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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1344559
審判番号 不服2017-12656  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-28 
確定日 2018-10-16 
事件の表示 特願2013-250011「電力用半導体装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日出願公開,特開2015-109294,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年12月3日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 1月13日 拒絶理由通知
平成29年 3月14日 意見書提出・手続補正
平成29年 6月28日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 8月28日 審判請求・手続補正
平成30年 5月 9日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)
平成30年 6月20日 意見書提出・手続補正

第2 原査定の概要
本願請求項1-9に係る発明は,本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1-6に記載された発明に基づき本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.実願昭52-139562号(実開昭54-065668号)のマイクロフィルム
2.特開2010-034278号公報
3.特開昭60-105241号公報
4.実願昭52-049229号(実開昭53-143566号)のマイクロフィルム
5.特開平01-270236号公報
6.特開2000-277876号公報

第3 当審拒絶理由通知の概要
本願請求項1-5に係る発明は,本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1-4に記載された発明に基づき本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2007-96042号公報
2.特開平4-72639号公報
3.特開2006-190850号公報
4.実願昭52-139562号(実開昭54-65668号)のマイクロフィルム

第4 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は,平成30年6月20日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりである。
「 【請求項1】
リードフレームの表面に設けられた凹状領域に溶融はんだを供給する工程と,
前記リードフレームの上に,前記凹状領域を覆うように電力用半導体素子を搭載する工程とを含み,
前記凹状領域は,前記リードフレームに形成された溝部によって画定され,
前記溝部の外縁部には,供給された溶融はんだを塞き止める段差部が設けられ,
前記溝部の段差部は,該溝部の面方向の大きさが前記電力用半導体素子に向かってテーパ状に大きくなるように形成され,
前記溝部の段差部は,平面視で前記電力用半導体素子の外縁部の内側に位置し,
前記電力用半導体素子を搭載する工程では,塞き止められた状態の溶融はんだを前記段差部の外側まで濡れ広げることを特徴とする,電力用半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記リードフレームの表面での凹状領域の面積は,前記溶融はんだを供給する工程で溶融はんだが濡れ広がる面積以下であることを特徴とする,請求項1に記載の電力用半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記溶融はんだを供給する工程および前記電力用半導体素子を搭載する工程は,還元雰囲気中で実施することを特徴とする,請求項1または2に記載の電力用半導体装置の製造方法。」

第5 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
この発明は,半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,LSI等の半導体チップを備えた半導体装置のなかには,アイランドに半導体チップがダイボンディング材を介してダイボンディングされ,この半導体チップの表面(上面)に形成された電極とアイランド周辺に配置されたリード端子とがワイヤで電気的に接続された半導体装置が存在する。このような半導体装置について,図6(a)?(c)を用いて説明する。」

