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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61C
管理番号 1344703
審判番号 不服2017-6150  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-27 
確定日 2018-10-03 
事件の表示 特願2015- 81788「耐疲労性の向上したニチノール器具及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月17日出願公開、特開2015-164539〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年11月17日(パリ条約による優先権主張2009年11月17日、米国)を国際出願日とする出願である特願2012-539995号の一部を平成27年4月13日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 2月18日付け:拒絶理由通知書
平成28年 7月25日 :意見書の提出
平成28年12月19日付け:拒絶査定
平成29年 4月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成29年12月28日 :上申書の提出

第2 平成29年4月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年4月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤーであって、
組成が約50±10重量%のニッケル(Ni)と、残部としてチタン(Ti)及び約1重量%の微量元素とであるニッケル-チタン合金材料を含み、
仕上げ状態にあるとき変形単斜晶マルテンサイト状態であり、
前記ニッケル-チタン合金材料の冷間加工と、前記冷間加工後のニッケル-チタン合金を一定歪み下に置いて行われる最終熱処理とによりもたらされるオーステナイト終了温度が43?60℃である疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤー。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤーであって、
組成が約50±10重量%のニッケル(Ni)と、残部としてチタン(Ti)及び約1重量%の微量元素とであるニッケル-チタン合金材料を含み、
仕上げ状態にあるとき変形単斜晶マルテンサイト状態であり、
前記ニッケル-チタン合金材料の冷間加工と、前記冷間加工後のニッケル-チタン合金を一定歪み下に置いて行われる最終熱処理とによりもたらされるオーステナイト終了温度が40?60℃である疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤー。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「オーステナイト終了温度」について、「40?60℃」を「43?60℃」に限定するものである。
そして、本件明細書に「本発明の目的は、人体(又は他の用途)に好適に用いられ、下記の特徴を有するニチノール材料を製造することである。(1)オーステナイト終了温度が、器具の正常使用温度より十分に高い」(【0014】)、「本発明により作製した耐疲労性ニチノール材は、ニッケル-チタン合金から成り、人体に用いるように構成された作業部を備えている。作業部は変形単斜晶マルテンサイト状態にあり、オーステナイト終了温度が40?60℃である。器具の使用環境が約37℃であるため、作業部はその使用中に単斜晶マルテンサイト状態を維持する。」(【0015】)と記載されており、オーステナイト終了温度が、器具の使用環境である約37℃より十分高ければ発明の課題を解決するものと考えられる。
したがって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-75618号公報(平成19年3月29日出願公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0003】
本発明は、概して、周期的な疲労破壊に対する改善された耐性を有する、ニチノールとして知られているニッケルとチタンの合金を処理する方法に関する。特別な用途として、本発明は、周期的な疲労破壊に対する改善された耐性を有する歯内治療ヤスリで使用するためのニチノールワイヤブランクを準備する方法に関する。」
「【0006】
本発明は、周期的な疲労破壊に対し対応するより大きい耐性を備えた作動温度においてマルテンサイト状態を維持する器具を製造するためニチノールを使用することができるようにニチノールを準備する方法に関する。」
「【0011】
本発明は、ニチノール器具の疲労耐性において改善を達成する製造方法に関する。本方法は、ニチノール器具において冷間誘起マルテンサイト状態の熱的及び機械的な再配列及び安定化工程を含み、該工程により、ニチノールの部品は作動温度で熱力学的なマルテンサイト状態にあり、示差走査熱量計により測定されたニチノール金属の特徴的なオーステナイト最終温度が部品の作動温度を超え、伸張性テストにおいて上側のプラトー応力に対する究極の伸張強度の比率が2.8以上となる。一連の疲労性能テストは、改善されたマルテンサイトニチノールワイヤのブランクと、該ブランクから作られた器具とが、同じ作動条件の下で、従来のオーステナイト相よりも数倍長い期間まで使用可能となる寿命を持っていることを示した。」
「【0012】
