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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1344608
審判番号 不服2017-19179  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-25 
確定日 2018-10-16 
事件の表示 特願2013-201570「非水系二次電池負極用炭素材、それを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月13日出願公開、特開2015- 69762、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年 9月27日の出願であって、平成29年 4月26日付けで拒絶理由が通知され、同年 7月24日付けで手続補正書および意見書が提出され、同年 9月14日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年 9月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2008-186732号公報
2.特開2009-266795号公報
3.国際公開第2010/113783号
4.特開2013-089327号公報

第3 本願発明
本願請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、平成29年 7月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
複合炭素粒子(A)及び複合炭素粒子(B)を含有する非水系二次電池負極用炭素材であって、複合炭素粒子(A)は少なくとも黒鉛粒子及び珪素元素を含み、複合炭素粒子(B)は少なくとも黒鉛粒子、珪素元素及び炭素質物を含み、複合炭素粒子(B)は複合炭素粒子(A)よりもプレス荷重の値が大きいことを特徴とする非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項2】
複合炭素粒子(A)は炭素質物の含有量が0質量%以上10質量%以下であり、複合炭素粒子(B)は炭素質物の含有量が1質量%以上40質量%以下であり、複合炭素粒子(B)の該炭素質物の含有量は複合炭素粒子(A)の該炭素質物の含有量よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項3】
該複合炭素粒子(A)のプレス荷重(Pa)と該複合炭素粒子(B)のプレス荷重(Pb)の比(Pb/Pa)が、1より大きく30以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項4】
該炭素質物が黒鉛粒子よりも黒鉛結晶性が低いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項5】
該珪素元素がSi及びSiOx(0<x<2)の少なくともいずれか一方を含むSi化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項6】
珪素元素を含む複合炭素粒子(A)は、鱗片状黒鉛が折り畳まれた構造を有し、該折り畳まれた構造内の間隙にSi化合物粒子が存在していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項7】
集電体と、前記集電体上に形成された活物質層とを備える非水系二次電池用負極であって、前記活物質層が、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の非水系二次電池負極用炭素材を含有することを特徴とする非水系二次電池用負極。
【請求項8】
正極及び負極、並びに、電解質を備える非水系二次電池であって、前記負極が請求項7に記載の非水系二次電池用負極であることを特徴とする非水系二次電池。」

第4 引用文献、引用発明
1.引用文献1について
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2008-186732号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

1ア「以下の(1)から(5)の全てから構成される粒子であってコアが黒鉛から成り、アスペクト比が1?2である概略球状の粒子からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。
(1)黒鉛
(2)炭素前駆体を焼成してなる炭素
(3)珪素、珪素化合物、または珪素合金のうちの1種以上
(4)カーボンブラック
(5)空隙」(【請求項1】なお、下線は当審で付与した。以下同様。)

1イ「本発明は、リチウム二次電池用負極活物質及びそれを使用した負極に関し、黒鉛基材に珪素・珪素化合物・珪素合金の微粉末、あるいは、珪素・珪素化合物・珪素合金の微粉末とカーボンブラックの混合物等を複合化することにより得られる高容量でサイクル特性に優れたリチウム二次電池用の負極活物質、それを使用した負極及びその製造法に関する。」(段落【0001】)

1ウ「現在の主流である黒鉛質材を超える高容量の負極活物質の開発が検討されているが、高容量であるとともにサイクル特性や電池効率に優れ、実用化できる負極活物質の開発は未だなされていない。
本発明者らは、この問題を解決すべく 黒鉛に珪素・珪素化合物・珪素合金の微粉末を添加して高容量とした負極活物質について、特にサイクル特性の改善について研究をした。そして、サイクルの進行に伴い、珪素表面が活性化して電解液と反応することに起因する放電容量の低下を抑制することについて研究を重ね、また、リチウムイオンの収蔵・放出に伴う珪素微粉の体積変化を吸収するための有効な方法を研究した。
・・・
そこで、珪素・珪素化合物・珪素合金を複合させることによって得られた高容量を維持しつつ、電極としてリチウムイオンの収蔵・放出に伴う体積変化に対しても導電性のネットワークを維持し、更にサイクル特性の向上を達成するために、負極活物質自体の導電性を高めることが重要であると認識するに至った。
・・・
上記のような状況に鑑み、黒鉛を超える高容量であって、サイクル特性、電池効率に優れたリチウム二次電池負極活物質を提供するものであり、珪素・珪素化合物・珪素合金を複合させることによって高容量化した黒鉛系の負極活物質の導電性を高めるのが本発明の課題である。」(段落【0008】、【0009】、【0012】、【0013】)

1エ「まず、基材である黒鉛粉末は、コークスまたは生コークスの黒鉛化品、コークス(フィラー)とピッチ(バインダー)を混捏・成形・焼成・黒鉛化して得られる黒鉛ブロックを粉砕した人造黒鉛粉末、メソフェーズピッチ粉末の黒鉛化品やこれを成形・焼成・黒鉛化して得られる黒鉛ブロックを粉砕した人造黒鉛粉末、あるいは、市販の黒鉛ブロックを粉末化したものである。
市販品の例では、新日化テクノカーボン株式会社製IGS-603、IGS-644、IGS-743、IGS-744、IGS-844、IGS-895、IGS-652、EGS-743、EGS-763、GS-203、GS-203R、GF-130等が挙げられる。更には鱗状や鱗片状天然黒鉛およびこれら天然黒鉛の造粒品や球状化品などが使用可能で、これら二種以上を任意の割合で混合した混合物を用いてもよい。
黒鉛粉末の平均粒子径は、市販の黒鉛負極材と同程度であれば問題なく、5?50μm程度が適当である。」(段落【0016】)