「【0007】
また,従来の半導体装置としては,例えば,半導体チップの裏面の面積より開口面積が小さな凹部がアイランドに形成され,その凹部内にのみ充填されたダイボンディング材を介して,半導体チップがアイランドにダイボンディングされた半導体装置が存在する(例えば,特許文献1参照)。この半導体装置の一例について,図7(a),(b)を用いて説明する。
【0008】
図7(a)は,従来の半導体装置の他の一例を模式的に示す縦断面図であり,(b)は,その部分平面透視図である。
図7(a)に示すように,半導体装置80は,表面に複数の電極81aが形成された半導体チップ81,半導体チップ81がダイボンディング材85を介してダイボンディングされているアイランド82,複数本のリード端子83,電極81aとリード端子83とを電気的に接続するワイヤ84,及び,これらを封止する樹脂パッケージ部89を備えている。
アイランド82には,凹部86が形成されていて,ダイボンディング材85は,凹部86内にのみ充填されている。図7(b)に示すように,凹部86の平面視形状は矩形であり,凹部86の開口面積は,半導体チップ81の裏面81bの面積より小さい。
【0009】
半導体装置80によれば,凹部86が形成されていない箇所において,半導体チップ81とアイランド82とが直接接触することになるため(図7(a)参照),半導体チップ81をダイボンディングするときに,半導体チップ81が傾くことはない。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら,図7に示した半導体装置80では,ダイボンディング材85が,半導体チップ81の裏面81bの一部と凹部86との間にのみ介在していて,凹部86が形成されていない部分と半導体チップ81の裏面81bとの間には,ダイボンディング材85が介在していないため,半導体チップ81とアイランド82との接合面積が少ない。従って,熱応力や温度サイクルによる収縮応力が生じた場合には,ダイボンディング材85にクラックが発生したり,半導体チップ81がダイボンディング材85から剥離したりするという問題があった。特に,ダイボンディング材85は,アイランド82に形成された凹部86内にのみ充填されるため,ダイボンディング材85の厚さを確保することが困難であり,クラックや剥離が生じ易いという問題があった。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
[第1実施形態]
図1(a)は,第1実施形態に係る半導体装置を模式的に示す縦断面図であり,(b)は,(a)に示した半導体装置の部分平面透視図である。
図2は,図1に示した半導体装置の部分拡大縦断面図である。
【0035】
半導体装置10は,半導体チップ11,アイランド12,リード端子13,ワイヤ14,吊りリード18,及び,樹脂パッケージ部19を備えている。
【0036】
図1(a)に示すように,半導体装置10は,表面に複数の電極11aが形成された半導体チップ11を備えている。半導体チップ11としては,種々のものを用いることが可能であり,その具体的な機能や内部の回路構成は,特に限定されるものではない。アイランド12の略中央に位置するダイボンディング領域17には,1つの凹部16が形成されていて,半導体チップ11は,ダイボンディング領域17に半田材15(ダイボンディング材)を介してダイボンディングされている。なお,ダイボンディング領域17は,半導体チップ11の裏面11bと正対する領域である。図中,17aは,ダイボンディング領域17において凹部16が形成されていない領域(以下,凹部非形成領域という)を示している。
【0037】
図1(b)に示すように,凹部16は,平面視円形状を有しており,ダイボンディング領域17の中心位置17bを含んで形成されている。凹部16の開口面積は,半導体チップ11の裏面11bの面積の20%程度であり,裏面11bの面積より小さい。
また,凹部非形成領域17aは,凹部16の周囲に位置していて,ダイボンディング領域17の4つの角17cを含んでいる。すなわち,半導体チップ11の裏面11bの角(図示せず)の下側には,凹部16が形成されておらず,その箇所では,半導体チップ11とアイランド12とが接近している。従って,半導体チップ11の裏面11bの4つの角がアイランド12によって支持されることになり,ダイボンディング時の半導体チップ11の傾きを防止することができる。
