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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B41C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41C
管理番号 1344694
審判番号 不服2018-4341  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-02 
確定日 2018-10-24 
事件の表示 特願2014-4859「スクリーン印刷版の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月23日出願公開,特開2015-131456,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年1月15日の出願であって,平成29年7月26日付けで拒絶理由通知がされ,同年9月26日付けで手続補正がされ,,平成30年2月20日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年6月8日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,同年8月10日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年2月20日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
本願請求項1,3,6(平成29年9月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載のもの)に係る発明は,引用文献1乃至5に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2009-051062号公報
引用文献2 特開2010-179657号公報
引用文献3 特表2006-508889号公報
引用文献4 特開平3-126558号公報
引用文献5 特開2006-88526号公報

第3 当審拒絶理由通知における拒絶の理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1
本願請求項1乃至6に係る発明は,引用文献1及び2,周知技術を示す引用文献3乃至5文献に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2009-51062号公報(拒絶査定時の引用文献1)
引用文献2 特開2010-179657号公報(拒絶査定時の引用文献2)
引用文献3 特開2013-67055号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献4 特開2013-62357号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献5 特開2008-73647号公報(当審において新たに引用した文献)

理由2
請求項5の「膜厚をさらに大きくする」とあるが,何と比較して「さらに」と限定しているのかが理解できず,不明瞭である。
したがって,本件出願は,特許請求の範囲の記載が不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1乃至5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」などという。)は,平成30年8月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1乃至5は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
メッシュスクリーンが版枠に張設されているが当該メッシュスクリーンの両面には感光性樹脂層が形成されていないスクリーン版をインクジェットプリンタの基台の所定位置に載置し,前記メッシュスクリーンが前記版枠と相対していない側の面をA面とし,前記A面と反対側のB面に撥水性シートを設け,前記基台から前記版枠を持ち上げる厚みをもつスポンジを前記版枠の下側に接しないように前記撥水性シートの下側に配することで前記メッシュスクリーンに前記撥水性シートを確実に接しさせた状態で前記A面に向けてインクジェットプリンタの印刷ヘッドから光硬化性インクを吐出し前記メッシュスクリーンに描画しながら相対位置を移動させて前記インクジェットプリンタの光照射ランプから光を照射し前記メッシュスクリーンの光硬化性インクを硬化させてスクリーン印刷版とし,前記メッシュスクリーンを描画しながら硬化させる作業を同じ箇所に重ね合わせて複数回繰り返すことで前記描画による膜厚を大きくすることを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記光硬化性インクの色は,前記メッシュスクリーンの色とは異なる有色が選定されることを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項3】
前記メッシュスクリーンが前記版枠と相対していない側の面であるA面に前記光硬化性インクを吐出し描画しながら硬化させた後,前記A面の画に重ね合わせて前記A面と反対側のB面に描画しながら硬化させて,膜厚を大きくすることを特徴とする請求項1または2記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項4】
前記光硬化性インクが紫外線硬化インクであり,前記光照射ランプが紫外線照射ランプであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項5】
メッシュスクリーンが版枠に張設されているが当該メッシュスクリーンの両面には感光性樹脂層が形成されていないスクリーン版を所定の位置に載置するための基台と,前記メッシュスクリーンが前記版枠と相対していない側の面に向けて光硬化性インクを吐出し前記メッシュスクリーンに描画しながら相対位置を移動させる印刷ヘッドと,光を照射し前記メッシュスクリーンの光硬化性インクを硬化させる光照射ランプを備え,前記メッシュスクリーンを描画しながら硬化させる作業を同じ箇所に重ね合わせて複数回繰り返すことでスクリーン印刷版を形成するインクジェットプリンタであって,前記メッシュスクリーンを前記基台に載置する際に前記メッシュスクリーンの前記枠体と相対する面に設けられた撥水性シートの下側でかつ前記枠体の下側に接しない位置に前記版枠を前記基台から持ち上げる厚みをもつスポンジが設けられていることを特徴とするインクジェットプリンタ。」

