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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C07F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C07F |
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管理番号 | 1344735 |
審判番号 | 不服2017-15366 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-17 |
確定日 | 2018-10-24 |
事件の表示 | 特願2015-546033「安定な金属化合物、その組成物、およびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/086982、平成28年 3月24日国内公表、特表2016-508963、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)12月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月17日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月15日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年6月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年10月17日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1、2、5?7、14、15に係る発明は、以下の引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、特許を受けることができないものである、又は、引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?8、14?16に係る発明は、以下の引用文献5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献3:特公昭49-34735号公報 引用文献5:特公昭44-14812号公報 第3 本件発明 本願の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明12」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりの発明であり、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。 「 以下の構造の可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物を含み: 【化1】 ここで、各Mは金属であり、少なくとも一つのMはチタンであり、nは4?20であり、R_(1)は、独立して、C_(1)-C_(6)非置換の分岐鎖または直鎖のアルキル、C_(1)-C_(6)置換された分岐鎖または直鎖のアルキルおよびR_(2)から成る群から選択され、R_(2)は、-COR_(3)基、および、-SO_(2)R_(3)基から成る群から選択され、ここで、各R_(3)は、独立して、C_(1)-C_(20)非置換のアルキル基、C_(1)-C_(20)置換されたアルキル基、およびアルキレン-COOR_(3)’もしくは-アルケニレン-COOR_(3)’で表せられる構造により官能化された基から成る群から選択され、R_(3)’は、独立して、C_(1)-C_(6)非置換のアルキルおよびC_(1)-C_(6)置換されたアルキルから成る群から選択され;さらに溶媒を含む組成物。」 なお、本件発明2?7、11、12は、本件発明1に限定を付した発明に該当し、本件発明8?10は、本件発明1の組成物を用いた電子装置の製造方法に関する発明である。 第4 引用文献の記載及び引用文献に記載された発明 1 引用文献3 (1)引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献3には、以下の記載事項がある。(引用箇所の行数は、公報各頁の中央部に設けられた表示に基づく。なお、「コーテイング」を「コーティング」にするなど、断りなしに書き改めた箇所がある。また、引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下、同様。) ア 「 本発明はセロハンに合成樹脂をコーティングもしくは積層して積層材料を製造する際に用いられる有機チタン系の接着強化剤に関するものである。 さらにくわしくは、アルコキシチタネート類とメタアクリル酸またはメタアクリル酸エステルの架橋反応によって得られた生成物を上記積層材料用の接着強化剤に用いることにより、従来有機チタン系接着強化剤を使用して得られた積層材料において実用上待望されていたところの耐水性を付与したものである。」(第1欄第15?24行) イ 「 本発明の接着強化剤は次のようにして製造する。アルコキシチタネートまたはその縮合物を反応器に入れそのままあるいは有機溶媒に希釈して攪拌しながら冷却し、温度を5?10℃に保ちながらメタアクリル酸あるいはメタアクリル酸エステルを徐々に滴下し架橋結合反応を行なわせる。滴下完了してから徐々に加温し50±2℃に30分以上保った後常温まで冷却することにより反応生成物を得る。反応時間はアルコキシチタネートに対して、添加反応させるメタアクリル酸あるいはそのエステルの量によって異なる。希釈溶媒を使用した時は、なるべく低温で真空蒸留により適宜溶媒を追い出す。」(第2欄第14?26行) ウ 「 ここに用いられるアルコキシチタネートは単量体ばかりでなく縮合体でもよい。アルコキシチタネート縮合体とは通例化学式 (式中、Rはアルキル基であり、nは1以上の整数である)によって表わされるような化合物である。 次にアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物における結合状態について若干説明する。 第一にアルコキシチタネートとメタアクリル酸の場合、その結合の基本形は である。 反応生成物の一例として (式中nは上述の意味を有し、mは1より大なる整数を意味を有する) が示される。 