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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1344643
審判番号 不服2017-17081  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-17 
確定日 2018-10-16 
事件の表示 特願2013- 38035「施設内における施設利用者の位置を管理するシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 8日出願公開、特開2014-163910、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年2月27日の出願であって、平成29年2月16日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月31日付けで手続補正がなされたが、平成29年8月18日付けで拒絶査定がなされ(送達日 平成29年8月29日)、これに対し、平成29年11月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において、平成30年6月21日付けで拒絶理由が通知され、平成30年8月22日付けで手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年8月18日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

この出願の請求項1-12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記A-Eの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平11-178045号公報
B.特開2006-253888号公報(周知技術を示す文献)
C.特開2006-308361号公報(周知技術を示す文献)
D.特開2010-127850号公報
E.特開平11-178041号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

この出願の請求項1-9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1-3の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1:特開平11-205845号公報
2:特開2010-127850号公報(拒絶査定時の引用文献D)
3:特開平8-70481号公報

第4 本願発明
本願の請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成30年8月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
施設管理者によって施設に規則的な配置で設置され、施設利用者の所持する情報通信端末との間で無線通信が可能な複数の第1無線局と、
前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度とを前記情報通信端末から前記第1無線局を介して取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する位置把握手段と、
を有し、
前記対象領域内の全ての場所が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされている、システム。」

なお、本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審における拒絶理由に引用された上記引用文献1(特開平11-205845号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は位置特定システムに関し、詳しくは、無線ゾーンの基地局をベースにした交信が可能な移動端末の位置特定システムに関する。」

「【0007】本発明は係る実情に鑑み考え出されたものでありその目的は、経済的負担を極力低減させつつも位置特定の精度を向上させることのできる位置特定システムを提供することである。」

「【0012】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面に基づいて以下に詳細に説明する。
【0013】図1は、本発明のシステムの一例を説明するための全体システム構成図である。移動端末7は、たとえば、大きな事業所やビルなどの構内10で勤務する社員によって携帯されるPHSである。移動端末7は、たとえば社員によって携帯され、ビル構内の各所に移動し、移動局としての役割を担う。
【0014】構内10には、移動端末7を内線2として利用可能な自営用のPHSネットワークが構築されている。PBX3は、構内10に屋内配線された通信回線4a,4b,4cによって自営用の基地局5(5a,5b,5c…)と接続されている。PBX3は、これら基地局5a,5b,5c…を介して移動端末7の内線通信を制御する制御局として機能する。
【0015】さらに構内10の各所には、それぞれを識別可能なID(識別情報)を発信するID発信機6(6a,6b,6c…)が、基地局5a,5b,5c…を含む自営のネットワークとは独立して設けられている。
【0016】センター局1は、移動端末7の位置を特定する位置特定局である。センター局1には位置特定に利用されるパーソナルコンピュータ1aが設置されている。パーソナルコンピュータ1aには、各ID発信機6が発信するIDに基づいて各ID発信機6が設置されている位置を特定可能な位置情報が予め記憶されている。このパーソナルコンピュータ1aはPBX3と内線接続されており、移動端末7から出力される位置特定用情報がいずれかの基地局5を介してこのパーソナルコンピュータ1aに入力される。
【0017】以下に、パーソナルコンピュータ1aによる移動端末7の位置特定方法について具体的に説明する。移動端末7は、基地局5a,5b,5c…から発信される基地局の識別符号により各基地局5を識別するとともに、各基地局5から出力されている電波の受信電界強度を常時監視する。そして、その受信電界強度のレベルに応じて基地局5の選択をし、PBX3に呼出エリアの登録を行なう。このような手順により、移動端末7と制御局3との間でリンクチャネルが確立し、いわゆる「待ち受け」状態となる。待ち受け状態において移動端末7からの発信あるいは移動端末7への着信があれば、呼接続制御がなされ、通話あるいは通信が可能となる。
【0018】さらに移動端末7は基地局5の選択を行ないつつ、各ID発信機6a,6b,6c…の受信電界強度を測定し、これを各ID発信機6a,6b,6c…から発信されるID別に内部に記憶する。さらに移動端末7は、各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度をも測定し、これを各基地局5a,5b,5cから発信される識別符号別に内部に記憶する。なお、移動端末7は構内10で移動するために、移動端末7内に記憶される受信電界強度はその移動に伴って変化している。
【0019】パーソナルコンピュータ1aでセンター局1の係員が所定の内線接続操作を行なうことにより、あるいは所定時間間隔ごとに自動的に、パーソナルコンピュータ1aから移動端末7への発呼信号が出力されれば、その信号がPBX3により制御されて移動端末7が呼出されて呼が接続される。移動端末7は、パーソナルコンピュータ1aの要求に応じて内部に記憶している各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度情報を出力する。出力された受信電界強度情報は、登録されている呼出エリアの基地局5で受信されて通信回線およびPBX3を介してパーソナルコンピュータ1aに入力される。
【0020】パーソナルコンピュータ1a内には、各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の位置を示す位置情報がID発信機6のID別および基地局5の識別符号別に記憶されている。パーソナルコンピュータ1aは、入力された受信電界強度情報と位置情報とから移動端末7の位置特定を行なう。たとえば位置特定は、各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度それぞれから移動端末7の存在し得る範囲を特定し、各特定範囲の重なり部分を演算することにより行なわれる。移動端末7の位置特定結果は、たとえば、パーソナルコンピュータ1aと接続されたモニタ画面上に表示され、移動端末7の位置がセンター局1の係員などに示される。」

「【0030】たとえば、遠隔地に設置されているパーソナルコンピュータ1a(図1参照)から移動端末7への発呼動作が行なわれれば、呼接続のための信号が所定の基地局5を介して移動端末7に入力され、所定のフェーズで呼が接続される。呼が接続されると制御部75は記憶部76に記憶されている各種情報対(各ID発信機6のIDと受信電界強度との情報対、および、各基地局5の識別符号と受信電界強度との情報対)を変調部78へ出力する。これにより、受信電界強度情報が変調部78、送信アンプ79、アンテナ部71を介して所定の基地局5に出力される。所定の基地局5に出力された情報はPBX3などを介してパーソナルコンピュータ1aに入力される。パーソナルコンピュータ1aでは、入力情報に基づいて移動端末7の位置特定が行なわれる。」

「【0031】図4は、図1に示した構内10の具体的構成例を示す図である。構内10は、たとえば複数階からなるビルの構内であり、各階のフロア内には碁盤の目状にID発信機6が敷設されている。なお、ID発信機6はたとえばその本体がフロア内に埋め込まれており、通行などに支障のないように構成されている。(当審注:図4においては、ID発信機「6」と基地局「5」の番号が入れ替わっている。)
【0032】さらにフロアの所定位置には、フロアに位置する移動端末7と無線通信するための自営用の基地局5が設置されており、この基地局5が構内配線によりビル階下のPBX3に接続されている。PBX3の内線用チャネルにはセンター局1のパーソナルコンピュータ1aが接続されており、各階で移動中の移動端末7の位置を特定可能に構成されている。
【0033】同図に示す構成によれば、複数階にわたるビルの構内10において移動中の移動端末7の位置を一箇所で集中的に管理することが可能になる。この構成例は、たとえば、建設作業中のビル構内10において、建設作業にあたる作業員に移動端末(PHS)7を所持させて、工事の監督責任者が作業員の作業位置を一括して管理することに利用することが考えられる。あるいは、空港の構内10などにおいて、乗客から預かった荷物に移動端末(PHS)7を取付けて、荷物の管理を行なうことに利用することも考えられる。」

