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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D02G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D02G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D02G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D02G |
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管理番号 | 1344807 |
異議申立番号 | 異議2017-701012 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-24 |
確定日 | 2018-08-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6121332号発明「伸縮性複合ヤーン、その製造方法及び織物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6121332号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6121332号の請求項1-12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6121332号の請求項1-12に係る特許についての出願は、平成23年11月14日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年11月12日 欧州特許庁)とする出願であって、平成25年7月8日に国際出願翻訳文が提出され、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ(設定登録時の明細書を以下「本件明細書」という。)、その後、その特許について、平成29年10月24日に特許異議申立人 柏木 里実(以下「本件申立人」という。)により、全請求項に対して特許異議の申立てがされ、平成29年12月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年3月20日に意見書の提出及び訂正(以下「本件訂正」という。)の請求があり、本件訂正の請求等に対して本件申立人から平成30年6月5日に意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正による訂正の内容は、以下の(1)?(23)のとおりである。なお、平成30年3月20日提出の訂正請求書における訂正の内容を当審で整理している。また、「第2」内において、\は、改行を表すものとする。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、(i)「1m当たりの結合点の数又は撚り数は、」を「1m当たりの撚り数は」に訂正し、(ii)「75?125とは異なり」を「350?550の範囲内であり」に訂正し、(iii)「前記第1と第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるように十分に高くしてある」を「もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてあり、\ 前記第1の繊維は、前記第2の繊維と結合する前に延伸されており、もって結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるようになっており、\ 前記撚糸法により結合された前記第1及び第2の繊維を含む前記伸縮性コア繊維(2)は1.12?1.14の範囲内の比で延伸されている」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?12も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3について、「結合点の数は、80?120ポイント/メートルの範囲内であり、最も好ましくは95?105ポイント/メートルの範囲内である」を「結合点の数は、80?120ポイント/メートルの範囲内である」と訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5?12も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4について、(i)「1m当たりの撚り数は、300?600の範囲であり、好ましくは350?550の範囲であり、最も好ましくは450?525の範囲である」を、「1m当たりの撚り数は、450?525の範囲である」と訂正し、(ii)「請求項2に記載の」を「請求項1又は2に記載の」と訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5?12も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5について、(i)「デシテックス番手は1,181?148の範囲内(英式綿番手において5?40の範囲内)であり、好ましくは984?197の範囲内(英式綿番手において6?30の範囲内)であり、前記コア繊維」を、「デシテックス番手は1,181?148の範囲内(英式綿番手において5?40の範囲内)であり、前記コア繊維」と訂正し、(ii)「前記最終ヤーン(1)中における前記シース(3)を構成する繊維の含有量は60?95重量%の範囲内であり、好ましくは70?92重量%の範囲内である」を、「前記最終ヤーン(1)中における前記シース(3)を構成する繊維の含有量は60?95重量%の範囲内である」と訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6?12も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項9について、(i)「1m当たりの結合点の数又は撚り数は、」を「1m当たりの撚り数は」に訂正し、(ii)「75?125とは異なり」を、「350?550の範囲内であり」に訂正し、(iii)「前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるように十分に高くしてある伸縮性コア繊維(2)を作製する工程;」を、「もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてある伸縮性コア繊維(2)を作成する工程;\ 結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるように、前記第1の繊維を、前記第2の繊維と結合する前に延伸する工程;」と訂正し、(iv)「前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有する」を、「前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有し、\ 前記第1及び第2の繊維を前記撚糸法により結合した場合、前記延伸工程において、前記伸縮性コア繊維(2)を1.12?1.14の範囲内の比で延伸する」と訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項10について、「前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、」を、「前記第1及び第2の繊維を前記交絡法又は前記共押出法により結合した場合、前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、」と訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11及び12も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項11について、「請求項10に記載の」を「請求項9又は10に記載の」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項12について、「延伸比が2.5?4.2となり、好ましくは3.0?4.0となり、より好ましくは約3.5となるように延伸する」を、「延伸比が2.5?4.2となるように延伸する」と訂正する。 (9)訂正事項9 明細書の段落【0014】について、(i)「1m当たりの結合点の数又は撚り数は、」を「1m当たりの撚り数は」に訂正し、(ii)「75?125とは異なり」を「350?550の範囲内であり」に訂正し、(iii)「前記第1と第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるように十分に高くしてある」を「もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてあり、\ 前記第1の繊維は、前記第2の繊維と結合する前に延伸されており、もって結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるようになっており、\ 前記撚糸法により結合された前記第1及び第2の繊維を含む前記伸縮性コア繊維(2)は1.12?1.14の範囲内の比で延伸されている」と訂正する (10)訂正事項10 明細書の段落【0016】について、(i)「1m当たりの結合点の数又は撚り数は、」を「1m当たりの撚り数は」に訂正し、(ii)「75?125とは異なり」を、「350?550の範囲内であり」に訂正し、(iii)「前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるように十分に高くしてある伸縮性コア繊維(2)を作製する工程;」を、「もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてある伸縮性コア繊維(2)を作製する工程;\ 結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるように、前記第1の繊維を、前記第2の繊維と結合する前に延伸する工程;」と訂正し、(iv)「前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有する」を、「前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有し、\ 前記第1及び第2の繊維を前記撚糸法により結合した場合、前記延伸工程において、前記伸縮性コア繊維(2)を1.12?1.14の範囲内の比で延伸する」と訂正する。 (11)訂正事項11 明細書の段落【0028】について、「1m当たりの撚り数は、好ましくは300?600の範囲であり、より好ましくは350?550であり、通常は少なくとも400であり、最も好ましくは450?525である。」を、「1m当たりの撚り数は、通常は少なくとも400であり、好ましくは450?525である。」と訂正する。 (12)訂正事項12 明細書の段落【0067】について、「実施例1\番手試験」を、「番手試験」に訂正する。 (13)訂正事項13 明細書の段落【0068】について、「実施例2\ヤーン均一性試験」を、「ヤーン均一性試験」に訂正する。 (14)訂正事項14 明細書の段落【0069】について、(i)「実施例3\強度,弾性及び破断荷重の測定」を、「強度,弾性及び破断荷重の測定」と訂正し、(ii)「測定した番手(実施例1)を入力した。」を「測定した番手(上記番手試験)を入力した。」と訂正する。 (15)訂正事項15 明細書の段落【0070】について、「実施例4\綿+T-400のコアスパン」を、「比較例1\綿+T-400のコアスパン」と訂正する。 (16)訂正事項16 明細書の段落【0071】について、「実施例5\綿+エラスタンのコアスパン」を、「比較例2\綿+エラスタンのコアスパン」と訂正する。 (17)訂正事項17 明細書の段落【0073】について、「実施例6\T-400+エラスタン」を、「実施例1\T-400+エラスタン」と訂正する。 (18)訂正事項18 明細書の段落【0074】について、「実施例7\綿+T-400+エラスタン\ 実施例4及び5の記載と同様にして、」を、「綿+T-400+エラスタン\ 比較例1及び2の記載と同様にして、」と訂正する。 (19)訂正事項19 明細書の段落【0076】について、「実施例7による本発明のヤーン」を「実施例1による本発明のヤーン」に訂正する。 (20)訂正事項20 明細書の段落【0077】について、「実施例8\綿+T400を用いた伸縮性横糸織物\ 実施例4に記載の方法で製造した」を「比較例3\綿+T400を用いた伸縮性横糸織物\ 比較例1に記載の方法で製造した」と訂正する。 (21)訂正事項21 明細書の段落【0078】について、(i)「実施例9\綿+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物\ 実施例2に記載の方法で製造」を、「比較例4\綿+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物\ 比較例2に記載の方法で製造」と訂正し、(ii)「コアスパン(実施例5)」を「コアスパン(比較例2)」に訂正する。 (22)訂正事項22 明細書の段落【0079】について、(i)「実施例10\綿+T-400+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物\ 実施例3で記載の方法で製造した」を「実施例2\綿+T-400+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物\ 実施例1で記載の方法で製造した」と訂正し、(ii)「コアスパン(実施例7)」を「コアスパン(実施例1)」に訂正する。 (23)訂正事項23 明細書の段落【0080】について、「実施例11\試験\ デニムの織物試験用サンプルを、実施例8,9及び10で製造した織物から」を「試験\ デニムの織物試験用サンプルを、実施例2,並びに比較例3及び4で製造した織物から」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 請求項2ないし12は、いずれも直接または間接的に請求項1を引用するものであるから、請求項1ないし12は、特許法120条の4第4項に規定する一群の請求項を構成し、本件訂正は一群の請求項に対してなされたものである。そこで、他の訂正要件について以下検討する。 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 (ア)訂正事項1の(i)について この訂正事項は、コア繊維を構成する第1の繊維と第2の繊維とを結合する場合に、1m当たりの「撚り数」により特定する選択肢を残し、「結合点の数」により特定する選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと解される。訂正請求書において、撚糸法を用いた場合には「1m当たりの結合点の数」は明瞭でないから、この訂正事項は、明瞭でない記載の釈明に該当すると説明するが、交絡法と同様に目視観察により、定義することは不可能ではないと考えられるから、上記のように当審で目的を認定した。 (イ)訂正事項1の(ii)について 1m当たりの撚り数に関して、この訂正事項によって、数値範囲が訂正前よりも狭くなっているから、この訂正事項1の(ii)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (ウ)訂正事項1の(iii)について 訂正前の「十分に高くしてある」という記載は、その基準が明瞭でないから、これを削除した訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当する。また、訂正によって、第2の繊維と結合する前に、第1の繊維が延伸されること、及び、伸縮性コア繊維が第1の繊維と第2の繊維が撚糸法により結合された場合(すなわち伸縮性コア繊維が交絡法及び共押出法により結合された場合を除かれる。)には、伸縮性コア繊維が非弾性繊維シースに被覆される際に、自然長の1.12?1.14倍に延伸されることを特定することで、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。したがって、訂正事項1の(iii)は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)訂正事項1の(i)について 訂正事項1の(i)は、上記ア(ア)において認定したように選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)訂正事項1の(ii)について 1m当たりの撚り数を、350?550の範囲と限定することは、本件明細書の段落【0028】に記載された事項であり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (ウ)訂正事項1の(iii)について 訂正前の「十分に高くしてある」という記載を削除した訂正は、新規事項を追加するものではなく、また、第2の繊維と結合する前に、第1の繊維が延伸されることは、本件明細書の段落【0029】に記載されており、さらに、伸縮性コア繊維が非弾性繊維シースに被覆される際に、自然長の1.12?1.14倍に延伸されることを特定した訂正は、本件明細書の段落【0058】に記載された事項であるから、新規事項を追加するものではない。また、これらの訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項3において、2つ記載されている数値範囲のうち、「最も好ましくは95?105ポイント/メートルの範囲内である」発明特定事項を削除することにより、結合点の数の範囲を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、訂正前の請求項3の選択肢の一部を削除する訂正であるから、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的 (ア)訂正事項3の(i) 訂正事項(3)の(i)は、訂正前の請求項4において、3つ記載されていた数値範囲の選択肢のうち、2つを削除するものである。したがって、上記(2)アと同様、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)訂正事項3の(ii) 訂正事項3の(ii)は、訂正前の請求項4における数値範囲の選択肢のうちの1つ「350?550」を訂正後の請求項1に移したことにより、その数値範囲より狭い「450?525」を発明特定事項とする訂正後の請求項4について、請求項1も引用することを明示したものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと解される。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)訂正事項3の(i) 上記ア(ア)で認定したように、この訂正事項は、選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)訂正事項3の(ii) 訂正事項3の(ii)によって、請求項1を引用する請求項4が追加されているが、請求項1の撚り数「350?550の範囲内」を請求項4を引用することにより範囲を限定して「450?525の範囲内」とするものであって、訂正後の請求項1の範囲内にあり、この訂正事項は、新たな技術事項を追加するものではなく、新規事項を追加するものとはいえない。また、請求項1を引用する請求項4が追加されたことで、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとまではいえない。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的 (ア)訂正事項4の(i) この訂正事項は、デシテックス番手について、訂正前の請求項5において、選択的に2つ記載されていた数値範囲のうち、1つの数値範囲を削除するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)訂正事項4の(ii) この訂正事項は、最終ヤーン中におけるシースを構成する繊維の含有量について、訂正前の請求項5において、選択的に2つ記載されていた数値範囲のうち、1つの数値範囲を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)訂正事項4の(i) 上記ア(ア)で認定したように、この訂正事項は、選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)訂正事項4の(ii) 上記ア(イ)で認定したように、この訂正事項は、選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項5 ア 訂正の目的 (ア)訂正事項5の(i) この訂正事項は、コア繊維を構成する第1の繊維と第2の繊維とを結合する場合に、1m当たりの「撚り数」により特定する選択肢を残し、「結合点の数」により特定する選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと解される。訂正請求書において、撚糸法を用いた場合には「1m当たりの結合点の数」は明瞭でないから、この訂正事項は、明瞭でない記載の釈明に該当すると説明するが、交絡法と同様に目視観察により、定義することは可能ではないと考えられるから、上記のように当審で目的を認定した。 (イ)訂正事項5の(ii) 1m当たりの撚り数に関して、この訂正事項によって、数値範囲が訂正前よりも狭くなっているから、この訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (ウ)訂正事項5の(iii) 訂正前の「十分に高くしてある」という記載は、明瞭でないから、これを削除した訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当する。また、この訂正によって、第2の繊維と結合する前に、第1の繊維が延伸されることを追加した訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 (エ)訂正事項5の(iv) この訂正により、シース繊維に対するコア繊維の延伸比は、第1の繊維を撚糸法により第2の繊維と結合する場合に限って、訂正前の1.05?1.16の範囲内から、訂正後の1.12?1.14の範囲内へと減縮されており、この訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)訂正事項5の(i) この訂正事項は、上記ア(ア)において認定したように選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものでなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)訂正事項5の(ii) 1m当たりの撚り数を、350?550と限定することは、本件明細書の段落【0028】に記載されているから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (ウ)訂正事項5の(iii) 訂正前の「十分に高くしてある」を削除した補正は、新規事項を追加するものでなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。第2の繊維と結合する前に、第1の繊維が延伸されることを追加した訂正は、本件明細書の段落【0029】に記載されており、新規事項を追加するものでなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (エ)訂正事項5の(iv) 本件明細書の段落【0032】には、「弾性複合コアを、ステープルファイバーとともに精紡する前に、複合コアの延伸比が、1.05?1.16の範囲内となり、好ましくは1.12?1.14の範囲内となるように延伸する」と記載されており、また、本件明細書の段落【0025】には、「本発明の好ましい態様では、第1及び第2の繊維を、交絡法、共押出法、又は撚糸法により結合する・・・」と記載されているから、これらの結合方法から、撚糸法を選択した上で、1.12?1.14の範囲内となるように延伸するよう限定することは、本件明細書に記載された範囲内であって、新規事項の追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6 ア 訂正の目的 訂正事項5の(iv)に伴い、撚糸法により第1の繊維と第2の繊維とを結合する場合に、伸縮性コア繊維(2)を1.12?1.14の範囲内の比で延伸する発明は、請求項9に規定されているから、請求項10では、結合方法を交絡法または共押出法に限定したものであって、この訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件明細書の段落【0025】には、上記(5)イ(エ)の記載があり、交絡法または共押出法に限定することは、新規事項の追加するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)訂正事項7 ア 訂正の目的 この訂正は、訂正事項5に伴って、「非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるよう延伸する」際に、第1の繊維と第2の繊維との結合方法が撚糸法の場合には、請求項9に規定され、交絡法または共押出法の場合には、請求項10に規定されることになったため、引用する請求項を9又は10としたものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと解される。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 この訂正前の請求項9、10、11に記載された事項以外の事項が追加されているわけではないから、この訂正が新規事項の追加するものとはいえない。また、この訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (8)訂正事項8 ア 訂正の目的 延伸比について、訂正前の3つの数値範囲について、訂正により、そのうち2つを削除し、1つを残したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 この訂正により選択肢を減少させたのであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (9)訂正事項9?11 ア 訂正の目的 訂正事項9?11は、明細書の段落【0014】、【0016】及び【0028】の記載を、特許請求の範囲を訂正する訂正事項1、3、5に合わせるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1、3及び5と同様に新規事項の追加ではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 本件明細書の訂正に係る請求項について 上記訂正事項9は、請求項1の訂正に伴う訂正事項であり、上記訂正事項10は、請求項3の訂正に伴う訂正事項であり、上記訂正事項11は、請求項4の訂正に伴う訂正事項である。上記のように、本件特許の請求項2?12は、請求項1を直接または間接的に引用するものであって、請求項1?12は、一群の請求項を構成するものであるところ、訂正事項9?11により、一群の請求項がすべて訂正されることになるから、訂正事項9?11は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条4項の規定に適合するものである。 (10)訂正事項12?23 ア 訂正の目的 上記訂正事項は、[a]本来実施例との表記が不要であるのに、実施例と表記されていたり(訂正事項12?14、18、22の(i)、23)、[b]本来比較例である例が実施例と表記されていたり(訂正事項15、16、20、21の(i))した、誤記の訂正を目的とするものであり、その誤記の訂正にともない、実施例の番号を振り替えた(訂正事項17、22)ものであって、いずれも誤記の訂正を目的とするものである。そして、これら実施例や比較例の変更に伴う、他の訂正(訂正事項18、19、20、21の(i)及び(ii)、22の(ii)、23)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと解される。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項により、新たな技術事項は導入されておらず、新規事項を追加するものではない、また、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 本件明細書の訂正に係る請求項について 訂正後の実施例1は、訂正後の請求項1に係る発明に対応し、訂正後の実施例2は、訂正後の請求項7に係る発明に対応するものであるが、上記(9)ウと同様に、訂正事項12?23により、一群の請求項がすべて訂正されることになるから、訂正事項12?23は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項の規定で準用する特許法126条4項の規定に適合するものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?12に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明12」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 伸縮性コア繊維(2)及び前記コア繊維(2)を被覆する非弾性繊維シース(3)を含む伸縮性ヤーン(1)であって、前記伸縮性コア繊維(2)は、第1及び第2の繊維(4,5)を含み、前記第1の繊維(4)は、エラストマーからなり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系重合体又は共重合体からなり、前記第2の繊維の含有量は、前記伸縮性コア繊維(2)の60?90重量%の範囲であり、 前記第1及び第2の繊維(4,5)は弾性特性を有し、破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、 前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より高い、少なくとも93%の弾性回復性を有し、 前記第1及び第2の繊維は、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で互いに結合されており、前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内であり、前記第1及び第2の繊維が撚糸法により結合されている場合、1m当たりの撚り数は350?550の範囲内であり、もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてあり、 前記第1の繊維は、前記第2の繊維と結合する前に延伸されており、もって結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるようになっており、 前記撚糸法により結合された前記第1及び第2の繊維を含む前記伸縮性コア繊維(2)は1.12?1.14の範囲内の比で延伸されていることを特徴とする伸縮性ヤーン。 