1オ「本発明のリチウム二次電池負極活物質によると、微粉化された珪素・珪素化合物・珪素合金が負極活物質の中に埋設された構成とすることにより、珪素・珪素化合物・珪素合金の微粉末と電解液との反応に起因するサイクル特性の劣化を有効に抑制することができる。
また、活物質内部に形成された空隙が、リチウムのドープ・アンドープに伴う体積膨張を吸収し、電極の破壊防止に優れた効果を発揮する。
活物質各所に添加・固定されたカーボンブラックは、それぞれ活物質内部、活物質同士の導電性を高める働きをになう。
これらの作用、効果により従来の黒鉛負極活物質を超える高容量であるとともに、サイクル特性、電池効率にも優れた負極活物質を提供できるものである。」(段落【0028】)

1カ「【実施例5】
平均粒子径(D50)が16μmの鱗状黒鉛100重量部と平均粒子径(D50)0.2μm、最大粒径(Dtop)を<1μmに粉砕した金属珪素15重量、アセチレンブラック(AB)5重量部及び空隙形成剤としてポリアクリル酸1.0重量部を高速撹拌混合機にて均一混合し、これを株式会社奈良機械製作所製ハイブリタイゼーションを用いて造粒、球形化を行った。更に、この造粒物100重量部に対してバインダーピッチ15重量部を加熱ニーダーで加熱混合、これを窒素雰囲気下にて1000℃で焼成し、この焼成物を解砕・目開き38μmの篩を通し目的物を得た。
平均粒子径(D50)=5.0μ、最大粒子径(Dtop)=31.1μm、BET法による比表面積はSSA=2.41m^(2)/gであった。
この負極活物質粒子の構造モデルを図9に、SEM写真を図10に示す。
粒子は、ほぼ球状であり、鱗状黒鉛(1)が球体の殻となっており、アセチレンブラックを焼成した炭素(3)、金属珪素微粒子(4)、及び空隙(5)は殻の内部に存在している。粒子の表面は、炭素前駆体のピッチを焼成した炭素の層(2)が形成されている。
結着材としてPVdFを外割5%と混合し電極を作製し、プレス後の電極厚は40μmであり、電極密度は1.59g/cm^(3)であった。対極にLi金属を用い、電解液に1M LiPF6/EC:MEC(1:2)を用いて実施例1と同様に充放電試験を行った。作製したコインセルでの初回放電容量は553mAh/gであり、初回放電効率は89.2%であった。」(段落【0034】)

1キ「



ア 上記引用文献1には、上記1ウによれば、黒鉛質材を超える高容量の負極活物質として開発されている、黒鉛に珪素、珪素化合物、または珪素合金の微粉末を添加して高容量とした負極活物質において、更にサイクル特性、電池効率に優れたリチウムイオン二次電池用負極活物質を提供しようとするものであって、上記1アによれば、そのようなリチウムイオン二次電池用負極活物質は、(1)黒鉛、(2)炭素前駆体を焼成してなる炭素、(3)珪素、珪素化合物、または珪素合金のうちの1種以上、(4)カーボンブラック、(5)空隙の全てから構成されるものであると記載されている。

イ そして、上記1カによれば、そのようなリチウムイオン二次電池用負極活物質の具体例である実施例5として、図9も参照して、球体の殻となっている鱗状黒鉛(1)と、アセチレンブラックを焼成した炭素(3)と、金属珪素微粒子(4)と、殻の内部に存在している空隙(5)と、粒子の表面に形成されている、炭素前駆体のピッチを焼成した炭素の層(2)から構成される、ほぼ球状の負極活物質粒子が記載されている。

ウ そこで、実施例5として製造された負極活物質粒子に注目すると、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「概略球状の負極活物質粒子からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、球体の殻となっている鱗状黒鉛、アセチレンブラックを焼成した炭素、金属珪素微粒子、前記殻の内部に存在している空隙、及び前記殻の表面に形成された、炭素前駆体のピッチを焼成した炭素の層からなるリチウムイオン二次電池用負極活物質。」

2.引用文献2について
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2009-266795号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

2ア「【請求項1】
リチウムを吸収及び放出することができ、外部表面から内部に延長されて形成される気孔を有する、黒鉛コアと、
前記気孔内部に分散配置される金属ナノ粒子と、
前記気孔内部を満たす非晶質カーボン(amorphous carbon)と、
を含むことを特徴とする、リチウム二次電池用陰極活物質。
【請求項2】
前記黒鉛コアは、平均粒径が1?15μmの黒鉛微粉末が凝集して形成されることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用陰極活物質。
【請求項3】
前記黒鉛コアは、麟片状黒鉛微粉末、扁平状黒鉛微粉末、または塊状黒鉛微粉末が凝集して形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用陰極活物質。
・・・
【請求項9】
前記金属ナノ粒子は、毛細管現象によって前記気孔に分散して配置されることを特徴とする、請求項1?8の何れかに記載のリチウム二次電池用陰極活物質。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子は、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(As)、アンチモン(Sb)及び銀(Ag)のうち少なくともいずれか1つを含んで形成されることを特徴とする、請求項1?9の何れかに記載のリチウム二次電池用陰極活物質。
・・・
【請求項15】
前記非晶質カーボンは、さらに前記黒鉛コアの外部表面にコーティングされることを特徴とする、請求項1?14の何れかに記載のリチウム二次電池用陰極活物質。
・・・
【請求項17】
前記非晶質カーボンは、ピッチカーボン(pitch carbon)を800?1000℃で2?4時間に熱処理して形成されることを特徴とする、請求項1?16の何れかに記載のリチウム二次電池用陰極活物質。」(請求項1,2,3,9,10,15,17)

2イ「本発明は、リチウム二次電池用陰極活物質及びこれを含むリチウム二次電池に関する。」(段落【0001】)

