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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04G
管理番号 1344379
審判番号 不服2017-969  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-24 
確定日 2018-09-13 
事件の表示 特願2016- 42602「液体タンクの補修方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日出願公開、特開2017-101527〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月4日(優先権主張 平成27年11月25日)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年5月19日付け :拒絶理由通知書
平成28年7月13日 :意見書の提出
平成28年7月20日 :手続補正書の提出
平成28年10月19日付け:拒絶査定
平成29年1月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年4月13日付け :拒絶理由通知書
平成30年6月15日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
(1)本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「液体タンク内の液を抜き取った後、洗浄工程、乾燥工程を施し、
樹脂を塗装する部分以外を養生テープで保護した上、塗装部分にプライマーを塗布し、
次いで噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定の厚さまで吹付け塗装し、
ピンホールの確認工程を経た後、養生撤去、洗浄工程を行って液張りするようにしたことを特徴とする液体タンクの補修方法において、
前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂に、ポリウレア樹脂を使用し、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で、前記ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱しておき、かつこの噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定厚さまで吹付け塗装する工程は、風よけネットにより吹付けヘッドに風をあてないで行うことを特徴とする液体タンクの補修方法。」

(2)なお、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項4は、以下のとおりのものであるから、本願発明は、本件補正前の請求項1を引用する請求項4に係る発明に相当するものといえる。
本件補正前の請求項1:
「液体タンク内の液を抜き取った後、洗浄工程、乾燥工程を施し、
樹脂を塗装する部分以外を養生テープで保護した上、塗装部分にプライマーを塗布し、
次いで噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定の厚さまで吹付け塗装し、
ピンホールの確認工程を経た後、養生撤去、洗浄工程を行って液張りするようにしたことを特徴とする液体タンクの補修方法において、
前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定厚さまで吹付け塗装する工程は、風よけネットにより吹付けヘッドに風をあてないで行うことを特徴とする液体タンクの補修方法。」
本件補正前の請求項4:
「前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂に、ポリウレア樹脂を使用し、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階でA液・B液そのものを予備加熱しておくことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の液体タンクの補修方法。」

第3 拒絶の理由
当審が通知した平成30年4月13日付け拒絶理由のうち請求項4に係る発明に対する理由は、次のとおりのものである。
本願の請求項4に係る発明は、本願の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献4、6、7の技術及び周知の技術(引用文献2、3、5参照)に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:上水道施設用 防水・防食ライニング工法 プラマックスJW工法 厚生労働省第15号 JWWA K143 適合 ポリウレア樹脂スプレーライニング、日本、2013年4月発行 (インターネットアーカイブ(2014年7月17日))
引用文献2:実願昭63-100233号(実開平02-020964号)(周知技術を示す文献)
引用文献3:実願昭60-011317号(実開昭61-130367号)(周知技術を示す文献)
引用文献4:実公昭53-47509号公報
引用文献5:登録実用新案第3165459号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2005-185909号公報
引用文献7:特表2009-500483号公報

なお、引用文献1には、「株式会社ダイフレックス」及び各営業所の記載とそれらの連絡先が記載されている箇所があり、当該箇所の下に、「(’10.12月現在)」、「’13.04. 1,000 DFC」なる記載があることから、引用文献1は2013年4月に発行されたと推認することができる。また、インターネットアーカイブサービス「Wayback Machine」(https://web.archive.org/)によると、上記引用文献1は、2014年7月17日に、「スプレーウレタン・ウレア工業会」のWeb ページ(http://www.spray-suk.com/)からダウンロード可能な状態にされている。そうすると、上記引用文献1は、本願の優先日(平成27年11月25日)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであると認める。

第4 引用文献の記載及び引用発明、技術
1 引用文献1
(1)引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.第1頁
(ア)「上水道施設用 防水・防食ライニング工法 プラマックスJW工法 厚生省令第15号 JWWA K143 適合 ポリウレア樹脂スプレーライニング」
(イ)「ライニング材 超速硬化ポリウレア樹脂 PM5000JW」
「スプレーガンで吹付け塗布すると20?30秒で指触乾燥し、スプレーダストやピンホールが少ない、防食・防水機能をもった伸張率200%以上のシームレスな塗膜が形成されます。」
「ポリイソシアネート成分(A剤)と特殊ポリアミン成分(B剤)を加温・温調しながら高圧で圧送し、専用ガンにて衝突混合させてスプレーすることで、防食・防水機能をもったポリウレア樹脂被覆層を瞬間で生成します。」
(ウ)「素地調整兼プライマー エポキシ樹脂パテ材 プラマックスEP-F」
「水蒸気透過性を有する多孔質なコンクリート下地を緻密な素地へ調整するとともに下地とライニング材との接着性を長期間保持します。また、湿気との反応性が低いため、密閉空間内でも水分の影響を受けにくく、ポリウレア樹脂スプレー材との接着力を確実に確保します。」

