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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1344631
審判番号 不服2016-14060  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-20 
確定日 2018-09-26 
事件の表示 特願2014-135187「ベータ-アミロイドタンパク質のプロトフィブリルの形態に特異的な抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月4日出願公開、特開2014-223074〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)11月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年11月16日 2008年1月8日 いずれも米国)を国際出願日とする特願2010-534239号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成26年6月30日に新たな特許出願としたものであって、その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 7月30日付け 拒絶理由通知書
平成27年12月 4日 意見書・手続補正書
平成28年 4月28日付け 拒絶査定
平成28年 9月20日 審判請求書
平成28年11月 4日 手続補正書(方式)
平成29年11月16日付け 拒絶理由通知書
平成30年 3月22日 意見書

第2 本願発明
この出願の請求項1?38に係る発明は、平成27年12月4日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?38に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1、4、7に係る発明は、次のとおりである。

【請求項1】
Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープと特異的に相互作用し、これに対して測定可能な親和性を示す、単離されたモノクローナル抗体であって、
前記プロトフィブリルエピトープは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列からなるAβ-プロトフィブリルの形態の露出領域によって提示され、
前記抗体は、Aβペプチドのフィブリル、単量体および二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない、単離されたモノクローナル抗体。

【請求項4】
Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープと特異的に相互作用し、これに対して測定可能な親和性を示す、単離されたモノクローナル抗体であって、
前記プロトフィブリルエピトープは、配列番号:3および配列番号:4からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるAβ-プロトフィブリルの形態の露出領域によって提示され、
前記抗体は、Aβペプチドのフィブリル、単量体および二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない、単離されたモノクローナル抗体。

【請求項7】
β-アミロイドペプチドのプロトフィブリルの形態の反復コンフォメーショナルエピトープにインビトロで特異的に結合するが、β-アミロイドペプチドの低分子量の形態に対して最小の親和性を示す、請求項1?6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体の製造方法であって、
(a)哺乳類をβ-アミロイドペプチドのプロトフィブリルの形態で免疫化する段階;
(b)前記哺乳類のB細胞を採取する段階;
(c)採取したB細胞から抗体を産生するハイブリドーマを作製する段階;および
(d)β-アミロイドペプチドのプロトフィブリルの形態に特異的に結合するが、β-アミロイドペプチドの単量体または二量体の形態に対して最小の親和性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択する段階;
を含む、方法。

第3 拒絶の理由
平成29年11月16日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由A?Cは、概略、次のとおりのものである。

1 拒絶理由A
本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献1.国際公開第2005/123775号
引用文献2.J. Neurochem., (2007.10), Vol.103, No.1, pp,334-345

2 拒絶理由B
請求項1や請求項4に記載された「9、12または20の連続するアミノ酸配列」が「コンフォメーショナルエピトープ」であるとは技術常識上認識できず、請求項1や4等に記載された発明が著しく不明確であるから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても、本願発明のうち13C3抗体以外の新たな抗体を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
さらに、本願発明に係る抗体について、発明の詳細な説明に具体的に記載されているのは、13C3抗体のみである。本願出願時の技術常識(引用文献3を含む)に照らせば、発明の詳細な説明に記載された内容を本願発明全体にまで拡張ないし一般化することはできないから、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

引用文献3.国際公開第2005/011599号

3 拒絶理由C
請求項7には、「(a)哺乳類をβ-アミロイドペプチドのプロトフィブリルの形態で免疫化する段階」と記載されているものの、13C3抗体を製造した唯一の実施例である実施例2には、「Balb/cマウスをフィブリル型Aβタンパク質で免疫化することによって作製した。」(原文も同様)と記載されており、双方の記載は整合していない。一般に、免疫原に対して親和性を有する抗体が産生されるという技術常識を参酌すると、本願発明のように「フィブリル型Aβタンパク質」を免疫原に用いて「Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープと特異的に相互作用し、・・・Aβペプチドのフィブリル、・・・に対して・・・親和性を示さない・・・モノクローナル抗体」を取得することは実施例2に記載された抗体産生の常套手段を用いた場合には非常に難しいと考えられ、13C3抗体以外の新たな抗体を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明に係る抗体について、発明の詳細な説明に具体的に記載されているのは13C3抗体のみであり、実施例2に記載された内容を本願発明全体にまで拡張ないし一般化することはできないから、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

