明1は、拒絶理由通知の対象となった、平成27年9月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項6に係る発明に対応するものといえる。

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は以下のとおりである。
1 刊行物およびその記載
(1)刊行物
刊行物1:特表2001-505537号公報
刊行物2:Allos Therapeutics Inc.,"FOLOTYN (pralatrexate injection)", [online],2009年9月,p.1-12, インターネット
刊行物3:J. Med. Chem.,1986年,Vol.29, No.6,p.1056-1061
刊行物4:日本化学会編,季刊化学総説,No.6,1989,「光学異性体の分離」,p.2,9,16,134,212-213
刊行物5:月刊薬事,29(10),1987,p.23-26
刊行物6:ファルマシア,25(4),1989,p.311-321
刊行物7:日本化学会誌,1992(2),p.133-139
刊行物8:分離技術,25(5),1995,p.3-8
刊行物9:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第5版」,丸善,平成7年3月15日,p.II-567?II-571

なお、刊行物1?3は、原査定の引用文献1?3に対応するものであり、刊行物4?9は、技術常識を示すために引用するものであって、原査定の引用文献8?13に対応するものである。

(2)刊行物の記載事項
ア 刊行物1(原査定の引用文献1)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物1には、以下の記載がある。
(1a)
「【特許請求の範囲】
1.10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリン。
2.本質的に10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンから成る組成物。
3.10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンと、薬剤学的に受容されるキャリヤーとを含む薬剤組成物。
4.腫瘍を有すると診断されたヒト患者に10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの治療有効量を投与することを含む、腫瘍の治療方法。
5.腫瘍が固体腫瘍である、請求項4記載の方法。
・・・
8.腫瘍が肺腫瘍である、請求項4記載の方法。」(【特許請求の範囲】)

(1b)
「発明の背景
本発明は化合物10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの精製組成物と、この化合物を腫瘍の治療に用いる方法に関する。
10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリン(“10-プロパルギル-10-dAMの合成と抗腫瘍活性”)は、今までに試験されて、幾つかの場合に腫瘍の治療に有用であると発見された大きな化合物クラスのメンバーである。図1に示した構造を有する、・・・
発明の概要
しかし、意外にも、より高度に精製された10-プロパルギル-10dAM組成物は、ヒト腫瘍に対するそれらの効力に関して異種移植片モデルで試験したときに、メトトレキセート(“MTX”)よりもはるかに優れており、さらに、より最近の臨床的候補であるエダトレキセテート(“ETX”)よりも優れていることが今回判明した。さらに、10-プロパルギル-10dAMは、治療の中断後の数週間、腫瘍増殖の徴候が無いように、腫瘍を治療する驚くべき能力を示した。したがって、本発明の第1態様は10-プロパルギル-10dAMを含有する、高度に精製された組成物である。この組成物は本発明によって腫瘍の治療に、特にヒト乳房腫瘍及びヒト肺癌の治療に用いることができる。
図面の簡単な説明
図1は10-プロパルギル-10dAMの構造を示す;・・・
図4は本発明による化合物の製造に有用な合成スキームを示す;」(3頁4行?4頁11行)

(1c)
「 実施例1
図4は本発明による10-プロパルギル-10dAMの製造に有用な合成スキームを示す。18mlのシーブ乾燥(sieve-dried)THF中の油分散液としての60%NaH(1.06g,26.5mmol)の混合物を0℃に冷却した。この低温混合物を乾燥THF(7ml)中のホモテレフタル酸ジメチルエステル(5.0g、24mmol、図4中の化合物1)の溶液によって処理し、この混合物を0℃において1時間撹拌した。臭化プロパルギル(26.4mmol)を加え、混合物を0℃においてさらに1時間、室温において16時間撹拌した。結果として生じた混合物を2.4mlの50%酢酸によって処理し、次に240mlの水中に注入した。混合物をエーテル(2X150ml)によって抽出した。エーテル抽出物を一緒にして、Na_(2)SO_(4)上で乾燥させ、橙黄色油状物になるまで濃縮した。シクロヘキサン-EtOAc(8:1)によって溶離させるシリカゲル(600mlの230?400メッシュ)上でのクロマトグラフィーは生成物のα-プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステル(化合物2)を白色固体(4.66)として生成し、これはTLC(シクロヘキサン-EtOAc、3:1)によって均質であると思われた。しかし、この生成物に関する質量スペクトルデータは、これが目的生成物2と、ジプロパルギル化化合物との混合物であることを示した。出発物質1は検出されなかった。HPLCはモノプロパルギル化生成物のジプロパルギル化生成物に対する比率が約3:1であることを示す。ジプロパルギル化生成物は、化合物1とは異なり、次の工程の反応において好ましくない同時生成物(coproduct)を形成することがありえないので、この物質は化合物3への転化のために適切であった。合成において進行するために用いられる生成物中に出発化合物1が存在しないことが、最終生成物を生じるトランスフォーメーション中の10-dAMの順次形成を避けるために非常に重要である、この理由は10-プロパルギル-1-dAMから10-dAMを完全に除去することが非常に困難であるからである。
油分散液としての0.36gの60%NaH(9mmol)を10mlの乾燥DMFと一緒にすることによって混合物を形成し、0?5℃に冷却した。この低温混合物を10mlの乾燥DMF中の第1反応の生成物(化合物2)(2.94g、12mmol)の溶液を滴加して処理し、次に0℃において30分間撹拌した。-25℃に冷却した後に、温度を-25℃近くに維持しながら、10mlの乾燥DMF中の2,4-ジアミノ-6-(ブロモメチル)プテリジン・ヒドロブロミド・0.2 2-プロパノール(1.00g,2.9mmol)の溶液を滴加した。撹拌混合物の温度を-10℃に2時間の期間にわたって上昇させた。-10℃にさらに2時間維持した後に、温度を20℃に上昇させ、室温における撹拌を2時間以上(2 hours longer)続けた。次に、固体CO_(2)の添加によって、反応をpH7に調節した。真空下で濃縮して溶媒を除去した後に、残渣にジエチルエーテルを加えて撹拌して、エーテル不溶物を回収して、水によって洗浄して、真空下で乾燥させて1.49gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムに供給するために、CHCl_(3)-MeOH(10:1)中に溶解した。同溶媒系による溶離は10-プロパルギル-10-カルボメトキシ-4-デオキシ-4-アミノ-10-デアザプテロイン酸メチルエステル(化合物3)を与え、これは40%収率(485mg)でTLCに関して均質であった。
2-メトキシエタノール(5ml)中の化合物3(400mg、0.95mmol)の撹拌懸濁液を水(5ml)によって処理し、次に10%水酸化ナトリウム溶液(3.9ml)によって処理した。混合物を室温において4時間撹拌し、この間に溶液が生じた。この溶液を酢酸によってpH8に調節し、高真空下で濃縮した。結果として生じた残渣を15mlの水に溶解して、pH5.5?5.8に酸性化して、沈殿を形成させた。沈殿を回収して、水によって洗浄し、真空下で乾燥させて、340mgの化合物4(91%収率)を回収した。HPLC分析は90%の生成物純度を示した。
化合物4(330mg)を15mlのDMSO中で115?120℃において10分間加熱することによって脱炭酸した。10分間後のHPLCによる試験は、転化が本質的に完了したことを確証した。真空下で蒸留する(40℃における浴)ことによって、DMSOを除去した。残渣を0.5N NaOHと共に撹拌して、透明な溶液を得た。1N HClによってpH5.0に酸性化すると、10-プロパルギル-4-デオキシ-4-アミノ-10-デアザプテロイン酸(化合物5)が黄色固体として70%収率で得られた。HPLCはこの段階における生成物純度を90%として示した。
化合物5(225mg、0.65mmol)は、トリエチルアミン(148mg、1.46mmol)を含有するDMF(10ml)中のBOP試薬(ベンゾトリアゾル-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(287mg、0.65mmol、Aldrich Chemical Co.)を用いて、ジメチル L-グルタメート・ヒドロクロリド(137mg、0.65mmol)とカップリングさせた。この混合物を20?25℃において3時間撹拌して、次に蒸発乾固させた。残渣に水を加えて撹拌して、水に不溶な粗生成物を回収して、真空下で乾燥させた。この粗生成物(350mg)を、トリエチルアミン(0.25容量%)を含有するCHCl_(3)-MeOH(10:1)によって溶離させるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、165mgの10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンジメチルエステル(化合物6、50%収率)を回収した、これはTLC(CHCl_(3):MeOH 5:1)に関して均質であった。
化合物6(165mg、0.326mmol)を10mlの撹拌MeOH中に懸濁させて、これに0.72ml(0.72meq)の1N NaOHを加えた。室温における撹拌を、数時間後に溶液が生じるまで、続けた。この溶液を20?25℃に8時間維持し、次に10mlの水で希釈した。減圧下での蒸発によってメタノールを除去し、濃縮した水溶液を20?25℃にさらに24時間放置した。
次に、HPLCはエステル加水分解が完成したことを示した。透明な水溶液を酢酸によってpH4.0に酸性化して、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンを淡黄色固体として沈殿させた。回収し、水で洗浄し、真空下で乾燥させた生成物は122mg(79%収率)の重量であった。元素分析と、プロトンNMRと、質量分光測定とによるアッセイは、割り当てられた構造(assigned structure)に完全に一致した。HPLC分析は98%の純度を示し、生成物が10-デアザアミノプテリンを含まないことを立証した。」(7頁12行?10頁12行)