イ.第2頁
(ア)「伸びと強度の最適なバランスが水からコンクリートを保護し、漏水を防止します。」
(イ)「特長1 安全性に優れる」
「製品は全て無溶剤」、「溶剤の揮発がなく、密閉空間作業での安全性が図れます。固形分100%の製品で、硬化時および硬化後の揮発成分がなく、収縮や肉やせを起こしません。」
「水質汚染しない」、「ライニング層からの溶出がなく、水質に影響を与えません。」
(ウ)「特長2 防水・耐久性に優れる」
「耐薬品性に優れる」、「耐酸性、耐アルカリ性、耐塩素性、耐温水性に優れます。」
「ひび割れ追従性に優れる」、「200%以上の伸張率と18N/mm^(2)以上の強靱な引張強度との相乗効果でひび割れへの追従性を発揮します。」(エ)「特長3 施工性に優れる」
「短工期施工が可能」、「エポキシ樹脂パテとポリウレア樹脂スプレーの簡単な2工程仕様です。」、「ポリウレア樹脂スプレーは、機械圧送によるスプレー施工により、飛躍的な施工性向上が図れます。スプレーにより被覆された塗膜は、20?30秒で指触乾燥し、数分で歩行が可能です。」
「天井、壁面への均一塗膜を形成」、「エポキシ樹脂パテは、チクソトロピー(揺変性)により天井面、壁面にもダレを発生させずに均一な塗膜を形成できます。」、「ポリウレア樹脂は、スプレー後15秒程でゲル化するため、連続的に天井面、壁面にもダレを発生させずに1mm以上の厚付け施工が可能です。」
(オ)「特長4 下地接着耐久性に優れる」
「耐アルカリ水性に優れる」、「エポキシ樹脂パテは、長期にわたりコンクリート下地との接着力を確保します。」
(カ)



ウ.第3頁
(ア)「施工フロー」
(イ)「1 表面処理及び断面修復(改修時)」
「(1)表面の劣化部や脆弱部は超高圧水洗、ディスクサンダー等で処理する。(劣化部除去)」
「(2)漏水部は急結セメント、薬注等で止水し、パテ材で平滑に仕上げる。」
「(3)ジャンカ・欠損部は、表面をはつり清掃後、断面修復モルタルで仕上げる。」
「(4)クラック・打継ぎ部はUカットし清掃後、パテ材またはポリマーセメントで充填補修する。」
「※新設はディスクサンダーにて表面処理を行う。」
(ウ)「2 水洗浄」
「(1)表面処理後、コンクリート表面に残存付着したゴミ、泥など不純物を水洗して清掃する。(新設)」
「(2)洗浄による汚泥は排水ポンプなどにより池外に排出する。(上澄水は中和後処理、汚泥は産廃処理)」
「(3)下地コンクリート表面は、送風機、ウエス等で乾燥させる。」
(エ)「3 プライマー兼素地調整 プラマックスEP-F」
「(1)プライマー兼素地調整材は、無溶剤の主剤と硬化剤を所定の配合比となるよう計量し、充分撹拌混合する。」
「(2)塗布は、コテ、ヘラで空隙のないよう押し込んで平滑に仕上げる。」
(オ)「4 上塗り PM5000JW」
「(1)上塗り材は、無溶剤のポリウレア樹脂を使用する。」
「(2)使用条件を遵守し、スプレー施工する。」
(カ)「5 清掃片付け」
「(1)上塗養生後、池内を水洗して清掃し、現場及び周辺は原状に復帰する。」
「(2)検査各工程において、接着試験、ピンホール試験を実施。ピンホール発生部は、専用のパテ材にて補修する。」
なお、上記ウ.では(1)などと括弧内に数字を記載したが、引用文献1では○の中に数字が記載された形式である。