第4 記載要件(拒絶理由BおよびC)について
1 拒絶理由Bについて
(1)明確性(特許法36条6項2号)
ア 当審の判断
特許請求の範囲には、請求項1に記載された配列番号:2(連続する20アミノ酸)並びに請求項4に記載された配列番号:3(連続する9アミノ酸)および配列番号:4(連続する12アミノ酸)について、「コンフォメーショナルエピトープ」と記載されている。
本願明細書の段落【0026】には、「『コンフォメーショナルエピトープ』(一次の隣接するアミノ酸配列がエピトープの唯一の決定成分ではない、エピトープ)でありうる。このコンフォメーショナルエピトープはペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識するため、コンフォメーショナルエピトープは、直線状エピトープに比べて多数のアミノ酸を含みうる。例えば、タンパク質分子が折り重なって三次元構造を形成する場合、コンフォメーショナルエピトープを形成する特定のアミノ酸および/またはポリペプチド骨格は、抗体がエピトープを認識できるように並列になる。」と記載されている。
してみると、「コンフォメーショナルエピトープ」とは、多数のアミノ酸からなるアミノ酸配列および/または複数のアミノ酸配列中に存在する不連続なアミノ酸が形成する三次元構造であるから、請求項1や請求項4に記載された「9、12または20の連続するアミノ酸配列」のように短いアミノ酸配列(少数のアミノ酸からなるアミノ酸配列)が単独で「コンフォメーショナルエピトープ」を形成するものではなく、請求項1に記載された配列番号:2(連続する20アミノ酸)並びに請求項4に記載された配列番号:3(連続する9アミノ酸)および配列番号:4(連続する12アミノ酸)によって「コンフォメーショナルエピトープ」を特定することはできない。
一方、複数の「9、12または20の連続するアミノ酸配列」が組み合わさって、「コンフォメーショナルエピトープ」を形成する場合については、本願明細書には、実施例等の具体的な記載はなく、せいぜい実施例5に「直線状エピトープ」の決定に用いられる「エピトープマッピング」が記載されるのみであって、複数の「9、12または20の連続するアミノ酸配列」がどのように組み合わさって「コンフォメーショナルエピトープ」を形成するのかが不明である。
したがって、「9、12または20の連続するアミノ酸配列」の「単独で」あれ、「組み合わさって」であれ、「コンフォメーショナルエピトープ」を形成する「三次元構造」を特定できず、当該「三次元構造」を発明特定事項とする請求項1?5、7?15、18、30に記載された発明は著しく不明確である。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

イ 請求人の主張について
平成30年3月22日に提出された意見書において、「本願明細書には、本願発明に係るモノクローナル抗体(例えば、13C3、1D1および19A6)はいずれも、Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープに特異的に結合するものであることが開示されております。具体的に、本願明細書の実施例5には、「RepliTopeマイクロアレイシステム」を用いて上記3種の抗体のエピトープのマッピングを行ったことが開示されております。」と主張している。
しかしながら、実施例5において「コンフォメーショナルエピトープ」という用語は一切用いられておらず、「RepliTopeマイクロアレイシステム」が専ら「コンフォメーショナルエピトープ」を決定するための常套手段であったとも認められない。そして、実施例5等において、上述した「コンフォメーショナルエピトープ」を形成する「三次元構造」が記載されているものではない。
したがって、請求人の主張には理由がない。

なお、唯一具体的に開示された「13C3抗体」については、「コンフォメーショナルエピトープ」を形成する不明確な「三次元構造」を発明特定事項とすることなく、直接「アミノ酸配列」を用いて下記「第6」に記載したように既に特許されている。