【0038】
図2に示すように,凹部16の底面16aは,平面を有していて,凹部16の側面16cは,底面16aの周縁16bから漸次に立ち上がる曲面を有している。底面16aが平面を有しているため,底面16aと半田材15との密着性を高めることができる。また,底面16aは平面を有していて凹凸がないため,エアの巻き込みによってボイドが生じることはない。また,側面16cが,底面16aの周縁16bから漸次に立ち上がる曲面を有しているため,側面16cと底面16aとの間で半田材15にボイドが生じることを防止することができる。また,凹部16の深さDは,アイランド12の厚さTの約1/2である。
【0039】
図1(a)に示すように,半田材15は,半導体チップ11の裏面11bの全域とダイボンディング領域17との間に介在していて,半導体チップ11とダイボンディング領域17との接合面積が広く確保されている。また,凹部非形成領域17aの直上では,半田材15が薄くなっていて,アイランド12と半導体チップ11とが接近している一方,凹部16の直上では,半田材15が厚くなっている。従って,凹部16の直上において半田材15にクラックが発生することを防止することが可能であり,凹部非形成領域17aにおいて半田材15にクラックが発生しても,そのクラックが凹部16の直上まで至って半導体チップ11がアイランド12から剥離してしまうことはない。
【0040】
アイランド12の周辺には,アイランド12から所定間隔を空けて,複数のリード端子13が配置されている。リード端子13は,半導体チップ11の表面に形成された電極11aと電気的に接続されている。半導体装置10には,リード端子13の一部のみを露出させて半導体チップ11等を封止する樹脂パッケージ部19が形成されている。樹脂パッケージ部19は,例えば,エポキシ樹脂等を含有する樹脂組成物からなるものである。
【0041】
次に,第1実施形態に係る半導体装置10の製造方法について説明する。
まず,リードフレーム(図示せず)のアイランド12に,エッチングにより1つの凹部16を形成する。エッチングにより凹部16を形成することによって,底面16aの少なくとも一部が平面であり,側面16cが底面16aの周縁16bから漸次に立ち上がる曲面を有する凹部16を形成することができる。なお,凹部の形成方法は,エッチングに限定されず,例えば,プレス加工により形成することとしてもよい。
【0042】
次に,アイランド12のダイボンディング領域17に,ペースト状の半田材を塗布し,半導体チップ11を載置する。半導体装置10においては,凹部16がダイボンディング領域17の中央位置17bを含んで形成されているため,所定量のペースト状の半田材を凹部16内に塗布し,半導体チップ11を押し付けることにより,半導体チップ11の裏面11bの全域とダイボンディング領域17との間に,ペースト状の半田材を均一に広げることができる。
【0043】
なお,半田材としては,例えば,Sn-Pb合金,Sn-Pb-Ag合金,Sn-Pb-Bi合金,Sn-Pb-In合金,Sn-Pb-In-Sb合金,Sn-Ag系合金,Sn-Cu系合金,Sn単体金属等の合金を含む半田ペーストを挙げることができる。また,半田ペーストとして,Pb系高温半田ペースト(85質量%以上のPbを含有するPb-Sn合金の半田ペースト)を用いることができる。このようなPb系高温半田ペーストとしては,例えば,Pb-8Sn-2Ag合金(Snを8重量%,Agを2重量%含み,残部がPb及び不可避不純物からなる合金)を含む半田ペーストを挙げることができる。また,本発明においては,ダイボンディング材として,例えば,エポキシ樹脂等の樹脂組成物を用いることとしてもよい。
【0044】
続いて,所定温度で加熱してペースト状の半田材を溶融させることにより,半田材15を介して半導体チップ11をダイボンディングする。凹部16がダイボンディング領域17の中央位置17bを含んで形成されているため,ペースト状の半田材を溶融させたときに,溶融した半田材のセルフアライメント機能による半導体チップ11の位置合わせが行われる。
【0045】
次に,半導体チップ11の表面に形成された電極11aと,リードフレームのリード端子13とを,金線等のワイヤ14を用いてワイヤボンディングする。続いて,リード端子13の一部を露出させて半導体チップ11等を封止するように,エポキシ樹脂等を含有する樹脂組成物で樹脂パッケージ部19を形成する。その後,リードフレームの所定箇所を切断してリードフレームを分割することにより,半導体装置10を製造することができる。