(2)上記(1)から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているといえる。
ア.引用文献1の「プラマックスJW工法」は、上水道施設用の防水・防食ライニング工法であり、上記(1)イ.(カ)には、当該工法のライニングが有効な上水道施設として「配水池」が挙げられている。ゆえに、引用文献1の「プラマックスJW工法」は、「配水池」に適用されることが記載されているといえる。
イ.引用文献1の上記(1)ウ.(カ)には、「(1)上塗養生後、池内を水洗して清掃し、現場及び周辺は原状に復帰する。」と記載されており、この池内の清掃は当該池内で「プラマックスJW工法」を施工するために行われるものといえるから、引用文献1の「プラマックスJW工法」は池内の内壁表面に適用されることが記載されているといえる。
ウ.引用文献1の上記(1)ウ.(イ)、(エ)、(オ)には、施工として、「表面処理及び断面修復」、「プライマー兼素地調整」、「上塗り」を行うことが記載されているから、引用文献1の「プラマックスJW工法」は補修方法であるといえる。

(3)上記(1)、(2)を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「配水池の内壁表面について、劣化部や脆弱部を超高圧水洗で処理する工程、送風機、ウエス等で乾燥する工程を施し、
スプレー施工する部分にプライマーを塗布し、
次いで噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定の厚さまでスプレー施工し、
池内を水洗して清掃する工程を行う、ピンホール試験を含む、配水池の補修方法において、
前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂に、ポリウレア樹脂を使用し、前記ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱しておく、配水池の補修方法。」

2 引用文献2
引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)第1頁第14行?第2頁第4行
「[従来の技術]
一般に、建築物の外壁あるいは内壁を塗装する場合には、例えば第4図(a)、(b)に示すように、被塗装面である窓枠1の上から保護シート2を貼り、この縁部にマスキングテープ3を貼付けて不要箇所に塗料が付着するのを防止し、しかる後下塗4aを施し養生したのち上塗4bを施す(第4図(a))。そして塗料の乾燥後マスキングテープ3を剥がすことが行われている(第4図(b))。なお、図中符号6は壁部、7はガラスである。」
(2)第4図



3 引用文献3
引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)第1頁第19行?第2頁第16行
「従来の技術
従来のマスキングテープ1としては、第4図に示すように、薄い合成樹脂膜を多層に折りたたんだ養生シート2の長手方向の一側に貼着用テープ3を接着したものが知られている。
上記のマスキングテープ1を使用して壁面などを塗装するには、壁面の塗装をしない部分に対して塗材が付着しないようにマスキングテープ1の貼着用テープ3を貼り、折りたたまれた養生シート2を拡げて覆って塗装し、塗装終了後マスキングテープ1をはがずものである。
ところで、上記のマスキングテープ1を使用して、下塗、中塗および上塗などの複層仕上げを行う際に、壁面の塗装しない部分に対してマスキングテープ1を貼着して下塗、中塗を施し、上塗を行うと、マスキングテープ1をはがした後、下塗及び中塗の端面が上塗で覆われず露出するという問題点がある。」
(2)第4図



4 引用文献4
(1)引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.第1欄第35行?第2欄第6行
「本考案の実施例を添付図面について説明するに、図において、2はスプレーガンaのノズルcから扇形の噴射パターンで噴出する霧化塗料流の周りを囲む長円形断面のラツパ状の枠をなすように形成した針金枠であつて、該枠2の全周面に極く細目のナイロン網3を張設してラツパ状筒体1を構成する。4はスプレーガンaのノズルcの外周に嵌めるように前記筒体針金枠2の小径端に固定した取付環であつて、止めねじ5を備える。」
イ.第2欄第7行?14行
「本実施例は第1図に示すように取付環4をスプレーガンaの外筒bに外嵌めして止めねじ5で固定し、ラツパ状筒体1の大径端の開口部を被塗装面にできるだけ接近させてノズルcから塗料を噴射し、ナイロン網3によつて外側を吹く風を遮断し、霧化塗料はほとんど飛散することなく被塗装面に到達させて所要のパターンにより塗装し得るように使用する。」
ウ.第2欄第15行?25行
「本考案は上記実施例の説明によつて明らかにしたように、ノズルcから噴出する霧化塗料流の周りを囲むラツパ状筒体1を針金枠2に細目の網3を張つて構成しているから、取付固定部によりスプレーガンaに取付けて、該スプレーガンと共に片手で移動することも容易であり、しかも或る程度の風の影響をさけて噴射パターンを安定させ、霧化塗料をほとんど飛散させることなく吹付作業を行なうことができるものであつて、噴霧ガイドの軽量化と噴射塗料の飛散防止の両作用を併せて生じさせ得る利益をもつ。」
エ.第2欄第26行?31行
「図面の簡単な説明」
「添付図面は本考案の実施例を示し、第1図はエアレススプレーガンaに取付けた状態を示す縦断側面図、第2図は平面図である。」
「1・・・ラツパ状筒体、2・・・針金枠、3・・・ナイロン網、4・・・取付環。」
オ.第1図