【請求項2】 前記第2の繊維(5)は、エラストマルティスター2成分繊維であり、前記第1の繊維は、ポリオレフィン又はポリウレタンのエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のヤーン。 【請求項3】 前記第1及び第2の繊維が交絡している場合、結合点の数は、80?120ポイント/メートルの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヤーン。 【請求項4】 前記第1及び第2の繊維(4,5)は、撚糸法により結合されており、1m当たりの撚り数は、450?525の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヤーン。 【請求項5】 デシテックス番手は1,181?148の範囲内(英式綿番手において5?40の範囲内)であり、前記コア繊維(2)の含有量は前記ヤーンの全重量の3?35重量%であり、前記複合コア繊維(2)中の前記第2の繊維の含有量は75?87重量%の範囲内であり、前記最終ヤーン(1)中における前記シース(3)を構成する繊維の含有量は60?95重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のヤーン。 【請求項6】 前記シース(3)を構成する繊維は綿繊維であり、前記第1の繊維はエラスタンであり、前記第2の繊維はPTT/PET2成分繊維であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のヤーン。 【請求項7】 請求項1?6のいずれか1項に記載のヤーンを含むことを特徴とする伸縮性織物。 【請求項8】 請求項7に記載の伸縮性織物を含むことを特徴とする衣類。 【請求項9】 請求項1?6のいずれか1項に記載のヤーンの製造方法であって、弾性特性を有する第1及び第2の繊維(4,5)を含み、これらが、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で結合されている伸縮性コア繊維(2)であって、前記第1の繊維(4)はエラストマーであり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系重合体又は共重合体であり、前記第2の繊維の含有量は前記伸縮性コア繊維(2)の60?90重量%の範囲であり、 破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、 前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内であり、前記第1及び第2の繊維が撚糸法により結合されている場合、1m当たりの撚り数は350?550の範囲内であり、もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてある伸縮性コア繊維(2)を作製する工程; 結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるように、前記第1の繊維を、前記第2の繊維と結合する前に延伸する工程; 前記コア繊維(2)を延伸する工程; 前記コア繊維(2)を完全に被覆する非弾性のステープルファイバー(3)のシースを作製する工程;及び 前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有し、 前記第1及び第2の繊維を前記撚糸法により結合した場合、前記延伸工程において、前記伸縮性コア繊維(2)を1.12?1.14の範囲内の比で延伸することを特徴とする方法。 【請求項10】 前記第1及び第2の繊維を前記交絡法又は前記共押出法により結合した場合、前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.12?1.14の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させることを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項11】 前記伸縮性コア繊維(2)のヤーンを、前記延伸比に延伸する前に、予備延伸させることを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。 【請求項12】 前記第1の弾性繊維(4)を、前記第2の繊維(5)と結合する前に、延伸比が2.5?4.2となるように延伸することを特徴とする請求項9?11のいずれか1項に記載の方法。」 2 取消理由の概要 平成29年12月18日付け取消理由通知の理由は、概略以下のとおりである。なお、本件申立人による特許異議の申立ての理由は、全て通知されている。 (1)新規性欠如 本件特許の請求項1、2、4?10、12に係る発明は、本件優先日(2010年11月12日)前に頒布された甲1から新規性を欠くため、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当し、特許を受けることができない発明であるため、特許法第113条第2号に該当し、特許を取り消されるべきである。 (2)進歩性欠如 本件特許の請求項1?12に係る発明は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲1?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるため、特許法第113条第2号に該当し、特許を取り消されるべきである。 ア 甲1 特開2008-297646号公報 イ 甲2 特開2003-171838号公報 ウ 甲3 特開2010-203016号公報 エ 甲4 特開2002-155442号公報 オ 甲5 特開2002-146641号公報 カ 甲6 特開2006-225798号公報 キ 甲7 社団法人繊維学会編「第2版繊維便覧」、第2刷、丸善株式会社、平成7年2月15日、279頁 (3)記載要件違背 ア サポート要件について (ア)本件特許請求の範囲の記載は、後記(イ)の点で、特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、特許を受けることができないから、特許法第113条第4号に該当し、特許を取り消されるべきである。 (イ)本件特許における、第1の繊維と第2の繊維とを結合させる手段には、「交絡法、共押出法又は撚糸法」であるが、そのうち、共押出法について実施例が存在せず、また、技術常識を考慮しても、第1の繊維と第2の繊維とを、紡糸時に共押出しすることは困難であり、本件発明1ないし12は、明細書によりサポートされていない。 イ 明確性要件について (ア)本件特許請求の範囲の記載は、後記(イ)ないし(エ)の点で、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、特許を受けることができないから、特許法第113条第4号に該当し、特許を取り消されるべきである。 (イ)本件発明において、第1の繊維と第2の繊維とが撚糸法で結合される場合に、「1m当たりの結合点の数」は、何をもって結合点というかが、明細書に定義されておらず、不明確である。 (ウ)本件発明における「十分に高くしてある」という表現は、どの程度高くするかが当業者であっても理解出来ない。 (エ)本件発明4、5、12における「好ましくは」、本件発明12における「より好ましくは」、本件発明3、4における「最も好ましくは」(3つの語句を合わせて以下「好ましくは等」という。)は、それぞれ、数値範囲を複数示すものであり、発明を不明確としている。 ウ 実施可能要件について (ア)本件特許明細書の記載は、後記(イ)ないし(ス)の点で、特許法第36条第4項第1号の規定に適合せず、特許を受けることができないから、特許法第113条第4号に該当し、特許を取り消されるべきである。 (イ)本件発明1及び9に記載された「共押出法」について、当業者であっても容易に実施できない。 (ウ)本件特許明細書の段落【0067】?【0069】の「実施例1」?「実施例3」は、単なる測定方法が記載されているに過ぎず、実施例に該当しない。 (エ)本件特許明細書の段落【0070】の「実施例4」は、「綿+T400のコアスパン」であり、本件発明1の「第1の繊維」を含んでいない。したがって、この「実施例4」は、本件発明1の実施例に該当しない。 (オ)本件特許明細書の段落【0071】の「実施例5」は、「綿+エラスタンのコアヤーン」であり、本件発明1の「第2の繊維」を含んでいない。したがって、この「実施例5」は、本件発明1の実施例に該当しない。 (カ)本件特許明細書の段落【0073】の「実施例6」は、「T-400+エラスタン」であって、本件発明1の「非弾性繊維シース」を含んでいない。したがって、本件発明1の実施例に該当しない。 (キ)本件特許明細書の段落【0074】の「実施例7」は、本件発明1の構成要件「破断伸びにおいて前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ」るか否か、また、本件発明1の構成要件「前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より高い、少なくとも93%の弾性回復性を有」するか否かが、記載されておらず、また、技術常識上、明らかでないから、実施例といえない。 (ク)本件特許段落明細書の段落【0076】には、「弾性に関する限り、実施例7による本発明のヤーンは、綿/エラスタンのみのヤーンと同等であり、綿/T400のみのヤーンより比べて優れている。3種のヤーンのその他のパラメータ、例えば抵抗性(破壊全長RKM),破断荷重,厚段等は同等であった。」と記載されているが、本件明細書の段落【0012】?【0013】に記載の目的が達成されたのかは、記載されていない。本件発明の効果がどのようなものか、不明である。 (ケ)本件特許明細書の段落【0077】の「実施例8」は、「綿+T400を用いた伸縮性横糸織物」であり、本件発明1の「第1の繊維」を含んでいない。したがって、この「実施例8」は、本件発明7の実施例に該当しない。 (コ)本件特許明細書の段落【0078】の「実施例9」は、「綿+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物」であり、本件発明1の「第2の繊維」を含んでいない。したがって、この「実施例9」は、本件発明7の実施例に該当しない。 (サ)本件特許明細書の段落【0079】の「実施例10」には、「実施例3で記載の方法で製造した」と記載されているが、実施例3は、「強度,弾性及び破断荷重の測定」が記載されているだけであり、製法は記載されていない。したがって、上記実施例10は、本件特許7の実施例に該当しない。 (シ)本件特許明細書の段落【0080】の「実施例11」には、「試験用サンプルを、実施例8,9及び10で製造した織物から調整した」と記載されているが、前記のように実施例8?10は、いずれも本件発明の実施例でないから、実施例11も当然、本件発明の実施例に該当しない。 (ス)本件特許明細書の段落【0084】、【0085】には、「本発明の織物の伸縮性が、綿/エラスタンのみのヤーンを含む、より弾性の高い織物の伸縮性と同等であることを示している。T400ベースのヤーンから得られる織物の伸縮性は、標準的な「加工していない」織物、すなわち、伸縮性ヤーンを含まない織物の伸縮性と同等であり、それは通常約10%である。 本発明の織物の残留伸び(3.1)は、伝統的な織物の残留伸び(7.8)の半分未満であり、本発明のヤーンから優れた結果が得られることが確認された。」と記載されているが、本件特許明細書の段落【0012】、【0013】に記載の目的が達成されたのかは記載されていない。本件発明の効果がどのようなものなのか不明である。 3 甲各号証の記載 (1)甲1について 本件優先日前に頒布された刊行物である甲1(特開2008-297646号公報)には、次の記載がある。 ア 段落【0007】 「即ち、本発明は、 (1)芯が少なくとも2本以上のフィラメント糸の合撚糸であり、鞘が短繊維からなることを特徴とする、芯鞘構造複合紡績糸、 (2)2本以上のフィラメント糸の合撚糸を、短繊維と引き揃えた後、前記2本以上のフィラメント糸の合撚糸の撚り方向とは逆方向の撚り方向に撚り合わせてなる、上記(1)記載の芯鞘構造複合紡績糸、 (3)上記(1)又は(2)記載の芯鞘構造複合紡績糸であって、芯がポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸との合撚糸からなるストレッチ性芯鞘構造複合紡績糸、 (4)ポリエステル系複合長繊維糸が、ポリトリメチレンテレフタレートを主体とするポ リエステル層とポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル層とからなる複合長繊維である、上記(3)記載のストレッチ性芯鞘構造複合紡績糸、 (5)鞘がセルロース系短繊維からなり、該セルロース系短繊維の含有率が重量比率で60%以上である、上記(3)又は(4)記載のストレッチ性芯鞘構造複合紡績糸、 (6)英式綿番手で5?30番手の紡績糸である、上記(3)?(5)のいずれかに記載のストレッチ性芯鞘構造複合紡績糸、 (7)当該芯鞘構造複合紡績糸の撚り係数Kが3.6?5.0の範囲である、上記(1)?(6)のいずれかに記載の芯鞘構造複合紡績糸、及び (8)上記(1)?(7)のいずれかに記載の芯鞘構造複合紡績糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛、に関する。・・・」 イ 段落【0008】 「以下、本発明をその好適な実施形態に即して説明する。 本発明の芯鞘構造複合紡績糸(以下、単に「複合紡績糸」ともいう)は、芯が少なくとも2本以上のフィラメント糸の合撚糸であり、鞘が短繊維からなる、複合紡績糸であり、好適には、2本以上のフィラメント糸の合撚糸を、短繊維と引き揃えた後、該2本以上のフィラメント糸の合撚糸の撚り方向とは逆方向の撚り方向に撚り合わせてなる複合紡績糸である。」 ウ 段落【0009】 「従来から、長短複合糸は、紡績糸がもたらすナチュラルな手触り、外観と、長繊維がもたらす好ましい腰・反撥性とを同時に発現できる繊維素材として開発されてきた。しかし、2本以上のフィラメント糸の合撚糸を芯に用いた芯鞘構造の複合紡績糸は提案されていない。本発明の芯鞘構造複合紡績糸は、芯が2本以上のフィラメント糸の合撚糸であることにより、1本のフィラメント糸(長繊維)を芯にした従来の芯鞘構造の複合紡績糸では達成困難であった要求特性を満たす芯鞘構造の複合紡績糸を得ることができ、また、鞘成分の短繊維が芯成分の2本以上のフィラメント糸の間に巻き込まれて拘束されて、毛羽の発生が抑制されることから、抗ピリング性に優れた複合紡績糸を実現することができる。