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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C12M |
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管理番号 | 1344739 |
審判番号 | 不服2017-19383 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-27 |
確定日 | 2018-10-25 |
事件の表示 | 特願2013-128265「細胞または組織のガラス化凍結保存用治具」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日出願公開、特開2015- 2681、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年6月19日の出願であって、平成28年8月23日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年10月24日付けで手続補正がされ、平成29年2月28日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年4月6日付けで手続補正がされ、平成29年9月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.国際公開第2011/070973号 第3 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年12月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 複数の穴あるいは内部に空洞部分を有さない金属製支持体上にガラス化液吸収体を有し、該ガラス化液吸収体が、細胞または組織をガラス化液と共に付着させる面とは垂直な方向において、金属製支持体に近い方から接着層およびガラス化液吸収層をこの順に有し、該接着層が水溶性接着物質、酢酸ビニル系接着物質、アクリル系接着物質、エポキシ系接着物質、ウレタン系接着物質、ホットメルト接着物質、エラストマー系接着物質、瞬間接着物質、シリコーン系接着物質、ニトロセルロース系接着物質、ニトリルゴム系接着物質、スチレン-ブタジエン系接着物質、ユリア樹脂系接着物質、スチレン系樹脂接着物質、フェノール樹脂系接着物質、光硬化性接着物質から選ばれる少なくとも一種類の接着物質を含有する層である、細胞または組織のガラス化凍結保存用治具。」 第4 引用文献、引用発明等 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は強調のために当審で付した)。 (i) 「【請求項1】 容器本体部と鞘部とからなる動物の胚または卵子をガラス化保存するための細管であって、 前記容器本体部は、外柄と前記外柄に連設される内柄とからなり、前記内柄にはガラス化保存液除去材が固定され、 前記ガラス化保存液除去材は、少なくとも1個の前記胚または卵子が載置され、前記胚または卵子の外周に存在するガラス化保存液を除去するものである、動物の胚または卵子のガラス化保存用細管。」 (ii) 「【0040】 本発明の動物胚等のガラス化保存用細管(1)に使用する「ガラス化保存液除去材」とは、ガラス化保存液で平衡処理した動物胚等の外周に存在するガラス化保存液を除去できるものを広く含み、例えば、ガラス化保存液を吸収して除去するもの、前記ガラス化保存液除去材の下部から吸引することでガラス化保存液を除去しうるものなどを好適に使用することができる。従って、その材質としては、紙などの天然物や合成樹脂、金属などからなるシート状物やこれらの繊維状物からなる網状物その他を例示することができる。」 (iii) 「【0041】 …例えば、ガラス化保存液除去材が金属網の場合であって、胚の直径が70μmの場合には、0.7?49μm四方の網目の金属網を使用する。これにより、動物胚等をガラス化保存液除去材に保持したまま金属網の下部からの吸引によって付着するガラス化保存液を除去することができる。」 (iv) 「【0044】 一方、ガラス化保存液除去材(15)としては、紙などの天然物や合成樹脂からなるフィルム状物にガラス化対象物の直径の0.001?0.8倍、より好ましくは0.01?0.7倍の孔径(貫通孔)が形成されたフィルム状物を使用してもよい。このようなフィルム状物の上部に動物胚等を載置し、下部から吸引することで上記と同様に、吸引によって付着するガラス化保存液を除去することができる。このようなフィルム状物としては、容器本体部(10)を構成する合成樹脂と同様に、ポリアミド繊維その他の耐液体窒素性を有するフィルムを好適に使用することができる。」 (v) 「【0047】 更に、ガラス化保存液除去材(15)としては、二種以上の複合体であってもよい。例えば、上記したフィルム状物と金属網とからなる複合体の場合には、金属網の上面にフィルム状物を積層して構成することができる。この際には、前記金網の目開きや孔径は、上記範囲に限定されることなく、より大きな目開きや孔径のものを使用してもよい。」 (vi) 「【0050】 また、図3(c)に示すように、ガラス化保存液除去材(15)の全長を短くし、かつ断面視、U字に変形してガラス化保存液除去材(15)とすることができる。ガラス化保存液除去材(15)を構成するフィルム状物が薄物であるため、直線性の保持が容易でない場合でも、全長を短くすることで容易に直線性を確保することができる。」 (vii) 「 (実施例4) (1)乾燥濾過滅菌用メンブレンフィルターに代えて、硬質ろ紙(東洋濾紙製、商品名「No.4A」、吸水量5.3μm/cm^(2))を幅2mm、長さ20mmに切断したものをガラス化保存液除去材(15)として使用した以外は、実施例1と同様にしてガラス化保存用細管を調製した。 (2)実施例3と同様にウシ胚盤胞を温度15℃のガラス化基礎液に10分間浸漬し、および温度15℃のガラス化前処理液に約5分間浸漬させ、ついで、ガラス化保存液に25秒浸漬し、再度、温度4℃の新鮮なガラス化保存液に25秒間、牛胚を浸漬させた。 (3)このガラス化保存液で平衡処理されたウシ胚盤胞を約0.5μlのガラス化保存液とともに、上記(1)で調製したガラス化保存用細管のガラス化保存液除去材の上に載置した。