「【0034】図5は、本発明の別実施形態を説明するための全体システム構成図である。図1に示す実施形態では、自営のPHSネットワークを利用することを例に挙げて説明したが、この別実施形態では公衆用PHSネットワークを利用した場合の構成例について説明する。
【0035】移動端末7は、公衆用PHSネットワークを構成する公衆用の各基地局50(50a,50b,50c…)のうち、いずれかの基地局50の無線ゾーン(一斉呼出エリア)内に属しており、基地局50を介したPHSシステムによる通話などが可能である。基地局50は、たとえば、ISDN公衆網で構成される通信回線40(40a,40b,40c…)を経由して基地局50を制御する制御局30と接続されている。さらに移動端末7の遠隔地にセンター局1が開設され、センター局1内のパーソナルコンピュータ1aが公衆回線20を介して制御局30と回線接続可能に構成されている。
【0036】移動端末7は各基地局50a,50b,50c…および各ID発信機60a,60b,60c…の受信電界強度を測定し、これを各基地局50の識別符号別および各ID発信機60のID別に内部に記憶する。
【0037】移動端末7が受信電界強度の測定結果に基づいていずれかの基地局50を呼出エリアとして指定し、いわゆる「待ち受け」状態となっている状態において、たとえば、パーソナルコンピュータ1aが移動端末7の公衆用の回線番号を発信すれば、制御局30によって移動端末7とパーソナルコンピュータ1aとの間の呼が接続される。移動端末7は、呼接続がなされた段階で各基地局50および各ID発信機60の受信電界強度情報を基地局50に出力する。これにより受信電界強度情報が、たとえば通信チャネルを介してパーソナルコンピュータ1aに入力される。パーソナルコンピュータ1aでは、入力情報に基づいた移動端末7の位置特定が行なわれる。
【0038】なお、この実施形態では受信電界強度情報の送信は通信チャネル(TCH)を使用するものとしたが、これに代えて制御チャネルを使用するように構成してもよい。これにより、通信チャネルを使用する場合と比較して通信コストを削減することができる。」

「【0039】次に、以上説明した実施形態の変形例を以下に列挙する。
(1) ID発信機6の具体例として、たとえば、一般家庭にも普及しつつあるPHS用コードレス親機を利用することが考えられる。PHS用コードレス親機は、端的にいえば、PHS端末を一般加入電話回線に接続されている電話機の子機としても機能させる装置である。具体的には、たとえばPHS用コードレス親機に一般加入電話回線の端末(電話機)とPHS端末とを登録することにより、一般加入電話回線経由で電話機に着信のあった場合にPHS用コードレス親機によって着信呼が中継されて登録されているPHS端末に転送する機能を有する装置である。
【0040】たとえば、このような既存のPHS用コードレス親機を利用することにより、わざわざ専用のID発信機6を製作する費用と手間を省くことができる。特に、自営用の基地局5は価格が十数万円程度であるのに対し、PHS用コードレス親機は実売価格がたとえば一万円以下であることから、移動端末7の位置特定に際しては基地局5に加えて、PHS用コードレス親機を併用することにより、より安価に位置特定の精度を向上させることができる。
【0041】またPHS用コードレス親機は、特に自営用のPHSネットワークに配置される自営用の基地局5と同一の周波数域を使用しているために、自営用の基地局5とPHS用コードレス親機とが混在した領域では一の周波数域の電波の受信電界強度を測定することにより、自営用の基地局5とPHS用コードレス親機の両方の受信電界強度をまとめて測定できるというメリットもある。
【0042】(2) この実施形態では、パーソナルコンピュータ1aからの指令に応じて移動端末7から受信電界強度情報がパーソナルコンピュータ1aに送信されるように構成したが、移動端末7側から定期的に受信電界強度情報が送信されるように構成してもよい。」

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「移動端末の位置特定システム(段落【0001】より。以下、同様。)であって、
移動端末7は、大きな事業所やビルなどの構内10で勤務する社員によって携帯されるPHSであり(【0013】)、
構内10の各所には、それぞれを識別可能なID(識別情報)を発信するID発信機6(6a,6b,6c…)が、基地局5a,5b,5c…を含む自営のネットワークとは独立して設けられ(【0015】)、
センター局1は、移動端末7の位置を特定する位置特定局であリ、センター局1には位置特定に利用されるパーソナルコンピュータ1aが設置され、このパーソナルコンピュータ1aは、移動端末7から出力される位置特定用情報がいずれかの基地局5を介してこのパーソナルコンピュータ1aに入力され(【0016】)、
移動端末7は、各ID発信機6a,6b,6c…の受信電界強度を測定し、これを内部に記憶し、さらに移動端末7は、各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度をも測定し、これを内部に記憶し(【0018】)、
移動端末7は、パーソナルコンピュータ1aの要求に応じて内部に記憶している各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度情報を出力し(【0019】)、
パーソナルコンピュータ1a内には、各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の位置を示す位置情報が記憶され、パーソナルコンピュータ1aは、入力された受信電界強度情報と位置情報とから移動端末7の位置特定を行ない、位置特定は、各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度それぞれから移動端末7の存在し得る範囲を特定し、各特定範囲の重なり部分を演算することにより行なわれ(【0020】)、
構内10は、たとえば複数階からなるビルの構内であり、各階のフロア内には碁盤の目状にID発信機6が敷設され(【0031】)、
フロアの所定位置には、フロアに位置する移動端末7と無線通信するための自営用の基地局5が設置されており(【0032】)、
複数階にわたるビルの構内10において移動中の移動端末7の位置を一箇所で集中的に管理することが可能になり(【0033】)、
ID発信機6として、PHS用コードレス親機を利用し、PHS用コードレス親機は、一般加入電話回線経由で電話機に着信のあった場合にPHS用コードレス親機によって着信呼が中継されて登録されているPHS端末に転送する機能を有し(【0039】)、
移動端末7の位置特定に際しては基地局5に加えて、PHS用コードレス親機を併用することにより、位置特定の精度を向上させることができ(【0040】)、
受信電界強度情報は、所定の基地局5に出力され、所定の基地局5に出力された情報がパーソナルコンピュータ1aに入力される(【0030】)、
位置特定システム(【0001】)。」

2.引用文献2について
当審における拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2010-127850号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、移動機の測位を実行する測位サーバ、測位システム及び測位方法に関する。」

「【0006】
また、本発明の測位システムは、移動体通信網の基地局を介して通信可能な移動機と、該移動機の位置を測定する測位サーバとを備える測位システムであって、移動機が、基地局から送信された信号に関する第1信号情報、及び基地局とは異なる他の無線信号源から送信された信号に関する第2信号情報の少なくとも一方を測位サーバに送信する送信手段を備え、測位サーバが、第1信号情報、第2信号情報及び位置座標が関連付けられた測位用データを記憶するデータベースと、送信手段により送信された信号情報を受信する受信手段と、受信手段により受信された信号情報とデータベース内の測位用データとを照合し、該信号情報と対応する位置座標を移動機の現在位置として決定する測位手段と、を備える。」