【0046】
本発明において,凹部の平面視形状は,特に限定されるものではなく,円形状(図1(b)参照)以外に,例えば,楕円形,矩形や正多角形等の多角形を挙げることができる。
凹部の平面視形状を,円形状や楕円形状等のように,角のない形状とすることによって,局所的に熱応力が集中することを防止することができ,ダイボンディング材にクラックが生じることを防止することができる。なお,平面視形状が異なる凹部が形成された半導体装置については,後で図3?図5を用いて詳述することにする。
【0047】
本発明において,凹部が形成される位置は,ダイボンディング領域内であれば,特に限定されるものではないが,凹部は,ダイボンディング領域の中心位置を含んで形成されていることが望ましい。ダイボンディング領域に半導体チップをダイボンディングするときに,ダイボンディング材のセルフアライメント機能を利用した半導体チップの位置合わせを行うことが可能になるからである。このようにする場合,凹部の平面視形状は,ダイボンディング領域の中心位置を中心とした点対称形状であることが望ましい。ダイボンディング材のセルフアライメント機能を利用した半導体チップの位置合わせがより正確に行われるからである。
【0048】
凹部の開口面積は,半導体チップの裏面の面積より小さければ,特に限定されるものではないが,半導体チップの裏面の面積の10?70%であることが望ましい。ダイボンディング材が厚い箇所を広く確保することができるため,ダイボンディング材にクラックが発生することをより確実に防止することかできるからである。凹部の開口面積が,半導体チップの裏面の面積の10%未満である場合,凹部の開口面積が狭過ぎて,ダイボンディング材が厚い箇所を広く確保することが困難であり,ダイボンディング材にクラックが発生するおそれがある。また,凹部の開口面積が,半導体チップの裏面の面積の70%を超えると,凹部の開口面積が広過ぎて,アイランドの機械的強度が低下し,アイランド表面の平坦さが損なわれるおそれがある。
【0049】
凹部の底面の形状は,特に限定されるものではなく,例えば,平面,半球面,変形半球面を挙げることができるが,本発明において,凹部の底面は,少なくとも一部が平面であることが望ましい。ダイボンディング材との密着性を高めることができるとともに,エアの巻き込みによるボイドの発生を防止することができるからである。なお,ダイボンディング材との密着性を向上させる点から,凹部の底面は,平面からなることがより望ましい。
【0050】
また,凹部の底面の少なくとも一部が平面からなる場合において,凹部の側面は,凹部の底面の周縁から漸次に立ち上がる曲面を有することが望ましい。凹部の底面と側面とによって滑らかに連続した面が構成され,凹部の底面と側面との間に谷が形成されないため,凹部の底面と側面との間でダイボンディング材にボイドが生じることを防止することができるからである。
【0051】
凹部の深さは,アイランドの厚さの1/4?3/4であることが望ましい。アイランド表面(凹部非形成領域)の平坦さを損なうことなく,凹部直上のダイボンディング材の厚さを確保することができるからである。凹部の深さがアイランドの厚さの1/4未満である場合,凹部が浅過ぎて,ダイボンディング材の厚さを充分に確保することができないため,凹部直上においてダイボンディング材にクラックが生じるおそれがある。一方,凹部の深さがアイランドの厚さの3/4を超える場合,アイランドが薄くなり過ぎて,アイランドの機械的強度が低下し,アイランド表面の平坦さが損なわれるおそれがある。凹部の深さは,アイランドの厚さの1/3?2/3であることがより望ましい。
【0052】
本発明において,凹部非形成領域の位置及び面積は,特に限定されるものではないが,半導体チップの裏面の全ての角の下側は,凹部非形成領域であることが望ましい。半導体チップの裏面の全ての角の下側のダイボンディング材を薄くすることによって,ダイボンディング時に,半導体チップが傾くことを防止することができるからである。
また,半導体チップの裏面の少なくとも1組の対辺の下側が,凹部非形成領域であることも望ましい。半導体チップの裏面の少なくとも1組の対辺の下側のダイボンディング材を薄くすることによっても,ダイボンディング時に,半導体チップが傾くことを防止することができるからである。」