また、撚り数を比較的低く設定できるので、ソフト感に優れる複合紡績糸を実現できる。さらに、本発明の芯鞘構造複合紡績糸は、芯成分が2本以上のフィラメント糸の合撚糸であることから、外力を受けたときの芯成分と鞘成分(短繊維)間の摩擦力が大きく、鞘成分(短繊維)の糸の平行方向(軸線方向)へのずれが生じにくい、均整性の高い紡績糸になるという利点もある。」 エ 段落【0013】 「2本以上のフィラメント糸の撚り方向は、S方向、Z方向のいずれでもよいが、一般的にはS方向である。また、撚り数(インチ当たり回数)は、撚り合せるフィラメント糸の種類によっても異なるが、撚り数が少な過ぎると、撚り合せるフィラメント糸間で剥離が生じやすくなって、後工程での取り扱いが困難となる傾向となり、また、撚り数が多過ぎると、後工程において、合撚糸と鞘を構成する短繊維との交絡度合いが低くなって、芯と鞘のずれが多くなり、毛羽が発生しやすい傾向となる。従って、一般的には2本以上のフィラメント糸の撚り数は5?20回(好ましくは8?16回)程度である。」 オ 段落【0014】 「かかる芯成分となる合撚糸の具体例としては、例えば、(a)伸長率及び回復率がともに良好な優れたストレッチ性を有する複合紡績糸を実現するための、ポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸とからなる合撚糸、(b)織物引き裂き強度に優れたストレッチ性を有する複合紡績糸を実現するための、ポリエステル長繊維とポリウレタン系弾性糸とからなる合撚糸、(c)帯電防止機能を持ち、ストレッチ性を有する複合紡績糸を実現するための、制電機能付きポリエステル長繊維とポリウレタン系弾性糸とからなる合撚糸等が挙げられる。」 カ 段落【0015】 「なお、芯成分となる合撚糸において、それを構成する2本以上のフィラメント糸の重量比率は、目的の複合紡績糸の用途に応じてその比率を調整すればよく、一般的には、各フィラメント糸は合撚糸全体の少なくとも5重量%以上の構成比率となる範囲内で適宜調整される。例えば、2本のフィラメント糸で構成される場合、5/95?95/5の重量比率の範囲内で調整される。」 キ 段落【0016】 「一方、本発明の芯鞘構造複合紡績糸の鞘成分である短繊維は複合紡績糸の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、綿、麻等の天然セルロース系繊維;綿、麻、キュプラ、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン等の再生セルロース系繊維;アセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン、アクリル等の各種人造繊維;ウール等の獣毛繊維等の種々の短繊維を使用することができる。また、短繊維の断面形状は特に限定されず、丸であっても、多角形、H型、中空などの異形断面であっても良い。・・・」 ク 段落【0017】 「本発明の芯鞘構造複合紡績糸は、2本以上のフィラメント糸の合撚糸を精紡機にて、所定のテンションを加え、精紡機のフロントローラーから供給し、その周りを上記の短繊維にてカバーリングして紡績することによって得られる。精紡機にて芯鞘構造複合紡績糸に加える撚りは、2本以上のフィラメント糸の合撚糸の撚り方向とは逆方向の撚りを加えることが重要である。すなわち、2本以上のフィラメント糸の合撚糸の撚り方向がS方向である場合、Z方向に撚りを加え、2本以上のフィラメント糸の合撚糸の撚り方向がZ方向である場合、S方向に撚りを加える。また、芯鞘構造複合紡績糸の太さは、当該複合紡績糸の用途や当該複合紡績糸を用いた布帛の用途に応じて適宜決定される。」 ケ 段落【0018】、【0019】 「撚り数(実撚りの回数)は、紡績糸の太さ(英式綿番手)との関係から、下記式(1)で定義される、撚り係数Kが3.6?5.0となる範囲となる撚り数とする。 【数1】 」 コ 段落【0021】 「本発明の芯鞘構造複合紡績糸において、複合紡績糸中の鞘を構成する短繊維の含有率は、重量比率で60%以上であり、好ましくは70?97%である。鞘を構成する短繊維の含有率が重量比率で97%を超える場合、鞘糸の巻き付き構造が顕著で綺麗な外観を呈するが、芯成分(長繊維)の特徴が低下する傾向となり、重量比率で60%未満の場合は、糸加工性が低下し、糸形態も鞘糸の巻き付き構造が緩くなるため、布帛を得る際の製編工程や製織工程での通過性が低下する傾向となる。」 サ 段落【0030】 「ポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸とからなる合撚糸は、ポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸を3?5倍に伸長した状態で撚り数(インチ当り回数)5?20回(好ましくは8?16回)にて撚り合わせるのが適当である。また、撚り方向は、通常、S方向である。撚り数が5?20回であれば、ポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸間のすべりを高いレベルで防止でき、また、後工程(紡績工程)での芯を構成する当該合撚糸と鞘を構成する短繊維の交絡度合いが好ましい状態となり、ソフト感に優れた紡績糸が得られる。」 シ 段落【0031】 「なお、合撚糸におけるポリエステル系複合長繊維糸/ポリウレタン系弾性糸の重量比率は、布帛とした場合の伸長率、回復率の観点から、70/30?95/5であるのが好ましく、より好ましくは80/20?90/10である。」 ス 段落【0032】 「このようにして得られた合撚糸を、精紡機にて、1.1倍以上のテンションを加え、精紡機のフロントローラーから供給し、その周りを短繊維にてカバーリングして紡績する。このとき、紡績糸に加える撚りの方向をポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸の合撚糸の撚りの方向と逆方向(通常、Z方向)とすることで、抗ピリング性及びソフト感のいずれもが良好で、伸長率及び回復率がともに良好な優れたストレッチ性の芯鞘構造複合紡績糸を実現できる。」 セ 段落【0033】 「芯を構成するポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸の合撚糸に精紡機で加えるテンションが1.1倍未満であると、ポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸との剥離が起こった状態で、精紡機のフロントローラーへ供給されるおそれがあり、かかる剥離状態でのフロントローラーへの供給がなされると、カバーリング状態の悪化や染めムラの原因となり、布帛とした場合の伸長率、回復率にも影響するため好ましくない。なお、精紡機で加えるテンションが高すぎる場合、精紡機のドラフト部にかかる負担が大きくなり、部品の消耗がおこり、品質不良の原因となるため、当該テンションは1.2倍以下であるのが好ましい。」 ソ 段落【0036】 「当該ストレッチ性の芯鞘構造複合紡績糸の太さは、通常、英式綿番手で5?30であり、好ましくは7?30、より好ましくは8?20である。また、当該ストレッチ性の芯鞘構造複合紡績糸の撚り数(実撚りの回数)は、基本的には、前記の式(1)で定義される撚り係数Kが前記の3.6?5.0の範囲となる撚り数であるが、好ましくは、前記の式(1)で定義される撚り係数Kが4.0?4.6の範囲となる撚り数である。」 タ 段落【0043】 「(実施例1) ポリエステル系複合長繊維糸として、ポリトリメチレンテレフタレート層/ポリエチレンテレフタレート層=50/50のサイドバイサイド型複合繊維(56dtx 24フィラメント、東レ株式会社製のT-400)を用意し、ポリウレタン系弾性糸として、オペロンテックス社製スパンデックス(LYCRA、T127C、44dtx)を用意した。また、セルロース系短繊維として、綿100%の短繊維粗糸(紡出ゲレン 20.0g/30yd)を用意した。 まず、村田製作所社製合糸機608を用いて、スパンデックスを3.5倍にドラフトしたものと、ポリトリメチレンテレフタレート層/ポリエチレンテレフタレート層のサイドバイサイド型複合繊維(T-400)を引き揃えて合糸し、ダブルツイスターを用いてS方向に実撚9.5回/inchの撚りを加えて複合合撚糸とした。 この複合合撚糸を精紡工程におけるフロントローラー部へ1.19倍のテンションを加えて供給し、綿100%の短繊維粗糸(繊度:4.8マイクロネア)をバックローラーからフロントローラーへ供給し、Z方向へ、撚り係数K=4.5にて撚りを加え、英式綿番手で10番手のストレッチ性芯鞘構造複合紡績糸を製造した。 得られたストレッチ性芯鞘構造複合紡績糸を緯糸に使用し、緯密度58の3/1R組織にて織物を作製した。 織物の特性は表1に示すとおりであり、優れた抗ピリング性を有し(毛羽が発生しにくく)、ソフト感に優れ、伸長率及び回復率がともに良好であった。」 チ 産業上の利用可能性、段落【0047】 「本発明の芯鞘構造複合紡績糸は抗ピリング性及びソフト感に優れるので、毛羽が発生しにくい、ソフトな風合いの布帛を提供できる。 また、特に、芯にポリエステル系複合長繊維糸とポリウレタン系弾性糸との合撚糸を使用したストレッチ性の芯鞘構造複合紡績糸では、糸の均整性、抗ピリング性及びソフト感に優れるだけでなく、伸長率及び回復率がともに良好な優れたストレッチ性を有し、しかも、長期耐久性にも優れている。よって、ストレッチ性の芯鞘構造複合紡績糸から得られる布帛は毛羽が発生せず、また、バランスのよい伸長率及び回復率を有するため、履きごこち、着ごこちのよい衣料製品を提供することが可能となる。」 (2)甲2ないし甲7の記載 ア 甲2 本件優先日前に頒布された刊行物である甲2(特開2003-171838号公報)には、次の記載がある。 (ア)明細書の段落【0010】 「本発明の被覆弾性糸の芯糸の弾性糸としては、ポリウレタンや、ポリエステルエラストマーからなるものを用いることができる。芯糸の弾性糸はモノフィラメント、マルチフィラメントのいずれでも良いが・・・」 (イ)明細書の段落【0016】 「このようにポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと称する)は単一の同成分であってもよいが、同成分であっても粘度差、収縮差、弾性差を有するバイメタル型(サイドバイサイド型)もしくは同芯型あるいは偏心芯鞘型に接合した組み合わせのものであることが好ましい。さらに、PTTとポリエチレンテレフタレート(以下PETと称する)、ポリアミド、ポリブチレンなどの異なるポリマーと接合した組み合わせによるバイメタル型もしくは同芯型あるいは偏心芯鞘型であることがさらに好ましい。」 (ウ)明細書の段落【0032】 「実撚に代わり、交絡を有してもよい。交絡が施されることにより、被覆性がさらに向上する。交絡を施すには仮撚り加工工程で連続的に行えるので製造コストは若干高くなるが、特に被覆耐久性などを必要とする用途には適している。」 (エ)明細書の段落【0033】 「その交絡個数としては1m当たり30?150個が好ましい。交絡数を30個以上とすることで、被覆性が向上し目むきを防ぐことができる。また交絡数を150個以下とすることでイラツキを抑えることができる。」 イ 甲3 本件優先日前に頒布された刊行物である甲3(特開2010-203016号公報)には、次の記載がある。 (ア)明細書の段落【0007】 「本発明のループヤーンは、前記課題を解決するため、以下の構成を有する。すなわち、芯糸に繊度が10?235dtexの弾性繊維が、鞘糸に繊度が10?167dtexのフィラメント繊維が配されたループヤーンであって、前記弾性繊維および前記フィラメント繊維は互いにループおよびタルミによって交絡し、糸表面から0.35mm以上のループおよびタルミの合計個数が120個/m以上であることを特徴とするループヤーンである。」 (イ)明細書の段落【0056】 「[実施例4] 図2に示す工程上で、弾性繊維1として78デシテックスのポリウレタン系弾性繊維を用い、フィラメント繊維2として青色に先染めした56デシテックス24フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合繊維(一方の構成成分はポリエチレンテレフタレートが主成分、他方の構成成分はポリトリメチレンテレフタレートが主成分)を、フィラメント繊維3として56デシテックス48フィラメントのナイロン6フィラメント仮ヨリ加工糸を用いて、下記条件によりエアー加工を施し、ループヤーンを得た。」 (ウ)明細書の段落【0057】 「糸速 :250m/min(デリベリーローラー8) 弾性繊維のプレドラフト:2.4 ノズル :タスランノズル フィードローラー5とデリベリーローラー8間のオーバーフィード:+3% フィードローラー6とデリベリーローラー8間のオーバーフィード:+25% エアー圧力:0.4MPa ・・・」 ウ 甲4 本件優先日前に頒布された刊行物である甲4(特開2002-155442号公報)には、次の記載がある。 (ア)明細書の段落【0019】 「本発明のポリエステル仮撚被覆弾性糸は、ポリウレタン弾性糸を芯部にし、その周囲に鞘部として少なくとも2回の仮撚加工履歴を持つポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸が実質的に仮撚により被覆されてなるとともに、糸長さ方向に開繊部と絡合部とを交互に形成した糸構造を有し、前記絡合部の糸長さ方向における数が20?50個/18cmであることを特徴とするポリエステル仮撚被覆弾性糸である。」 (イ)明細書の段落【0022】 「また、ポリエステル仮撚被覆弾性糸は、複合加工が摩擦仮撚加工で実施されることにより、糸長さ方向に開繊部と絡合部を交互に形成し、その交絡部を20?50個/18cmの多数存在させるようになっている。このように絡合部を密に存在させることにより鞘部の被覆性が向上するために、編地にしたとき「目むき」が生じないようになる。」 (ウ)明細書の段落【0042】 「上記のように引き揃えられた両糸は、供給ローラ5から、この供給ローラ5よりも速い表面速度で回転する引き取りローラ8に引き取られながら、摩擦仮撚具7により加撚された後ヒータ6で熱セットされ、冷却後に摩擦仮撚具7で解撚されることにより複合仮撚加工されて、ポリエステル仮撚被覆弾性糸が得られる。このように製造されたポリエステル仮撚被覆弾性糸Yは、巻き取りローラ11でパッケージP3として直接巻き取ってもよいが、巻き取る前に、引き取りローラ8と弛緩ローラ10との間で交絡ノズル9により圧空により交絡処理してもよい。・・・」 エ 甲5 本件優先日前に頒布された刊行物である甲5(特開2002-146641号公報)には、次の記載がある。 (ア)請求項1 「【請求項1】弾性糸を芯糸とし、ポリトリメチレンテレフタレートからなる仮撚捲縮糸を鞘糸として、実質的に仮撚により鞘糸が芯糸を被覆してなることを特徴とする被覆弾性糸。」 (イ)明細書の段落【0009】 「本発明の被覆弾性糸の芯糸の弾性糸としては、ポリウレタンや、ポリエステル・エラストマーからなるものを用いることができる。芯糸の弾性糸はモノフィラメント、マルチフィラメントのいずれでも良いが、取り扱い性の点ではモノフィラメント状にまとまっているのが好ましい。芯糸の繊度は10?110dtexが好ましく、特に一般衣料用としては10?80dtexが好ましい。」 (ウ)明細書の段落【0024】 「また、本発明の被覆弾性糸は交絡部分を有することが好ましく、その個数としては1m当たり30?150が好ましい。交絡数を30個以上とすることで、被覆性が向上し目むきを防ぐことができる。