2ウ「このような問題点のため陰極活物質として、リチウム金属の代わりにリチウムイオンを吸収/放出することができる黒鉛材料を用いる方法が提案された。・・・黒鉛の場合、寿命劣化が少ないが、理論的なリチウム吸蔵能力が372mAh/gであり、リチウム金属理論容量の10%に該当する非常に小さな容量である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
このような問題点を改善するために現在に活発に研究されている物質が金属系または金属間の化合物系の陰極活物質である。しかし、このような金属などを含む金属活物質の場合、理論的放電容量は非常に高いが、電気化学的な可塑性及びこれによる充/放電効率、そして電気化学的なサイクルリング時に充放電容量の低下速度が非常に早い短所を現わしている。
本発明は、従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、充/放電効率を著しく向上させたリチウム二次電池用陰極活物質及びこれを含むリチウム二次電池を提供することにある。」(段落【0004】、【0005】、【0006】)

2エ「上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、リチウム二次電池用陰極活物質は、リチウムを吸収及び放出することができる黒鉛コア(core)、上記黒鉛コアの外部表面から内部に延長して形成された気孔、上記気孔内部に分散配置される金属ナノ粒子、及び上記気孔内部を満たす非晶質カーボン(amorphous carbon)を含むことを特徴とする。」(段落【0007】)

2オ「以上説明したように本発明による陰極活物質は、金属系陰極活物質を用いるため、理論的充電容量が非常に高く形成される。また、本発明による陰極活物質は、充放電過程でシリコンナノ粒子が非晶質カーボン及び黒鉛コアによって安定的に支持されるようになることから充放電効率が著しく増大される。」(段落【0015】)

2カ「図3は、本発明の一実施形態による陰極活物質の構造を詳しく示した断面図であり、図4は本発明の一実施形態による陰極活物質に対する拡大写真である。
本発明の一実施形態による陰極活物質221は、黒鉛コア223、黒鉛コア223の気孔229に配置される金属ナノ粒子225、金属ナノ粒子225と共に気孔229を満たす非晶質カーボン(amorphous carbon)227とを含んでなる。」(段落【0028】?【0029】)

2キ「黒鉛コア223は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション及び脱インターカレーションを行う。黒鉛コア223は、普通、球状に形成され、麟片状(鱗状)黒鉛、扁平状黒鉛、または塊状黒鉛の微粉末を凝集させて形成する。この場合、上記の黒鉛微粉末の凝集は、凝集装置を介して行われ、黒鉛微粉末を所定高さから落下させて黒鉛微粉末の端部が壁面に衝突して曲がりながら黒鉛微粉末が凝集されるようにする。ここで、凝集している様子は、例えば電子顕微鏡による観察によって調べることができる。黒鉛微粉末は、1?15μmの黒鉛微粉末を用いる。この場合、黒鉛微粉末の大きさが 1μmより小さいと、工業的な生産が難しいし、黒鉛微粉末の大きさが15μmより大きいと、後述する気孔229の気孔度が50%より大きく形成されることで、黒鉛コア223の強度が著しく低下される。
このとき、黒鉛コア223は、完全な球状である必要がなく、円錐状、円筒形に形成されても良い。一方、このような凝集処理は、粉砕機を利用して麟片状黒鉛を気流に乗せて装置の壁面に衝突する方法によって麟片状黒鉛の端部を折るか、曲げながら行うことができる。」(段落【0030】、【0031】)

2ク「気孔229の内部空間には、複数の金属ナノ粒子225が配置される。金属ナノ粒子225は、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(As)、アンチモン(Sb)または銀(Ag)のうち少なくともいずれか1つを含んで形成でき、好ましくはシリコン(Si)で形成されることができる。上記の気孔229が形成された黒鉛コアを金属ナノ粒子が混合されたアルコール溶液に浸漬させば、毛細管現象によって金属ナノ粒子225が複数の気孔229の内部に不規則に分散して配置される。上記金属元素は、リチウムイオンを吸収及び放出する特性を持つことが知られている金属元素である。ここで金属ナノ粒子の分散している様子は、例えば電子顕微鏡による観察によって調べることができる。」(段落【0035】)

2ケ「また、非晶質カーボン227が複数の気孔229を満たすように形成されて黒鉛コア223の外部表面も非晶質カーボン227がカバーするようになる。この場合、黒鉛コア223の外部表面に金属ナノ粒子225が一部位置することができ、非晶質カーボン227によって黒鉛コア223の外部表面に位置した金属ナノ粒子225がコーティングされる。よって、金属ナノ粒子225の体積膨脹抑制効果をさらに増大させるようになる。・・・
一方、非晶質カーボン227の含量は、全体陰極活物質対比10?15質量%になるようにする。非晶質カーボン227の含量が10質量%より小さいと、気孔229の気孔度が一番小さい30%の場合にも複数の金属ナノ粒子225と気孔229の内部面がお互いに隔離されないためであり、非晶質カーボン227の含量が15質量%より大きいと、黒鉛コアの表面をカバーする非晶質カーボンの量が増大されるので、全体陰極活物質の粒径が大きくなって電池容量の損失が発生されるからである。」(段落【0040】、【0041】)

2コ「(実施例1)
先ず、黒鉛コアが平均粒径5μmの麟片状黒鉛微粉末粒子をブレード方式のロトミルに投入してブレードの回転力と摩擦力によって凝集されるようにして製造された。このとき、黒鉛コアの平均粒径は20μmであった。また、黒鉛コアの内部気孔度が20%であった。また、シリコンは、ビズミル(bead mill)で平均粒径が250nmであるシリコンナノ粒子に粉砕された。このとき、シリコンは、全体陰極活物質対比15質量%の含量を有するようにした。また、シリコンナノ粒子をアルコールと混合してシリコンナノ粒子溶液に製造し、製造された黒鉛コアをシリコンナノ粒子溶液に浸漬させた。このとき、上記シリコンナノ粒子を毛細管現象によって黒鉛コアの内部気孔に分散し、乾燥させた。また、全体陰極活物質対比10質量%のカーボンピッチを加えて混合した。上記黒鉛コアの気孔及び外面にピッチカーボンをコーティングさせた後に、900℃で3時間に熱処理して陰極活物質を製造した。このような熱処理過程でピッチカーボンは、非晶質カーボンに形成される。この熱処理によるピッチは黒鉛コアの気孔中に染み込むことも可能である。
このような陰極活物質と導電材としての黒鉛、バインダーとしてSBR、増粘剤としてCMCを質量比で80:15:3:2で溶媒に混合して陰極活物質スラリーを製造した。上記製造された陰極活物質スラリーをドクターブレード法によって厚さ10μmの銅箔にコーティングし、真空雰囲気中で100℃、24時間に乾燥して溶媒を揮発させた。そして、陰極活物質がコーティングされた銅箔を厚さ100μmにプレスして幅4.4cmで切断して陰極板を製造した。」(段落【0044】、【0045】)