疲労破壊は、歯内治療器具で共通の問題である。ニチノールの疲労耐性における改善は、それが増大した疲労寿命と、より良い疲労寿命の予測可能性とを提供するが故に好ましいものとなっている。現存する方法は、疲労寿命への加工ニチノールの効果に適切に取り組んでこなかった。疲労寿命の改善は、比較的小さい範囲(一般に50%未満の改善)に限定されていた。本発明は、数倍程度まで歯内治療器具の使用可能寿命を増大させるための新規な方法を提供する。」
「【0018】
オーステナイト状態の下で37℃(体温)でテストされた歯内治療ヤスリは、85.7秒で破壊され、これに対して、同じテスト条件で、マルテンサイト状態の下では、当該ヤスリは、平均して261秒で破壊され、よって、300%を超える改善を達成した。」
「【0025】
可撓性及び疲労耐性を要求するツールを製造するための理想的な材料がニッケルとチタンとの合金であることは、知られていることである。この合金は、一般に、工業上、「ニチノール」と称されている。以下、本明細書では、「ニッケル/チタン」よりも「ニチノール」という表現を使用する。ニチノールの好ましい組成は、重量にして約55.8%±1.5%のニッケルと、これと組み合わされた重量にして約44.2%±1.5%のチタンとである。合金のこれらの2つの主要成分に加えて、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銅(Cu)、コバルト(Co)、酸素(O)、水素(H)、炭素(C)を始めとした僅少量の元素が典型的に含まれており、該僅少量の元素は、一般に、総合しても仕上げ合金の重量にして約1%未満の含有量となる。」
「【0027】
本発明は、オーステナイト状態にあるニチノールから開始することにより実施される。この材料は、45±5%で冷間加工され、これに続いて60から120秒間に亘って500から600℃で最終強化焼きなまし工程が実施される。材料がマルテンサイト状態にある状態で、該材料は、仕上げ直径において35±5%で冷間加工される。次に、120から300秒間に亘って400から475℃で最終強化焼きなまし工程を受け、低温(0から10℃)及び高温(100から180℃)の間で3から5回に亘って1乃至4%の拘束伸張下で熱的サイクルが実施される。その結果として生成された材料は、次の通り引っ張り係数を有する。即ち、オーステナイト条件では平均?10Mpsi、マルテンサイト条件では平均?6Mpsiである。」
「【0031】
本発明の本質的な面は、ワイヤの形態で生じ得るようなオーステナイトを、半安定したマルテンサイト形態へと変換するためのシステム及び方法である。そのようなマルテンサイト形態にあるとき、合金は、例えば、図1及び図2に示されたような歯内治療ヤスリを等の器具へと製造することができる。」
「【0034】
再び図4を参照すると、オーステナイト原子配列がブロック50に示されている。この図示は、概略的な図式であり、オーステナイト状態にあるときのニチノールの形態を単に表しているだけである。図4のオーステナイト形態50が冷却されたとき、ニチノール合金の形態は、ブロック52により示されるように、双晶マルテンサイトと称される原子配列を取っている。ニチノールワイヤが双晶マルテンサイト形態52にあり、変形、特に引き延ばしを受けるとき、変形したマルテンサイトは、ブロック54により図式的に表される原子構造を取る。従って、図3に戻って参照すると、ワイヤ30は、車輪36、38、40及び44の回りを約4又は5回のループを形成するときに、変形を被ることが重要である。そのような変形は、1から10%の間でワイヤ上に張力を印加することにより非常に容易に達成される。これは、仕上げスプール48にトルクを印加することにより達成することができる。かくして、ワイヤ30が、低温水シャワー32及び高温水タンク42を約4又は5回通過するとき、絶えず、張力変形の作用化にある。かくして、仕上げスプール38上に巻かれたニチノールワイヤは、変形マルテンサイト状態にある。」
「【0038】
図7は、ニチノールワイヤを、疲労耐性装置を製造するため使用可能である安定したマルテンサイト状態へと転化するため通常用いられる工程を示している。ニチノール合金製品の製造者により供給されるような、スプール62から、未処理のニチノールワイヤ64が出て、焼きなましオーブン66を通過し、一連のダイ68、70、72及び74を通過し、最終的な加熱温度プロセスへと至る。最終的な加熱温度プロセスから、ワイヤは、図3に示されるようなスプール28等のスプール上に配置することができる。スプール28上のワイヤは、図3の非双晶又は整列プロセスで使用するための条件化にある。図3の微小双晶整列プロセスを通過した後、仕上げスプール48上のワイヤは、可撓性及び疲労耐性を必要とする歯内治療が射る等、構成部品又はツールを製造する際に使用するための条件下にある。」
「【0041】
ニチノール合金は、一般に、その作動温度(即ち、体温)でオーステナイト相にあり、維持するのが比較的容易であるより低温の温度でマルテンサイト相にあるように設計されている。本発明は、体温でマルテンサイト相に滞在させ、これにより周期的な疲労に対する耐性の実質的な改善を達成するようにニチノール器具を鍛錬する方法を示唆する。詳しくは、分与された張力(特に繰り返し張力)がオーステナイトからマルテンサイトへの相転移を引き起こすのに十分である条件下で、ニチノール合金の疲労寿命を改善することが望まれている。更に加えて、医療装置内で発生し得る曲げ条件下で、材料の応力集中の位置で始まる傾向を持つ疲労ひび割れの形成を減少させることが望まれている。これは、歯内治療ヤスリの製造においてニチノールを適用する際に特に利点を奏する。」
「【0042】
本発明の実施例によれば、形状記憶及び超弾性特性を保持しつつ、疲労に対する増大した耐性を示すニチノール装置が提供される。本発明に係るニチノール合金装置は、装置が臨界作動温度を超えた温度にあるときでさえ、マルテンサイト相のままとなるように処理されるので、追加の張力を印加することは、相変化をもたらさない。むしろ、追加の張力は、合金がマルテンサイト相のままである間に合金の変形を単にもたらすだけである。本発明に従って処理されたニチノールを用いると、損傷の大きい不可逆の張力誘起された、オーステナイト相からマルテンサイト相への相転移は、容易には発生しない。」