カ.第2図



(2)上記(1)を踏まえると、引用文献4には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「吹付け塗装する工程は、風よけネットにより吹付ヘッドに風をあてないで行う」

5 引用文献5
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
【0002】
「マンホール内での作業等のように、作業現場が外気から閉鎖されてしまう場合においては、作業現場の酸素濃度の低下等の危険性があることから、作業中に作業現場に外気を送り込む必要がある。このような用途に用いられる作業現場用送風機として、例えば実開平5-87288号公報(特許文献1)に記載の送風機が、開示されている。特許文献1に記載の送風機は、モーター駆動により吸排気を行なうファンと、このファンに連なりマンホール内に空気を吸排気する蛇腹状の送風ダクトと、送風ダクトを収納する収納部と、携帯用取手部とを備えている。この構成によれば、蛇腹状の送風ダクトを収納部に収納することが可能であるため、より運搬性に優れた送風機を提供することができるとしている。」

6 引用文献7
(1)引用文献7には、以下の事項が記載されている。
ア.【0045】
「・・・本発明のポリウレアエラストマー系を製造するのに有用な、成分A(ポリイソシアネート)と成分B(ポリアミン/ポリオール+連鎖延長剤)で構成される一般的な配合物は、約30?70重量%の成分Aと約70?30重量%の成分Bとの混合物、さらに好ましくは約40?60重量%の成分Aと約60?40重量%の成分Bとの混合物、そして最も好ましくは成分Aと成分Bの約50-50重量%混合物を含む・・・ポリイソシアネート、ポリオキシアルキレンポリアミン、および連鎖延長剤を、他の必要に応じた成分と共に、ポリアミンとポリイソシアネートとを反応させるための任意の効果的な条件(公知の条件を含む)下にて反応させる。一般には、反応時の温度は約0?約90℃の範囲であり、好ましくは約40?約90℃の範囲であり、最も好ましくは約60?約80℃の範囲である。」
イ.【0046】
「スプレー用途にて使用する場合、これらの成分は、高圧スプレー装置を使用して直接衝突混合することができる。具体的には、調合機(proportioner)の別個の2つのチャンバーから、成分Aの第1の加圧流れと、成分Bの第2の加圧流れを供給し、2つの成分の十分な混合がなされるよう互いに高速で衝突させてエラストマーを生成させ、次いでこのエラストマーを、スプレーガンまたはRIM装置を使用して所望の基材上もしくは基材中に供給する。・・・」
ウ.【0051】
「このようなパイプラインの内部コーティングを行う際には、システムの第1の部分と第2の部分を、例えばフレキシブルホースによって、修復しようとするパイプラインを通して進ませることのできる、それ自体公知のスプレー装置に別々に供給する。このスプレー装置は、パイプラインの内側に施す前にシステムの2つの部分を加熱し、そしてパイプラインの内表面に混合物を施す直前に2つの部分を混合するのが好ましい。良好なミキシングを行うのに必要とされる設定温度を保持するために、通常はマシンとスプレーヘッドとの間のホースが加熱され、この結果、成分に対する粘度がより低くなり、したがって衝突によるミキシングがより良好となって、硬化物質の特性がより優れたものとなる。」

(2)上記(1)ウ.の「通常はマシンとスプレーヘッドとの間のホースが加熱され」との記載から、スプレーヘッドに入る成分は、当該スプレーヘットに入る前のホースを通過する段階で予備加熱されるといえる。

(3)上記(1)、(2)を踏まえると、引用文献7には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で、ポリウレア樹脂のA液、B液そのものを予備加熱しておく」