(1d)「 実施例2
実施例1によって製造された、高度に精製された10-プロパルギル-10dAM製剤をヌードマウスにおけるヒト腫瘍系統の異種移植片を用いて抗腫瘍性に関して試験した。ヒトMX-1乳癌の異種移植片を標準方法によってヌードマウスに移植した。
これらの腫瘍細胞に対する10-プロパルギル-10dAMの抗腫瘍性を試験するために、3mg/kgの化合物を、腫瘍移植後3日目から始めて全体で5日間にわたって、20匹のマウスの各々に1日1回投与した。比較のために、非処置対照(20匹マウス)、メトトレキセート処置マウス(10匹マウス;同じ処置スケジュールで投与量2mg/kg)及びエダトレキセート処置マウス(20匹マウス;同じ処置スケジュールで投与量1.5mg/kg)をも評価した。これらの投与量は全て“最大耐量”であるので、等毒性(equitoxicity)に基づく比較のために適当な根拠である。平均腫瘍直径を処置の開始後14日目、即ち、処置の停止後の7日目に測定した。この時点において測定可能な腫瘍を有さないマウスは完全な退化を生じたと考えられた。さらに、14日目に腫瘍を有さなかったマウスを治療停止後3週間目に腫瘍の再現に関して検査した。治療後3週間の終了時に腫瘍を有さないマウスは治癒したと見なされた。結果は表1に要約する。

表から知ることができるように、10-プロパルギル-10dAMはMTX又はEDXのいずれよりも実質的に大きく有効であり、実質的な治癒数をもたらした。
実施例3
ヌードマウスにヒトLX-1肺癌の異種移植片を用いて、実施例2を繰り返した。結果は表2に要約する。

この場合にも、10-プロパルギル-10dAMはMTX又はEDXよりも実質的に大きく有効であることが判明し、実質的な治癒数をもたらした。
実施例4
ヌードマウスにヒトA-549肺癌の異種移植片を用いて、実施例2を繰り返した。結果は表3に要約する。

この場合にも、10-プロパルギル-10dAMはMTX又はEDXよりも実質的に大きく有効であることが判明し、実質的な治癒数をもたらした。
実施例5
4種類のヒト腫瘍細胞系統に対して細胞傷害性研究を行って、各化合物への3時間パルス暴露を用いて、EDXの細胞傷害性を10-プロパルギル-10dAMの細胞傷害性と比較した。各化合物に関して各細胞系統の3回反復実験を検査した。結果は表4に要約する。
各場合に、10-プロパルギル-10dAMはヒト腫瘍細胞系統に対してEDXよりも実質的に大きく細胞傷害性であった。

・・・
実施例7
10-プロパルギル-10dAMの薬物動態をモニターするために、3mg/kgの単回量を2匹のイヌIとJの各々に静脈内投与した。血液サンプルを-5分間、5分間、10分間、20分間、30分間、45分間、60分間、90分間、3時間、4時間、6時間、24時間、30時間及び48時間目に回収した。血漿中の10-プロパルギル-10dAM濃度を蛍光測定による(fluorometric)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)方法によって、Econosphere C18カラム、15%アセトニトリル/KH_(2)PO_(4)50mm移動相、pH7.0を室温において1ml/分の流速度によって用いて、測定した。注入量は1μlであった。10-プロパルギル-10dAMの保持時間は18.5分間であった。
イヌIの血漿半減期(t_(1/2))は動力学のα相、β相及びγ相に対して26.7分問、0.49時間及び37.4時間であった。イヌJでは、観察されたt1/2値は21.2分間、1.26時間及び16.3時間であった。種々な時点における平均血漿濃度を図7に示す。
10-プロパルギル-10dAMの投与後30分間、1時間、2時間及び4時間目に各イヌから尿標本を回収して、HPLCによって分析した。10-プロパルギル-10dAMは主として無変化で排出された(保持時間18.5分間)。1時間目と4時間目に、それぞれ、総尿中10-プロパルギル-10dAMの<0.31%及び<3.5%を占める、6.3分間の保持時間を有する少量の代謝産物が存在した。」(10頁13行?18頁10行)