2サ「



ア 上記引用文献2には、上記2ウによれば、黒鉛が有する小さな容量や、金属活物質が有する、電気化学的なサイクルリング時に充放電容量の低下速度が非常に速いという従来の活物質の短所に対して、充放電効率を著しく向上させた高容量なリチウム二次電池用陰極活物質を提供しようとするものであって、上記2アによれば、そのようなリチウム二次電池用陰極活物質は、気孔を有する黒鉛コアと、前記気孔内部に分散配置される金属ナノ粒子と、前記気孔内部を満たすとともに前記黒鉛コアの外部表面にコーティングされる非晶質カーボンを含むものであって、前記非晶質カーボンは、ピッチカーボンを熱処理して形成され、前記金属ナノ粒子はシリコンナノ粒子であるものであると記載されている。

イ そして、上記2コによれば、そのようなリチウム二次電池用陰極活物質の具体例である実施例1として、麟片状黒鉛微粉末粒子を凝集して製造された黒鉛コアであって、内部に気孔を有する黒鉛コアと、前記気孔の内部に分散して配置されたシリコンナノ粒子と、前記気孔内部を満たすとともに前記黒鉛コアの外部表面をコーティングする非晶質カーボンであって、ピッチカーボンを熱処理して形成された非晶質カーボンとを含むリチウム二次電池用陰極活物質が記載されている。

ウ そこで、実施例1で製造された陰極活物質に注目すると、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「麟片状黒鉛微粉末粒子を凝集して製造された、内部に気孔を有する、黒鉛コアと、前記気孔の内部に分散して配置されたシリコンナノ粒子と、前記気孔内部を満たすとともに前記黒鉛コアの外部表面をコーティングする、ピッチカーボンを熱処理して形成された非晶質カーボンとを含む、リチウム二次電池用陰極活物質。」

3.引用文献3について
本願の出願前に外国において、電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(国際公開第2010/113783号)には、図面とともに次の事項が記載されている。

3ア「 このような状況において、最近では負極の容量をさらに高めるための手法として、黒鉛系材料から構成される負極材料をより圧縮することにより、得られた負極の密度を高める試みが行われている。負極材料を圧縮して負極の密度を高めるためには、負極を形成すべく黒鉛系材料が圧縮されたときに黒鉛系材料が変形して隣接した粒子同士の空間を埋める必要がある。したがって、負極密度を高める観点のみからは、黒鉛系材料は軟らかい方が好ましい。
この点、天然黒鉛など高結晶性の黒鉛からなる黒鉛系材料(以下、「高結晶性黒鉛粒子」という。)は、層間すべりが容易に発生するため非常に軟らかい。このため、高結晶性黒鉛粒子は容易に変形する。したがって、高結晶性黒鉛粒子を原料とすることで負極の密度が高い負極材料を容易に得ることができる。
しかしながら、高結晶性黒鉛粒子は軟質であるため、高結晶性黒鉛粒子のみからなる負極材料を圧縮して得られた負極内には多数の閉気孔が生じてしまう。このため、得られた負極の充電受け入れ性が低下してしまうという問題があった。
ここで、「充電受け入れ性」とは、負極材料がどれだけスムーズにリチウムイオンと反応するかの指標であり、これが低いと充電時負極にリチウム金属が析出してしまう。・・・
この充電受け入れ性の低下という問題を克服するために、次のような手段が行われた。
(i)高結晶性黒鉛粒子の表面を結晶性の低い炭素で被覆する。このようにして得られた黒鉛系材料を被覆黒鉛粒子という。
(ii)高結晶性黒鉛粒子の表面に結晶性の低い炭素を部分的にでも付着させる。このようにして得られた黒鉛系材料を付着黒鉛粒子という。
被覆黒鉛粒子および付着黒鉛粒子は、表面に存在する低結晶性の炭素物質が非常に硬いため、双方とも黒鉛系材料全体としての硬度が高い。・・・したがって、被覆黒鉛粒子および/または付着黒鉛粒子からなる負極材料を圧縮して得られた負極は、その内部における閉気孔の発生が抑制され、結果的に負極の充電受け入れ性の低下が抑制される。
しかしながら、この場合には、負極材料を構成する黒鉛系材料の硬度が高いので、負極を得るために圧縮される負極材料への加圧力を高める必要がある。このため、装置上の理由などにより負極材料を充分に圧縮できない場合には、負極の密度を高めることができない。
装置上の問題がなく負極材料を十分に圧縮できる場合であっても、高密度の負極を得ようとして被覆黒鉛粒子および/または付着黒鉛粒子を含む負極材料を過度に圧縮すると、被覆黒鉛粒子および/または付着黒鉛粒子の表面に存在する硬質な炭素物質の破壊が著しくなる。この表面の炭素物質の破壊は、負極を構成する負極材料に多数の新生面をもたらす。この生成した新生面にはSEI(固体電解質界面、Solid Electrolyte Interface)被膜が形成される。このSEI被膜は、電池の不可逆容量(充電容量-放電容量)の増大という問題を引き起こす。」(段落【0007】?【0014】)