(2)実施可能要件(特許法36条4項1号)・サポート要件(特許法36条6項1号)
ア 当審の判断
請求項1に記載された配列番号:2(連続する20アミノ酸)並びに請求項4に記載された配列番号:3(連続する9アミノ酸)および配列番号:4(連続する12アミノ酸)について、「コンフォメーショナルエピトープ」と決定した根拠は本願明細書には明示的に記載されておらず、「実施例5:13C3抗体のエピトープマッピング」という項目(段落【0100】?【0102】)が唯一関連する記載であるが、連続エピトープでない「コンフォメーショナルエピトープ」の決定に「実施例5:13C3抗体のエピトープマッピング」がどれほど有効であるかは技術常識を参酌しても不明であり、ここで用いられた「RepliTopeマイクロアレイシステム」が「コンフォメーショナルエピトープ」を決定する常套手段であるとも認められない。
一方、本願明細書の段落【0026】にも「エピトープのコンフォメーションを決定する方法としては、特に制限されないが、例えば、X線結晶構造解析、二次元核磁気共鳴分光法、および部位特異的スピン標識法、および電子常磁性共鳴分光法が挙げられる。」と記載されているように、X線結晶構造解析等を経なければ「コンフォメーショナルエピトープ」を決定できないというのが技術常識である。
仮に、請求項1に記載された配列番号:2(連続する20アミノ酸)並びに請求項4に記載された配列番号:3(連続する9アミノ酸)および配列番号:4(連続する12アミノ酸)が「コンフォメーショナルエピトープ」であったとしても、本願明細書には、これらの連続する9、12または20アミノ酸を用いて13C3抗体と同じ性質(効果)を有する新たな抗体を取得する方法は記載されていない。すなわち、「コンフォメーショナルエピトープ」は、連続エピトープのようにそのまま免疫原として用いることもできないので、引用文献1と同じようにプロトフィブリル型Aβタンパク質を免疫原として得られた無数の抗体を逐一X線回析や薬理試験等を行って13C3抗体に類似した構造や性質を有していることを1つ1つ確認する以外には取得方法はないと考えられる。

また、同じ方法を用いても通常は異なる抗体が得られる可能性が高いことは、請求人の引用している、WO2007/064972(特表2009-519012の段落【0062】:Aβ20-30がエピトープ)およびWO2005/011599(引用文献3)において異なる結合活性を有する抗体が得られていることからも明らかであり、そしてまた、審判請求書に添付された参考文献1に記載されているように、Aβ1-20はかなり疎水性であるから、Aβ1-20を免疫原に用いても立体構造に変化が生じて免疫原として利用できなくなる可能性も高い。

したがって、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明のうち、13C3抗体以外の新たな抗体を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。
よって、発明の詳細な説明は、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

ここで、本願発明の課題は、プロトフィブリル形態のコンフォメーショナルエピトープに対して親和性を有するが、Aβペプチドの単量体または二量体の形態のようなAβペプチドの他の形態に対しては親和性を示さない抗体を提供することである(段落【0008】)。
してみると、同様の理由により、出願時の技術常識に照らしても、13C3抗体以外の請求項1?5、7?15、18、30に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できず、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明は、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
よって、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

イ 請求人の主張について
平成30年3月22日に提出された意見書において、「RepliTopeマイクロアレイ上の高濃度かつ高密度のアミノ酸ペプチドの存在により、図1に示されるプロトフィブリルの形態におけるようなコンフォメーショナルエピトープが再現されていると言えます。」と主張している。
しかしながら、実施例5には、「RepliTopeマイクロアレイシステム」を用いて「エピトープマッピング」を行なったことしか記載されておらず、「コンフォメーショナルエピトープ」という用語や「RepliTopeマイクロアレイ」の「高濃度かつ高密度のアミノ酸ペプチドの存在」等の具体的な実験方法は記載されておらず、請求人の主張は発明の詳細な説明の記載に基づかない主張である。
したがって、概念的な存在でしかない「コンフォメーショナルエピトープ」を用いて、13C3抗体以外の請求項1?5、7?15、18、30に係る発明を実施することができるとは考えられず、請求人の主張には理由がない。

2 拒絶理由Cについて
(1)実施可能要件(特許法36条4項1号)・サポート要件(特許法36条6項1号)
ア 当審の判断
請求項7には、「(a)哺乳類をβ-アミロイドペプチドのプロトフィブリルの形態で免疫化する段階」と記載されているものの、13C3抗体を製造した唯一の実施例である実施例2には、「Balb/cマウスをフィブリル型Aβタンパク質で免疫化することによって作製した。」(原文も同様)と記載されており、双方の記載は整合していない。
一般に、免疫原に対して親和性を有する抗体が産生されるという技術常識を参酌すると、本願発明のように「フィブリル型Aβタンパク質」を免疫原に用いて「Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープと特異的に相互作用し、・・・Aβペプチドのフィブリル、単量体および二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない、・・・モノクローナル抗体」を取得することは実施例2に記載された抗体産生の常套手段を用いた場合には非常に難しいと考えられる。
したがって、本願明細書にアミノ酸配列やヌクレオチド配列が記載された13C3抗体以外の新たな抗体を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。
よって、発明の詳細な説明は、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