胚盤胞の外周に存在するガラス化保存液の吸収除去が目視で確認された。ただちに容器本体部を鞘部に挿入し、液体窒素中に仕込んだ。ガラス化保存液除去材の上にウシ胚盤胞を載置してから液体窒素中で急冷してガラス化するまでの時間は10秒以内であった。」(【0083】?【0085】) 上記摘記事項(i)?(v)より、上記引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。 「金属網の上面にフィルム状物を積層して構成した複合体であるガラス化保存液除去材を有する、動物の胚または卵子のガラス化保存用細管。」(以下、「引用発明1」という。) また、上記摘記事項(i)、(ii)、(vii)より、上記引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。 「硬質ろ紙であるガラス化保存液除去材を有する、動物の胚または卵子のガラス化保存用細管。」(以下、「引用発明2」という。) 第5 対比・判断 1.引用発明1との対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 引用発明1における「ガラス化保存液除去材」、「動物の胚または卵子のガラス化保存用細管」は、それぞれ本願発明における「ガラス化液吸収体」、「細胞または組織のガラス化凍結保存用治具」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「ガラス化液吸収体を有する細胞または組織のガラス化凍結保存用治具。」 (相違点) (相違点1)本願発明は複数の穴あるいは内部に空洞部分を有さない金属製支持体上にガラス化液吸収体を有するのに対し、引用発明1は、ガラス化保存液除去材の一部として金属網を有するものの「複数の穴あるいは内部に空洞部分を有さない金属製支持体」を備えていない点。 (相違点2)本願発明は、ガラス化液吸収体が、細胞または組織をガラス化液と共に付着させる面とは垂直な方向において、金属製支持体に近い方から接着層およびガラス化液吸収層をこの順に有し、接着層が特定の接着物質から選ばれる少なくとも一種類の接着物質を含有する層であるのに対し、引用発明1は金属網及びフィルム状物の間に接着層を有するか不明である点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1について検討する。 上記摘記事項(iii)?(v)の記載より、引用発明1は、ガラス化保存液除去材としてフィルム状物及び金属網から構成される複合体を使用することによって、動物胚等をガラス化保存液除去材に保持したまま金属網の下部からの吸引によって付着するガラス化保存液を除去できるようにしたものと理解される。 そうすると、引用発明1において、「複数の穴あるいは内部に空洞部分を有さない金属製支持体」上にガラス化液吸収体を備えることは、下部からの吸引によってガラス化保存液を除去できるようにしたことに反するから、阻害事由があるといえる。 したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.引用発明2との対比・判断 (1)対比 本願発明と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。 引用発明2における「ガラス化保存液除去材」、「動物の胚または卵子のガラス化保存用細管」は、それぞれ本願発明における「ガラス化液吸収体」、「細胞または組織のガラス化凍結保存用治具」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「ガラス化液吸収体を有する細胞または組織のガラス化凍結保存用治具。」 (相違点) (相違点1)本願発明は複数の穴あるいは内部に空洞部分を有さない金属製支持体上にガラス化液吸収体を有するのに対し、引用発明2はそのような構成を備えていない点。 (相違点2)本願発明は、ガラス化液吸収体が、細胞または組織をガラス化液と共に付着させる面とは垂直な方向において、金属製支持体に近い方から接着層およびガラス化液吸収層をこの順に有し、接着層が特定の接着物質から選ばれる少なくとも一種類の接着物質を含有する層であるのに対し、引用発明2はそのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1について検討する。 上記摘記事項(vii)の記載から明らかなように、引用発明2は、ガラス化保存液除去材として硬質ろ紙を使用することによって、胚盤胞の外周に存在するガラス化保存液を吸収除去できるようにしたものであるから、上記1.(2)で記載したような阻害事由は存在しない。そして、上記摘記事項(vi)に記載されたとおり、ガラス化保存用細管においては、ガラス化保存液除去材の直線性を保持するという課題が存在するといえる。 しかしながら、引用発明2はガラス化保存液除去材として硬質ろ紙を使用することでかかる課題を解決したものであるから、さらに「複数の穴あるいは内部に空洞部分を有さない金属製支持体」を備える構成とする動機付けがあるとはいえない。 したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 仮に、相違点1に関して、金属製支持体を備える構成とする動機付けがあったとしても、引用文献1には、積層構造を採用した際に接着層を設けることは記載も示唆もされていないから、相違点2の構成に至ることは当業者にとり容易になし得たこととはいえない。 したがって、本願発明は当業者であっても引用発明1に基づいて容易に発明できたものであるとはいえないという判断に変わりはない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-10-15 |
出願番号 | 特願2013-128265(P2013-128265) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C12M)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高山 敏充 |
特許庁審判長 |
長井 啓子 |
特許庁審判官 |
松浦 安紀子 小暮 道明 |
発明の名称 | 細胞または組織のガラス化凍結保存用治具 |