(2)引用発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「リードフレームに凹部を形成し,所定量のペースト状の半田材を凹部内に塗布し,LSI等の半導体チップを押し付けることにより,半導体チップの裏面の全域とダイボンディング領域との間に,ペースト状の半田材を均一に広げる半導体チップを搭載する工程と,続いて,所定温度で加熱してペースト状の半田材を溶融させることにより,半田材を介して半導体チップをダイボンディングする工程とを含み,
凹部の底面は,平面を有していて,凹部の側面は,底面の周縁から漸次に立ち上がる曲面を有しており,凹部の開口面積は,半導体チップの裏面の面積より小さい半導体装置の製造方法。」

2 引用文献2について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「産業上の利用分野
本発明はダイボンディング装置に関し,特にパワーIC等のチップから発生した熱を放散させるために,このチップと回路基板の間に介装されるヒートシンクにチップをボンディングするダイボンディング装置に関する。」(第1頁左欄第15行-第20行)

「実施例
以下,本発明のダイボンディング装置の一実施例を第1図?第3図に基づいて説明する。
第1図および第2図において,1はトンネル炉でその底壁には適当ピッチでヒータ2が内蔵され,底壁上に載置されたヒートシンク3を所定温度に加熱するように構成されている。ヒートシンク3は,例えば銅ブロック等からなり,その表面にニッケルメッキを施し,さらに好ましくは半田メツキが施されている。このヒートシンク3をトンネル炉1の底壁に接触した状態で逐次一方向に間歇的に搬送するため,図示しない適宜搬送手段が設けられている。またトンネル炉1内を不活性雰囲気ないし還元性雰囲気にするため,第2図に示すようにN_(2)ガスとH_(2)ガスの混合ガスの供給通路4が設けられている。
トンネル炉1の土壁1aの所定位置に形成した第1の開口部6の上方には,接合材としての溶融半田5を滴下するディスペンサ7が配置されている。このディスペンサ7は内部に溶融半田5を収容するとともに,その上部空間にN_(2)ガス等の加圧気体8を供給することによって所定量の溶融半田5を下方に位置するヒートシンク3の上面に滴下するように構成されている。また溶融半田5の収容部の外周にはヒータ9が設けられている。
ディスペンサ5から見てヒートシンク3の進行方向前方の位置において,トンネル炉1の第2の開口部10aに,一方の端面が溶融半田5に対して濡れ性の悪いダイヤモンドやチタン等の材質からなるビット10を接合した支持体11が垂直に配設され,図示されていない駆動部によってY方向に上下動し,所定の荷重を付勢するように構成されている。
またこのビット10の端面形状は第3図に示すように,ダイヤモンド形a,矩形b,円形c等によって,破線で示す半田の広がり形状を得ることができる。
このビット10から見てヒートシンク3の進行方向前方の位置において,トンネル炉1の第3の開口部12からチップ13を吸着したコレット14にてヒートシンク3上にチップ13を装着するように構成されている。
以上の構成において,トンネル炉1内に挿入したヒートシンク3は,トンネル炉1の底壁に沿って搬送される間にヒータ2にて所定温度に加熱された後,第1の開口部6の下方位置で停止し,ここでディスペンサ7にてその上面に所定量の溶融半田5が滴下され,塗布される。この時の半田の塗布状態は,単に滴下されるだけであるため平坦ではない。このヒートシンク3が次にビット10の下方位置で停止し,ここでビット10が下降して滴下された半田5をたたいて所定の形状に広げ,平坦化する。
その後,ヒートシンク3は第3の開口部12の下方位置で停止し,ここでコレット14にて吸着し,保持されたチップ13がヒートシンク3に装着される。この時,溶融半田5が平坦化されているので,チップ13の接合面と溶融半田5の間に空隙が生じ難い。またその際にコレット14を水平方向に微小量往復運動させて,チップ13の接合面と溶融半田5との間の空隙を完全になくすようにするのが好ましい。このように所要の形状に広げ,平坦に形成した溶融半田5上にチップ13を装着することにより,空隙のない状態でチップ13をヒートシンク3に装着でき,かつチップ13の主面が半田で汚染されたり,コレット14が半田で汚染されたり,穴詰まりが生じたりすることもない。」(第2頁左下欄第4行-第3頁右上欄第11行)

3 引用文献3について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置およびその製造技術に関し,特に,半導体素子を固定する鉛フリー半田に適用して有効な技術に関する。」

「【0019】
図1および図2に示す本実施の形態の半導体装置は,縦型半導体素子を有した電力用のパワー半導体パッケージ14であり,半導体素子の主面1aには,例えば,トランジスタ素子の回路が形成されたトランジスタパッケージである。
【0020】
パワー半導体パッケージ14の構成について説明すると,主面1aと,その反対側の裏面1bと,主面1aに形成された主電極2および制御電極3と,裏面1bに形成された電極15と,主面1aに形成された回路とを備えた半導体素子である半導体チップ1と,半導体チップ1の裏面1bの電極15と接合する導電性のダイパッド4と,半導体チップ1の主面1aの主電極2と電気的に接続する第1リード6と,半導体チップ1の主面1aの制御電極3と電気的に接続する第2リード7と,ダイパッド4と一体で繋がった第3リード5と,主電極2と第1リード6とを電気的に接続するAlワイヤ12と,制御電極3と第2リード7とを電気的に接続するAlワイヤ13と,半導体チップ1とダイパッド4の間に配置され,かつダイパッド4を形成する主材料であるCu合金より低熱膨張,低降伏応力または低弾性率の応力緩衝板(応力緩衝手段)8と,半導体チップ1とAlワイヤ12,13とダイパッド4と各リードの一部とを封止用樹脂によって封止する封止体11とからなる。」