また交絡数を150個以下とすることで、イラツキを抑えることができる。」 (エ)明細書の段落【0025】 「芯糸と鞘糸を引き揃えた後に交絡処理を施すと、被覆弾性糸全体に交絡が付与される。その結果、交絡部分の存在により芯糸をより強固に被覆することが可能となる。」 (オ)明細書の段落【0048】、【0049】 「実施例1 芯糸として44dtexのポリウレタン弾性糸を2.1倍に伸長し、鞘糸に紡糸速度3000m/minで得た複屈折率△n45×10^(-3)、伸度99%、130dtex、36フィラメントポリトリメチレンテレフタレートフィラメント糸のPOYを用いて両糸を引き揃え、オーバーフィード率0% 、交絡圧力0.3Mpaで処理し、ヒータ温度150℃、延伸加工倍率1.6倍、D/Y比率1.8、デリベリローラ速度300m/minにて複合仮撚加工を行い巻き取った。 その結果、芯/鞘糸はほぼ同芯円状に配列し、鞘糸は芯糸を撚回反転しつつ部分を有した実質無撚で被覆した弾性回復率30%伸長時72.7%、ヤング率15.6(cN/dtex)、交絡数66個/mの被覆性に優れた被覆弾性糸を得た。」 オ 甲6 本件優先日前に頒布された刊行物である甲6(特開2002-146641号公報)には、次の記載がある。 「・・・本発明者らは、ポリウレタン弾性糸、フィラメント糸および水溶性糸を組み合わせてなる複合糸は、撚り合せまたは交絡によって良好に製造でき、撚り合せおよび交絡のいずれの形態であっても上記した優れた特性を備えていることを見出した。・・・」 カ 甲7 本件優先日前の技術常識を示す証拠である甲7(第2版繊維便覧、279頁)には、次の記載がある。 (ア)右欄7行 「c.集束 糸は細長い繊維の集合体であって,繊維相互が簡単にずれたり離れたりしないよう,繊維が互いに束縛し合う構造にする必要がある。」 (イ)右欄11?13行 「(i)撚 撚は糸の集束手段として最も多く用いられている.撚糸は繊維が互いに他の周りを巻回する構造・・・」 (ウ)右欄19?22行 「(ii)交絡 繊維相互の絡まりによって繊維束が集束する.交絡は一般にノズルから噴射される空気の流れや渦の作用で繊維相互の配列を乱すことによって形成される。」 4 取消理由についての当審の判断 (1)記載要件について 事案に鑑み、記載要件から検討する。 ア サポート要件違背について (ア)上記2(3)ア(イ)における「共押出法」について、本件明細書には、段落【0038】に「図1aは、両繊維を共押出した実施態様を示し、・・・。共押出繊維は、実質的に連続的に結合され、・・・」と記載され、図1aから、第1の繊維(4)と第2の繊維(5)とが連続的に結合されたコア繊維が視認できる。 (イ)「共押出」とは、通常の用語では、複数の樹脂を溶融して一緒に押し出して複合材料を製造することを意味するが、本件発明の場合、そのように解すると、上記(ア)の第1の繊維(4)と第2の繊維(5)とが連続的に結合されたコア繊維が製造できたとしても、本件発明の「前記第1の繊維は、前記第2の繊維と結合する前に延伸されており」という要件を同時に満たすことは不可能である。 (ウ)そうすると、本件発明における「共押出」とは、第1の繊維(4)と第2の繊維(5)とを、繊維の状態のまま、口金やローラを用いて、両繊維を相互に圧接することで連続的に結合することと解するほかない。 (エ)本件特許明細書の段落【0047】「2種の繊維を交絡法,撚糸法又は共押出法により結合し、この組合せ型コアヤーンを綿シース中に入れる。このようにして、最高の弾性及び回復性、並びに優れた綿の感触を有するヤーンが得られる。」という記載は、上記(ウ)の解釈と符合するものである。 (オ)小括 そうすると、本件発明の、第1の繊維と第2の繊維とが「共押出法」により結合される場合について、本件特許明細書に記載された発明でないということはできないから、サポート要件違背があるということはできない。 イ 明確性要件違背について (ア)「結合点の数」の明確性について 上記2(3)イ(イ)における、撚糸法で結合する場合に何を結合点というかが不明確という理由については、上記第2、1(1)の訂正事項1のうち(i)及び同(5)の訂正事項5のうち(i)並びに同(9)の訂正事項9により、請求項1及び9並びに明細書の段落【0014】から「結合点」に関する特定事項が削除する訂正がなされたため、解消された。 (イ)「十分に高く」の明確性について 上記2(3)イ(ウ)における、「十分に高く」とはどの程度高いか明確でないという取消理由については、上記第2、1(1)訂正事項1の(iii)によって、「十分に高く」は削除されたため、解消された。 (ウ)「好ましく」の明確性について 上記2(3)イ(エ)における、「好ましくは」等が、本件発明3、4、5、12を不明確にしているという理由は、上記第2、1(2)の訂正事項2、同(3)の訂正事項3、同(4)の訂正事項4及び同(8)の訂正事項8により「好ましくは」等が訂正されたため、解消した。 (エ)小括 上記(ア)ないし(ウ)のとおり、取消理由で通知した明確性要件違背は、本件訂正により解消したため、本件発明1?12には、明確性要件違背があるということはできない。 ウ 実施可能要件違背について (ア)共押出法について 上記2(3)ウ(イ)における、「共押出法」による結合が実施困難というという取消理由については、上記アにおいて検討したとおり、本件特許明細書の記載から、第1の繊維と第2の繊維とを圧着することで結合することと解されるから、当業者であれば実施可能といえる。 (イ)実施例について a 訂正前の実施例1?3及び11について 訂正前の実施例1?3及び11については、本件発明の実施例でも比較例でもない部分に付されていたが、前記第2、1(12)の訂正事項12、同(13)の訂正事項13、同(14)の訂正事項14及び同(23)の訂正事項23により、当該部分から実施例1?3及び10の表示が削除されたため、実施可能要件には影響がなくなった。 b 訂正前の実施例4?6について 訂正前の実施例4?6は、本件発明1のように、第1の繊維、第2の繊維を含むコア繊維とそれを被覆する非弾性シース繊維、すなわち3種類の繊維からなるヤーンでなく、いずれも2種類の繊維からなるヤーンであるから、いずれも比較例とすべきものであった。上記第2、1(15)の訂正事項15、同(16)の訂正事項16及び同(17)の訂正事項17により、実施例4?6は、比較例1?3に訂正されたため、実施可能要件には影響がなくなった。 c 訂正前の実施例7について 上記第2、1(18)の訂正事項18により、訂正前の実施例7は、実施例1と訂正された。明細書の段落【0074】の訂正後の記載をみると、T-400が本件発明1の「第2の繊維」に対応し、エラスタンが本件発明1の「第1の繊維」に対応するところ、それらの物性が本件発明1に規定された物性を有するものと推認されるから、上記2(3)ウ(キ)で指摘した取消理由は成り立たない。また、上記2(3)ウ(ク)で訂正前の実施例7の定量的な効果が不明であるとしたが、この点は、平成30年3月20日付けの特許権者からの意見書の10頁に記載のとおりであるし、本件特許明細書の記載によったとしても、定量的な効果が不明であるとしても、それによって、本件発明の実施が困難になるというわけではない。上記2(3)ウ(ク)における取消理由は、成り立たない。訂正後の実施例1について、本件特許明細書の記載によって、実施することが困難であると認めることはできない。 d 訂正前の実施例8、9について 訂正前の実施例8、9は、本件発明7のように、第1の繊維、第2の繊維を含むコア繊維とそれを被覆する非弾性シース繊維、すなわち3種類の繊維からなる織物でなく、いずれも2種類の繊維からなる織物であるから、いずれも比較例とすべきものであった。上記第2、1(21)の訂正事項21、及び同(22)の訂正事項22により、実施例8、9は、比較例4、5に訂正されたため、実施可能要件には影響がなくなった。 e 訂正前の実施例10について 訂正前の段落【0079】には、「実施例3に記載の方法」とあるが、これは、訂正前の「実施例7に記載の方法」の誤記であることは明らかである。そして、上記第2、1(22)の訂正事項22により、訂正前の実施例10は、実施例2と訂正された。訂正後の実施例2は、訂正後の実施例1を織物としたものであって、本件特許明細書の記載によって、実施することが困難であると認めることはできない。 (ウ)小括 上記(ア)ないし(イ)のとおり、本件発明1?12は、本件明細書から当業者が容易に実施できるものであり、実施可能要件違背があるということはできない。 エ 記載要件についてのまとめ 上記ア?ウに検討したように、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号または第6項第1号及び第2号の規定に適合しないものということはできないから、特許法第113条第4号に該当せず、本件発明1?12に係る特許は、取り消されるものではない。 (2)新規性・進歩性について ア 検討手法 本件発明1においては、第1の繊維と第2の繊維との結合方法に、交絡法、共押出法、撚糸法の3つのいずれかによることが規定されており、それらを後記イ?エに場合分けして検討する。 イ 交絡法を用いる場合 (ア)本件発明1のうち、交絡法により結合される場合の発明は、本件発明1において「前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内」と規定されている。 (イ)これに対して、甲1ないし甲7のいずれにも、コア繊維として2以上の種類の繊維を交絡法により結合したヤーンを用いることが記載も示唆もされていない。 (ウ)本件申立人が、交絡法により結合することが周知技術である証拠として提示する甲2?6についてみると、上記3(2)ア?オにて摘記したように、2種類以上の糸を交絡した交絡糸について記載されているが、この交絡糸をコア繊維としてシースにより被覆する点について記載されておらず、また、甲1に記載の撚糸法によるコア繊維に代えて、交絡糸を用いることが容易に想到し得ると認めるに足りる証拠はない。 ウ 共押出法を用いる場合 (ア)本件発明1のうち、共押出法により結合される場合の発明は、「前記第1及び第2の繊維は、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で互いに結合されており、」と規定されている。 (イ)これに対して、甲1?7には、共押出法について何ら記載も示唆も見当たらない。したがって、甲1に記載の撚糸法によるコア繊維に代えて、共押出法により結合された糸を用いることが容易に想到し得ると認めるに足りる証拠はない。 エ 撚糸法を用いる場合 (ア)対比 本件発明1と甲1に記載された発明とを対比すると、本件発明1における「伸縮性コア繊維(2)及び前記コア繊維(2)を被覆する非弾性繊維シース(3)を含む伸縮性ヤーン(1)」において、「前記伸縮性コア繊維(2)は1.12?1.14の範囲内の比で延伸されている」点(以下「本件相違点」という。)が、甲1には記載も示唆もされていない。 (イ)検討 甲1には、前記第3、3(1)スに摘記した「このようにして得られた合撚糸を、精紡機にて、1.1倍以上のテンションを加え、精紡機のフロントローラーから供給し、その周りを短繊維にてカバーリングして紡績する。」との記載があり、同セに摘記したように、合撚糸(本件発明の「コア繊維」に相当。)のテンションを1.1倍以上1.2倍以下とする旨記載されており、また、同タに摘記した実施例1において、合撚糸に1.19倍のテンションを加える点が記載されているが、そのように加えられたテンションによって、コア繊維がどの程度延伸するかは明らかでなく、「1.12?1.14の範囲内の比で延伸されている」ように調整される本件発明1が甲1?7から当業者であっても容易に想到できるということはできない。 オ 本件発明1についての小括 上記イ?エで検討したように、第1の繊維と第2の繊維との結合が、交絡法、共押出法、撚糸法のいずれによったとしても、本件発明1は、甲1に対して新規性を欠くということはできないし、また、甲1?7に対して進歩性を欠くということはできない。 カ 本件発明2?12について 本件発明2?12についても、本件発明1と同じく本件相違点を構成要件としているから、本件発明2、4?10、12は、甲1に対して新規性を欠くということはできないし、また、本件発明2?12は、甲1?7に対して、進歩性を欠くということはできない。 キ 新規性・進歩性についてまとめ 本件発明1?12は、本件相違点を構成要件とするものであるから、特許法第29条第1項第3号に規定した発明に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということはできない。したがって、本件発明1?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものとすることはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 伸縮性複合ヤーン、その製造方法及び織物 【技術分野】 【0001】 本発明は、伸縮性複合ヤーン及びこのヤーンを含む伸縮性織物に関する。本発明はまた、前記伸縮性ヤーンを製造する装置及び方法にも関する。 【0002】 詳しくは、本発明は、複合コア及び綿繊維シースを有する伸縮性ヤーンに関する。好適な伸縮性織物はデニムである。 【背景技術】 【0003】 織物産業において、伸縮性織物を製造する様々な方法がある。モノ伸縮性織物は、縦糸又は横糸の方向にのみ弾性ヤーンを有し、バイ伸縮性織物は、縦糸及び横糸の両方向に弾性ヤーンを有している。 【0004】 伸縮性織物のうち最も一般的に製造されるのは、伸縮性横糸(緯糸)織物である。伸縮性横糸織物は、非弾性の縦糸及び弾性の横糸を有する。この織物には、エラスタンコアスパンヤーン、エラスタン撚り糸、合成エラスタンの交絡糸又は撚り糸等のような各種の弾性横糸が使用される。弾性ヤーンは公知である。例えば米国特許第3,730,679号(特許文献1)に記載の公知の織物は、ある種の弾性繊維及び綿繊維を含む伸縮性ヤーンからなっている。このヤーンからは、伸縮後の復元が小さい織物しか得られなかった。この織物の典型的な伸び率は、横糸方向で15?40%であるが、回復性は非常に低く、通常約90%程度(ASTM D3107)であり、約10%の伸びが残ってしまう。 【0005】 この課題を解消するため、例えば米国特許第5,922,433号(特許文献2)及び同第6,782,923号(特許文献3)には、ポリエステル複合繊維を含む伸縮性織物が開示されている。これらの特許文献に開示されている織物は、裸の複合繊維からなっているので、その表面に露出した複合繊維により、きわめて人工的な外観及び手触りを有するものとなっている。 【0006】 エラスタンを使用することなく、伸縮性織物を製造する他の方法もあり、このタイプの織物では、通常、PBT、PTT又はT400(商標:インビスタ社製複合PTT/PET)のような弾性タイプの合成ヤーンが使用される。 【0007】 複合ポリエステル及び綿を用いた伸縮性デニム織物が、米国特許第7,310,932号(特許文献4)及び同第5,874,372号(特許文献5)に開示されている。しかし、弾性ポリエステルの織物は、弾性がよくない。 【0008】 米国特許出願公開第2008/0268734号(特許文献6)は、綿繊維シース内に複合コア繊維を含む弾性複合ヤーンを開示している。このコアは、弾性繊維及びその周りにゆるく巻き付けられた非弾性繊維を含んでいる。非弾性繊維を用いる目的は、ヤーンの回復性を改善して、上述のヤーンを含む織物の回復性を増大させるためである。この場合の欠点は、コアの非弾性繊維が、弾性繊維の伸縮に対する障害としても作用すること、及び非弾性繊維の束が、最終製品としての織物において、綿シースを通して表出することである。 