(1e)「

」(18頁【図1】)

(1f)「

」(21頁【図4】)

イ 刊行物2(原査定の引用文献2)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物2には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(2a)
「1 適応と使用法
フォロチン(FOLOTYN)は、再発性又は難治性抹消T細胞リンパ腫(PTCL)を有する患者の治療に適応される。・・・
2 用法・用量
フォロチンは、抗悪性腫瘍剤の使用で経験資格を有する医師の監督下で投与されるべきである。・・・
2.3 準備と管理上の注意
フォロチンは、細胞傷害性抗癌剤である。」(2頁2?22行)

(2b)
「11 説明
フォロチン(プララトレキセート注射液)は、抗悪性腫瘍葉酸アナログであるプララトレキセートを含んでいる。プララトレキセートの化合物名は(2S)-2-[[4-[(1RS)-1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸である。構造式は次のとおりである:

プララトレキセートは、C10位(*で示す)におけるS体及びR体のジアステレオマーの1:1のラセミ混合物である。分子式はC_(23)H_(23)N_(7)O_(5)であり、分子量は477.48g/モルである。・・・
12 臨床薬理
12.1 作用機序
プララトレキセートは、競合ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害する葉酸アナログ代謝阻害剤である。」(8頁25行?9頁9行)

ウ 刊行物3(原査定の引用文献3)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物3には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(3a)
「抗腫瘍薬の10-メチル-及び10-エチル-10-デアザアミノプテリン(15a,b)の合成及び評価が、C-10位における分割を欠いたジアステレオマー混合物として先に報告された。個々のジアステレオマーについての生物学的特性の評価をするために、4-アミノ-4-デオキシ-10-メチル-及び10-エチル-10-デアザプテリオン酸(13a,b)のC-10異性体を全合成によって調製した。L-グルタミン酸とのカップリングにより表題化合物の適切なジアステレオマーを得た。L1210細胞及び葉酸依存性細菌における生化学、輸送、及び細胞増殖阻害特性を測定した。ジアステレオマー同士の間における違いは概して2倍よりも少なかったが、L1210細胞からのDHFRの阻害及びL1210細胞に対する細胞傷害性におけるd,L-15b対l,L-15bについて3倍が記録された。マウスのL1210に対するラセミ化合物と15bの異性体の生体内での比較では、化合物間で有意の有効性の差(ILS)を示さなかった。しかしながら、d,L-15bはl,L-15bの約2.5倍の急性毒性を示した。」(1056頁、要約)

(3b)
「スキームII

」(1057頁、スキームII)

(3c)
「表I.L1210細胞aで得られた生化学及び成長阻害データ

」(1058頁、表I)

エ 刊行物4(原査定の引用文献8)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物4には、以下の記載がある。
(4a)
上記刊行物4には、次の記載がある。
「対掌体の一方が有効な生物活性を示す場合,もう一方の異性体が単にまったく活性を示さないだけでなく,有効な対掌体に対して競合阻害(competitive inhibition)をもたらす結果,ラセミ体の生物活性が有効な対掌体に比べ1/2以下に激減してしまう場合があることは,医薬品の開発研究でしばしば体験するところである。・・・
したがって,光学的に純粋な対掌体をいかにして入手(合成又は分割)するかは,医薬品のみならず生物活性物質を対象とする研究において,不斉中心をもつ化合物を扱う場合,避けて通ることのできない重要課題である。」(2頁第9?15行)

(4b)
「古くからセルロース,澱粉などキラルな高分子を固定相とするクロマトグラフィーによる光学分割は試みとしては知られていた。・・・
この領域での飛躍的進歩は,HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)の進歩に伴ってもたらされた。分子の立体構造に対して大きな識別力を持つ効率のよいカラムが開発され,分割能と同時に量的処理能力が向上したからである。」(9頁第2?8行)

(4c)
「生理(薬理)活性をもつ物質が生体に摂取され吸収されると,その物質に特異的な親和性をもつ受容体(receptor)との結合により生理活性が発現することになるので,基質が不斉中心をもっていれば,その(S)体と(R)体とでは生理活性に相違が生ずるのはこれまた自然であろう.医薬品の多くは生体にとって異物(xenobiotics)であり,副作用が認められない場合でも,疾病という異常状態から正常状態への復帰に必要な最少限度の用量を(必要期間だけ)投与されるべきである.したがって,医薬品の構造中に不斉中心が存在している薬物は,たとえ一方の光学異性体が生体に対して何らの生理活性を示さないラセミ体であっても,光学分割して目的に適合した対掌体のみを提供すべきであると主張されるようになった.換言すれば,このようなラセミ体は「50%の不純物を含有する医薬品」とみなすべきであるとの提唱であり,これが共感を呼ぶに至ったのはごく自然のことである^(1))。このような考え方が出てきた背景には,1章のはじめに述べたサリドマイドに関する知見が大きく横たわっていたためと思われる^(2))。」(123頁8?18行)

(4d)
「液体クロマトグラフィー(LC)による光学分割,なかでもHPLCによる光学分割については,分割能の高い種々のタイプのキラル固定相の開発が進んでおり,最も広範囲の光学異性体の分離に対応できるようになっている.GCによる光学分割と比較すると,熱的に不安定な物質や高沸点の物質の分割においてとくに有利であり,分取も容易である。」(124頁11?14行)

(4e)
「医薬品はヒトや動物の病気の治療に用いられる化学物質であるが,その作用は薬物が生体内の特定の受容体(レセプター)に結合して活性を発現するものと考えられている。したがって,薬理活性の発現には医薬品と受容体の双方の立体構造が重要な役割を演じ,不斉をもつ薬物ではその鏡像体によって受容体との結合のしやすさに差があり,これにより薬理活性の強さに差を生じることになる。場合によっては,まったく異なった薬理作用を示すこともある.さらに薬物が受容体に到達するまでに各種の酵素によって分解されて活性を失ったり,逆により活性の強い形に変換される場合もあり,その分解あるいは変換の速さが鏡像体によって大きく異なることがしばしば認められていて,これも薬理活性の差となって現れる.また,分解物が毒性をもつ場合には,鏡像体によって異なった副作用を示すこととなる。」(212頁12?20行)

(4f)
「光学異性体間の薬効の差が小さいもの,活性体で投与しても体内でラセミ化されるもの,逆にラセミ体で投与しても体内で活性型の鏡像体に変換されるものなど,薬物代謝にはさまざまな経路があり,不斉をもつ医薬品はすべて光学活性体として使用すべきだとはいえない。現状では上述のような薬物代謝を充分に検討したうえで,ラセミ体で使用するか,光学活性体とするかが決定されている。最近では製造承認を得るために,ラセミ体の薬物については,それぞれの光学異性体の吸収,分布,代謝,排泄など薬物動態を検討した資料の提出が求められている^(2))。」(213頁5?10行)