「【0042】
その後,ステップS1に示すはんだ供給工程において,リードフレーム100のダイパッド101上にペースト状または粒状からなり,かつ鉛フリー半田を供給して溶融させる。ここでは,還元雰囲気中でリードフレーム100の予備加熱を行い,ディスペンサ106を用いて,例えば,半田ペースト107をダイパッド101上に所定量供給し,ヒートブロックによって本加熱して半田を溶融して溶融半田108を形成する。
【0043】
なお,前記鉛フリー半田は,固相温度270℃以上で液相温度が400℃以下のSn-Sb-Ag-Cuを主要構成元素とする合金の半田材,またはBi-Ag-Sbを主要構成元素とする合金の半田材のいずれかである。
【0044】
その後,ステップS2に示す緩衝板供給+スクラブボンディング工程において,前記鉛フリー半田の上にCu合金より低熱膨張,低降伏応力または低弾性率の応力緩衝板109を配置し,その後,応力緩衝板109の加圧とスクラブを行って応力緩衝板109を固着する。ここでは,溶融半田108上にコレット110で吸引111を行いながら応力緩衝板109を保持し,さらに応力緩衝板109を溶融半田108上に供給した後,同時にスクラブ112を加えて応力緩衝板109のサイズに半田を広げて応力緩衝板109を半田接合113する。
【0045】
その後,ステップS3に示すはんだ供給工程において,応力緩衝板109の上にペースト状または粒状からなり,かつ前記半田と同様の鉛フリー半田を供給して溶融させる。ここでは,加熱された状態のまま応力緩衝板109の上にディスペンサ114を用いて半田ペースト115を所定量供給し,これによって半田を溶融して溶融半田116を形成する。
【0046】
その後,ステップS4に示すチップ供給+スクラブボンディング工程において,溶融半田116の上に半導体チップ117を配置し,その後,半導体チップ117の加圧とスクラブを行って半導体チップ117を固着する。ここでは,溶融半田116上にコレット118を用いて半導体チップ117を供給し,スクラブ119を加えて押し込みダイボンディングを行う。さらに,所定温度まで還元雰囲気中で冷却する。これにより,半導体チップ117の裏面117bと半田とが半田接合120する。半導体チップ117は,その主面117aが上方を向いた状態で接合される。」

4 引用文献4について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「本考案は素子取付基板にろう材を介して半導体素子を固層してなる半導体装置の改良に関する。」(第1頁第11行-第12行)

「次にこの半導体装置の製造方法を第3図により説明する。まず,第3図Aに示すように,素子取付基板lの突堤1の凹所2a内にろう材片を配置して素子取付基板1を加熱するか,あるいは加熱した素子取付基板lを加熱しておいて,突堤lの凹所2a内に溶融したろう材を滴下する等の任意の手段により,突堤2の凹所2a内に所要量の溶融したろう材4を収容し,ろう材4の頂部を突堤2の高さよりも高くする。次に第3図Bに示すように,上方から半導体素子を押圧し,ろう材4の一部を突堤2を越えて外方に流出せしめる。最後に第3図Cに示すように,半導体素子3の下面が突堤2の頂面に当接するまで押圧し冷却すると,第1図および第2図に示す半導体装置が得られる。
なお,突堤2が閉じていない場合は,溶融したろう材4が流出し,本考案の所期の効果が得られない。
本考案は以上のように,素子取付基板の半導体素子固着位置に,半導体素子と同等以下の大きさでかつ所定高さの閉じた突堤を設けたから,ろう材を十分に加熱溶融しても,溶融したろう材が素子取付基板上を流れ広がることが防止でき,しかも突堤が間隔子となって素子取付基板と半導体素子との間に所定の厚さのろう材が確保でき,素子取付基板と半導体素子の熱膨張係数差による応力で,半導体素子が割れたり剥離することが防止できる。」(第3頁第14行-第4頁第19行)

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア 引用発明は,「リードフレームに凹部を形成し」ており,「リードフレームの表面に設けられた凹状領域」を有するものである。
イ 引用発明は,「所定量のペースト状の半田材を凹部内に塗布し」ており,「凹状領域に」「はんだを供給」しているといえる。
ウ 引用発明の「半導体チップ」は,本願発明1の「電力用半導体素子」と「半導体素子」である点で共通し,引用発明は,「所定量のペースト状の半田材を凹部内に塗布し,半導体チップを押し付けることにより,半導体チップの裏面の全域とダイボンディング領域17との間に,ペースト状の半田材を均一に広げる半導体チップを搭載」しており,「前記リードフレームの上に,前記凹状領域を覆うように」「半導体素子を搭載」しているといえる。
エ 引用発明の「凹部」は,本願発明1の「溝部」に相当し,引用発明は,「リードフレームに凹部を形成し」ており,「前記凹状領域は,前記リードフレームに形成された溝部によって画定され」ているといえる。
オ 引用発明の「凹部の側面」は,「溝部の外縁部」といえ,「段差部」に相当する。
カ 引用発明の「凹部の側面」は,「底面の周縁から漸次に立ち上がる曲面を有して」おり,「前記溝部の段差部は,該溝部の面方向の大きさが」「半導体素子に向かってテーパ状に大きくなるように形成され」ているといえる。
キ 引用発明は「凹部の開口面積は,半導体チップの裏面の面積より小さい」から,「前記溝部の段差部は,平面視で前記電力用半導体素子の外縁部の内側に位置し」ているといえる。
ク すると,本願発明1と引用発明とは,下記ケの点で一致し,下記コの点で相違する。
ケ 一致点
「リードフレームの表面に設けられた凹状領域にはんだを供給する工程と,
前記リードフレームの上に,前記凹状領域を覆うように半導体素子を搭載する工程とを含み,
前記凹状領域は,前記リードフレームに形成された溝部によって画定され,
前記溝部の段差部は,該溝部の面方向の大きさが前記半導体素子に向かってテーパ状に大きくなるように形成され,
前記溝部の段差部は,平面視で前記半導体素子の外縁部の内側に位置することを特徴とする,半導体装置の製造方法。」