ここで、本願発明の課題は、プロトフィブリル形態のコンフォメーショナルエピトープに対して親和性を有するが、Aβペプチドの単量体または二量体の形態のようなAβペプチドの他の形態に対しては親和性を示さない抗体を提供することである(段落【0008】)。
してみると、同様の理由により、出願時の技術常識に照らしても、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できず、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明は、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
よって、請求項1?5、7?15、18、30に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

イ 請求人の主張について
平成30年3月22日に提出された意見書において、「実施例2では、実際に3つのモノクローナル抗体(13C3、19A6および1D1)が、Aβのプロトフィブリルの形態に対する特異性を有するものとして作製されております。」と主張している。
しかしながら、「13C3抗体以外の新たな抗体を得るため」という反論において、「13C3」抗体の記載のあることが反論の根拠とならないことは明らかである。そして、19A6および1D1については具体的な開示がないので反論の根拠とはならない。
したがって、請求人の主張には、理由がない。

第5 新規性進歩性(拒絶理由A)について
1 引用例の記載事項
原査定の拒絶理由で引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2005/123775号(平成17年12月29日国際公開)(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるものである。

(ア)
「ヒト野生型Aβ1-42プロトフィブリルの合成
合成野生型Aβ1-42ペプチドは9容積の10mM NaOH pH>10に溶解され、2分間ボルテックスされ、そして、1容積の10×PBS(pH7-8)で希釈された。最終ペプチド濃度はこの時点で、443μMであった。そのペプチドはさらに37℃で一晩保温された。一晩保温の後、そのペプチドはPBSでさらに50μMに希釈された。試料は分析と免疫の前に17.900×gで5分間遠心分離された。・・・
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるAβ調製物の分析
・・・図1は・・・野生型Aβ1-42プロトフィブリル・・・調製物のクロマトグラムを示している。各調製物は夾雑している他のコンフォメーションのAβ形態・・・が本質的になかった(<3%)。」(第17頁第3段落、第18頁第2段落第1行、第14?16行、第3段落)

(イ)
「実施例2:プロトフィブリル特異的モノクローナル抗体の開発。
標準的な手順がモノクローナルの構築に用いられた。マウスは野生型Aβ1-42プロトフィブリル調製物を注射された。・・・その後、屠殺し、ハイブリドーマ開発のために脾臓が収集された。使用したハイブリドーマ製造方法は、標準的な手順・・・に従った。」(第18頁第4段落第1?3行、第19頁第1段落第6?9行)

(ウ)
「実施例3:野生型Aβ1-42プロトフィブリル特異的な抗体についてのスクリーニング。・・・ハイブリドーマ上清#258は、高いプロトフィブリル特異性を示した(図3)。・・・。#258ハイブリドーマから産生されたモノクローナル抗体は、モノクローナル抗体258として定義した(mAb258)。」(第19頁第2段落第1行、第7?10行)

(エ)
「実施例4:ウエスタンブロット解析によるmAb258の特徴決定。細胞は野生型アミロイド前駆体タンパク質・・・でトランスフェクトされた。細胞は続いて回収され、可溶化され、そして、細胞タンパク質はSDS-PAGEにより分離され、ニトロセルロースペーパーに転写され、続いてmAb258と保温された。・・・mAb258は・・・野生型Aβ40単量体との結合を示さなかった。」(第19頁第3段落第1?14行)

(オ)
「mAb258の特異性がサンドイッチELISAで決定された。・・・mAb258は野生型Aβ40単量体ないし野生型Aβ42フィブリルに向けてわずかに交差反応性を示すかまたは全く交差反応性を示さなかった。10ng/mlまで下がった野生型Aβ42プロトフィブリルの濃度を測定可能であった。」(第20頁第1段落第2?15行)

(カ)
「本発明はさらに、ヒト及び動物組織中のAβプロトフィブリルの検出、位置特定、定量のためのイメージングにおける抗Aβプロトフィブリル抗体の使用に関連する。・・・この方法は、アルツハイマー病又はダウン症候群、レビー小体認知症、血管性認知症、および他の神経変性障害のための診断ツールとして好適であろう。」(第13頁第3段落第1?3行、第7?9行)