オ 刊行物5(原査定の引用文献9)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物5には、以下の記載がある。
(5a)
「生体(酵素や受容体)はこれらの光学異性体を識別する能力を持っており,異性体にはまったく生理活性を持たないもの,弱い同類の生理活性を持つもの,拮抗的な生理活性を持つもの(アンタゴニスト)や別な生理活性を持つものがある。
それゆえ,医薬品として用いるときにはラセミ体としてではなく,目的にあったエナンチオマーのみを用いることが好ましいと考えられるが,現状はほとんどがラセミ体として用いられている。たとえば,Mason(1984)によると米国では合成キラル医薬品の82%はラセミ体として投与されている。この原因として,不斉合成や光学異性体の分離は技術的にかなり難しいことがあり,特に大量生産においては分離・精製などの生産コストの問題があげられる。
しかし,最近,医薬品としてラセミ体の開発・使用に関して問題が投げかけられてきた。その背景として,最近の薬物分析技術の進歩,とくに高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発などにより,光学異性体の分離・定量の技術が進歩し,その結果,合成キラル医薬品の生体内動態,特に代謝に関して異性体間に著しい差があることが明らかになったことがあげられよう^(1,2))。」(23頁左欄7行?右欄3行)

(5b)
「1.光学異性体間で薬理作用を異にするもの
Thalidomideの催奇形作用で見られたような,異性体間で薬効・毒性を異にするものの代表的なものにつき述べる。たとえば,DOPAではl-体はlevodopaとして抗パ-キンソン病薬として用いられているが,d-体は薬理作用がなく,顆粒球減少作用を起こす。Barbituratesは(-)-体は鎮静作用を示すが,(+)-体はむしろ興奮作用を示す。Ketamineの(+)-体は強い麻酔作用を持つが,(-)-体は弱い麻酔作用と不安・興奮作用,心拍増加作用を持つ。Pentazocinは(-)-体はより強い鎮痛作用を持つが,(+)-体はむしろ強い不安誘起作用を持つ。Verapmilは(-)-体も(+)-体とほぼ同じ程度の冠血管拡張作用を持つが,その心筋収縮力抑制作用および心筋伝導抑制作用は(+)-体の方が少ないので,(+)-体の方が安全性の高い,より好ましい抗狭心薬と考えられている。
また,興味深い例としては,propoxypheneのd-体は強い鎮痛作用を持ち,「Darvon」という商品名で鎮痛薬として市販されているが,一方,l-体には鎮痛作用がなく,鎮咳作用のみがあり,「Darvon」の鏡像文字の「Novrad」という商品名で市販されている。
Labetalol(α,β-ブロッカー)には二つの不斉炭素があり,臨床的には四つの光学異性体のラセミ体として用いられている。そのβ-ブロッカーの作用はほとんどは(R,R)-体にあり,一方,α-ブロッカーの作用のほとんどは(S,R)-体にある。それゆえ,(R,R)-体は dilevalolとして抗高血圧薬として開発中である。また,dobutamineは,(-)-体は主としてα1-アゴニスト作用を持ち,(+)-体は主としてβ1-およびβ2-アゴニスト作用を持っている。
Arlens(1984)はこれらラセミ体間で異なった薬理作用を持つ薬を“psendohybrid drug”と呼んで,エピネフリンのように一つの分子内にαおよびβ-作用を持っている“hybrid drug”から区別している^(3))。」(23頁右欄19行?24頁左欄27行)

カ 刊行物6(原査定の引用文献10)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物6には、以下の記載がある。
(6a)
「合成医薬品開発の将来と光学活性体・・・
人類の英知を結集した光学活性合成医薬品開発の現状,将来に視点を据え,薬学の貢献を探った座談会記録である.」(311頁、表題、要約)

(6b)
「野口 本音のところはどちらかよく分かりませんけれども,HPLCなどによる分離の手段が急速に発達をして比較的容易に分離ができるようになってきたことが関心を持たれるーつの原因であると思います。新規化合物をつくる側から言うと,何とか分けようとするのですけれども,不斉合成するのは大変です・しかし,たまたまとれたラセメートを簡単にHPLCで分離できれば,そのフラクションを用いてとりあえず薬理活性を見ることができます。特に,レセプターあたりを相手にするようなスクリーニング系ですと当然どちらか片方の作用が強くなり,ラセメートよりも活性が強くなると,何かよいものを作ったような気持になります。」(311頁右欄3?14行)

(6c)
「岩澤 薬効の種類によって随分違うと思うのですが,理論的にいえば,普通,活性体はラセミ体の2倍の強さです。」(313頁左欄17?19行)

(6d)
「不斉炭素を有する生物活性化合物は,作用する生体が不斉であることを反映して,2種の対掌体のうちの一方のみが所望の生物活性を有している場合が大変多い。」(317頁左欄1?3行)

キ 刊行物7(原査定の引用文献11)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物7には、以下の記載がある。
(7a)
「1.2 液体クロマトグラフィー法による光学異性体分離^(4))
液体クロマトグラフィ一法による光学異性体分離(以下,分割と省略する)は,これに答える新技術として注目されていた。本法には,光学活性添加物によって移動相に光学活性な環境を形成するキラル移動相法と,光学活性な固定相を用いるキラル固定相法とがあるが,本論文では,適用範囲が広い後者のみについて述べる。この場合,光学活性な固定相と,試料の光学異性体とのジアステレオメリックな相互作用自由エネルギーの差が,分離の要因となる。」(133頁右欄10?18行)

(7b)
「たとえば,3,5-ジメチルフェニルカルバマートは,セルロース,アミロース^(20)) いずれも広い適用範囲を持つが,前者が1-アミノ-3-アリールオキシ-2-プロパノール骨格を持つβ-遮断剤をよく分割する一方,ジアリールメタン部分に不斉中心を持つ医薬(抗ヒスタミン剤など)には成功率が低いのに対し,後者は逆の特性を持つなど,相補的な面を持つ。」(137頁左欄1?6行)

ク 刊行物8(原査定の引用文献12)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物8には、以下の記載がある。
(8a)
「これらの新規光学活性化合物の開発に欠かせない技術として,液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学異性体の分離・分析技術が挙げられる。キラル固定相を分離剤としたキラルカラムによる分析技術は新規光学活性医薬品の開発動向と相まって,ここ10数年で急速に進歩し,各社から次々と新規のキラル固定相を用いたキラルカラムが上市されており,現在では100種類以上のカラムが販売されるに至っている.」(3頁左欄13?20行)