次にアルコキシチタネートまたはその縮合体とエステル類との反応生成物についてであるが、この結合状態については確定的な結論を見出しがたいが大体次のように考えられる。 アルコキシチタネートとメタアクリル酸エステル類の場合、ポリメタアクリル酸メチルを例にとれば模型的に次のような一例が考えられる。 アルコキシチタネートおよびメタアクリル酸とメタアクリル酸メチル縮合体による場合、上記と同様の考えにより結合形の一例として が示される。 チタン1原子についてメタアクリル酸またはメタアクリル酸エステルはわずか0.1モルの使用にても効果を示し、さらに広範囲の使用量の変化が可能である。メタアクリル酸またはそのエステルは混合して用いても差支えない。 本接着強化剤製造用にはアルコキシチタネートとして炭素数C_(8)?C_(17)のものが適用でき、特に炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートが最も都合よく使用される。テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソブチルチタネート等はきわめて入手容易である。アルコキシチタネートは混合して使用してももちろん差支えない。 架橋反応生成物製造の際用いられる有機溶剤としてはプロピレンジクロライド、トルエン、ノルマルヘキサンが最も普通である。」(第2欄第36行?第6欄第20行) エ 「例 1 アルコキシチタネートとメタアクリル酸またはメタアクリル酸エステルとの架橋反応生成物をプロピレンジクロライドに5%重量となるように溶解したものをセロハン面に塗布して乾燥後、これにポリエチレンを厚さ35μとなるように溶融押出法により圧着した積層フィルムについて常態における接着強度および水中浸漬24時間ならびに熱湯中浸漬90℃にて30分後乾燥したものの接着強度を測定した。」(第6欄第25?34行) (2)引用文献に記載された発明 上記記載事項ウに基づけば、引用文献3には、以下の発明が記載されていると認められる。 「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物であって、反応生成物の一例として (式中nは1以上の整数であり、mは1より大なる整数を意味を有する) が示され、結合形の一例が以下の式で示される、 接着強化剤製造用反応生成物。」(以下、「引用発明3」という。 2 引用文献5 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献5には、以下の記載事項がある。 ア 「 本発明はホルムアルデヒドに由来する下記の一般式 〔A〕-CH_(2)-O- (但し〔A〕は活性成分としてのホルムアルデヒドにより連結反応を形成し得る受容性成分 〔A〕-Hとしての酸アミド類、尿素類、アミノトリアジン類の残基を示す。) と推定される基を少なくとも一個を結合によって含有するチタニウム、ジルコニウムのアルコラート、アシレート、キレート系化合物またはアルコラート、アシレート、キレート系からえらばれた混合形式によって構成される化合物を使用することを特徴とする成型物質の仕上加工法に係るもので、その目的とするところはチタニウム、ジルコニウム系有機化合物による成型物質にすぐれた撥水性、撥油性、防汚性を付与し得る仕上、加工法を提供せんとするにある。」(第1欄第15?32行) イ 「 本発明に関する処理剤は、その性質に対応して成型物質の広範囲の仕上加工剤として使用出来るが、例えば撥水、防水加工を目的とする場合は、原料の〔A〕-CH_(2)OH にて示されるメチロール化合物として、疎水性の高い誘導体(たとえばメチロールステアリン酸アミドなど)を使用するか、ROHにて示される。アルコール、カルボン酸として疎水性の高い誘導体(たとえばステアリルアルコール、ステアリン酸など)を使用するか、あるいは〔A〕-CH_(2)OH,R-OHともに疎水性の高い誘導体を使用するかなどの方法によって各種の撥水、防水剤が合成できる。」(第5欄第22?33行) ウ 「 また撥油、防汚剤を目的とする場合には、前記撥水剤において述べたごとく、原料の〔A〕-CH_(2)OHにて示されるメチロール化合物として、またはROHにて示されるアルコール、カルボン酸類として、あるいは〔A〕-CH_(2)OHおよびROHともに、撥油性誘導体を使用するなどの方法によって各種の撥油、防汚剤が得られる。」(第9欄第37?43行) エ 「実施例 1 C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるメチロール化合物1モルおよびTi(OC_(4)H_(9))_(4)1モルを3倍量のトルエン中に加え、これを攪拌下、加熱し、副生するブタノールを共沸的に反応系外に留去する。さらに残存するトルエンを減圧下で完全にのぞくことにより、反応生成物が得られる。 生成物の3%ベンゼン溶液中に木綿布を浸漬し絞り率100%にピックアップ後、乾燥、次いで125℃にて10分間熱処理することにより、撥水性を有する木綿布が得られる。」(第13欄第7?17行) オ 「実施例 19 にて示されるブチルチタネートポリマー1モルに対し、C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるN-メチロールステアリン酸アミドを5モル、10モルまたは16モル使用し、おのおのについて3倍量のトルエン中、攪拌下加熱して、副生するブタノールを共沸的に反応系外に留去し、最後にトルエンを減圧下でのぞくことにより、撥水性反応生成物が得られる。 これらを使用して、実施例1,2および3にて示した方法によって木綿布、ポリエステル繊維布、ポリアミド繊維布を処理することにより、すぐれた撥水性を有する処理布が得られる。」(第24欄第30?45行) (2)引用文献に記載された発明 上記記載事項エ及びオに基づけば、引用文献5には、実施例19として以下の発明が記載されていると認められる。 「 にて示されるブチルチタネートポリマー1モルに対し、C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるN-メチロールステアリン酸アミドを16モル使用し、得られる撥水性反応生成物の3%ベンゼン溶液。」(以下、「引用発明5」という。 第5 対比・判断 1 本件発明1について (1)本件発明1と引用発明3との対比・判断 ア 対比 (ア)本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物」は、チタンを含有するものであるから「金属化合物」であるといえる。