「【0008】
このような測位サーバ、測位システム及び測位方法によれば、二種類の信号情報と位置座標とが関連付けられた測位用データが予めデータベースに記憶されている。そして、二種類の信号情報の少なくとも一方が移動機から受信され、その信号情報と測位用データとの照合により、移動機の現在位置が決定される。このように、移動体通信網だけでなくそれ以外の無線信号源(無線システム)の信号情報を用いて測位することで、移動機の位置を高精度に測定することができる。」

「【0082】 上記各実施形態では、測位用データベースが第1信号情報、第2信号情報及び位置情報が関連付けられた測位用データを記憶したが、測位用データベースの構成はこれに限定されない。例えば、システム種別(図4参照)毎にデータベースを用意してもよい。この場合には、測位サーバの測定部は各データベースに対して個別に測位処理を実行し、得られた位置座標のうち最も精度が高いものや各位置座標の平均(相加平均又は重み付け平均)を測定結果としてもよい。」

したがって、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「移動体通信網の基地局を介して通信可能な移動機と、該移動機の位置を測定する測位サーバとを備える測位システムであって、移動機が、基地局から送信された信号に関する第1信号情報、及び基地局とは異なる他の無線信号源から送信された信号に関する第2信号情報の少なくとも一方を測位サーバに送信する送信手段を備え、測位サーバが、第1信号情報、第2信号情報及び位置座標が関連付けられた測位用データを記憶するデータベースと、送信手段により送信された信号情報を受信する受信手段と、受信手段により受信された信号情報とデータベース内の測位用データとを照合し、該信号情報と対応する位置座標を移動機の現在位置として決定する測位手段と、を備え(段落【0006】より。以下、同様。)、
測位用データベースは、システム種別毎にデータベースを用意し、測位サーバの測定部は各データベースに対して個別に測位処理を実行し、得られた各位置座標の重み付け平均を測定結果とする(【0082】)、測位システム(【0001】)。」

3.引用文献3について
当審における拒絶の理由で引用された上記引用文献3(特開平8-70481号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【構成】 本発明に係るデジタルコードレス通信システムの端末位置管理方式は、端末5側でそれぞれの基地局1?3からの電界強度を測定して各基地局1?3を介して交換機4に送出し、交換機4側で予め電界強度地図が登録されたデータベース6を参照することにより、端末5の位置を特定するようにしたものである。」(フロントページ)

したがって、引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「端末5側でそれぞれの基地局1?3からの電界強度を測定して各基地局1?3を介して交換機4に送出し、交換機4側で予め電界強度地図が登録されたデータベース6を参照することにより、端末5の位置を特定するようにした、デジタルコードレス通信システムの端末位置管理方式。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「移動端末7」は「PHS」であるから、本願発明1における「情報通信端末」に相当する。

イ 引用発明における「PHS用コードレス親機は、一般加入電話回線経由で電話機に着信のあった場合にPHS用コードレス親機によって着信呼が中継されて登録されているPHS端末に転送する機能を有し」ているから、引用発明における、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」は、「社員によって携帯されるPHS」に着信呼の転送続(つまり、無線通信)を行うものである。
よって、引用発明における、「複数階からなるビル」の「各階のフロア内に」「碁盤の目状に」「敷設され」た、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」は、「社員によって携帯されるPHS」に着信呼の転送(つまり、無線通信)を行うものであるから、本願発明1における「施設管理者によって施設に規則的な配置で設置され、施設利用者の所持する情報通信端末との間で無線通信が可能な複数の第1無線局」に相当するといえる。

ウ 引用発明における「移動端末7」が「測定」した、「各ID発信機6a,6b,6c…の受信電界強度」が、本願発明1における「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度」に相当する。

エ 引用発明における「自営用の基地局5」は、「フロアの所定位置」に「設置されて」いるから、本願発明1における「前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局」とは、「少なくとも一つの第2無線局」の点で共通する。

オ 上記「エ」を踏まえると、引用発明における「移動端末7」が「測定」した、「各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度」と、本願発明1における「前記情報通信端末が」「前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度」とは、「前記情報通信端末が」「少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度」の点で共通する。

カ 上記「オ」を踏まえると、引用発明における「パーソナルコンピュータ1a」は、「各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の位置を示す位置情報が記憶され」、「移動端末7」から「各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度情報」が「所定の基地局5に出力され、所定の基地局5に出力された情報がパーソナルコンピュータ1aに入力され」、「入力された受信電界強度情報と位置情報とから移動端末7の位置特定を行な」い、「複数階にわたるビルの構内10において移動中の移動端末7の位置を一箇所で集中的に管理することが可能にな」っているから、本願発明1における「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度とを前記情報通信端末から前記第1無線局を介して取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する位置把握手段」とは、「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度とを前記情報通信端末から取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する位置把握手段」の点で共通する。

キ 引用発明における「移動端末7の位置特定」は、「各ID発信機6a,6b,6c…および各基地局5a,5b,5c…の受信電界強度それぞれから移動端末7の存在し得る範囲を特定し、各特定範囲の重なり部分を演算することにより行なわれ」るから、「複数階からなるビル」の「各階のフロア内」に「碁盤の目状に」「敷設され」た、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」のうちの少なくとも二つの「PHS用コードレス親機」からの電波が、「各階のフロア内」の少なくとも一部の場所で「重なり」合っていることは明らかである。
よって、引用発明における「各階のフロア内」の少なくとも一部の場所で、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」のうちの少なくとも二つの「PHS用コードレス親機」からの電波が「重なり」合っていることと、本願発明1における「前記対象領域内の全ての場所が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされている」こととは、「前記対象領域内の少なくとも一部の場所が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされている」点で共通する。

ク 引用発明における「位置特定システム」が、本願発明1における「システム」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「施設管理者によって施設に規則的な配置で設置され、施設利用者の所持する情報通信端末との間で無線通信が可能な複数の第1無線局と、
前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度とを前記情報通信端末から取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する位置把握手段と、
を有し、
前記対象領域内の少なくとも一部の場所が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされている、システム。」

(相違点1)
本願発明1では、「少なくとも一つの第2無線局」が「前記複数の第1無線局よりも外側に配置され」、位置把握手段が、「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度」とを「前記情報通信端末から前記第1無線局を介して」取得しているのに対し、
引用発明では、「自営用の基地局5」である「各基地局5a,5b,5c…」は、「フロアの所定位置」に「設置されて」、移動端末7が測定した受信電界強度情報が「所定の基地局5に出力され、所定の基地局5に出力された情報」がパーソナルコンピュータ1aに入力されている点(本願発明1における表現に倣えば、受信電界強度情報が、移動端末7から、第2無線局に相当する「所定の基地局5」を介して、「パーソナルコンピュータ1aに入力」されている点)。