(8b)
「光学活性化合物の開発が盛んな医薬品分野においては,取り扱う化合物が熱的に不安定な場合が多く,低温での分析が可能であること,また,機器が比較的安価で取り扱いも容易という点から,現状ではHPLC法が幅広く採用されている.HPLC法による光学異性体の分析には,大別して,○1(審決注:原文は丸文字内に1である。以下同様である。)光学異性体をジアステレオマー化した後,そのジアステレオマーをシリカゲルやODSなどの非キラル系充填剤を用いたカラムにより分析する間接法,○2光学異性体をそのまま,誘導体化することなく,直接,キラル固定相を充填剤として用いたキラルカラムにより分析する直接法に分けられる.今日では,誘導体化が不要で分析が簡便という利点をもつこと,入手可能なキラルカラムの種類が大幅に増加し,選択範囲が広がったことなどから,直接法が一般的に用いられている.また,現在市販されているキラルカラムによって,光学異性体の90%以上は分割可能といわれている.」(3頁右欄8?24行)

(8c)
「3.3 HPLC法の特徴とその利用
新規合成医薬品の開発において,評価用光学活性サンプルの確保が極めて重要であることは前述のとおりであるが,供給の迅速性とともに,高い光学純度が要求される.医薬品開発における光学純度の要求レベルは,98%e.e.(enantiomer excess)以上が一般的である。光学純度の単位98%e.e.とは,片方の活性体の化学純度が99%で他方が1%の場合をいい,一方の活性体の含有率超過割合を示している。・・・
光学活性体の生産手段は上述のようにいろいろとあるが,それぞれ長所,欠点を持っており,特に,新薬の開発段階において,高純度のものを迅速に供給するという観点から見ると,選択肢は極めて限定される.また,開発初期においてはいずれの活性体が有効であるかが不明なため,光学異性体間の薬理活性などの比較検討の目的から,両活性体ともに求められる.不斉合成法や酵素を用いる方法は基本プロセスの開発に時間がかかる上,基本的には片方の活性体を得るための手段であって,この目的には不向きであり,優先晶出法やジアステレオマー法が古くからの方法として,試みられている.しかし,目標光学純度に到達するために収率を度外視して再結晶操作を何度も繰り返す場合もあり,非常に手間がかかる。
これらの方法と比較すると,HPLC法は,分析カラムで目的の光学異性体が分割されることが確認されれば,そのままカラムを大きくすることによって,必要な光学活性体を分取することが容易であろうことは誰しも想像されることである.事実,分析用キラルカラムと同じく,g単位での評価用少量サンプルを確保するための分取用キラルカラム(?5cmφ)や分取用途を目的としたキラル充填剤が多数販売されており,この目的に広く使用されている。表2^(2)) に,分取用としてよく用いられているキラル充填剤を示した。
ここで、表1に示した光学活性体生産プロセスとしてのHPLC法の特徴,・・・光学純度99%e.e.以上のサンプル調製が容易・・・低温での運転が可能であり,医薬品など分解しやすい化合物の分取に適している等が挙げられる。」(4頁右欄下から3行?5頁左欄41行)

(8d)


」(5頁右欄、表2)

ケ 刊行物9(原査定の引用文献13)
本願の優先日前頒布された刊行物である刊行物9には、以下の記載がある。
(9a)
「一般に行われる光学分割の手法は,○1結晶化を利用する方法,○2化学反応を利用する方法,○3吸着を利用する方法に大別できる.
・・・○1,○2の欠点としては,分割できる化合物が限られるていること,時間と労力を要することなどがある.
○3は1980年代にはいり急速に発展した手法であり,主としてクロマトグラフィーによる.・・・かなり広範囲の化合物を短時間のうちに光学分割できる.なかでも高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学分割は,光学純度決定と分取のための主要な手法になっており,化学,薬学などの学術研究上だけでなく,光学活性な医薬品などの開発や光学活性物質の品質管理などに欠くことのできない分析法になっている.また,キログラムスケールの分取も行うことができる.」(II-567頁右欄28?48行)

(9b)
「(i)多糖誘導体 セルロースやアミロースなどの多糖はもっとも入手しやすい高分子であり,かつ光学活性である.これらの多糖自体もある程度の光学分割能を示すが,実用性の高い充填(審決注:原文は土偏に眞である。以下同じである。)剤は得られていない.しかし,多糖は反応性に富むOH基を有しており,誘導化すると優れた光学分割能を示し,シリカゲルに吸着させることにより実用性の高いキラル充填剤が調製できる.
セルロースの誘導体としては,エステル(28)?(30)とフェニルカルバメート誘導体(31)?(34)がよい.高い光学分割能の発現には,いずれも三置換体であることが必要である.
・・・なかでも3,5-ジメチルフェニル誘導体(34)は,芳香族炭化水素やハロゲン化物からアミンやカルボン酸まで,きわめて広範囲の化合物をかなりの確率(約60%)で光学分割することができる.多くのセルローストリス(カルバミン酸フェニル)誘導体はリオトロピック液晶を形成し,シリカゲルに吸着させたさいに,かなり規則的な構造をとると思われる.
1,4-α-グルカンであるアミロースのカルバミン酸フェニル誘導体も,シリカゲルに吸着させると実用性のあるキラル充填剤となる.この場合もカルバミン酸3,5-ジメチルフェニル(35)がもっとも高い光学分割能を示すことが多い.(35)の不斉識別能は(34)のそれとは異なり,両者はかなり相補的である。したがって,(34)と(35)を用いると80%前後の碓率でラセミ体を分割できる可能性がある.」(II-569頁右欄13行?II-570頁左欄25行)

(9c)


」(II-571頁、表12.66)

2 刊行物1記載の発明
摘記(1a)には、請求項1に10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンが記載され、請求項2に本質的に10-プロパギル-10-デアザアミノプテリンからなる組成物が記載され、請求項3には、10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない10-プロパギル-10-デアザアミノプテリンと、薬剤学的に受容されるキャリアーとを含む薬剤組成物が記載され、請求項4には、腫瘍を有すると診断されたヒト患者に10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの治療有効量を投与することを含む、腫瘍の治療方法が記載され、請求項8には、請求項4において、腫瘍が肺腫瘍であることが記載されている。
そして、摘記(1b)には、実施例1において、請求項1に対応する10-デアザアミノプテリンを実質的に含まない、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの具体的製造方法が記載され、10-プロパギル-10-デアザアミノプテリンを淡黄色固体として得て、98%の純度を示したことが記載され、摘記(1d)には、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの肺腫瘍に対する具体的治療効果も示されている。
したがって、刊行物1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「刊行物1発明」という。)。

「98%の純度の10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンと薬剤学的に受容されるキャリアーとを含む肺腫瘍治療のための薬剤組成物」