(キ)
「本発明の別の態様は、アルツハイマー病の予防または治療のための抗Aβプロトフィブリル抗体の使用に関する。」(第13頁第4段落第1?2行)

原査定の拒絶理由で引用され、本願優先日前に頒布された刊行物であるJ. Neurochem., (2007.10), Vol.103, No.1, pp,334-345(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるものである。

(ク)
「AβArcプロトフィブリル
凍結乾燥された合成Aβ1-42(E22G)・・・は10mmol/L NaOHに溶解され、2×PBSで最終濃度50μmol/Lに希釈され37℃で60分保温された。」(第335頁左欄第5段落)

(ケ)
「作成されたAβコンフォメーションは・・・AβArcプロトフィブリルであった。これら50μmol/L調製物は調製物の純度を保証するためにSuperdex75カラムを用いたHPLC-SECで分析された・・・。調製物は・・・>95%の純度であることを示した。」(第337頁右欄第4段落第4行?第338頁左欄第6行)

(コ)
「モノクローナル抗体の生成
Blab/cマウスを・・・Aβ1-42Arcプロトフィブリル・・・で免疫された。・・・脾臓細胞が単離され、Sp2/0ミエローマ細胞と融合させられ、そして、ハイブリドーマをダイレクトELISAで抗Aβ反応性についてスクリーニングされた。陽性クローンはモノクローナル性を証明するためにサブクローニングされ、そして、イソタイプとサブクラスが・・・決定された。mAb158(IgG2a)とmAb1C3(IgG1)を産生する2つのクローンが拡大され、抗体が上清からプロテインG-セファロースクロマトグラフィーにより精製された。」(第335頁右欄第4段落第1行?第336頁左欄第1段落第2行)

(サ)
「mAb158は抗親和性アミロイド-β(Aβ)コンフォメーション依存性抗体である。
異なるAβコンフォメーションへのmAb158・・・の結合は低分子Aβ(LMW-Aβ)被覆・・・の阻害ELISAで解析された。mAb158はLMW-Aβ及びN-末端Aβ1-16断片と比べてプロトフィブリルコンフォメーションのAβに対して200倍高い親和性を示した。・・・Aβ17-40はいずれの抗体の結合を阻害しなかった。・・・異なるAβ種へのmAb158の結合は低変性ウエスタンブロットによっても解析され、mAb158は50-200kDaの範囲のAβスメアに結合したが、LMW-Aβには結合しなかった。・・・」(Fig.2)

2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘記事項(ア)に記載されるとおり、Aβ1-42ペプチドをNaOHに溶解し、PBSで希釈し、37℃で一晩保温した後、免疫前に遠心分離して得たAβプロトフィブリルであって、他のAβペプチドのコンフォメーションの形態を含まないことが確認された、Aβ1-42のプロトフィブリル形態に調製されたものを免疫原とし、摘記事項(イ)に示されるとおり、標準的な手順で製造されたモノクローナル抗体が記載されており、摘記事項(ウ)に示されるとおり、上清から単離されたモノクローナル抗体が、高いAβプロトフィブリル特異性を示し、摘記事項(エ)に示されるとおり、Aβ単量体との結合性を示さず、摘記事項(オ)に示されるとおり、Aβフィブリルにわずかに交差反応性を示すかまたは全く交差反応性を示さないことが記載されている。
そうすると、引用文献1には、「Aβ1-42ペプチドのプロトフィブリルの形態に特異的に結合する、単離されたモノクローナル抗体であって、前記抗体は、Aβペプチドのフィブリルに、わずかに交差反応性を示すかまたは全く交差反応性を示さず、単量体との結合性を示さない、単離されたモノクローナル抗体。」が記載されているといえる(以下、「引用発明」という。)。

3 対比
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とを対比すると、引用文献1に記載の「Aβ1-42ペプチド」、「特異的に結合する」、「わずかに交差反応性を示すかまたは全く交差反応性を示さず」は、本願発明1の「Aβペプチド」、「エピトープと特異的に相互作用し、これに対して測定可能な親和性を示す」、「最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない」に、それぞれ相当することは明らかであるから、両者は、
「Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のエピトープと特異的に相互作用し、これに対して測定可能な親和性を示す、単離されたモノクローナル抗体であって、前記抗体は、Aβペプチドのフィブリル、および単量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない、単離されたモノクローナル抗体。」である点において一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
本願発明1においては、「Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープ」と特異的に相互作用し、「前記プロトフィブリルエピトープは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列からなるAβ-プロトフィブリルの形態の露出領域によって提示され」ることが特定されているのに対し、
引用発明においては、「Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のエピトープ」が、コンフォメーショナルエピトープであるか否かについての明示はなく、また、当該エピトープが、Aβペプチドのどの領域により提示されるものであるのかについての明示がない点。