(相違点2)
本願発明1では、対象領域内の「全ての場所」が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされているのに対し、引用発明では、「各階のフロア内」の少なくとも一部の場所で、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」のうちの少なくとも二つの「PHS用コードレス親機」からの電波が重なり合っていることとは自明であるものの、「各階のフロア内」の「全ての場所」で重なり合っているかは、明らかでない点。

(2)相違点についての判断
まず、上記相違点1について検討する。
ア 引用文献1における図4には、「自営用の基地局5」(図4では、符号「6」で示されている)が、「各階のフロア内に」「碁盤の目状」に「敷設され」た「ID発信機6」(PHS用コードレス親機)(図4では、符号「5」で示されている)より外側に設置される様子が描かれている。
よって、引用発明における、「自営用の基地局5」(「各基地局5a,5b,5c…」)の設置位置を、「各階のフロア内に」「碁盤の目状」に「敷設され」た「ID発信機6」(PHS用コードレス親機)より外側とすること自体は、引用文献1に記載されている。

イ また、引用文献1の「図5」で説明される「本発明の別実施形態」のとおり、「公衆用PHSネットワークを利用した場合」には、「公衆用の各基地局50(50a,50b,50c…)」が、「複数階からなるビル」の「各階のフロア」の外側に設置されることは明らかであるから、引用発明において、「自営用の基地局5」に代え、「複数階からなるビル」の「各階のフロア」の外側に設置される「公衆用の各基地局50」を用いることも、当業者が容易になし得たことである。

ウ しかし、
(ア)引用発明における位置特定システムにおいて、移動端末7から「受信電界強度情報」が「所定の基地局5に出力され、所定の基地局5に出力された情報がパーソナルコンピュータ1aに入力され」る理由は、引用文献1の段落【0030】に記載されているように、「たとえば、遠隔地に設置されているパーソナルコンピュータ1a(図1参照)から移動端末7への発呼動作が行なわれれば、呼接続のための信号が所定の基地局5を介して移動端末7に入力され、所定のフェーズで呼が接続される。」ためである。

(イ)したがって、引用発明において、移動端末7から「受信電界強度情報」を、「所定の基地局5」を介して「パーソナルコンピュータ1aに入力」するのではなく、上記相違点1に係る本願発明1の構成に対応するように、「複数階からなるビル」の「各階のフロア内」に「碁盤の目状に」「敷設され」た、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」(本願発明1における「第1無線局」に相当する。)を介して行うには、パーソナルコンピュータ1aは、まず、「複数階からなるビル」の「各階のフロア内」に「碁盤の目状に」「敷設され」た、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」のうち、移動端末7への着呼が可能な「PHS用コードレス親機」を探索し、その後、パーソナルコンピュータ1aは、該探索された「PHS用コードレス親機」を中継して移動端末7へと呼接続する必要があるが、そのような呼接続の方法は、「所定の基地局5」と呼接続する場合に比べて時間を要し、当業者に動機付けられないことである。

(ウ)よって、引用発明において、移動端末7から「受信電界強度情報」を、「所定の基地局5」を介してではなく、「ID発信機6」である「PHS用コードレス親機」(本願発明1における「第1無線局」に相当する。)を介して「パーソナルコンピュータ1aに入力」するように変更し、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者に動機付けられないことである。

(エ)引用文献2には、「基地局とは異なる他の無線信号源」が「基地局」よりも外側に配置されていることも、「移動機」から「測位サーバ」への「送信手段」も特定されていないから、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用文献2に記載されていない。また、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用文献3にも記載されていない。
よって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用文献2、引用文献3に記載された技術事項から当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術事項に基づいて容易になし得たものではない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明であって、本願発明1と同じく、「位置把握手段」が、「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度とを「前記情報通信端末から前記第1無線局を介して」取得する構成(上記相違点1に係る本願発明1の構成)を備えるものである。
よって、本願発明2-9は、本願発明1について述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術事項に基づいて容易になし得たものではない。

第7 原査定についての判断
1.原査定の拒絶の理由で引用された引用文献、引用発明等
(1)引用文献Aについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(特開平11-178045号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、屋内、屋外等をサービスエリアとする移動通信システムを使用して移動体の現在位置を検出する位置検出システムに関する。」

「【0022】まず、図1を参照して位置検出システムの全体の構成を説明する。このシステムは、移動局110,130,150及び170と、基地局210,230,250及び270と、回線制御局300と、電気通信網400と、受信レベル地図データベース500で構成されている。なお、この例では4つの移動局と4つの基地局を示してあるが、実際のシステムにおいては、移動局の数及び基地局の数は、必要に応じて増減される。
【0023】基地局210,230,250及び270は、回線制御局300を介して、電気通信網400に接続されている。また、回線制御局300には、受信レベル地図データベース500が接続されている。受信レベル地図データベース500に保持されるデータは、各移動局の位置検出に利用される参照データである。このデータは、予め作成され、実際には、光磁気ディスク、コンパクトディスクなどに受信レベル地図データベース500として登録してある。
【0024】受信レベル地図データベース500に保持される受信レベル地図データは、予め定めた地点の緯度及び経度のデータと前記地点で受信した基地局識別符号及び前記地点における受信レベルデータが対となったデータである。また、このデータは基地局毎に分類されている。詳細については、後で説明する。受信レベル地図データは、必要に応じて、受信レベル地図データベース500から各基地局を介して各移動局にダウンロードされる。各移動局に図2の受信レベル地図データベース123が接続される場合には、受信レベル地図データのダウンロードは不要である。
【0025】無線ゾーンZ1,Z2,Z3及びZ4は、それぞれ、基地局210,230,250及び270に対して無線通信が可能な範囲を意味する。移動局110,130,150及び170が前記無線ゾーンZ1?Z4の少なくとも1つの内部に位置する場合には、その無線ゾーンを形成する基地局と無線通信(送信及び受信)が可能である。
【0026】基地局210,230,250及び270が回線制御局300を介して電気通信網400に接続されているので、移動局110,130,150及び170は、電気通信網400に接続された図示しない様々な端末装置との間で通信することができる。図1においては、無線ゾーンZ2及びZ3は、建物600の屋内に形成され、無線ゾーンZ1及びZ4は屋外に形成されている。屋外の無線ゾーンZ1及びZ4は、屋内の無線ゾーンZ2及びZ3よりも広くなっている。
【0027】移動局110,130,150及び170のそれぞれは、基地局210,230,250及び270の何れか1つに登録され、登録された基地局との間で無線通信を行う。移動局110,130,150及び170の基地局210,230,250及び270への登録は、回線制御局300の制御によって、図6に示すように処理される。
【0028】図6を参照して説明する。まず移動局110からの電波を受信可能な基地局A,基地局B及び基地局Cが、それぞれ、移動局110からの電波の受信レベルを検出する。受信レベルを検出した各基地局は、受信レベル,移動局識別符号及び基地局識別符号を回線制御局300に送出する。回線制御局300は、入力される各基地局の受信レベルの大きさを比較して、受信レベルが最大の基地局を特定する。この1つの基地局に対して、前記移動局識別符号に対応する移動局110を登録するように指示を与える。
【0029】登録を指示された基地局は、それ自身に前記移動局識別符号に対応する移動局110を登録するとともに、移動局110に対して、登録の結果を通知する。図1に示すシステムにおいては、屋外の移動局110及び170は屋外の無線ゾーンZ1及びZ4を含む広域エリアの受信レベル地図データを保持する。移動局110が位置を検出する場合には、基地局210を含む周辺基地局について、それぞれ受信レベル及び基地局識別符号を検出する。受信レベル及び基地局識別符号を受信レベル地図のデータと比較して、移動局110の位置を検出する。
【0030】また、屋内の移動局130及び150は、屋内の無線ゾーンZ2及びZ3を含む比較的狭いエリアの受信レベル地図データを保持する。屋内の移動局130が位置を検出する場合には、基地局230を含む周辺基地局について、それぞれ、受信レベル及び基地局識別符号を検出する。受信レベル及び基地局識別符号を受信レベル地図のデータと比較して、移動局130の位置を検出する。
【0031】図1では、回線制御局300において、移動局が屋外のどの基地局のエリアに在圏しているか、また屋内のどの基地局のエリアに在圏しているかの位置登録の処理を行うので、移動局が屋外から屋内へ、又は屋内から屋外へ移動した場合でも、連続的に位置検出を行うことができる。すなわち、屋外の移動局110の場合、回線制御局300より基地局210を経て、移動局110が基地局210の無線ゾーンZ1に在圏していることを移動局110に通知する。移動局110は、受信レベル地図データを参照して無線ゾーンZ1内における詳細な位置を検出する。
【0032】この場合、受信レベル地図データを受信レベル地図データベース500から転送する際に、基地局210の周辺を含む無線ゾーンの広域エリアの受信レベル地図データを転送する。さらに、移動局110が屋外の他の基地局の無線ゾーンに移動したときは、回線制御局300の制御により、移行先の基地局に位置登録を行い、移行先の基地局を移動局へ通知し、移動局の受信レベル地図データを移行先の基地局の無線ゾーンのデータに更新する。
【0033】同様に、基地局270の無線ゾーンZ4に在圏する移動局170についても、屋外の他の基地局の無線ゾーンに移動したときは、回線制御局300の制御により移行先の基地局に位置登録を行い、移行先の基地局を移動局に通知し、受信レベル地図データを移行先の基地局の無線ゾーンのデータに更新する。
【0034】屋内の移動局130については、回線制御局300の制御により、移動局130が基地局230の無線ゾーンZ2に在圏することを検出し、検出結果を基地局230を介して移動局130に通知する。また移動局150については、移動局150が基地局250の無線ゾーンZ3に在圏することを検出し、検出結果を基地局250を介して移動局150に通知する。
【0035】移動局130は、受信レベル地図データを参照して無線ゾーンZ2内の詳細な位置を検出する。移動局150は、受信レベル地図データを参照して無線ゾーンZ3内の詳細な位置を検出する。この場合、受信レベル地図データベース500からは、無線ゾーンZ2及びZ3の狭域エリアの受信レベル地図データが転送される。」