【0009】 非弾性繊維シース内の弾性コアが表出することは、他のタイプの伸縮性ヤーンでも同じである。 【0010】 従って、公知の技術を改善して、残留伸びが小さく、しかも良好な伸縮特性を有する伸縮性ヤーンを提供することに対するニーズが存在する。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0011】 【特許文献1】米国特許第3,730,679号明細書 【特許文献2】米国特許第5,922,433号明細書 【特許文献3】米国特許第6,782,923号明細書 【特許文献4】米国特許第7,310,932号明細書 【特許文献5】米国特許第5,874,372号明細書 【特許文献6】米国特許出願公開第2008/0268734号明細書 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明の目的は、上記課題を解決し、大きな弾性、及び優れた伸縮回復性を有するヤーン及び織物を提供することである。 【0013】 本発明のもう1つの目的は、繊維シース、好ましくは綿繊維シースによって完全に被覆され、特に使用に伴い、繊維を通してコアが表出することのない伸縮性ヤーンを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0014】 このような目的は、本発明の伸縮性ヤーンによって達成される。本発明の伸縮性ヤーンは、弾性を有し、かつ少なくとも一方が優秀な伸縮回復性を有する少なくとも二種類の繊維、又は繊維束を含む伸縮性コアを備えている。すなわち、本発明の伸縮性ヤーンは、伸縮性コア繊維(2)及び前記コア繊維(2)を被覆する非弾性繊維シース(3)を含むものであって、前記伸縮性コア繊維(2)は、第1及び第2の繊維(4,5)を含み、前記第1の繊維(4)は、エラストマーからなり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系重合体又は共重合体からなり、前記第2の繊維の含有量は、前記伸縮性コア繊維(2)の60?90重量%の範囲であり、 前記第1及び第2の繊維(4,5)は弾性特性を有し、破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、 前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より高い、少なくとも93%の弾性回復性を有し、 前記第1及び第2の繊維は、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で互いに結合されており、前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内であり、前記第1及び第2の繊維が撚糸法により結合されている場合、1m当たりの撚り数は350?550の範囲内であり、もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてあり、 前記第1の繊維は、前記第2の繊維と結合する前に延伸されており、もって結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるようになっており、 前記撚糸法により結合された前記第1及び第2の繊維を含む前記伸縮性コア繊維(2)は1.12?1.14の範囲内の比で延伸されていることを特徴とする。 【0015】 本発明の別の目的は、上述のように定義された伸縮性ヤーンを含有する織物、特にデニム織物を提供することである。 【0016】 本発明はまた、上記伸縮性ヤーンの製造方法に関し、この方法は、弾性を有する第1及び第2の繊維を有し、これらが、少なくとも複数のポイントで結合されている伸縮性コアであって、前記第1の繊維は、エラストマーからなり、前記第2の繊維はポリエステル系(共)重合体からなり、かつ前記第2の繊維は、伸縮性コアの60?90%(w/w)の範囲であるコアを作製する工程;前記繊維を延伸する工程;及び前記コアを完全に被覆する非弾性繊維のシースを作製する工程を有している。すなわち、本発明の伸縮性ヤーンの製造方法は、弾性特性を有する第1及び第2の繊維(4,5)を含み、これらが、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で結合されている伸縮性コア繊維(2)であって、前記第1の繊維(4)はエラストマーであり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系重合体又は共重合体であり、前記第2の繊維の含有量は前記伸縮性コア繊維(2)の60?90重量%の範囲であり、 破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、 前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内であり、前記第1及び第2の繊維が撚糸法により結合されている場合、1m当たりの撚り数は350?550の範囲内であり、もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてある伸縮性コア繊維(2)を作製する工程; 結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるように、前記第1の繊維を、前記第2の繊維と結合する前に延伸する工程; 前記コア繊維(2)を延伸する工程; 前記コア繊維(2)を完全に被覆する非弾性のステープルファイバー(3)のシースを作製する工程;及び 前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有し、 前記第1及び第2の繊維を前記撚糸法により結合した場合、前記延伸工程において、前記伸縮性コア繊維(2)を1.12?1.14の範囲内の比で延伸することを特徴とする。 【0017】 コアの「第1の繊維」及び「第2の繊維」とは、エラスタン弾性繊維、及びT400弾性繊維におけるように、繊維の束を意味している。用語「弾性特性」は、ある程度の弾性が常に繊維に存在し、好適な例では、熱処理により弾性をさらに向上させることができることを意味する。 【0018】 本発明のさらに別の目的は、上記伸縮性ヤーンを製造するための装置を提供することである。 【0019】 本発明の装置は、スプールに捲回される綿粗糸、及び軸に取り付けられる複合コアのボビンを収容する手段を有し、複合コアヤーンを、綿ステープルファイバーとともにスピンドル又はそれに相当する装置に供給する前に、複合コアヤーンを延伸するためのロールをさらに有している。すなわち、本発明の伸縮性ヤーンの製造装置は、原料である粗糸(8)、及び上記伸縮性複合コア繊維(2)を取り付けるフレームと、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、前記コア繊維(2)を延伸する手段と、前記コア繊維(2)をシース(3)で完全に被覆するために、前記コア繊維(2)の周囲に前記粗糸(8)を巻き付ける手段とを備えていることを特徴とする。本製造装置の好ましい例では、前記伸縮性コア繊維(2)を予備延伸する手段(10)をさらに備えている。本製造装置の別の好ましい例では、前記粗糸(8)を延伸するためのガイド手段(15,16)をさらに備えている。本製造装置のさらに別の好ましい例では、前記伸縮性コア繊維(2)を延伸する手段は、複数の延伸ロール(14)と、荷重ロール(12)を支持する1対のロール(11)とを有する。 【0020】 本発明のさらに別の目的は、上記織物を含む衣類を提供することである。本発明のさらに別の目的は、伸縮性コアヤーンを提供することである。本発明の伸縮性コアヤーンは、弾性特性を有する第1及び第2の繊維(4,5)を含むものであって、前記第1の繊維(4)はエラストマーであり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系(共)重合体であり、前記第2の繊維の含有量は前記伸縮性コア繊維(2)の60?90%(w/w)の範囲であり、前記第1及び第2の繊維は少なくとも複数のポイント(P)で互いに結合していることを特徴とする。本伸縮性コアヤーンの好ましい例では、前記第1及び第2の繊維は、共押出、交絡又は撚糸されている。本伸縮性コアヤーンの別の好ましい例では、破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、かつ前記第1の繊維(4)より高い弾性回復性を有し、 前記第1及び第2の繊維は、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で互いに結合されており、前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内である。 【0021】 本発明の一態様では、第1の繊維は、エラスタン等のポリウレタン又はポリオレフィンのエラストマーであり、第2の繊維は2成分ポリエステル繊維、好ましくはPTT/PET繊維である。 【0022】 伸縮性コア繊維(伸縮性コアヤーン)の2種の繊維又は単繊維の束を結合する必要がある。すなわち、2種以上の単繊維の束の技術的特性を組合せて、弾性を有する「コアヤーン」とするために結合する。より詳しくは、第1の繊維は、非常に良好な弾性及び伸縮性を有するエラストマーであり、第2の繊維は、優れた回復性を有するポリエステル系繊維である。 【0023】 通常、第1の弾性繊維は、少なくとも400%伸縮させることができ、第2の繊維は、弾性には劣るが、少なくとも20%伸縮させることができる。第2の繊維の重要な特性は、その回復性が、少なくとも90%、好ましくは93%であり、最も好ましくは少なくとも96%又は97%以上であることである。 【0024】 2種の繊維の結合は、少なくとも複数のポイントにおいて行われるのがよい。 【0025】 本発明の好ましい態様では、第1及び第2の繊維を、交絡法,共押出法、又は撚糸法により結合する。特に第2の繊維が、2種の異なる重合体、例えばPTT/PET等のエラストマルティスターと、例えば欧州特許出願公開第1,846,602号に開示されている類似の単繊維とからなる場合、3種の重合体の共押出法が、有利な製造方法と考えられる。 【0026】 交絡法は、開放型又は閉鎖型の交絡ジェット等を用いる当技術分野において公知の技術により行われる。そのシステムは、結合点の数が、50?200ポイント/メートルの範囲内であり、好ましくは80?120ポイント/メートルの範囲内であり、最も好ましくは95?105ポイント/メートルの範囲内となるようになっている。結合点の数は、結合繊維を直接観察する方法により測定される。具体的には、弾性コア「ヤーン」を、黒又は暗色の面に置き、目視により調べる。可能であれば、拡大鏡を使用してもよい。このようにして、ヤーン1m当たりの結合点の数を、手作業でカウントする。 【0027】 本発明の典型的な実施態様では、ヤーンのコア繊維は、撚糸法により結合されている。これは、撚糸を緩く行うのではなく(すなわち、上記従来技術の米国特許出願公開第2008/0268734号に記載のように、1m当たりの撚り数が約75?125となるように緩く行うのではなく)、1m当たりの撚り数を、両繊維を結合させるために十分に多くすることを意味する。 【0028】 2成分繊維及びエラスタンの撚糸法において、1m当たりの撚り数は、通常は少なくとも400であり、好ましくは450?525である。 【0029】 好ましい実施態様では、結合後の繊維が回復し、その長さを減少させるように、第1及び第2のコア繊維を結合する前に、少なくとも第1の弾性繊維を延伸する。これにより、第2の繊維と結合した後でも、ある量又は長さにおいて、多成分ヤーンのコアの伸縮は可能になる。複合ヤーンは、2種の繊維の一方(所謂第2の繊維)が、他方の繊維(第1の繊維)より弾性が劣っているか、大幅に劣っている場合でも、かなり伸縮することができる。第1の弾性繊維を、延伸比が、好ましくは2.5?4.2となり、より好ましくは3.0?4.0となり、最も好ましくは約3.5となるように延伸する。典型的な実施態様では、本発明のヤーンのコアにおける結合した第1及び第2の繊維は、従来技術の態様で生じることとは異なり、実質的に単繊維として機能することに注目すべきである。第2の繊維の高い回復性は、本発明のヤーンに、詳しくは最終的な織物に、伸縮性と優れた回復性を同時にもたらす。繊維の好ましい結合法は交絡法である。 【0030】 非弾性のシース又は被覆は、非弾性繊維、すなわちステープルファイバー、好ましくは綿繊維からなっている。 【0031】 ヤーンの弾性複合コア中の第2の繊維の含有量、すなわち、全弾性繊維の合計は、コア繊維の全重量の60?90重量%であり、好ましくは73?87重量%である。 【0032】 本発明によれば、弾性複合コアを、ステープルファイバーとともに精紡する前に、複合コアの延伸比が、1.05?1.16の範囲内となり、好ましくは1.12?1.14の範囲内となるように延伸する。延伸比は、複合コア繊維を精紡装置に供給するロール間の速度差により生じさせ、速いロールの速度と、遅いロールの速度との比(速いロールの速度/遅いロールの速度)として算出する。その速度は、ロールの円筒状表面におけるものである。複合コアを、1.12?1.14の好ましい範囲で延伸した場合、得られるヤーンは、ステープルファイバーを通してコアが表出することが全くなく、一様な色彩効果、及び伸縮性ヤーンを含まない織物と区別できない感触を有する最終的な織物をもたらすことができる。 【0033】 ヤーン中の弾性コア[弾性繊維及びポリエステル系繊維(1又は2成分)]の含有量は、ヤーンの英式綿番手(NE)に依存し、例えばデニールで表されるコア繊維のグレードに依存している。好ましい実施態様では、ヤーンの英式綿番手は、5?25の範囲内であり、コア繊維の含有量は、ヤーン全重量の8?35%(w/w)であり、より好ましくは8?30%(w/w)である。2種の繊維の可能な組合せとして、「Zentra(商標)」(ヒュービス社)又はT400及びエラスタン[ライクラ(商標)]の組合せの場合、次のものが挙げられる。70/40;70/70;50/40;50/20;30/40;30/20;70/20;50/70;30/70(デニール/デニール)。第1の値は、Zentra又はT400のデニール値であり、第2の値は、エラスタンのデニール値である。コア繊維の含有量の範囲は、上記30/20の組合せにおいて、NEが6?40の範囲で、延伸比が1.14である場合、3.5?23.6%(w/w)と低くてよい。上記70/70の組合せにより、延伸比が1.14で、NEが6?20で、コア繊維の含有量が8.9?29.7の範囲内である有用なヤーンがもたらされる。 【図面の簡単な説明】 【0034】 次に添付の非限定的な図面を参照して、本発明をより詳しく説明する。 【0035】 【図1a】本発明の伸縮性ヤーンの一例を略示する斜視図である。 【図1b】本発明の伸縮性ヤーンの別の例を略示する斜視図である。 【図2】本発明の複合コア延伸繊維の製造に適する装置を略示する正面図である。 【図3】本発明の伸縮性ヤーンの製造装置を示す側面図である。 【発明を実施するための形態】 【0036】 この明細書において、用語「w/w」は、この技術分野で知られている通り、重量比を意味し、例えば、本発明のヤーンのコア繊維の全重量に対する第1の繊維の重量による含有量を表す場合等に用いる。用語「(共)重合体」は、「重合体又は共重合体」を意味する。 