第5 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。
1 引用発明1の「配水池」、「劣化部や脆弱部を超高圧水洗で処理する工程」、「送風機、ウエスなどで乾燥する工程」、「スプレー施工する部分」「スプレー施工」、「池内を水洗して清掃する工程」は、それぞれ、本願発明の「液体タンク」、「洗浄工程」、「乾燥工程」、「塗装部分」、「吹付け塗装」、「洗浄工程」に相当する。

2 そうすると、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「洗浄工程、乾燥工程を施し、
塗装部分にプライマーを塗布し、
次いで噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定の厚さまで吹付け塗装し、
洗浄工程を行う液体タンクの補修方法において、
前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂に、ポリウレア樹脂を使用し、前記ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱しておく、液体タンクの補修方法。」

<相違点1>
本願発明では、液体タンク内の液を抜き取った後、洗浄工程、乾燥工程を施すのに対し、引用発明1では、洗浄工程、乾燥工程を施すものの、液体タンク内の液を抜き取った後に当該両工程を施すのかは、明らかでない点。

<相違点2>
本願発明では、塗装する部分以外を養生テープで保護した上、塗装部分にプライマーを塗布し、塗装を行い、ピンホールの確認工程を経た後、養生撤去を行うのに対し、引用発明1では、このような工程を備えているかは明らかでない点。

<相違点3>
本願発明では、洗浄工程を行って液張りするのに対し、引用発明1では、洗浄工程を行うものの、その後、液張りするのかは、明らかでない点。

<相違点4>
本願発明では、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で、ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱しておくのに対し、引用発明1では、ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱するものの、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で予備加熱するのかは明らかでない点。

<相違点5>
本願発明では、吹付け塗装する工程は、風よけネットにより吹付けヘッドに風をあてないで行うのに対し、引用発明1では、このような工程を備えているかは明らかでない点。

第6 判断
1 上記<相違点1>について検討する。
液体タンクの内壁表面について、洗浄工程、乾燥工程を施す作業の前に、液体タンクに液が張られていると、当該作業が不能ないし困難であるから、液体タンク内の液を抜き取った後、洗浄工程、乾燥工程を施すことは、当業者が当然に配慮すべき設計事項である。引用発明1においても、そのような手順で作業を行うことは合理的であって、そのようにすることを阻害する要因も見あたらない。
ゆえに、引用発明1について、上記<相違点1>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

2 上記<相違点2>について検討する。
一般に、塗装する部分以外を養生テープで保護した上、塗装部分にプライマーを塗布し(下塗)、塗装を行い(上塗)、その後、養生撤去を行うことは、周知の技術である(例えば、上記第4の項目2で摘記した引用文献2の事項、上記第4の項目3で摘記した引用文献3の事項参照)。また、吹付け塗装が不十分である場合には、ピンホールが発生するおそれがあることが一般に知られているところ、吹付け塗装を終えた段階でピンホール試験を実施することは当該吹付け塗装が確実に行われたことを確認するために、当業者であれば付加し得る設計的事項である。そうすると、引用発明1について、塗装する部分以外を養生テープで保護した上、塗装部分にプライマーを塗布し、吹付け塗装し、ピンホールの確認工程を経た後、養生撤去を行うこと、すなわち、上記<相違点2>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

3 上記<相違点3>について検討する。
洗浄工程を行い施工が終了した後、再び液体タンクを液張りし、液体タンクを通常使用に供することは、引用発明1においても普通に予定されているものといえる。
ゆえに、引用発明1について、上記<相違点3>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

4 上記<相違点4>について検討する。
吹付け塗装に用いるポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱するにあたり、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で、ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱しておくことは、引用文献7(上記第4の項目6(3)の摘記参照)に記載されている。引用発明1においても、ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱することが示唆されているところ、上記引用文献7記載の吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で予備加熱する技術的事項を適用する動機付けは存在する。また、引用発明1に引用文献7記載の技術的事項の適用を阻害する要因はない。
ゆえに、引用発明1について引用文献7記載の技術的事項を適用すること、すなわち、上記<相違点4>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