「【0089】この場合、移動局における地図データ記憶ユニット121の記憶容量を大幅に軽減できるので、さらに移動局装置の小型化、経済化が可能となる。なお、位置検出局700から出力される位置情報は、電気通信網400内に接続された通信端末へ転送してもよく、この場合、電気通信網400内の通信端末上において、移動局810の現在位置の確認あるいは移動軌跡の追跡等が可能となり、移動局810を携帯して移動する顧客の位置通知サービスを提供することも可能である。」

「【0091】その結果、位置検出機能を携帯電話機器などにも搭載することが可能となり、利便性を大幅に向上することができる。さらに、GPS電波が受信できない屋内においても位置検出が可能となるため、連続的な位置検出が可能である。」

したがって、引用文献Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる
「屋内、屋外等をサービスエリアとする移動通信システムを使用して移動体の現在位置を検出する位置検出システム(段落【0001】より。以下、同様。)であって、
このシステムは、移動局110,130,150及び170と、基地局210,230,250及び270と、回線制御局300と、電気通信網400と、受信レベル地図データベース500で構成され(【0022】)、
基地局210,230,250及び270は、回線制御局300を介して、電気通信網400に接続され、また、回線制御局300には、受信レベル地図データベース500が接続され(【0023】)、
無線ゾーンZ1,Z2,Z3及びZ4は、それぞれ、基地局210,230,250及び270に対して無線通信が可能な範囲を意味し、移動局110,130,150及び170が前記無線ゾーンZ1?Z4の少なくとも1つの内部に位置する場合には、その無線ゾーンを形成する基地局と無線通信(送信及び受信)が可能であり(【0025】)、
無線ゾーンZ2及びZ3は、建物600の屋内に形成され、無線ゾーンZ1及びZ4は屋外に形成され(【0026】)、
屋内の移動局130は、屋内の無線ゾーンZ2を含む比較的狭いエリアの受信レベル地図データを保持し、屋内の移動局130が位置を検出する場合には、基地局230を含む周辺基地局について、それぞれ、受信レベル及び基地局識別符号を検出し、受信レベル及び基地局識別符号を受信レベル地図のデータと比較して、移動局130の位置を検出する(【0030】)、
位置検出システム(【0001】)。」

(2)引用文献Bについて
原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献B(特開2006-253888号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0010】
本発明によれば、屋内においても、移動通信装置の現在位置の位置属性を通知することができ、移動通信装置のユーザは確実かつ迅速に現在位置を知ることができるため、ユーザの利便性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態に係るシステム構成例を示す。」

「【0015】
位置識別情報発信装置600は、それぞれを一意に識別可能な位置識別情報(例えば、装置ID)を常時又は周期的に発信している。位置識別情報発信装置600は、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)タグである。位置識別情報発信装置600は、空間モデル化装置100で決定された設置位置に設置されている。位置識別情報発信装置600は、情報発信装置の例である。」

「【0017】
位置識別情報取得装置500は、位置識別情報発信装置600からの位置識別情報を受信可能な機器であり、例えば、RFIDタグリーダである。」

「【0024】
このようにして、空間モデル化装置100では、各ブロックに対して位置属性を設定するとともに、各ブロックに位置識別情報発信装置600の識別情報を対応付けて位置識別情報発信装置600の設置位置を決定する。そして、空間モデル化装置100では、ブロックと位置属性と位置識別情報発信装置600の識別情報の対応関係を示す位置変換情報を生成する。図10は、位置変換情報の一例を示す。
【0025】
次に、空間モデル化装置100は、位置変換情報を空間管理装置200に供給し、また、位置識別情報発信装置600の設置位置が示された測位インフラ位置情報をビル管理者300に供給する。これら位置変換情報の供給及び測位インフラ位置情報の供給は、データ送信によってもよいし、オフラインによってもよい。
【0026】
ビル管理者300では、位置識別情報発信装置600を測位インフラ位置情報で示されたそれぞれの設置位置に設置する。これにより、位置識別情報発信装置600から発信される識別情報が、位置を特定するための位置識別情報として機能することになる。「ビル管理者」は、「地下街管理者」「ショッピングモール管理者」や、「警備会社」、「インフラ設置者」等でもよい。
【0027】
ビル管理者300により、位置識別情報発信装置600が所定の設置位置に設置された後に、ユーザ端末装置400が、位置識別情報取得装置500を介して、近傍にある位置識別情報発信装置600から常時又は周期的に発信されている位置識別情報を受信する。そして、ユーザ端末装置400では、位置識別情報発信装置600からの位置識別情報が含まれた位置通知リクエストを生成し、空間管理装置200に対して送信する。
【0028】
空間管理装置200では、ユーザ端末装置400からの位置通知リクエストを受信し、位置通知リクエストに含まれている位置識別情報を、位置変換情報と照合し、位置識別情報に対応するブロックを判別し、判別したブロックの名称を抽出する。そして、抽出した名称を通知する位置通知情報を生成し、ユーザ端末装置400に送信する。
【0029】
ユーザ端末装置400では、空間管理装置200からの位置通知情報を受信し、ユーザに対して現在位置の名称を表示する。」