第5 理由1について
1 引用文献,引用発明等
(1)引用文献1について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。他の下線についても同じ。)
ア 「【0010】
以下,図1を参照して本発明によるスクリーン印刷版の製版,印刷,およびスクリーンメッシュの再生工程について説明する。
図1(a)に示すように,スクリーン印刷板となるスクリーンメッシュ2は,ナイロン,ポリエステル,金属メッシュ等の一般的なスクリーン印刷用のメッシュであり,型枠(スクリーン版枠)1に一定のテンションをかけられた状態で接着されている。
製版工程では,水溶性エネルギー線硬化樹脂4をパターン状に塗布する際に,裏抜けしないように裏抜け防止用プレート7をスクリーンメッシュ2の下にセットする。裏抜け防止用プレート7は,水溶性エネルギー線硬化樹脂4を硬化したときに,スクリーンメッシュ2からの剥離が容易なように,テフロン(登録商標)もしくはテフロン(登録商標)系の表面処理を施した金属プレートで構成することが望ましい。
裏抜け防止用プレート7の反対側から塗布手段3により,印刷の画像パターンのネガパターンに対応して水溶性エネルギー線硬化樹脂4を塗布していく。塗布手段3としては,インクジェットが望ましい。
【0011】
水溶性エネルギー線硬化樹脂4の粘度は,200cp以下で,スクリーンメッシュ2に染み込んでいくものが望ましい。水溶性エネルギー線硬化樹脂4を硬化するためにエネルギー線を照射するが,水溶性エネルギー線硬化樹脂4をスクリーンメッシュ2に塗布して形成した遮断部材5のパターンが滲まないように,塗布手段3としてのインクジェットヘッドを走査して,水溶性エネルギー線硬化樹脂4をスクリーンメッシュ2に塗布しながら,エネルギー線照射手段6によりエネルギー線を水溶性エネルギー線硬化樹脂4に照射していくのが望ましい(図1(b))。
水溶性エネルギー線硬化樹脂4の例としては,スリーボンド製の水溶性の紫外線硬化樹脂「ThreeBond3046」等がある。印刷時には,スクリーンメッシュ2の上にインク8を載せ,スキージ9で印圧を加えながら被印刷物10に印刷パターン11を転写していく(図1(c))。
所定枚数の印刷が済んだ後は,スクリーンメッシュ2の上に残ったインクを回収し,スクリーンメッシュに入ったインクをクリーニングする。その後,水溶性エネルギー線硬化樹脂のパターンを除去するため,スクリーンメッシュ2を水12の中に浸漬する。このとき,水温を50?70℃程度に昇温した方が水溶性エネルギー線硬化樹脂4を除去しやすくなる。」

イ 【図1】から,スクリーンメッシュ2の裏抜け防止用プレート7の反対側とは,「型枠(スクリーン版枠)1と相対していない側」であることが看て取れる。

引用文献1の上記記載事項によれば,引用文献1には以下の事項(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ナイロン,ポリエステル,金属メッシュ等の一般的なスクリーン印刷用のメッシュが,型枠(スクリーン版枠)に一定のテンションをかけられた状態で接着されているスクリーン印刷板となるスクリーンメッシュであって,
水溶性の紫外線硬化樹脂をパターン状に塗布する際に,裏抜けしないようにテフロンもしくはテフロン系の表面処理を施した金属プレートからなる裏抜け防止用プレートをスクリーンメッシュの下にセットし,
水溶性の紫外線硬化樹脂をスクリーンメッシュに塗布して形成した遮断部材のパターンが滲まないように,インクジェットヘッドを走査して,裏抜け防止用プレートの反対側である型枠(スクリーン版枠)と相対していない側から水溶性の紫外線硬化樹脂を印刷の画像パターンのネガパターンに対応してスクリーンメッシュに塗布しながら,エネルギー線照射手段によりエネルギー線を水溶性の紫外線硬化樹脂に照射するスクリーン印刷版の製版工程。」

(2)引用文献2について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は,スクリーン印刷版の製造方法に関する。」

イ 「【0027】
100μmPET上に予めセルロース樹脂の一種であるエチルセルロースの40%水溶液をメーヤーバー(線径0.5mm)を用いて25μmとなるように塗布したシートと,NBC株式会社製スクリーン印刷用メッシュクロスV250(メッシュ数:250/inch)とを重ね合わせ,100℃にて加熱圧着させた。次にスクリーン印刷用メッシュクロス側より紫外線硬化インクジェットプリンターを利用して所定のパターンを形成した。その後に紫外線を照射後,PETを剥離し,また余分なエチルセルロースを水洗いにより取り除きスクリーン印刷版とした。
他は,実施例1と同様である。」
引用文献2の上記記載事項によれば,引用文献2には以下の事項(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「100μmPET上に,セルロース樹脂の一種であるエチルセルロースの40%水溶液をメーヤーバー(線径0.5mm)を用いて25μmとなるように塗布したシートと,スクリーン印刷用メッシュクロスV250(メッシュ数:250/inch)とを重ね合わせて加熱圧着させ,スクリーン印刷用メッシュクロス側より紫外線硬化インクジェットプリンターを利用して所定のパターンを形成し,その後に,紫外線を照射後,PETを剥離し,余分なエチルセルロースを取り除くスクリーン印刷版の製造方法。」