相違点2:
本願発明1においては、Aβペプチドの「二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない」ことが特定されているのに対して、引用発明おいてはその明示がない点。

4 相違点に対する判断
(1)相違点1について
コンフォメーショナルエピトープにつき、本願明細書の発明の詳細な説明には、段落【0026】に、「『コンフォメーショナルエピトープ』(一次の隣接するアミノ酸配列がエピトープの唯一の決定成分ではない、エピトープ)でありうる。このコンフォメーショナルエピトープはペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識するため、コンフォメーショナルエピトープは、直線状エピトープに比べて多数のアミノ酸を含みうる。例えば、タンパク質分子が折り重なって三次元構造を形成する場合、コンフォメーショナルエピトープを形成する特定のアミノ酸および/またはポリペプチド骨格は、抗体がエピトープを認識できるように並列になる。」と記載され、その実施例には、「実施例1:アミロイドベータ(Aβ42)のプロトフィブリルの形態の調製」として、NaOH処理したAβ42を溶解させ、リン酸緩衝液で緩衝化し、室温で4時間インキュベートして得た、プロトフィブリルの形態を、低分子量のタンパク質から分離するために、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて分別したことが記載され、「実施例2:プロトフィブリル型Aβに特異性を有するモノクローナル抗体の生成」として、公知のプロトコルを用いて作製したこと、「実施例3:プロトフィブリル型Aβに特異性を有するモノクローナル抗体の特性評価」として、抗体捕獲アッセイを行ったことが記載されている。
これに対し、引用文献1には、上記摘記事項(ア)に記載されるとおり、Aβ1-42ペプチドをNaOHに溶解し、PBSで希釈し、37℃で一晩保温した後、免疫前に遠心分離して得たAβプロトフィブリルであって、他のAβペプチドのコンフォメーションの形態を含まないことが確認された、Aβ1-42のプロトフィブリル形態のものを免疫原として、摘記事項(イ)に示されるとおり、標準的な手順で製造された、モノクローナル抗体が記載されており、当該抗体が、摘記事項(ウ)?(オ)に示されるとおり、高いAβプロトフィブリル特異性を示したことが記載されている。
すなわち、引用文献1には、本願発明1と同一の材料であるAβ1-42ペプチドから、同様の手法で、プロトフィブリルの形態のものを調製し、他のAβペプチドのコンフォメーションの形態を含まないことが確認されたものを免疫原として用いて、モノクローナル抗体を作製し、結果として、得られたモノクローナル抗体が、プロトフィブリル型Aβに特異性を有することを確認しているのであるから、当該モノクローナル抗体が特異的に結合するエピトープも、本願発明1と同様に、プロトフィブリルの形態のAβの三次元構造を特異的に認識するもの、すなわち、コンフォメーショナルエピトープである蓋然性が高い。
そして、このことは、摘記事項(エ)に、SDS-PAGEで変性させたAβモノマーには結合しないことが示される一方、摘記事項(オ)に、Aβモノマーを変性させないで用いるサンドイッチELISAでは、Aβモノマーにはわずかに結合するか全く結合しなかったのに対して、10ng/mlまで下がったAβプロトフィブリルの濃度を測定可能であったことが開示されていることとも符合する。すなわち、引用文献1のこれらの記載からみて、SDSで変性させた一次構造のペプチドには結合しないことから、線状エピトープを認識する抗体ではなく、未変性の立体構造を維持した状態のAβプロトフィブリルには高い親和性で結合することから、Aβプロトフィブリルの立体構造を選択的に認識する抗体であることを、強く裏付けるものであるといえる。
また、引用文献1には、Aβペプチドの「プロトフィブリルエピトープが配列番号:2(Aβのアミノ酸1?20)で表されるアミノ酸配列からなるAβ-プロトフィブリルの形態の露出領域によって提示され」ることの明示はないが、引用発明において、アミロイドβ42のプロトフィブリルの形態を調製し、わざわざ、他のAβペプチドのコンフォメーションの形態を含まないことが確認されたものを免疫原としているのであるから、得られたモノクローナル抗体の結合する領域が、Aβ-プロトフィブリルの形態の露出領域であることは当業者の技術常識に照らし明らかであって、本願発明1において、その認識領域の配列が、配列番号:2で表されるアミノ酸配列であることを確認したにしても、認識されるプロトフィブリルエピトープ自体に差異はないといえる。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