よって、引用文献Bには、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「屋内においても、移動通信装置の現在位置の位置属性を通知することができ、移動通信装置のユーザは確実かつ迅速に現在位置を知ることができる(段落【0010】より。以下、同様)システム(【0011】)であって、
ビル管理者300は、位置識別情報発信装置600を測位インフラ位置情報で示されたそれぞれの設置位置に設置し(【0026】)、ビル管理者300により、位置識別情報発信装置600が所定の設置位置に設置された後に、ユーザ端末装置400が、位置識別情報取得装置500を介して、近傍にある位置識別情報発信装置600から常時又は周期的に発信されている位置識別情報を受信し、そして、ユーザ端末装置400では、位置識別情報発信装置600からの位置識別情報が含まれた位置通知リクエストを生成し、空間管理装置200に対して送信し(【0027】)、空間管理装置200では、ユーザ端末装置400からの位置通知リクエストを受信し、位置通知リクエストに含まれている位置識別情報を、位置変換情報と照合し、位置識別情報に対応するブロックを判別し、判別したブロックの名称を抽出し、そして、抽出した名称を通知する位置通知情報を生成し、ユーザ端末装置400に送信し(【0028】)、ユーザ端末装置400では、空間管理装置200からの位置通知情報を受信し、ユーザに対して現在位置の名称を表示する(【0029】)、
システム(【0011】)。」

(3)引用文献Cについて
原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献C(特開2006-308361号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。

「【0001】
本発明は、屋内などにおいて利用者が存在する場所を特定する位置検出システム、その方法及び プログラムに関する。」

「【0025】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態による位置検出システムを図面を参照して説明する。図1は同実施形態の構成を示す概念図であり、例えば、複数の部屋に分割されたビルの所定の階の平面図を示している。
この図において、探索対象は、例えば、訪問客等であり、セキュリティカード等に内蔵された携帯無線機1(バッテリを内蔵するアクティブ型の非接触ICタグまたはICカードなどの非接触IC媒体)を携帯している。
固定送信機2a,2b,2c,2dは、例えば、各々の階の所定の位置(内部または外部、建物の他の階も同様)に設置され、所定の周期間隔毎に識別情報を含む検出信号を発信する。ここで、建物全体に設置される固定送信機各々は、検出信号を発信する周期間隔(500ms)は同様であるが、検出信号の発信タイミングがそれぞれ異なって(例えば1msずつずれている)設定されている。すなわち、各固定送信機の検出信号は、所定の周期間隔で所定の時間幅を有する信号群として携帯無線機に受信される。
【0026】
携帯無線機1は、上記固定送信機2a?2d各々からの検出信号を受信し、それぞれの固定送信機毎の検出信号の電波強度を測定して、各固定送信機の識別情報と電波強度とを対応付けて、自身の媒体識別情報を付加して、位置強度信号として発信する。この媒体識別情報により、位置検出装置4において各携帯無線機1の識別が行われる。
受信装置3は、上記位置強度信号を受信して、この受信した位置強度信号を、位置検出装置4へ送信する。
位置検出装置4は、入力される位置強度信号に基づき、上記携帯無線機を携帯している探索対象のビルにおける位置を探索する。
【0027】
上記携帯無線機1は、図2のブロック図に示すように、制御部5,記憶部6,送信部7,受信部8及びバッテリ9を有した非接触IC媒体である。
受信部8は、固定送信機(探索対象が存在する階のみでなく他の階の固定送信機も含まれる)の発信する検出信号を順次受信し、所定の増幅度により増幅し、得られた電圧レベルを電波強度として、検出信号とともに制御部5へ出力する。
制御部5は入力される検出信号に含まれる識別情報を抽出し、各固定送信機毎に識別情報と電波強度とを対応付けて、上記信号群における入力順に時系列に、記憶部6へ記憶させる。」

よって、引用文献Cには、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「屋内などにおいて利用者が存在する場所を特定する位置検出システム(段落【0001】より。以下、同様。)であって、
固定送信機2a,2b,2c,2dは、例えば、各々の階の所定の位置(内部または外部、建物の他の階も同様)に設置され、所定の周期間隔毎に識別情報を含む検出信号を発信し(【0025】)、
携帯無線機1は、上記固定送信機2a?2d各々からの検出信号を受信し、それぞれの固定送信機(探索対象が存在する階のみでなく他の階の固定送信機も含まれる)(左記括弧内につき、【0027】)毎の検出信号の電波強度を測定して、各固定送信機の識別情報と電波強度とを対応付けて、自身の媒体識別情報を付加して、位置強度信号として発信し、受信装置3は、上記位置強度信号を受信して、この受信した位置強度信号を、位置検出装置4へ送信し、
位置検出装置4は、入力される位置強度信号に基づき、上記携帯無線機を携帯している探索対象のビルにおける位置を探索する(【0026】)、
位置検出システム(【0001】)。」

(4)引用文献D
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献D(特開2010-127850号公報)は、当審で通知した拒絶理由における上記引用文献2であって、その記載された事項及び記載された技術事項については、上記「第5」「2.」のとおりである。

(5)引用文献E
原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された引用文献E(特開平11-178041号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、屋内、屋外などをサービスエリアとする移動通信システムを利用して、移動体や人間などの位置を検出する位置検出システム及び位置検出方法に関する。」