また、引用発明3の「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物」は、チタン原子に複数の配位子が結合、つまり「マルチ-リガンド-置換」されているといえる。さらに、配位子の化学構造及び引用文献3の記載事項エにおいて反応生成物をプロピレンジクロライドに溶解することが記載されていることを勘案すれば、引用発明3の「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物」は、「可溶性」であるといえる。したがって、引用発明3の「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物」は、本件発明1の「可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物」に相当するといえる。 (イ)以上より、本件発明1と引用発明3とは、 「可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物。」を含むものである点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1]可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物が、本件発明1では、「以下の構造」のものであるのに対し、引用発明3では、本件発明1において特定される構造を有さない点。(合議体注:「以下の構造」は、前記第3に記載のとおりである。) [相違点2]本件発明1は、溶媒を含む組成物であるのに対し、引用発明3は、反応生成物であって、溶媒を含む組成物ではない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点1]について検討する。引用発明3は、「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物」である。そうしてみると、引用発明の「反応生成物」は、その主鎖骨格の繰り返し単位(Ti-O-)の全てのTi原子に、1以上のメタアクリル酸又はメタアクリル酸エステルが結合していると考えることはできない。すなわち、反応生成物の一例として示されるとおり、引用発明の「反応生成物」においては、繰り返し単位のTiの一部や末端のTiには、メタアクリル酸又はメタアクリル酸エステルが結合していないものと考えられる。そうすると、仮に、引用発明の「反応生成物」において、アルコキシチタネートのTi-O-にメタアクリル酸又はメタアクリル酸エステルが結合した構造が、本件発明1の「以下の構造」におけるR_(2)の要件を満たしたとしても、本件発明1において特定される構造を有するということはできないから、当該[相違点1]は実質的に相違するといえる。 次に、引用発明3の「炭素数C_(3)?C_(7)程度のアルコキシチタネートまたはその縮合体とメタアクリル酸とメタアクリル酸エステル類との反応生成物」の構造を本件発明1において特定される構造とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるかについて検討する。 引用文献3の記載事項アには、「アルコキシチタネート類とメタアクリル酸またはメタアクリル酸エステルの架橋反応によって得られた生成物を上記積層材料用の接着強化剤に用いることにより、従来有機チタン系接着強化剤を使用して得られた積層材料において実用上待望されていたところの耐水性を付与したものである。」と記載されており、記載事項ウの第4欄第39行には、メタアクリル酸エステル類の一例として、「ポリメタアクリル酸メチル」が記載されている。また、引用文献3の記載事項ウの第5欄第29?32行には「チタン1原子についてメタアクリル酸またはメタアクリル酸エステルはわずか0.1モルの使用にても効果を示し、さらに広範囲の使用量の変化が可能である。」と記載されている。これらの記載に基づけば、引用発明3は、アルコキシチタネート類にメタアクリル酸又はメタアクリル酸エステルを架橋反応させることによって、耐水性を有する生成物を得ようとするものであるが、チタン1原子についてわずか0.1モルの使用にても効果を示すものである。したがって、広範囲の使用量の変化が可能であるとしても、全てのTi原子にポリメタアクリル酸メチルを結合させて、本件発明1において特定される「R_(2)は、-COR_(3)基、および、-SO_(2)R_(3)基から成る群から選択され、ここで、各R_(3)は、独立して、C_(1)-C_(20)非置換のアルキル基、C_(1)-C_(20)置換されたアルキル基、およびアルキレン-COOR_(3)’もしくは-アルケニレン-COOR_(3)’で表せられる構造により官能化された基から成る群から選択され、R_(3)’は、独立して、C_(1)-C_(6)非置換のアルキルおよびC_(1)-C_(6)置換されたアルキルから成る群から選択され」る構造とすることに動機付けがあるということはできない。 したがって、引用発明3において、反応生成物の構造を、本件発明1において特定される構造とすることが、当業者が容易になし得るということはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、[相違点2]について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明3と同一の発明ではなく、当業者であっても、引用発明3に基づいて容易に発明することができたということはできない。 (2)本件発明1と引用発明5との対比・判断 ア 対比 (ア)本件発明1と引用発明5とを対比すると、引用発明5の「ブチルチタネートポリマー1モルに対し、C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるN-メチロールステアリン酸アミドを16モル使用し、得られる撥水性反応生成物」は、チタンを含有するものであるから「金属化合物」であるといえる。また、引用発明5の「ブチルチタネートポリマー1モルに対し、C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるN-メチロールステアリン酸アミドを16モル使用し、得られる撥水性反応生成物」は、チタン原子に複数の配位子が結合、つまり「マルチ-リガンド-置換」されているといえる。