【0037】 図1a及び図1bに示すように、本発明の伸縮性ヤーン1は、伸縮性コア2と、コア2を被覆する非弾性繊維シース3とを含んでいる。伸縮性コア2は、第1及び第2の繊維4,5を有し、詳しくは、これらは、弾性特性を有する単繊維の束であり、より詳しくは、第1の繊維4は公知のエラストマーからなり、第2の繊維5は、公知のポリエステル系(共)重合体からなっている。第1及び第2の繊維は、少なくとも複数のポイントPで、互いに結合又は固着されている。好ましくは、一方の繊維は、他方の繊維より高い弾性を有し、後者は、前者よりも高い回復性を有する。 【0038】 図1aは、両繊維を共押出した実施態様を示し、図1bは、両繊維を交絡させた実施態様を示す。共押出繊維は、実質的に連続的に結合され、交絡繊維は、複数のポイントで結合されている。 【0039】 第1の繊維4に適する材料は、エラスタン,スパンデックス等のポリウレタン繊維である。これらの繊維は、同程度の弾性特性を有し、一般に初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができる(例えば破断伸びとして)。本発明で使用可能なエラストマー繊維の他の例として、限定的ではないが、ダウXLA(Dowxla),ドラスタイン(Dorlastan)[以上商標:Bayer社(ドイツ)];ライクラ(Lycra)[商標:Dupont社(米国)];クリアスパン(Clearspan),グロスパン(Glospan)[以上商標:Globe Manufacturing社(米国)];スパンダベン(Spandaven)[商標:Gomelast C.A.社(ベネズエラ)];ロイカ[商標:旭化成株式会社(日本)];フジボウスパンデックス[商標:富士紡ホールディングス株式会社(日本)];カネボウロベール15[商標:旧カネボウ株式会社(日本)];スパンテル[商標:株式会社クラレ(日本)];モビロン[商標:日清紡ケミカル株式会社(日本)];オペロン[商標:東レ・デュポン株式会社(日本)];エスパ[商標:東洋紡株式会社(日本)];アセラン(Acelan)[商標:Taekwang Industrial社(韓国)];テクスロン(Texlon)[商標:Tongkook Synthetic Fibre社(韓国)];トプロン(Toplon)[商標:Hyosung社(韓国)];ヤンタイ(Yantai)[商標:煙台スパンデックス社(中国)];リネル(Linel),リンテックス(Linetex)[以上商標:Fillattice S.P.A.社(イタリア)]等を挙げることができる。概して、これらの繊維は、非常に優れた弾性特性、及び高い伸縮性を有する。ポリオレフィン繊維も使用することができる。 【0040】 第2の繊維5は、弾性レベルが比較的低い(第1の繊維より低いが、少なくとも20%はある)が、高い回復性(第1の繊維より高い)を有する。上記のように、第2の繊維の複合コア(伸縮性コア繊維)に対する含有量は、60?90%(w/w)の範囲である。 【0041】 適した原料としては、PBT,2成分ポリエステルPTT/PET等のポリエステル及びエラストマルティスター,並びに欧州特許出願公開第1,846,602号明細書等に開示されている類似物が挙げられる。好ましくは、第2の繊維5(図1a及び1b参照)はPTT/PET2成分エラストマルティスターからなっている。これは、例えばヒュービス社のZentra,インビスタ社のT400等の市販品として入手できる。 【0042】 シース3に適した繊維として、弾性ヤーンに自然な外観及び手触りを与えるために、例えば綿,羊毛,ポリエステル,レーヨン,ナイロン及びこれらの類似物を用い、好ましくは、綿ステープルファイバーを用いる。上記のように、シース3は、伸縮性コア2を完全に被覆するように形成される。この目的のために、綿繊維3でコア2を被覆するのに適した方法であれば、いずれの方法でも用いることができる。好ましくはリング精紡法である。 【0043】 最終ヤーン(コア+シース)中の綿の含有量は、コア2の繊度によるが、通常60?95%(w/w)の範囲内であり、好ましくは70?92%(w/w)の範囲内である。インチ当たりの撚り量もヤーンの特性に依存するが、本発明のヤーンでは、一般的に式:T/inch=α√NE(ただしT/inchは1インチ当たりの撚り数であり、αは撚り係数であり、NEは英式綿番手である)において、αの値は4.0?5.0の範囲内であり、好ましくは4.4?4.6の範囲内であり、最も好ましくは4.5である。 【0044】 以下でさらに詳細に説明する。多成分コア2を、シース3を形成する繊維とともに精紡する前に、延伸比が少なくとも1.05、好ましくは少なくとも1.1、最も好ましくは1.14となるように延伸する。この延伸工程は、シース中におけるコアの完全なセンタリングと、最終ヤーン(コア+綿被覆/シース)中のコア「ヤーン」の一層良好な綿被覆の実現とを可能にする。このようにして得られたヤーン,及びこのヤーンを用いて製造した織物は、伸縮性コアを用いないで製造したヤーン及び織物と各々区別できない外観及び感触を有し、かつ優れた弾性及び回復性を有している。 【0045】 本発明による伸縮性ヤーンを用いた織物、及びコア繊維としてエラスタンのみを含む伸縮性ヤーンを用いた対応する織物に対して行った試験によれば、本発明の織物は、参照織物の回復性より少なくとも50%高い回復性を示す。回復性の改善は100%でも可能である。 【0046】 この優れた結果は、3成分の組合せにより、最高の性能が達成されたことによるものと考えられる。本発明は、非常に高い回復性を有するが、比較的低い弾性レベルを有するヤーン(例えばZentra又はT400等のPET/PTT)を用いた繊維(好ましくは複合型のもの)を、エラスタン(lycra,dorlastan等)のような、優れた弾性レベルを有する弾性繊維と組合せたものである。 【0047】 2種の繊維を交絡法,撚糸法又は共押出法により結合し、この組合せ型コアヤーンを綿シース中に入れる。このようにして、最高の弾性及び回復性、並びに優れた綿の感触を有するヤーンが得られる。 【0048】 撚糸は、リング精紡機,ハメル撚糸機,2対1撚糸機等を用いる当技術分野において公知の方法により行うことができる。交絡は、公知技術又は以下の方法により行うことができる。 【0049】 T-400ヤーンのパッケージをクリール(図示せず)に装填する。T-400ヤーンを供給ロールに導き、ロールに5回捲回する。エラストマー,例えばエラスタンヤーンのパッケージを延伸するために、延伸ロール間に通し、さらにセンサを介してエラスタンヤーンを導き、供給ロールでT-400ヤーンと混合する。供給ロールから、混合した繊維を、例えばファディス社(イタリア)のシンクロジェット交絡装置等の交絡エアジェット18に導く。 【0050】 次いで、交絡した繊維を潤滑装置に導き、最終的に捲回して複合ヤーンパッケージ6とする。図2及び図3は、本発明の装置に取り付けられた複合ヤーンパッケージ6を示す。このシステムは、結合点の数が、50?200ポイント/メートルの範囲内であり、好ましくは80?120ポイント/メートルの範囲内であり、最も好ましくは95?105ポイント/メートルの範囲内となるように、構成されている。 【0051】 図2及び図3は、本発明によるヤーンの製造方法の好ましい態様を示す。 【0052】 上記のように、典型的な複合コア2は、繊度75デニールのT400,及び繊度40又は70デニールのエラスタンを含んでいる。この複合コアの番手は、81.5又は90デニールに相当し、これは通常のエラスタンコアスパンヤーンの2.25?7倍の太さである。 【0053】 T400+エラスタンによる複合コア2の寸法に起因し、そのボビンは、エラスタンのボビンより遥かに大きい。従って、図2及び図3に示すように、コア2のボビン6を、フレーム9の綿粗糸スプール7の近くに配置する。 【0054】 低い予備延伸をヤーンに与え、かつヤーン2を一直線状にするために、T400+エラスタンによる複合コア「ヤーン」2を、2本のテンションバー10の間に導く。これは、複合コア「ヤーン」2の性質を考慮すると非常に有益であり、特に複合ヤーンをT400及びエラスタンの2繊維から交絡法で製造する場合に有益である。予備延伸バー10から、複合コア2を、荷重ロール12で押圧された2本の駆動ロール11に送る。コア2を、2本の駆動ロール11と、これらに対してコアヤーンが自由に動くのを防止する荷重ロール12との間に導く。ただし、ロール11及び荷重ロール12の組合せの代わりに用いることができる、コアヤーン2の速度を制御する他の適した手段として、例えば、当技術分野において公知のドラフトロール等の手段も挙げられる。 【0055】 上記開示した装置の優位性は、主として、標準的なエラスタンコアスパンヤーンの製造にも同じ装置を使用可能であるという事実にある。この場合、エラスタン繊維を、荷重ロール12の代わりにロール11上に配置されたパッケージにロードする。 【0056】 第1の延伸装置11,12から、コアヤーン2をガイドロール13に導き、さらに、それ自体は当技術分野において公知である綿粗糸8用の複数の延伸ロールの最下流の延伸ロール14の対に導く。綿粗糸8を、予備延伸ロール10及びテンションロール11の前のスプール7から、第1のガイド15及び第2のガイド16に導く。図3から明らかなように、粗糸にテンションを与え、粗糸を定位置に保持し、粗糸が自由に動くのを防止するために、ガイド15は、第2のガイド16に対して、装置の前方において千鳥配置されている。 【0057】 ガイド16から、綿粗糸8を延伸ロール14に送る。延伸ロール14は、コアヤーン2及び粗糸8に対して共用される。 【0058】 本発明によると、コアヤーン2を、綿粗糸と複合化する前に延伸する。ロール11及びロール14間の速度差を用いて伸張又は延伸する。すなわち、ロール11及び最後の延伸ロール14の速度差により、複合コア「ヤーン」に延伸比を生じさせる。上記のように、複合コアの延伸比は、1.05?1.16の範囲内であり、好ましくは1.10?1.14の範囲内であり、最も好ましくは1.12?1.14の範囲内である。 【0059】 上記延伸比は、ロール14の速度とロール11の速度との比として算出する。この速度は、ロール表面における角速度である。 【0060】 予備延伸バー10も、所望の延伸比を得るために寄与することに留意すべきである。付加的な予備延伸バー10は、延伸比を1.05から1.14に増加させるのに役立つ。なぜなら、これらは、複合ヤーン2を整列し、僅かな延伸を与え、後段の延伸工程を補助することができるからである。その結果、複合コア「ヤーン」2を、高精度で最終ヤーン1の中心に保持できる。 【0061】 付加的なガイド15の使用、及びそのガイド16に対する千鳥配置により、綿粗糸を常に同じ位置に供給し、長期製造の間の綿粗糸の位置ずれを防止することもできる。綿粗糸8の位置保持に対するより良い制御と、複合ヤーン2に対する高延伸との組合せにより、常に最終ヤーン1の中心にコア2を保持し、かつステープルファイバー3でコアを完全に被覆することができる。 【0062】 延伸ロール14から出た最終ヤーン1を形成するための2成分を、ガイド17に導き、それ自体は当技術分野において公知であるリング,トラベラ及びスピンドルを有する精紡装置18で精紡する。 【0063】 シース3の中心にコア2を有するヤーン1を製造する如何なる精紡方法も、本発明の範囲内である。精紡方法として、例えば被覆ヤーンシステム(JCBT社,Menegato社,OMM社,RATTI社,RPR社,Jschikawa社等の機械を用いるシステム)又は撚糸機(Hamel社又はZinser社の機械,Volkman社の2対1撚糸機,COGNETEX社のSiroSpin等)を用いることができる。 【0064】 図2及び図3を参照しながら上述した、大きな横糸パッケージとして製造された弾性ヤーンは、弾性を有するデニムの織物及び衣類の製造に、特に横糸として用いることができる。デニムを製造する機械及び方法は、当技術分野において公知である。例えば、Morrison Textile Machinery社,Sulzer Machinery社等の機械、又はそれらの改良型機械を、卓越した弾性及び優れた伸縮回復性を有するデニム織物の製造に用いることができる。 【0065】 得られた織物に対して、仕上げを行う。例えば、織物自体に所望の伸縮値を付与するために、延伸した織物を熱処理する等、付加的な工程を行うことができる。このような処理は、当技術分野において公知であり、織物に要求される最終的な性質を付与することを目的として実施する。 【0066】 以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。 【0067】 番手試験 使用機器:形式 ZWEIGLE L 232(Zweigle社,ドイツ) Zweigle型装置を用いて、120ヤードのヤーンを一束となるように捲回した。得られた糸束の重量を、Metler PM600型重量測定器(Metler社,スイス)を用いて測定した。番手は、デシテックス番手システムチャートを用いて算出した。精度を確保するために、この試験を5回繰り返した。 【0068】 ヤーン均一性試験 使用機器:形式 USTER TESTER-4(Uster社,スイス) ヤーンパッケージを、Uster tester-4型試験機のクリールにセットし、以下のパラメータをセットした。 ヤーン名を入力した。 原料クラスの設定において「ヤーン」を選択した。 番手を入力した。 「Uster statistic section cannot be accepted」を選択した。 原料の設定において「綿」を入力した。 繊維の「micronaire」値を入力した。 UT 4-Sセクションのパッケージ数を「5」にセットした。 試験数を「1」にセットした。 試験速度を「400m/min」にセットした。 試験時間を「0.5」にセットした。 測定スロットを「automatic」にセットした。 サッカーを「60%」にセットした。 試験モードを「normal」にセットした。 ダイアグラムレゾリューションを「standard」にセットした。 【0069】 強度,弾性及び破断荷重の測定 使用機器:形式 USTER TENSORAPID-3(Uster社,スイス) ヤーンをUster tensorapid-3型試験機のクリールに配置し、スプリングガイドに通した。プログラムに入力したパラメータは以下の通りである。 「合成ヤーン」オプションを選択した。 デシテックス番手システムとして、測定した番手(上記番手試験)を入力した。 試験数を「50」にセットした。 試験速度を「2,000m/min」に調整した。 クランプ圧を「30%」にセットした。 装置のサクションオフ圧を「50%」にセットした。 ブローイングジェットを「off」位置にセットした。 ヤーン交替を「IX」位置にセットした。 ヤーンテンショナを「out」位置にセットした。 測定タイプを「test automatic」位置にセットした。 【0070】 比較例1 綿+T-400のコアスパン コアヤーンとして150デニールのT-400(Invista社)を、シースとして綿を、コア精紡装置(STG4000,Amsler社,スイス)を備えたヤーンのコア精紡機Rieter Type G30(Rieter社,ドイツ)に取り付けた。T-400ヤーンは、大きな円筒形チーズ状パッケージから小さいチーズ状パッケージに捲き直した。T-400ヤーンは、綿を延伸する領域の中心に、直接供給した。延伸比を「1.1」にセットし、英式番手(以下「Ne」)で10/1のヤーンを精紡した。ヤーン撚り量を「TM 4.2」にセットした。ヤーンスプールは、横糸パッケージとして、Savio Orion社製パッケージング機で捲回した。 