(イ)上記記載から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。(下線は、当審で付した。)
a 引用文献に記載された技術は、周期的な疲労破壊に対する改善された耐性を有する歯内治療ヤスリで使用するためのニチノールワイヤブランクを準備する方法に関するものであり(【0003】)、歯内治療器具に使用するニチノール合金の疲労寿命を改善することを課題としたものである(【0012】【0041】)。
b ニチノールの好ましい組成は、重量にして約55.8%±1.5%のニッケルと、これと組み合わされた重量にして約44.2%±1.5%のチタンとであり、これらの2つの主要成分に加えて、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銅(Cu)、コバルト(Co)、酸素(O)、水素(H)、炭素(C)を始めとした僅少量の元素が典型的に含まれており、該僅少量の元素は、一般に、総合しても仕上げ合金の重量にして約1%未満の含有量となる(【0025】)。
c 図3に戻って参照すると、ワイヤ30は、車輪36、38、40及び44の回りを約4又は5回のループを形成するときに、変形を被ることが重要である。そのような変形は、1から10%の間でワイヤ上に張力を印加することにより非常に容易に達成される。これは、仕上げスプール48にトルクを印加することにより達成することができる。かくして、ワイヤ30が、低温水シャワー32及び高温水タンク42を約4又は5回通過するとき、絶えず、張力変形の作用化にある。かくして、仕上げスプール38上に巻かれたニチノールワイヤは、変形マルテンサイト状態にある(【0034】)。
d 本発明は、オーステナイト状態にあるニチノールから開始することにより実施される。この材料は、45±5%で冷間加工され、これに続いて60から120秒間に亘って500から600℃で最終強化焼きなまし工程が実施される。材料がマルテンサイト状態にある状態で、該材料は、仕上げ直径において35±5%で冷間加工される。次に、120から300秒間に亘って400から475℃で最終強化焼きなまし工程を受け、低温(0から10℃)及び高温(100から180℃)の間で3から5回に亘って1乃至4%の拘束伸張下で熱的サイクルが実施される(【0027】)。
e 本方法は、ニチノール器具において冷間誘起マルテンサイト状態の熱的及び機械的な再配列及び安定化工程を含み、該工程により、ニチノールの部品は作動温度で熱力学的なマルテンサイト状態にあり、示差走査熱量計により測定されたニチノール金属の特徴的なオーステナイト最終温度が部品の作動温度(即ち、体温(37℃))を超える(【0011】【0018】【0041】)。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「周期的な疲労破壊に対する改善された耐性を有する歯内治療ヤスリで使用するためのニチノールワイヤブランクであって、
組成は、重量にして約55.8%±1.5%のニッケルと、これと組み合わされた重量にして約44.2%±1.5%のチタンであり、これらの2つの主要成分に加えて、仕上げ合金の重量にして約1%未満の僅少量の元素を含み、
仕上げスプール38上に巻かれたニチノールワイヤは、変形マルテンサイト状態であり、
ニチノール材料は、仕上げ直径において35±5%で冷間加工と、前記冷間加工後に低温(0から10℃)及び高温(100から180℃)の間で3から5回に亘って1乃至4%の拘束伸張下で熱的サイクルが実施されることによってもたらされるオーステナイト最終温度が部品の作動温度(体温(37℃))を超える周期的な疲労破壊に対する改善された耐性を有する歯内治療ヤスリで使用するためのニチノールワイヤブランク。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は、歯内治療器具に使用する「ニチノールワイヤブランク」の疲労寿命を改善することを課題としたニチノールワイヤブランクを準備する方法に係る技術であり、本件補正発明と、技術分野及び課題が共通する。
(イ)引用発明の「周期的な疲労破壊に対する改善された耐性を有する歯内治療ヤスリで使用するためのニチノールワイヤブランク」は、本件補正発明の「疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤー」に相当する。
(ウ)引用発明の「組成は、重量にして約55.8%±1.5%のニッケルと、これと組み合わされた重量にして約44.2%±1.5%のチタンであり、これらの2つの主要成分に加えて、仕上げ合金の重量にして約1%未満の僅少量の元素を含み」は、本件補正発明の「組成が約50±10重量%のニッケル(Ni)と、残部としてチタン(Ti)及び約1重量%の微量元素とであるニッケル-チタン合金材料を含み」に相当する。
(エ)引用発明の「仕上げスプール上に巻かれたニチノールワイヤは、変形マルテンサイト状態であり」は、本願明細書の【0006】に「オーステナイトニチノールの結晶構造は、面心立方格子の構造であることが知られているが、一方マルテンサイト結晶構造は、原子が転位した単斜晶歪み構造である。」と記載されていることから、単斜晶は一般的なマルテンサイト結晶構造のことであるので、本件補正発明の「仕上げ状態にあるとき変形単斜晶マルテンサイト状態であり」に相当する。