仮に、認識されるプロトフィブリルエピトープが相違するとしても、この点は、以下のとおり当業者が容易に想到し得たことである。
すなわち、引用文献1の摘記事項(エ)、(オ)に示されるとおり、ヒト及び動物組織中のAβプロトフィブリルの検出や、治療、予防のために、Aβペプチドのプロトフィブリルのコンフォメーションに特異的に結合する抗体を得ようとすることは、本願の優先日前、望まれる課題であった。
また、引用文献1の摘記事項(ア)?(オ)や、引用文献2の摘記事項(ク)?(サ)に示されるとおり、Aβペプチドのプロトフィブリル形態のものを免疫原としてAβペプチドのプロトフィブリルのコンフォメーションに特異的に結合するモノクローナル抗体を作製する手法は本願優先日前に知られていた。
さらに、引用文献2の摘記事項(サ)に、Aβのプロトフィブリルのコンフォメーションに特異的な抗体であるmAb158が、LMW-Aβ及びN-末端Aβ1-16断片にはわずかながらも結合を示し、その一方でAβ17-40には結合を全く示さなかったことが記載されていることからみて、mAb158はAβ1-16で表されるアミノ酸配列からなる領域に存在するエピトープを認識していることは明らかである。
そうすると、ある抗体の作成手法が公知であるとき、当該手法を用いて新たな抗体の作製を試みることは当業者がしばしば行うことであるから、Aβペプチドのプロトフィブリルのコンフォメーションに特異的に結合する抗体を得るために、引用文献1あるいは2にそれぞれ記載の手法を採用してモノクローナル抗体を得ること、その際に、Aβ1-16で表されるアミノ酸配列を含む、配列番号:2で表されるアミノ酸配列からなるAβ-プロトフィブリルの形態の露出領域によって提示されるAβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープと特異的に相互作用することを指標としてスクリーニングを行うことは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、その効果も格別なものとは認められない。

(2)相違点2について
確かに、引用文献1には、Aβペプチドの二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さないことの明示はない。
しかしながら、引用発明に係るモノクローナル抗体は、「Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のエピトープと特異的に相互作用し、これに対して測定可能な親和性を示す、・・・Aβペプチドのフィブリル、および単量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない」プロトフィブリル形態のエピトープに特異的なモノクローナル抗体であるから、本願発明1と同様に「Aβペプチドの二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない」蓋然性が高く、相違点2も実質的な相違点ではない。

仮に、Aβペプチドの二量体の形態に対する親和性が相違していたとしても、引用発明において、Aβペプチドのプロトフィブリル形態のエピトープに特異的な抗体を取得する目的は、Aβペプチドのプロトフィブリルのみに選択的に結合する抗体を取得することにあるのであるから、引用文献1に記載の抗体の作製方法を用いてモノクローナル抗体を作製する際に、Aβペプチドの二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない抗体を選択することは当業者が容易になし得たことである。

(3)本願発明1の効果について
本願発明1の効果について、Aβペプチドのプロトフィブリルのみに選択的に結合することにより、その他の形態のAβペプチドに抗体が結合することによって生じる副作用を低減できることは、引用文献1の記載から当業者が十分に予測できたことである。
ここで、本願発明1について、13C3抗体以外の抗体については、上記「第4」に述べたように、種々の記載不備が存在していることから、実施例8や実施例10において「13C3抗体」に係る発明の効果が確認できるとしても、「13C3抗体」に係る発明の効果がそのまま「コンフォメーショナルエピトープ」を形成する不明確な「三次元構造」で特定された本願発明1の効果として認められないことに十分留意されたい。