(3)引用文献3について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0090】
インクジェット方式による検知用電気配線20,22の形成では,複数回の重ね打ち(パターンの積層)により所望の厚みを得ることができる。また,検査工程(ステップS5)における抵抗値の調整にもインクジェット方式による重ね打ちを適用することができる。」

(4)引用文献4について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0023】
第2の電極の作製方法としては,スパッタ法,或いはゾル‐ゲル法(スピンコーターにより塗工)により形成することができる。その場合は,第2の電極のパターニング(パターン化)が必要となるので,フォトリソグラフィ・エッチング等により所望のパターンを形成する。あるいは,スパッタ法,或いはゾル‐ゲル法以外に,本発明において電気-機械変換膜を形成する際に適用するインクジェット工法を用いて第2の電極を作製することができる。
図6を参照してインクジェット工法により第2の電極を作製するプロセスを説明する。図6は,本発明に係る第1の電極上に導電性酸化物から成るパターン化された第2の電極をインクジェット工法により作製するプロセスを説明するためのフロー図である。
先ず,図6中のBに示すように,下地(1)上にSAM形成用の材料を含有する溶液を全面塗布してSAM(自己組織化単分子膜)を形成する。SAM形成用の材料は下地の材料によっても異なるが,金属を下地とする場合は主にチオール材料(例えば,アルカンチオール)を選定する。アルカンチオールを用いる場合,分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性は異なるが通常C6からC18の炭素数を有する分子を一般的な有機溶媒(アルコール,アセトン,トルエンなど)に溶解(濃度数mol/l)させてSAM形成用の溶液を調製する。この溶液を用いて,浸漬,蒸気,スピンコーター等のいずれかにより下地(1)上に全面塗布処理を行い,余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することでSAMが形成できる。
次に,図6中のCに示すように,SAM上にフォトリソグラフィによりフォトレジスト(3)をパターン形成した後,図6中のDに示すように,ドライエッチングによりフォトレジスト(3)が形成されていない個所のSAM膜を除去するとともに,加工に用いたレジストを除去して,親水性領域と疎水性領域に区分けしてSAM膜のパターニングを終える。次に,図6中のEに示すように,第2の電極を形成するための原料液(前駆体液:インク)をIJヘッド(4)からインク滴として吐出し,親水性領域に塗膜(パターン化された第2の電極の前駆体膜)を形成し,通常のゾルゲルプロセスに従って熱処理を行う。
塗膜は,高温の熱処理(有機物の燃焼温度:300?500℃,結晶化温度:500?700℃)により行われるが,この高温処理によりSAM膜は消失する(図6中のF)。インクジェット工法を用いた場合,1層あたり約30?100nm程度の膜厚になるため,厚膜とするにはインクジェット工法を繰り返して何層か重ね打ちし塗膜を形成する必要がある。そのため,図6中のD’に示すように,繰り返してSAM膜のパターニングを行い,インクジェット工法によりパターン化された第2の電極の前駆体膜を作製し,熱処理を行い所望の膜厚を得る。膜厚としては,0.05?1μmが好ましく,0.1?0.5μmがさらに好ましい。」

(5)引用文献5について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0065】
一般に,配線基板のレジスト層は1μmから30μm程度の厚みが必要とされる。一方インクジェット方式による1回の吐出で得られるレジスト液(レジスト層5)の厚みは0.1μm?1μm程度であり,インクジェット方式を用いて1μmから30μm程度の膜厚を得るためには,数回にわたって同一位置にレジスト液を重ね打ちするとともに,重ね打ちされたレジスト液を積層する必要がある。」

(6)引用文献3乃至5に記載された周知技術について
上記(3)乃至(5)の記載から,「インクジェットプリンタを用いて,インクを吐出して描画しながら硬化させる作業を同じ箇所に重ね合わせて複数回繰り返すことで前記描画による膜厚を大きくすること」は,周知技術であることが認められる。