(オ)引用発明の「ニチノール材料は、仕上げ直径において35±5%で冷間加工と、前記冷間加工後に低温(0から10℃)及び高温(100から180℃)の間で3から5回に亘って1乃至4%の拘束伸張下で熱的サイクルが実施されることによってもたらされるオーステナイト最終温度」は、本件補正発明の「前記ニッケル-チタン合金材料の冷間加工と、前記冷間加工後のニッケル-チタン合金を一定歪み下に置いて行われる最終熱処理とによりもたらされるオーステナイト終了温度」に相当する。
(カ)引用発明は、オーステナイト最終温度が部品の作動温度(体温(37℃))を超えるものであり、また、本件補正発明においてもオーステナイト最終温度が43?60℃であるので、37℃を超えるものといえる。そうすると、本件補正発明と引用発明とは、「オーステナイト最終温度が37℃(体温)を超える」点で共通するものといえる。
(キ)上記(ア)?(カ)より、本件補正発明と引用発明とは、「疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤー」である点で共通するといえる。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤーであって、
組成が約50±10重量%のニッケル(Ni)と、残部としてチタン(Ti)及び約1重量%の微量元素とであるニッケル-チタン合金材料を含み、
仕上げ状態にあるとき変形単斜晶マルテンサイト状態であり、
前記ニッケル-チタン合金材料の冷間加工と、前記冷間加工後のニッケル-チタン合金を一定歪み下に置いて行われる最終熱処理とによりもたらされるオーステナイト終了温度が37℃(体温)を超える疲労寿命の長い歯内治療器具用ワイヤー。」

【相違点】
「オーステナイト終了温度」について、本件補正発明は、「オーステナイト終了温度が43?60℃である」と特定しているのに対し、引用発明は、オーステナイト最終温度が37℃(体温)を超える点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点について
引用文献には、上記(2)ア(イ)eのとおり、オーステナイト最終温度が部品の作動温度(即ち、体温(37℃))を超える技術が記載されている。そして、ここでいう「37℃(体温)を超える」とは、引用文献の明細書全体、特に【0011】、【0018】、【0041】等の記載を参照すると、37℃(体温)を少し超える温度のみを意味するのではなく、37℃(体温)を十分超える温度も意味すると解するのが自然である。また、体温が34?42℃と想定されることは技術常識である(特開2009-82244号公報の【0004】、特開2005-224505号公報の【0062】、特開昭54-156579号公報の第2頁右下欄第6-7行を参照。)ことからも、37℃(体温)を十分超える温度を意味すると解するのが自然である。
そして、このように解する理由として、引用発明のオーステナイト最終温度が37℃(体温)を十分超える温度の場合も、引用発明はマルテンサイト状態を維持し疲労寿命を長くするという引用発明の課題を達成することができるからであり、さらに、部品の作動温度が37℃(体温)の場合、オーステナイト最終温度が37℃(体温)を少し超える温度に設定するよりも十分超える温度に設定した方が、より確実に引用発明の課題を達成できるようになることは技術常識であるからである。
以上から、引用発明において、オーステナイト最終温度については、37℃(体温)を十分に超えるものとして、当業者が適宜設定し得るところであり、43?60℃とすることも任意である。また、本件補正発明においてオーステナイト最終温度を43?60℃とする臨界的意義は何ら認められない。
そうすると、上記相違点は、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項にすぎないというべきである。

イ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年4月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の原出願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献:特開2007-75618号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「オーステナイト終了温度」について、「43?60℃」という限定事項を削除し、「40?60℃」に戻すものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。なお、本願発明においてオーステナイト最終温度を40?60℃とする臨界的意義は何ら認められない。

5 平成29年12月28日提出の上申書について
請求人は、平成29年12月28日に上申書を提出し、本件請求項6を補正する機会を与える旨上申しているが、本審決の結論を左右するものではなく採用する必要を認めない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-07 
結審通知日 2018-05-08 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2015-81788(P2015-81788)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61C)
P 1 8・ 121- Z (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮部 愛子  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 林 茂樹
瀬戸 康平
発明の名称 耐疲労性の向上したニチノール器具及びその製造方法  
代理人 特許業務法人R&C  

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