「【0032】図1は、屋内の1つの部屋について位置を検出するためのシステムの構成を示している。図1を参照すると、所定の無線信号を発信する送信専用の位置検出用送信機501,502,503及び504が設けてある。位置検出用送信機501?504は、室内の天井、壁等に設置される。無線ゾーン511,512,513及び514は、それぞれ、位置検出用送信機501,502,503及び504によって形成される。
【0033】室内の天井には、通信に用いられる基地局201が設置されている。基地局201は無線ゾーン202を形成する。位置検出用送信機の無線ゾーン511,512,513及び514は、全て、基地局201の無線ゾーン202に含まれている。この例では、基地局201と通信可能な移動局101が、室内に配置されている。また、室内に配置されたノートパソコン102には、移動局101及び位置検出用受信機600が接続されている。
【0034】位置検出用受信機600は、受信専用機であり、位置検出用送信機501?504から発信される電波を受信する。位置検出用送信機501?504から発信される信号には、各位置検出用送信機に予め割り当てられた識別符号と設置地点のx‐y座標の位置情報が含まれている。また、位置検出用受信機600は、位置検出用送信機501?504から発信される電波を受信して、それぞれの電波の受信レベルを測定する。そして、各位置検出用送信機について、識別符号,受信レベル及び設置地点の位置情報が、位置検出用受信機600からノートパソコン102に出力される。
【0035】ノートパソコン102は、位置検出用受信機600から入力される各位置検出用送信機の識別符号,受信レベル及び設置地点の位置情報を、移動局101を介して、基地局201に電波で送信する。基地局201は、回線制御局300と接続されている。図1には、1つの基地局201のみを示してあるが、実際には多数の基地局が、回線制御局300に接続されている。回線制御局300は、図11に示すような制御を行う。すなわち、移動局101がどの基地局と通信を行なっているかを識別し、更に、各基地局で検出される移動局101からの電波の受信レベルを比較して、最も受信レベルの高い基地局に、移動局101の位置登録を行なう。
【0036】回線制御局300は、クライアントコンピュータ310を介して、データベース320及び電気通信網400と接続されている。ノートパソコン102は、位置検出用受信機600から入力される各位置検出用送信機の識別符号,受信レベル及び設置地点の位置情報に基づいて、移動局101の現在位置を演算し、地図とともに移動局101の位置を表示する。
【0037】ノートパソコン102が検出した移動局101の位置情報は、移動局101,基地局201及び回線制御局300を介して、クライアントコンピュータ310に転送される。クライアントコンピュータ310は、転送された移動局101の位置情報を、基地局201の位置情報とともに、データベース320上に登録する。」

「【0042】図3に、3つの位置検出用送信機510A,510B及び510Cを用いて位置検出をする場合の、無線ゾーンZA,ZB及びZCの配置を示す。3つの位置検出用送信機510A,510B及び510Cの配置点を互いに結ぶことにより、三角形が形成される。部屋の平面形状が正方形である場合には、正方形の1辺の二等分線上に1局を配置し、他の2局を、正三角形が形成される位置に配置する。
【0043】また、部屋の形状が長方形である場合には、長方形の1辺の二等分線上に1局を配置し、他の2局を、二等辺三角形が形成される位置に配置する。位置検出用送信機510A,510B及び510Cにより、無線ゾーンZA,ZB及びZCが形成され、これらの無線ゾーンにより室内全体が覆われる。一般に、位置検出用送信機を3局用いて、正三角形の無線ゾーンを規則的に配置すると、一定面積を隙間なく覆うことができる。図3のように部屋が長方形の場合、正三角形の配置で位置検出を行っても良い。」

「【0044】図4に、4つの位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dを用いて位置検出をする場合の、無線ゾーンZA,ZB,ZC及びZDの配置を示す。4つの位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dの配置点を互いに結ぶことにより、四角形が形成される。部屋の平面形状が正方形である場合には、4つの位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dを正方形に配置し、長方形の場合には、長方形となるように配置する。
【0045】位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dにより、無線ゾーンZA,ZB,ZC及びZDが形成される。これらの無線ゾーンにより、室内を覆うものとする。位置検出用送信機501の構成を図5に示す。図5を参照すると、位置検出用送信機501は、記憶ユニット521,変調回路524,高周波回路525,タイミング制御回路526,アンテナ切替器527,アンテナ528,529及び電源ユニット530を備えている。」

「【0091】
【発明の効果】本発明では、複数の位置検出用送信機と位置検出用受信機を用いて位置検出を行なうので、例えば、位置検出精度が要求される屋内においては上記送受信機を設置すればよく、要求される検出精度に応じて柔軟に位置検出システムを構築することができる。さらに、複数の位置検出用送信機を用いた小ゾーン構成を採用することにより、連続的な位置検出が可能になる。また、位置検出用送信機と位置検出用受信機は、時分割で送受信を行なうので、間欠的な送受信でよく、送信機及び受信機の省電力化に非常に有効である。」

よって、引用文献Eには、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「移動体や人間などの位置を検出する位置検出システム(【0001】)であって、
屋内の1つの部屋に、所定の無線信号を発信する送信専用の位置検出用送信機501,502,503及び504が設けてあり、位置検出用送信機501?504は、室内の天井、壁等に設置され(【0032】)、室内の天井には、通信に用いられる基地局201が設置され、、基地局201と通信可能な移動局101が、室内に配置され、室内に配置されたノートパソコン102には、移動局101及び位置検出用受信機600が接続され(【0033】)、
位置検出用受信機600は、受信専用機であり、位置検出用送信機501?504から発信される電波を受信し、各位置検出用送信機について、識別符号,受信レベル及び設置地点の位置情報が、位置検出用受信機600からノートパソコン102に出力され(【0034】)、
ノートパソコン102は、位置検出用受信機600から入力される各位置検出用送信機の識別符号,受信レベル及び設置地点の位置情報に基づいて、移動局101の現在位置を演算し、地図とともに移動局101の位置を表示し(【0036】)、
ノートパソコン102が検出した移動局101の位置情報は、移動局101,基地局201を介して、クライアントコンピュータ310に転送され(【0037】)、
3つの位置検出用送信機510A,510B及び510Cを用いて位置検出をする場合、部屋の平面形状が正方形である場合には、正方形の1辺の二等分線上に1局を配置し、他の2局を、正三角形が形成される位置に配置し(【0042】)、また、部屋の形状が長方形である場合には、長方形の1辺の二等分線上に1局を配置し、他の2局を、二等辺三角形が形成される位置に配置し、位置検出用送信機510A,510B及び510Cにより、無線ゾーンZA,ZB及びZCが形成され、これらの無線ゾーンにより室内全体が覆われ(【0043】)、
4つの位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dを用いて位置検出をする場合、部屋の平面形状が正方形である場合には、4つの位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dを正方形に配置し、長方形の場合には、長方形となるように配置する(【0044】)と、位置検出用送信機510A,510B,510C及び510Dにより、無線ゾーンZA,ZB,ZC及びZDが形成され、これらの無線ゾーンにより、室内を覆う(【0045】)、
位置検出システム(【0001】)。」

2.対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明Aとを対比する。
(ア)引用発明Aにおける「移動局130」は、引用文献Aの段落【0091】に例示された、「位置検出機能」を「搭載」した「携帯電話機器」を含むものであるから、本願発明1における「情報通信端末」に相当する。
そして、引用発明Aにおける、「建物600の屋内に形成され」た「無線ゾーンZ2」は、「屋内の移動局130」が「基地局230」「に対して無線通信が可能な範囲を意味」するから、引用発明Aにおける、「屋内の移動局130」「に対して無線通信が可能な」「基地局230を含む周辺基地局」と、本願発明1における「施設管理者によって施設に規則的な配置で設置され、施設利用者の所持する情報通信端末との間で無線通信が可能な複数の第1無線局」とは、「情報通信端末との間で無線通信が可能な複数の第1無線局」の点で共通する。

(イ)引用発明Aにおける「屋内の移動局130が位置を検出する場合」に、「基地局230を含む周辺基地局について、それぞれ、」「屋内の移動局130」が「検出」する「受信レベル」と、本願発明1における「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度と前記情報通信端末が前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度」とは、「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度」の点で共通する。