3 対比・判断
(1)対比
刊行物1発明の「98%の純度の10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリン」は、本願発明1の「(2S)-2-[[4-[(1R)-1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸」との対比において、摘記(1e)の10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの構造式から、「2-[[4-[1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸」の化合物である限りにおいて一致している。
また、刊行物1発明の「薬剤学的に受容されるキャリアー」は、本願発明1の「薬学的に許容されうるキャリアー」に相当し、刊行物1発明の「肺腫瘍治療のための薬剤組成物」とは、本願発明1の「肺癌を治療するための薬学的組成物」に相当する。

したがって、両者は、「2-[[4-[1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸および薬学的に許容されうるキャリアーを含む肺癌を治療するための薬学的組成物」に関するものである点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本願発明1は、ジアステレオマーの量が、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの総量に基づき97重量%以上である、「実質的に純粋な(2S)-2-[[4-[(1R)-1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸」であるのに対して、刊行物1発明は、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの純度が98%以上であるものの、化合物2-[[4-[1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸の10位の不斉炭素および19位の不斉炭素の光学的配置に関する特定の明記がなく、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンのジアステレオマーの総量に対する(2S)-2-[[4-[(1R)-1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸の量の割合の規定のない点

(2)判断
ア 刊行物1発明の光学的配置に関して
10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの化合物に関し、刊行物1に示されたその構造(図1および図4)から、10位と19位に不斉炭素が存在し、それぞれの不斉炭素が光学異性体を有するといえる。ここで、刊行物1発明の製造において、摘記(1c)に記載されるとおり、10-プロパルギル-4-デオキシ-4-アミノ-10-デアザプテロイン酸(化合物5)と、ジメチル L-グルタメート・ヒドロクロリドとをカップリングさせて、キラル中心の光学的配置を維持したままアミド結合を形成させて、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンジメチルエステル(化合物6)を合成している。10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの10位の不斉炭素をもたらす化合物5はその記載からラセミ体であることは明らかであるところ、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの19位に関しては、例えば刊行物3摘記(3a)における、「抗腫瘍薬の10-メチル-及び10-エチル-10-デアザアミノプテリン(15a,b)の合成及び評価が、C-10位における分割を欠いたジアステレオマー混合物として先に報告された。個々のジアステレオマーについての生物学的特性の評価をするために、4-アミノ-4-デオキシ-10-メチル-及び10-エチル-10-デアザプテリオン酸(13a,b)のC-10異性体を全合成によって調製した。L-グルタミン酸とのカップリングにより表題化合物の適切なジアステレオマーを得た。」との記載のように、上記合成では、光学的配置は換わらないことは明らかであり、原料のL-グルタメート・ヒドロクロリドの光学的配置からみて、その構造から19位がS体に決まったものが合成されているといえる。

したがって、肺腫瘍の薬剤である刊行物1発明の10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの化合物は、その旨の記載はないが、10位がR体、19位がS体となったもの、10位がS体、19位がS体となった両ジアステレオマーの混合物であるといえ、このことは当業者は当然に認識しうることである。

なお、本願明細書の記載に従い、10位がR体、19位がS体のジアステレオマーを「PDX-10b」、10位がS体、19位がS体のジアステレオマーを「PDX-10a」ともいう。

そして、刊行物1の製造方法の記載が、「PDX-10b」と「PDX-10a」のジアステレオマーの混合物を合成している本願発明の実施例1の記載とも完全に一致しているのであるから、刊行物1発明においても、本願発明の実施例2のキラルカラムによる分割前のラセミ体化合物6(10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンジメチルエステル)にあたるものが形成されているといえる。

また、刊行物1発明に該当する化合物は、刊行物2でも10位がS体及びR体のジアステレオマーの1:1のラセミ混合物であるプララトレキセートが細胞傷害性抗癌剤として記載されている(摘記(2b))。

イ 光学異性体を得ることの動機付けについて
刊行物3には、刊行物1発明の10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリン(ラセミ体PDX)に類似する化学構造を有する10-メチル-10-デアザアミノプテリン(15a)及び10-エチル-10-デアザアミノプテリン(15b)の個々のジアステレオマー(d,L-15bやl,L-15bなど)並びにラセミ体について抗腫瘍活性の比較検討がなされたこと(摘記(3a)?摘記(3c))が記載されている。
また、刊行物4には、光学異性体には、その一方のみに生物活性があり、他方には全くない場合や活性に差がある場合があること(摘記4a及び4e)、たとえ一方の光学異性体が何ら生理活性を示さないラセミ体でも光学分割して目的の光学異性体のみを提供すべきとなってきたこと(摘記4c)、医薬品の製造承認にあたっては、ラセミ体の薬物については、それぞれの光学異性体の薬物動態を検討した資料の提出が求められていること(摘記4f)が記載され、刊行物5にも、光学異性体には全く生理活性を持たない場合や弱い生理活性を有する場合、アンタゴニストや別な生理活性を持つ場合があること、及び、最近の薬物分析技術の進歩、特に高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発などにより、光学異性体の分離・定量の技術が進歩し、その結果、合成キラル医薬品の生体内動態、特に代謝に関して異性体間に著しい差があることが明らかになったこと(摘記5a)、二つの不斉炭素があるジアステレオマー間でも、α,β-ブロッカーに関して、β-ブロッカーの作用はほとんどは(R,R)-体にあり,一方,α-ブロッカーの作用のほとんどは(S,R)-体にある例が存在し、特性が異なることが記載されている(摘記5b)。
してみると、光学異性体がある医薬化合物では、二つの不斉炭素を含むジアステレオマーを含めてラセミ体だけではなくそれぞれの光学異性体を分割して取得し、その薬理作用を確認して薬理作用や代謝作用のよい光学異性体を使用することが本件優先日時点での当業者の技術常識となっていたものと認められる。
したがって、刊行物1発明の10位の光学異性体におけるS体及びR体のジアステレオマー混合物において、当業者には、一方の光学異性体であるR体又はS体を多く含む組成物を得て両光学異性体の活性に関して検討する動機付けがあるということができる。