3イ「本発明は、高密度によりもたらされる高い容量に加え高い充電受け入れ性を負極が有し、しかも不可逆容量の増加が抑制されている非水系二次電池を提供しうる負極材料に適した炭素材料を提供することを課題とする。」(段落【0026】)

3ウ「上記課題を解決すべく、提供される本発明の一態様は、炭素材料Aと炭素材料Bとを含む混合炭素材料であって、炭素材料Aおよび炭素材料Bはいずれも、黒鉛粉末からなる核材と、この黒鉛粉末の表面の少なくとも一部に付着したおよび/または被覆された表面炭素物質とからなり、表面炭素物質は非晶質炭素および乱層構造炭素のうち少なくとも1種からなり、下記に定める圧縮密度が炭素材料A単独では1.80?1.90g/cm^(3)、炭素材料B単独では1.45?1.65g/cm^(3)、および混合炭素材料では1.75?1.84g/cm^(3)であって、炭素材料Bの平均粒径が、14μm以下であるとともに、炭素材料Aの平均粒径よりも小さく、炭素材料Aおよび炭素材料Bの比表面積が、それぞれ4m^(2)/g以下および6m^(2)/g以下である、混合炭素材料である。」(段落【0027】)

3エ「ここで、圧縮密度とは、直径15mmの円筒状金型に粉末材料を1.00g充填し、8.7kNのプレス圧力で加圧した後0.15kNまで除圧した場合の密度である。
上記の混合炭素材料は、炭素材料Aおよび炭素材料Bの混合比が、質量比で、90:10?60:40であることが好ましい。」(段落【0028】)

3オ「本発明は、別の一態様として、上記の混合炭素材料を含む負極材料を備える非水系二次電池用負極を提供する。
本発明に係る炭素材料は、圧縮されたときに、炭素材料Bよりも平均粒径が大きくかつ硬度の低い炭素材料Aが適度に変形して炭素材料の粒子間に生じる空間が充填される。その一方で、炭素材料Aは適度に炭素被覆されているため、炭素材料Aの過剰な変形が生じにくい。したがって、負極の密度を高めるべく、本発明に係る炭素材料からなる負極材料を加圧して負極を形成したときに、得られた負極は粒子同士の接触面積の過度な増加が抑えられている。このため、電解液と接することのできるLiイオン挿入孔が十分確保できる。したがって、この負極は高密度でありながら良好な充電受け入れ性を有する。」(段落【0029】)

3カ「(実施例1)
以下の製造方法により得られた炭素材料AおよびBを、表1に示される配合比(質量比)で混合することにより、負極材料としての混合炭素材料を得た。なお、各炭素材料について上記の方法により圧縮時の密度を測定した結果は表1に示したとおりであった。
(1)炭素材料A
鱗片状天然黒鉛粉末を球形化処理してなる平均粒径30μm、比表面積(S1)3.6m^(2)/gの黒鉛粉末100質量部と、平均粒径35μm、軟化点85℃の石炭系ピッチ粉末1質量部とをVブレンダーを用いて固体混合した。
得られた混合粉末を加熱炉内に静置し、窒素気流下、1000℃で1時間熱処理した。その後、窒素気流下室温まで炉を放冷して、黒鉛粉末と、その表面に付着する、ピッチが炭化して生じた乱層構造炭素からなる表面炭素物質とからなる炭素材料Aを得た。
(2)炭素材料B
鱗片状天然黒鉛粉末を球形化処理してなる平均粒径11μm、比表面積(S1)6.8m^(2)/gの黒鉛粉末100質量部と、平均粒径35μm、軟化点85℃の石炭系ピッチ粉末10質量部とをVブレンダーを用いて固体混合した。
得られた混合粉末を加熱炉内に静置し、窒素気流下、1000℃で1時間熱処理した。その後、窒素気流下室温まで炉を放冷して、黒鉛粉末と、その表面に付着する、ピッチが炭化して生じた乱層構造炭素からなる表面炭素物質とからなる炭素材料Bを得た。」(段落【0071】?【0075】)

3キ「表1



ア 上記3アによれば、負極材料である軟質な高結晶性黒鉛粒子の容量を高めるために圧縮しようとすると、多数の閉気孔が生じて充電受け入れ性が低下してしまうという問題があり、前記問題を解決するために上記粒子に対して硬い炭素物質を被覆させると、装置上の理由で負極材料を充分に圧縮できず負極の密度を高めることができないし、装置上の問題がない場合でも、過度に圧縮した場合に、硬質な炭素物質の破壊が著しくなって、多数の新生面が生成され、この生成した新生面にはSEI被膜が形成されるので、電池の不可逆容量が増大するという新たな問題が生じていたところ、上記3イによれば、引用文献3では、これらの問題を解決すべく、高密度によりもたらされる高い容量に加え高い充電受け入れ性を負極が有し、しかも不可逆容量の増加が抑制されている非水系二次電池を提供しうる負極材料に適した炭素材料を提供することを課題としている。

イ そして、上記3ウ、3カによれば、上記課題を解決する負極材料に適した混合炭素材料として、2種類の炭素材料Aと炭素材料Bを含む混合炭素材料であって、炭素材料Aと炭素材料Bは、いずれも、黒鉛粉末からなる核材と、この黒鉛粉末の表面の少なくとも一部に付着したおよび/または被覆された表面炭素物質とからなり、前記炭素材料Aと炭素材料Bは、圧縮密度が異なるものとし、それぞれの炭素材料の圧縮密度を特定の数値範囲内とし、かつ平均粒径及び比表面積も特定の数値範囲内とするという技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(特開2013-089327号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