(4)請求人の主張について
平成30年3月22日に提出された意見書において、
「引用文献1を通して見ても、本願の請求項1のような『コンフォメーショナルエピトープ』としてではなく、一般的な意味で『エピトープ』に言及しているに過ぎません。すなわち、引用文献1はせいぜい、Aβプロトフィブリル上の特徴付けられていない、一般的なエピトープを認識する抗体を開示しているだけであり、この特徴付けられていない一般的なエピトープがコンフォメーショナルエピトープであることや、当該抗体が、本願の請求項1のように『Aβペプチドのプロトフィブリルの形態のコンフォメーショナルエピトープ』を認識するはずであることについては何ら開示しておりません。」および
「拒絶理由通知書では『引用文献1に記載の抗体の作製方法を用いてモノクローナル抗体を作製する際に、Aβペプチドの二量体の形態に対して最小の親和性を示すかまたは親和性を示さない抗体を選択することは当業者が容易になし得たことである』とのご認定がなされております。しかしながら、かようなご認定もまた、失当であります。まず第1に、このような抗体を選択することが容易になし得たことを裏付ける証拠は存在しません。拒絶理由通知書では、このような抗体を選択することが容易になし得たことを示す公開されたデータや科学的な理論は何ら提示されていないのであります。」
と主張されている。

しかしながら、発明の詳細な説明において唯一具体的に記載された「13C3抗体」についてさえ、実施例5において、エピトープマッピングを行った結果、配列番号2に係るAβ1-20アミノ酸が「13C3抗体」の結合に関与していることが確認されているのみであって、「コンフォメーショナルエピトープ」と請求人が呼んでいる実体は不明であって、「コンフォメーショナルエピトープ」であることの証拠さえ発明の詳細な説明には存在しない。そして、上記「第4」に詳しく述べたように、「コンフォメーショナルエピトープ」を形成する「三次元構造」および「三次元構造」を構成する「アミノ酸残基」も特定されておらず、「コンフォメーショナルエピトープ」と特異的に相互作用するモノクローナル抗体を製造する方法も発明の詳細な説明には記載がない。
加えて、唯一具体的に記載された「13C3抗体」については、「フィブリル型Aβタンパク質」を免疫原に用いて得られたモノクローナル抗体であって(実施例2)、フィブリルに親和性がないことが確認されていないことから(実施例3)、本願発明に含まれない可能性もある。
いずれにしても、上記「第4」や下記「第6」に述べるように、本願発明1は、「特許第5616230号」に係る「13C3抗体」とは異なる、実体が不明確で製造困難な抗体であるから、引用文献に記載された抗体と精緻に比較することはできない。
よって、上記請求人の主張には理由がない。

その他の新規性進歩性に関する請求人の主張についても上記(1)?(3)に述べた通りであり、理由がない。

5 小括
したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 その他の請求人の主張について
平成30年3月22日に提出された意見書において、「本願の対応外国出願につきましては、本願の現請求項に係る発明について特許請求する特許出願が、我が国を除きすべて、特許登録されております(例えば、米国においては米国特許第8,470,321号および米国特許第9,340,607号が特許登録されております」と主張している。
しかしながら、パリ条約第4条の2にも規定されているように、各国の特許は独立したものであるから、他国の審査結果は我が国の審理に何ら影響を与えるものではない。

なお、念のために解説すると、米国特許第8,470,321号および米国特許第9,340,607号においては、唯一の実施例である「13C3抗体」をアミノ酸配列で特定した発明が特許請求されており、これは我が国で既に特許された「特許第5616230号」に対応するものにすぎない。そして、欧州特許庁で特許された「EP 2207568 B1」も同様のものである。
一方、本願の特許請求の範囲には、欧米のいずれの国でも特許されていない広範な発明が包含されている。
したがって、欧米で特許された「13C3抗体」に係る発明は、我が国でも既に特許されている一方で、本願は、いずれの国でも特許されていない広範な発明を特許請求しているので、請求人の主張には根拠がない。

第7 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号および第2項に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
また、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-04-26 
結審通知日 2018-05-01 
審決日 2018-05-14 
出願番号 特願2014-135187(P2014-135187)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12N)
P 1 8・ 536- WZ (C12N)
P 1 8・ 121- WZ (C12N)
P 1 8・ 537- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上村 直子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 長井 啓子
田村 明照
発明の名称 ベータ-アミロイドタンパク質のプロトフィブリルの形態に特異的な抗体  
代理人 八田国際特許業務法人  

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