ウ PDX-10b(R体)を得る手段の容易想到性について
刊行物1には、摘記1cに「実施例1 図4は本発明による10-プロパルギル-10dAMの製造に有用な合成スキームを示す。・・・ホモテレフタル酸ジメチルエステル(5.0g、24mmol、図4中の化合物1)の溶液によって処理し、・・・シクロヘキサン-EtOAc(8:1)によって溶離させるシリカゲル(600mlの230?400メッシュ)上でのクロマトグラフィーは生成物のα-プロパルギルホモテレフタル酸ジメチルエステル(化合物2)を白色固体(4.66)として生成し、・・・真空下で乾燥させて1.49gの粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムに供給するために、CHCl_(3)-MeOH(10:1)中に溶解した。同溶媒系による溶離は10-プロパルギル-10-カルボメトキシ-4-デオキシ-4-アミノ-10-デアザプテロイン酸メチルエステル(化合物3)を与え、これは40%収率(485mg)でTLCに関して均質であった。
2-メトキシエタノール(5ml)中の化合物3(400mg、0.95mmol)の撹拌懸濁液を・・・沈殿を形成させた。沈殿を回収して、水によって洗浄し、真空下で乾燥させて、340mgの化合物4(91%収率)を回収した。HPLC分析は90%の生成物純度を示した。
化合物4(330mg)を・・・透明な溶液を得た。1N HClによってpH5.0に酸性化すると、10-プロパルギル-4-デオキシ-4-アミノ-10-デアザプテロイン酸(化合物5)が黄色固体として70%収率で得られた。HPLCはこの段階における生成物純度を90%として示した。
化合物5(225mg、0.65mmol)は、トリエチルアミン(148mg、1.46mmol)を含有するDMF(10ml)中のBOP試薬(ベンゾトリアゾル-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(287mg、0.65mmol、Aldrich Chemical Co.)を用いて、ジメチル L-グルタメート・ヒドロクロリド(137mg、0.65mmol)とカップリングさせた。この混合物を20?25℃において3時間撹拌して、次に蒸発乾固させた。残渣に水を加えて撹拌して、水に不溶な粗生成物を回収して、真空下で乾燥させた。この粗生成物(350mg)を、トリエチルアミン(0.25容量%)を含有するCHCl_(3)-MeOH(10:1)によって溶離させるシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して、165mgの10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンジメチルエステル(化合物6、50%収率)を回収した、これはTLC(CHCl_(3):MeOH 5:1)に関して均質であった。
化合物6(165mg、0.326mmol)を10mlの撹拌MeOH中に懸濁させて、これに0.72ml(0.72meq)の1N NaOHを加えた。室温における撹拌を、数時間後に溶液が生じるまで、続けた。この溶液を20?25℃に8時間維持し、次に10mlの水で希釈した。減圧下での蒸発によってメタノールを除去し、濃縮した水溶液を20?25℃にさらに24時間放置した。
次に、HPLCはエステル加水分解が完成したことを示した。透明な水溶液を酢酸によってpH4.0に酸性化して、10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンを淡黄色固体として沈殿させた。回収し、水で洗浄し、真空下で乾燥させた生成物は122mg(79%収率)の重量であった。元素分析と、プロトンNMRと、質量分光測定とによるアッセイは、割り当てられた構造(assigned structure)に完全に一致した。HPLC分析は98%の純度を示し、生成物が10-デアザアミノプテリンを含まないことを立証した。」と記載されるとおり、上述のように、化学構造式から明らかな光学活性中心である炭素10位および炭素19位の内、L-グルタメート・ヒドロクロリドとのカップリングにより、19位に関してはS体であり、10位の不斉炭素に関してラセミ化したラセミ混合物(ラセミ体PDX)が形成されているといえ、その製造方法は、詳細に記載され、本願発明1であるPDX-bをPDX-aから分割する前のジアステレオマーの混合物を製造する方法と同一の10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの製造方法となっている。
そして、刊行物4には、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)において、分子の立体構造に対して大きな識別力をもつ効率のよいカラムが開発され、分離能とともに量的処理能力が向上し、広範囲の光学異性体の分離に対応できるようになったことが記載され(摘記(4b)及び摘記(4d))、刊行物5にも、高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発により光学異性体の分離・定量の技術が進歩したことが記載され(摘記(5a))、刊行物6にも「合成医薬品開発の将来と光学活性体」を表題とする座談会記録(摘記(6a))における有識者の発言として、「HPLCなどによる分離の手段が急速に発達をして比較的容易に分離ができるようになってきたこと」、「不斉合成するのは大変」だが、「ラセメートを簡単にHPLCで分離できれば,そのフラクションを用いてとりあえず薬理活性を見ることができ」ることが記載されている(摘記6b)。

また、刊行物7には、液体クロマトグラフィー法による光学異性体分離が注目され、その中でも光学活性な固定相を用いるキラル固定相法の適用範囲が広いことが記載され(摘記(7a))、刊行物8には、光学活性化合物の開発が盛んな医薬品分野においては、取り扱う化合物が熱的に不安定な場合が多く、低温での分析が可能であること、また、機器が比較的安価で取り扱いも容易という点から、現状ではHPLC法が幅広く採用され、現在市販されているキラルカラムによって、光学異性体の90%以上は分割可能といわれていていることが記載され(摘記(8b))、HPLC法は、ジアステレオマー法に比較して、分析カラムで目的の鏡像異性体が分割されることが確認されれば、そのままカラムを大きくすることによって、必要な光学異性体を分取することが容易であること、光学純度99%e.e.以上のサンプル調製が容易であること(摘記(8c))が記載され、分取用としてよく用いられるキラル充填剤として、「Chiralpak AD」、「Chiralcel OD」等が挙げられている(摘記(8c)及び(8d))。
さらに、刊行物9には、光学分割の方法で、結晶化を利用する方法、化学反応を利用する方法は、分割できる化合物が限られ、時間と労力を要するのに対して、液体クロマトグラフィーによる分離はかなり広範囲の化合物を短時間のうちに光学分割でき、光学活性な医薬品などの開発に欠くことのできない分析法であって、キログラムスケールの分取も行うことができることが記載されている(摘記(9a))。
以上の記載からみて、本願優先日時点において、医薬化合物の開発の際の光学異性体の分離方法として、液体クロマトグラフィー法は低温での分析が可能で、広範囲の化合物を光学分割できるので幅広く用いられるようになってきたこと、医薬品の光学分割法としてはジアステレオマー法などの結晶化を利用する方法よりも液体クロマトグラフィー法は短時間かつ広範囲な化合物を分割できる簡便な光学分割手段として当業者に認識されていたということができる。さらにいえば、分析用光学分割カラムでも、医薬品の薬理活性をみるには十分な分離ができ、キログラム単位の分取も可能であり、そのままスケールアップなど設計上の変更をすることで分取にも使用できることも当業者の技術常識として認識されていたということができる。
そうすると、本願優先日時点において、当業者であれば、広範囲な化合物を分離可能であって、医薬品の薬理作用をみるには十分な分離ができ、比較的容易な分離手段と認識されていた液体クロマトグラフィー法によって刊行物1発明のうち10位の不斉炭素のラセミ体の光学分割をまず試みることが自然であったということができる。
次に、刊行物1発明の光学分割に、キラル固定相法を適用するに際しては、それに適する光学分割カラムとその操作条件の選択する必要があることは当然のことであり、刊行物9には、光学分割用のキラル固定相として、セルロースやアミロースの3,5-ジメチルフェニル誘導体は分割可能な化合物の種類が多く、アミロースのカルバミン酸3,5-ジメチルフェニル誘導体(商品名「CHIRALPAK AD」)と、セルロースのカルバミン酸3,5-ジメチルフェニル誘導体(商品名「CHIRALCEL OD」)を使用することで80%前後の確率でラセミ体を分割できる可能性があることが記載され、容易に光学純度99%以上を達成することができることが示されている(摘記(9b)及び(9c))。
そうすると、本願優先日時点において、多くの化合物を高い確率で分離可能なことが知られている光学分割カラムから適宜の光学分割カラムを選択し、刊行物1発明のラセミ体PDXを光学分割することを試みて、両光学異性体に分割し、薬理作用活性の高い方の異性体を選択し、10位の炭素がR体であるつまり、(2S)-2-[[4-[(1R)-1-[(2,4-ジアミノプテリジン-6-イル)メチル]ブト-3-イニル]ベンゾイル]アミノ]ペンタンジオン酸が10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの総量に基づき97重量%以上である組成物を得ることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