コ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1では,「電力用」半導体素子であるのに対し,引用発明ではLSI等の半導体チップである点。
(イ)相違点2
本願発明1では,「はんだ」は「溶融はんだ」であり,「前記溝部の外縁部には,供給された溶融はんだを塞き止める段差部が設けられ」「前記電力用半導体素子を搭載する工程では,塞き止められた状態の溶融はんだを前記段差部の外側まで濡れ広げる」のに対し,引用発明では,「はんだ」は「ペースト状の半田材」であり,「LSI等の半導体チップを押しつけることにより,・・・ペースト状の半田材を均一に拡げる半導体チップを搭載する工程と,続いて,所定温度で加熱してペースト状の半田材を溶融させる・・・工程」を含み,「凹部の側面は,底面の周縁から漸次に立ち上がる局面を有して」いる点。

(2)相違点についての判断
相違点2について検討する。
引用発明は,「図7に示した半導体装置80では,ダイボンディング材85が,半導体チップ81の裏面81bの一部と凹部86との間にのみ介在していて,凹部86が形成されていない部分と半導体チップ81の裏面81bとの間には,ダイボンディング材85が介在していないため,半導体チップ81とアイランド82との接合面積が少ない。従って,熱応力や温度サイクルによる収縮応力が生じた場合には,ダイボンディング材85にクラックが発生したり,半導体チップ81がダイボンディング材85から剥離したりするという問題があった。特に,ダイボンディング材85は,アイランド82に形成された凹部86内にのみ充填されるため,ダイボンディング材85の厚さを確保することが困難であり,クラックや剥離が生じ易いという問題があった。」(第5の1(1)【0014】)ことを課題としている。
そして,溶融はんだを突堤により塞き止めて,次に半導体素子を押圧し塞き止められた状態の溶融はんだを外側まで濡れ広げる技術は,引用文献4に記載されているが,引用文献4に記載された技術を引用発明に採用すると,この際に外側まで濡れ広がる溶融はんだは「凹所内に収容され凹所の上面より高い」部分,すなわち溶融はんだの表面張力により盛り上がった部分のみとなるから,ペースト状の半田材を用いる引用発明に引用文献4に記載された技術を採用すると,外側に広がる溶融はんだの量が減少する。すると,「ダイボンディング材の厚さを確保する」という引用発明の目的に反することになるから,相違点2を解消することには阻害要因がある。
さらに,引用文献2-4に記載された溶融はんだを用いるものを引用発明に採用する動機づけがない。

(3)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1-4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2-3について
本願発明2-3は,本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,前記1と同様の理由により,引用文献1-4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定について
1 理由(特許法第29条第2項)について
平成30年6月20日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1の「リードフレームの表面に設けられた凹状領域に溶融はんだを供給する工程と,前記リードフレームの上に,前記凹状領域を覆うように電力用半導体素子を搭載する工程とを含み,前記電力用半導体素子を搭載する工程では,塞き止められた状態の溶融はんだを前記段差部の外側まで濡れ広げることを特徴とする」ことは,原査定の引用文献1-6には記載されていないし,周知技術でもない。
よって,本願発明1-3は,当業者が原査定の引用文献1-6に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-01 
出願番号 特願2013-250011(P2013-250011)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 小田 浩
河合 俊英
発明の名称 電力用半導体装置およびその製造方法  
代理人 中野 晴夫  
代理人 山田 卓二  

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