さらに、引用発明5の「ブチルチタネートポリマー1モルに対し、C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるN-メチロールステアリン酸アミドを16モル使用し、得られる撥水性反応生成物」は、3%ベンゼン溶液とされるものであるから、「可溶性」であるといえる。したがって、引用文献5の「ブチルチタネートポリマー1モルに対し、C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)OHにて示されるN-メチロールステアリン酸アミドを16モル使用し、得られる撥水性反応生成物」は、本件発明1の「可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物」に相当するといえる。 (イ)引用発明5の「ベンゼン」は、ベンゼン溶液を構成するものであるから、本件発明1の「溶媒」に相当する。 (ウ)引用発明5の「3%ベンゼン溶液」は、上記「撥水性反応生成物」及び「ベンゼン」を含んでなるものであるから、「組成物」を構成するといえる。 (エ)以上より、本件発明1と引用発明5とは、 「可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物を含み: ;さらに溶媒を含む組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点3]本件発明1の金属化合物が、その構造中にR_(2)として「-COR_(3)基、および、-SO_(2)R_(3)基から成る群から選択され、ここで、各R_(3)は、独立して、C_(1)-C_(20)非置換のアルキル基、C_(1)-C_(20)置換されたアルキル基、およびアルキレン-COOR_(3)’もしくは-アルケニレン-COOR_(3)’で表せられる構造により官能化された基から成る群から選択され、R_(3)’は、独立して、C_(1)-C_(6)非置換のアルキルおよびC_(1)-C_(6)置換されたアルキルから成る群から選択され」る基を有するのに対し、引用発明5の金属化合物が、「C_(17)H_(35)CONH-CH_(2)」で示される基を有する点。 イ 判断 上記[相違点3]について検討すると、引用文献5の記載事項アには、「〔A〕-Hとしての酸アミド類、尿素類、アミノトリアジン類の残基を示す。」と記載されており、引用文献5でいう本発明は、〔A〕で表される基が、酸アミド類、尿素類、アミノトリアジン類の残基であることを前提としている。そして、Rで表される部分については、疎水性の高い誘導体や撥油性誘導体を用いることが示唆されているといえるものの、-COR_(3)基及び-SO_(2)R_(3)基の構造を採用することについて何ら記載されていない。そして、仕上加工に用いられる処理剤において、-COR_(3)基、および、-SO_(2)R_(3)基から成る群から選択される構造を採用することが、周知であったとする事情も見いだせない。 したがって、引用発明5の金属化合物において、本件発明1のR_(2)として表される構造を採用することが、当業者が容易になし得たということはできない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者であっても、引用発明5に基づいて容易に発明することができたということはできない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明3と同一の発明ではなく、当業者であっても、引用発明3又は引用発明5に基いて容易に発明をすることができたということはできない。 3 本件発明2?12について 本件発明2?7、11、12は、本件発明1に限定を付した発明であるから、本件発明1と同じ、可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物が本件発明1において特定される構造を有するという構成を具備するものである。また、本件発明8?10も、本件発明1の組成物を用いた電子装置の製造方法に関する発明であるから、本件発明1と同じ、可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物が本件発明1において特定される構造を有するという構成を具備するものである。 そうすると、本件発明2?12は、本件発明1と同じ理由により、引用発明3と同一の発明ではなく、当業者であっても、引用発明3又は引用発明5に基いて容易に発明をすることができたということはできない。 第6 原査定について 本件発明1?12は、本件補正によって、可溶性マルチ-リガンド-置換された金属化合物の構造が、「-COR_(3)基、および、-SO_(2)R_(3)基から成る群から選択され、ここで、各R_(3)は、独立して、C_(1)-C_(20)非置換のアルキル基、C_(1)-C_(20)置換されたアルキル基、およびアルキレン-COOR_(3)’もしくは-アルケニレン-COOR_(3)’で表せられる構造により官能化された基から成る群から選択され、R_(3)’は、独立して、C_(1)-C_(6)非置換のアルキルおよびC_(1)-C_(6)置換されたアルキルから成る群から選択され」るR_(2)を具備するものとなった。その結果、本件発明1?12は、引用発明3と同一とはいえないものとなり、引用発明3又は引用発明5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 よって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。 また、原査定において、新たに指摘された特許法36条第6項第2号の拒絶理由についても、本件補正によって解消された。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-10-10 |
出願番号 | 特願2015-546033(P2015-546033) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C07F)
P 1 8・ 113- WY (C07F) P 1 8・ 537- WY (C07F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高橋 直子、吉森 晃 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
宮澤 浩 川村 大輔 |
発明の名称 | 安定な金属化合物、その組成物、およびその使用方法 |
代理人 | 虎山 一郎 |
代理人 | 上西 克礼 |
代理人 | 鍛冶澤 實 |
代理人 | 江崎 光史 |