2 対比・判断
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「スクリーン印刷版」は,本願発明1の「スクリーン印刷版」に相当する。
以下同様に,「スクリーン印刷用のメッシュ」は「メッシュスクリーン」に,
「型枠(スクリーン版枠)」は「版枠」に,
「水溶性の紫外線硬化樹脂」は「光硬化性インク」に,それぞれ相当する。
インクジェットヘッドによって何らかのパターンに対応してインクを被塗布体に塗布する装置は,一般的にインクジェットプリンタであることを踏まえると,インクジェットヘッドを備える引用発明1が「インクジェットプリンタ」を構成していることは明らかであり,引用発明1の「インクジェットヘッド」は,本願発明1の「インクジェットプリンタの印刷ヘッド」に相当する。
引用発明1の「スクリーンメッシュ」は,「ナイロン,ポリエステル,金属メッシュ等の一般的なスクリーン印刷用のメッシュが,型枠(スクリーン版枠)に一定のテンションをかけられた状態で接着されている」ものであって,「一定のテンションをかけられた状態で接着」することは「張設」に他ならないから,引用発明1の「スクリーンメッシュ」は,本願発明1の「スクリーン版」に相当する。
引用発明1の「スクリーン印刷版」は,水溶性の紫外線硬化樹脂をスクリーンメッシュに塗布しながら,エネルギー線照射手段によりエネルギー線を水溶性エネルギー線硬化樹脂に照射することで,スクリーン印刷版の製版を行っており,引用文献1の段落【0002】及び【0003】に記載されている引用発明1の背景技術を踏まえると,当該製版工程において感光性樹脂を必要としないことは明らかであり,本願発明1の「メッシュスクリーン」に相当する,引用発明1の「スクリーン印刷用のメッシュ」の「両面には感光性樹脂層が形成されていない」ことは自明である。
引用発明1のスクリーンメッシュは,インクジェットヘッドを走査することで,印刷の画像パターンのネガパターンに対応して水溶性の紫外線硬化樹脂が塗布されるものである以上,スクリーンメッシュは,「インクジェットプリンタの所定位置に載置」された状態で塗布されることは自明である。
してみると,本願発明と引用発明1とは「スクリーン版をインクジェットプリンタの所定位置に載置」する点で共通している。
引用発明1の「スクリーンメッシュ」において「型枠(スクリーン版枠)と相対していない側」にある面は,本願発明1の「メッシュスクリーンが版枠と相対していない側の面」及び「A面」に相当することは明らかである。
また,引用発明1の「型枠(スクリーン版枠)と相対していない側」にある面が,本願発明1の「A面」に相当するから,引用発明1の「型枠(スクリーン版枠)1と相対していない側」にある面の反対側の面は,自動的に本願発明1の「B面」に相当することになる。また,引用発明1において「裏抜け防止用プレートをスクリーンメッシュの下にセット」していることから,引用発明1の「スクリーンメッシュ」の「下に裏抜け防止用プレートがセット」された側の面は「B面」であるといえる。
本願発明1の「撥水性シート」が,「材質としては,シリコーン,フッ素樹脂,ポリプロピレン等が挙げられる(【0048】参照)」こと,「描画された面の反対側となるB面2bから紫外線硬化性インク3が液ダレすることを防止できる(【0049】参照)」を踏まえると,引用発明1の「テフロンもしくはテフロン系の表面処理を施した金属プレートからなる裏抜け防止用プレート」は,本願発明1の「撥水性シート」に相当することは明らかである。
引用発明1は,「インクジェットヘッドを走査することで,印刷の画像パターンのネガパターンに対応して」「水溶性の紫外線硬化樹脂をスクリーンメッシュ」に「塗布し」,「水溶性の紫外線硬化樹脂をスクリーンメッシュに塗布しながら,エネルギー線照射手段によりエネルギー線を水溶性の紫外線硬化樹脂に照射」しているものであって,ここでの水溶性の紫外線硬化樹脂を硬化させるエネルギー線照射手段が紫外線を照射する手段であって,本願発明1の「光照射ランプ」に相当するものであるといえる。
してみると,本願発明1と引用発明1とは,「A面に向けてインクジェットプリンタの印刷ヘッドから光硬化性インクを吐出しメッシュスクリーンに描画しながら相対位置を移動させて前記インクジェットプリンタの光照射ランプから光を照射し前記メッシュスクリーンの光硬化性インクを硬化」させる点で共通している。