4ア「また、負極活物質に用いられる炭素材料としては、高結晶性黒鉛から低結晶性黒鉛、非結晶性黒鉛、人造黒鉛、被覆された天然黒鉛、ハードカーボンなどで、色々な炭素材料を検討されている。高容量化可能な活物質はほとんど柔らかく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、高結晶性黒鉛を用いた場合、ロールプレスにより加圧成型した結果、SEM観察およびX線回折によると、図2のように活物質は集電体と水平方向に長く伸びる変形になり、ベーサル面が配向する問題が発生した。Liイオンは、電池の充放電時に正負極間を電極に対して垂直方向に繰り返し移動する。活物質がベーサル面を配向すると、エッジ面が集電体に垂直して配向するため、Liイオンが迂回する経路が長くなり、レート特性が低下してしまう。また、電池の充電時に、活物質にLiイオンを吸蔵するため膨張する。すべてエッジ面が集電体に垂直してそろって配向すると、活物質が対極に向かって特定方向に集中に膨張してしまい、合剤層が集電体から剥離・脱落、活物質粒子同士の結着が剥離する可能性が高くなる。」(段落【0005】)

4イ「【発明が解決しようとする課題】
特許文献1は、アンカー部材の粒径が活物質層の厚みの1?1.2倍であるため、集電体にスラリーを塗布する塗工工程で、塗面にスジ等の不具合が発生する恐れがあり、また、電極の圧延による合剤層密度が確保できない。特許文献2は、弾性高分子が絶縁性であること、材料の種類が多く、製造コストがかかってしまう。特許文献3は、繊維状炭素、カーボンナノチューブは比表面積が大きいため、不可逆容量が大きく、容量低下になりやすい。
本発明は、上記の課題を解決し、レート特性が向上し、長寿命化できる非水電解質二次電池を提供することにある。特に、リチウムイオン電池の高容量化を目的としている。」(段落【0008】、【0009】)

4ウ「【課題を解決するための手段】
本発明が解決しようとする課題は、例えば以下に示した手段により解決される。
(1)集電体の上に形成される負極合剤層を有する非水電解質二次電池用負極であって、負極合剤層は、第1の粒子、第2の粒子を含み、第2の粒子は、Liイオンの吸蔵・放出可能な炭素系材料であり、第1の粒子の硬さは、第2の粒子より高く、第1の粒子の平均粒径は、第2の粒子の平均粒径よりも大きく、負極合剤層の厚さの1/2以下である非水電解質二次電池用負極。
・・・
(6)上記において、第1の粒子は、低結晶性炭素、ハードカーボン、アモルファスカーボン、ソフトカーボン、金属、無機物のいずれか一種以上であり、第2の粒子は、天然黒鉛、人造黒鉛、高結晶性黒鉛、被覆された黒鉛のいずれか一種以上である非水電解質二次電池用負極。
・・・
【発明の効果】
上記の構成によれば、負極の第2の粒子のつぶれを防止することにより、レート特性が向上し、長寿命化できる非水電解質二次電池を得ることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。」(段落【0010】?【0011】)

4エ「本発明の一実施形態においては、第1の粒子は、低結晶性炭素、ハードカーボン、アモルファスカーボン、ソフトカーボン、金属、無機物のいずれか一種以上であり、第2の粒子は、天然黒鉛、人造黒鉛、高結晶性黒鉛、被覆された黒鉛のいずれか一種以上である。これにより、非水電解質二次電池用負極は、負極製作時の圧延工程での第2の粒子はつぶれ防止ができる。
第1の粒子は、主に第2の粒子を負極製作時の圧延工程でのつぶれを防止するためのアンカーリング粒子として用いられる。第1の粒子として、上記の材料を単独で用いても良いし、二種類以上混ぜて使用しても良い。
硬さが第2の粒子より高いのであれば、第2の粒子と同様にリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を用いてもよい。リチウムイオンを吸蔵放出可能なLTO、炭素被覆されたLTOでもよい。第1の粒子に硬さが第2の粒子より高くリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を用いる場合、負極製作時の圧延による第2の粒子のつぶれ防止のみならず、容量増加ができ、効果が大きい。
金属は、特に制限されないが、リチウムと電気化学的に反応しない金属が好ましく、例えば、Cu、Ni、Ag、Auなどが望ましい。第1の粒子に金属を用いることにより、負極製作時の圧延による第2の粒子のつぶれ防止の他、負極の合剤層内の電導パスがさらなる強力となり、有効な材料となる。
無機物は、特に制限されないが、導電性を有することが好ましく、ITO、IZO、V_(2)O_(5)、MoS_(2)、WO_(3)などがあげられる。第1の粒子に硬度の高い無機物を用いることにより、アンカー効果が大きく負極製作時の圧延による第2の粒子のつぶれ防止に役にたつ。LTO、炭素被覆されたLTOを用いると容量増加でさらに効果が大きくなる。
第2の粒子は、負極活物質として用いられ、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素系材料であり、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、高結晶性黒鉛、被覆された黒鉛などを使用することが可能である。不可逆容量を減らすための被覆した天然黒鉛がより望ましい。天然黒鉛は、低コストで、電池を高容量化できる点で望ましい。X線回折で得られるd値が0.3354?0.3370nmが望ましい。第2の粒子として、上記の材料を単独で用いても良いし、2種類以上混ぜて使用しても良い。」(段落【0018】?【0023】)

4オ「負極308は次の方法で作製した。第1の粒子には、平均粒径40μmのハードカーボンを、第2の粒子には、平均粒径10μmの天然黒鉛を重量比3:97となるように混合したものを用いた。バインダとしては、スチレン・ブダシエンゴムを、増粘剤としては、CMCと水とを混合した。 得られた負極スラリーを厚さ10μmの銅箔からなる負極集電体333の片面に塗布し、仮乾燥させることで、負極集電体333上に負極合剤層332を得た。これにより、負極合剤層332が形成された負極集電体333をロールプレスでプレスした後、本乾燥させ、電極を作製した。この電極を直径が16mmの円盤状に打ち抜いて、負極308とした。合剤層の厚さは80μmであった。
ここで、負極合剤層332の第1の粒子の体積比を求める。負極合剤層332の断面をSEMで観察し、得られたSEM画像には、大小の異なる粒径の第1の粒子と第2の粒子、バインダがみられる。第1の粒子は、粒子内部に空隙、細孔がみられないことからハードカーボンであると判断できる。第2の粒子は、粒子内部に空隙、細孔がみられることから、天然黒鉛と判断できる。また、第2の粒子の形状はほとんどつぶれていないことを確認した。・・・」(段落【0065】?【0067】)