(ウ)引用発明Aにおける「屋内の移動局130は、屋内の無線ゾーンZ2を含む比較的狭いエリアの受信レベル地図データを保持し、屋内の移動局130が位置を検出する場合には」、「受信レベル及び基地局識別符号を受信レベル地図のデータと比較して、移動局130の位置を検出」することと、本願発明1における「前記情報通信端末から前記第1無線局を介して取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する位置把握手段」とは、「無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する手段」の点で共通する。

(エ)引用発明Aにおいて、「基地局230を含む周辺基地局について、それぞれ、受信レベル及び基地局識別符号を検出し、受信レベル及び基地局識別符号を受信レベル地図のデータと比較して、移動局130の位置を検出」することを実現可能にするためには、「屋内の無線ゾーンZ2」の全ての場所が基地局230を含む周辺基地局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされていることが必要であるので、引用発明Aにおける「屋内の無線ゾーンZ2」が、「移動局130の位置を検出」できるように「基地局230を含む周辺基地局」によってカバーされていることが、本願発明1における「前記対象領域内の全ての場所が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされている」に相当するといえる。

(オ)引用発明Aにおける「位置検出システム」が、本願発明1における「システム」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明Aとの間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「情報通信端末との間で無線通信が可能な複数の第1無線局と、
前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する手段と、
を有し、
前記対象領域内の全ての場所が前記複数の第1無線局のうちの少なくとも二つからの無線電波によってカバーされている、システム。」

(相違点A)
本願発明1では、複数の第1無線局が「施設管理者によって施設に規則的な配置で設置され」ているのに対し、引用発明Aでは、基地局230を含む周辺基地局を誰が、どのように配置しているのか、明らかでない点。

(相違点B)
本願発明1では、情報通信端末が、第1無線局から受けた無線の電波強度だけでなく、「前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度」を得ているのに対し、
引用発明Aでは、屋内の移動局130が位置を検出する場合には、「基地局230を含む周辺基地局について、それぞれ、受信レベル及び基地局識別符号を検出」しているものの、「基地局230を含む周辺基地局」の外側に配置された少なくとも一つの無線局について「受信レベル及び基地局識別符号を検出」しているか明らかでない点。

(相違点C)
本願発明1におけるシステムでは、「位置把握手段」が、「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度」と、「前記複数の第1無線局よりも外側に配置された少なくとも一つの第2無線局から受けた無線の電波強度」とを、前記情報通信端末から「前記第1無線局を介して」取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する」のに対し、
引用発明Aにおける「位置検出システム」では、「屋内の移動局130」が、「屋内の無線ゾーンZ2を含む比較的狭いエリアの受信レベル地図データを保持し」、基地局230を含む周辺基地局について「検出」した「受信レベル及び基地局識別符号を受信レベル地図のデータと比較して、移動局130の位置を検出し」ている点。

(相違点D)
本願発明1では、「情報通信端末」が、「施設利用者の所持する情報通信端末」であるのに対し、引用発明Aでは、「移動局130」が、「建物600の屋内」の移動局であることが示されているにすぎず、引用文献Aの段落【0089】における「移動局810を携帯して移動する顧客」との記載を考慮しても、「移動局130」が、「建物600」(すなわち「施設」)の利用者が所持しているものであるか、明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑み、先ず、相違点Cについて検討する。
(ア)引用文献Bに記載された技術では、「屋内において」、「ユーザ端末装置400が、位置識別情報取得装置500を介して、近傍にある位置識別情報発信装置600から常時又は周期的に発信されている位置識別情報を受信し、そして、ユーザ端末装置400では、位置識別情報発信装置600からの位置識別情報が含まれた位置通知リクエストを生成し、空間管理装置200に対して送信し」、「空間管理装置200では」、「位置通知リクエストに含まれている位置識別情報を、位置変換情報と照合し、位置識別情報に対応するブロックを判別し、判別したブロックの名称を抽出し」ており、上記相違点Cに係る本願発明の構成、つまり、「無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出」する構成を備えるものではない。

(イ)引用文献Cには、「固定送信機2a,2b,2c,2d」を「例えば、各々の階の所定の位置(内部または外部、建物の他の階も同様)に設置」することが記載されているが、「携帯無線機1」から「各固定送信機の識別情報と電波強度とを対応付け」を含む「位置強度信号」を「受信して、この受信した位置強度信号を、位置検出装置4へ送信」しているのは、「受信装置3」であって、「固定送信機2a,2b,2c,2d」ではない。
よって、引用文献Cには、上記相違点Cに係る本願発明1の構成、つまり、「情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度」と「第2無線局から受けた無線の電波強度」を「前記情報通信端末から前記第1無線局を介して取得」する構成は記載も示唆もされていない。

(ウ)引用文献Dは、当審における拒絶理由通知で引用した引用文献2であって、引用文献2には、「基地局とは異なる他の無線信号源」が「基地局」よりも外側に配置されていることも、「移動機」から「測位サーバ」への「送信手段」も特定されていないことは、上記「第6」「1」「(2)」「ウ」「(エ)」で述べたとおりである。
よって、引用文献Dには、上記相違点Cに係る本願発明1の構成は記載されていない。

(エ)引用文献Eには、屋内の1つの部屋に、位置検出用送信機を規則的(三角形や四角形が形成される位置)に配置して、これらの無線ゾーンにより室内全体を覆う技術が記載されているが、ノートパソコン102には、基地局201と通信可能な移動局101及び位置検出用受信機600が接続され、ノートパソコン102は、位置検出用受信機600から入力される各位置検出用送信機の識別符号,受信レベル及び設置地点の位置情報に基づいて、移動局101の現在位置を演算し、ノートパソコン102が検出した移動局101の位置情報は、移動局101,基地局201を介して、クライアントコンピュータ310に転送されている。
つまり、引用文献Eに記載された技術では、移動局101は、現在位置を自ら演算している点で、上記相違点Cに係る本願発明1の構成と異なっているだけでなく、引用発明Aと同様に、基地局201(本願発明1でいう、「第2無線局」に対応する。)を介して、クライアントコンピュータ310に接続されている点でも、上記相違点Cに係る本願発明1の構成とは異なっている。

よって、上記相違点Cに係る本願発明1の構成は、引用文献B-Eに記載された技術事項から当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、上記相違点A、相違点B及び相違点Dについて検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献A-Eに基づいて容易に発明をするこができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明であって、本願発明1と同じく、システムが「前記情報通信端末が前記第1無線局から受けた無線の電波強度」と、「第2無線局から受けた無線の電波強度」とを「前記情報通信端末から前記第1無線局を介して取得し、これら取得した無線の電波強度に基づいて前記施設内の対象領域における前記情報通信端末の位置を検出して前記施設利用者の位置を把握する位置把握手段」を有する構成(相違点Cに係る本願発明1の構成)を備えるものであるから、本願発明1について述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献A-Eに基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-02 
出願番号 特願2013-38035(P2013-38035)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
清水 稔
発明の名称 施設内における施設利用者の位置を管理するシステム  
代理人 奥山 尚一  
代理人 奥山 尚一  
代理人 小川 護晃  
代理人 西山 春之  
代理人 西山 春之  
代理人 小川 護晃  

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