エ PDX-10b(R体)の効果について
(ア)本願明細書の【0082】には「実施例3:腫瘍細胞株中のラセミ体及びジアステレオマーのIC50」の結果が、次の「表1」として記載されている。
表1の肺癌に関する結果によるとラセミ体であるPDXのIC_(50)が100nM、S体であるPDX-10aのIC_(50)が289nM、R体であるPDX-10bのIC_(50)が45.8nMとなっている。
これは、ラセミ体に対して効果の優れたR体であるPDX-10bのIC_(50)が約2倍の効果を示したものにすぎず、刊行物4には、薬理活性の発現には医薬品と受容体の双方の立体構造が重要な役割を演じ、不斉をもつ薬物ではその鏡像体によって薬理活性の強さに差が生じ得ることがあり、最近では製造承認を得るために、ラセミ体の薬物の光学異性体の薬物動態を検討した資料の提出が求められていることが記載されているところ(摘記(4e)及び摘記(4f))、光沢異性体の薬理活性に差があり、その薬物動態を検討する必要があることは当業者に普通に認識されており、「不斉炭素を有する生物活性化合物は,作用する生体が不斉であることを反映して,2種の対掌体のうちの一方のみが所望の生物活性を有している場合が大変多い。」(摘記(6d))との認識からすれば、NCI-H4560(肺)におけるR体の「IC_(50)=最大細胞傷害効果の半分を生じる濃度」が、ラセミ体の「100」の約半分の「45.8」程度であったことが、ラセミ体の技術常識からみて予測を超える顕著な効果とはいえない。
また、S体であるPDX-10aのIC_(50)が289nMである点も、一方のキラル体がまったく活性を生じないこともよく見られることであることが技術常識であることから、R体とS体を比較した場合の値も予測を超える顕著な効果とはいえない。

(イ)本願明細書の【0085】には、ジアステレオマーの薬物動態学的パラメーターとして、2つのプララトレキセートC10ジアステレオマーのクリアランスに種依存性があり、【0089】には、非小細胞肺癌患者に対するクリアランスにPDX-10bとPDX-10aに約2倍の差があることが記載されているが、生体内での作用、分解などは光学異性体間において異なるといえるから、キラル体の一方が他方に対して2倍の特性上の差を有することは良く見られることであり(摘記(4e)、摘記(5b)、摘記(6c)および摘記(6d))、上記2倍程度の差が予測を超える顕著な効果とはいえない。
したがって、本願発明1の効果が、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとすることはできない。

4 審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、平成28年11月10日付け意見書2頁および平成29年4月17日付け審判請求書5頁において、刊行物1には、炭素10(C10)および炭素19(C19位)に不斉中心を有する4種の光学活性体(光学異性体)の混合物が示されているだけで、光学活性体について開示も示唆もない旨主張している。
しかしながら、刊行物1には、10-プロパギル-10デアザアミノプテリンが化合物の製造方法とともに記載されており、刊行物1の実施例1においては、最終生成物である化合物6をL-グルタメート・ヒドロクロリドを用いて、本願発明とまったく同一の方法で製造され、上記合成では、光学的配置は変わらないことは明らかであり、原料化合物の光学的配置からみて、炭素19位と10位の不斉炭素のうち、炭素19位が光学的にS体になった、10位ラセミ体が形成されている、すなわち10位がR体、19位がS体となったものと10位がS体、19位がS体となった両ジアステレオマーの2種の混合物が形成されていると当業者は当然認識するものであることはすでに述べたとおりである。
そして、刊行物1には、該化合物が肺腫瘍に対する活性を有していることも記載されている。
したがって、前述のとおり、本願優先日時点の医薬に関するラセミ分割の動機や手段に関する技術常識から、医薬用途のラセミ体をキラルカラムを用いた分離によりエナンチオマー純度97%のものに分割することは、当業者が容易になし得る技術的事項である。

イ 審判請求人は、平成28年11月10日付け意見書3頁および平成29年4月17日付け審判請求書5頁において、本願発明1のPDX-10bのIC_(50)が45.8nMであり、PDX-10aのIC_(50)が289nMと比較して約6倍も優れた値であり、ラセミ混合物のIC_(50)である124nMと比較しても約3倍も顕著に優れているし、クリアランスの結果もPDX-10bの方が優れている旨主張している。
しかしながら、すでに述べたとおり、ラセミ体に対して効果の優れたR体であるPDX-10bのIC_(50)が約2倍の効果を示したものにすぎず、ラセミ体から分割したキラル間の技術常識からみて予測を超える顕著な効果とはいえない。
また、S体であるPDX-10aのIC_(50)が289nMである点も、一方のキラル体がまったく活性を生じないこともよく見られることであることが技術常識であることから、R体とS体を比較した場合の値も予測を超える顕著な効果とはいえない。
さらに、クリアランス特性に関しても、クリアランスには、種依存性があることが本願明細書にも記載され、審判請求書でも認めているのであるから非小細胞肺癌患者に対するクリアランスにPDX-10bとPDX-10aに約2倍の差があったからといって、治療対象を特定していない肺癌を治療するための薬学的組成物である本願発明1に対応するものとはいえないと同時に、キラル体の一方が他方に対して2倍の特性上の差を有することは良く見られることであり、予測を超える顕著な効果とはいえない。

なお、請求人は、平成29年9月8日付けの上申書を提出して、特許請求の範囲を補正する用意があること、面接において、特許請求の範囲の薬学的組成物の適用用途を人間に特定する補正案を提示しているが、審理の対象となる特許請求の範囲の記載でない事項に関する主張であり、採用することはできない。
また、上述のことから、仮にそのような補正がなされたとしても、進歩性を肯定することはできない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明および刊行物2?9に記載の本願優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-04-09 
結審通知日 2018-04-10 
審決日 2018-04-23 
出願番号 特願2015-163581(P2015-163581)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三木 寛  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
発明の名称 10-プロパルギル-10-デアザアミノプテリンの光学的に純粋なジアステレオマーおよび該ジアステレオマーを用いる方法  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山口 晶子  
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