5 上記<相違点5>について検討する。
引用文献4には、風よけネットにより吹付けヘッドに風をあてないで行うことにより、ある程度の風の影響をさけて噴射パターンを安定させ霧化塗料をほとんど飛散させることなく吹付け作業を行うことができることが記載されている(上記第4の項目4(1)ウ.参照)。液体タンク内での塗装作業においても、作業員の動作や液体タンク内の換気(例えば、上記第4の項目5で摘記した引用文献5の事項参照)等に起因して、風が発生する場合があり得ることを踏まえると、引用発明1においても、風の影響を受けずに確実な吹付け塗装を行いたいという課題はあるといえるから、引用発明1に引用文献4記載の技術的事項を適用する動機付けは存在する。そして、引用発明1に引用文献4記載の技術的事項を適用する阻害要因はない。
ゆえに、引用発明1について、上記<相違点5>に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

6 そして、<相違点1>?<相違点5>を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1、引用文献4、7の技術的事項及び周知の技術(引用文献2、3、5参照)から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

7 なお、請求人は、平成30年6月15日に提出された意見書(以下、「意見書」という。)の項目(B)(イ)において、「請求項1及び請求項2の発明においては、極めて硬化しやすいポリウレア樹脂を使用するため、吹付ヘッドに風が当たると、ノズルの先端が硬化して吹付に支障が生ずることを防いでいるもので、ポリウレア樹脂と一体となって、本願発明の効果を確実にしているもので、この点について進歩性が認められるべきである」と主張している。
この点について、本願発明では、「前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂に、ポリウレア樹脂を使用し、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階で、前記ポリウレア樹脂のA液・B液そのものを予備加熱しておき」と記載されていることから、本願発明のポリウレア樹脂は、A液・B液の二液を用いる二液硬化型樹脂であるといえる。しかしながら、この二液硬化型樹脂とは、一般に、A液・B液の混合により硬化するものであって(例えば、特開2011-156516号公報の段落【0011】、特開平11-130834号公報の段落【0005】?【0007】参照)、空気と接触することや風が当たることにより硬化するものではないから、請求人の主張は当を得たものとはいえない。吹付けヘッドに風が当たり、ノズルの先端のポリウレア樹脂が硬化することがあるとしても、それは、このような二液硬化型樹脂の性質によるものではなく、吹付けヘッドから噴射されたポリウレア樹脂が風によって飛散し、吹付けヘッドの先端に多く付着することによる現象が生じたものと思われる。
しかしながら、引用文献4の技術的事項は、風よけネットにより吹付けヘッドに風があたらないようにするのであるから、それにより、吹付けヘッドから噴射された塗料が風の影響によって飛散し、吹付けヘッドの先端に多く付着するのを防止する効果はあるといえる。そうすると、上記本願発明の効果は、結局、引用発明1及び引用文献4の技術的事項から当業者の予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

8 また、請求人は、意見書の項目(ロ)のA.C.?E.及びa.?r.において、本願発明(請求項1の液体タンクの補修方法)の効果を主張している。(なお、項目(ロ)のB.は請求項2についてのものであり、項目(ロ)のF.は請求項3についてのものであるから、ここでは言及しない。)

(1)意見書の項目(ロ)A.には、「すなわち、請求項1の液体タンクの補修方法では、樹脂系接着剤とグラスウールシートとを3層に積層するという余分な工程を排除し、噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定の厚さまで吹付け塗装するだけで液体タンクを液張りできるまでに補修することができるよう
になりました。そのため、樹脂系接着剤の乾燥・硬化を待つという非常に長時間を要する工程を省略することができ、極めて短時間に補修工事を終えることができるようになったのであります。」と記載されている。
しかしながら、引用発明1も本願発明と同様、噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定の厚さまで吹付け塗装することにより補修する施工であり、樹脂系接着剤とグラスウールシートとを3層に積層する施工ではないこと、引用発明1は、短工期施工が可能である特長があること(上記第4の項目1(1)イ.(エ)参照)からすれば、上記の効果は、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

(2)意見書の項目(ロ)C.には、「請求項1?3の液体タンクの補修方法では、噴射可能な瞬間硬化型樹脂がポリウレア樹脂からなるものであり、作業性が良好であることは勿論、揮発成分がほとんど含まれていないので無臭のために非常に良好な作業環境を維持することができます。」と記載されている。
しかしながら、引用発明1も本願発明と同様、噴射可能な瞬間硬化型樹脂がポリウレア樹脂であること、引用発明1は、溶剤の揮発がない特長があること(上記第4の項目1(1)イ.(イ)参照)からすれば、上記の効果は、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