ア 上記4アによれば、リチウムイオン電池の負極活物質として、従来、高容量化可能な人造黒鉛や天然黒鉛等が用いられているが、これらの活物質は柔らかく、加圧成型するとベーサル面が配向してしまうため、レート特性が低下してしまい、また、活物質同士の結着が剥離するという問題があるところ、上記4イによれば、レート特性が向上し、長寿命化できる非水電解質二次電池を得ることを解決しようとする課題としたものであり、上記4ウ、4エ、4オによれば、上記課題を解決すべく、負極中の第2の粒子(黒鉛)が圧延工程においてつぶれることを防止するために、当該黒鉛よりも硬い、ハードカーボンやアモルファスカーボン等である第1の粒子(アンカーリング粒子)を含有させるとともに、第1の粒子の平均粒径を、第2の粒子の平均粒径よりも大きくするという技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比について
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「鱗状黒鉛」、「金属珪素微粒子」、「炭素前駆体のピッチを焼成した炭素」は、それぞれ、本願発明1における「黒鉛粒子」、「珪素元素」、「炭素質物」に相当する。

イ 引用発明1における「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、「球体の殻となっている鱗状黒鉛」を含んでいるので「炭素材」ということができるから、本願発明1における「非水系二次電池負極用炭素材」に相当する。

ウ 上記アの検討を踏まえれば、引用発明1における、少なくとも「鱗状黒鉛」、「金属珪素微粒子」及び「炭素前駆体のピッチを焼成した炭素の層」を含む「負極活物質粒子」は、本願発明1における「少なくとも黒鉛粒子及び珪素元素を含」む「複合炭素粒子(A)」又は「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素及び炭素質物を含」む「複合炭素粒子(B)」に相当する。

エ したがって、本願発明1と引用発明1には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「複合炭素粒子を含有する非水系二次電池負極用炭素材であって、複合炭素粒子は少なくとも黒鉛粒子、珪素元素を含む、非水系二次電池負極用炭素材。」

(相違点1)
「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素を含む」「複合炭素粒子」が、本願発明1では、「少なくとも黒鉛粒子及び珪素元素を含」む「複合炭素粒子(A)」と「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素及び炭素質物を含」む「複合炭素粒子(B)」の二種類であり、一方の「複合炭素粒子(B)」が、他方の「複合炭素粒子(A)」よりも「プレス荷重の値が大きい」のに対して、引用発明1では、少なくとも「鱗状黒鉛」、「金属珪素微粒子」及び「炭素前駆体のピッチを焼成した炭素の層」を含む「負極活物質粒子」の一種類であり、上述の二種類ではない点。

(2)本願発明1と引用発明2との対比について
本願発明1と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2における「麟片状黒鉛微粉末粒子」、「シリコンナノ粒子」及び「ピッチカーボンを熱処理して形成された非晶質カーボン」は、それぞれ、本願発明1における「黒鉛粒子」、「珪素元素」及び「炭素質物」に相当する。

イ 引用発明2における「リチウム二次電池用陰極活物質」は、「麟片状黒鉛微粉末粒子」を含んでいるので「炭素材」ということができるから、本願発明1における「非水系二次電池負極用炭素材」に相当する。

ウ 引用発明2における、少なくとも「麟片状黒鉛微粉末粒子」、「シリコンナノ粒子」及び「非晶質カーボン」を含む「リチウム二次電池用陰極活物質」は、上記2サの図3でその形状が示されているとおり、粒子状の物質であるから、上記アの検討も踏まえると、本願発明1における、「少なくとも黒鉛粒子及び珪素元素を含」む「複合炭素粒子(A)」又は「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素及び炭素質物を含」む「複合炭素粒子(B)」に相当する。

エ したがって、本願発明1と引用発明2には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「複合炭素粒子を含有する非水系二次電池負極用炭素材であって、複合炭素粒子は少なくとも黒鉛粒子、珪素元素を含む、非水系二次電池負極用炭素材。」

(相違点2)
「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素を含む」「複合炭素粒子」が、本願発明1では、「少なくとも黒鉛粒子及び珪素元素を含」む「複合炭素粒子(A)」と「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素及び炭素質物を含」む「複合炭素粒子(B)」の二種類であり、一方の「複合炭素粒子(B)」が、他方の「複合炭素粒子(A)」よりも「プレス荷重の値が大きい」のに対して、引用発明1では、少なくとも「麟片状黒鉛微粉末粒子」、「シリコンナノ粒子」及び「ピッチカーボンを熱処理して形成された非晶質カーボン」を含む粒子状の「リチウム二次電池用陰極活物質」の一種類であり、上述の二種類ではない点。

(3)相違点についての判断
上記(1)、(2)で検討したように、相違点1、相違点2は、いずれも、「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素を含む」「複合炭素粒子」が、本願発明1では、「少なくとも黒鉛粒子及び珪素元素を含」む「複合炭素粒子(A)」と「少なくとも黒鉛粒子、珪素元素及び炭素質物を含」む「複合炭素粒子(B)」の二種類であり、一方の「複合炭素粒子(B)」が、他方の「複合炭素粒子(A)」よりも「プレス荷重の値が大きい」のに対して、引用発明1と引用発明2では、いずれにおいても、一種類の「複合炭素粒子」しか含まれていない点で、共通するものであるから、以下、「複合炭素粒子(B)は複合炭素粒子(A)よりもプレス荷重の値が大きい」との構成がない点を「共通の相違点」といい、当該共通の相違点の観点から検討する。