引用発明1は「スクリーン印刷版の製版工程」に係る発明であるから,本願発明1の「スクリーン印刷版の製造方法」に相当するといえる。

以上のことより,両者は,
〈一致点〉
「メッシュスクリーンが版枠に張設されているが当該メッシュスクリーンの両面には感光性樹脂層が形成されていないスクリーン版をインクジェットプリンタの所定位置に載置し,前記メッシュスクリーンが前記版枠と相対していない側の面をA面とし,前記A面と反対側のB面に撥水性シートを設け,前記A面に向けてインクジェットプリンタの印刷ヘッドから光硬化性インクを吐出し前記メッシュスクリーンに描画しながら相対位置を移動させて前記インクジェットプリンタの光照射ランプから光を照射し前記メッシュスクリーンの光硬化性インクを硬化させてスクリーン印刷版とするスクリーン印刷版の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点>
相違点1
本願発明1は「スクリーン版をインクジェットプリンタの基台の所定位置に載置」しているのに対して,引用発明1は,「スクリーンメッシュをインクジェットプリンタの所定位置に載置」しているといえるものの,「インクジェットプリンタの基台」に載置しているものではない点。

相違点2
本願発明1は「インクジェットプリンタの基台から版枠を持ち上げる厚みをもつスポンジを前記版枠の下側に接しないように撥水性シートの下側に配することでメッシュスクリーンに前記撥水性シートを確実に接しさせた状態」としているのに対して,引用発明1は,裏抜け防止用プレートの下側にスポンジを配するものではない点。

相違点3
本願発明1は「メッシュスクリーンを描画しながら硬化させる作業を同じ箇所に重ね合わせて複数回繰り返すことで前記描画による膜厚を大きく」するのに対して,引用発明1は「膜厚を大きく」することについて不明である点。

3 相違点についての判断
事案に鑑み,まず上記相違点2について検討する。
相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は,上記引用発明2及び引用文献3乃至5に記載された周知技術において記載も示唆もなく,また,本願出願日前において周知技術であるともいえない。
そして,本願発明1は,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を備えることで「ブロック7は,例えばスポンジフォームであり,版枠4をインクジェットプリンタ10の基台14から若干持ち上げる厚みとなっている(図3)。これによって,メッシュスクリーン2に撥水性シート6を接しさせることがより確実なものとなる。(【0048】参照)」という顕著な効果を奏するものである。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明1及び2,引用文献3乃至5に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものではない。

4 本願発明2乃至4について
請求項2乃至4はいずれも,本願発明1である請求項1に係る発明を引用しており,本願発明1が引用発明1及び2,引用文献3乃至5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,請求項2乃至4に係る発明も,引用発明1及び2,引用文献3乃至5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本願発明5について
請求項5に記載される本願発明5は,本願発明1と末尾が異なるものの実質的に同じ発明特定事項を有するものであって,本願発明1が引用発明1及び2,引用文献3乃至5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,請求項5に係る発明も,引用発明1及び2,引用文献3乃至5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 理由2について
当審では,請求項5(平成30年4月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載のもの)において「「膜厚をさらに大きくする」とあるが,何と比較して「さらに」と限定しているのかが理解できず,不明瞭である。」との拒絶の理由を通知しているが,平成30年8月10日付けの手続補正書の(平成30年4月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載の請求項5に対応する)請求項3において,当該箇所は「膜厚を大きくする」と補正がなされ,当該補正により,請求項3の記載は明瞭になったとと認められ,この拒絶の理由は解消した。

第7 原査定についての判断
平成30年8月10日付けの補正により,補正後の請求項1乃至5は,「基台から版枠を持ち上げる厚みをもつスポンジ」,又は「版枠を基台から持ち上げる厚みをもつスポンジ」という発明特定事項を有するものとなった。
当該発明特定事項は,原査定における引用文献1乃至5には記載されておらず,本願出願日前における周知技術でもないので,本願発明1乃至5は,当業者であっても,原査定における引用文献1乃至5に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-12 
出願番号 特願2014-4859(P2014-4859)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41C)
P 1 8・ 537- WY (B41C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 吉村 尚
荒井 隆一
発明の名称 スクリーン印刷版の製造方法  
代理人 木森 有平  

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