(3)意見書の項目(ロ)D.には、「請求項1?3の液体タンクの補修方法では、前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定厚さまで吹付け塗装する工程において、風よけネットにより吹付けヘッドに風をあてないため、硬化時間を塗装作業に十分なものとすることができ、ゴミの心配も排除することがで
きます。」と記載されている。
しかしながら、引用発明1において引用文献4の技術的事項を採用すると、風よけネットにより吹付けヘッドに風があたらないため、噴射された樹脂が速やかに硬化時間が経過する前に被塗装面に到達し、風によってゴミが樹脂に付着するのを防止することが期待できるから、上記の効果は、引用発明1及び引用文献4の技術から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

(4)意見書の項目(ロ)E.には、「請求項1?3の液体タンクの補修方法では、前記噴射可能な瞬間硬化型樹脂を所定厚さまで吹付け塗装する工程は、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階でA液・B液そのものを予備加熱しておくため、寒冷期でも効率よく混合することができ、大幅に
能率を向上させることができます。」と記載されている。
しかしながら、引用文献7の技術的事項も、吹付け塗装用の噴射装置に樹脂液を入れる前段階でA液・B液そのものを予備加熱しておくものであり、粘度を低くし混合を良好とする作用があること(上記第4の項目6ウ.参照)からすれば、上記の効果は、引用発明1及び引用文献7の技術的事項から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

(5)そして、意見書には、「その他の噴射可能な瞬間硬化型樹脂、特にポリウレア樹脂単独使用の効果を列挙すると以下の通りであります。」と記載されており、次の効果が列挙されている。
「a.溶剤臭がないため、施工後水に溶剤臭が移らない。
b.硬化が早いため作業時間が短くて済む。
c.したがって施工時間が短く、断水時間が短かくて済む。
d.ポリウレア樹脂の吹付け塗装で簡単に施工できるため、やはり断水時間が短かくて済む。
e.衝撃性に優れており、地震が来たり大きい振動が与えられても安心である。
f.漏水の心配がないので、断水時間の延長という心配がない。
g.風雨等で工事日時が変更される心配が少なく、作業日の変更をしなくて済む。
h.短時間で工事が完了するため仮設タンクが不要となり、余分な費用が掛からない。
i.ガラス繊維の飛散がないため、近隣からのクレームがなく、作業者が吸い込んで健康
を害することがない。
j.また異臭が発生しないため、近隣からクレームが来ない。
k.液体タンク内での作業のため、温度管理を簡単に行うことができ、氷点下や高温時で
も施工できる。
l.同じ理由からヒーターが不要であり、火災や一酸化炭素中毒の心配がない。
m.排気の問題が少ないため、場所や環境を選ばずにどこでも作業をすることが可能である。
n.さまざまな素材に施工が可能であり、鉄やステンレスなども対応できる。
o.薬品や高温に強いため、さまざまな内容物に対応できる。
p.価格的に安い。
q.断熱性能に優れ、結露がない。
r.加水分解が起きないため、保護層として長期にわたり駆体を守ることができる。」
しかしながら、引用発明1は、本願発明と同様、ポリウレア樹脂の吹付け塗装により施工すること、上記第4の項目1(1)イ.で摘記したように、「製品は全て無溶剤」、「短工期施行が可能」、「耐薬品性に優れる」、「耐温水性に優れ」るという特長を有しているから、上記a.?d.、h.、j.、m.、oの効果は、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。
また、引用発明1は、上記第4の項目1(1)ア.(イ)イで摘記したように「防食・防水機能をもったポリウレア樹脂被覆層を瞬間で生成」するものであるから、上記f.の効果も、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。
次に、引用発明1は、上記第4の項目1(2)ア.、イ.で指摘したように、液体タンク内に適用されるため、上記g.、k.、l.の効果も、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。
そして、引用発明1は、ガラス繊維を用いる施工ではないから、上記i.の効果も、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。
さらに、引用発明1は、ポリウレア樹脂を使用するものであり、当該ポリウレアの一般的な性質、値段からすれば、上記e.、n.、p.?r.の効果も、引用発明1から当業者であれば予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものともいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明1、引用文献4、7の技術的事項及び周知の技術(引用文献2、3、5参照)に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-11 
結審通知日 2018-07-12 
審決日 2018-08-02 
出願番号 特願2016-42602(P2016-42602)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 西藤 直人
千壽 哲郎
発明の名称 液体タンクの補修方法  
代理人 土橋 博司  

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