(3-1) 引用発明1又は引用発明2と、引用文献3の組み合わせにつ
いて
ア 「第4 引用文献、引用発明等」の「3.引用文献3について」のア、イで検討したとおり、引用文献3は、負極材料として高結晶性黒鉛を使用する場合に、高結晶性黒鉛をより高密度に圧縮することによって高い容量を実現することを前提とするものであり、従来、軟質の高結晶性黒鉛を圧縮して使用する場合と、硬質な炭素物質を被覆したものを圧縮して使用する場合のいずれにおいても不都合があるところ、引用文献3では、圧縮密度の異なる、すなわち、硬度の異なる2種類の炭素材料Aと炭素材料Bを用いることによって課題を解決しようとするものである。

イ 一方、引用発明1と引用発明2は、いずれも、黒鉛材料以外に、黒鉛に比べて桁違いに単位質量当たり容量の大きい金属珪素微粒子やシリコンナノ粒子を含有させることによって、高い容量を実現しているものであって、引用発明1も引用発明2も、黒鉛をより高密度に圧縮するまでもなく、既に黒鉛のみを使用するよりも高い容量が達成されているものである。

ウ したがって、金属珪素微粒子やシリコンナノ粒子を含有させることによって既に高容量化の課題が達成されており、黒鉛を高密度に圧縮する必要がない引用発明1、引用発明2において、黒鉛をより高密度に圧縮することで高容量化を達成することを前提とする引用文献3に記載の技術を導入しようとする動機付けは、そもそも、存在しないといえる。

エ また、本願明細書の段落【0020】に、「本発明においてプレス荷重とは、粒子を用いて極板を作成する時のプレス荷重のことであり、粒子硬さの指標として用いる。硬い粒子を用いて作製された負極は、プレス荷重が大きくなる傾向があり、一方柔らかい粒子を用いて作製された負極はプレス荷重が小さくなる傾向がある。」と記載されていることから明らかなように、本願発明1において「プレス荷重の値が大きい」とは、一方の粒子が他方より硬いことを意味している。

エ よって、たとえ、引用文献3に、黒鉛の容量を高めるために、圧縮密度すなわち硬度の異なる2種類の炭素材料を用いるとの技術、すなわち、一方の炭素材料が他方の炭素材料よりも「プレス荷重の値が大きい」ものとするとの技術が開示されていたとしても、そのような黒鉛をより高密度に圧縮することで高容量を得ることを前提とする技術を、金属珪素微粒子やシリコンナノ粒子を含有することで容量を向上させた引用発明1や引用発明2に導入する動機付けはないといえる。

オ したがって、引用発明1、2のそれぞれにおいて、引用文献3の記載事項に基づいて、上記相違点1又は上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-2) 引用発明1または引用発明2と、引用文献4の組み合わせについて
ア 「第4 引用文献、引用発明等」の「4.引用文献4について」のアで検討したとおり、引用文献4は、高容量化可能な負極活物質である、柔らかい黒鉛(第2の粒子)が、圧延工程においてつぶれることを防止することにより、レート特性が向上し、長寿命化できる非水電解質二次電池を得ようとするものであり、負極中に、当該黒鉛よりも硬いアンカーリング粒子(第1の粒子)を含有させるとともに、第1の粒子の平均粒径を、第2の粒子の平均粒径よりも大きくすることによって課題を解決しようとするものである。
つまり、引用文献4は、圧延工程においてつぶれ易い柔らかい黒鉛を活物質材料として用いることを前提とした発明であり、圧延工程における黒鉛のつぶれを防止することを技術的課題としたものである。

イ 一方、引用発明1は、球体の殻となっている鱗状黒鉛の表面が、炭素前駆体のピッチを焼成した炭素の層で覆われたものであり、引用発明2は、黒鉛コアの外部表面が、ピッチカーボンを熱処理して形成された非晶質カーボンでコーティングされたものであるから、引用発明1と引用発明2はいずれも、黒鉛材料を、ピッチを焼成することで得られた非晶質カーボンで覆ったものといえる。そして、上記4ア、4ウ、4エに記載があるように、天然黒鉛や人造黒鉛は柔らかいが、アモルファスカーボン(非晶質カーボン)は、負極製作時の圧延工程でのつぶれを防止するためのアンカーリング粒子として用いられる硬いカーボンであることを踏まえると、引用発明1と引用発明2は、いずれも、黒鉛材料の周囲を硬い非晶質カーボンで被覆しているものであって、天然黒鉛や人造黒鉛のように負極制作時の圧延工程でつぶれるおそれのあるものとはいえない。

ウ したがって、たとえ、引用文献4に、圧延工程における黒鉛材料のつぶれを防止するために、黒鉛(第2の粒子)に、当該黒鉛よりも硬いアンカーリング粒子(第1の粒子)を含有させるとの技術が開示されていたとしても、そのようなつぶれやすい炭素材料を前提とする技術を、硬い非晶質カーボンで覆われており、圧延工程でつぶれるおそれがあるとはいえない引用発明1や引用発明2に導入する動機付けはないといえるから、引用発明1、2において、上記相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(3-3)小活
以上の検討によれば、引用発明1と引用発明2のいずれにおいても、引用文献3又は引用文献4に記載された技術的事項に基づいて、共通の相違点に係る本願発明1の「複合炭素粒子(B)は複合炭素粒子(A)よりもプレス荷重の値が大きい」という構成とすることは、当業者といえども、容易に想到することはできない。
したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明1又は引用発明2並びに引用文献3又は引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2?8について
本願発明2?8はいずれも、請求項1の記載を引用し、本願発明1の「複合炭素粒子(B)は複合炭素粒子(A)よりもプレス荷重の値が大きい」という特定事項を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明1又は引用発明2並びに引用文献3又は引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?8はいずれも、当業者が引用発明1又は引用発明2並びに引用文献3又は引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-02 
出願番号 特願2013-201570(P2013-201570)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
結城 佐織
発明の名称 非水系二次電池負極用炭素材、それを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池  

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