【0071】 比較例2 綿+エラスタンのコアスパン コアヤーンとして70デニールのエラスタン(Lycra,Invista社)を、シースとして綿を、コア精紡装置(STG4000,Amsler社,スイス)を備えるヤーンのコア精紡機Rieter Type G30(Rieter社,ドイツ)に取り付けた。コア精紡フレームに直接ロード可能なパッケージに、エラスタンを供給した。延伸比を「3.67」にセットし、Ne「12/1」のヤーンを精紡した。ヤーン撚り量を「TM 4.5」にセットした。ヤーンスプールは、横糸パッケージとして、Savio Orion社製パッケージング機で捲回した。 【0073】 実施例1 T-400+エラスタン コアヤーンの製造: 交絡機(Sincro Jet,Fadis,イタリア)を用いて、70デニールのT-400(Invista社)ヤーンを、40デニールのエラスタンヤーンと交絡した。交絡ポイント数をカウントした。1mのヤーンを、黒い布上に置き、交絡したポイントを目視によりカウントした。試験を5回繰り返し、平均値を1メートル当たりの交絡ポイント数とした。エラスタンの延伸比を「3.5」にセットした。1メートル毎に平均110の交絡ポイント数を設けた。リング精紡フレームの背面のクリールにロード可能なパッケージに、コアヤーン(T400+エラスタンの複合ヤーン)を捲回した。得られたコアヤーンの番手は77デニールであった。 【0074】 綿+T-400+エラスタン 比較例1及び2の記載と同様にして、T-400+エラスタンのコアヤーンを用いて、綿ヤーンによるコア精紡を行った。新しいT-400+エラスタンの複合ヤーンを、綿ヤーンに供給した。延伸比を「1.14」にセットし、Ne「12/1」のヤーンを精紡した。ヤーン撚り量をTM「4.5」(α)にセットした。ヤーンスプールは、横糸パッケージとして、Savio Orion社製パッケージング機で捲回した。 【0076】 弾性に関する限り、実施例1による本発明のヤーンは、綿/エラスタンのみのヤーンと同等で、綿/T400のみのヤーンより比べて優れていた。3種のヤーンのその他のパラメータ、例えば抵抗性(破壊全長RKM),破断荷重,厚段等は同等であった。 【0077】 比較例3 綿+T400を用いた伸縮性横糸織物 比較例1に記載の方法で製造した綿+T400のコアスパンヤーンを用いて、横糸ストレッチデニムを製造した。織りの仕様は次の通りである。 縦糸:インジゴで染めたNe7.4/1のリングスラブ糸 筬の縦糸密度:21 筬の幅:194cm 織布機:Sulzer Double width Projectile 横糸:Ne10/1の綿+T400のコアスパン(比較例1) 縦糸密度:20 織り:3/1右手綾織り 仕上げ工程:毛焼工程,苛性ソーダを用いた熱洗浄工程(織物を還元する工程),仕上げ用薬剤の添加工程(潤滑剤,縫製性向上剤及び風合い加工剤),及びサンフォライズ工程。 【0078】 比較例4 綿+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物 比較例2に記載の方法で製造した綿+エラスタンのコアスパンヤーンを用いて、横糸ストレッチデニムを製造した。織りの仕様は以下の通りである。 縦糸:インジゴで染めたNe9/1のリングスラブ糸 筬の縦糸密度:24.4 筬の幅:194cm 織布機:Sulzer Double width Projectile 横糸:Ne12/1の綿+エラスタンのコアスパン(比較例2) 縦糸密度(仕上げ後の織物):19.5 織り:3/1右手綾織り 仕上げ工程:毛焼工程,苛性ソーダを用いた熱洗浄工程(織物を還元する工程),仕上げ用薬剤の添加工程(潤滑剤,縫製性向上剤及び風合い加工剤),ステンターフレームを用いる熱固定工程(190℃で43秒間処理,幅158cm),及びサンフォライズ工程。 【0079】 実施例2 綿+T-400+エラスタンを用いた伸縮性横糸織物 実施例1で記載の方法で製造した綿+T400+エラスタンのコアスパンヤーンを用いて、横糸ストレッチデニムを製造した。織りの仕様は次の通りである。 縦糸:インジゴで染めたNe9/1のリングスラブ糸 筬の縦糸密度:24.4 筬の幅:194cm 織布機:Sulzer Double width Projectile 横糸:Ne12/1の綿+T400+ライクラのコアスパン(実施例1) 縦糸密度:19.5 織り:3/1右手綾織り 仕上げ工程:毛焼工程,苛性ソーダを用いた熱洗浄工程(織物を還元する工程),仕上げ用薬剤の添加工程(潤滑剤,縫製性向上剤及び風合い加工剤),ステンターフレームを用いる熱固定工程(185℃で30秒間処理,幅158cm),及びサンフォライズ工程。 【0080】 試験 デニムの織物試験用サンプルを、実施例2,並びに比較例3及び4で製造した織物から調製した。伸縮試験及び回復試験は、ASTM D3107に準拠して行った。 【0081】 サンプル調製 織物を、BS 6330 2Aに準拠して、洗浄機Wascator(商標,Electrolux社,スウェーデン)を用いて60℃で洗浄した後、家庭用乾燥器Miele(商標,Miele社,ドイツ)で乾燥した。この洗浄及び乾燥工程を3回繰り返した。3度目の乾燥後、織物を調整処理した(湿度65%,20±2℃に保持した実験室中で4時間調整処理。以下「調整処理」とよぶ)。調整処理後、これらの織物を切断し、伸縮試験及び回復試験用のサンプルを調製した。各織物から、60mm×455mm(伸縮方向の長さが455mm。以下「伸縮サイド」とよぶ)の3枚の矩形状サンプルを切り出した。各サンプルを、長さ60mmの方向において、正確に50.5mmとなるように絡み合わせた。各サンプルは、一端から32mmの位置で折りたたみ、折りたたみから25mmの位置に縫い目を設けた。折りたたみにおけるストリップのセンターに、10mmのスリットを設けた。サンプルを、平坦面上で30分間放置した。サンプルの中心(250mm)に、ルーラーで印を付けた。 【0082】 試験手順 伸縮試験機のトップクランプで、サンプルの輪の他端が自由となるように、サンプルの一端を把持した。マーキング距離「A」を測定した。輪にダウエル・ピンを挿入し、スリットを通して1,360gの重量を掛けた。サンプルに、ゼロからフルまで負荷を掛け、ゼロに戻すサイクルを3回繰り返すことにより、ゆっくりとサンプルに予備ストレスを掛けた。サイクル毎に約5秒間負荷をかけ、その後3秒間負荷を掛けないようにした。3回のサイクル後、負荷を掛け、サンプルを30分間伸長させた。30分後、ダウエル・ピンの重りによるベンチマーク間の距離「B」を測定した。測定後、重りをはずし、サンプルをボードからはずし、机上で平らとなるように置いた。サンプルを60分間放置し、ベンチマーク間の距離「C」を測定した。 【0083】 計算 織物の伸縮率を、次の式により算出した。 伸縮率(%)=100×(B-A)/A 織物の残留伸びを、異なる時間間隔において、次の式により測定した。 残留伸び(%)=100×(C-A)/A 【0084】 本発明の織物の伸縮性は、綿/エラスタンのみのヤーンを含む、より弾性の高い織物の伸縮性と同等であった。T400ベースのヤーンから得られる織物の伸縮性は、標準的な「加工していない」織物、すなわち、伸縮性ヤーンを含まない織物の伸縮性と同等であり、それは通常約10%である。 【0085】 本発明の織物の残留伸び(3.1)は、伝統的な織物の残留伸び(7.8)の半分未満であり、本発明のヤーンから優れた結果が得られることが確認された。 【符号の説明】 【0086】 1 伸縮性ヤーン 2 コア 3 シース 4 第1の繊維 5 第2の繊維 6 ボビン 7 スプール 8 綿粗糸 9 フレーム 10 予備延伸ロール 11 テンションロール 12 荷重ロール 13 ガイドロール 14 延伸ロール 15 第1のガイド 16 第2のガイド 17 ガイド 18 精紡装置 P 結合ポイント (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 伸縮性コア繊維(2)及び前記コア繊維(2)を被覆する非弾性繊維シース(3)を含む伸縮性ヤーン(1)であって、前記伸縮性コア繊維(2)は、第1及び第2の繊維(4,5)を含み、前記第1の繊維(4)は、エラストマーからなり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系重合体又は共重合体からなり、前記第2の繊維の含有量は、前記伸縮性コア繊維(2)の60?90重量%の範囲であり、 前記第1及び第2の繊維(4,5)は弾性特性を有し、破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、 前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より高い、少なくとも93%の弾性回復性を有し、 前記第1及び第2の繊維は、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で互いに結合されており、前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内であり、前記第1及び第2の繊維が撚糸法により結合されている場合、1m当たりの撚り数は350?550の範囲内であり、もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてあり、 前記第1の繊維は、前記第2の繊維と結合する前に延伸されており、もって結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるようになっており、 前記撚糸法により結合された前記第1及び第2の繊維を含む前記伸縮性コア繊維(2)は1.12?1.14の範囲内の比で延伸されていることを特徴とする伸縮性ヤーン。 【請求項2】 前記第2の繊維(5)は、エラストマルティスター2成分繊維であり、前記第1の繊維は、ポリオレフィン又はポリウレタンのエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のヤーン。 【請求項3】 前記第1及び第2の繊維が交絡している場合、結合点の数は、80?120ポイント/メートルの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヤーン。 【請求項4】 前記第1及び第2の繊維(4,5)は、撚糸法により結合されており、1m当たりの撚り数は、450?525の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヤーン。 【請求項5】 デシテックス番手は1,181?148の範囲内(英式綿番手において5?40の範囲内)であり、前記コア繊維(2)の含有量は前記ヤーンの全重量の3?35重量%であり、前記複合コア繊維(2)中の前記第2の繊維の含有量は75?87重量%の範囲内であり、前記最終ヤーン(1)中における前記シース(3)を構成する繊維の含有量は60?95重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のヤーン。 【請求項6】 前記シース(3)を構成する繊維は綿繊維であり、前記第1の繊維はエラスタンであり、前記第2の繊維はPTT/PET2成分繊維であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のヤーン。 【請求項7】 請求項1?6のいずれか1項に記載のヤーンを含むことを特徴とする伸縮性織物。 【請求項8】 請求項7に記載の伸縮性織物を含むことを特徴とする衣類。 【請求項9】 請求項1?6のいずれか1項に記載のヤーンの製造方法であって、弾性特性を有する第1及び第2の繊維(4,5)を含み、これらが、単繊維として伸縮及び回復するように、交絡法,共押出法又は撚糸法により、少なくとも複数のポイント(P)で結合されている伸縮性コア繊維(2)であって、前記第1の繊維(4)はエラストマーであり、前記第2の繊維(5)はポリエステル系重合体又は共重合体であり、前記第2の繊維の含有量は前記伸縮性コア繊維(2)の60?90重量%の範囲であり、 破断伸びにおいて、前記第1の繊維(4)は、初期長の少なくとも400%まで伸縮させることができ、前記第2の繊維(5)は、前記第1の繊維(4)より弾性特性には劣るが、初期長の少なくとも20%まで伸縮させることができ、 前記第1及び第2の繊維が交絡法により結合されている場合、結合点の数は50?200ポイント/メートルの範囲内であり、前記第1及び第2の繊維が撚糸法により結合されている場合、1m当たりの撚り数は350?550の範囲内であり、もって前記第1及び第2の繊維を単繊維として伸縮及び回復させるに足る両繊維間の結合力を与えるようにしてある伸縮性コア繊維(2)を作製する工程; 結合後の前記伸縮性コア繊維(2)が回復し、その長さを減少させるように、前記第1の繊維を、前記第2の繊維と結合する前に延伸する工程; 前記コア繊維(2)を延伸する工程; 前記コア繊維(2)を完全に被覆する非弾性のステープルファイバー(3)のシースを作製する工程;及び 前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.05?1.16の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させる工程を有し、 前記第1及び第2の繊維を前記撚糸法により結合した場合、前記延伸工程において、前記伸縮性コア繊維(2)を1.12?1.14の範囲内の比で延伸することを特徴とする方法。 【請求項10】 前記第1及び第2の繊維を前記交絡法又は前記共押出法により結合した場合、前記伸縮性コア繊維(2)を、前記非弾性繊維(3)とともに精紡する前に、前記複合コア繊維(2)の延伸比が1.12?1.14の範囲内となるように、近接する2つの延伸手段(11,12;14)間で延伸させることを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項11】 前記伸縮性コア繊維(2)のヤーンを、前記延伸比に延伸する前に、予備延伸させることを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。 【請求項12】 前記第1の弾性繊維(4)を、前記第2の繊維(5)と結合する前に、延伸比が2.5?4.2となるように延伸することを特徴とする請求項9?11のいずれか1項に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-08-08 |
出願番号 | 特願2013-538108(P2013-538108) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(D02G)
P 1 651・ 537- YAA (D02G) P 1 651・ 113- YAA (D02G) P 1 651・ 121- YAA (D02G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 蓮井 雅之 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6121332号(P6121332) |
権利者 | サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス |
発明の名称 | 伸縮性複合ヤーン、その製造方法及び織物 |
代理人 | 竹ノ内 勝 |
代理人 | 横堀 芳徳 |
代理人 | 横堀 芳徳 |
代理人 | 竹沢 荘一 |
代理人 | 竹沢 荘一 |
代理人 | 竹ノ内 勝 |